説明

含水有機化合物の分離方法および分離装置

【課題】20%以上の高含水率の含水有機化合物への耐久性があり、高透過流束、高選択率、好ましくは耐酸性を持つ耐熱性、耐薬品性に優れたゼオライト膜を用いた膜分離手段を含む分離方法および分離装置を提供する。
【解決手段】含水率20質量%以上の含水有機化合物を、ゼオライト膜を有する膜分離手段へ導入し、含水有機化合物から水を分離する方法であって、ゼオライト膜が、SiO/Alモル比が5以上であり、骨格構造として酸素6〜10員環構造を有し、フレームワーク密度が10以上17以下であるゼオライトを含むことを特徴とする分離方法および該分離方法などを行うための装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト膜を有する膜分離手段を用いて高含水有機化合物から水を分離する方法、該方法に用いる分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
含水有機化合物の水と有機化合物の分離は、化学プラントにおける含水有機化合物の精製、プリント配線板、半導体ウエハー、電子部品、液晶基板、レンズなどの半導体産業などの精密電子部品工場やLi電池製造工場における含水有機化合物から有機化合物の回収などにおいて、特に重要である。含水有機化合物の分離は、通常、蒸留によって行われている。
【0003】
蒸留による含水有機化合物の分離は、水の蒸発潜熱が大きいため、エネルギーを多量に必要とする。また、通常の蒸留操作の分離性能は必ずしも十分でなく、特に共沸混合物の蒸留については、分離濃度の限界があるためエントレーナーを添加して、それとの共沸混合物を形成させて共沸蒸留させている。その場合、共沸蒸留塔、エントレーナー再生塔などの増設が必要となる。このようにエネルギーだけでなく装置スペースにおいても非常に巨大となる問題点があった。
【0004】
蒸留の問題点を解決する方法として、ゼオライト膜などの無機材料を用いた膜分離法が提案されている(例えば特許文献1〜3)。これらの膜分離法では、液体混合物を分離膜の片側(供給側)に接触させて、反対側(透過側)を減圧することにより、特定の液体(透過物質)を気化させ分離するパーベーパレーション法(浸透気化法)、気体混合物を蒸気状態で供給し分離膜に接触させて、減圧などにより、供給側と透過側に圧力差をつけて特定の蒸気を分離するべーパーパーミエーション法(蒸気透過法)等により分離が行われる。このような膜分離法は、蒸留では簡単に分離できなかった共沸混合物の分離や比揮発度が小さい沸点の近い混合物の分離に有効である。しかし、大量の処理には膜の能力から考えて不利な面もあった。
【0005】
そのため、エネルギー使用量、装置スペースを低減できる分離方法として、蒸留と膜分離を組み合わせた分離方法が近年提案されている(特許文献4〜6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−185275号公報
【特許文献2】特開2003−144871号公報
【特許文献3】特開2000−237561号公報
【特許文献4】特開2006−263561号公報
【特許文献5】特開2005−177535号公報
【特許文献6】特開平4−156917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来提案されている方法の膜分離で使用される膜は、通常、高分子膜(特許文献6)か、A型、Y型、NaX型、モルデナイト、FER型等のゼオライト膜(特許文献1〜5)であった。
【0008】
高分子膜は加工性に優れるが、耐熱性が低いという欠点に加え、耐薬品性が低く、特に有機溶媒や有機酸といった有機化合物との接触で膨潤するものが多いため、分離、濃縮対象の適用範囲が限定的という欠点があった。一方、従来のゼオライト膜、例えばA型のゼオライト膜は、含水率が高いと耐久性が低下するため、膜分離装置に導入する含水有機化合物を、膜分離装置の前段で予め含水率を10%以下にする必要があり、前段の蒸留負荷が大きいために省エネ効果を大きくすることが出来なかった。
【0009】
そのため、高含水有機化合物への耐久性があり、高透過流束、高選択率、好ましくは耐酸性を持つ耐熱性、耐薬品性に優れたゼオライト膜を用いた膜分離手段が望まれていた。
【0010】
本発明は、かかる従来技術の問題が解決された、高含水有機化合物から、水を効率的かつ安定的に分離する方法、この方法に用いる好適な分離装置の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ある種の物性をもつゼオライト膜を膜分離手段として用いれば、含水率20質量%以上の高含水有機化合物からも高透過流束かつ高選択率で、水を分離し得ることを見出した。本発明は、かかる知見等に基づいて成し遂げられたものである。
【0012】
即ち、本発明の要旨は、下記の(1)〜(18)に存する。
(1)含水率20質量%以上の含水有機化合物を、ゼオライト膜を有する膜分離手段へ導入し、含水有機化合物から水を分離する方法であって、ゼオライト膜が、SiO/Alモル比が5以上であり、骨格構造として酸素6〜10員環構造を有し、フレームワーク密度が10以上17以下であるゼオライトを含むことを特徴とする分離方法。
(2)ゼオライト膜が、多孔質支持体上にゼオライトを膜状に固着させたゼオライト膜複合体である、(1)に記載の分離方法。
(3)含水有機化合物が、予め含水率を調節したものである、(1)または(2)に記載の分離方法。
(4)膜分離手段によって水が分離された含水有機化合物から、さらに水を分離する、(1)〜(3)のいずれかに記載の分離方法。
(5)含水有機化合物中の有機化合物が、有機酸、アルコール、エーテル、アルデヒド、ケトンおよび窒素を含む有機化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、(1)〜(4)のいずれかに記載の分離方法。
【0013】
(6)ゼオライト膜を有する膜分離手段を少なくとも備え、含水有機化合物を膜分離手段へ導入して水を分離し、濃縮された含水有機化合物を得る分離装置であって、ゼオライト膜が、SiO/Alモル比が5以上であり、骨格構造として酸素6〜10員環構造を有し、かつフレームワーク密度が10以上17以下のゼオライトを含むことを特徴とする分離装置。
(7)膜分離手段へ導入する含水有機化合物の含水率を調節する水分調節手段を備える、(6)に記載の分離装置。
(8)膜分離手段の前段部に結露防止手段を備える、(6)または(7)に記載の分離装置。
(9)膜分離手段へ導入する含水有機化合物の含水率が20質量%以上である、(6)〜(8)のいずれかに記載の分離装置。
(10)有機化合物が、有機酸、アルコール、エーテル、アルデヒド、ケトンおよび窒素を含む有機化合物よりなる群から選ばれるいずれかの化合物である、(6)〜(9)のいずれかに記載の分離装置。
(11)ゼオライトがアルミノ珪酸塩である、(6)〜(10)のいずれかに記載の分離装置。
(12)ゼオライトがCHA型である、(6)〜(11)のいずれかに記載の分離装置。
(13)ゼオライト膜が、多孔質支持体上にゼオライトを膜状に固着させたゼオライト膜複合体である、(6)〜(12)の何れかに記載の分離装置。
(14)ゼオライト膜が、含水率30質量%の2−プロパノールと水の混合物を、温度70℃、1気圧(1.01×10Pa)の圧力差で透過させた場合、1kg/(m・h)以上の透過流束をもつものである、(6)〜(13)のいずれかに記載の分離装置。
(15)ゼオライト膜が、含水率30質量%の2−プロパノールと水の混合物を、温度70℃、1気圧(1.01×10Pa)の圧力差で透過させた場合、3×10−7mol/(m・s・Pa)以上の水のパーミエンスをもつものである、(6)〜(14)のいずれかに記載の分離装置。
(16)ゼオライト膜が、含水率30質量%の2−プロパノールと水の混合物を、温度70℃、1気圧(1.01×10Pa)の圧力差で透過させた場合、1000以上の分離係数をもつものである、(6)〜(15)のいずれかに記載の分離装置。
(17)ゼオライト膜が、CHA型ゼオライト種結晶の存在下で水熱合成されたものである、(6)〜(16)のいずれかに記載の分離装置。
(18)ゼオライト膜が、アルカリ源としてカリウム(K)イオンを含む水熱合成反応混合物を用いて作製されたものである、(6)〜(17)のいずれかに記載の分離装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高含水有機化合物、例えば含水率20質量%以上の含水有機化合物から、安定的かつ実用上も十分に大きい処理量で水を分離し、脱水/濃縮された含水有機化合物を効率的に得ることができる。また、本発明によれば、実用上、分離対象の含水有機化合物が、有機化合物そのもの、あるいは不純物のために酸性を示す場合でもゼオライト膜が壊れることがなく、含水有機化合物に対する高い分離性能が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の分離装置における実施態様の幾つかの例を模式的に示す図である。
【図2】本発明の分離装置の実施態様の一つを模式的に示す図である。
【図3】パーベーパレーション測定装置の概略図である。
【図4】実施例2に記載のゼオライト膜のX線回折(XRD)パターンである。
【図5】実施例5に記載のゼオライト膜のX線回折(XRD)パターンである。
【図6】実施例6に記載のゼオライト膜のX線回折(XRD)パターンである。
【図7】実施例9および比較例1に記載の水/酢酸分離能の測定結果(透過流束の経時変化)を示す図である。図中、「実施例2」、「比較例1」は、ゼオライト膜の由来を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について更に詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0017】
I.分離方法
先ず、分離方法に係る発明について説明する。
本発明の分離方法は、含水率20質量%以上の含水有機化合物を、ゼオライト膜を有する膜分離手段へ導入し、含水有機化合物から水を分離する方法であって、ゼオライト膜が、SiO/Alモル比が5以上であり、骨格構造として酸素6〜10員環構造を有し、フレームワーク密度が10以上17以下であるゼオライトを含むことに特徴をもつものである。
【0018】
(分離・濃縮の原理)
本発明において、上記のとおり、膜分離手段は、少なくともゼオライト膜を有するものである。このゼオライト膜の一方の側に含水有機化合物を導入してゼオライト膜と接触させ、その逆側を含水有機化合物が接触している側よりも低い圧力とすることによって含水有機化合物からゼオライト膜を有する膜分離手段に透過性がある物質(含水有機化合物中の透過性が高い物質)を選択的に透過させる。これにより、含水有機化合物から透過性の高い物質を分離することができる。その結果、含水有機化合物中の特定の有機化合物(含水有機化合物中の透過性が低い物質)の濃度を高めることで、特定の有機化合物を分離回収、あるいは濃縮することができる。
【0019】
具体的に言えば、水がゼオライト膜に対して透過性が高いので、含水有機化合物から水が分離され、有機化合物は元の含水有機化合物中で濃縮される。ここで、パーベーパレーション法(浸透気化法)、ベーパーパーミエーション法(蒸気透過法)と呼ばれる方法は、本発明における分離方法のひとつの形態である。
【0020】
(含水有機化合物等)
本発明において、含水有機化合物とは、検出可能な水を含有する水と有機化合物との混合物を指す。本明細書において、水を大量に含むものも極微量の水を含むものも、特に区別せずに「含水有機化合物」と総称する。
【0021】
含水有機化合物中の含水率は、通常20質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは45質量%以上であり、通常95質量%以下、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
【0022】
本発明の分離方法では、ゼオライト膜を透過する物質は水であるため、含水率が少なくなると処理量が低下するため効率的でない。また含水率が多すぎると濃縮に必要な膜が大面積となり(膜が管状に形成されている場合は数が多くなり)経済的な効果が小さくなる。
【0023】
含水有機化合物としては、適当な水分調節手段により、予め含水率を調節したものであってもよい。この場合、含水率は上記と同様である。また、水分調節手段は、後に述べる分離装置に係る発明におけるものと同様である。
【0024】
さらに、膜分離手段によって水が分離された含水有機化合物から、さらに水を分離してもよい。これにより、より高度に水を分離し、含水有機化合物をさらに高度に濃縮することができる。
【0025】
膜分離手段と組合せて用いる水の分離手段は特に限定されず、さらに膜分離手段による水の分離を行っても良いし、上記と同様に、後に述べる分離装置に係る発明におけるものと同様の水分調節手段を組合せて用いてもよい。
【0026】
有機化合物としては、例えば、酢酸、アクリル酸、プロピオン酸、蟻酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、安息香酸などのカルボン酸類や、スルフォン酸、スルフィン酸、ハビツル酸、尿酸、フェノール、エノール、ジケトン型化合物、チオフェノール、イミド、オキシム、芳香族スルフォンアミド、第1級および第2級ニトロ化合物などの有機酸類;メタノール、エタノール、イソプロパノール(2−プロパノール)などのアルコール類;アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミドなどの窒素を含む有機化合物(N含有有機化合物)、酢酸エステル、アクリル酸エステル等のエステル類などが挙げられる。
【0027】
これらの中で、特にアルコール、エーテル、ケトン、アルデヒド、アミドから選ばれる少なくとも一種の有機化合物が望ましい。これら有機化合物の中で、炭素数が2から10のものが好ましく、炭素数が3から8のものがより好ましい。
【0028】
また有機化合物としては、水と混合物(混合溶液)を形成し得る高分子化合物でもよい。かかる高分子化合物としては、分子内に極性基を有するもの、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどのポリオール類;ポリアミン類;ポリスルホン酸類;ポリアクリル酸などのポリカルボン酸類;ポリアクリル酸エステルなどのポリカルボン酸エステル類;グラフト重合等によってポリマー類を変性させた変性高分子化合物類;オレフィンなどの非極性モノマーとカルボキシル基等の極性基を有する極性モノマーとの共重合によって得られる共重合高分子化合物類などが挙げられる。
【0029】
さらに、含水有機化合物としては、水とポリマーエマルジョンとの混合物でもよい。ここで、ポリマーエマルジョンとは、接着剤や塗料等で通常使用される、界面活性剤とポリマーとの混合物である。ポリマーエマルジョンに用いられるポリマーとしては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ポリオレフィン、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのオレフィン−極性モノマー共重合体、ポリスチレン、ポリビニルエーテル、ポリアミド、ポリエステル、セルロース誘導体等の熱可塑性樹脂;尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂;天然ゴム、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、スチレン−ブタジエン共重合体などのブタジエン共重合体等のゴム等が挙げられる。また界面活性剤としては、それ自体既知のものを用いればよい。
【0030】
(ゼオライト膜の性能)
本発明におけるゼオライト膜はA型膜と異なり、含水率が20質量%以上の含水有機化合物を処理した場合でも高い透過性能、選択性を発揮し、耐久性に優れた性能を持つ。
【0031】
ここでいう高い透過性能とは、十分な処理量を示し、例えば、膜を透過する物質(本発明では水)の透過流束が、例えば含水率30質量%の2−プロパノールと水の混合物を、温度70℃、1気圧(1.01×10Pa)の圧力差で透過させた場合、1kg/(m・h)以上、好ましくは3kg/(m・h)以上、より好ましくは5kg/(m・h)以上であることをいう。透過流束の上限は特に限定されず、通常20kg/(m・h)以下、好ましくは15kg/(m・h)以下である。
【0032】
また、高い透過性能をパーミエンスで表す事もできる。パーミエンスとは、透過する物質量を膜面積と時間と透過する物質の分圧差の積で割ったものである。パーミエンスの単位で表した場合、例えば含水率30質量%の2−プロパノールと水の混合物を、温度70℃、1気圧(1.01×10Pa)の圧力差で透過させた場合、水のパーミエンスとして、通常3×10−7mol/(m・s・Pa)以上、好ましくは5×10−7mol/(m・s・Pa)以上、より好ましくは1×10−6mol/(m・s・Pa)以上、特に好ましくは2×10−6mol/(m・s・Pa)以上である。パーミエンスの上限は特に限定されず、通常1×10−4mol/(m・s・Pa)以下、好ましくは5×10−5mol/(m・s・Pa)以下である。
【0033】
選択性は分離係数により表される。分離係数は膜分離で一般的に用いられる選択性を表す以下の指標である。
【0034】
分離係数=(Pα/Pβ)/(Fα/Fβ)
[ここで、Pαは透過液中の主成分の質量%濃度、Pβは透過液中の副成分の質量%濃度、Fαは透過液において主成分となる成分の被分離混合物中の質量%濃度、Fβは透過液において副成分となる成分の被分離混合物中の質量%濃度である。]
【0035】
分離係数は、例えば、含水率30質量%の2−プロパノールと水の混合物を、温度70℃、1気圧(1.01×10Pa)の圧力差で透過させた場合、通常1000以上、好ましくは4000以上、より好ましくは10000以上、特に好ましくは20000以上である。分離係数の上限は完全に水しか透過しない場合でありその場合は無限大となるが、好ましくは10000000以下、より好ましくは1000000以下である。
【0036】
(ゼオライト膜)
本発明において、ゼオライト膜は、ゼオライトが単独で膜となったものでも、前記ゼオライトの粉末をポリマーなどのバインダー中に分散させて膜の形状にしたものでも、各種支持体上にゼオライトを膜状に固着させたゼオライト膜複合体でもよい。
【0037】
それらの中で、後で詳述する多孔質支持体上に前記ゼオライトを膜状に固着させたゼオライト膜複合体が特に好ましい。該ゼオライト膜複合体は支持体を有することによって機械的な強度が増し、取り扱いが容易になり、種々の装置設計が可能であるほか、全て無機物で構成されるため、耐熱性、耐薬品性に優れるためである。
【0038】
膜を構成する成分としては、ゼオライト以外にシリカ、アルミナなどの無機バインダー、ポリマーなどの有機物、あるいはゼオライト表面を修飾するシリル化剤などを必要に応じ含んでいてもよい。
【0039】
ゼオライト膜は、一部アモルファス成分などが含有されていてもよいが、好ましくは実質的にゼオライトのみで構成されるゼオライト膜である。
【0040】
ゼオライト膜の厚さは特に限定されないが、通常0.1μm以上、好ましくは0.6μm以上、より好ましくは1.0μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは60μm以下、より好ましくは20μm以下である。膜厚が大きすぎると透過量が低下する傾向があり、小さすぎると選択性が低下する傾向がある。
【0041】
ゼオライト膜を形成するゼオライトの粒子径は特に限定されないが、小さすぎると粒界が大きくなるなどして透過選択性などを低下させる傾向がある。それ故、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、上限は膜の厚さ以下である。さらに、ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じである場合がより好ましい。ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じであるとき、ゼオライトの粒界が最も小さくなる。後に述べる水熱合成で得られたゼオライト膜は、ゼオライトの粒子径と膜の厚さが同じになる場合があるので特に好ましい。
【0042】
ゼオライト膜の形状は特に限定されず、管状、中空糸状、モノリス型、ハニカム型などあらゆる形状を採用できる。また大きさも特に限定されず、例えば、管状の場合は、通常長さ2cm以上200cm以下、内径0.5cm以上2cm以下、厚さ0.5mm以上4mm以下が実用的で好ましい。
【0043】
ゼオライト膜の分離機能の一つは、分子ふるいとしての分離であり、用いるゼオライトの有効細孔径以上の大きさを有する気体分子または液体分子とそれ以下の気体または液体分子とを好適に分離することができる。なお分離に供される分子に上限はないが、分子の大きさは、通常100Å程度以下である。
【0044】
(ゼオライト)
本発明において、ゼオライト膜を構成するゼオライトのSiO/Alモル比は、通常5以上、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは12以上である。また上限は、通常2000以下、好ましくは1000以下、より好ましくは500以下、さらに好ましくは100以下である。
【0045】
SiO/Alモル比が下限未満では耐久性が低下する傾向があり、上限を超過すると疎水性が強すぎるため、透過流束が小さくなる傾向がある。SiO/Alモル比は、後に述べる水熱合成の反応条件により調整することができる。
【0046】
なお、SiO/Alモル比は、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法(SEM−EDX)により得られた数値である。数ミクロンの膜のみの情報を得るために通常はX線の加速電圧を10kVで測定する。
【0047】
ゼオライトのフレームワーク密度(T/1000Å)は、通常17以下、好ましくは16以下、特に好ましくは15.5以下、最も好ましくは15以下であり、通常10以上、好ましくは11以上、より好ましくは12以上である。
【0048】
ここで、フレームワーク密度(T/1000Å)とは、ゼオライトの1000Åあたりの酸素以外の骨格を構成する元素(T元素)の数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まるものである。なお、フレームワーク密度とゼオライトの構造との関係はATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES Fifth Revised Edition 2001 ELSEVIERに示されている。
【0049】
また、本発明におけるゼオライトは、通常、酸素6〜10員環構造を有するゼオライトを含み、好ましくは酸素6〜8員環構造を有するゼオライトを含むものである。
【0050】
ここでいう酸素n員環を有するゼオライトのnの値は、ゼオライト骨格を形成する酸素とT元素で構成される細孔の中で最も酸素の数が大きいものを示す。例えば、MOR型ゼオライトのように酸素12員環と8員環の細孔が存在する場合は、酸素12員環のゼオライトとみなす。
【0051】
かかる条件を満たす酸素6〜10員環構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AFG、CHA、EAB、FAR、FRA、GIS、GIU、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTN、MAR、MER、MWW、PAU、PHI、RHO、RTH、STI、STT、TOL、TSC、UFI、VNI等が挙げられる。
【0052】
さらに、好ましい酸素6〜8員環構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AFG、CHA、EAB、FAR、FRA、GIS、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTN、MAR、PAU、RHO、RTH、STI、TOL、UFI等が挙げられる。
【0053】
酸素n員環構造はゼオライトの細孔のサイズを決定するものであり、6員環よりも小さいゼオライトではHO分子のKinetic半径よりも細孔径が小さくなるため透過流束が小さくなり実用的でない。また酸素10員環構造よりも大きい場合は細孔径が大きくなり、サイズの小さな有機物では分離性能が低下するため、用途が限定的になる。
【0054】
これらの要件から、より好ましいゼオライトとしては、上記したSiO/Alモル比を持つものであり、その中で、ゼオライトの構造としては、AEI、CHA、KFI、LEV、PAU、RHO、RTH、UFI型が好ましく、CHA、LEV、UFI型がより好ましく、CHA型が特に好ましい。
また、ゼオライトとしては、アルミノケイ酸塩であることが好ましい。
【0055】
(CHA型ゼオライト)
本発明において、CHA型ゼオライトとは、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードでCHA構造のものであり、天然に産出するチャバサイトと同等の結晶構造を有するゼオライトである。CHA型ゼオライトは3.8×3.8Åの径を有する酸素8員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。
【0056】
CHA型ゼオライトのフレームワーク密度(T/1000Å)は14.5である。また、SiO/Alモル比は上記と同様である。
【0057】
(多孔質支持体)
本発明において、ゼオライト膜は、前記の通り、多孔質支持体上にゼオライトを膜状に固着させたゼオライト膜複合体が好ましい。該支持体としては、無機多孔質からなるものが好ましい。
【0058】
多孔質支持体としては、その表面などにゼオライトを膜状に結晶化できるような化学的安定性があり、多孔質であれば如何なるものであってもよい。例えば、シリカ、α−アルミナ、γ−アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス焼結体、鉄、ブロンズ、ステンレス等の焼結金属や、ガラス、カーボン成型体などが挙げられる。
【0059】
多孔質支持体の中でも基本的成分あるいはその大部分が無機の非金属物質から構成されている固体材料であるセラミックスを焼結したもの(セラミックス支持体)を含む無機多孔質支持体は、その一部がゼオライト膜合成中にゼオライト化することで界面の密着性を高める効果があるために特に好ましい。
【0060】
具体的には、例えば、シリカ、α−アルミナ、γ−アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などを含むセラミックス焼結体が挙げられる。その中でもアルミナ、シリカ、ムライトのうち少なくとも1種を含む無機多孔質支持体は、多孔質支持体の部分的なゼオライト化が容易であるため、支持体とゼオライトの結合が強固になり緻密で分離性能の高い膜が形成されやすくなるのでより好ましい。
【0061】
多孔質支持体の形状は、気体混合物や液体混合物を有効に分離できるものであれば特に制限されず、具体的には、例えば、平板状、管状のもの、または円筒状、円柱状や角柱状の孔が多数存在するハニカム状のものやモノリスなどが挙げられる。
【0062】
本発明において、多孔質支持体上、すなわち支持体の表面などにゼオライトを結晶化させるのが好ましい。
【0063】
多孔質支持体の表面が有する平均細孔径は特に制限されないが、細孔径が制御されているものが好ましく、通常0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、通常20μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。
【0064】
平均細孔径が小さすぎると透過量が小さくなる傾向があり、大きすぎると支持体自体の強度が不十分になることがあり、支持体表面の細孔の割合が増えて緻密なゼオライト膜が形成されにくくなることがある。
【0065】
多孔質支持体の表面は滑らかであることが好ましく、必要に応じて表面をやすり等で研磨してもよい。なお、多孔質支持体の表面とはゼオライトを結晶化させる無機多孔質支持体の表面部分を意味し、表面であればそれぞれの形状のどこの表面であってもよく、複数の面であっても良い。例えば円筒管の支持体の場合には外側の表面でも内側の表面でもよく、場合によっては外側と内側の両方の表面であってよい。
【0066】
また、多孔質支持体の表面以外の部分の細孔径は特に制限されず、また特に制御する必要は無い。
【0067】
多孔質支持体の気孔率は、通常20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上であり、通常70%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下である。支持体の気孔率は、気体や液体を分離する際の透過流量を左右し、下限未満では透過物の拡散を阻害する傾向があり、上限を超えると支持体の強度が低下する傾向がある。
【0068】
(多孔質支持体−ゼオライト膜複合体)
本発明において、ゼオライト膜は、多孔質支持体上にゼオライト膜を固着させた無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体としたもの(以下これを「ゼオライト膜複合体」ということがある。)が特に好ましい。
【0069】
多孔質支持体−ゼオライト膜複合体とは、多孔質支持体上にゼオライトが膜状に固着しているものであり、支持体の表面のみならず、ゼオライトの一部が、多孔質支持体の内部にまで固着している状態のものが好ましい。
【0070】
ゼオライト膜複合体としては、多孔質支持体上にCHA型ゼオライトを水熱合成により膜状に結晶化させたものが特に好ましい。
【0071】
ゼオライト膜の多孔質支持体上の位置は特に限定されず、管状の多孔質支持体を用いる場合、外表面にゼオライト膜をつけてもよいし、内表面につけてもよく、さらに適用する系によっては両面につけてもよい。また、多孔質支持体の表面に積層させてもよいし、多孔質支持体の細孔内を埋めるように結晶化させてもよい。この場合、結晶化した膜層の内部に亀裂や連続した微細孔が無いことが重要であり、いわゆる緻密膜を形成させることが分離性を向上することになる。
【0072】
本発明において、ゼオライト膜複合体は、ゼオライト膜がCHA型ゼオライトを含む場合、X線回折パターンにおいて、2θ=17.9°付近のピークの強度が2θ=20.8°付近のピークの強度の0.5倍以上の大きさであることが好ましい。
【0073】
ここで、ピークの強度とは、測定値からバックグラウンドの値を引いたものをさす。(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)で表されるピーク強度比(以下これを「ピーク強度比A」ということがある。)でいえば、通常0.5以上、好ましくは1以上、より好ましくは1.2以上、特に好ましくは1.5以上である。上限は特に限定されないが、通常1000以下である。
【0074】
また、ゼオライト膜複合体は、ゼオライト膜がCHA型ゼオライトを含む場合、X線回折パターンにおいて、2θ=9.6°付近のピークの強度が2θ=20.8°付近のピークの強度の4倍以上の大きさであることが好ましい。
【0075】
(2θ=9.6°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)で表されるピーク強度比(以下これを「ピーク強度比B」ということがある。)でいえば、通常4以上、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、特に好ましくは10以上である。上限は特に限定されないが、通常1000以下である。
【0076】
ここでいうX線回折パターンとは、ゼオライトが主として付着している側の表面にCuKαを線源とするX線を照射して、走査軸をθ/2θとして得るものである。測定するサンプルの形状としては、膜複合体のゼオライトが主として付着している側の表面にX線が照射できるような形状なら何でもよく、膜複合体の特徴をよく表すものとして、作成した膜複合体そのままのもの、あるいは装置によって制約される適切な大きさに切断したものが好ましい。
【0077】
ここでいうX線回折パターンは、ゼオライト膜複合体の表面が曲面である場合には自動可変スリットを用いて照射幅を固定して測定してもかまわない。自動可変スリットを用いた場合のX線回折パターンとは、可変→固定スリット補正を実施したパターンを指す。
【0078】
ここで、2θ=17.9°付近のピークとは基材に由来しないピークのうち17.9°±0.6°の範囲に存在するピークのうち最大のものを指す。
【0079】
2θ=20.8°付近のピークとは基材に由来しないピークのうち20.8°±0.6°の範囲に存在するピークで最大のものを指す。
【0080】
2θ=9.6°付近のピークとは基材に由来しないピークのうち9.6°±0.6°の範囲に存在するピークのうち最大のものを指す。
【0081】
X線回折パターンで2θ=9.6°付近のピークはCOLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによればrhombohedral settingで空間群を
【0082】
【数1】

【0083】
(No.166)とした時にCHA構造において指数が(1,0,0)の面に由来するピークである。
【0084】
また、X線回折パターンで2θ=17.9°付近のピークはCOLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによればrhombohedral settingで空間群を
【0085】
【数2】

【0086】
(No.166)とした時にCHA構造において指数が(1,1,1)の面に由来するピークである。
【0087】
X線回折パターンで2θ=20.8°付近のピークはCOLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによればrhombohedral settingで空間群を
【0088】
【数3】

【0089】
(No.166)とした時にCHA構造において指数が(2,0,−1)の面に由来するピークである。
【0090】
(1,0,0)面由来のピークの強度と(2,0,−1)の面に由来のピーク強度の典型的な比(ピーク強度比B)は、COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによれば2.5である。
【0091】
そのため、この比が4以上であるということは、例えば、CHA構造をrhombohedral settingとした場合の(1,0,0)面が膜複合体の表面と平行に近い向きになるようにゼオライト結晶が配向して成長していることを意味すると考えられる。ゼオライト膜複合体においてゼオライト結晶が配向して成長することは分離性能の高い緻密な膜が出来るという点で有利である。
【0092】
(1,1,1)面由来のピークの強度と(2,0,−1)の面に由来のピーク強度の典型的な比(ピーク強度比A)は、COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによれば0.3である。
【0093】
そのため、この比が0.5以上であるということは、例えば、CHA構造をrhombohedral settingとした場合の(1,1,1)面が膜複合体の表面と平行に近い向きになるようにゼオライト結晶が配向して成長していることを意味すると考えられる。ゼオライト膜複合体においてゼオライト結晶が配向して成長することは分離性能の高い緻密な膜が出来るという点で有利である。
【0094】
このように、ピーク強度比A、Bのいずれかが、上記した特定の範囲の値であるということは、ゼオライト結晶が配向して成長し、分離性能の高い緻密なゼオライト膜が形成されていることを示すものである。
【0095】
CHA型ゼオライト結晶が配向して成長している緻密なゼオライト膜は、次に述べる通り、ゼオライト膜を水熱合成法により形成する際に、例えば、特定の有機テンプレートを用い、水性反応混合液中にKイオンを共存させることにより達成することができる。
【0096】
(ゼオライト膜の製造方法)
本発明において、ゼオライト膜の製造方法は、ゼオライトを含む膜が形成可能な方法であれば特に制限されず、例えば、(1)多孔質支持体にゼオライトを膜状に結晶化させる方法、(2)多孔質支持体にゼオライトを無機バインダー、あるいは有機バインダーなどで固着させる方法、(3)ゼオライトを分散させたポリマーを固着させる方法、(4)ゼオライトのスラリーを多孔質支持体に含浸させ、場合によっては吸引させることによりゼオライトを多孔質支持体に固着させる方法などの何れの方法も用いることができる。
【0097】
これらの中で、多孔質支持体にゼオライトを膜状に結晶化させる方法が特に好ましい。結晶化の方法に特に制限はないが、多孔質支持体を、ゼオライト製造に用いる水熱合成用の反応混合物(以下これを「水性反応混合物」ということがある。)中に入れて、直接水熱合成することで支持体上にゼオライトを結晶化させる方法が好ましい。
【0098】
具体的には、例えば、組成を調整して均一化した水性反応混合物を、多孔質支持体を内部に緩やかに固定した、オートクレーブなどの耐熱耐圧容器に入れて密閉して、一定時間加熱すればよい。
【0099】
水性反応混合物としては、Si元素源、Al元素源、(必要に応じて)有機テンプレート(構造規定剤)、および水を含み、さらに必要に応じアルカリ源を含むものが好ましい。
【0100】
水性反応混合物に用いるSi元素源としては、例えば、無定形シリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウム、無定形アルミのシリケートゲル、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリメチルエトキシシラン等を用いることができる。
【0101】
Al元素源としては、例えば、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酸化アルミニウム、無定形アルミノシリケートゲル等を用いることができる。なお、Al元素源以外に他の元素源、例えばGa、Fe、B、Ti、Zr、Sn、Znなどの元素源を含んでいてもよい。
【0102】
ゼオライトの結晶化において、必要に応じて有機テンプレートを用いることができるが、有機テンプレートを用いて合成したものが好ましい。有機テンプレートを用いて合成することにより、結晶化したゼオライトのアルミニウム原子に対するケイ素原子の割合が高くなり、耐酸性が向上する。
【0103】
有機テンプレートとしては、所望のゼオライト膜を形成しうるものであれば種類は問わず、如何なるものであってもよい。また、テンプレートは1種類でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0104】
ゼオライトがCHA型の場合、有機テンプレートとしては、通常、アミン類、4級アンモニウム塩類が用いられる。例えば、米国特許第4544538号明細書、米国特許公開第2008/0075656号明細書に記載の有機テンプレートが好ましい有機テンプレートとして挙げられる。
【0105】
具体的には、例えば、1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオン、3−キナクリジナールから誘導されるカチオン、3−exo−アミノノルボルネンから誘導されるカチオン等の脂環式アミンから誘導されるカチオンが挙げられる。これらの中で、1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンがより好ましい。
【0106】
1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンを有機テンプレートとしたとき、緻密な膜を形成しうるCHA型ゼオライトが結晶化する。また、膜が水を選択的に透過するのに十分な親水性を有するCHA型ゼオライトが生成し得るほか、耐酸性に優れたCHA型ゼオライトが得られる。
【0107】
1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンのうち、N,N,N−トリアルキル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンがさらに好ましい。N,N,N−トリアルキル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンの3つのアルキル基は、通常、それぞれ独立したアルキル基であり、好ましくは低級アルキル基、より好ましくはメチル基である。それらの中で最も好ましい化合物は、N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンである。
【0108】
このようなカチオンは、CHA型ゼオライトの形成に害を及ぼさないアニオンを伴う。このようなアニオンを代表するものには、Cl、Br、Iなどのハロゲンイオンや水酸化物イオン、酢酸塩、硫酸塩、およびカルボン酸塩が含まれる。これらの中で、水酸化物イオンが特に好適に用いられる。
【0109】
また、その他の有機テンプレートとしては、N,N,N−トリアルキルベンジルアンモニウムカチオンも用いることができる。この場合もアルキル基は、それぞれ独立したアルキル基であり、好ましくは低級アルキル基、より好ましくはメチル基である。それらの中で、最も好ましい化合物は、N,N,N−トリメチルベンジルアンモニウムカチオンである。また、このカチオンが伴うアニオンは上記と同様である。
【0110】
水性反応混合物に用いるアルカリ源としては、有機テンプレートのカウンターアニオンの水酸化物イオン、NaOH、KOHなどのアルカリ金属水酸化物、Ca(OH)などのアルカリ土類金属水酸化物などを用いることができる。
【0111】
アルカリの種類は特に限定されず、通常Na、K、Li、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr、Ba、好ましくはNa、K、より好ましくはKである。また、アルカリは2種類以上を併用してもよく、具体的には、NaとKを併用するのが好ましい。
【0112】
水性反応混合物中のSi元素源とAl元素源の比は、通常、それぞれの元素の酸化物のモル比、すなわちSiO/Alモル比として表わす。
【0113】
SiO/Al比は特に限定されないが、通常5以上、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは15以上であり、通常10000以下、好ましくは1000以下、より好ましくは300以下、更に好ましくは100以下である。
【0114】
SiO/Al比がこの範囲内にあるときゼオライト膜が緻密に生成し更に生成したゼオライトが強い親水性を示し、有機物を含有する混合物中から親水性の化合物、特に水を選択的に透過することができる。また耐酸性に強く脱Alしにくいゼオライト膜が得られる。
【0115】
特に、SiO/Al比がこの範囲にあるとき、緻密な膜を形成しうるCHA型ゼオライトを結晶化させることができる。また、膜が水を選択的に透過するのに十分な親水性を有するCHA型ゼオライトが生成し得るほか、耐酸性に優れたCHA型ゼオライトが得られる。
【0116】
水性反応混合物中のシリカ源と有機テンプレートの比は、SiOに対する有機テンプレートのモル比(有機テンプレート/SiO比)で、通常0.005以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上であり、通常1以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.2以下である。
【0117】
有機テンプレート/SiO比がこの範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成しうることに加えて、生成したゼオライトが耐酸性に強くAlが脱離しにくい。また、この条件において、特に緻密で耐酸性のCHA型ゼオライトを形成させることができる。
【0118】
Si元素源とアルカリ源の比は、M(2/n)O/SiO(ここで、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、nはその価数1または2を示す。)モル比で、通常0.02以上、好ましくは0.04以上、より好ましくは0.05以上であり、通常0.5以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下である。
【0119】
CHA型ゼオライト膜を形成する場合、アルカリ金属の中でKが含まれる場合がより緻密で結晶性の高い膜を生成させるという点で好ましい。その場合のKと、Kを含むすべてのアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属とのモル比は、通常0.01以上、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上であり、通常1以下である。
【0120】
水性反応混合物中へのKの添加は、前記のとおり、rhombohedral settingで空間群を
【0121】
【数4】

【0122】
(No.166)とした時に、CHA構造において指数が(1,0,0)の面に由来するピークである2θ=9.6°付近のピークの強度と(2,0,−1)の面に由来するピークである2θ=20.8°付近のピークの強度との比(ピーク強度比B)、または、(1,1,1)の面に由来するピークである2θ=17.9°付近のピークの強度と(2,0,−1)の面に由来するピークである2θ=20.8°付近のピークの強度との比(ピーク強度比A)を大きくする傾向がある。
【0123】
Si元素源と水の比は、SiOに対する水のモル比(HO/SiOモル比)で、通常10以上1、好ましくは30以上、より好ましくは40以上、特に好ましくは50以上であり、通常1000以下、好ましくは500以下、より好ましくは200以下、特に好ましくは150以下である。
【0124】
水性反応混合物中の物質のモル比がこれらの範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成しうる。水の量は緻密なゼオライト膜の生成においてとくに重要であり、粉末合成法の一般的な条件よりも水がシリカに対して多い条件のほうが細かい結晶が生成して緻密な膜ができやすい傾向にある。
【0125】
一般的に、粉末のCHA型ゼオライトを合成する際の水の量は、HO/SiOモル比で15〜50程度である。HO/SiOモル比が高い(50以上1000以下)、すなわち水が多い条件にすることにより、支持体上にCHA型ゼオライトが緻密な膜状に結晶化した分離性能の高いゼオライト膜複合体を得ることができる。
【0126】
さらに、水熱合成に際して、必ずしも反応系内に種結晶を存在さる必要は無いが、種結晶を加えることで、支持体上にゼオライトの結晶化を促進できる。種結晶を加える方法としては特に限定されず、粉末のゼオライトの合成時のように、水性反応混合物中に種結晶を加える方法や、支持体上に種結晶を付着させておく方法などを用いることができる。ゼオライト膜複合体を製造する場合は、支持体上に種結晶を付着させておくことが好ましい。支持体上に予め種結晶を付着させておくことで緻密で分離性能良好なゼオライト膜が生成しやすくなる。
【0127】
使用する種結晶としては、結晶化を促進するゼオライトであれば種類は問わないが、効率よく結晶化させるためには形成するゼオライト膜と同じ結晶型であることが好ましい。CHA型ゼオライト膜を形成する場合は、CHA型ゼオライトの種結晶を用いることが好ましい。
【0128】
種結晶の粒子径は小さいほうが望ましく、必要に応じて粉砕して用いても良い。粒径は、通常0.5nm以上、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上であり、通常20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。
【0129】
支持体上に種結晶を付着させる方法は特に限定されず、例えば、種結晶を水などの溶媒に分散させてその分散液に支持体を浸けて種結晶を付着させるディップ法や、種結晶を水などの溶媒と混合してスラリー状にしたものを支持体表面上に塗りこむ方法などを用いることができる。種結晶の付着量を制御し、再現性良く膜複合体を製造するにはディップ法が望ましい。
【0130】
種結晶を分散させる溶媒は特に限定されないが、特に水が好ましい。分散させる種結晶の量は特に限定されず、分散液の全質量に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは4質量%以下、とくに好ましくは3質量%以下である。
【0131】
分散させる種結晶の量が少なすぎると、支持体上に付着する種結晶の量が少ないため、水熱合成時に支持体上に部分的にゼオライトが生成しない箇所ができ、欠陥のある膜となる可能性がある。ディップ法によって支持体上に付着する種結晶の量は分散液中の種結晶の量がある程度以上でほぼ一定となるため、分散液中の種結晶の量が多すぎると、種結晶の無駄が多くなりコスト面で不利である。
【0132】
支持体にディップ法あるいはスラリーの塗りこみによって種結晶を付着させ、乾燥した後にゼオライト膜の形成を行うことが望ましい。
【0133】
支持体上に予め付着させておく種結晶の量は特に限定されず、基材1mあたりの質量で、通常0.01g以上、好ましくは0.05g以上、より好ましくは0.1g以上であり、通常100g以下、好ましくは50g以下、より好ましくは10g以下、更に好ましくは8g以下である。
【0134】
種結晶の量が下限未満の場合には、結晶ができにくくなり、膜の成長が不十分になる場合や、膜の成長が不均一になったりする傾向がある。また、種結晶の量が上限を超える場合には、表面の凹凸が種結晶によって増長されたり、支持体から落ちた種結晶によって自発核が成長しやすくなって支持体上の膜成長が阻害されたりする場合がある。何れの場合も、緻密なゼオライト膜が生成しにくくなる傾向となる。
【0135】
水熱合成により支持体上にゼオライト膜を形成する場合、支持体の固定化方法に特に制限はなく、縦置き、横置きなどあらゆる形態をとることができる。この場合、静置法でゼオライト膜を形成させてもよいし、水性反応混合物を攪拌させてゼオライト膜を形成させてもよい。
【0136】
ゼオライト膜を形成させる際の温度は特に限定されないが、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは190℃以下、より好ましくは180℃以下である。反応温度が低すぎると、ゼオライトが結晶化し難くなることがある。また、反応温度が高すぎると、本発明におけるゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
【0137】
加熱時間は特に限定されないが、通常1時間以上、好ましくは5時間以上、更に好ましくは10時間以上であり、通常10日間以下、好ましくは5日以下、より好ましくは3日以下、さらに好ましくは2日以下である。反応時間が短すぎるとゼオライトが結晶化し難くなることがある。反応時間が長すぎると、本発明におけるゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
【0138】
ゼオライト膜形成時の圧力は特に限定されず、密閉容器中に入れた水性反応混合物を、この温度範囲に加熱したときに生じる自生圧力で十分である。さらに必要に応じて、窒素などの不活性ガスを加えても差し支えない。
【0139】
水熱合成により得られたゼオライト膜複合体は、水洗した後に、加熱処理して、乾燥させる。ここで、加熱処理とは、熱をかけてゼオライト膜複合体を乾燥又はテンプレートを使用した場合にテンプレートを焼成することを意味する。
【0140】
加熱処理の温度は、乾燥を目的とする場合は通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。加熱処理の温度はテンプレートの焼成を目的とする場合通常350℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは430℃以上、更に好ましくは480℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは850℃以下、さらに好ましくは800℃以下、特に好ましくは750℃以下である。
【0141】
加熱時間は、ゼオライト膜が十分に乾燥、またはテンプレートが焼成する時間であれば特に限定されず、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上である。上限は特に限定されず、通常200時間以内、好ましくは150時間以内、より好ましくは100時間以内である。
【0142】
水熱合成を有機テンプレートの存在下で行った場合、得られたゼオライト膜複合体を、水洗した後に、例えば、加熱処理や抽出などにより、好ましくは加熱処理、すなわち焼成により有機テンプレートを取り除くことが適当である。
【0143】
焼成温度は、通常350℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは430℃以上、特に好ましくは480℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは850℃以下、より好ましくは800℃以下、特に好ましくは750℃以下である。焼成温度が低すぎると有機テンプレートが残っている割合が多くなる傾向があり、ゼオライトの細孔が少なく、そのために分離濃縮の際の透過流束が減少する可能性がある。焼成温度が高すぎると支持体とゼオライトの熱膨張率の差が大きくなるためゼオライト膜に亀裂が生じやすくなる可能性があり、ゼオライト膜の緻密性が失われ分離性能が低くなることがある。
【0144】
焼成時間は、昇温速度や降温速度により変動するが、有機テンプレートが十分に取り除かれる時間であれば特に限定されず、好ましくは1時間以上、より好ましくは5時間以上である。上限は特に限定されず、例えば、通常200時間以内、好ましくは150時間以内、より好ましくは100時間以内、最も好ましくは24時間以内である。焼成は空気雰囲気で行えばよいが、酸素を付加した雰囲気で行ってもよい。
【0145】
焼成の際の昇温速度は、支持体とゼオライトの熱膨張率の差がゼオライト膜に亀裂を生じさせることを少なくするために、なるべく遅くすることが望ましい。昇温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
【0146】
また、焼成後の降温速度もゼオライト膜に亀裂が生じることを避けるためにコントロールする必要があり、昇温速度と同様、遅ければ遅いほど望ましい。降温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
【0147】
ゼオライト膜は、必要に応じてイオン交換しても良い。イオン交換は、テンプレートを用いて合成した場合は、通常、テンプレートを除去した後に行う。イオン交換するイオンとしては、プロトン、Na、K、Liなどのアルカリ金属イオン、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+などのアルカリ土類金属イオン、Fe、Cu、Znなどの遷移金属のイオンなどが挙げられる。これらの中で、プロトン、Na、K、Liなどのアルカリ金属イオンが好ましい。
【0148】
イオン交換は、焼成後(テンプレートを使用した場合など)のゼオライト膜を、NHNO、NaNOなどアンモニウム塩あるいは交換するイオンを含む水溶液、場合によっては塩酸などの酸で、通常、室温から100℃の温度で処理後、水洗する方法などにより行えばよい。さらに、必要に応じて200℃〜500℃で焼成してもよい。
【0149】
加熱処理後のゼオライト膜複合体の空気透過量[L/(m・h)]は、通常1400L/(m・h)以下、好ましくは1000L/(m・h)以下、より好ましくは700L/(m・h)以下、より好ましくは600L/(m・h)以下、さらに好ましくは500L/(m・h)以下、特に好ましくは300L/(m・h)以下、もっとも好ましくは200L/(m・h) 以下 である。透過量の下限は特に限定されないが、通常0.01L/(m・h)以上、好ましくは0.1L/(m・h)以上、より好ましくは1L/(m・h)以上である。
【0150】
ここで、空気透過量とは、実施例で詳述するとおり、ゼオライト膜複合体を絶対圧5KPaの真空ラインに接続した時の空気の透過量[L/(m・h)]である。
【0151】
かくして製造されるゼオライト膜、好ましくはゼオライト膜複合体、上記のとおり優れた特性をもつものであり、本発明における膜分離手段として好適に用いることができる。
【0152】
II.分離装置
次に、分離装置に係る発明について説明する。
本発明の分離装置は、ゼオライト膜を有する膜分離手段を少なくとも備え、含水有機物を膜分離手段へ導入して水を分離し、濃縮された含水有機物を得る分離装置であって、ゼオライト膜が、SiO/Alモル比が5以上であり、骨格構造として酸素6〜10員環構造を有し、かつフレームワーク密度が10以上17以下のゼオライトを含むことに特徴をもつものである。
【0153】
上記のとおり、本発明の分離装置において、膜分離手段は、上記Iで詳述したゼオライト膜を有するものであれば如何なるものであってもよい。ここで、ゼオライト膜は、上記したものと同様のものが用いられる。また、好ましいゼオライト膜や対象となる含水有機化合物も、上記と同様である。
【0154】
本発明の分離装置において、水の分離方法に特に制限はなく、例えば、含水有機化合物の蒸気を蒸気透過膜に導いて水蒸気を分離する方法(蒸気透過法:ベーパーパーミエーション法)や、液状の含水有機化合物を浸透気化膜に導いて水分を分離する方法(浸透気化法:パーベーパレーション法)の何れの方法にも好適に用いることができる。
【0155】
これらの方法は、何れも水分選択透過性の膜を用いるものであり、水の分子の膜透過は、膜を介して存在する水の分圧差を推進力として起るものであり、透過した蒸気又液体の側を減圧とし、濃縮すべき蒸気または液中の水の分圧が透過側の水の分圧よりも大きい状態に保って操作することが必要とされる。
【0156】
本発明において、膜分離手段が有する上記ゼオライト膜が、水分選択透過性の膜の機能をもつものとして用いられる。膜分離手段へ導入された含水有機化合物中の水が、選択的にゼオライト膜を透過し透過液側に排出され、凝縮器、透過液トラップ等を経て回収される。また、有機化合物はゼオライト膜を透過せず、水の分離を受け、脱水/濃縮された含水有機化合物(以下これを「被透過液」ということがある。)として回収される。
【0157】
本発明において、膜分離手段としては、少なくともゼオライト膜を具備する膜モジュールを有し、膜モジュールの透過液側に、透過液凝縮器、透過液トラップ、真空ポンプを有するものが好ましい。透過液側には、必要に応じて、凝縮器等を有していてもよい。さらに、膜分離手段の前段部には、必要に応じて、水分調節手段や、結露防止手段等を有していてもよい。
【0158】
ここで、「モジュール」とは、幾つかの部品を集め、まとまりのある機能をもった部品であって、システムを構成する要素となるものを意味する。本発明において、膜分離手段、膜分離手段と他の手段、それを備える分離装置も、それ自体をモジュールとして用い得るものである。
【0159】
膜モジュールは、ゼオライト膜により透過を受ける(被透過)の蒸気又は液体室と透過蒸気室に隔てられた構成となっている。膜モジュールとしては、それ自体既知のものを選べば良いが、例えば、管状の多孔質支持体にゼオライト膜を合成させた管状分離膜を具備するシェルアンドチューブ型モジュールが好ましいものとして挙げられる。このモジュールの詳細は、例えば、特開2005−177535号公報の図2、図3に記載されている。
【0160】
本発明において、水分調節手段は、膜分離手段へ導入する含水有機化合物の含水率を調節する手段である。水分調節手段としては、例えば、蒸留手段、PSA(Pressure Swing Adsorption:圧力変動吸着)装置、TSA(Temperature Swing Adsorption:温度変動吸着)、デシカントシステムなどの吸着分離手段等が挙げられる。これら水分調節手段は、それ自体既知のものである。
【0161】
また、これら水分調節手段を、膜分離手段の後段に用いることにより、含水有機化合物を、さらに高度に濃縮することもできる。
【0162】
ここで、膜分離手段へ導入する含水有機化合物の含水率は、通常20%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは45質量%以上であり、通常95%質量以下、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。上記水分調節手段により、必要に応じて、含水率をこれらの範囲に調節する。
【0163】
また、結露防止手段は、膜モジュールへ蒸気と導入する場合に、その結露を防止するためのものである。含水有機化合部物を、蒸気として膜モジュールに導入する場合、配管の外側や内側に結露が生じることもある。この場合、凝縮によるエネルギーの損失があり非効率的であるほか装置からの水の滴りによって装置周辺の環境を悪化させるなどの問題が生じる虞れがある。これら問題は結露防止手段により解決することができる。
【0164】
結露防止手段としては、結露の防止機能をもつものであれば特に制限されず、例えば、熱交換器、蒸気圧縮機、過熱機、ヒートポンプ、サーモコンプレッション、絞り機構を有する圧力調整弁などが挙げられる。これら結露防止手段は、それ自体既知のものをもちいればよい。
【0165】
結露防止手段により、通常、蒸気は過熱されるが、通常1〜50℃の過熱状態として膜分離手段へ供給するのが好ましい。
【0166】
本発明の分離装置における実施態様の幾つかの例を、図1に模式的に示す。
図1のa)は、単数の膜分離手段を備える分離装置である。これら装置において、原料混合物(含水有機化合物)11は、ゼオライト膜により選択的に水が分離されて、膜の透過液12側に回収され、脱水/濃縮された含水有機化合物が被透過液13側に回収される。
【0167】
図1のb)は、複数の膜分離手段10を備える分離装置である。この場合、例えば、本発明のゼオライト膜を有する膜分離手段を複数用いても良いし、本発明のゼオライト膜を有する膜分離手段の後段に、従来の低含水用のゼオライト膜、例えばA型ゼオライト膜を有する膜分離手段を備えていてもよい。これにより、含水有機化合物を、より高度に脱水/濃縮することができる。この例における物質のフローは図1のa)と同様である。
【0168】
図1のb)における膜分離手段の数は特に制限されず、対象となる有機化合物の種類や、目的とする脱水/濃縮の程度により適宜決定すればよい。
【0169】
図1のc)は、水分調節手段、例えば、蒸留手段20の還流ライン22の途中に膜分離手段10を備える分離装置である。水分調節手段が蒸留手段である場合、ベーパーパーミエーション法(蒸気透過法)により、水の分離が行われる。この場合、膜分離手段により脱水/濃縮された含水有機化合物13は、水分調節手段(蒸留塔)へ戻される。なお、ベーパーパーミエーション法(蒸気透過法)における物質のフローについては、図2の例において詳述する。
【0170】
図1のd)は、水分調節手段、例えば、蒸留手段20のボトムの後段に、膜分離手段を備える分離装置である。この例においては、蒸留塔21の缶出液23が、膜分離手段10へ導入される。この場合、通常パーベーパレーション法(浸透気化法)により水の分離が行われる。
【0171】
図1のe)は、膜分離手段10の後段に、吸着分離手段30、例えばPSA又はTSAなどを備える分離装置である。PSAなどの吸着分離手段は、通常、高含水有機化合物の分離には適さない。そこで、高含水に対応できる本発明の膜分離手段を前段に導入することにより、より効果的な脱水/濃縮が可能となる。
【0172】
図1のf)は、膜分離手段10の後段に、水分調節手段、例えば蒸留手段20を備える分離装置である。これにより、より高度な脱水/濃縮が可能となる。
【0173】
本発明の分離装置おける実施態様の他の1例を、図2に模式的に示す。この図は、膜分離手段10の前段に、水分調節手段として蒸留手段20を備える分離装置を模式的に示したものである。
【0174】
図2において、蒸留手段20は、通常、蒸留塔21、リボイラー(図示せず)、ならびに凝縮器40、還流タンク(図示せず)、還流ポンプ(図示せず)等を有する還流ライン22などから構成される。
【0175】
蒸留塔は、棚段式、充填塔など蒸留に適したものであれば特に限定されない。蒸留塔21には、原料混合物(含水有機化合物)11を供給するための供給部を有している。図2において、供給部は蒸留塔21の中段にあるが、その位置は特に制限されず、蒸留条件により適宜決めればよい。
【0176】
この蒸留塔は耐圧性を有するものであれば特に制限がなく、それ自体既知の蒸留塔を使用することができる。
【0177】
含水率が、例えば50質量%で蒸留手段20に導入された混合物(含水有機化合物)は、蒸留塔21により気液平衡により分離され、過剰の高沸成分である水が、蒸留塔の底部から缶出液23として抜き出される。一方、蒸留塔の塔頂からは有機化合物/水混合系の飽和蒸気が留出する。この混合蒸気は、膜分離手段10への供給分を除く残りの混合蒸気が還流ラインへ入り、凝縮器40により凝縮され、還流タンクを通じて還流ポンプにより還流ラインを通じて蒸留塔21へ還流される。
【0178】
かくして、蒸留手段20において含水量が調節され、例えば、エネルギー負担の少ない、比較的含水量が多い、含水率30質量%程度の含水液(含水有機化合物)として膜分離手段10に導入される。
【0179】
なお、蒸留手段20の塔頂部の圧力は、混合蒸気の組成や性状にもより一概に決められないが、通常0.05MPa以上、好ましくは0.1MPa以上であり、通常2MPa以下、好ましくは1MPa以下である。圧力が大きすぎると蒸留塔の建設コストが高くなるなど不利となり、低すぎると蒸気を凝縮しにくくなるなど不利となる。
【0180】
また、本発明において、蒸留手段20で水分調節後の含水率は、通常20%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは45%質量以上であり、通常95質量%以下、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
【0181】
図2において、膜分離手段10に導入する工程において、必要に応じて結露防止手段50を有していてもよい。膜分離手段10へ導入する原料混合物11の含水量が多い場合、そのまま膜分離手段へ導入すると、膜表面において凝縮が起こりやすくなる。その場合、膜の有効面積が低下し、分離性能が低下する場合がある。そこで、膜分離手段の前に結露防止手段50を設けることにより、膜への凝縮を防ぎ、有効面積を最大化することができる。
【0182】
また、配管の外側および/または内側の結露が生じる場合も考えられる。この場合、凝縮によるエネルギーの損失があり非効率的であるほか装置からの水の滴りによって装置周辺の環境を悪化させるなどの問題が生じるおそれがある。
【0183】
結露防止手段は特に限定されず、例えば、上記したものが挙げられる。
【0184】
結露防止手段により、蒸気は過熱されるが、通常1〜50℃の過熱状態として膜分離手段へ供給する。
【0185】
図2において、水分調節手段(蒸留手段20)から膜分離手段10に導入された高含水有機化合物、例えば含水率30質量%程度の有機化合物の混合蒸気を、本発明のゼオライト膜分離手段に導入することにより、水が選択的にゼオライト膜を透過して透過液12側へ排出され、透過凝縮器、透過液トラップを経て回収される。また、有機化合物は、ゼオライト膜を透過せず、被透過液13側に脱水されて排出され、濃縮液凝縮器を経て容器に回収される。
【0186】
図2で例示した膜分離方法は、べーパーパーミエーション法(蒸気透過法)であるが、例えば、蒸留塔の塔底からの混合液を分離する場合などは、上記のとおり、パーベーパレーション法(浸透気化法)が用いられる。
【0187】
本発明の分離装置において、ゼオライト膜の温度は、蒸気透過法、浸透気化法により異なるが、通常50℃以上、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは160℃以下、より好ましくは140℃以下である。
【0188】
また、本発明の分離装置において、パーベーパレーション法を行う場合、低圧側の減圧度は、経済的なメリットがある範囲で低ければ低いほど良い。通常は50torr(6.65kPa)未満、好ましくは10torr(1.33kPa)未満、より好ましくは5torr(0.665kPa)未満である。浸透の駆動力は膜の両側の圧力差であり、圧力差が大きいほど透過流速は大きくなるためである。
【0189】
こうして得られる透過側の水の濃度、および濃縮される有機物の濃度は、通常80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上、特に好ましくは99.5質量%以上である。
【実施例】
【0190】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0191】
<ゼオライト膜の物性及び性能の測定>
以下の実施例、比較例において、ゼオライト膜の物性及び分離性能は、次の方法で測定した。
【0192】
(1)X線回折(XRD)測定
XRD測定は以下の条件に基づき行った。
・装置名:オランダPANalytical社製X’PertPro MPD
・光学系仕様 入射側:封入式X線管球(CuKα)
Soller Slit (0.04rad)
Divergence Slit (Valiable Slit)
試料台:XYZステージ
受光側:半導体アレイ検出器(X’ Celerator)
Ni−filter
Soller Slit (0.04rad)
ゴニオメーター半径:240mm
・測定条件 X線出力(CuKα):45kV、40mA
走査軸:θ/2θ
走査範囲(2θ):5.0−70.0°
測定モード:Continuous
読込幅:0.05°
計数時間:99.7sec
自動可変スリット(Automatic−DS):1mm(照射幅)
横発散マスク:10mm(照射幅)
【0193】
なお、X線は円筒管の軸方向に対して垂直な方向に照射した。またX線は、できるだけノイズ等がはいらないように、試料台においた円筒管状の膜複合体と、試料台表面と平行な面とが接する2つのラインのうち、試料台表面ではなく、試料台表面より上部にあるもう一方のライン上に主にあたるようにした。
【0194】
また、照射幅を自動可変スリットによって1mmに固定して測定し、Materials Data, Inc.のXRD解析ソフトJADE 7.5.2(日本語版)を用いて可変スリット→固定スリット変換を行ってX線回折(XRD)パターンを得た。
【0195】
(2)SEM−EDX測定
SEM−EDX測定は以下の条件に基づき行った。
・装置名:SEM:FE−SEM Hitachi:S−4800
EDX:EDAX Genesis
・加速電圧:10kV
倍率5000倍での視野全面(25μm×18μm)を走査し、X線定量分析を行った。
【0196】
(3)SEM測定
SEM測定は以下の条件に基づき行った。
・装置名:SEM:FE−SEM Hitachi:S−4100
・加速電圧:10kV
【0197】
(4)空気透過量
ゼオライト膜複合体の一端を封止し、他端を、密閉状態で5kPaの真空ラインに接続して、真空ラインとゼオライト膜複合体の間に設置したマスフローメーターで空気の流量を測定し、空気透過量[L/(m・h)]とした。マスフローメーターとしてはKOFLOC社製8300、Nガス用、最大流量500ml/min(20℃、1気圧換算)を用いた。KOFLOC社製8300においてマスフローメーターの表示が10ml/min(20℃、1気圧換算)以下であるときはLintec社製MM−2100M、Airガス用、最大流量20ml/min(0℃、1気圧換算)を用いて測定した。
【0198】
(5)パーベーパレーション法
パーベーパレーション法に用いた装置の概略図を図3に示す。図3においてゼオライト膜複合体5は真空ポンプ9によって内側が減圧され、被分離液4が接触している外側と圧力差が約1気圧(1.01×10Pa)になっている。この圧力差によって、被分離液4中の透過物質(水)がゼオライト膜複合体5に浸透気化して透過する。透過した物質はトラップ7で捕集される。一方、有機化合物は、ゼオライト膜複合体5の外側に滞留する。
【0199】
一定時間ごとに、トラップ7に捕集した透過液の重量測定および組成の分析、被分離液4の組成を分析を行い、それらの値を用いて各時間の分離係数、透過流束、水のパーミエンスを前記のとおり算出した。なお、組成分析はガスクロマトグラフにより行った。
【0200】
なお、透過開始から約5時間で、透過流束、分離係数、透過液中の水の濃度が安定してくるので、特に明記しない限り、透過成績は5時間後の値を示す。
【0201】
<無機多孔質支持体−(CHA型)ゼオライト膜複合体の作製>
以下の実施例1〜7において、CHA型ゼオライトを無機多孔質支持体上に直接水熱合成することで、無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を作製した。
【0202】
(実施例1)
CHA型ゼオライト膜の作成のために、N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムヒドロキシド(以下これを「TMADAOH」ということがある。)水溶液を、米国特許第4544538明細書に記載の方法に準じて次のとおり調製した。
【0203】
5.5gの1−アダマンタンアミン(アルドリッチ社製)を75mlのメタノールに溶解し、24.2gの炭酸カリウムを加え、30分攪拌した。これに、10mlのヨードメタンを滴下させ、1昼夜攪拌した。その後、塩化メチレンを50ml加えて固体をろ過した。得られた溶液の溶媒をエバポレーターにより除去して固体を得た。この固体に塩化メチレン130ml加えてろ過、溶媒の除去を2回繰り返した。その後、得られた固体をメタノールを用いて再結晶した。再結晶された固体をろ過し、ジエチルエーテルで洗浄後、乾燥してN,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムヨーダイド(TMADI)を得た。
【0204】
このTMADIを水に溶解させ、アニオン交換樹脂(三菱化学社製 SA−10A)によりイオン交換し、エバポレーターで濃縮しTMADAOH水溶液を得た。滴定により求めた、水溶液中のTMADAOH濃度は0.75mmol/gであった。また、この水溶液中に含まれるK量は1.84質量%であった。
【0205】
水熱合成用の反応混合物として、以下のものを調製した。
1mol/L−NaOH水溶液6.9gと水103.6gを混合したものに水酸化アルミニウム(Al 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)0.43gを加えて撹拌し溶解させ、透明溶液とした。これに有機テンプレートとして、上記のTMADAOH水溶液9.2gを加え(この溶液中にKとして0.17g含有している。)、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック−40)10.4gを加えて3時間撹拌し、水性反応混合物とした。
【0206】
この反応混合物の組成(モル比)は、SiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.033/0.1/0.06/100/0.1、SiO/Al=30である。
【0207】
無機多孔質支持体としては、ニッカトー社製のムライトチューブPM(外径12mm、内径9mm)を80mmの長さに切断した後、外表面を耐水性紙やすりを用いて滑らかにして、超音波洗浄機で洗浄したのち乾燥させたものを用いた。
【0208】
種結晶として、SiO/Al/NaOH/HO/TMADAOH=1/0.033/0.1/40/0.1のゲル組成(モル比)で、160℃、2日間水熱合成して結晶化させたものを、ろ過、水洗、乾燥して得られたCHA型ゼオライトを用いた。種結晶の粒径は0.5μm程度であった。
【0209】
この種結晶を1質量%水中に分散させたものに、上記支持体を所定時間浸した後、100℃で5時間以上乾燥させて種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は3g/mであった。
【0210】
種結晶を付着させた支持体を、上記水性反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬して、オートクレーブを密閉し、160℃で48時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後に放冷し、多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、100℃で5時間以上乾燥させた。
【0211】
テンプレート焼成前の状態(以下これを「as−made」ということがある。)のゼオライト膜複合体を、電気炉で、550℃、10時間焼成した。このときの昇温速度と降温速度はともに0.5℃/分とした。
【0212】
焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は120g/mであった。SEM観察から、膜厚は約15μmであった。
【0213】
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は50L/(m・h)であった。
【0214】
生成した膜のXRD測定をしたところCHA型ゼオライトが生成していることがわかった。
【0215】
XRD測定の結果から、(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=2.9であり、rhombohedral settingにおける(1,1,1)面への配向が推測された。
【0216】
短冊状に切断した無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体をSEMで観測した結果、表面に結晶が緻密に生成していた。
【0217】
SEM−EDXにより測定した、ゼオライト膜のSiO/Alモル比は22であった。
【0218】
(実施例2)
水熱合成用の反応混合物として、以下のものを調製した。
1mol/L−NaOH水溶液10.5gと1mol/L−KOH水溶液7.0gと水100.0gを混合したものに水酸化アルミニウム(Al 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)0.88gを加えて撹拌し溶解させ、透明溶液とした。これに有機テンプレートとしてTMADAOH水溶液(TMADAOH25質量%含有、セイケム社製)2.95gを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック−40)10.5gを加えて2時間撹拌し、反応混合物とした。
【0219】
この反応混合物の組成(モル比)は、SiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.066/0.15/0.1/100/0.05、SiO/Al=15である。
【0220】
無機多孔質支持体としては、実施例1と同様のものを、同様に処理して用いた。
【0221】
種結晶として、実施例1と同様の条件で水熱合成して結晶化させた粒径0.5μm程度のCHA型ゼオライトを用いた。
【0222】
この種結晶を、実施例1と同様の方法で、上記支持体に付着させた。付着した種結晶の質量は5g/mであった。
【0223】
種結晶を付着させた支持体を、実施例1と同様に、上記反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、160℃で48時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後に支持体−ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、100℃で5時間以上乾燥させた。
【0224】
as−madeのゼオライト膜複合体を、電気炉で、500℃、5時間焼成した。焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は120g/mであった。SEM観察から、膜厚は約15μmであった。
【0225】
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は50L/(m・h)であった。
【0226】
生成した膜のXRDパターンと種結晶として使用した粉末のCHA型ゼオライト[米国特許第4544538号明細書においてSSZ−13と呼称されるゼオライト(以下これを「SSZ−13」ということがある。)]のXRDパターンを図4に示す。図4において、a)は実施例2の膜のXRDパターン、b)はSSZ−13のXRDパターンである。また、図中の*は支持体由来のピークである。
【0227】
図4から、生成した膜のXRDパターンでは、粉末のCHA型ゼオライトであるSSZ−13のXRDパターンにくらべ2θ=17.9°付近のピークの強度が顕著に大きいことがわかる。粉末のCHA型ゼオライトであるSSZ−13の(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=0.2に対し、生成した膜の(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=12.6であり、rhombohedral settingにおける(1,1,1)面への配向が推測された。
【0228】
このように、XRD測定の結果から、生成したゼオライト膜は、SSZ−13とは異なる配向面をもつ、CHA型ゼオライトであることがわかった。
【0229】
SEM−EDXにより測定した、ゼオライト膜のSiO/Alモル比は17であった。
【0230】
(実施例3)
水熱合成用の反応混合物として、以下のものを調製した。
1mol/L−NaOH水溶液10.5gと1mol/L−KOH水溶液7.0gと水100.4gを混合したものに水酸化アルミニウム(Al53.5質量%含有、アルドリッチ社製)0.88gを加えて撹拌し溶解させ、透明溶液とした。これに有機テンプレートとしてTMADAOH水溶液(TMADAOH25質量%含有、セイケム社製)2.37gを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック−40)10.5gを加えて2時間撹拌し、反応混合物とした。
【0231】
この反応混合物の組成(モル比)は、SiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.066/0.15/0.1/100/0.04、SiO/Al=15である。
【0232】
無機多孔質支持体としては、実施例1と同様のものを、同様に処理して用いた。
【0233】
種結晶として、TMADAOH水溶液(TMADAOH25質量%含有、セイケム社製)を用いて、SiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.066/0.15/0.1/100/0.1のゲル組成(モル比)で、160℃、2日間水熱合成をして結晶化させたものを、ろ過、水洗、乾燥して得られたCHA型ゼオライトを用いた。この種結晶の粒径は2μm程度であった。
【0234】
この種結晶を、実施例1と同様の方法で、上記支持体に付着させた。付着した種結晶の質量は2g/mであった。
【0235】
種結晶を付着させた支持体を、実施例1と同様に、上記反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、160℃で48時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後に放冷し、多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、100℃で5時間以上乾燥させた。
【0236】
as−madeのゼオライト膜複合体を、電気炉で、500℃、5時間焼成した。焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は130g/mであった。
【0237】
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は432L/(m・h)であった。
【0238】
生成した膜のXRD測定をしたところCHA型ゼオライトが生成していることがわかった。
【0239】
XRD測定の結果から、2θ=17.9°付近のピークの強度が顕著に大きいことがわかった。生成した膜の(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=1.0であった。
【0240】
SEM−EDXにより測定した、ゼオライト膜のSiO/Alモル比は20であった。
【0241】
(実施例4)
無機多孔質支持体として多孔質アルミナチューブ(外径12mm、内径9mm)を用いた以外は、実施例3と同様の方法で、無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。
【0242】
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は285L/(m・h)であった。
【0243】
XRD測定の結果から、(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=1.2であることがわかった。
【0244】
SEM−EDXにより測定した、ゼオライト膜のSiO/Alモル比は17であった。
【0245】
(実施例5)
水熱合成用の反応混合物として、以下のものを調製した。
1mol/L−NaOH水溶液32gと1mol/L−KOH水溶液48gと水457gを混合したものに水酸化アルミニウム(Al 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)4.0gを加えて撹拌し溶解させ、ほぼ透明溶液とした。これに有機テンプレートとして、TMADAOH水溶液(TMADAOH25質量%含有、セイケム社製)13.5gを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック−40)48gを加えて2時間撹拌し、反応混合物とした。
【0246】
この反応混合物の組成(モル比)は、SiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.066/0.1/0.15/100/0.1、SiO/Al=15である。
【0247】
無機多孔質支持体としては、実施例1と同様のものを、同様に処理して用いた。
【0248】
種結晶として、実施例3と同様の条件で水熱合成して結晶化させた粒径が2μm程度のCHA型ゼオライトを用いた。
【0249】
この種結晶を、実施例1と同様の方法で、上記支持体に付着させた。付着した種結晶の質量は5g/mであった。
【0250】
種結晶を付着させた支持体を、上記反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬して、このテフロン(登録商標)製内筒を1Lのステンレス製オートクレーブに入れ、オートクレーブを密閉し、昇温に5時間をかけたのち、160℃で48時間、自生圧力下で加熱した。反応の間、200rpmで回転する撹拌翼によって反応混合物を混合した。所定時間経過後に放冷し、多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、100℃で4時間以上乾燥させた。
【0251】
as−madeのゼオライト膜複合体を、電気炉で、500℃、5時間焼成した。焼成後のゼオライト膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は120g/mであった。
【0252】
生成した膜のXRD測定をしたところCHA型ゼオライトが生成していることがわかった。生成した膜のXRDパターンを図5に示す。図中の*は支持体由来のピークである。
【0253】
XRD測定の結果から、粉末のCHA型ゼオライトであるSSZ−13のXRDパターンにくらべ2θ=9.6°付近のピークの強度が顕著に大きいことがわかった。また、(2θ=9.6°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=6.8とCOLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERに記載の粉末のCHA型ゼオライトのXRDパターンにおけるピーク強度比(2θ=9.6°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=2.5にくらべ著しく大きく、rhombohedral settingにおける(1,0,0)面への配向が推測された。
【0254】
SEM−EDXにより測定した、ゼオライト膜のSiO/Alモル比は17であった。
【0255】
(実施例6)
水熱合成用の反応混合物として、以下のものを調製した。
1mol/L−NaOH水溶液30.1gと水66.0gを混合したものに水酸化アルミニウム(Al 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)0.057gを加えて撹拌し溶解させ、ほぼ透明溶液とした。これに有機テンプレートとして、TMADAOH水溶液(TMADAOH25質量%含有、セイケム社製)12.7gを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック−40)23.6gを加えて2時間撹拌し、水性反応混合物とした。
【0256】
この反応混合物の組成(モル比)は、SiO/Al/NaOH/HO/TMADAOH=1/0.002/0.2/44/0.1、SiO/Al=500である。
【0257】
無機多孔質支持体としては、実施例1と同様のものを、同様に処理して用いた。
【0258】
種結晶として、実施例1と同様の条件で水熱合成して結晶化させた粒径0.5μm程度のCHA型ゼオライトを用いた。
【0259】
この種結晶を、実施例1と同様の方法で、上記支持体に付着させた。付着した種結晶の質量は3g/mであった。
【0260】
種結晶を付着させた支持体を、上記反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬して、オートクレーブを密閉し、160℃で48時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後に放冷し、多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、100℃で4時間以上乾燥させた。
【0261】
as−madeのゼオライト膜複合体を、電気炉で、500℃、5時間焼成した。焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は100g/mであった。
【0262】
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は500L/(m・h)であった。
【0263】
生成した膜のXRD測定をしたところCHA型ゼオライトが生成していることがわかった。生成した膜のXRDパターンを図6に示す。図中の*は支持体由来のピークである。
【0264】
XRD測定の結果から、(2θ=9.6°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=1.7であり、(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=0.3であることがわかった。
【0265】
このように、生成した膜のXRDピークに特異な強度を示すものはなかった。これから例えば、生成した膜がrhombohedral settingにおける(1,0,0)面、(1,1,1)面のいずれにも配向していないことが推測される。
【0266】
SEM−EDXにより、ゼオライト膜のSiO/Alモル比の測定を試みたが、正確な値が得られなかった。この原因は、反応混合物のSiO/Alモル比が500であることから、ゼオライト膜のSiO/Alモル比も非常に高くなったことによると考えられる。ゼオライト膜のSEM−EDXでは、通常、SiO/Alモル比の測定限界値が100程度と考えられるため、少なくともこのゼオライト膜のSiO/Alモル比は100以上であると推測される。
【0267】
(実施例7)
水熱合成用の反応混合物として、以下のものを用いた以外は実施例2と同様の条件で無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。
【0268】
水熱合成用の反応混合物は、1mol/L−NaOH水溶液12.9gと1mol/L−KOH水溶液8.6gと水92.4gを混合したものに水酸化アルミニウム(Al53.5質量%含有、アルドリッチ社製)1.16gを加えて撹拌し溶解させ、ほぼ透明溶液とし、これにTMADAOH水溶液(TMADAOH25質量%含有、セイケム社製)2.91gを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック−40)12.9gを加えて2時間撹拌することにより調製した。
【0269】
この反応混合物の組成(モル比)は、SiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.071/0.15/0.1/80/0.04、SiO/Al=14である。
【0270】
得られたゼオライト膜複合体の焼成後の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は150g/mであった。
【0271】
XRD測定の結果から、(2θ=9.6°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=12.8であることがわかった。
【0272】
SEM−EDXにより測定した、ゼオライト膜のSiO/Alモル比は15であった。
【0273】
【表1】

【0274】
<分離性能の測定>
以下の実施例8〜24において、上記実施例1〜7で作製した無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体の分離性能をパーベーパレーション法で測定した。また、比較例1、2において、従来技術の無機多孔質−ゼオライト膜複合体を作製し、同様の方法で、分離性能を測定した。
【0275】
(実施例8)
実施例1で得られたゼオライト膜複合体を用いて、70℃の水/酢酸混合溶液(50/50質量%)から、水を選択的に透過させる分離を行った。
【0276】
透過流束は4.0kg/(m・h)、分離係数は384、透過液中の水の濃度は99.74質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、2.5×10−6mol/(m・s・Pa)であった。
【0277】
(実施例9)
実施例2で得られたゼオライト膜複合体を用いて、70℃の水/酢酸混合溶液(50/50質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
【0278】
透過流束は4.8kg/(m・h)、分離係数は544、透過液中の水の濃度は99.81質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、3.1×10−6mol/(m・s・Pa)であった。
【0279】
また、分離を長時間継続し、透過流束の経時変化を調べた。開始から約10時間後の変化を開始60分後の透過流束を1としてプロットしたものを図7に示した。これから透過流束は、約5時間後はほぼ安定していることがわかる。なお、図7中の「実施例2」は、この例におけるゼオライト膜複合体が、実施例2で得られたものであることを意味する。
【0280】
(実施例10)
実施例2で得られたゼオライト膜複合体を用いて、80℃の水/酢酸混合溶液(50/50質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
【0281】
透過流束は6.0kg/(m・h)、分離係数は649、透過液中の水の濃度は99.84質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、2.5×10−6mol/(m・s・Pa)であった。
【0282】
(実施例11)
実施例3で得られたゼオライト膜複合体を用いて、70℃の水/酢酸混合溶液(50/50質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
【0283】
透過流束は5.6kg/(m・h)、分離係数は230、透過液中の水の濃度は99.57質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、3.5×10−6mol/(m・s・Pa)であった。
【0284】
(実施例12)
実施例4で得られたゼオライト膜複合体を用いて、70℃の水/2−プロパノール水溶液(30/70質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
【0285】
透過流束は7.7kg/(m・h)、分離係数は3000、透過液中の水の濃度は99.92質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、4.3×10−6mol/(m・s・Pa)であった。
【0286】
(実施例13)
実施例5で得られたゼオライト膜複合体を用いてパーベーパレーション法により70℃の水/酢酸混合溶液(50/50質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
【0287】
透過流束は4.6kg/(m・h)、分離係数は64、透過液中の水の濃度は98.46質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、2.9×10−6mol/(m・s・Pa)であった。
【0288】
(実施例14)
実施例6で得られたゼオライト膜複合体を用いて、70℃の水/酢酸混合溶液(50/50質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。この例では、透過開始から約3時間で、透過流束、分離係数、透過液中の水の濃度が安定したので、3時間後の透過成績を示す。
【0289】
透過流束は0.9kg/(m・h)、分離係数は26、透過液中の水の濃度は96.30質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、5.5×10−7mol/(m・s・Pa)であった。
【0290】
(実施例15)
実施例7で得られたゼオライト膜複合体を用いてパーベーパレーション法により70℃の水/酢酸混合溶液(50/50質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
【0291】
透過流束は4.5kg/(m・h)、分離係数は180、透過液中の水の濃度は99.43質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、2.8×10−6mol/(m・s・Pa)であった。
【0292】
(実施例16)
実施例2と同様にして得られたゼオライト膜複合体を用いてパーベーパレーション法により70℃の水/2−プロパノール溶液(30/70質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
【0293】
透過流束は5.8kg/(m・h)、分離係数は31000、透過液中の水の濃度は99.99質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、3.3×10−6mol/(m・s・Pa)であった。
【0294】
(実施例17)
実施例2と同様にして得られたゼオライト膜複合体を用いて、50℃の水/2−プロパノール溶液(30/70質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
【0295】
透過流束は2.5kg/(m・h)、分離係数は29000、透過液中の水の濃度は99.99質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、3.6×10−6mol/(m・s・Pa)であった。
【0296】
(実施例18)
実施例2と同様にして得られたゼオライト膜複合体を用いて、50℃の水/テトラヒドロフラン溶液(50/50質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
【0297】
透過流束は3.1kg/(m・h)、分離係数は3100、透過液中の水の濃度は99.97質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、4.2×10−6mol/(m・s・Pa)であった。
【0298】
(実施例19)
実施例2と同様にして得られた膜複合体を用いて、40℃の水/アセトン溶液(50/50質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
【0299】
透過流束は1.6kg/(m・h)、分離係数は14600、透過液中の水の濃度は99.99質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、3.8×10−6mol/(m・s・Pa)であった。
【0300】
(実施例20)
実施例2と同様にして得られたゼオライト膜複合体を用いて、70℃の水/N−メチル−2−ピロリドン溶液(50/50質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
【0301】
透過流束は5.6kg/(m・h)、分離係数は10300、透過液中の水の濃度は99.99質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、3.3×10−6mol/(m・s・Pa)であった。
【0302】
(実施例21)
実施例2と同様にして得られたゼオライト膜複合体を用いて、70℃の水/エタノール溶液(86/14質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
【0303】
透過流束は1.3kg/(m・h)、分離係数は500、透過液中の水の濃度は99.97質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、6.8×10−7mol/(m・s・Pa)であった。
【0304】
(実施例22)
実施例2と同様にして得られたゼオライト膜複合体を用いて、70℃の水/N−メチル−2−ピロリドン溶液(30/70質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
【0305】
透過流束は4.3kg/(m・h)、分離係数は23100、透過液中の水の濃度は99.99質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、3.1×10−6mol/(m・s・Pa)であった。
【0306】
(実施例23)
実施例2と同様にして得られたゼオライト膜複合体を用いて、有機酸を添加することによりpH4〜5に調整した70℃の水/N−メチル−2−ピロリドン溶液(30/70質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
【0307】
透過流束は4.3kg/(m・h)、分離係数は23600、透過液中の水の濃度は99.99質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、3.1×10−6mol/(m・s・Pa)であった。
【0308】
(実施例24)
実施例4で得られたゼオライト膜複合体を用いて、70℃の水/N−メチル−2−ピロリドン溶液(30/70質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
【0309】
透過流束は7.7kg/(m・h)、分離係数は25100、透過液中の水の濃度は99.99質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、5.7×10−6mol/(m・s・Pa)であった。
【0310】
上記実施例8〜24における測定結果を表2に示す。表2中、2−PrOHは2−プロパノールを、NMPはN−メチルピロリドンを、EtOHはエタノールを示す。なお、上記の測定において、実施例23を除いて、含水有機物のpH調整は行っていない。
【0311】
【表2】

【0312】
(比較例1)
無機多孔質支持体−MOR型ゼオライト膜複合体を、MOR型ゼオライトをムライトチューブ上に直接水熱合成することで作製し、70℃の水/酢酸混合溶液(50/50質量%)から水を選択的に透過させる分離評価を次のとおり行った。
【0313】
水熱合成用の反応混合物として、以下のものを調製した。
水酸化ナトリウム(97.0質量%、純正化学社製)14.9gと水69.5gを混合したものに水酸化アルミニウム(Al 53.5質量%含有、Aldrich社製)1.09gを加えて撹拌し溶解させ、透明溶液とした。これにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック−40)90.0gを加えて2時間撹拌し、水性反応混合物とした。
【0314】
無機多孔質支持体としては、実施例1と同様のものを、同様に処理して用いた。
【0315】
種結晶として、MOR型ゼオライトTSZ−640NAA(東ソー社製)を用いた。この種結晶を5質量%水に分散させたスラリーを、上記支持体上に塗りこんで付着させた。付着した種結晶の質量は6g/mであった。
【0316】
種結晶を付着させた支持体を上記反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、160℃で8時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後に放冷し、多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、100℃で5時間以上乾燥させた。
【0317】
ゼオライト膜のXRD測定をしたところ、MOR型ゼオライト膜が生成していることが分かった。なお、MOR型ゼオライトは、骨格構造として酸素12員環構造を有し、フレームワーク密度(T/1000Å)が17.2である。
【0318】
乾燥後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体状に結晶化したMOR型ゼオライトの質量は35g/mであった。
【0319】
分離評価の結果、透過流束は0.38kg/(m・h)、分離係数は2300、透過液中の水の濃度は99.96質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、2.4×10−7mol/(m・s・Pa)であった。
【0320】
この比較例1と実施例9(実施例2のゼオライト膜)の結果から、CHA型ゼオライト膜複合体はMOR型ゼオライト膜複合体と同等の高い選択透過性を有し、かつMOR型ゼオライト膜複合体の10倍以上の高い透過流束を持つことがわかる。
【0321】
さらに、実施例9の場合と同様に分離を長時間継続し、透過流束の経時変化を調べた。開始から約10時間後の変化を開始60分後の透過流束を1としてプロットしたものを図7に示した。実施例9に比べて経時的な低下が大きく、安定性という点でもCHA型ゼオライト膜複合体が優れていることがわかる。
【0322】
(比較例2)
無機多孔質支持体−A型ゼオライト膜複合体を、特開平7−185275の実施例1(合成例1)の記載に準じて、無機多孔質支持体上に直接水熱合成することで作製し、70℃の水/2−プロパノール溶液(50/50質量%)から水を選択的に透過させる分離評価を、次のとおり行った。
【0323】
水熱合成用の反応混合物として、ケイ酸ナトリウム水溶液とアルミン酸ナトリウム水溶液をモル比として、HO/NaO=60、NaO/SiO=1、SiO/Al=2となる組成の溶液を調製した。
【0324】
無機多孔質支持体として、多孔質アルミナチューブ(外径12mm、内径9mm)を用い、あらかじめ支持体上にA型ゼオライトの種結晶を担持させた。
【0325】
種結晶を担持させた支持体を、上記反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、100℃で6時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後に放冷し、多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、60℃で4時間乾燥させた。
【0326】
ゼオライト膜のXRD測定をしたところ、A型ゼオライト膜が生成していることが分かった。なお、A型ゼオライトは、SiO/Alモル比が2、骨格構造として酸素8員環構造を有し、フレームワーク密度(T/1000Å)が12.9である。
【0327】
分離評価の結果、3時間後の透過液中の水の濃度は53.0質量%となり、選択性が非常に低下していた。
【産業上の利用可能性】
【0328】
本発明は産業上の任意の分野に使用可能であるが、例えば、化学プラント、発酵プラント、精密電子部品工場、電池製造工場等の、含水有機化合物から水を分離し、有機化合物の回収などが必要とされる分野において、特に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0329】
10 膜分離手段
11 原料混合物(含水有機化合物)
12 透過液
13 被透過液
20 蒸留手段
21 蒸留塔
22 還流ライン
23 缶出液
30 吸着分離手段
40 凝縮器
50 結露防止手段
1 スターラー
2 湯浴
3 撹拌子
4 被分離液
5 ゼオライト膜複合体
6 ピラニゲージ
7 透過液捕集用トラップ
8 コールドトラップ
9 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水率20質量%以上の含水有機化合物を、ゼオライト膜を有する膜分離手段へ導入し、含水有機化合物から水を分離する方法であって、ゼオライト膜が、SiO/Alモル比が5以上であり、骨格構造として酸素6〜10員環構造を有し、フレームワーク密度が10以上17以下であるゼオライトを含むことを特徴とする分離方法。
【請求項2】
ゼオライト膜が、多孔質支持体上にゼオライトを膜状に固着させたゼオライト膜複合体である、請求項1に記載の分離方法。
【請求項3】
含水有機化合物が、予め含水率を調節したものである、請求項1または2に記載の分離方法。
【請求項4】
膜分離手段によって水が分離された含水有機化合物から、さらに水を分離する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の分離方法。
【請求項5】
含水有機化合物中の有機化合物が、有機酸、アルコール、エーテル、アルデヒド、ケトンおよび窒素を含む有機化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の分離方法。
【請求項6】
ゼオライト膜を有する膜分離手段を少なくとも備え、含水有機化合物を膜分離手段へ導入して水を分離し、濃縮された含水有機化合物を得る分離装置であって、ゼオライト膜が、SiO/Alモル比が5以上であり、骨格構造として酸素6〜10員環構造を有し、かつフレームワーク密度が10以上17以下のゼオライトを含むことを特徴とする分離装置。
【請求項7】
膜分離手段へ導入する含水有機化合物の含水率を調節する水分調節手段を備える、請求項6に記載の分離装置。
【請求項8】
膜分離手段の前段部に結露防止手段を備える、請求項6または7に記載の分離装置。
【請求項9】
膜分離手段へ導入する含水有機化合物の含水率が20質量%以上である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の分離装置。
【請求項10】
有機化合物が、有機酸、アルコール、エーテル、アルデヒド、ケトン及び窒素を含む有機化合物よりなる群から選ばれるいずれかの化合物である、請求項6〜9のいずれか1項に記載の分離装置。
【請求項11】
ゼオライトがアルミノ珪酸塩である、請求項6〜10のいずれか1項に記載の分離装置。
【請求項12】
ゼオライトがCHA型である、請求項6〜11のいずれか1項に記載の分離装置。
【請求項13】
ゼオライト膜が、多孔質支持体上にゼオライトを膜状に固着させたゼオライト膜複合体である、請求項6〜12の何れか1項に記載の分離装置。
【請求項14】
ゼオライト膜が、含水率30質量%の2−プロパノールと水の混合物を、温度70℃、1気圧(1.01×10Pa)の圧力差で透過させた場合、1kg/(m・h)以上の透過流束をもつものである、請求項6〜13のいずれか1項に記載の分離装置。
【請求項15】
ゼオライト膜が、含水率30質量%の2−プロパノールと水の混合物を、温度70℃、1気圧(1.01×10Pa)の圧力差で透過させた場合3×10−7mol/(m・s・Pa)以上の水のパーミエンスをもつものである、請求項6〜14のいずれか1項に記載の分離装置。
【請求項16】
ゼオライト膜が、含水率30質量%の2−プロパノールと水の混合物を、温度70℃、1気圧(1.01×10Pa)の圧力差で透過させた場合、1000以上の分離係数をもつものである、請求項6〜15のいずれか1項に記載の分離装置。
【請求項17】
ゼオライト膜が、CHA型ゼオライト種結晶の存在下で水熱合成されたものである、請求項6〜16のいずれか1項に記載の分離装置。
【請求項18】
ゼオライト膜が、アルカリ源としてカリウム(K)イオンを含む水熱合成反応混合物を用いて作製されたものである、請求項6〜17のいずれか1項に記載の分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−121045(P2011−121045A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189652(P2010−189652)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】