説明

合金化溶融亜鉛めっき鋼板及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法

【課題】 本発明は合金化溶融亜鉛めっき鋼板に係り、さらに詳しくは耐溶接スパッタ付着性に格段に優れると同時に優れた加工性を得ることができる合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】 鋼板の片面または両面にAl:0.05〜0.5質量%、Fe:10超〜17質量%、残部がZnおよび不可避的不純物からなり、めっき表面の平坦部の面積率が40〜70%、めっき表面に占めるδ1k相の割合が50〜100%、めっき/鋼板界面のΓ相厚さが0.1〜0.8μmとなることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき層を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に係り、さらに詳しくは耐溶接スパッタ付着性に格段に優れると同時に優れた加工性を得ることができる合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、塗装密着性、塗装耐食性、溶接性などの点に優れることから、自動車用をはじめとして、家電、建材等に非常に多用されている。合金化溶融亜鉛めっき鋼板は鋼板表面に溶融亜鉛をめっきした後、直ちに亜鉛の融点以上の温度に加熱保持して、鋼板中からFeを亜鉛中に拡散させることで、Zn−Fe合金を形成させるものであるが、鋼板の組成や組織によって合金化速度が大きく異なるため、その制御はかなり高度な技術を要する。一方、複雑な形状にプレスされる自動車用鋼板には、非常に高い成形性が要求されるとともに、近年では自動車の防錆性能への要求が高まったことによって、合金化溶融亜鉛めっきが適用されるケースが増加している。
【0003】
自動車車体形状が一段と複雑になるのに従って、鋼板の成形性に対する要求も一段と厳しくなっており、従来にもまして深絞り性等の成形性の優れた鋼板が、合金化溶融亜鉛めっき鋼板にも要求されている。こうした加工性を得るためには、鋼板の成分として、Cを極めて低いレベルにまで低減した上でTiを添加する、あるいはTiとNbを複合添加するTi添加極低炭素IF鋼、あるいはTi−Nb添加極低炭素IF鋼を使用することが一般的である。
【0004】
例えば、特許文献1や特許文献2においては、鋼板の成分、熱延条件、焼鈍条件を規定し、高延性、高r値を持つ鋼板を製造し、その表面に溶融めっきを行う製造方法が開示されている。
【0005】
ただし、成形性向上を目的として固溶C、N量を低下させたこれらの鋼は、溶融亜鉛めっきの合金化における合金化速度が非常に速いために、合金化が進みすぎてΓ相が厚く成長し、パウダリング性能が低下しやすいという課題がある。
【0006】
また、自動車の組み立てにはスポット溶接が多く使用されているが、このスポット溶接を行う際に発生するスパッタが鋼板に付着し、外観不良の原因となるという課題もある。このため自動車の外板等では、溶接工程の後にスパッタ除去工程を設けて付着したスパッタの除去を行っている。また、溶接に先立って溶接部位に塗布することによりスパッタの付着を防止するスパッタ付着防止剤も知られており、特許文献3においては、この防止剤を塗布するスパッタ付着防止剤噴霧装置が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開昭59−74231号公報
【特許文献2】特開昭59−190332号公報
【特許文献3】特開平9−141445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、スパッタ付着防止剤噴霧装置は、設置スペースが無い場合には採用できず、また、スパッタ付着防止剤噴霧装置による生産コスト上昇は避けられない。一方、作業員によるスパッタ付着防止剤の塗布作業は大きな労力を必要とするだけでなく、溶接部位に均一にスパッタ付着防止剤を塗布するには熟練を要し、塗布が不均一であるとスパッタの付着が避けられないという課題がある。
【0009】
しかし、上記及びその他これまで開示された合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、加工性の向上が重視されてきており、耐スパッタ付着性については十分検討されていない。
【0010】
本発明は上記の現状に鑑みて、耐溶接スパッタ付着性に格段に優れると同時に優れた加工性を得ることができる合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は溶融亜鉛めっきラインの生産性および加工性を低下させずに耐スパッタ付着性を向上させる手段を種々検討した結果、めっき表面の平坦部の面積率を最適化することにより、耐スパッタ付着性を著しく向上させることを見出して本発明に至った。さらに、C、P、N等を低減しためっき鋼板のめっき層の相構造を制御し、δ1k相を主体とすることによって、加工性を低下させずに耐スパッタ付着性を著しく向上できることを見出して本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨とするところは、以下のとおりである。
【0013】
(1) 鋼板の片面または両面にAl:0.05〜0.5質量%、Fe:10超〜17質量%、残部がZnおよび不可避的不純物からなり、めっき表面の平坦部の面積率が40〜70%、めっき表面に占めるδ1k相の割合が50〜100%、めっき/鋼板界面のΓ相厚さが0.1〜0.8μmとなることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき層を形成させた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【0014】
(2) 鋼板が質量%で、
C:0.0001〜0.015%、
Si:0.001〜0.45%、
Mn:0.01〜2.8%、
P:0.001〜0.1%、
S:0.015%以下、
Al:0.0005〜0.05%、
Ti:0.002〜0.10%、
N:0.0005〜0.004%、
を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなることを特徴とする前記(1)に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【0015】
(3) 鋼板が付加成分としてさらに、質量%で、Nb:0.002〜0.10%を含有することを特徴とする前記(2)に記載の深絞り性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【0016】
(4) 鋼板が付加成分としてさらに、質量%で、B:0.0002〜0.003%を含有することを特徴とする前記(2)乃至(3)のいずれかに記載の深絞り性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【0017】
(5) 鋼板が付加成分としてさらに、質量%で、Ce、La、Nd、Pr、Smの一種または二種以上を合計で0.0001〜0.01%を含有することを特徴とする前記(2)乃至(4)のいずれかに記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【0018】
(6) 鋼板を溶融亜鉛めっき浴でめっき後、加熱炉出側の板温が530℃超、600℃以下となるように加熱し、10秒以内に400℃まで冷却する合金化処理工程と、合金化処理後のめっき鋼板をワークロール径300〜700mmのロールで伸長率0.5〜2.0%の調質圧延を行う調質圧延工程を有することを特徴とする前記(1)乃至(5)のいずれかに記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明は耐溶接スパッタ付着性と加工性のいずれにも優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することを可能としたものであり、産業の発展に貢献するところが極めて大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において%は、特に明記しない限り、質量%を意味する。
【0021】
本発明は、鋼板の片面または両面にAl:0.05〜0.5%、Fe:10超〜17%、残部がZnおよび不可避的不純物からなり、めっき表面の平坦部の面積率が40〜70%、めっき表面に占めるδ1k相の割合が50〜100%、めっき/鋼板界面のΓ相厚さが0.1〜0.8μmとなることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき層を形成させた合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0022】
本発明において合金化溶融亜鉛めっき層のAl組成を0.05〜0.5%に限定した理由は、0.05%未満では合金化処理時においてZn―Fe合金化が進みすぎ、地鉄界面に脆い合金層が発達しすぎてめっき密着性が劣化するためであり、0.5%を超えるとFe−Al−Zn系バリア層が厚く形成され過ぎ合金化処理時において合金化が進まないため目的とする鉄含有量のめっきが得られないためである。
【0023】
また、Fe組成を10超〜17%に限定した理由は、10%以下だとめっき表面に柔らかいZn−Fe合金が形成されプレス成形性を劣化させるためであり、17%を超えるとめっき/鋼板界面に脆い合金層が発達し過ぎてめっき密着性が劣化するためである。望ましくは、10.5%以上である。
【0024】
さらに本発明においては、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の耐スパッタ付着性を向上させることを目的として、めっき表面の平坦部の面積率を40〜70%とする。溶接スパッタは、接触面積が大きいほど抜熱が早く、付着し難くなるため、平坦部の面積率が大きいほど耐スパッタ付着性が向上する。めっき表面の平坦部の面積率を40%以上とする理由は、平坦部の面積率が40%未満では、接触面積が小さい部分が多くなり、付着するスパッタの数が多くなるためである。平坦部の面積率が大きいほど付着するスパッタの数は少なくなり、耐スパッタ付着性は良好となるが、平坦部の面積率が大きくなると、めっき表面の凹凸が減少するため、油保持性が低下し、摺動性が低下する。従って、加工性を低下させずに耐スパッタ付着性を向上させるため、めっき表面の平坦部の面積率を70%以下とする。特にプレス成形性が厳しい部品に使う場合には、めっき表面の平坦部の面積率を60%以下とすることが望ましい。
【0025】
さらに、めっき層中のAl組成とFe組成を限定するだけでは、加工性、めっき密着性共不十分であり、プレス成形性、特に深絞り性を向上させることを目的として、めっき層表面に占めるδ1k相の割合を50〜100%とする。
【0026】
本発明において、合金化溶融亜鉛めっき層とは、合金化反応によってZnめっき中に鋼中のFeが拡散しできたFe−Zn合金を主体としためっき層のことである。このめっき層は、これまでFeの含有率の違いにより、ζ相、δ1相、Γ1相、Γ相と呼ばれる合金層が形成されることが知られていたが、最近の研究により、δ1相にはさらにδ1p相とδ1k相の2相が存在することが明らかになってきている。
【0027】
本発明においてζ相とは、単斜晶で格子定数がa=13.4Å、b=7.6Å、c=5.06Å、β=127.3である金属間化合物を示す。ζ相の組成は、FeZn13であると考えられる。また、本発明においてδ1p相とは、六方晶で格子定数がa=12.8Å、c=57.4Åである金属間化合物を、δ1k相とは、δ1p相の3倍周期の格子定数を持つ金属間化合物を示す。いずれの金属間化合物も組成はFeZn7であると考えられる。また、本発明においてΓ1相とは、面心立方晶で格子定数がa=17.96Åである金属間化合物を示す。Γ1相の組成は、Fe5Zn21またはFeZn4であると考えられる。また、本発明においてΓ相とは、体心立方晶で格子定数がa=8.97Åである金属間化合物を示す。Γ相の組成は、Fe3Zn10であると考えられる。
【0028】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板の相構造は、鋼板側から、Γ相、Γ1相、δ1k相、δ1p相、ζ相の順にFe−Zn金属間化合物が形成されるが、後述するように合金化条件によっては、δ1p相やζ相ができないこともある。
【0029】
このうち、δ1k相は合金化溶融亜鉛めっき鋼板の深絞り性を著しく向上させるため、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の深絞り性向上を目的として、めっき層表面に占めるδ1k相の割合を50〜100%とする。めっき層表面に占めるδ1k相の割合を50〜100%に限定した理由は、50%以上で深絞り性を向上させる効果が顕著であるためである。
【0030】
めっき層の相構造をδ1k相とすることで深絞り性が向上する理由は、めっきの硬度が高くなることにより、しわ抑え部から縦壁部への流入抵抗が小さくなるためであると考えられる。めっき層の相構造をδ1k相とすることで深絞り性は10〜20%向上するため、深絞り性の良好な鋼板のめっき層をδ1k相とすると、その相乗効果で合金化溶融亜鉛めっき鋼板の深絞り性は著しく向上する。そのため、r値が高い鋼板にδ1k相を主体とした合金化溶融亜鉛めっきを生成させることが好ましい。
【0031】
さらに、δ1k相はδ1p相、ζ相より融点が高く、スパッタ付着時にめっきの溶解が起こり難いため、深絞り性の向上だけでなく、耐スパッタ付着性向上に対しても相乗効果が得られる。
【0032】
ただし、このような深絞り性の良好な鋼板は、溶融亜鉛めっきの合金化における合金化速度が非常に速いために、合金化が進みすぎてΓ相が厚く成長し、パウダリング性能が低下しやすいという課題がある。これを防止する目的で、めっき/鋼板界面のΓ相厚さを0.8μm以下とする。Γ相厚さは薄いほどめっき密着性は良好ではあるが、めっき層の相構造をδ1k相としたままΓ相厚さを0.1μm未満に低減するためにはコストが多大になるため、下限厚さは0.1μmとする。特に成形の厳しい部品では、Γ相厚さは0.1〜0.5μmが好ましい。
【0033】
下地の鋼板としては、熱延鋼板、冷延鋼板共に使用でき、何れの鋼板においてもめっき表面の平坦部の面積率を40〜70%とすることにより、耐スパッタ付着性を向上でき、さらにめっき層表面に占めるδ1k相の割合高いめっき層を形成させることにより深絞り性を向上させることができるが、特に自動車用外板に使用する場合、プレス成形性の良好な極低炭素鋼板を使用することが望ましい。
【0034】
具体的には、質量%で、C:0.0001〜0.015%、Si:0.001〜0.45%、Mn:0.01〜2.8%、P:0.001〜0.1%、S:0.015%以下、Al:0.0005〜0.05%、Ti:0.002〜0.10%、N:0.0005〜0.004%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼板である。
【0035】
本発明において各成分の範囲を限定した理由は以下の通りである。
【0036】
C:Cは鋼の強度を高める元素であって、過剰に含有すると強度が上昇しすぎて加工性が低下するので上限含有量は0.015%とする。Cが少ないほど加工性は良好であるが、0.0001%未満とするためには精練コストが多大となるので下限含有量は0.0001%とする。
【0037】
Si:Siも鋼の強度を向上させる元素であって、過剰に含有すると加工性および溶融亜鉛めっき性を損なうので、上限は0.45%とする。ただし、0.001%以上未満とするためには精練コストが多大となるので下限含有量は0.001%とする。
【0038】
Mn:Mnも鋼の強度を高める一方で加工性を低下させる元素であるので、上限含有量は2.8%とする。Mnが少ないほど加工性は良好であるが、0.01%以下とするためには精練コストが多大となるので下限含有量は0.01%とする。
【0039】
P:Pも鋼の強度を高める一方で加工性を低下させる元素であるので、上限含有量は0.1%とする。一方、P含有量を0.001%未満に低減するためには精練コストが多大となるので、下限含有量は0.001%とする。
【0040】
S:Sは鋼の熱間加工性、耐食性を低下させる元素であるから少ないほど好ましく、上限含有量は0.015%とし、より好ましくは0.010%以下とする。但し、本発明のような極低炭素鋼のS量を低減するためにはコストがかかるので、加工性およびめっき密着性の観点からはSを過度に低減する必要はなく、熱間加工性、耐食性等から必要なレベルにまでSを低減すれば良い。
【0041】
Al:Alは鋼の脱酸元素として0.0005%以上を含有させることが必要であるが、過剰に含有させると粗大な金属間化合物を生成して加工性を損なうので、上限含有量は0.05%とする。
【0042】
Ti:鋼中のCおよびNを炭化物、窒化物として固定するために、0.002%以上の添加が必要であり、0.010%以上含有させるとより好ましい。一方、0.10%を超えて添加してももはやその効果は飽和しているのに対して、いたずらに合金添加コストが上昇するだけであるので、上限含有量は0.10%とする。過剰な固溶Tiは鋼板の加工性および表面品質を損なう場合があるので、0.050%以下とするとより好ましい。
【0043】
N:Nは鋼の強度を上昇させる一方で加工性を低下させるので上限は0.004%とし、特に高い加工性を必要とする場合には0.003%以下とすることがより好ましく、0.002%以下とするとさらに好ましい。Nはより少ないほど好ましいが、0.0005%未満に低減することは過剰なコストを要するので、下限含有量は0.0005%とする。
【0044】
本発明では上記に加えて、さらに付加成分として、鋼中のCおよびNを炭化物、窒化物として固定するために、前記のTi添加のもとでNbを添加することができるが、Nb添加によるC、N固定効果を充分発揮させるためには0.002%以上の添加が必要であり、0.005%以上とするとより好ましい。Nbを、0.10%を超えて添加しても、もはやその効果は飽和している一方、いたずらにコストが上昇するだけであるので、上限含有量は0.10%とする。過剰なNb添加は鋼板の再結晶温度を上昇させ、溶融亜鉛めっきラインの生産性を低下させるので、0.050%以下とするとより好ましい。
【0045】
本発明においてはさらに、鋼板に付加成分として、Bを0.0002〜0.003%含有させることができるが、これは2次加工性の改善を目的としている。Bの含有量が0.0002%未満では2次加工性改善効果が充分ではなく、0.003%を超えて添加してももはやその効果は飽和しているのに加えて、成形性が低下するので、Bを添加する場合にはその範囲は0.0002〜0.003%とする。特に高い深絞り性を必要とする場合には、Bの添加量は0.0015%以下とするとより好ましい。
【0046】
本発明においてはさらに、鋼板に付加成分として、Ce、La、Nd、Pr、Smの一種または二種以上を合計で0.0001〜0.01%添加することができる。これは、筋模様等の表面欠陥の発生を抑制し、良好な外観を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることを目的としている。Ce、La、Nd、Pr、Smの一種または二種以上の添加量は、筋模様欠陥の発生を抑制する目的から0.0001%以上必要である。ただし、0.01%を超えるとコスト高となるばかりか、これらの金属の酸化物が鋼板中の介在物となり、プレス加工後の表面欠陥の原因となりやすくなるため添加量は合計で0.01%以下とする。
【0047】
なお、特に加工性が必要な場合は、C:0.0001〜0.004%、Si:0.001〜0.10%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.001〜0.015%とすることが望ましい。
【0048】
本発明においては、さらに鋼板の成形性、加工性を一段と高くする場合には、Tiの含有量が下記(1)式を満足する範囲とする。
[%Ti]≧4[%C]+3.4[%N]+1.5[%S] ・ ・ ・ (1)
【0049】
これは、Ti含有量を上記の範囲とすると、加工性を阻害する元素であるCおよびNをTiで有効に固定し、鋼板の加工性を高めることができるからである。あるいは、TiおよびNbの含有量を下記(2)式および(3)式を満足する範囲とする。
([%Ti]+0.52[%Nb])≧4[%C]+3.4[%N]+1.5[%S]
・ ・ ・ (2)
[%Ti]≧0.009% ・ ・ ・ (3)
【0050】
これは、TiおよびNbの含有量を上記の範囲とすると、加工性を阻害する元素であるCおよびNをTiとNbの複合効果で有効に固定し、鋼板の加工性を高めることができるからであるが、Nb単独の添加ではかかる加工性向上効果は充分ではなく、Ti含有量が0.009%以上である場合にTiとNbの複合添加効果が顕著となり、この場合においてTiおよびNbの含有量が(2)式を満足すると、CおよびNをTiとNbとで有効に固定することができる。
【0051】
一方、高い加工性を保持しつつ、300MPa以上の引張強度を付与するためには、C:0.0001〜0.015%、Si:0.001〜0.45%、Mn:0.20%以上、P:0.02%以上とすることが望ましい。
【0052】
Mnの含有量を0.2%以上とする理由は、Mnが0.2%未満では必要とする引張強さの確保が困難であるためである。更に望ましくは、強度、加工性とコストのバランスから0.2〜1.5%である。
【0053】
Pの含有量を0.02%以上とする理由は、Pが0.02%未満では必要とする引張強さの確保が困難であるためである。更に望ましくは、強度、加工性とコストのバランスから0.02〜0.1%である。
【0054】
次に、製造条件の限定理由について述べる。本発明において、Al:0.05〜0.5質量%、Fe:10〜17質量%、残部がZnおよび不可避的不純物からなり、表面に占めるδ1k相の割合が50〜100%、めっき/鋼板界面のΓ相厚さが0.1〜0.8μmとなることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき層を形成させるためには、めっき後、加熱炉出側の板温が530℃超、600℃以下となるように加熱し、10秒以内に400℃まで冷却する方法が有効である。
【0055】
深絞り性の良好な鋼板は、溶融亜鉛めっきの合金化における合金化速度が非常に速いために、合金化は、これまで530℃以下の低温で行われてきた。しかし、めっき層表面をδ1k相とするためには、図1に示す状態図から解るように合金化温度を530℃超とし、δ1k+Lの2相域で合金化する必要がある。530℃以下で合金化すると合金層はζ相またはδ1p相が初晶となる。初晶がζ相またはδ1p相であってもそのまま高温で保持を続けると鋼中からFeが拡散し、いずれはδ1k相へ変態するが、同時にΓ相も成長するため、パウダリング性能が著しく低下する。従って、530℃以下で合金化した場合、表面に占めるδ1k相の割合が50〜100%、めっき/鋼板界面のΓ相厚さが0.1〜0.8μmとなることを両立することができない。
【0056】
また、δ1k+Lの2相域は530〜665℃であるが、合金化温度が高すぎるとδ1k相形成後すぐにめっき/鋼板界面にΓ相が成長し、パウダリング性能が低下するため、合金化温度の上限は600℃とする。
【0057】
さらに、合金化後、高温で保持を続けると鋼中からFeが拡散し、Γ相が成長して、パウダリング性能が著しく低下するため、合金化温度が530〜600℃に到達後、10秒以内に400℃まで冷却する。
【0058】
つまり、めっき後、加熱炉出側の板温が530℃超、600℃以下となるように加熱し、10秒以内に400℃まで冷却することにより、表面に占めるδ1k相の割合が50〜100%、めっき/鋼板界面のΓ相厚さが0.1〜0.8μmとなることを両立することが可能となる。特に成形の厳しい部品では、Γ相厚さが0.1〜0.5μmとするために、加熱炉出側の板温が530℃超、570℃以下となるように加熱し、10秒以内に400℃まで冷却することが好ましい。
【0059】
また、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造において、用いる溶融亜鉛めっき浴はAl濃度が浴中有効Al濃度で0.10〜0.15mass%に調整することが好ましい。ここでめっき浴中の有効Al濃度とは、浴中Al濃度から浴中Fe濃度を差し引いた値である。
【0060】
有効Al濃度が0.10%よりも低い場合には、めっき初期の合金化バリアとなるFe−Al−Zn相の形成が不十分となり、合金化温度が530℃に達する前に合金化が終了するため、表面に占めるδ1k相の割合が50〜100%、めっき/鋼板界面のΓ相厚さが0.1〜0.8μmとなることを両立することができない。一方、有効Al濃度が0.15%よりも高い場合には、高温長時間の合金化が必要となるため、ライン速度を低下させる等、めっきラインの生産性を低下させ、コストを上昇させる必要が生じる。
【0061】
また、本発明において、めっき表面の平坦部の面積率が40〜70%となることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき層を形成させるためには、合金化処理後、ワークロール径300〜700mmのロールで伸長率0.5〜2.0%の調質圧延を行う方法が有効である。
【0062】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、ストレッチャーストレインの発生を抑制する目的で、調質圧延が行われる。この調質圧延時、めっき表面は圧延ロールによる圧縮変形を受け、平坦部が形成される。めっき表面の平坦部の面積率を40%以上とするためには、ワークロール径700mm以下のロールで伸長率0.5%以上の調質圧延を行うことが望ましい。
【0063】
平坦部の面積率は、単位面積あたりの圧下量で決まるため、ワークロール径が700mmを超えると目的とする面積率を得られない。ワークロール径が小さくなるほど、単位面積あたりの圧下量が大きくなり、同じ圧下率でもより大きな面積率が得られるようになるため、ワークロール径は小さいほど望ましく、600mm以下だとさらに望ましい。
【0064】
同様に伸長率(調質圧延では、板厚の精度を良くするため圧下率の変わりに伸長率を加工度として使用する)は、平坦部の面積率を40%以上とする目的で、0.5%以上とする。
【0065】
一方、ワークロール径(2R)と鋼帯の板厚(t)との比2R/tが400未満では、十分な形状が得られないため、ワークロール径は300mm以上とする。
【0066】
また、伸長率が高すぎると、材質が悪化するため、伸長率は2.0%以下とする。
【0067】
その他の製造方法は、目的に応じて公知の製造方法と同様の方法を使用すれば良い。
【0068】
本発明では鋼板中のOは特に限定しないが、Oは酸化物系介在物を生成して鋼の加工性や耐食性を損なうので、0.004%以下とすることが望ましく、少ないほど好ましい。
【0069】
本発明の鋼板には上記の成分の他に、鋼板自体の耐食性や熱間加工性を一段と改善する目的で、あるいはスクラップ等副原料からの不可避不純物として、他の合金元素を含有することも可能であり、他の合金元素を含有したとしても本発明の範囲を逸脱するものではない。かかる合金元素として、Cu、Ni、Cr、Mo、W、Co、Ca、希土類元素(Yを含む)、V、Zr、Ta、Hf、Pb、Sn、Zn、Mg、Ta、As、Sb、Biが挙げられる。
【0070】
本発明鋼板は、通常の溶融亜鉛めっき鋼板製造ラインに適用して、加工性・成形性とめっき密着性の優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができるので、製造プロセスに対する制約は特に無い.コスト、生産性を考慮して、適宜プロセスを選択すれば良い。
【0071】
本発明鋼板は、溶融亜鉛めっき浴中あるいは亜鉛めっき中にPb、Sb、Si、Fe、Sn、Mg、Mn、Ni、Cr、Co、Ca、Cu、Li、Ti、Be、Bi、希土類元素の1種または2種以上を含有、あるいは混入してあっても本発明の効果を損なわず、その量によっては耐食性が改善される等好ましい場合もある。合金化溶融亜鉛めっきの付着量については特に制約は設けないが、耐食性の観点から20g/m2以上、経済性の観点から150g/m2以下で有ることが望ましい。また、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の粗度についても特に制約は設けないが、油保持性の観点から、中心線平均粗さRa(JIS B0601規格)が0.5〜1.5μm、PPI(1インチあたりに含まれる1.27μm以上の大きさのピークの数、SAE、J911規格)が150〜300で有ることが望ましい。
【0072】
本発明において、めっき鋼板の製造方法については特に限定するところはなく、通常の無酸化炉方式やオールラジアント方式の溶融めっき法が適用できる。
【0073】
また、本発明において鋼板の板厚は本発明に何ら制約をもたらすものではなく、通常用いられている板厚であれば本発明を適用することが可能である。さらに、本発明鋼板は通常のプロセスで製造される冷延鋼板、熱延鋼板のいずれであってもその効果は充分に発揮されるものであり、鋼板の履歴によって効果が大きく変化するものではない。また、熱間圧延条件、冷間圧延条件、焼鈍条件等は鋼板の寸法、必要とする強度に応じて所定の条件を選択すれば良く、熱間圧延条件、冷間圧延条件、焼鈍条件等によって本発明鋼板の効果が損なわれるものではない。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
【0075】
表1の組成からなるスラブを1150℃に加熱し、仕上温度910〜930℃で4mmの熱間圧延鋼帯とし、680〜720℃で巻き取った。酸洗後、冷間圧延を施して0.8mmの冷間圧延鋼帯とした後、ライン内焼鈍方式の連続溶融亜鉛めっき設備を用い、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。めっきに際しては、焼鈍雰囲気は5%水素+95%窒素混合ガスとし、焼鈍温度は800〜840℃、焼鈍時間は90秒とした。溶融亜鉛浴は浴中有効Al濃度0.102%のめっき浴を使用し、ガスワイパーで亜鉛の目付量を50g/m2に調整した。合金化の加熱は誘導加熱方式の加熱設備を使用し、530〜550℃で合金化を行った。調質圧延は、ワークロール径480mmのロールを使用し、表2に示す伸長率で圧延を行った。
【0076】
めっき中のFe%、Al%は、めっきをインヒビター入りの塩酸で溶解し、ICPにより測定して求めた。
【0077】
めっき層表面の各合金相の割合は、FIBμ−サンプリング法を用いて断面試料を作製し、FE−TEMで電子線回折パターン解析を行い測定した。断面試料は任意の場所から5点サンプリングした。各試料のめっき表層からそれぞれ2点の相構造を測定し、計10点の測定データを使用してめっき層表面の各合金相の割合を求めた。相構造の同定解析は、単斜晶で格子定数がa=13.4Å、b=7.6Å、c=5.06Å、β=127.3であったものをζ相、六方晶で格子定数がa=12.8Å、c=57.4Åであったものをδ1p相、δ1p相の3倍周期が観察されるものをδ1k相として行った。
【0078】
めっき層中のΓ相の厚さは、埋め込み研磨した断面試料のΓ相をナイタールでエッチングし、SEMを使用して測定した。Γ相厚みの測定は、任意の場所から5点行い、その値を平均した。
【0079】
めっき表面の平坦部の面積率は、めっき表面をSEMで撮影し、画像処理装置により、調質圧延で平坦となった部分の面積率を測定して求めた。SEMは任意の場所から500×400μmの範囲を5ヶ所撮影し、その面積率の平均値を代表値とした。
【0080】
耐溶接スパッタ付着性は、以下の溶接条件でスポット溶接を行った試験片からサンプルに向かって溶接スパッタを飛散させ、付着したスパッタの状態を評価した。サンプルは他の要因を廃するため、試験前にアルカリ脱脂を行って使用した。溶接スパッタを発生させる試験片には、板厚0.8mmの軟鋼を使用した。スポット溶接は、試験片端面から2mm内側に電極の円周部が当たるように試験片をセットすることによって、スパッタが狙った方向へ発生するようにした。
溶接条件
加圧力:200kgf
通電時間:10cyc
初期加圧時間:35cyc
保持時間:1cyc
電流値:スパッタ発生限界電流+1kA
電極−サンプル間距離:150mm
【0081】
耐溶接スパッタ付着性は、冷延鋼板のスパッタ付着量を基準にし、以下の分類で評価し、×を不合格とした。
◎:スパッタ付着量が冷延鋼板の2倍以下のもの
○:スパッタ付着量が冷延鋼板の2倍を超え、6倍以下のもの
△:スパッタ付着量が冷延鋼板の6倍を超え、16倍以下のもの
×:スパッタ付着量が冷延鋼板の16倍を超えるもの
【0082】
摺動性は、肩Rが1mmRの角ビード(凸部は4×4mm)を使用して引き抜き試験を行い、その時の見かけの摩擦係数を使用して評価した。引き抜き試験は、防錆油を1g/m2塗油した、幅30mm長さ300mmのサンプルをビード金型で挟んだ後、10〜15kNで押し付け加重を変化させて引き抜き、その時の引き抜き荷重を測定した。測定した押し付け加重と引き抜き荷重をそれぞれ横軸と縦軸にとったときの一次関数の比(Δ引き抜き荷重/Δ押し付け加重)を見かけの摩擦係数とし、見かけの摩擦係数が0.3以下のものを合格とした。
【0083】
結果を表2−1および表2−2にあわせて示す。番号1、7、13、19、25、31、37、43、49、55、61、67、73、79は平坦部の面積率が本発明の範囲外であるため、耐溶接スパッタ付着性が本発明の鋼板より劣っていた。番号6、12、18、24、30、36、42、48、54、60、66、72、78、84は平坦部の面積率が本発明の範囲外であるため、摺動性が本発明の鋼板より劣っていた。また、番号6、12、18、24、30、36、42、48、54、60、66、72、78、84は伸長率が大きすぎるためYS/TSが0.66以上となり、材質が低下していた。
【0084】
これら以外の本発明品は、優れた耐溶接スパッタ付着性と加工性が両立し、自動車用外板として使用可能な合金化溶融亜鉛めっき鋼板であった。
(実施例2)
【0085】
表1の組成からなるスラブを1150℃に加熱し、仕上温度910〜930℃で4mmの熱間圧延鋼帯とし、680〜720℃で巻き取った。酸洗後、冷間圧延を施して0.8mmの冷間圧延鋼帯とした後、ライン内焼鈍方式の連続溶融亜鉛めっき設備を用い、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。めっきに際しては、焼鈍雰囲気は5%水素+95%窒素混合ガスとし、焼鈍温度は800〜840℃、焼鈍時間は90秒とした。溶融亜鉛浴は浴中有効Al濃度0.102%のめっき浴を使用し、ガスワイパーで亜鉛の目付量を50g/m2に調整した。合金化の加熱は誘導加熱方式の加熱設備を使用し、表3に示す条件で合金化を行った。調質圧延は、ワークロール径480mmのロールを使用し、伸長率0.8%で圧延を行った。
【0086】
めっき中のFe%、Al%は、めっきをインヒビター入りの塩酸で溶解し、ICPにより測定して求めた。
【0087】
めっき層表面の各合金相の割合は、FIBμ−サンプリング法を用いて断面試料を作製し、FE−TEMで電子線回折パターン解析を行い測定した。断面試料は任意の場所から5点サンプリングした。各試料のめっき表層からそれぞれ2点の相構造を測定し、計10点の測定データを使用してめっき層表面の各合金相の割合を求めた。相構造の同定解析は、単斜晶で格子定数がa=13.4Å、b=7.6Å、c=5.06Å、β=127.3であったものをζ相、六方晶で格子定数がa=12.8Å、c=57.4Åであったものをδ1p相、δ1p相の3倍周期が観察されるものをδ1k相として行った。
【0088】
めっき層中のΓ相の厚さは、埋め込み研磨した断面試料のΓ相をナイタールでエッチングし、SEMを使用して測定した。Γ相厚みの測定は、任意の場所から5点行い、その値を平均した。
【0089】
また、加工性の指標として、各合金化溶融亜鉛めっき用鋼板の引張試験を行ない、強度、伸び、及びランクフォード値(r値;0゜、45゜、90゜の平均r値)を測定した。
【0090】
深絞り性は、以下の条件のTZP試験を行い、T値が0となるブランク径を限界絞り比(LDR)として評価した。
ブランク径(D0):φ90 〜φ125mm
工具サイズ:
ポンチ径(D0)φ50mm、肩r:5mm
ダイ穴径 φ51.6mm、肩r:5mm
BHF:
成形荷重(P)測定時 5kN
破断荷重(Pf)測定時 100kN
潤滑油 : 防錆油
評価値 成形余裕度 T値=(Pf−P)/Pf
【0091】
めっき密着性は、以下の条件の角筒絞り試験を行い、試験前後の質量差から剥離しためっきの質量を測定し評価した。
角筒絞り試験条件
ブランクサイズ:150×110mm
ポンチ寸法:80×40mm
ポンチ肩r:5mm
ダイス肩r:5mm
成形深さ:25mm
【0092】
密着性は、以下の分類で評価し、×を不合格とした。
◎:めっき層の剥離量が50mg以下のもの
○:めっき層の剥離量が50mgを超え、150mg以下のもの
△:めっき層の剥離量が150mgを超え、300mg以下のもの
×:めっき層の剥離量が300mgを超えるもの
【0093】
めっき表面の平坦部の面積率は、めっき表面をSEMで撮影し、画像処理装置により、調質圧延で平坦となった部分の面積率を測定して求めた。SEMは任意の場所から500×400μmの範囲を5ヶ所撮影し、その面積率の平均値を代表値とした。
【0094】
耐溶接スパッタ付着性は、以下の溶接条件でスポット溶接を行った試験片からサンプルに向かって溶接スパッタを飛散させ、付着したスパッタの状態を評価した。サンプルは他の要因を廃するため、試験前にアルカリ脱脂を行って使用した。溶接スパッタを発生させる試験片には、板厚0.8mmの軟鋼を使用した。スポット溶接は、試験片端面から2mm内側に電極の円周部が当たるように試験片をセットすることによって、スパッタが狙った方向へ発生するようにした。
溶接条件
加圧力:200kgf
通電時間:10cyc
初期加圧時間:35cyc
保持時間:1cyc
電流値:スパッタ発生限界電流+1kA
電極−サンプル間距離:150mm
【0095】
耐溶接スパッタ付着性は、冷延鋼板のスパッタ付着量を基準にし、以下の分類で評価し、×を不合格とした。
◎:スパッタ付着量が冷延鋼板の2倍以下のもの
○:スパッタ付着量が冷延鋼板の2倍を超え、6倍以下のもの
△:スパッタ付着量が冷延鋼板の6倍を超え、16倍以下のもの
×:スパッタ付着量が冷延鋼板の16倍を超えるもの
【0096】
結果を表3にあわせて示す。番号1、2、9、10、17、18、25、26は合金化温度が低いため、めっき表層にδ1k相が形成されていない合金化溶融亜鉛めっき用鋼板の例である。番号3、11、19、27は、めっき表層にδ1k相を形成することを目的に、低温長時間合金化したため、Γ相厚が本発明の範囲外となり、めっき密着性が不合格となった。番号6、14、22、30は、合金化温度到達後400℃となるまでの時間が長いため、Γ相厚が本発明の範囲外となり、めっき密着性が不合格となった。
【0097】
これら以外の本発明品は、優れた深絞り性と高いめっき密着性が両立し、自動車用外板として使用可能な合金化溶融亜鉛めっき鋼板であった。めっき層表面に占めるδ1k相の割合を50〜100%とした本発明品は、めっき表層にδ1k相が形成されていない比較例に比べ、LDRの値が0.1〜0.2向上する。表3の結果を比較して解るように、これは、r値を0.2〜0.4向上させたことと同等の深絞り性向上効果であった。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2−1】

【0100】
【表2−2】

【0101】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】Fe−Zn2元状態図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の片面または両面にAl:0.05〜0.5質量%、Fe:10超〜17質量%、残部がZnおよび不可避的不純物からなり、めっき表面の平坦部の面積率が40〜70%、めっき表面に占めるδ1k相の割合が50〜100%、めっき/鋼板界面のΓ相厚さが0.1〜0.8μmとなることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき層を形成させた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
鋼板が質量%で、
C:0.0001〜0.015%、
Si:0.001〜0.45%、
Mn:0.01〜2.8%、
P:0.001〜0.1%、
S:0.015%以下、
Al:0.0005〜0.05%、
Ti:0.002〜0.10%、
N:0.0005〜0.004%、
を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなることを特徴とする請求項1に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
鋼板が付加成分としてさらに、質量%で、Nb:0.002〜0.10%を含有することを特徴とする請求項2に記載の深絞り性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
鋼板が付加成分としてさらに、質量%で、B:0.0002〜0.003%を含有することを特徴とする請求項2乃至3のいずれかに記載の深絞り性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
鋼板が付加成分としてさらに、質量%で、Ce、La、Nd、Pr、Smの一種または二種以上を合計で0.0001〜0.01%を含有することを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
鋼板を溶融亜鉛めっき浴でめっき後、加熱炉出側の板温が530℃超、600℃以下となるように加熱し、10秒以内に400℃まで冷却する合金化処理工程と、合金化処理後のめっき鋼板をワークロール径300〜700mmのロールで伸長率0.5〜2.0%の調質圧延を行う調質圧延工程を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−77480(P2010−77480A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246137(P2008−246137)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】