説明

合成樹脂塗装品

【課題】長期に亘る使用においても基材の低分子成分や添加剤などが塗膜層に悪影響を及ぼす恐れを少なくできる合成樹脂塗装品を提供する。
【解決手段】ポリウレタン樹脂製の基材1と塗膜層3との間にポリオール樹脂を主剤とし、イソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物を硬化剤として用いたプライマー層2が介在されることで、プライマー層2が柔軟で、立体的且つ稠密なものとなされ、長期に亘る使用においても基材1の合成樹脂に含有される重合度の低い低分子成分や添加剤などのブリードアウトによる塗膜層3への悪影響を少なくすることができ、且つプライマー層2がポリウレタン樹脂と近似する構造であることから、添加剤のブリードを阻止できると共に基材1との高い密着性を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製の基材の上に塗膜層を設けた合成樹脂塗装品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂製の基材の上に塗膜層を形成する場合、合成樹脂に対する高い密着性が要求されるが、かかる塗膜層を形成するにおいて、基材と塗膜層の間に、水素原子とヘテロ原子とを含む極性基を分子内に少なくとも2個有する重量平均分子量が1,000〜1,000,000の油溶性ポリエステルと有機溶剤とを含んでなり、ポリエステルの酸価と水酸基価との和が10〜200mgKOH/gであるプライマー組成物を用いてプライマー層を形成した構成が開示されている(例えば特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開平09−87582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような従来の合成樹脂塗装品では、屋外に設置したり、屋外を想定した耐久性試験を行ったりした場合、基材の合成樹脂から合成樹脂の低分子成分や、可塑剤や紫外線吸収剤等の添加剤がブリードアウトして塗膜層に悪影響を及ぼすことから、使用が長期に亘ると密着性を保持できなくなる恐れがあった。また塗膜層が親水性等の分子中の官能基による機能を備えているものであれば、その添加剤により機能の発現が阻害される恐れも生じてくる。
【0005】
本発明は上記の如き課題に鑑みてなされたものであり、長期に亘る使用においても基材の低分子成分や添加剤などが塗膜層に悪影響を及ぼす恐れを少なくできる合成樹脂塗装品を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、ポリウレタン樹脂製の基材と、塗膜層との間に、基材の合成樹脂からブリードアウトする低分子成分や添加剤が塗膜層に到達するのを阻止できるプライマー層を介在させることで、長期に亘る使用においても塗膜層に悪影響が及ぶことを防止できることを知得し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明に係わる合成樹脂塗装品は、ポリウレタン樹脂製の基材の上に塗膜層が形成され、基材と塗膜層との間にプライマー層が介在された合成樹脂塗装品であって、該プライマー層がポリオール樹脂を主剤とし、分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物を硬化剤として用いることで形成されたものであることを特徴とするものである。
【0008】
本発明に係わる合成樹脂塗装品によれば、ポリウレタン樹脂製の基材と塗膜層との間にポリオール樹脂を主剤とし、イソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物を硬化剤として用いたプライマー層が介在されることで、プライマー層が柔軟で、立体的且つ稠密なものとなされ、長期に亘る使用においても基材の合成樹脂に含有される重合度の低い低分子成分や添加剤などのブリードアウトによる塗膜層への悪影響を少なくすることができ、且つプライマー層がポリウレタン樹脂と近似する構造であることから、添加剤のブリードを阻止できると共に基材との高い密着性を得ることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係わる合成樹脂塗装品によれば、ポリウレタン樹脂製の基材と塗膜層との間にポリオール樹脂を主剤とし、分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物を硬化剤として用いたプライマー層が介在されることで、プライマー層が柔軟で、立体的且つ稠密なものとなされ、長期に亘る使用においても基材の合成樹脂に含有される重合度の低い低分子成分や添加剤などのブリードアウトによる塗膜層への悪影響を少なくすることができ、且つプライマー層がポリウレタン樹脂と近似する構造であることから、添加剤のブリードを阻止できると共に基材との高い密着性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係わる最良の実施の形態について、図面に基づき以下に具体的に説明する。
【0011】
図1は、本発明に係る合成樹脂製塗装品の、実施の一形態を示すものであり、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A断面の詳細を示す横断面図である。(a)において、合成樹脂製塗装品10は道路用標識柱として用いられるものであり、地表面Gに固着されたベース5から上方にポール4が立設され、ポール4は車両の衝突等の外力に対して屈曲し復元しうるように柔軟な材料から形成されたものである。ポール4の上方部分には、反射シートRが三体間隔をおいて帯状に貼着されており、ポール4の下方は塗膜層が設けられていない無塗装部41となされている。
【0012】
(b)において、ポール4は基材1と、基材の上に設けられた塗膜層3と、基材1と塗膜層3との間に介在されたプライマー層2から形成されている。基材1はポリウレタン樹脂からなるものであり、塗膜層3は、水酸基含有フッ素樹脂組成物及びイソシアネート系硬化剤を含有するコーティング組成物に、樹脂固形分100重量部当たりフッ素系界面活性剤0.01〜1.0重量部、紫外線吸収剤1〜15重量部が含有され、更にオルガノシリケート化合物1〜30重量部が含有させて親水性が具備されたクリヤーのものである。かかる親水性によりポール4の表面には防汚性が具備され、雨水等により汚れが洗い流されやすくなる。また上記の無塗装部41と塗膜層3が設けられた部位との比較により、設置状態での防汚性の効果が視認できるようになされている。
【0013】
プライマー層2については、ポリオール樹脂を主剤とし、分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物を硬化剤として用いることで形成されたものであり、主剤100重量部に対し、硬化剤を10〜30重量部程度配合して塗布及び硬化させて形成されたものである。ポリオール樹脂については、アクリルポリオール樹脂、ポリエステルポリオール樹脂、ポリエーテルポリオール樹脂等を用いることができるが、それらをウレタンで変性したものを用いて更に柔軟性及び密着性を高めるようにしてもよい。かかるプライマー層2により、基材1からブリードアウトされる低分子成分やHALS等の添加剤が塗膜層3に到達することが防止され、塗膜層3に悪影響が及ぼされるのを未然に防止できるようになされている。
【0014】
塗膜層3については、適宜の塗膜層であってよく、ポリエステル樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、フッ素樹脂系等の塗料を用いて形成してよく、これらの系統の合成樹脂をベースとする塗料については、プライマー層2に対して高い密着性を得ることができる。また親水化剤や光触媒微粒子等を適宜配合して、親水性の発現による防汚性を具備させてもよい。
【0015】
プライマー層2の主剤として用いるポリオール樹脂としては、アクリルポリオール樹脂、ポリエステルポリオール樹脂、ポリエーテルポリオール樹脂等を用いることができるが、例えばアクリルポリオール樹脂としては、純アクリルポリオール樹脂やウレタン変性アクリルポリオール樹脂等が挙げられるが、ウレタン変性アクリルポリオール樹脂を用いればポリウレタン樹脂との密着性を更に高めることができる。これらのアクリルポリオール樹脂をトルエンやイソプロピルアルコール等の溶剤に溶解させて用いる。純アクリルポリオール樹脂としては「アクリット6BT−307」(大成ファインケミカル社製)等、ウレタン変性アクリルポリオール樹脂としては「アクリット8UA−146」、「アクリット8UA−239」(共に大成ファインケミカル社製)などが挙げられる。
【0016】
またプライマー層2の硬化剤として用いる分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物や、「スミジュールN」(住友バイエルウレタン社製)等のビュレットポリイソシアネート化合物や、「デスモジュールIL」、「デスモジュールHL」(いずれもバイエルA.G.社製)、「コロネートEH」(日本ポリウレタン工業社製)等として知られるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物や、「スミジュールL」(住友バイエルウレタン社製)等の付加生成ポリイソシアネート化合物や、「コロネートL(TDIのトリメチロールプロパン付加生成物)」および「コロネートL−55E」(いずれも日本ポリウレタン工業社製)等の付加生成ポリイソシアネート化合物などを用いることができ、これらを単独で用いるか、又は2種以上混合して用いることができる。
【0017】
本発明に係る合成樹脂塗装品の優位性について、以下の実施例に基づき説明する。
【0018】
(実施例1)
アクリルポリオール樹脂を40重量%含むプライマー主剤(大成ファインケミカル社製「アクリット6BT−307」)100重量部に対し、TDIのトリメチロールプロパン付加生成物を75重量%含む硬化剤(日本ポリウレタン工業社製「コロネートL」)を14.4重量部配合したプライマー組成物をポリウレタン樹脂からなるプレートに直接塗布し、80℃で乾燥硬化させて20μmのプライマー層を形成した。そのプライマー層の外面に、水酸基含有フッ素樹脂としてフルオロオレフィン−ビニルエーテル系共重合物を17重量部、イソシアネート系硬化剤としてコロネートHX(日本ポリウレタン工業社製)を3.5重量部を、シクロヘキサノン12重量部、ジイソブチルケトン39重量部及びメチルイソブチルケトン28.5重量部を含む溶媒中に均一に溶解させ、更にフッ素系界面活性剤としてEFKA−3034(EFKA社製)を0.01重量部、トリアジン系の紫外線吸収剤としてチヌビン400(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を1.7重量部、オルガノシリケート化合物としてMKCシリケートMS58B30を1.5重量部、触媒として、アルミニウムモノアセチルアセトネートビズ(エチルアセトアセテート)(川研ファインケミカル社製)を0.15重量部添加して形成したコーティング組成物を塗布し、80℃で乾燥硬化させて20μmの塗膜層を形成し、本発明に係る実施例1の合成樹脂塗装品を得た。
【0019】
(実施例2)
プライマー層を形成する主剤を、ウレタン変性アクリルポリオール樹脂を40重量%含むプライマー主剤(大成ファインケミカル社製「アクリット8UA−146」)とし、添加する硬化剤を主剤100重量部に対して13.5重量部とした以外は実施例1と同じにして、本発明に係る実施例2の合成樹脂塗装品を得た。
【0020】
(実施例3)
プライマー層を形成する主剤を、ウレタン変性アクリルポリオール樹脂を40重量%含むプライマー主剤(大成ファインケミカル社製「アクリット8UA−239」)とし、添加する硬化剤を主剤100重量部に対して13.5重量部とした以外は実施例1と同じにして、本発明に係る実施例3の合成樹脂塗装品を得た。
【0021】
(比較例1)
プライマー層を形成するプライマー組成物として、1液硬化型のウレタン末端プレポリマーを用い、プライマー組成物をポール上に直接塗布し、室温で乾燥硬化させて15μmのプライマー層を得た。このプライマー層の外面に実施例1と同じ材料及び方法にて塗膜層を形成し、比較例1の合成樹脂塗装品を得た。
【0022】
(比較例2)
ポール上にプライマー層を設けず、ポールの外面に直接実施例1と同じ材料及び方法にて塗膜層を形成し、比較例2の合成樹脂塗装品を得た。
【0023】
実施例1〜3、並びに比較例1及び2について、塗膜層表面の親水性の評価を行う。親水性の評価は、サンシャインウエザオメータを用いて100時間、500時間、1000時間、1500時間、2000時間の試験を行った後に水に対する接触角を測定することにより行った。またサンシャインウエザオメーター試験の2000時間後の塗膜の状態を目視にて確認した。その結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例1〜3については、サンシャインウエザオメーターによる試験時間が2000時間となるまで水に対する接触角は30゜前後を維持しており、高い耐久性が維持できることが示されている。比較例1については、塗膜の外観には異常は見られないものの漸進的に水に対する接触角が上昇しており、基材からの添加剤のブリードが塗膜層の親水性に悪影響を及ぼしていることが推測される。また比較例2については親水性が発現しないと共に塗膜層の剥離が見られ、密着性についても問題が生じることが顕著に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る合成樹脂塗装品の、実施の一形態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1 基材
2 プライマー層
3 塗膜層
10 合成樹脂塗装品


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂製の基材の上に塗膜層が形成され、基材と塗膜層との間にプライマー層が介在された合成樹脂塗装品であって、該プライマー層がポリオール樹脂を主剤とし、分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物を硬化剤として用いることで形成されたものであることを特徴とする合成樹脂塗装品。
【請求項2】
前記塗膜層の表面が、時折降雨に曝される状態で設けられ且つ該表面の水に対する接触角が40゜以下の親水性となされていることを特徴とする請求項1に記載の合成樹脂塗装品。


【図1】
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【公開番号】特開2008−238766(P2008−238766A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86450(P2007−86450)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000002462)積水樹脂株式会社 (781)
【Fターム(参考)】