説明

合成映像生成システム、照明制御装置及びプログラム

【課題】バーチャルスタジオにおける実写の前景の映像及び合成対象の背景の映像を合成する合成映像生成システム、照明制御装置及びプログラムを提供する。
【解決手段】本発明の合成映像生成システムは、所定のデータに基づく照明量の光を照射するプロジェクタ7と、プロジェクタ7から前景の被写体11に照射するまでの光路を規定する鏡面反射装置8と、合成対象の背景の映像と前景の映像における照明量の差に基づいて、被写体側の照明位置及び照明量を表す被写体側照明パターンを算出し、算出した被写体側照明パターンから鏡面反射装置8を介して照射すべき照明方向及び照明量となるプロジェクタ側照明パターンを前記所定のデータとして生成し、該プロジェクタ用照明パターンによりプロジェクタ7が投射する光線方向及び照明量を制御する照明制御装置5とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、映像制作におけるバーチャルスタジオの映像合成に関し、特に、背景のCG(コンピュータ・グラフィックス)描画映像と前景の被写体の映像の照明量を合致させる合成映像生成システム、照明制御装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
バーチャルスタジオには、例えばブルーバックで撮影された人物などの被写体の映像から人物などの被写体領域のみキー信号として抽出し、別に作成したCG映像や予め撮影した映像とキー信号を基にクロマキー合成する技法、CG領域の信号を基に、CGなどの映像を実際の映像に合成する技法、これらの技法を組み合わせて行う技法などがあり、総じて、撮影カメラの動作に連動したCG描画映像を生成してカメラ映像と合成する技法は、仮想スタジオ又はバーチャルスタジオと称される。
【0003】
従来、リアルタイムに行われるバーチャルスタジオでは、ブルーバックに対して照明を照射する際には、ブルーの背景から合成のためのキー信号を得るために、ブルーバックの均一性が要求され、この照明量を均一に照射する必要があった。しかし、CGの背景の照明量に限らず、照明量を均一に照射しようとしても、従来技術では被写体に照射する照明量はCGの背景と合致した照明量とならない。このため、被写体のキー信号で抜き出した前景とCGの背景を合成しても、違和感を生じさせる合成映像となることが一般的であった。
【0004】
一方、非リアルタイムで行われる合成映像の場合には、被写体に照射する照明量をCGの背景と合わせるために、目視で被写体への照明量を把握する必要性が生じることがあり、合成時には、手動で被写体のキー信号を抜き出す作業が行われることもある。手動でキー信号を抜き出す作業は、画像一枚一枚に対して行われるため、時間と労力がかかるのが現状である。
【0005】
また、リアルタイムに環境照明の違和感の少ない合成画像を実現する映像撮影システムがある(例えば、特許文献1参照)。この映像撮影システムは、ブルーバックの代わりに、再帰性反射材スクリーンを用いたドーム状の空間を構成し、赤外線によるキー信号の抽出及び合成と、ドーム状の空間の環境照明の制御を同時に実現する技法である。この映像撮影システムによれば、ドーム外から照明した再帰性反射材スクリーンからの照明が被写体に照射され、環境照明の合った自然な合成が可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第417018号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のバーチャルスタジオの技法では、映像合成時に背景や前景となるCGや映像を撮影した際の照明量と、撮影して合成される被写体の照明量が合致しておらず、合成映像に違和感を生じさせる。
【0008】
また、再帰性反射材スクリーンを用いたドーム状の空間を構成した映像撮影システムにおいても、照明が再帰性反射材スクリーンで拡散され、被写体の照明量を直接的に制御するような指向性の高い照明制御を実現できないため、映像合成時のCG描画映像と被写体の映像の合成の際には、これらの照明量の差によって違和感を生じさせる場合がある。
【0009】
このように、従来からの合成映像生成システムにおけるクロマキー合成技法では、CG描画映像と被写体の照明量の違いから違和感を生じさせる合成映像となり、再帰性反射材スクリーンによるドームと赤外線を組み合わせた合成技法においても、環境照明を合わせることはできるものの、被写体の照明量を直接的に制御するような指向性ある照明を被写体に照射させることは困難であった。
【0010】
被写体の照明量を直接的に制御するような指向性ある照明を被写体に照射させるために、照明ランプやプロジェクタなどの照明装置から再帰性反射材スクリーンを介さずに直接の照明を行うことも可能であるが、照明機材の個数や設置の制限、及び機材の制御が複雑になる。
【0011】
本発明の目的は、前景となる被写体に対して、背景と同等となる所望の指向性のある照明量を計算して、前景への照明量の制御を行うことにより、背景のCG描画映像と前景となる被写体の映像との違和感のない合成映像を生成可能にする合成映像生成システム、照明制御装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による合成映像生成システムでは、前景の実写に対して背景の実写又はCG描画映像を合成する映像合成を行なうにあたり、前景及び背景の照明量を合致させるために、背景の実写又はCGの照明量を把握して、前景の実写に対する照明位置及び照明量を決定し、決定した照明位置及び照明量を得るための照明装置(例えば、プロジェクタ)からの光線を割り出して前景の照明量を制御する。これにより、映像合成時の実写又はCG描画映像からなる背景の照明量と、前景の照明量とを合致させるようにする。
【0013】
即ち、本発明による合成映像生成システムは、バーチャルスタジオにおける実写の前景の映像及び合成対象の背景の映像を合成する合成映像生成システムであって、バーチャルスタジオにおける前景となる被写体を撮影して前景の映像を生成する撮影カメラと、バーチャルスタジオにおける合成対象の背景の映像を生成する背景映像生成装置と、前記背景の映像と前記前景の映像とを合成して合成映像を生成する合成装置と、所定のデータに基づく照明量の光を照射する照明装置(例えば、プロジェクタ)と、前記照明装置から当該被写体に照射するまでの光路を規定する照明補助装置と、前記背景の映像と前記前景の映像における照明量の差に基づいて、被写体側の照明位置及び照明量を表す被写体側照明パターンを算出し、算出した被写体側照明パターンから前記照明補助装置を介して照射すべき照明方向及び照明量となる照明装置側照明パターン(例えば、プロジェクタ側照明パターン)を前記所定のデータとして生成し、該照明装置用照明パターンにより前記照明装置が投射する光線方向及び照明量を制御する照明制御装置とを備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明による合成映像生成システムにおいて、前記照明補助装置は、前記照明装置から照射された光を反射するための複数の凸形鏡面を有する鏡面反射装置であるか、又は前記照明装置から照射された光を集光するための複数の凸形レンズ部を有する複合レンズ装置であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明による合成映像生成システムにおいて、当該被写体の3次元位置を特定するための3次元位置センサと、前記3次元位置センサによって特定される被写体位置情報を生成する被写体位置検出装置とを更に備え、前記照明制御装置は、前記背景の映像から前記被写体位置情報に従って前記前景の映像を特定し、前記背景の映像と前記前景の映像における照明量の差を決定することを特徴とする。
【0016】
また、本発明による合成映像生成システムにおいて、前記照明制御装置は、前記背景の映像と前記合成映像から前記前景の映像を特定し、前記背景の映像と前記前景の映像における照明量の差を決定することを特徴とする。
【0017】
更に、本発明による照明制御装置は、所定のデータに基づく照明量の光を照射する照明装置(例えば、プロジェクタ)と、前記照明装置から当該被写体に照射するまでの光路を規定する照明補助装置とを備える、バーチャルスタジオにおける実写の前景の映像及び合成対象の背景の映像を合成する合成映像生成システムにて、前記背景の映像と前記前景の映像における照明量の差に基づいて前記照明装置が射出する照明量を制御する照明制御装置であって、前記背景の映像と前記前景の映像における照明量の差に基づいて、被写体側の照明位置及び照明量を表す被写体側照明パターンを算出する被写体側照明パターン部と、該算出した被写体側照明パターンから前記照明補助装置を介して照射すべき照明方向及び照明量となる照明装置側照明パターン(例えば、プロジェクタ側照明パターン)を前記所定のデータとして生成する照明装置側照明パターン生成部と、該照明装置用照明パターンにより前記照明装置が投射する光線方向及び照明量を制御する照明制御部とを備えることを特徴とする。
【0018】
更に、本発明は、所定のデータに基づく照明量の光を照射する照明装置(例えば、プロジェクタ)と、前記照明装置から当該被写体に照射するまでの光路を規定する照明補助装置とを備える、バーチャルスタジオにおける実写の前景の映像及び合成対象の背景の映像を合成する合成映像生成システムにて、前記背景の映像と前記前景の映像における照明量の差に基づいて前記照明装置が射出する照明量を制御する照明制御装置として機能するコンピュータに、前記背景の映像と前記前景の映像における照明量の差に基づいて、被写体側の照明位置及び照明量を表す被写体側照明パターンを算出するステップと、該算出した被写体側照明パターンから前記照明補助装置を介して照射すべき照明方向及び照明量となる照明装置側照明パターン(例えば、プロジェクタ側照明パターン)を前記所定のデータとして生成するステップと、該照明装置用照明パターンにより前記照明装置が投射する光線方向及び照明量を制御するステップとを実行させるためのプログラムとしても特徴付けられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、被写体に当てる構成を制御するために、鏡面又はレンズ面を有する照明補助装置を介して、照明装置(例えば、プロジェクタ)からの光線の強度と指向性を制御することで、所望の照明量を被写体に照射することを可能とする。
【0020】
また、本発明によれば、前景の被写体とCG背景領域とが連動した指向性のある照明制御を実現することができ、バーチャルスタジオ内でCG描画映像と被写体の自然な合成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による実施例1の合成映像生成システムの概略図である。
【図2】本発明による実施例1の合成映像生成システムにおける照明制御装置のブロック図である。
【図3】本発明による実施例1の合成映像生成システムにおける照明制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明による実施例1の合成映像生成システムにおける照明制御装置の演算例を示す図である。
【図5】本発明による実施例1の合成映像生成システムにおける照明制御装置の演算例を示す図である。
【図6】本発明による実施例2の合成映像生成システムの概略図である。
【図7】本発明による実施例2の合成映像生成システムにおける照明制御装置のブロック図である。
【図8】本発明による実施例2の合成映像生成システムにおける照明制御装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
先ず、本発明による実施例1の合成映像生成システムを説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明による実施例1の合成映像生成システムの概略図である。本実施例の合成映像生成システムは、CG描画映像の照明量と合致させるために、被写体11に照射される照明量を制御するためのシステムである。本実施例の合成映像生成システムは、撮影カメラ1、背景映像生成装置の1つとしてのバーチャルスタジオ用CG描画装置2、合成装置3、3次元位置センサ4、照明制御装置5、照明装置の1つとしてのプロジェクタ7、照明補助装置の1つとしての鏡面反射装置8、被写体位置検出装置9、モニタ10、及び背景スクリーン12を備える。尚、プロジェクタ7及び鏡面反射装置8の位置は固定されているものとする。また、プロジェクタ7の初期光量はゼロとし、初期時の被写体11は、スタジオ内の室内光(外部光)によって照射されているものとする。
【0024】
撮影カメラ1は、既存の赤外/カラー同軸型カメラ(例えば、特許文献1参照)であり、撮影カメラ1に連動したCG描画を行うための既存のバーチャルスタジオ用の雲台1a上に設けられる。従って、撮影カメラ1は、合成映像の前景となる被写体11とキーカラー(本例では、赤外映像で被写体を切り出し可能)を持つ背景スクリーン12を含むバーチャルスタジオのカメラ映像信号(例えば、カラー映像信号)と、カメラ映像信号の映像から被写体部分を抜き出すのに用いる赤外映像信号とを出力するとともに、雲台1aによる撮影映像の画角等を特定するためのカメラパラメータ(パン値、チルト値、ズーム値、フォーカス値等)とを出力する。例えば、撮影カメラ1は、カメラ映像信号と赤外映像信号を得るために、可視域フィルタ及び赤外域フィルタを用いるか、又は色分解プリズムを用いてもよい。また、撮影カメラ1は、カメラ映像信号と赤外映像信号を時分割多重して送出するのがリアルタイムの合成映像を得るのに好適である。
【0025】
バーチャルスタジオ用CG描画装置2は、撮影カメラ1からカメラパラメータを取得して、カメラ映像信号に対応するカメラパラメータに連動させたCGオブジェクト(背景の映像)を描画し、描画したCGオブジェクト(背景)の映像を合成装置3に送出する。また、バーチャルスタジオ用CG描画装置2は、カメラパラメータを含むCGオブジェクトの情報を照明制御装置5にも送出する(以下、照明制御装置5に送出するCGオブジェクト情報を「CGスクリーン情報」と称する)。
【0026】
合成装置3は、撮影カメラ1から供給されるカメラ映像信号と赤外映像信号から、被写体11の映像を抜き出して、被写体映像(前景の映像)を生成し、この被写体映像(前景の映像11a)とバーチャルスタジオ用CG描画装置2から供給されるCGオブジェクトの映像(背景の映像10a)とを合成した合成映像を生成し、モニタ10に出力する。この合成映像が、バーチャルスタジオの出力となり、撮影カメラ1が具備するモニタに表示させることもできる。
【0027】
3次元位置センサ4は、被写体11の3次元位置を特定する。より具体的には、3次元位置センサ4は、所定の距離間隔で配置した少なくとも2台以上の環境カメラを用いて構成することができる。尚、3次元位置センサ4は、ステレオカメラで3次元座標を推定する方式以外に、磁気式やその他の3次元センサを用いても撮影に影響を及ぼさない方式であればどのような技法でも構わない。
【0028】
被写体位置検出装置9は、3次元位置センサ4を構成する各環境カメラを同期撮影するように制御し、同期撮影した出力画像から特徴点を抽出し、各環境カメラの出力画像における特徴点の対応点探索を行って、ステレオ法を用いて特徴点の3次元座標を推定する。これにより、被写体位置検出装置9は、3次元位置センサ4による当該被写体11の位置情報(以下、「被写体位置情報」と称する)を照明制御装置5に送出することができる。特に、被写体11が動きを持つ場合に、被写体位置検出装置9によって3次元座標における特徴点の移動を検出することで、被写体11の動きも検出することもできる。
【0029】
照明制御装置5は、3次元位置センサ4による当該被写体11の被写体位置情報、及び、バーチャルスタジオ用CG描画装置2からのCGスクリーン情報に応じて、即ち背景の映像と前景の映像における照明量の差に基づいて、被写体11側の照明位置及び照明量を表す被写体側照明パターンを算出し、算出した被写体側照明パターンから鏡面反射装置8を介して照射すべき照明方向及び照明量となるプロジェクタ側照明パターンを生成し、このプロジェクタ用照明パターンによりプロジェクタ7が投射する光線方向及び照明量を制御する。被写体側照明パターン及びプロジェクタ側照明パターンについては、詳細に後述する。従って、照明制御装置5は、背景の映像から被写体位置情報に従って前景の映像を特定し、背景の映像と前記前景の映像における照明量の差を決定するように機能する。
【0030】
プロジェクタ7は、照明制御装置5によって生成された所定のデータ(プロジェクタ用照明パターン)に基づく照明量の光を照射する。
【0031】
鏡面反射装置8は、プロジェクタ7から被写体11に照射するまでの光路を規定する照明補助装置の一つである。鏡面反射装置8は、プロジェクタ7から照射された光を反射するための複数の凸形鏡面を有し、鏡面反射装置8についての詳細は後述する。
【0032】
本実施例の合成映像生成システムでは、被写体11に照射される照明量について、バーチャルスタジオ用CG描画装置2でのCGスクリーン情報と、被写体位置検出装置9で得られた被写体位置情報を基に、照明制御装置5によって、被写体11に照射される実照明の割り当て計算を行ってプロジェクタ用照明パターンを生成し、プロジェクタ7から鏡面反射装置8を介して実照明を被写体11に当てることができる。これにより、撮影カメラ1によって、背景のCG照明量と合致する照明量の被写体11の映像を撮影することができるようになる。
【0033】
次に、本実施例の合成映像生成システムにおける照明制御装置5について詳細に説明する。
【0034】
図2は、本発明による実施例1の合成映像生成システムにおける照明制御装置のブロック図である。図3は、本発明による実施例1の合成映像生成システムにおける照明制御装置の動作を示すフローチャートである。
【0035】
本実施例の照明制御装置5は、被写体側照明パターン生成部51と、プロジェクタ側照明パターン生成部52と、照明制御部53とを備える。
【0036】
照明制御装置5は、被写体側照明パターン生成部51により、バーチャルスタジオ用CG描画装置2からCGスクリーン情報を入力するとともに(ステップS1)、被写体位置検出装置9から被写体位置情報を入力し(ステップS2)、これらの情報から、撮影カメラ1で撮影されるべき2次元被写体映像を生成し、2次元被写体映像を構成する画素(任意の画素サイズの画素ブロックとすることができる)について、被写体11における照明量と背景の照明量との差が小さくなるような所望の照明量に対応する画素値を有する被写体側照明パターンを生成して、プロジェクタ側照明パターン生成部52に送出する(ステップS3)。
【0037】
照明制御装置5は、プロジェクタ側照明パターン生成部52により、被写体側照明パターン生成部51から供給されるプロジェクタ側照明パターンから、所望の照明量に対応する画素値ごとに、プロジェクタ7の位置と鏡面反射装置8の鏡面の位置で定まる光路を算出し、プロジェクタ7からの照明光として照射されるべき照明量に対応する画素値(任意の画素サイズの画素ブロックとすることができる)を有するプロジェクタ側照明パターンを生成し、照明制御部53に送出する(ステップS4)。
【0038】
照明制御装置5は、照明制御部53により、プロジェクタ側照明パターン生成部52から供給されるプロジェクタ側照明パターンを投影するように制御するための照明制御信号をプロジェクタ7に送出する(ステップS5)。これにより、プロジェクタ7は、照明制御装置5によって生成されたプロジェクタ用照明パターンに基づく照明量の光を照射することになる。
【0039】
次に、照明制御装置5が、被写体側照明パターンからプロジェクタ側照明パターンを生成する例を図4及び図5を参照して説明する。図4及び図5は、本発明による実施例1の合成映像生成システムにおける照明制御装置の演算例を示す図である。
【0040】
図4を参照して、プロジェクタ7から鏡面反射装置8の球中心Oa,Ob,Ocとして曲率半径rの鏡面8a,8b,8cを介して被写体11に照射されるまでの光路を説明する。プロジェクタ7から照射される照明光の光線OP〜OPは、それぞれプロジェクタ側照明パターン7aを構成する画素値L〜Lの1つ以上の組み合わせで制御される。
【0041】
図4では、光線OP,OPは、鏡面反射装置8の鏡面8a,8bで反射してそれぞれ被写体11の照明量SL,SLとなる様子を示している。また、光線OPは、鏡面反射装置8の鏡面8bで反射して被写体11とは異なる部分に光線が向かう様子を示している。光線OP,OPは、被写体11の位置で収束し、射出側の照明量L,Lで制御される光線OP,OPの加算した照明量SLE+Dとなる様子を示している。この場合の被写体側照明パターン11aは、照明量SL,SL,SLE+Dを有する各画素値のパターンとして考えることができる。これは、プロジェクタ7の指向性及び鏡面反射装置8の鏡面が特定され、即ちプロジェクタ7、鏡面反射装置8、及び被写体11の物理寸法及び配置関係が固定されているために、物体共役と像共役の関係で、被写体側照明パターンとプロジェクタ側照明パターンとを関連付けていることを意味している。
【0042】
以下に説明する例では、被写体11に照射される照明条件(照射位置及び照射量)となる被写体側照明パターンから光路を逆計算して、プロジェクタ側で必要とされるプロジェクタ側照明パターンを求める。例えば、レイトレーシング法(光線追跡法)を用いて、被写体側照明パターンの画素ごとに視線(レイ)を発生させて全ての交差するものを探索する。本実施例のレイトレーシング法では、鏡面反射装置8の鏡面で反射した結果、プロジェクタ側照明パターンを求めることができる。
【0043】
図5を参照して、プロジェクタ側照明パターン7aを構成する照明量L,L,L(参照番号を新たに付している)を有する各画素値をプロジェクタ7から照射させる場合を説明する。この例では、鏡面反射装置8の球中心Oa,Ob,Ocとして曲率半径rの鏡面8a,8b,8cを介して被写体11に照射されるまでの光路を形成し、被写体11の生成した2次元被写体映像における所定画素位置(例えば、反射点Qに対応する位置からの高さHの画素位置)で収束し、射出側の照明量L,L,Lで制御される光線OP,OP,OPの加算した照明量SLA+B+Cとなる例である。
【0044】
ここで、鏡面反射装置8の鏡面8aで反射される射出角は、θaで規定され、鏡面反射装置8の鏡面8bで反射される射出角は、θbで規定され、鏡面反射装置8の鏡面8cで反射される射出角は、θcで規定される。更に、鏡面8a,8b,8cに、射出側の照明量L,L,Lの画素位置がそれぞれ投影される像の範囲として規定しているとき、被写体側照明パターンとプロジェクタ側照明パターンとを関連付けることができる。以下、代表的に鏡面8bにて反射する光線OPについて説明する。
【0045】
被写体11の2次元被写体映像の面と鏡面反射装置8との為す角、被写体11の2次元被写体映像の面とプロジェクタ7の射出面との為す角、及び被写体11のスクリーンとプロジェクタ7の射出面との為す角は、プロジェクタ7、鏡面反射装置8、及び被写体11の物理寸法及び配置関係が固定されているために特定されることに留意する。
【0046】
そこで、レイトレーシング法として概説するために、被写体側照明パターンからプロジェクタ側照明パターンへと光が入射して反射するものとして説明する。先ず、曲率半径rの鏡面8b上の任意の点に反射点Qがあると仮決定すると、鏡面8bにおける光線OPの反射点Qとプロジェクタ7の基準面との距離M、鏡面8bにおける光線OPの反射点Qと被写体11の2次元被写体映像の面までの距離Nは全て規定される。図5では、理解を容易にするために、2次元被写体映像の面とプロジェクタ7の基準面とは垂直にある例を示している。
【0047】
このため、反射点Qで反射することになる被写体11の2次元被写体映像の面上の画素のSLA+B+Cからの光線OPからの入射角は、曲率半径rの鏡面Ob上の反射点Qにおける接線で定まる角度で入射して反射する。反射した光線OPは、プロジェクタ7が位置する基準面のいずれかの位置に結像する。この結像点が、プロジェクタ7の本来の射出点(プロジェクタ側照明パターンの範囲内)となるまで、仮決定した反射点Qを曲率半径rの鏡面8b上で移動させる。角度θbの範囲内でプロジェクタ7の本来の射出点(プロジェクタ側照明パターンの範囲内)となる反射点Qを見つけることができれば、鏡面8b上に対応するプロジェクタ7の本来の射出側の照明量Lの画素位置を決定する。同様なやり方で、各鏡面についてプロジェクタ7側のプロジェクタ側照明パターンにおける画素位置を決定し、決定した画素位置から所望の照明量となる総和を構成する画素位置(画素数)を最終決定する。
【0048】
尚、図5の説明から分かるように、プロジェクタ7、鏡面反射装置8、及び被写体11の物理寸法及び配置関係が固定されているために、被写体側照明パターンの画素位置とプロジェクタ側照明パターンの画素位置とは、予め関連付けておくことができるため(例えば、マップを生成しておく)、被写体11における所望の照明量の被写体側照明パターンを決定すれば、直ちにプロジェクタ側照明パターンを決定することができる。
【0049】
更に、被写体側照明パターン11aにおけるSLA+B+Cの光量によっては例えば3つの鏡面(球面)8a,8b,8cからの光を利用する必要がない場合もある。このため、各鏡面とプロジェクタ7との交線を調べて、被写体11側に所望される光量に用いる鏡面反射装置8の球面個数を決定した後、プロジェクタ7の射出光量の最大値と被写体11側に所望される光量とを比較するのが好適である。被写体11側にて再現できる最大光量としては、鏡面反射装置8の球面個数×プロジェクタ7の射出光量の最大値からなる最大光量となり、被写体11側に所望される光量はこの最大光量以下であるという制限を設ける。これにより、鏡面反射装置8の球面個数で平均して光量を分散して集光させる計算、並びに球面個数以下の幾つかの球面による射出光量を計算することができる。
【0050】
また、図5の説明から分かるように、被写体11における所望の照明量は、被写体11の2次元被写体映像の一部又は全部に対して制御可能である。
【0051】
また、被写体11は3次元形状を有するのが一般的であるが、簡単化のために、の被写体11の像を2次元被写体映像の面として扱うことができ、被写体位置検出装置9から、被写体11の2次元被写体映像の面の画素位置を求めることができる。所望の光線が照射される情報として、被写体11の2次元被写体映像から、プロジェクタ7側のプロジェクタ側照明パターンにおける画素位置と鏡面反射装置8の鏡面の位置で定まる光路を決定し、プロジェクタ7からプロジェクタ側照明パターンに基づく照明光の照射方法及び照射量を決定することができる。これは、前景の被写体11の映像と背景のCG描画映像とで照明量が合致した合成映像を得ることができることを意味する。
【0052】
このように、実施例1の合成映像生成システムによれば、バーチャルスタジオにおいて、鏡面反射装置8を介して、プロジェクタ7の元の光線だけでは表現できない照明量や照明方向を制御することができるため、実際に撮影カメラ1で撮影する被写体11に必要な照明量をリアルタイムで得ることができるようになる。従って、CG背景に合致した前景の照明条件(照明位置及び照明量)を被写体に対して再現することができ、被写体11の実写映像の前景とCG描画された背景との自然な合成を行うことができるようになる。
【0053】
次に、本発明による実施例2の合成映像生成システムを説明する。実施例1と同様な構成要素には同一の参照番号を付して説明する。
【実施例2】
【0054】
図6は、本発明による実施例2の合成映像生成システムの概略図である。本実施例の合成映像生成システムは、実施例1と同様に、CG描画映像の照明量と合致させるために、被写体11に照射される照明量を制御するためのシステムである。しかしながら、本実施例の合成映像生成システムは、3次元位置センサ4及び被写体位置検出装置9を備える代わりに、照明制御装置5が、被写体11の位置を特定するのに、バーチャルスタジオ用CG描画装置2からのCGスクリーン情報と、合成装置3からの合成映像の情報とを利用する点で相違する。また、本実施例では、鏡面反射装置8の代わりに、プロジェクタ7からの照射光を適所に集光する複合レンズ装置13を用いる例について説明する。尚、プロジェクタ7及び複合レンズ装置13の位置は固定されているものとする。また、プロジェクタ7の初期光量はゼロとし、初期時の被写体11は、スタジオ内の室内光(外部光)によって照射されているものとする。
【0055】
撮影カメラ1、バーチャルスタジオ用CG描画装置2、合成装置3、及びプロジェクタ7は、実施例1と同様の機能を有する。従って、実施例1と相違する点について詳細に説明する。
【0056】
複合レンズ装置13は、プロジェクタ7から被写体11に照射するまでの光路を決める照明補助装置の一つである。複合レンズ装置13は、プロジェクタ7から照射された光を集光するための複数の凸形レンズ部を有し、実施例1の鏡面反射装置8と同様に、前述の航路計算と同様にレイトレーシング法によって被写体11の照射量の制御に用いることができる。
【0057】
次に、本実施例の合成映像生成システムにおける照明制御装置5について詳細に説明する。
【0058】
図7は、本発明による実施例2の合成映像生成システムにおける照明制御装置のブロック図である。図8は、本発明による実施例2の合成映像生成システムにおける照明制御装置の動作を示すフローチャートである。
【0059】
本実施例の照明制御装置5は、実施例1と同様の被写体側照明パターン生成部51、プロジェクタ側照明パターン生成部52、及び照明制御部53のほかに、前景・後景照明差演算部54を更に備える。特に、本実施例の照明制御装置5は、背景の映像と合成映像から前景の映像を特定し、背景の映像と前景の映像における照明量の差を決定するように機能する。
【0060】
本実施例の照明制御装置5は、被写体位置を決定するために、前景・後景照明差演算部54により、バーチャルスタジオ用CG描画装置2からCGスクリーン情報を入力し(ステップS11)、合成装置3からの合成映像の情報(CGスクリーン情報に対応する合成後の画素位置情報)を入力し(ステップS12)、双方の情報の差分から得られる被写体11に対応する画素領域を特定し(ステップS13)、これを被写体位置情報として当該CGスクリーン情報とともに被写体側照明パターン生成部51に送出する。
【0061】
本実施例の照明制御装置5は、前景・後景照明差演算部54からの被写体位置情報、及び、バーチャルスタジオ用CG描画装置2からのCGスクリーン情報に応じて、実施例1と同様に、被写体側照明パターン生成部51により、被写体11における照明量と背景の照明量との差が小さくなるような所望の照明量に対応する画素値を有する被写体側照明パターンを生成し(ステップS14)、プロジェクタ側照明パターン生成部52により、算出した被写体側照明パターンから複合レンズ装置13を介して照射すべき照明量となるプロジェクタ側照明パターンを生成し(ステップS15)、照明制御部53により、このプロジェクタ用照明パターンによりプロジェクタ7が投射する照明量及び光線方向を制御する(ステップS16)。
【0062】
このように、実施例2の合成映像生成システムによれば、バーチャルスタジオにおいて、鏡面反射装置8を介して、プロジェクタ7の元の光線だけでは表現できない照明量や照明方向を制御することができるため、実際に撮影カメラ1で撮影する被写体11に必要な照明量をリアルタイムで得ることができるようになる。従って、CG背景に合致した前景の照明条件(照明位置及び照明量)を被写体11に対して再現することができ、被写体11の実写映像の前景とCG描画された背景との自然な合成を行うことができるようになる。
【0063】
また、実施例2の合成映像生成システムによれば、3次元位置センサ4及び被写体位置検出装置9によって被写体11の正確な位置情報を把握する必要がない場合に、簡易な方法で被写体11の照明量の決定に利用する2次元被写体映像を得ることができる。一方、被写体11のより正確な位置情報を把握する必要がある場合には、実施例2の合成映像生成システムにおいて、3次元位置センサ4及び被写体位置検出装置9を設けて実施例1の構成と併用するように構成することもできる。
【0064】
また、本発明の一態様として、照明制御装置5をコンピュータとして構成することができる。この場合、照明制御装置5の各構成要素の機能を実現させるためのプログラムは、各コンピュータの内部又は外部に備えられるメモリ(図示せず)に記憶される。また、各制御に用いる情報及びデータは、このメモリに記憶しておくことができる。このようなメモリは、外付けハードディスクなどの外部記憶装置、或いはROM又はRAMなどの内部記憶装置で実現することができる。プログラムを実行する制御部は、中央演算処理装置(CPU)などで実現することができる。即ち、CPUが、各構成要素の機能を実現するための処理内容が記述されたプログラムを、適宜、メモリから読み込んで、コンピュータ上で各構成要素の機能を実現することができる。ここで、いずれかの構成要素の機能をハードウェアの全部又は一部で実現しても良い。
【0065】
上述の各実施例の合成映像生成システムは、代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。例えば、実施例1及び実施例2において、鏡面反射装置8と複合レンズ装置13と入れ替えた実施例を実現することもできる。従って、本発明は、上述の実施例によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲によってのみ制限される。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、被写体の実写映像の前景とCG描画又は実写された合成すべき背景との自然な合成を行うことができるようになるので、任意のバーチャルスタジオの合成技法に有用である。
【符号の説明】
【0067】
1 撮影カメラ
2 バーチャルスタジオ用CG描画装置
3 合成装置
4 3次元位置センサ
5 照明制御装置
7 プロジェクタ
7a プロジェクタ側照明パターン
8 鏡面反射装置
9 被写体位置検出装置
10 モニタ
11 被写体
11a 被写体側照明パターン
12 背景スクリーン
13 複合レンズ装置
51 被写体側照明パターン生成部
52 プロジェクタ側照明パターン生成部
53 照明制御部
54 前景・後景照明差演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーチャルスタジオにおける実写の前景の映像及び合成対象の背景の映像を合成する合成映像生成システムであって、
バーチャルスタジオにおける前景となる被写体を撮影して前景の映像を生成する撮影カメラと、
バーチャルスタジオにおける合成対象の背景の映像を生成する背景映像生成装置と、
前記背景の映像と前記前景の映像とを合成して合成映像を生成する合成装置と、
所定のデータに基づく照明量の光を照射する照明装置と、
前記照明装置から当該被写体に照射するまでの光路を規定する照明補助装置と、
前記背景の映像と前記前景の映像における照明量の差に基づいて、被写体側の照明位置及び照明量を表す被写体側照明パターンを算出し、算出した被写体側照明パターンから前記照明補助装置を介して照射すべき照明方向及び照明量となる照明装置側照明パターンを前記所定のデータとして生成し、該照明装置用照明パターンにより前記照明装置が投射する光線方向及び照明量を制御する照明制御装置と、
を備えることを特徴とする合成映像生成システム。
【請求項2】
前記照明補助装置は、前記照明装置から照射された光を反射するための複数の凸形鏡面を有する鏡面反射装置であるか、又は前記照明装置から照射された光を集光するための複数の凸形レンズ部を有する複合レンズ装置であることを特徴とする、請求項1に記載の合成映像生成システム。
【請求項3】
当該被写体の3次元位置を特定するための3次元位置センサと、前記3次元位置センサによって特定される被写体位置情報を生成する被写体位置検出装置とを更に備え、
前記照明制御装置は、前記背景の映像から前記被写体位置情報に従って前記前景の映像を特定し、前記背景の映像と前記前景の映像における照明量の差を決定することを特徴とする、請求項1又は2に記載の合成映像生成システム。
【請求項4】
前記照明制御装置は、前記背景の映像と前記合成映像から前記前景の映像を特定し、前記背景の映像と前記前景の映像における照明量の差を決定することを特徴とする、請求項1又は2に記載の合成映像生成システム。
【請求項5】
所定のデータに基づく照明量の光を照射する照明装置と、前記照明装置から当該被写体に照射するまでの光路を規定する照明補助装置とを備える、バーチャルスタジオにおける実写の前景の映像及び合成対象の背景の映像を合成する合成映像生成システムにて、前記背景の映像と前記前景の映像における照明量の差に基づいて前記照明装置が射出する照明量を制御する照明制御装置であって、
前記背景の映像と前記前景の映像における照明量の差に基づいて、被写体側の照明位置及び照明量を表す被写体側照明パターンを算出する被写体側照明パターン部と、
該算出した被写体側照明パターンから前記照明補助装置を介して照射すべき照明方向及び照明量となる照明装置側照明パターンを前記所定のデータとして生成する照明装置側照明パターン生成部と、
該照明装置用照明パターンにより前記照明装置が投射する光線方向及び照明量を制御する照明制御部と、
を備えることを特徴とする照明制御装置。
【請求項6】
所定のデータに基づく照明量の光を照射する照明装置と、前記照明装置から当該被写体に照射するまでの光路を規定する照明補助装置とを備える、バーチャルスタジオにおける実写の前景の映像及び合成対象の背景の映像を合成する合成映像生成システムにて、前記背景の映像と前記前景の映像における照明量の差に基づいて前記照明装置が射出する照明量を制御する照明制御装置として機能するコンピュータに、
前記背景の映像と前記前景の映像における照明量の差に基づいて、被写体側の照明位置及び照明量を表す被写体側照明パターンを算出するステップと、
該算出した被写体側照明パターンから前記照明補助装置を介して照射すべき照明方向及び照明量となる照明装置側照明パターンを前記所定のデータとして生成するステップと、
該照明装置用照明パターンにより前記照明装置が投射する光線方向及び照明量を制御するステップと、
を実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−268285(P2010−268285A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118724(P2009−118724)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】