説明

吉草酸酢酸プレドニゾロンを含有するO/W型乳化製剤

【課題】吉草酸酢酸プレドニゾロンを含有する安定なO/W型乳化製剤、及び吉草酸酢酸プレドニゾロンを含有するO/W型乳化製剤の分離抑制剤を提供すること。
【解決手段】ヘパリン類似物質及び吉草酸酢酸プレドニゾロンを含有するO/W型乳化製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吉草酸酢酸プレドニゾロンを含有するO/W型乳化製剤、及びその分離抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
副腎皮質ホルモンである吉草酸酢酸プレドニゾロンは、ステロイドの効力ランク分類でランクIII(strong)に分類され、患部で優れた抗炎症作用を示す一方、体内で低活性物質に変わる安全性の高い薬剤であり、湿疹、皮膚炎、かぶれ、虫さされ、かゆみ、あせも、じんましん等の治療薬として広く利用されている。
【0003】
吉草酸酢酸プレドニゾロンを含有する外用剤として軟膏、クリーム及び乳液が知られている。特に、ワセリンを配合した吉草酸酢酸プレドニゾロンを含有するO/W型乳化製剤は、軟膏やW/O型乳化製剤と比較し、べたつき感が少なく、使用感が高い製剤として広く医療用医薬品から大衆薬まで市販されている。しかしながら、吉草酸酢酸プレドニゾロンを含有するO/W型乳化製剤は、特に高温環境下において、乳化系が不安定になりやすく、経時的に分離し、外観安定性が悪いという問題点があった。
【0004】
一般的にO/W型乳化製剤の乳化系を安定させる方法として、ヒドロキシエチルセルロースなどの水溶性高分子を配合し、粘性を増加させて分離を抑制させる方法が知られているが、吉草酸酢酸プレドニゾロンを含有するO/W型乳化製剤ではヒドロキシエチルセルロースなどの水溶性高分子を配合しても、分離抑制作用を示さなかった。
【0005】
ムコ多糖の多硫酸エステルであるヘパリン類似物質は、すぐれた保湿作用に加えて、抗炎症、血行促進作用を有し、医薬品として利用されている。また、ヘパリン類似物質がステロイド系抗炎症剤の経皮吸収促進作用を有することが知られており(特許文献1)、更に皮膚科領域においては、ヘパリノイド軟膏が保湿作用を併せ持つことから、副腎ステロイド軟膏剤とヘパリノイド軟膏の混合製剤がアトピー性皮膚炎を含めた乾燥性湿疹の治療に用いられることが多くなっている。
【0006】
しかしながら、これらの先行技術には、ヘパリン類似物質による吉草酸酢酸プレドニゾロンを含有するO/W型乳化製剤の分離抑制作用について全く記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−212021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、分離が抑制された吉草酸酢酸プレドニゾロンを含有する安定なO/W型乳化製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み鋭意研究した結果、従来血行促進作用や保湿作用を有することが知られていたヘパリン類似物質が、吉草酸酢酸プレドニゾロンを含有するO/W型乳化製剤の、特に高温環境下における経時的な分離を抑制し、外観安定性の良い状態を維持できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、ヘパリン類似物質及び吉草酸酢酸プレドニゾロンを含有するO/W型乳化製剤を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、ヘパリン類似物質を有効成分とする、吉草酸酢酸プレドニゾロンを含有するO/W型乳化製剤の分離抑制剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、保湿性及び使用感に優れ、特に高温環境下において経時的な分離が生じにくい、外観安定性の良い吉草酸酢酸プレドニゾロンを含有するO/W型乳化製剤を提供することができる。本発明の分離抑制剤を用いれば、吉草酸酢酸プレドニゾロンを含有するO/W型乳化製剤の特に高温環境下における経時的な分離を防ぎ、外観安定性の良い製剤を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に用いられるヘパリン類似物質は、ムコ多糖の多硫酸エステルであり、特に日本薬局方外医薬品規格に収載されたものが好ましい。ヘパリン類似物質は、ムコ多糖を硫酸化することにより得ることもできるし、ウシなどの動物の気管支を含む内臓より水性担体を用いて抽出・精製し得ることもできる。ヘパリン類似物質は既に医薬・化粧品原料として開発されているため、このような市販品を利用することもできる。その配合量としては、本発明のO/W型乳化製剤の全質量に対し0.01〜1質量%、特に0.1〜0.5質量%が好ましい。
【0014】
本発明に用いられる吉草酸酢酸プレドニゾロンの配合量は、本発明のO/W型乳化製剤の全質量に対し0.01〜1質量%、特に0.05〜0.5質量%が好ましい。
【0015】
本発明におけるO/W型乳化製剤の剤形としては、クリーム剤及び乳液が挙げられる。 本発明のO/W型乳化製剤に使用される油分としては、医薬品、化粧品等の分野において通常用いられる油溶性の物質であれば特に限定することはないが、例えば、炭化水素、油脂類、ロウ類、脂肪酸、高級アルコール、エステル類油等が挙げられ、特に炭化水素が好ましく、その具体例としては流動パラフィン、ワセリン、スクワラン等が挙げられ、本発明のO/W型乳化製剤の保湿性、使用感の観点から特にワセリンが好ましい。本発明は、分離の生じやすいワセリンを油分として含有するO/W乳化製剤においても分離抑制効果を十分に発揮する。また油分の配合量としては、本発明の効果を発揮する配合量であれば特に制限されないが、保湿性、使用感の観点から通常本発明のO/W型乳化製剤の全質量に対し5〜40質量%の範囲内、さらに7.5〜35質量%、特に10〜30質量%であるのが好ましい。
【0016】
本発明のO/W型乳化製剤に使用される界面活性剤としては、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤が挙げられ、特に非イオン性界面活性剤が好ましく、その具体例としてはプロピレングリコールモノ脂肪酸エステル、エチレングリコールモノ脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、メチルグルコシド脂肪酸エステル、アルキルポリグルコシド等の多価アルコール脂肪酸エステル及び多価アルコールアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール、ポリオキシエチレンフィトスタノール、ポリオキシエチレンコレステロール、ポリオキシエチレンコレスタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンモノ脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールジ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンメチルグルコシド脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン植物油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等のエーテルエステル等が挙げられ、特にソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが好ましい。また界面活性剤の配合量としては、本発明の効果を発揮する配合量であれば特に制限されないが、通常本発明のO/W型乳化製剤の全質量に対し0.1〜10質量%の範囲内、特に1〜5質量%であるのが好ましい。
【0017】
本発明のO/W型乳化製剤に配合される水の量は、剤形により異なるが、一般に35〜90質量%、特に60〜85質量%が好ましい。なお、クリーム剤の場合の水の配合量は、35〜80質量%、特に60〜75質量%が好ましい。乳液の場合の水の配合量は、45〜90質量%、特に70〜85質量%が好ましい。
【0018】
本発明のO/W型乳化製剤は、必要に応じて種々の成分を1種または2種以上組み合わせて配合することができる。このような成分としては、医薬品、医薬部外品または化粧品分野において一般的に外用剤に用いられる成分であれば特に制限されず、例えば基剤、増粘剤、保存剤、pH調整剤、安定化剤、刺激軽減剤、防腐剤、着色剤、分散剤、香料等の他、薬理活性成分として、局所麻酔剤、鎮痒剤、抗炎症剤、ビタミン剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、創傷治癒剤、角質軟化剤、鎮痛剤、保湿剤、美白剤、収斂剤、抗酸化剤、発毛抑制剤、抗シワ剤などが挙げられる。
【0019】
本発明の分離抑制剤とは、O/W型乳化製剤の乳化状態を安定化させ、製剤の外観安定性を保つものである。
本発明の分離抑制剤は、ヘパリン類似物質を有効成分とするものであり、ヘパリン類似物質をそのまま用いることもできるが、その他一般的に用いられる成分を含んでもよい。
本発明の分離抑制剤は、吉草酸酢酸プレドニゾロンを含有するO/W型乳化製剤の経時的な分離を抑制することができるが、特に高温環境下、具体的には50℃〜80℃における経時的な分離を抑制することができる。
分離抑制剤の製剤への配合量は、製剤の全質量に対しヘパリン類似物質質量として0.01〜1質量%、特に0.2〜0.4質量%であるのが好ましい。
【実施例】
【0020】
実施例1
ワセリン15.0g、流動パラフィン5.0g、セタノール2.5g、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(50E.O.)(ニッコールHCO-50:日本サーファクタント工業(株)製)1.0g、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.)(ニッコールTS-10:日本サーファクタント工業(株)製)1.5g、モノステアリン酸ソルビタン(ニッコールSS-10M:日本サーファクタント工業(株)製)0.5g、パラベン0.1gを75℃で加熱溶解する(油相)。
【0021】
精製水(全量100g)にヘパリン類似物質(アピ(株)製)0.3g、エデト酸ナトリウム0.01g及び最終製剤のpHが4.5となるようにpH調節剤(クエン酸及び水酸化ナトリウム)を溶解し、75℃に加熱する(水相)。
油相と水相を混合し、75℃にて乳化させる。乳化後、50℃に冷却し、吉草酸酢酸プレドニゾロン(常興薬品(株)製)0.15gを分散混合させ、室温まで冷却させて製剤を得た。
【0022】
比較例1
実施例1のヘパリン類似物質を無配合としたほかは、実施例1と同様に調製し、製剤を得た。
比較例2〜6
実施例1のヘパリン類似物質をヒドロキシエチルセルロース0.1g(比較例2:CF-V、住友精化(株)製)、アルギン酸ナトリウム0.1g(比較例3:I-1、キミカ(株)製)、ポビドン0.3g(比較例4:K-90、BASF社製)、カルメロース0.3g(比較例5:1350、ダイセル化学工業(株)製)、又はヒアルロン酸ナトリウム0.1g(比較例6:HA12、資生堂(株)製)としたほかは、実施例1と同様に調製し、製剤を得た。なお、水溶性高分子の配合量は、ヘパリン類似物質を配合した製剤と同稠度になるように調整し配合した。
【0023】
試験例
調製したO/W型乳化製剤の外観安定性を検討するために実施例1及び比較例1〜6をそれぞれガラス瓶(2K瓶)に充填し、分離の有無を確認した。分離の有無は、目視により評価した。分離が認められないものを○、分離が生じたものを×とした。観察期間は、製造直後及び60℃での3日保存後を評価ポイントとした。また、稠度の測定はレオメーター(不動工業(株)製)にて1cm球、1cm進入、30cm/分の条件にて測定した。その結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
ヘパリン類似物質をのぞいた製剤(比較例1)、ヘパリン類似物質のかわりにヒドロキシエチルセルロース(比較例2)、アルギン酸ナトリウム(比較例3)、ポビドン(比較例4)、カルメロース(比較例5)、ヒアルロン酸ナトリウム(比較例6)を配合した吉草酸酢酸プレドニゾロンを含有するO/W型乳化製剤は製造直後には分離が見られないが、60℃で3日間保存した場合には、いずれの製剤にも分離が確認された。しかし、吉草酸酢酸プレドニゾロン含有するO/W型乳化製剤にヘパリン類似物質を配合すると、60℃で3日間保存しても分離がおこらず、安定な製剤であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘパリン類似物質と吉草酸酢酸プレドニゾロンとを含有するO/W型乳化製剤(但し、ヘパリノイド軟膏(市販名 ヒルドイド)と、吉草酸酢酸プレドニゾロンを含有する副腎ステロイドクリーム製剤(市販名 リドメックスコーワクリーム)とを等量混合して得られる製剤を除く。)。
【請求項2】
ヘパリン類似物質を0.2〜0.4質量%含有する請求項1記載のO/W型乳化製剤。
【請求項3】
さらにワセリン、非イオン性界面活性剤及び水を含有する請求項1又は2記載のO/W型乳化製剤。
【請求項4】
ヘパリン類似物質の含有量が0.2〜0.4質量%であり、且つ吉草酸酢酸プレドニゾロンの含有量が0.1〜0.5質量%である請求項1〜3のいずれか1項記載のO/W型乳化製剤。
【請求項5】
ヘパリン類似物質を含む水相と油相とを乳化させて得られた乳化物に、吉草酸酢酸プレドニゾロンを分散混合させることによって製造される、請求項1〜4のいずれか1項記載のO/W型乳化製剤。

【公開番号】特開2012−121919(P2012−121919A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−51568(P2012−51568)
【出願日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【分割の表示】特願2006−107485(P2006−107485)の分割
【原出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】