説明

含硫黄環状構造含有ポリマー、光学材料用樹脂組成物とその成形体、光学部品およびレンズ

【課題】屈折性とアッベ数がともに高い成形体を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する含硫黄環状構造含有ポリマーを用いる。


(R1〜R4は水素原子、アルキル基、あるいは酸素原子または硫黄原子を含有する置換基を表し、R1〜R4のいずれかひとつが硫黄を環構成原子のひとつとする含硫黄環構造を含有する置換基であるか、R1〜R4が互いに結合して硫黄を環構成原子のひとつとする含硫黄環構造を形成しているかの、いずれかである。mは0または1を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な含硫黄環状構造含有ポリマー、および、アッベ数が高く、高屈折性、透明性、軽量性、加工性に優れ、さらに金型からの離型性に優れる光学材料用樹脂組成物、並びに、これを含んで構成されるレンズ基材(例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ、OHP用レンズ、マイクロレンズアレイ等を構成するレンズ)等の光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
透明樹脂材料はガラスに比べて軽量性、耐衝撃性、成形性に優れ、かつ経済的である等の長所を有し、近年レンズ等の光学部品においても、樹脂による光学ガラスの代替化が進んでいる。
【0003】
代表的な透明熱可塑性樹脂材料としてポリカーボネート樹脂があり、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)を原料としたものは、透明性に優れているうえにガラスに比べて軽く、耐衝撃性に優れ、溶融成形が可能であるため大量生産が容易である等の特徴から、多くの分野において、光学部品として応用が図られている。しかし、屈折率は1.58程度と比較的高い値を有しているものの、屈折率の分散性の程度を表すアッベ数が30と低く、屈折率と分散特性とのバランスが悪く、光学部品を構成する樹脂として、その用途が限られているのが現状である。例えば光学部品の代表例である眼鏡レンズは、視覚機能を考慮すると眼鏡レンズ素材のアッベ数は40以上が望ましいことが知られており(非特許文献1)、ビスフェノールAを原料としたポリカーボネート樹脂をそのまま使用しても所望の特性を得ることは難しい。
【0004】
また、非特許文献2によると、撮像機器の光学系内で発生する収差には、球面収差、コマ収差、非点収差、歪曲収差、像面収差といった単色収差と色収差がある。特に、色収差が大きくなると色にじみが大きくなり、カラー画像としての画質が極端に低下する。この色収差補正は、高屈折率レンズとアッベ数の大きいレンズを組み合わせた、組み合わせレンズによって改善できることが記載されている。
【0005】
アッベ数の大きい光学樹脂材料として全炭化水素からなる環状オレフィン樹脂が知られている。環状オレフィン樹脂は、アッベ数が55〜56程度とある程度高い値を示すが、屈折率は1.52〜1.53程度に過ぎない。近年の携帯機器の軽量化、小型化の観点で更なる高屈折率を有する材料が求められていることから、環状オレフィン樹脂より優れた樹脂が必要とされている。
【0006】
硫黄原子を含む樹脂として、例えば特許文献1には、1,4−ジチアン構造を含むポリチオール化合物とイソチオシアネート基を有する多官能化合物とを重合させた光学樹脂材料が記載されている。この1,4−ジチアン構造を含む光学樹脂材料は、屈折率が1.58〜1.66と高い値を示すが、アッベ数は32〜43に過ぎず、前記環状オレフィン樹脂に比較すると大きく低下するものであった。
また、硫黄原子を含む別の樹脂として、特許文献2には含硫黄環状オレフィンの開環重合体が記載されている。この開環重合体は、屈折率が1.56〜1.657と高い値を示すが、アッベ数は20〜47に過ぎず、前記環状オレフィン樹脂に比較すると低下するものであった。また、ガラス転移温度も110℃付近であり、前記ポリカーボネートの140℃付近と比べると低いものであった。
【0007】
一方、本発明に比較的構造が近いポリマーとして、特許文献3には、硫黄原子を含む環状オレフィン付加重合体が記載されている。しかし、特許文献3には、本発明のような含硫黄環状構造を有するオレフィン付加重合体は記載されていない。また、この特許文献3には、特定の硫黄原子を含む環状オレフィン付加重合体が金属に対する粘着性に優れていることが主に記載されているだけであり、成形体の光学的性質については何も記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平06−5323号公報
【特許文献2】特開2007−9178号公報
【特許文献3】国際公開第02/53622号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】季刊化学総説No.39 透明ポリマーの屈折率制御 日本化学会編
【非特許文献2】プラスチックレンズの技術と応用、シーエムシー出版(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1および2記載の樹脂材料は、比較的低いアッベ数でも許容される眼鏡用レンズ素材には好適に用いることができるが、より高いアッベ数が要求される近年の携帯機器用レンズ素材には不十分であった。また、本発明者が検討した結果、特許文献3記載の樹脂材料も同様であった。このように、これまでに提供されている光学樹脂材料は、アッベ数が高ければ屈折率が低く、屈折率が高ければアッベ数が低いものであり、いずれも近年の携帯機器用レンズ素材に好適に用いられるものではなかった。
本発明は前記実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、屈折性とアッベ数がともに高いことを特徴とする新たな樹脂材料を開発し、該樹脂を用いた光学材料用樹脂組成物とその成形体、これを用いた光学部品およびレンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は前記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の分子構造を有するポリマーを含む光学材料用樹脂組成物が、高屈折性と高アッベ数をともに達成できることを見出し、以下に記載する本発明の完成に至った。
【0012】
[1] 下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する含硫黄環状構造含有ポリマー。
【化1】

(一般式(1)中、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、あるいは酸素原子または硫黄原子を含有する置換基を表し、R1〜R4が互いに結合して環構造を形成していてもよいが、R1〜R4のいずれかひとつが硫黄を環構成原子のひとつとする含硫黄環構造を含有する置換基であるか、R1〜R4が互いに結合して硫黄を環構成原子のひとつとする含硫黄環構造を形成しているかの、いずれかである。ここで、XおよびYはそれぞれ独立に−C(R5)(R6)−、酸素原子、あるいは硫黄原子を表し、R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表す。mは0または1を表す。)
[2] 酸素原子を含むことを特徴とする[1]に記載の含硫黄環状構造含有ポリマー。
[3] 重量平均分子量Mwが20000以上であることを特徴とする[1]または[2]に記載の含硫黄環状構造含有ポリマー。
[4] ガラス転移温度Tgが150℃以上であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1項に記載の含硫黄環状構造含有ポリマー。
[5] [1]〜[4]のいずれか一項に記載の含硫黄環状構造含有ポリマーを含む光学材料用樹脂組成物。
[6] 波長589nmにおける屈折率nDが1.55以上であることを特徴とする[5]に記載の光学材料用樹脂組成物。
[7] 波長589nmにおけるアッベ数νDが50以上であることを特徴とする[5]または[6]に記載の光学材料用樹脂組成物。
[8] 波長589nmにおいて、厚み1mm換算で50%以上の光線透過率を有することを特徴とする[5]〜[7]のいずれか一項に記載の光学材料用樹脂組成物。
[9] [1]〜[4]のいずれか一項に記載の含硫黄環状構造含有ポリマーまたは[5]〜[8]のいずれか一項に記載の光学材料用樹脂組成物を成形したことを特徴とする成形体。
[10] [1]〜[4]のいずれか一項に記載の含硫黄環状構造含有ポリマーまたは[5]〜[8]のいずれか一項に記載の光学材料用樹脂組成物を成形したことを特徴とする光学部品。
[11] [1]〜[4]のいずれか一項に記載の含硫黄環状構造含有ポリマーまたは[5]〜[8]のいずれか一項に記載の光学材料用樹脂組成物を成形したことを特徴とするレンズ。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光学材料用樹脂組成物は、屈折率とアッベ数がともに高いという特徴を有する。また、本発明の光学材料用樹脂組成物は、透明性、軽量性、加工性に優れており、さらに金型からの離型性に優れているため、レンズ基材を始めとする光学部品等に成形しやすい。本発明の光学材料用樹脂組成物を用いた成形体は、優れた透明性を有しながら、高い屈折率と高いアッベ数を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明の光学材料用樹脂組成物およびそれを含んで構成されるレンズ基材等の成形体について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
[ポリマー]
本発明のポリマーは、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する含硫黄環状構造含有ポリマーである。
【化2】

【0016】
一般式(1)中、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、あるいは酸素原子または硫黄原子を含有する置換基を表し、R1〜R4が互いに結合して環構造を形成していてもよいが、R1〜R4のいずれかひとつが硫黄を環構成原子のひとつとする含硫黄環構造を含有する置換基であるか、R1〜R4が互いに結合して硫黄を環構成原子のひとつとする含硫黄環構造を形成しているかの、いずれかである。ここで、XおよびYはそれぞれ独立に−C(R5)(R6)−、酸素原子、あるいは硫黄原子を表し、R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表す。mは0または1を表す。
【0017】
前記R1〜R4における置換または無置換のアルキル基としては、炭素数1〜30が好ましく、より好ましくは炭素数1〜20であり、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基を挙げることができる。置換アルキル基には、例えばアラルキル基が含まれる。前記アラルキル基は、炭素数7〜30が好ましく、より好ましくは炭素数7〜20であり、例えばベンジル基、p−メトキシベンジル基を挙げることができる。また、ヒドロキシアルキル基(例えばヒドロキシエチル基)、アルコキシアルキル基(例えば、メトキシエチル基)なども、置換アルキル基に含まれる。前記アルキル基の置換基としては、これらのアルキル基を挙げることができ、その他に、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子)、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基)などを挙げることができる。
【0018】
前記R1〜R4における酸素原子または硫黄原子を含有する置換基としては、原子数1〜30が好ましく、より好ましくは原子数1〜20であり、さらに好ましくは原子数1〜12である。酸素原子を含有する置換基として、アルコキシ基、−COOR5または−OCOR5で表される置換基やこれら置換基で置換されたアルキル基を挙げることができ、そのなかでもアルコキシ基、−COOR5または−OCOR5で表される置換基で置換されたアルキル基が好ましく、アルコキシ基、−COOR5または−OCOR5で表される置換基で置換されたメチル基がより好ましい。ここでR5は、炭素数1〜12の置換または無置換のアルキル基を表す。置換基としては前記したものと同じである。硫黄原子を含有する置換基として、−SR(Rはアルキル基を表す)で表されるアルキルスルフィド基、−SHで表されるチオール基やこれら置換基で置換されたアルキル基を挙げることができ、そのなかでも−SRで表されるアルキルスルフィド基、−SHで表されるチオール基で置換されたアルキル基が好ましく、−SRで表されるアルキルスルフィド基で置換されたアルキル基がより好ましい。
【0019】
一般式(1)中のR1〜R4は、[1]R1〜R4のいずれかひとつが硫黄を環構成原子のひとつとする含硫黄環構造を含有する置換基であるか、[2]R1〜R4が互いに結合して硫黄を環構成原子のひとつとする含硫黄環構造を形成しているか、前記[1]と前記[2]の両方を満足していることが必須条件とされる。
【0020】
前記[1]でいう含硫黄環構造は、環構成原子数4〜8が好ましく、より好ましくは環構成原子数4〜7であり、さらに好ましくは環構成原子数 5〜7である。環を構成する硫黄原子の数は、1〜3 が好ましく、1〜2がより好ましい。含硫黄環構造は置換基を有していても有していなくてもよい。置換基の好ましい例としては、アルキル基であり、炭素数1〜30が好ましく、1〜20がより好ましく、1〜12がさらに好ましい。具体例としてメチル基、エチル基、n−ブチル基を挙げることができる。
【0021】
前記[2]でいう含硫黄環構造は、環構成原子数5〜8が好ましく、より好ましくは環構成原子数5〜7であり、さらに好ましくは環構成原子数5〜7である。環を構成する硫黄原子の数は、1〜3が好ましく、1〜2がより好ましい。[2]の含硫黄環構造も置換基を有していても有していなくてもよく、置換基の例としては上記[1]の含硫黄環構造の置換基として例示したものを挙げることができる。
【0022】
一般式(1)中のXおよびYは、それぞれ独立に−C(R5)(R6)−、酸素原子、あるいは硫黄原子を表す。XおよびYは同一であっても異なっていてもよい。また、R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表す。ここでいうアルキル基の炭素数は1〜12が好ましく、1〜8がより好ましく、1〜4がさらに好ましい。具体例としてメチル基、エチル基、n−プロピル基を挙げることができる。XおよびYは、好ましくは−C(R5)(R6)−、あるいは酸素原子であり、より好ましくはメチレン基あるいは酸素原子であり、さらに好ましくはメチレン基である。
【0023】
前記mは、0または1を表し、0であることが好ましい。
【0024】
本発明の含硫黄環状構造含有ポリマーは、1種類の繰り返し単位のみからなるホモポリマーであってもよいし、2種類以上の繰り返し単位からなるコポリマーであってもよい。また、一般式(1)で表される繰り返し単位のみからなる重合体であってもよいし、一般式(1)で表される繰り返し単位と、一般式(1)で表されない繰り返し単位からなるものであってもよい。後者の場合に採用される一般式(1)で表されない繰り返し単位の種類は、本発明の効果を過度に阻害しないものであれば特に制限されない。通常は、共重合可能なビニル化合物から誘導される繰り返し単位であることが好ましく、ビニル化合物の好ましい例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセンなどのα−オレフィン、スチレン、環状オレフィンなどを挙げることができる。これらの中では、環状オレフィンを採用することが好ましく、特に重合した後に一般式(1)と同じ環状骨格を形成しうる環状オレフィンを採用することが好ましい。本発明の含硫黄環状構造含有ポリマーに含まれる一般式(1)で表される構造単位の重量割合は10〜100重量%であることが好ましく、20〜80重量%であることがより好ましく、30〜70重量%であることがさらに好ましい。
【0025】
本発明の含硫黄環状構造含有ポリマーのガラス転移温度は、100℃以上であることが好ましく、120〜300℃であることがより好ましく、150〜250℃であることがさらに好ましい。ガラス転移温度が100℃以上であれば十分な耐熱性が得られやすい。また、ガラス転移温度が300℃以下であれば成形加工を行いやすくなる傾向がある。
本発明の含硫黄環状構造含有ポリマーの重量平均分子量は20000以上であることが、成形体の力学特性上の観点から好ましく、40000以上であることがより好ましく、60000以上であることが特に好ましい。
【0026】
以下に、本発明で使用することができる含硫黄環状構造含有ポリマーの好ましい具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお添え字のx、y、z、wは質量比を表す。
【0027】
【化3】


【0028】
本発明の含硫黄環状構造含有ポリマーは、公知の方法で合成によって、得ることができる。好ましいのは、含硫黄環状構造含有オレフィンを付加重合する方法である。例えば、一般式(1)で表される繰り返し単位構造において主鎖を構成する2つの炭素原子の間に二重結合を有する含硫黄環状オレフィンを付加重合する方法を、特に好ましい方法として挙げることができる。付加重合の条件については、当業者に周知の条件を適宜最適化して採用することができる。
【0029】
[光学材料用樹脂組成物]
本発明の光学材料用樹脂組成物は、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する含硫黄環状構造含有ポリマーを含む組成物である。本発明の光学材料用樹脂組成物には、前記含硫黄環状構造含有ポリマーとして、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
本発明の光学材料用樹脂組成物には、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、本発明の条件を満たさない樹脂、分散剤、可塑剤、熱安定剤、離型剤等の添加剤を含んでいてもよい。
本発明の光学材料用樹脂組成物に含まれる前記含硫黄環状構造含有ポリマーの割合は40〜100重量%であることが好ましく、60〜100重量%であることがより好ましく、80〜100重量%であることがさらに好ましい。
【0031】
本発明の成形体は、ガラス転移温度が100℃以上であることが好ましく、120〜300℃であることがより好ましく、150〜250℃であることが特に好ましい。
【0032】
本発明の光学材料用樹脂組成物は、波長589nmにおいて、厚み1mm換算で50%以上の光線透過率を有することが、光学部品へ用いる観点から好ましい。前記光線透過率は、厚み1mm換算で60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが特に好ましい。波長589nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率が50%以上であればより好ましい性質を有するレンズ基材を得やすい。なお、本発明における厚さ1mm換算の光線透過率は、光学材料用樹脂組成物を成形して厚さ1.0mmの基板を作製し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置(UV−3100、(株)島津製作所製)で測定した値である。
【0033】
本発明の光学材料用樹脂組成物は、屈折率nDが1.55以上であることが好ましく、1.560以上であることがより好ましく、1.570以上であることが特に好ましい。また、本発明の光学材料用樹脂組成物は、レンズ用途に用いるときに色収差を低減する観点から、アッベ数νDが50以上であることが好ましく、52以上であることがより好ましく、53以上であることが特に好ましい。本明細書中、アッベ数νDは、波長589nm、486nm、656nmにおけるそれぞれの屈折率nD、nF、nCを測定することで、下記式(A)により算出される。
【数1】

【0034】
[成形体]
本発明の光学材料用樹脂組成物を成形することにより、本発明の成形体を製造することができる。
【0035】
本発明の光学材料用樹脂組成物は、溶媒を用いてキャスト成形して成形体を得ることもできるが、溶媒を用いずに固体状態で射出成形、圧縮成形等の手法によって成形することが好ましい。
【0036】
また本発明の成形体は最大厚みが0.1mm以上であることが好ましい。最大厚みは、好ましくは0.1〜5mmであり、さらに好ましくは1〜3mmである。これらの厚みを有する成形体は、高屈折率の光学部品として特に有用である。このような厚い成形体は、溶液キャスト法で製造しようとしても溶剤が抜けにくいため一般に容易ではない。しかしながら、本発明の光学材料用樹脂組成物を用いれば成形が容易で非球面などの複雑な形状も容易に実現することができる。このように、本発明によれば、高い屈折率特性を利用しながら良好な透明性を有する成形体を得ることができる。
【0037】
[光学部品]
本発明の成形体は、高屈折性、光線透過性、軽量性を併せ持ち、光学特性に優れた成形体である。本発明の光学部品は、このような成形体からなるものである。本発明の光学部品の種類は、特に制限されない。特に、光学材料用樹脂組成物の優れた光学特性を利用した光学部品、特に光を透過する光学部品(いわゆるパッシブ光学部品)として好適に利用することができる。かかる光学部品を備えた光学機能装置としては、例えば、各種ディスプレイ装置(液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等)、各種プロジェクタ装置(OHP、液晶プロジェクタ等)、光ファイバー通信装置(光導波路、光増幅器等)、カメラやビデオ等の撮影装置等が例示される。
【0038】
また、光学機能装置に用いられる前記パッシブ光学部品としては、例えば、レンズ、プリズム、プリズムシート、パネル(板状成形体)、フィルム、光導波路(フィルム状やファイバー状等)、光ディスク、LEDの封止剤等が例示される。かかるパッシブ光学部品には、必要に応じて任意の被覆層、例えば摩擦や摩耗による塗布面の機械的損傷を防止する保護層、無機粒子や基材等の劣化原因となる望ましくない波長の光線を吸収する光線吸収層、水分や酸素ガス等の反応性低分子の透過を抑制あるいは防止する透過遮蔽層、防眩層、反射防止層、低屈折率層等や、任意の付加機能層を設けて多層構造としてもよい。かかる任意の被覆層の具体例としては、無機酸化物コーティング層からなる透明導電膜やガスバリア膜、有機物コーティング層からなるガスバリア膜やハードコート等が挙げられ、そのコーティング法としては真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法、ディップコート法、スピンコート法等公知のコーティング法を用いることができる。
【0039】
[レンズ]
本発明の光学材料用樹脂組成物を用いた光学部品は、特にレンズ基材に好適である。本発明の光学材料用樹脂組成物を用いて製造されたレンズ基材は、高アッベ数であって、高屈折性、光線透過性、軽量性を併せ持ち、光学特性に優れている。また、光学材料用樹脂組成物を構成するモノマーの種類を適宜調節することにより、レンズ基材の屈折率を任意に調節することが可能である。
本発明における「レンズ基材」とは、レンズ機能を発揮することができる単一部材を意味する。レンズ基材の表面や周囲には、レンズの使用環境や用途に応じて膜や部材を設けることができる。例えば、レンズ基材の表面には、保護膜、反射防止膜、ハードコート膜等を形成することができる。また、レンズ基材の周囲を基材保持枠などに嵌入して固定することもできる。ただし、これらの膜や枠などは、本発明でいうレンズ基材に付加される部材であり、本発明でいうレンズ基材そのものとは区別される。
【0040】
本発明におけるレンズ基材をレンズとして利用するに際しては、本発明のレンズ基材そのものを単独でレンズとして用いてもよいし、前記のように膜や枠などを付加してレンズとして用いてもよい。本発明のレンズ基材を用いたレンズの種類や形状は、特に制限されない。本発明のレンズ基材は、例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ、OHP用レンズ、マイクロレンズアレイ等)に使用される。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0042】
[分析および評価方法]
本実施例において、各分析および評価方法は、下記の手段でおこなった。
【0043】
(1)ガラス転移温度Tgの測定
示差走査熱量計(DSC6200、セイコーインスツルメンツ(株)製)を用いて、窒素中、昇温温度10℃/分の条件で測定した。
【0044】
(2)分子量Mwの測定
分子量は、以下のような条件でGPC測定を行うことにより、ポリスチレン換算で表した重量平均分子量として求めた。
装置:HLC−8121GPC/HT (東ソー社)
カラム:TSKgel GMHHR-H(20)HT (7.8mm×300mm)2本
検出器:HLC−8221GPC/HT内臓RI検出器
測定溶媒:o−ジクロロベンゼン
測定流量:1mL/min
測定温度:145℃
試料注入量:500μL(0.2%溶液)
標準試料:単分散ポリスチレン×16(東ソー社)
【0045】
(3)屈折率nDの測定とアッベ数νDの算出
各ポリマーを加熱圧縮成形して厚さ200μmのフィルムを作製した。屈折率は、波長589nmの光を用いてアッベ屈折計(アタゴ社製「DR−M2」)により測定した。また、アッベ数は、波長486nm、589nm、656nmの光を用いてアッベ屈折計(アタゴ社製「DR−M2」)により測定した結果に基づいて算出した。
【0046】
(4)光線透過率測定
測定するポリマーを成形して厚さ1.0mmの小片を作製し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置「UV−3100」((株)島津製作所製)で測定した。
【0047】
[含硫黄環状構造含有ポリマーの合成]
(1)−1.含硫黄環状構造含有ポリマー(P−1、P−2、P−3)の合成
87.5mLのトルエンと43.2g(0.243mol)のヘキシルノルボルネン(C6NB)と43.2g(0.317mol)のアセチルノルボルネン(AcNB)を反応容器に仕込んだ。次いで反応容器に、トルエン10mLに溶解した触媒S−1を34mgとトリブチルアリルスズ(アルドリッチ社製)を76μl、塩化メチレン10mLに溶解したジメチルアニリニウム・テトラキスペンタフルオロフェニルボレート(ストレム社製)を138mg投入した。なお、ここで用いた触媒S−1は、アリルパラジウムクロライドダイマー(アルドリッチ社製)とトリシクロヘキシルホスフィン(ストレム社製)を用い、J. Am. Chem. Soc., 118, 6225−6234(1996)を参考に合成した下記の構造を有する触媒である。この溶液を窒素気流下90℃で11時間攪拌した。得られた溶液を100mlのトルエンで希釈し、2Lのメタノールに投入し、再沈殿させた。沈殿物をろ過し、アセトン500mlで洗浄し、80℃で3時間真空乾燥した後、白色固体のC6NB/AcNB共重合体を得た。
【0048】
【化4】

【0049】
次に、このC6NB/AcNB共重合体43.7gとトルエン800mlを反応容器に仕込んだ。共重合体が溶解するまで撹拌した後、32.0g(0.34mol)のエタンジチオールを添加し、続いて1mlの三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を添加した。この溶液を窒素気流下60℃で8時間攪拌した。得られた溶液を600mlのトルエンで希釈し、10Lのメタノールに投入し、再沈殿させた。沈殿物をろ過し、5Lのメタノールで3回、5Lのアセトンで3回洗浄し、80℃で3時間真空乾燥した後、48.0gの白色固体を得た。得られた白色固体を重クロロホルムに溶解させ、1HNMRを測定した結果、x/y=43/57mol%(47/53質量%)のP−1であることを確認した。
【0050】
前記P−2とP−3を、モノマー種、モノマー濃度、触媒濃度の濃度を変更する以外は前記P−1の合成方法と同様にして合成した。
【0051】
(1)−2.含硫黄環状構造含有ポリマー(P−8、P−10)の合成
脱水ピリジン750mlを反応容器に仕込んだ後、0℃に冷却し、メタンスルホニルクロライド270g(2.35mol)を1時間かけて滴下した。その後、0℃で1時間撹拌を行い、5−ノルボルネンー2−エキソ,3−エキソージメタノールを174.5g(1.07mol)と脱水ピリジン650mlの混合溶液を3時間かけて滴下した。その後、0℃で15時間反応させ、5%HCl水溶液12Lに反応液を全量添加したところ茶色析出物が得られたため、ろ別し、20Lの水でよく洗浄した。その後エタノールで再結晶を行い262gのM−1を白色結晶で得た。
【0052】
【化5】

【0053】
210mLのクロロベンゼンと63g(0.35mol)のヘキシルノルボルネン(C6NB)と200g(0.64mol)のM−1を反応容器に仕込んだ。次いで反応容器に、クロロベンゼン17mLに溶解した触媒S−1を51mgとトリブチルアリルスズ(アルドリッチ社製)を108μl、塩化メチレン15mLに溶解したジメチルアニリニウム・テトラキスペンタフルオロフェニルボレート(ストレム社製)を200mg投入した。この溶液を窒素気流下80℃で6時間攪拌した。得られた溶液を150mlのクロロベンゼンで希釈し、2Lのアセトンに投入し、再沈殿させた。沈殿物をろ過し、アセトン500mlで洗浄し、80℃で3時間真空乾燥した後、白色固体のM−1/C6NB共重合体を得た。
【0054】
次に、このM−1/C6NB共重合体50gとTHF/クロロベンゼンの1:3混合溶液750mlを反応容器に仕込んだ。80℃に昇温し、共重合体が溶解するまで撹拌した後、15mlの水と38gの硫化ナトリウムを添加した。この溶液を窒素気流下80℃で8時間攪拌した。得られた溶液を10Lのメタノールに投入し、再沈殿させた。沈殿物をろ過し、5Lの水で3回、5Lのメタノールで3回、5Lのアセトンで3回洗浄し、80℃で3時間真空乾燥した後、32.0gの白色固体を得た。得られた白色固体を重クロロホルムに溶解させ、1HNMRを測定した結果、x/y=41/59mol%(37/63質量%)のP−8であることを確認した。
【0055】
前記P−10を、モノマー種、モノマー濃度、触媒濃度の濃度を変更する以外は前記P−8の合成方法と同様にして合成した。
【0056】
得られたP−1、P−2、P−3、P−8、P−10のガラス転移温度Tg、重量平均分子量Mw、屈折率nD、アッベ数νDを上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
【0057】
(2)比較ポリマーA、Bの準備
比較ポリマーとして、TAP社製TOPAS5013(下記ポリマーA)と、三井化学社製APEL5014(下記ポリマーB)を準備した。
【化6】

【0058】
(3)比較ポリマーCの合成
特開2007−9178号公報記載の下記ポリマーCを、該公報に記載される方法にしたがって合成した。
【化7】

【0059】
(4)比較ポリマーDの合成
国際公開第02/53622号公報記載の下記ポリマーDを、該公報に記載される方法にしたがって合成した。
【化8】

【0060】
[透明成形体の作製と評価]
上記P−1、P−2、P−3、P−8、P−10、A、B、C、Dの各ポリマーを金型に入れて加熱圧縮成形し(温度;Tg+70℃、圧力;13.7MPa、時間2分)、厚さ1mmの透明成形体を得た。得られた成形体の光線透過率測定を行った。結果を下記表1に示す。また、以下の基準で判定した金型からの離型性、金型残りの評価結果も下記表1にあわせて示す。
【0061】
(1)金型からの離型性の評価
加熱成形後、ステンレスでできた金型から成型体を外す際のボタンの取れやすさを以下の基準で官能評価した。
○:自然に金型からボタンが取れる。
△:少し力を入れると金型からボタンが取れる。
×:かなり力を入れないと金型からボタンが取れない。
【0062】
(2)金型残りの評価
加熱成型後、ステンレスでできた金型から成型体を外す際の金型残りを以下の基準で評価した。
○:金型残りが無い
△:金型残りが少ない
×:金型残りが多い
【0063】
【表1】

【0064】
表1より、本発明の実施例に従えば、アッベ数50以上を維持したまま、屈折率が1.55を両立することが可能であり、かつ耐熱性が非常に高く、透明性に優れる光学材料が得られることが分かる。本発明の光学材料用樹脂組成物は金型離型性にも優れ、凹レンズ、凸レンズ等の金型形状に合わせて生産性よく正確にレンズ形状を形成できることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する含硫黄環状構造含有ポリマー。
【化1】

(一般式(1)中、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、あるいは酸素原子または硫黄原子を含有する置換基を表し、R1〜R4が互いに結合して環構造を形成していてもよいが、R1〜R4のいずれかひとつが硫黄を環構成原子のひとつとする含硫黄環構造を含有する置換基であるか、R1〜R4が互いに結合して硫黄を環構成原子のひとつとする含硫黄環構造を形成しているかの、いずれかである。ここで、XおよびYはそれぞれ独立に−C(R5)(R6)−、酸素原子、あるいは硫黄原子を表し、R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表す。mは0または1を表す。)
【請求項2】
酸素原子を含むことを特徴とする請求項1に記載の含硫黄環状構造含有ポリマー。
【請求項3】
重量平均分子量Mwが20000以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の含硫黄環状構造含有ポリマー。
【請求項4】
ガラス転移温度Tgが150℃以上であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の含硫黄環状構造含有ポリマー。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の含硫黄環状構造含有ポリマーを含む光学材料用樹脂組成物。
【請求項6】
波長589nmにおける屈折率nDが1.55以上であることを特徴とする請求項5に記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項7】
波長589nmにおけるアッベ数νDが50以上であることを特徴とする請求項5または6に記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項8】
波長589nmにおいて、厚み1mm換算で50%以上の光線透過率を有することを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の含硫黄環状構造含有ポリマーまたは請求項5〜8のいずれか一項に記載の光学材料用樹脂組成物を成形したことを特徴とする成形体。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の含硫黄環状構造含有ポリマーまたは請求項5〜8のいずれか一項に記載の光学材料用樹脂組成物を成形したことを特徴とする光学部品。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の含硫黄環状構造含有ポリマーまたは請求項5〜8のいずれか一項に記載の光学材料用樹脂組成物を成形したことを特徴とするレンズ。

【公開番号】特開2010−215834(P2010−215834A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65848(P2009−65848)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】