説明

合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法および合金化溶融亜鉛めっき鋼板

【課題】プレス成形時の摺動性に優れるとともに、かつ化成処理前に実施するアルカリ系の脱脂処理において良好な脱脂性を示す合金化溶融亜鉛めっき鋼板を安定して製造する方法およびその合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【解決手段】鋼板に溶融亜鉛めっきを施し、さらに加熱処理により合金化し、調質圧延を施した後、酸性溶液に接触させ、接触終了後1〜30秒放置した後、水洗を行うことにより、亜鉛めっき鋼板表面に10nm以上のZn系酸化物層を形成する。以上により、めっき鋼板の平坦部表層における酸化物層の平均厚さが10nm以上であり、かつ、酸化物層がZnおよびPを必須成分として含む合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。なお、前記酸性溶液中のP濃度は0.05〜0.8mol/lであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたプレス成形性を有し、かつ化成処理前に実施するアルカリ系の脱脂処理において良好な脱脂性を示す合金化溶融亜鉛めっき鋼板を安定的に製造する方法及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は亜鉛めっき鋼板と比較して溶接性および塗装性に優れることから、自動車車体用途を中心に広範な分野で広く利用されている。そのような用途での合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、プレス成形を施されて使用に供される。しかし、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、冷延鋼板に比べてプレス成形性が劣るという欠点を有する。これはプレス金型での合金化溶融めっき鋼板の摺動抵抗が冷延鋼板に比べて大きいことが原因である。すなわち、金型とビードでの摺動抵抗が大きい部分で合金化溶融亜鉛めっき鋼板がプレス金型に流入しにくくなり、鋼板の破断が起こりやすい。
【0003】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板に亜鉛めっきを施した後、加熱処理を行い、鋼板中のFeとめっき層中のZnが拡散し合金化反応が生じることにより、Fe−Zn合金相を形成させたものである。このFe−Zn合金相は、通常、Γ相、δ1相、ζ相からなる皮膜であり、Fe濃度が低くなるに従い、すなわち、Γ相→δ1相→ζ相の順で、硬度ならびに融点が低下する傾向がある。このため、摺動性の観点からは、高硬度で、融点が高く凝着の起こりにくい高Fe濃度の皮膜が有効であり、プレス成形性を重視する合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、皮膜中の平均Fe濃度を高めに製造されている。
【0004】
しかしながら、高Fe濃度の皮膜では、めっき−鋼板界面に硬くて脆いΓ相が形成されやすく、加工時に、界面から剥離する現象、いわゆるパウダリングが生じ易い問題を有している。このため、特許文献1に示されているように、摺動性と耐パウダリング性を両立するために、上層に第二層として硬質のFe系合金を電気めっきなどの手法により付与する方法がとられている。
【0005】
亜鉛系めっき鋼板使用時のプレス成形性を向上させる方法としては、この他に、高粘度の潤滑油を塗布する方法が広く用いられている。しかし、この方法では、潤滑油の高粘性のために塗装工程で脱脂不良による塗装欠陥が発生したり、また、プレス時の油切れにより、プレス性能が不安定になる等の問題がある。従って、合金化溶融亜鉛めっき鋼板自身のプレス成形性が改善されることが強く要請されている。
【0006】
上記の問題を解決する方法として、特許文献2および特許文献3には、亜鉛系めっき鋼板の表面に電解処理、浸漬処理、塗布酸化処理、または加熱処理を施すことにより、ZnOを主体とする酸化膜を形成させて溶接性、または加工性を向上させる技術を開示している。
【0007】
特許文献4は、亜鉛系めっき鋼板の表面に、リン酸ナトリウム5〜60 g/lを含みpH2〜6の水溶液にめっき鋼板を浸漬するか、電解処理を行う、または、上記水溶液を塗布することにより、P酸化物を主体とした酸化膜を形成して、プレス成形性及び化成処理性を向上させる技術を開示している。
【0008】
特許文献5は、亜鉛系めっき鋼板の表面に電解処理、浸漬処理、塗布処理、塗布酸化処理、または加熱処理により、Ni酸化物を生成させることにより、プレス成形性および化成処理性を向上させる技術を開示している。
【0009】
しかしながら、上記の先行技術を合金化溶融亜鉛めっき鋼板に適用した場合、プレス成形性の改善効果を安定して得ることはできない。本発明者らは、その原因について詳細な検討を行った結果、合金化溶融めっき鋼板はAl酸化物が存在することにより、表面の反応性が劣ること、及び表面の凹凸が大きいことが原因であることを見出した。即ち、先行技術を合金化溶融めっき鋼板に適用した場合、表面の反応性が低いため、電解処理、浸漬処理、塗布酸化処理及び加熱処理等を行っても、所定の皮膜を表面に形成することは困難であり、反応性の低い部分、すなわち、Al酸化物量が多い部分では膜厚が薄くなってしまう。また、表面の凹凸が大きいため、プレス成型時にプレス金型と直接接触するのは表面の凸部となるが、凸部のうち膜厚の薄い部分と金型との接触部での摺動抵抗が大きくなり、プレス成形性の改善効果が十分には得られない。すなわち、電解処理、浸漬処理、塗布酸化処理及び加熱処理等を行った場合には凸部に潤滑効果を有する皮膜を効率的に形成することが困難であることが明らかとなった。
【0010】
一般的に,合金化溶融亜鉛めっき鋼板は,溶融亜鉛めっき→合金化処理後に調質圧延が施されるが,この調質圧延時にロールとの接触によりつぶされ平坦化された部分は,周囲と比較すると凸部として存在する。プレス成形時に実際にプレス金型と接触するのは、この平坦部が主体となるため、この平坦部における摺動抵抗を小さくすれば、プレス成形性を安定して改善することができる。この平坦部における摺動抵抗を小さくするには、めっき層と金型との凝着を防ぐのが有効であり、そのためには、めっき層の表面に、硬質かつ高融点の皮膜を形成することが有効であり、このような酸化物層の形成には、酸性溶液と接触させてめっき表層に酸化物層を形成する方法が有効なことが明らかになった。
【0011】
特許文献6には、鋼板に溶融亜鉛めっき後、加熱処理により合金化し、さらに調質圧延を施し、鉄−亜鉛合金めっき表面に平坦部を形成した後に、酸性溶液と接触させ、1〜30秒保持し、水洗することで、凸部に潤滑効果を有する皮膜を効率的に形成する合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が提案されている。
【特許文献1】特開平1−319661号公報
【特許文献2】特開昭53−60332号公報
【特許文献3】特開平2−190483号公報
【特許文献4】特開平4−88196号公報
【特許文献5】特開平3−191093号公報
【特許文献6】特開2002−256448公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
一般に、プレス後に施される塗装ラインでは、アルカリ系の脱脂液を用いて脱脂処理が施され、その後、化成処理→電着塗装が行われる。この時、亜鉛めっき鋼板の表面に酸化膜を形成させた鋼板では、脱脂液の流動がほとんど無く脱脂液が劣化している条件では脱脂性に劣る場合があることがわかった。
【0013】
本発明は、かかる事情に鑑み、上記の脱脂性の課題を解決し、プレス成形時の摺動性に優れるとともに、かつ化成処理前に実施するアルカリ系の脱脂処理において良好な脱脂性を示す合金化溶融亜鉛めっき鋼板を安定して製造する方法およびその合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することを目的とする。特に、特許文献6に開示されている、鋼板に溶融亜鉛めっき後、加熱処理により合金化し、さらに調質圧延を施し、鉄−亜鉛合金めっき表面に平坦部を形成した後に、酸性溶液と接触させ、1〜30秒保持し、水洗することで、凸部に潤滑効果を有する皮膜を効率的に形成する技術の脱脂性改善技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、さらに鋭意研究を重ねた。その結果、酸性溶液として、Pを含有させた水溶液を用いることで、Pを含有した酸化物層が鋼板の平坦部表層に形成し、その結果、良好な脱脂性が得られることを見出した。
【0015】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
[1]鋼板に溶融亜鉛めっきを施し、さらに加熱処理により合金化し、調質圧延を施した後、酸性溶液に接触させ、接触終了後1〜30秒放置した後、水洗を行うことにより、亜鉛めっき鋼板表面に10nm以上のZn系酸化物層を形成する合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、前記酸性溶液中にPを含有することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[2]前記[1]において、前記酸性溶液中のP濃度が0.05〜0.8mol/lであることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[3]前記[1]または[2]に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法により生産されるめっき鋼板であり、該めっき鋼板の平坦部表層における酸化物層の平均厚さが10nm以上であり、かつ、酸化物層がZnおよびPを必須成分として含むことを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
[4]前記[3]において、前記酸化物層中のP量が、酸化物層を主として形成している酸化亜鉛との質量比(P/ZnO)で0.001〜0.030であることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、プレス成形時の摺動抵抗が小さく、安定して優れたプレス成形性を示すとともに、化成処理前に実施するアルカリ系の脱脂処理において良好な脱脂性を示す合金化溶融亜鉛めっき鋼板を安定して製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造の際には、鋼板に溶融亜鉛めっきを施した後に、さらに加熱し合金化処理が施されるが、この合金化処理時の鋼板−めっき界面の反応性の差により、合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面には凹凸が存在する。しかしながら、合金化処理後には、通常、材質確保のために調質圧延が施され、この調質圧延時のロールとの接触により、めっき表面は平滑化され凹凸が緩和される。従って、プレス成型時には、金型がめっき表面の凸部を押しつぶすのに必要な力が低下し、摺動特性を向上させることができる。
【0018】
このような合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面が調質圧延などによりつぶされ平坦化された部分(以下、平坦部と称す)は、プレス成形時に金型が直接接触する部分であるため、金型との凝着を防止する硬質かつ高融点の物質が存在することが、摺動性の向上には重要である。この点では、表層に酸化物層を存在させることは、酸化物層が金型との凝着を防止するため、摺動特性の向上に有効である。
【0019】
実際のプレス成形時には、表層の酸化物は摩耗し、削り取られるため、金型と被加工材の接触面積が大きい場合には、十分に厚い酸化物層の存在が必要である。めっき表面には合金化処理時の加熱により酸化物層が形成されているものの、調質圧延時のロールとの接触により大部分が破壊され、新生面が露出しているため、良好な摺動性を得るためには調質圧延以前に厚い酸化物層を形成しなければならない。また、このことを考慮に入れて、調質圧延前に厚い酸化物層を形成させたとしても、調質圧延時に生じる酸化物層の破壊を避けることはできないため、平坦部の酸化物層が不均一に存在し、良好な摺動性を安定して得ることはできない。
【0020】
このため、調質圧延が施された合金化溶融亜鉛めっき鋼板、特にめっき表面平坦部に、均一に酸化物層を形成する処理を施すと良好な摺動性を安定的に得ることができる。
【0021】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板を酸性溶液と接触させ、その後、鋼板表面に酸性溶液の液膜が形成された状態で1〜30秒放置した後水洗、乾燥することによって、めっき表層に酸化物層を形成することができる。しかし、その後、防錆油が塗布されると、化成処理前のアルカリ脱脂工程において脱脂性に劣ることがある。
【0022】
脱脂性に劣るメカニズムについては明確ではないが、次のように考えることができる。前述しためっき表層への酸化物層の形成は、酸性溶液の液膜中へのZnの溶解に伴うpH上昇による水酸化物の沈殿反応を利用しており、形成された酸化物層の一部あるいは全ては、Znの水酸化物であると考えられる。ここで水酸基(‐OH)は、酸化物の最表層に存在し、防錆油中の添加剤との吸着性を増加させることで、鋼板表面の親油性が上昇すると考えられる。一方、アルカリ脱脂液は、主として、防錆油をけん化させ液中に乳化・分散させるアルカリビルダーと、脱脂液の浸透性を向上させる界面活性剤から構成されている。そのため、表面の親油性が高い場合には乳化・分散に長時間を有する。この場合、液の対流が充分であれば、物理的に分散させることが可能であるが、液の対流が充分ではない、所謂静止状態に近い脱脂液では、防錆油成分がかなりの時間残存するため、以降の化成処理において化成ムラを生じる場合がある。
【0023】
よって、良好な脱脂性を得るためには、防錆油を塗布される前のめっき鋼板表面の水酸基と防錆油の添加剤との吸着を阻害することが重要である。この際に、酸化物層にPを含有させることで、鋼板表面の親油性を抑えることができ、脱脂性を改善することができる。このような脱脂性を改善するメカニズムについては明確ではないが、次のように考えることができる。すなわち、亜鉛の水酸化物は、酸化物層の中でも亜鉛が供給される鋼板側に形成し、Pはさらにその表層に存在すると考えられる。つまり、酸化物表面が微量のPで覆われる形で酸化皮膜を形成しており、水酸基と防錆油中の添加剤とが結合するのを防止していると考えられる。
【0024】
以上より、本発明においては、鋼板に溶融亜鉛めっきを施し、さらに加熱処理により合金化し、調質圧延を施した後、酸性溶液に接触させ、接触終了後1〜30秒放置した後、水洗を行うことにより、亜鉛めっき鋼板表面に10nm以上のZn系酸化物層を形成する際に、前記酸性溶液中にPを含有することとする。これは本発明において、最も重要な要件である。
【0025】
この時、酸性溶液中のP濃度は0.05mol/l以上0.8mol/l以下の範囲で含有するのが好ましい。0.05mol/l未満の濃度では、酸化物層中にPを含有させる効果が十分でないためである。より好ましくは0.15mol/l以上である。一方、0.8mol/lを超えた場合、効果が飽和し、薬液コストの増大を招くためだけでなく、後述するように酸化物層中の酸化亜鉛の比率が減少するために摺動特性が劣化するためである。
【0026】
酸性溶液にPを含有させるための化合物については、Pを含む化合物であれば特に限定されない。リン酸、縮合リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、もしくはこれらの塩から選ばれる少なくとも一種のリン化合物を含むものであれば特に限定されるものではないが、具体例を挙げると、オルソリン酸、ピロリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸アルミニウム、次亜リン酸アンモニウム、亜リン酸アンモニウム、リン酸三アンモニウム、等が挙げられる。
【0027】
以上より、本発明のめっき鋼板の平坦部表層にはZnおよびPを必須成分として含む10nm以上酸化物層が得られることになる。
【0028】
なお、前記酸化物層中のP量は、酸化物層を主として形成している酸化亜鉛との質量比として、P/ZnOが0.001以上0.030以下の範囲で含有することが好ましい。0.001未満の場合、脱脂性を改善することが出来ない為である。一方、0.030を超えた場合であっても脱脂性を改善することは出来るが、プレス時の摺動特性に有効である酸化亜鉛の量が減少するため、プレス加工性が劣化するためである。
【0029】
なお、ここで、酸化亜鉛の質量は以下のようにして求めることができる。まず、Arイオンスパッタリングと組み合わせたオージェ電子分光(AES)により酸化物層の平均厚さを求めた。この方法においては、所定厚さまでスパッタした後、測定対象の各元素のスペクトル強度から相対感度因子補正により、その深さでの組成を求めることができる。このうち、酸化物に起因する0の含有率は、ある深さで最大値となった後(これが最表層の場合もある)、減少し、一定となる。0の含有率が最大値より深い位置で、最大値と一定値との和の1/2となる深さを、酸化物の厚さとした。この酸化物の厚さに酸化亜鉛の比重5.47を乗じることにより、酸化亜鉛の質量とした。
【0030】
また、P量は蛍光X線を用いて、試料のPのカウント数と、既知のP質量の標準試料を作成し、標準試料のカウント数を測定して計算することにより、Pの質量を求めた。
【0031】
なお、本発明における酸化物層とは、Znを必須として含んだ酸化物及び/又は水酸化物などからなる層のことである。また、本発明に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するに関しては、めっき浴中にAlが添加されていることが必要であるが、Al以外の添加元素成分は特に限定されない。すなわち、Alの他に、Pb、Sb、Si、Sn、Mg、Mn、Ni、Ti、Li、Cuなどが含有または添加されていても、本発明の効果が損なわれるものではない。
【実施例1】
【0032】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
板厚0.8mmの冷延鋼板上に、常法の合金化溶融亜鉛めっき皮膜を形成し、更に調質圧延を行った。引き続き、図1に示す構成の処理設備を用いて酸化物層を形成した。
【0033】
まず、活性化処理槽1を空通しし、酸性溶液槽2で、酢酸ソーダ40g/l、硫酸第一鉄5g/lを含有するpH1.5の酸性溶液に、液温30℃で浸漬した後、絞りロール3で鋼板表面に液膜を形成した。この際、液膜量が約1g/m2となるように絞りロールの圧力の調整を行った。ここで、酸性溶液槽2においては、Pの濃度を変化させるために、リン酸、リン酸とリン酸ナトリウムの混合溶液、ピロリン酸ナトリウムの濃度を変えた溶液を用いた。
次いで、水洗槽5、6を空通しした後、湯洗槽7で50℃の温水を鋼板にスプレーして洗浄し、ドライヤ8で乾燥し、めっき表面に酸化物層を形成した。なお、比較のために、図1に示す構成の処理設備を全て空通しした無処理のものも作製した。
【0034】
次に、以上の様に作製した鋼板について、プレス成形性を簡易的に評価する手法として摩擦係数の測定、および化成処理前アルカリ脱脂性の評価を実施した。なお、摩擦係数の測定、化成処理前アルカリ脱脂性の評価は次のようにして行った。
【0035】
(1)プレス成形性評価試験(摩擦係数測定試験)
プレス成形性を評価するために、各供試材の摩擦係数を以下のようにして測定した。
【0036】
図2は、摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。同図に示すように、供試材から採取した摩擦係数測定用試料11が試料台12に固定され、試料台12は、水平移動可能なスライドテーブル13の上面に固定されている。スライドテーブル13の下面には、これに接したローラ14を有する上下動可能なスライドテーブル支持台15が設けられ、これを押上げることにより、ビード16による摩擦係数測定用試料11への押付荷重Nを測定するための第1ロードセル17が、スライドテーブル支持台15に取付けられている。上記押付力を作用させた状態でスライドテーブル13を水平方向へ移動させるための摺動抵抗力Fを測定するための第2ロードセル18が、スライドテーブル13の一方の端部に取付けられている。なお、潤滑油として、スギムラ化学社製のプレス用洗浄油プレトンR352Lを試料11の表面に塗布して試験を行った。
【0037】
図3、4は使用したビードの形状・寸法を示す概略斜視図である。ビード16の下面が試料11の表面に押し付けられた状態で摺動する。図3に示すビード16の形状は幅10mm、試料の摺動方向長さ12mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押し付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ3mmの平面を有する。図4に示すビード16の形状は幅10mm、試料の摺動方向長さ69mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押し付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ60mmの平面を有する。
【0038】
摩擦係数測定試験は下に示す2条件で行った。
【0039】
[条件1]
図3に示すビードを用い、押し付け荷重N:400kgf、試料の引き抜き速度(スライドテーブル13の水平移動速度):100cm/minとした。
【0040】
[条件2]
図4に示すビードを用い、押し付け荷重N:400kgf、試料の引き抜き速度(スライドテーブル13の水平移動速度):20cm/minとした。
供試材とビードとの間の摩擦係数μは、式:μ=F/Nで算出した。
【0041】
(2)化成処理前アルカリ脱脂性評価
各供試体に、防錆油を塗油し、垂直に24時間保持することで塗油量を約2g/m2と一定にした後、化成処理前のアルカリ脱脂液(日本パーカライジング製FC-L4460)に45℃で2分間浸漬した後、スプレー圧:1kg/cm2で30秒間水洗を実施した。その後、供試体を垂直に30秒間保持し、その際の水濡れ率(供試体全面積に対する水ハジキが発生していない面積の割合)を目視で判定した。ここで、完全に脱脂が完了した場合の水濡れ率は100%であり、脱脂不良が生じるに伴い水濡れ率は低下する。
なお、アルカリ脱脂液は、経時による処理液の劣化を考慮して、炭酸ガスを吹き込みpHを11.0程度に調整したものを使用し、供試体を浸漬する際には、脱脂液の攪拌・流動は行わず完全静止状態で実施した。
【0042】
以上より得られた試験結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示す試験結果から下記事項が明らかとなった。
(1)No.1の比較例では、酸性溶液による処理を行っていないため、平坦部に摺動性を向上させるのに十分な酸化膜が形成されず、摩擦係数が高い。
(2)No.2は、Pを含有していない酸性溶液で酸化物形成処理を行った比較例であり、No.1と比較すると摩擦係数が低くなっており摺動性は向上しているが、酸性溶液中にPが含有されていないため、アルカリ脱脂後の水濡れ率が非常に低く、アルカリ脱脂性が劣る。
(3)No.3〜7は、酸性溶液中にリン酸を加えた本発明例であり、P濃度が本発明で規定した範囲内にある場合(No.4〜7)は摺動性の向上が見られるとともに、アルカリ脱脂後の水濡れ率が全て100%であり、良好なアルカリ脱脂性を示している。一方、P濃度が低濃度側にはずれる場合(No.3)は、水濡れ率は100%までは改善されていないものの比較材よりも良好であり、アルカリ脱脂液が劣化していない状態では、実用的には充分な水濡れ性を示すと考えられる。
(4)No.8、9は酸性溶液槽2にリン酸とリン酸ナトリウムを加えた本発明例であり、酸化物層のP濃度比であるP/ZnOが本発明に規定した範囲内にある場合(No.8)、摺動性の向上が見られると共にアルカリ脱脂後の水濡れ率が全て100%であり、良好なアルカリ脱脂性を示している。一方、酸化物層のP濃度であるP/ZnOが高い側にはずれる場合(No.9)、摩擦係数が他の発明例と比べるとやや高いものの、比較例よりは良好である。アルカリ脱脂性は他の発明例同様に良好である。
(5)No.10〜13は酸性溶液槽2にピロリン酸を用いた本発明例であるが、溶液中のP濃度、酸化物層のP濃度比(P/ZnO)ともに本発明で規定した範囲内にあり、摺動性の向上と良好なアルカリ脱脂性を示している。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、溶接性および塗装性に優れることから、自動車車体用途を中心に広範な分野で適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例で使用した酸化物層形成処理設備の要部を示す図である。
【図2】摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。
【図3】図2中のビード形状・寸法を示す概略斜視図である。
【図4】図2中のビード形状・寸法を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0047】
1 活性化処理槽
2 酸性溶液槽
3 絞りロール
4 シャワー水洗装置
5 水洗槽
6 水洗槽
7 湯洗槽
8 ドライヤ
S 鋼板
11 摩擦係数測定用試料
12 試料台
13 スライドテーブル
14 ローラ
15 スライドテーブル支持台
16 ビード
17 第1ロードセル
18 第2ロードセル
19 レール
N 押付荷重
F 摺動抵抗力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板に溶融亜鉛めっきを施し、さらに加熱処理により合金化し、調質圧延を施した後、酸性溶液に接触させ、接触終了後1〜30秒放置した後、水洗を行うことにより、亜鉛めっき鋼板表面に10nm以上のZn系酸化物層を形成する合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、前記酸性溶液中にPを含有することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記酸性溶液中のP濃度が0.05〜0.8mol/lであることを特徴とする請求項1に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法により生産されるめっき鋼板であり、該めっき鋼板の平坦部表層における酸化物層の平均厚さが10nm以上であり、かつ、酸化物層がZnおよびPを必須成分として含むことを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
前記酸化物層中のP量が、酸化物層を主として形成している酸化亜鉛との質量比(P/ZnO)で0.001〜0.030であることを特徴とする請求項3に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−119872(P2007−119872A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315638(P2005−315638)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】