説明

同期成分圧縮制御の切替えエリア最適化方法、磁気ディスク装置

【課題】同期成分圧縮制御の切替えエリア数が固定の場合に、DCオフセット電流値に基づいて、同一エリア内の全トラック間での補正誤差を低減する、同期成分圧縮制御の切替えエリア最適化方法および磁気ディスク装置を得る。
【解決手段】同期成分圧縮制御の切替えエリア最適化方法は、ディスク回転に同期した位置誤差成分を補正する同期成分圧縮制御の切替えエリア最適化方法であって、DCオフセット電流値に基づき、エリア数が固定されている同期成分圧縮制御の切替えエリアを設定するステップを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DCオフセット電流値に基づく同期成分圧縮制御の切替えエリアの最適化方法および磁気ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置のヘッド位置決め制御機構は、ディスクの偏心やモータの振動、サーボパターンのトラックセンター位置のズレ等に起因する、ディスク回転に同期した位置誤差、すなわち偏心成分(以下、RRO(Repeatable Run Out)と称する)を補正するフィードフォワード制御(以下、同期成分圧縮制御と称する)によりRROの影響を低減している。
このRROはディスク毎(またはヘッド毎)やディスク上の位置で形状や大きさが異なり、同期成分圧縮制御の補正情報の最適値も異なってくる。このため、磁気ディスク装置では、ディスク毎(または、ヘッド毎)やディスクの中心から同心円状に区切った複数のエリア毎(例えば、内周エリア・外周エリア・中周エリアのように分けたエリア毎)に同期成分圧縮制御の補正情報の最適値を保持して、各エリアによって同期成分圧縮制御のための補正情報を切替えている。
なお、ここでいう補正情報とは、同期成分圧縮制御のフィードフォワード操作量である。さらに、補正情報の最適値とは、各トラックにおいてRROを最も低減するのに適した補正情報のことであり、具体的には、逐次演算により算出された補正情報の収束値である(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−39814号公報(段落[0028]―[0041]、[0062]、図1、図12)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、同一エリア内の全トラックにおいて同期成分圧縮制御のための補正情報の最適値は一致しない。このため、任意のトラックで最適化した同期成分圧縮制御のための補正情報を使用したまま、同一エリア内のある他のトラックへ磁気ヘッドを移動(シーク)した場合に補正誤差が生じる。また、このような同期成分圧縮制御において、前記同期成分圧縮制御のための補正情報の最適値を保持するエリア数を際限なく増やすことは、メモリ容量の観点から現実的ではなく、エリア数は限定される。また、エリア数を増やすことなく、同一エリア内での補正誤差の影響を低減するためには、各エリアにおいて、エリア内の全トラック間での補正誤差を低減する必要がある。
上記に鑑み、本発明は、同期成分圧縮制御の切替えエリア数が固定の場合に、DCオフセット電流値に基づいて、同期成分圧縮制御の切替えエリアを設定することにより、同一エリア内の全トラック間での補正誤差を低減する同期成分圧縮制御の切替えエリア最適化方法および磁気ディスク装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一態様に係るDCオフセット電流値に基づく同期成分圧縮制御の切替えエリア最適化方法は、ディスク回転に同期した位置誤差成分を補正する同期成分圧縮制御の切替えエリア最適化方法であって、DCオフセット電流値に基づき、エリア数が固定されている同期成分圧縮制御の切替えエリアを設定するステップを具備することを特徴とする。
【0005】
本発明の一態様に係る磁気ディスク装置は、DCオフセット電流値に基づき、エリア数が固定されているディスク回転に同期した位置誤差成分を補正する同期成分圧縮制御の切替えエリアを設定するエリア設定手段を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、同期成分圧縮制御の切替えエリア数が固定の場合に、DCオフセット電流値に基づいて、同一エリア内の全トラック間での補正誤差を低減する同期成分圧縮制御の切替えエリア最適化方法および磁気ディスク装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の一つの実施形態に係る磁気ディスク装置1を上面から見た概略構成図である。図2は、この第1の実施形態に係る磁気ディスク装置1の構成を示すブロック図である。図3は、第1の実施形態に係る磁気ディスク装置1の機能ブロック図である。図4は、第1の実施形態に係る磁気ディスク装置によるヘッド位置決め制御を説明するための図である。CPU43がROM41に記録されたプログラムを読み込むことにより図3および図4に示す機能が実現される。
【0008】
なお、図1、2では、磁気ディスク20を1枚だけ具備する磁気ディスク装置1を示したが、磁気ディスク20は一枚に限られず、複数枚でもよい。また、磁気ディスク20の両面にデータの記録を行うタイプの磁気ディスク装置を用いても良い。
【0009】
磁気ディスク20は、データを記録する磁気媒体であり、スピンドル90を中心として回転動作する。磁気ディスク20の表面には、数万本から数十万本のトラックが同心円状に並んでいる。また、各トラックには、各トラックに固有の番号(シリンダ番号)が付与されている。
【0010】
各トラックは、複数のセクタを有する。各セクタは、サーボデータが記録されているサーボ領域とデータの読み出しおよび書き込みを行うデータ領域とを有する。サーボ領域には、シリンダ番号および磁気ヘッド80をトラックの中心に位置決めするために用いられるバーストデータが記録されている。
【0011】
磁気ヘッド80は、磁気ディスク20へのデータの書き込みおよび磁気ディスク20からのデータの読み出しを行う。スイングアーム70は、磁気ヘッド80をディスク20の径方向に移動させる。
【0012】
VCM(Voice Coil Motor)50は、回転軸60を中心としてスイングアーム70を回転させる。ランプロード30は、磁気ディスク装置1が動作していないときに、磁気ヘッド80を格納する。ラッチ機構120は、磁気ヘッド80がランプロード30へ格納された際に、スイングアーム70が動かないように保持する。
【0013】
FPC(Flexible Printed Circuits)100は、一端がスイングアーム70に取り付けられ、他端が制御部40に取り付けられた配線回路である。このFPC100を介して、磁気ヘッド80、VCM50および制御部40との間で、データおよび制御信号が送受信される。
【0014】
制御部40は、ROM41、メモリ42、CPU43、リード/ライト回路44、位置データ生成回路45、D/A(Digital/Analog)コンバータ46、VCMドライバ47、D/Aコンバータ48、スピンドルモータドライバ49を具備する。また、CPU43がROM41に記録されたプログラムを読み込むことにより、図3に示す測定手段101乃至磁気ヘッド制御手段106の機能が実現される。
【0015】
位置データ生成回路45は、磁気ディスク20のサーボデータ領域に記録されたサーボデータに応じて、磁気ヘッド80の位置を示す位置データを生成しCPU43へ出力する。VCM制御手段105は、位置データ生成回路45から出力された位置データに応じて、VCM50を駆動する制御信号を生成し、D/Aコンバータ46へ出力する。また、スピンドルモータ制御手段104は、スピンドルモータドライバ49を駆動するための制御信号をD/Aコンバータ48へ出力する。
【0016】
D/Aコンバータ46は、VCM制御手段105から出力された制御信号を、デジタル信号からアナログ信号に変換してVCMドライバ47へ出力する。D/A変換器48は、スピンドルモータ制御手段104から出力された制御信号を、デジタル信号からアナログ信号に変換してスピンドルモータドライバ49へ出力する。
【0017】
VCMドライバ49は、D/A変換器46から出力された制御信号に応じた駆動電流をVCM50に供給する。この駆動電流により、スイングアーム70は、回転軸60を中心として回転動作する。
【0018】
モータドライバ49は、D/A変換器48を介してスピンドルモータ制御手段104から出力された制御信号に応じた駆動電流をスピンドルモータ110に供給する。この駆動電流により、スピンドルモータ110は、回転動作する。また、スピンドル90を介してスピンドルモータ110に連結された磁気ディスク20も回転動作する。
【0019】
リード/ライト回路44は、磁気ヘッド80を介して、磁気ディスク20へのデータの書き込みと、データの読み出しを行う。
【0020】
ROM41は、磁気ヘッド80を目標トラックに位置決めするための位置決め制御プログラムや磁気ディスク20に同期成分圧縮制御の切替えエリアを設定するエリア設定プログラムなどを記録する。なお、磁気ディスク20に設定される前記同期成分圧縮制御の切替えエリア数は、設計段階などで予め決められる。この同期成分圧縮制御の切替えエリア数は固定されている。
【0021】
メモリ42は、後で説明する測定手段101で測定された磁気ヘッド80の位置と、磁気ヘッド80の位置に対応するDCオフセット電流値との関係や、エリア設定手段102で磁気ディスク20に設定された同期成分圧縮制御の切替えエリアの境界のシリンダ番号などを記録(保持)するRAM(Random Access Memory)である。筺体10は、上述した構成要素を収納する。測定手段101は、磁気ヘッド80の位置に対応するDCオフセット電流値との関係を、磁気ディスク20の並べられた総トラック数の数百分の1程度の間隔で測定する。なお、この測定間隔は、総トラック数の数百分の1程度に限られず、数千分の1程度や数十分の1程度であっても良い。
【0022】
エリア設定手段102は、測定手段101で測定された磁気ヘッド80の位置とDCオフセット電流値に基づき、同期成分圧縮制御の切替えエリアを磁気ディスク20上に設定する。補正情報設定手段103は、エリア設定手段102により設定された各同期成分圧縮制御の切替えエリアで使用する同期成分圧縮制御のための補正情報を設定する。この補正情報は、同期成分圧縮制御の切替えエリア毎に最適値が保持される。なお、ここでいう補正情報の最適値とは、各トラックにおいてRROを最も低減するのに適した補正情報のことであり、具体的には、逐次演算により算出された補正情報の収束値である。
【0023】
ここで上記補正情報の最適値の算出方法の一例について説明する。
図4は、この第1の実施形態に係る磁気ディスク装置1によるヘッド位置決め制御を説明するための図である。
【0024】
図4に示すように、磁気ヘッド80によりサーボ情報のサーボバーストデータが読出される度に、位置誤差検出部203は目標位置rと実際のヘッド位置yとの位置誤差eを検出する。制御要素204は、入力する位置誤差eを解消するための制御操作量Ubを算出して出力する。
【0025】
ここで、位置誤差eには、磁気ディスク20の回転に伴うトラックの偏心成分が含まれていると想定すると、システムのフィードバック制御系だけでは偏心成分を十分に抑制できない。なお制御要素204は、この第1の実施形態に係る磁気ディスク装置1を制御するコントローラのことであり、具体的にはCPU43のことである。
【0026】
そこで、フィードフォワード制御系200を併用することにより、偏心成分を十分に抑制するための制御操作量Ufを求める。フィードフォワード制御系200では、偏心成分検出部201は位置誤差検出部203により求められる位置誤差eを観測し、位置誤差eに含まれるディスクの回転周期に同期した偏心成分を検出する。FW制御部202は、偏心成分を抑制するような制御操作量Ufを算出して、フィードバック制御系の加算部205に出力する。加算部203は制御要素204からの制御操作量UbとFW制御部202からの制御操作量Ufとを加算した制御操作量を制御対象206に出力する。
【0027】
(偏心成分の検出処理)
偏心成分検出部201は、具体的には位置誤差eから特定の偏心成分をサイン(sin)成分とコサイン(cos)成分に分離し抽出する処理を実行する。位置誤差eの中で、ディスクの回転周期に同期した偏心成分は、周期関数として捉えることができるので、フーリエ級数により展開表示することができる。即ち、ディスクの回転周期をT、位置誤差の観測情報をe(t)とすれば以下式(1)を求めることができる。
【0028】
【数1】

【0029】
ここで、a1 ,a2 ,a3 ,…,b1 ,b2 ,b3 ,…,c0 はフーリエ係数(1,2,3,…は偏心次数を意味する)であり、各偏心成分の大きさと位相を表す。各フーリエ係数は次式(2)により求めることができる。
【0030】
【数2】

【0031】
この第1の実施形態の磁気ディスク装置ではセクタサーボ方式を想定しているので、サーボ情報は離散的にしか得られないため、位置誤差eを時間的に連続な情報として得ることはできない。そこで、位置誤差eを離散的な情報として得る場合のフーリエ係数a1 ,a2 ,a3 ,…,b1 ,b2 ,b3 ,…を求める関係式(3)を以下に示す。なお、関係式(3)にてTsはサンプル時間を意味する。
【0032】
【数3】

【0033】
さらに、前記式(3)を数式的に変形して、1サンプル前までに得られた偏心成分のフーリエ係数に、現時点の観測情報により得られたフーリエ係数の変化分を逐次加算していく演算式として下記の関係式(4)を求めることができる。
【0034】
【数4】

【0035】
この関係式(4)により、位置誤差情報を観測することにより、k時点での特定の偏心成分のsin成分とcos成分とを求めることができる。(制御操作量Ufの算出処理)FW制御部202は、下記の関係式(5),(6)により、偏心成分検出部201により検出された偏心成分を抑制するような制御操作量Ufを算出する。まず、図4の制御系から位置誤差eの関係式(5)は以下のように求めることができる。
【0036】
【数5】

【0037】
ここで、Fbは制御要素204の伝達関数であり、Psは制御対象の伝達関数であり、rは目標位置である。また、前記関係式(5)は、「e=r−y」、「Ub=Fb・e」、「y=Ps(Uf+Ub)」の関係式から求めることができる。前記の偏心成分検出部201により、「Uf=0」のときの位置誤差の特定偏心成分(e0)を求めることができるので、この特定偏心成分(e0)を抑制するための制御操作量Ufは結果的に次式(6)により求めることができる。
【0038】
【数6】

【0039】
以上のようにして、フィードフォワード制御系200により、位置誤差eに含まれるディスクの回転周期に同期した偏心成分を検出し、この偏心成分を抑制するような制御操作量Uf、すなわち補正情報の最適値を算出することができる。フィードバック制御系の加算部205は、フィードバック制御系の制御操作量Ubとフィードフォワード制御系200の制御操作量Ufとを加算した制御操作量を制御対象206に出力する。
【0040】
従って、ディスクの回転周期に同期した偏心成分を十分に抑制したヘッド位置決め制御を実現することができる。なお、ここで制御対象206とは、具体的には磁気ヘッド80を駆動するためのVCM50のことである。
【0041】
次に、磁気ヘッド80のトラック位置とDCオフセット電流値との関係について説明する。図5は、磁気ディスク装置1の磁気ヘッド80のトラック位置とDCオフセット電流値の関係を示した図である。なお、縦軸にDCオフセット電流値を、横軸に、磁気ディスク20のシリンダ番号を示している。また、図中の番号4は、DCオフセット電流値を示している。
【0042】
ここで、番号4に示すDCオフセット電流は、トラッキング時のVCM50の駆動電流の直流成分を意味しており、その形状はスイングアーム70に加わる外力(ラッチトルクやFPC反発トルクなど)の変化を意味する。
【0043】
ここで、図5中の符合1aは、磁気ディスク20の最外周トラック位置のシリンダ番号を示している。符合1cは、オフセット電流値が最大となるトラック位置のシリンダ番号を示している。符合1bは、磁気ディスク20の最内周トラックのシリンダ番号を示している。
【0044】
ここで、例えば、最外周トラック位置(符号1a)とDCオフセット電流が最大となるトラック位置(符号1b)が同期成分圧縮制御の同一エリア内にある場合、最外周トラック位置(符号1a)で最適化した同期成分圧縮制御のための補正情報を保持したまま、DCオフセット電流値が最大となるトラック位置(符号1b)へ磁気ヘッド80をシークすると、同期成分圧縮制御の補正誤差が大きいために、ターゲットトラック(目標のトラック)に到達してから定常状態に落ち着くまでのシークセトリング特性が悪く見える。
【0045】
しかしながら、最外周トラック位置(符号1a)とDCオフセット電流値が最大となるトラック位置(符号1b)が、同期成分圧縮制御の同一エリア内でない場合、ターゲットトラック(目標トラック)近傍で最適化された同期成分圧縮制御のための補正情報に切替えることで、補正誤差を小さくできる。その結果、シークセトリング特性を改善できる。
【0046】
次に、この第1の実施形態に係る磁気ディスク装置1の動作について説明する。
図6は、この第1の実施形態に係る磁気ディスク装置1の動作を示したフローチャートである。
【0047】
初めに、スピンドルモータ制御手段104は、スピンドルモータドライバ49へ制御信号を出力して、スピンドルモータ110を回転させる。このスピンドルモータ110の回転に伴い磁気ディスク20も回転する。
【0048】
次に、VCM制御手段105は、VCMドライバ47へ制御信号を出力して速度制御を行い、磁気ヘッド80を目的のトラックへ移動させる。次に、磁気ヘッド制御手段106は、磁気ディスク20のサーボデータ領域に記録されたシリンダ番号から磁気ヘッド80が目的のトラックへ移動したかを確認する。次に、磁気ヘッド制御手段106は、磁気ディスク20のサーボデータ領域に記録されたバーストデータに基づき、磁気ヘッド80がオントラックするようにサーボ制御(位置制御)する。
【0049】
測定手段101は、磁気ヘッド制御手段106のサーボ制御により磁気ヘッド80がオントラックした時のDCオフセット電流値を測定する(ステップS11)。次に、測定手段101は、このDCオフセット電流値をトラックのシリンダ番号とともにメモリ42に記録(保持)する。
【0050】
同様にして、測定手段101は、磁気ヘッド制御手段106のサーボ制御により磁気ヘッド80がオントラックした時のDCオフセット電流値を、磁気ディスク20の総トラック数の数百分の1の間隔で測定する。
【0051】
次に、エリア設定手段102は、DCオフセット電流値を測定した各トラック間におけるDCオフセット電流値差分(DCオフセット電流値の変化量)の絶対値difI[k]を磁気ディスク20の全周(径方向)にわたって算出する(ステップS12)。具体的には、エリア設定手段102は、次の(7)式を計算する。
difI[k]=|I[k]−I[k−1]|…(7)
【0052】
なお、DCオフセットの測定シリンダをC[k](k=1、2、・・・、n)とし、そのときのDCオフセット電流値をI[k](k=1、2、・・・、n)とする。kは、DCオフセット電流値を測定したトラックのシリンダ番号である。また、difI[1]=0である。
【0053】
なお、差分の絶対値を算出するのは、差分を積算した際に単調増加させて、磁気ディスク20上に境界を設定する際に、DCオフセット電流値の変化の範囲が同一となる同期成分圧縮制御の切替えエリアを重複して設定するのを避けるためである。なお、(7)式にように差分の絶対値を計算するのではなく、この差分を二乗した値を積算しても良い。この場合でも、積算値は単調増加する。
【0054】
次に、エリア設定手段102は、前記DCオフセット電流値の変化量の絶対値を磁気ディスク20の全周(径方向)にわたって積算し、その総和total_difIを算出する(ステップS13)。具体的には、次の(8)式を計算する。
total_difI=sum_difI[n]…(8)
【0055】
ここで、sum_difI[k]は、以下の(9)式を満たす。
【数7】

【0056】
次に、エリア設定手段102は、DCオフセット電流値の変化量の絶対値を磁気ディスク20の全周にわたって積算した総和total_difIを、同期成分圧縮エリア数で等分割し、分割した各領域を同期成分圧縮の切替えエリアに設定する(ステップS14)。ここでは、磁気ディスク20の同期成分圧縮制御の切替えエリアの境界となるトラックが設定される。
【0057】
具体的には、次の(10)式から(12)式を満たすシリンダ番号のトラックを各同期成分圧縮制御の切替えエリアの境界として設定する。なお、境界に設定されたトラックのシリンダ番号は、同期成分圧縮制御の切替えエリアに対応づけてメモリ42に記録(保持)される。
【0058】
=C[1] …(10)
=C[n] …(11)
=C[kq]…(12)
【0059】
(10)式は、最外周トラックが境界として設定されることを意味する。また、(11)式は、最内周トラックが境界として設定されることを意味する。また、(12)式のkqは、次の(13)式、(14)式を満たす整数である。
sum_difI[kx]≧(total_difI/p×q) …(13)
kq=min(kx) …(14)
【0060】
ここで、pは、磁気ディスク20に設定される同期成分圧縮制御の切替えエリア数である。qは、正の整数であり、1からp−1の整数値をとる。また、kxは、1からnの整数値をとる。また、min(x)は、xの最小値を意味する。
【0061】
(13)、(14)式は、差分の絶対値を積算した総和を同期成分圧縮制御の切替えエリア数で除算した値にpを積算した値total_difI/p×qと、シリンダ番号がC[k]のトラックでの差分の絶対値の積算値sum_difI[kx]とを比較し、積算値sum_difI[kx]が、total_difI/p×q以上となるトラックの内、値の最も小さいシリンダ番号に対応するトラック(最外周側トラック)を磁気ディスク20の境界として設定することを意味する。そして、この比較は、qの値を1からp−1まで変化させて行われる。
【0062】
なお、(13)式、(14)式の代わりに、以下の(15)式、(16)式を使用しても良い。
sum_difI[kx]≧(total_difI/p)×q …(15)
kq=max(kx) …(16)
ここでmax(x)は、xの最大値を意味する。
【0063】
この場合、total_difI/p×qと、sum_difI[kx]とを比較し、積算値sum_difI[kx]が、total_difI/p×q以下となるトラックの内、値の最も大きいシリンダ番号に対応するトラック(最内周側トラック)を磁気ディスク20の境界として設定することを意味する。
【0064】
図7は、同期成分圧縮制御の切替えエリア数が5の場合の実施例を示した図である。図7において、番号6は、DCオフセット電流値の変化量(差分の絶対値)を外周側から全周にわたって積算したプロットを示しており、最内周での値が総和となる。また符号A乃至Eは、磁気ディスク20に設定された同期成分圧縮制御の切替えエリア(領域)である。
【0065】
DCオフセット電流値の変化量(差分の絶対値)を磁気ディスク20の全周(径方向)にわたって積算した総和を、同期成分圧縮制御の切替えエリア数で等分割すると、符号C〜符号C(領域A)、符号C〜符号C(領域B)、符号C〜符号C(領域C)、符号C〜符号C(領域D)、符号C〜符号C(領域E)がそれぞれ分割された領域となる。この分割領域を同期成分圧縮制御の切替えエリアとして設定することで、同一エリア内での同期成分圧縮制御の補正誤差の影響を抑制でき、良好なシークセトリング特性が期待できる。
【0066】
補正値設定手段103は、エリア設定手段102により設定されたエリア毎に、同期成分圧縮制御のためのフィードフォワード操作量を補正情報として設定し、メモリ42に記録する。また、このエリア設定手段102による同期成分圧縮制御の切替えエリアの設定情報は、磁気ディスク装置1の製造工程において固体毎に実施され、この最適化された同期成分圧縮制御の切替えエリアの設定は、不揮発性メモリであるメモリ42に保持される。
【0067】
磁気ヘッド制御手段106は、補正値設定手段103により同期成分圧縮制御の切替えエリア毎に設定された補正情報に基づき、磁気ヘッド80を目的のトラックへ移動させる。なお、この実施形態では、磁気ディスク20の外周側から内周側に向かってシリンダ番号を付与しているが、逆に内周側から外周側に向かってシリンダ番号を付与しても良い。
【0068】
以上のように、第1の実施形態に係る磁気ディスク装置1は、同期成分圧縮制御の切替えエリア数が固定の場合に、DCオフセット電流値に基づき同期成分圧縮制御の切替えエリアを設定している。このため、同一エリア内の全トラック間での補正誤差を低減できる。その結果、シークセトリング特性を改善できる。また、エリア数を増やす必要がないので、メモリ42の使用容量を抑制できる。
【0069】
(その他の実施形態)
本発明の実施形態は上記の実施形態に限られず拡張、変更可能であり、拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。例えば、第1の実施形態では、磁気ディスク20に設定するエリア数が5の場合について説明した。しかし、磁気ディスク20に設定する同期成分圧縮制御の切替えエリア数は5に限られず、磁気ディスク20に設定する同期成分圧縮制御の切替えエリア数を10としても良い。
【0070】
図8は、磁気ディスク20を10の同期成分圧縮制御の切替えエリア1A乃至1Jに分けた場合を示している。図8において、番号7は、DCオフセット電流値の変化量(差分の絶対値)を外周側から全周にわたって積算したプロットを示しており、最内周での値が総和となる。また符号A乃至Jは、磁気ディスク20に設定された同期成分圧縮制御の切替えエリア(領域)である。
【0071】
DCオフセット電流値の変化量(差分の絶対値)を全周にわたって積算した総和を、同期成分圧縮制御の切替えエリア数で等分割すると、符号C〜符号C(領域A)、符号C〜符号C(領域B)、符号C〜符号C(領域C)、符号C〜符号C(領域D)、符号C〜符号C(領域E)、符号C〜符号C(領域F)、符号C〜符号C(領域G)、符号C〜符号C(領域H)、符号C〜符号C(領域I)、符号C〜符号C10(領域J)がそれぞれ分割された領域となる。この分割領域を同期成分圧縮制御の切替えエリアとして設定することで、同一エリア内での同期成分圧縮制御の補正誤差の影響を抑制でき、良好なシークセトリング特性が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】第1の実施形態に係る磁気ディスク装置の概略構成図である。
【図2】第1の実施形態に係る磁気ディスク装置の構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施形態に係る磁気ディスク装置の機能ブロック図である。
【図4】第1の実施形態に係る磁気ディスク装置によるヘッド位置決め制御を説明するための図である。
【図5】磁気ディスク装置1の磁気ヘッドの位置とDCオフセット電流の関係を示した図である。
【図6】第1の実施形態に係る磁気ディスク装置の動作を示したフローチャートである。
【図7】同期成分圧縮制御の切替えエリア数が5の場合の実施例である。
【図8】同期成分圧縮制御の切替えエリア数が10の場合の実施例である。
【符号の説明】
【0073】
1…磁気ディスク装置、10…筺体、20…磁気ディスク、30…ランプロード、40…制御部、41…ROM、42…メモリ、43…CPU、44…リード/ライト回路、45…位置データ生成回路、46…D/Aコンバータ、47…VCMドライバ、48…D/Aコンバータ、49…スピンドルモータドライバ、50…VCM、60…回転軸、70…スイングアーム、80…磁気ヘッド、90…スピンドル、100…FPC、101…測定手段、102…エリア設定手段、103…補正情報設定手段、104…スピンドルモータ制御手段、105…VCM制御手段、110…スピンドルモータ、120…ラッチ機構、200…フィードフォワード制御系、201…偏心成分検出部、202…FW制御部、203…位置誤差検出部、204…制御要素(Fb)、205…加算部、206…制御対象(Ps)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク回転に同期した位置誤差成分を補正する同期成分圧縮制御の切替えエリア最適化方法であって、
DCオフセット電流値に基づき、エリア数が固定されている同期成分圧縮制御の切替えエリアを設定するステップ
を具備することを特徴とする同期成分圧縮制御の切替えエリア最適化方法。
【請求項2】
前記ディスクの各トラック間におけるDCオフセット電流値の差分である変化量の絶対値を所定の間隔で算出するステップと、
前記算出したDCオフセット電流値の変化量の絶対値の総和を算出するステップと、
前記総和を、前記同期成分圧縮制御の切替えエリア数で等分割するステップと、
前記分割した値に基づいて前記ディスクの各領域を前記同期成分圧縮の切替えエリアとして設定するステップと
を具備することを特徴とする請求項1に記載の同期成分圧縮制御の切替えエリア最適化方法。
【請求項3】
前記同期成分圧縮制御の切替えエリアの設定情報を、製造工程において不揮発性メモリに保持することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の同期成分圧縮制御の切替えエリア最適化方法。
【請求項4】
前記分割した値に基づいて前記ディスクの各領域を前記同期成分圧縮制御の切替えエリアとして設定するステップは、
任意のトラックにおける前記DCオフセット電流値の変化量の絶対値を積算した値が、前記分割した値以上となるトラックの内、最外周側のトラックを前記同期成分圧縮制御の切替えエリアの境界として設定するステップを具備することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の同期成分圧縮制御の切替えエリア最適化方法。
【請求項5】
前記分割した値に基づいて前記ディスクの各領域を前記同期成分圧縮の切替えエリアとして設定するステップは、
任意のトラックにおける前記DCオフセット電流値の変化量の絶対値を積算した値が、前記分割した値以下となるトラックの内、最内周側のトラックを前記同期成分圧縮制御の切替えエリアの境界として設定するステップを具備することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の同期成分圧縮制御の切替えエリア最適化方法。
【請求項6】
DCオフセット電流値に基づき、エリア数が固定されているディスク回転に同期した位置誤差成分を補正する同期成分圧縮制御の切替えエリアを設定するエリア設定手段を具備することを特徴とする磁気ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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