説明

含窒素芳香族複素環カルボン酸の製造方法

【課題】 含窒素芳香族複素環カルボン酸を、簡易な手段で且つ高い選択率で収率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】 本発明の含窒素芳香族複素環カルボン酸の製造方法は、芳香族複素環を構成する窒素原子の隣接位の炭素原子に置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基が結合している含窒素芳香族複素環化合物を、発煙硝酸の存在下、酸化剤により酸化して、前記窒素原子の隣接位の炭素原子にカルボキシル基が結合している対応する含窒素芳香族複素環カルボン酸を得ることを特徴とする。酸化剤として、酸素、臭素酸塩と亜硫酸水素塩との組み合わせからなる酸化剤などを用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、農薬、その他の精密化学品又はその中間体や、ポリマーの原料単量体等として有用な含窒素芳香族複素環カルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族複素環を構成する窒素原子の隣接位の炭素原子にカルボキシル基が結合した芳香族複素環カルボン酸の製造方法として、アルキル基を有する芳香族複素環化合物を酸化することにより得る方法が知られている。例えば、特開2001−253838号公報(特許文献1)には、α−ピコリンを、イミド化合物触媒の存在下、空気(20atm)と反応させて2−ピリジンカルボン酸を製造する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、加圧下では反応は比較的速やかに進行するものの、副生物が多く生成するため、選択率が低い(74%)という問題がある。
【0003】
Zurnal Prikladnoi Khimi(1978), 51,(11), 2553(非特許文献1)には、α−ピコリンを、高圧下(80atm)、苛性ソーダの存在下で酸素酸化して、2−ピリジンカルボン酸を得る方法が開示されている。しかし、この方法では、高圧で反応させる必要があり、高圧設備が必要である。
【0004】
Fenzi Kexue Xuebao(2007), 23(2), 82-86(非特許文献2)には、α−ピコリンを、硫酸の存在下、重クロム酸カリウムにより酸化して、2−ピリジンカルボン酸を得る方法が開示されている。しかし、この方法では、重金属化合物を多量に使用する必要があり、後処理が煩雑となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−253838号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Zurnal Prikladnoi Khimi(1978), 51,(11), 2553
【非特許文献2】Fenzi Kexue Xuebao(2007), 23(2), 82-86
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、含窒素芳香族複素環カルボン酸を、簡易な手段により、高い選択率で工業的に効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討した結果、窒素原子の隣の炭素原子にアルキル基を有する含窒素芳香族複素環化合物を、発煙硝酸の存在下で酸化剤により酸化すると、反応が円滑に進行し、対応する含窒素芳香族複素環カルボン酸が高い選択率及び収率で得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、芳香族複素環を構成する窒素原子の隣接位の炭素原子に置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基が結合している含窒素芳香族複素環化合物を、発煙硝酸の存在下、酸化剤により酸化して、前記窒素原子の隣接位の炭素原子にカルボキシル基が結合している対応する含窒素芳香族複素環カルボン酸を得ることを特徴とする含窒素芳香族複素環カルボン酸の製造方法を提供する。
【0010】
この製造方法において、前記アルキル基は炭素数2〜4のアルキル基であってもよい。
【0011】
前記酸化剤として、酸素、又は臭素酸塩と亜硫酸水素塩との組み合わせからなる反応剤を用いることができる。
【0012】
また、酸化反応の触媒として、下記式(1)
【化1】

(式中、Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)
で表されるジカルボキシイミド骨格を有する化合物を用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、含窒素芳香族複素環カルボン酸を、簡易な手段により、高い選択率で収率よく得ることができる。特に、高圧設備や多量の重金属化合物を用いる必要がなく、簡単な設備及び温和な条件で、含窒素芳香族複素環カルボン酸を工業的に効率よく製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[原料]
本発明においては、原料として、芳香族複素環を構成する窒素原子の隣接位の炭素原子に置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基が結合している含窒素芳香族複素環化合物(以下、単に「アルキル置換含窒素芳香族複素環化合物」又は「基質」と称する場合がある)を用いる。芳香族複素環を構成する窒素原子の隣接位の炭素原子が複数存在する場合には、そのうちの少なくとも1つの炭素原子(最終目的化合物において、カルボキシル基が結合する炭素原子)に、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基が結合していればよい。
【0015】
前記含窒素芳香族複素環化合物における「芳香族複素環」としては、環の構成原子として窒素原子を1又は2以上有する芳香環であれば特に限定されず、例えば、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環などの単環の芳香族複素環;キノリン環、イソキノリン環、1,8−ナフチリジン環、キノキサリン環、キナゾリン環などの縮合芳香族複素環が挙げられる。これらの中でも、反応性、目的化合物の有用性等の点で、ピリジン環、ピラジン環、キノリン環、キノキサリン環が好ましい。
【0016】
前記置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基において、炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、イソヘキシル基などの炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。これらの中でも、本発明の方法の有用性、反応の選択性等の点からは、特に、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル基等の炭素数2〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が好ましい。
【0017】
前記置換基を有していてもよいアルキル基において、置換基としては、酸化反応を阻害しないものであれば特に限定されず、例えば、ヒドロキシル基;メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロピルオキシ、ブトキシ基などの炭素数1〜6のアルコキシ基;メトキシメチル、メトキシエチル、エトキシメチル、エトキシエチル、プロポキシエチル基などの炭素数2〜12のアルコキシアルキル基;アセチルオキシ、プロピオニルオキシ基などの炭素数1〜6のアシルオキシ基;カルボキシル基;メトキシカルボニル、エトキシカルボニル基などの炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基;アセチル、プロピオニル、ベンゾイル基などの炭素数1〜6のアシル基;シアノ基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子などが挙げられる。
【0018】
前記芳香族複素環において、前記芳香族複素環を構成する窒素原子の隣接位の炭素原子以外の原子(前記芳香族複素環を構成する窒素原子の隣接位の炭素原子であり且つカルボキシル基の結合を意図していない炭素原子を含む)にも置換基が結合していてもよい。このような置換基としては、酸化反応を阻害しないものであれば特に限定されず、例えば、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基;置換基を有していてもよい炭素数2〜6のアルケニル基;フェニル、ナフチル基などのアリール基;ベンジル、2−フェニルエチル基などのアラルキル基;ヒドロキシル基;メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロピルオキシ、ブトキシ基などの炭素数1〜6のアルコキシ基;メトキシメチル、メトキシエチル、エトキシメチル、エトキシエチル、プロポキシエチル基などの炭素数2〜12のアルコキシアルキル基;アセチルオキシ、プロピオニルオキシ基などの炭素数1〜6のアシルオキシ基;カルボキシル基;メトキシカルボニル、エトキシカルボニル基などの炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基;アセチル、プロピオニル、ベンゾイル基などの炭素数1〜6のアシル基;シアノ基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子などが挙げられる。前記「置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基」としては、前記芳香族複素環を構成する窒素原子の隣接位の炭素原子に結合している「置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基」と同様のものが挙げられる。前記「置換基を有していてもよい炭素数2〜6のアルケニル基」において、「炭素数2〜6のアルケニル基」としては、例えば、ビニル、アリル、メタリル、クロチル基などの炭素数2〜6の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基が挙げられ、「置換基」としては、前記置換基を有していてもよいアルキル基における「置換基」と同様のものが挙げられる。
【0019】
また、前記芳香族複素環において、該芳香族複素環を構成する窒素原子の隣接位の炭素原子以外の原子に結合している置換基の2以上が互いに結合して、該芳香族複素環を構成する原子とともに3〜12員の非芳香族性の単環又は多環の炭素環又は複素環を形成していてもよい。
【0020】
なお、上記の芳香族複素環を構成する窒素原子の隣接位の炭素原子以外の原子に結合している置換基は、反応の条件によっては、酸化等により他の置換基に変換される場合がある。
【0021】
原料として用いるアルキル置換含窒素芳香族複素環化合物の代表的な例として、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0022】
【化2】

【0023】
式(2)中、XはCRC(RCが結合した炭素原子)又はN(窒素原子)を示す。RAは置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を示す。RB、RC、RD、REは、同一又は異なって、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜6のアルケニル基、アリール基、アラルキル基、ヒドロキシル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数2〜12のアルコキシアルキル基、炭素数1〜6のアシルオキシ基、カルボキシル基、炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜6のアシル基、シアノ基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す。RB、RC、RD、REのうち2以上の基が、互いに結合して、式中の含窒素芳香環を構成する原子とともに、環を形成してもよい。
【0024】
Aにおける置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基は、前記芳香族複素環を構成する窒素原子の隣接位の炭素原子に結合している「置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基」と同様である。RB、RC、RD、REにおける、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜6のアルケニル基、アリール基、アラルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数2〜12のアルコキシアルキル基、炭素数1〜6のアシルオキシ基、炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜6のアシル基、ハロゲン原子としては、前記芳香族複素環を構成する窒素原子の隣接位の炭素原子以外の原子に結合していてもよい置換基における「置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基」等と同様のものが挙げられる。
【0025】
B、RC、RD、REのうち2以上の基が互いに結合して、式中の含窒素芳香環を構成する原子とともに形成してもよい環としては、シクロペンタン環、シクロペンテン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環などの3〜6員の非芳香族性環(炭素環又は複素環);ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、ピラジン環などの5〜14員の芳香族性環(炭素環又は複素環)などが挙げられる。
【0026】
式(2)で表される化合物の具体例として、例えば、α−ピコリン(2−メチルピリジン)、2,6−ルチジン、2,3−ルチジン、2,4−ルチジン、2,5−ルチジン、2−エチルピリジン、2−プロピルピリジン、2−イソプロピルピリジン、2−ブチルピリジン、2−イソブチルピリジン、2−s−ブチルピリジン、2−t−ブチルピリジン、2,6−ジエチルピリジン、2,3−ジエチルピリジン、2,4−ジエチルピリジン、2,5−ジエチルピリジン、2−メチルキノリン、2−エチルキノリン、2−プロピルキノリン、2−ブチルキノリン、2,3−ジメチルキノリン、2,4−ジメチルキノリン、2−メチルピラジン、2−エチルピラジン、2−プロピルピラジン、2,3−ジメチルピラジン、2,6−ジメチルピラジンなどが例示される。
【0027】
[発煙硝酸]
本発明では、発煙硝酸の存在下で酸化反応を行うことが重要である。発煙硝酸としては、特に限定されず、濃硝酸に二酸化窒素を吹き込んで調製したものを使用できる。発煙硝酸として市販品を用いることもできる。発煙硝酸を用いることにより、酸化反応速度が著しく増大するだけでなく、芳香族複素環を構成する窒素原子の隣接位の炭素原子に結合しているアルキル基が高選択的にカルボキシル基に変換される。
【0028】
発煙硝酸の使用量は、原料として用いるアルキル置換含窒素芳香族複素環化合物1モルに対して、例えば、0.01〜1モル、好ましくは0.02〜0.5モル、さらに好ましくは0.05〜0.4モルである。この量が少なすぎると添加効果が小さく、逆に多すぎると副反応が生じやすくなる場合がある。
【0029】
[酸化剤]
酸化剤としては、アルキル基をカルボキシル基にまで酸化可能な酸化剤であればよく、例えば、酸素(分子状酸素)、臭素酸塩と亜硫酸水素塩との組み合わせからなる反応剤、過ヨウ素酸塩と亜硫酸水素塩との組み合わせからなる反応剤、次亜ハロゲン酸又はその塩などを使用できる。
【0030】
酸素としては、純粋な酸素のほか、酸素と不活性ガス(窒素、アルゴン等)との混合ガス、空気などを使用できる。
【0031】
臭素酸塩と亜硫酸水素塩との組み合わせからなる反応剤において、臭素酸塩としては、例えば、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、臭素酸アンモニウムなどを使用できる。また、亜硫酸水素塩としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素アンモニウムなどが挙げられる。臭素酸塩と亜硫酸水素塩との組み合わせからなる酸化剤としては、特に、臭素酸ナトリウムと亜硫酸水素ナトリウムとの組合せが好ましい。また、過ヨウ素酸塩と亜硫酸水素塩との組み合わせからなる酸化剤において、過ヨウ素酸塩としては、例えば、過ヨウ素酸ナトリウム、過ヨウ素酸カリウムなどが挙げられ、亜硫酸水素塩としては、例えば、前記例示のものが挙げられる。次亜ハロゲン酸又はその塩としては、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、これらのナトリウム塩、カリウム塩又はアンモニウム塩などが挙げられる。
【0032】
酸化剤の使用量は、原料として用いるアルキル置換含窒素芳香族複素環化合物に対して、通常、1当量以上(例えば、1〜10当量)、好ましくは1.5当量以上(例えば、1.5〜5当量)である。酸化剤として酸素を用いる場合、該酸素を原料に対して大過剰量用いることもできる。
【0033】
[触媒]
本発明の製造方法においては触媒を用いてもよい。触媒として、前記式(1)で表されるジカルボキシイミド骨格を有する化合物を使用できる。特に、酸化剤として酸素を用いる場合には、式(1)で表されるジカルボキシイミド骨格を有する化合物を用いるのが好ましい。このようなジカルボキシイミド骨格を有する化合物を用いることにより、酸化反応がより円滑に進行し、目的化合物をきわめて高い選択率及び収率で得ることができる。
【0034】
式(1)において、Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す。Rがヒドロキシル基の保護基である場合、式(1)で表される骨格のうちRを除く部分が複数個、Rを介して結合していてもよい。
【0035】
Rで示されるヒドロキシル基の保護基としては、有機合成の分野で慣用のヒドロキシル基の保護基を用いることができる。このような保護基として、例えば、アルキル基(例えば、メチル、t−ブチル基などのC1-4アルキル基など)、アルケニル基(例えば、アリル基など)、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基など)、アリール基(例えば、2,4−ジニトロフェニル基など)、アラルキル基(例えば、ベンジル、2,6−ジクロロベンジル、3−ブロモベンジル、2−ニトロベンジル、トリフェニルメチル基など);置換メチル基(例えば、メトキシメチル、メチルチオメチル、ベンジルオキシメチル、t−ブトキシメチル、2−メトキシエトキシメチル、2,2,2−トリクロロエトキシメチル、ビス(2−クロロエトキシ)メチル、2−(トリメチルシリル)エトキシメチル基など)、置換エチル基(例えば、1−エトキシエチル、1−メチル−1−メトキシエチル、1−イソプロポキシエチル、2,2,2−トリクロロエチル、2−メトキシエチル基など)、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、1−ヒドロキシアルキル基(例えば、1−ヒドロキシエチル、1−ヒドロキシヘキシル、1−ヒドロキシデシル、1−ヒドロキシヘキサデシル、1−ヒドロキシ−1−フェニルメチル基など)等のヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール基を形成可能な基など;アシル基(例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル基などのC1-20脂肪族アシル基等の脂肪族飽和又は不飽和アシル基;アセトアセチル基;シクロペンタンカルボニル、シクロヘキサンカルボニル基などのシクロアルカンカルボニル基等の脂環式アシル基;ベンゾイル、ナフトイル基などの芳香族アシル基など)、スルホニル基(メタンスルホニル、エタンスルホニル、トリフルオロメタンスルホニル、ベンゼンスルホニル、p−トルエンスルホニル、ナフタレンスルホニル基など)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル基などのC1-4アルコキシ−カルボニル基など)、アラルキルオキシカルボニル基(例えば、ベンジルオキシカルボニル基、p−メトキシベンジルオキシカルボニル基など)、置換又は無置換カルバモイル基(例えば、カルバモイル、メチルカルバモイル、フェニルカルバモイル基など)、無機酸(硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸など)からOH基を除した基、ジアルキルホスフィノチオイル基(例えば、ジメチルホスフィノチオイル基など)、ジアリールホスフィノチオイル基(例えば、ジフェニルホスフィノチオイル基など)、置換シリル基(例えば、トリメチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、トリベンジルシリル、トリフェニルシリル基など)などが挙げられる。
【0036】
また、式(1)で表される骨格のうちRを除く部分が複数個、Rを介して結合する場合、該Rとして、例えば、オキサリル、マロニル、スクシニル、グルタリル、アジポイル、フタロイル、イソフタロイル、テレフタロイル基などのポリカルボン酸アシル基;カルボニル基;メチレン、エチリデン、イソプロピリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、ベンジリデン基などの多価の炭化水素基(特に、2つのヒドロキシル基とアセタール結合を形成する基)などが挙げられる。
【0037】
好ましいRには、例えば、水素原子;ヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール基を形成可能な基;カルボン酸、スルホン酸、炭酸、カルバミン酸、硫酸、リン酸、ホウ酸などの酸からOH基を除した基(アシル基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基等)などの加水分解により脱離可能な加水分解性保護基などが含まれる。
【0038】
前記式(1)で表されるジカルボキシイミド骨格を有する化合物には、下記式(I)
【化3】

(式中、nは0又は1を示す。Rは前記に同じ)
で表される環状イミド骨格を有する環状イミド系化合物が含まれる。
【0039】
前記環状イミド系化合物は、分子中に、式(I)で表される環状イミド骨格を複数個有していてもよい。また、この環状イミド系化合物は、環状イミド骨格のうちRを除く部分(N−オキシ環状イミド骨格)が複数個、Rを介して結合していてもよい。式(I)において、nは0又は1を示す。すなわち、式(I)は、nが0の場合は5員の環状イミド骨格を表し、nが1の場合は6員の環状イミド骨格を表す。
【0040】
前記環状イミド系化合物の代表的な例として、下記式(3)
【化4】

[式中、nは0又は1を示す。Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す。R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基又はアシルオキシ基を示し、R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して、環状イミド骨格を構成する炭素原子又は炭素−炭素結合と共に、二重結合、又は芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成してもよい。前記R1、R2、R3、R4、R5、R6、又はR1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して形成された二重結合又は芳香族性若しくは非芳香族性の環には、下記式(a)
【化5】

(式中、n、Rは前記に同じ)
で表される環状イミド基がさらに1又は2個以上形成されていてもよい]
で表される化合物が挙げられる。
【0041】
式(3)で表されるイミド化合物において、置換基R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうちハロゲン原子には、ヨウ素、臭素、塩素およびフッ素原子が含まれる。アルキル基には、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ヘキシル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル基などの炭素数1〜30程度(特に、炭素数1〜20程度)の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が含まれる。
【0042】
アリール基には、フェニル、トリル、キシリル、ナフチル基などが含まれ、シクロアルキル基には、シクロペンチル、シクロヘキシル基などが含まれる。アルコキシ基には、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、t−ブトキシ、ヘキシルオキシ、オクチルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ、テトラデシルオキシ、オクタデシルオキシ基などの炭素数1〜30程度(特に、炭素数1〜20程度)のアルコキシ基が含まれる。
【0043】
置換オキシカルボニル基には、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニル、デシルオキシカルボニル、ヘキサデシルオキシカルボニル基などのC1-30アルコキシ−カルボニル基(特に、C1-20アルコキシ−カルボニル基);シクロペンチルオキシカルボニル、シクロヘキシルオキシカルボニル基などのシクロアルキルオキシカルボニル基(特に、3〜20員シクロアルキルオキシカルボニル基);フェニルオキシカルボニル、ナフチルオキシカルボニル基などのアリールオキシカルボニル基(特に、C6-20アリールオキシ−カルボニル基);ベンジルオキシカルボニル基などのアラルキルオキシカルボニル基(特に、C7-21アラルキルオキシ−カルボニル基)などが挙げられる。
【0044】
アシル基としては、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル基などのC1-30脂肪族アシル基(特に、C1-20脂肪族アシル基)等の脂肪族飽和又は不飽和アシル基;アセトアセチル基;シクロペンタンカルボニル、シクロヘキサンカルボニル基などのシクロアルカンカルボニル基等の脂環式アシル基;ベンゾイル、ナフトイル基などの芳香族アシル基などが例示できる。
【0045】
アシルオキシ基としては、例えば、ホルミルオキシ、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ、イソブチリルオキシ、バレリルオキシ、ピバロイルオキシ、ヘキサノイルオキシ、オクタノイルオキシ、デカノイルオキシ、ラウロイルオキシ、ミリストイルオキシ、パルミトイルオキシ、ステアロイルオキシ基などのC1-30脂肪族アシルオキシ基(特に、C1-20脂肪族アシルオキシ基)等の脂肪族飽和又は不飽和アシルオキシ基;アセトアセチルオキシ基;シクロペンタンカルボニルオキシ、シクロヘキサンカルボニルオキシ基などのシクロアルカンカルボニルオキシ基等の脂環式アシルオキシ基;ベンゾイルオキシ、ナフトイルオキシ基などの芳香族アシルオキシ基などが例示できる。
【0046】
前記置換基R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、同一又は異なっていてもよい。また、前記式(1)において、R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して、環状イミド骨格を構成する炭素原子又は炭素−炭素結合と共に、二重結合、または芳香族性又は非芳香族性の環を形成してもよい。好ましい芳香族性又は非芳香族性環は5〜12員環、特に6〜10員環程度であり、複素環又は縮合複素環であってもよいが、炭化水素環である場合が多い。このような環には、例えば、非芳香族性脂環式環(シクロヘキサン環などの置換基を有していてもよいシクロアルカン環、シクロヘキセン環などの置換基を有していてもよいシクロアルケン環など)、非芳香族性橋かけ環(5−ノルボルネン環などの置換基を有していてもよい橋かけ式炭化水素環など)、ベンゼン環、ナフタレン環などの置換基を有していてもよい芳香族環(縮合環を含む)が含まれる。前記環は、芳香族環で構成される場合が多い。前記環は、アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよい。
【0047】
前記R1、R2、R3、R4、R5、R6、又はR1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して形成された二重結合又は芳香族性若しくは非芳香族性の環には、前記式(a)で表される環状イミド基がさらに1又は2個以上形成されていてもよい。例えば、R1、R2、R3、R4、R5又はR6が炭素数2以上のアルキル基である場合、このアルキル基を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで前記環状イミド基が形成されていてもよい。また、R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して、環状イミド骨格を構成する炭素−炭素結合と共に二重結合を形成する場合、該二重結合を含んで前記環状イミド基が形成されていてもよい。さらに、R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して、環状イミド骨格を構成する炭素原子又は炭素−炭素結合と共に、芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成する場合、該環を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで前記環状イミド基が形成されていてもよい。
【0048】
好ましいイミド化合物には、下記式で表される化合物が含まれる。
【化6】

(式中、R11〜R16は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基又はアシルオキシ基を示す。R17〜R26は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン原子を示す。R17〜R26は、隣接する基同士が結合して、式(3c)、(3d)、(3e)、(3f)、(3h)又は(3i)中に示される5員又は6員の環状イミド骨格を形成していてもよい。式(3f)中、Aはメチレン基又は酸素原子を示す。Rは前記に同じ)
【0049】
置換基R11〜R16におけるハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基としては、前記R1〜R6における対応する基と同様のものが例示される。
【0050】
置換基R17〜R26において、アルキル基には、前記例示のアルキル基と同様のアルキル基、特に炭素数1〜6程度のアルキル基が含まれ、ハロアルキル基には、トリフルオロメチル基などの炭素数1〜4程度のハロアルキル基、アルコキシ基には、前記と同様のアルコキシ基、特に炭素数1〜4程度の低級アルコキシ基、置換オキシカルボニル基には、前記と同様の置換オキシカルボニル基(アルコキシカルボニル基、シクロアルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基など)が含まれる。また、アシル基としては前記と同様のアシル基(脂肪族飽和又は不飽和アシル基、アセトアセチル基、脂環式アシル基、芳香族アシル基等)などが例示され、アシルオキシ基としては前記と同様のアシルオキシ基(脂肪族飽和又は不飽和アシルオキシ基、アセトアセチルオキシ基、脂環式アシルオキシ基、芳香族アシルオキシ基等)などが例示される。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素原子が例示できる。置換基R17〜R26は、通常、水素原子、炭素数1〜4程度の低級アルキル基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、ニトロ基、ハロゲン原子である場合が多い。
【0051】
好ましいイミド化合物のうち5員のN−置換環状イミド骨格を有する化合物の代表的な例として、例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α−メチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,α−ジメチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ジメチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,α,β,β−テトラメチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシマレイン酸イミド、N−ヒドロキシヘキサヒドロフタル酸イミド、N,N′−ジヒドロキシシクロヘキサンテトラカルボン酸ジイミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラブロモフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラクロロフタル酸イミド、N−ヒドロキシヘット酸イミド、N−ヒドロキシハイミック酸イミド、N−ヒドロキシトリメリット酸イミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸ジイミド、N,N′−ジヒドロキシナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、α,β−ジアセトキシ−N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ビス(プロピオニルオキシ)コハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ビス(バレリルオキシ)コハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ビス(ラウロイルオキシ)コハク酸イミド、α,β−ビス(ベンゾイルオキシ)−N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−4−メトキシカルボニルフタル酸イミド、4−クロロ−N−ヒドロキシフタル酸イミド、4−エトキシカルボニル−N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4−ペンチルオキシカルボニルフタル酸イミド、4−ドデシルオキシ−N−ヒドロキシカルボニルフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4−フェノキシカルボニルフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4,5−ビス(メトキシカルボニル)フタル酸イミド、4,5−ビス(エトキシカルボニル)−N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4,5−ビス(ペンチルオキシカルボニル)フタル酸イミド、4,5−ビス(ドデシルオキシカルボニル)−N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4,5−ビス(フェノキシカルボニル)フタル酸イミドなどの式(3)におけるRが水素原子である化合物;これらの化合物に対応する、Rがアセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等のアシル基である化合物;N−メトキシメチルオキシフタル酸イミド、N−(2−メトキシエトキシメチルオキシ)フタル酸イミド、N−テトラヒドロピラニルオキシフタル酸イミドなどの式(3)におけるRがヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール結合を形成可能な基である化合物;N−メタンスルホニルオキシフタル酸イミド、N−(p−トルエンスルホニルオキシ)フタル酸イミドなどの式(3)におけるRがスルホニル基である化合物;N−ヒドロキシフタル酸イミドの硫酸エステル、硝酸エステル、リン酸エステル又はホウ酸エステルなどの式(3)におけるRが無機酸からOH基を除した基である化合物などが挙げられる。
【0052】
好ましいイミド化合物のうち6員のN−置換環状イミド骨格を有する化合物の代表的な例として、例えば、N−ヒドロキシグルタルイミド、N−ヒドロキシ−α,α−ジメチルグルタルイミド、N−ヒドロキシ−β,β−ジメチルグルタルイミド、N−ヒドロキシ−1,8−デカリンジカルボン酸イミド、N,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−デカリンテトラカルボン酸ジイミド、N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド(N−ヒドロキシナフタル酸イミド)、N,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどの式(3)におけるRが水素原子である化合物;これらの化合物に対応する、Rがアセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等のアシル基である化合物;N−メトキシメチルオキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N,N′−ビス(メトキシメチルオキシ)−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどの式(3)におけるRがヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール結合を形成可能な基である化合物;N−メタンスルホニルオキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N,N′−ビス(メタンスルホニルオキシ)−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどの式(3)におけるRがスルホニル基である化合物;N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド又はN,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドの硫酸エステル、硝酸エステル、リン酸エステル又はホウ酸エステルなどの式(3)におけるRが無機酸からOH基を除した基である化合物などが挙げられる。
【0053】
前記式(1)で表されるジカルボキシイミド骨格を有する化合物には、上記環状イミド系化合物の他に、下記式(II)
【化7】

(式中、mは1又は2を示す。Gは炭素原子又は窒素原子を示し、mが2のとき、2つのGは同一でもよく異なっていてもよい。Rは前記に同じ)
で表される環状アシルウレア骨格[−C(=O)−N−C(=O)−N−]を有する環状アシルウレア系化合物が含まれる。
【0054】
前記環状アシルウレア系化合物は、分子中に、式(II)で表される環状アシルウレア骨格を複数個有していてもよい。また、この環状アシルウレア系化合物は、式(II)で表される環状アシルウレア骨格のうちRを除く部分(N−オキシ環状アシルウレア骨格)が複数個、Rを介して結合していてもよい。前記環状アシルウレア骨格を構成する原子G、及び該Gに結合している窒素原子は各種置換基を有していてもよく、また、前記環状アシルウレア骨格には非芳香族性又は芳香族性環が縮合していてもよい。さらに、前記環状アシルウレア骨格は環に二重結合を有していてもよい。
【0055】
式(II)で表される環状アシルウレア骨格には、下記の式(IIa)で表される3−ヒドロキシ(又は3−置換オキシ)ヒダントイン骨格、式(IIb)で表される4−ヒドロキシ(又は4−置換オキシ)−1,2,4−トリアゾリジン−3,5−ジオン骨格[4−ヒドロキシ(又は4−置換オキシ)−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオン骨格を含む]、式(IIc)で表されるヒドロ−3−ヒドロキシ(又は3−置換オキシ)−1,3−ジアジン−2,4−ジオン骨格[ヘキサヒドロ−1−ヒドロキシ(又は1−置換オキシ)−1,3−ジアジン−2,4,6−トリオン骨格、ヘキサヒドロ−1,3−ジヒドロキシ(又は1,3−ビス置換オキシ)−1,3−ジアジン−2,4,6−トリオン骨格、3−ヒドロキシ(又は3−置換オキシ)ウラシル骨格を含む]、式(IId)で表されるヒドロ−4−ヒドロキシ(又は4−置換オキシ)−1,2,4−トリアジン−3,5−ジオン骨格、式(IIe)で表されるヒドロ−1−ヒドロキシ(又は1−置換オキシ)−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン骨格、及び式(IIf)で表されるヒドロ−5−ヒドロキシ(又は5−置換オキシ)−1,2,3,5−テトラジン−4,6−ジオン骨格が含まれる。
【化8】

(式中、Rは前記に同じ)
【0056】
前記環状アシルウレア系化合物の代表的な例として、下記式(4)
【化9】

(式中、Ra、Rdは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基、又はアシル基を示し、Rb、Rcは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基又はアシルオキシ基を示す。Ra、Rb、Rc、Rdのうち少なくとも2つが互いに結合して、式中の環を構成する原子とともに二重結合、又は芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成してもよく、RbとRcは一体となってオキソ基を形成してもよい。Rは前記に同じ)
で表されるヒドロ−1−ヒドロキシ(又は1−置換オキシ)−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン化合物が挙げられる。
【0057】
式(4)中、Ra、Rdにおけるアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アシル基としては、上記R1〜R6におけるアルキル基等と同様のものが例示される。ヒドロキシル基の保護基としては、前記のものが挙げられる。
【0058】
カルボキシル基の保護基としては、有機合成の分野で慣用の保護基、例えば、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシなどのC1-6アルコキシ基など)、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基など)アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基など)、トリアルキルシリルオキシ基(例えば、トリメチルシリルオキシ基など)、置換基を有していてもよいアミノ基(例えば、アミノ基;メチルアミノ基、ジメチルアミノ基などのモノ又はジC1-6アルキルアミノ基など)などが挙げられる。
【0059】
b、Rcにおけるハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基としては、上記R1〜R6におけるアルキル基等と同様のものが例示される。
【0060】
式(4)において、Ra、Rb、Rc、Rdのうち少なくとも2つが互いに結合して、式中に示される環を構成する原子(炭素原子及び/又は窒素原子)とともに二重結合、又は芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成してもよく、Rb、Rcは一体となってオキソ基を形成してもよい。好ましい芳香族性又は非芳香族性環としては前記と同様のものが例示される。
【0061】
式(4)で表される化合物のなかでも下記式(4a)で表されるイソシアヌル酸誘導体が好ましい。
【化10】

[式中、R、R′、R″は、同一又は異なって、水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す]
【0062】
環状アシルウレア系化合物の代表的な例として、例えば、3−ヒドロキシヒダントイン、1,3−ジヒドロキシヒダントイン、3−ヒドロキシ−1−メチルヒダントイン、3−アセトキシヒダントイン、1,3−ジアセトキシヒダントイン、3−アセトキシ−1−メチルヒダントインなどの式(IIa)で表される骨格を有する化合物;4−ヒドロキシ−1,2,4−トリアゾリジン−3,5−ジオン、4−ヒドロキシ−1,2−ジメチル−1,2,4−トリアゾリジン−3,5−ジオン、4−アセトキシ−1,2,4−トリアゾリジン−3,5−ジオン、4−アセトキシ−1,2−ジメチル−1,2,4−トリアゾリジン−3,5−ジオン、4−ヒドロキシ−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオン、4−アセトキシ−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオンなどの式(IIb)で表される骨格を有する化合物;ヘキサヒドロ−3−ヒドロキシ−1,3−ジアジン−2,4−ジオン、ヘキサヒドロ−1,3−ジヒドロキシ−1,3−ジアジン−2,4−ジオン、ヘキサヒドロ−3−ヒドロキシ−1−メチル−1,3−ジアジン−2,4−ジオン、3−アセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3−ジアジン−2,4−ジオン、1,3−ジアセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3−ジアジン−2,4−ジオン、3−アセトキシ−ヘキサヒドロ−1−メチル−1,3−ジアジン−2,4−ジオン、ヘキサヒドロ−1−ヒドロキシ−1,3−ジアジン−2,4,6−トリオン、1−アセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3−ジアジン−2,4,6−トリオン、ヘキサヒドロ−1,3−ジヒドロキシ−1,3−ジアジン−2,4,6−トリオン、1,3−ジアセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3−ジアジン−2,4,6−トリオン、3−ヒドロキシウラシル、3−アセトキシウラシルなどの式(IIc)で表される骨格を有する化合物;ヘキサヒドロ−4−ヒドロキシ−1,2,4−トリアジン−3,5−ジオン、ヘキサヒドロ−4−ヒドロキシ−1,2−ジメチル−1,2,4−トリアジン−3,5−ジオン、4−アセトキシ−ヘキサヒドロ−1,2,4−トリアジン−3,5−ジオン、4−アセトキシ−ヘキサヒドロ−1,2−ジメチル−1,2,4−トリアジン−3,5−ジオンなどの式(IId)で表される骨格を有する化合物;ヘキサヒドロ−1,3,5−トリヒドロキシ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン(=1,3,5−トリヒドロキシイソシアヌル酸)、1,3,5−トリアセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン、1,3,5−トリス(ベンゾイルオキシ)−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(メトキシメチルオキシ)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン、ヘキサヒドロ−1−ヒドロキシ−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン、ヘキサヒドロ−1−ヒドロキシ−3,5−ジメチル−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン、1−アセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン、1−アセトキシ−ヘキサヒドロ−3,5−ジメチル−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオンなどの式(IIe)で表される骨格を有する化合物[例えば、式(4)で表される化合物];ヘキサヒドロ−5−ヒドロキシ−1,2,3,5−テトラジン−4,6−ジオン、ヘキサヒドロ−5−ヒドロキシ−1,2,3−トリメチル−1,2,3,5−テトラジン−4,6−ジオン、5−アセトキシ−ヘキサヒドロ−1,2,3,5−テトラジン−4,6−ジオン、5−アセトキシ−ヘキサヒドロ−1,2,3−トリメチル−1,2,3,5−テトラジン−4,6−ジオンなどの式(IIf)で表される骨格を有する化合物が挙げられる。
【0063】
前記ジカルボキシイミド骨格を有する化合物のうち、Rが水素原子である化合物(N−ヒドロキシ環状化合物)は、公知の方法に準じて、又は公知の方法の組み合わせにより製造することができる。また、前記ジカルボキシイミド骨格を有する化合物のうち、Rがヒドロキシル基の保護基である化合物は、対応するRが水素原子である化合物(N−ヒドロキシ環状化合物)に、慣用の保護基導入反応を利用して、所望の保護基を導入することにより調製することができる。
【0064】
具体的には、前記環状イミド系化合物のうち、Rが水素原子である化合物(N−ヒドロキシ環状イミド化合物)は、慣用のイミド化反応、例えば、対応する酸無水物とヒドロキシルアミンとを反応させ、酸無水物基の開環及び閉環を経てイミド化する方法により得ることができる。例えば、N−アセトキシフタル酸イミドは、N−ヒドロキシフタル酸イミドに無水酢酸を反応させたり、塩基の存在下でアセチルハライドを反応させることにより得ることができる。また、これ以外の方法で製造することも可能である。
【0065】
特に触媒として好ましい環状イミド系化合物は、脂肪族多価カルボン酸無水物(環状無水物)又は芳香族多価カルボン酸無水物(環状無水物)から誘導されるN−ヒドロキシイミド化合物(例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸ジイミド、N−ヒドロキシグルタルイミド、N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなど);及び該N−ヒドロキシイミド化合物のヒドロキシル基に保護基を導入することにより得られる化合物などが含まれる。
【0066】
前記環状アシルウレア系化合物のうち、例えば、1,3,5−トリアセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン(=1,3,5−トリアセトキシイソシアヌル酸)は、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリヒドロキシ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン(=1,3,5−トリヒドロキシイソシアヌル酸)に無水酢酸を反応させたり、塩基の存在下でアセチルハライドを反応させることにより得ることができる。
【0067】
式(1)で表されるジカルボキシイミド骨格を有する化合物は、反応において、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。例えば、式(I)で表される環状イミド骨格を有する環状イミド系化合物と、式(II)で表される環状アシルウレア骨格を有する環状アシルウレア系化合物などとを併用することもできる。ジカルボキシイミド骨格を有する化合物からなる触媒は反応系内で生成させてもよい。ジカルボキシイミド骨格を有する化合物からなる触媒は担体に担持した形態で用いてもよい。担体としては、活性炭、ゼオライト、シリカ、シリカ−アルミナ、ベントナイトなどの多孔質担体を用いる場合が多い。ジカルボキシイミド骨格を有する化合物の担体への担持量は、担体100重量部に対して、例えば0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜30重量部、さらに好ましくは1〜20重量部程度である。
【0068】
ジカルボキシイミド骨格を有する化合物からなる触媒の使用量は、広い範囲で選択でき、例えば、原料(アルキル置換含窒素芳香族複素環化合物)1モルに対して、0.0000001〜1モル、好ましくは0.000001〜0.5モル、さらに好ましくは0.00001〜0.4モル程度である。
【0069】
[助触媒]
本発明では、前記触媒(例えば、前記ジカルボキシイミド骨格を有する化合物からなる触媒)とともに、助触媒を用いることもできる。助触媒としては、金属化合物が挙げられる。助触媒として金属化合物を用いることにより、反応速度や反応の選択性を向上させることができる。
【0070】
金属化合物を構成する金属元素としては、特に限定されないが、周期表1〜15族の金属元素を用いる場合が多い。なお、本明細書では、ホウ素Bも金属元素に含まれるものとする。好ましい金属元素には、遷移金属元素(周期表3〜12族元素)が含まれる。なかでも、Mn、Co、Zr、Ce、Fe、V、Moなどが好ましく、特に、Mn、Coが好ましい。また、遷移金属元素と周期表1族又は2族元素との併用により活性が向上する場合がある。金属元素の原子価は特に制限されず、例えば0〜6価程度である。
【0071】
金属化合物としては、前記金属元素の単体、水酸化物、酸化物(複合酸化物を含む)、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物)、オキソ酸塩(例えば、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩など)、イソポリ酸の塩、ヘテロポリ酸の塩などの無機化合物;有機酸塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、青酸塩、ナフテン酸塩、ステアリン酸塩など)、錯体などの有機化合物が挙げられる。前記錯体を構成する配位子としては、OH(ヒドロキソ)、アルコキシ(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシなど)、アシル(アセチル、プロピオニルなど)、アルコキシカルボニル(メトキシカルボニル、エトキシカルボニルなど)、アセチルアセトナト、シクロペンタジエニル基、ハロゲン原子(塩素、臭素など)、CO、CN、酸素原子、H2O(アコ)、ホスフィン(トリフェニルホスフィンなどのトリアリールホスフィンなど)のリン化合物、NH3(アンミン)、NO、NO2(ニトロ)、NO3(ニトラト)、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピリジン、フェナントロリンなどの窒素含有化合物などが挙げられる。
【0072】
金属化合物の具体例としては、例えば、コバルト化合物を例にとると、水酸化コバルト、酸化コバルト、塩化コバルト、臭化コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルト、リン酸コバルトなどの無機化合物;酢酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルトなどの有機酸塩;コバルトアセチルアセトナトなどの錯体等の2価又は3価のコバルト化合物などが挙げられる。また、バナジウム化合物の例としては、水酸化バナジウム、酸化バナジウム、塩化バナジウム、塩化バナジル、硫酸バナジウム、硫酸バナジル、バナジン酸ナトリウムなどの無機化合物;バナジウムアセチルアセトナト、バナジルアセチルアセトナトなどの錯体等の2〜5価のバナジウム化合物などが挙げられる。さらに、周期表1族元素化合物であるナトリウム化合物の例としては、ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウムなどの無機化合物(金属単体を含む);ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、p−トルエンスルホン酸ナトリウムなどの有機化合物が挙げられる。他の金属元素の化合物としては、前記コバルト化合物、バナジウム化合物又はナトリウム化合物に対応する化合物などが例示される。金属化合物は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。特に、コバルト化合物とマンガン化合物、及び場合によりジルコニウム化合物を組み合わせると、反応速度が著しく向上することが多い。また、価数の異なる複数の金属化合物(例えば、2価の金属化合物と3価の金属化合物、より具体的には、2価のマンガン化合物と3価のコバルト化合物)を組み合わせて用いるのも好ましい。さらに、式(I)または(II)においてXが−OR基であり且つRがヒドロキシル基の保護基である触媒を用いた場合には、金属化合物としてコバルト化合物などの遷移金属元素化合物と周期表1族元素又は2族元素化合物とを組み合わせて用いると、非酸性溶媒や非プロトン性溶媒中での反応においても、高い触媒活性が得られるとともに、基質と触媒との反応を抑制することができる。
【0073】
前記金属化合物の使用量は、例えば、前記ジカルボキシイミド骨格を有する化合物からなる触媒1モルに対して、0.0001〜10モル、好ましくは0.005〜3モル程度である。また、金属化合物の使用量は、原料(アルキル置換含窒素芳香族複素環化合物)1モルに対して、例えば0.00001モル%〜10モル%、好ましくは0.1モル%〜5モル%程度である。
【0074】
[反応]
反応は溶媒の存在下又は非存在下で行われる。溶媒としては、酸化剤の種類等により適宜選択できるが、例えば、酢酸、プロピオン酸などの有機酸;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;t−ブタノール、t−アミルアルコールなどのアルコール類;ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;ニトロベンゼン、ニトロメタン、ニトロエタンなどのニトロ化合物;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類;及びこれらの混合溶媒などが挙げられる。溶媒としては、酢酸などの有機酸、ベンゾニトリルなどのニトリル類、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素等を用いる場合が多い。
【0075】
反応温度は、基質の種類、酸化剤の種類などに応じて適当に選択でき、例えば、−10℃〜250℃、好ましくは0〜200℃である。酸化剤が酸素の場合は、50〜200℃の範囲が特に好ましく、酸化剤が臭素酸塩と亜硫酸水素塩との組み合わせからなる反応剤の場合は、0〜100℃の範囲が特に好ましい。反応は、常圧または加圧下で行うことができ、加圧下で反応させる場合(例えば、酸化剤として酸素を用いる場合)には、通常、0.1〜10MPa(例えば、0.15〜5MPa)、好ましくは0.2〜2MPa程度である。反応時間は、反応温度及び圧力に応じて、例えば、30分〜48時間程度の範囲から適当に選択できる。
【0076】
反応は、酸化剤の存在下又は酸化剤が酸素等の気体の場合は該酸化剤の流通下、回分式、半回分式、連続式などの慣用の方法により行うことができる。反応終了後、反応生成物は、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0077】
本発明の方法によれば、基質の芳香族複素環を構成する窒素原子の隣接位の炭素原子に結合している置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基が円滑に酸化されてカルボキシル基に変換され、対応する含窒素芳香族複素環カルボン酸が生成する。本発明では、発煙硝酸の存在下で酸化するため、アルキル基のカルボキシル基への変換が速やかに且つ選択的に行われるため、高い収率及び選択率で目的の含窒素芳香族複素環カルボン酸を得ることができ、工業的に極めて有用である。
【0078】
基質として、前記式(2)で表される化合物を用いた場合には、下記式(5)で表される化合物が生成する。
【化11】

【0079】
式(5)中、XはCRC又はNを示す。RB、RC、RD、REは前記と同じである。但し、反応過程で、RB、RC、RD、REが変化し、原料化合物である式(2)におけるRB、RC、RD、REとは異なる場合がある。
【0080】
なお、REや、XがN(窒素原子)である場合のRB、RDは、窒素原子の隣接位の炭素原子に結合しているので、これらが置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基である場合には、RAと同様に、カルボキシル基に変換されうる。従って、これらの置換基を選ぶことで、モノカルボン酸のほか、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸を得ることが可能である。
【0081】
本発明によれば、例えば、α−ピコリン、2−エチルピリジン、2−プロピルピリジン、2−ブチルピリジン等からは2−ピリジンカルボン酸を、2,6−ルチジン、2,6−ジエチルピリジン等からは2,6−ピリジンジカルボン酸を、2−メチルキノリン、2−エチルキノリン等からは2−キノリンカルボン酸を、2−メチルピラジン、2−エチルピラジン等からは2−ピラジンカルボン酸を、2,6−ジメチルピラジン、2,6−ジエチルピラジン等からは2,6−ピラジンジカルボン酸を、2,3,5,6−テトラメチルピラジン、2,3,5,6−テトラエチルピラジン等からは2,3,5,6−ピラジンテトラカルボン酸を、それぞれ高い選択率で収率よく得ることができる。
【0082】
こうして得られた含窒素芳香族複素環カルボン酸は、医薬、農薬等の精密化学品又はその中間体や、ポリマーの単量体成分などとして有用である。
【実施例】
【0083】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0084】
実施例1
ガラス製フラスコに、2−エチルピリジン1.0g、N−ヒドロキシフタルイミド0.15g(2−エチルピリジンに対して10mol%)、Co(acac)3[コバルト(III)アセチルアセトナト]17mg(2−エチルピリジンに対して0.5mol%)、Mn(OAc)2[酢酸マンガン(II)](2−エチルピリジンに対して0.5mol%)、発煙硝酸(2−エチルピリジンに対して20mol%)を仕込み、酢酸10mLに溶解した。このガラス製フラスコにコンデンサー及び酸素風船を取り付けて密閉し、系内を酸素で置換した後、100℃で10時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷却し、反応液の一部をサンプリングしてガスクロマトグラフィーにて分析したところ、2−ピリジンカルボン酸(=α−ピコリン酸)が、収率20%、選択率>99%で生成していた。
【0085】
比較例1
発煙硝酸を用いなかった点以外は実施例1と同様の操作を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、2−ピリジンカルボン酸が、収率4.1%、選択率>99%で生成していた。
【0086】
実施例2
Co(acac)3の代わりに、Co(acac)2[コバルト(II)アセチルアセトナト](2−エチルピリジンに対して0.5mol%)を用いた点以外は実施例1と同様の操作を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、2−ピリジンカルボン酸が、収率40%、選択率>99%で生成していた。
【0087】
実施例3
酸素風船を用いる代わりに、酸素で加圧して0.4MPaの圧力条件下で反応を行ったこと以外は実施例2と同様の操作を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、2−ピリジンカルボン酸が、収率80%、選択率>99%で生成していた。
【0088】
実施例4
原料として2−エチルピリジンの代わりに、2−エチルキノリンを用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、2−キノリンカルボン酸が、収率25%、選択率>99%で生成していた。
【0089】
実施例5
ガラス製フラスコに、系内を窒素置換した後、2−エチルピリジン1.0g、臭素酸ナトリウム(NaBrO3)(2−エチルピリジンに対して3当量)、亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO3)(2−エチルピリジンに対して3当量)、Mn(OAc)2[酢酸マンガン(II)](2−エチルピリジンに対して0.5mol%)を仕込み、酢酸10mLに溶解した後、室温(25℃)で4時間撹拌した。反応液の一部をサンプリングしてガスクロマトグラフィーにて分析したところ、2−ピリジンカルボン酸(=α−ピコリン酸)が、収率90%、選択率>99%で生成していた。
【0090】
実施例6
原料として2−エチルピリジンの代わりに、2−プロピルピリジンを用いたこと以外は実施例5と同様の操作を行った。反応液の一部をサンプリングしてガスクロマトグラフィーにて分析したところ、2−ピリジンカルボン酸(=α−ピコリン酸)が、収率96%、選択率>99%で生成していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族複素環を構成する窒素原子の隣接位の炭素原子に置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基が結合している含窒素芳香族複素環化合物を、発煙硝酸の存在下、酸化剤により酸化して、前記窒素原子の隣接位の炭素原子にカルボキシル基が結合している対応する含窒素芳香族複素環カルボン酸を得ることを特徴とする含窒素芳香族複素環カルボン酸の製造方法。
【請求項2】
前記アルキル基が炭素数2〜4のアルキル基である請求項1記載の含窒素芳香族複素環カルボン酸の製造方法。
【請求項3】
前記酸化剤として、酸素、又は臭素酸塩と亜硫酸水素塩との組み合わせからなる反応剤を用いる請求項1又は2記載の含窒素芳香族複素環カルボン酸の製造方法。
【請求項4】
酸化反応の触媒として、下記式(1)
【化1】

(式中、Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)
で表されるジカルボキシイミド骨格を有する化合物を用いる請求項1〜3の何れかの項に記載の含窒素芳香族複素環カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2012−158560(P2012−158560A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20108(P2011−20108)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】