説明

含リン化合物とその製造方法

【課題】熱硬化性又は熱可塑性樹脂の難燃剤として有用である、含リン化合物を提供する。
【解決手段】下記式(I)に示す構造を有する含リン化合物:


(I)[式中、Arは、炭素原子1〜6個を有するアルキル基、ニトロ基、ハロゲン原子およびフェニル基からなる群より選ばれた基に置換された又は未置換の、ナフチル基、アントラニル基、フェナントリル基、アントラノン基、アントラキノニル基、ビフェニリル基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルチオエーテル基、ジフェニルスルホニル基、ジ(フェニル)C1−6アルキル基およびジ(ナフチル)C1−6アルキル基からなる群より選ばれる一つの基の2価基を示し;mとnは、それぞれ独立して1〜5の整数を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含リン化合物とその製造方法に関し、特に、高溶解度を有する含リン化合物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、回路積層板は、日増しに発展する回路の微細化と高密度化の必要に迫られ、さらに優れた電気特性、機械特性と耐熱加工性を有することが求められている。特に、目前常に見られるFR4積層板を例に挙げても、その耐熱加工性として、硬化後のガラス転移温度は約130℃程度である。プリント回路板の製造工程における200℃以上のカットとドリル加工、さらに、270℃以上の溶接加工工程において、このような積層板素材は、加工工程中の破裂又は爆発する可能性がある。そのため、高温安定性、高ガラス転移温度に改良された積層板素材の研究開発が積極的に進められている。このほか、積層板については、その難燃特性も重要な特性の一つである。例えば、航空機、車両とマス輸送等の交通手段における利用分野では、直接人体と生命の安全性に関連するので、プリント回路板の難燃特性は絶対に必要である。
【0003】
積層板素材の難燃特性を向上させるためには、火焔をかく離し、燃焼性を低下させ得る物質の使用が必要となる。積層板においては、ハロゲン含有化合物、特に臭素含有エポキシ樹脂とその硬化剤、さらに、例えば、酸化アンチモン等の難燃助剤と組み合わせること等の周知な方法を使用することにより、その難燃特性の必要条件、例えば、UL 94V−0等を満足する条件に到達するのに、通常、エポキシ樹脂中の臭素含量が17〜21%の高濃度を必要とし、さらに酸化アンチモン又はその他の難燃剤を組み合わせて使用することで、始めてUL 94V−0のレベルに叶うことが知られている。しかし、高臭素含量のエポキシ樹脂や酸化アンチモンを使用することは、疑いなく人類に重大な危害をもたらすものである。その理由は、酸化アンチモンがすでに発癌性物質と認められ、臭素はその燃焼過程で腐食性を有する臭素ラジカル基と水素化臭素を生じるだけでなく、高臭素含量の芳香族化合物は、さらに劇毒性を有する臭素化フラン類と臭素化ダイオキシン類化合物を生成し、人体の健康と環境に危害を与えるためである。
【0004】
今日、リン系化合物は、エコ概念を有する新時代の難燃剤として、幅広く研究、利用されている。例えば、台湾特許第575633号公報に記載の含リン化合物より形成された難燃性エポキシ樹脂組成物は、UL 94V−0のレベルに達し、加熱過程においても、腐食性と劇毒性を有するガスを放出しないことが開示されている。しかしながらこの含リン化合物は、それ自体の構造上、通常、エポキシ樹脂組成物に利用される溶剤には、ほとんど溶解せず、高極性の溶剤にしか溶解できないので、この含リン化合物を利用する場合、必ず高極性の溶剤を必要とし、その加工や利用は非常に不便である。
【0005】
そこで、高溶解度と高分解温度を有し、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂に用いることができる難燃剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】台湾特許第575633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の主な目的は、高溶解度を有する含リン化合物とその製造方法を提供することにある。
【0008】
又、本発明の別な目的は、高分解温度を有する含リン化合物とその製造方法を提供することにある。
【0009】
又、本発明のもう一つ別な目的は、難燃剤として利用する含リン化合物とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的とその他の目的を解決するため、下記式(I)に示す含リン化合物を提供する:
【0011】
【化1】

(I)
【0012】
[式中、Arは、炭素原子1〜6個を有するアルキル基、ニトロ基、ハロゲン原子およびフェニル基からなる群より選ばれた基に置換された又は未置換の、ナフチル基、アントラニル基、フェナントリル基、アントラノン基、アントラキノニル基、ビフェニリル基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルチオエーテル基、ジフェニルスルホニル基、ジ(フェニル)C1−6アルキル基およびジ(ナフチル)C1−6アルキル基からなる群より選ばれる一つの基の2価基を示し;mとnは、それぞれ独立して1〜5の整数を示す。]
【0013】
又、本発明は、式(I)に示す構造を有する含リン化合物の製造方法も提供する。該方法は、下記式(II)に示す化合物を用いて、炭酸アルキルオレフィンエステル又はエポキシアルカンと反応させ、さらに加熱して溶剤を除くことにより、前記式(I)に示す含リン化合物を得る方法である。
【0014】
【化2】

(II)
【発明の効果】
【0015】
本発明の前記式(I)に示す構造を有する含リン化合物は、通常の難燃剤として用いられている含リン化合物に比べ、高い分解温度特性を有するだけではなく、さらに、多くの高極性と低極性を有する有機溶剤に対して、非常に優れた溶解能力を示し、熱硬化性又は熱可塑性樹脂系の難燃剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1の反応原料としてのHPPのFTIR分析スペクトルを示す。
【図2】実施例1の反応生成物としてのHPPECのFTIR分析スペクトルを示す。
【図3】実施例1の反応生成物としてのNMRスペクトルを示す。
【図4】実施例2の反応生成物としてのHPPEOのFTIR分析スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の含リン化合物は、下記式(I)に示す構造を有する:
【0018】
【化3】

(I)
【0019】
式中、Arは、炭素原子1〜6個を有するアルキル基、ニトロ基、ハロゲン原子、フェニル基からなる群より選ばれた基に置換された又は未置換の、ナフチル基、アントラニル基、フェナントリル基、アントラノン基、アントラキノニル基、ビフェニリル基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルチオエーテル基、ジフェニルスルホニル基、ジ(フェニル)C1−6アルキル基およびジ(ナフチル)C1−6アルキル基からなる群より選ばれる一つの基の2価基を示し;mとnは、それぞれ独立して1〜5の整数を示す。好ましくは、Arは2価のビフェニリル基であり;mとnは、それぞれ独立して1〜2の整数を示す。
【0020】
具体的な実例において、前記炭素原子1〜6個を有するアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。前記ハロゲン原子の実例としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が含まれる。
【0021】
2価のジ(フェニル)C1−6アルキル基の実例としては、ジ(フェニル)メチル基、ジ(フェニル)エチル基、ジ(フェニル)プロピル基、ジ(フェニル)ヘキシル基およびジ(フェニル)シクロヘキシル基から選択される基の2価基が挙げられる。2価のジ(ナフチル)C1−6アルキル基としては、ジ(ナフチル)メチル基、ジ(ナフチル)エチル基、ジ(ナフチル)プロピル基、ジ(ナフチル)ヘキシル基およびジ(ナフチル)シクロヘキシル基から選択される基の2価基が挙げられる。
【0022】
本発明の方法において、(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスホフェナントレン−10−オキサイド−10−イル)−ジ(4−ヒドロキシフェニル)メタン(HPP)と、炭酸アルキルオレフィンエステル又はエポキシアルカンと、を用いて、溶液中において、触媒の存在下で、加熱反応を行い、次に溶剤を除き、前記式(I)に示す含リン化合物を得ることができる。前記炭酸アルキルオレフィンエステルの実例としては、炭素原子2〜6個を有する炭酸アルキルオレフィンエステル及び、炭素原子2〜6個を有するハロゲン化炭酸、アルキルオレフィンエステルが挙げられる。具体例としては、炭酸エチレンエステル、炭酸プロピレンエステルが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、例えば、フルオロ炭酸エチレンエステル、クロロ炭酸エチレンエステル、5,5−ジエチル−1,3−ジオキサペンタシクロ−2−ノンと5−メチル−5−プロピル−1,3−ジオキサペンタシクロ−2−ノン等が挙げられる。より好ましい実例としては、炭酸エチレン(炭酸エチレンエステル)を使用し、下記の反応式により製造する。
【0023】
【化4】

【0024】
本発明の方法において、(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスホフェナントレン−10−オキサイド−10−イル)−ジ(4−ヒドロキシフェニル)メタン(HPP)とエポキシアルカン(例えば、エポキシエタン)とを用いて、溶液中に、触媒の存在下で、加熱反応を行い、次に溶剤を除き、前記式(I)に示す構造の含リン化合物を得ることもできる。その反応式を下記に示す:
【0025】
【化5】

【0026】
又、本発明の方法において、(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスホフェナントレン−10−オキサイド−10−イル)−ジ(4−ヒドロキシフェニル)メタン(HPP)とハロゲン化アルコール類化合物とを用いて、酸捕獲剤が共存する溶剤中で反応を行い、次に溶剤を除くことで、前記式(I)に示す構造の含リン化合物を得ることができる。その反応式を下記に示す:
【0027】
【化6】

【0028】
式中、Xはハロゲン原子を示す。
【0029】
本発明の方法によると、昇温条件下で、例えば100〜210℃の範囲内、好ましくは140〜180℃の範囲内、より好ましくは160〜180℃の範囲内において、反応させる。本発明の方法において、使用される溶剤は特に制限はなく、反応物を溶解でき、かつ、除去し易いものであれば良く、好ましくは、N−メチルピロリドンが使用される。
【実施例】
【0030】
本発明の特性を下記好ましい具体的実例により、さらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
実施例1
(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスホフェナントレン−10−オキサイド−10−イル)−ジ(4−ヒドロキシフェニル)メタン(HPP)414.4gと、炭酸エチレン(EC)176.1gと、ヨウ化カリウム0.6gと、N−メチルピロリドン1000gとを反応容器中に加え、攪拌、混合した後、150℃に昇温して8時間反応を続け、反応容器中に炭酸ガスが発生しなくなるまで反応を行った。反応終了後、乾燥により溶剤を除き、反応生成物(HPPEC)468gを得た。
【0032】
ESCA元素分析により、その組成として:C:68.5%、H:5.2%、O:20.33%、P:5.97% (m+n=2の場合、その理論値は、C:69.32%、H:5.42%、O:19.10%、P:6.16%を示す)。図1に反応原料としてのHPPのFTIR分析スペクトルを示し、図2に反応生成物としてのHPPECのFTIR分析スペクトルを示す。図2により、波長2932cm−1に強い吸収ピークがあり、−CH−がHPPの分子に結合されたことを示し;さらに、波長1251cm−1に強い吸収ピークがあることは、フェノールのヒドロキシル基がすでに反応してエーテル基になったことが判る。反応生成物としてのHPPECのNMRスペクトルを図3に示す。樹脂の軟化温度は95℃であった。
【0033】
実施例2
(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスホフェナントレン−10−オキサイド−10−イル)−ジ(4−ヒドロキシフェニル)メタン207.2gと、エポキシエタン45gと、ヨウ化カリウム0.3gと、N−メチルピロリドン500gとを反応容器中に入れ、攪拌、混合した後、150℃に昇温し、反応容器内に炭酸ガスが発生しなくなるまで、8時間反応を行った。反応終了後、乾燥により溶剤を除き、反応生成物として、HPPEO230gを得た。図4に生成物HPPEOのFTIR分析スペクトルを示す。図4より、波長2930cm−1に強い吸収ピークが存在し、−CH−がHPPとの結合を示し、さらに、波長1251cm−1に強い吸収ピークがあり、フェノールのヒドロキシル基がすでに反応してエーテル基になったことが判る。樹脂の軟化温度は87℃であった。
【0034】
測定試験例1
難燃剤として、HPP1gと、実施例1の生成物HPPEC1gとを、それぞれ溶剤20gに溶かした。その溶解度を表1に示す。
【0035】
【表1】


×:不溶
◎:易溶
○:可溶
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の含リン化合物は、高溶解度と高分解温度を有するため、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂において難燃剤として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)に示される含リン化合物:
【化1】

(I)
[式中、Arは、炭素原子1〜6個を有するアルキル基、ニトロ基、ハロゲン原子およびフェニル基からなる群より選ばれた基に置換された又は未置換の、ナフチル基、アントラニル基、フェナントリル基、アントラノン基、アントラキノニル基、ビフェニリル基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルチオエーテル基、ジフェニルスルホニル基、ジ(フェニル)C1−6アルキル基およびジ(ナフチル)C1−6アルキル基からなる群より選ばれる一つの基の2価基を示し;mとnは、それぞれ独立して1〜5の整数を示す。]。
【請求項2】
前記Arは、炭素原子1〜6個を有するアルキル基、ニトロ基およびフェニル基からなる群より選ばれた基に置換された又は未置換の、ビフェニリル基およびジ(フェニル)C1−6アルキル基からなる群より選ばれる一つの基の2価基である、請求項1に記載の含リン化合物。
【請求項3】
前記Arは、2価のビフェニリル基である、請求項1または2に記載の含リン化合物。
【請求項4】
前記ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素からなる群より選ばれるものである、請求項1〜3いずれかに記載の含リン化合物。
【請求項5】
前記炭素原子1〜6個を有するアルキル基が、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基およびシクロヘキシル基からなる群より選ばれる基である、請求項1〜4いずれかに記載の含リン化合物。
【請求項6】
前記2価のジ(フェニル)C1−6アルキル基が、2価のジ(フェニル)メチル基、ジ(フェニル)エチル基、ジ(フェニル)プロピル基、ジ(フェニル)ヘキシル基およびジ(フェニル)シクロヘキシル基からなる群より選ばれる基である、請求項1〜5いずれかに記載の含リン化合物。
【請求項7】
前記2価のジ(ナフチル)C1−6アルキル基が、2価のジ(ナフチル)メチル基、ジ(ナフチル)エチル基、ジ(ナフチル)プロピル基、ジ(ナフチル)ヘキシル基およびジ(ナフチル)シクロヘキシル基からなる群より選ばれる基である、請求項1〜6いずれかに記載の含リン化合物。
【請求項8】
請求項1に記載の前記式(I)に示す含リン化合物の製造方法であって、
(a)加熱しながら、下記式(II)に示す化合物
【化2】

(II)
[式中、Arは、炭素原子1〜6個を有するアルキル基、ニトロ基、ハロゲン原子、フェニル基より置換された又は未置換の、ナフチル基、アントラニル基、フェナントリル基、アントラノン基、アントラキノニル基、ビフェニリル基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルチオエーテル基、ジフェニルスルホニル基、ジ(フェニル)C1−6アルキル基およびジ(ナフチル)C1−6アルキル基からなる群より選ばれる基の2価基を示す。]と、
炭酸アルキルオレフィンエステル又はエポキシアルカンと、を溶剤中で反応を行い;
(b)乾燥により溶剤を除去して、目的の生成物を得る
ことを特徴とする含リン化合物の製造方法。
【請求項9】
前記炭酸アルキルオレフィンエステルは、炭素原子1〜6個を有するアルキル基、炭素原子1〜6個を有するハロゲン化アルキル基およびハロゲンからなる群より選ばれる基に置換された又は未置換の炭酸エチレンエステルより選ばれるものである、請求項8に記載の含リン化合物の製造方法。
【請求項10】
前記炭酸アルキルオレフィンエステルは、炭酸エチレンエステル、炭酸プロピレンエステル、フルオロ炭酸エチレンエステル、クロロ炭酸エチレンエステル、5,5−ジエチル−1,3−ジオキシペンタシクロ−ジ−ノンおよび5−メチル−5−プロピル−1,3−ジオキシペンタシクロ−ジ−ノンからなる群より選ばれるものである、請求項8または9に記載の含リン化合物の製造方法。
【請求項11】
前記エポキシアルカンはエポキシエタンである、請求項8〜10いずれかに記載の含リン化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−116398(P2010−116398A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256838(P2009−256838)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(595009383)長春人造樹脂廠股▲分▼有限公司 (23)
【Fターム(参考)】