説明

合成方法

【課題】高純度のスルホニルエーテルの合成方法の提供する。
【解決手段】本発明は、スルホニルエーテルを製造する方法であって、v)連続的な減圧蒸留の条件下においてスルホン酸と無水物とを反応させてカルボキシスルホン酸塩を形成する工程と、vi)カルボキシスルホン酸塩と少なくとも3つのヘテロ原子を含む任意に置換されたシクロアルカン環とを反応させて、それぞれ少なくとも1つのエーテル連鎖を含むスルホニルエーテル及び少なくとも2つの付加的な反応生成物を含むスルホニルエーテルプレミックスを形成する工程と、vii)プレミックスを連続的な減圧蒸留の条件下に置いて、スルホニルエーテルプレミックスから少なくともいくつかの付加的な反応生成物を除去して、粗製スルホニルエーテル生成物を生成する工程と、viii)粗製スルホニルエーテル生成物を精製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホニルエーテルを合成する方法に関する。特に本発明は、スルホン酸からスルホニルエーテルを合成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スルホニルエーテルは多数の用途に用いることができ、広範囲の技術分野において使用される化合物の合成に用いられている。例えば、特開2003−178958号公報、特開2003−178959号公報、特開2003−123768号公報、及び特開2003−123769号公報のように、スルホニルエーテルは、ゼラチン膜硬化剤、現像促進剤、及び化学増感剤として写真の分野において有用なメチルエーテル誘導体の合成に用いることができる。写真用のゼラチン硬化剤としてのスルホニルエーテルの使用については、米国特許4100200にも開示されている。
【0003】
更に、英国特許0616865.2に開示されているように、スルホニルエーテルは、HI 6や、所定の有機リン酸神経ガスのビス−ピリジニウムオキシム解毒剤の合成に用いることができる。
【0004】
広範囲の化合物の合成におけるスルホニルエーテルの用役の結果として、スルホニルエーテルの多数の合成経路が提案されている。例えば、米国特許第4100200及びBurness、Wright及びPerkins(J. Org Chem 1977, 42, 2910)には、アセチルメチルスルホン酸とトリオキサンとを反応させてビス(メチルスルフォノキシメチル)エーテルを形成して精製することによりビス(メチルスルフォノキシメチル)エーテルを合成する方法が開示されている。
【0005】
更に、スルホニルエーテルの合成の例が、特開2003−178958号公報、特開2003−178959号公報、特開2003−123768号公報、及び特開2003−123769号公報に開示されている。これらそれぞれの公報においては、アセトキシメタンスルホン酸塩からスルホニルエーテルを製造する経路が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記各公報等に開示された合成経路は、写真の技術分野において使用するために許容される純度のスルホニルエーテルの合成経路であり、他の技術分野においては、要求される純度はより高いものである。したがって、高純度のスルホニルエーテルの合成方法の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明の第1の形態によれば、i)連続的な減圧蒸留の条件下においてスルホン酸と無水物とを反応させてカルボキシスルホン酸塩を形成する工程と、ii)カルボキシスルホン酸塩と少なくとも3つのヘテロ原子を含む任意に置換されたシクロアルカン環とを反応させて、それぞれ少なくとも1つのエーテル連鎖を含むスルホニルエーテル及び少なくとも2つの付加的な反応生成物を含むスルホニルエーテルプレミックスを形成する工程と、iii)プレミックスを連続的な減圧蒸留の条件下に置いて、スルホニルエーテルプレミックスから少なくともいくつかの付加的な反応生成物を除去して、粗製スルホニルエーテル生成物を生成する工程と、iv)粗製スルホニルエーテル生成物を精製する工程とを備えるスルホニルエーテルを製造する方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る製造方法によれば、97%より高い純度のスルホニルエーテル生成物を得ることができる。当業者であれば、本発明に係るスルホニルエーテルのように高純度の生成物が、上述した従来法により製造したスルホニルエーテルよりも広い範囲の化合物の合成に用いることができると理解されるものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
好ましい実施の形態において、スルホン酸は以下の化学式で表すことができる。
【0010】
【化1】

【0011】
ここで、Rは、水素、置換された及び置換されていない枝分かれした及び直鎖のアルキル基、アルコキシ基、ハロアルキル基、アルコキシル化されたアルキル基、アルコキシル化されたアルコキシ基、アルキルアミノ基、置換された及び置換されていないシクロアルキル基、置換された及び置換されていないシクロアルキルアミノ基、置換された及び置換されていない炭素環式アリール基、置換された及び置換されていない炭素環式アリールオキシ基、置換された及び置換されていないヘテロアリール基、置換された及び置換されていない炭素環式アリールアミノ基、並びに、置換された及び置換されていないヘテロアリールアミノ基からなる群から選択される。なお、ヘテロ原子、又は各ヘテロ原子は、硫黄、窒素、及び酸素から独立に選択される。最も好ましい実施の形態においては、Rはアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。
【0012】
好ましい実施の形態において、無水物は以下の化学式で表すことができる。
【0013】
【化2】

【0014】
ここで、Rはそれぞれ同一又は異なっていてよく、水素、置換された及び置換されていない枝分かれした及び直鎖のアルキル基、アルコキシ基、ハロアルキル基、アルコキシル化されたアルキル基、アルコキシル化されたアルコキシ基、アルキルアミノ基、置換された及び置換されていないシクロアルキル基、置換された及び置換されていないシクロアルキルアミノ基、置換された及び置換されていない炭素環式アリール基、置換された及び置換されていない炭素環式アリールオキシ基、置換された及び置換されていないヘテロアリール基、置換された及び置換されていない炭素環式アリールアミノ基、並びに、置換された及び置換されていないヘテロアリールアミノ基からなる群から選択される。なお、ヘテロ原子、又は各ヘテロ原子は、硫黄、窒素、及び酸素から独立に選択される。最も好ましい実施の形態においては、Rはアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。
【0015】
好ましくは、カルボキシスルホン酸塩は以下の化学式を有する。
【0016】
【化3】

【0017】
ここで、R及びRは上記と同一である。
【0018】
任意に置換されたシクロアルカン環は、最終的に得られるスルホニルエーテルの純度に不利な影響を与えない限り、どのような形態のものでもよい。シクロアルカン環は、4員環から10員環が好ましい。シクロアルカン環は、水素、置換された及び置換されていない枝分かれした及び直鎖のアルキル基、アルコキシ基、ハロアルキル基、アルコキシル化されたアルキル基、アルコキシル化されたアルコキシ基、アルキルアミノ基、置換された及び置換されていないシクロアルキル基、置換された及び置換されていないシクロアルキルアミノ基、置換された及び置換されていない炭素環式アリール基、置換された及び置換されていない炭素環式アリールオキシ基、置換された及び置換されていないヘテロアリール基、置換された及び置換されていない炭素環式アリールアミノ基、並びに、置換された及び置換されていないヘテロアリールアミノ基からなる群から選択されるいかなる置換基によって置換されていてもよい。なお、ヘテロ原子、又は各ヘテロ原子は、硫黄、窒素、及び酸素から独立に選択される。しかしながら、シクロアルカン環は、置換されていないことが特に好ましい。例えば、シクロアルカン環は、トリオキサン又はテトラオキサンである。最も好ましい実施の形態においては、シクロアルカン環はトリオキサンである。
【0019】
好ましい実施の形態において、スルホニルエーテルは以下の化学式を有する。
【0020】
【化4】

【0021】
ここで、Rは、上記と同一である。
【0022】
最も好ましくは、スルホニルエーテルは、ビス(メタンスルホニルメチル)エーテルである。
【0023】
プレミックスは、スルホニルエーテルの他に少なくとも2つの反応生成物を含んでおり、反応生成物はそれぞれ、少なくとも1つのエーテル連鎖を含んでいる。プレミックスに含まれ得る最も起こりうる付加的な反応生成物は、以下の化学式を有する。
【0024】
【化5】

【0025】
【化6】

【0026】
ここで、Rは上記と同一である。
【0027】
これらの付加的な反応生成物は、連続的な減圧蒸留の条件下で取り除かれ、廃棄されるか、他の合成に活用される。
【0028】
工程i)及び/又は工程iii)において用いる連続的な減圧蒸留の条件は、最終的に得られるスルホニルエーテル生成物の純度に不利な影響を与えない限り、当業者に公知のいかなる器具を用いても実施できる。しかしながら、好ましい実施の形態においては、連続的な減圧蒸留は、拭き取り式膜蒸発器の使用ができる。
【0029】
粗製スルホニルエーテル生成物は、どのような方法で精製してもよい。好ましくは、溶媒/逆溶媒の組合せを用いる。例えば、溶媒/逆溶媒の組合せは、スルホニルエーテル生成物から不純物を分離するために粗製生成物に適用することができる。次に、スルホニルエーテル生成物は、スルホニルエーテルの結晶を生成させるための低温条件下におかれ、濾過され、溶媒と他の不純物とが残される。更に、スルホニルエーテルの結晶は洗浄され、付着している溶媒/不純物が除去される。
【0030】
特に好ましい実施の形態においては、粗製スルホニルエーテル生成物は、室温において1,2−ジメトキシエタン(1.1wt)に添加される。これに、溶媒/逆溶媒の組合せ、例えば、10℃から15℃の温度に保持されたジイソプロピルエーテル(1.0wt)とテトラヒドロフラン(0.06wt)との混合物が添加される。種結晶が添加され、結晶化がこの温度範囲で発生する。得られるスラリーが、0℃から5℃に冷却されて攪拌され、好ましくは少なくとも1時間攪拌される。続いて濾過され、例えば、DIPE/THFの混合物(2×1.0wt)を用いて洗浄される。スラリーは、圧力(PALL)フィルター内にて空気/水分に曝されずに再度濾過される。得られる固形物は、窒素流下にて乾燥される。
【0031】
本発明について、以下の実施例を参照してより詳細に説明する。
【実施例1】
【0032】
アセトキシメタンスルホン酸塩とトリオキサンとの連続的減圧蒸留を利用した反応によるビス(メタンスルホニルメチル)エーテルの合成について説明する。
【0033】
(ステップ1)
アセトキシメタンスルホン酸塩(Acetoxymethanesulfonate:AMS)の合成。
【0034】
【化7】

【0035】
フラスコ中において無水酢酸(AA)(1751g、17.1mol、3mol当量)に、メタンスルホン酸(MSA)(550g、5.7mol、1mol当量)を攪拌しつつ添加する。得られる黄色の溶液を、20分から30分間攪拌する。そして、物質を連続的減圧蒸留に適した装置(拭き取り式膜蒸発器、2インチ(5cm)の円柱直径、流速:9.9ml/min)に送り込む。装置の適切な起動の後、蒸留物(1546g)と残留物(713g)とが収集される。残留物は、H NMR(w/w%)にて分析される。93.6AMS、4.0MSA、1.4AA、0.6AcOHであった。
【0036】
(ステップ2)
粗製AMSとトリオキサンとの反応。
【0037】
【化8】

【0038】
よく攪拌している粗製AMS(710g、4.83molAMS)に固形のトリオキサン(222.3g、2.47mol、AMS+AAに関して0.5mol当量)を60℃から65℃の温度を保つような速度で添加した。添加の最後において、反応混合物を60℃で約2時間の間攪拌した。この物質をH NMRにより分析したところ、スルホニルエーテルとアセチルエーテル、メチレンジアセテートとビス(メタンスルホニルメチル)エーテルBSMEの複雑な混合物であることが分かった。
【0039】
(ステップ3)
ステップ2により得られたBSMEプレミックスの連続的な減圧蒸留。
【0040】
【化9】

【0041】
粗製BSMEプレミックス液(932.6g)を、連続的な減圧蒸留に適した装置(拭き取り式膜蒸発器、2インチ(5cm)の円柱直径、流速:9.9ml/min)に送り込む。装置の適切な起動の後、蒸留物(270g)と残留物(573g)とが収集される。残留物は、H NMR(w/w%)にて分析される。62.6BSMEであった。
【0042】
(ステップ4)
BSMEの結晶化/精製。
【0043】
【化10】

【0044】
粗製BSME(345g、62.6%w/w)を室温において1,2−ジメトキシエタン(385g)に添加する。これに、ジイソプロピルエーテル(361g)とテトラヒドロフラン(19g)との混合物を、10℃から15℃の温度を保ちつつ慎重に添加する。いくらかのBSME種結晶を添加し、この温度範囲において結晶化が発生する。スラリーは0℃から5℃に冷却され、更に1時間攪拌し、濾過し、DIPE/THFの混合物(2×340g)で洗浄する。スラリーは圧力(PALL)フィルター中で濾過され、空気/湿気にさらされない。淡い茶色のケーク(165g)が窒素流下において乾燥され、工程の次のステップのために準備される。1H NMR CDClによる分析により、5.53にCHO(4H)が、3.13にOS(O)CH(6H)が観測された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホニルエーテルを製造する方法であって、
i)スルホン酸と無水物とを連続的な減圧蒸留の条件下において反応させることによりカルボキシスルホン酸塩を形成する工程と、
ii)前記カルボキシスルホン酸塩と少なくとも3つのヘテロ原子を含む任意に置換されたシクロアルカン環とを反応させて、それぞれ少なくとも1つのエーテル連鎖を含むスルホニルエーテル及び少なくとも2つの付加的な反応生成物を含むスルホニルエーテルプレミックスを形成する工程と、
iii)前記プレミックスを連続的な減圧蒸留の条件下に置いて、前記スルホニルエーテルプレミックスから少なくともいくつかの前記付加的な反応生成物を除去して、粗製スルホニルエーテル生成物を生成する工程と、
iv)前記粗製スルホニルエーテル生成物を精製する工程と
を備えるスルホニルエーテルを製造する方法。
【請求項2】
前記メタンスルホン酸は、化学式
【化11】

で表せられ、Rは、水素、置換された及び置換されていない枝分かれした及び直鎖のアルキル基、アルコキシ基、ハロアルキル基、アルコキシル化されたアルキル基、アルコキシル化されたアルコキシ基、アルキルアミノ基、置換された及び置換されていないシクロアルキル基、置換された及び置換されていないシクロアルキルアミノ基、置換された及び置換されていない炭素環式アリール基、置換された及び置換されていない炭素環式アリールオキシ基、置換された及び置換されていないヘテロアリール基、置換された及び置換されていない炭素環式アリールアミノ基、並びに、置換された及び置換されていないヘテロアリールアミノ基からなる群から選択され、ヘテロ原子、は各ヘテロ原子は、硫黄、窒素、及び酸素から独立に選択される請求項1に記載のスルホニルエーテルを製造する方法。
【請求項3】
前記Rが、メチル基である請求項2に記載のスルホニルエーテルを製造する方法。
【請求項4】
前記無水物は、化学式
【化12】

で表せられ、Rはそれぞれ同一又は異なると共に、水素、置換された及び置換されていない枝分かれした及び直鎖のアルキル基、アルコキシ基、ハロアルキル基、アルコキシル化されたアルキル基、アルコキシル化されたアルコキシ基、アルキルアミノ基、置換された及び置換されていないシクロアルキル基、置換された及び置換されていないシクロアルキルアミノ基、置換された及び置換されていない炭素環式アリール基、置換された及び置換されていない炭素環式アリールオキシ基、置換された及び置換されていないヘテロアリール基、置換された及び置換されていない炭素環式アリールアミノ基、並びに、置換された及び置換されていないヘテロアリールアミノ基からなる群から選択され、ヘテロ原子、は各ヘテロ原子は、硫黄、窒素、及び酸素から独立に選択される請求項1〜3のいずれか1項に記載のスルホニルエーテルを製造する方法。
【請求項5】
前記Rが、メチル基である請求項3に記載のスルホニルエーテルを製造する方法。
【請求項6】
前記カルボキシスルホン酸塩が、化学式
【化13】

で表される請求項1〜5のいずれか1項に記載のスルホニルエーテルを製造する方法。
【請求項7】
前記カルボキシスルホン酸塩が、アセチルメタンスルホン酸塩である請求項6に記載のスルホニルエーテルを製造する方法。
【請求項8】
前記シクロアルカン環が、トリオキサンである請求項1から7のいずれか1項に記載のスルホニルエーテルを製造する方法。
【請求項9】
前記スルホニルエーテルが、化学式
【化14】

で表される請求項1〜8のいずれか1項に記載のスルホニルエーテルを製造する方法。
【請求項10】
前記スルホニルエーテルが、ビス(メタンスルホニルメチル)エーテルである請求項1〜9のいずれか1項に記載のスルホニルエーテルを製造する方法。
【請求項11】
前記i)及び/又は前記iii)において用いられる前記連続的な減圧蒸留の条件が、拭き取り式膜蒸発器を用いることにより提供される請求項1〜10のいずれか1項に記載のスルホニルエーテルを製造する方法。
【請求項12】
前記粗製スルホニルエーテル生成物が、前記iv)において溶媒/逆溶媒の組み合わせを用いて精製される請求項1〜11のいずれか1項に記載のスルホニルエーテルを製造する方法。

【公表番号】特表2010−515703(P2010−515703A)
【公表日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545169(P2009−545169)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【国際出願番号】PCT/EP2008/050152
【国際公開番号】WO2008/084048
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(502132634)フェニックス・ケミカルズ・リミテッド (9)
【Fターム(参考)】