説明

含フッ素アルキルスルホン化合物の製造方法、および電気化学デバイス用電解液

【課題】電気化学デバイス用電解液に好適に用いられる含フッ素アルキルスルホン化合物を高収率で製造する方法、および該化合物を含有する電気化学デバイス用電解液を提供する。
【解決手段】下式(1)で示される含フッ素アルキルスルフィド化合物を、タングステン酸塩触媒の存在下、酸化剤を用いて酸化する下式(2)で示される含フッ素アルキルスルホン化合物の製造方法。




(式中、Rは炭素数0〜3の直鎖状または分岐状のアルキレン基を示し、Rは炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルキル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池等の電気化学デバイス用電解液として有用な含フッ素アルキルスルホン化合物の製造方法、および該化合物を含有する電気化学デバイス用電解液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム電池や電気二重層キャパシタ等の電気化学デバイス用電解液の溶媒として、スルホランやプロピレンカーボネート等の非プロトン性極性溶媒が用いられている。非プロトン性極性溶媒としては、前記化合物の他にエステル化合物やアルキルスルホン化合物等が用いられている。
【0003】
前記非プロトン性極性溶媒のうち、アルキルスルホン化合物は、熱安定性に優れ、低融点、低粘度等の特徴を有していることから燃料電池等の電気化学デバイス用電解液の溶媒として好適に用いられている(特許文献1)。
【0004】
また、充放電効率および耐酸化性等の向上を目的として、含フッ素エステル化合物を含む電解液も開示されている(特許文献2)。さらに、電気伝導率の向上を目的として、含フッ素アルキルスルホン化合物を含む電解液も開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第10/143578号パンフレット
【特許文献2】特開平06-020719号公報
【特許文献3】国際公開第99/019932号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2には、フッ素原子を導入した含フッ素エステル化合物を含む電解液を用いることにより、充放電効率等の電気特性が向上することが報告されている。しかしながら、特許文献2に開示されている含フッ素エステル化合物は、酸化電位を高くする効果はあるものの、同時に還元電位も高くなってしまい、負極側での溶媒の還元分解が起こりやすくなるため、改善の余地があった。また、特許文献3には、特許文献1等で開示されているアルキルスルホン化合物にフッ素原子を導入することで電気伝導率が向上するとの報告がある。しかしながら、前記含フッ素アルキルスルホン化合物は、製造するにあたり収率が65%程度と低い。更に、毒性および発癌性等が問題であるジメチル硫酸を用いることもあり、工業的に実施する上で有利な方法とは言えない。
【0007】
本発明は、特に電気化学デバイス用電解液に好適に用いられる含フッ素アルキルスルホン化合物を高収率で製造する方法、および該化合物を含有する電気化学デバイス用電解液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下に示すとおり含フッ素アルキルスルホン化合物の製造方法、および該化合物を含有する電気化学デバイス用電解液に関する。
【0009】
項1.式(1);
【0010】
【化1】

(式中、Rは炭素数0〜3の直鎖状または分岐状のアルキレン基を示し、Rは炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルキル基を示す。)で表される含フッ素アルキルスルフィド化合物を、タングステン酸塩触媒の存在下、酸化剤を用いて酸化して得られる式(2);
【0011】
【化2】

(式中、Rは式(1)におけるRと同じ基を示し、Rは式(1)におけるRと同じ基を示す。)で表される含フッ素アルキルスルホン化合物の製造方法。
【0012】
項2.前記タングステン酸塩触媒が、タングステン酸ナトリウムまたはタングステン酸カリウムである項1に記載の含フッ素アルキルスルホン化合物の製造方法。
【0013】
項3.前記酸化剤が、過酸化水素である項1または2に記載の含フッ素アルキルスルホン化合物の製造方法。
【0014】
項4.項1〜3のいずれかに記載の含フッ素アルキルスルホン化合物の製造方法によって得られる純度99%以上である含フッ素アルキルスルホン化合物。
【0015】
項5.項1〜3のいずれかに記載の含フッ素アルキルスルホン化合物の製造方法によって得られる含フッ素アルキルスルホン化合物を含有する電気化学デバイス用電解液。
【0016】
項6.項5に記載の含フッ素アルキルスルホン化合物を含有する電気化学デバイス用電解液において、含フッ素アルキルスルホン化合物が電気化学用デバイス用電解液の溶媒全量に対して5〜80質量%含有する電気化学デバイス用電解液。
【0017】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明にかかる、式(1)で表される含フッ素アルキルスルフィド化合物は、何れの製造方法によって得られたものでもよいが、例えば、以下に示す方法により製造することができる。中でも、含フッ素アルキルスルフィド化合物を容易に高収率で得られる観点等から、以下に示す製造方法により得られたものが好ましく用いられる。
【0019】
すなわち、式(3)で表されるフッ素化アルキルチオールを、塩基を用いて、式(4)で表されるフッ素化アルキルチオール塩とし、これと式(5)で表されるアルキルハライドとを、相間移動触媒存在下、反応させて、式(1)で表される含フッ素アルキルスルフィド化合物として得ることができる。
【0020】
【化3】

式中、Rは炭素数0〜3の直鎖状または分岐状のアルキレン基を示す。
直鎖状または分岐状の炭素数0〜3のアルキレン基としては、具体的には例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、およびイソプロピレン基等が挙げられる。
【0021】
なお、上記式中、Rが「炭素数0の直鎖状または分岐状アルキレン基である」とは、トリフルオロ基の炭素が硫黄と直接結合していることを意味する。
【0022】
【化4】

式中、Rは式(3)におけるRと同じ基を示し、Mは、アルカリ金属原子を示す。
【0023】
【化5】

式中、Rは炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示す。炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルキル基としては、具体的には例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、およびイソペンチル基等が挙げられる。これらの中でも入手が容易であること等から、Rは炭素数1〜3の直鎖状または分岐状のアルキル基であることが好ましい。
【0024】
【化6】

式中、Rは式(3)におけるRと同じ基を示し、Rは式(5)におけるRと同じ基を示す。
【0025】
前記式(3)で表されるフッ素化アルキルチオールとしては、例えば、トリフルオロメタンチオール、2,2,2−トリフルオロエタンチオール、および1,1,1−トリフルオロ−2−プロパンチオール等が挙げられる。
【0026】
前記式(3)で表されるフッ素化アルキルチオールを、塩基を用いて、前記式(4)で表されるフッ素化アルキルチオール塩とする際に用いられる塩基としては、例えば、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウム等の炭酸アルカリ金属、並びにナトリウムメチラートおよびナトリウムエチラート等のアルカリ金属アルコラート等が挙げられる。中でも経済性の観点等から、水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0027】
前記塩基の使用割合は、フッ素化アルキルチオール1モルに対して、0.5〜5.0モルであることが好ましく、0.8〜2.0モルであることがより好ましい。塩基の使用割合が0.5モル未満である場合、含フッ素アルキルスルフィド化合物の収率が低下するおそれがあり、5.0モルを超える場合、反応液の粘性が高くなり、攪拌が困難になるおそれがある。
【0028】
前記式(5)で表されるアルキルハライドとしては、例えば、メチルブロマイド、メチルクロライド、エチルブロマイド、エチルクロライド、n−プロピルクロライド、イソプロピルクロライド、n−ブチルクロライド、イソブチルクロライド、1,1−ジメチルエチルクロライド、n−ペンチルクロライド、1,2−ジメチルプロピルクロライド、2−メチルブチルクロライド、3−メチルブチルクロライド、2,2−ジメチルプロピルクロライド、n−プロピルブロマイド、イソプロピルブロマイド、n−ブチルブロマイド、イソブチルブロマイド、1,1−ジメチルエチルブロマイド、n−ペンチルブロマイド、1,2−ジメチルプロピルブロマイド、2−メチルブチルブロマイド、3−メチルブチルブロマイド、および2,2−ジメチルプロピルブロマイド等が挙げられる。
【0029】
前記アルキルハライドの使用割合としては、フッ素化アルキルチオール1モルに対して0.5〜1.5モルであることが好ましく、0.8〜1.2モルであることがより好ましい。アルキルハライドの使用割合が0.5モル未満である場合、反応が完結せず、収率が低下するおそれがある。1.5モルを超える場合、得られる含フッ素アルキルスルフィド化合物の純度が低下するおそれがある。
【0030】
前記式(4)で表されるフッ素化アルキルチオール塩と前記式(5)で表されるアルキルハライドとの反応に用いられる相関移動触媒としては、例えば、ベンジルトリエチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルトリエチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムクロライドおよびトリオクチルメチルアンモニウムブロマイド等の4級アンモニウム塩、ヘキサドデシルトリエチルホスホニウムブロマイド、ヘキサデシルトリブチルホスホニウムクロライドおよびテトラ−n−ブチルホスホニウムクロライド等の4級ホスホニウム塩等が挙げられる。中でも、収率を向上させる観点および経済性の観点等から、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイドが好ましく用いられる。
【0031】
前記相間移動触媒の使用量は、アルキルハライド100質量部に対して、0.1〜100質量部であることが好ましく、0.1〜10質量部であることがより好ましい。相間移動触媒の使用量が0.1質量部未満である場合、反応が完結せず、収率が低下するおそれがあり、100質量部を超える場合、目的化合物との分離が困難になり、目的化合物の収率が低下するおそれがある。
【0032】
前記式(4)で表されるフッ素化アルキルチオール塩と前記式(5)で表されるアルキルハライドとの反応に用いられる反応溶媒としては、例えば、水、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メタノールおよびエタノール等が挙げられる。中でも収率を向上させる観点および経済性の観点等から、水が好ましく用いられる。なお、反応液の粘度が高く攪拌が不十分な場合には、必要に応じて反応に不活性な溶媒を添加して混合溶媒として用いてもよく、混合する溶媒としては、例えば、トルエン、モノクロロベンゼン、n−ヘプタン、シクロヘプタン、シクロヘキサン、ジクロロメタンおよびジクロロエタン等が挙げられる。
【0033】
前記反応溶媒の使用量は、前記フッ素化アルキルチオール100質量部に対して、10〜5000質量部であることが好ましく、100〜1000質量部であることがより好ましい。反応溶媒の使用量が10質量部未満である場合、攪拌が困難になって、収率が低下するおそれがあり、5000質量部を超える場合、生産効率が低下し、経済性が低下するおそれがある。
【0034】
前記式(4)で表されるフッ素化アルキルチオール塩と前記式(5)で表されるアルキルハライドとを反応させる反応温度は、30〜120℃であることが好ましく、60〜110℃であることがより好ましい。反応温度が、30℃未満である場合、反応を完結させるために長時間が必要になるおそれがあり、120℃を超える場合、副反応が起こり、目的化合物の収率が低下するおそれがある。反応時間としては、例えば、1〜30時間程度である。
かくして得られる含フッ素アルキルスルフィド化合物は、必要に応じて水洗、分液して取得できる。また、蒸留することにより純度を高めて単離することができる。
【0035】
本発明に用いられる式(1)で表される含フッ素アルキルスルフィド化合物の具体例としては、例えば、2−エチルスルファニル−1,1,1−トリフルオロエタン、1−(2,2,2−トリフルオロエチルスルファニル)プロパン、2−(2,2,2−トリフルオロエチルスルファニル)プロパン、1,1,1−トリフルオロ−3−メチルスルファニルプロパン、3−エチルスルファニル−1,1,1−トリフルオロプロパン、1,1,1−トリフルオロ−3−プロピルスルファニルプロパン、1,1,1−トリフルオロ−3−イソプロピルスルファニルプロパン等が挙げられる。中でも、2−エチルスルファニル−1,1,1−トリフルオロエタン、および2−(2,2,2−トリフルオロエチルスルファニル)プロパンが好適に用いられる。
【0036】
本発明に用いられるタングステン酸塩触媒としては、例えば、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸鉄、およびタングステン酸マンガン等のタングステン酸塩類とその水和物が挙げられる。中でも、入手のしやすさおよび経済性の観点等から、タングステン酸ナトリウム2水和物およびタングステン酸カリウム2水和物であることが好ましい。
【0037】
前記タングステン酸塩触媒の使用量は、含フッ素アルキルスルフィド化合物100質量部に対して、0.01〜10質量部であることが好ましく、0.1〜10質量部であることがより好ましい。前記タングステン酸塩触媒の使用量が、0.01質量部未満の場合、反応が完結せず、収率が低下するおそれがあり、10質量部を超える場合、目的化合物との分離が困難になり、目的化合物の収率が低下するおそれがある。なお、前記タングステン酸塩触媒が水和物である場合は、前記タングステン酸塩触媒の使用量は無水物として換算する。
【0038】
本発明において、前記含フッ素アルキルスルフィド化合物は、前記タングステン酸塩触媒および酸の存在下、酸化剤を用いて酸化して、含フッ素アルキルスルホン化合物を得ることが好ましい。前記酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、蟻酸、酢酸、炭酸、クエン酸およびメタンスルホン酸等が挙げられる。中でも入手のしやすさ、および経済性の観点等から、塩酸および硫酸であることが好ましい。
【0039】
前記酸の使用量は、含フッ素アルキルスルフィド化合物100質量部に対して、0.01〜100質量部であることが好ましく、0.1〜100質量部であることがより好ましい。前記酸の使用量が、0.01質量部未満の場合、反応系が十分に酸性にならないために反応が完結せず、収率が低下するおそれがあり、100質量部を超える場合、目的化合物との分離が困難になり、目的化合物の収率が低下するおそれがある。
【0040】
本発明に用いられる酸化剤としては、例えば、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、クロム酸、酸素、3−クロロ過安息香酸、および過酢酸等が挙げられる。中でも、安全性の観点および経済性の観点等から、過酸化水素であることが好ましい。
【0041】
前記酸化剤の使用割合は、含フッ素アルキルスルフィド化合物1モルに対して、1.8〜10モルであることが好ましく、2〜5モルであることがより好ましい。前記酸化剤の使用割合が、1.8モル未満の場合、反応が完結せず、収率が低下するおそれがあり、10モルを超える場合、使用割合に見合う効果がなく経済的ではない。
【0042】
本発明においては、生産効率および安全性を向上させるとともに、有機溶媒や水分の混入を抑制し、純度を高める観点等から、反応溶媒は用いないことが好ましい。なお、反応液の粘度が高く、攪拌が不十分な場合などは、必要に応じて反応に不活性な溶媒を用いてもよい。反応溶媒を用いる場合の反応溶媒としては、例えば、トルエン、モノクロロベンゼン、n−ヘプタン、シクロヘプタン、シクロヘキサン、ジクロロメタンおよびジクロロエタン等が挙げられる。特に電気化学デバイス用電解液の用途においては、機能が低下する等の不具合が起こる場合があることから、水分量が低く、純度が高い溶媒が好ましい。
【0043】
前記式(1)で表される含フッ素アルキルスルフィド化合物をタングステン酸塩触媒の存在下、酸化剤を用いて酸化する際の反応温度としては、0〜200℃が好ましく、10〜150℃がより好ましい。反応温度が0℃未満の場合、反応が遅く完結するまでに長時間が必要になるおそれがあり、200℃を超える場合、副反応が起こり、目的化合物の収率が低下するおそれがある。反応時間は、例えば、1〜30時間程度である。
【0044】
かくして得られる含フッ素アルキルスルホン化合物は式(2)で表される。
【0045】
【化7】

式中、Rは式(1)におけるRと同じ基を示し、Rは式(1)におけるRと同じ基を示す。
【0046】
本発明で得られる含フッ素アルキルスルホン化合物は、必要に応じて、水洗、分液し、蒸留することにより単離することができる。
【0047】
本発明の製造方法を用いれば、得られる含フッ素アルキルスルホン化合物を、純度99%以上とすることができるため、前記電気化学デバイス用電解液の溶媒として好適に用いられる。
【0048】
本発明にかかる式(2)で表される含フッ素アルキルスルホン化合物の具体例としては、例えば、2−エタンスルフォニル−1,1,1−トリフルオロエタン、1−(2,2,2−トリフルオロエタンスルフォニル)プロパン、2−(2,2,2−トリフルオロエタンスルフォニル)プロパン、1,1,1−トリフルオロ−3−メタンスルフォニルプロパン、3−エタンスルフォニル−1,1,1−トリフルオロプロパン、1,1,1−トリフルオロ−3−(プロパン−1−スルフォニル)プロパン、1,1,1−トリフルオロ−3−(プロパン−2−スルフォニル)プロパン等が挙げられる。中でも、電気化学デバイス用電解液の溶媒としての特性に優れていること、および原料の入手が容易であること等の観点から、2−エタンスルフォニル−1,1,1−トリフルオロエタン、および2−(2,2,2−トリフルオロエタンスルフォニル)プロパンが好ましく用いられる。
【0049】
本発明の製造方法により得られた含フッ素アルキルスルホン化合物は電気化学デバイス用電解液の溶媒に好適に用いられる。前記式(2)で表される含フッ素アルキルスルホン化合物を含有する電気化学デバイス用電解液もまた、本発明の1つである。
【0050】
電気化学デバイス用電解液の溶媒に用いられる場合、含フッ素アルキルスルホン化合物は、他の溶媒と混合して用いることが好ましい。
【0051】
前記他の溶媒としては、例えば、非プロトン性極性溶媒が用いられ、アミド系(N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等)、ラクトン類(δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン等)、環状アミド系(N−メチル−2−ピロリドン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、イソブチレンカーボネート等)、ニトリル系(ベンゾニトリル等)、オキシド系(ジメチルスルホキシド等)、2−イミダゾリジノン系[1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジ(n−プロピル)−2−イミダゾリジノン等〕、環状スルホラン系(スルホラン、2−メチルスルホラン,3−メチルスルホラン等)、およびアルキルスルホン系(エチルメチルスルホン,エチルイソプロピルスルホン等)等が挙げられる。
【0052】
前記他の溶媒と混合して用いる場合、含フッ素アルキルスルホン化合物と他の溶媒とを混合する比率は特に限定されないが、電気化学デバイス用電解液の溶媒全量に対して、含フッ素アルキルスルホン化合物が5〜80質量%が混合されることが好ましく、10〜50質量%混合されることがより好ましく、15〜20質量%が混合されることがさらに好ましい。含フッ素アルキルスルホン化合物が5質量%未満であると、混合する効果が得られにくくなるおそれがあり、80質量%を超える場合、電解液の粘度が増大するため含浸性が低下し、電気特性が劣るおそれがある。
【0053】
本発明にかかる電気化学デバイス用電解液に用いられる電解質としては特に限定されないが、例えば、リチウム塩が使用でき、リチウム塩としては、LiPF、LiClO、LiN(CFSO、LiBF 、LiCFSO、およびLiSbF等が使用できる。これらの電解質は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
前記電解質の濃度としては、電解液全体に対して、0.1〜3.0mol/Lが好ましく、0.5〜2.0mol/Lがより好ましく、1.0〜1.5mol/Lが特に好ましい。電解質の濃度が0.1mol/L未満では、電気伝導度が不足するおそれがあり、また3.0mol/Lより多いと、電解液の粘度が増大するため含浸性が低下し、電気特性が劣るおそれがある。
【発明の効果】
【0055】
本発明により、電気化学デバイス用電解液に好適に用いられる含フッ素アルキルスルホン化合物を高収率で得られる製造方法を提供することができる。また、本発明により得られる含フッ素アルキルスルホン化合物は、純度が高く熱安定性に優れていることから、リチウム電池、電気二重層キャパシタ、燃料電池等の電気化学デバイス用電解液の溶媒として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例3、実施例4、および比較例2で得られた電解液のリニアスウィープボルタンメトリーの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0058】
製造例1
[2−(2,2,2−トリフルオロエチルスルファニル)プロパンの製造方法]
攪拌機、温度計および冷却器を備え付けた100mL容の四つ口フラスコに窒素雰囲気下で、2,2,2−トリフルオロエタンチオール4.7g(39mmol)を仕込み、30質量%水酸化ナトリウム水溶液6.5g(49mmol)を滴下し、2,2,2−トリフルオロエタンチオールナトリウム塩水溶液を調製した。引き続き、50質量%テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド水溶液0.05g(0.078mmol)を加えた後、50℃に昇温し、イソプロピルブロマイド4.7g(38mmol)を30分間かけて滴下した。これを同温度にて6時間反応させた後、分液し、上層の有機層6.0gを取得した。得られた2−(2,2,2−トリフルオロエチルスルファニル)プロパンの収率は、イソプロピルブロマイドに対して99%であり、ガスクロマトグラフィー分析による純度は、99.6%であった。
【0059】
製造例2
[2−エチルスルファニル−1,1,1−トリフルオロエタンの製造方法]
製造例1のイソプロピルブロマイド4.7gに代えて、エチルブロマイド4.2gを用いた以外は、製造例1と同様にして2−エチルスルファニル−1,1,1−トリフルオロエタン5.4gを得た。得られた2−エチルスルファニル−1,1,1−トリフルオロエタンの収率は、エチルブロマイドに対して99%であり、ガスクロマトグラフィー分析による純度は98.1%であった。
【0060】
実施例1
[2−(2,2,2−トリフルオロエタンスルフォニル)プロパンの製造方法]
攪拌機、温度計および冷却器を備え付けた100mL容の四つ口フラスコに窒素雰囲気下で、製造例1と同様の方法で得られた2−(2,2,2−トリフルオロエチルスルファニル)プロパン6.0g(39mmol)を仕込み、タングステン酸ナトリウム2水和物0.03gおよび硫酸0.17gを加え、70℃に加熱した。引き続き、35質量%過酸化水素水7.6g(80mmol)を滴下し、70℃で1時間攪拌した。反応終了後、亜硫酸ナトリウム1.1gを添加した後、水酸化ナトリウム水溶液で中和した。トルエンを添加後、分液した油層を単蒸留することにより微黄色固体の2−(2,2,2−トリフルオロエタンスルフォニル)プロパン6.4gを得た。得られた2−(2,2,2−トリフルオロエタンスルフォニル)プロパンの収率は、2−(2,2,2−トリフルオロエチルスルファニル)プロパンに対して89%であり、ガスクロマトグラフィー分析による純度は99.4%であった。
【0061】
実施例1で得られた2−(2,2,2−トリフルオロエタンスルフォニル)プロパンについて、窒素雰囲気下、示差走査熱量計を用いて、発熱開始温度を測定した。
測定結果を、比較例1としてのエチルイソプロピルスルホンとともに表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1の結果から、実施例1で得られた2−(2,2,2−トリフルオロエタンスルフォニル)プロパンは、比較例1と比較して、発熱開始温度が高いことから熱的安定性に優れていることがわかる。
【0064】
実施例2
[2−エタンスルフォニル−1,1,1−トリフルオロエタンの製造方法]
実施例1の2−(2,2,2−トリフルオロエチルスルファニル)プロパン6.0g(39mmol)に代えて、製造例2と同様の方法で得られた2−エチルスルファニル−1,1,1−トリフルオロエタン5.4g(37mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして、2−エタンスルフォニル−1,1,1−トリフルオロエタン5.5gを得た。得られた2−エタンスルフォニル−1,1,1−トリフルオロエタンの収率は2−エチルスルファニル−1,1,1−トリフルオロエタンに対して82%であり、ガスクロマトグラフィー分析による純度は99.4%であった。
【0065】
実施例3
[2−(2,2,2−トリフルオロエタンスルフォニル)プロパンを含有する電解液の調製]
露点−50℃未満のドライボックス中において、10mLのメスフラスコにLiPF1.5g(10mmol)を仕込み、実施例1と同様の方法で得られた2−(2,2,2−トリフルオロエタンスルフォニル)プロパンを電解液の溶媒全量に対して20質量%になるように混合したエチルイソプロピルスルホンにて10mLにメスアップし、電解質濃度が1.0mol/Lの電解液を調製した。
【0066】
実施例4
[2−エタンスルフォニル−1,1,1−トリフルオロエタンを含有する電解液の調製]
2−(2,2,2−トリフルオロエチルスルファニル)プロパンに代えて、実施例2と同様の方法で得られた2−エタンスルフォニル−1,1,1−トリフルオロエタンを用いた以外は、実施例3と同様にして、電解液を調製した。
【0067】
比較例2
[エチルイソプロピルスルホンを含有する電解液の調製]
含フッ素アルキルスルホン化合物である2−エタンスルフォニル−1,1,1−トリフルオロエタンを含有させず、エチルイソプロピルスルホンのみを用いた以外は、実施例3と同様にして、電解液を調製した。
【0068】
測定装置としてポテンショガルバノスタット(BAS社製)を用い、作用電極として電極外径6mm、電極サイズ1.6mmのグラッシーカーボン電極と、カウンター電極として長さ5.7cm、白金直径0.5mmの白金電極とを用いた。また、溶媒系参照電極として内部溶液アセトニトリル/テトラブチルアンモニウム過塩素酸塩の銀/銀イオンの電極を備えたセルに調製した前記電解液を仕込み、電位走査速度5mV/sの条件でリニアスウィープボルタンメトリー(LSV)により分解電位を測定した。
【0069】
実施例3で得られた2−(2,2,2−トリフルオロエタンスルフォニル)プロパンを含有する電解液、および実施例4で得られた2−エタンスルフォニル−1,1,1−トリフルオロエタンを含有する電解液のリニアスウィープボルタンメトリーの結果を比較例2で得られた電解液の測定結果とともに図1に示す。
【0070】
図1から、実施例3および実施例4の電解液は、比較例2の電解液と比較して還元電位が高くならず、電位窓が広いことがわかる。従って、実施例1で得られた2−(2,2,2−トリフルオロエタンスルフォニル)プロパン、および実施例2で得られた2−エタンスルフォニル−1,1,1−トリフルオロエタンは、より還元側での使用が可能であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1);
【化1】

(式中、Rは炭素数0〜3の直鎖状または分岐状のアルキレン基を示し、Rは炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルキル基を示す。)で表される含フッ素アルキルスルフィド化合物を、タングステン酸塩触媒の存在下、酸化剤を用いて酸化して得られる式(2);
【化2】

(式中、Rは式(1)におけるRと同じ基を示し、Rは式(1)におけるRと同じ基を示す。)で表される含フッ素アルキルスルホン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記タングステン酸塩触媒が、タングステン酸ナトリウムまたはタングステン酸カリウムである請求項1に記載の含フッ素アルキルスルホン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記酸化剤が、過酸化水素である請求項1または2に記載の含フッ素アルキルスルホン化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の含フッ素アルキルスルホン化合物の製造方法によって得られる純度99%以上である含フッ素アルキルスルホン化合物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の含フッ素アルキルスルホン化合物の製造方法によって得られる含フッ素アルキルスルホン化合物を含有する電気化学デバイス用電解液。
【請求項6】
請求項5に記載の含フッ素アルキルスルホン化合物を含有する電気化学デバイス用電解液において、含フッ素アルキルスルホン化合物が電気化学用デバイス用電解液の溶媒全量に対して5〜80質量%含有する電気化学デバイス用電解液。

【図1】
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【公開番号】特開2013−60385(P2013−60385A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199240(P2011−199240)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】