説明

合成樹脂製ブラスト加工用研磨材

【課題】分散安定性、耐衝撃性及び研磨力の調製可能な合成樹脂製の研磨材を提供することを課題とする。
【解決手段】エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体と、前記(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体とを含む単量体混合物に由来し、前記単量体混合物が、前記ビニル系単量体100重量部と、前記(メタ)アクリレート系単量体0.1〜20重量部とを含む、球状の重合体粒子であることを特徴とする合成樹脂製ブラスト加工用研磨材により上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製ブラスト加工用研磨材に関する。更に詳しくは、本発明は、特定の(メタ)アクリレート系単量体に由来する重合体粒子からなる合成樹脂製ブラスト加工用研磨剤に関する。
【従来の技術】
【0002】
物品に付着している余分なバリや塗装を、研磨材を物品に吹き付けて取り除く方法が知られている。この方法は、一般的にブラスト加工と呼ばれている。このようなブラスト加工は、例えば樹脂成形品、ダイキャスト製品、半導体モールド、モーター部品において発生するバリを取り除いたり、自動車、航空機等の塗装を剥離したりするために使用されている。
ブラスト加工では研磨材として古くから色々なものが使用されてきた。例えば、炭化珪素、酸化アルミニウム、珪石、セラミック、ダイヤモンド粉末等の無機研磨材が知られている。ところが、これら無機研磨材は、物品に対する当たりが強過ぎて、研磨時に物品本体までも傷めることがある。
【0003】
これに対し、物品に対する当たりが柔らかで、物品本体自体を傷めることが少ない、重合体粒子からなる合成樹脂製研磨材が提案されている。合成樹脂製研磨材を使用したブラスト加工は、通常湿式で行われ、合成樹脂製研磨剤は水中に分散させたスラリーの状態で吹き付けられる。
合成樹脂製研磨材は、湿式ブラスト加工の際には、水中に発生する微細な気泡が重合体粒子に付着し水面に浮上することがある。そのため、スラリーが安定せず、このスラリーをブラスト加工に使用すると、バリ取りの性能低下やバラつきが起こるとともに、物品にロスが多く発生するという問題があった。
【0004】
これらの問題に対し、重合体粒子に無機物を含有させることにより比重を大きくすることが提案されている(特許文献1)。また、親水性ポリエステルをベースとし、溶融混練により得られる樹脂塊をハンマーミルやジェットミル等の粉砕機を用いて微細化した重合体粒子を使用することが提案されている。この重合体粒子は、スラリーの媒体である水との親和性が向上し、水面への浮上が抑制されるとされている(特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−225272号公報
【特許文献2】特開平5−169371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、重合体粒子に無機物を含有させる方法では、比重を大きくするために、無機物が大量に必要である。大量に無機物を含有した重合体粒子は、合成樹脂製研磨材の利点である耐衝撃性を失い、欠けやすく脆くなってしまう。
また、親水性ポリエステルをベースとする重合体粒子は、粉砕機を用いて微細化されているため、その形状が不定形なものであり、安定した研磨の制御が困難となる。更に、研磨時の衝撃で重合体粒子が欠損することで、細かなクズが発生しやすい。発生した細かなクズは、研磨後の物品に付着することで、物品に不具合を生じさせるという問題がある。
以上のように、これまで提案されてきた研磨材は、何れも欠点又は問題を抱えていた。そこで本発明は、このような欠点または問題のない研磨材を提供することを目的とする。具体的には、湿式ブラスト加工の際に、水に浮上することがなく分散安定性に優れ、耐衝撃性に優れ、ある程度の研磨力を調整可能な合成樹脂製の研磨材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者は、鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有する(メタ)アクリレート系単量体を使用することで、分散安定性、耐衝撃性及び研磨力の調製可能な合成樹脂製の研磨材が得られることを意外にも見出し本発明に至った。
かくして本発明によれば、エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体と、前記(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体とを含む単量体混合物に由来し、前記単量体混合物が、前記ビニル系単量体100重量部と、前記(メタ)アクリレート系単量体0.1〜20重量部とを含む、球状の重合体粒子であることを特徴とする合成樹脂製ブラスト加工用研磨材が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の研磨材は、従来の合成樹脂製研磨材に比べ、水への分散性が格段に優れており、浮上することなく、安定した研磨を行うことができる。また、球状の重合体粒子であるため、耐衝撃性に優れ、ブラスト時にも欠損が発生しにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の合成樹脂製ブラスト加工用研磨材は、エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体と、この(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体とを含む単量体混合物とに由来する球状の重合体粒子である。なお、本明細書において使用する「ビニル系単量体」には、エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体を含まないものとする。更に、(メタ)アクリとは、アクリ又はメタクリを意味する。
【0010】
エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体において、エーテル基としては、エチレングリコール、プロピレングリコールに由来する基が挙げられる。エステル基としては、ラクトンに由来する基が挙げられる。エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体は、脂肪族であることが好ましく、特に好ましいエーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体は、下記式
【0011】
CH2=CR-COO[(C2H4O)m-(C3H6O)n]-H (式1)
(式中、RはH又はCH3、mは0〜50、nは0〜50、但し、m及びnが同時に0の場合は除く)又は
CH2=CR-COOCH2CH2O[CO(CH2)5O]p-H (式2)
(式中、RはH又はCH3、pは1〜50)の化合物から選択できる。
【0012】
なお、式1の化合物において、mが50より大きい場合、重合安定性が低下して合着粒子が発生することがあり、またnが50より大きい場合も重合安定性が低下して合着粒子が発生することがあり、好ましくない。好ましいm及びnの範囲は0〜30の化合物(但し、m及びnが同時に0の場合は除く)である。
式2の化合物において、pが50より大きい場合、重合安定性が低下して合着粒子が発生することがあり、好ましくない。好ましいpの範囲は1〜30である。
【0013】
上記エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体には、市販品を利用できる。例えば、日本油脂社製のブレンマーシリーズ、ダイセル化学社製のプラクセルシリーズが挙げられる。更に、ブレンマーシリーズの中で、ブレンマーPP−1000、ブレンマー50PEP−300、ブレンマー70PEP−350B等が、プラクセルシリーズの中で、プラクセルFM2D、プラクセルFA2D等が本発明に好適である。
【0014】
ビニル系単量体としては、上記エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体と共重合しうる単量体が挙げられる。具体的には、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロルスチレン、3,4−ジクロルスチレン等のスチレン及びその誘導体、
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル類、
【0015】
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸2−クロルエチル、アクリル酸フェニル、α−クロルアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸フェニル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、
【0016】
アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアクリル酸もしくはメタクリル酸誘導体
アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸等
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類、
ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトン等のビニルケトン類、
N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドン等のN−ビニル化合物、
ビニルナフタリン塩等
の単官能のビニル系単量体が挙げられる。これら単官能のビニル系単量体は、単独で使用してもよく、2種以上組合せて使用してもよい。
【0017】
また、本発明の重合体粒子は、ビニル系単量体に、上記単官能のビニル系単量体と、2つ以上の官能基をもつ架橋性のビニル系単量体とを含ませることで、架橋重合体粒子としてもよい。架橋性のビニル系単量体としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、デカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、フタル酸ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスルトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系多官能単量体、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン及びこれらの誘導体である芳香族ビニル系多官能単量体が挙げられる。これら架橋性単量体は2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0018】
上記ビニル系単量体の中でも、コストの面で安価なスチレンやメタクリル酸メチル等の単官能の単量体、エチレングリコールジメタクリレート等の架橋性単量体が好ましい。
【0019】
エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体の使用量は、ビニル系単量体100重量部に対して、0.1〜20重量部である。0.1重量部未満の場合は、重合体粒子の親水性が不十分で水に分散させてスラリーとして湿式ブラスト加工に使用する際に、水中の気泡と結び付いて、浮上してしまうことがある。浮上した場合、スラリーの上部と下部で濃度が一定とならず不均一となり、研磨力にバラツキが生じることになる。一方、20重量部を超えると、スラリーが著しく泡立つことがあり、泡と共に粒子が浮上することがある。この場合も、研磨力にバラツキが生じることになる。泡立つ理由は、未反応の単量体が存在するためであると推測される。より好ましい使用量の範囲は1.0〜15重量部である。
【0020】
架橋性単量体は、単官能のビニル系単量体に対する使用割合が多くなりすぎると粒子が硬くなり、研磨時に物品を傷付ける懸念ある。従って、架橋性単量体の使用割合は、単量体全量中、0.5〜80重量%であることが好ましく、5〜50重量%がより好ましい。
本発明の重合体粒子には、必要に応じて、公知の帯電防止剤、界面活性剤等の他の添加剤を含んでいてもよい。
【0021】
重合体粒子の平均粒子径は、10μm〜1mmの範囲が好ましい。10μm未満の場合、研磨対象物への衝撃力が弱くなり、バリ取りや表面クリーニング能力が不足することがある。一方、1mmより大きい場合、細部への研磨が困難となり仕上がりが悪くなることがある。より好ましい平均粒子径は、50〜500μmである。
【0022】
また、重合体粒子は、球状のものが使用される。ここでの球状とは、真球のような厳密な意味ではなく、粒子の投射図が円形の真球状だけでなく、楕円形のいわゆる略球状まで含む。好ましい球状は、粒子の投射図において、その短径と長径との比(短径/長径)が、1〜0.9の範囲となる形状である。なお、短径/長径=1は真球を意味する。短径/長径の範囲外の、例えば、ペレット状や、針状、燐片状のような不定形状では、重合体粒子自身の耐衝撃性が小さいため、研磨時に粒子が破壊したり、破壊により微粉末が発生したりすることがある。更に、研磨対象物に対する重合体粒子の接触面積が一定でなくなるため、研磨効果にバラつきが大きくなると共に、物品表面に傷が入ってしまうことがある。上記範囲内であれば、安定した研磨を行うことができるため、好ましい。短径/長径のより好ましい範囲は、1〜0.95である。
【0023】
本発明の重合体粒子の製造方法は、球状の粒子が得られる限り、特に限定されない。例えば、懸濁重合、乳化重合、シード重合等の水性媒体中での重合法や、重合塊を押出法によりペレット化し、ペレットを表面が軟化しうる温度に加熱することで、球状の粒子を得る方法等が挙げられる。製造方法は、水性媒体中での重合が好ましく、特に懸濁重合が適している。
【0024】
懸濁重合や乳化重合は、水性媒体中で、ビニル系単量体と、エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体と、任意に重合開始剤とを含む重合体混合物を重合させることで行われる。懸濁重合や乳化重合では、エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体により、得られる重合体粒子表面に親水部位が出やすく、この単量体の少量添加で親水性の高い粒子が得られる。また、水性媒体中で、単量体混合物の油滴を安定して存在させることができるので、粒子径のバラツキの小さい、単分散性の高い重合体粒子を得ることができる。更に、エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体由来の成分が粒子表面に存在するために、これが立体反発を引き起こして、重合体粒子の水中での分散性を向上できる。
【0025】
エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体は、水性媒体及び/又はビニル系単量体に分散させて重合系に供給できる。この内、水性媒体に分散させることが、単量体混合物の油滴の表面にエーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体を存在させやすいので好ましい。
【0026】
水性媒体としては、特に限定されず、水、又は水と水溶性有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール等の低級アルコール)との混合媒体が挙げられる。水性媒体は、ビニル系単量体100重量部に対して、100〜1000重量部の範囲で使用することが好ましく、200〜500重量部の範囲で使用することがより好ましい。
【0027】
任意に使用される重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサカルボニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物等が挙げられる。重合開始剤は、ビニル系単量体100重量部に対して、0〜1.0重量部の範囲で使用することが好ましく、0.1〜1.0重量部の範囲で使用することがより好ましい。
【0028】
懸濁重合及び乳化重合は、特に限定されず、公知の条件で単量体混合物を懸濁又は乳化させ、次いで重合させることにより行うことができる。また、エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体は、ビニル系単量体に溶解させてもよく、水性媒体に分散させてもよい。また、公知の懸濁安定剤又は乳化剤を使用してもよい。
【0029】
懸濁液又は乳化液は、公知の方法により作製できる。例えば、ビニル系単量体を、水性媒体に添加し、ホモジナイザー、超音波処理機、ナノマイザー等の微細乳化機により分散させることで得ることができる。重合開始剤は、ビニル系単量体に予め混合させた後、水性媒体中に分散させてもよいし、ビニル系単量体とは別に水性媒体に分散させたものを混合してもよい。
次に、ビニル系単量体を重合させることで、重合体粒子が得られる。重合温度は、ビニル系単量体、重合開始剤の種類に応じて、適宜選択することができる。重合温度は、40〜100℃が好ましく、より好ましくは50〜90℃である。
【0030】
本発明の研磨剤は、ブラスト加工に使用される。ブラスト加工としては、機械式、空気式等の乾式ブラスト加工、水を併用する湿式ブラスト加工が挙げられる。機械式ブラスト加工は、機械的に投射することにより、研磨対象物に研磨材を衝突させて、研磨を行う方法である。空気式ブラスト加工は、圧縮空気の作用で研磨対象物に研磨材を衝突させて、研磨を行う方法である。湿式ブラスト加工は、水と研磨材とを混合してスラリーとし、このスラリーを噴射することにより、研磨対象物に研磨材を衝突させて、研磨を行う方法である。
【0031】
本発明の研磨材は、水への分散性が良好である観点から、湿式ブラスト加工に使用することが好ましい。
湿式ブラスト加工において、スラリーを形成する方法は特に限定されないが、通常の攪拌機を用いて、水に研磨材を分散させることで容易に形成できる。本発明の研磨材は、従来の合成樹脂系の研磨材と異なり、親水性が高いため、容易に攪拌され浮遊や沈降を生じ難い。また、残留モノマーが少ないので、スラリーが泡立ってしまうといった問題も生じ難い。なお、水には、水溶性の有機溶媒や、他の添加剤が含まれてもよい。
【0032】
スラリー中の研磨材の配合割合は、容量比で、5〜50%であることが好ましい。配合割合が、この範囲であることで、不十分な研磨や過剰研磨が抑制できる。配合割合は、10〜40%であることがより好ましい。
更に、スラリーの噴射は、研磨材の配合割合、研磨対象物の種類等により適宜調整されるが、スラリー圧力が1〜8kg/m2、噴射量が5〜50リットル/minの条件で行うことが好ましい。
【0033】
また、研磨対象物は、本発明の研磨材により研磨可能であれば特に限定されない。例えば、電子機器(IC、コンデンサ、抵抗、プリント基板等)の合成樹脂製のパッケージのバリ、各種樹脂成形体(筐体、自動車部品)のバリや塗料等が挙げられる。バリを構成する合成樹脂としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド等の熱可塑性樹脂が挙げられる。この内、エポキシ樹脂からなるバリに本発明の研磨材を使用することが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。下記実施例における平均粒子径の測定法、短径/長径の測定法、スラリー中での浮遊性の評価方法、バリ取り効果及び研磨対象の割れ欠けの評価方法を下記する。
(平均粒子径の測定方法)
重合体粒子の平均粒子径は、ベックマンコールター社製LS230型で測定する。
具体的には、粒子0.1gと界面活性剤(花王社製レオドールTW−L120)の0.1%水溶液10mlを試験管に投入し、ヤマト科学社製タッチミキサーTOUCHMIXER MT−31で2秒間混合する。この後、試験管を市販の超音波洗浄器であるヴェルボクリーア社製ULTRASONIC CLEANER VS−150を用いて10分間分散させる。分散させたものをベックマンコールター社製のLS230型にて超音波を照射しながら測定する。そのときの光学モデルは作製した粒子の屈折率に合わせる。
【0035】
(短径/長径の測定方法)
重合体粒子の短径と長径の比(短径/長径)は、走査型電子顕微鏡JSM−6360LV(日本電子社製)を用い500〜5000倍で任意の100個の重合体粒子を観察し、それぞれの粒子の短径と長径を測定して比を求め、更に平均した値である。
【0036】
(スラリー中での浮遊性の評価方法)
重合体粒子の容積比が30%となるように水に分散させスラリーを得る。調製したスラリーを容積100mlのサンプル瓶に50g入れ、200回振倒したのち静置し、30分後の粒子の浮遊状態を目視評価する。評価は、全粒子の70%以上浮遊した場合を×、70%未満〜30%以上浮遊した場合を△、30%未満〜10%以上浮遊した場合を○、浮遊した重合体粒子が10%未満の場合を◎とする
(バリ取り効果及び研磨後の物品の割れ欠けの評価方法)
研磨材としての重合体粒子の容積比が30%となるように水に分散させスラリーを得る。得られたスラリーを湿式ブラスト研磨機(不二精機製作所社製液体ホーニング機LH−5)を用いて、ICリードフレームのパッケージ(物品)の合成樹脂のバリ(研磨対象物)取りに用いる。バリ取り試験は、スラリー圧力6kg/m2、ノズル噴射量10リットル/min、30秒間噴射の条件で行う。バリを構成する合成樹脂の種類は、エポキシ樹脂である。研磨後の物品100個を目視で確認し、削り残したバリが存在する物品の個数を数える。個数が10個以下の場合、評価を○とし、それより多い場合、評価を×とする。更に、割れ欠けが存在する物品の個数を数える。個数が5個以下の場合、評価を○とし、それより多い場合、評価を×とする。
【0037】
実施例1
攪拌機、温度計を備えた1Lの重合器に、ラウリル硫酸ナトリウム0.05重量部を溶解させた脱イオン水500重量部を入れ、そこへ第三リン酸カルシウム50重量部を分散させた。これに予め調製しておいたメタクリル酸メチル285重量部、エチレングリコールジメタクリレート15重量部、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノメタクリレート(ブレンマー50PEP−300:日油社製、mが3〜4、nが2〜3)15重量部の単量体混合物に、過酸化ベンゾイル1.5重量部、アゾビスイソブチロニトリル1.5重量部を溶解させた混合液を入れた。重合器を65℃に加熱し、T.Kホモミキサーにて200rpmで攪拌しながら懸濁重合を6時間を行った後、室温(約20℃)まで冷却した。ここで得られた懸濁液を濾過、洗浄した後、乾燥して重合体粒子を得た。得られた重合体粒子の平均粒子径は200μmであった。
【0038】
実施例2
単量体混合物として、メタクリル酸メチル240重量部、エチレングリコールジメタクリレート60重量部、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノメタクリレート(ブレンマー50PEP−300)45重量部の混合物を使用したこと以外は実施例1と同様にして重合体粒子を得た。得られた重合体粒子の平均粒子径は198μmであった。
【0039】
実施例3
単量体混合物として、メタクリル酸メチル300重量部、ラクトン変性ヒドロキシエチルメタクリレート(プラクセルFM2D:ダイセル・ユーシービー社製、pは2)3重量部の混合物を使用したこと以外は実施例1と同様にして重合体粒子を得た。得られた重合体粒子の平均粒子径は201μmであった。
実施例4
単量体混合物として、アクリル酸n−ブチル210重量部、エチレングリコールジメタクリレート90重量部、ラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレート(プラクセルFA2D:ダイセル・ユーシービー社製、pは2)30重量部の混合物を使用したこと以外は実施例1と同様にして重合体粒子を得た。得られた重合体粒子の平均粒子径は189μmであった。
【0040】
実施例5
単量体混合物として、メタクリル酸メチル240重量部、エチレングリコールジメタクリレート60重量部、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノメタクリレート(ブレンマー50PEP−300)0.3重量部の混合物を使用したこと以外は実施例1と同様にして重合体粒子を得た。得られた重合体粒子の平均粒子径は208μmであった。
実施例6
単量体混合物として、メタクリル酸メチル270重量部、エチレングリコールジメタクリレート30重量部、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノメタクリレート(ブレンマー50PEP−300)20重量部の混合物を使用したこと以外は実施例1と同様にして重合体粒子を得た。得られた重合体粒子の平均粒子径は199μmであった。
【0041】
実施例7
単量体混合物として、メタクリル酸メチル270重量部、エチレングリコールジメタクリレート30重量部、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(ブレンマーPP−1000:日油社製、mが0、nが4〜6)20重量部の混合物を使用としたこと以外実施例1と同様にして重合体粒子を得た。得られた重合体粒子の平均粒子径は187μmであった。
実施例8
攪拌機の回転数を300rpmとしたこと以外は実施例1と同様にして重合体粒子を得た。得られた重合体粒子の平均粒子径は51μmであった。
【0042】
実施例9
攪拌機の回転数を100rpmとしたこと以外は実施例1と同様にして重合体粒子を得た。得られた重合体粒子の平均粒子径は495μmであった。
実施例10
単量体混合物として、メタクリル酸メチル285重量部、エチレングリコールジメタクリレート15重量部、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノメタクリレート(ブレンマー50PEP−300)7.5重量部、ラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレート(プラクセルFA2D)7.5重量部の混合物を使用した以外は実施例1と同様にして重合体粒子を得た。得られた重合体粒子の平均粒子径は209μmであった。
【0043】
比較例1
PMMA樹脂(スミペックスEXA:住友化学社製)80重量部とアルミナ20重量部をラボプラストミルにて溶融混練して樹脂塊を得、樹脂塊をジェットミルを用いて粉砕することで粒子を得た。得られた粒子の平均粒子径は200μmであった。
比較例2
ブレンマー50PEP−300を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして重合体粒子を得た。得られた重合体粒子の平均粒子径は207μmであった。
【0044】
比較例3
単量体混合物として、メタクリル酸メチル285重量部、エチレングリコールジメタクリレート15重量部、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノメタクリレート(ブレンマー50PEP−300)0.15重量部の混合物を使用したこと以外は実施例1と同様にして重合体粒子を得た。得られた重合体粒子の平均粒子径は210μmであった。
比較例4
単量体混合物として、メタクリル酸メチル250重量部、エチレングリコールジメタクリレート50重量部、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノメタクリレート(ブレンマー50PEP−300)75重量部の混合物を使用したこと以外は実施例1と同様にして重合体粒子を得た。得られた重合体粒子の平均粒子径は201μmであった。
上記実施例及び比較例において、使用した(メタ)アクリレート系単量体種及び添加量(ビニル系単量体100重量部に対する添加量)、重合体粒子の形状及びスラリー中での浮遊性、バリ取り効果及び研磨後の物品の割れ欠けの状態を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例と比較例1及び2とから、エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体を使用することで、スラリー中での浮遊性が良好で、バリ取り効果が優れ、研磨後の物品の割れ欠けの少ない研磨材が得られることが分かる。比較例1では、無機粒子を使用しているため、研磨後の物品の割れ欠けが生じている。また、比較例2では、エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体を使用していないため、スラリー中での浮遊性が劣るため、バリ取り効果が劣っている。
また、エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体の添加量が少ない比較例3及び多い比較例4では、スラリー中での浮遊性が不良であり、そのためバリ取り効果が実施例に比べて劣っている。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】研磨前後の物品の状態の概略説明図である。
【符号の説明】
【0048】
1 リードフレーム、2 パッケージ、3 バリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エーテル基と水酸基又はエステル基と水酸基とを含有する(メタ)アクリレート系単量体と、前記(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体とを含む単量体混合物に由来し、前記単量体混合物が、前記ビニル系単量体100重量部と、前記(メタ)アクリレート系単量体0.1〜20重量部とを含む、球状の重合体粒子であることを特徴とする合成樹脂製ブラスト加工用研磨材。
【請求項2】
前記(メタ)アクリレート系単量体が、下記式
CH2=CR-COO[(C2H4O)m-(C3H6O)n]-H (式1)
(式中、RはH又はCH3、mは0〜50、nは0〜50、但し、m及びnが同時に0の場合は除く)又は
CH2=CR-COOCH2CH2O[CO(CH2)5O]p-H (式2)
(式中、RはH又はCH3、pは1〜50)で表される化合物から選択される請求項1に記載の合成樹脂製ブラスト加工用研磨材。
【請求項3】
前記(メタ)アクリレート系単量体が、m及びnが0〜30の化合物(但し、m及びnが同時に0の場合は除く)、pが1〜30の化合物から選択される請求項2に記載の合成樹脂製ブラスト加工用研磨材。
【請求項4】
前記ビニル系単量体が、(メタ)アクリル酸エステル系単官能単量体と(メタ)アクリル酸エステル系多官能単量体との混合物である請求項1〜3のいずれか1つに記載の合成樹脂製ブラスト加工用研磨材。

【図1】
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【公開番号】特開2009−285802(P2009−285802A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142527(P2008−142527)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】