説明

同軸型光モジュール

【課題】温度制御モジュールの変形による光結合の精度の低下が抑制される同軸型光モジュールを提供すること。
【解決手段】ステム12に温度制御モジュール14が設置され、温度制御モジュール14に基板部材16が設置される。ステム12は中心Pを中心にして熱膨張し、温度制御モジュール14の上面基板14bは、代表点Qを中心にして変形する。中心Pに対して、代表点Qのステム12における位置Q1は左側にずれているとともに、位置Q1に対して、「上面基板14bと基板部材16との接合面の代表点R」のステム12における位置R1は左側にずれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸型光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ素子を内蔵し光信号を送出する光モジュールとして、同軸型光モジュールと箱型光モジュール(例えば、下記特許文献1)とが知られている。
【0003】
例えば電界吸収型変調器(いわゆるEA変調器)とDFB(Distributed Feedback)レーザ素子とが設置された光モジュールとしては、一般に同軸型光モジュールが箱型光モジュールよりも低いコストで製造可能であるにもかかわらず、箱型光モジュールが用いられる場合が多い。これは、レーザ素子の温度を制御するために搭載される温度制御モジュールのある程度の性能を維持したままでの小型化が進まず、同軸型光モジュールを、ある程度の性能を担保しつつ、国際規格(いわゆるXMD−MSA)で求められるサイズ(具体的には、パッケージの直径が5.6ミリメートル以下)になるよう製造することが困難だったからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−260095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、温度制御モジュールの小型化が実現されたことにより、同軸型光モジュールに温度制御モジュールを搭載させることが可能になってきている。この場合、同軸型光モジュールを、下記に説明するようにして構成することが考えられる。
【0006】
図7は、同軸型光モジュールの構成の一例を説明するための概略図である。図7は、同軸型光モジュールの断面図を示す。なお、図7では、同軸型光モジュールを構成する部品群の一部が示されている。
【0007】
同図に示すように、同軸型光モジュールは、ステム2、温度制御モジュール4、基板部材6、レーザ素子8等を含む。温度制御モジュール4は、冷却基板である上面基板(不図示)と、放熱基板である下面基板(不図示)とを含む。
【0008】
同図に示すように、ステム2の上面に温度制御モジュール4が設置される。これは、ステム2の上面に温度制御モジュール4を設置することである程度の放熱性を担保し、低消費電力化を図るためである。なお、φは、ステム2の直径を表している。
【0009】
また、温度制御モジュール4の上面基板に、基板部材6が設置される。また、光軸がステム2に対して垂直になるように、基板部材6の側面に、レーザ素子8が設置される。なお、同図に示す点線は、光軸を示している。
【0010】
レーザ素子8は上方へとレーザ光を出力する。レーザ素子8から出力されたレーザ光は、図示しないレンズを透過した後、図示しないファイバスタブによって光ファイバに結合される。
【0011】
ところで、温度制御モジュール4の上面基板の温度と環境温度との関係によって温度制御モジュール4が変形する。具体的には、温度制御モジュール4の上面基板がU字状に変形する。そのため、温度制御モジュール4の上面基板の温度と環境温度の関係に応じて基板部材6の位置が左右にずれ、その結果、レーザ素子8の位置も左右にずれる。例えば、図7に示すように基板部材6が上面基板の左寄りに配置されている場合、基板部材6及びレーザ素子8の位置は右にずれ、基板部材6が上面基板の右寄りに配置されている場合、基板部材6及びレーザ素子8の位置は左にずれる。
【0012】
そして、温度制御モジュール4の変形によってレーザ素子8の位置がずれる結果、光軸の位置がずれ、光結合の精度が低下するという問題がある。
【0013】
本発明の目的は、温度制御モジュールの変形による光結合の精度の低下が抑制される同軸型光モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係る同軸型光モジュールは、基準位置を中心にして熱膨張する平板状のステムと、前記ステムに設置された、上面基板と下面基板とを含む温度制御モジュールと、前記ステムに設置された基板部材と、前記基板部材に設置されたレーザ素子と、前記レーザ素子から出力されたレーザ光を集光するためのレンズと、前記レンズを透過したレーザ光を、光伝送路に結合するための結合部材と、を含み、前記温度制御モジュールは、前記下面基板が前記ステムの上面に接合されることによって、前記ステムに設置され、前記基板部材は、前記上面基板に接合されることによって、前記ステムに設置され、前記上面基板が変形中心を中心に変形する同軸型光モジュールであって、前記基準位置と、前記変形中心の前記ステムにおける位置と、が異なり、且つ、前記基準位置に対する、前記変形中心の前記ステムにおける位置のずれの方向と、前記変形中心の前記ステムにおける位置に対する、前記基板部材の前記上面基板との接合面の代表点の前記ステムにおける位置、のずれの方向と、が同じであることを特徴とする。
【0015】
ここで、前記代表点は、前記接合面の中心であってもよい。また、前記温度制御モジュールは、前記上面基板と、前記下面基板と、の間に配列された複数の熱電素子を含み、前記変形中心は、前記複数の熱電素子のうちの複数の熱電素子の中心であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る同軸型光モジュールの構成を説明するための図である。
【図2】温度制御モジュールを詳細に説明するための図である。
【図3】ステムと、温度制御モジュールと、基板部材と、の位置関係について説明するための図である。
【図4】同軸型光モジュールの断面図を示す図である。
【図5】ステムと、温度制御モジュールと、基板部材と、の位置関係の意義について説明するための図である。
【図6A】同軸型光モジュールの断面図を示す図である。
【図6B】同軸型光モジュールの断面図を示す図である。
【図7】同軸型光モジュールの構成の一例を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る同軸型光モジュール10の構成を説明するための図であり、同軸型光モジュール10の断面図を示す。
【0019】
同図に示すように、同軸型光モジュール10は、平板状のステム12と、温度制御モジュール14と、支持基板16aとサブマウント16bとからなる基板部材16と、レーザ光を出力するレーザ素子18と、モニタフォトダイオード20(以下、PD20)と、レーザ素子18から出力されたレーザ光を集光するためのレンズ22と、レンズキャップ24と、ホルダ26と、レンズ22を透過したレーザ光を、光ファイバ(光伝送路)に結合するためのファイバスタブ28と、を含む。その他にも、同軸型光モジュール10は、レーザ素子18の温度を検知するためのサーミスタ(不図示)などを含む。
【0020】
ステム12は、例えば直径5.6ミリメートル以下の水平な円板形状を有する。ステム12には、例えば、レーザ素子18に高周波信号を伝える信号端子、レーザ素子18に駆動電流を供給するための端子、温度制御モジュール14を駆動するための端子、サーミスタの抵抗値を検知するための端子、及び、PD20からの電流の出力端子などがガラスで固定される。
【0021】
なお、図1に示す点線は、レーザ素子18から出力されるレーザ光の光軸を示している。光軸は、ステム12と垂直になっている。
【0022】
温度制御モジュール14は、レーザ素子18の温度を制御するためのモジュールであり、サーミスタにより検知された温度を基礎に制御される。同図に示すように、温度制御モジュール14は、放熱基板である下面基板14aと、冷却基板である上面基板14bと、複数の熱電素子14cと、を含む。温度制御モジュール14は、銀ペーストなどの接着剤やハンダなどを用いて、下面基板14aがステム12の上面に接合される。温度制御モジュール14は、下面基板14aがステム12の上面に接合されることによって、ステム12に設置される。熱電素子14cとしては、例えば、ビスマステルルが用いられる。また、上面基板14b及び下面基板14aとしては、例えば、アルミナなどのセラミックス基板が用いられる。
【0023】
熱電素子14cは、上面基板14bと、下面基板14aと、の間に配列される。図2は、温度制御モジュール14を詳細に説明するための図であり、温度制御モジュール14を上から見たときの図である。同図に示すように、複数の熱電素子14cが、縦方向及び横方向に周期的に配列されている。そのため、四隅の熱電素子14cを頂点とする四角形が矩形になる。なお、本実施形態の場合、上面基板14bは、矩形形状を有している。
【0024】
基板部材16は、上述のように、支持基板16aとサブマウント16bとからなる。支持基板16aは、窒化アルミニウム、銅タングステンなどの金属からなり、銀ペーストなどの接着剤やハンダなどによって上面基板14bに接合される。支持基板16aが上面基板14bに接合されることによって、基板部材16がステム12に設置されている。本実施形態の場合、支持基板16aの底面は矩形形状を有している。そのため、支持基板16aと上面基板14bとの接合面(すなわち、基板部材16と上面基板14bとの接合面)は、矩形となる。
【0025】
サブマウント16bは、セラミックからなり、その表面に導電パターンが形成されている。サブマウント16bは、支持基板16aの側面のうちのステム12の中心よりの側面にハンダ等により接合されている。サブマウント16bに、レーザ素子18、PD20、及びサーミスタ(不図示)がハンダ等により接合されている。
【0026】
ここで、ステム12と、温度制御モジュール14と、基板部材16と、の位置関係について説明する。図3は、ステム12と、温度制御モジュール14と、基板部材16と、の位置関係について説明するための図であり、レンズ22付近から下方を見たときの図である。図3において、接合面30は、支持基板16aと上面基板14bとの接合面(すなわち、基板部材16と上面基板14bとの接合面)を示し、点Pは、ステム12の中心を示し、点Qは、上面基板14bの代表点を示し、点Rは、接合面30の代表点を示している。
【0027】
ここでは、上面基板14bの代表点Qとは、熱電素子14cの配列中心点であり、ここでは、四隅の熱電素子14cの位置の中心点(重心点)である。なお、本実施形態の場合、代表点Qは、上面基板14bの中心点でもある。
【0028】
また、ここでは、接合面30の代表点Rとは、接合面30の中心点である。
【0029】
また、図3において、投影位置Q1は、代表点Qを光軸に平行な投影方向でステム12に投影したときの投影位置を示す。投影位置Q1は、「代表点Qのステム12における位置」に相当する。
【0030】
また、図3において、投影位置R1は、代表点Rを光軸に平行な投影方向でステム12に投影したときの投影位置を示す。投影位置R1は、「代表点Rのステム12における位置」に相当する。
【0031】
図3を見てもわかるように、ステム12の中心Pの位置(基準位置)と、投影位置Q1と、が異なっている。また、中心Pの位置に対する投影位置Q1のずれの方向と、投影位置Q1に対する投影位置R1のずれの方向と、が同じになっている。すなわち、投影位置Q1は中心Pの位置の上方に位置し、投影位置R1はこの投影位置Q1の上方に位置している。
【0032】
なお、図4に、中心P、投影位置Q1、及び投影位置R1を通る直線で同軸型光モジュール10を切断した際の断面図を示す。また、以下、この直線と平行な方向のことを基準方向と呼ぶ。なお、図4において、同軸型光モジュール10を右に90度回転させた場合、垂直方向が上記基準方向になる。また、この場合、投影位置Q1が中心Pよりも高い位置に位置し、且つ、投影位置R1が投影位置Q1よりも高い位置に位置することとなる。すなわち、代表点Qが中心Pよりも高い位置に位置し、且つ、代表点Rが代表点Qよりも高い位置に位置することとなる。
【0033】
レーザ素子18は、電界吸収型変調器とDFBレーザとを含む半導体レーザあり、高周波電気信号が供給される。高周波電気信号の供給は、例えば、中継基板(不図示)、ワイヤ(不図示)、及びサブマウント16bの導電パターンを介して行われる。
【0034】
レンズキャップ24は、気密性を保つために用いられる。レンズキャップ24は、例えばステンレス鋼からなり、溶接によりステム12に固定される。ホルダ26は、ファイバスタブ28とレンズキャップ24との間の距離を調節するために用いられる。ホルダ26は、例えばステンレス鋼からなり、溶接によりレンズキャップ24に固定される。
【0035】
ファイバスタブ28は例えばセラミックからなり、光ファイバを内蔵している。レンズ22を透過したレーザ光は、光ファイバに入力されることになる。なお、ホルダ26及びファイバスタブ28の位置は、室温を基準に設定されている。
【0036】
ここで、ステム12と、温度制御モジュール14と、基板部材16と、が図3に示す位置関係を有することの意義について図5を参照しながら説明する。
【0037】
ステム12の温度(すなわち、環境温度)が上面基板14bの温度より高い場合、下面基板14aの熱膨張量、及び上面基板14bの熱膨張量の関係によって、上面基板14bが変形中心を中心にして変形する。より詳しくは、図5に示すように上面基板14bが代表点Qを中心にして、U字状に反る(図5参照)。そうすると、接合面の代表点Rが代表点Qよりも左側に位置するので、支持基板16aが右に傾き、その結果として光軸の位置が、右にずれる。そのため、上面基板14bの変形の程度によっては、光結合の精度が大幅に下がり、光ファイバから出力される光信号の強度が大幅に下がるとも思われる。
【0038】
この点、この同軸型光モジュール10では、ステム12が中心Pを中心として熱膨張することに着目し、上記の位置関係を有するように温度制御モジュール14と、基板部材16と、が設置される。そのため、温度制御モジュール14が中心Pの左側に設置されるため、ステム12の熱膨張に応じて温度制御モジュール14の位置が、レーザ素子8の位置とは異なり、左にずれるようになっている。従って、レーザ素子8の位置が右にずれにくくなり、その結果として、温度制御モジュール14の変形による光結合の精度の低下が抑止される。
【0039】
このように、この同軸型光モジュール10では、ステム12の中心Pの位置(基準位置)と、投影位置Q1と、が異なり、且つ、中心Pの位置に対する投影位置Q1のずれの方向と、投影位置Q1に対する投影位置R1のずれの方向と、が同じであるため(図3参照)、温度制御モジュール14の変形による光軸の位置の変位を比較的小さくすることができる。そのため、この同軸型光モジュール10では、温度制御モジュール14の変形による光結合の精度の低下が抑制されるようになる。
【0040】
なお、中心Pと投影位置Q1との間の距離、投影位置Q1と投影位置R1との間の距離、上面基板14bとレーザ素子18との間の距離などを調整することにより、光結合の精度の低下をさらに抑制することも可能である。
【0041】
なお、本発明の実施形態は、上記実施形態だけに限らない。
【0042】
例えば、図5に示す場合において、ステム12が過剰に熱膨張した結果、温度制御モジュール14の変形による、レーザ素子8の位置の右方向のずれ量に比して、ステム12の熱膨張による温度制御モジュール14の位置の左方向のずれ量が相当大きくなった場合、光結合の精度の低下がうまく抑制できない可能性がある。
【0043】
そこで、温度制御モジュール14の変形によるレーザ素子8の右方向のずれ量を大きくするために、図6A及び図6Bに示すようにして、支持基板16aを形成するようにしてもよい。すなわち、「支持基板16aと上面基板14bとの接合面」の上記基準方向の幅W1が、支持基板16aの基準方向の幅Wよりも小さくなるように、支持基板16aを形成するようにしてもよい。言い換えれば、「基板部材16と上面基板14bとの接合面」の基準方向の幅が、基板部材16の基準方向の幅よりも小さくなるように、基板部材16を形成するようにしてもよい。例えば、図6Aに示すように、支持基板16aの底面に段差部分を設けてもよいし、図6Bに示すように、支持基板16aの底面に面取り部分を設けてもよい。こうすれば、上面基板14bの変形による支持基板16aの傾きがより大きくなるので、レーザ素子8の位置の右方向のずれ量がより大きくなる。従って、光結合の精度が低下しにくくなる。
【符号の説明】
【0044】
10 同軸型光モジュール、12 ステム、14 温度制御モジュール、14a 下面基板、14b 上面基板、14c 熱電素子、16 基板部材、16a 支持基板、16b サブマウント、18 レーザ素子、20 モニタフォトダイオード、22 レンズ、24 レンズキャップ、26 ホルダ、28 ファイバスタブ、30 接合面、P 中心、Q,R 代表点、Q1,R1 投影位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準位置を中心にして熱膨張する平板状のステムと、
前記ステムに設置された、上面基板と下面基板とを含む温度制御モジュールと、
前記ステムに設置された基板部材と、
前記基板部材に設置されたレーザ素子と、
前記レーザ素子から出力されたレーザ光を集光するためのレンズと、
前記レンズを透過したレーザ光を、光伝送路に結合するための結合部材と、
を含み、
前記温度制御モジュールは、
前記下面基板が前記ステムの上面に接合されることによって、前記ステムに設置され、
前記基板部材は、
前記上面基板に接合されることによって、前記ステムに設置され、
前記上面基板が変形中心を中心に変形する同軸型光モジュールであって、
前記基準位置と、前記変形中心の前記ステムにおける位置と、が異なり、
且つ、
前記基準位置に対する、前記変形中心の前記ステムにおける位置のずれの方向と、前記変形中心の前記ステムにおける位置に対する、前記基板部材の前記上面基板との接合面の代表点の前記ステムにおける位置、のずれの方向と、が同じであること、
を特徴とする同軸型光モジュール。
【請求項2】
前記代表点は、前記接合面の中心であること、
を特徴とする請求項1に記載の同軸型光モジュール。
【請求項3】
前記温度制御モジュールは、
前記上面基板と、前記下面基板と、の間に配列された複数の熱電素子を含み、
前記変形中心は、
前記複数の熱電素子のうちの複数の熱電素子の中心であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の同軸型光モジュール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図7】
image rotate