説明

吊床版橋

【課題】 路面の高低差が小さく、縦断勾配も小さく抑えられる吊床版橋を安価で構築する。
【解決手段】 固定支持された二つの橋台1,2間にケーブル6を張架し、可撓性を有する程度に部材厚が小さく上記ケーブル6を内包するコンクリートの床版4を形成する。この床版上に路面を形成するものとし、上記ケーブルは、橋台上で路面より高い位置に支持する。橋台近くの所定長の範囲Bでは、橋台に接近するにしたがって床版がケーブルより下方へ距離を隔てるように形成し、この範囲に、上記ケーブルを内部に埋め込み、このケーブルと下方に隔てられた床版とを連結するコンクリートの壁状体5を設けて床版を支持する。これにより路面の高低差はケーブルのサグより小さくすることができる。また、両端部におけるケーブルの勾配が最大となる位置で、床版をケーブルより離隔してなだらかに形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、二つの橋台間又は橋台と橋脚間に、ケーブルが埋め込まれた薄いコンクリート板を張架し、このコンクリート板上に路面を形成する吊床版橋に関する。
【背景技術】
【0002】
歩道橋等の簡易な橋梁に適用される構造形式の一つに吊床版橋がある。この構造形式は、図7に示すように、固定支持された二つの橋台101,102間に、ケーブルが内包された薄いコンクリートの板状部材103(吊床版)を橋台間で連続するように吊支持するものである。この板状部材は極めて薄い部材であるため、小さい曲げモーメントしか生じず、柔軟に変形するものとなっている。また、このコンクリート床版には軸線方向にプレストレスが導入されていることにより、柔軟に変形した場合にも有害なひび割れが生じないようになっている。
なお、図7中の符号104,105は床版内に配置されるケーブル、符号106は高欄、107は舗装を、それぞれ示すものである。
【0003】
このような構造形式は、大きな機械を用いることなく、長い径間に安価で架設することができるという利点を有しており、主に歩道橋として採用されている。
しかし、この構造形式では、床版自体が吊材として荷重を支持するものとなっているため、床版に撓みつまりサグが生じており、橋台間の中央部では橋台での支持位置より下位に垂れ下がった状態となる。このため、床版上に直接舗装を施して路面を形成すると、上記床版のサグが生じた形状にしたがって大きな高低差及び縦断勾配が生じることになる。
【0004】
このような垂れ下がり量であるサグ(図7中に符号fで示す)を小さくすることができる構造形式として、特許文献1には、橋台間に張架された吊床版に傾斜した支柱を設けるものが記載されている。この吊床版橋では、支柱によって吊床版が橋台間で支持されるので、支間長が小さくなり、大きな橋長の吊床版橋であっても、サグが過度に大きくならないように抑えることができる。
【特許文献1】特開平10−204826
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来例のように支柱を設けると、その構築に多大な費用を要する。
一方、サグを小さくする他の手段として、吊床版を大きな張力で張架することが考えられる。
一般に吊床版橋のサグは、吊床版に作用する引張力の水平方向成分Hと反比例するものである。つまり、支間長をL、吊床版に作用する鉛直方向の分布加重をwとすると、吊床版に作用する引張力の水平方向成分Hとサグの大きさfとの関係は、次式で示される。
H = (w×L2)/(8×f)
したがって、吊床版を張架する張力つまりケーブルに導入する引張力を大きくすることによってサグを低減することができる。また、吊床版の端部つまり橋台との接合部に生じる勾配αは、次式で示され、サグが小さくなることに比例して小さくなる。
α = 4×f/L
【0006】
しかし、ケーブルに作用する引張力が大きくなると、ケーブルの断面積が大きくなり、ケーブル及びこれを張架する費用が多く必要となる。また、吊床版を支持する橋台には大きな水平反力が作用することになり、これに対して橋台が安定した状態を維持するために、多くのグランドアンカー等を設ける必要が生じる。このため構築費用は益々多大なものとなる。
【0007】
本願発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、路面の高低差が小さく、縦断勾配も小さく抑えられる吊床版橋を安価で構築することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、 固定支持された二つの橋台又は橋脚間に張架されたケーブルと、 このケーブルを内包し、可撓性を有する程度に部材厚が小さく形成されたコンクリートの床版とを備え、 該床版上に路面が形成される吊床版橋であって、 前記ケーブルは、前記橋台又は橋脚上で前記路面より高い位置に支持され、 前記橋台又は橋脚近くの所定長の範囲で、該橋台又は橋脚に接近するにしたがって前記床版が前記ケーブルより下方へ距離を隔てるように形成され、 該範囲に、前記ケーブルを内部に埋め込み、該ケーブルと下方に隔てられた床版とを連結するコンクリートの壁状体を備える吊床版橋を提供する。
【0009】
この吊床版橋では、橋台又は橋脚上でケーブルを支持する位置より路面が下方にあるので、路面の高低差はケーブルのサグより小さくすることができる。したがって、ケーブルの引張力はやや大きなサグが生じるように小さく設定しても、路面の高低差は小さく抑えられる。また、橋台又は橋脚間に張架されたケーブルは、その両端部で最も大きな勾配を有するものとなり、中央部に近づくにしたがって勾配が緩くなる。両端部の最も勾配が大きくなる位置で床版がケーブルより下方へ徐々に距離を隔てるように形成されていることにより、この部分をなだらかな勾配とすることができる。したがって、橋面上で生じる最大勾配を小さくすることが可能となる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の吊床版橋において、 前記壁状体は、前記床版の両側縁部から立ち上げられ、 前記橋台又は橋脚上の路面となる領域の両側部に立ち上げられた壁状のケーブル定着部と連続するものとする。
【0011】
この吊床版橋では、橋台又は橋脚上に設けられたケーブル定着部と吊床版部分の壁状体が路面の両側で連続し、大きな剛性を有するものとなる。したがって、吊床版全体の揺れが小さく抑えられる。また、床版がケーブルより下方に離れた範囲で、床版は両側部が壁状体及びケーブルに連続し、安定した状態で支持される。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の吊床版橋において、 前記壁状体は、前記ケーブルが埋め込まれた位置と前記床版と連続する位置との間に開口が設けられているものとする。
【0013】
ケーブルと床版との離隔する高さ方向の距離が大きくなると、コンクリートの壁状体の重量が過大となることがあるが、この壁状体に開口を設けることによって、その機能を保持しながら重量を軽減することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本願に係る発明の吊床版橋では、吊床版を両端で支持する橋台又は橋脚付近でコンクリートの床版がケーブルより下方に支持されるので、ケーブルのサグより路面の高低差を小さくすることができる。したがって、サグを小さくするためにケーブルの引張力を極めて大きい値とする必要がなく、橋台又は橋脚に作用する水平反力を低減して構築費用を少なく抑えることが可能となる。また、吊床版の勾配が最も大きくなる両端部で、床版をケーブルから離隔して支持するので、この部分をなだらかな勾配とすることができ、縦断勾配小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本願に係る発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、請求項1又は請求項2に係る発明の一実施形態である吊床版橋の概略側面図及び断面図である。また、図2は、図1に示すB−B線、C−C線における断面図、図3は橋台付近の側面図である。
この吊床版橋は、グランドアンカー3によって地盤に固定された二つの橋台1,2間に、ケーブル6,7を張架し、このケーブルにコンクリートの床版4を支持させたものである。橋台間の中央部における大部分( 図1中に符号Aで示す範囲)は、図1(b)に示すように上記ケーブル6,7を内包するようにコンクリートの床版4が形成されている。この床版は橋の軸線方向の長さに対して厚さが充分に薄く、ケーブル7の引張力によって軸線方向にプレストレスが導入されている。このため、橋台1,2間に張架されて柔軟に変形が可能となっており、このような変形が生じても床版4のコンクリートには有害なひび割れが生じないようになっている。なお、符号8は床版の側縁部から立ち上げられた高欄を、符号9は、床版上に敷設されたアスファルト舗装を示す。
【0016】
この吊床版橋の橋台付近(図1に符号Bで示す範囲)は、図2に示すように、コンクリートの床版4の両側縁部からコンクリートの壁状体5が立ち上げられており、この頂部にケーブル6が埋め込まれている。そして、橋台に近づくにしたがって、上記壁状体5の高さが大きくなり、床版4はケーブル6から徐々に下方へ離隔するものとなっている。
【0017】
上記橋台1,2は、鉄筋コンクリートからなるものであり、強固な地盤上に形成され、グランドアンカー3によって地盤にしっかりと固定されており、吊床版から大きな水平反力が作用しても、滑動や転倒に対して安定した状態が維持できるものである。
この橋台1,2の頂部は、路面が形成される範囲の両側部から、壁状になったケーブル定着部1a,2aが立ち上げられており、図3に示すように、この頂部にケーブル6が支持され、後方部分で定着されている。そして、このケーブル定着部1a,2aが床版4の両側部から立ち上げられた壁状体5と連続している。また、符号Bで示す範囲でケーブルの下方に離れた床版4’は、上記橋台1,2のケーブル定着部間で路面が形成される領域と接合され、互いの上面S1,S2が同じ高さで連続するものとなっている。
【0018】
上記ケーブル6,7は、床版の支間中央部では複数本の全部が床版中に配置され、符号Bで示す範囲では一部のケーブル7bがそのまま床版4’から橋台1,2へと配置され、橋台の後方部に定着される。また、残りの多数のケーブル6,7aは床版4’の側縁部から立ち上げられた壁状体5の頂部付近に配置され、上記ケーブル定着部1a,2aの頂部付近から橋台間で垂れ下がった形状になっている。
【0019】
このような吊床版橋では、路面は橋台1,2上のケーブル定着部1a,2aの間から、ケーブルより下方に離れた床版4’上に連続して形成され、さらにケーブルを内包した床版4上になだらかな勾配で連続するように形成される。したがって、ケーブル定着部1a,2aの頂部付近で支持されるケーブル6,7aのサグ、つまりケーブル定着部1a,2aの頂部から床版4の最も低い位置までの高低差より、路面の高低差を小さくすることができる。
【0020】
このような吊床版橋を、図7に示すような従来の吊床版橋と比較すると、ケーブルのサグが同じ大きさであると、図1に示す構造の吊床版橋では路面の高低差をケーブルのサグより小さくすることができるので、図7に示す吊床版橋より路面の高低差を小さくすることができる。また、ケーブルの勾配が最大となる端部で路面をケーブルと離隔して形成することができ、最大勾配を小さくすることができる。一方、従来の吊床版橋と路面の高低差を同じとすると、図1に示す吊床版橋では、ケーブルのサグを大きく設定することができ、ケーブルの張力は、図7に示す吊床版橋より小さくなる。これにより橋台に作用する水平反力は小さくなり、グランドアンカーの量も低減することができ、構築費用が少なくなる。
【0021】
次に、上記吊床版橋の架設方法を簡単に説明する。
図4(a)に示すように、架設地点の両端に橋台1,2を構築し、グランドアンカー3によって地盤に強固に固定する。そして、これらの橋台間にケーブル6を張架する。このケーブル6に床版を形成するプレキャストコンクリートセグメント4aを懸垂支持させ、図4(b)に示すようにケーブル6に沿って移動する。ケーブル6のほぼ全長にわたって、プレキャストコンクリートセグメント4aを所定の位置に配列した後、図4(c)に示すように、プレキャストコンクリートセグメントの間4b及びセグメントと橋台との間4cに現場でコンクリートを打設し、二つの橋台1,2間で連続した床版4を形成する。その後、コンクリート打設前に配置しておいたケーブル7を緊張し、床版4に軸線方向のプレストレスを導入する。このようにして完成された構造躯体の上に舗装9を施すとともに、高欄8を取り付けて吊床版橋を完成する。
【0022】
図5は、請求項1に係る発明の他の実施形態である吊床版橋の概略断面図である。
図1から図3までに示す吊床版橋では、橋台近くで床版の両側縁部から二つの壁状体が立ち上げられ、この壁状体の頂部にケーブルが配置されていたが、この吊床版橋では、路面の中心線上に中央分離帯として壁状体が形成されている。図5(a)は、支間の中央部における断面であり、ケーブル12,13はほぼ床版11中に配置され、床版11がケーブル12,13とともに柔軟に変形可能となっている。そして、橋台付近の所定の範囲では、図5(b)に示すようにケーブル12から床版11が下方へ徐々に離隔し、路面の中心線上に壁状体14が立ち上げられる。そして、橋台と接合される部分では、図5(c)に示すように壁状体14は高欄15とほぼ同じ高さとなり、橋台上のケーブル定着部に連続する。したがって、橋台もこの壁状体14と対応する路面の中心線上にケーブル定着部を備えており、この後部にケーブルが定着される。
【0023】
図6は、請求項3に係る発明の一実施形態である吊床版橋の橋台との接合部を示す概略側面図である。
この吊床版橋は、図1から図3までに示す吊床版橋より、床版21の両側縁部から立ち上げられた壁状体23の高さが大きくなっており、ケーブル22が配置された頂部と床版21と結合される下部との間に開口23aが設けられている。また、この壁状体23と連続する橋台24上のケーブル定着部24aも高さが対応して高くなっており、その後方部にも開口24bが設けられている。そして、このケーブル定着部の前方部分24cは柱状となっており、頂部でケーブルを支持して大きなサグでケーブル22を張架するものとなっている。また、上記柱状となった部分24cの頂部で支持されたケーブル22は後方で下方に曲げ下げられ、橋台24のフーチング近くで定着されている。
このような吊床版橋では、ケーブル22のサグをより大きく設定してケーブル22の張力を小さくすることができるとともに、壁状体23の高さが大きくなることによる重量の増加を抑え、経済的な構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】請求項1又は請求項2に係る発明の一実施形態である吊床版橋の概略側面図及び断面図である。
【図2】図1に示す吊床版橋の断面図である。
【図3】図1に示す吊床版橋の橋台付近の側面図である。
【図4】図1に示す吊床版橋の架設方法を示す概略工程図である
【図5】請求項1に係る発明の他の実施形態である吊床版橋の断面図である。
【図6】請求項3に係る発明の一実施形態である吊床版橋の橋台付近の側面図である。
【図7】従来の吊床版橋の概略側面図及び断面図である
【符号の説明】
【0025】
1,2:橋台、 1a,2a:ケーブル定着部、 3:グランドアンカー、 4:床版、 5:壁状体、 6:ケーブル、 7:ケーブル、 8:高欄、 9:舗装、 11:床版、 12:ケーブル、 13:ケーブル、 14:壁状体、 15:高欄、 21:床版、 22:ケーブル、 23:壁状体、 24:橋台、 24a:ケーブル定着部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定支持された二つの橋台又は橋脚間に張架されたケーブルと、
このケーブルを内包し、可撓性を有する程度に部材厚が小さく形成されたコンクリートの床版とを備え、
該床版上に路面が形成される吊床版橋であって、
前記ケーブルは、前記橋台又は橋脚上で前記路面より高い位置に支持され、
前記橋台又は橋脚近くの所定長の範囲で、該橋台又は橋脚に接近するにしたがって前記床版が前記ケーブルより下方へ距離を隔てるように形成され、
該範囲に、前記ケーブルを内部に埋め込み、該ケーブルと下方に隔てられた床版とを連結するコンクリートの壁状体を備えることを特徴とする吊床版橋。
【請求項2】
前記壁状体は、前記床版の両側縁部から立ち上げられ、
前記橋台又は橋脚上の路面となる領域の両側部に立ち上げられた壁状のケーブル定着部と連続するものであることを特徴とする請求項1に記載の吊床版橋。
【請求項3】
前記壁状体は、前記ケーブルが埋め込まれた位置と前記床版と連続する位置との間に開口が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の吊床版橋。










【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−9489(P2006−9489A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190849(P2004−190849)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)
【Fターム(参考)】