説明

含フッ素化合物からの水分除去方法

【課題】ハイドロフルオロオレフィン等の各種の含フッ素化合物について、連続的に効率よく水分を除去することができ、しかも、廃棄物等の発生も少ない、工業的に有利な水分除去方法を提供する。
【解決手段】水分を含む含フッ素化合物を、金属塩を含有する水溶液に接触させることを特徴とする、含フッ素化合物の水分除去方法。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ペンタフルオロエタン(HFC-125)、ジフルオロメタン(HFC-32)などのハイドロフルオロカーボン(HFC)は、オゾン層を破壊する可能性のあるクロロフルオロカーボン(CFC)やハイドロクロロフルオロカーボン (HCFC)などに替わる重要な物質として広く用いられている。その用途は、熱媒体、冷媒、発泡剤、溶媒、洗浄剤、噴射剤、消火剤など多岐にわたっており、多量に消費されている。
【0002】
しかしながら、これらのハイドロフルオロカーボンは、強力な温暖化物質であり、その拡散によって地球温暖化に影響を及ぼすことが懸念されている。その対策として使用後の回収が行われているが、すべてを回収できるわけではなく、漏洩などによる拡散も無視できない。特に、冷媒、熱媒体等の用途においては、CO2や炭化水素系物質による代替も検討されているが、CO2冷媒は効率が悪く、機器が大きくなることから消費エネルギーを含めた総合的な温暖化ガス排出量の削減には課題が多く、炭化水素系物質はその燃焼性の高さから安全性の面で問題がある。
【0003】
これらの問題を解決する物質として、最近、温暖化係数の低いハイドロフルオロオレフィンが注目されている。ハイドロフルオロオレフィンは、水素及びフッ素を含む不飽和炭化水素の総称であり、対応するアルカンの脱ハロゲン化水素反応により得られることが多い。例えば、ハイドロフルオロオレフィンの一例である2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)の代表的な製造方法としては、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)や1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン(HFC-245cb)の脱HFによる方法が知られている。この方法では、得られたHFO-1234yfはHFとの混合物となるために、何らかの方法でHFを除去しなければならない。ハイドロフルオロオレフィンと酸の混合ガスから酸を取り除く方法として最も簡便な方法は、水により酸を吸収する方法である。しかしながら、この方法では、ミストや蒸気圧分の水がハイドロフルオロオレフィン中に必ず混入する。その他、原料中に含まれる水分や、触媒から発生する水分、設備内に残留する水分など、さまざまな水の発生源がある。製品であるハイドロフルオロオレフィンに含まれる水分は、その安定性や装置の腐食性、冷媒としての能力などに影響を及ぼすため、品質管理上最も重要なファクターの一つであり、水分を除去する方法は特に重要な技術である。
【0004】
ハイドロフルオロオレフィンからの水分除去方法としては、水分吸着剤としてゼオライト等のモレキュラーシーブを用いる方法が知られている。例えば、下記特許文献1には、HFO-1234yfなどのフルオロプロペンの流体をゼオライトに流通させて乾燥する方法が記載されている。しかしながら、水分吸着剤を用いて水分濃度の低いフルオロプロペンを処理するためには、大きな充填塔が必要であり、処理効率が悪いという欠点がある。しかも、吸着剤を用いる方法では、定期的に設備を停止して吸着剤を再生、交換する必要があるために生産性が悪く、更に、設備の2系列化が必要となる等の問題がある。また、吸着剤の交換の際には、多量の産業廃棄物が発生し、さらに、処理するハイドロフルオロオレフィンによっては吸着剤に吸着する懸念があり、本来除去すべき水の吸着を阻害することも考えられる。
【0005】
このため、ハイドロフルオロオレフィン等の各種の含フッ素化合物について、より効率よく水分を除去できる方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際特許公開WO2007/144632
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、ハイドロフルオロオレフィン等の各種の含フッ素化合物について、連続的に効率よく水分を除去することができ、しかも、廃棄物等の発生も少ない、工業的に有利な水分除去方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、水分を含む含フッ素化合物を、高濃度の金属塩水溶液に接触させることによって、連続的に効率よく含フッ素化合物から水分を除去できることを見出した。そして、この方法によれば、脱水処理に用いた金属塩水溶液は、水分量を低下させることによって繰り返し利用することができるために経済的に有利であり、しかも廃棄物を生じないために、環境負荷が少なく、工業的に優れた方法であることを見出した。更に、この方法で水分量を低減させた後、モレキュラーシーブ等の水分吸着剤を用いて脱水処理を行うことによって、簡単な方法で含フッ素化合物に含まれる水分量を大きく低減させることができ、しかも水分吸着剤の寿命や再生までの時間を延長することが可能となることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に研究を重ねた結果、完成されたものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記の含フッ素化合物の水分除去方法を提供するものである。
1. 水分を含む含フッ素化合物を、金属塩を含有する水溶液に接触させることを特徴とする、含フッ素化合物の水分除去方法。
2. 含フッ素化合物が、ハイドロフルオロオレフィン類、ハイドロクロロカーボン類、ハイドロクロロフルオロカーボン類及びハイドロフルオロカーボン類からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である上記項1に記載の方法。
3. 含フッ素化合物がハイドロフルオロオレフィン類である上記項2に記載の方法。
4. 含フッ素化合物が、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンである上記項3に記載の方法。
5. 金属塩が、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び臭化リチウムからなる群から選ばれた少なくとも一種である上記項1〜4のいずれかに記載の方法。
6. 金属塩が塩化リチウムである上記項5に記載の方法。
7. 金属塩を含有する水溶液の濃度が20〜50重量%である上記項1〜6のいずれかに記載の方法。
8. 上記項1〜7のいずれかの方法で用いた金属塩を含有する水溶液の水分量を減少させた後、含フッ素化合物の水分除去に再利用する工程を含む請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
9. 上記項1〜8のいずれかの方法によって含フッ素化合物の水分を除去した後、処理後の含フッ素化合物を、更に、水分吸着剤に接触させる工程を含む、含フッ素化合物の水分除去方法。
【0010】
以下、本発明の含フッ素化合物の水分除去方法について詳細に説明する。
【0011】
処理対象物
本発明では、処理対象物は、含フッ素化合物であり、その種類については特に限定はない。特に、製造時に水分が混入する可能性があるハイドロフルオロオレフィン類や、その中間体であるハイドロクロロカーボン類、ハイドロクロロフルオロカーボン類、ハイドロフルオロカーボン類等を処理対象物とする場合には、効率よく水分量の低減した製品を得ることができる点で有用な方法である。
【0012】
本発明の処理対象となるハイドロフルオロオレフィン類の具体例としては、下記化学式で表される化合物を例示できる。
CF3CF=CF2(HFO-1216yc)、CF3CF=CHF(HFO-1225ye)、
CF3CF=CH2(HFO-1234yf)、CF3CH=CHF(HFO-1234ze)、
CF3CH=CH2(HFO-1243zf)、CF3CCl=CH2(HCFO-1233xf)、
CF2ClCCl=CH2(HCFO-1232xf)、CF3CH=CHCl(HCFO-1233zd)、
CF3CCl=CHCl(HCFO-1223xd)、CClF2CCl=CHCl(HCFO-1222xd)、CFCl2CCl=CH2(HCFO-1231xf)、CH2ClCCl=CCl2(HCO-1230xa)。
【0013】
また、ハイドロクロロカーボン類の具体例としては、CCl3CHClCH2Cl(HCC-240db)等を挙げることができ、ハイドロクロロフルオロカーボン類の具体例としては、CCl2FCHClCH2Cl(HCFC-241db)、CClF2CHClCH2Cl(HCFC-242dc)、CF3CHClCH2Cl(HCFC-243db)、CF3CHClCH2F(HCFC-244db)、CF3CClFCH3(HCFC-244bb)等を挙げることができ、ハイドロフロロカーボン類の具体例としては、CF3CHFCHF2(HFC-236ea)、CF3CF2CH3(HFC-245cb)、CF3CH2CHF2(HFC-245fa)、CF3CHFCH2F(HFC-245eb)等を挙げることができる。
【0014】
水分除去方法
本発明の含フッ素化合物の水分除去方法では、処理対象物である水分を含む含フッ素化合物を、金属塩を含有する水溶液に接触させることが必要である。これにより、含フッ素化合物に含まれる水分が金属塩を含有する水溶液に吸収されて、含フッ素化合物に含まれる水分量を低減させることができる。
【0015】
水分を含む含フッ素化合物と金属塩を含有する水溶液とを接触させる方法については、特に限定はなく、例えば、含フッ素化合物が気体である場合には、金属塩を含む水溶液中に含フッ素化合物を導入してバブリングする方法などを適用できる。その他、水分を含む含フッ素化合物に、金属塩を含有する水溶液を直接噴霧する方法、金属塩を含有する水溶液をセラミックスや活性炭などの多孔質材に含浸させて、この多孔質材に水分を含む含フッ素化合物を接触させる方法も適用できる。特に、水分吸収塔を利用して、金属塩を含有する水溶液を塔頂部から散布し、気体状の含フッ素化合物を塔底部から導入して、塔頂部から抜き出す方法によれば、効率よく水分量を低減することができる。この際、水分吸収塔中に、含フッ素化合物及び金属塩のいずれと反応しない球状、粒状などの充填物を入れることによって、含フッ素化合物と金属塩を含有する水溶液とを効率よく接触させることが可能となる。
【0016】
上記した水分吸収塔を用いる方法では、処理温度、処理圧力などについては特に限定はなく、含フッ素化合物が気体として存在し、且つ効率よく水分を吸収できる条件を選択すればよい。通常は、常温、常圧の条件下において、含フッ素化合物を水分吸収塔に導入するために必要な条件でわずかに加圧して水分吸収塔に供給すればよい。
【0017】
金属塩を含有する水溶液では、金属塩としては、通常、乾燥剤などとして使用が可能な吸湿性を有する金属塩を用いることができる。この様な金属塩としては、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物等を用いることができる。ここで、アルカリ金属としては、Li、Na、K等を例示でき、アルカリ土類金属としては、Ca,Mg等を例示できる。また、ハロゲン化物としては、塩化物、臭化物などを例示できる。
【0018】
好ましい金属塩の具体例としては、塩化リチウム(LiCl)、塩化カルシウム(CaCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、臭化リチウム(LiBr)等を挙げることができ、特に、LiClが効率良く水分を吸収できる点で好ましい。
【0019】
金属塩を含有する水溶液では、金属塩の濃度については、効率良く水分を吸収するためには、できるだけ高濃度であることが好ましいが、濃度が高すぎると金属塩が結晶化し易くなる。具体的な濃度範囲については、使用する金属塩の種類に応じて、金属塩が結晶化しない範囲においてできるだけ高濃度とすればよい。例えば、LiClを用いる場合には、通常、20〜50重量%程度の濃度とすることが好ましく、36〜42重量%程度とすることがより好ましい。
【0020】
尚、上記した金属塩を含有する水溶液に代えて、濃硫酸、グリセリン、トリエチレングリコール等の吸水剤を用いるか、或いは、これらの吸水剤を上記した金属塩を含有する水溶液と併用することによっても、含フッ素化合物中の水分量を減少させることができる。
【0021】
本発明では、上記した方法によって含フッ素化合物から水分を除去した後、更に、必要に応じて、モレキュラーシーブなどの水分吸着剤を用いて脱水処理を行うことによって、水分含有量をより低減させることができる。これにより、より水分量の少ない高品質の含フッ素化合物を容易に得ることができる。また、この方法によれば、水分吸着剤の寿命や再生までの時間を延長することができ、工業的に有利な条件で含フッ素化合物の脱水処理を行うことができる。
【0022】
水分吸着剤としては、公知の水分吸着剤を用いることができる。このような水分吸着剤としては、ゼオライト等のモレキュラーシーブ、シリカゲル、シリカアルミナ等を例示できる。水分吸着剤による脱水処理は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、金属塩を含有する水溶液による脱水処理を行った含フッ素化合物を、水分吸着剤を充填した脱水装置に供給して、該装置内を通過させればよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明による含フッ素化合物の水分除去方法によれば、水分を含有するハイドロフルオロオレフィン類等の各種の含フッ素化合物について、簡単な処理方法によって連続的に効率良く水分量を減少させることができる。また、脱水処理に用いた金属塩水溶液は、水分量を低下させることによって繰り返し利用することができるために経済的に有利であり、しかも廃棄物を生じないために、環境負荷が少なく、工業的に有利な条件で含フッ素化合物中の水分量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1におけるHFO-1234yfの脱水処理工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
実施例1
下記の方法で2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)に含まれる水分を除去した。この方法について、図1に示すフロー図に基づいて説明する。
【0027】
高さ3m、内径12cmの水分吸収塔T11を用い、水分含有量2000重量ppmのHFO-1234yfを、13.8kg/hrの速度で塔底部より連続的に供給した(S11)。一方、濃度42重量%の塩化リチウム水溶液を塔頂から供給して、塔内に散布した(S13)。塔内に供給した際のHFO-1234yfの圧力は0.05MPaGであり、塔頂温度は、25℃であった。
【0028】
塔底部から供給したHFO-1234yfは、塔頂部から抜き出して次の工程に送った(S12)。この操作により、塔底部から供給された水分を含むHFO-1234yfが、塩化リチウム水溶液と十分に接触し、塔頂部から水分量の減少したHFO-1234yfを得ることができた。
【0029】
一方、塔頂部から供給した塩化リチウム水溶液は、塔底部から抜き出して、塔頂部に循環させた(S13)。抜き出した塩化リウム水溶液の一部については、脱水槽V11に送り、加熱真空脱水処理を行った。脱水処理によって生じた水分を排出し(S15)、水分濃度が減少した塩化リチウム水溶液を水分吸収塔T11の下部に仕込んだ(S14)。これにより、循環する塩化リチウム水溶液の濃度を一定に保持した。
【0030】
上記各工程における成分組成を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
以上の結果から明らかなように、上記した方法によれば、HFO-1234yfに含まれる水分量を連続的に効率よく低減できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を含む含フッ素化合物を、金属塩を含有する水溶液に接触させることを特徴とする、含フッ素化合物の水分除去方法。
【請求項2】
含フッ素化合物が、ハイドロフルオロオレフィン類、ハイドロクロロカーボン類、ハイドロクロロフルオロカーボン類及びハイドロフルオロカーボン類からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
含フッ素化合物がハイドロフルオロオレフィン類である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
含フッ素化合物が、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
金属塩が、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び臭化リチウムからなる群から選ばれた少なくとも一種である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
金属塩が塩化リチウムである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
金属塩を含有する水溶液の濃度が20〜50重量%である請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの方法で用いた金属塩を含有する水溶液の水分量を減少させた後、含フッ素化合物の水分除去に再利用する工程を含む請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかの方法によって含フッ素化合物の水分を除去した後、処理後の含フッ素化合物を、更に、水分吸着剤に接触させる工程を含む、含フッ素化合物の水分除去方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−56866(P2012−56866A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200218(P2010−200218)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】