説明

吊下げ用架台及びこの架台を用いた資材の搬入方法

【課題】資材積載用の台車を基台に載せてなる吊下げ用架台であって、基台を床スラブにタイトに緊結するタイプにおいて、構成簡易であって経済的なもの、安全なもの、或いは作業性がよいもの、及びかかる吊下げ用架台を用いた資材搬送方法を提案する。
【解決手段】建物の目的階に資材を揚重するための吊下げ用架台であって、揚重機を用いて吊り下げ可能な基台4と、この基台に対して出し入れ自在に搭載させた台車34とを具備し、この台車は、前後方向に長い左右一対の梁状の縦材6,6と、これら縦材を連結する複数の横材30…とで形成するとともに、上記一対の縦材6の内側部分に、相互に向かい合いかつ車輪を支えることが出来る車輪ガイド部14、14を形成して、これら車輪ガイド部内を台車の車輪が走向可能に形成し、かつ縦材6の外側部分の前端部に、目的階の床スラブへの繋止用の透孔22をそれぞれ設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊下げ用架台及びこの架台を用いた資材の搬入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築中の建物に資材を搬入する方法として、搬入階の外壁に仮設荷台ステージを構築することが行われている。この仮設荷台ステージは、複数の仮設梁の先部を建物の外壁開口部から外へ突出するとともに、梁の基部を床スラブに固定し、これら仮設梁の上にガイドレールを付設し、建物の外から内へ段差なく荷物を搬入することができるように設ける(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、この方法では資材を搬入しようとする各階ごとに仮設荷台ステージを構築しなければならず、無駄が多い。
【0004】
これに対して、基台に対して出し入れ自在に台車を載置してなる搬入吊り具を用いて、台車に積み込んだ資材を搬入吊り具ごと、クレーンなどで搬入階へ揚重し、台車の前端部を搬入階の内部へ挿入するとともに床スラブに係止し、台車を階内へ引き込んで資材を下ろすようにする方法も提案されている(特許文献2)。
【0005】
上記搬入吊り具は、台車の底板の上に複数の前面視凹字形のガイドレールを付設し、この凹字形のレールの内部を台車の車輪を走行するように形成している。また基台の前端部を床スラブに係止する手段として、基台の前端部の左右両側部から左右外方へストッパ部材を延出するとともに、基台の左右両側の床スラブから垂直棒状の受け材を起立し、ストッパ部材の先部に付設した係止チェーンを受け材の上端に連携している(同文献2)。
【特許文献1】特開平06−272389号
【特許文献2】特開2000−204764号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2の搬入吊り具は、基台からストッパ部材の係止チェーンを受け材に連携している。受け材や係止チェーンなどの中間手段を介して比較的ルーズに基台と床スラブとを係止しているので、ボルト・ナットなどを用いて基台と床スラブとを直接緊結する場合と比べて、緊結箇所の位置決め作業を簡略化できるので作業が効率化する反面、基台の安定性という点では問題が残る。特に係止チェーンが弛んだ状態で何らかの理由で外力(例えば地震力)が前後方向へ加わると基台の前端部が床スラブから外れてしまうのではないかという不安がある。
【0007】
また車輪は凹字形のレール内に遊挿されているだけなので、地震などのときに上方に抜け、台車が転倒する可能性がある。これを防ぐために基台の左右側部及び後部から柵を起立するなどの対策を採る必要があり、全体として重厚長大な造りとなってしまう。
【0008】
本発明は、資材積載用の台車を基台に載せてなる吊下げ用架台であって、基台を床スラブにタイトに緊結するタイプにおいて、構成簡易であって経済的なもの、安全なもの、或いは作業性がよいもの、及びかかる吊下げ用架台を用いた資材搬入方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の手段は、建物の目的階に資材を揚重するための吊下げ用架台であって、
揚重機を用いて吊り下げ可能な基台4と、
この基台に対して出し入れ自在に搭載させた台車34とを具備し、
この基台4は、前後方向に長い左右一対の梁状の縦材6,6と、これら縦材を連結する複数の横材30…とで形成するとともに、
上記一対の縦材6の内側部分に、相互に対峙しかつ車輪を支えることが出来る車輪ガイド部14、14を形成して、これら車輪ガイド部内を台車の車輪が走向可能に形成し、
かつ縦材6の外側部分の前端部に、目的階の床スラブへの仮留め用の係止孔22,22をそれぞれ設けている。
【0010】
本手段では、台車を基台に搭載する架台において、縦横の材を組付けて基台を簡易に構成することを提案している。その縦材の外側部分の前端部に床スラブへの仮留め用係止孔を穿設することで、縦材の内側部分に車輪ガイド部を形成して、これら車輪ガイド部内に台車の車輪を走行としている。本明細書において「縦」及び「横」とは特に断らない限り水平方向にあって互いに直交する向きをいうものとする。
【0011】
この構成において、台車の出し入れの邪魔にならない場所に係止用の係止孔を配置することも重要なポイントである。本発明の利点の一つは、I型・H型・T型などの各種鋼材の如く例えば工事現場で普通に手に入る材料を用いて、台車の出し入れ可能な基台を構成できるようにすることである。ビル工事に普通に使用する材料の一部を吊り上げ用架台の組み立てに転用することができるので、経済的である。
【0012】
「基台」は台車を搭載することができ、かつクレーンなどの揚重機で吊り上げることが可能な構造及び強度を有する。本明細書において「台」とは縦・横方向に一定の広がりを有し、物を積載するのに適した部材をいい、必ずしも水平板状の積載板(台板)を有することを要しない。少なくとも縦材及び横材を筏のように組み、縦材に沿って台車を前後方向に案内できればよい。前述の特許文献2では作業員が基台に乗り込んで台車を運び出すために底板が必要であったが、後述の通り本発明ではそうする必要がない。縦材及び横材は、建築現場で手に入り易い鋼材を用いて、使用する場所で組み立て、使用後には解体して処理するか、可能であれば他の用途に使用するようにすることができる。
【0013】
「縦材」は、基台を構成するための主たる素材であるが、同時に本発明では、台車を支えかつ案内する機能を備えており、これにより、全体として構造が簡易となる。
【0014】
「横材」は、2つの縦材を連結する材であり、必要により適数を設ける。横材は縦材の下面側に結合すると、台車の出し入れ自在な構造を形成しやすい。
【0015】
「台車」は、台の下面に車輪を付設してなる。台車の左右両端部下面に車輪を付設して、これら両端部ごと縦材の車輪ガイド部内に収納するようにしてもよい。上記の如く「台」は台板に限定されない。好適な図示例では、架台の軽量化のために、台車の台を、少なくとも縦枠と横枠とからなる枠体で構成している。この構造では、枠の隙間より小さな物を積載できないが、クレーンで運ぶ吊り荷は嵩張る物が多いので問題ない。必要により台板を組み込んだ構造としてもよいことはいうまでもない。
【0016】
「車輪ガイド部」は左右一対の縦材の内側部分に形成する。後述の案内溝とすることが望ましいが、例えばT型鋼材を前面視逆T字状に配置して、そのフランジ部分上面とウエブ部の内面とで形成してもよい。
【0017】
「係止孔」は、基台を建物の床スラブに一時的に固定するための手段である。係止孔の設置箇所は、縦材の外側部分の前端部としているが、前端部とは縦材の前縁から一定の巾のある範囲の意味である。縦材の前縁と係止孔との間には、地震や揚重過程で加わる予期せぬ外力に対抗するための余裕代(余裕の巾をいう)を持たせる。
【0018】
第2の手段は、第1の手段を有し、かつ上記基台4の適所に、台車34の前限位置及び後限位置を規定するストッパ手段16、18を設けるとともに、上記係止孔22を利用して基台4の前端部を床スラブに固定したときに、その係止孔22との関係で、床スラブの上に立つ作業員の手が届く距離に台車が在るように、台車34の後限位置を設定している。
【0019】
本手段では、作業員が床スラブに立ったままで台車の出し入れが可能であり、安全性の高い架台を提案する。本発明の基台は床スラブに緊結されており、従来技術と比較して安定性がよいが、例えば台車を基台から引き出す際に、作業員が基台に手を掛けて搬入階のフロア(床スラブ)から身を乗り出したり、或いは基台の上に載ったりすることは、避けることが賢明である。そこで本手段では、基台の適所に台車の前限位置及び後限位置を規定するストッパ手段を設けるとともに、床スラブの上の作業員の手が届く距離内に台車があるように、台車の後限位置を設定している。具体的な条件については、図15の実施例の説明で述べる。
【0020】
「ストッパ手段」は基台に対する台車の前後方向の位置を規制するものである。台車の前限位置及び後限位置とは、ストッパを掛けた状態で台車が最も前進できる位置及び後退できる位置をいう。もちろんストッパを掛けることで台車が動かないようにすることも可能であり、その場合には前限位置と後限位置とは同じになる。また、例えば車をチェーンで基台に連係するなどして一つのストッパ手段で前限位置及び後限位置を規制することができるように設けることもできる。
【0021】
第3の手段は、第1の手段又は第2の手段を有し、かつ上記両車輪ガイド部14、14は、相互に向かい合うように2本の縦材6の内面を前後方向に延びる案内溝とし、各案内溝は台車の車輪が少なくとも上方及び下方へ脱輪しないように形成している。
【0022】
本手段では、車輪ガイド部を縦材の内面に、台車の車輪をガイドする案内溝とすることを提案している。案内溝を利用することで、上方又は下方への車輪の脱輪を防止し、台車の安全な出し入れが可能である。この案内溝は、内側方へ開口するとともに縦材の長手方向に延びる長溝であり、前後方向から見て内縁がコ字形又は“⊃”字形となるように形成するとよい。別の言い方をすれば、この案内溝は、垂直な底面と連続して、車輪が転がるための下側面と、不意の揺れに対して車輪の上方飛出しを阻止するための上側面とを有している。これら上下両側面はほぼフラットに形成することが望ましい。また、車輪が下側面から脱落することを防止するための条件としては、例えば下側面の内端にリブを付設することもできるが(図6例の符号20参照)、図1、図4、図9に示す如く下側面の巾をd、両案内溝の底面間の距離をD、台車の車輪間の距離をDとすると、d>D−Dとすることが望ましい。上記案内溝は、H型鋼材やU字型鋼材の上下のフランジの間に形成することができる。
【0023】
第4の手段は、第1の手段又は第2の手段を有し、かつ
上記縦材6,6を、ウェブ8の上下両端に上フランジ12及び下フランジ10をそれぞれ付設した形状とし、
この上フランジ12の内半分12a下面とウェブ8内面と下フランジ10の内半分10a上面とで案内溝型の車輪ガイド部14を形成するとともに、
上記下フランジの外半分の前端部に上記係止孔22を穿設している。
【0024】
本手段では、案内溝型の車輪ガイド部の具体的な構造、及びこの構造における係止孔の配置を提案している。特に既存のH型鋼を利用することができる。
【0025】
第5の手段は第4の手段を有し、かつ上記係止孔22上方にある、上フランジの外半分12b前端部分を切除して、切欠き24を形成している。
【0026】
本手段では、係止孔の位置合わせ及び係止作業が容易な構成を提案している。上記係止孔は、前後方向(及び左右方向)への地震力などに十分抵抗できるようにするためには、本願図14(C)に示すように縦材の下フランジ前縁(及び側縁)から或る程度離れた場所に穿設することが望ましい。仮に同図のように下フランジと上フランジとが上方から見てほぼ同じ場所にあると、作業員は腰を屈めて前方(或いは側方)から覗き込まないと、係止孔を目視することができない。これでは、係止孔をアンカーボルト(係合棒)に対して位置合わせをするときも、位置合わせをしてボルトを係止孔に挿通させた後、ナットを嵌めるときも、腰を屈めた不自然な姿勢で作業をすることになり、作業性が低下する。そこで本手段では、本願図16及び図17の如く係止孔上方の上フランジ部分を除去して、係止孔を上方から直視できるようにしている。
【0027】
第6の手段は、第1の手段から第5の手段のいずれかに記載の吊下げ用架台を用いて資材を建物の目的階に搬入する方法であって、
予め目的階の床スラブに一対の係合棒52の下半部を埋め込む過程と、
台車34に資材を積載する過程と、
台車34ごと基台4を揚重機で揚重する過程と、
基台4の前端部を、目的階の開口から建物内へ挿入し、基台の係止孔22を、係合棒52に位置合わせする過程と、
これら係合棒に係止孔を掛け止めして、固定する過程と
この固定状態で台車ごと資材を目的階に搬入する過程とからなる。
【0028】
本手段は、上述の架台を用いた資材の搬入方法であり、建物の床スラブ側に埋設した係合棒(例えばアンカーボルト)と、架台側の基台に開けた係止孔を用いて、係止孔と係合棒とを位置合わせして、基台を床スラブに直に固定する(図14(C)参照)点を除いて、作業の手順は特許文献2のそれとおおよそ同じである。全体としての手順は発明の詳細な説明の中で図11〜13に関連して解説する。上記位置合わせの際には、基台の前端部下面を係合棒の上端よりやや上方に留め、その状態で基台を前後方向又は左右方向に動かすようにクレーンを操作する。
【0029】
上記の作業において、予め係止孔のサイズを係合棒の外径より大きくして、係止孔の孔縁と係合棒の外面との間に、アローアンスをとると、係止孔への係合棒の挿通作業をスムーズに行うことができる。
【発明の効果】
【0030】
第1の手段に係る発明によれば、次の効果を奏する。
○縦材6及び横材30で基台4を形成するとともに、この縦材6の内側部分に車輪ガイド部14を形成したから、基台を簡易な構成とすることができる。
○この構成において縦材6の外側部分に床スラブへの仮留め用の係止孔を形成したから、台車の出し入れの邪魔にならず、かつ基台を床スラブに確実に固定することができる。
【0031】
第2の手段に係る発明によれば、係止孔22を利用して基台4の前端部を床スラブに固定したときに、その係止孔22との関係で、床スラブの上に立つ作業員の手が届く距離に台車が在るように設けたから、台車の出し入れの際に作業員が搬入階のフロアから身を乗り出したり、或いは不安定な基台の上に乗る必要がなく、安全である。
【0032】
第3の手段に係る発明によれば、車輪ガイド部を、台車の車輪が上方へ脱輪しないように形成した案内溝としたから、地震などの際に台車34が基台4から外れてしまうことを防止できる。
【0033】
第4の手段に係る発明によれば、縦材6,6を、ウェブ8の上下両端に上フランジ12及び下フランジ10をそれぞれ付設した形状としたから、工事現場で使われるH型鋼やI型鋼で形成することができる。
【0034】
第5の手段に係る発明によれば、上記係止孔22上方にある、上フランジの外半分12b外端部分を切り欠いたので、この切欠き24を介して上から係止孔を見ることができ、作業が容易である。
【0035】
第6の手段に係る発明によれば、上記吊下げ用架台を利用して効率的に資材を搬入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
図1から図14に基づいて本発明の第1実施形態に係る吊下げ用架台2及びその使用方法を説明する。
【0037】
この架台2は、基台4と台車34とで形成されている。
【0038】
基台4は、前後方向の左右一対の縦材6,6と、これらの縦材を連結する横材30…とを有している。
【0039】
上記左右一対の縦材6の内側には、図2及び図3に示す如く車輪ガイド部14を形成している。図示例においては、上記縦材6は、H型鋼材を横向きにした、垂直なウェブ8と水平な下フランジ10と上フランジ12とを含む単一材であり、かつ図4の如く上記車輪ガイド部14を、下フランジの内側部分10a上面とウェブ8の内面と上フランジの内側部分12a下面とで形成する案内溝としている。この案内溝の前部及び後部には、下フランジの内側部分10aと上半部の内側部分12aとの間に、台車の前限位置を規定するストッパ手段として、ストッパ棒16を着脱自在に架設している。この着脱の機構は適宜採用できるが、好適な一例として、ストッパ棒を上方へ外すとともにストッパ棒の落下防止の措置を講ずればよい。例えばストッパ棒と台車上のナット溶接箇所とをワイヤーで結束するとよい。また後述の台車の後部車輪後方のフランジ部分から、台車の後限位置を規定するストッパ手段として、ストッパ突片18を起立している。
【0040】
また下フランジの外側部分10bの前端部には、図4に示す如く床スラブへの仮留め用の係止孔22を穿設している。図示例では、左右一対の係止孔22を設けているが、孔数を増やして一本当たりのアンカーボルトにかかる荷重を小さくすることができる。
【0041】
縦材の上面からは図2及び図5に示す如く前後一対の挿通孔26a付きの吊上げ用突起26を上方へ突設している。
【0042】
上記横材30は、図2の如く縦材6の下面の間に架設されている。更に図示例では、縦材の上面に補助材32を架設して基台4のねじれ防止を確実にしている。台車に搭載する資材の背高が大きいときには、上記補助材32を着脱可能に形成する。
【0043】
図6は、上記基台の変形例であり、下フランジの内側部分10aの上面内端部に脱輪防止用のリブ20を設けたものである。これにより車輪の脱輪をより確実に阻止できる。上記リブは、H型鋼材の下フランジの一部として予め一体に成形してもよく、また下フランジの内縁に、別部材として適宜形状の端部材を接合してなるものでもよい。
【0044】
台車34は、図7及び図8に示す如く長方形側の枠体36と、この枠体の下面に付設した前後各一対の車輪38を有する。台車34は、上フランジ12及びウェブ8に対して多少の隙間を存して、案内溝内を円滑に出し入れ可能なサイズに形成する。必要に応じて枠体36の上に図3に想像線で示す台板40を敷設してもよいが、例えばパネル材などを搬入するときには台板に代えて想像線に示す位置にパネル材などを載置すればよい。この台車34の左右両部は、上記案内溝内に挿入されており、かつ台板の前後動をストッパ棒16及びストッパ突片18で制動している。
【0045】
図示例の枠体36は、2本の縦枠36aと2本の横枠36bとで形成しており、さらに横枠と平行な連結材37を両縦枠間に架設している。横枠36bと連結材は図8に示す左右方向からみて倒立L字形であり、その上面を面一にしてパネル材などを載置し易く形成している。縦枠は、図9に示す前後方向から見て、L字形及び左右に反転したL字形であって、その垂直板部の間にパネル材などの資材を保持するようにしている。
【0046】
次に上記吊下げ用架台を用いて資材を搬入する手順を説明する。
【0047】
まず地上において、図1の状態からストッパ棒16を外して、台車34を外に引き出し、枠体36の上に資材Mを載せ、再び台車34を架台2内に戻す。その際に、その際、資材Mが図示のように縦材6の上面よりも背高のものであるときには、前方側の補助材32を縦材から外して台車を乗り入れ、更に吊り上げ時の安全のために補助材を再装着する。資材がパネル材やパイプ材が背低のものであるときには、補助材32をそのままにして台車の出入れすることができる。搬入階への台車の引き込みの際も同じである。
【0048】
次に図11に示す如く吊上げ用突起にチェーンCを挿通して図示しないクレーンを用いて吊下げ用架台を建物Bの搬入階まで揚重する。そして基台の前端部を搬入階の開口部から内部へ挿入し、図12に示すように基台の前端部を床スラブに固定し、台車ごと資材を搬入階に運び込めばよい。
【0049】
基台の前端部を床スラブに固定するときには、予め床スラブの係止孔対応箇所にインサート50を打ち込むとともに、このインサートにアンカーボルト52の下半部をはめ込む。次に床スラブから間隔を存して基台4の前端部を搬入階に挿入し、基台の係止孔22と、アンカーボルト52とを位置あわせした後に、基台4を降下させる。そうしてアンカーボルト52の上半部を係止孔に挿通させるとともに、床スラブ上面に基台の前端部を載置させる。次にそのアンカーボルトの上部にナット54を螺合して、基台4の前端部を床スラブに固定すればよい。
【0050】
吊下げ用架台2を地上に戻すときには、上記と逆の手順で、台車34を基台4内に入れ、アンカーボルト52からナット54を外し、基台を持ち上げてアンカーボルトを係止孔から離脱させ、基台4の前端部を搬入階から外に出し、そのまま地上に降ろせばよい。
【0051】
上記過程において、基台からの台車の出し入れは、作業員が床スラブに立ったままで行うことができる。即ち、床スラブの上面に立った作業員が台車の一端を掴んで前方へ台車を引っ張ると、基台4と床スラブFとの間には下フランジの厚さ分の段差があるだけであり、かつ、床スラブの方が低いので、比較的小さい力で資材を積んだ台車を床スラブ上へ引き出すことができる。また、資材を積み替えて空になった台車は軽量であるので、容易に段差を乗り越え、基台4に戻すことができる。
【0052】
図15は、図1の架台及びこの架台を利用した資材の好適な実施例を示している。この実施例は、基台4の前端部に床スラブに固定した状態で、床スラブに立つ作業員が手を伸ばして台車に届くように構成した例である。
【0053】
台車を安全に引き出すような資材の搬入方法として台車の後限位置の条件を考えると、具体的には、後限位置での縦材前端から台車前縁までの距離をLp、成人の作業員の平均的な腕の長さをLa、縦材の前端から係止孔の穿設箇所までの距離をLh、係止孔と係合するアンカーボルト(係合棒)の埋設位置から床スラブの縁までの距離をLbとすると、La≦Lp−Lh−Lbとなる。これは、床スラブの縁に立ったときの作業員の手が届く位置ということである。
【0054】
もっともアンカーボルトの埋設位置よりも床スラブの縁側に近づくのは危険だと考えると、基台の構造としては、上記後限位置での台車前縁から係止孔までの距離を、作業員の腕の長さをすることができる。即ち、La≦Lp−Lhである。
【0055】
以下、本発明の他の実施形態を説明する。これらの例において、第1の実施形態と同じ構成については説明を省略する。
【0056】
図16及び図17は、本発明の第2実施形態に係る吊下げ用架台を示している。本実施形態では、係止孔22の上方において、上フランジの外側部分12bの前端部分を切り欠いて、切欠き24としている。これにより、作業員は立ったままでも係止孔とアンカーボルトの位置関係を観ることができるので、係止孔22にアンカーボルト52を挿通させる作業が容易となる。その他の構成は、第1の実施形態と同じであるから、説明を省略する。
【0057】
図18は、本発明の好適な他の一の実施例を示している。本例では、係止孔22をアンカーボルト52よりも大径として、係止孔内へアンカーボルトを挿通させ易くしている。そしてナット52の下面と縦材6の下フランジ上面との間に座金56を介在させ、この座金を介してナット52を下フランジに締め付け、固定させることができるようにしている。こうすることで、床スラブへの基台の固定を迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る吊下げ用架台の平面図である。
【図2】図1の吊下げ用架台の側面図である。
【図3】図1の吊下げ用架台の正面図である。
【図4】図1の吊下げ用架台の基台の斜視図である。
【図5】図1の吊下げ用架台の要部の拡大斜視図である。
【図6】図1の吊下げ用架台の一部の拡大側面図である。
【図7】図1の吊下げ用架台の台車の平面図である。
【図8】図7の台車の側面図である。
【図9】図7の台車の正面図である。
【図10】図7の台車の底面図である。
【図11】図1の架台を用いた資材搬入の第1の段階を示す図である。
【図12】図1の架台を用いた資材搬入の第2の段階を示す図である。
【図13】図1の架台を用いた資材搬入の第3の段階を示す図である。
【図14】図12の段階の詳細を説明する図である。
【図15】図1の架台の実施例を表わしており、具体的には、その基台の床スラブへの固定状態での要部の側面図である。
【図16】本発明の第2の実施形態に係る吊下げ用架台の要部の平面図である。
【図17】図16の架台の使用例を示す図である。
【図18】本発明の一実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
2…吊下げ用架台 4…基台 6…縦材 8…ウェブ 10…下フランジ
12…上フランジ 14…車輪ガイド部 16…第1のストッパ手段(ストッパ棒)
18…第2のストッパ手段(ストッパ突片)
20…リブ 22…係止孔
24…切欠き 26…吊上げ用突起 26a…挿通孔 30…横材 32…補助材
34…台車 36…枠体 36a…縦枠 36b…横枠 37…横板
38…車輪
50…インサート 52…係合棒(アンカーボルト) 54…ナット

B…建物 C…チェーン M…資材 F…床スラブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の目的階に資材を揚重するための吊下げ用架台であって、
揚重機を用いて吊り下げ可能な基台4と、
この基台に対して出し入れ自在に搭載させた台車34とを具備し、
この基台4は、前後方向に長い左右一対の梁状の縦材6,6と、これら縦材を連結する複数の横材30…とで形成するとともに、
上記一対の縦材6の内側部分に、相互に対峙しかつ車輪を支えることが出来る車輪ガイド部14、14を形成して、これら車輪ガイド部内を台車の車輪が走向可能に形成し、
かつ縦材6の外側部分の前端部に、目的階の床スラブへの仮留め用の係止孔22,22をそれぞれ設けたことを特徴とする、吊下げ用架台。
【請求項2】
上記基台4の適所に、台車34の前限位置及び後限位置を規定するストッパ手段16、18を設けるとともに、上記係止孔22を利用して基台4の前端部を床スラブに固定したときに、その係止孔22との関係で、床スラブの上に立つ作業員の手が届く距離に台車が在るように、台車34の後限位置を設定したことを特徴とする、請求項1記載の吊下げ用架台。
【請求項3】
上記両車輪ガイド部14、14は、相互に向かい合うように2本の縦材6の内面を前後方向に延びる案内溝とし、各案内溝は台車の車輪が少なくとも上方及び下方へ脱輪しないように形成したことを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の吊下げ用架台。
【請求項4】
上記縦材6,6を、ウェブ8の上下両端に上フランジ12及び下フランジ10をそれぞれ付設した形状とし、
この上フランジ12の内半分12a下面とウェブ8内面と下フランジ10の内半分10a上面とで案内溝型の車輪ガイド部14を形成するとともに、
上記下フランジの外半分の前端部に上記係止孔22を穿設したことを特徴とする、請求項3記載の吊下げ用架台。
【請求項5】
上記係止孔22上方にある、上フランジの外半分12b前端部分を切除して、切欠き24を形成したことを特徴とする、請求項4記載の吊下げ用架台。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の吊下げ用架台を用いて資材を建物の目的階に搬入する方法であって、
予め目的階の床スラブに一対の係合棒52の下半部を埋め込む過程と、
台車34に資材を積載する過程と、
台車34ごと基台4を揚重機で揚重する過程と、
基台4の前端部を、目的階の開口から建物内へ挿入し、基台の係止孔22を、係合棒52に位置合わせする過程と、
これら係合棒に係止孔を掛け止めして、固定する過程と
この固定状態で台車ごと資材を目的階に搬入する過程とからなる、資材の搬入方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−91770(P2009−91770A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262145(P2007−262145)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】