説明

吐出ポンプ

【課題】スムーズに押下ヘッドを押し下げることができ、吐出操作性を向上すること。
【解決手段】下側弁座36が設けられたシリンダ3と、シリンダ内に配置されて内周部に上側弁座43が設けられたピストン4と、ピストンを上方に付勢する付勢部材5と、ピストンに連結されてシリンダの上方に上方付勢状態で押込み可能に突出されたステム6と、ステムの上端部に装着されたノズル73付きの押下ヘッド7と、下側弁座36に対して着座可能な下側弁体部82、及び上側弁座に対して離間可能に着座された上側弁体部83がそれぞれ設けられたバルブ8と、を備え、下側弁体部と下側弁座との間には、下側弁体部の着座時に、シリンダの内圧をシリンダ外に逃がす逃し部が画成されている吐出ポンプ1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐出ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の吐出ポンプとして、従来、例えば下記特許文献1に示されているような、内容物を収容した容器内に配置されるシリンダと、シリンダの内側に配設されてそのシリンダの内周面に液密に摺接された環状のピストンと、ピストンを上方に付勢する付勢部材と、ピストンに連結されてピストンに連通されていると共に、シリンダの上端から上方付勢状態で押込み可能に立設されたステムと、シリンダの内側に配置されたバルブと、ステムの上端に装着された押下ヘッドと、を備えた構成が知られている。
【0003】
上記したシリンダの下部の内側には、テーパー状の下側弁座が設けられている。そして、上記したバルブの下端には下側弁座に対して着座可能な下側弁体部が形成されており、この下側弁体部は下側弁座の上方に配設されている。また、上記したピストンの内周部には、環状の上側弁座が設けられている。そして、上記したバルブの上端には、上側弁座に対して離間可能に着座した上側弁体部が設けられている。
【0004】
上記した構成の吐出ポンプによれば、押下ヘッドを押し下げることで、ステムがシリンダ内に押し込まれると共に、ステムに連結されたピストンが付勢部材の付勢力に抵抗しながら押し下げられる。このとき、上側弁座に上側弁体部が着座された状態で、ピストンと共にバルブが下降する。
そして、バルブの下側弁体部がシリンダの下側弁座に着座して下側弁座が閉塞されると、バルブの下降が規制される。そして、その後のさらなる押下ヘッドの押し下げによって、バルブは下降せずにピストンだけが下降して、該ピストンの上側弁座が上側弁体部から離間して上側弁座が開放される。その後、引き続き押下ヘッド(ステム)が押し下げられることで、ピストンがシリンダの内周面に沿って下方に向かって摺動する。これにより、ピストンの下方に形成されたシリンダ内の収容室が減容されてその内圧が上昇し、収容室内の内容物が上側弁座の内側を通ってステム内に流入し、押下ヘッドのノズルから吐出される。
【0005】
次に、押下ヘッドの押圧を解除すると、付勢部材の付勢力によってピストン及びステムが押し上げられる。その後、引き続き付勢部材によってピストンが押し上げられ、ピストンがシリンダの内周面に沿って上方に向かって摺動すると、上記した収容室の内圧が低下する。この復帰動作によってバルブも上昇し、バルブの下側弁体部がシリンダの下側弁座から離間して下側弁座が開放され、容器内の内容物が下側弁座の内側を通って収容室内に流入する。そして、ピストンの上側弁座がバルブの上側弁体部に着座し、元の状態(押し下げ前の状態)に戻る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−58733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来の吐出ポンプでは、押下ヘッドを押し下げ始めてから、ピストンの上側弁座が上側弁体部から離間して該上側弁座が開放されるまでの間、押下ヘッドの押しが重くなり、該押下ヘッドが押し下がり難くなる場合があった。
【0008】
詳しく説明すると、押下ヘッドを押し下げると、まずステム、ピストン及びバルブが共に下降した後、バルブの下側弁体部がシリンダの下側弁座に着座して該下側弁座が閉塞される。そのため、これ以降上側弁座が開放されるまで、シリンダ室内の収容室は密閉された状態となり、収容室内の内容物は逃げ場がなくなった状態となってしまう。
そのため、下側弁座が閉塞されてから上側弁座が開放されるまでの間、収容室内を減容させ難く、押下ヘッドが押し下がり難くなり易かった。
【0009】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、スムーズに押下ヘッドを押し下げることができ、吐出操作性を向上することができる吐出ポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
(1)本発明に係る吐出ポンプは、内容物を収容した容器内に配置され、下部の内側に下側弁座が設けられたシリンダと、該シリンダの内側に配置されて該シリンダの内周面に液密に摺接されていると共に、内周部に上側弁座が設けられた環状のピストンと、該ピストンを上方に付勢する付勢部材と、前記ピストンに連結されて該ピストンに連通されていると共に、前記シリンダの上方に上方付勢状態で押込み可能に突出されたステムと、該ステムの上端部に装着され、該ステムに連通するノズルが備えられた押下ヘッドと、前記シリンダの内側に配置されていると共に、前記下側弁座の上方に離間して配置されて該下側弁座に対して着座可能な下側弁体部、及び前記上側弁座に対して離間可能に着座された上側弁体部がそれぞれ設けられたバルブと、を備え、前記下側弁体部と前記下側弁座との間には、該下側弁体部の着座時に、前記シリンダの内圧をシリンダ外に逃がす逃し部が画成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る吐出ポンプによれば、押下ヘッドが押し下げられると、ステムを介してピストンが付勢部材の付勢力に抵抗しながら押し下げられると共に、ピストンの上側弁座に着座された上側弁体部を有するバルブがピストンと共に下降する。すると、バルブの下側弁体部がシリンダの下側弁座に着座して該下側弁座が閉塞されると共に、この着座によってバルブの下降が規制される。そして、押下ヘッドのさらなる押し下げによって、バルブは下降せずにピストンだけが下降するので、該ピストンの上側弁座が上側弁体部から離間して上側弁座が開放される。
その後、押下ヘッドが引き続き押し下げられることで、ピストンがシリンダの内周面に沿って下方に向かって摺動する。これにより、シリンダ内のうちのピストンよりも下方の部分(収容室)の内圧が上昇し、収容室内の内容物が上側弁座の内側を通ってステム内に流入してノズルの先端から外部に吐出される。
【0012】
特に、バルブの下側弁体部がシリンダの下側弁座に着座した際、下側弁体部と下側弁座との間に逃し部を画成することができるので、下側弁座が閉塞された後、収容室の内圧をこの逃し部を通じて収容室外(シリンダ外)に逃すことができる。そのため、下側弁座が閉塞されてから上側弁座が開放されるまでの間、収容室内が密閉状態になってしまうことを防ぐことができ、抵抗少なく押下ヘッドを押し下げることができる。
従って、速やかにピストンを下降させて上側弁座を開放させると同時に収容室内の内圧を上昇させて、内容物を吐出させることができる。
【0013】
また、上記本発明の吐出ポンプにおいて、前記下側弁体部の着座面、及び前記下側弁座の着座面のうちの少なくとも一方が、前記バルブの外表面及び前記シリンダの内表面のうち、着座面以外の他の部分よりも粗い粗面とされ、該粗面の凹凸により前記逃し部が画成されていても良い。
【0014】
この場合には、下側弁体部の着座面及び下側弁座の着座面のうちの少なくとも一方の着座面を粗面にするだけの簡便な構成で逃し部を画成できるので、構成の簡略化及びコスト高の抑制を図ることができる。
特に、粗面の凹凸により逃し部を画成するので、例えば収容室内の内容物を逃すことで内圧を逃す場合には、内容物に流動抵抗を付与し易い。そのため、逃し量をできるだけ抑制しながら内容物をシリンダ外に逃すことができるので、下側弁座が閉塞された後に、収容室内の内容物の量が減少してしまうことを極力抑えることができる。
従って、内容物の吐出量に影響がでてしまい難く、十分な吐出量の内容物を吐出することができる。また、粘度が低い内容物であっても、十分な吐出量を確保しながら吐出することが可能であるので、内容物の選択性を広げることができ、内容物のバリエーションを増やすことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る吐出ポンプによれば、抵抗が少なくスムーズに押下ヘッドを押し下げて内容物を吐出することができ、吐出操作性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る吐出ポンプの縦断面図である。
【図2】図1に示す吐出ポンプの部分拡大断面図であって、下側弁座と下側弁体部とが着座した状態における断面図である。
【図3】図1に示す吐出ポンプの使用前状態における縦断面図である。
【図4】図1に示す状態から押下ヘッドを押し下げ、下側弁座が閉塞された状態における縦断面図である。
【図5】図4に示す状態からさらに押下ヘッドを押し下げ、上側弁座が開放された状態における縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る吐出ポンプの実施形態を、図1から図5に基づいて説明する。
なお、本実施形態では、吐出ポンプ1における押下ヘッド7側(図1における上側)を上方とし、その反対側(図1における下側)を下方とする。また、図1に示す符号Oは、吐出ポンプ1の中心軸線を示しており、以下、単に軸線Oと記す。また、この軸線O方向を、以下、単に「軸方向」と記し、軸線Oに直交する方向を、以下、単に「径方向」と記し、軸線O回りの方向を、以下、単に「周方向」と記す。
【0018】
本実施形態の吐出ポンプ1は、図1に示すように、内容物を収容した図示しない容器の口部に装着される吐出器であり、特に、容器内の液体状の内容物を液体の状態で吐出する液体吐出ポンプである。
吐出ポンプ1の概略構成としては、装着キャップ2と、シリンダ3と、ピストン4と、コイルスプリング(付勢部材)5と、ステム6と、押下ヘッド7と、バルブ8と、ディップチューブ9と、補助キャップ10と、を備えている。
【0019】
装着キャップ2は、容器の口部に装着されるキャップ体であり、円環状の天壁部20と、天壁部20の外縁から垂下された周壁部21と、を備えている。周壁部21は、軸線Oを中心軸線にして軸方向に沿って延設された円筒形状の筒部であり、その内周面には容器の口部に螺着される雌ねじ22が形成されている。
【0020】
シリンダ3は、容器内の内容物が内部に供給される筒体であり、このシリンダ3内のうち、後述するピストン4と下側弁座36との間に、内容物が収容される収容室16が形成されている。
このシリンダ3は、容器の内側に配設されており、直筒部30と、直筒部30の下端に連設された下筒部31と、ディップチューブ9が連結される連結筒部32と、直筒部30の上端から径方向外側に突出したフランジ部33と、フランジ部33の上面に立設された立上り筒部34と、を備えている。
【0021】
直筒部30は、軸線Oを中心軸線にして軸方向に沿って延設された円筒形状の筒部であり、その上部には空気孔30aが形成されている。また、この直筒部30の上端部の外側には、上記フランジ部33と容器の口部の上端面との間に介在される円環状のパッキン35が嵌装されている。
【0022】
下筒部31は、直筒部30よりも小径の略円筒形状の筒部であり、軸線Oを中心軸線として軸方向に沿って延設されている。この下筒部31の下部は、軸方向下側に向かうに従い漸次縮径されたテーパー形状に形成されており、その下端には、円環状の下側弁座36が配設されている。
この下側弁座36の内周面である着座面36aは、軸方向下側に向かうに従い漸次縮径されたテーパー形状に形成されている。また、下筒部31の内周面であって、且つ下側弁座36の上方に位置する部分には、軸方向に延在する複数の凸リブ37が周方向に間欠的に配設されている。
【0023】
連結筒部32は、下筒部31の下端から垂下された円筒形状の筒部であり、軸線Oを中心軸線にして軸方向に沿って延設されている。
フランジ部33は、直筒部30の外周面に沿って全周に亘って形成された円環状の壁部であり、装着キャップ2(周壁部21の上端部)の内側に嵌合され、装着キャップ2の天壁部20の下面に当接されている。
立上り筒部34は、フランジ部33の上面から軸線Oに沿って上方に延設された略円筒形状の筒部であり、装着キャップ2の円環状の天壁部20の内側に挿通され、天壁部20の上方に突出されている。
【0024】
また、シリンダ3の下部(連結筒部32)の内側には、オリフィス38が形成されたオリフィス壁部39がシリンダ3と一体に形成されている。このオリフィス壁部39は、中央部分に平面視円形のオリフィス38が形成された円環状の板部であり、軸線Oに対して垂直に配設されている。オリフィス壁部39は、下側弁座36の下方に配設されていると共に、その外周部が下側弁座36に一体に連結されている。
【0025】
オリフィス38は、内容物が流通可能な流通孔であり、容器内と収容室16内とを連通する内容物の流路の途中に配設されて、該流路を絞って内容物の流量を制御する孔である。具体的に説明すると、オリフィス38(オリフィス壁部39)は、下側弁座36と後述するディップチューブ9の上端との間に配設されている
【0026】
ピストン4は、シリンダ3の直筒部30の内側に配設され、該直筒部30の内周面に沿って軸方向に摺動可能な環状部材であり、外筒部40と、内筒部41と、連結部42と、上側弁座43と、を備えている。
【0027】
外筒部40は、軸線Oを共通軸にして直筒部30と同軸上に配設された略円筒形状の筒部である。外筒部40の上端部は、軸方向上側に向かうに従い漸次拡径されている。また、外筒部40の下端部は、軸方向下側に向かうに従い漸次拡径されている。そして、外筒部40の上下端部は、それぞれ直筒部30の内周面に全周に亘って液密に摺接されている。
内筒部41は、外筒部40の内側に配設された円筒形状の筒部であり、軸線Oを共通軸にして外筒部40と同軸上に配設されている。
【0028】
連結部42は、外筒部40の軸方向中央部分と内筒部41の軸方向中央部分とを連結する連結部であり、外筒部40の内周面及び内筒部41の外周面に沿って全周に亘って形成された平面視円環状の壁部である。
上側弁座43は、内筒部41の上端に連設された略円筒形状の筒部であり、軸線Oを中心軸線にして軸方向に沿って延設されている。この上側弁座43の上部は、軸方向上側に向かうに従い漸次縮径されたテーパー形状を成している。
【0029】
コイルスプリング5は、上記したピストン4を上方に付勢する付勢部材であり、シリンダ3の内側に配設されている。このコイルスプリング5は、シリンダ3の凸リブ37の上端とピストン4の連結部42との間に介装されており、軸線Oを共通軸にして直筒部30と同軸上に配設されている。
【0030】
ステム6は、軸線Oを中心軸線にして軸方向に沿って延在する略円筒形状の筒体であり、ピストン4に連結されていると共に、シリンダ3の上方に上方付勢状態で押込み可能に突出されている。
詳しく説明すると、ステム6は、シリンダ3の上端部の内側から上方に向けて起立されている。そして、ステム6の下端部にはピストン4の内筒部41の上部の外周が嵌合されており、ステム6の内側に上側弁座43が配置されている。また、ステム6の上端部の内側には、軸方向下側に向かうに従い漸次縮径されたテーパー状の弁座部60が設けられており、この弁座部60上に球状の弁体61が離間可能に着座されている。
【0031】
押下ヘッド7は、指等で押し下げ操作するための操作部であり、ステム6の上端部に装着されている。
この押下ヘッド7は、平面視円形の天壁部70と、天壁部70の外縁から垂下された周壁部71と、周壁部71の内側に配設されていると共に天壁部70から垂下された連通筒部72と、連通筒部72に連通されたノズル73と、を備えている。
【0032】
連通筒部72は、軸線Oを中心軸線にして軸方向に沿って延在された略円筒形状の筒部であり、この連通筒部72の下部は、ステム6の上端部の外周に嵌合されている。また、連通筒部72の下部の外周面には、雄ねじ74が形成されている。また、連通筒部72の上部の外周面には、軸方向に延在する複数の凸リブ75が周方向に間欠的に配設されている。
【0033】
バルブ8は、シリンダ3の内側に配設されていると共に軸線Oを共通軸にしてシリンダ3と同軸上に配設された棒状の弁部材であり、上下端にそれぞれ弁体部(上側弁体部83、下側弁体部82)が設けられたポペットバルブである。
このバルブ8は、円筒形状のパイプ部80と、パイプ部80の上端に連結されたロッド部81と、パイプ部80の下端に設けられた下側弁体部82と、ロッド部81の上端に設けられた上側弁体部83と、を備えている。
【0034】
パイプ部80及びロッド部81は、コイルスプリング5の内側に挿通されており、また、ロッド部81の上部は、ピストン4の内筒部41及び上側弁座43の内側に挿通されている。パイプ部80の外周面には、軸方向に延在する複数の凸リブ84が周方向に間欠的に配設されている。
【0035】
下側弁体部82は、シリンダ3の下側弁座36に対して着座可能な弁体部であり、下側弁座36の上方に離間して配設されている。
詳しく説明すると、下側弁体部82は、パイプ部80に連通された円筒形状の筒部であり、軸線Oを中心軸線にして軸方向に沿って延在されている。下側弁体部82の下端部の外周面である着座面82aは、軸方向下側に向かうに従い漸次縮径されており、シリンダ3の下側弁座36の着座面36aに当接可能とされている。
また、下側弁体部82の上端部の外周面には、径方向外側に向けて突出した複数の凸部85が周方向に間欠的に配設されている。これら複数の凸部85は、周方向に隣り合う凸リブ37の間にそれぞれ配設されている。
【0036】
上側弁体部83は、上側弁座43に対して離間可能に着座した弁体部であり、上側弁座43の上端部の内側に嵌め込まれている。詳しく説明すると、上側弁体部83は、ロッド部81よりも大径の筒部であり、上側弁体部83の下部の外周面は、軸方向上側に向かうに従い漸次拡径されている。この上側弁体部83の下部の外周面は、上側弁座43の上端部の内周面に全周に亘って当接されており、これにより、上側弁座43の上端が閉塞されている。
【0037】
ディップチューブ9は、容器の内側に配置されたパイプであり、ディップチューブ9の下端は容器内に開放され、ディップチューブ9の上端は連結筒部32の内側に嵌合されてシリンダ3の下端に連結されている。
【0038】
補助キャップ10は、シリンダ3の上端部に被着される環状のキャップ体であり、円環状の天壁部11と、天壁部11の外縁から垂下された外筒部12と、天壁部11の内縁から垂下されて外筒部12の内側に配設された内筒部13と、内筒部13の下端に連設されたガイド筒部14と、を備えている。
天壁部11は、軸線Oに対して垂直に配設された板部であり、シリンダ3の立上り筒部34の上方に配置されている。外筒部12は、立上り筒部34の外周に配設されていると共に軸線Oを共通軸にして立上り筒部34と同軸上に配設された円筒形状の筒部であり、立上り筒部34に対してアンダーカット嵌合されている。
【0039】
内筒部13は、立上り筒部34の内側に配設されていると共に軸線Oを共通軸にして外筒部12及び立上り筒部34と同軸上に配設された円筒形状の筒部であり、内筒部13の内側には、ステム6が挿通されている。また、内筒部13の内周面には、押下ヘッド7の雄ねじ74に螺合可能な雌ねじ15が形成されている。
ガイド筒部14は、ステム6が内側に挿通されてステム6の押込み動作を軸方向に案内する筒部である。このガイド筒部14は、内筒部13よりも小径の円筒形状の筒部であり、内筒部13の下端から軸方向に沿って下方に延設されている。
【0040】
ところで、本実施形態の吐出ポンプ1においては、図2に示すように、シリンダ3の下側弁座36の着座面36aの少なくとも一部(本実施形態では全周)が該シリンダ3における内周面のうち、着座面36a以外の他の部分よりも粗い粗面に形成されている。そして、この粗面の凹凸を利用して、バルブ8の下側弁体部82がシリンダ3の下側弁座36に着座した際、下側弁体部82と下側弁座36との間に収容室16内の内圧を収容室16外に逃す逃し部100を画成している。
なお、粗面の形成方法としては、例えばヤスリ等による機械的研磨で行っても構わないし、シボ加工で行っても構わない。機械的研磨を行う場合には、周方向に沿った横磨きではなく、縦磨きが好ましい。
【0041】
次に、上述したように構成された吐出ポンプ1の作用について説明する。
【0042】
はじめに、吐出ポンプ1を備えた容器の搬送時や陳列時等の使用開始前の状態においては、図3に示すように、押下ヘッド7の連通筒部72の雄ねじ74が補助キャップ10の内筒部13の雌ねじ15に螺着されており、押下ヘッド7が押し下げられた状態で保持されている。これにより、押下ヘッド7が不用意に操作されて内容物が吐出されることが防止される。また、このとき、連通筒部72の凸リブ75の下端が補助キャップ10の天壁部11の上面に係止する位置まで連通筒部72の下部が補助キャップ10の内筒部13内に捩じ込まれている。これにより、押下ヘッド7が所定の高さ位置に配置されるので、複数の吐出ポンプ1の高さ寸法を揃えることができる。
【0043】
そして、吐出ポンプ1を使用する際には、まず、押下ヘッド7を軸線O回りに軸回転させて雄ねじ74と雌ねじ15との螺合を取り外し、押下ヘッド7の連通筒部72を補助キャップ10の内筒部13から離脱させる。これにより、コイルスプリング5による付勢力によって、ピストン4がシリンダ3の直筒部30の内周面に沿って押し上げられ、ピストン4に連結されたステム6とそのステム6に装着された押下ヘッド7とがそれぞれ軸方向に沿って上昇し、図1に示す上死点の状態となる。これ以降、押下ヘッド7が押し下げ操作可能な状態となる。
【0044】
次に、押下ヘッド7を押し下げてノズル73の先端から容器の内容物を吐出させる場合について説明する。
まず、押下ヘッド7の天壁部70の上面を押圧して押下ヘッド7を軸方向に沿って押し下げる。すると、ステム6を介してピストン4がコイルスプリング5の付勢力に抵抗しながら押し下げられる。このとき、バルブ8の上側弁体部83がピストン4の上側弁座43の内側に嵌め込まれているので、ピストン4と共にバルブ8が軸方向に沿って下降する。
【0045】
すると、図4に示すように、バルブ8の下側弁体部82がシリンダ3の下側弁座36に着座して該下側弁座36が閉塞されると共に、この着座によってバルブ8の下方への移動が規制される。
そして、押下ヘッド7のさらなる押し下げによって、バルブ8は下降せずにピストン4だけが下降するので、図5に示すように、ピストン4の上側弁座43がバルブ8の上側弁体部83から離間し、該上側弁座43が開放される。
【0046】
その後、押下ヘッド7が引き続き押し下げられることで、ピストン4がシリンダ3の直筒部30の内周面に沿って下方に向かって摺動する。これにより、シリンダ3内の収容室16の内圧が上昇し、収容室16内の内容物がピストン4の内筒部41内及び上側弁座43内を通ってステム6内に流入する。そして、ステム6の内圧によってステム6内の弁体61が上方に押し上げられてステム6内の弁座部60が開放され、ステム6内の内容物が弁座部60の内側を通って押下ヘッド7の連通筒部72内に流入し、その連通筒部72内からノズル73内を通ってノズル73の先端から外部に吐出される。
【0047】
特に、本実施形態の吐出ポンプ1によれば、バルブ8の下側弁体部82がシリンダ3の下側弁座36に着座した際、下側弁体部82と下側弁座36との間に逃し部100(図2参照)を画成することができる。そのため、下側弁座36が閉塞された後、図2に示す矢印のように、収容室16の内圧をこの逃し部100を通じて収容室16外に逃すことができる。そのため、下側弁座36が閉塞されてから上側弁座43が開放されるまでの間、収容室16内が密閉状態になってしまうことを防ぐことができ、抵抗少なく押下ヘッド7を押し下げることができる。
従って、速やかにピストン4を下降させて上側弁座43を開放させると同時に収容室16内の内圧を上昇させて、内容物を吐出させることができる。よって、吐出操作性を向上させることができる。
【0048】
更に、下側弁座36の着座面36aを粗面にするだけの簡便な構成で逃し部100を画成できるので、構成の簡略化及びコスト高の抑制を図ることができる。
また、粗面の凹凸により逃し部100を画成するので、例えば収容室16内の内容物を逃し部100を通じて逃すことで収容室16の内圧を逃す場合、内容物に流動抵抗を付与し易い。そのため、逃し量をできるだけ抑制しながら内容物を収容室16外に逃すことができるので、下側弁座36が閉塞された後に、収容室16内の内容物の量が減少してしまうことを極力抑えることができる。
【0049】
従って、内容物の吐出量に影響がでてしまい難く、十分な吐出量の内容物を吐出することができる。また、粘度が低い内容物であっても、十分な吐出量を確保しながら吐出することが可能であるので、内容物の選択性を広げることができ、内容物のバリエーションを増やすことができる。
【0050】
例えば、シャンプー等のような粘度の高い内容物に比べて、アルコール等のような粘度の低い内容物の場合には、流動性が高いので逃し部100を通じて収容室16内から収容室16外に流れてしまい易いが、上述したように流動抵抗を付与し易いので、粘度の低い内容物であっても収容室16内における収容量の減少を抑えることができる。
【0051】
例えば、水による吐出量を3gに設定したポンプ(シリンダ)において、前記下側弁座36の着座面36aに、
・突出高さが0.08mmの縦リブを1本形成した場合(比較例)
・前記着座面36aを平滑面とした場合(従来例)
・前記着座面36aをヤスリ(800番)で縦磨きして粗面を形成した場合(実施例)
を比較するため、下側弁体部82を前記着座面36aに着座(閉塞)させた状態で、シリンダ3における前記閉塞部分より連結筒部32側の空間を−50kPaの減圧状態にする。この減圧状態で静置してその圧力変化を観察したところ、従来例では1分以上経過しても圧力に変化は見られなかったのに対し、比較例では約3秒、実施例では10秒から30秒程度で圧力変化が0kPa(常圧)に戻った。
また、押下ヘッド7を繰り返し操作し、50%アルコール溶液の吐出量を比較したところ、実施例では設定値(設計値)の約90%以上、比較例では60%以下(約50%)となっていた。
また、一般的なシャンプーを内容物として吐出操作を行ったところ、比較例、実施例では使用上問題となるような大きな押圧力(押下力)の上昇は見られなかったが、従来例では大幅に押圧力が上昇した。
従って、本願発明の構成(実施例)は、低粘度のアルコール溶液からシャンプーのような高粘度の内容物まで、幅広い内容物に対応できることが確認できた。
【0052】
ところで、上述したように内容物を吐出させた後、押下ヘッド7の押圧を解除すると、コイルスプリング5の付勢力によってピストン4及びステム6が押し上げられ、収容室16が負圧になる。この復帰動作によってバルブ8も上昇し、バルブ8の下側弁体部82がシリンダ3の下側弁座36から離間して該下側弁座36が開放される。
その後、引き続きコイルスプリング5によってピストン4が押し上げられ、ピストン4がシリンダ3の直筒部30の内周面に沿って上方に向かって摺動し、シリンダ3内の収容室16の内圧がさらに低下する。
【0053】
これにより、容器内の内容物が、ディップチューブ9の下端からディップチューブ9内に流入してディップチューブ9内を流通し、ディップチューブ9の上端からオリフィス38及び下側弁座36内を通って収容室16内に流入する。
そして、図1に示すように、ピストン4が上死点の位置まで上昇することでピストン4の上側弁座43にバルブ8の上側弁体部83が着座して上側弁座43が閉塞され、内容物の吐出が終了する。
【0054】
なお、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
【0055】
例えば、上記実施形態では、シリンダ3の下側弁座36の着座面36aを粗面にすることで、下側弁体部82と下側弁座36とが着座した際に、両者の間に逃し部100を画成したが、バルブ8の下側弁体部82の着座面82aを粗面にすることで逃し部100を画成しても構わないし、下側弁座36の着座面36a及び下側弁体部82の着座面82aの両方を粗面にすることで逃し部100を形成しても構わない。
【0056】
なお、シリンダ3の下側弁座36の着座面36a、及びバルブ8の下側弁体部82の着座面82aのうちの少なくとも一方を粗面にする場合、内容物の種類や着座面36a、82aの面積等に応じて表面粗さを決定すれば良い。また、着座面36a、82aの全面を粗面にしても構わないし、一部を粗面にしても構わない。
【符号の説明】
【0057】
1…吐出ポンプ
3…シリンダ
4…ピストン
5…コイルスプリング(付勢部材)
6…ステム
7…押下ヘッド
8…バルブ
36…下側弁座
36a…下側弁座の着座面
43…上側弁座
73…ノズル
82…下側弁体部
82a…下側弁体部の着座面
83…上側弁体部
100…逃し部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内容物を収容した容器内に配置され、下部の内側に下側弁座が設けられたシリンダと、
該シリンダの内側に配置されて該シリンダの内周面に液密に摺接されていると共に、内周部に上側弁座が設けられた環状のピストンと、
該ピストンを上方に付勢する付勢部材と、
前記ピストンに連結されて該ピストンに連通されていると共に、前記シリンダの上方に上方付勢状態で押込み可能に突出されたステムと、
該ステムの上端部に装着され、該ステムに連通するノズルが備えられた押下ヘッドと、
前記シリンダの内側に配置されていると共に、前記下側弁座の上方に離間して配置されて該下側弁座に対して着座可能な下側弁体部、及び前記上側弁座に対して離間可能に着座された上側弁体部がそれぞれ設けられたバルブと、を備え、
前記下側弁体部と前記下側弁座との間には、該下側弁体部の着座時に、前記シリンダの内圧をシリンダ外に逃がす逃し部が画成されていることを特徴とする吐出ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の吐出ポンプにおいて、
前記下側弁体部の着座面、及び前記下側弁座の着座面のうちの少なくとも一方は、前記バルブの外表面及び前記シリンダの内表面のうち、着座面以外の他の部分よりも粗い粗面とされ、該粗面の凹凸により前記逃し部が画成されていることを特徴とする吐出ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−251694(P2011−251694A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124813(P2010−124813)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000006909)株式会社吉野工業所 (2,913)
【Fターム(参考)】