説明

合焦補正方法

【課題】HCAにおける観察時間を短縮することが可能な合焦補正方法を提供する。
【解決手段】焦点誤差検出光学系により得られる焦点誤差信号を用いて観察光学系の自動合焦を行う顕微鏡の合焦を補正する方法であって、観察用ウェルプレートのたわみを補正して、焦点を合わせることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焦点誤差信号を用いた観察光学系の自動合焦機能を有する生物顕微鏡に用いて好適な合焦補正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
顕微鏡の対物レンズをアクチュエータで駆動することで、自動的な合焦制御を実行する
自動焦点装置が知られている。この装置では、顕微鏡の対物レンズの焦点位置からのずれ
を検出し、そのずれの検出信号に応じて圧電素子等のアクチュエータにより対物レンズを
移動させ、合焦させている。
【0003】
図6は焦点誤差検出装置より出力される焦点誤差信号の一例を示すもので、最初に一つのウェル穴に対物レンズを動かし、その場所で対物レンズをアクチュエータにてZ軸方法にスキャンする。
【0004】
即ち、ウェル5の底板に対して対物レンズ11をZ方向に動かすと焦点誤差信号は図6に示すようにS字カーブを描く。そして、焦点誤差信号が、このS字カーブのある値に達したときに、合焦となる。
ウェルプレートには観察試料を収納するウェル穴が格子状に多数形成されているが、ウェルプレートには本質的なたわみがあるため、基本的には一つ一つのウェル穴において以上のような動作を行って合焦を行っている。
このような自動焦点装置としては下記の特許文献が知られている。
【0005】
【特許文献1】特開平5−88072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の従来例においては、焦点誤差信号が、対物レンズのZ軸方向の動きに対して非線形であるので、合焦させるためには、焦点誤差信号を読み取りながら、対物レンズをスキャンしなければならない。
しかしながら、HCA(High Content Analysis)装置のような高速性を要求されるときの自動合焦においては、一つ一つのウェル穴において以上のような動作をさせていたのでは、一つのウェルを観察し終えるまでに、非常に時間がかかってしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、一つ一つのウェル穴において、対物レンズをスキャンさせなくていいような合焦補正方法により、HCAにおける観察時間を短縮することが可能な合焦補正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の合焦補正方法は、請求項1においては、
焦点誤差検出光学系により得られる焦点誤差信号を用いて観察光学系の自動合焦を行う顕微鏡の合焦を補正する方法であって、観察用ウェルプレートのたわみを補正して、焦点を合わせることを特徴とする。
【0009】
請求項2においては、請求項1に記載の合焦補正方法において、
隣接したウェルのたわみ量を、焦点誤差信号の差分より計算し、その量を加算して次のウェルの焦点位置とすることを特徴とする。
【0010】
請求項3においては、請求項1に記載の合焦補正方法において、
現時点のウェルのたわみ測定量と一つ前のウェルのたわみ測定量の差分をたわみ偏差とし、現時点のウェルのたわみ量に前記たわみ偏差を加算もしくは減算したものを、次のウェルの仮の焦点位置とし、仮の焦点位置における焦点誤差信号量と、真の焦点位置における焦点誤差信号量との差が、閾値より小さければそのまま観察を続け、閾値より大きければたわみ偏差の加算と減算を入れ替えて、仮の焦点位置を焦点位置とする。
【0011】
請求項4においては、請求項1に記載の合焦補正方法において、
観察前にウェルプレートの複数点のたわみ量を、焦点誤差信号より測定し、ウェルの2次元的なたわみをマッピングし、そのマッピングしたたわみ量に基づいて焦点位置を演算することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の合焦補正方法によれば、各ウェルおいて対物レンズを大きくスキャンする必要がないのでHCAにおける観察時間の短縮化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図1〜図4を参照して、本発明による合焦補正方法の一実施形態について説明する。
はじめに本発明で使用する自動焦点装置を有する生物顕微鏡について、図1のブロック構成図を用いて説明する。
【0014】
図1に示すように、本発明が適用される生物顕微鏡は、観察光学系10および焦点誤差検出光学系20からなる光学系と、対物レンズ11の位置を制御するための制御回路3と、観察光学系の焦点位置を調整する焦点調整手段としての焦点調整部4と、を備えている。
【0015】
光学系は、試料が載置されるウエルプレート5の近傍に配置される対物レンズ11と、ウエルプレート5側からの光を観察光および焦点誤差検出光に分離する分離手段としてのダイクロイックミラー12と、ダイクロイックミラー12を透過した観察光が入射する顕微鏡13と、顕微鏡13への焦点誤差検出光の入射を防止するためのフィルタ14と、焦点誤差検出用光源としてのレーザダイオード21と、レーザダイオード21から照射された焦点誤差検出光をウエルプレート5に向けて通過させるレンズ群22と、焦点誤差検出光の一部を分岐するハーフミラー23と、ウエルプレート5で反射されハーフミラー23を通過した焦点誤差検出光を受光する焦点誤差信号生成手段としての4分割フォトダイオード25と、4分割フォトダイオード25に入射する焦点誤差検出光のビーム形状を所定形状に成形するコリメータレンズ26およびシリンドリカルレンズ27と、ダイクロイックミラー12で分岐した観察光を遮断するためのフィルタ28と、を備えている。
【0016】
図1に示すように、対物レンズ11は、アクチュエータ16によりZ方向(光軸方向)に
移動可能とされている。アクチュエータ16は制御回路3により制御される。
【0017】
次に、このような自動焦点装置を有する生物顕微鏡の動作について説明する。
【0018】
ウエルプレート5からの観察光は、対物レンズ11、ダイクロイックミラー12、フィルタ14を介して顕微鏡13に入射し、顕微鏡13において試料が載置されたウエルプレート5の観察像が得られる。
【0019】
これら、対物レンズ11、ダイクロイックミラー12、フィルタ14および顕微鏡13は、観察光学系10を構成する。
【0020】
一方、レーザダイオード21から照射された焦点誤差検出光は、レンズ群22、ハーフ
ミラー23、フィルタ28を通ってダイクロイックミラー12により分岐して、対物レンズ11を介してウエルプレート5に照射される。ウエルプレート5で反射された焦点誤差検出光は、対物レンズ11を介してダイクロイックミラー12に戻り、ここで分岐してフィルタ28に入射する。
【0021】
フィルタ28を通過した焦点誤差検出光は、ハーフミラー23を通過して、コリメータレンズ26およびシリンドリカルレンズ27を通過する。コリメータレンズ26およびシリンドリカルレンズ27を通過した焦点誤差検出光は、4分割フォトダイオード25で受光される。
【0022】
これら、レンズ群22、ハーフミラー23、フィルタ28、ダイクロイックミラー12
、対物レンズ11、4分割フォトダイオード25、コリメータレンズ26およびシリンドリカルレンズ27は、焦点誤差検出光学系20を構成する。
【0023】
焦点誤差検出光学系20に設けられたフィルタ28は、ダイクロイックミラー12によ
り除去されきれなかったウエルプレート5の側からの観察光を遮断する。
本実施形態では、フィルタ28において観察光を遮断し、フィルタ28を経由した焦点誤差検出光のみが4分割フォトダイオード25に入射する。このため、4分割フォトダイオード25において、観察光の影響を受けない正確な焦点誤差信号を生成することができる。また、観察光の影響を排除することで、焦点誤差検出の感度を向上させることができるので、ウエルプレート5に照射する焦点誤差検出光の光量を低下させることができ、ウエルプレート5上に載置された試料が生細胞である場合などに、試料への悪影響を防止できる。
【0024】
コリメータレンズ26およびシリンドリカルレンズ27は、光軸(z軸)と直交し、か
つ互いに直交する2方向(x方向、y方向)について焦点距離を異ならせ、4分割フォト
ダイオード25の受光量に基づく、非点収差法を用いた焦点誤差検出が可能となる。後述
のように、焦点誤差検出光学系20および制御回路3等は合焦手段として機能する。
【0025】
図2は、4分割フォトダイオード25に照射される焦点誤差検出光の投影形状を示して
おり、図2(a)は合焦時の形状、図2(b)は焦点が遠い場合の形状、図2(c)は焦
点が近い場合の形状を、それぞれ示している。フォトダイオード25の領域25aの出力
レベルを「A」、領域25bの出力レベルを「B」、領域25cの出力レベルを「C」、
領域25dの出力レベルを「D」とすると、「(A+C)−(B+D)」を演算すること
で、焦点誤差(フォーカスエラー)検出信号を得ることができる。
【0026】
いわゆる焦点誤差検出信号のS字カーブにおいて、信号強度が「0」の点で合焦状態が得られる。4分割フォトダイオード25から出力された焦点誤差検出信号は、焦点調整部4を介して制御回路3に与えられる。なお、非点収差法による焦点誤差検出は周知の技術であるため、詳細説明は省略する。
【0027】
ところで、先にも書いたようにウェルプレートには本質的なたわみがある。
図3(a,b,c)は前記たわみを補正するための方法を示す説明図である。
1)まず1番目のウェル穴(底面)5aにおいて、従来技術と同様に、対物レンズをZ軸方向にスキャンさせ、S字状の焦点誤差信号(図6参照)を検出し、合焦位置に合わせる。
【0028】
2)合焦したウェル穴(底面)から、次のウェル穴に移す際に、まずXY軸方向にウェルプレートを移動させる。移動させるとウェル穴(底面)5aのたわみによるZ方向のずれ(ΔZ)により、焦点誤差信号が変位する。
【0029】
3)焦点誤差信号の変位量より、ウェル穴(底面)の変位量を計算し、その変位量の分だけ、対物レンズ11を駆動させ、合焦とする。
【0030】
上述の方法による場合、隣接するウェル穴(底面)5aのたわみ量が、焦点誤差信号のS字領域より小さくなければならない。このS字領域は図1に示した焦点誤差検出光学系の調整により変えることができる。
【0031】
次に一つ先のウェル穴(底面)におけるZ方向の変位量を予測する方法について図4を用いて説明する。
図4(a)はウェル穴(底面)5aが直線状に変化している場合を示している。この場合、n番目とn+1番目は上述の方法にて合焦を行う。即ち、対物レンズをZ軸方向にスキャンさせ、S字状の焦点誤差信号(図6参照)を検出し、合焦位置に合わせる。次に、合焦したウェル穴(底面)5aから、次のウェル穴(底面)5aに移す際に、まずXY軸方向にウェルプレートを移動させる。
【0032】
移動させるとウェル穴(底面)5aのたわみによるZ方向のずれ(ΔZ)により、焦点誤差信号が変位する。そして、焦点誤差信号の変位量より、ウェル底面の変位量を計算し、その変位量の分だけ、対物レンズ11を駆動させ、合焦とする。
【0033】
n+2番目はn番目とn+1番目の変位量の差分より、その変位量を決定する。これを仮の焦点位置とする。あらかじめ変位量が分かっているので、ウェルプレートのXY軸移動と同時に、対物レンズを動かすことが出来る。
【0034】
n+2番目のウェル穴(底面)5aに移動完了後、その焦点誤差信号の値より、真の焦点位置を計算する。真の焦点位置が仮の焦点位置と、ある誤差範囲内を持って同等であれば、そのまま撮影を行う。
【0035】
図4(b)はウェルの底面のたわみが、n+1番目のウェル穴において極値をとっている場合を示している。その場合、仮の焦点位置と真の焦点位置がずれることがある。その可能性を考慮し、仮の焦点位置と真の焦点位置がずれた場合、対物レンズの駆動量を反転させる。このとき、仮の焦点位置と真の焦点位置がある誤差範囲内をもって同等であれば、撮影を行う。
【0036】
また、このとき仮の焦点位置と真の焦点位置がずれた場合、先に述べたように、対物レンズをZ軸方向にスキャンさせ、S字状の焦点誤差信号を検出し、合焦位置に合わせる。次に、合焦したウェル穴(底面)から、次のウェル穴(底面)に移す際に、まずXY軸方向にウェルプレートを移動させる。
【0037】
次に、ウェルプレート全体におけるZ変位量を予測する方法について図5を用いて説明する。
この方法では、ウェルプレートの四隅と中央において、対物レンズのZ軸方向のスキャンを行い、合焦位置におけるアクチュエータのZ軸駆動量から、ウェルのその点におけるZ軸座標を求める。この5点のZ軸座標を元にウェルの曲面を求め、マッピングを行う。
観察時には、このマッピングされた座標に基づいて、対物レンズを動かしながら撮影を行う。
【0038】
以上説明したように、本発明の合焦補正方法によれば、観察用ウェルプレートのたわみを補正して、焦点を合わせるものであり、隣接したウェルのたわみ量を、焦点誤差信号の差分より計算し、その量を加算して次のウェルの焦点位置とし、
【0039】
また、現時点のウェルのたわみ測定量と一つ前のウェルのたわみ測定量の差分をたわみ偏差とし、現時点のウェルのたわみ量に前記たわみ偏差を加算もしくは減算したものを、次のウェルの仮の焦点位置とし、仮の焦点位置における焦点誤差信号量と、真の焦点位置における焦点誤差信号量との差が、閾値より小さければそのまま観察を続け、閾値より大きければたわみ偏差の加算と減算を入れ替えて、仮の焦点位置を焦点位置とし、
【0040】
また、観察前にウェルプレートの複数点のたわみ量を焦点誤差信号より測定し、ウェルの2次元的なたわみをマッピングし、そのマッピングしたたわみ量に基づいて焦点位置を演算して合焦を行うものである。
その結果、各ウェルおいて対物レンズを大きくスキャンする必要がないのでHCAにおける観察時間の短縮化を図ることができる。
【0041】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。本発明では生物顕微鏡について説明したが自動焦点装置を有する他の顕微鏡であってもよい。
従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明が適用される生物顕微鏡の構成を示すブロック図である。
【図2】4分割フォトダイオードに照射される焦点誤差検出光の投影形状を示すもので、(a)は合焦時の形状、(b)は焦点が遠い場合の形状、(c)は焦点が近い場合の形状を示す図である。
【図3】本発明の焦点補正方法の一例を示する図である。
【図4】本発明の焦点補正方法の他の例を示する図である。
【図5】本発明の焦点補正方法の他の例を示する図である。
【図6】焦点誤差検出装置より出力される焦点誤差信号の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
3 制御回路(合焦手段)
4 焦点調整部(焦点調整手段)
5 ウェルプレート
10 観察光学系
11 対物レンズ
12 ダイクロイックミラー
16 レンズアクチュエータ
20 焦点誤差検出光学系(合焦手段)
21 レーザダイオード
22 レンズ群
23 ハーフミラー
25 4分割フォトダイオード(焦点誤差信号生成手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焦点誤差検出光学系により得られる焦点誤差信号を用いて観察光学系の自動合焦を行う顕微鏡の合焦を補正する方法であって、観察用ウェルプレートのたわみを補正して、焦点を合わせることを特徴とする合焦補正方法。
【請求項2】
隣接したウェルのたわみ量を、焦点誤差信号の差分より計算し、その量を加算して次のウェルの焦点位置とすることを特徴とする請求項1に記載の合焦補正方法。
【請求項3】
現時点のウェルのたわみ測定量と一つ前のウェルのたわみ測定量の差分をたわみ偏差とし、現時点のウェルのたわみ量に前記たわみ偏差を加算もしくは減算したものを、次のウェルの仮の焦点位置とし、仮の焦点位置における焦点誤差信号量と、真の焦点位置における焦点誤差信号量との差が、閾値より小さければそのまま観察を続け、閾値より大きければたわみ偏差の加算と減算を入れ替えて、仮の焦点位置を焦点位置とすることを特徴とする請求項1に記載の合焦補正方法。
【請求項4】
観察前にウェルプレートの複数点のたわみ量を焦点誤差信号より測定し、ウェルの2次元的なたわみをマッピングし、そのマッピングしたたわみ量に基づいて焦点位置を演算することを特徴とする請求項1に記載の合焦補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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