説明

吐出検査装置

【課題】液滴が正常に吐出されたと誤判定することを防止する。
【解決手段】ノズルから液滴を吐出させる吐出期間とノズルから液滴を吐出させない非吐出期間とを含む吐出検査周期が繰り返されるようにノズルから液滴を吐出させ、吐出期間においてノズルから吐出された液滴に応答して変化する検出信号の信号強度を所定の信号閾値により2値化した検出パルス信号を取得し、検出パルス信号のパルス形状に基づいて、吐出検査周期における検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れたか否かを判定し、吐出検査周期にて検出パルス信号の2値信号強度が遷移した回数であるエッジ数をカウントし、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れ、かつ、エッジ数が第1ノイズ閾値以下である場合に、ノズルから正常に液滴が吐出されたと判定するとともに、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れず、かつ、エッジ数が第1ノイズ閾値と異なる第2ノイズ閾値以下である場合に、ノズルから液滴が吐出されなかったと判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴が正常に吐出されたか否かを判定する吐出検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズルからインク滴を導体の付近に吐出させ、当該導体に流れる誘導電流によりノズルから正常にインク滴が吐出されたか否かを判定する技術が提案されている(特許文献1、参照)。この技術においては、帯電したインク滴が導体に接近することにより流れる誘導電流に対応する電圧を生成し、当該電圧のピーク値と閾値とを比較することにより、インク滴が吐出されたか否かを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−130869号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、誘導電流に対応する電圧のピーク値はノイズの影響を受けやすいという問題があった。すなわち、正常にインク滴が吐出されていないにも拘わらず、誘導電流に対応する電圧のピーク値がノイズにより正常な値となり、正常にインク滴が吐出されたと誤判定されるという問題があった。
本発明は、前記課題にかんがみてなされたもので、液滴が正常に吐出されたと誤判定することを防止する吐出検査装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明の吐出検査装置において、吐出制御手段は、ノズルから液滴を吐出させる吐出期間とノズルから液滴を吐出させない非吐出期間とを含む吐出検査周期が繰り返されるようにノズルから液滴を吐出させる。検出パルス信号取得手段は、吐出期間においてノズルから吐出された液滴に応答して変化する検出信号の信号強度を所定の信号閾値により2値化した検出パルス信号を取得する。信号判定手段は、吐出検査周期における検出パルス信号のパルス形状に基づいて、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れたか否かを判定する。エッジ数カウント手段は、吐出検査周期にて検出パルス信号の2値信号強度が遷移した回数であるエッジ数をカウントする。総合判定手段は、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れたと判定され、かつ、エッジ数が第1ノイズ閾値以下である場合に、ノズルから正常に液滴が吐出されたと判定する。また、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れなかったと判定され、かつ、エッジ数が第2ノイズ閾値以下である場合に、ノズルから液滴が吐出されなかったと判定する。検出信号の信号強度に多くのノイズが重畳され、エッジ数が多くなっている状態では、ノズルから正常に液滴が吐出されたとの判定、および、ノズルから液滴が吐出されなかったとの判定を行わないため、誤判定が防止できる。
【0006】
ここで、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れる場合、検出信号の信号強度においてノイズの応答波に液滴の応答波の重畳されることとなる。一方、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れないと、検出信号の信号強度においてノイズの応答波に液滴の応答波の重畳されないこととなる。従って、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れる場合と表れない場合とでは、ノイズに起因して変化する検出信号の信号強度の変化範囲が異なることとなる。ノイズに起因して変化する検出信号の信号強度の変化範囲に2値化のための信号閾値が含まれる場合には、当該変化範囲に2値化のための信号閾値が含まれない場合よりも、検出パルス信号におけるノイズ起因のエッジ数は多くなる。すなわち、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れる場合と表れない場合とでは、ノイズに起因して変化する検出信号の信号強度の変化範囲が異なり、双方の場合で同程度のノイズが重畳される場合でもカウントされるエッジ数が異なることとなる。このような状況において、第1ノイズ閾値と第2ノイズ閾値とを互いに異なる値とすることにより、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れる場合と表れない場合とにおける検出信号の信号強度のノイズの重畳状態を、それぞれ適切なノイズ閾値によって評価できる。
【0007】
特に、第1ノイズ閾値と第2ノイズ閾値とは、検出信号の信号強度に重畳されるノイズが既知である場合に適切な値に設定できる。ノイズが既知であれば、検出信号の信号強度におけるノイズの応答波の変化範囲が把握できるからである。例えば、液滴を吐出させることなく検出信号の信号強度を実測した場合に観測されたノイズの応答波の変化範囲に基づいて第1ノイズ閾値と第2ノイズ閾値とを設定してもよい。また、既知のノイズが吐出検査周期よりも短い周期のノイズであれば当該ノイズに起因してカウントされるエッジ数は複数の吐出検査周期間で共通した傾向となり、当該エッジ数の閾値である第1ノイズ閾値と第2ノイズ閾値とを複数の吐出検査周期間で共通して設定できる。従って、検出信号の信号強度に、既知かつ発生周期が吐出検査周期よりも短いノイズが重畳される場合に、適切な第1ノイズ閾値と第2ノイズ閾値とが設定できる。
【0008】
なお、既知のノイズの応答波に対応する検出パルス信号のパルス形状も既知となるため、信号判定手段は、既知のノイズの応答波と区別して液滴の応答波が表れたか否かを判定することができる。すなわち、検出信号の信号強度に既知のノイズの応答波のみが表れる場合には、液滴の応答波が表れたか否かを正確に判定できる。一方、検出信号の信号強度に未知のノイズの応答波も表れる場合には、未知のノイズの応答波に対応する検出パルス信号のパルスと、液滴の応答波に対応する検出パルス信号のパルスとの区別が困難となり、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れたか否かを誤判定し得る。すなわち、第1ノイズ閾値と第2ノイズ閾値とにより、検出信号の信号強度に表れる未知のノイズの応答波が所定量以下であることが判定できれば、誤判定が防止できる。
【0009】
ところで、2値化のための信号閾値は、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れた場合に、検出信号の信号強度との大小関係が変化するような値に設定される。すなわち、2値化のための信号閾値は、検出信号の信号強度における液滴の応答波の変化範囲内の値とされる。これにより、液滴の応答波に対応する検出パルス信号のパルスが得られ、検出パルス信号のパルス形状に基づいて検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れたか否かが判定できるからである。なお、検出信号の信号強度が定常値(いずれの応答波も表れない状態で保持される値)を有する場合、当該定常値と液滴の応答波の極値(極大値または極小値)である信号極値との間の範囲が液滴の応答波の変化範囲となる。すなわち、定常値と信号極値との間に2値化のための信号閾値とが設定される。
【0010】
ここで、検出信号の信号強度における液滴の応答波の変化極性と、既知のノイズの応答波の変化極性とが同一極性である場合を考える。すなわち、液滴の応答波の信号極値と、既知のノイズの応答波の極値であるノイズ極値とが双方とも極大値である場合、および、信号極値とノイズ極値とが双方とも極小値である場合を考える。これらの場合、定常値と信号極値との間に設けられた信号閾値は、定常値よりもノイズ極値側となる。検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れない場合、検出信号の信号強度は基本的に定常値に保持され、既知のノイズの応答波が表れると検出信号の信号強度が定常値から2値化のための信号閾値が設けられた信号極値側(=ノイズ極値側)へと変化させられる。従って、検出信号の信号強度と2値化のための信号閾値との大小関係が反転して、パルスが生じ得る。すなわち、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れない状態においては、吐出検査周期において検出信号の信号強度が変化し得るすべての期間において既知のノイズの応答波に起因したパルスが生じ得ることとなる。
【0011】
一方、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れると、液滴の応答波によって検出信号の信号強度が信号閾値よりも信号極値側へ遷移する期間である極値側期間が生じる。この極値側期間において、既知のノイズの応答波が表れたとしても、2値化のための信号閾値よりも信号極値側の信号強度がさらに信号極値側(=ノイズ極値側)へと変化するに過ぎず、検出信号の信号強度と2値化のための信号閾値との大小関係が反転し得ない。
【0012】
以上のように、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れない状態においては吐出検査周期のすべての期間において既知のノイズの応答波に起因したパルスが生じ得るのに対して、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れる状態においては極値側期間において既知のノイズの応答波に起因したパルスが生じ得ない。従って、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れる場合の方が、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れない場合よりも、既知のノイズに起因するエッジ数は小さくなる。従って、検出信号の信号強度における液滴の応答波の変化極性と、既知のノイズの応答波の変化極性とが同一極性である場合には、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れた場合における未知のノイズの応答波が所定量以下であることを判定するための第1ノイズ閾値は、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れない場合の第2ノイズ閾値よりも小さくすべきである。
【0013】
例えば、液滴の応答波が表れる状態において既知のノイズに起因するエッジ数をカウントし、当該エッジ数に未知のノイズに起因するエッジ数の許容個数を加えた値を第1ノイズ閾値としてもよい。同様に、液滴の応答波が表れない状態において既知のノイズに起因するエッジ数をカウントし、当該エッジ数に未知のノイズに起因するエッジ数の許容個数を加えた値を第2ノイズ閾値としてもよい。このようにすることにより、未知のノイズに起因するエッジ数が許容個数以下である場合に限り、ノズルから正常に液滴が吐出されたとの判定、および、ノズルから液滴が正常に吐出されなかったとの判定を行わせることができる。
【0014】
次に、検出信号の信号強度における液滴の応答波の変化極性と、ノイズの応答波の変化極性とが逆極性である場合を考える。すなわち、液滴の応答波の極値である信号極値と、ノイズの応答波の極値であるノイズ極値とのいずれか一方が極大値であり、他方が極小値である場合を考える。検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れない場合、検出信号の信号強度は基本的に定常値に保持され、既知のノイズの応答波が表れても検出信号の信号強度が定常値から2値化のための信号閾値が設けられた信号極値側とは反対側のノイズ閾値側へと変化させられるに過ぎない。すなわち、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れない場合、吐出検査周期のすべての期間において検出信号の信号強度と2値化のための信号閾値との大小関係が反転し得ず、既知のノイズの応答波に起因したパルスが生じ得ない。
【0015】
一方、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れると、液滴の応答波によって検出信号の信号強度が信号閾値よりも信号極値側へ遷移する期間である極値側期間が生じる。この極値側期間において、既知のノイズの応答波が表れると、信号閾値よりも信号極値側へ遷移している検出信号の信号強度が、信号極値側とは反対側のノイズ極値側へと変化し、検出信号の信号強度と2値化のための信号閾値との大小関係が反転し得る。
【0016】
以上のように、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れない状態においては吐出検査周期のすべての期間において既知のノイズの応答波に起因したパルスが生じ得ないのに対して、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れる状態においては極値側期間において既知のノイズの応答波に起因したパルスが生じ得る。従って、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れる場合の方が、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れない場合よりも、既知のノイズに起因するエッジ数は大きくなる。従って、検出信号の信号強度における液滴の応答波の変化極性と、既知のノイズの応答波の変化極性とが逆極性である場合には、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れた場合における未知のノイズの応答波が所定量以下であることを判定するための第1ノイズ閾値は、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れない場合の第2ノイズ閾値よりも大きくすべきである。
【0017】
なお、吐出検査周期において複数のノズルのうちの吐出検査対象のノズルから液滴を吐出させ、かつ、吐出検査周期において吐出検査対象以外のすべてのノズルにて液滴を吐出させることなく吐出液の液面を振動させる振動動作を行う場合、振動動作に起因する既知のノイズを考慮して第1ノイズ閾値と第2ノイズ閾値とを設定するのが望ましい。振動動作のようにノズルに関する動作は、ノズルから吐出された液滴に応答して変化する検出信号の信号強度のノイズ源となりやすい。特に、振動動作のように多くのノズルを動作させると、検出信号の信号強度に無視できない程度のノイズの応答波を生じさせ得る。さらに、振動動作のようにノズルに関する動作に起因するノイズは、吐出検査周期に近い周波数で生じる場合が多く、周波数フィルター等により液滴の応答波と区別して除去することが困難となる。また、振動動作のように吐出検査装置の能動的な動作に起因するノイズは発生する周期や極性(定常値とノイズ極値との大小関係)等を明確に特定できる。
【0018】
また、検出信号の信号強度に液滴の応答波が表れたか否かを吐出検査周期に含まれる複数の判定期間において判定し、当該複数の判定期間にすべてにおける判定結果が一致した場合に限り、ノズルから正常に液滴が吐出されたとの判定、および、ノズルから液滴が正常に吐出されなかったとの判定を行うようにしてもよい。これにより、判定期間のいずれかの判定結果がノイズの影響により誤判定となった場合に、最終的にノズルから正常に液滴が吐出されたとの判定、および、ノズルから液滴が吐出されなかったとの判定が誤ってされることが防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態の概念を示す模式図である。
【図2】吐出検査装置のブロック図である。
【図3】信号生成基板の回路図である。
【図4】吐出検査制御部のブロック図である。
【図5】パルス形状を示す表である。
【図6】吐出検査のタイミングチャートである。
【図7】(7A)〜(7D)は検出電圧を示すグラフ、(7E)は検出電圧の振幅を示すグラフである。
【図8】(8A)は駆動パルスを示すグラフ、(8B)は検出電圧を示すグラフ、(8C)は検出パルス信号を示すグラフである。
【図9】(9A),(9B)は検出電圧を示すグラフ、(9C)はノイズ抑圧特性を示すグラフである。
【図10】制御部の処理を示す表である。
【図11】(11A)は検出電圧を示すグラフ、(11B)は検出パルス信号を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照しながら以下の順に説明する。
(1)実施形態の概要:
(2)第1実施形態:
(2−1)吐出検査装置の構成:
(2−2)吐出検査装置の動作:
(3)他の実施形態:
【0021】
(1)実施形態の概要:
図1は、実施形態の概要を説明する模式図である。本実施形態の吐出検査装置は、ノズルから吐出されたインク滴の応答波Esが表れる検出電圧V2を信号生成する。この検出電圧V2にはインク滴の応答波Esだけでなく微振動動作に起因する既知の微振動ノイズの応答波En2が重畳される。インク滴の応答波Esは単一の吐出検査周期pにつき単一の極大値(信号極値)を有し、微振動ノイズの応答波En2は吐出検査周期pよりも短い1ラッチ周期(1L)ごとに極大値(ノイズ極値)を有する。信号極値とノイズ極値とはともに極大値であり、検出電圧V2におけるインク滴の応答波Esの変化極性と微振動ノイズの応答波En2の変化極性とは同一極性となる。吐出検査装置は、検出電圧V2を所定の信号閾値電圧V2t(一点鎖線)により2値化した検出パルス信号Spを生成する。そして、吐出検査装置は、検出パルス信号Spに有効なパルス形状のパルスが含まれる場合に、検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れたと判定する。さらに、吐出検査装置は、吐出検査周期pにおける検出パルス信号Spに含まれるパルスのエッジ数をカウントし、当該エッジ数が所定のノイズ閾値以下である場合に、検出電圧V2が重篤なノイズ重畳状態でないと判定する。そして、検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れたと判定され、かつ、重篤なノイズ重畳状態でないと判定された場合に、ノズルから正常にインク滴が吐出されたと判定する。また、検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れなかったと判定され、かつ、重篤なノイズ重畳状態でないと判定された場合に、ノズルからインク滴が吐出されなかったと判定する。
【0022】
ここで、重篤なノイズ重畳状態でないと判定するためのノイズ閾値は、検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れたと判定された場合(ケース1)と、検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れなかったと判定された場合(ケース2)とで異なる値とされる。ここで、検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れない場合、検出電圧V2は基本的に定常値(=所定電位V2c)に保持され、微振動ノイズの応答波En2が表れることにより検出電圧V2と信号閾値電圧V2tとの大小関係が反転し得る。すなわち、検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れない場合、吐出検査周期pにおけるクランプ期間pc(後述する)を除くすべての期間において微振動ノイズの応答波En2に起因するパルスが生じ得る。一方、検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れる場合、インク滴の応答波Esのみによって検出電圧V2が信号閾値電圧V2tよりも極大値側へと遷移する極値側期間p x2が生じる。この極値側期間p x2において微振動ノイズの応答波En2が表れたとしても、検出電圧V2をさらに極大値側へと変化させるに過ぎず、検出電圧V2と信号閾値電圧V2tとの大小関係は反転し得ない。
【0023】
以上のように、検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れない場合、吐出検査周期pにおけるクランプ期間pcを除くすべての期間において表れた微振動ノイズの応答波En2に起因するエッジ数がカウントされ得るのに対して、検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れる場合、クランプ期間pcと極値側期間p x2を除く期間において微振動ノイズの応答波En2に起因するエッジ数しかカウントされ得ない。従って、検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れない場合よりも検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れる場合の方が、微振動ノイズの応答波En2に起因するエッジ数が少なくなる。
【0024】
ここで、検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れたか否かを判定する際に、微振動ノイズの応答波En2に対応するパルス形状(既知)を有効なパルス形状と判定しないようにしている。従って、微振動ノイズの応答波En2が検出電圧V2に多く表れても誤判定の原因とはならない。これに対して、未知のノイズの応答波が検出電圧V2に多く表れると、検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れたか否かの判定に誤判定が生じ得る。そこで、検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れる場合にカウントされる微振動ノイズの応答波En2およびインク滴の応答波Esに起因するエッジ数に未知のノイズに起因するエッジ数の許容個数を加えた値を第1ノイズ閾値とする。また、検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れない場合にカウントされる微振動ノイズの応答波En2に起因するエッジ数に未知のノイズに起因するエッジ数の許容個数を加えた値を第2ノイズ閾値(>第1ノイズ閾値)とする。これにより、検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れる場合と、検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れない場合との双方において、検出電圧V2における未知のノイズの応答波の重畳状態を適切に判定できる。
【0025】
(2)第1実施形態:
(2−1)吐出検査装置の構成:
図2は、第1実施形態にかかる吐出検査装置を含む印刷装置1のブロック図である。印刷装置1は、メイン基板10と印刷ヘッド20とノズルキャップ30とシールド構造40と信号生成基板50とを含む。印刷装置1は、インクジェットプリンターである。メイン基板10は、メイン制御部11と吐出制御部12と吐出検査制御部13とを含む。メイン制御部11は、CPUやRAMやROMやASIC等で構成され、図示しないインターフェース部を介して取得した画像データに基づいて印刷制御データを生成し、当該印刷制御データを吐出制御部12に出力する処理を実行する。また、メイン制御部11は、後述する吐出検査処理の結果を図示しないユーザーインターフェース部を介して通知させる処理を実行する。吐出制御手段としての吐出制御部12は、CPUやRAMやROMやASIC等で構成され、印刷制御データに基づいて印刷ヘッド20に出力する駆動データを生成する処理を実行する。なお、吐出制御部12は、所定のラッチ周期(約87μ秒)単位で印刷ヘッド20の駆動制御を行う。ラッチ周期はラッチ信号Slによって特定され、ラッチ信号Slは、メイン制御部11によって生成される。なお、ラッチ信号Slは信号レベルが0または1の2値信号であり、ラッチ周期が開始するタイミングごとに信号レベルが1となる。吐出検査制御部13の詳細については後述する。
【0026】
印刷ヘッド20は、ピエゾ素子21とノズルプレート22とノズル23とを備える。印刷ヘッド20は、図示しないインクタンクからインクの供給を受けており、当該インクのインク滴(液滴)をノズル23から吐出させる。印刷ヘッド20は、多数のノズル23を備え、ノズル23は図示しない記録媒体に対して平行に対向する平面状のノズルプレート22において配列される。多数のノズル23のそれぞれと図示しないインク室が連通しており、当該インク室にインクタンクからインクが供給される。インク室ごとに備えられたピエゾ素子21には、吐出制御部12が生成した駆動データに基づく駆動パルスが印加される。ピエゾ素子21は、駆動パルスによって機械的に変形することにより、インク室内のインクを加減圧する。これにより、インク滴をノズル23から吐出させる。本実施形態のノズルプレート22は、シリコン系の材料で形成されており、ノズルプレート22に隣接して設けられた導電構造(不図示)を介して基準電位(0V)に接地されている。なお、ノズルプレート22をシリコン系の結晶材料で形成することにより、ノズル23等の微細形状を半導体プロセスにより高精度に形成できる。
【0027】
ノズルキャップ30は検出電極31を備える。検出電極31は、例えばノズルプレート22に対して平行に対向する平面状の電極である。検出電極31とノズルプレート22とが密着するようにノズルキャップ30を動作させることにより、ノズル23におけるインクの乾燥や固化を防止する。検出電極31は着弾したインク滴が浸透可能なメッシュ電極であってもよく、検出電極31の裏側(ノズルプレート22の反対側)に備えられたスポンジ等によってインクを吸収したり、さらに廃液チューブ等によってインクを廃液してもよい。また、吐出検査時においては、ノズルキャップ30は印刷ヘッド20から離間し、ノズルプレート22と検出電極31とが所定距離を隔てて平行に対向する。
【0028】
シールド構造40は、検出電極31と、検出電極31と信号生成基板50とを接続するケーブルを外部の電磁的外乱要因から保護するための保護部を含む。なお、シールド構造40は、検出電極31と信号生成基板50とを一体化させつつ保護するモジュール構造であってもよい。また、シールド構造40は、ノズルキャップ30に備えられた廃液チューブ等も被覆し、廃液チューブ等を電磁的外乱要因から保護してもよい。
【0029】
信号生成基板50は、高電圧モジュール51と高電圧遮断コンデンサ52とローパスフィルター回路53と第1増幅回路54とクランプ回路55と第2増幅回路56と2値化回路57と高電圧診断回路58とを含む。
【0030】
図3は、検出パルス信号取得手段としての信号生成基板50の回路図である。信号生成基板50には2組の信号生成回路G1,G2が形成され、信号生成回路G1,G2はそれぞれ高電圧遮断コンデンサ52とローパスフィルター回路53と第1増幅回路54とクランプ回路55と第2増幅回路56と2値化回路57とを含む。高電圧モジュール51は、検出電極31に接続され、吐出検査制御部13の制御により吐出検査時において高電圧(例えば100〜500V)を負荷抵抗経由で出力する。従って、吐出検査時において、検出電極31と基準電位のノズルプレート22との間に寄生する静電容量CにQ=CV(Vは前記高電圧)の電荷量Qの電荷が蓄積される。吐出検査時において、吐出制御部12はノズル23からインク滴を吐出させる。ノズル23から吐出されたインク滴は検出電極31に着弾し、ノズルプレート22から検出電極31へとインク滴が運んだ電荷により、検出電極31の電荷量Qに微少な電荷変化量ΔQが生じる。このとき、吐出されたインク滴に起因して生じた電荷変化量ΔQに対応した微少電流が負荷抵抗を経由して検出電極31に流れる。
【0031】
吐出検査において、ノズルプレート22と検出電極31との距離は理想的に一定の距離に保たれるが、ノズルプレート22におけるインク滴の吐出に起因してノズルプレート22が振動する場合や、その他の要因に起因してノズルプレート22と検出電極31との少なくとも一方が振動する場合には、ノズルプレート22と検出電極31との間の距離が変化する。これにより、ノズルプレート22と検出電極31との間の静電容量が変化し、検出電極31に微少な電荷変化量ΔQが生じ得る。すなわち、検出電極31に流れる微少電流には、インク滴の着弾に起因する電荷変化量ΔQだけでなく、それ以外のノイズ要因に起因した電荷変化量ΔQに応じた電流も重畳されることとなる。
【0032】
信号生成回路G1,G2にはそれぞれ独立した検出電極31が接続されており、検出電極31が互いにノズルプレート22の異なる位置に対向する。すなわち、検出電極31にインク滴を着弾させるノズル23が異なっている。なお、それぞれの検出電極31に対して共通する高電圧モジュール51により高電圧を印加することにより、コスト低減を図っている。また、検出電極31は、シールド構造40によって、例えば商用電源や印刷装置1が備える他の回路から発せられる電磁的外乱要因から保護される。信号生成回路G1,G2は、検出電極31の位置を除き互いに同様の構成であるため、ここでは一方についてのみ説明する。高電圧遮断コンデンサ52の一方の電極は、シールド構造40によって保護されたケーブルを介して検出電極31と接続される。このようにシールド構造40を設けた場合であっても、信号生成回路G1,G2の信号生成過程において電磁的外乱要因によって信号にノイズが重畳されることとなる。
【0033】
高電圧遮断コンデンサ52の他方の電極は、ローパスフィルター回路53と接続される。この高電圧遮断コンデンサ52により、高電圧を遮断してローパスフィルター回路53等を保護するとともに、検出電極31における微少な電荷変化量ΔQに応じた微少電流をローパスフィルター回路53に流すことができる。ローパスフィルター回路53は、微少電流から所定周波数(2kHz)よりも高周波成分を除去するための回路である。これにより、微少電流から高周波のノイズが除去できる。本実施形態においてローパスフィルター回路53は、入力抵抗と接地したコンデンサと出力抵抗とをT型に結線したT型ローパスフィルター回路である。
【0034】
第1増幅回路54は、ローパスフィルター回路53によって高周波成分が除去された微少電流を入力し、微少電流を電圧に変換しつつ増幅する。第1増幅回路54は、オペアンプA1と正相入力回路54aと帰還抵抗回路54bとを含む。第1増幅回路54の入力インピーダンスは実質的に0であり、オペアンプA1は反転入力端子(−)にてローパスフィルター回路53から微少電流を吸入する。正相入力回路54aは、所定電源電圧(3.3V)を抵抗値が互いに等しい2個の分圧抵抗により分圧して得られた1.65Vの電圧をオペアンプA1の非反転入力端子(+)に入力する。帰還抵抗回路54bは、帰還抵抗R1〜R3とコンデンサC1,C2とを含み、オペアンプA1の出力端子(Vout)と反転入力端子(−)との間に介在する。また、帰還抵抗回路54bの帰還分圧抵抗R3(510Ω)に10μFのコンデンサC2を接続することにより、非反転入力端子(+)と同じ1.65Vの自己バイアス電圧をオペアンプA1に入力する。ここで、第1増幅回路54の増幅係数X1は、帰還抵抗回路54bの各帰還抵抗R1〜R3の抵抗値(R1:1MΩ,R2:5.1kΩ, R3:510Ω)により、X1=1MΩ×(5.1kΩ+510Ω)/510Ω=11MΩで与えられる。従って、オペアンプA1の出力端子(Vout)の出力電圧としての中間電圧V1(第1増幅信号)はV1=−X1×I(Iは反転入力端子(−)にて吸入される微少電流の電流値)で与えられる。なお、増幅係数X1を決定づける各帰還抵抗R1〜R3の抵抗値のばらつきは所定の基準(例えば最大誤差が1%以内)で管理されることが望ましい。
【0035】
帰還抵抗回路54bには、位相補償用コンデンサC1が備えられる。位相補償用コンデンサC1の静電容量を10〜15pF程度に調整することにより、中間電圧V1の高周波帯域におけるゲインが最適化される。なお、ローパスフィルター回路53をT型ローパスフィルター回路とすることにより、ローパスフィルター回路53の接地したコンデンサと、第1増幅回路54の帰還抵抗回路54bとの間にローパスフィルター回路53の出力抵抗を介在させることができる。これにより、第1増幅回路54を安定させることができ、第1増幅回路54が発振状態に陥ることが防止できる。
【0036】
拘束手段としてのクランプ回路55は、結合コンデンサC3と電源回路55aとアナログスイッチYとを含む。結合コンデンサC3の一方の電極に第1増幅回路54から中間電圧V1が入力され、結合コンデンサC3の他方の電極に第2増幅回路56が接続される。第2増幅回路56は、オペアンプA2と帰還抵抗R4,R5とを含み、オペアンプA2の非反転入力端子(+)に第1増幅回路54の中間電圧V1が入力される。第2増幅回路56は非反転増幅回路であり、第1増幅回路54の中間電圧V1を増幅し、出力端子(Vout)から検出電圧V2(第2増幅信号)を出力する。ここで、第2増幅回路56の増幅率X2は、帰還抵抗R4,R5の抵抗値(R4:51kΩ,R5:510Ω)により、X2=(51kΩ+510Ω)/510Ω=101倍で与えられる。従って、オペアンプA2の出力端子(Vout)における検出電圧V2はV2=X2×Vで与えられる。ここでも、増幅率X2を決定づける各帰還抵抗R4,R5の抵抗値のばらつきは所定の基準(例えば最大誤差が1%以内)で管理されることが望ましい。
【0037】
以上のように、第1増幅回路54と第2増幅回路56とが順列に接続されるが、これらの間のクランプ点CPにおいてクランプ回路55のアナログスイッチYの一端子T1が接続する。アナログスイッチYの他方の端子T2には電源回路55aが接続される。電源回路55aは、所定電源電圧(3.3V)を抵抗と順方向のダイオード(順方向降下電圧)とによって分圧することにより、一定の所定電位V1c(0.6V)を生成する。この所定電位V1cは、アナログスイッチYの端子T2に入力される。アナログスイッチYは制御端子T3を有し、制御端子T3には吐出検査制御部13からクランプ信号Scが入力される。クランプ信号Scは、信号レベルが0または1の2値信号であり、拘束期間としてのクランプ期間に限り1となる。アナログスイッチYは、例えばCMOSスイッチであり、クランプ信号Scが1となる期間に限り端子T1,T2間を導通させる。これにより、クランプ期間において所定電位V1cの電源により結合コンデンサC3に充電された電気量が所定電位V1cに対応した電気量に拘束され、クランプ期間以外においては電荷変化量ΔQに応じて結合コンデンサC3の充放電が行われる。すなわち、クランプ期間に限り、クランプ点CPにおける中間電圧V1が所定電位V1cに拘束される。なお、アナログスイッチYを導通させて中間電圧V1を所定電位V1cへと拘束することを、本明細書においてクランプすると表記する場合もある。なお、中間電圧V1を所定電位V1cへとクランプすることにより、第2増幅回路56から出力される検出電圧V2も所定電位V2c=X2×V1cへと拘束されることとなる。
【0038】
また、第2増幅回路56は、アナログスイッチYの端子T2の電位をグランドに引き込むためのスイッチWを有し、スイッチWが導通することにより、電源回路55aの所定電位V1cを0.6Vから0Vへと切り替えることができる。また、結合コンデンサC3は、第1増幅回路54と第2増幅回路56とを交流結合するが、時定数がクランプ開放期間(クランプしない期間)よりも十分に長くなるように、結合コンデンサC3の電気容量と第2増幅回路56の入力インピーダンスとが設定されている。
【0039】
2値化回路57は、検出電圧V2を2値化するための回路であり、検出電圧V2が信号閾値電圧V2t以上である場合に2値信号レベルが0となり、検出電圧V2が信号閾値電圧V2tよりも小さい場合に2値信号レベルが1となる検出パルス信号Spを生成する。2値化回路57は、検出パルス信号Spを吐出検査制御部13に出力する。2値化回路57は、吐出検査制御部13からPWM信号である信号閾値設定信号Stのデューティー比に応じた信号閾値電圧V2tを生成する積分回路を含む。本実施形態では、オペアンプA3を用いた積分器により信号閾値設定信号Stを積分して直流電圧V3をオペアンプA3の出力点から出力する。コンパレーターCOは、非反転入力端子(+)が抵抗R7を介してオペアンプA3の出力点と接続され、反転入力端子(−)にて検出電圧V2を入力する。また、コンパレーターCOの出力(検出パルス信号Sp)を帰還抵抗R6を介して非反転入力端子(+)に正帰還させることにより、コンパレーターCOはヒステリシス特性を有することとなる。具体的に2値化回路57は、検出電圧V2が信号閾値電圧V2tよりも大きくなっていく場合の信号閾値電圧V2t1の方が、検出電圧V2が信号閾値電圧V2tよりも小さくなっていく場合の信号閾値電圧V2t2よりも大きくなるヒステリシス特性を有する。ここで、検出電圧V2が信号閾値電圧V2tよりも大きくなっていく場合の信号閾値電圧V2t1はコンパレーターCOの帰還抵抗R6,R7の抵抗値(R6,R7と表記)を用いてV2t1=(R6×V3+R7×Vhi)/(R6+R7)で与えられ、検出電圧V2が信号閾値電圧V2tよりも小さくなっていく場合の信号閾値電圧V2t2の信号閾値電圧V2t2はV2t2=(R6×V3+R7×Vlo)/(R6+R7)で与えられる。なお、Vhiは検出パルス信号Spの2値信号レベルの1に対応するコンパレーターCOの出力電圧(本実施形態では3.3V)を意味し、Vloは検出パルス信号Spの2値信号レベルの0に対応するコンパレーターCOの出力電圧(本実施形態では0V)を意味する。以上説明したコンパレーターCOのヒステリシス特性により、検出電圧V2の信号閾値電圧V2t付近でのゆらぎに起因する検出パルス信号Spのノイズを低減できる。
高電圧診断回路58は、高電圧モジュール51が生成した高電圧を複数の抵抗によって分圧することにより、高電圧診断信号Shを生成する。次に、吐出検査制御部13について説明する。
【0040】
図4は、吐出検査制御部13を示すブロック図である。本実施形態の吐出検査制御部13は、いわゆるSoc(System on a chip)で構成される。吐出検査制御部13は、タイミング信号生成部13aとパルスマスク部13bとグリッチ除去部13cと信号判定部13dとエッジ数カウント部13eとノイズ判定部13fと高電圧診断部13gと信号閾値設定部13hと高電圧制御部13iとレジスタ13jとを備える。レジスタ13jは、メイン制御部11と吐出検査制御部13とがデータを読み書き可能な記憶領域である。メイン制御部11は、レジスタ13jにデータを記録させることにより、吐出検査制御部13の動作設定を行う。また、メイン制御部11は、レジスタ13jに記録されたデータを読み出すことにより、吐出検査制御部13による吐出検査の結果を取得する。なお、吐出検査制御部13の各部13a〜13iとレジスタ13jとの間のデータ流れを破線で示す。
【0041】
タイミング信号生成部13aは、メイン制御部11から入力されたラッチ信号Slに基づいて各回路に出力する各種のタイミング信号(クランプ信号Sc等)を生成する回路である。タイミング信号の流れは、一点鎖線で示される。メイン制御部11はレジスタ13jに各種タイミングを規定するタイミング設定データを記録し、タイミング信号生成部13aは当該タイミング設定データに基づいてタイミング信号を生成する。
【0042】
パルスマスク部13bは、信号生成基板50が出力する検出パルス信号Sp(太線で示す)を期間に応じてマスク(無効化)し、後段のグリッチ除去部13cとエッジ数カウント部13eとに出力する回路である。パルスマスク部13bは、クランプ期間pcにおいて検出パルス信号Spをマスクする。なお、パルスマスク部13bは、タイミング信号生成部13aからクランプ信号Scを取得し、当該クランプ信号Scに基づいてクランプ期間pcを特定する。メイン制御部11はレジスタ13jにパルス極性設定データ(1bit)を記録し、パルスマスク部13bは当該パルス極性設定データに基づくパルス極性に応じて検出パルス信号Spをマスクする2値信号レベルを切り替える。すなわち、検出パルス信号Spのパルス極性が凸極性であれば、クランプ期間pcにおける検出パルス信号Spの2値信号レベルを0とすることにより、検出パルス信号Spをマスクする。一方、検出パルス信号Spのパルス極性が凹極性であれば、クランプ期間pcにおける検出パルス信号Spの2値信号レベルを1とすることにより、検出パルス信号Spをマスクする。なお、検査周期におけるインク滴起因の電荷変化量ΔQに対して検出パルス信号Spが上側に凸状(0→1→0)に応答する場合にはパルス極性として凸極性が設定され、当該電荷変化量ΔQに対して検出パルス信号Spが凹状(1→0→1)に応答する場合にはパルス極性として凹極性が設定される。なお、信号生成回路G1,G2の回路構成によっては検出パルス信号Spのパルス極性が反転し得るため、信号生成回路G1,G2の回路構成に応じてパルス極性が設定される。本実施形態では、検出パルス信号Spのパルス極性が凹極性となる。
【0043】
グリッチ除去部13cは、パルスマスク部13bが出力した検出パルス信号Spからグリッチを除去する回路である。グリッチ除去部13cは、ラッチ周期よりも十分に短いクロック周期(約1〜2MHz)で動作する直列3段のシフトレジスタと、各シフトレジスタに保持された2値信号の組み合わせに基づいてグリッチ除去後の検出パルス信号Spを出力する論理出力部とを含む。この論理出力部は、シフトレジスタが保持する2値データの組み合わせがすべて1である場合にはグリッチ除去後の検出パルス信号Spの2値信号レベルを1とし、それ以外の組み合わせの場合にはグリッチ除去後の検出パルス信号Spの2値信号レベルを0とする。これにより、クロック周期の3倍よりもパルス幅が短いグリッチを除去した検出パルス信号Spが生成できる。なお、論理出力部は、シフトレジスタが保持する2値データの組み合わせがすべて0である場合にはグリッチ除去後の検出パルス信号Spの2値信号レベルを0とし、それ以外の組み合わせの場合にはグリッチ除去後の検出パルス信号Spの2値信号レベルを1としてもよい。また、グリッチ除去部13cは、レジスタ13jに記録されたパルス極性設定データに基づいて、シフトレジスタが保持する2値データをクランプ期間pcにおいて初期化する。具体的には、グリッチ除去部13cは、検出パルス信号Spのパルス極性が凸極性である場合にはシフトレジスタの2値データをすべて0に初期化し、検出パルス信号Spのパルス極性が凹極性である場合には2値データをすべて1に初期化する。なお、グリッチ除去部13cはタイミング信号生成部13aからクランプ信号Scを取得し、当該クランプ信号Scに基づいて初期化を行うクランプ期間pcを特定する。
【0044】
信号判定部13dは、グリッチ除去後の検出パルス信号Spに所定の有効パルス形状に形状が一致する有効パルスが含まれるか否かを判定する。信号判定部13dは、タイミング信号生成部13aからタイミング信号を入力し、当該タイミング信号に基づいて第1判定期間p d1と第2判定期間p d2とを特定する。なお、タイミング信号生成部13aは、正常に吐出されたインク滴に起因した電荷変化量ΔQに応答して検出電圧V2の応答波が信号極値(本実施形態では極大値)となる所定時刻よりも前の期間を第1判定期間p d1とし、前記所定時刻よりも後の期間を第2判定期間p d2とする。また、検出電圧V2の応答波が信号極値となる所定時刻とは、吐出期間paが終了する時刻である。吐出期間pa後は、インク滴によって電荷が運搬されなくなり、インク滴の応答波が収束へと転じるからである。信号判定部13dは、第1判定期間p d1と第2判定期間p d2とのそれぞれにおいて、グリッチ除去部13cから入力されたグリッチ除去後の検出パルス信号Spに所定の有効パルス形状に一致する有効パルスが含まれるか否かを判定する。
【0045】
図5は、パルス形状を示す表である。図5の右欄には、複数のパルス形状が区分1〜3に区分して示されている。なお、図5の右欄において横軸は時刻(左ほど過去)を示し、縦軸はグリッチ除去後の検出パルス信号Spの2値信号レベルを示す。区分1はパルス先頭からパルス末尾にかけて2値信号レベルが0から1と遷移するパルス形状(立ち上がり形状)の区分である。区分2はパルス先頭とパルス末尾の2値信号レベルが同一となるパルス形状(維持形状)の区分である。区分3はパルス先頭からパルス末尾にかけて2値信号レベルが1から0へと遷移するパルス形状(立ち下がり形状)の区分である。
【0046】
ここで、図5の左欄に示すように信号判定部13dは、レジスタ13jに記録されたパルス極性設定データが示す検出パルス信号Spのパルス極性が凸極性である場合、第1判定期間p d1において立ち上がり形状を示す区分1のパルス形状を有効パルス形状とし、第2判定期間p d2において立ち下がり形状を示す区分3のパルス形状を有効パルス形状とする。検出パルス信号Spのパルス極性が凸極性の場合、検出電圧V2の応答波が信号極値となる所定時刻において検出パルス信号Spが1となり、所定時刻よりも前の第1判定期間p d1において検出パルス信号Spが0から1へと遷移し、所定時刻よりも後の第2判定期間p d2において検出パルス信号Spが1から0へと遷移すべきであるからである。
【0047】
反対に、信号判定部13dは、パルス極性設定データが示す検出パルス信号Spのパルス極性が凹極性である場合、第1判定期間p d1において立ち下がり形状を示す区分3のパルス形状を有効パルス形状とし、第2判定期間p d2において立ち上がり形状を示す区分1のパルス形状を有効パルス形状とする。検出パルス信号Spのパルス極性が凹極性の場合、検出電圧V2の応答波が信号極値となる所定時刻において検出パルス信号Spが0となり、所定時刻よりも前の第1判定期間p d1において検出パルス信号Spが1から0へと遷移し、所定時刻よりも後の第2判定期間p d2において検出パルス信号Spが0から1へと遷移すべきであるからである。なお、維持形状を示す区分2のパルス形状は、パルス極性設定データおよび期間(第1判定期間p d1,第2判定期間p d2)に拘わらず有効パルス形状とされない。なお、区分1,3のパルス形状によれば、グリッチ除去後の検出パルス信号Spの2値信号レベルがパルス先頭とパルス末尾との間で細かく遷移することを許容でき、検出電圧V2の信号閾値電圧V2t付近におけるゆらぎの影響を抑制できる。
【0048】
信号判定部13dは、第1判定期間p d1におけるグリッチ除去後の検出パルス信号Spに、有効パルス形状の有効パルスが含まれる場合には、正常なインク滴の応答波が検出電圧V2に表れたとして第1信号判定データ(1bit)を1とし、有効パルスが含まれなかった場合には、インク滴の応答波が検出電圧V2に表れなかったとして第1信号判定データを0とする。同様に、第2判定期間p d2におけるグリッチ除去後の検出パルス信号Spに、有効パルス形状の有効パルスが含まれる場合には第2判定期間p d2おける検出電圧V2が正常であったとして第2信号判定データ(1bit)を1とし、有効パルスが含まれなかった場合には第2判定期間p d2おける検出電圧V2が異常であったとして第2信号判定データを0とする。信号判定部13dは、吐出検査周期pごとに第1信号判定データと第2信号判定データとを生成し、これらをレジスタ13jに更新記録する。なお、グリッチ除去部13cにおいてはシフトレジスタが検出パルス信号Spを保持するため信号遅延が生じる。従って、信号判定部13dは、当該信号遅延を考慮した期間にてパルス形状の比較を行ってもよい。
【0049】
エッジ数カウント部13eは、パルスマスク部13bから入力した検出パルス信号Spから2値信号レベルが0から1へと遷移する回数と、1から0へと遷移する回数との合計であるエッジ数をカウントする回路である。エッジ数カウント部13eは、タイミング信号生成部13aからクランプ信号Scを取得し、当該クランプ期間pcを除く期間においてエッジ数をカウントする。エッジ数カウント部13eは、クランプ期間pcが到来すると、それまでにカウントしたエッジ数を示すデータを後段のノイズ判定部13fへと出力するとともに、エッジ数を0にリセットする。そして、クランプ信号Scが終了すると、エッジ数のカウントを再開する。
【0050】
ノイズ判定部13fは、エッジ数カウント部13eが出力したエッジ数と、互いに値の異なる第1ノイズ閾値と第2ノイズ閾値のそれぞれとを比較する。第1ノイズ閾値と第2ノイズ閾値とを示すノイズ閾値データ(各8bit)は、レジスタ13jに記録されている。ノイズ判定部13fは、エッジ数が第1ノイズ閾値以上である場合には第1ノイズ判定データ(1bit)を1とし、エッジ数が第1ノイズ閾値よりも小さい場合には第1ノイズ判定データを0とする。ノイズ判定部13fは、エッジ数が第2ノイズ閾値以上である場合には第2ノイズ判定データ(1bit)を1とし、エッジ数が第2ノイズ閾値よりも小さい場合には第2ノイズ判定データを0とする。ノイズ判定部13fは、吐出検査周期pごとに第1ノイズ判定データと第2ノイズ判定データとを生成し、これらをレジスタ13jに更新記録する。
【0051】
高電圧診断部13gはA/Dコンバーターを含み、所定の時間周期ごとに高電圧診断回路58が生成した高電圧診断信号Shの電圧値を示す高圧診断データ(8bit)を生成し、レジスタ13jに記録する。
信号閾値設定部13hは、メイン制御部11によってレジスタ13jに記録された信号閾値設定データ(8bit)に応じたデューティー比のPWM信号である信号閾値設定信号Stを生成し、2値化回路57に出力する。
高電圧制御部13iは、メイン制御部11によってレジスタ13jに記録された高電圧制御データ(1bit)に基づいて、高電圧モジュール51に高電圧を生成させるための高圧制御信号Skを出力する。高圧制御信号Skは、信号レベルが1または0の2値信号であり、高圧制御信号Skの信号レベルが1となる期間に限り高電圧モジュール51が高電圧を生成する。
【0052】
以上の構成により、吐出検査周期pごと、すなわちノズル23ごとに第1信号判定データと第2信号判定データと第1ノイズ判定データと第2ノイズ判定データとをレジスタ13jにて更新記録していくことができる。従って、メイン制御部11は、ノズル23ごとの第1信号判定データと第2信号判定データと第1ノイズ判定データと第2ノイズ判定データとを取得できる。これにより、メイン制御部11は、第1判定期間p d1と第2判定期間p d2のそれぞれにおいて検出電圧V2が正常に変化したか否かが判定できる。また、メイン制御部11は、検出電圧V2のノイズ重畳状態を判定できる。さらに、メイン制御部11は、高圧診断データに基づいて高電圧モジュール51を診断できる。
【0053】
(2−2)吐出検査装置の動作:
図6は、吐出検査装置が実行する吐出検査処理のタイミングチャートである。図6のa欄においては、高圧制御信号Skを示す。高圧制御信号Skの信号レベルが1となる全検査期間P2において高電圧モジュール51が高電圧を出力する。全検査期間P2は、時刻の早い順に前置期間pfと実検査期間P1と後置期間pbとを含む。なお、前置期間pfにおいて高電圧モジュール51に高電圧を出力させておくことにより、実検査期間P1よりも前に高電圧遮断コンデンサ52を十分に充電しておく。
図6のb欄においては、ラッチ周期を示すラッチ信号Slの波形を示す。なお、ラッチ周期の長さをLと表記する。
【0054】
図6のc欄においては、各ノズル23の吐出状態を示す。本実施形態において、印刷ヘッド20は、2つの検出電極31に対してインク滴を着弾させるノズル23をそれぞれN個ずつ有し、インク滴を着弾させる検出電極31ごとにノズル番号(n=1,2,3・・・N)が付されている。そして、ノズル番号の昇順に各ノズル23の吐出検査が行われる。各ノズル23を吐出検査するために要する期間(吐出検査周期p)は一定であり、吐出検査周期pの長さにノズル数を乗じた期間が全ノズルの吐出検査に要する実検査期間P1となる。本実施形態では、印刷ヘッド20は5760個のノズル23を備え、一方の検出電極31にインク滴を着弾させるノズル23の個数(N)は2880個となる。吐出検査周期pの長さはラッチ周期の長さLの倍数とされ、本実施形態では、吐出検査周期pの長さは1ラッチ周期(L)の12倍とされる。また、吐出検査周期pの開始から6ラッチ周期(6L)経過するまでが吐出期間paとされる。この吐出期間paにおいてメイン基板10の吐出制御部12は、吐出検査対象のノズル23からインク滴を24回吐出させる。すなわち、吐出期間paに含まれる各ラッチ周期において、吐出制御部12は、吐出検査対象のノズル23からインク滴を4回ずつ吐出させる。吐出期間paの終了から吐出検査周期pの終了するまでの期間が非吐出期間prとされる。この非吐出期間prにおいて吐出制御部12は、吐出検査対象のノズル23からインク滴を吐出させない。また、吐出制御部12は、吐出検査対象以外のノズル23からは吐出期間paであるか非吐出期間prであるかに拘わらずインク滴を吐出させない。ただし、吐出制御部12は、吐出検査対象以外のノズル23におけるインク液面をインク滴が吐出されない程度に振動させる。なお、吐出制御部12は、吐出検査制御部13のタイミング信号生成部13aが生成したタイミング信号を入力しており、当該タイミング信号に基づいて吐出検査周期pや吐出期間paや非吐出期間prを特定する。ここで、吐出検査周期pや吐出期間paや非吐出期間prの長さの根拠について説明する。
【0055】
図7A〜7Dは、1ラッチ周期(L)あたりにノズル23からインク滴を4回ずつ吐出するテスト吐出期間patを2ラッチ周期(2L),4ラッチ周期(4L),6ラッチ周期(6L),8ラッチ周期(8L)にわたって継続した場合に、第2増幅回路56から出力された検出電圧V2を示すグラフである。図7A〜7Dの縦軸は検出電圧V2を示し、横軸は時刻を示す。なお、テスト吐出期間patが開始するまでは、クランプ回路55のアナログスイッチYを導通させることにより、第2増幅回路56の入力電圧(中間電圧V1)を所定電位V1cにクランプしておくこととする。また、各種のノイズの応答波は図示しないものとする。
【0056】
図7A〜7Dに示すように、各テスト吐出期間patにおいてノズル23からインク滴を吐出すると上側に凸状のインク滴の応答波Esが検出電圧V2に1つ表れる。この応答波Esは、テスト吐出期間patにおいて検出電極31に着弾した各インク滴が運んだ電荷の総和に対応する電荷変化量ΔQを反映させたものである。この応答波Esは、テスト吐出期間patの開始における検出電圧V2(クランプにより所定電位V2c)から徐々に増加して極大となり、再び、所定電位V2cへと収束する形状を示す。なお、ノズルプレート22におけるインク滴の着弾位置がノズル23ごとに異なり、吐出されるインク滴のインク量がノズル23ごとにばらつくため、同一のテスト吐出期間patとした場合であってもノズル23ごとに検出電圧V2におけるインク滴の応答波Esの振幅(極大の検出電圧V2と所定電位V2cとの差)が異なる。図7A〜7Dでは、振幅が最大となるノズル23から正常に吐出されたインク滴の応答波Esを実線で示し、振幅が最小となるノズル23から正常に吐出されたインク滴の応答波Esを破線で示す。ここで、テスト吐出期間patが長いほどインク滴が着弾する期間が長く、電荷変化量ΔQを反映させた応答波Esが時刻軸方向に長くなる。なお、検出電圧V2におけるインク滴の応答波Esは上述した信号生成回路G1,G2の応答特性上、テスト吐出期間patの終了と同時に所定電位V2cに収束せず、テスト吐出期間patの終了後しばらくしてから所定電位V2cに収束する。テスト吐出期間patの終了時刻においてインク滴の応答波Esがほぼ極大となる。テスト吐出期間pat後は、インク滴によって電荷が運搬されなくなり、インク滴の応答波Esが収束へと転じるからである。また、テスト吐出期間patが長いほどインク滴が運ぶ電荷の総和が大きくなるため、インク滴の応答波Esの振幅が大きくなる。しかし、図7A〜7Dに示すようテスト吐出期間patがある程度長くなると、テスト吐出期間patが長くなってもインク滴の応答波Esの振幅は増加しなくなる。
【0057】
図7Eは、テスト吐出期間patとインク滴の応答波Esの振幅(検出電圧V2の極大値)との関係を示すグラフである。同図に示すように、振幅が最大となるノズル23から吐出されたインク滴の応答波Es(実線)と、振幅が最小となるノズル23から吐出されたインク滴の応答波Es(破線)とのいずれについても、テスト吐出期間patが5〜6ラッチ周期(5L〜6L)まではテスト吐出期間patが長くなるほどインク滴の応答波Esの振幅が増加するが、テスト吐出期間patが5〜6ラッチ周期(5L〜6L)以上となるとテスト吐出期間patが長くなるのに伴うインク滴の応答波Esの振幅の増加が鈍くなる。従って、吐出検査制御部13に設定する吐出期間paを6ラッチ周期(6L)とすることにより、最大限、インク滴の応答波Esの振幅を確保するとともに、吐出期間paが長くなり吐出検査に要する期間が長くなることが防止できる。また、図7Cに示すように、6ラッチ周期(6L)のテスト吐出期間patの終了後さらに6ラッチ周期(6L)が経過するタイミングでインク滴の応答波Esが収束に向かう。異なるノズル23から吐出されたインク滴の応答波Esが重畳されないように、本実施形態では吐出期間paの後の6ラッチ周期(6L)を非吐出期間prとする。吐出検査に要する期間を短縮するために、インク滴の応答波Esが収束する範囲において非吐出期間prもできるだけ短く設定するのが望ましい。本実施形態では、吐出期間paと吐出期間paとをそれぞれ6ラッチ周期(6L)として1ノズルあたりの吐出検査周期pを12ラッチ周期(12L≒12×87μ秒≒1m秒)とすることにより、2880個のノズル23を順次検査した場合の実検査期間P1を2.88秒程度に抑制している。
【0058】
図8Aは、ピエゾ素子21に対して出力される駆動パルスを示す。図8Aの縦軸は電圧信号である駆動パルスの電圧を示し、横軸はラッチ周期の開始から終了までの時刻を示す。図8Aの上欄は吐出検査対象のノズル23に対応するピエゾ素子21に対して吐出期間paに属する1ラッチ周期(L)にて出力される駆動パルスを示し、図8Aの下欄は吐出検査対象でないすべてのノズル23に対応するピエゾ素子21に対して1ラッチ周期(L)にて出力される駆動パルスを示す。図8Aの上欄に示すように吐出期間paにおいては吐出検査対象のノズル23に対応するピエゾ素子21に対してインク滴を吐出させるための吐出波形w1〜w4を4個含む駆動パルスが出力される。これにより、吐出期間paに属する1ラッチ周期(L)あたりに4滴のインク滴が吐出できる。一方、図8Aの下欄に示すように吐出検査対象でないノズル23に対応するピエゾ素子21に対してインク液面を微振動させるための微振動波形w5を1個含む駆動パルスが出力される。なお、ラッチ周期において各波形w1〜w5が出力される時刻(位相)は一定であり、特に微振動波形w5は1ラッチ周期(L)と同一の長さの周期(微振動周期)で出力されることとなる。また、微振動波形w5の振幅は、吐出波形w1〜w4の振幅よりも小さい(例えば、ピーク電圧が吐出波形w1〜w4の1/5〜1/3程度)。
【0059】
微振動波形w5を吐出検査対象でないノズル23に対応するすべてのピエゾ素子21に対して一様に出力すると、吐出検査対象のノズル23以外のすべてのノズル23において微振動動作が行われる。微振動波形w5は吐出波形w1〜w4よりも小さいピーク電圧を有するため、ノズル23からインク滴を吐出させることなく、ノズル23におけるインク液面を振動させるに留まる。このようにノズルキャップ30の検出電極31をノズルプレート22から離間させて吐出検査を行う際に、微振動動作を行うことによりノズル23におけるインクの乾燥が防止できる。また、微振動波形w5の出力周期である1ラッチ周期(L)ごとに検出電圧V2にノイズ(以下、微振動ノイズと表記)の応答波が表れることとなる。印刷ヘッド20内から微振動波形w5に起因するノイズ電界が発生する。ノズルプレート22の導電率が高ければ、前記ノイズ電界は遮蔽される。しかし、ノズルプレート22の導電率が低ければ、前記ノイズ電界はノズルプレート22の電位を微振動波形w5に応じて振動させる。そのため、ノズルプレート22と検出電極31との間の寄生静電容量を介して、検出電圧V2も微振動波形w5に応じて振動させられるという問題が生じる。本実施形態では、ノズルプレート22が導電性の低いシリコン系の材料で形成されるため、微振動波形w5に起因するノイズ電磁波がノズルプレート22によって遮断される遮断率は(ノズルプレート22を金属材料で形成する場合よりも)低くなる。図6の説明に戻る。
【0060】
図6のd欄においては、吐出検査制御部13のタイミング信号生成部13aが生成する各タイミング信号によって特定される各期間pc,p d1,pp,p d2,peを示す。本実施形態では、吐出検査周期pにおける非吐出期間prの最後のラッチ周期がクランプ期間pcとされる。すなわち、非吐出期間prから吐出期間paへと移行するタイミングから1ラッチ周期(L)以内の期間がクランプ期間pcとされる。なお、クランプ期間pcが開始する周期は吐出検査周期pと同一となる。クランプ期間pcにおいては検出電圧V2が所定電位V2cに保持され、クランプ期間pc以外の期間においては検出電極31における電荷変化量ΔQに応じて検出電圧V2が変化する。なお、クランプ期間pcは、上述の前置期間pfにも設定される。これにより吐出検査の前に検出電圧V2を所定電位V2cに拘束しておくことができる。
【0061】
図9A,9Bは、検出電圧V2において吐出検査周期pよりも低周波のノイズの応答波En1が表れ、かつ、クランプ期間pcにて中間電圧V1をクランプしない場合とする場合のそれぞれにおける検出電圧V2を示す。ここでは低周波のノイズの応答波En1の波形がサイン波であると仮定する。図9Aに示すように、検出電圧V2には吐出検査周期pごとにインク滴の応答波Esが表れるが、この応答波Esに破線で示すように低周波のノイズ(検出電極31の振動起因の電荷変化量ΔQや他の電磁的外乱要因に起因)の応答波En1が重畳されることとなる。これに対して、図9Bのように各吐出検査周期pの直前(終了前1ラッチ周期(L))のクランプ期間pcにて中間電圧V1を所定電位V1cにクランプすることにより、複数の吐出検査周期p間で低周波のノイズの応答波En1の電圧を蓄積することが防止できる。すなわち、低周波のノイズの応答波En1の電圧が複数の吐出検査周期pにまたがって蓄積されることが防止でき、インク滴の応答波Esの信号強度に対する低周波のノイズ強度の比を抑制した検出電圧V2を得ることができる。また、中間電圧V1を所定電位V1c付近に拘束できるため、中間電圧V1がオペアンプA2の入力可能電圧範囲外となることが防止でき、クリップによる波形歪みが防止できる。
【0062】
図9Cは、検出電圧V2のノイズ抑圧特性を示すグラフである。図8Cの横軸はノイズ周波数(対数)を示し、縦軸は信号抑圧比(入力電力/通過電力)(対数)を示す。第1増幅回路54の入力点に各周波数のテストノイズを意図的に注入し、検出電圧V2が示すテストノイズの通過電力を調査する。図9Cに示すように、吐出検査周期pと同等の周期に対応する周波数帯域(200〜2000Hz)のテストノイズは、第2増幅回路56の出力点までほぼ減衰することなく通過し、インク滴の応答波Esは通過できることが分かる。クランプ期間pcの周期が吐出検査周期pと同一であり、吐出検査周期pよりも短い周期に対応する高周波帯域のテストノイズの応答波形はクランプの影響を受けないからである。なお、2000Hzよりも高周波帯域のノイズは、ローパスフィルター回路53により抑圧できる。一方、吐出検査周期pよりも長い周期に対応する低周波帯域(〜200Hz)においては、テストノイズの周波数が小さくなるほど抑圧される。具体的に、周波数の1decadeごと(周波数が10倍となるごと)に、テストノイズの通過電力が−20dB減衰する。なお、低周波帯域(〜5Hz)においては信号抑圧比の傾きが緩和される。これは第1増幅回路54の増幅係数X1を小さくしたにも拘わらず、低周波帯域(〜5Hz)では、より大きなノイズ成分が抑圧可能なために、ついに第1増幅回路54を構成するオペアンプA1の出力端子(Vout)における中間電圧V1がオペアンプA1の出力可能電圧範囲内にクリップされたことによる波形歪みに起因する。
【0063】
本実施形態において、第1増幅回路54を構成するオペアンプA1の出力可能電圧範囲は約3.3Vであり、クランプ点CPにおける中間電圧V1の振幅が出力可能電圧範囲の1/100〜1/10(0.033〜0.33Vpp)となるように第1増幅回路54の増幅係数X1が設定されている。これにより、クランプ点CPにおけるノイズの電圧が−0.6〜2.7V程度で変動する場合でも、中間電圧V1がオペアンプA1の出力可能電圧範囲を超え、当該中間電圧V1がクリップされることが防止できる。すなわち、検出電極31におけるインク滴の応答波Esの波形が中間電圧V1のクリップにより歪むことが防止でき、インク滴が吐出されたか否かを精度よく判定できる。なお、第1増幅回路54の増幅係数X1が小さくても、クランプされた中間電圧V1をさらに増幅する第2増幅回路56が備えられるため、インク滴が吐出されたか否かを判定するのに好適な検出電圧V2を得ることができる。なお、クランプ点CPにおけるノイズ成分の電圧が0〜3.0V程度で変動する場合には、スイッチWを導通させてクランプする所定電位V1cを0.6Vから0Vへと切り替えることにより、中間電圧V1のクリップを防止するのが望ましい。
【0064】
なお、クランプ期間pcは、検出電圧V2が既知の所定電位V2cに保持される期間である。そのため、クランプ期間pcは、パルスマスク部13bが検出パルス信号Spをマスクする期間とされる。また、クランプ期間pcは、グリッチ除去部13cがシフトレジスタの2値データを初期化する期間とされる。さらに、クランプ期間pcは、エッジ数カウント部13eがエッジ数をカウントしない期間とされる。
【0065】
図6のd欄に示すように、吐出検査周期pは、時刻の早い順に第1判定期間p d1(5L)とピーク期間pp(L)と第2判定期間p d2(4L)と収束期間pe(L)とクランプ期間pc(L)とを含む。第1判定期間p d1は、吐出検査周期pの開始とともに開始し、吐出期間paの終了前に終了する。ピーク期間ppは、第1判定期間p d1の終了と同時に開始し、吐出期間paとともに終了する。すなわち、吐出期間paは、第1判定期間p d1とピーク期間ppとを含む。第2判定期間p d2は、非吐出期間prの開始とともに開始し、非吐出期間prの終了前に終了する。収束期間peは、第2判定期間p d2の終了と同時に開始し、クランプ期間pcの開始とともに終了する。クランプ期間pcは非吐出期間prとともに終了する。すなわち、非吐出期間prは、第2判定期間p d2と収束期間peとクランプ期間pcとを含む。なお、本実施形態において、第1判定期間p d1とピーク期間ppと第2判定期間p d2と収束期間peとクランプ期間pcの長さはラッチ周期の倍数とされるが、必ずしもラッチ周期の倍数でなくてもよい。
【0066】
図6のe欄は、インク滴の応答波Esが表れる場合の検出電圧V2(ノイズは無視)を示す。図6のe欄の破線は、インク滴の応答波Esが表れない場合の検出電圧V2を示す。図6のe欄に示すように、検出電圧V2は吐出期間paにおいて立ち上がり、吐出期間paの終了時刻t1にて極大値をとり、その後、定常値(=所定電位V2c)へと収束していく。すなわち、検出電圧V2におけるインク滴の応答波Esの変化極性は凸極性となる。従って、正常にインク滴が吐出された場合、吐出期間paの終了よりも前に終了する第1判定期間p d1においては、検出電圧V2が立ち上がる(単調増加となる)はずである。反対に、検出電圧V2は非吐出期間prにおいて極大の状態から立ち下がって収束する。従って、正常にインク滴が吐出された場合、第2判定期間p d2においては、検出電圧V2が立ち下がる(単調減少となる)はずである。図6のe欄において、信号閾値電圧V2t(V2t1,V2t2)を一点鎖線で示す。なお、2値化回路57は、ヒステリシス特性を有するため、検出電圧V2が信号閾値電圧V2tよりも大きくなっていく場合の信号閾値電圧V2t1の方が、検出電圧V2が信号閾値電圧V2tよりも小さくなっていく場合の信号閾値電圧V2t2よりも大きい。なお、信号閾値電圧V2tはレジスタ13jに記録された信号閾値設定データ(デューティー値)によって設定される。また、信号閾値電圧V2tは、例えば図7Cにて破線で示すインク滴の応答波Esの最小振幅に所定電位V2cを加えた電圧とされる。また、検出電圧V2に重畳されると想定されるノイズに対応したマージンを信号閾値電圧V2tに加味してもよい。
【0067】
図6のf欄は、図6のe欄の検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れた場合(ノイズは無視)の検出パルス信号Spを示す。図6のf欄の破線は、インク滴の応答波Esが表れない場合の検出パルス信号Spを示す。2値化のための信号閾値電圧V2t(V2t1,V2t2)は、インク滴の電荷変化量ΔQの応答波Esの定常値(=所定電位V2c)よりも大きく、当該応答波Esの極大値よりも小さい値とされる。従って、検出電圧V2に正常なインク滴の応答波Esのみが表れた場合に、単一の吐出期間paにおける検出パルス信号Spにて単一のパルスが生じる。また、本実施形態の検出パルス信号Spのパルス極性は、検出電圧V2の変化極性である凸極性から反転し、凹極性となる。すなわち、インク滴が正常に吐出された場合、吐出期間paの開始とともに増加を開始した検出電圧V2が信号閾値電圧V2t1以上となるまでは2値信号レベルが1となり、吐出期間paの終了とともに減少に転じた検出電圧V2が信号閾値電圧V2t2よりも小さくなるまでは2値信号レベルが0となり、その後は2値信号レベルが再び1となる。一方、インク滴の応答波Esが検出電圧V2に表れない場合には、吐出検査周期pのすべてにおいて検出パルス信号Spの2値信号レベルが1となる。なお、検出パルス信号Spのパルス極性が凹極性の場合、クランプ期間pcにてグリッチ除去部13cはシフトレジスタが保持する2値データを1に初期化する。これにより、シフトレジスタが保持する2値データを1としたまま吐出期間paへと移行することができ、グリッチ除去部13cにおいてクランプ期間pcの直後に偽のパルスのエッジが表れることが防止できる。
【0068】
図8Bは、上述した微振動ノイズの応答波が表れた検出電圧V2を示す。図8Aの縦軸は検出電圧V2の電圧を示し、横軸は吐出検査周期pの開始から終了までの時刻を示す。また、図8Bの上欄は吐出検査対象のノズル23からインク滴を吐出させることなく、他のノズル23のすべてにおいて微振動動作を行った場合の検出電圧V2を示す。この場合、検出電圧V2に微振動ノイズの応答波En2のみが表れる。微振動ノイズの応答波En2は、吐出検査周期pのうちクランプ期間Pcを除く期間においてラッチ周期(1L)ごとに表れる。なお、図の簡略化のため微振動ノイズの応答波En2を一本の線分で示すが、微振動ノイズの応答波En2は、極大値(ノイズ極値)に向かって立ち上がり、極大値から定常値へと収束する凸極性の波形を有する。図8Bの中欄は吐出検査対象のノズル23から正常にインク滴が吐出され、かつ、他のノズル23のすべてにおいて微振動動作を行わなかった場合の検出電圧V2を示す。この場合、正常なインク滴の応答波Esのみが検出電圧V2に表れる。図8Bの下欄は吐出検査対象のノズル23から正常にインク滴が吐出され、かつ、他のノズル23のすべてにおいて微振動動作を行った場合の検出電圧V2を示す。この場合、正常なインク滴の応答波Esと微振動ノイズの応答波En2とが重畳された波形が検出電圧V2に表れる。なお、本実施形態において、インク滴の応答波Esの極値である信号極値と微振動ノイズの応答波En2の極値であるノイズ極値とは、ともに極大値であるため、インク滴の応答波Esの変化極性と微振動ノイズの応答波En2の変化極性とは同一極性となる。なお、図8Bにおいて信号閾値電圧V2tを一点鎖線で示す(図の簡略化のため信号閾値電圧V2t1,V2t2は区別しない)。
【0069】
上述したように、クランプによって吐出検査周期pよりも低周波のノイズの応答波En1が抑圧できるが、吐出検査周期pよりも高周波の微振動ノイズの応答波En2は検出電圧V2に顕著に表れ得る。また、微振動ノイズは、正常なインク滴の応答波Esの周期である吐出検査周期と近い周期(1/12)で発生するため、ローパスフィルター回路53では正常なインク滴の応答波Esを抑圧することなく微振動ノイズの応答波Esを効果的に抑圧できない。従って、図8Bに示すように検出電圧V2において微振動ノイズの応答波En2は顕著に表れ得る。
【0070】
図8Cは、検出パルス信号Spを示す。図8Cの縦軸は検出パルス信号Spの2値信号レベルを示し、横軸はラッチ周期の開始から終了までの時刻を示す。図8Cの上欄、中欄、下欄は、それぞれ図8Bの上欄、中欄、下欄の検出電圧V2を2値化回路57が2値化した検出パルス信号Spを示す。図8Cの上欄に示すように、検出電圧V2に微振動ノイズの応答波En2のみが表れる場合、単一の吐出検査周期pにおける検出パルス信号Spにおいて微振動ノイズの応答波En2に対応するパルスが1ラッチ周期(L)ごとに表れる。なお、図の簡略化のため微振動ノイズの応答波En2に対応するパルスを一本の線分で示すが、微振動ノイズの応答波En2は矩形パルスである。従って、微振動ノイズの応答波En2は立ち下がりのエッジと立ち上がりのエッジとを有する。図8Cの中欄に示すように、検出電圧V2に正常なインク滴の応答波Esのみが表れる場合、単一の吐出検査周期pにおける検出パルス信号Spにおいてインク滴の応答波Esに対応する単一のパルスが表れる。
【0071】
図8Cの下欄に示すように、検出電圧V2にて微振動ノイズの応答波En2とインク滴の応答波Esとが重畳される場合、単一の吐出検査周期pにおける検出パルス信号Spにおいて正常なインク滴の応答波Esに対応したパルスとともに、正常なインク滴の応答波Esにより検出電圧V2が信号閾値電圧V2tよりも小さくなる(定常値側)にある2つの定常値側期間p x1において微振動ノイズの応答波En2に対応するパルスが1ラッチ周期(L)ごとに表れる。なお、図8Cの下欄の場合、正常なインク滴の応答波Esにより検出電圧V2が信号閾値電圧V2t以上(極大値側)となる極値側期間p x2において微振動ノイズの応答波En2に対応するパルスは表れ得ない。極値側期間p x2においては、正常なインク滴の応答波Esにより検出電圧V2が信号閾値電圧V2t以上となり、微振動ノイズの応答波En2により検出電圧V2がさらに大きい値(極大値側の値に)に変化しても、検出電圧V2が信号閾値電圧V2t以上となる状態が維持されるからである。すなわち、極値側期間p x2においては、微振動ノイズの応答波En2にインク滴の応答波Esが重畳されることにより、検出電圧V2の変化範囲に信号閾値電圧V2tが含まれなくなっている。なお、検出電圧V2にインク滴の応答波Esのみが表れる場合、吐出検査期間pにおいて1つの極値側期間p x2と2つの定常値側期間p x1とが存在し、極値側期間p x2は2つの定常値側期間p x1の間の期間をなす。一方、定常値側期間p x1においては、正常なインク滴の応答波Esが信号閾値電圧V2tより小さく、微振動ノイズの応答波En2により1ラッチ周期(L)ごとに検出電圧V2が大きい値(極大値側の値)に変化することにより、検出電圧V2と信号閾値電圧V2tとの大小関係が反転し、微振動ノイズの応答波En2に対応するパルスが1ラッチ周期(L)ごとに表れる。
【0072】
ここで、検出パルス信号Spのパルス極性が凹極性の場合、図4に示すように第1判定期間p d1における有効パルス形状が立ち下がり形状とされる。すなわち、信号判定部13dは第1判定期間p d1において、グリッチ除去後の検出パルス信号Spの2値信号レベルが1から0へと遷移する区分3のパルス形状を有効パルス形状とする。なお、第1判定期間p d1は、先の定常値側期間p x1と極値側期間p x2との境界時刻を含む。従って、正常に吐出されたインク滴の応答波Esが検出電圧V2に表れる場合(図8Bの下欄)には、図6のf欄および図8Cの下欄に示すように、第1判定期間p d1に2値信号レベルが1から0へと遷移するパルス形状が1つ表れる。従って、有効パルス形状としての区分3のパルス形状が第1判定期間p d1の検出パルス信号Spに含まれる場合に、信号判定部13dは、第1判定期間p d1において検出電圧V2に正常なインク滴の応答波Esが表れた旨を示す第1信号判定データ(1)をレジスタ13jに記録する。一方、信号判定部13dは、第2判定期間p d2において、グリッチ除去後の検出パルス信号Spの2値信号レベルが0から1へと遷移する区分1のパルス形状を有効パルス形状とする。なお、第2判定期間p d2は、極値側期間p x2と後の定常値側期間p x1との境界時刻を含む。従って、正常に吐出されたインク滴の応答波Esが検出電圧V2に表れる場合(図8Bの下欄)には、図6のf欄および図8Cの下欄に示すように、第2判定期間p d2に2値信号レベルが0から1へと遷移するパルス形状が1つ表れる。従って、有効パルス形状としての区分1のパルス形状が第2判定期間p d2の検出パルス信号Spに含まれる場合に、第2判定期間p d2において検出電圧V2に正常なインク滴の応答波Esが表れた旨を示す第2信号判定データ(1)をレジスタ13jに記録する。
【0073】
本実施形態では、微振動動作を行うため、検出電圧V2に微振動ノイズの応答波En2が表れ、図8Bの上欄に示すようにノズル23からインク滴が吐出されなかった場合には、図8Cの上欄に示す検出パルス信号Spが得られる。また、図8Bの下欄に示すようにノズル23からインク滴が正常に吐出された場合には、図8Cの下欄に示す検出パルス信号Spが得られる。すなわち、インク滴に吐出されたか否かに拘わらず、微振動ノイズの応答波En2に対応するパルスが検出パルス信号Spに含まれることとなる。微振動ノイズの応答波En2に対応するパルスの2値信号レベルは短期間(図4に示すパルス形状の長さ以内の期間)に1→0→1と変化するため、図4に示す区分2の維持形状に該当する。すなわち、信号判定部13dは、微振動ノイズの応答波En2に対応するパルスを有効パルスと判定することなく、正常なインク滴の応答波Esに対応するパルスを有効パルスと判定することができる。
【0074】
なお、ピーク期間ppと収束期間peとを第1判定期間p d1と第2判定期間p d2とから除外することにより、ピーク期間ppと収束期間peとにおけるノイズの影響を軽減できる。ピーク期間ppと収束期間peとにおいては検出電圧V2が大きく変動しないはずであり、ピーク期間ppと収束期間peとにおいて有効パルスが検出されても、当該有効パルスはノイズに起因する可能性が高いからである。なお、インク滴の応答波Esにおける傾きの絶対値が所定閾値よりも小さくなる期間を、ピーク期間ppと収束期間peと設定してもよい。
【0075】
ここで、ノズル23から正常にインク滴が吐出され図8Cの下欄に示す検出パルス信号Spが得られた場合、エッジ数カウント部13eは、2つの定常値側期間p x1からクランプ期間pcを除く期間において生じた微振動ノイズの応答波En2に対応するパルスのエッジ数と、正常なインク滴の応答波Esに対応するパルスのエッジ数で(2個)とをカウントすることとなる。図8Cの下欄の例において、エッジ数カウント部13eは、2つの定常値側期間p x1(3L+3L)のうちクランプ期間pc(1L)を除く期間において、1ラッチ周期(1L)ごとに生じた微振動ノイズの応答波En2に対応するパルスのエッジ数をカウントする。従って、エッジ数カウント部13eは、ノズル23から正常にインク滴が吐出された場合、エッジ数を(3+3−1)×2+2=12個とカウントすることとなる。ただし、現実には微振動ノイズ以外の未知のノイズに起因するエッジ数も加算されるため、エッジ数カウント部13eは12個以上のエッジ数をカウントすることとなる。すなわち、ノズル23からインク滴が吐出された場合、エッジ数カウント部13eがカウントしたエッジ数のうち12個は微振動ノイズおよびインク滴に起因し、当該カウントしたエッジ数から12個を減算した数が未知のノイズに起因すると考えることができる。本実施形態において、第1ノイズ閾値は、微振動ノイズに起因するエッジ数である10個に、未知のノイズに起因するエッジ数の許容個数である8個と、正常なインク滴の応答波Esに対応するパルスのエッジ数である2個とを加算した20個とされる。そして、ノイズ判定部13fは、エッジ数が第1ノイズ閾値以下である場合、すなわち未知のノイズに起因するエッジ数が許容個数以下である場合に、重篤なノイズ重畳状態でない旨を示す第1ノイズ判定データ(0)をレジスタ13jに記録する。一方、ノイズ判定部13fは、エッジ数が第1ノイズ閾値よりも大きい場合、すなわち未知のノイズに起因するエッジ数が許容個数よりも大きい場合に、重篤なノイズ重畳状態である旨を示す第1ノイズ判定データ(1)をレジスタ13jに記録する。なお、第1ノイズ判定データは、インク滴が正常に吐出されたと仮定した場合に、ノイズ重畳状態が重篤であるか否か示すデータである。
【0076】
一方、ノズル23からインク滴が吐出されず図8Cの上欄に示す検出パルス信号Spが得られた場合、エッジ数カウント部13eは、クランプ期間pcを除く期間において生じた微振動ノイズの応答波En2に対応するパルスのエッジ数をカウントすることとなる。すなわち、エッジ数カウント部13eは、吐出検査周期p(12L)のうちクランプ期間pc(1L)を除く期間において、1ラッチ周期(1L)ごとに表れる微振動ノイズの応答波En2に対応するパルスのエッジ数をカウントする。従って、エッジ数カウント部13eは、ノズル23からインク滴が吐出されなかった場合、エッジ数を(12−1)×2=22個とカウントすることとなる。すなわち、ノズル23からインク滴が吐出されなかった場合、エッジ数カウント部13eがカウントしたエッジ数のうち22個は微振動ノイズに起因し、当該エッジ数から22個を減算した数が未知のノイズに起因すると考えることができる。本実施形態において、第2ノイズ閾値は、微振動ノイズに起因するエッジ数である22個に、未知のノイズに起因するエッジ数の許容個数である8個を加算した30個とされる。そして、ノイズ判定部13fは、エッジ数が第2ノイズ閾値以下である場合、すなわち未知のノイズに起因するエッジ数が許容個数以下である場合に、重篤なノイズ重畳状態でない旨を示す第2ノイズ判定データ(0)をレジスタ13jに記録する。一方、ノイズ判定部13fは、エッジ数が第2ノイズ閾値よりも大きい場合、すなわち未知のノイズに起因するエッジ数が許容個数よりも大きい場合に、重篤なノイズ重畳状態である旨を示す第2ノイズ判定データ(1)をレジスタ13jに記録する。なお、第2ノイズ判定データは、インク滴が吐出されなかったと仮定した場合に、ノイズ重畳状態が重篤であるか否か示すデータである。
【0077】
メイン制御部11は、吐出検査周期pごと、すなわちノズル23ごとに更新記録される第1信号判定データと第2信号判定データと第1ノイズ判定データと第2ノイズ判定データとをレジスタ13jから読み出し、これらに基づく処理を実行する。なお、メイン制御部11は、吐出検査周期pが経過するごとにノズル番号を示すデータをインクリメントすることにより、吐出検査対象のノズル23のノズル番号を特定する。
【0078】
図10は、総合判定手段としてのメイン制御部11がレジスタ13jから読み出した各判定データの組み合わせと、メイン制御部11が実行する処理との対応関係を示す表である。なお、図10に示す処理はメイン制御部11がROM等の記録媒体に記録されたプログラムを実行することにより実現され、図10の対応関係を示すデータもROM等の記録媒体に記録されている。メイン制御部11は、第1信号判定データと第2信号判定データとの一致性を判定する。そして、第1信号判定データと第2信号判定データとの一方のみが正常なインク滴の応答波Esが検出電圧V2に表れた旨を示す(一致しない)場合、メイン制御部11は、吐出検査対象のノズル23についての吐出検査を再度実行させる。このように、正常なインク滴の応答波Esが検出電圧V2に表れたか否かの判定結果が第1判定期間p d1と第2判定期間p d2とで一致しない場合には、インク滴が正常に吐出されたか否かを判定しないため、誤判定が防止できる。
【0079】
一方、第1信号判定データと第2信号判定データがともに正常なインク滴の応答波Esが検出電圧V2に表れた旨(1)を示す場合、メイン制御部11は第1ノイズ判定データに注目する。そして、重篤なノイズ重畳状態でないことを示す第1ノイズ判定データ(0)が得られている場合には、メイン制御部11は、吐出検査対象のノズル23から正常にインク滴が吐出されたと判定する。すなわち、エッジ数カウント部13eがカウントしたエッジ数が第1ノイズ閾値(22個)以下であり、微振動ノイズ以外の未知のノイズに起因するエッジ数が許容個数(8個)以下である場合には、吐出検査対象のノズル23から正常にインク滴が吐出されたと判定する。ここで、第1信号判定データと第2信号判定データがともに正常なインク滴の応答波Esが検出電圧V2に表れた旨を示す場合、図8Cの下欄に示すように2つの定常値側期間p x1(クランプ期間pcは除く)においてのみ微振動ノイズに対応するパルスが出現するため、2つの定常値側期間p x1における微振動ノイズのエッジ数に基づく第1ノイズ閾値により未知のノイズの重畳状態を評価すべきである。仮に、吐出検査期間pのすべての期間(クランプ期間pcは除く)において微振動ノイズに対応するパルスが出現することを想定した第2ノイズ閾値(30個)を用いたとすれば、許容個数(8個)以上の未知のノイズに起因するエッジ数を許容することとなる。
【0080】
一方、第1信号判定データと第2信号判定データがともに正常なインク滴の応答波Esが検出電圧V2に表れた旨(1)を示し、かつ、重篤なノイズ重畳状態であることを示す第1ノイズ判定データ(1)が得られている場合には、メイン制御部11は、吐出検査対象のノズル23についての吐出検査を再度実行させる。このように、重篤なノイズ重畳状態である場合に、インク滴が正常に吐出されたか否かを判定しないため、誤判定が防止できる。なお、第1ノイズ閾値を用いることにより、微振動ノイズに対応するパルスが検出パルス信号Spに含まれることが許容されるが、微振動ノイズに対応するパルスの形状は図4に示す区分2の維持形状に該当するため、信号判定部13dにおける誤判定の要因とならない。
【0081】
第1信号判定データと第2信号判定データがともに正常なインク滴の応答波Esが検出電圧V2に表れなかった旨(0)を示す場合について説明する。重篤なノイズ重畳状態であることを示す第1ノイズ判定データ(1)が得られ、かつ、重篤なノイズ重畳状態でないことを示す第2ノイズ判定データ(0)が得られている場合には、メイン制御部11は、吐出検査対象のノズル23からインク滴が吐出されなかったと判定(非吐出判定)する。すなわち、エッジ数カウント部13eがカウントしたエッジ数が第2ノイズ閾値(30個)以下であり、微振動ノイズ以外の未知のノイズに起因するエッジ数が許容個数(8個)以下である場合には、吐出検査対象のノズル23からインク滴が吐出されなかったと判定する。ここで、第1信号判定データと第2信号判定データがともに正常なインク滴の応答波Esが検出電圧V2に表れなかった旨を示す場合、図8Cの上欄に示すように吐出検査期間pのすべての期間(クランプ期間pcは除く)において微振動ノイズに対応するパルスのエッジ数(22個)がカウントされるため、吐出検査期間pの全体における微振動ノイズのエッジ数に基づく第2ノイズ閾値により未知のノイズの重畳状態を評価すべきである。仮に、2つの定常値側期間p x1(クランプ期間pcは除く)においてのみ微振動ノイズに対応するパルスが出現することを想定した第1ノイズ閾値(20個)を用いたとすれば、正常な微振動ノイズが許容できなくなってしまう。
【0082】
一方、第1信号判定データと第2信号判定データがともに正常なインク滴の応答波Esが検出電圧V2に表れなかった旨を示す場合において、重篤なノイズ重畳状態でないことを示す第1ノイズ判定データ(0)と第2ノイズ判定データ(0)とが得られた場合、メイン制御部11は、ハードウェア異常を示す警告を発し、吐出検査を中止する。第1信号判定データと第2信号判定データがともに正常なインク滴の応答波Esが検出電圧V2に表れなかった旨を示す場合、図8Cの上欄に示すように吐出検査期間pのすべての期間(クランプ期間pcは除く)において微振動ノイズに対応するパルスのエッジ数が22個カウントされるべきにも拘わらず、第1ノイズ閾値(20個)以下のエッジ数しかカウントされなかったこととなる。この場合、吐出検査対象以外のノズル23に対応するピエゾ素子21に対して正常な駆動パルスが印加されていないと考えられるため、例えば駆動パルスの生成回路等におけるハードウェア異常が生じていると推定できる。
【0083】
一方、第1信号判定データと第2信号判定データがともに正常なインク滴の応答波Esが検出電圧V2に表れなかった旨(0)を示し、かつ、重篤なノイズ重畳状態であることを示す第2ノイズ判定データ(1)が得られている場合には、メイン制御部11は、吐出検査対象のノズル23についての吐出検査を再度実行させる。このように、重篤なノイズ重畳状態である場合に、インク滴が正常に吐出されたか否かを判定しないため、誤判定が防止できる。
【0084】
(3)他の実施形態:
図11Aは、他の実施形態にかかる検出電圧V2を示す。図11Aの縦軸は検出電圧V2の電圧を示し、横軸は吐出検査周期pの開始から終了までの時刻を示す。また、図11Aの上欄は吐出検査対象のノズル23からインク滴を吐出させることなく、他のノズル23のすべてにおいて微振動動作を行った場合の検出電圧V2を示す。図11Aの中欄は吐出検査対象のノズル23から正常にインク滴が吐出され、かつ、他のノズル23のすべてにおいて微振動動作を行わなかった場合の検出電圧V2を示す。図11Aの下欄は吐出検査対象のノズル23から正常にインク滴が吐出され、かつ、他のノズル23のすべてにおいて微振動動作を行った場合の検出電圧V2を示す。なお、他の実施形態において、インク滴の応答波Esの極値である信号極値は極小値であるのに対して、微振動ノイズの応答波En2の極値であるノイズ極値は極大値であるため、インク滴の応答波Esの変化極性と微振動ノイズの応答波En2の変化極性とは逆極性となる。信号閾値電圧V2tは、インク滴の応答波Esによって検出パルス信号の2値信号強度が遷移するようにインク滴の応答波Esの定常値と極小値との間の電圧とされる。
【0085】
図11Bは、検出パルス信号Spを示す。図11Bの縦軸は検出パルス信号Spの2値信号レベルを示し、横軸はラッチ周期の開始から終了までの時刻を示す。図11Bの上欄、中欄、下欄は、それぞれ図11Aの上欄、中欄、下欄の検出電圧V2を2値化回路57が2値化した検出パルス信号Spを示す。なお、2値化回路57は、第1実施形態と同様に、検出電圧V2が信号閾値電圧V2t以上である場合に2値信号レベルを0とし、検出電圧V2が信号閾値電圧V2tよりも小さい場合に2値信号レベルを1とする。図11Bの上欄に示すように、検出電圧V2に微振動ノイズの応答波En2のみが表れる場合、検出電圧V2は、微振動ノイズの応答波En2によって定常値(=所定電位V2c)以上の範囲でしか変化せず、定常値よりも小さい信号閾値電圧V2tよりも常に大きくなる。従って、検出パルス信号Spにおいて微振動ノイズの応答波En2に対応するパルスが出現することなく、検出パルス信号Spの2値信号レベルは常に0となる。図11Bの中欄に示すように、検出電圧V2に正常なインク滴の応答波Esのみが表れる場合、単一の吐出検査周期pにおける検出パルス信号Spにおいてインク滴の応答波Esに対応する単一のパルスが表れる。
【0086】
図11Bの下欄に示すように、検出電圧V2にて微振動ノイズの応答波En2とインク滴の応答波Esとが重畳される場合、単一の吐出検査周期pにおける検出パルス信号Spにおいて正常なインク滴の応答波Esに対応したパルスとともに、正常なインク滴の応答波Esが信号閾値電圧V2tよりも小さい(極値側)にある極値側期間p x2において微振動ノイズの応答波En2に対応するパルスが1ラッチ周期(L)ごとに表れる。なお、図11Bの下欄の場合、正常なインク滴の応答波Esが信号閾値電圧V2t以上(定常値側)にある定常値側期間p x1において微振動ノイズの応答波En2に対応するパルスは表れない。定常値側期間p x1においては、正常なインク滴の応答波Esが信号閾値電圧V2t以上であり、微振動ノイズの応答波En2により1ラッチ周期(L)ごとに検出電圧V2がさらに大きい値(定常値側の値に)に変化しても、検出電圧V2が信号閾値電圧V2t以上となる状態が維持されるからである。一方、極値側期間p x2においては、正常なインク滴の応答波Esが信号閾値電圧V2tより小さく、微振動ノイズの応答波En2により1ラッチ周期(L)ごとに検出電圧V2が大きい値(定常値側の値に)に変化することにより、検出電圧V2と信号閾値電圧V2tとの大小関係が反転し、微振動ノイズの応答波En2に対応するパルスが1ラッチ周期(L)ごとに表れる。
【0087】
ここで、ノズル23から正常にインク滴が吐出され図11Bの下欄に示す検出パルス信号Spが得られた場合、エッジ数カウント部13eは、極値側期間p x2において生じた微振動ノイズの応答波En2に対応するパルスのエッジ数と、インク滴の応答波Esに対応するパルスのエッジ数(2個)とをカウントすることとなる。図11Bの下欄の例において、エッジ数カウント部13eは、極値側期間p x2(6L)において、1ラッチ周期(1L)ごとに生じた微振動ノイズの応答波En2に対応するパルスのエッジ数をカウントする。従って、エッジ数カウント部13eは、ノズル23から正常にインク滴が吐出された場合、エッジ数を6×2+2=14個とカウントすることとなる。すなわち、ノズル23からインク滴が吐出された場合、エッジ数カウント部13eがカウントしたエッジ数のうち14個は微振動ノイズとインク滴の応答波Esに起因し、当該カウントしたエッジ数から14個を減算した数が未知のノイズに起因すると考えることができる。本実施形態において、第1ノイズ閾値は、微振動ノイズに起因するエッジ数である12個に、未知のノイズに起因するエッジ数の許容個数である8個と、正常なインク滴の応答波Esに対応するパルスのエッジ数である2個とを加算した22個とされる。
【0088】
一方、ノズル23からインク滴が吐出されず図11Bの上欄に示す検出パルス信号Spが得られた場合、エッジ数カウント部13eは、エッジ数を0個とカウントすることとなる。すなわち、ノズル23からインク滴が吐出されなかった場合、エッジ数カウント部13eがカウントしたエッジ数のうちのすべてが未知のノイズに起因すると考えることができる。本実施形態において、第2ノイズ閾値は、未知のノイズに起因するエッジ数の許容個数である8個とされる。以上のように第1ノイズ閾値と第2ノイズ閾値(<第1ノイズ閾値)とを設定することにより、検出電圧V2におけるインク滴の応答波Esの変化極性と、微振動ノイズの応答波En2の変化極性とが互いに逆極性となる場合でも、適切に未知のノイズの重畳状態を評価できる。
【0089】
図10に示したメイン制御部11の処理は一例であり、第1信号判定データと第2信号判定データと第1ノイズ判定データと第2ノイズ判定データとの組み合わせに応じて図10と異なる処理を実行してもよい。例えば、第1ノイズ判定データと第2ノイズ判定データとが重篤なノイズ重畳状態である場合に、警告を発したり、吐出検査処理を中断したりしてもよい。また、メイン制御部11は、インク滴が吐出されなかったと判定されたノズル23の個数等に応じて、フラッシングや吸引等の回復動作を実行してもよい。
【0090】
また、第1信号判定データと第2信号判定データと第1ノイズ判定データと第2ノイズ判定データとは合計で4bitと少ないため、吐出検査制御部13においてすべてのノズル23についての各判定データをキャッシュする記憶領域を設けておくことができる。この場合、すべてのノズル23についての吐出検査処理が完了した段階で、メイン制御部11がすべてのノズル23についての各判定データを一括して読み出せばよい。むろん、すべてのノズル23についての判定データではなく、ノズル23を所定個数(例えば8ノズル)ごとに区分したブロックやラインごとに各判定データをキャッシュしてもよい。また、メイン制御部11と吐出検査制御部13とを接続するバスのメモリ幅に応じて各判定データをキャッシュするノズル数を設定してもよい。
【0091】
さらに、正常にインク滴が吐出された場合に、第1判定期間p d1の途中から第2判定期間p d2の途中まで検出電圧V2が飽和するように、第2増幅回路56の増幅率X2を高めに設定してもよい。この場合、検出電圧V2が飽和したか否かによって検出電圧V2を2値化でき、2値化回路57が省略できる。この場合、第2増幅回路56による2値化のノイズに対するマージンを確保するために、中間電圧V1をクランプする所定電位V1cを0.6Vから0Vへと切り替えてもよい。
また、必ずしも第1判定期間p d1と第2判定期間p d2とからピーク期間ppと収束期間peとを除外しなくてもよい。
【0092】
さらに、第1判定期間p d1と第2判定期間p d2のそれぞれにおいて正常なインク滴の応答波Esが検出電圧V2に表れたか否かを判定しなくてもよく、吐出検査周期pにおける単一の判定期間において正常なインク滴の応答波Esが検出電圧V2に表れたか否かを判定してもよい。この場合でも、当該判定期間における判定結果に応じて最終的な判定に使用する第1ノイズ判定データと第2ノイズ判定データを切り替えればよい。
また、検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れたと判定された場合にカウントされたエッジ数から第1補正値を減算した値と、検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れなかったと判定された場合にカウントされたエッジ数から第2補正値を減算した値のそれぞれについて共通するノイズ閾値と比較を行ってもよい。なお、第1補正値は検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れる場合にカウントされる微振動ノイズの応答波En2に起因するエッジ数とインク滴の応答波Eに起因するエッジ数との合計とし、第2補正値は検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れない場合にカウントされる微振動ノイズの応答波En2に起因するエッジ数とすればよい。当該構成は、検出電圧V2にインク滴の応答波Esが表れたと判定された場合と、当該応答波Esが表れなかったと判定された場合とで、異なるノイズ閾値を使用することと実質的に同じである。
【0093】
なお、前記実施形態において検出電極31はノズルキャップ30に備えられたが、検出電極31は独立して備えられてもよい。また、検出電極31とノズルプレート22との間に静電容量を寄生させればよく、検出電極31を接地し、ノズルプレート22側に高電圧を出力してもよい。さらに、検出電極31はインク滴が着弾するように構成されなくてもよく、例えば互いに平行に対面する検出電極31と対向電極との間において、検出電極31と対向電極とに対して平行にインク滴を吐出させてもよい。また、検出電極31はコンデンサを構成しなくてもよく、帯電したインク滴の接近により誘導電流が流れるように構成されてもよい。さらに、インク滴の吐出に起因した物理量変化の応答波を得るように構成されていればよく、例えば吐出されたインク滴により強度や周波数が干渉される可視光等の電磁波の受信強度を検出信号として検出してもよい。むろん、ノズル23はインク滴を吐出するように構成されていればよく、サーマルジェット方式によってインク滴が吐出されてもよい。むろん、色の再現を主目的としたインク滴に限らず、吐出されることにより何らかの物理量が変化する液滴であれば本発明の吐出検査手法が適用できる。
【符号の説明】
【0094】
1…印刷装置、10…メイン基板、11…メイン制御部、12…吐出制御部、13…吐出検査制御部、13a…タイミング信号生成部、13b…パルスマスク部、13c…グリッチ除去部、13d…信号判定部、13e…エッジ数カウント部、13f…ノイズ判定部、13g…高電圧診断部、13h…信号閾値設定部、13i…高電圧制御部、13j…レジスタ、20…印刷ヘッド、21…ピエゾ素子、22…ノズルプレート、23…ノズル、30…ノズルキャップ、31…検出電極、40…シールド構造、50…信号生成基板、51…高電圧モジュール、52…高電圧遮断コンデンサ、53…ローパスフィルター回路、54…増幅回路、54a…正相入力回路、54b…帰還抵抗回路、55…クランプ回路、55a…電源回路、56…増幅回路、57…2値化回路、58…高電圧診断回路。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから液滴を吐出させる吐出期間と前記ノズルから液滴を吐出させない非吐出期間とを含む吐出検査周期が繰り返されるように前記ノズルから液滴を吐出させる吐出制御手段と、
前記吐出期間において前記ノズルから吐出された液滴に応答して変化する検出信号の信号強度を所定の信号閾値により2値化した検出パルス信号を取得する検出パルス信号取得手段と、
前記検出パルス信号のパルス形状に基づいて、前記吐出検査周期における前記検出信号の信号強度に前記液滴の応答波が表れたか否かを判定する信号判定手段と、
前記吐出検査周期にて前記検出パルス信号の2値信号強度が遷移した回数であるエッジ数をカウントするエッジ数カウント手段と、
前記検出信号の信号強度に前記液滴の応答波が表れたと判定され、かつ、前記エッジ数が第1ノイズ閾値以下である場合に、前記ノズルから正常に液滴が吐出されたと判定するとともに、
前記検出信号の信号強度に前記液滴の応答波が表れなかったと判定され、かつ、前記エッジ数が前記第1ノイズ閾値と異なる第2ノイズ閾値以下である場合に、前記ノズルから液滴が吐出されなかったと判定する総合判定手段と、
を備える吐出検査装置。
【請求項2】
前記吐出検査周期よりも短い周期で生じる既知のノイズの応答波が前記検出信号の信号強度に表れ、
前記検出信号の信号強度における前記液滴の応答波の変化極性と前記既知のノイズの応答波の変化極性とが同一極性となるとともに、
前記第1ノイズ閾値は前記第2ノイズ閾値よりも小さい、
請求項1に記載の吐出検査装置。
【請求項3】
前記吐出検査周期よりも短い周期で生じる既知のノイズの応答波が前記検出信号の信号強度に表れ、
前記検出信号の信号強度における前記液滴の応答波の変化極性と前記既知のノイズの応答波の変化極性とが逆極性となるとともに、
前記第1ノイズ閾値は前記第2ノイズ閾値よりも大きい、
請求項1に記載の吐出検査装置。
【請求項4】
前記吐出制御手段は、前記吐出検査周期において複数の前記ノズルのうちの吐出検査対象の前記ノズルから液滴を吐出させ、かつ、前記吐出検査周期において前記吐出検査対象以外のすべての前記ノズルにて液滴を吐出させることなく吐出液の液面を振動させる振動動作を行うとともに、
前記既知のノイズは前記振動動作に起因する、
請求項2または請求項3のいずれかに記載の吐出検査装置。
【請求項5】
前記信号判定手段は、前記検出パルス信号のパルス形状に基づいて、前記吐出検査周期に含まれる複数の判定期間のそれぞれにおいて前記検出信号の信号強度に前記液滴の応答波が表れたか否かを判定し、
前記総合判定手段は、前記複数の判定期間のすべてにおける前記検出信号の信号強度に前記液滴の応答波が表れ、かつ、前記エッジ数が第1ノイズ閾値以下である場合に、前記ノズルから正常に液滴が吐出されたと判定するとともに、
前記複数の判定期間のいずれの前記検出信号の信号強度にも前記液滴の応答波が表れず、かつ、前記エッジ数が前記2ノイズ閾値以下である場合に、前記ノズルから液滴が吐出されなかったと判定する、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の吐出検査装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−240263(P2012−240263A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111096(P2011−111096)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】