説明

合成樹脂発泡体製の板状体搬送用ボックス

【課題】ガラス基板のような板状体のための合成樹脂発泡体製の板状体搬送用ボックスにおいて、発泡成形後の養生時に、側壁に形成した縦溝に生じがちな寸法変化を抑制する。
【解決手段】収容した板状体を容器本体10から取り出すときに用いるロボットアームが入り込むため等の目的で形成される幅の広い空間部分を形成するために設けられている、左右の側壁13,14における縦溝20が形成されていない側縁領域b1,b2に、縦溝20の少なくとも1ピッチ以上の幅を持つ凹溝(肉盗み)21,22を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素板ガラス、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、蛍光表示管、サーマルヘッド用ガラス基板、カラーフィルターなどの各種のガラス基板、あるいはこれらのガラス基板を用いて製造した完成パネルなどのような板状体を搬送しあるいは保管するのに用いられる板状体搬送用ボックスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置等を組み込むのに用いられるガラス基板は、大型化しかつ薄板化している。そのようなガラス基板は、搬送時の衝撃等により損傷を受けやすい。そのために、ガラス基板等を搬送するときに使用する搬送用ボックスとして、特許文献1に記載されるような、緩衝性を有する合成樹脂発泡体製の容器本体と蓋体とよりなる容器であって、容器本体の一方の相対向する側壁に一定ピッチで等間隔に並設された縦溝に、前記の板状体を1枚ずつ挿入して相互に接触させないように支持して収納するようにした搬送容器が用いられている。
【0003】
図5は、その容器本体の一例を示す斜視図であり、容器本体10Aは、相対向する前後の側壁11,12と、相対向する左右の側壁13,14である4つの側壁と底面15とからなり、前記相対向する左右の側壁13,14は、容器本体10Aに収容した板状体の左右の側縁を挿入して支持するための複数の縦溝20が一定ピッチで形成されている中央領域aと前記中央領域aと前記相対向する前後の側壁11,12との間の領域であって縦溝20が形成されていない側縁領域b1,b2とを有している。図5には示されないが、容器本体の底面と蓋体の天板面にも、収納される板状体の下縁と上縁を支持するための横溝が形成される。
【0004】
上記形態の板状体搬送用ボックスにおいて、収容した板状体を容器本体10Aから取り出すときに用いるロボットアーム等が、容器本体10Aおよび収容した板状体に干渉することなく容器本体内に入り込めるように、また、外部よりの衝撃時に収容した板状体と容器本体10Aの前後の側壁11,12とが干渉するのを避けるために、収容した板状体と対向する前後の側壁11,12との間に、複数の縦溝20の1ピッチよりも広い間隔の幅の広い空間を形成する必要がある。前記した縦溝20が形成されていない側縁領域b1,b2はそのためのものであり、側縁領域b1,b2の部分によって、前記「幅の広い空間」が確保されている。
【0005】
また、合成樹脂発泡体は、成形から乾燥養生に至るまでの製造工程において、平均して対金型収縮率として5/1000程度の収縮が起こることは知られている。上方が開放した大型の合成樹脂発泡体製容器では、周側壁の下方側となる底面部には樹脂があるため内方への収縮が生じ易く、上方開口側は樹脂がなく空洞であるために比較して収縮は少ない。それにより、下方側の収縮に対応して上方側は外方へ開き易くなり、製品として上下の寸法差が大きくなり易くなる。その不都合を回避するために、特許文献2には、成形直後の合成樹脂発泡体製容器の上端側を寸法規制枠体を用いて囲い込んで、養生中の寸法規制を行うことが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−256663号公報
【特許文献2】特許第3677465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記のように、合成樹脂発泡体製容器では、各部位での発泡樹脂の量に応じて収縮量に差異が生じるのを避けられない。大型の合成樹脂発泡体製容器では、収縮量の違いによって生じる部分的な寸法変化によって、当該容器の使用に支障が生じることも起こり得る。図5に例示した合成樹脂発泡体製の板状体搬送用ボックスの容器本体10Aにおいて、左右の側壁13,14は、前記したように、板状体を挿入支持するための複数の縦溝が一定ピッチで形成された中央領域aと、縦溝が形成されていない側縁領域b1,b2とを有する構成であり、中央領域aと側縁領域b1,b2とでは、縦溝20の有無に起因して樹脂量に相違が生じる。そのために、養生時での収縮量にバラツキが生じやすく、部分的な収縮ひけや膨れが生じて、縦溝のない側縁領域b1,b2に近接した縦溝20の溝幅が小さくなる等の変形が生じ、ガラス基板等の挿入ができなくなることが起こり得る。このことは、大型でありかつガラス基板のような薄手の板状体を搬送するのに用いられる合成樹脂発泡体製の板状体搬送用ボックス等において、特に起こりやすく、そのような不都合が生じた板状体搬送用ボックスは、不良品として廃棄せざるを得ない。そのために、従来、養生処理を慎重に行って、あるいは何らかの治具を用いることにより、養生時に生じる寸法変化を極力小さく抑え込むようにしている。
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、相対向する側壁に板状体の側縁を挿入支持する縦溝を有する合成樹脂発泡体製の板状体搬送用ボックスにおいて、簡単な設計変更を施すだけで、通常の養生処理を行っても、養生時に当該側壁に生じる寸法変化のバラツキをほぼなくすことができ、結果として不良品の発生率をほぼゼロとすることのできる合成樹脂発泡体製の板状体搬送用ボックスを開示することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による合成樹脂発泡体製の板状体搬送用ボックスは、相対向する前後の側壁と相対向する左右の側壁である4つの側壁と底面とからなる上方が開口した容器本体と、容器本体に被着される蓋体とを備え、前記相対向する左右の側壁は、容器本体に収容した板状体の左右の側縁を挿入して支持するための複数の縦溝が一定ピッチで形成されている中央領域と前記中央領域と前記相対向する前後の側壁との間の領域であって縦溝が形成されていない側縁領域とを有している、合成樹脂発泡体製の板状体搬送用ボックスにおいて、前記相対向する左右の側壁における前記縦溝が形成されていない側縁領域には、前記縦溝に沿う方向の凹溝であって前記縦溝の1ピッチよりも広い幅の凹溝が形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明による合成樹脂発泡体製の板状体搬送用ボックスでは、収容した板状体を容器本体から取り出すときに用いるロボットアームが入り込むため等の目的で形成される幅の広い空間部分に対応する、前記左右の側壁における縦溝が形成されていない側縁領域に、前記縦溝の少なくとも1ピッチ以上の幅を持つ凹溝(肉盗み)を形成している。そのために、側縁領域での樹脂量と、前記中央領域におけるその近傍での樹脂量を、ほぼ等しくすることができる。それにより、養生時に両者間に生じる収縮量をほぼ等しくすることができ、結果として、前記側縁領域に近い縦溝に起こりやすかった、溝幅が狭くなる等の寸法変化を効果的に抑制することができ、不良品の発生率を大きく低減することができる。
【0011】
このような幅の広い凹溝が形成されるように成形型を加工することは、厚さの薄い板状体が挿入する縦溝を加工するのと比較してきわめて容易である。凹溝の幅や深さをどの程度とするかは、当該側壁における樹脂量の分布ができるだけ均一化されることと、所要の強度が確保されること等を考慮して、実機に応じて、適宜設計する。
【0012】
本発明による合成樹脂発泡体製の板状体搬送用ボックスの一形態において、容器本体の底面と蓋体の天板にも収容した板状体の下縁と上縁を支持する横溝が形成される。本発明による板状体搬送用ボックスでは、前記のように、板状体の左右の側縁を支持するための複数の縦溝が形成されている領域に生じる養生時での寸法変化はきわめて小さい。そのために、前記縦溝に挿入した板状体の上縁と下縁は、梱包時に、設計値どおりに、容器本体の底面と蓋体に形成した横溝内に挿入されることとなり、板状体搬送用ボックス内での板状体の支持状態はきわめて安定したものとなる。
【0013】
好ましくは、本発明による合成樹脂発泡体製の板状体搬送用ボックスを構成する容器本体と蓋体は、熱可塑性樹脂の発泡性粒子を型内成形することによって成形される。より好ましくは、発泡性スチレン改質ポリオレフィン系樹脂粒子を用いる。スチレン改質ポリオレフィン系樹脂は、ポリオレフィン系樹脂粒子にスチレン系単量体を含浸重合させて得られたものであり、スチレン改質ポリオレフィン系樹脂の中でも、スチレン改質ポリエチレン樹脂が好ましく、例えば、スチレン成分の割合は40〜90重量%、好ましくは50〜85重量%、更に好ましくは55〜75重量%である。発泡体の倍率は、10〜30倍程度が好ましい。
【0014】
発泡性スチレン改質ポリオレフィン系樹脂粒子による成形品は、同じ発泡倍率の発泡ポリプロピレン系樹脂成形品に比べて強度があり、また深さが100cmを超える大型の容器本体等を成形しても収縮率が小さく、高い寸法精度を維持できる。さらに、発泡性ポリスチレン系樹脂成形品に比べて、摩擦等による粉砕片が出難い長所がある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、相対向する側壁に板状体の側縁を挿入支持する縦溝を有する合成樹脂発泡体製の板状体搬送用ボックスにおいて、簡単な設計変更を施すだけで、通常の養生処理を行っても、養生時に当該側壁に生じる寸法変化のバラツキを生じさせず、それにより、縦溝に板状体を挿入できないような寸法変化が生じることのない合成樹脂発泡体製の板状体搬送用ボックスが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明による合成樹脂発泡体製の板状体搬送用ボックスを実施の形態に基づき説明する。図1は板状体搬送用ボックスの全体を示す斜視図、図2は図1のII−II線による断面図、図3は図1のIII−III線による断面図、図4は容器本体の一部を示す平面図である。
【0017】
図1に示すように、本発明による合成樹脂発泡体製の板状体搬送用ボックスAは合成樹脂発泡体からなり、4つの側壁と底面とからなる上方が開口した容器本体10と、容器本体10に被着される蓋体30とを備える。この例において、容器本体10および蓋体30はともにスチレン改質ポリエチレン系樹脂素材の発泡性粒子を型内成形することによって形成されている。
【0018】
容器本体10の水平断面は長方形であり、図5に示した容器本体10Aと同様、相対向する前後の側壁11,12と、相対向する左右の側壁13,14である4つの側壁と底面15とで構成される。そして、相対向する左右の側壁13,14の中央領域aには、容器本体10に収容する板状体の左右の側縁を挿入して支持するための複数の縦溝20が一定ピッチで形成されている。左右の側壁13,14は、前記中央領域aと前記相対向する前後の側壁11,12との間に、縦溝20が形成されていない側縁領域b1,b2とを有しており、前記側縁領域b1,b2には、前記縦溝20に沿う方向の凹溝21,22が形成されている。いずれの凹溝21,22もその横幅は前記縦溝20の1ピッチよりも広くされている。
【0019】
図示の例において、一方の側縁領域b1の横幅は他方の側縁領域b2の横幅よりも広くされており、横幅の広い側縁領域b1側の空間が、前記したロボットアーム等が入り込む空間として利用される。しかし、側縁領域b2の横幅が側縁領域b1の横幅と同じであってもよい。いずれの場合であっても、凹溝21,22を形成することにより、側縁領域b1,b2での樹脂量を、凹溝21,22で切り欠いた分だけ少なくなる。凹溝21,22の横幅およびまたは深さを適宜選択することにより、各側縁領域b1および側縁領域b2での樹脂量を、縦溝20が形成されている中央領域aにおける対応する横幅での樹脂量とほぼ同等とすることができる。
【0020】
それにより、発泡成形後の養生時に発生する収縮量は、縦溝20が形成されている中央領域aと、凹溝21が形成されている側縁領域b1と、凹溝22が形成されている側縁領域b2と、でほぼ等しくなり、結果として、前記側縁領域b1,b2に近い縦溝20に起こりやすかった、溝幅が狭くなる等の寸法変化は抑制される。
【0021】
必須の構成ではないが、図示の板状体搬送用ボックスAにおいて、容器本体10と蓋体30の外面には、容器本体10に蓋体30を被着した後に掛け渡すバンド(不図示)のための溝16、31が形成されている。また、容器本体10の底面15と蓋体30の天板面には、収納される板状体の下縁と上縁を支持するための横溝40が部分的に形成される。
【0022】
図示の例で、前記横溝40は、容器本体10の底面15と蓋体30の天板面の双方に、容器本体10の左右の側壁13,14と平行する方向に所定間隔を置いて一体成形された凸条41・・の頂部に形成されている。また、隣接する2つの凸条41,41の間には、発泡ポリエチレン系樹脂のような材料からなる平板状の緩衝材42が挿入される。各横溝40の横幅および溝間のピッチは、容器本体10の側壁内面に形成した縦溝20の溝幅およびピッチに等しい。また、前記容器本体10の底面15と蓋体30の天板面に形成した各横溝40と、容器本体10の左右の側壁に形成した各縦溝20とは、同一垂直平面内に位置するようにそれぞれ形成されている。なお、図4で、43は、隣接する2つの凸条41,41の間に挿入した緩衝材42の両端を嵌合状態で収容するソケットであり、容器本体10の底面15と蓋体30の天板面に形成されている。
【0023】
ガラス基板のような板状体を梱包するに際しては、最初に、容器本体10の底面15と蓋体30の天板面に形成したそれぞれの凸条41、41間に、前記緩衝材42を取り付ける。次に、容器本体10の開口側から、ロボットハンド等で吊り下げた板状体を、左右の縦溝20,20内に板状体の両側縁が入り込むようにして落とし込む。板状体は左右の縦溝20,20に案内されて次第に落下していき、その下縁が容器本体10の底面15に形成した横溝40内に入り込んだ位置で停止して、容器本体10内に安定した姿勢で収容される。
【0024】
必要枚数の板状体を同様にして容器本体10内に収容する。本発明による容器本体10では、前記したように、前記相対向する左右の側壁13,14における縦溝20が形成されていない側縁領域b1,b2に、前記縦溝20に沿う方向の縦溝20の1ピッチよりも広い幅の凹溝21,22が形成されており、各縦溝20の横幅寸法、特に前記側縁領域b1,b2に近接する縦溝20の寸法は養生後も設計値どおりに維持される。そのために、すべての縦溝20,20に対して板状体を確実に挿入することができ、また、縦溝20,20に沿って落下する板状体の下縁は、位置ずれを起こすことなく、対応する横溝40内に確実に入り込む。
【0025】
所要枚数の板状体を容器本体10内に収容した後、蓋体30を被着する。前記のように、容器本体10内に収容されたすべての板状体は、それぞれ設計値どおりの場所に位置しているので、各板状体の上縁は、蓋体30の天板面に一体成形された凸条41の頂部に形成されている横溝40内に確実に入り込む。それにより、各板状体は、板状体搬送用ボックスA内に、4辺が保持された状態で安定した状態で収容される。蓋をした後、容器本体10と蓋体30の外面に形成した溝16、31を利用してバンド(不図示)を掛け渡すことにより、板状体の梱包作業は終了し、保管あるいは物流に供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明による板状体搬送用ボックスの全体を示す斜視図。
【図2】図1のII−II線による断面図。
【図3】図1のIII−III線による断面図。
【図4】容器本体の一部を示す平面図。
【図5】従来の容器本体を説明するための斜視図。
【符号の説明】
【0027】
A…本発明による合成樹脂発泡体製の板状体搬送用ボックス、10…容器本体、30…蓋体、11,12…前後の側壁、13,14…相対向する左右の側壁、15…底面、a…左右の側壁中央領域(複数の縦溝が一定ピッチで形成されている)、20…縦溝、b1,b2…左右の側壁における中央領域と相対向する前後の側壁との間の側縁領域(凹溝21,22が形成されている)、40…収納される板状体の下縁と上縁を支持するための横溝、41…凸条、42…平板状の緩衝材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対向する前後の側壁と相対向する左右の側壁である4つの側壁と底面とからなる上方が開口した容器本体と、容器本体に被着される蓋体とを備え、前記相対向する左右の側壁は、容器本体に収容した板状体の左右の側縁を挿入して支持するための複数の縦溝が一定ピッチで形成されている中央領域と、前記中央領域と前記相対向する前後の側壁との間の領域であって縦溝が形成されていない側縁領域とを有している、合成樹脂発泡体製の板状体搬送用ボックスにおいて、
前記相対向する左右の側壁における前記縦溝が形成されていない側縁領域には、前記縦溝に沿う方向の凹溝であって前記縦溝の1ピッチよりも広い幅の凹溝が形成されていることを特徴とする合成樹脂発泡体製の板状体搬送用ボックス。
【請求項2】
容器本体の底面と蓋体の天板には収容した板状体の下縁と上縁を支持するための横溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の合成樹脂発泡体製の板状体搬送用ボックス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−227309(P2009−227309A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75882(P2008−75882)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】