説明

同軸ケーブルの製造方法、及び同軸ケーブル

【課題】簡便で環境負荷の少ない同軸ケーブルの製造方法、及び当該製造方法により製造される同軸ケーブルを提供する。
【解決手段】本発明に係る同軸ケーブル1の製造方法は、導体10と導体10の表面に形成された絶縁被覆層20とを有する絶縁被覆線2を準備する絶縁被覆線準備工程と、絶縁被覆層20の表面に、金属微粒子が分散したペーストを塗布する塗布工程と、ペーストを焼成してペーストが金属膜化したシールド層30を形成すると共に、金属膜化における金属微粒子ペースト焼成時の発熱により絶縁被覆層20の外表面を粗面化する焼成工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸ケーブルの製造方法、及び同軸ケーブルに関する。特に、本発明は、金属微粒子の焼結体からなるシールド層を備える同軸ケーブルの製造方法、及び同軸ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療機器、携帯電話等に極細の同軸ケーブルが広く用いられている。例えば、医療機器用プローブは、数十本から数百本の極細同軸ケーブルを束ねて構成され、次世代製品ではケーブルの取扱性、伝送特性等の向上が求められている。ケーブルの取扱性の向上には、プローブに用いられる極細同軸ケーブルの細径化、軽量化を要する。極細同軸ケーブルの細径化、軽量化には、極細同軸ケーブルが備えるシールド層の薄肉化が有効である。
【0003】
従来、中心導体の外周に、絶縁被覆層、シールド層を有する極細径同軸ケーブルにおいて、フッ素樹脂で構成され、表層部に表面処理による表面粗化層が形成された絶縁被覆層の表面に、金属ナノ粒子の焼結体で構成され、層厚が10μm未満のシールド層を設けた同軸ケーブルが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の同軸ケーブルは、上記構成を備えることによりシールド層の層厚が10μm未満であって、曲げ特性、すなわち、巻取性が良好な同軸ケーブルを得ることができる。
【0004】
また、従来、フッ素系樹脂からなる絶縁被覆層とシールド層との密着性を改善する方法を含む同軸ケーブルの製造方法として、中心導体の外周に絶縁体を被覆する絶縁体被覆工程と、当該絶縁体の表面をスパッタエッチング処理、エキシマレーザー照射処理、金属ナトリウム−ナフタレン錯体溶液浸漬処理等を用いて活性化処理する活性化処理工程と、活性化処理された絶縁体の表面にアンカー金属層を形成する無電解めっき工程と、形成されたアンカー金属層の外周に導電性金属層を形成する電気めっき工程とを備える同軸ケーブルの製造方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載の同軸ケーブルの製造方法は、上記各工程を経て同軸ケーブルを製造するので、屈曲性が向上した同軸ケーブルを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−294528号公報
【特許文献2】特開平6−187847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2に記載の同軸ケーブルは、例えば、金属ナトリウム−ナフタレン錯体溶液による浸漬処理を実施して製造されるが、浸漬処理後に多量の廃液が排出され、環境に対する負荷が大きい。また、特許文献1に記載の同軸ケーブルにおいて、シールド層の密着性を向上させるには、絶縁被覆層に表面処理を施すことを要するので、製造工程、段取り作業等の増加に伴って製造コストが増加する場合がある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、簡便で環境負荷の少ない同軸ケーブルの製造方法、及び当該製造方法により製造される同軸ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、導体と導体の表面に形成された絶縁被覆層とを有する絶縁被覆線を準備する絶縁被覆線準備工程と、絶縁被覆層の表面に、金属微粒子が分散したペーストを塗布する塗布工程と、ペーストを焼成してペーストが金属膜化したシールド層を形成すると共に、金属膜化における金属微粒子ペースト焼成時の発熱により絶縁被覆層の外表面を粗面化する焼成工程とを備える同軸ケーブルの製造方法が提供される。
【0009】
また、上記同軸ケーブルの製造方法は、焼成工程は、絶縁被覆層側に粗面を有するシールド層を形成し、絶縁被覆層の外表面が粗面に接触することにより、焼成中に絶縁被覆層の外表面に凹凸が形成されることが好ましい。
【0010】
また、上記同軸ケーブルの製造方法は、塗布工程は、凸状部分を有する金属微粒子を含むペーストを塗布することができる。
【0011】
また、上記同軸ケーブルの製造方法は、塗布工程は、多孔質体の金属微粒子を含むペースト塗布することができる。
【0012】
また、上記同軸ケーブルの製造方法は、シールド層の表面にジャケット層を形成するジャケット層形成工程を更に備えることもできる。
【0013】
また、上記同軸ケーブルの製造方法は、焼成工程は、絶縁被覆層の外表面の焼成前における平均表面粗さより粗い平均表面粗さの粗面を有するシールド層を形成することもできる。
【0014】
また、本発明は、上記目的を達成するため、導体と、導体の表面に設けられる絶縁被覆層と、絶縁被覆層の表面に設けられ、金属微粒子の焼結体からなるシールド層と、シールド層の表面に設けられるジャケット層とを備え、シールド層は、焼結体により粗面化された内表面を有し、絶縁被覆層は、粗面化された内表面に対応した凹凸を外表面に有する同軸ケーブルが提供される。
【0015】
また、上記同軸ケーブルは、絶縁被覆層の凹凸は、金属微粒子ペーストを焼成する際の発熱により形成されることが好ましい。
【0016】
また、上記同軸ケーブルは、絶縁被覆層とシールド層との境界に、絶縁被覆層を構成する絶縁材料とシールド層を構成する焼結体とが混在している混在層を更に備えることもできる。
【0017】
また、上記同軸ケーブルは、絶縁被覆層の外表面の平均表面粗さRaが、0.05μm以上2.0μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る同軸ケーブルの製造方法、及び同軸ケーブルによれば、簡便で環境負荷の少ない同軸ケーブルの製造方法、及び当該製造方法により製造される同軸ケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る同軸ケーブルの断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る同軸ケーブルの部分断面拡大図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る同軸ケーブルの製造工程の一部を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態の変形例に係る同軸ケーブルの部分断面図である。
【図5A】(a)は実施例に係る絶縁被覆線の断面図であり、(b)は実施例に係るシールド層付ケーブルの断面図である。
【図5B】(a)はシールド層形成前における絶縁被覆層の表面の顕微鏡写真であり、(b)はシールド層形成後にシールド層を剥がした後の絶縁被覆層の表面の顕微鏡写真である。
【図6A】密着力の測定方法の概要図である。
【図6B】使用固定フィルムの上面側からの概要図である。
【図7】絶縁被覆層の外表面の平均表面粗さに対する密着力の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施の形態の要約]
実施の形態に係る同軸ケーブル1の製造方法は、金属微粒子の焼結により形成されるシールド層30を備える同軸ケーブル1の製造方法において、導体10と導体10の表面に形成された絶縁被覆層20とを有する絶縁被覆線2を準備する絶縁被覆線準備工程と、絶縁被覆層20の表面に、金属微粒子が分散したペーストを塗布する塗布工程と、ペーストを焼成してペーストが金属膜化したシールド層30を形成すると共に、金属膜化における金属微粒子ペースト焼成時の発熱により絶縁被覆層20の外表面を粗面化する焼成工程とを備える。
【0021】
また、本実施の形態に係る同軸ケーブル1は、金属微粒子の焼結により形成されるシールド層30を備える同軸ケーブル1において、導体10と、導体10の表面に設けられる絶縁被覆層20と、絶縁被覆層20の表面に設けられ、金属微粒子の焼結体からなるシールド層30と、シールド層30の表面に設けられるジャケット層40とを備え、シールド層30は、焼結体により粗面化された内表面を有し、絶縁被覆層20は、粗面化された内表面に対応した凹凸を外表面に有する。
【0022】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る同軸ケーブルの断面の概要を示す。
【0023】
(同軸ケーブル1の概要)
本発明の実施の形態に係る同軸ケーブル1は、導体10と、導体10の表面に設けられる絶縁被覆層20と、絶縁被覆層20の表面に設けられ、金属微粒子の焼結体からなるシールド層30と、シールド層30の表面に設けられるジャケット層40とを備える。また、本実施の形態に係るシールド層30は、焼結体により粗面化された内表面(すなわち、絶縁被覆層20側の表面)を有して形成される。更に、絶縁被覆層20は、粗面化されたシールド層30の内表面に対応した凹凸を外表面(すなわち、シールド層30側の表面)に有して形成される。本実施の形態においてシールド層30の内表面の粗面は、焼結された金属微粒子の凹凸に起因する凹凸を有しており、当該凹凸に対応するように絶縁被覆層20の外表面に凹凸が形成されている(いわば、シールド層30の内表面の凹凸が絶縁被覆層20の外表面に転写されることにより凹凸が形成される)。
【0024】
(導体10)
導体10は、電気信号を伝達することのできる材料から形成され、具体的には、十数μm程度の直径を有する金属の極細線材から形成される。例えば、導体10は、銅又は銅合金等の金属材料、若しくは、金属めっきが表面に施された銅線、銅と他の金属とを含む銅合金線から形成される。なお、めっきとしては、錫めっき、銀めっき、その他の金属めっきを用いることができる。本実施の形態に係る同軸ケーブル1は、1本又は複数本の導体10をその中心付近に備える。複数本の導体10を備える場合、複数本の導体10を撚り合わせることが好ましい。
【0025】
(絶縁被覆層20)
絶縁被覆層20は、絶縁性の高分子材料、例えば、フッ素系樹脂から形成され、導体10の外周を被覆する。なお、絶縁被覆層20は、後述するシールド層30を形成する際における焼成温度よりも高い融点を有する材料から形成する。そして、絶縁被覆層20の外表面、すなわち、シールド層30と接触する表面には、粗面(すなわち、凹凸面)が形成されている。この粗面は、後述する同軸ケーブル1の製造工程においてシールド層30を形成する際に、シールド層30を構成する金属微粒子ペーストが焼成して焼結体が形成される際の局所的な発熱により形成される。また、絶縁被覆層20とシールド層30との密着性を良好にする観点から、絶縁被覆層20の外表面の平均表面粗さRaは、0.05μm以上2.0μm以下であることが好ましい。
【0026】
〈シールド層30〉
シールド層30は、金属微粒子の焼結体から形成される。金属微粒子としては、例えば、銀微粒子、銅微粒子、金微粒子等の導電性の高い金属材料からなる微粒子を用いることができる。また、銀、銅、金等の金属材料を含む合金の微粒子を用いることもできる。更に、シールド層30は、複数種類の金属微粒子(例えば、銀微粒子及び銅微粒子)を混合させて焼結した焼結体から形成することもできる。
【0027】
(ジャケット層40)
ジャケット層40は、シールド層30の表面に設けられる。ジャケット層40は、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等のフッ素系樹脂等から形成することができる。
【0028】
(絶縁被覆層20とシールド層30との境界の詳細)
図2は、本発明の実施の形態に係る同軸ケーブルの部分断面を拡大した概要を示す。
【0029】
同軸ケーブル1が備える絶縁被覆層20はその外表面に粗面20aを有しており、粗面20aは、複数の凹部22及び凸部24を含んで形成されている。この凹部22及び凸部24は、金属微粒子32の焼結体からなるシールド層30の内表面30aの凹凸に対応した位置に形成される。すなわち、粗面20aは、内表面30aの凹凸が転写された凹部22及び凸部24を有して形成されている。
【0030】
(同軸ケーブル1の製造方法)
図3は、本発明の実施の形態に係る同軸ケーブルの製造工程の一部の概要を示す。
【0031】
まず、導体10と導体10の表面に形成された絶縁被覆層20(例えば、フッ素系樹脂からなる樹脂層)とを有する絶縁被覆線2を準備する(絶縁被覆線準備工程)。次に、準備した絶縁被覆線2を送出機100にセットする。そして、送出機100は、絶縁被覆線2を金属微粒子塗布ダイス110に向けて連続的に送出する。本実施の形態に係る同軸ケーブル1の製造方法においては、絶縁被覆層20の外表面に粗面化処理を施さない状態で、金属微粒子塗布ダイス110に向けて絶縁被覆線2を送出する。
【0032】
続いて、金属微粒子塗布ダイス110は、絶縁被覆層2の表面に、金属微粒子が分散したペーストを塗布する(塗布工程)。塗布工程においては、球形状の金属微粒子、又は非球形状の金属微粒子を用いることができる。非球形状の金属微粒子は、凸状部分を有する金属微粒子であり、例えば、フレーク状の金属微粒子、針状の金属微粒子、表面に凹凸を有する金属微粒子等を用いることができる。非球形状の金属微粒子は、球状の金属微粒子が有さない鋭角な領域(すなわち、凸状部分)を表面に有するので、アンカー効果によってシールド層30と絶縁被覆層20との密着性を更に高めることができる。
【0033】
また、金属微粒子としては、多孔質体の金属微粒子を用いることもできる。多孔質体の金属微粒子を用いると、後述する焼成工程の金属微粒子ペースト焼成時の発熱により絶縁被覆層20を構成する材料が溶融して、溶融した材料が金属微粒子の空孔内に入り込む。これにより、アンカー効果が発揮され、シールド層30と絶縁被覆層20との密着性を更に高めることができる。
【0034】
ペーストが塗布された絶縁被覆線2は、管状焼成炉120に供給される。管状焼成炉120は、ペーストを焼成してペーストが金属膜化したシールド層30を絶縁被覆層2の表面に形成する。更に、本実施の形態においては、シールド層30の形成と共に、金属膜化における金属微粒子ペーストの焼成時の局所的な発熱により絶縁被覆層20の外表面を粗面化する(焼成工程)。
【0035】
ここで、管状焼成炉120は、絶縁被覆線2の長手方向に沿って所定の距離ごとに焼成温度を設定することができる。したがって、金属微粒子塗布ダイス110に近い側から遠ざかる側に向けて、管状焼成炉120における焼成温度を段階的に上下させることができる。例えば、管状焼成炉120の金属微粒子塗布ダイス110に近い側の焼成温度より、金属微粒子塗布ダイス110から遠い側の焼成温度を高くすることができる。
【0036】
また、金属微粒子として銀微粒子を用いたペーストを焼成する場合、管状焼成炉120における焼成温度は150℃以上270℃以下程度に設定される。この場合において絶縁被覆層20としてフッ素系樹脂からなる樹脂層を用いた場合、絶縁被覆層20の融点は焼成温度よりも高い。例えば、フッ素系樹脂としてPFAを用いた場合、PFAの融点は310℃であり、焼成温度より高い。したがって、通常、150℃以上270℃以下程度の温度範囲における焼成によって絶縁被覆層20の外表面は粗面化されない。
【0037】
しかしながら、本実施の形態においては、金属微粒子を当該温度範囲において焼成する。そして、この焼成により金属微粒子が焼結する際に、絶縁被覆層20の外表面と金属微粒子を含むペーストの層との間で局所的な発熱が発生する。この発熱による温度が絶縁被覆層20を構成する材料の融点以上になることにより、絶縁被覆層20の外表面を局所的に加熱、溶融することができる。これにより、シールド層30の内表面の凹凸が絶縁被覆層20の外表面に転写され、絶縁被覆層20の外表面が粗面化される。
【0038】
すなわち、焼成工程は、絶縁被覆層20側に粗面を有するシールド層30を焼成による金属微粒子の焼結により形成する。そして、シールド層30の内表面に粗面を形成する際に、絶縁被覆層20の外表面がシールド層30の粗面に接触していることにより、焼成中に当該外表面が粗面化されて絶縁被覆層20の外表面に凹凸が形成されることになる。換言すれば、焼成工程は、ペーストを焼成することにより絶縁被覆層20の外表面の焼成前における平均表面粗さより粗い平均表面粗さの粗面を有するシールド層30を形成して、形成したシールド層30の粗面により絶縁被覆層20の外表面に凹凸を形成することになる。
【0039】
そして、管状焼成炉120からペーストが金属膜化したシールド層30を備えるシールド層付ケーブル3が排出され、巻取機130に所定の引取速度で巻き取られる。なお、シールド層付ケーブル3の引取速度の制御とボビン巻取りとが巻取機130と図示しない引取機により実施される。そして、このシールド層付ケーブル3のシールド層30の表面にジャケット層40を形成する(ジャケット層形成工程)。以上の各工程を経ることにより、本実施の形態に係る同軸ケーブル1が製造される。
【0040】
(実施の形態の効果)
本発明の実施の形態に係る同軸ケーブル1の製造方法は、金属微粒子の焼結体からなるシールド層30を形成すると同時に、絶縁被覆層20の外表面を粗面化するので、絶縁被覆層20とシールド層30との密着性を簡便な手法で向上させた極細の同軸ケーブル1を提供することができる。すなわち、本実施の形態に係る同軸ケーブル1の製造方法によれば、絶縁被覆層20の外表面を粗面化するために、ウェットエッチング処理、ドライエッチング処理、大気圧プラズマ処理等の処理(すなわち、粗化処理)を絶縁被覆層20の外表面に施す工程を要さないので、簡便に同軸ケーブル1を製造できると共に、環境負荷を低減させて同軸ケーブル1を製造することができる。これにより、低い製造コストで優れた耐屈曲性を有する極細の同軸ケーブル1を提供することができる。
【0041】
また、本発明の実施の形態に係る同軸ケーブル1の製造方法は、絶縁被覆線の絶縁被覆層20の形成、シールド層30の形成、ジャケット層40の形成までの製造工程を1ライン化できるので、高効率であると共に製造コストを低減させて同軸ケーブル1を製造することができる。
【0042】
[実施の形態の変形例]
図4は、本発明の実施の形態の変形例に係る同軸ケーブルの部分断面の概要を示す。
【0043】
実施の形態の変形例に係る同軸ケーブルは、絶縁被覆層20とシールド層30との境界に混在層50が形成される点を除き、実施の形態に係る同軸ケーブル1と略同一の機能・構成を備える。したがって、相違点を除き詳細な説明は省略する。
【0044】
実施の形態の変形例に係る同軸ケーブルは、絶縁被覆層20とシールド層30との境界に、絶縁被覆層20を構成する絶縁材料とシールド層30を構成する焼結体とが混在している混在層50を備える。混在層50は以下のように形成される。すなわち、例えば、焼成工程における焼成温度を実施の形態において説明した温度よりも高い温度、例えば、270℃以上に設定することで、焼成により溶融した絶縁被覆層20を構成する材料が焼結体の内部に流れ込む。なお、PFAからなる絶縁被覆層20の表面だけでなく内部まで軟化して、PFA膨張によるケーブル変形が発生することを防止すべく、焼成温度は300℃未満に設定する。これにより、絶縁被覆層20とシールド層30との境界に混在層50が形成される。混在層50を形成することにより、絶縁被覆層20とシールド層30との密着性を更に向上させることができる。
【実施例】
【0045】
図5A(a)は、実施例に係る絶縁被覆線の断面の概要を示し、図5A(b)は、実施例に係るシールド層付ケーブルの断面の概要を示す。また、図5B(a)は、シールド層形成前における絶縁被覆層の表面の顕微鏡写真を示し、図5B(b)は、シールド層形成後にシールド層を剥がした後の絶縁被覆層の表面の顕微鏡写真を示す。
【0046】
実施例に係る絶縁被覆線2として、外径φが16μmの銀めっき銅芯線を7本撚り合わせた中心導体と、中心導体の外周を被覆するPFAからなる絶縁被覆層20とからなり、外径Dが約120μmの絶縁被覆線2を準備した。この絶縁被覆線2の絶縁被覆層20の表面21は図5B(a)に示すように非常に平滑であり、その平均表面粗さRaは0.02μm未満であった。
【0047】
この絶縁被覆線2の表面にシールド層30を形成して、シールド層付ケーブル3を製造した。シールド層30の形成には、粘度が1Pa・sである金属微粒子分散ペーストを用い、金属微粒子としては銀微粒子を用いた。銀微粒子の平均粒子径は1μmであり、最大粒子径は2μmである。
【0048】
具体的に、このシールド層30は以下のようにして形成した。まず、金属微粒子塗布ダイス110において、上記金属微粒子分散ペーストを絶縁被覆線2の表面に塗布した。そして、ペーストからなる層を有する絶縁被覆線2を管状焼成炉120に供給した。ここで、実施例においては、長さが9mであり、1mごとに焼成温度を設定できる管状焼成炉120を用いた。そして、焼成温度としては、管状焼成炉120の中心軸から1cm離れた位置の大気雰囲気温度を、ペーストからなる層を有する絶縁被覆線2が管状焼成炉120に入る入り口部から0.5mから8.5mまで1mごとに9か所測定した。具体的に、入り口部から1mまでを150℃に設定すると共に、残りの8mを270℃に設定した。
【0049】
このような管状焼成炉120にペーストからなる層を有する絶縁被覆線2を供給して、ペーストからなる層を焼成することによりシールド層30を形成した。このようにして得られたシールド層30は、膜厚tが約10μmであり、比抵抗が5μΩ・cmであり、PFAからなる絶縁被覆層20に対する密着性は高い値であった。そして、巻取機130によりシールド層付ケーブル3を巻き取った。本実施例においては、シールド層付ケーブル3の引取速度を20m/minに設定した。
【0050】
ここで、絶縁被覆層20とシールド層30との密着性の向上の原因を調べることを目的として、製造したシールド層付ケーブル3のシールド層30を剥がして、絶縁被覆層20の外表面である表面21と、シールド層30の内表面30aとを観察した。その結果、図5B(a)に示すように、シールド層30を形成する前における絶縁被覆層20の表面21の平均表面粗さRaは0.02μm未満であり非常に平滑であったにもかかわらず、シールド層30形成後における絶縁被覆層20の表面21は、図5B(b)に示すように粗面化していた。そして、シールド層30形成後における絶縁被覆層20の表面21の平均表面粗さRaは0.25μmであり、シールド層30形成前に比べ非常に大きくなっていることが示された。また、シールド層30の内表面30aの平均表面粗さRaは、0.3μmであった。
【0051】
(絶縁被覆層20の表面21の平均表面粗さRaの好ましい値について)
平均粒子径が異なる銀微粒子を含むペーストから形成したシールド層30を備えるシールド層付ケーブル3としての銀被覆線をそれぞれ試作して、PFAからなる絶縁被覆層20と当該シールド層30との密着力を測定した。実施例においては、特に、当該密着力の絶縁被覆層20の表面の平均表面粗さ依存性に着目した。
【0052】
図6Aは、密着力の測定方法の概要を示し、図6Bは、使用固定フィルムの上面側からの概要を示す。
【0053】
密着力の測定は、固定台200と、固定台200の上に設置される試料固定フィルム210とを準備して、試料固定フィルム210上に試料1aを固定して実施した。具体的には、試作した銀被覆線22本を試料1aとして試料固定フィルム210上に並べて固定した。銀被覆線を並べた領域は、図6Bに示すように、幅Wが約3mm、長さL2が5cmである。そして、図6Aに示すように、この試料1aの上面に幅3mmの高粘着ポリエチレンテープ(粘着力:40N/25cm)を長さ3cm(図6AのL1参照)にわたり貼り付けた。
【0054】
次に、密着性テープ220を10cm/minの速度で試料1aの表面に対して90度方向に引っ張り、この時の幅W(すなわち、3mmであり、銀被覆線22本分の幅)あたりの引張荷重を密着力として計測した。計測された密着力が0.6N/3mm以上である場合、同軸ケーブルの製造工程において十分な密着力であると判断できる。すなわち、シールド層30を形成した後、シールド層付ケーブル3にジャケット層40を構成する材料を押し出し被覆する際に、シールド層30が損傷することはないと判断できる。
【0055】
図7は、絶縁被覆層の外表面の平均表面粗さに対する密着力の測定結果を示す。
【0056】
横軸にPFAからなる絶縁被覆層20の外表面の平均表面粗さRaを示し、縦軸に絶縁被覆層20とシールド層30との密着力を示す。絶縁被覆層20の外表面の平均表面粗さRaが0.02μm以下の時、密着力は0.6N/3mm未満であった。しかしながら、平均表面粗さRaが0.05μm以上2.0μm以下の範囲では1N/3mm以上という非常に高い密着力であることが示された。なお、平均表面粗さRaが3.0μm以上になると、密着力が0.6N/3mmを下回った。これは、絶縁被覆層20の外表面の凹凸がなだらかになり、アンカー効果が低減したことに起因すると考えられた。
【0057】
以上の結果から、絶縁被覆層20とシールド層30との密着力を所定の密着力以上にすることを目的とする場合、絶縁被覆層20の外表面の平均表面粗さRaは、0.05μm以上2.0μm以下にすることが好ましいことが示された。
【0058】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0059】
1 同軸ケーブル
1a 試料
2 絶縁被覆線
3 シールド層付ケーブル
10 導体
20 絶縁被覆層
20a 粗面
21 表面
22 凹部
24 凸部
30 シールド層
30a 内表面
32 金属微粒子
40 ジャケット層
50 混在層
100 送出機
110 金属微粒子塗布ダイス
120 管状焼成炉
130 巻取機
200 固定台
210 試料固定フィルム
220 密着性テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と前記導体の表面に形成された絶縁被覆層とを有する絶縁被覆線を準備する絶縁被覆線準備工程と、
前記絶縁被覆層の表面に、金属微粒子が分散したペーストを塗布する塗布工程と、
前記ペーストを焼成して前記ペーストが金属膜化したシールド層を形成すると共に、前記金属膜化における前記金属微粒子ペースト焼成時の発熱により前記絶縁被覆層の外表面を粗面化する焼成工程と
を備える同軸ケーブルの製造方法。
【請求項2】
前記焼成工程は、前記絶縁被覆層側に粗面を有する前記シールド層を形成し、前記絶縁被覆層の前記外表面が前記粗面に接触することにより、前記焼成中に前記絶縁被覆層の前記外表面に凹凸が形成される請求項1に記載の同軸ケーブルの製造方法。
【請求項3】
前記塗布工程は、凸状部分を有する金属微粒子を含む前記ペーストを塗布する請求項2に記載の同軸ケーブルの製造方法。
【請求項4】
前記塗布工程は、多孔質体の金属微粒子を含む前記ペースト塗布する請求項2に記載の同軸ケーブルの製造方法。
【請求項5】
前記シールド層の表面にジャケット層を形成するジャケット層形成工程を更に備える請求項1〜4のいずれか1項に記載の同軸ケーブルの製造方法。
【請求項6】
前記焼成工程は、前記絶縁被覆層の前記外表面の焼成前における平均表面粗さより粗い平均表面粗さの前記粗面を有する前記シールド層を形成する請求項2に記載の同軸ケーブルの製造方法。
【請求項7】
導体と、
前記導体の表面に設けられる絶縁被覆層と、
前記絶縁被覆層の表面に設けられ、金属微粒子の焼結体からなるシールド層と、
前記シールド層の表面に設けられるジャケット層と
を備え、
前記シールド層は、前記焼結体により粗面化された内表面を有し、
前記絶縁被覆層は、粗面化された前記内表面に対応した凹凸を外表面に有する同軸ケーブル。
【請求項8】
前記絶縁被覆層の前記凹凸は、前記金属微粒子ペーストが焼成される際の発熱により形成される請求項7に記載の同軸ケーブル。
【請求項9】
前記絶縁被覆層と前記シールド層との境界に、前記絶縁被覆層を構成する絶縁材料と前記シールド層を構成する前記焼結体とが混在している混在層
を更に備える請求項8に記載の同軸ケーブル。
【請求項10】
前記絶縁被覆層の外表面の平均表面粗さRaが、0.05μm以上2.0μm以下である請求項9に記載の同軸ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図5B】
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【公開番号】特開2011−34906(P2011−34906A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182227(P2009−182227)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】