説明

含フッ素化合物の製造方法および中間体

【課題】液晶材料等機能性材料として有用な含フッ素化合物を製造するための汎用性が高く、簡便かつ効率的な製造方法の提供。
【解決手段】アルケニル誘導体を出発原料とし、ジハロジフルオロメタンを付加し、エーテル化して、C=C−CF2O構造を有する化合物を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶化合物として有用な含フッ素化合物の簡便かつ効率的な製造方法およびそれに用いる中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶素子は携帯電話やPDAのような携帯機器、複写機やパソコンモニタのようなOA機器用表示装置、液晶テレビなどの家電製品用表示装置をはじめ、時計、電卓、測定器、自動車用計器、カメラなどの用途に使用されており、広い動作温度範囲、低動作電圧、高速応答性、化学的安定性等の種々の性能が要求されている。
このような液晶素子には液晶相を示す材料が使用されているが、従来、上記のような特性の全てを単独で満たす化合物は存在せず、優れた特性を備える液晶化合物や非液晶性化合物を複数混合することで、要求性能を満たす液晶組成物を得ていた。
【0003】
また、上記のような液晶組成物に使用される化合物に要求される種々の特性において、他の液晶材料または非液晶材料との相溶性に優れ、化学的にも安定であり、液晶素子に用いた場合に広い温度範囲で高速応答性に優れ低電圧駆動できる性質が重要である。
そして、これに関連して、特許文献1には特定構造を有するジフルオロメチルエーテル誘導体の製造方法が記載されており、特許文献2には特定構造を有するジフルオロメチレンオキシ誘導体の製造方法が記載されている。そして、これらの文献には、これらの製造方法を用いることにより、ジフルオロメチルエーテル誘導体またはジフルオロメチレンオキシ誘導体を、容易に安全にかつ高収率で製造することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−053513号公報
【特許文献2】特開2004−269432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の方法は、工程数が長い、毒性や腐食性のある試薬を使っている、スケールアップが容易ではない、等の問題がある。
【0006】
本発明は上記のような問題を解決することを目的とする。
すなわち、本発明は、液晶材料等機能性材料として有用な化合物を簡便かつ効率的に得ることができる、汎用性が高い製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明はこのような製造方法において有用な中間体を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前述した課題を解決するべく鋭意検討した結果、アルケニル誘導体を出発原料とし、ジハロジフルオロメタンを付加し、エーテル化をする製造方法により、目的とする化合物が高収率で得られることを見出した。本発明は、このような製造方法を提供することができる。
また、本発明はこのような製造方法における特定の中間体(後述する式(3)で表わされる化合物)を提供することができる。
【0008】
本発明は、下記第一工程および第二工程を有する、下式(5)で表される化合物の製造方法を提供する。
第一工程:下式(1)で表される化合物に、下式(2)で表される化合物を付加させて、下式(3)で表される化合物を製造する工程。
第二工程:下式(3)で表される化合物に、塩基の存在下で、下式(4)で表される化合物を反応させ、下式(5)で表される化合物を製造する工程。
R1-(A1-Z1)a-(A2-Z2)b-(A3-Z3)c-(A4-Z4)d-(CHR3-Ak)n-CH=CHR4 ・・・式(1)
CF2CX1X2 ・・・式(2)
R1-(A1-Z1)a-(A2-Z2)b-(A3-Z3)c-(A4-Z4)d-(CHR3-Ak)n-CHX1-CHR4-CF2X2
・・・式(3)
HO-Ph1-(Z5-A5)e-(Z6-A6)f-R2 ・・・式(4)
R1-(A1-Z1)a-(A2-Z2)b-(A3-Z3)c-(A4-Z4)d-(CHR3-Ak)n-CH=CR4-CF2O-Ph1-(Z5-A5)e-(Z6-A6)f-R2 ・・・式(5)
式(1)〜(5)中の記号は以下の意味を示す。
1およびR2:相互に独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、または炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基。前記脂肪族炭化水素基中の1つ以上の-CH-はエーテル性酸素原子またはチオエーテル性硫黄原子で置換されていてもよく、前記脂肪族炭化水素基中の1つ以上の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。
1、A2、A3、A4、A5およびA6:相互に独立して、トランス−1,4−シクロへキシレン基または1,4−フェニレン基。A、A、A、A4、A5およびA6の基中の1つ以上の水素原子は、ハロゲン原子、シアノ基または炭素数1〜10のアルキル基で置換されていてもよい。また、A、A、A、A4、A5およびA6の基中に存在する1つまたは2つの=CH−基は窒素原子で置換されていてもよく、1つまたは2つの−CH−基はエーテル性酸素原子またはエーテル性硫黄原子で置換されていてもよい。
1、Z2、Z3、Z4、Z5およびZ6:相互に独立して、単結合または炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基であり、基中の1つ以上の−CH−はエーテル性酸素原子またはチオエーテル性硫黄原子で置換されていてもよく、また基中の1つ以上の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。
Ph1:1,4−フェニレン基であり、基中の1つ以上の水素原子はハロゲン原子、シアノ基または炭素数1〜10のアルキル基で置換されていてもよい。
a、b、c、d、eおよびf:相互に独立して0または1。
およびX:相互に独立して、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子。
n:0または1。
Ak:炭素数1〜5のアルキレン基。
3およびR4:相互に独立して、水素原子、または炭素数1〜5のアルキル基。ただし、nが1の場合、RおよびRは共同して環を形成してもよい。
【0009】
本発明において、前記式(1)で表される化合物が下式(1−1)で表される化合物であり、前記式(3)で表される化合物が下式(3−1)で表される化合物であり、前記式(5)で表される化合物が下式(5−1)で表される化合物である製造方法が好ましい。
R1-(A1-Z1)a-(A2-Z2)b-(A3-Z3)c-(A4-Z4)d-CH=CHR4 ・・・式(1−1)
R1-(A1-Z1)a-(A2-Z2)b-(A3-Z3)c-(A4-Z4)d-CHX1-CHR4-CF2X2 ・・・式(3−1)
R1-(A1-Z1)a-(A2-Z2)b-(A3-Z3)c-(A4-Z4)d-CH=CR4-CF2O-Ph1-(Z5-A5)e-(Z6-A6)f-R2 ・・・式(5−1)
(式中の記号は前記と同じ意味を示す。)
【0010】
また、本発明において、前記式(1)で表される化合物が下式(1−2)で表される化合物であり、前記式(3)で表される化合物が下式(3−2)で表される化合物であり、前記式(5)で表される化合物が下式(5−2)で表される化合物である製造方法も好ましい。
【化1】

(式中の記号は前記と同じ意味を示す。)
【0011】
また、本発明は、前記式(3)で表される化合物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、液晶材料等機能性材料として有用な化合物を簡便かつ効率的に得ることができる、汎用性が高い製造方法を提供することができる。本発明の製造方法によって得られる前記式(5)で表される化合物は、他の液晶材料または非液晶材料との相溶性に優れ、化学的にも安定であり、かつ液晶電気光学素子に用いた場合に広い温度範囲で高速応答性に優れ、低電圧駆動できる。また、当該化合物を構成する環基、置換基および連結基を適宜選択することにより、液晶素子に要求される様々な性能、具体的には、例えば、広い動作温度範囲、低動作電圧、高速応答性、化学的安定性等を満たした液晶組成物を調製できる。
また、本発明はこのような製造方法において有用な中間体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明について説明する。
なお、以下では、式(1)で表される化合物を「化合物(1)」と記す場合があり、他の式(2)〜(5)で表される化合物も同様に記す場合がある。
【0014】
<R1およびR2
化合物(1)、化合物(3)、化合物(4)および化合物(5)において、R1およびR2は前記と同じ意味を示す。また、フッ素原子の置換と、エーテル性酸素原子またはチオエーテル性硫黄原子の置換とは、脂肪族炭化水素基に対して同時に行われていてもよい。また、脂肪族炭化水素基としては、アルキル基およびアルケニル基が好ましい。
【0015】
以下、エーテル性酸素原子、チオエーテル性硫黄原子およびフッ素原子の少なくとも1つで置換されたアルキル基を「置換アルキル基」と記す。
また、エーテル性酸素原子、チオエーテル性硫黄原子およびフッ素原子の少なくとも1つで置換されたアルケニル基を「置換アルケニル基」と記す。
【0016】
置換アルキル基としては、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アルキルチオ基、アルキルチオアルキル基、フルオロアルキル基、およびフルオロアルコキシ基が挙げられる。
また、置換アルケニル基としては、アルケニルオキシ基、アルケニルチオ基、およびフルオロアルケニル基が挙げられる。
【0017】
また、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基およびペンチル基が挙げられる。
また、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基およびプロポキシ基が挙げられる。
また、アルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基およびエトキシメチル基が挙げられる。
また、アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基およびプロピルチオ基が挙げられる。
また、アルキルチオアルキル基としては、メチルチオメチル基およびエチルチオメチル基が挙げられる。
また、フルオロアルキル基として、トリフルオロメチル基およびペンタフルオロエチル基が挙げられる。
また、フルオロアルコキシ基として、トリフルオロメトキシ基およびジフルオロメトキシ基が挙げられる。
また、アルケニル基としては、ビニル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、1−ペンテニル基、3−ブテニル基、3−ペンテニル基が挙げられる。
また、アルケニルオキシ基としては、アリルオキシ基が挙げられる。
また、アルケニルチオ基としては、アリルチオ基が挙げられる。
また、フルオロアルケニル基としては、1,2,2−トリフルオロビニル基が挙げられる。
【0018】
1、R2の各々は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、置換アルキル基、置換アルケニル基のいずれかであることが好ましく、炭素数2〜5の直鎖のアルキル基またはフッ素原子であることがより好ましい。
【0019】
<A1、A2、A3、A4、A5およびA6
化合物(1)、化合物(3)、化合物(4)および化合物(5)において、A1、A2、A3、A4、A5およびA6は、前記と同じ意味を示す。
【0020】
ここで、ハロゲン原子、シアノ基または炭素数1〜10のアルキル基の置換と、窒素原子または酸素原子の置換とは、同一の基に対して同時に行われていてもよい。
【0021】
また、A1、A2、A3、A4、A5およびA6の基中の1つ以上の水素原子が置換された基としては、1個または2個のフッ素原子で置換された1,4フェニレン基が挙げられる。
【0022】
また、1,4−フェニレン基の基中に存在する1個または2個の=CH−基が窒素原子で置換された基としては、2,5−ピリミジニレン基または2,5−ピリジニレン基が挙げられる。
また、トランス−1,4−シクロへキシレン基の基中に存在する1個または2個の−CH2−基は、エーテル性酸素原子またはエーテル性硫黄原子で置換された基として、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル基および1,3−ジチアン−2,5−ジイル基が挙げられる。
【0023】
1、A2、A3、A4、A5およびA6の各々は、トランス−1,4−シクロヘキシレン基、1,4−フェニレン基および1個または2個のフッ素原子で置換された1,4−フェニレン基であることが好ましい。
【0024】
ここで、これらの環基は1位および4位に結合手を有する。
なお、本明細書においては環基の右側を1位とし左側を4位とする。例えば化合物(1)中のA1はZ1と結合する側が1位であり、R1と結合する側が4位である。
【0025】
<Z1、Z2、Z3、Z4、Z5およびZ6
化合物(1)、化合物(3)、化合物(4)および化合物(5)において、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5およびZ6は、前記と同じ意味を示す。
【0026】
ここで、フッ素原子の置換と、エーテル性酸素原子またはチオエーテル性硫黄原子の置換とは、同一の基に対して同時に行われていてもよい。
また、脂肪族炭化水素基としては、アルキレン基、アルケニレン基またはアルキニレン基が好ましい。
また、アルキレン基としては、−(CH2)2−、−(CH2)4−が挙げられる。
また、アルケニレン基としては、−CH=CH−、−(CH2)2−CH=CH−、−CH2−CH=CH−CH2−、−CH=CH−(CH2)2−が挙げられる。
また、アルキニレン基としては、−C≡C−、−(CH2)2−C≡C−が挙げられる。
また、基中の1つ以上の水素原子がフッ素原子で置換されたアルキレン基としては、−CHF−CHF−、−(CF2)2−、−(CH2)3−CF2−が挙げられる。
また、基中の1個以上の−CH2−がエーテル性酸素原子またはチオエーテル性硫黄原子で置換されたアルキレン基としては、−CH2O−、−OCH2−、−CH2S−および−SCH2−が挙げられる。
【0027】
1、Z2、Z3、Z4、Z5およびZ6の各々は、単結合、−(CH2)−、−(CF2)2−のいずれかであることが好ましい。
【0028】
<Ph1
化合物(4)および化合物(5)において、Ph1は前記と同じ意味を示す。
Ph1としては、非置換、またはハロゲン原子で置換された1,4−フェニレン基が好ましく、フッ素原子で置換された1,4−フェニレン基が特に好ましい。
【0029】
<a、b、c、d、eおよびf>
化合物(1)、化合物(3)、化合物(4)および化合物(5)において、a、b、c、d、eおよびfは、前記と同じ意味を示す。
ここで、a+b+c+dが2であることが好ましく、e=f=0であることが好ましい。
【0030】
<その他の記号>
化合物(2)において、X1およびX2は、前記と同じ意味を示す。X1およびX2としては反応性の面から臭素原子が好ましい。
化合物(1)、化合物(3)および化合物(5)において、nは、前記と同じ意味を示し、0であることが好ましい。
化合物(1)、化合物(3)および化合物(5)において、Akは、前記と同じ意味を示す。
化合物(1)、化合物(3)および化合物(5)において、R3およびR4は、前記と同じ意味を示す。また、nが0の場合、Rは水素原子であることが好ましい。
【0031】
化合物(1)、化合物(3)および化合物(5)において、nが1である場合、R3とR4とが共同して環を形成し、「CHR3−Ak−CH=CR4」部分が4員環または6員環を形成することが好ましく、6員環を形成することがより好ましい。
また、nが1である場合、R3とR4とが共同して単結合、−CH2−または−(CH2)2−の連結基を作ることが好ましい。また、Akは単結合または−CH2−が好ましい。特に、R3とR4とが共同して単結合を作りAkも単結合である場合、またはR3とR4とが共同して−(CH2)2−を作りAkが−CH2−である場合が好ましい。
【0032】
本発明の製造方法において、化合物(1)、化合物(3)および化合物(5)におけるnが、0であることが好ましい。
すなわち、本発明は、前記式(1)で表される化合物が下式(1−1)で表される化合物であり、前記式(3)で表される化合物が下式(3−1)で表される化合物であり、前記式(5)で表される化合物が下式(5−1)で表される化合物である製造方法であることが好ましい。
【0033】
R1-(A1-Z1)a-(A2-Z2)b-(A3-Z3)c-(A4-Z4)d-CH=CHR4 ・・・式(1−1)
R1-(A1-Z1)a-(A2-Z2)b-(A3-Z3)c-(A4-Z4)d-CHX1-CHR4-CF2X2 ・・・式(3−1)
R1-(A1-Z1)a-(A2-Z2)b-(A3-Z3)c-(A4-Z4)d-CH=CR4-CF2O-Ph1-(Z5-A5)e-(Z6-A6)f-R2 ・・・式(5−1)
【0034】
式(1−1)、式(3−1)および式(5−1)における記号は、前述の式(1)〜式(5)における記号と共通するものであり、同一の記号は同一の内容を意味するものである。
【0035】
また、nが1である場合においても、化合物(1)、化合物(3)および化合物(5)におけるCHR3−Ak−CH=CR4部分が6員環を形成した構造である場合が好ましい。
すなわち、本発明は、前記式(1)で表される化合物が下式(1−2)で表される化合物であり、前記式(3)で表される化合物が下式(3−2)で表される化合物であり、前記式(5)で表される化合物が下式(5−2)で表される化合物である製造方法であることがより好ましい。
【0036】
【化2】

【0037】
式(1−2)、式(3−2)および式(5−2)における記号は、前述の式(1)〜式(5)における記号と共通するものであり、同一の記号は同一の内容を意味するものである。
【0038】
次に、本発明の製造方法を備える第一工程および第二工程について説明する。
なお、以下では、N,N−ジメチルホルムアミドを「DMF」、テトラヒドロフランを「THF」、ジメチルスルホキシドを「DMSO」と記す場合がある。
【0039】
<第一工程>
本発明の製造方法において第一工程は、化合物(1)に、化合物(2)を付加させて、化合物(3)を製造する工程である。
ここで、出発原料となる化合物(1)は、市販品としても入手可能である。また、特開平08−170078号公報、特開平10−114690号公報等の文献や、新実験化学講座(丸善株式会社出版)等、有機合成の成書に記載されている方法にて得ることができる。
また、化合物(2)もシグマアルドリッチ社等で市販品として入手可能である。
【0040】
第一工程の反応条件は無溶媒または溶媒中で化合物(1)と化合物(2)とラジカル開始剤と混合することにより実施可能である。
【0041】
溶媒としては、水、芳香族化合物、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、脂肪族エーテル化合物、環状エーテル化合物、非プロトン性極性溶媒、プロトン性極性溶媒ハロゲン原子化炭化水素を使用することが望ましい。例えば芳香族化合物としては、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、ブロモベンゼンが好ましい。脂肪族炭化水素としては、ヘキサン、ヘプタンが好ましい。脂環式炭化水素としては、シクロヘキサンが好ましい。脂肪族エーテル化合物としては、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルが好ましい。環状エーテル化合物としては、THF、ジオキサンが好ましい。非プロトン性極性溶媒としては、DMF、DMSO、アセトニトリルが好ましい。プロトン性極性溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール、n-ブチルアルコールが好ましい。ハロゲン原子化炭化水素としては、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタンが好ましい。また前記溶媒を混合しても反応を実施することができる。より好ましい反応溶媒は、減圧濃縮での留去が容易な芳香族化合物、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、脂肪族エーテル化合物、および環状エーテル化合物である。
【0042】
溶媒の使用量については、反応が安全にかつ安定に実施できる量であればよい。好ましくは化合物(1)に対して質量で0〜20倍量の範囲である。
反応温度は、撹拌を良好に行える温度であればよい。化合物の構造にもよるが、−40℃〜80℃の範囲が好ましい。より好ましい反応温度は原料である化合物(1)または生成物である化合物(3)の−CF2−の分解を抑制し、かつ転化率を向上させることができる−40℃〜80℃の範囲である。
【0043】
化合物(2)の使用量は、化合物(1)に対して、当量以上が好ましく、より好ましくは1.05〜6.5当量の範囲内である。
【0044】
ラジカル開始剤としては、アゾ化合物、ボラン化合物、無機塩が使用可能である。例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、トリエチルボラン、亜ジチオン酸ナトリウムが好ましい。
アゾ化合物の添加量は、化合物(1)に対して0.01当量以上であることが好ましい。より好ましくは、化合物(1)に対して0.01〜1.5当量の範囲である。
【0045】
<第二工程>
次に第二工程について説明する。
本発明の製造方法において第二工程は、化合物(3)に、塩基の存在下で、化合物(4)を反応させ、化合物(5)を製造する工程、すなわちエーテル化する工程である。
【0046】
エーテル化反応に使用する化合物(4)は、市販品としてシグマアルドリッチ社等から入手可能である。また、R.L.Kidwell等の方法(Org.Syn.,Coll.Vol.,5,918(1973).)、特開平3−246244号公報、特開昭62−207229号公報に記載の方法、実験化学講座(丸善株式会社出版)等を参考にしても化合物(4)の製造が可能である。
【0047】
第二工程のエーテル化反応は、一般に知られている反応の条件下で実施可能である。
エーテル化反応に使用できる塩基としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、金属アルコキシド類、アルカリ金属の水素化物、酸化銀等金属酸化物、アミン類が好ましい。例えばアルカリ金属水酸化物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが好ましい。例えばアルカリ金属の炭酸塩としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸セシウムが好ましい。例えば金属アルコキシド類としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム−tert−ブトキシドが好ましい。例えばアルカリ金属の水素化物としては、水素化ナトリウムが好ましい。例えば金属酸化物としては、ジエチルアミン、トリエチルアミンが好ましい。より好ましくは、取り扱いが容易であるアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩である。
【0048】
また塩基の使用量については、化合物(3)に対して2当量以上であることが好ましく、2〜5当量であることがより好ましい。2当量以上であると、反応の転化率が向上する傾向がある。
【0049】
反応溶媒については、化合物(3)、塩基、および化合物(4)のいずれとも反応しないものであれば、通常のものを使用できる。例えば、芳香族化合物、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、脂肪族エーテル化合物、環状エーテル化合物、非プロトン性極性溶媒、水を反応溶媒として使用できる好適例として挙げられる。さらに例えば芳香族化合物としては、ベンゼン、トルエンが好ましい。脂肪族炭化水素としては、ヘキサン、ヘプタンが好ましい。脂環式炭化水素としては、シクロヘキサンが好ましい。脂肪族エーテル化合物としては、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルが好ましい。環状エーテル化合物としては、THF、ジオキサンが好ましい。非プロトン性極性溶媒としては、DMF、DMSO、アセトニトリル、1−メチル−2−ピロリジノンが好ましい。また前記溶媒を混合してもエーテル化反応を実施することができる。より好ましい反応溶媒は、反応速度を向上させ、短時間に反応を完結させることができる比較的沸点の高い芳香族化合物、環状エーテル化合物、および非プロトン性極性溶媒である。
【0050】
溶媒の使用量については、反応が安全にかつ安定に実施できる量であればよい。好ましくは化合物(3)に対して質量で5〜20倍量の範囲である。
【0051】
反応温度は、室温〜200℃の範囲が好ましい。より好ましくは、化合物(3)および生成物である化合物(5)の−CF2−基の分解を抑制し、かつ転化率を向上させることができる80℃〜130℃の範囲である。
【0052】
反応時間については、化合物(3)の種類、反応温度に大きく依存するが、80〜130℃の範囲で実施する場合には1〜10時間が好ましい。
【0053】
第二工程のエーテル化反応においては、ハロゲン化塩または第4級アンモニウム塩を添加することにより反応速度を向上させることが可能である。ハロゲン化塩としては、臭化カリウム、ヨウ化カリウムが好ましい。第4級アンモニウム塩としては、テトラアルキル基アンモニウムハライド、テトラアルキル基アンモニウムテトラフルオロボレートが好ましい。ハロゲン化塩または第4級アンモニウム塩の使用量は、化合物(3)に対して0.03当量以上であることが好ましい。より好ましくは、化合物(3)に対して0.05〜0.3当量の範囲である。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお以下の例は、本発明を制限することなく、本発明を例示しようとするものである。
【0055】
1−(2−トランス‐4−(トランス−4−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル)−1,1−ジフルオロプロポキシ)−3,4,5−トリフルオロベンゼンを製造した。この化合物は、上記化合物(5)においてa=b=1、c=d=e=f=0、R1がn−プロピル基、A1およびA2がいずれもトランス―1,4−シクロへキシレン基、Z1およびZ2がいずれも単結合、Ph1が2,6−ジフルオロ−1,4−フェニレン基、R2がフッ素原子である化合物に相当する。
【0056】
[第一工程]
公知の方法により合成した1−(2−トランス‐4−(トランス−4−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル)エチレン23g(98mmol)、トリエチルボラン(和光純薬株式会社製)の1.0mol/lTHF溶液50ml、ジブロモジフルオロメタン(シグマアルドリッチ社)34g(162mmol)を加え、氷冷しながら溶液中に酸素を通じた。そして半日ごとにジフルオロブロモメタン20g(95mmol)を追加した。これにより、2日で反応が完結した。
この後、水100mlを加え反応を停止し、通常の後処理を行い、抽出液を減圧濃縮して1,3−ジブロモ−1,1−ジフルオロ-3−(トランス‐4−(トランス−4−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル)プロパンを24g得た。収率は61%であった。
【0057】
[第二工程]
第一工程で得た1,3−ジブロモ−1,1−ジフルオロ―3−(トランス―4−(トランス−4−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル)プロパン24g(54.90mmol)、炭酸カリウム(日本曹達社製)22.76g(164.71g)、3,4,5―トリフルオロフェノール(シグマアルドリッチ社製)(8.94g(60.39mmol))、DMF110mlを110℃で3時間撹拌した。冷却後、ヘキサン100mlで2回抽出を行い、通常の後処理を行ったところ、粗生成物が32g得られた。これを展開溶媒ヘキサンを用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製することで、1−(2−トランス―4−(トランス−4−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル)−1,1−ジフルオロプロポキシ)−3,4,5−トリフルオロベンゼンが15g(37.2mmol)得られた。収率は68%であった。
【0058】
なお、各種スペクトルデータの測定結果は該当化合物の構造を強く支持した。
1H NMR(CDCl3,δ):6.80(m,2H,Ar),6.25(m,1H,vinyl),5.52(m,1H,vinyl),2.0‐0.7(br,27H).
19FNMR(CDCl3,δ):-67.84(d,2F,CF2O),−133.56(m,2F,Ar),−164.88(m,1F,Ar).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記第一工程および第二工程を有する、下式(5)で表される化合物の製造方法。
第一工程:下式(1)で表される化合物に、下式(2)で表される化合物を付加させて、下式(3)で表される化合物を製造する工程。
第二工程:下式(3)で表される化合物に、塩基の存在下で、下式(4)で表される化合物を反応させ、下式(5)で表される化合物を製造する工程。
R1-(A1-Z1)a-(A2-Z2)b-(A3-Z3)c-(A4-Z4)d-(CHR3-Ak)n-CH=CHR4 ・・・式(1)
CF2CX1X2 ・・・式(2)
R1-(A1-Z1)a-(A2-Z2)b-(A3-Z3)c-(A4-Z4)d-(CHR3-Ak)n-CHX1-CHR4-CF2X2
・・・式(3)
HO-Ph1-(Z5-A5)e-(Z6-A6)f-R2 ・・・式(4)
R1-(A1-Z1)a-(A2-Z2)b-(A3-Z3)c-(A4-Z4)d-(CHR3-Ak)n-CH=CR4-CF2O-Ph1-(Z5-A5)e-(Z6-A6)f-R2 ・・・式(5)
式(1)〜(5)中の記号は以下の意味を示す。
1およびR2:相互に独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、または炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基。前記脂肪族炭化水素基中の1つ以上の-CH-はエーテル性酸素原子またはチオエーテル性硫黄原子で置換されていてもよく、前記脂肪族炭化水素基中の1つ以上の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。
1、A2、A3、A4、A5およびA6:相互に独立して、トランス−1,4−シクロへキシレン基または1,4−フェニレン基。A、A、A、A4、A5およびA6の基中の1つ以上の水素原子は、ハロゲン原子、シアノ基または炭素数1〜10のアルキル基で置換されていてもよい。また、A、A、A、A4、A5およびA6の基中に存在する1つまたは2つの=CH−基は窒素原子で置換されていてもよく、1つまたは2つの−CH−基はエーテル性酸素原子またはエーテル性硫黄原子で置換されていてもよい。
1、Z2、Z3、Z4、Z5およびZ6:相互に独立して、単結合または炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基であり、基中の1つ以上の−CH−はエーテル性酸素原子またはチオエーテル性硫黄原子で置換されていてもよく、また基中の1つ以上の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。
Ph1:1,4−フェニレン基であり、基中の1つ以上の水素原子はハロゲン原子、シアノ基または炭素数1〜10のアルキル基で置換されていてもよい。
a、b、c、d、eおよびf:相互に独立して0または1。
およびX:相互に独立して、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子。
n:0または1。
Ak:炭素数1〜5のアルキレン基。
3およびR4:相互に独立して、水素原子、または炭素数1〜5のアルキル基。ただし、nが1の場合、RおよびRは共同して環を形成してもよい。
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物が下式(1−1)で表される化合物であり、前記式(3)で表される化合物が下式(3−1)で表される化合物であり、前記式(5)で表される化合物が下式(5−1)で表される化合物である、請求項1に記載の製造方法。
R1-(A1-Z1)a-(A2-Z2)b-(A3-Z3)c-(A4-Z4)d-CH=CHR4 ・・・式(1−1)
R1-(A1-Z1)a-(A2-Z2)b-(A3-Z3)c-(A4-Z4)d-CHX1-CHR4-CF2X2 ・・・式(3−1)
R1-(A1-Z1)a-(A2-Z2)b-(A3-Z3)c-(A4-Z4)d-CH=CR4-CF2O-Ph1-(Z5-A5)e-(Z6-A6)f-R2
・・・式(5−1)
(式中の記号は前記と同じ意味を示す。)
【請求項3】
前記式(1)で表される化合物が下式(1−2)で表される化合物であり、前記式(3)で表される化合物が下式(3−2)で表される化合物であり、前記式(5)で表される化合物が下式(5−2)で表される化合物である、請求項1に記載の製造方法。
【化1】

(式中の記号は前記と同じ意味を示す。)
【請求項4】
下式(3)で表される化合物。
R1-(A1-Z1)a-(A2-Z2)b-(A3-Z3)c-(A4-Z4)d-(CHR3-Ak)n-CHX1-CHR4-CF2X2
・・・式(3)
(式中の記号は前記と同じ意味を示す。)

【公開番号】特開2010−270009(P2010−270009A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120895(P2009−120895)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000108030)AGCセイミケミカル株式会社 (130)
【Fターム(参考)】