説明

合成樹脂製流体管用の継手

【課題】先端部が斜めに切断された流体管が挿入された場合でも、シール部材の破損やめくれ上がりを防止できる合成樹脂製流体管用の継手を、安価に提供する。
【解決手段】流体管が挿入され、該流体管を脱抜不能に接続する継手であって、内筒22に形成された環状溝22eに装着され、挿入された流体管の内周面に密接する環状のシール部材23と、内筒22の外周面に該内筒22に沿って移動可能に装着され、外周面に前記流体管と係合する係合部を備え、前記流体管の挿入により、該流体管に押圧されて内筒22に沿って移動するとともにこの移動により内周面で前記シール部材23を縮径方向に押しつぶすスリーブ27とを備え、前記内筒22の先端とスリーブ27との間には、スリーブ27の外径よりも外方に突出する突出部28を備え、該突出部28を前記流体管が乗り越えることにより、該流体管が前記スリーブ27の先端面との接触を回避する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継手本体の内筒上に設けたシール部材が流体管の内周面に密着して確実な止水を実現する継手に関し、特に、先端部が斜めに切断された流体管が挿入された場合にあっても、前記シール部材の「破損」や「めくれ上がり」を確実に防止できる合成樹脂製流体管用の継手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、給水用又は給湯用の通水管として架橋ポリエチレンやポリブデン等の合成樹脂からなる管体が採用されている。かかる通水管をヘッダー(分水器)等に対する流体管の容易な接続を実現する「継手」に関しては従来より種々提案されているが、昨今では、内筒側に嵌着させた断面円形の合成樹脂製のOリングからなる「シール部材」を流体管の内周面に密着させると共に、該流体管の外周面を外筒で押圧するタイプの継手が多様されている。
【0003】
但し、このタイプの継手において、シール部材を流体管の内周面に対して密着させるためには、当該シール部材上を流体管の端部が通過しなければならない。従って、何等の手当もしなければ、当該流体管の端面がシール部材を側方から押圧してしまうので、当該シールが破損したり、或いは、めくれ上がって所定の位置から外れてしまうため、所望の止水性能を発揮できなくなるという問題がある。
【0004】
かかる問題を解決し得るものとして、特許文献1に記載の技術が従来より提案されている。この特許文献1に記載の技術は、ガイド環(11)がシール部材(10)を押し潰して変形させ、当該シール部材(10)の上を接続管(22)の端面が通過可能となるものである。この特許文献1に記載の技術によれば、接続管(22)の端面がシール部材(10)に接触することなく当該シール部材(10)上を通過させることができるので、該シール部材(10)の破損や、めくれ上がりに起因する問題を解決し得るのである。
【0005】
但し、上記の如き通水管は、所定規格に沿った直径寸法で製造されている筈であるが、実際に市販されている製品の直径寸法は各メーカ毎に誤差がある。従って、組み合わされる通水管(22)の内径寸法によっては、必ずしも前記ガイド環(11)が該接続管(22)の内側へ進入するとは限らない。そのため、当該管継手(A)内に接続管(22)を挿入した際、ガイド環(11)が接続管(22)の内側へ進入しなかった場合には、接続管(22)の端面がガイド環(11)を管継手(A)の奥方に押しやってしまい、該接続管(22)の端面がシール部材(10)に直接接触して、該シール部材(10)の破損や、めくれ上がりが発生してしまうという問題がある。
【0006】
かかる問題を解決し得るものとして、特許文献2に記載の技術が従来より提案されている。この特許文献2に記載の技術は、上記特許文献1に記載の技術と同様、スリーブ(31)がシール部材(15)を押し潰して変形させ、当該シール部材(15)の上をパイプ(12)の端面が通過可能となるものであるが、パイプ(12)の端部内側へのスリーブ(31)進入に先立って、当該パイプ(12)の内径を拡径するカラー(32)を有するものである。即ち当該特許文献2に記載の技術によれば、継手(11)内へパイプ(12)を挿入することによりカラー(32)上を通過するため、当該パイプ(12)の端面と前記スリーブ(31)の端面との接触を回避して、該パイプ(12)の内側にスリーブ(31)を進入させ得るとも考えられる。
【0007】
しかしながら、上記特許文献2に記載の継手に挿入されたパイプ(12)の切断端部が「斜め」であった場合には、当該パイプ(12)がスリーブ(31)上に完全に乗り上げる前に、該パイプ(12)がスリーブ(31)に接触して、該スリーブ(31)を継手(11)の奥方へ押しやってしまうという問題が生じる。これを詳説すると、まず、上記スリーブ(31)は継手(11)の内筒上でのスライドを可能ならしめるべく、これらスリーブ(31)と内筒との間には全周にわたり若干の「クリアランス(隙間)」が存在している。一方、斜めに切断されたパイプ(12)を上記継手(11)内に押し込んだ場合には、単一の切断端部であるにもかかわらず、上記カラー(32)を通過するタイミングにズレが生ずる。そのため、当該パイプ(12)における切断端部の先端側がスリーブ(31)に乗り上げた際には、該スリーブ(31)は軸心と直交する一方向に押圧されるので、上記「クリアランス(隙間)」の一部が消滅すると共に、該スリーブ(31)における押圧されていない側が前記カラー(32)よりも突出することとなる。従って、当該パイプ(12)における切断端部の他方側はスリーブ(31)上に乗り上げることができず、該パイプ(12)の切断面が前記スリーブ(31)の端面を押し込んでしまうのである。尚、その際にはパイプ(12)とスリーブ(31)との間に隙間が生じるため、この隙間からシール部材(15)がはみ出して、当該シール部材(15)を破損させることとなる。
【0008】
また図11(a)に示すように、斜めに切断されたパイプ(12)内に上記スリーブ(31)を進入させ、当該パイプ(12)の切断面がスリーブ(31)を押圧した場合には、図11(b)に示すように、該パイプ(12)の押圧力がスリーブ(31)の当接面における一点で集中することとなり、該スリーブ(31)が軸方向に対し傾斜して、スムースに移動させることができなかった。更に、傾斜した状態にあるスリーブ(31)がシール部材(15)を押圧すると、該シール部材(15)が破損したり、めくれ上がってしまう。そのため、上記特許文献2に記載の技術を以てしても、従来技術の包含する問題の完全な解決には未だ至っていないのである。
【特許文献1】特許第3600764号公報(図1,図2,図3,図4)
【特許文献2】特開2001−295966公報(明細書・第0031欄,図1,図3,図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は上記諸問題に鑑み、確実に流体管の内側へスリーブを進入させるためには、其れに先立って、当該流体管の内径をスリーブの外径よりも大きく拡径させて、直ぐさま当該流体管の内側へスリーブを進入させればよいことに気付き案出されたものである。よって、本発明の解決しようとする課題は、先端部が斜めに切断された流体管が挿入された場合にあっても、シール部材の破損やめくれ上がりを防止できる合成樹脂製流体管用の継手を、安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するため、本願発明の採った手段は以下の通りである。
まず、請求項1に係る発明の合成樹脂製流体管用の継手100は、流体管が挿入され、該流体管を脱抜不能に接続する接続部を備えた合成樹脂製流体管の継手100であって、流体管の端部に先端から内挿される内筒22を有する継手本体21と、内筒22に形成された環状溝22eに装着され、挿入された流体管の内周面に密接する環状のシール部材23と、内筒22の外周面に該内筒22に沿って移動可能に装着され、外周面に前記流体管と係合する係合部27cを備え、前記流体管の挿入により、該流体管に押圧されて内筒22に沿って移動するとともにこの移動により内周面で前記シール部材23を縮径方向に押しつぶすスリーブ27とを備え、前記内筒22の先端とスリーブ27との間には、スリーブ27の外径よりも外方に突出する突出部28を備え、該突出部28を前記流体管が乗り越えることにより、該流体管が前記スリーブ27の先端面との接触を回避することを特徴とするものである。
【0011】
また請求項2に係る発明は、請求項1に記載した合成樹脂製流体管用の継手100において、前記スリーブ27は、先端面が前記突出部28に当接して配置されてなることを特徴とするものである。
【0012】
そして請求項3に係る発明は、請求項2に記載した合成樹脂製流体管用の継手100において、前記突出部28は、スリーブ27の先端部外周を覆う延出部28aを有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
上記手段を採ったことにより得られる効果は以下の通りである。
まず、請求項1に係る発明の継手100は、継手本体21の内筒22に沿って移動することにより、該内筒22に形成した環状溝22eに嵌着させたシール部材23を縮径方向に押し潰すスリーブ27を有するものであり、このスリーブ27における流体管接続端部側には、該スリーブ27の外径よりも突出する突出部28が隣設されている。そのため、上記構成の継手100に押入(挿入)された流体管は、必然的に、スリーブ27に達する前に突出部28を乗り越えることとなる。従って、本継手100に押入された流体管の切断端面は、前記突出部28によって「真円」に補正されると共に、前記スリーブ27における流体管接続端部側の外径よりも大きな内径にまで全周にわたり「拡径」させられる。そして、当該流体管を更に押し込むことにより、該流体管の内側に前記スリーブ27が進入して、該スリーブ27における全ての外周面に対し前記流体管が覆い被さるようにして密接することとなる。尚、当該スリーブ27はその外周面側に係合部27cを有しており、前記流体管の端部が係合部27cに当接したところで、該スリーブ27の進入は止まる。そして、当該流体管の更なる押し込みに伴い上記スリーブ27が従動して、該スリーブ27の内周面によって前記シール部材23を押し潰して縮径させ、当該シール部材23上を前記スリーブ27と共に流体管の端部が通過することとなる。よって、本請求項に係る発明によれば、流体管の切断端面が突出部28によって「拡径」させられるので、スリーブ27を当該流体管の内側へと確実に進入させることが可能となり、該流体管の切断端面がシール部材23を押圧することに由来する該シール部材23の「破損」や「めくれ上がり」の防止が可能となるのである。
【0014】
また、請求項2に係る発明では、スリーブ27における流体管接続側端面が突出部28と隙間無く当接してなるため、当該スリーブ27における流体管接続側端面は露出していない状態にある。そのため本請求項に係る継手100に流体管を押し込んだ場合には、露出していない状態にあるスリーブ27の流体管接続側端面に、突出部28により全周にわたり拡径された状態にある流体管の端部が接近するので、該流体管の切断端面と前記スリーブ27における流体管接続側端面との接触を、確実に防止できるのである。
【0015】
そして、請求項3に係る発明においてスリーブ27に隣設された突出部28は、前記スリーブ27における流体管接続端部を覆う延出部28a有している。そのため本請求項に係る継手100においては、前記スリーブ27の流体管接続端部が延出部28aによって覆われた(護られた)状態にあるため、其処へ流体管を押し込んだ際、当該流体管の切断端面と前記スリーブ27における流体管接続側端面との接触を、一層確実に防止できるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の最良な実施形態を、添付した図1乃至図8に示す実施例を用いて説明する。
【0017】
図1に示す合成樹脂製流体管用の継手100は、「外筒10」と「継手本体21」と「内筒22」とからなり流体管を脱抜不能に接続する「接続部」を有するものであって、当該外筒10は、「筒状部材11」と「係合部12」と「開口窓13」と「縦リブ」とを有し、前記内筒22上には、「シール部材23」と「抜止リング24」と「スペーサ25」と「留め具26」と「スリーブ27」と「突出部28」とを有するものである。以下、各構成要素毎に順を追って説明する。尚、本発明において必須の構成要素は「継手本体21」、「内筒22」、「シール部材23」、「スリーブ27」及び「突出部28」であり、その他の構成要素は実施形態如何により任意に省略可能である。
【0018】
最初に、外筒10の構成について説明する。まず、外筒10における「筒状部材11」は、接続される流体管の挿通が可能な内径を有するものである。より具体的には、本継手100に流体管を接続する際には当該外筒10に対しスムースな挿通を担保する一方で、当該流体管内に通水させて該流体管が拡径した際には、該流体管の外周面と当該外筒10の内周面とが密着できる程度の内径で構成すると好適である。かかる構成を採ることにより、挿入された流体管の外側からは当該外筒10で把持する一方で、該流体管の内側からは抜止リング24(後述)で係合させる、いわば、流体管を内外の両側から挟み込むことが可能となる(図7参照)。尚、当該筒状部材11は上記機能を果たすことができれば特段形状は限定されるものではないが、「円筒状」に構成した場合には、必要最小限の原材料で製作できるので好適である。
【0019】
次に、外筒10における「係合部12」は、上記筒状部材11の端部に設けられて、当該外筒10を継手本体21に対して回転自在に係合させるものである。そのため、継手本体21に設けた被係合部22d(後述)に係合可能な形状に構造(形状・寸法)とする必要がある。より具体的には、仮に、継手本体21の外周面上に形成した一筋の溝からなる被係合部22dを構成した場合には、この溝に係合可能な環状突起12a或いは1又は2以上の突起12aを外筒10の内周面上に突設させることが考えられる。尚、本発明に係る技術思想はかかる構造に限定されるものではなく、拡径した流体管が外筒10の回転を阻害しないのであれば、継手本体21側に突起を設けると共に外筒10側に溝を設けて相互に係合させる構造を採ってもよい。更に、本発明において「外筒10」は、「筒状部材11」及び「係合部12」を単一の金属材料(例えば「黄銅」。好適には「青銅」。以下、同じ。)又は合成樹脂材料(例えば、一般に「エンプラ」或いは「スーパー・エンプラ」と称される合成樹脂。以下、同じ。)で一体的に形成する場合の他、「筒状部材11」と「係合部12」とを別々の材料で形成してこれらを組み付けて一体にしてもよい。具体的には、シール部材23及び抜止リング24と対向する筒状部材11を金属材料で、係合部12を合成樹脂材料でそれぞれ形成し、これらを一体に組み付けて構成すると好適である。筒状部材11を金属材料で形成することにより、拡径した流体管の確実な抑え込みが可能となり、係合部12を合成樹脂材料で形成することにより、継手本体21に対する容易な嵌合が可能となり、該継手本体21に対する摩擦が低減するため該外筒10の回転を軽くできるからである。尚、合成樹脂材料にて形成された外筒10の外周面を金属製の筒で被覆することにより、当該外筒10の機械的強度を補う構成とすることも考えられる。
【0020】
また、外筒10における「開口窓13」は、上記外筒10における継手本体21との接続部付近に設けられて、本継手100に対する流体管の挿入位置を目視確認を可能にするものである。本発明において当該「開口窓13」は、継手100に対する流体管の挿入位置を目視確認可能であれば、その形状は特段限定されるものではない。尚、上記した通り本発明において上記外筒10は、その一部又は全体を合成樹脂にて構成することも可能であるため、当該開口窓13が配置される部分を合成樹脂にて構成した場合には、該開口窓13の形状も多様に構成できる。具体的には、当該開口窓13の周囲の肉厚が漸次薄くなるテーパー形状に形成した場合、当該継手100の設置を行う作業者の指を当該開口窓13内に進入させることができるので有効である。何故なら、当該継手100の設置箇所によっては、当該開口窓13を目視確認できない場合もあり、その場合には、作業者が当該当該開口窓13内に自己の指を進入させて、流体管の確実な挿通を「手探り」で確認することができるからである。更には、当該開口窓13部分を透明な合成樹脂にて構成して、作業者による目視確認を実現することも可能である。尚、外筒10の全体を合成樹脂にて構成した場合には、金属で構成した場合に比して当該外筒10の肉厚を若干厚くする必要があるものの、当該継手100を安価に提供することが可能となる。
【0021】
続いて、「継手本体21」の構成について説明する。まず、継手本体21は、内筒22(次述)を有すると共に、「ヘッダー(分水器)」や「給水湯器」等の被接続機器への接続を行うものである。本発明において当該「継手本体21」は特段限定されるものではなく、接続対象である各種機器の接続部の構造(形状・寸法)に応じて任意に変更されるべきものである。具体的には、上記被接続機器の接続口に螺合可能なねじ込み部を形成して、該被接続機器との確実な接続を実現することが考えられる。尚、当該継手本体21を上記被接続機器と一体に形成した場合には当該ねじ込み部を設ける必要はない。
【0022】
次に、継手本体21共に構成される「内筒22」は、流体管の端部から内側へと進入することにより、内挿されるものである。より具体的には、上記継手本体21と共に当該内筒22を一体的に形成したり、或いは、上記継手本体21に設けたネジ穴開口に当該内筒22をねじ込んでなるものである。そして、該「内筒22」の外周面上にはシール部材23(後述)、抜止リング24(後述)及び留め具26(後述)が配置されることとなる。尚、上記外筒10を備える構成を採った場合には、当該内筒22の外周面と上記外筒10内周面との間に該流体管を進入させる「接続口」が構成されることとなるる。
【0023】
また、継手本体21における「シール部材23」は環状を成すものであって、上記内筒22の外周面に形成した「環状溝22e」上に装着され、接続される流体管の内周面に密着して当該流体管の端部開口からの漏水を防ぐものである。より具体的には、合成ゴムや天然ゴムからなるOリングを、上記内筒22の外周面に形成した環状溝22eに嵌めることによって構成することが考えられる。当該シール部材23の配置個数は、流体管端部開口からの漏水を防止できれば1個であってもよいが、より確実な漏水防止を図るのであれば、2個以上設けた方が好適である。また、本発明において当該シール部材23が配置される「環状溝22e」は、継手本体21における内筒22の周面上に直接形成する場合の他、前記内筒22の周面上にナット状の部材をねじ込んだり、或いはスペーサ状(又はワッシャー状)の部材を挿通させることにより、当該環状溝22eを構成することも可能である。
【0024】
さらに、継手本体21における「抜止リング24」は、上記内筒22周面上に外挿される環状部材であって、流体管の内周面に食い込む複数の爪24aを放射状に有し、該流体管が接続口から抜脱するのを防止すべく前記爪24aが流体管の内面に食い込んだ状態で、当該流体管とともに該内筒22を軸に周方向に回転自在となるよう、留め具26(後述)により固定されるものである。即ち、当該抜止リング24は複数の爪24aを放射状に有するスリット部(切り離し部)のない環状部材であることから、流体管が接続された後に圧縮した場合、均一に縮径させることができる。そのため、該流体管の内周面に対し局所的に負担が集中することなく、該流体管の内周面に対し均一に係合することができるのである。
【0025】
また、当該抜止リング24はスリット部(切り離し部)のない環状部材であるから、流体管を挿入する際にスリット部分で歪むこともない。これにより流体管に対し局所的に荷重(負担)が及ぶのを確実に回避することができる。尚、当該抜止リング24の配置個数は、流体管の抜脱を防止できれば1個であってもよいが、より確実な抜脱防止を図るのであれば、2個以上設けた方が好適である。この場合、抜止リング24どうしの間にスペーサ25を介在させることにより、流体管内周面において「爪24a」が係合する位置に間隔を設け、流体管へ負担が集中しないよう構成するとより一層好適である。
【0026】
更に当該抜止リング24は、上記内筒22周面上における上記シール部材23よりも流体管接続端部側に挿通させて配置した場合には、該抜止リング24が流体管内で内圧に晒される構造となる。そのため、挿通された流体管内に水を流通させた場合には、内圧で拡径した流体管の内周面に対し抜止リングが係合した状態で、尚且つ、該流体管が継手本体内筒へ密着することを回避できるので、内圧が生じた流体管であっても外筒と共に自由に回転させることが可能となるのである。その場合、当該抜止リング24は、「強い弾力性」と「酸化されにくい性質」とを併せ持つステンレススティールにて構成すると特に好適である。
【0027】
継手本体21における「留め具26」は、上記内筒22周面上における上記抜止リング24よりも流体管接続端部側に係合(又は形成)されて、当該抜止リング24を回転自在に固定するものである。即ち、本発明において上記抜止リング24はスリット部(切り離し部)のない環状部材からなり、此を継手本体21の端部から挿通されていることから、その位置を維持するのである。
【0028】
より具体的には、図4に示すように、上記内筒22における流体管接続側の端部には外面ネジを形成すると共に、当該外面ネジと螺合可能な内面ネジを留め具26に形成したり、或いは図8に示すように、上記内筒22における流体管接続側の端部内周面には内面ネジを形成すると共に、当該内面ネジと螺合可能な外面ネジを留め具26に形成して、これらを相互に螺着すると好適である。かかる構成を採ることにより、当該内筒22における留め具26との螺合端部から環状の抜止リング24を挿通させることができるため、本継手100を容易に組み立てることが可能となる。また、上記抜止リング24と当該留め具26との間には、合成樹脂製のスペーサ(又は、ワッシャー)を介在させた場合には、当該抜止リング24が受ける摩擦を低減させることができ、該抜止リング24の回転を軽くすることが可能となり有効である。
【0029】
継手本体21における「スリーブ27」は、上記内筒22の外周面に該内筒22に沿って移動可能に装着され、前記流体管の挿入により該流体管に押圧されて内筒22に沿って移動することにより、内周面側において前記シール部材23を縮径方向へと押しつぶすものである。かかる「押しつぶし」により、流体管端面との接触に起因する前記シール部材23の「破損」及び「めくれ上がり」の発生を抑止することとなる。また当該スリーブ27は、その外周面に「係合部27c」を備えるものである。そのため、継手の奥方へと流体管を押し込んだ際には、当該流体管の切断端面が係合部27cに当接する。其処へ当該流体管を更に押し込むことにより、本スリーブ27も従動して前記継手の奥方へと移動することとなるのである。
【0030】
具体的には、継手本体21に挿入され突出部28(後述)によって拡径された状態にある流体管の内径よりも小さな外径の円筒形状からなる「小径部27a」と、該流体管の内径よりも大きな外径へと漸次拡径するテーパー形状からなる「大径部27b」とを有する構成が好適である(図2参照)。かかる構成を採用した場合、当該「大径部27b」の外周面が前記「係合部27c」の役割を果たすこととなる。かかる構成によれば、前記流体管の端部が斜めに切断されていたり、或いは、歪んでいたとしても、当該スリーブ27を前記流体管内へと確実に進入させることができ、尚かつ、図10に示すが如く、切断端面の全周で係合部27c(大径部27b)が押圧されることとなる。従って、当該流体管の押圧力がスリーブ27における係合部27c(大径部27b)の全周に分散するので、該スリーブ27を軸方向に対して確実に直進させることができる。よって、従来技術の如き「スリーブの傾斜に伴うシール部材の破損・めくれ上がり」(図11参照)の発生を防止できるのである。この場合当該スリーブ27は、ステンレススティールからなる平板を円筒状に構成すると共に、当該円筒状部材における一方の開口からプレス加工を施すことにより拡径させ、一部テーパー形状に構成することができる。
【0031】
但し、一旦は挿入された流体管であっても、何らかの事情により脱抜方向へと後退した場合には、該流体管に追随して上記スリーブ27も後退し得る。該スリーブ27が後退した際には、該スリーブ27における流体管接続端部がシール部材23を破損させる可能性がある。かかる可能性を払拭するためには、当該スリーブ27が、一旦継手奥方へと進入した後には、後退しないものとする必要がある。そのためには、当該スリーブ27の先端部分と上記外筒10の内周面とを相互に係合可能な構成を採用することが考えられる。具体的には、図9に示すように、当該スリーブ27における継手奥方側の先端部分を外方に屈曲させてなる平坦部27dを形成する一方で、上記外筒10には、その内周面における流体管の挿入限界部分に該流体管の挿入方向へと連続して突出するリブ10aを形成して、挿入された流体管により、前記スリーブ27の平坦部27dを外筒10の内周面におけるリブ10aに係合させる構成を採用すると好適である。かかる構成を採ることにより、当該スリーブ27の後退を防止でき、ひいては、前記シール部材23への接触も回避できる。
【0032】
そして、継手本体21における「突出部28」は、上記スリーブ27の流体管接続端部側に隣設され、上記内筒22の先端と上記スリーブ27との間に、スリーブ27の外径よりも外方に突出してなるものであって、此を上記流体管が乗り越えることにより、当該流体管の内径を拡径させて、該流体管の端面と前記スリーブ27の先端面との接触を回避ならしめるものである。より具体的に説明すると、図2に示すように、上記スリーブ27につき「小径部27a」及び「大径部27b」を有する構成を採用した場合には、該スリーブ27における小径部27aの外径よりも突出させて、本継手100に挿入された流体管の内径を前記スリーブ27における小径部27aの外径よりも大きく拡径させるものである。即ち、継手本体21に挿入された流体管の端部がスリーブ27に到達する前に当該突出部28を乗り越えることによって、当該流体管の端部内径を拡径させることとなり、該流体管内にスリーブ27の小径部27aをスムースに進入させることが可能となるのである。また、上記シール部材23によってスリーブ27が流体管接続側に押圧される構成を採った場合には、該スリーブ27の小径部27a側端面が突出部28と常時当接することなる。更に当該突出部28は、図8(d)に示すように、スリーブ27の小径部27a側端部を覆う延出部28aを形成してもよい。斯様な構成を採ることにより、前記スリーブ27の流体管接続端部が延出部28aによって覆われる(護られる)ため、本継手に対し「斜め」に切断された流体管を押し込んだとしても、該流体管の切断端面が前記スリーブ27における流体管接続側端面へ当接することもない。よって、前記流体管とスリーブ27との間に隙間も生じないため、この隙間からシール部材23がはみ出すこともない。なお当該突出部28は、合成樹脂にて構成すると共に、これをスリーブ27と抜止リング24との間に介在させることが考えられるが、本発明は特段この構成に限定されるものではなく、内筒22と共に一体に形成してもよい。
【実施例1】
【0033】
上述した実施形態の中から、以下、好適な実施形態を説明する。
図1乃至図8は、実施例1に係る継手100を示すものである。まず図1は本実施例に係る継手100の分解斜視図であり、図3は本実施例に係る継手100の側面図であり、図4乃至図7は本実施例に係る継手100の断面図である。
【0034】
図1又は図3に示すように、本実施例に係る継手100は、筒状部材11と係合部12と開口窓13とからなる外筒10と、ねじ込み部21と内筒22とシール部材23と抜止リング24とスペーサ25と留め具26とスリーブ27と突出部28とからなる継手本体21とを、一体に組み付けてなるものである。
【0035】
まず、本実施例において外筒10は、シール部材23及び抜止リング24と対向する部分が、係合部12を介して継手本体21に対して周方向に回転自在に設けている。当該外筒10は、その筒状部材11の大部分を青銅にて形成し、開口窓13と係合部12を有する部分(即ち、継手本体21との接合端部)についてはスーパー・エンプラの一種であるポリフェニレンスルフィド(PPS)にて形成して、これら各部分を一体に組み付けてなるものである。尚、図1に示す形態と図3に示す形態とでは、「外筒10」における継手本体21との接合端部の形状が異なるが、これらは設計上の差異に過ぎない。この点を具体的に説明すると、まず図1に示す形態にあっては、円周上に3箇所の「開口窓13」を形成すると共に、内周面に3箇所の「係合突起12a」を突設してなるものである。これに対して図3に示す形態にあっては、円周上に「開口窓13」を大小2箇所ずつ(都合、4箇所)形成すると共に、内周面に環状の「係合突起12a」を1箇所突設してなるものである。
【0036】
そして、継手本体21に相当する「ねじ込み部」と「内筒22」とを青銅にて一体に形成している。当該ねじ込み部21をヘッダー(分水器)等の機器(図示しない)へ容易に接続すべく、該ねじ込み部21の直近には「六角ナット部」が形成されている。当該内筒22は「大径部22a」と「中径部22b」と「小径部22c」とからなり、大径部22aの外周面上に一筋の溝を形成して「被係合部22d」とし、中径部22bの外周面上に二筋の環状溝22eを形成して「シール部材23」を配置可能とし、小径部22cの端部にネジ溝を形成して「スリーブ27」と「突出部28」と「抜止リング24」と「スペーサ25」を挿通させると共に「留め具26」との螺合を可能にしている。尚、本実施例では、中径部22bにおける「環状溝22e」部の外径と、小径部22cの外径とは略同一としている。
【0037】
また、本実施例においてシール部材23は、合成ゴムにて形成した断面円形のOリングからなり、これを前記内筒22における中径部に形成した二本の環状溝22eにそれぞれ配置してなるものである。これら二本のOリングのうち、接続端部側のOリングの外周を覆うようにしてスリーブ27が挿通・配置されている。このスリーブ27はステンレススティールにて形成されたテーパー状の筒状部材11からなるものである。このスリーブ27における小径部27a側には突出部28が隣設されている。この突出部28は延出部28aを備えており、該延出部28aによって前記スリーブ27の小径部27a側端部を覆われることとなる。この突出部28は合成樹脂によって形成され、該突出部28よりも接続端部側に隣設された抜止リング24の回転抵抗を低減させるものとしている。この抜止リング24は(切り離し部のない)環状部材からなり、該環状部材の外周には流体管Pの内周面に係合可能な複数の「爪24a」を放射状に有するものである。この爪24aは接続される流体管Pの挿入方向に向けて斜めに立設され、流体管Pが挿入された後には該流体管Pの内周面に食い込んで抜脱不可に係合することとなる。当該抜止リング24はスペーサ25を挟んで二本配置され、これら二本の抜止リング24のうち、接続端部側の抜止リング24が抜脱しないよう前記小径部22cの端部に形成したネジ溝に留め具26を螺合させている。当該留め具26の螺合により、継手本体21の内筒22に対しスリーブ27、突出部28、抜止リング24及びスペーサ25が挿通されて一体となった状態を維持することとなる。
【0038】
続いて、本実施例に係る継手100の使用状態を、図4乃至図7を用いて説明する。
まず図4は、図3に示す継手100のA−A線断面を示すものであって、未だ流体管Pが挿入されていない状態である。次に図5は、図4に示す継手100に対する流体管Pの挿通を開始してスリーブ27に当接した状態を示す図である。また図6は、図5に示す継手100に対する流体管Pの挿通が完了した状態を示すものであって、未だ流体管P内に水を流通させていない状態である。図7は、図6に示す継手100に挿通した流体管P内に水を流通させ、当該流体管P内に内圧が発生し該流体管Pが本継手100内で拡径した状態を示したものである。
【0039】
さらに図8は、本実施例に係る継手100におけるスリーブ27の小径部27aが、挿入された流体管Pの内側へ進入するプロセスを示すものである。まず図8(a)は図4の一部を拡大したものであり、図8(c)は図5の一部を拡大したものである。また図8(b)は、前記図8(a)に示す状態から図8(c)へと至る途中を示すものであって、挿入された流体管Pが突出部28を乗り越えて、該流体管Pの内径が拡径した状態を示している。そして図8(d)は、前記突出部28に対しスリーブ27が当接した状態の断面を示すものであって、該突出部28に設けた延出部28aがスリーブ27の小径部27a側端部を覆った状態を示している。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1に係る継手100の分解斜視図である。
【図2】図1におけるスリーブ27及び突出部28を拡大して示す図である。
【図3】図1に示す継手100の側面図である。
【図4】図3に示す継手100のA−A線断面図である。
【図5】図4に示す継手100に対する流体管Pの挿通を開始してスリーブ27における係合部27dに当接した状態を示す図である。
【図6】図5に示す継手100に対する流体管Pの挿通が完了した状態を示す図である。
【図7】図6に示す継手100に挿通した流体管P内に水を流通させ、当該流体管P内に内圧が発生し該流体管Pが本継手100内で拡径した状態を示す図である。
【図8】(a)図4の一部を拡大したものである。(b)前記aに示す状態からcへと至る途中を示すものである。(b)前記aに示す状態から後記cへと至る途中を示すものである。(c)図5の一部を拡大したものである。(d)前記突出部28に対しスリーブ27が当接した状態の断面を示すものである。
【図9】図4に示す継手100を拡大して示すものであって、外筒10の内周面に立設したリブ10aに対しスリーブ27の平坦部27dを食い込ませた状態を示す図である。
【図10】図4に示す継手100に対し、斜めの切断端面を有する流体管Pの挿通を開始して、スリーブ27における係合部27cに当接した状態を示す図である。
【図11】従来技術に係る継手に対しパイプを挿入した状態を、段階的に示す図である。
【符号の説明】
【0041】
10 外筒
11 筒状部材
12 係合部
12a 係合突起
13 開口窓
21 継手本体
22 内筒
22a 大径部
22b 中径部
22c 小径部
22d 被係合部
22e 溝
23 シール部材
24 抜止リング
24a 爪
25 スペーサ
26 留め具
27 スリーブ
27a 小径部
27b 大径部
27c 係合部
27d 平坦部
28 突出部
28a 延出部
29 Oリング
100 継手
P 流体管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体管が挿入され、該流体管を脱抜不能に接続する接続部を備えた合成樹脂製流体管の継手であって、
流体管の端部に先端から内挿される内筒を有する継手本体と、
内筒に形成された環状溝に装着され、挿入された流体管の内周面に密接する環状のシール部材と、
内筒の外周面に該内筒に沿って移動可能に装着され、外周面に前記流体管と係合する係合部を備え、前記流体管の挿入により、該流体管に押圧されて内筒に沿って移動するとともにこの移動により内周面で前記シール部材を縮径方向に押しつぶすスリーブとを備え、
前記内筒の先端とスリーブとの間には、スリーブの外径よりも外方に突出する突出部を備え、該突出部を前記流体管が乗り越えることにより、該流体管が前記スリーブの先端面との接触を回避することを特徴とする合成樹脂製流体管用の継手。
【請求項2】
請求項1に記載した合成樹脂製流体管用の継手において、
前記スリーブは、先端面が前記突出部に当接して配置されてなることを特徴とする合成樹脂製流体管用の継手。
【請求項3】
請求項2に記載した合成樹脂製流体管用の継手において、
前記突出部は、スリーブの先端部外周を覆う延出部を有することを特徴とする合成樹脂製流体管用の継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−256012(P2008−256012A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96293(P2007−96293)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(000243803)未来工業株式会社 (550)
【Fターム(参考)】