説明

合金化溶融亜鉛めっき鋼板の線状マーク防止方法

【課題】外観品位のきわめて厳しい自動車ボディ外板としての使用にも耐え得る表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するための線状マーク防止方法を提供する。
【解決手段】合金化溶融亜鉛めっき鋼板用のスラブの表面を、溶削酸素圧力p(kPa)と、溶削速度V(mpm)と、ホットスカーファーのアッパーブロック燃焼ノズル先端との距離a(mm)とが、V≧K√P(Kは139、好ましくは193)、p≦250、V≦40、8≦a≦20の4つの条件式を満たす範囲でホットスカーファーによる溶削を行い、溶削により発生した溶着地金をスラブ表面から除去する。溶着地金に起因する線状マークの発生をなくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するための合金化溶融亜鉛めっき鋼板の線状マーク防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、耐食性および加工性を要求される自動車用外板や家電用部品には、C含有率が0.0050質量%以下の極低炭素鋼板に合金化溶融亜鉛めっきを施した合金化溶融亜鉛めっき鋼板が用いられている。特に自動車のボディ外板のように人目に触れる部分に使用される部品に用いられる場合には、耐食性および加工性のほか外観も重要視されることとなる。
【0003】
ところが上記したC含有率が0.0050質量%以下の極低炭素鋼板に合金化溶融亜鉛めっきを施した合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、成形加工した場合に線状マークと呼ばれる筋状の模様が浮き出て外観品位を損なうことがあり、問題となっていた。
【0004】
このような合金化溶融亜鉛めっき鋼板の線状マークを防止するために、特許文献1ではスラブを連続鋳造する際に発生するスラブオシレーションマークに着目している。すなわち、スラブオシレーションマークの谷部でPが濃化し、これが表面性状に影響するものとの観点に立ち、スラブオシレーションマークを切削したり、Pを低減させる方法が提案されている。
【0005】
また特許文献2では、Ti添加IF鋼のスジムラが連続鋳造スラブを加熱する際に表面に生ずる窒化現象のムラに起因することを突き止め、スラブ加熱中に酸化処理として酸素を富加することにより対応することが提案されている。
【0006】
さらに特許文献3では、鋼中のSが線状マークに影響を及ぼすものとして、その閾値を定めて対応することが提案されている。
【特許文献1】特開平6−336666号公報
【特許文献2】特開平10−330846号公報
【特許文献3】特開2005−2363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、外観品質の極めて厳しい自動車ボディ外板に用いられる合金化溶融亜鉛めっき鋼板においては、上記した手段を講じてもなお線状マークの発生を抑えられず、特許文献1,2,3に示されたものとは発生原因を異にすると思われる線状マークが顕在化しており、その対応が急務となっていた。
【0008】
従って本発明の目的は上記した従来の課題を解決し、加工性はもちろんのこと、外観品位のきわめて厳しい自動車ボディ外板としての使用にも耐え得る、表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するための線状マーク防止方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はこの課題を解決するために鋭意調査研究を重ねた結果、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は厳しい外観要求に応えるため、連続鋳造後のスラブの段階でスラブ手入れを実施して表面の介在物や疵を除去しているが、意外なことにホットスカーファーによる溶削量が多いものほど線状マークの発生が多いことを突き止めた。
【0010】
すなわち、図1は自動車ボディ外板に用いられるC含有率が0.0050質量%以下の合金化溶融亜鉛めっき極低炭素鋼板におけるホットスカーファー溶削量別の線状マーク起因の保留率を示すグラフであり、溶削量が大きくなると保留率が著しく増大することがわかる。この事実は、表面品位改善のために行われていたホットスカーファーによるスラブ表面の溶削が、逆に線状マークの発生原因となっていたことを示すものである。しかしスラブ表面の溶削を行うことは表面品位改善のために不可欠であり、なくすることはできない。
【0011】
そこで本発明者はさらに検討を重ねた結果、従来のホットスカーファーによる溶削条件下では、溶削により生じた溶着地金(ノロ)がスラブ表面にスジ状に付着し、このスラブが圧延されると外観上は健全であるが性状の異なる部分(鋼中の酸素リッチな部分)が線状に残った鋼板となり、溶融亜鉛めっきを行った際に合金化速度の局所的な差異が発生して線状マークとなるという、従来知られていなかったメカニズムを解明した。なお、C含有率が0.0050質量%以下の合金化溶融亜鉛めっき極低炭素鋼板においてこの現象が顕著に現れるのは、極低炭素鋼は粘性が高いため、従来条件では溶着地金をスラブ表面から完全に吹き飛ばすことが行いにくいためと想定される。
【0012】
本発明は上記した知見に基づき、ホットスカーファーによる溶削条件を適正化することにより線状マークを防止するためになされたものであって、合金化溶融亜鉛めっき鋼板用のスラブの表面を、溶削酸素圧力p(kPa)と、溶削速度V(mpm)と、ホットスカーファーのアッパーブロック燃焼ノズル先端との距離a(mm)とが、下記の4つの条件式を満たす範囲でホットスカーファーによる溶削を行い、溶削により発生した溶着地金をスラブ表面から除去することを特徴とするものである。
V≧K√P(Kは139)
p≦250
V≦40
8≦a≦20
なお請求項2に示すように、V≧K√Pの条件式中のKを193とすることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スラブ表面をホットスカーファーによって手入れする際に生じる溶着地金をスラブ表面から吹き飛ばし、表面性状が均質で表面品位の良好なスラブを得ることができる。このために合金化溶融亜鉛めっきを施したときにめっきムラが発生せず、線状マークの発生率を大幅に減少させることが可能となった。なお請求項2の発明の条件によれば、この効果をさらに高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態を示す。
図2はホットスカーフを行ったスラブ表面を示す図であり、溶削部にはノロと呼ばれる溶着地金が付着する。この溶着地金の鋼成分は基本的にスラブと同一であるが、酸化物の含有率が高く硬質化している。本発明者は、ノロの付着したカットサンプルを用いてラボ実験で熱間圧延、酸洗、冷間圧延、合金化溶融亜鉛めっきを行ったところ、図3に示すようにノロの付着位置と同一位置に線状マークが生成されることを確認した。
【0015】
ノロの付着が線状マークを発生させる推定メカニズムを図4に示した。スラブの表層に付着した溶着地金の一部が熱間圧延や熱間圧延中のデスケーリング、酸洗、冷間圧延の工程を経ても脱落せずに残存すると、溶融亜鉛めっき中にその部分のFe-Al-Zn層が薄くなる。そのため合金化の工程において溶着地金部分のめっき層では周囲のめっき層からの亜鉛の拡散や鋼板からの鉄の拡散が局部的に進行し、その部分の目付量が厚くなって線状マーク発生に至るものと推定される。
【0016】
このようなメカニズムによる線状マークの発生を防止するためには、ホットスカーファーによる溶削条件を適正化し、溶着地金がスラブ上に付着しないようにすることが必要である。そこでホットスカーファーによる溶削条件を検討した。図5はホットスカーファーの要部断面図であり、1はアッパーブロック、2はロアーブロック、3はスラブに面するシューである。これらのアッパーブロック1とロアーブロック2との間の燃焼ノズル4から燃料ガス(例えばプロパンガス)と酸素とが噴射され、高温高圧のフレームによってスラブ表面を溶削する。
【0017】
溶削酸素圧力p(kPa)は従来は130kPaの一定値に設定されていたのであるが、本発明では溶削速度V(mpm)との関係において溶削酸素圧力pを様々に変化させ、どのような条件において溶着金属をスラブ表面から完全に除去することができるかを実験した。その結果を図6に示す。図6はホットスカーファーのアッパーブロック1の燃焼ノズル4の先端とスラブ表面との距離a(mm)を10〜20に設定した場合の結果である。品位の判定は目視により行い、溶着地金が大量に残留しているものを×、一部の溶着地金が残留しているものを黒三角、スラブ表面はやや荒れているものの溶着地金のないものを□、スラブ表面が良好で溶着地金のないものを○、溶削不足のものを◆、溶削が虎刈り状態のものを■で表示した。これらのうち○が最も好ましく、□も合格と判定した。
【0018】
図6から、V≧139√Pの範囲でスラブ表面の品位が合格となることが確認された。またV≧193√Pの範囲とすればさらに好ましい品位となる。しかし溶削酸素圧力p(kPa)が250を越えると虎刈り状態となるため、p≦250とした。なお図示していないが、溶削酸素圧力pが30未満では安定した溶削ができず、操業上好ましくない。
【0019】
さらに溶削速度V(mpm)は、40を越えると溶削不足が発生し、表面品位が安定しないためV≦40とした。なお図示していないが、溶削速度Vが5未満では搬送ロールとスラブとの間で滑り等が発生し、スラブの移動が安定しないので好ましくない。このようにa(mm)を10〜20に設定した場合には、V≧K√P(Kは139、好ましくは193)、p≦250、V≦40の条件下でホットスカーファーによる溶削を行った場合に溶着地金がスラブ上に付着しないことが確認された。
【0020】
次に図7は、ホットスカーファーのアッパーブロック1の燃焼ノズル4の先端とスラブ表面との距離a(mm)を8に設定した場合の同様のグラフである。また図8は距離aを24に設定した場合の同様のグラフである。aを10〜20に設定した図6の場合には良好な結果が得られたV≧K√Pの条件下においても、aが8の場合にはスラブとの距離が近すぎるためにスラブ表面で燃焼ガスによる溶削した地金の巻上げが生じ、スラブ表面の品位を低下させるものと考えられる。逆にaが24の場合には、スラブ表面との距離が大きすぎてホットスカーファーの燃焼ガスの衝突圧力が弱くなり、スラブ表面を十分に溶削できないものと考えられる。
【0021】
上記の結果、V≧K√P(Kは139、好ましくは193)、p≦250、V≦40、8≦a≦20の条件で溶削を行えば溶着地金の付着のない表面品位の良好なスラブを得ることができ、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造した場合の線状マークを確実に防止できることを確認した。なお本発明の条件により溶削されたスラブ表面の凹凸は従来の約1mmから0.5mmに半減しており、線状マークによる保留率も従来は10%に達することがあったが、本発明方法を採用することによって、ほぼ0%にまで減らすことが可能になった。このように本発明による合金化溶融亜鉛めっき鋼板の線状マーク防止効果は絶大なものであることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来の、ホットスカーファー溶削量別の線状マーク起因の保留率を示すグラフである。
【図2】ホットスカーフを行ったスラブ表面の説明図である。
【図3】溶着地金の付着位置と線状マークの発生位置との関係を示す図である。
【図4】溶着地金が線状マークを発生させるメカニズムの説明図である。
【図5】ホットスカーファーの要部断面図である。
【図6】a(mm)を10〜20に設定した場合の、溶削酸素圧力p(kPa)と溶削速度V(mpm)とがスラブ表面品位に及ぼす影響を示すグラフである。
【図7】a(mm)を8に設定した場合の、図6と同様のグラフである。
【図8】a(mm)を24に設定した場合の、図6と同様のグラフである。
【符号の説明】
【0023】
1 アッパーブロック
2 ロアーブロック
3 シュー
4 燃焼ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板用のスラブの表面を、溶削酸素圧力p(kPa)と、溶削速度V(mpm)と、ホットスカーファーのアッパーブロック燃焼ノズル先端との距離a(mm)とが、下記の4つの条件式を満たす範囲でホットスカーファーによる溶削を行い、溶削により発生した溶着地金をスラブ表面から除去することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の線状マーク防止方法。
V≧K√P(Kは139)
p≦250
V≦40
8≦a≦20
【請求項2】
V≧K√Pの条件式中のKを193とすることを特徴とする請求項1記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の線状マーク防止方法。
【請求項3】
C含有率が0.0050質量%以下であるスラブを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の線状マーク防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−214173(P2009−214173A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63632(P2008−63632)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】