説明

向上した基質特異性を有するPQQ−依存的グルコースデヒドロゲナーゼの新規変異体

本発明は、野生型と比較して向上した基質特異性を有する新規なPQQ-依存的可溶性グルコースデヒドロゲナーゼ (sPQQGDH)、およびそれを生産および同定する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PQQ-依存的グルコースデヒドロゲナーゼ (sPQQGDH)、その生産および同定方法、本発明によるsPQQGDHをコードする遺伝子、該遺伝子を生産するためのベクター、および、本発明によるグルコースデヒドロゲナーゼを含むグルコースセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
グルコースの酵素的定量は、医療診断において非常に重要である。ここで、代謝性疾患の進行の診断またはモニターのための尿中または血中のグルコースの検出が必要である。糖尿病としても知られる真性糖尿病(diabetes mellitus)の場合、1日に複数回血糖濃度を測定する潜在的な必要性がある。これは酵素的方法による市場にみられる極めて多数のメーターにより達成され、ここでグルコースは酸化され、その結果得られた水素 (2 H+ および 2 e-)がアンペロメトリーにより(amperometrically)定量される (P. Vadgama、J.Med.Eng Technol. 5 [6]、293-298 (1981)、K.S. Chua and I.K. Tan、Clin.Chem. 24 [1]、150-152 (1978))。
【0003】
この目的のために好適な多数の様々な酵素があるが、それらは電子の一次受容(primary acceptance)のための様々な補因子とともに作用するだけでなく、様々な生化学的特性、例えば、特異性、安定性、または変換速度を有する。酵素の変換速度は通常、活性ユニット(U)において報告され;グルコース-酸化酵素の場合、比活性 (U/mg)は通常、規定された反応条件下で1分あたり1ミリグラムの酵素よって酸化される、マイクロモルでのグルコースの量をいう。
【0004】
しばしば用いられる酵素はグルコースデヒドロゲナーゼ類(GDHs)である。NAD(P)+-依存的 GDHの場合は、補因子は、ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド (NAD+)またはニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチドリン酸(NADP+)であり(H. E. Pauly and G. Pfleiderer、Hoppe Seylers. Z. Physiol Chem. 356 [10]、1613-1623 (1975))、これら両方は、酵素に結合していないため、反応に添加しなければない非常に不安定な化合物である。
【0005】
さらなるクラスのグルコースデヒドロゲナーゼは、電子受容体として酵素に結合したピロロキノリン キノン (PQQ)を含む。互いに構造的に異なるこのタイプの2つのグルコースデヒドロゲナーゼが既に記載されている:膜固着形態、mPQQGDH (A.M Cleton-Jansen et al.、J. Bacteriol. 170 [5]、2121-2125 (1988))、およびより小さい、可溶性形態、sPQQGDH (A.M. Cleton-Jansen et al.、Mol.Gen.Genet. 217 [2-3]、430-436 (1989))である。後者はその高い比活性、その酸素に対する非感受性、および強固に結合した、安定な補因子のために、グルコース定量のための試験システムの製造に特に好適な酵素である。それゆえ、多数の市販の血中グルコースメーターにおいて、この酵素はその他の述べられた酵素と比較してこの酵素が示すより低い基質特異性にもかかわらず、用いられている。前記の制限により、より高い基質特異性を有するこの酵素の変異体を得ることはもちろん望ましいことである。
【0006】
基質であるグルコースの他に、sPQQGDHはまた、その他の糖を対応するラクトンに変換し、その他の糖は好ましくは、還元糖がグルコースだけでなくその他の還元糖であってもよい二糖である。かかる糖はヒトの血中に通常は存在しないため、sPQQGDHに基づく酵素試験は一般に、グルコース濃度に対応する結果をもたらす。しかし、特定の内科的治療は、分解産物の1つがマルトースである物質の投与を伴い、それはsPQQGDHによって酸化されるため、測定結果に望ましくない貢献をしてしまう(T.G. Schleis、Pharmacotherapy 27 [9]、1313-1321 (2007))。診断方法における、または薬物の補助剤としてのキシロースおよびガラクトースの投与において、これらの糖はそれら自体が測定される。それゆえsPQQGDHの副次的(subsidiary)活性を好適に抑制することには意味がある。
【0007】
文献および特許明細書において、突然変異の導入によってsPQQGDHの基質特異性を向上させる多数の試みが記載されている(S. Igarashi et al.、Biomol. Eng 21 [2]、81-89 (2004))。この目的のために触媒部位の領域における1アミノ酸(EP1666586A1)だけでなく、酵素の他の部位における1アミノ酸も (US7132270B2)、部位特異的突然変異誘発によって別のアミノ酸に置換されており、あるいは1アミノ酸が挿入によって付加されている(EP1367120A2)。さらに、様々な突然変異の組合せが記載されている (EP1666586A1、US7132270B2)。加えて、2アミノ酸がsPQQGDHの1部位に付加された変異体も記載されている。しかし、基質特異性における有意な向上は結果として達成されていない(WO2006085509)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらの結果にもかかわらず、グルコースとの十分に高い反応性をもって、グルコースと他の糖とを十分に識別することを可能とする変異体はいままでに記載されていないため、sPQQGDHの変異体に対する要求がいまだに存在する。ここで重要なことは、より具体的には、グルコースおよびその他の糖の混合物の存在下においても、グルコース濃度を高い信頼度をもって測定可能とするような酵素の能力である。いままでに記載されている変異体はいずれもこの性質を十分に示すものではない。
【0009】
従来技術に鑑み、本発明の目的はしたがって、グルコースと他の糖との混合物の存在下においてさえ信頼できるグルコース定量を可能とするグルコースデヒドロゲナーゼを提供することである。より具体的には、本発明の目的は、マルトースの存在下においてもグルコースが信頼可能に定量できるグルコースデヒドロゲナーゼを提供することである。さらに、本発明の目的は、その他の糖の存在下、より具体的には、マルトースの存在下におけるグルコースの定量に特に好適なかかるグルコースデヒドロゲナーゼを生産および同定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このたび、驚くべきことに、3から5のアミノ酸が基質結合領域の領域に挿入されているsPQQ グルコースデヒドロゲナーゼが、元の形態の酵素よりも向上したグルコース特異性を示すことが見いだされた。
【0011】
したがって、本発明は、元の形態の酵素よりも向上したグルコース特異性を有するsPQQ グルコースデヒドロゲナーゼであって、3から5のアミノ酸が基質結合領域の領域に挿入されていることを特徴とするsPQQ グルコースデヒドロゲナーゼを提供する。
【0012】
本発明によるsPQQGDHは、天然に存在する記載された野生型株、例えば、アシネトバクター・カルコアセチカス(Acinetobacter calcoaceticus) LMD 79.41 (K. Kojima K. et al.、Biotechnology Letters 22、1343-1347 (2000))およびアシネトバクター属(genus Acinetobacter)のさらに別の株 (P.J. Bouvet P.J. and O.M. Bouvet、Res. Microbiol. 140 [8]、531-540 (1989))、より具体的には、熱安定性が向上している株、例えば、EP1623025A1に記載のアシネトバクター種(Acinetobacter sp.)株から、突然変異誘発によって得られる遺伝子によってコードされうる。好ましい株は、EP1623025A1に記載のアシネトバクター種の株、PT16、KOZ62、KOZ65、PTN69、KG106、PTN26、PT15、KGN80、KG140、KGN34、KGN25、およびKGN100であり;より好ましくは株 KOZ65である。
【0013】
本発明によるsPQQGDHを取得可能とするために、コドンは、そのような方法に好適なsPQQGDH 遺伝子における基質-結合部位に対応する位置に挿入しなければならない。多数のsPQQGDHの空間的構造が知られており、公共データベースに受け入れられている(A. Oubrie et al.、J. Mol. Biol. 289 [2]、319-333 (1999); A. Oubrie et al.、EMBO J. 18 [19]、5187-5194 (1999))。したがって、個々のアミノ酸位置の結合した基質との距離が評価できる。かかる評価は、例えば、タンパク質のための視覚化プログラム、例えば、インターネット上(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Structure/CN3D/cn3d.shtml)で利用可能なソフトウェア・プログラムCn3Dによって可能となる。公表されたX線構造の配列は、455 アミノ酸長であるアシネトバクター・カルコアセチカスからのsPQQGDHに基づく。株 KOZ65からのより好ましいsPQQGDHの元の形態はAcinetobacter baumannii からの酵素と同様に456 アミノ酸を有する。この原因は、両方の場合において、位置 289の後の追加のグルタミン残基である。以下、個々のアミノ酸の位置に関する詳細は、しかし、株、アシネトバクター・カルコアセチカス LMD 79.41からの、X線構造に用いた、sPQQGDHのより短い配列に関する。そこに位置するアミノ酸は、当該位置の前のアミノ酸についての1文字コードにおいて報告される。
【0014】
基質への距離が5 オングストロームより大きくないアミノ酸領域、例えば、位置Q76、D143、Q168、Y343およびそれぞれの近隣の(neighboring)アミノ酸残基が、突然変異誘発のために好ましい。したがって、3つ以上のアミノ酸の挿入をなすことができ、例えば、基質-結合部位の空間構成を変化させるために特定された位置の1つの前または後に挿入をなすことができる。より好ましいのは、位置Q168とL169との間の追加のアミノ酸の挿入である。この部位に挿入を有するKOZ65の変異体は、概して、驚くべきことに、グルコースと比べてマルトースに対する顕著に低下した活性を示した。より好ましいのは、表1に列挙する位置Q168とL169との間の挿入配列を有するsPQQGDHである。比較として、野生型を第1行に示す。本発明によるsPQQGDHは、表1に示すように、向上した基質特異性(より低いマルトース/グルコース比およびグルコース/マルトース混合物におけるグルコースの干渉のより低い値)を有する。
【0015】
表1:
【表1】

【0016】
本発明はさらに、野生型よりも向上した基質特異性を示すsPQQGDHを生産および同定する方法を提供する。本発明による方法は、局所的ランダム突然変異誘発によって、3、4、5またはそれ以上の挿入されたアミノ酸をsPQQGDH 配列の所望の部位に有する多様な変異体の作成を可能とする。作成された酵素は基質特異性についてスクリーニングされ、最良の変異体が選択される。
【0017】
本発明による方法は、所望の挿入部位の前および後の好適な配列領域が欠失され、このベクターに特有の(unique)制限部位によって交換されているベクターが第1工程において生産されることを特徴とする。第2工程において、この制限酵素によって開裂されたベクター DNAへ、PCR 増幅によって生産され、該ベクターにおいて欠失された配列に加えて所望の挿入を含む、二本鎖オリゴヌクレオチド配列が挿入され、その結果、そのアミノ酸配列に関して、該所望の部位での3つ以上のアミノ酸の挿入以外はさらに変化を含まない遺伝子産物が得られる。合成オリゴヌクレオチドからPCRにより生産された挿入すべき二本鎖断片は、基質特異性を変化させるために3つ以上のさらなるランダム化されたコドンを含むが、ベクターにおいて欠失されたコドンも含む。この目的のために選択されるコドンは特に大腸菌において良好に発現可能なものである(well expressible E.coli)。挿入領域の他は、ヌクレオチド配列はそれゆえ、 KOZ65からのsPQQGDH 遺伝子ものもとは異なるが、アミノ酸配列はそうではない。
【0018】
3つの追加のアミノ酸の挿入により、8000の酵素変異体が想定される;4つの追加のアミノ酸によると、数は160,000となり;5つの追加のアミノ酸によると、320万の変異体が存在する。突然変異誘発(mutagenic)オリゴヌクレオチドの合成はそれゆえ、完全にランダム化された配列に加えて、いくらかまたはすべての位置において、挿入すべきアミノ酸のそれぞれについての縮重コドンを含むような配列も利用できる。これは、可能な総数を減らすため、停止コドンを避けるため、または、特定の位置に個々のアミノ酸を向けるために利用されうる。
【0019】
本発明による方法の第3工程において、上記のようにして生産された組換えベクターが好適な宿主細菌へと形質転換され、宿主細菌が好適な増殖培地において増殖させられる。微生物からの遺伝子のクローニングおよび別の宿主でのその発現の手順および、核酸を単離し、変化させる技術は当業者に公知である(例えば、Molecular Cloning - A Laboratory Manual; Vol. 1; Sambrook、J. and Russel、D.W.; 3rd edition、CSHL Press 2001参照)。微生物の培養およびそれからの組換え酵素の精製も従来技術において公知である (前掲参照; Vol. 3)。
【0020】
本発明による方法の第4工程において、細菌のコロニーがその様々な糖に対する活性について試験され、最良のものが同定される。本発明によると、個々の糖に対する活性に関してのみならず、様々な糖の干渉に関しても試験がなされる。
【0021】
活性は、比活性、即ち、単位時間あたりに規定量の酵素によって変換される変換速度として測定され得る。グルコース-酸化酵素の場合、比活性(U/mg)は通常、所定の反応条件下で1分あたり1ミリグラムの酵素によって酸化されるグルコースのマイクロモルにおける量をいう。グルコースは通常、反応速度に対するグルコース濃度の影響を排除するために酵素に対して過剰に存在する。変換速度は、試薬の分解または生成物の形成を経時的に追跡することによって確定される。経時的な追跡は、例えば、光度的に(photometrically)行うことができる。反応速度および変換速度を確定するために、物理化学のテキストを参照することができる (例えば、Peter Atkins、Physical Chemistry、W. H. Freeman & Co; 7th edition、2002)。
【0022】
最初に、個々のコロニーを分離し、グルコースを基質とする酵素試験 (比活性の確定)および第二の糖、例えばマルトースを基質とする第二の酵素試験を行う。グルコースに対して最高の活性を有すると同時に、第二の糖(例えば、マルトース)に対して最低の活性を有するコロニーの場合、グルコースおよび第二の糖(例えば、マルトース)の混合物に対する活性も測定する。これは、唯一の基質としてのマルトースに対する非常に低い相対的反応性を有するいくつかの変異体の研究において、特に、驚くべきことに、ある変異体のこの特性は常に独立の性質、即ち、グルコースとマルトースとの両方の糖が混合物として存在する場合に、グルコースとマルトースの信頼可能な識別、を伴うわけではないということが判明したためであるである。これにより、この混合物中に存在するグルコース濃度の過剰評価および過小評価が導かれうる。サンプルにおけるグルコース濃度を測定するために用いられる酵素の探索において、グルコースとその他の糖との混合物に対する高いグルコース特異性、言い換えると、問題の糖の非常に小さい干渉がそれゆえ決定的に重要である。糖の干渉は、グルコースおよび干渉性の糖の混合物について測定される酵素活性から、同じ濃度のグルコースのみに対して測定される活性を差し引き、このグルコース活性に対して正規化することによって算出される(式1参照)。
【数1】

【0023】
式 1において、Iは、別の糖によるグルコースの干渉であり、V参照 は、グルコースが観察される酵素によって分解される速度であり、V混合物 は、グルコースが他の糖との混合物において分解される速度である。速度は、例えば、光度的に測定することができる(この目的のために、実施例3、4、7、および9参照)。
【0024】
この関係での正の値は、混合物に対する酵素活性がグルコースのみよりも高いこと、即ち、両方の糖が明らかに酸化されることを意味する。負の値は、干渉性の(interfering)糖も酸化されるが、グルコースについての酵素の活性がその結果として低下する効果であると解釈することができる。両方の効果は、グルコースを特異的に定量するために用いられる酵素にとっては望ましくない。
【0025】
本発明による方法は、基質特異性が元の形態の酵素と比較して変化しているsPQQGDHの変異体の生産および同定を可能とする。本発明による方法は、基質特異性の代わりにまたはそれに加えて、その他の生化学的特性、例えば、熱安定性が試験され、したがって、その他の生化学的特性に関して元の形態と比べて改良された変異体が同定されるという効果に改変および/または拡張することもできる。本発明による方法はそれゆえ、特に有利な特性を有するsPQQGDHの変異体を選択することを可能とする。
【0026】
本発明はまた、本発明によるsPQQGDHをコードする遺伝子およびかかる遺伝子を生じさせるためのベクターも提供する。
【0027】
本発明はさらに、グルコースを測定するための、本発明によるsPQQGDHを含むグルコースセンサーを提供する。グルコースデヒドロゲナーゼに基づくグルコースセンサーの設計および作動様式は従来技術により当業者に公知である(例えば、EP1146332 A1参照)。それにより、かかるグルコースセンサーは、単離用プレート上の作用電極、対電極および参照電極からなり、グルコースデヒドロゲナーゼおよび電子受容体を電極系と接触して含む酵素反応層を支持する電極系を含む。
【0028】
好適な作用電極としては、炭素、金、白金およびその上に本発明による酵素が以下の手段により固定化される類似の電極が挙げられる:架橋剤:ポリマーマトリックス中への包埋、透析膜による包み込み、光架橋可能ポリマー、導電性ポリマー、または酸化還元ポリマーの使用、酵素のポリマー中への固定化またはフェロセンまたはその誘導体を含む電子媒介物質による電極上への吸着またはそれらの任意の組合せ。本発明によるsPQQGDHは好ましくは電極上にホロ酵素の形態で固定化されるが、アポ酵素として固定化し、PQQが別の層としてまたは溶液中で提供されるものでもよい。本発明によるsPQQGDHは通常、グルタルアルデヒドにより炭素電極上に固定化され、次いでグルタルアルデヒドをブロックするためにアミン含有試薬により処理される。白金電極を、例えば、対電極として用いることができ、Ag/AgCl 電極を、例えば、参照電極として用いることができる。
【0029】
グルコース量は以下のようにして測定することができる: PQQ、CaCl2、および媒介物質(mediator)をバッファーを含むサーモスタットセルに添加し、一定温度で放置する。好適な媒介物質としては、例えば、フェリシアン化カリウムおよびフェナジンメタサルフェート(phenazine methasulfate)が挙げられる。本発明によるsPQQGDHがその上に固定化された電極が作用電極として対電極 (例えば、白金電極)および参照電極 (例えば、Ag/AgCl 電極)と組み合わせて用いられる。定電圧を印加して作用電極に定常電流を作った後、グルコース-含有サンプルを添加して電流強度における上昇が測定される。サンプルのグルコース量は、標準濃度にてグルコース溶液を用いて作られた較正曲線から読み取ることができる。
【0030】
本発明を実施例によって以下により詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図 1は、合成DNA断片の挿入のためのベクターの生産を示す。KOZ65からのsPQQGDH 遺伝子からの2つの断片 (PCR 1、PCR 2)を作るためのプライマーの位置および方向(1bにおける太い黒色矢印) (1a)および追加のアミノ酸が後で追加される部位 (1aおよび1bにおける「IP」)が示される。図1cは、XbaI およびEcoO109Iにより切断され、クリーンアップされたコード配列の上流部からのアンプリコン、EcoO109IおよびBfuAIにより切断され、クリーンアップされたコード配列の中央部からのアンプリコン、および、元のベクター pAI3B-KOZ65 (1-1)からのXbaIおよびBfuAIにより切断され、クリーンアップされた3567 bp長のベクター断片からの、ベクター pAI3B-KOZ65-U (1-2)のアセンブリーを模式的に示す。完成したベクター pAI3B-KOZ65-U (1-2)を図 1eに示す。図1dから、挿入が起こらない場合、EcoO109I 制限部位の4アミノ酸残基後で、pAI3B-KOZ65-UにおけるsPQQGDHの翻訳が終止することが理解できる。
【図2】図2は、文字にて記載するオリゴヌクレオチドからのDNA の合成、二本鎖片(piece) (図において矢印として示す;矢印の頭は各場合において配列の3’末端を示す)の生産を示す。下側部分において、オリゴヌクレオチド、EarV2-RandomおよびEarV2-Lowerが示される。第1工程において、62 bp長の一次産物がこれらのオーバーラップする一本鎖から作られる。第2工程においてオリゴヌクレオチド、 EarV2-UpAmpおよびEarV2-LoAmpの助けにより、97 bp長のPCR産物がそれから作られ、そのDNA 配列は上側部分に示される。それによってコードされるタンパク質配列が図 2の一番下にみられる。DNA配列において、両方の EarI 制限部位の位置が示される。PCR産物からEarIによって遊離する64 bp長の断片が、EcoO109Iにより開裂したベクター中にライゲーションされる。
【図3】図3は、2つのマイクロタイタープレート(aおよびb)の例を用いた、変異体 sPQQGDH クローンのライブラリーのスクリーニングからのデータの要約を示す。横座標 (X-軸)は、MTPの各コロニーについて、グルコースがこのコロニーによって変換されるおよその速度を任意相対単位において与える。縦座標(Y-軸)上に、マルトース変換およびグルコース変換の商をプロットする。これにより、コロニーがグルコースを変換することができるか、できる場合、コロニーが野生型 KOZ65よりも良好にグルコースとマルトースとを識別することが可能かを各コロニーについて評価することが可能となる。各コロニーを記号で表すために、それぞれのマイクロタイタープレート上でのその位置、A1−H12を用いた。陽性対照であるKOZ65を矢印により示す。
【図4】図4は、実施例 3に記載のスクリーニングから選択されたコロニーの結果を示す。3つのパラメーターが考慮される:この図には示さないが、グルコースに対する変換速度は、可能な限り高いべきである;横座標 (X-軸)上にプロットされる干渉(ここでは、マルトースが干渉性の糖である)は縦座標(Y-軸)上にプロットされるマルトース変換のグルコース変換に対する比と同様に、可能な限り0に近づくべきである。比較のために、図3および4における多数のクローンは同じようにして印にて示す。
【図5】図5は、様々なクローンの、マルトース (a)、ガラクトース (b)、およびキシロース (c)による干渉研究を示す。グルコースと3つのその他の糖の混合物に対する挙動を、5つのクリーンアップされた変異体 sPQQGDH調製物について示す。縦座標(Y-軸)にプロットされるのは、さらなる糖を含まない出発測定溶液、およびそれぞれの干渉性の糖の 50、100、150、200、または250 mg/dL (X-軸)を有する溶液における100 mg/dL グルコースの混合物について確認された干渉である。各測定点は四連にて測定した。
【図6】図6は、様々な糖に対するKOZ65 (左側)およびクローン 5152-20-A7 (右側)についての干渉研究を示す。セロビオース (a)、ガラクトース (b)、ラクトース (c)、マルトース (d)、マンノース (e)、およびキシロース (f)について、縦座標 (Y-軸)上に、様々な濃度にてどの程度強くこれらの糖が100 mg/dL グルコース (X-軸上は阻害濃度 [mg/dL])の存在下でKOZ65 または 5152-20-A7からのsPQQGDHの活性に影響を及ぼすかがプロットされる。干渉性の糖についての各測定シリーズはこの糖を有さない測定も含み、そしてこの測定は、シリーズのその他のすべての測定と同様に、干渉性の糖を有さないすべての測定から平均したグルコース値に基づくものとした。酵素試験での測定の不正確性により、個々のグラフは、理論的には0から始まるはずであるが必ずしも0から開始しない。
【実施例】
【0032】
以下の実施例において言及する化学物質は、例えばSigma-Aldrichから市販されており、それぞれの場合について特定する会社から市販されている。
【0033】
実施例 1: Q168とL169との間の追加のアミノ酸の挿入のためのベクターの生産
本発明による変異体を生産するために、sPQQGDHについての遺伝子は発現プラスミドにおいて利用可能にしなければならず、該発現プラスミドは微生物において増殖させることができるものであって、sPQQGDHの発現を誘導し、所望の突然変異の実施に用いることができるものである。この目的のために利用可能な多様なプラスミドおよび微生物が当業者に公知である。本実施例およびすべてのさらなる実施例において、市販のベクター pASK-IBA3 (IBA GmbH、Goettingen)に基づくコンストラクトを用いた。株、アシネトバクター種(sp.)KOZ65からのsPQQGDH 遺伝子をpASK-IBA3へと以下のようにしてクローニングした。1.46 kb長のDNA断片をアシネトバクター種(sp.) KOZ65のゲノム DNAから2つのオリゴヌクレオチド、GDH-U3 (5’-TGGTAGGTCTCAAATGAATAAACATTTATTGGC TAAAATTAC-3’; 配列番号19) および GDH-L5 (5’-TTCAGCTCTGAGCTTTATATGTAAATCTAATC-3’; 配列番号20)を用いて、製造業者の指示にしたがってPCR反応 (Phusion DNA Polymerase、Finnzymes Oy)によって作成した。断片をクリーンアップし(cleaned up)、次いで制限酵素 BsaIとともにインキュベートした。ベクター pASK-IBA3を制限酵素 HindIIIにより開裂した。制限酵素を熱処理によって変性させ、結果として得られたDNA オーバーハングをdATP、dCTP、dGTP、およびdTTPの存在下でT4 DNA ポリメラーゼを用いて埋めて平滑化した(filled)。DNAを次いでクリーンアップし、制限酵素 BsaIとともにインキュベートした。こうして遊離した 114 bp長断片を棄てた; KOZ65からの sPQQGDH 遺伝子を有するPCR アンプリコンを3.1 kb長ベクター断片へとライゲーションした。ライゲーション産物を大腸菌株 DH5αのコンピテントセルへと形質転換した。このようにして生成したベクター pAI3B-KOZ65は、型KOZ65のsPQQGDHの誘導性発現に好適である。ベクター pAI3B-KOZ65のヌクレオチド配列を配列番号21に報告し;それによってコードされるsPQQGDHのアミノ酸配列を配列番号22に報告する。
【0034】
Q168とL169との間に3つ以上のアミノ酸を挿入することを可能にするために、ベクター pAI3B-KOZ65-Uを最初に生成した。この目的のために、ベクター pAI3B-KOZ65のプラスミド DNAを、プライマー、IBA-For (5’-TAGAGTTATTTTACCACTCCCT-3’; 配列番号23) およびEco109-Up (5’-GGTTAGGTCCCTGATCACCAATCG-3’; 配列番号24)を用いるPCR 増幅 Aならびにプライマー、BfuA-US1 (5’-CACAGGTACACCTGCCGCCACT-3’; 配列番号25)およびEco109-Down (5’-TACGAGGACCCAACAGGAACTGAGC-3’; 配列番号26)を用いるPCR 増幅 Bのためのテンプレートとして用いた。Aの結果得られたアンプリコンをクリーンアップし、制限酵素、XbaIおよびEcoO109Iにより切断した。結果として得られた588 塩基対(bp)長の断片を単離した。Bの結果得られたアンプリコンをクリーンアップし、制限酵素、BfuAIおよびEcoO109Iにより切断した。結果として得られた353 bp長断片も単離した。ベクター pAI3B-KOZ65を制限酵素、BfuAIおよびXbaIにより切断した。結果として得られた3567 bp長断片をアガロースゲルで単離した。New England Biolabs GmbH (Frankfurt)、Invitrogen (Karlsruhe)、Qiagen (Hilden)、およびRoche Diagnostics (Mannheim)からのキットおよび試薬を、示された工程のために製造業者の指示にしたがって用いた。さらなる手順はSambrook and Russell (Molecular Cloning - A Laboratory Manual; Sambrook、J. and Russel、D.W.; 3rd edition、CSHL Press 2001)による手順の収集から得た。
【0035】
3つの断片を次いでライゲーションし、化学的形質転換により大腸菌-DH5αへと移した。プラスミド DNAを12のコロニーから調製し、次いで適当な制限酵素消化によりチェックし、所望のプラスミドが得られたか否かを判定したところ、9の分離株において得られていた。これらクローンのうち4つの配列決定により、すべての場合において、図 1eに示すもの以外のさらなる変化は起こっていないことが確認された。
【0036】
ベクター pAI3B-KOZ65-U (配列番号27)は1つのみのユニークなEcoO109I 制限部位 (RG’GNCCY)を含む。EcoO109Iは3 bp長5’ オーバーハングを生じ、このなかの中央のヌクレオチドはいずれのヌクレオチドであってもよい; pAI3B-KOZ65-Uの場合、それはコード鎖上のAである。アミノ酸R166 からP182をコードするDNAおよびさらなるヌクレオチドがpAI3B-KOZ65-Uにおいて欠失されており、それによって読み枠にシフトが生じる。この遺伝子を発現させる試みはそれゆえ、機能を有さない短くされたポリペプチドを導く (配列番号28)。このベクターは合成、二本鎖 DNA 断片の組込みに好適であり、それによって実施例 2により詳細に記載するように、位置Q168 とL169との間に挿入を有する機能的なsPQQGDH 遺伝子が復活する。
【0037】
実施例 2 -sPQQGDH 挿入突然変異体の生産
位置Q168とL169との間に4つの追加のアミノ酸を有する挿入突然変異体を生産するために、4つの合成オリゴヌクレオチドを用いた: EarV2-Random (5’-CGACGTAACCAGNNKNNKNNKNNKCTGGCTTACCTG-3’; 配列番号29)、EarV2-Lower (5’-GTGTGCTGTGCCTGGTTCGGCAGGAACAGGTAAGCCAG-3’; 配列番号 30)、EarV2-UpAmp (5’-CCTACCTACGACTCTTCCGACGTAACCAG-3’; 配列番号 31)、およびEarV2-LoAmp (5’-CCATGCTCTTCAGTCGGAGTGTGCTGTGCC-3’; 配列番号 32)。図2において、これらオリゴヌクレオチドから二本鎖挿入断片を生産する戦略を模式的に図示する。4つの挿入すべきアミノ酸の配列はこの場合、ランダム化されている: NNK NNK NNK NNK。Nは、それぞれの位置のオリゴヌクレオチドの合成における4つのすべてのヌクレオチド(dATP (A)、dCTP (C)、dGTP (G)、dTTP (T)) の混合物であり、一方、Kは、GまたはTである。配列 NNKはすべての20のアミノ酸についてのコドンを有することを可能にするが、3つの終止コドンの1つのみのコドンを有することを可能にするものであるため、不完全な遺伝子産物の可能性を低下させる。個々の位置におけるヌクレオチドの別の組合せは自由に選択可能であり、例えばその目的としては、あるコドン位置において可能なアミノ酸を制限することが挙げられる。オリゴヌクレオチド EarV2-Randomは、R166から L172をコードする配列を含み;オリゴヌクレオチド EarV2-Lowerは、L169 からL172の領域においてオーバーラップし、T181まで達する相補鎖を表す。オリゴヌクレオチド EarV2-UpAmpは3’末端にてオリゴヌクレオチド EarV2-Randomの5’末端と12 bpオーバーラップし、オリゴヌクレオチド EarV2-LoAmpは同様に3’末端にてオリゴヌクレオチド EarV2-Lowerの5’末端と12 bpオーバーラップする。最後に言及した2つのオリゴヌクレオチドはそれぞれEarI 制限部位 (CTCTTCN’NNN)を含む。
【0038】
第一に、オリゴヌクレオチド、EarV2-RandomおよびEarV2-Lowerを、10 mM Tris・HCl、pH 7.9、25℃、10 mM MgCl2、50 mM NaCl、1 mM ジチオトレイトール (バッファー NEB2)の存在下でPCR機器(GeneAmp 9600、Perkin-Elmer)中で90℃まで加熱し、5分間かけて10℃まで冷却した。結果として形成された部分的に二本鎖のDNA片を、4つのすべてのDNA ヌクレオチドおよび大腸菌由来DNA ポリメラーゼのKlenow 断片の添加の後、室温で15分間インキュベーションすることによって合成して二本鎖を完成させた。その後、反応混合物をオリゴヌクレオチド、EarV2-UpAmpおよびEarV2-LoAmpを用いるPCR反応に供し、得られた二本鎖を増幅した。増幅用のオリゴヌクレオチド、EarV2-UpAmp およびEarV2-LoAmpと、新たに形成された二本鎖とのオーバーラッピングが各場合において12 bpのみであるため、最初の2つの増幅サイクルはPCRキットの熱安定性ポリメラーゼを用いては行わず、 大腸菌由来DNA ポリメラーゼのKlenow 断片を用いて行い、プライマーとして用いたオリゴヌクレオチド、EarV2-UpAmpおよび EarV2-LoAmpの結合を達成した。この目的のために、出発反応を94℃で1分間とし、次いで氷上に置いた。次いで、1μLのDNA ポリメラーゼ (Klenow 断片)を添加し、3分間18℃、および1分間25℃でインキュベートした。その後、出発反応を再び1分間94℃とし、次いで氷上に置き; 1μLのDNA ポリメラーゼ (Klenow 断片)を添加し、3分間18℃、および1分間25℃でインキュベートした。その後初めて以下の増幅プログラムをPCR機器中で行った(20サイクル): 1分間94℃、1分間52℃、1分間72℃。
【0039】
PCR 増幅の後、反応をカラムクロマトグラフィー (PCR Purification Kit、Qiagen)によりクリーンアップし、EarIにより切断した。反応混合物を次いでアガロースゲル(4%アガロース)で分離し、所望の64 bp 断片 (配列番号 33)をゲルから単離してクリーンアップした。
【0040】
実施例 1に記載のベクター pAI3B-KOZ65-UをEcoO109Iにより切断し、次いで製造業者(New England Biolabs)の指示にしたがってアルカリホスファターゼにより脱リン酸化して、ベクターの再環状化を阻止した。64 bp 断片および脱リン酸化したEcoO109Iにより線状化したベクターを次いで5対1の比にて一晩16℃でライゲーションした。EcoO109I および EarIにより形成された5’ オーバーハングは、64 bp 断片がベクターに対して所望の方向にてベクターへとライゲーションできるが、逆の方向ではできないという意味で適合性である。正しくない方向の挿入を有するライゲーション産物はこうして排除されるが、各場合において正しい方向を有する多量体の形成は排除されない。かかる遺伝子は、しかし、読み枠においてシフトが生じることから機能的なsPQQGDH タンパク質の発現を導かない。結果として得られたライゲーション産物を大腸菌-DH5αへと形質転換した。最初の形質転換混合物から、1/25、4/25、および20/25をそれぞれ20 cm x 20 cm 寒天プレートに播き、少なくとも1回の希釈で、プレートあたり約1000-5000 コロニーのコロニー密度が達成されるようにした。
【0041】
本実施例は、そのクローンがそれぞれの場合、4つの追加のアミノ酸を有するsPQQGDH 変異体を発現するライブラリーの生産を概略する。その他の長さの挿入を有するライブラリーの生産を同様にして実施した。
【0042】
実施例 3-変異体ライブラリーのスクリーニング
実施例 2に記載の方法に従って生産したライブラリーから好適な変異体を選択するために、2200のコロニーを全部で約4000のコロニーを有する2枚の寒天プレートから自動コロニーピッカー QPix (Genetix)によりピックアップし、各場合において、ウェルあたりアンピシリンを100 μg/mL含む200μLの LB 培地を有するマイクロタイタープレート (MTP)に移した。4つのMTP上の全部で8つのウェルにさらに元の株である大腸菌-DH5α::pAI3B-KOZ65の培養物を接種した。MTPをガス透過性フィルム (Airpore Sheets、Qiagen)で密封し、5 時間37℃で振盪した。次いで、50 μLの各個々の培養液を150 μL のアンピシリンを含むLB 培地が存在するMTP中の新しいウェルに移した。この目的のために、96のピペッティング操作を並行して実行するピペッティングロボットを利用した。この培地にはさらに200 ng/mL のアンヒドロテトラサイクリンを加えてsPQQGDH 遺伝子の発現を誘導した。これらの MTPは28℃で一晩振盪した。
【0043】
多数のコロニーの酵素活性の評価を可能にするために、細胞の破壊が必要でない試験を利用した: PQQの添加による酵素の活性化の後に、糖の酸化を、還元の際にジクロロフェノールインドフェノール (DCPIP)が脱色されるため直接追跡することができる。スクリーニングのために、40 μLの各ウェルからの誘導された培地を60 μLのグルコース試験溶液と混合し、さらに40 μLを60 μLのマルトース試験溶液と混合し、いずれの1つのMTPもグルコース試験溶液のみまたはマルトース試験溶液のみのいずれかを含むものであった。ピペッティングロボットはこのためにも用いた。このようにして、すべての培養および測定プレート上の永続的に変化しない位置に各個々の培養を割り当てることが可能であった。グルコース試験溶液は以下の成分を含むものであった (括弧内:出発測定溶液中の終濃度): 50 mM グルコース (30 mM)、750 μM DCPIP (450 μM)、1.5 μM PQQ (0.9 μM)、1 mM CaCl2 (0.6 mM)、0.1% NaN3 (0.06%)、シリコーン消泡剤 (Fluka # 85390)、62.5 ppm (37.5 ppm)、50 mM トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンヒドロクロリド(Tris・HCl)、pH 7.6 (30 mM)。マルトース試験溶液の場合は、グルコースは存在しないが、マルトースが同濃度にて存在した。
【0044】
培養液を有する各MTPについて、2つの測定プレートをこのようにして作り、一方はグルコースのためのものであり、他方はマルトースのためのものであった。各測定プレートについて、光学密度を培養液と試験溶液との混合の後様々な時点: 1 分後、7 分後、12 分後、および18 分後、にて605 nmの波長にて測定した(Eppendorf-Biophotometer)。このようにして、それぞれの最初に単離したコロニーについて基質としてグルコースについての酵素反応速度論および基質としてマルトースについての酵素反応速度論を記録することが可能であった。これから、基質としてグルコースを用いるクローンの互いの相対活性および各個々のクローンについてのグルコースおよびマルトースに対する活性の比の両方を確認することが可能であった。図3は、位置Q168とL169との間に5つの追加のアミノ酸を有するライブラリーのスクリーニングからのMTP 13および 22についてのかかる測定の結果を示す。試験したコロニーの約3分の2が50未満の相対ユニットのグルコース変換を有し、試験の読取確度(readout accuracy)未満にあることが明らかである。これらのコロニーにおいて、sPQQGDHの有意な発現は検出不可能であり、これは、培養物の成育が低すぎること、sPQQGDH 遺伝子の誘導が不良なこと、効果のない二重(double)挿入、または、タンパク質の酵素活性をもはや形成させないアミノ酸の組合せの挿入に起因しうる。残っているコロニーのなかで、圧倒的な割合が、グルコースと比較してマルトースに対してより低い活性を示す。図 3に示すように一次スクリーニングの結果は、元のクローンの大腸菌-DH5α::pAI3B-KOZ65と比較して多くの変異体の同様に高い変換速度を示す。相対活性はしかし、常に確認しなければならない。というのはこの試験は非常に多数の個々の測定のために設計されており、特定の変換速度を超えると識別できないからである。変異体からのsPQQGDHは一般にKOZ65からのsPQQGDHと比較して示されたスクリーニングから予測されるよりもより低い変換速度を有する。
【0045】
実施例 4 - 個々のコロニーの精密スクリーニング
実施例 3に記載のスクリーニングを用いて188のコロニーが選択され、これらはグルコースに対する活性およびグルコースまたはマルトースに対する活性の比の両方が特に有望であるようであり、これらコロニーを2つの新しいMTP上に元の株 大腸菌-DH5α::pAI3B-KOZ65の培養液とともに編成し、まず37℃で培養し、次いで実施例 3に記載のように28℃で一晩誘導をかけた。誘導のために、2つのプレートを各MTPから設定してスクリーニング実験のために十分な培養溶液を得た。誘導の後、並行して培養された、それぞれ約200 μLの培養液を一緒にして混合した。これらの誘導をかけた培養液のそれぞれから、40 μLを各場合において測定プレートに移し、測定プレートには実施例 3に記載のように60 μL の試験溶液が各場合において存在したが、以下の糖を有するものであった: G - 50 mM グルコース、M - 50 mM マルトース、GM - 50 mM グルコースおよび50 mM マルトース、GGal -50 mM グルコースおよび50 mM ガラクトース、またはGXyl - 50 mM グルコースおよび50 mM キシロース。これらのプレートを培養液と測定溶液の混合の直後に30 分かけて30秒の間隔で測定し、各個々の培養液の反応速度論を得た。このようにして得たデータから、グルコースおよびマルトース単独に対する変換速度、グルコースおよびマルトースに対する活性の比、そして特に、グルコースの変換に対するマルトース、ガラクトース、およびキシロースの影響 (干渉)を各培養液について評価することができる。図 4において、実施例 3に記載のスクリーニングについて選択されたコロニーの追跡調査(二次スクリーニング) の結果を示す。
【0046】
最初のスクリーニングのMTP 13の2つのコロニー(13-G3および13-B2;それぞれ図 3および4において長方形にて印をつけている)は例示的に、マルトース活性とグルコース活性との有望な比を有するコロニー(図 3)が、強度に偏位している干渉挙動を示しうることを示す: 13-G3はマルトースによる負の干渉を受け; 13-B2は正の干渉を受ける。
【0047】
合計で28のコロニーを記載した両方のスクリーニングに基づきさらなる調査のために選択した。
【0048】
実施例 5 -変異体形態のsPQQGDHを発現する株の培養
まず、前培養液(preculture)を、各場合において3つの追加のアミノ酸を位置Q168とL169との間に有するライブラリーの4つの選択されたコロニーのそれぞれから以下のようにして産生した: 2 mLのTB 培地 (100μg/mL アンピシリンを含む)に確認すべきコロニーを接種し、一晩37℃で225 rpmにて振盪した。主培養液(main culture)について、50 mLのTB 培地 (100 μg/mL アンピシリン)に完全に成育した前培養液を接種した。培養液を37℃で225 rpmにて605 nmでの光学密度(OD605)が約1に達するまで振盪した。次いで、酵素の発現をアンヒドロテトラサイクリン (AHT) ストック溶液の添加により誘導した。この目的のために、誘導物質をDMFに溶解した。培養液中のAHTの終濃度は0.2 μg/mLであり;誘導は24時間27℃で225 rpmにて行った。
【0049】
細胞を主培養液を3220 x gにて15 分間4℃にて遠心分離することにより収集した。ペレットとなった細胞を量に応じて、10-20 mLの50 mM 3-モルホリノプロパン-1-スルホン酸バッファー (MOPS)、pH 7.6、および2.5 mM CaCl2 に再懸濁し、細胞懸濁液の明らかな透明化が観察できるまで超音波処理にて可溶化した。細胞残屑および存在するインクルージョンボディーを48,745 x gにて10 分間4℃での遠心分離により沈殿させた。
【0050】
実施例 6 -sPQQGDH 変異体のクリーンアップ
実施例 5からの上清をカラムバッファー (10 mM MOPS、pH 7.6 + 2.5 mM CaCl2) で1:5から10または50 mLに希釈し、陽イオン交換体 (Toyopearl CM-650M、TOSOH BIOSEP GmbH)でのクロマトグラフィーにより分離した。この目的のために、約16 mLの カラム床を有する10 x 1.42 cmのカラムを用いる;流速は4 mL/分とした。カラムを10 カラム容積のバッファーにより平衡化した; その後、サンプルをアプライした。カラムを4 カラム容積のバッファーにより洗浄した;次いで、sPQQGDHをカラムバッファー中0から0.4 M NaClの線形塩グラジエントによって溶出させ、溶出液を1または3 mLのフラクションに回収した。sPQQGDHは実質的に均一なタンパク質としてこれら条件で溶出したので、さらなるクリーンアップは不要であった。タンパク質を測定するために、溶液のOD280 を測定した。KOZ65からのクリーンアップしたsPQQGDH タンパク質により、1 mg/mL sPQQGDH 溶液のOD280 (PQQ-不含有アポ酵素)は1.27であることが重量分析により以前に確立されていた。
【0051】
実施例 7 - sPQQGDH 変異体の酵素活性の確認
酵素活性を正確に測定するために、以下の試験を用いた。調査すべき酵素溶液について各場合において以下のバッファー中の希釈系列を作った: 50 mM 1,4-ピペラジンジエタンスルホン酸 (PIPES)、pH 6.5、0.1% Triton X-100、1 mM CaCl2、0.1% ウシ血清アルブミン (BSA)、および3 μM PQQ。基質として作用する糖、電子媒介物質である N-メチルフェナゾニウムメタスルフェート(PMS)、および検出試薬であるニトロブルーテトラゾリウムクロリド(NBT)を別々に調製した:二回蒸留水中の50 mM PIPES、pH 6.5、および 2% Triton X-100の11.7 mL の溶液を450 μLの0.9 M D-グルコース、450 μLの6 mM PMS、および450 μL の6.6 mM NBT (すべての物質は二回蒸留水に溶解されている)と混合し、暗所で25℃で維持し、1時間以内に使用した。グルコース以外の糖に対する酵素活性を測定する場合は、グルコースのかわりにそれらの糖を濃度0.9 Mにて用いる。測定溶液中の個々の反応物の終濃度は以下の通りであった: 30 mM 糖基質、200 μM PMS、および220 μM NBT。あらかじめ温めておいた試験溶液 (725 μL)をキュベット中で25 μLの希釈酵素溶液と混合し、ホルマザンの発色(development)を570 nmにて25℃で3 分間追跡した。1 μmolのグルコースの変換の結果、0.5 μmolのホルマザンが生じ、そのモル吸光係数ε = 40,200 M-1cm-1である。したがって、サンプル中の酵素濃度は以下の関係によって確認することができる: 1 U/mLのsPQQGDH はOD570の1.493 min-1の変化に対応する。0.05 U/mLを下回るかまたは0.7 U/mLを上回る測定値は棄却しなければならないことが判明したため、個々のサンプルの希釈系列は必要である。というのは、測定の十分な線形性はこの範囲を超えると確証されないからである。次いで元のサンプルの濃度を用いた希釈レベルを考慮して算出した。結果を以下の表2に示す。
表2:
【表2】

【0052】
実施例 8 -挿入配列の決定
目的の変異体における位置Q168とL169との間に挿入された実際のアミノ酸を確認するために、プラスミド DNAを目的の株から QiaPrep プラスミド単離キット(Qiagen、Hilden)を用いて製造業者の指示に従って調製し、挿入部位のDNA 配列をオリゴヌクレオチド、4472-US1 (5’-CACCGTTAAAGCTTGGATTATC-3’; 配列番号 34)および4831-DS1 (5’-CCTTCATCGAAAGACCATCAG-3’; 配列番号 35)をプライマーとして用いて両方向から確認した。4472-US1の配列の3’末端は挿入部位の58 bp上流に位置しており; 4831-DS1の配列の3’末端は挿入部位の82 bp下流に位置している。配列分析の結果を以下の表3に列挙する。
【0053】
表3:
【表3】

配向に関して、隣接アミノ酸、168Qおよび172L (以前は169L)およびそれらのコドンも示す。
【0054】
実施例 9 -グルコース以外の糖による干渉の確認
出発試験溶液における30 mM の基質濃度が通常、sPQQGDHの比活性の判定のために用いられるが、問題の糖のより低い濃度は干渉の確認のために適している;約1桁が以下の適用において起こりうる(as occurs in potential)。血中のグルコースの生理濃度は約100 mg/dLであり、約5.6 mMに相当する。この理由のため、以下に示す実験は100 mg/dLのグルコース 濃度および50から250 mg/dLの干渉性の糖を用いて行った。しかし場合によっては、両方の糖のその他の濃度および互いの比も調査した。
【0055】
図 5において、5つの異なる変異体の干渉測定の結果を示す。5381-06-C12、5381-05-C4、および5381-07-F10は位置 Q168と L169との間に4つの追加のアミノ酸を有するライブラリーに由来し; 5152-20-A7および5386-13-F10は、位置Q168とL169との間に5つの追加のアミノ酸を有するライブラリーに由来する。すべての場合において、試験した糖の最小限のみの影響が依然として検出可能である:マルトースの場合、すべてのクローンによる測定は250 mg/dL マルトースにおいてさえも (グルコースと比較して1.3-倍モル量) 8%を超えて影響を受けない。ガラクトースによると、干渉は最大16%であり、キシロースによると、それは最大で14%である。
【0056】
実施例 10 - KOZ65およびクローン 5152-20-A7による様々な糖の干渉の比較
KOZ65から挿入突然変異を有さないsPQQGDHとの直接比較を可能にするために、クローン 5152-20-A7からのクリーンアップした 変異体 sPQQGDHおよびKOZ65からのクリーンアップした酵素をグルコースおよび、糖、マルトース、ガラクトース、キシロース、ラクトース、セロビオース、またはマンノースの混合物に対して調査した。各測定点について、4連を記録した。図6は、KOZ65 からの元の酵素でのマルトース、セロビオース、およびラクトースによる強い干渉が変異体 5152-20-A7によって発現された酵素においては抑制されていることを示す。より具体的には、約等モル量のマルトースによる(100 mg/dL グルコース の200 mg/dL マルトースによる) 干渉がKOZ65での63%から 5152-20-A7での6%へと低下しており;ラクトースについては、干渉はもはや有意ではない。
【0057】
実施例 11 - 異なるライブラリーからの変異体の比較
向上した基質特異性を有するsPQQGDH 変異体の生産のための本発明による手順の一般妥当性を示すために、3、4および5つの追加のアミノ酸をKOZ65からの野生型 sPQQGDHの位置Q168とL169との間に有するライブラリーを設計し、以前の実施例に記載のようにして調査した。比較のために、位置Q168とL169との間に2つのみの追加のアミノ酸を有するライブラリーも設定し、調査した。しかし、基質特異性にわずかな向上を有する10のみのクローンがみられた(マルトースおよびグルコースに対する活性の比が25から75%)。1つのみのクローン (5156-13-G12;表4参照)が向上した基質特異性を有していたが、グルコースに対する比活性は低かった。しかし、以下の表4から明らかなように、3から5の追加のアミノ酸を有するすべてのライブラリーが、野生型よりも顕著に高い基質特異性を示すクローンを含んでいた。
【0058】
表4:
【表4−1】

【表4−2】

(n.d.:測定せず)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシネトバクター属の種からの野生型株の1つ、例えば、アシネトバクター・カルコアセチカス LMD 79.41、の可溶性ピロロキノリン-キノン-依存的グルコースデヒドロゲナーゼ (sPQQGDH)と比較して、基質結合領域の領域において3から5のアミノ酸の挿入を有することを特徴とするsPQQGDH。
【請求項2】
挿入部位が、基質結合領域から多くとも5 オングストロームの距離だけ離れている請求項1のsPQQGDH。
【請求項3】
挿入部位が野生型 アシネトバクター・カルコアセチカス LMD 79.41の配列に基づいて位置Q168とL169との間にある請求項1または2のいずれかのsPQQGDH。
【請求項4】
以下のシリーズの株から突然変異誘発によって生じたものである請求項1から 3のいずれかのsPQQGDH:PT16、KOZ62、KOZ65、PTN69、KG106、PTN26、PT15、KGN80、KG140、KGN34、KGN25、KGN100。
【請求項5】
3 アミノ酸の挿入を有する請求項1から 4のいずれかのsPQQGDHであって、挿入されたアミノ酸が位置 1にAまたはGを有し、位置 2にY、F、またはWを有し、かつ位置 3にQ、L、V、またはIを有するsPQQGDH。
【請求項6】
4 アミノ酸の挿入を有する請求項1から 4のいずれかのsPQQGDHであって、挿入されたアミノ酸が位置 1に AまたはGを有し、位置 2に G、D、またはLを有し、位置 3に RまたはAを有し、かつ、位置 4にMまたはVを有するsPQQGDH。
【請求項7】
5 アミノ酸の挿入を有する請求項1から 4のいずれかのsPQQGDHであって、挿入されたアミノ酸が位置 1に A、M、S、またはVを有し、位置 2に E、G、またはSを有し、位置 3に H、K、R、S、またはTを有し、位置 4にF、H、I、L、N、V、またはYを有し、かつ、位置 5にF、H、L、N、Q、T、またはYを有するsPQQGDH。
【請求項8】
配列番号1から配列番号18からの挿入配列を有する請求項1から 4のいずれかのsPQQGDH。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかのタンパク質の1つをコードする遺伝子。
【請求項10】
挿入部位の領域において、ユニークな制限酵素切断部位を有することにより、この部位に請求項1から 6のいずれかのsPQQGDHをコードするオリゴヌクレオチド配列が挿入可能となることを特徴とするベクター。
【請求項11】
配列番号27の配列を有する請求項10のベクター。
【請求項12】
請求項1から 8のいずれかのsPQQGDHを生産および同定する方法であって、第1工程において、挿入部位の領域においてユニークな制限酵素切断部位を有するベクターが作られ、第2工程において、多様な異なるオリゴヌクレオチド配列が該ベクターに挿入され、第3工程において、こうして得られた組換えベクターが宿主細菌へと形質転換され、そして細菌が増殖させられ、第4工程において細菌によって産生されたsPQQGDHが、少なくとも2つの異なる糖に対するsPQQGDH の個々の活性および少なくとも1つの糖の少なくとも1つの別の糖による干渉の両方が測定されるスクリーニングに供され、そして第5工程において、野生株の非修飾 sPQQGDHと比較して向上した基質特異性を有するsPQQGDHが選択されることを特徴とする、方法。
【請求項13】
請求項1から 8のいずれかのsPQQGDHを含むグルコースセンサー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5(a)】
image rotate

【図5(b)】
image rotate

【図5(c)】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2011−525361(P2011−525361A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515164(P2011−515164)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004350
【国際公開番号】WO2009/156083
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(504109610)バイエル・テクノロジー・サービシーズ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (75)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Technology Services GmbH
【Fターム(参考)】