説明

含フッ素硬化性組成物及びその製造方法

【解決手段】(a)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有する数平均分子量3,000〜100,000の直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物:100質量部、
(b)1分子中にSiH基を少なくとも2個有する含フッ素有機ケイ素化合物:(a)成分中のアルケニル基に対する(b)成分中のSiH基のモル比が0.4〜5.0、
(c)ヒドロシリル化反応触媒:触媒量、
(d)シリカ系充填材:1〜100質量部、
(e)溶融点が100〜200℃の熱可塑性フッ素系樹脂:1〜100質量部
を含有してなることを特徴とする含フッ素硬化性組成物、
及び(e)成分を、その溶融点以上の温度で、(a)成分、又は(a)成分と(d)成分の混合物に添加混合した後、残りの成分を添加混合する該組成物の製造方法。
【効果】低粘度で成形し易く、耐熱性等に優れ、特に燃料油透過性を低減化し得る硬化物を与える含フッ素硬化性組成物及びその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低粘度で成形し易く、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性及び機械的強度に優れ、特に燃料油透過性を低減化し得る硬化物を与える含フッ素硬化性組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有する直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有する有機ケイ素化合物、及びヒドロシリル化反応触媒からなる組成物から、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、離型性、撥水性、撥油性、耐候性等に優れた硬化物が得られることは、特許第2990646号公報等により知られている。
このような組成物は、ほとんどの用途において、これで十分な性能を有しているが、HC排出物低減化などの近年の環境問題に対応するため、さらに燃料油透過性の低減化が求められている。
しかしながら、このような燃料油透過性を低減化し得る硬化物を与える適当な含フッ素硬化性組成物がないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2990646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、低粘度で成形し易く、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性及び機械的強度に優れ、特に燃料油透過性を低減化し得る硬化物を与える含フッ素硬化性組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記目的を達成するために検討した結果、
(a)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中に
−Ca2aO−
(式中、aは1〜6の整数である。)
の繰り返し単位を含むパーフルオロポリエーテル構造を有する数平均分子量3,000〜100,000の直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物:100質量部、
(b)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有する含フッ素有機ケイ素化合物:(a)成分中のアルケニル基に対する(b)成分中のSiH基のモル比が0.4〜5.0となる量、
(c)ヒドロシリル化反応触媒:触媒量、
(d)シリカ系充填材:1〜100質量部、
(e)溶融点が100〜200℃の熱可塑性フッ素系樹脂:1〜100質量部
を含有してなることを特徴とする含フッ素硬化性組成物によれば、低粘度で成形し易く、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性及び機械的強度に優れ、特に燃料油透過性を低減化し得る硬化物を与えることを知見するとともに、該含フッ素硬化性組成物の製造に際し、(e)成分を、該(e)成分の溶融点以上の温度で、(a)成分、又は(a)成分と(d)成分の混合物に添加混合した後、残りの成分を添加混合することを特徴とする含フッ素硬化性組成物の製造方法によれば、各成分が均一な組成物が得られることを知見し本発明をなすに至った。
【0006】
従って、本発明は、下記含フッ素硬化性組成物及びその製造方法を提供する。
請求項1:
(a)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中に
−Ca2aO−
(式中、aは1〜6の整数である。)
の繰り返し単位を含むパーフルオロポリエーテル構造を有する数平均分子量3,000〜100,000の直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物:100質量部、
(b)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有する含フッ素有機ケイ素化合物:(a)成分中のアルケニル基に対する(b)成分中のSiH基のモル比が0.4〜5.0となる量、
(c)ヒドロシリル化反応触媒:触媒量、
(d)シリカ系充填材:1〜100質量部、
(e)溶融点が100〜200℃の熱可塑性フッ素系樹脂:1〜100質量部
を含有してなることを特徴とする含フッ素硬化性組成物。
請求項2:
(a)成分のパーフルオロポリエーテル構造が、
【化1】

(式中、qは20〜600の整数である。)
で表されることを特徴とする請求項1記載の含フッ素硬化性組成物。
請求項3:
(a)成分が下記一般式(1)
【化2】

[式中、Xは−CH2−、−CH2O−、−CH2OCH2−又は−Y−NR1−CO−(但し、Yは−CH2−又は下記構造式(Z)で示される基であり、R1は水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基である。)である。X’は−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR2−Y’−(但し、Y’は−CH2−又は下記構造式(Z’)で示される基であり、R2は水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基である。)である。pは独立に0又は1、rは2〜6の整数、m、nはそれぞれ0〜600の整数であり、更にmとnの和が20〜600である。]
【化3】

(o,m又はp位で示されるジメチルフェニルシリレン基)
【化4】

(o,m又はp位で示されるジメチルフェニルシリレン基)
で表されることを特徴とする請求項1又は2記載の含フッ素硬化性組成物。
請求項4:
(b)成分が、1分子中に1個以上の一価のパーフルオロ基、一価のパーフルオロオキシ基、二価のパーフルオロ基又は二価のパーフルオロオキシ基を有し、かつケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の含フッ素硬化性組成物。
請求項5:
(d)成分が、BET比表面積30m2/g以上で表面が疎水化処理されたシリカ系充填材である請求項1〜4のいずれか1項記載の含フッ素硬化性組成物。
請求項6:
(e)成分の熱可塑性フッ素系樹脂が、下記一般式(2)で示される
CF2=CXR1 (2)
(式中、Xは水素原子又はハロゲン原子であり、R1はハロゲン原子又は1〜10個の炭素原子を有するアルキル基、環状アルキル基、若しくはアリール基であり、これらの基はヘテロ原子を1個以上含んでいてもよく、また部分的に若しくは完全にハロゲン化されていてもよい。)
なる構造を有する少なくとも1種のモノマーから誘導される共重合単位を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の含フッ素硬化性組成物。
請求項7:
請求項1〜6のいずれか1項に記載の含フッ素硬化性組成物の製造に際し、(e)成分を、該(e)成分の溶融点以上の温度で、(a)成分、又は(a)成分と(d)成分の混合物に添加混合した後、残りの成分を添加混合することを特徴とする含フッ素硬化性組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低粘度で成形し易く、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性及び機械的強度に優れ、特に燃料油透過性を低減化し得る硬化物を与える含フッ素硬化性組成物及びその製造方法を提供することができるので、自動車や化学機器、化学プラント等のゴム部材の用途に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
[(a)成分]
本発明の(a)成分は、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有する数平均分子量が3,000〜100,000の直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物である。
【0009】
ここで、パーフルオロポリエーテル構造としては、
−Ca2aO−
(式中、aは1〜6の整数である。)
の多数の繰り返し単位を含むもので、例えば下記一般式(2)で示されるものなどが挙げられる。
【化5】

(式中、qは20〜600、好ましくは30〜400、より好ましくは30〜200の整数である。)
【0010】
上記式−Ca2aO−で示される繰り返し単位は、例えば下記の単位等が挙げられる。
なお、上記パーフルオロポリエーテル構造は、これらの繰り返し単位の1種単独で構成されていてもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
−CF2O−
−CF2CF2O−
−CF2CF2CF2O−
−CF(CF3)CF2O−
−CF2CF2CF2CF2O−
−CF2CF2CF2CF2CF2CF2O−
−C(CF32O−
これらの中では、特に下記単位が好適である。
−CF2O−
−CF2CF2O−
−CF2CF2CF2O−
−CF(CF3)CF2O−
【0011】
この(a)成分の直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物におけるアルケニル基としては、炭素数2〜8、特に2〜6で、かつ末端にCH2=CH−構造を有するものが好ましく、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等の末端にCH2=CH−構造を有する基、特にビニル基、アリル基等が好ましい。
【0012】
かかる(a)成分としては、下記一般式で表される化合物を挙げることができる。
CH2=CH−(X)p−Rf1−(X’)p−CH=CH2 (3)
CH2=CH−(X)p−Q−Rf1−Q−(X’)p−CH=CH2 (4)
[式中、Xは独立に−CH2−、−CH2O−、−CH2OCH2−又は−Y−NR1−CO−(但し、Yは−CH2−又は下記構造式(Z)で示される基であり、R1は水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基である。)であり、X’は独立に−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR2−Y’−(但し、Y’は−CH2−又は下記構造式(Z’)で示される基であり、R2は水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基である。)
【化6】

(o,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)
【化7】

(o,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)
で表される基である。Rf1は二価のパーフルオロポリエーテル構造であり、上記式(2)、即ち−(Ca2aO)q−で示される繰り返し単位を含むものが好ましい。Qは炭素数1〜15の二価の炭化水素基であり、エーテル結合を含んでいてもよく、具体的にはアルキレン基、エーテル結合を含んでいてもよいアルキレン基である。pは独立に0又は1である。]
【0013】
このような(A)成分の直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物としては、特に下記一般式(1)で示されるものが好適である。
【化8】

[式中、X、X’及びpは前記と同じであり、rは2〜6の整数、m、nはそれぞれ0〜600の整数であり、更にmとnの和が20〜600である。]
【0014】
上記式(1)の直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による数平均分子量が3,000〜100,000、特に3,000〜30,000であることが望ましい。数平均分子量が3,000未満では、必要とされる耐薬品性を満たすことができない可能性があるので好ましくなく、数平均分子量が100,000を超えると、他成分との相溶性に問題を生じる場合があるので好ましくない。
【0015】
一般式(1)で表される直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物の具体例としては、下記式で表されるものが挙げられる。
【0016】
【化9】

【0017】
【化10】

【0018】
【化11】

(式中、m及びnはそれぞれ0〜600、m+n=20〜600を満足する整数を示す。)
【0019】
更に本発明では、上記式(1)の直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物を目的に応じた所望の数平均分子量に調節するため、予め上記したような直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物を分子内にSiH基を2個含有する有機ケイ素化合物と通常の方法及び条件でヒドロシリル化反応させ、鎖長延長した生成物を(a)成分として使用することも可能である。
これらの直鎖状フルオロポリエーテル化合物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0020】
[(b)成分]
(b)成分の含フッ素有機ケイ素化合物は上記(a)成分の架橋剤、鎖長延長剤として作用するものである。(a)成分との相溶性、分散性、硬化後の均一性を考慮して、1分子中に1個以上の一価のパーフルオロ基、一価のパーフルオロオキシ基、二価のパーフルオロ基又は二価のパーフルオロオキシ基を有していて、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個、好ましくは3個以上有する有機ケイ素化合物であれば特に制限されるものではない。
【0021】
上記一又は二価のパーフルオロ基、パーフルオロオキシ基としては、下記一般式で示される基を例示することができる。
g2g+1
(式中、gは1〜20、好ましくは2〜10の整数である。)
−Cg2g
(式中、gは1〜20、好ましくは2〜10の整数である。)
【化12】

(式中、fは2〜200、好ましくは2〜100、hは1〜3の整数である。)
【化13】

(式中、i及びjは1以上の整数、i+jの平均は2〜200、好ましくは2〜100である。)
−(CF2O)c−(CF2CF2O)d−CF2
(但し、c及びdはそれぞれ1〜50の整数である。)
【0022】
また、これらの一又は二価のパーフルオロアルキル基、パーフルオロオキシ基は、ケイ素原子に直接結合していてもよいが、ケイ素原子と二価の連結基を介して結合していてもよい。ここで、二価の連結基としては、アルキレン基、アリーレン基やこれらの組み合わせでも、あるいはこれらにエ一テル結合酸素原子やアミド結合、カルボニル結合等を介在するものであってもよく、例えば炭素数2〜12のものが好ましく、下記の基等が挙げられる。
−CH2CH2
−CH2CH2CH2
−CH2CH2CH2OCH2
−CH2CH2CH2−NH−CO−
−CH2CH2CH2−N(Ph)−CO−(但し、Phはフェニル基である。)
−CH2CH2CH2−N(CH3)−CO−
−CH2CH2CH2−O−CO−
【0023】
また、この(b)成分の有機ケイ素化合物における上記一価又は二価の含フッ素置換基以外のケイ素原子に結合した一価の置換基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基:あるいはこれらの基の水素原子の一部が塩素原子、シアノ基等で置換された例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、シアノエチル基等の炭素数1〜20の非置換又は置換炭化水素基が挙げられる。
【0024】
(b)成分の含フッ素有機ケイ素化合物は、環状でも鎖状でもよく、更に三次元網状でもよい。更に、この含フッ素有機ケイ素化合物における分子中のケイ素原子数は特に制限されないが、通常2〜60、特に3〜30程度が好ましい。
【0025】
この様な有機ケイ素化合物としては、例えば下記のような化合物が挙げられ、これらの化合物は単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。なお、下記式でMeはメチル基、Phはフェニル基を示す。
【0026】
【化14】

【0027】
【化15】

【0028】
【化16】

【0029】
【化17】

【0030】
【化18】

【0031】
【化19】

【0032】
【化20】

【0033】
【化21】

【0034】
【化22】

【0035】
【化23】

【0036】
【化24】

【0037】
【化25】

(n=1〜50,m=1〜50,n+m=2〜50)
【0038】
【化26】

【0039】
【化27】

【0040】
【化28】

【0041】
【化29】

【0042】
(b)成分の配合量は、通常(a)成分中に含まれるビニル基、アリル基、シクロアルケニル基等のアルケニル基1モルに対して、(b)成分中のヒドロシリル基、即ちSiH基の合計量が好ましくは0.4〜5.0モル、より好ましくは0.8〜3.0モル供給する量が好適である。(b)成分中の配合量が少なすぎると架橋度合いが不十分で硬化物の強度が不足する場合があり、多すぎても同様に硬化物の強度が不足する場合がある。また、この(b)成分は1種単独で使用してもいいし、2種以上のものを併用してもよい。
【0043】
[(c)成分]
(c)成分のヒドロシリル化反応触媒としては、遷移金属、例えばPt、Rh、Pd等の白金族金属やこれら遷移金属の化合物などが好ましく使用される。本発明では、これら化合物が一般に貴金属の化合物で高価格であることから、比較的入手しやすい白金化合物が好適に用いられる。白金化合物としては、具体的に塩化白金酸又は塩化白金酸とエチレン等のオレフインとの錯体、アルコールやピニルシロキサンとの錯体、白金/シリカ、アルミナ又はカーボン等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
白金化合物以外の白金族金属化合物としては、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム系化合物等が知られており、例えばRhCl(PPh33、RhCl(CO)(PPh32、RhC1(C242、Ru3(CO)12、IrCl(CO)(PPh32、Pd(PPh34等が挙げられる(なお、Phはフェニル基を示す)。これらの触媒の使用量は、特に制限されるものではなく、触媒量で所望とする硬化速度を得ることができるが、経済的見地又は良好な硬化物を得るためには組成物全量に対して0.1〜1,000ppm(白金族金属換算)、より好ましくは0.1〜500ppm(同上)程度の範囲とするのがよい。
【0045】
[(d)成分]
本発明の(d)成分は、シリカ系充填材である。シリカ系充填材としては、石英やガラスを粉砕した粉砕シリカ、一旦溶融してから球粒状に成形する溶融シリカ、ケイ酸ソーダに鉱酸を加えて製造される湿式シリカ、シラン化合物を燃焼させて製造される乾式シリカなどが挙げられるが、機械的強度を向上させる観点から、BET比表面積が30m2/g以上のシリカ系充填材が良く、湿式シリカ、乾式シリカがこれに該当するが、吸着水分が少ない乾式シリカが好適である。さらに、ポリマー成分との濡れ性を考慮すると、シリカフィラー表面が疎水化処理されたものが好ましい。シリカフィラー表面の疎水化処理が施されていないと、十分な機械的強度が得られない、組成物の粘度が異常に高くなるなどの弊害が生じやすい。
(d)成分の配合量は、(a)成分100質量部に対して1〜100質量部である。1質量部未満ではフィラーの補強性効果が十分に得られない場合があり、100質量部を超えると組成物の粘度が高くなり、作業性を損なう可能性がある。
【0046】
[(e)成分]
本発明の(e)成分は、溶融点が100〜200℃の熱可塑性フッ素系樹脂である。このような化合物は下記一般式(2)で示される
CF2=CXR1 (2)
(式中、Xは水素原子又はハロゲン原子であり、R1はハロゲン原子又は1〜10個好ましくは1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、環状アルキル基、若しくはアリール基であり、これらの基は酸素若しくは窒素のようなヘテロ原子を1個以上含んでいてもよく、また部分的に若しくは完全にハロゲン化されていてもよい。)
なる構造を有する少なくとも1種のモノマーから誘導される共重合単位を含むものである。
【0047】
このようなモノマーの例としては、テトラフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、2-クロロペンタフルオロプロペン、ジクロロジフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、たとえばCF3OCF=CF2またはCF3CF2CF2OCF=CF2、及びそれらの混合物などが挙げられる。
【0048】
また、フッ素化された上記した複数種のモノマーと共重合される、実質的にフッ素化されていないオレフィン系のモノマーとしては、下記一般式(3)で示される
CH2=CXR2 (3)
(式中、Xは水素原子又はハロゲン原子であり、 R2はR2及びXが共にフッ素原子であることはないという条件付きで、水素原子、ハロゲン原子、1〜10個好ましくは1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、環状アルキル基、若しくはアリール基であり、これらの基は酸素若しくは窒素のようなヘテロ原子を1個以上含んでいてもよく、また部分的に若しくは完全にハロゲン化されていてもよい。)
なる構造を有する少なくとも1種のモノマーから誘導される共重合単位を必要に応じて含んでもよい。
【0049】
このようなモノマーの例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンなどが挙げられる。
【0050】
また、これらモノマー単位から誘導される共重合体の例としては、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとフッ化ビニリデンの共重合体、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとエチレン又はプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレンとプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレンとフッ化ビニリデンとプロピレンの共重合体などが挙げられる。
【0051】
(e)成分は、上記共重合体単位を含み、溶融点が100〜200℃、曲げ弾性率(試験方法:ASTMD790)が50〜300MPa、好ましくは70〜250MPaの熱可塑性フッ素系樹脂が望ましい。
このような熱可塑性フッ素系樹脂としては、具体的には、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、及びフッ化ビニリデンを共重合したものが挙げられる。上記の特性を得るためにはテトラフルオロエチレン30〜70質量%、ヘキサフルオロプロピレン10〜30質量%、フッ化ビニリデン5〜50質量%の共重合体が例示される。
【0052】
このような熱可塑性フッ素系樹脂は商業的に入手可能であり、例えば、ダイニオン社(Dyneon)のTHVシリーズ、ソルベイ社(Solvay)のKYNER、セントラル硝子社のセフラルソフト、ダイキン社のダイエルサーモプラスチック、旭硝子社のAFLASなどが挙げられる。
【0053】
(e)成分の配合においては、(e)成分の溶融点以上で行わなければならない。溶融点未満では、(e)成分が固体状を維持する為、組成物中に均一に分散することができない。(e)成分の溶融点以上で混合することによって、溶融した状態でせん断応力をかけ、均一分散させることが可能となる。
(e)成分の配合量は、(a)成分100質量部に対して1〜100質量部である。好ましくは、3〜50質量部である。少なすぎると、燃料透過低減化の十分な効果が得られない場合があり、多すぎると、硬化物のゴム特性を損なう可能性がある。
【0054】
その他の成分
本発明の組成物には、(a)〜(e)成分の他に本発明の効果を損なわない範囲で従来公知の各種の添加剤を配合することができる。このような成分としては、具体的に1−エチル−1−ヒドロキシシクロヘキサン、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、フェニルブチノールなどのアセチレンアルコールや3−メチル−3−ペンテン−1−イン、3,5−ジメチル−3−ヘキセン−1−イン等のヒドロシリル化反応触媒の制御剤、酸化鉄、酸化セリウム、カーボンブラック等の顔料や、着色剤、染料、酸化防止剤、一部又は全てがフッ素変性されたオイル状化合物等が挙げられる。なお、これら任意成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0055】
組成物の製造方法
本発明の含フッ素硬化性組成物の製造に際しては、(e)成分を、該(e)成分の溶融点以上の温度で、(a)成分又は(a)成分と(d)成分の混合物に添加混合した後、残りの成分を添加混合する。
(e)成分を、溶融点以上の温度で添加混合する意味は上述の通りである。また、(e)成分を、(a)成分又は(a)成分と(d)成分の混合物に添加混合した後、残りの成分を添加混合する意味は、組成物がスコーチしやすくなるのを防止するためである。
【0056】
使用方法
本発明の組成物は、用途に応じて前記(a)〜(e)成分の必須成分全てを1つの組成物として取り扱う、いわゆる1液タイプとして構成してもよいし、あるいは例えば前記(a)、(c)、(d)及び(e)成分を一方の組成物とし、(a)、(b)、(d)及び(e)成分を他方の組成物とする、いわゆる2液タイプとして構成し、使用にあたってこれを混合してもよい。
この場合も組成物の製造に際しては、上述の通り、(e)成分を、該(e)成分の溶融点以上の温度で、(a)成分又は(a)成分と(d)成分の混合物に添加混合した後、残りの成分を添加混合し、1液タイプの組成物又は2液タイプの一方の組成物及び他方の組成物を製造することが好ましい。
【0057】
また、組成物を溶解希釈して用いることも可能である。このような溶剤としては、(a)成分を溶解させ得るものが好ましく、例えばC410、C818、C49OCH3、C49OC25、2−n−ノナフルオロブチル−テトラフルオロフラン、トリス(n−ノナフルオロブチル)アミン、メタキシレンヘキサフルオライド、パラキシレンヘキサフルオライド、ベンゾトリフルオライド等のフッ素化溶剤などが例示される。
【0058】
本発明の含フッ素硬化性組成物は、常温にて放置するか、加熱することにより容易に硬化させることができるが、通常室温(例えば5〜35℃)〜200℃、1分間〜24時間の範囲で熱的に硬化させるのが好ましく、このような硬化により、優れた特性を有するゴムを得ることができる。
【0059】
本発明の組成物は、種々の用途に利用することができる。すなわち、フッ素含有率が高いため、耐溶剤性、耐薬品性に優れ、また、透湿性も低く、低表面エネルギーを有するため、離型性、撥水性に優れており、耐油性を要求される自動車用ゴム部品、具体的にはフューエル・レギュレーター用ダイヤフラム、パルセーションダンパ用ダイヤフラム、オイルプレッシャースイッチ用ダイヤフラム、EGR用ダイヤフラムなどのダイヤフラム類、キャニスタ用バルブ、パワーコントロール用バルブなどのバルブ類、クイックコネクタ用O−リング、インジェクター用O−リングなどのO−リング類、あるいは、オイルシール、シリンダヘッド用ガスケットなどのシール材、化学プラント用ゴム部品、具体的にはポンプ用ダイヤフラム、バルブ類、O−リング類、ホース類、パッキン類、オイルシール、ガスケットなどのシール材、インクジェットプリンタ用ゴム部品、半導体製造ライン用ゴム部品、具体的には薬品が接触する機器用のダイヤフラム、弁、O−リング、パッキン、ガスケットなどのシール材、低摩擦耐磨耗性を要求されるバルブ、分析、理化学機器用ゴム部品、具体的にはポンプ用ダイヤフラム、弁、シール部品、(O−リング、パッキンなど)、医療機器用ゴム部品、具体的にはポンプ、バルブ、ジョイント、また、テント膜材料、シーラント、成形部品、押し出し部品、被覆材、複写機ロール材料、電気用防湿コーティング材、センサー用ポッティング材、燃料電池用シール材、積層ゴム布などに有用である
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、粘度は25℃における値であり、下記式でMeはメチル基を表す。
【0061】
[実施例1]
下記式(6)
【化30】

で表されるポリマー(粘度5,500mm2/s、数平均分子量15,700、ビニル基量0.012モル/100g)100質量部、R972(日本アエロジル社製乾式シリカ)40質量部、THV550G(ダイニオン社製熱可塑性フッ素樹脂;融点160〜175℃)20質量部をニーダー中で175℃/2時間混合した。その後、プラネタリーミキサーでR972の配合量が20質量部になるように、式(6)のポリマー100質量部添加して調製し、3本ロールミル処理を施した。以上調製した組成物130質量部に、次に下記式(8)で表される含フッ素有機ケイ素化合物3.4質量部、
【化31】

塩化白金酸をCH2=CHSiMe2OSiMe2CH=CH2で変性した触媒のトルエン溶液(白金濃度0.5質量%)0.2質量部及びエチニルシクロヘキサノールの50%トルエン溶液0.3質量部を加え、プラネタリーミキサーで混合した。この混合物を150℃、10分のプレス架橋(一次架橋)及び180℃、2時間のオーブン架橋(二次架橋)を行って硬化シート(170mm×130mm×2mm、及び130mm×130mm×1mm)を得た。得られた硬化シートの物性はJIS K6253、JIS K6251に準拠して測定した。また、燃料油透過性の測定は、JIS Z0208のカップ法を応用して測定した。カップの中にFuel C[トルエン/イソオクタン=50/50(体積比)]を2g仕込み、を直径70mmの円形状に切り取った上記硬化シート(厚さ1mm)で密封して、23℃の恒温室に静置し、単位時間当たりの質量変化を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
[実施例2]
下記式(6)
【化32】

で表されるポリマー(粘度5,500mm2/s、数平均分子量15,700、ビニル基量0.012モル/100g)100質量部、比表面積300m2/gの乾式シリカフィラーの表面をヘキサメチルジシラザンで処理したフィラー50質量部、THV550G(ダイニオン社製熱可塑性フッ素樹脂;融点160〜175℃)20質量部をニーダー中で175℃/2時間混合した。その後、プラネタリーミキサーでシリカフィラーの配合量が25質量部になるように、式(6)のポリマー100質量部添加して調製し、3本ロールミル処理を施した。以上調製した組成物135質量部に、次に下記式(9)で表される含フッ素有機ケイ素化合物2.9質量部、
【化33】

塩化白金酸をCH2=CHSiMe2OSiMe2CH=CH2で変性した触媒のトルエン溶液(白金濃度0.5質量%)0.2質量部及びエチニルシクロヘキサノールの50%トルエン溶液0.3質量部を加え、プラネタリーミキサーで混合した。この混合物を150℃、10分のプレス架橋(一次架橋)および180℃、2時間のオーブン架橋(二次架橋)を行って硬化シート(170mm×130mm×2mm、及び130mm×130mm×1mm)を得た。得られた硬化シートの物性はJIS K6253、JIS K6251に準拠して測定した。また、燃料油透過性の測定は、実施例1と同じ方法で測定した。結果を表1に示す。
【0063】
[比較例1]
実施例1において、THV550Gを配合しない以外は、同様な処方で組成物調製し、硬化シートを得た。得られた硬化シートの物性はJIS K6253、JIS K6251に準拠して測定した。また、燃料油透過性の測定は、実施例1と同じ方法で測定した。結果を表1に示す。
【0064】
[比較例2]
実施例2において、THV550Gを配合しない以外は、同様な処方で組成物調製し、硬化シートを得た。得られたシートの物性はJIS K6253、JIS K6251に準拠して測定した。また、燃料油透過性の測定は、実施例1と同じ方法で測定した。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
実施例1と比較例1、並びに実施例2と比較例2とをそれぞれ比較すると、THV550Gを配合した実施例1、2の方が、燃料透過性が低くなっていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中に
−Ca2aO−
(式中、aは1〜6の整数である。)
の繰り返し単位を含むパーフルオロポリエーテル構造を有する数平均分子量3,000〜100,000の直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物:100質量部、
(b)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有する含フッ素有機ケイ素化合物:(a)成分中のアルケニル基に対する(b)成分中のSiH基のモル比が0.4〜5.0となる量、
(c)ヒドロシリル化反応触媒:触媒量、
(d)シリカ系充填材:1〜100質量部、
(e)溶融点が100〜200℃の熱可塑性フッ素系樹脂:1〜100質量部
を含有してなることを特徴とする含フッ素硬化性組成物。
【請求項2】
(a)成分のパーフルオロポリエーテル構造が、
【化1】

(式中、qは20〜600の整数である。)
で表されることを特徴とする請求項1記載の含フッ素硬化性組成物。
【請求項3】
(a)成分が下記一般式(1)
【化2】

[式中、Xは−CH2−、−CH2O−、−CH2OCH2−又は−Y−NR1−CO−(但し、Yは−CH2−又は下記構造式(Z)で示される基であり、R1は水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基である。)である。X’は−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR2−Y’−(但し、Y’は−CH2−又は下記構造式(Z’)で示される基であり、R2は水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基である。)である。pは独立に0又は1、rは2〜6の整数、m、nはそれぞれ0〜600の整数であり、更にmとnの和が20〜600である。]
【化3】

(o,m又はp位で示されるジメチルフェニルシリレン基)
【化4】

(o,m又はp位で示されるジメチルフェニルシリレン基)
で表されることを特徴とする請求項1又は2記載の含フッ素硬化性組成物。
【請求項4】
(b)成分が、1分子中に1個以上の一価のパーフルオロ基、一価のパーフルオロオキシ基、二価のパーフルオロ基又は二価のパーフルオロオキシ基を有し、かつケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の含フッ素硬化性組成物。
【請求項5】
(d)成分が、BET比表面積30m2/g以上で表面が疎水化処理されたシリカ系充填材である請求項1〜4のいずれか1項記載の含フッ素硬化性組成物。
【請求項6】
(e)成分の熱可塑性フッ素系樹脂が、下記一般式(2)で示される
CF2=CXR1 (2)
(式中、Xは水素原子又はハロゲン原子であり、R1はハロゲン原子又は1〜10個の炭素原子を有するアルキル基、環状アルキル基、若しくはアリール基であり、これらの基はヘテロ原子を1個以上含んでいてもよく、また部分的に若しくは完全にハロゲン化されていてもよい。)
なる構造を有する少なくとも1種のモノマーから誘導される共重合単位を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の含フッ素硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の含フッ素硬化性組成物の製造に際し、(e)成分を、該(e)成分の溶融点以上の温度で、(a)成分、又は(a)成分と(d)成分の混合物に添加混合した後、残りの成分を添加混合することを特徴とする含フッ素硬化性組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−248280(P2010−248280A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95882(P2009−95882)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】