説明

含フッ素ポリエーテル化合物、その製造方法およびそれを含有する硬化性組成物

【解決手段】含フッ素カルボン酸フルオリド XC6H4ORfO〔CF(CF3)CF2O〕lCF(CF3)COF (Rf:パーフルオロアルキレン基、X:I,Br、l:30〜130)をR1NHC6H4NHR1(R1:H,アルキル基,フェニル基)と反応させ、含フッ素ポリエーテル化合物


を得る。この化合物に、芳香族ボロン酸エステル、有機パラジウム化合物、塩基性無機または有機化合物(および有機リン化合物)を配合して、硬化性含フッ素ポリエーテル組成物を形成させる。
【効果】この含フッ素ポリエーテル化合物l分子中に含まれるヘキサフルオロイソプロポキシ基-OCF2CF(CF3)-くり返し単位数は60〜260となり、従来の含フッ素ポリエーテル化合物のそれと比べて約2倍程度になる。これにより、特定の硬化剤および硬化触媒とともに硬化性含フッ素ポリエーテル組成物を形成させた場合に、本来の低温特性、耐薬品性等を維持しながら、機械的強度が改善されたエラストマー性成形物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素ポリエーテル化合物、その製造方法およびそれを含有する硬化性組成物に関する。さらに詳しくは、耐熱性および低温特性に優れ、その上良好な耐薬品性を示す硬化物を与え得る含フッ素ポリエーテル化合物、その製造方法およびそれを含有する硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
分子末端に官能基を有する含フッ素ポリエーテル化合物としては、例えば一般式

で表わされる化合物が知られている。
【特許文献1】特開平11−343336号公報
【0003】
また、上記化合物の主鎖構造をオリゴマー化したより一般的な化合物として、一般式

で表わされる化合物が知られている。
【特許文献2】特許2990646号公報
【0004】
これらの一般式で表わされる化合物群は、Si-H基を分子内に複数個有する含フッ素オルガノ水素シロキサン化合物および白金化合物触媒により硬化し、非常に優れた特性(耐薬品性、耐熱性、低温特性)を有するエラストマー性成形物を与え得るとされ、特に-50℃程度の低温条件下でも柔軟性を失わずに、使用に耐え得るとされる。また、これらを主成分とする硬化性組成物は、抜群の成形加工性を有し、RIM成形も可能とさせる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さらに、下記一般式で表わされる含フッ素ポリエーテル化合物が、本発明者によって検討されている。

(X:ヨウ素原子または臭素原子)
上記含フッ素ポリエーテル化合物は、入手容易な原料から製造可能で、また芳香族ボロン酸エステルと有機パラジウム化合物触媒により硬化し、エラストマー性成形物を与え得る。しかしながら、主鎖構造を形成するヘキサフルオロイソプロポキシ基-OCF2CF(CF3)-繰り返し単位数は、製造上130程度が限度とされ、そのため最終的に得られるエラストマー性成形物の機械的強度が制限される。
【0006】
本発明の目的は、含フッ素ポリエーテル化合物、特に

を基本骨格とする含フッ素ポリエーテル化合物を硬化して得られるエラストマー性成形物の機械的強度を向上させることにあり、そのための含フッ素ポリエーテル化合物、その製造方法およびそれを含有する硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって、一般式

(ここで、R1は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基であり、Rfは炭素数2〜4の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基であり、Xはヨウ素原子または臭素原子であり、Xのフェニル基上の置換位置はRfO結合置換基に対してm-またはp-位であり、2個のNR1結合置換基が結合したフェニレン基はm-またはp-位にジ置換されたフェニレン基であり、lおよびmはそれぞれ独立に30〜130の整数である)で表わされる含フッ素ポリエーテル化合物が提供される。
【0008】
かかる含フッ素ポリエーテル化合物は、一般式

(ここで、Rfは炭素数2〜4の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基であり、Xはヨウ素原子または臭素原子であり、Xのフェニル基上の置換位置はRfO結合置換基に対してm-またはp-位であり、lは30〜130の整数である)で表わされる含フッ素カルボン酸フルオリド化合物を、一般式

(ここで、R1は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基である)で表わされる、m-またはp-フェニレンジアミン化合物と、好ましくはピリジンまたはトリエチルアミン等の3級アミン化合物の存在下において、縮合反応させることにより製造される。
【0009】
さらに、本発明の硬化性組成物は以下の各成分より構成される。
(A)成分 含フッ素ポリエーテル化合物 100重量部
(B)成分 芳香族ボロン酸エステル化合物 0.1〜10重量部
(C)成分 0価または2価の有機パラジウム化合物 0.0001〜1重量部
(D)成分 塩基性無機化合物または塩基性有機化合物 0.1〜10重量部
(E)成分 有機リン化合物 0〜5重量部
【発明の効果】
【0010】
本発明により、分子の両末端に反応活性部位を有し、かつ高分子量化された新規な含フッ素ポリエーテル化合物が提供される。すなわち、このようにして得られる含フッ素ポリエーテル化合物l分子中に含まれるヘキサフルオロイソプロポキシ基-OCF2CF(CF3)-くり返し単位数は60〜260となって、従来の含フッ素ポリエーテル化合物のそれと比べて約2倍程度になる。
【0011】
これにより、特定の硬化剤および硬化触媒とともに硬化性含フッ素ポリエーテル組成物を形成させた場合に、本来の諸特性(低温特性、耐薬品性等)を維持しながら、従来のものより機械的強度が改善されたエラストマー性成形物を得ることができる。
【0012】
さらに、本組成物は室温で適度な流動性を示す等良好な加工性を有し、射出成形、RIM等種々の成形方法に適用できる。
【0013】
本発明の組成物を硬化してなる成形物は、上述の諸特性に加え、耐熱性にも優れているため、自動車燃料供給系シール材、オイルシール材航空機燃料系および油圧系シール材、半導体製造装置用シール材等の各種用途に好適に使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の含フッ素ポリエーテル化合物

において、lおよびmはそれぞれ独立に30〜130、好ましくは50〜130の整数である。R1は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基であり、特に製法面から水素原子またはメチル基であることが好ましい。ただし、水素原子の場合、分子内または分子間水素結合により粘度が高くなる傾向にある。Rfは炭素数2〜4の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基であり、特に製法面から炭素数3のパーフルオロアルキレン基が選ばれ、具体的には-CF2CF(CF3)-(ただし、側鎖CF3基はオキシフェニル基側)または-CF2CF2CF2-が好ましい例として挙げられる。Xは、ヨウ素原子または臭素原子であり、Xのフェニル基上の置換位置はRfO結合置換基に対してm-またはp-位である。2個のNR1結合置換基が結合したフェニレン基は、m-またはp-位にジ置換されたフェニレン基である。
【0015】
上記含フッ素ポリエーテル化合物は、一般式

で表わされる含フッ素カルボン酸フルオリド化合物を、一般式

で表わされる、m-またはp-フェニレンジアミン化合物と、好ましくはピリジンまたはトリエチルアミン等の3級アミン化合物の存在下で、-50〜150℃、好ましくは0〜100℃で反応させることにより製造される。
【0016】
溶媒としてはハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロフルオロエーテル(HFE)等の含フッ素溶媒、またはこれらの含フッ素溶媒と非プロトン性非フッ素系溶媒との混合溶媒を用いることができる。かかる含フッ素溶媒の例としては、HCFC-225、HFE-449(住友3M製品HFE-7100)、HFE-569(同社製品HFE-7200)等が挙げられる。また、非プロトン性非フッ素系溶媒としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等が例示される。m-またはp-フェニレンジアミン化合物の溶解性を考慮すると、含フッ素溶媒と非プロトン性非フッ素系溶媒との混合溶媒を用いることが好ましい。
【0017】
出発原料である上記カルボン酸フルオリド化合物は、例えば以下のようにして容易に製造することができる。


【非特許文献1】J. Am, Chem. Soc. 106巻 5544頁 (1984)
【0018】
本発明に係る含フッ素ポリエーテル化合物の具体例としては、例えば





などが挙げられる。
【0019】
これらの含フッ素ポリエーテル化合物〔(A)成分〕を主成分とし、以下の各構成成分から硬化性含フッ素ポリエーテル組成物が形成される。
(A)成分 含フッ素ポリエーテル化合物 100重量部
(B)成分 芳香族ボロン酸エステル化合物 0.1〜10重量部
(C)成分 0価または2価の有機パラジウム化合物 0.0001〜1重量部
(D)成分 塩基性無機化合物または塩基性有機化合物 0.1〜10重量部
(E)成分 有機リン化合物 0〜5重量部
上述の各成分からなる組成物の硬化反応は、パラジウム触媒による、アリールボロン酸またはそのエステルとハロゲン化アリールのクロスカップリング反応(鈴木−宮浦反応)に基づいている。
【非特許文献2】Chem. Rev. 95巻 2457頁 (1995)
【0020】
以下各成分の実施形態について順次説明する。
(A)成分は、前記一般式で表わされる含フッ素ポリエーテル化合物において、lおよびmはそれぞれ独立に30〜130の整数であるが、硬化物の十分な機械的強度を達成するためには50〜130であることが好ましい。R1は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基であるが、組成物の粘度、硬化挙動および製造の容易さから、メチル基が好ましい例として選ばれる。Rfは炭素数2〜4の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基であるが、特に製法面から炭素数3のパーフルオロアルキレン基が選ばれ、具体的には-CF2CF(CF3)-(ただし、側鎖CF3基はオキシフェニル基側)または-CF2CF2CF2-が好ましい例として挙げられる。Xはヨウ素原子または臭素原子であり、硬化の迅速性の点からはヨウ素原子が好ましく、その置換位置はRfO結合置換基に対してm-またはp-位である。Xの置換位置がRfO結合置換基に対してo-位の場合、立体的要因により硬化速度が低下する場合があるので好ましくない。2個のNR1結合置換基が結合したフェニレン基は、m-またはp-位にジ置換されたフェニレン基であり、o-位にジ置換されたフェニレン基の場合は、含フッ素ポリエーテル化合物を製造する際、副反応が懸念され好ましくない。
【0021】
(B)成分は、下記一般式で表わされる芳香族ボロン酸エステル化合物

である。ここで、R2は炭素数2〜10の直鎖状または分岐状の2価の脂肪族炭化水素基であり、例えば-CH2C(CH3)2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH(CH3)2C(CH3)2-、-C(CH3)2CH2C(CH3)2-等が挙げられる。(B)成分の具体的な例としては、1,3,5-トリス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキシサボロラン-2-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(5,5-ジメチル-1,3,2-ジオキサボリナン-2-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4,4,6,6-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボリナン-2-イル)ベンゼンが挙げられる。好ましくは、1,3,5-トリス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ベンゼンが製造の容易さから選ばれる。
【非特許文献3】J. Appl. Poly. Sci. 76巻 1257頁 (2000)
【0022】
(B)成分芳香族ボロン酸エステル化合物は、(A)成分含フッ素ポリエーテル化合物100重量部当り0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部の割合で用いられる。(B)成分がこれより少ないと、硬化が不十分となるかまたは得られる成形物の機械的強度が低下する。一方、これより多い割合で用いることは、それに見合った効果が見込めず、経済的でない。
【0023】
硬化触媒として用いられる(C)成分有機パラジウム化合物としては、0価または2価の有機パラジウム化合物が用いられる。0価の有機パラジウム化合物はそのまま0価の状態で硬化反応の触媒として作用する。2価の有機パラジウム化合物は、(A)成分、(B)成分または後述の(E)成分有機リン化合物により0価に還元された後、触媒作用を発現する。(C)成分有機パラジウム化合物は、(A)成分含フッ素ポリエーテル化合物100重量部当り、0.0001〜1重量部、好ましくは0.001〜0.1重量部の割合で用いられる。(C)成分がこれより少ないと、十分な硬化が行われず、一方これより多い割合で用いることは、経済的でない。
【0024】
0価の有機パラジウム化合物としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパアラジウム等が用いられる。2価の有機パラジウム化合物としては、例えば、酢酸パラジウム、アリルパラジウムクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムクロリド、ビス(トリ第3ブチルホスフィン)パラジウムクロリド等が用いられる。特に、酢酸パラジウムが好適に用いられる。
【0025】
なお、酢酸パラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、アリルパラジウムクロリドのように分子内にリン化合物を含まない有機パラジウム化合物を用いる場合、その安定剤として、一般式

で表わされる(E)成分有機リン化合物を併用することが好ましい。
【0026】
ここで、R3、R4、R5はそれぞれ独立に、置換基を有し得る炭素数1〜10の鎖状脂肪族炭化水素基、炭素数5〜12の環状脂肪族炭化水素基または炭素数6〜20の芳香族炭化水素基である。脂肪族炭化水素基を有する有機リン化合物の具体例としては、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ第3ブチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン等が挙げられる。
【0027】
また、芳香族炭化水素基を有する有機リン化合物としては、一般式

で表わされるトリフェニルホスフィン化合物類または一般式

で表わされる、Buchwald配位子と総称される化合物群を用いることもできる。
【特許文献3】USP 6,307,087
【特許文献4】USP 6,294,627
【0028】
ここで、A、B、Cはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基あるいは炭素数1〜3のアルキル基を有するアルコキシ基またはジアルキルアミノ基である。R6は炭素数1〜6の鎖状または環状の脂肪族炭化水素基である。トリフェニルホスフィン化合物類としては、トリフェニルホスフィン、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(1,3,5-トリイソプロピルフェニル)ホスフィン等が例示される。Buchwald配位子の具体例としては、(2-ビフェニル)ジシクロヘキシルホスフィン、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2′,6′-ジメトキシビフェニル、2-ジ-第3ブチルホスフィノ-2′,4′,6′-トリイソプロピルビフェニル、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2′-ジメチルアミノビフェニル等の化合物が例示される。
【0029】
その他、分子内に2個のリン原子を有する、一般式

で表わされる二座配位子有機リン化合物も用いることができる。ここで、Phは置換基を有し得るフェニル基または炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基であり、Zは2価の炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基またはメタロセン基である。
【0030】
具体例には、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,1′-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、1,1′-ビス(ジ第3ブチルホスフィノ)フェロセン、2,2′-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1′-ビナフタレン等の化合物が例示される。
【0031】
(E)成分有機リン化合物は、(C)成分有機パラジウム化合物のPd原子に対して0.5〜10モル当量、好ましくは1〜4モル当量用いる。(A)成分に対しては、その100重量部当り0.1〜2重量部の割合で用いられることが好ましい。
【0032】
(D)成分の塩基性無機化合物または塩基性有機化合物としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸塩あるいは炭酸水素塩、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のアルカリ金属リン酸塩、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物または水酸化物、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム等のアルカリ金属フッ化物、酢酸カリウム等のアルカリ金属酢酸塩、ナトリウムメトキシド、有機アミン類が挙げられる。好ましい例は、リン酸カリウムである。(D)成分塩基性無機化合物または塩基性有機化合物は、(A)成分含フッ素ポリエーテル化合物100重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは1〜10重量部用いられる。(D)成分を添加しないと硬化反応がきわめて遅いかあるいは全く起こらない場合がある。
【0033】
硬化性含フッ素ポリエーテル組成物中には、これらの各成分以外に、硬化反応を阻害しない量および純度を有する各種充填剤、補強剤、顔料等適宜配合して用いられる。組成物の調製は、3本ロールミル、プラネタリミキサー等を用いて混練することにより行われ、混合物の硬化は、室温〜200℃で圧縮成形、射出成形、RIM成形等により約1〜60分間行われ、必要に応じて50〜250℃で1〜30時間程度のオーブン加硫(二次加硫)が行われる。
【実施例】
【0034】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0035】
参考例
含フッ素ポリエーテル組成物(PFPE-M)の調製

含フッ素酸フルオリド化合物(少量のテトラグライムおよびフッ化セシウムを含む)

43g(3.4ミリモル)を含フッ素溶媒(住友3M製品HFE-7100)50ml中に溶解し、そこにトリエチルアミン0.7g(7ミリモル)およびジエチルエーテル20mlを加えた。これにp-ヨード-N-メチルアニリン1.2g(5.1ミリモル)を加え、室温で1時間反応を行った。得られた反応混合物を飽和食塩水で洗浄し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥、ロ過し、次いでフッ素系溶媒およびジエチルエーテルを減圧下で留去した。得られた液体をジエチルエーテルで数回洗浄し、含フッ素ポリエーテル層を分取した後、減圧下でジエチルエーテルを完全に除去した。このようにして、含フッ素ポリエーテル化合物(PFPE-M)34g(収率78%)を僅かに黄色味を帯びた透明な液体として得た。E形粘度計(東機産業製TVE-22)により粘度を測定したところ、13Ps・s(25℃)であった。

19F-NMR(CFCl3基準): -123ppm(Fa)
-145ppm(Fb)
1H-NMR(TMS基準): 7.5ppm(Ha、He)
6.6ppm(Hb、Hd)
3.1ppm(Hc)
IR(neat): 1703cm-1(C=O)
1490cm-1(Ar)
【0036】
実施例1
含フッ素ポリエーテル化合物(PFPE-D)の調製

参考例で用いた酸フルオリド化合物43g(3.4ミリモル)を含フッ素溶媒(HFE-7100)50ml中に溶解し、そこにトリエチルアミン0.7g(7ミリモル)およびジエチルエーテル20mlを加えた。これにN,N′-ジメチル-p-フェニレンジアミン0.20g(1.5ミリモル)を加え、室温で1時間反応を行った。次いで、p-ヨード-N-メチルアニリン0.16g(0.7ミリモル)加え、さらに室温で1時間反応を行った。参考例と同様に反応後の処理を行い、目的とする含フッ素ポリエーテル化合物(PFPE-D)32g(収率75%)を僅かに黄色味を帯びた透明な液体として34g得た。E形粘度計(TVE-22)により粘度を測定したところ、18Pa・s(25℃)であった。

19F-NMR(CFCl3基準): -123ppm(Fa)
-145ppm(Fb)
1H-NMR(TMS基準): 7.5ppm(Ha)
6.6ppm(Hb、Hd)
3.1ppm(Hc)
IR(neat): 1700cm-1(C=O)
1483cm-1(Ar)
【0037】
実施例2
含フッ素ポリエーテル化合物(PFPE-D) 100重量部
1,3,5-トリス(4,4,5,5-テトラメチル- 3重量部
1,3,2-ジオキシサボロラン-2-イル)ベンゼン
酢酸パラジウム 0.15重量部
(2-ビフェニル)ジシクロヘキシルホスフィン 0.5重量部
リン酸カリウム 5重量部
以上の各成分を、エタノール 120重量部、水 25重量部およびベンゾトリフルオリド 300重量部からなる混合溶媒中に加え、窒素雰囲気下に室温で10分間混合し、次いで減圧下に40℃で揮発性物質を除去した。得られた混合物に、アセチレンブラック10重量部を混合して、硬化性組成物を調製した。調製された硬化性組成物を130℃で10分間圧縮成形し、次いで80℃、5時間および200℃10時間オーブン加硫(二次加硫)を順次窒素雰囲気下で行い、下記の各種試験に用いる試験片を作製した。
【0038】
実施例3
実施例2において、2-(ビフェニル)ジシクロヘキシルホスフィンの代りに、2-ジシクロヘキシルホスフィノ)-2′,6′-ジメトキシビフェニル 0.5重量部を用いた硬化性組成物が用いられた。
【0039】
実施例4
実施例2において、2-(ビフェニル)ジシクロヘキシルホスフィンの代りに、トリフェニルホスフィン 0.4重量部を用いた硬化性組成物が用いられた。
【0040】
比較例1
実施例2において、含フッ素ポリエーテル化合物(PFPE-D)の代りに、参考例の含フッ素ポリエーテル化合物(PFPE-M)100重量部を用いた硬化性組成物が用いられた。
【0041】
比較例2
実施例4において、含フッ素ポリエーテル化合物(PFPE-D)の代りに、参考例の含フッ素ポリエーテル化合物(PFPE-M)100重量部を用いた硬化性組成物が用いられた。
【0042】
以上の各実施例および比較例で得られた硬化性組成物および硬化物について、次の各項目について試験を行った。
硬化試験:モンサントディスクレオメーターを使用し、130℃でt10、t90、ML、MHの
値を測定
常態物性:JIS K6250、K6253準拠
圧縮永久歪:ASTMD 395 Method B準拠し、P24 Oリングについて200℃、70時間の値を 測定
低温特性:ASTMD 1329準拠して、TR10、TR70を測定
メタノール浸漬試験:硬化物を25℃のメタノールに70時間浸漬後の体積変化率を測定
【0043】
測定結果は、次の表に示される。

測定項目 実施例2 実施例3 実施例4 比較例1 比較例2
硬化試験
t10 (分) 0.5 0.4 0.4 0.5 0.5
t90 (分) 1.1 1.2 1.1 1.2 1.1
ML (dN・m) 0.3 0.3 0.3 0.2 0.2
MH (dN・m) 3.8 4.0 3.8 2.7 2.6
常態物性
硬さ 52 52 52 51 50
100モジュラス (MPa) 1.5 1.5 1.5 1.2 1.1
破断時強度 (MPa) 4.0 4.2 4.2 2.7 2.5
破断時伸び (%) 260 260 260 240 240
圧縮永久歪 (%) 45 47 47 60 62
低温特性
TR10 (℃) -48 -48 -48 -47 -47
TR70 (℃) -36 -36 -36 -34 -34
メタノール浸漬試験
体積変化率 (%) +3 +3 +3 +3 +3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式

(ここで、R1は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基であり、Rfは炭素数2〜4の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基であり、Xはヨウ素原子または臭素原子であり、Xのフェニル基上の置換位置はRfO結合置換基に対してm-またはp-位であり、2個のNR1結合置換基が結合したフェニレン基はm-またはp-位にジ置換されたフェニレン基であり、lおよびmはそれぞれ独立に30〜130の整数である)で表わされる含フッ素ポリエーテル化合物。
【請求項2】
上記一般式において、Xがヨウ素原子である請求項1記載の含フッ素ポリエーテル化合物。
【請求項3】
上記一般式において、R1がメチル基である請求項1記載の含フッ素ポリエーテル化合物。
【請求項4】
上記一般式において、Rfが-CF2CF2CF2-である請求項1記載の含フッ素ポリエーテル化合物。
【請求項5】
上記一般式において、Rfが-CF2CF(CF3)-(ただし、側鎖CF3基はオキシフェニル基側)である請求項1記載の含フッ素ポリエーテル化合物。
【請求項6】
一般式

(ここで、Rfは炭素数2〜4の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基であり、Xはヨウ素原子または臭素原子であり、Xのフェニル基上の置換位置はRfO結合置換基に対してm-またはp-位であり、lは30〜130の整数である)で表わされる含フッ素カルボン酸フルオリド化合物を、一般式

(ここで、R1は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基である)で表わされる、m-またはp-フェニレンジアミン化合物と反応させることを特徴とする請求項1記載の含フッ素ポリエーテル化合物の製造方法。
【請求項7】
ピリジンまたは3級アミンの存在下で縮合反応が行われる請求項6記載の含フッ素ポリエーテル化合物の製造方法。
【請求項8】
(A) 請求項1記載の含フッ素ポリエーテル化合物 100重量部
(B) 一般式

(ここで、R2は炭素数2〜10の直鎖状または
分岐状の2価の脂肪族炭化水素基である)
で表わされる芳香族ボロン酸エステル化合物 0.1〜10重量部
(C) 0価または2価の有機パラジウム化合物 0.0001〜1重量部
(D) 塩基性無機化合物または塩基性有機化合物 0.1〜10重量部
(E) 一般式

(ここで、R3、R4、R5はそれぞれ独立に、それ
ぞれ置換基を有し得る炭素数1〜10の鎖状脂
肪族炭化水素基、炭素数5〜12の環状脂肪族
炭化水素基または炭素数6〜20の芳香族炭化
水素基である)
または一般式

(ここで、Phは置換基を有し得るフェニル基
または炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基であり、
Zは2価の炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、
炭素数6〜20の芳香族炭化水素基またはメタロ
セン基である)
で表わされる有機リン化合物 0〜5重量部
を含有する硬化性含フッ素ポリエーテル組成物。
【請求項9】
Xがヨウ素原子である含フッ素ポリエーテル化合物が(A)成分として用いられた請求項8記載の硬化性含フッ素ポリエーテル組成物。
【請求項10】
(B)成分芳香族ボロン酸エステル化合物が1,3,5-トリス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ベンゼン

である請求項8記載の硬化性含フッ素ポリエーテル組成物。
【請求項11】
(C)成分2価の有機パラジウム化合物が酢酸パラジウムである請求項8記載の硬化性含フッ素ポリエーテル組成物。
【請求項12】
(D)成分塩基性無機化合物がリン酸カリウムである請求項8記載の硬化性含フッ素ポリエーテル組成物。
【請求項13】
(E)成分有機リン化合物が、下記一般式

(ここで、A、B、Cはそれぞれ独立に、水
素原子、炭素数1〜5のアルキル基あるい
は炭素数1〜3のアルキル基を有するアル
コキシ基またはジアルキルアミノ基であ
る)
で表わされる請求項8記載の硬化性含フッ素ポリエーテル組成物。
【請求項14】
(E)成分有機リン化合物が、下記一般式

(ここで、A、B、Cはそれぞれ独立に、水
素原子、炭素数1〜5のアルキル基、ある
いはそれぞれ炭素数1〜3のアルキル基を
有するアルコキシ基またはジアルキルア
ミノ基であり、R6は炭素数1〜6の鎖状ま
たは環状のアルキル基である)
で表わされる請求項8記載の硬化性含フッ素ポリエーテル組成物。

【公開番号】特開2008−255042(P2008−255042A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97977(P2007−97977)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】