説明

同軸線及びその同軸線の製造方法、多心同軸ケーブル

【課題】 絶縁層の薄肉化と機械的特性を両立することで細径化が可能であり、さらに優れた捻回特性を有する同軸線及びその製造方法、ならびに該同軸線を用いた多心同軸ケーブルを提供すること。
【解決手段】 内部導体、該内部導体を被覆する内部絶縁層、該内部絶縁層の外側に位置する外部導体、及び該外部導体を被覆する外部絶縁層を有する同軸線であって、前記内部絶縁層、前記外部絶縁層のいずれか一方または両方が、エチレン系アイオノマー樹脂と有機化クレーを含有するアイオノマー樹脂組成物からなることを特徴とする同軸線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯用電子機器等の内部配線に好適に使用できる同軸線とその製造方法、及びその同軸線を用いた多心同軸ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の携帯電子機器の内部配線に使用される同軸線は、限られたスペースに多数の配線をする必要があるため、細径化が求められている。また高周波の信号線から放射される電磁波によって電磁干渉(EMI)が生じるのを抑制するため、高いシールド特性が要求される。
【0003】
このような同軸線として、特許文献1には、単線または撚り線からなる内部導体にフッ素樹脂等の絶縁体を被覆し、その絶縁体の外周に素線を横巻きして外部導体を形成し、さらにその外部導体の外周にフッ素樹脂等の絶縁体を被覆したものが開示されている。フッ素樹脂としてはテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)が例示されている。
【0004】
また特許文献2には、多孔質ポリプロピレンフィルムやポリエステルフィルムを絶縁層として使用した同軸線が開示されている。例えば、撚り線からなる内部導体に、厚み25μm、幅5mmのテープ状の多孔質ポリプロピレンフィルムをハーフラップするように重ね巻きして絶縁層を形成し、この絶縁層の外周に外部導体と外部絶縁層を形成している(実施例1)。
【0005】
【特許文献1】特開2006−252937号公報
【特許文献2】特開平5−54729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
携帯電子機器の内部配線等に使用される同軸線には細径化が要求されており、内部導体の細径化、内部絶縁層、外部絶縁層(外被)の薄肉化が要求されている。内部導体の細径化には伸線性と引張強度の両立が課題であり、内部絶縁層、外部絶縁層の薄肉化のためには絶縁層の薄肉化と機械的特性の両立が必要である。
【0007】
PFA等のフッ素樹脂は、溶融物性の制約から押し出し線速を維持したまま薄肉に押し出しするのは難しく、薄肉押し出ししようとすると生産性が低下するという問題がある。更に、フッ素樹脂は弾性率が低く機械的強度が弱いという欠点があり、絶縁層を薄肉化すると同軸線の製造中や配線作業中に内部絶縁層や外部絶縁層が外傷を受け、内部導体と外部導体とが短絡する可能性もある。
【0008】
また同軸線は折り曲げたり捻回する部分に使用されることが多く、捻回特性が要求される。上述のようにフッ素樹脂は機械的強度が弱いため、絶縁層を薄肉化すると捻回試験において導体が破断するまでの回数が著しく低下する。
【0009】
特許文献2に記載のように樹脂フィルムのテープを巻いて絶縁層を形成すると薄肉化が容易である。しかしテープ巻き工程は加工線速が遅く、生産性が低下する。また樹脂を押し出し被覆して絶縁層を形成した同軸線に比べると捻回特性も悪いという欠点がある。
【0010】
本発明は、絶縁層の薄肉化と機械的特性を両立することで細径化が可能であり、さらに優れた捻回特性を有する同軸線及びその製造方法、ならびに該同軸線を用いた多心同軸ケーブルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記の問題について鋭意検討した結果、アイオノマー樹脂に有機化クレーを分散させたアイオノマー樹脂組成物を押し出し成形して内部絶縁層や外部絶縁層を形成することで、薄肉化しても機械的強度に優れ、かつ優れた捻回特性を有する同軸線が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
本発明は、内部導体、該内部導体を被覆する内部絶縁層、該内部絶縁層の外側に位置する外部導体、及び該外部導体を被覆する外部絶縁層を有する同軸線であって、前記内部絶縁層、前記外部絶縁層のいずれか一方または両方が、エチレン系アイオノマー樹脂と有機化クレーを含有するアイオノマー樹脂組成物からなることを特徴とする同軸線である(請求項1)。
【0013】
有機化クレーをエチレン系アイオノマー樹脂に分散させることで、弾性率や溶融特性が向上する。その結果、薄肉押し出し性が可能となり、同軸線の細径化が可能となると共に捻回特性も向上する。
【0014】
この場合において、有機化クレーの含有量がアイオノマー樹脂組成物全体の2質量%以上60質量%以下であると、機械的特性の向上効果と押出加工性を両立でき、好ましい(請求項2)。また有機化クレーのインターカレーション用の有機化合物が塩化ジメチルジステアリルアンモニウム、塩化ベンジルジメチルステアリルアンモニウムのいずれか一方又は両方であると、有機化クレーのアイオノマー樹脂への分散性が向上し、樹脂組成物の剛性や薄肉押し出し性が向上する。(請求項3)。
【0015】
さらに、二重結合含有アルコキシシランを、エチレン系アイオノマー樹脂100質量部に対して0.2質量%以上10質量%以下含有すると好ましい(請求項4)。二重結合含有アルコキシシランを含有することにより、アイオノマー樹脂組成物の架橋密度が高くなり、耐熱性が向上する。
【0016】
アイオノマー樹脂組成物は、電離放射線の照射により架橋されていることが好ましい(請求項5)。アイオノマー樹脂が架橋されることで、同軸線の耐熱性を向上することができる。
【0017】
また、外部絶縁層の外径が0.22mm以下であると好ましい(請求項6)。なお外部絶縁層の外径とは、内部導体、内部絶縁層、外部導体、外部絶縁層までを含めた同軸線の外径となる。外部絶縁層の外径を0.22mm以下とすることで配線の高密度化が可能となる。
【0018】
また本発明は、樹脂組成物1の押出成形により内部導体を被覆して内部絶縁層を形成する工程、該内部絶縁層の外側に外部導体を配置する工程、及び樹脂組成物2の押出成形により該外部導体を被覆して外部絶縁層を形成する工程、を含み、前記樹脂組成物1、前記樹脂組成物2のいずれか一方または両方が、エチレン系アイオノマー樹脂と有機化クレーを含有するアイオノマー樹脂組成物であることを特徴とする同軸線の製造方法を提供する(請求項7)。内部絶縁層、外部絶縁層のいずれか一方または両方をアイオノマー樹脂組成物の押し出し成形により形成することで、絶縁層を早い線速で形成することが可能となり、生産性を向上することができる。
【0019】
さらに本発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の同軸線を複数本有する多心同軸ケーブルを提供する(請求項8)。例えば複数の同軸線を平行一列に並べ、一部を共通外被等で接続することで多心同軸ケーブルを形成する。このような構成とすることで機械特性、捻回特性に優れた多心同軸ケーブルを得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、内部絶縁層や外部絶縁層を高線速、薄肉で押し出し成形できることで機械的強度と細径化を両立でき、さらに優れた捻回特性を有する同軸線、およびそれを用いた多心同軸ケーブルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に使用するエチレン系アイオノマー樹脂は、エチレン−メタクリル酸共重合体あるいはエチレン−アクリル酸共重合体等のエチレン共重合体の分子間を、亜鉛イオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の金属イオンで疑似架橋した樹脂である。このようなエチレン系アイオノマー樹脂は、サーリン(登録商標)、ハイミラン(登録商標)等の商品名で市販されているものを使用することができる。
【0022】
本発明に使用するエチレン系アイオノマー樹脂は、上記のエチレン系アイオノマー樹脂のみでなく、分子内にカルボキシル基を有するエチレン共重合体と、金属酸化物、金属水酸化物、又は金属塩とを混合して得られるものも含まれる。カルボキシル基を有するエチレン共重合体と金属塩等とを混合すると、カルボキシル基は金属イオンによって中和されてカルボン酸イオンとなり、金属イオンとの塩を形成する。複数のカルボン酸イオンが金属イオンと会合することでエチレン共重合体同士が疑似架橋し、アイオノマー樹脂となる。
【0023】
分子内にカルボキシル基を有するエチレン共重合体としては、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基を有するアクリル系モノマーとエチレンとの共重合体、無水マレイン酸等の酸無水物モノマーとエチレンとの共重合体などが例示される。これらの共重合体の製造は共重合法、グラフト重合法等の既知の方法で行うことができ、各種の特性を向上させる目的で、更に他のモノマーを適宜共重合させることも可能である。
【0024】
前記分子内にカルボキシル基を有するエチレン共重合体において、カルボキシル基含量の好ましい範囲は0.5〜50mol%、より好ましくは1〜30mol%である。0.5mol%未満では樹脂組成物の剛性や押出加工性が低下し、50mol%を超えると耐電解液性が低下する。このようなエチレン共重合体としては、アクリル酸の共重合比率が5〜30%であるエチレン−アクリル酸共重合体やエチレン−メタクリル酸共重合体が例示でき、ニュクレル(登録商標)、プリマコール(登録商標)等の商品名で市販されているものを使用することができる。
【0025】
アイオノマー樹脂組成物中のカルボン酸の一部又は全部は、金属酸化物等、又は有機化クレー中の金属イオンによって中和される。アイオノマー樹脂組成物中のカルボキシル基の55%以上が中和されていると、剛性が高くなり好ましい。なおカルボキシル基の中和度は、アイオノマー樹脂組成物中のカルボキシル基の総量に対するイオン化したカルボキシル基(カルボン酸イオン)量の割合であり、赤外吸収スペクトル(IR)測定で求めることができる。カルボキシル基は1700cm−1付近にC=O伸縮吸収ピークを持つが、金属イオンで中和されてカルボン酸イオンとなるとこのピークは消失する。また金属イオンで中和されたカルボン酸イオンを強酸である塩酸で処理すると、金属イオンが脱離して元のカルボキシル基に戻り、C=O伸縮吸収ピークが復活する。アイオノマー樹脂組成物のC=O伸縮吸収ピークを測定することでイオン化していないカルボキシル基が定量でき、塩酸処理したアイオノマー樹脂組成物のC=O伸縮吸収ピークを測定することでアイオノマー樹脂組成物全体のカルボキシル基が定量できる。両者を測定することで中和度が求められ、具体的には以下の式で算出する。
【0026】
中和度(%)=(1−A/A)×100
:アイオノマー樹脂組成物のC=O伸縮吸収ピーク高さ
:塩酸処理したアイオノマー樹脂組成物のC=O伸縮吸収ピーク高さ
【0027】
分子内にカルボキシル基を有するエチレン共重合体を中和するものとしては金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩等を使用でき、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カリウム、炭酸水素カリウム等が例示できる。カルボキシル基を中和する金属イオンが亜鉛イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン及びカルシウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種であると、樹脂組成物の透明性に優れるため好ましい。またこれらの金属化合物の混合量は、カルボキシル基を有するエチレン共重合体100質量部に対して1質量%以上10質量%以下とすると、透明性が良好となり好ましい。
【0028】
本発明に使用する有機化クレーとは、モンモリロナイト等の層状珪酸塩(クレー)において、層状に積層した珪酸塩平面の層間に有機化合物がインターカレーションしたものである。層状に積層した珪酸塩平面の間には、ナトリウムイオンやカルシウムイオンのような中間層カチオンが存在して層状の結晶構造を保っている。この中間層カチオンを有機カチオンとイオン交換することで、有機化合物が珪酸塩平面の表面に化学的に結合して層間に導入(インターカレーション)される。
【0029】
有機化クレーは、層間に有機化合物がインターカレーションすることにより珪酸塩平面間の層間距離が大きくなり、有機物への分散性が向上する。また未処理のクレーでは有機溶剤中で層間距離が変化することはないが、有機化クレーは有機溶剤中で層間距離がさらに広がり、膨潤する性質を持つため、更に分散性が向上する。このような有機化クレーとしては、Nanofil、エスベン等の商品名で市販されているものを使用することができる。
【0030】
層間にインターカレーションされる有機化合物としては、塩化ジメチルジステアリルアンモニウム、塩化ベンジルジメチルステアリルアンモニウム等の4級アンモニウムイオンが挙げられるが、塩化ジメチルジステアリルアンモニウム又は塩化ベンジルジメチルステアリルアンモニウムでインターカレーションした有機化クレーはエチレン系アイオノマー樹脂への分散性に優れており、アイオノマー樹脂組成物の剛性や溶融物性を向上する効果がある。
【0031】
有機化クレーの含有量は、アイオノマー樹脂組成物全体の2質量%以上60質量%以下とすることが好ましい。2質量%よりも少ないと機械的特性や溶融特性の向上効果が少なく、押し出し加工においても薄肉押し出しや押し出し線速の向上が困難となる。一方60質量%を超えると機械的特性は向上するが、アイオノマー樹脂組成物の溶融粘度が高くなり、押出加工性が低下する。更に好ましい有機化クレー含有量の範囲は5質量%以上40質量%以下である。
【0032】
さらに、二重結合含有アルコキシシランをアイオノマー樹脂組成物に添加することで耐熱性を向上することができる。そのメカニズムは定かではないが、二重結合含有アルコキシシランのアルコキシシラン部位が有機化クレーのOH基と結合し、その結果有機化クレーに結合した二重結合とアイオノマー樹脂とが照射によって結合することで見かけ架橋度が向上するためと推察される。
【0033】
二重結合含有アルコキシシランとしては、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、などが例示でき、特に3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0034】
二重結合含有アルコキシシランの添加量は適宜選択できるが、アイオノマー樹脂100重量部に対して、0.2重量部以上10重量部以下である事が好ましい。0.2重量部より少ないと添加による耐熱性向上効果が顕著に得られず、また10重量部より多いと混練中に有機化クレーが容易に凝集しやすくなり、外観荒れの原因となる。
【0035】
また上記のアイオノマー樹脂組成物には電気的特性、機械的特性、耐熱性など各種の物性改良を目的に、各種のポリマーを混合することができる。ポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体、環状ポリオレフィンなどの炭化水素系ポリマーやエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体などのエチレン系共重合体、さらに該エチレン系共重合体に無水マレイン酸やアクリル酸、グリシジルエーテルなどを共重合したポリマー、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンブチレート、6−ナイロン、66ナイロン、ポリフェニレンエーテルなどのエンジニアリングプラスチック、ポリブチレンサクシネートやポリ乳酸などの生分解性ポリマーなどが例示できる。なお、上記の炭化水素系ポリマー、エチレン系共重合体はアクリル酸や無水マレイン酸がグラフトされたものでも良い。
【0036】
さらに、本発明のアイオノマー樹脂組成物には、必要に応じて、トリメチロールプロパントリメタクリレートやトリアリルイソシアヌレート等の多官能性モノマーや、酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、滑剤、着色剤等の各種添加剤を混合することができる。これらの材料はオープンロール、加圧ニーダー、単軸混合機、2軸混合機等の既知の混合装置を用いて混合することができ、エチレン系アイオノマー樹脂の融点以上の温度で溶融混合することが好ましい。
【0037】
上記のアイオノマー樹脂組成物を、既知の溶融押出成形機を用いて押出成形し、内部絶縁層や外部絶縁層を形成することができる。アイオノマー樹脂組成物の押出加工は充実押出のほかチュービングダイを用いる引落押出を適用することが可能である。チュービングダイを用いる場合はDDR(Draw Down Ratio)引落率を1.5〜200に設定することが好ましい。DDRが200を超えると端末加工はんだ付けなどの熱処理工程で収縮が著しくなり好ましくない。なお、DDR引落率は以下の式により計算する。
【0038】
DDR引落率=(D−D)/(d−d
(D:ダイス外径、D:ポイント外径、d:被覆外径、d:被覆内径)
【0039】
アイオノマー樹脂組成物からなる内部絶縁層や外部絶縁層は、加速電子線やγ線などの電離放射線の照射や熱架橋法などで架橋して使用することもできる。樹脂を架橋することで耐熱性を高めることができ、はんだ付けなどの熱処理で内部絶縁層や外部絶縁層の溶融を防止できすることができる。生産性向上の観点から、電離放射線の照射による架橋を行うことが好ましい。
【0040】
電離放射線源としては、加速電子線やガンマ線、X線、α線、紫外線等が例示できるが、線源利用の簡便さや電離放射線の透過厚み、架橋処理の速度等工業的利用の観点から加速電子線が最も好ましく利用できる。加速電子線の加速電圧は絶縁層の肉厚によって適宜選択できるが、80kGy以上が好ましい。
【0041】
二重結合含有アルコキシシランを添加した場合は、電離放射線の照射量を少なくしても十分な架橋度を得ることができる。この場合の照射量の最適な範囲は、20kGy以上である。
【0042】
なお、内部絶縁層、外部絶縁層の一方を他の絶縁体から形成することも可能である。他の絶縁体としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)等が例示できる。
【0043】
本発明に使用する内部導体としては、銅線、銅合金線、またはこれらの表面に銀等をメッキした線等を適宜選択して使用することができる。導体は単線であっても良いし、複数の素線を撚り線したものでも良い。この内部導体を被覆するように内部絶縁層を形成する。なお内部導体が撚り線の場合、内部被覆層は各素線の表面全てを覆う必要はなく、撚り線である内部導体の外側を被覆していれば良い。
【0044】
本発明に使用する外部導体としては、内部導体と同様に、銅線、銅合金線、またはこれらの表面に銀や錫等をメッキした線等を適宜選択して使用することができる。外部導体は内部絶縁層の外側に横巻きまたは編組で巻き付けられる。さらにこの外部導体を被覆するように外部絶縁層を形成する。
【0045】
本発明の多心同軸ケーブルは、上記の同軸線を複数本用いて形成される。例えば複数の同軸線を束ねてまたは撚り合わせて、一部を共通外被で覆うことで多心化することができる。また複数の同軸線を平行一列に並べ、一部を共通外被で覆って固定することでフラット形状の多心同軸ケーブルを得ることができる。このような多心同軸ケーブルは多数の線の接続が可能であり、フレキシブルプリント配線板(FPC)やフレキシブルフラットケーブル(FFC)と同様の使い方が可能である。この場合、複数の同軸線は一部のみが固定されている構造であるため、固定されていない部分では一本ずつがばらばらに動くことができ、柔軟性に優れる。従ってFPCやFFCと比べて捻回特性が優れる。
【0046】
次に発明を実施するための最良の形態を実施例により説明する。実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0047】
(配合例1〜3)
(樹脂組成物ペレットの作製)
表3に示す配合比率でエチレン系アイオノマー樹脂、有機化クレー等を溶融混合した。溶融混合には二軸混合機(26mmΦ、L/D=48.5)を使用し、バレル温度は樹脂融点もしくは軟化点より20℃ほど高い温度に設定し、スクリュー回転数200rpmで溶融混合した後、ストランドカットペレタイザでペレットを作製した。
【0048】
【表1】

【0049】
(脚注)
(*1)エチレン系アイオノマー樹脂:三井デュポンポリケミカル(株)製、ハイミラン(登録商標)1706、弾性率270MPa
(*2)有機化クレー(インターカレーション用有機化合物:塩化ジメチルジステアリルアンモニウム、粒径25μm):Sud−Chemie社製、Nanofil 15、
(*3)酸化防止剤:チバスペシャリティケミカルズ(株)製、イルガノックス1010
【0050】
(実施例1〜3)
(同軸線の作製:絶縁材料の押出)
単軸押出機(25mmΦ、L/D=24)を用いて、外径0.016mmの銅合金素線を7本撚り合わせた撚り線導体(外径0.048mm)に、表2記載の条件で配合例1又は2の樹脂組成物を押出成形して内部絶縁層を形成した。次に、内部絶縁層の外周に線径0.02mmの素線を横巻きし、配合例1又は2の樹脂組成物を表2に記載の条件で押出成形することにより外部絶縁層を形成し、同軸線を得た。
【0051】
(同軸線の電子線照射)
実施例3の同軸線について、加速電圧300kVの電子加速器を用いて電子線を200kGy照射し、内部絶縁層と外部絶縁層を電子線架橋した。
【0052】
(同軸線の評価:外観)
表2の内部絶縁層、外部絶縁層の外観は目視でメルトフラクチャーが無いものを良好と判定した。
【0053】
(同軸線の評価:捻回試験)
同軸線を60本束ね、両端を掴んで捻回する治具で固定し、径方向に180°繰り返し捻回させ、内部導体が破断するまでの回数を測定することで捻回試験を行った。15万回捻回後に内部導体の断線が見られなかったものを合格とした。
【0054】
(同軸線の評価:はんだ耐熱性)
同軸線の端末約10mmを250℃のはんだ浴に10秒間浸漬し、外部絶縁層の収縮による外部導体の露出、内部絶縁層の収縮による内部導体の露出が0.5mm以内のものを合格とした。以上の結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
(実施例1)
内部絶縁層を形成した配合例1のアイオノマー樹脂組成物において、有機化クレーの含有量は樹脂組成物全体の9質量%である。肉厚0.028mmの内部絶縁層を充実押出、線速100m/分で成形することができた。また外部絶縁層を形成した配合例2のアイオノマー樹脂組成物において、有機化クレーの含有量は樹脂組成物全体の16質量%である。肉厚0.023mmの外部絶縁層を充実押出、線速200mm/分で形成することが可能であり、薄肉の絶縁層を高線速で押出成形できることが確認できた。得られた同軸線は捻回試験で15万回捻回後も内部導体の断線が見られず、合格することがわかった。
【0057】
(実施例2)
配合例1の樹脂組成物を用いて内部絶縁層を形成した。肉厚0.030mmの絶縁層を充実押出、線速150mm/分で成形することができた。外部絶縁層は配合例1のアイオノマー樹脂組成物で形成し、肉厚0.011mmの絶縁層を引落し押出、線速100m/分で成形することが可能であり、薄肉の絶縁層を高速で押し出し成形できるることが確認できた。この同軸線は捻回試験で15万回捻回後も内部導体の断線が見られず、合格することがわかった。
【0058】
(実施例3)
配合例2の樹脂組成物を用いて内部絶縁層を形成した。肉厚0.025mmの絶縁体を充実押出、線速200m/分で成形することができた。外部絶縁層は同じく配合例2の樹脂組成物で形成し、肉厚0.016mmの絶縁層を充実押出、線速100m/分で形成することが可能であり、薄肉の絶縁層を高線速で押出成形できることが確認できた。さらに電子線を200kGy照射し、内部絶縁層と外部絶縁層を架橋することで、この同軸線ははんだ耐熱性にも優れることが確認できた。
【0059】
(比較例1)
内部絶縁層として有機化クレーを配合しないエチレン系アイオノマー樹脂組成物を用い、薄肉押出を試みた。肉厚は0.060mm、押出線速70m/分が限界で、これより線速を高めたり、薄肉で押出しようとすると外観荒れが発生したり、押出中に材料が途切れる現象が頻発した。外部絶縁層も有機化クレーを配合しないエチレン系アイオノマー樹脂組成物を用いた。引落し法で薄肉の押出を検討したが、肉厚は0.045mm、押出線速は40m/分が限界で、DDRを高く設定して薄肉押出を試みると絶縁体が破断し、連続成形は困難であった。
【0060】
(比較例2)
内部絶縁層としてPFA(ダイキン工業(株)製、ネオフロン(登録商標)PFA AP201)を用い薄肉押出を試みたが、肉厚は0.035mm、押出線速200m/分が限界で、これより線速を高めると外観が荒れ始め、線速200m/分では、さらに薄肉で押出そうとするとやはり外観荒れが発生した。
外部絶縁層も同じPFAを使用し、引落し法を検討したが、肉厚は0.030mm、押出線速は30m/分が限界で、線速30m/分でDDRを高く設定して薄肉押出を試みたが、絶縁体の破断が発生し、連続形成は困難であった。
【0061】
(配合例4〜6)
(樹脂組成物ペレットの作製)
表3に示す配合比率でエチレン系アイオノマー樹脂、有機化クレー、二重結合含有アルコキシシラン等を溶融混合した。溶融混合には二軸混合機(26mmΦ、L/D=48.5)を使用し、バレル温度は樹脂融点もしくは軟化点より20℃ほど高い温度に設定し、スクリュー回転数200rpmで溶融混合した後、ストランドカットペレタイザでペレットを作製した。
【0062】
【表3】

【0063】
(実施例4〜6、参考例1、2)
実施例1〜3と同様に表4に記載の条件で同軸線を作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
(実施例4)
配合例2の樹脂組成物を用いて内部絶縁層を形成した。肉厚0.025mmの絶縁体を充実押出、線速200m/分で成形することができた。外部絶縁層は同じく配合例2の樹脂組成物で形成し、肉厚0.015mmの絶縁層を引落し押出、線速150m/分で形成することが可能であり、薄肉の絶縁層を高線速で押出成形できることが確認できた。さらに電子線を80kGy照射し、内部絶縁層と外部絶縁層を架橋することで、この同軸線ははんだ耐熱性にも優れることが確認できた。
【0066】
(実施例5)
配合例5の樹脂組成物を用いて内部絶縁層を形成した。肉厚0.025mmの絶縁体を充実押出、線速200m/分で成形することができた。外部絶縁層は同じく配合例5の樹脂組成物で形成し、肉厚0.015mmの絶縁層を引落し押出、線速150m/分で形成することが可能であり、薄肉の絶縁層を高線速で押出成形できることが確認できた。さらに電子線を20kGy照射し、内部絶縁層と外部絶縁層を架橋することで、この同軸線ははんだ耐熱性にも優れることが確認できた。
【0067】
(実施例6)
配合例6の樹脂組成物を用いて内部絶縁層を形成した。肉厚0.025mmの絶縁体を充実押出、線速200m/分で成形することができた。外部絶縁層は同じく配合例6の樹脂組成物で形成し、肉厚0.015mmの絶縁層を引落し押出、線速150m/分で形成することが可能であり、薄肉の絶縁層を高線速で押出成形できることが確認できた。さらに電子線を20kGy照射し、内部絶縁層と外部絶縁層を架橋することで、この同軸線ははんだ耐熱性にも優れることが確認できた。
【0068】
(参考例1)
配合例2の樹脂組成物を用いて内部絶縁層を形成した。肉厚0.025mmの絶縁体を充実押出、線速200m/分で成形することができた。外部絶縁層は同じく配合例2の樹脂組成物で形成し、肉厚0.015mmの絶縁層を引落し押出、線速150m/分で形成することが可能であり、薄肉の絶縁層を高線速で押出成形できることが確認できた。さらに電子線を50kGy照射し、内部絶縁層と外部絶縁層を架橋したが、はんだ耐熱性試験で内部導体が露出してしまい、不合格となった。
【0069】
(参考例2)
配合例4の樹脂組成物を用いて内部絶縁層を形成した。肉厚0.025mmの絶縁体を充実押出、線速200m/分で成形することができた。外部絶縁層は同じく配合例4の樹脂組成物で形成し、肉厚0.015mmの絶縁層を引落し押出、線速150m/分で形成することが可能であり、薄肉の絶縁層を高線速で押出成形できることが確認できた。さらに電子線を30kGy照射し、内部絶縁層と外部絶縁層を架橋したが、はんだ耐熱性試験で内部導体が露出してしまい、不合格となった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の同軸線、及び多心同軸ケーブルは、細径化が可能で捻回特性にもすぐれるため、携帯電子機器の内部配線等に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部導体、該内部導体を被覆する内部絶縁層、該内部絶縁層の外側に位置する外部導体、及び該外部導体を被覆する外部絶縁層を有する同軸線であって、
前記内部絶縁層、前記外部絶縁層のいずれか一方または両方が、エチレン系アイオノマー樹脂と有機化クレーを含有するアイオノマー樹脂組成物からなることを特徴とする同軸線。
【請求項2】
前記有機化クレーの含有量が、前記樹脂組成物全体の2質量%以上60質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の同軸線。
【請求項3】
前記有機化クレーのインターカレーション用の有機化合物が、塩化ジメチルジステアリルアンモニウム、塩化ベンジルジメチルステアリルアンモニウムのいずれか一方または両方であることを特徴とする、請求項1または2に記載の同軸線。
【請求項4】
前記アイオノマー樹脂組成物が、さらに二重結合含有アルコキシシランを、エチレン系アイオノマー樹脂100質量部に対して0.2質量%以上10質量%以下含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の同軸線。
【請求項5】
前記アイオノマー樹脂組成物が、電離放射線の照射により架橋されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の同軸線。
【請求項6】
前記外部絶縁層の外径が0.22mm以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の同軸線。
【請求項7】
樹脂組成物1の押出成形により内部導体を被覆して内部絶縁層を形成する工程、該内部絶縁層の外側に外部導体を配置する工程、及び樹脂組成物2の押出成形により該外部導体を被覆して外部絶縁層を形成する工程、を含み、
前記樹脂組成物1、前記樹脂組成物2のいずれか一方または両方が、エチレン系アイオノマー樹脂と有機化クレーを含有するアイオノマー樹脂組成物であることを特徴とする同軸線の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の同軸線を複数本有する、多心同軸ケーブル。

【公開番号】特開2009−32662(P2009−32662A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48066(P2008−48066)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】