説明

同期機の磁極位置検出装置

【課題】直流電圧源の直流電圧の変動に拘わらず所望の磁極位置検出精度が得られる同期機の磁極位置検出装置を得ることを目的とする。
【解決手段】演算手段2aは、直流電圧源5の直流電圧の変動に拘わらず所望の磁極位置検出精度が得られるよう、パルス幅決定部22aにより直流電圧検出値Vdcに応じてパルス幅tpおよびパルス休止幅tnをtpおよびtnの関係式に基づき変化させるようにするとともに、サンプリングタイミングは直流電圧検出値Vdcに拘わらず各電圧ベクトルのパルス幅tp終端時点に固定するよう制御するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、同期電動機/同期発電機の磁極位置を、位置検出器を用いることなく、簡易、確実、かつ高精度に検出することができる同期機の磁極位置検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この同期機の磁極位置を検出する場合、回転子の電気角(磁極位置)をエンコーダ等の位置検出器を用いて直接検出するものがある。しかし、回転子の回転角を直接検出するには、位置検出器等の磁極位置検出専用のセンサを同期機に付加する必要があり、装置構成の規模が大きくなるとともに、経済性が悪いという欠点をもたらす。このため、位置検出器を用いないで同期機の磁極位置を検出する装置が提案されている。
【0003】
位置検出器を用いないで同期機の磁極位置を検出する方式として、例えば、同期機の誘起電圧を利用したものや、同期機の突極性を利用した方式などがある。
誘起電圧を利用した位置センサレス制御は、速度ゼロでは誘起電圧もゼロであるため、正しく回転子位置を推定することが出来ない。また、突極性を利用した方式は、磁極位置推定に利用する突極性が磁極位置の2倍の周期で変わるため、推定位置も磁極位置の2倍の周期となる。即ち、推定位置は同期機の磁極位置が0〜180度と180〜360度において、同じ値となって磁極位置を確実に検出するという点で十分とは言えない。
【0004】
従って、少なくとも同期機を速度ゼロ付近から起動するときは、突極性を利用した方式以外に、別途同期機の磁極位置情報を推定する方式が必要である。その方式として、例えば、特許文献1のような同期機の磁気飽和を利用したものがある。
これは、互いに振幅が等しくかつ等間隔の位相の2n(nは相数で3以上の自然数)個の電圧ベクトルを同期機に印加したとき、位相が互いに180度異なる各一対の電圧ベクトル印加時に流れる電流検出値を互いに加算した加算電流値から磁極位置を検出するもので、この電圧ベクトルの印加により同期機が磁気飽和状態となることが前提となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4271397号公報(10頁18行〜13頁50行、段落0045〜0065、図1〜5、7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の磁極位置検出法を用いる場合、前述したように、同期機が磁気飽和するに十分な電流を流す必要がある。これは、磁気飽和が発生していないと、磁極位置に近い位相の電圧ベクトルを印加したときに流れる電流が磁極位置に近い位相に対して180度位相が異なる電圧ベクトルを印加したときに流れる電流と等しいが、磁気飽和が発生すると、前者が後者より大きくなり、この差電流から磁極位置の検出が可能になるという原理を利用しているからである。
そのために、必要な磁極位置検出精度を補償する磁気飽和状態が得られるよう、同期機に印加する電圧ベクトル指令の印加時間を予め調整設定しておく必要がある。
【0007】
ところで、この電圧ベクトルを発生させる電力変換器への直流電圧源の電圧値が一定でない製品用途においては、この電圧ベクトル印加時間を設定することが困難になる場合があった。例えば、電気鉄道用電力変換器の場合には、この直流電圧は、軌道上に設置された架線と、車両上のパンタグラフを介して供給されるものである。この場合、直流電圧は、同一架線区間に存在する車両の走行状態と変電所容量に大きく依存して時々刻々変動する。
【0008】
直流電圧が低い場合には、電圧ベクトル印加による通電が十分でなくなり、同期機に対し十分な磁気飽和状態を与えられなくなり、電流値に含まれる磁極位置情報が小さくなり、磁極位置検出精度が劣化する問題がある。この状況を回避するには電圧ベクトル印加時間を長くする必要があるが、逆に直流電圧が過度に大きくなると、磁気飽和が広範囲に及び磁極位置検出精度が却って低下する傾向となる。
【0009】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、前記直流電圧源の直流電圧の変動に拘わらず所望の磁極位置検出精度が得られる同期機の磁極位置検出装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明に係る同期機の磁極位置検出装置は、直流電圧源の直流電圧を電圧ベクトル指令に基づく電圧ベクトルに変換してn(nは3以上の自然数)相の巻線を有する同期機に印加する回路手段と、同期機の各相巻線に流れる電流を検出する電流検出手段と、所定のパルス幅を有する複数個の電圧ベクトルを演算して回路手段に出力するとともに電流検出手段からの電流検出値を電圧ベクトル指令に基づく所定のサンプリングタイミングで取り込む演算手段とを備え、
更に、演算手段は、電圧ベクトル指令に基づく各電圧ベクトルを同期機に印加したときに得られる複数の電流値に基づき同期機の停止時における磁極位置を検出するようにした同期機の磁極位置検出装置において、
直流電圧源は、軌道の近傍に設置された架線に給電された電圧を入力とし、車両側の集電装置を介して得られる直流電圧を回路手段に出力し、
直流電圧源が出力する直流電圧を検出する直流電圧検出手段を備え、
演算手段は、直流電圧検出値に応じてパルス幅を変化させるようにするとともに、サンプリングタイミングが直流電圧検出値に拘わらず各電圧ベクトルのパルス幅終端時点に固定するようパルス幅およびサンプリングタイミングを制御し、
パルス幅をtp、時間的に隣り合う電圧ベクトルの間隔幅からパルス幅tpを差し引いたパルス休止幅をtn、直流電圧検出値をVdc、基準となる定格直流電圧値をVdcnominal、基準となる定格パルス幅をtpnominalとしたとき、
演算手段は、下式に基づき、パルス幅tpおよびパルス休止幅tnを制御するようにしたものである。
tp=tpnominal×Vdcnominal/Vdc
tn=tp×kn
但し、knは定数。
【0011】
第2の発明に係る同期機の磁極位置検出装置は、直流電圧源の直流電圧を電圧ベクトル指令に基づく電圧ベクトルに変換してn(nは3以上の自然数)相の巻線を有する同期機に印加する回路手段と、同期機の各相巻線に流れる電流を検出する電流検出手段と、所定のパルス幅を有する複数個の電圧ベクトルを演算して回路手段に出力するとともに電流検出手段からの電流検出値を電圧ベクトル指令に基づく所定のサンプリングタイミングで取り込む演算手段とを備え、
更に、演算手段は、電圧ベクトル指令に基づく各電圧ベクトルを同期機に印加したときに得られる複数の電流値に基づき同期機の停止時における磁極位置を検出するようにした同期機の磁極位置検出装置において、
直流電圧源は、軌道の近傍に設置された架線に給電された電圧を入力とし、車両側の集電装置を介して得られる直流電圧を回路手段に出力し、
直流電圧源が出力する直流電圧を検出する直流電圧検出手段を備え、
演算手段は、直流電圧検出値に応じてパルス幅を変化させるようにするとともに、サンプリングタイミングが直流電圧検出値に拘わらず各電圧ベクトルのパルス幅終端時点に固定するようパルス幅およびサンプリングタイミングを制御し、
直流電圧源の直流電圧と所望の磁極位置検出精度が得られるパルス幅との関係特性を予め実験または解析により求めておき、
演算手段は、直流電圧検出値に応じて関係特性からパルス幅を求めるようにしたものである。
【0012】
第3の発明に係る同期機の磁極位置検出装置は、直流電圧源の直流電圧を電圧ベクトル指令に基づく電圧ベクトルに変換してn(nは3以上の自然数)相の巻線を有する同期機に印加する回路手段と、同期機の各相巻線に流れる電流を検出する電流検出手段と、所定のパルス幅を有する複数個の電圧ベクトルを演算して回路手段に出力するとともに電流検出手段からの電流検出値を電圧ベクトル指令に基づく所定のサンプリングタイミングで取り込む演算手段とを備え、
更に、演算手段は、電圧ベクトル指令に基づく各電圧ベクトルを同期機に印加したときに得られる複数の電流値に基づき同期機の停止時における磁極位置を検出するようにした同期機の磁極位置検出装置において、
直流電圧源は、軌道の近傍に設置された架線に給電された電圧を入力とし、車両側の集電装置を介して得られる直流電圧を回路手段に出力し、
直流電圧源が出力する直流電圧を検出する直流電圧検出手段を備え、
演算手段は、パルス幅は直流電圧検出値に拘わらず一定値に制御するとともに、直流電圧源の直流電圧とパルス幅内で所望の磁極位置検出精度が得られるサンプリングタイミングとの関係特性を予め実験または解析により求めておき、直流電圧検出値に応じて関係特性からサンプリングタイミングを求めるようにしたものである。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明に係る同期機の磁極位置検出装置の演算手段は、上記のように構成されているため、直流電圧検出手段からの直流電圧検出値に基づきパルス幅およびサンプリングタイミングをtpおよびtnの関係式に基づき適正に制御することで、直流電圧源の直流電圧の変動に拘わらず所望の磁極位置検出精度が得られる。
【0014】
第2の発明に係る同期機の磁極位置検出装置の演算手段は、上記のように構成されているため、直流電圧検出手段からの直流電圧検出値に基づきパルス幅およびサンプリングタイミングを予め求めた関係特性に基づき適正に制御することで、直流電圧源の直流電圧の変動に拘わらず所望の磁極位置検出精度が得られる。
【0015】
第3の発明に係る同期機の磁極位置検出装置の演算手段は、上記のように構成されているため、直流電圧検出手段からの直流電圧検出値に基づきパルス幅を一定としサンプリングタイミングを予め求めた関係特性に基づき適正に制御することで、直流電圧源の直流電圧の変動に拘わらず所望の磁極位置検出精度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1による同期機の磁極位置検出装置の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1による演算手段2aにおける電圧ベクトル指令の出力タイミングと電流検出値のサンプリングタイミングとの関係を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1による磁極位置検出の原理となる検出電流の処理後の加算電流値Δiu、Δiv、Δiwと磁極位置との関係を示す特性図である。
【図4】本発明の実施の形態1における演算手段2aの内部構成図である。
【図5】本発明の実施の形態2による同期機の磁極位置検出装置の構成図である。
【図6】本発明の実施の形態2における演算手段2bの内部構成図である。
【図7】本発明の実施の形態2による演算手段2bにおける電圧ベクトル指令の出力タイミングと電流検出値のサンプリングタイミングとの関係を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態2における、電圧ベクトル指令としてスイッチングモード「V1」または「V4」を出力した場合のu相電流の、パルス幅tp内での変化を示す図である。
【図9】図8のu相電流の特性に対し、スイッチングモード「V1」印加時のu相電流とスイッチングモード「V4」印加時のu相電流とから求めるS/N比を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による同期機の磁極位置検出装置の概略構成を示すブロック図である。同期機1に対して供給される電力の流れについて説明すると、直流電圧源5の直流電圧出力が回路手段3へ入力され、回路手段3はこれを直流から多相交流に電力変換して同期機1に交流電力を供給する。
【0018】
ここで、同期機1は、多相、具体的には、n(nは3以上の自然数)相の巻線を有する、例えば、回転子に永久磁石を配置した同期電動機あるいは同期発電機である。また、回路手段3は、IGBT等の半導体のスイッチ31〜36をブリッジ接続してなるPWMインバータ等の電力変換器からなり、直流電圧源5からの直流電圧を多相交流に変換して同期機1に出力する。
【0019】
直流電圧源5は、軌道上に設置された架線に給電される直流電圧を、車両上のパンタグラフおよびリアクトルとコンデンサからなるフィルタを介して回路手段3に出力する。
そして、この直流電圧源5の直流電圧は、既述したように、同一架線区間に存在する車両の走行状態と変電所容量に大きく依存して時々刻々変動することになり、この電圧変動を加味した制御が本願発明の要旨となるが、これについては後段で詳述するものとする。
【0020】
先ず、図1の構成に基づき、磁極位置検出の動作原理について説明する。
演算手段2aは、回路手段3に対して電圧ベクトル指令を出力する。電圧ベクトル指令とは、具体的には回路手段3が具備する複数の電力変換半導体スイッチ31〜36のON、OFF指令の組み合わせであり、例えば、次のように9つのスイッチングモード「V0」〜「V8」を有し、定義される。
【0021】
「V0」:全てのスイッチをオフ
「V1」:31、35、36をオン、他をオフ
「V2」:31、32、36 〃
「V3」:34、32、36 〃
「V4」:34、32、33 〃
「V5」:34、35、33 〃
「V6」:31、35、33 〃
「V7」:31、32、33 〃
「V8」:34、35、36 〃
【0022】
例えば、電圧ベクトル指令として、スイッチングモード「V0」⇒「V1」⇒「V0」⇒「V2」⇒「V0」⇒「V3」⇒「V0」⇒「V4」⇒「V0」⇒「V5」⇒「V0」⇒「V6」のように順番に印加し、そのときに、同期機1の各相(U相、V相、W相)に流れる電流の大きさを示したのが図2である。
演算手段2aには、電流検出手段4によって取得される各相電流iu、iv、iwが入力され、スイッチングモード「V1」によって印加される電圧ベクトルの印加終了時をサンプリングタイミングとして、iu、iv、iwの値をiu1、iv1、iw1としてサンプルし、記憶する。同様に、引き続いて、各スイッチングモードによる電圧ベクトル印加終了時のサンプリングタイミングでの各相電流値を記憶する。図2の各相電流特性上に示した丸印の値が相当する。
【0023】
サンプル電流値の名称を、表1のように定義する。
【0024】
【表1】

【0025】
電圧ベクトル指令として、各スイッチングモード「V1」「V2」「V3」「V4」「V5」「V6」により印加される電圧ベクトルのパルス幅tpは互いに等しく与えられ、各電圧ベクトル間に挿入される全スイッチオフ期間「V0」の長さに相当するパルス休止幅tnは、電流が0に整定する時間を加味して与えられる。
【0026】
スイッチングモード「V1」と「V4」とによって印加される電圧ベクトルは、同期機1にとっては丁度180度反転した方向、U相に対して正および負の電圧ベクトルの対となり、そのときに発生するu相電流iu1およびiu4は、同期機1のインダクタンスの飽和がなければ、大きさが同じで符号が逆の関係になる。すなわち、次の(1)式により加算電流値Δiuを定義すると0になる。
【0027】
Δiu=iu1+iu4 ・・・(1)
【0028】
しかし、飽和状態となると、永久磁石を有する同期機1においては、磁石磁束の影響により電圧印加の正負方向によって磁気飽和の状況が異なることから、iu1とiu4との大きさが異なってくる。すなわち、加算電流値Δiuは0でなく、磁極方向に応じた値を持つことになる。
【0029】
同様に、v相電流、w相電流について、下式のように、加算電流値Δiv、Δiwを定義する。
【0030】
Δiv=iv3+iv6 ・・・(2)
Δiw=iw5+iw2 ・・・(3)
【0031】
図2のように、電圧ベクトル指令のスイッチングモードとして、「V1」〜「V6」の順序で電圧ベクトルを印加した場合における、磁極位置θに対する加算電流値Δiu、Δiv、Δiwの変化を示した例が図3である。上記で述べたとおり、磁極位置に応じた磁気飽和の状況変化から、加算電流値Δiu、Δiv、Δiwが磁極位置θに応じた特性を持つ。
【0032】
演算手段2aにおいては、図3の特性変化を利用して、磁極位置の検出を行う。具体的には、表2に示すように、加算電流値Δiu、Δiv、Δiwの絶対値のうち、いずれが最大となるか、またその最大を示した信号の符号が正か負か、に注目することで、実際の磁極位置の60度毎の存在区間mを検出することが可能となる。
【0033】
【表2】

【0034】
図4は、この発明の実施の形態1による同期機の磁極位置検出装置における演算手段2aの内部構成を示すブロック図である。
この実施の形態1は、上述した動作原理で磁極位置を検出する場合に、各電圧ベクトルのパルス幅tpを、直流電圧検出手段6によって検出される直流電圧源5の直流電圧値に応じて変化させるようにしたものである。
【0035】
図4において、パルス幅決定部22aは、パルス幅tp[sec]、パルス休止幅tn[sec]を、直流電圧検出手段6によって検出された直流電圧検出値Vdcに応じて決定する。
例えば、下式のように、パルス幅tp、パルス休止幅tnを与える。
【0036】
tp=tpnominal×Vdcnominal/Vdc ・・(4)
tn=tp×kn ・・(5)
【0037】
ここで、
Vdcnominal:基準となる定格直流電圧値
tpnominal:基準となる定格パルス幅
kn:休止幅設定係数
である。
【0038】
すなわち、パルス幅tpを、実際の直流電圧検出値Vdcの大きさに反比例させて設定し、直流電圧検出値Vdcが定格直流電圧値Vdcnominalより小さい場合にはパルス幅tpを大きく、逆に、直流電圧検出値Vdcが定格直流電圧値より大きい場合には、パルス幅tpを小さく設定する。また、knは、パルス休止幅tnのパルス幅tpに対する比であり、同期機1の定数や主回路特性に左右される、電圧パルス印加終了後の電流減衰時間を加味して、概略1〜1.5程度とする。
電圧指令生成手段21aは、こうしてパルス幅決定部22aから出力されたパルス幅tp、パルス休止幅tnに基づいて、スイッチングモード「V1」「V2」「V3」「V4」「V5」「V6」および休止モード「V0」による電圧ベクトルを、各期間幅で出力する。
【0039】
一方、磁極位置検出手段23aでは、上記のとおり期間を設定された各パルス幅の印加終了時をサンプリングタイミングとして、電流検出手段4からの電流検出値をサンプリングし、表1の電流値を記録し、これに基づいて表2の判定を実施して磁極位置判定値を出力する。
【0040】
なお、以上の説明においては、パルス幅tp、パルス休止幅tnを、式(4)、式(5)のように関数化して置いたが、直流電圧検出値の減少(増加)に応じて、パルス幅を増加(減少)させる特性であれば他の関数や、テーブル化された特性を参照使用しても良い。
実際の同期機1の磁気飽和特性は複雑であり、パルス幅tpの長さと、同期機1に流れる電流値のピークとは完全に比例するものではなく、また直流電圧検出値に完全に反比例するものでもない。よって、Vdcとtpとiu、iv、iwの関係を、事前に電磁界解析や、実機試験によって記録し、これに基づいて製品に実装するtpの対Vdc関係特性を決定し、関数化やテーブル化してパルス幅決定部22aに実装するとなお好適である。
【0041】
以上の実施の形態1によると、パルス幅tpを、直流電圧検出値Vdcに応じて決定するため、直流電圧検出値Vdcが定格直流電圧値より小さい場合には、パルス幅tpを長くすることで、磁気飽和に十分な相電流を同期機1に発生させることができ、磁極位置検出のS/N比を改善し、磁極位置の検出精度を改善する効果を得ることができる。
また、直流電圧検出値Vdcが定格直流電圧値より大きい場合には、パルス幅tpを縮めることで、磁気飽和が過度に広範囲に及び磁極位置検出精度が低下することを防止することができる。また、相電流が流れ過ぎて主回路の保護に至るということも回避され磁極位置検出を安定に実行できるという効果を得ることができる。
【0042】
実施の形態2.
図5は、本発明の実施の形態2による同期機の磁極位置検出装置の概略構成を示すブロック図である。演算手段2bの内容以外については実施の形態1の同期機1、回路手段3、電流検出手段4、直流電圧源5、直流電圧検出手段6と同等であり、その説明を省略する。
【0043】
演算手段2bの内部構成を図6に示す。演算手段2bは、電圧指令生成手段21b、磁極位置検出手段23b、サンプリングタイミング決定部24bから成る。
電圧指令生成手段21bは、実施の形態1の電圧指令生成手段21aと同様に、スイッチングモードとして「V0」および表1に示した「V1」「V2」「V3」「V4」「V5」「V6」を出力するが、パルス幅tp、パルス休止幅tnの設定については、直流電圧検出値Vdcに依らず一定に設定する。
【0044】
一方で、サンプリングタイミング決定部24bは、スイッチングモード「V1」「V2」「V3」「V4」「V5」「V6」が電圧ベクトル指令として回路手段3に出力され電流検出手段4に電流が流れ始めてからts秒の時点をサンプリングタイミングとして、磁極位置検出手段23bにサンプリング指令を出力し、磁極位置検出手段23bでは、その時点の電流検出値をサンプルして記憶し、表1のiu1、iv1、iw1〜iu6,iv6,iw6を順番に記憶する。
【0045】
この動作を示したのが図7である。サンプリングタイミング決定部24bにおけるtsの決定方法について以下に説明する。
図8は、磁極位置θ=0[deg]のときに、電圧ベクトル指令として、スイッチングモード「V1」「V4」を印加したときのu相電流の絶対値の挙動を示す模式図である。それぞれについて直流電圧検出値Vdcが130%の場合と70%の場合について、横軸をパルス印加時間(パルス幅)として示している。
【0046】
スイッチングモード「V1」「V4」は既に述べたとおり、電圧の位相角としてはu相に沿って正反対の向きであり、このときに発生するu相電流は、互いに符号が逆になる。そして、磁極による磁気飽和がなければ同じ大きさの電流となるが、実際には、磁極による磁気飽和の影響によって、図8に示すように、「V1」印加時と「V4」印加時とでは電流の大きさが異なってくる。これを利用して、磁極位置の検出が可能となる訳であるが、ここで、直流電圧検出値Vdcが定格値より大きい場合、パルス印加後、電流が大きくなり、より早く磁気飽和の影響が現れる。同期機1が有する磁気飽和特性にも依存するが、一例としては、図8のように、パルス印加時間ts130[sec]のときに、電圧指令「V1」印加時と「V4」印加時との差が極大化する。S/N比の指標として、分子を(「V1」印加時の|iu|−「V4」印加時の|iu|)、分母を「V1」印加時の|iu|としたときの一例を図9に示す。
この例では、Vdc=130%時には、パルス印加時間がts130[sec]の時点で電流をサンプリングし、これをiu1、iu4とすると、最もS/N比が高く、ひいては磁極検出精度が最良となることが分かる。
【0047】
一方、直流電圧検出値Vdcが小さく、例えば、定格値の70%のときには、これに応じて発生電流が小さくなり、磁気飽和の影響が現れるのにより時間がかかる。図8、図9の例では、ts130より長い時間であるts70のタイミングで磁気飽和の影響が顕著になるため、このタイミングでサンプリングした電流検出値をiu1、iu4として磁極位置検出手段23bに記録すれば、検出S/N比が最良となる。よって、予め、事前に電磁界解析や、実機試験によって、直流電圧検出値Vdcの各値毎に、S/N比が最良となるサンプリングタイミングtsを取得しておき、これを、直流電圧検出値とサンプリングタイミングとの関係特性としてサンプリングタイミング決定部24bに実装しておき、実際の運転時には、直流電圧検出値Vdcに応じてサンプリングタイミングtsを決定して磁極位置検出手段23bにて電流をサンプリングすれば、電圧指令生成手段21bが出力する電圧指令のパルス幅tpおよびパルス休止幅tnが固定であっても、磁極位置検出の精度を最良に維持した動作となる。
【0048】
以上の実施の形態2によると、電流検出値のサンプリングタイミングtsを直流電圧検出値Vdcの変化に応じ、磁極による磁気飽和の影響が必要十分に現れたタイミングでS/N比の良い電流検出値のサンプリングが可能となるため、磁極位置検出のS/N比を高いレベルに保ち、磁極位置の検出精度を改善する効果を得ることができる。
また、直流電圧検出値Vdcに依らずパルス幅tpとパルス休止幅tsは固定とするため、磁極位置検出に必要な全体の時間は直流電圧検出値Vdcに依らず一定となるため、磁極位置検出結果を用いる後段の演算処理や、並行して動作させる演算処理との連携動作の設計がし易いという効果も得られる。
なお、図8および図9によって説明した、S/N比が最適となるサンプリングタイミングtsの決定方法については、実施の形態1にも適用可能である。すなわち、実施の形態1ではパルス幅tpの印加終了時がサンプリングタイミングであるため、図8、図9にて説明したS/N比が最適となるタイミング時間を、予め、事前に電磁界解析や、実機試験によって、直流電圧検出値Vdcの各値毎に、S/N比が最良となるパルス幅tpを取得しておけば、磁極位置の検出精度をより改善する効果を得ることができる。
【0049】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 同期機、2a,2b 演算手段、3 回路手段、4 電流検出手段、
5 直流電圧源、6 直流電圧検出手段、31〜36 スイッチ、
21a,21b 電圧指令生成手段、22a パルス幅決定部、
23a,23b 磁極位置検出手段、24b サンプリングタイミング決定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧源の直流電圧を電圧ベクトル指令に基づく電圧ベクトルに変換してn(nは3以上の自然数)相の巻線を有する同期機に印加する回路手段と、前記同期機の各相巻線に流れる電流を検出する電流検出手段と、所定のパルス幅を有する複数個の電圧ベクトルを演算して前記回路手段に出力するとともに前記電流検出手段からの電流検出値を前記電圧ベクトル指令に基づく所定のサンプリングタイミングで取り込む演算手段とを備え、
更に、前記演算手段は、前記電圧ベクトル指令に基づく各電圧ベクトルを前記同期機に印加したときに得られる複数の電流値に基づき前記同期機の停止時における磁極位置を検出するようにした同期機の磁極位置検出装置において、
前記直流電圧源は、軌道の近傍に設置された架線に給電された電圧を入力とし、車両側の集電装置を介して得られる直流電圧を前記回路手段に出力し、
前記直流電圧源が出力する前記直流電圧を検出する直流電圧検出手段を備え、
前記演算手段は、直流電圧検出値に応じて前記パルス幅を変化させるようにするとともに、前記サンプリングタイミングが前記直流電圧検出値に拘わらず前記各電圧ベクトルの前記パルス幅終端時点に固定するよう前記パルス幅および前記サンプリングタイミングを制御し、
前記パルス幅をtp、時間的に隣り合う前記電圧ベクトルの間隔幅から前記パルス幅tpを差し引いたパルス休止幅をtn、前記直流電圧検出値をVdc、基準となる定格直流電圧値をVdcnominal、基準となる定格パルス幅をtpnominalとしたとき、
前記演算手段は、下式に基づき、前記パルス幅tpおよびパルス休止幅tnを制御するようにした同期機の磁極位置検出装置。
tp=tpnominal×Vdcnominal/Vdc
tn=tp×kn
但し、knは定数。
【請求項2】
直流電圧源の直流電圧を電圧ベクトル指令に基づく電圧ベクトルに変換してn(nは3以上の自然数)相の巻線を有する同期機に印加する回路手段と、前記同期機の各相巻線に流れる電流を検出する電流検出手段と、所定のパルス幅を有する複数個の電圧ベクトルを演算して前記回路手段に出力するとともに前記電流検出手段からの電流検出値を前記電圧ベクトル指令に基づく所定のサンプリングタイミングで取り込む演算手段とを備え、
更に、前記演算手段は、前記電圧ベクトル指令に基づく各電圧ベクトルを前記同期機に印加したときに得られる複数の電流値に基づき前記同期機の停止時における磁極位置を検出するようにした同期機の磁極位置検出装置において、
前記直流電圧源は、軌道の近傍に設置された架線に給電された電圧を入力とし、車両側の集電装置を介して得られる直流電圧を前記回路手段に出力し、
前記直流電圧源が出力する前記直流電圧を検出する直流電圧検出手段を備え、
前記演算手段は、直流電圧検出値に応じて前記パルス幅を変化させるようにするとともに、前記サンプリングタイミングが前記直流電圧検出値に拘わらず前記各電圧ベクトルの前記パルス幅終端時点に固定するよう前記パルス幅および前記サンプリングタイミングを制御し、
前記直流電圧源の直流電圧と所望の磁極位置検出精度が得られる前記パルス幅との関係特性を予め実験または解析により求めておき、
前記演算手段は、前記直流電圧検出値に応じて前記関係特性から前記パルス幅を求めるようにした同期機の磁極位置検出装置。
【請求項3】
直流電圧源の直流電圧を電圧ベクトル指令に基づく電圧ベクトルに変換してn(nは3以上の自然数)相の巻線を有する同期機に印加する回路手段と、前記同期機の各相巻線に流れる電流を検出する電流検出手段と、所定のパルス幅を有する複数個の電圧ベクトルを演算して前記回路手段に出力するとともに前記電流検出手段からの電流検出値を前記電圧ベクトル指令に基づく所定のサンプリングタイミングで取り込む演算手段とを備え、
更に、前記演算手段は、前記電圧ベクトル指令に基づく各電圧ベクトルを前記同期機に印加したときに得られる複数の電流値に基づき前記同期機の停止時における磁極位置を検出するようにした同期機の磁極位置検出装置において、
前記直流電圧源は、軌道の近傍に設置された架線に給電された電圧を入力とし、車両側の集電装置を介して得られる直流電圧を前記回路手段に出力し、
前記直流電圧源が出力する前記直流電圧を検出する直流電圧検出手段を備え、
前記演算手段は、前記パルス幅は直流電圧検出値に拘わらず一定値に制御するとともに、前記直流電圧源の直流電圧と前記パルス幅内で所望の磁極位置検出精度が得られる前記サンプリングタイミングとの関係特性を予め実験または解析により求めておき、前記直流電圧検出値に応じて前記関係特性から前記サンプリングタイミングを求めるようにした同期機の磁極位置検出装置。
【請求項4】
前記直流電圧源の直流電圧と前記パルス幅との関係特性は、既知の磁極位置に相当する電圧ベクトル印加時の電流検出値をi1、当該電圧ベクトルと位相が互いに180度異なる電圧ベクトル印加時の電流検出値をi2としたとき、下式に基づくS/N比が最大となるタイミングを前記直流電圧源の直流電圧に応じて予め実験または解析により求めた結果から作成するようにした請求項2記載の同期機の磁極位置検出装置。
S/N比=(|i1|−|i2|)/|i1|
【請求項5】
前記直流電圧源の直流電圧と前記サンプリングタイミングとの関係特性は、既知の磁極位置に相当する電圧ベクトル印加時の電流検出値をi1、当該電圧ベクトルと位相が互いに180度異なる電圧ベクトル印加時の電流検出値をi2としたとき、下式に基づくS/N比が最大となる前記パルス幅内でのタイミングを前記直流電圧源の直流電圧に応じて予め実験または解析により求めた結果から作成するようにした請求項3記載の同期機の磁極位置検出装置。
S/N比=(|i1|−|i2|)/|i1|
【請求項6】
前記軌道の近傍に設置された架線に給電された電圧は直流電圧であり、
前記直流電圧源は、前記架線に給電された直流電圧を入力とし、車両側の集電装置およびフィルタ回路を介して得られる直流電圧を回路手段に出力し、
前記直流電圧検出手段は、前記フィルタ回路を介して前記回路手段に出力される前記直流電圧を検出する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の同期機の磁極位置検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−66383(P2013−66383A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−5937(P2013−5937)
【出願日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【分割の表示】特願2012−521356(P2012−521356)の分割
【原出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】