説明

吸収性物品用シート材および吸収性物品

【課題】吸収性物品の構成部材として用いられる吸収性物品用シート材であって、優れた使用感を損なうことなく、汚れに対して優れた遮蔽性を有し、かつ体液中に含まれる固形物や溶解物を性能よく吸着可能な吸収性物品用シート材、および該シート材を用いてなる吸収性物を提供する。
【解決手段】繊維表面に微細孔を有するポリエステル繊維を用いて、吸収性物品の構成部材として用いられる吸収性物品用シート材を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品の構成部材として用いられる吸収性物品用シート材であって、優れた使用感を損なうことなく、汚れに対して優れた遮蔽性を有し、かつ体液中に含まれる固形物や溶解物を性能よく吸着可能な吸収性物品用シート材、および該シート材を用いてなる吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
紙おむつや生理用ナプキンなどの吸収性物品は、通常、体液を吸収する吸収体と、該吸収体を覆うシート材等とで構成される(例えば、特許文献1参照)。また、かかる吸収性物品に要求される特性としては、優れた使用感、汚れに対する優れた遮蔽性、体液中に含まれる固形物や溶解物の吸着性などがあげられる。
【0003】
これに対して、例えば特許文献2などでは、艶消し剤を多量に含有するフィルム状シート材を用いて吸収性物品を構成することが提案されている。
しかしながら、かかる吸収性物品では、フィルム状シート材が毛管構造を有しないので、ムレ感やべとつき感があり、使用感に劣るという問題があった。また、体液中に含まれる固形物や溶解物が吸着されにくいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57−205506号公報
【特許文献2】特開昭61−45753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、吸収性物品の構成部材として用いられる吸収性物品用シート材であって、優れた使用感を損なうことなく、汚れに対して優れた遮蔽性を有し、かつ体液中に含まれる固形物や溶解物を性能よく吸着可能な吸収性物品用シート材、および該シート材を用いてなる吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を達成するため鋭意検討した結果、繊維表面に微細孔を有するポリエステル繊維で吸収性物品用シート材を構成することにより、優れた使用感を損なうことなく、汚れに対して優れた遮蔽性を有し、かつ体液中に含まれる固形物や溶解物を性能よく吸着可能な吸収性物品用シート材および吸収性物品が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「吸収性物品の構成部材として用いられる吸収性物品用シート材であって、繊維表面に微細孔を有するポリエステル繊維を含むことを特徴とする吸収性物品用シート材。」が提供される。
その際、前記微細孔において、かつ微細孔の巾が0.001μm以上であることが好ましい。また、前記微細孔が、下記式で表わされる微細孔形成剤を含むポリエステルの少なくとも1部を除去することによって得られた微細孔であることが好ましい。
【0008】
【化1】

(式中、MおよびM’は金属であり、アルカリ土類金属、マンガン、コバルト、亜鉛が好ましく、MおよびM’は同一でもあるいは異なっていてもよい。Rは水素原子またはエステル形成性官能基であり、nは1または2を示す。)
【0009】
本発明において、前記ポリエステル繊維が中空繊維であり、かつ前記微細孔が中空部まで連通していることが好ましい。また、さらに前記ポリエステル繊維を構成するポリマーよりも40℃以上低い融点を有するポリマーが、熱融着成分としてその表面に配された熱接着性複合繊維が含まれることが好ましい。その際、前記ポリエステル繊維と熱接着性複合繊維との重量比率が(前者:後者)10:90〜50:50の範囲内であることが好ましい。また、吸収性物品用シート材が不織布であることが好ましい。また、目付けが12〜70g/mの範囲内であることが好ましい。また、厚さが1〜9mmの範囲内であることが好ましい。また、密度が0.005〜0.01g/cmの範囲内であることが好ましい。
また、本発明によれば、前記のシート材を含む吸収性物品が提供される。その際、かかる吸収性物品が体液を吸収するためのものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、吸収性物品の構成部材として用いられる吸収性物品用シート材であって、優れた使用感を損なうことなく、汚れに対して優れた遮蔽性を有し、かつ体液中に含まれる固形物や溶解物を性能よく吸着可能な吸収性物品用シート材、および該シート材を用いてなる吸収性物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の吸収性物品用シート材には、繊維表面に微細孔を有するポリエステル繊維が含まれるので、かかる微細孔の効果で光が乱反射することにより汚れに対して優れた遮蔽性を有する。また同時に、体液中に含まれる固形物や溶解物がかかる微細孔に性能よく吸着される。
【0012】
ここで、前記微細孔としては、巾(微細孔の内接円直径)が0.001μm以上の微細孔であることが好ましい。特に、汚れに対して優れた遮蔽性を有し、かつ体液中に含まれる固形物や溶解物を性能よく吸着する上で、微細孔の巾が0.001〜3μm(特に好ましくは0.01〜2μm)の範囲内であることが好ましい。また、該微細孔の長さ(微細孔の外接円直径)としては、巾の3〜50倍の範囲内であることが好ましい。
なお、前記巾および長さについては、任意の微細孔について測定すればよい。微細孔が繊維表面に複数個存在する場合は、n数10で測定して、全ての微細孔の巾が0.001μm以上あることが特に好ましい。
【0013】
また、前記ポリエステル繊維を形成するポリエステルは、ジカルボン酸成分とジグリコール成分とから製造される。ジカルボン酸成分としては、主としてテレフタル酸が用いられることが好ましく、ジグリコール成分としては主としてエチレングリコール、トリメチレングリコール及びテトラメチレングリコールから選ばれた1種以上のアルキレングリコールを用いることが好ましい。また、ポリエステル樹脂には、前記ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に第3成分を含んでいてもよい。該第3成分としては、カチオン染料可染性アニオン成分、例えば、ナトリウムスルホイソフタル酸;テレフタル酸以外のジカルボン酸、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸;及びアルキレングリコール以外のグリコール化合物、例えばジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールスルフォンの1種以上を用いることができる。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルや、バイオマスすなわち生物由来の物質を原材料として得られたモノマー成分を使用してなるポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸であってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。特に、前記のような微細孔を形成する上で、下記式で表わされるスルホン酸金属塩(微細孔形成剤)を含むポリエステルであることが特に好ましい。
【0014】
【化2】

(式中、MおよびM’は金属であり、アルカリ土類金属、マンガン、コバルト、亜鉛が好ましく、MおよびM’は同一でもあるいは異なっていてもよい。Rは水素原子またはエステル形成性官能基であり、nは1または2を示す。)
【0015】
ここで、かかるスルホン酸金属塩として、具体的には3−カルボメトキシベンゼンスルホン酸ナトリウム−5−カルボン酸ナトリウム、3−カルボメトキシベンゼンスルホン酸ナトリウム−5−カルボン酸カリウム、3−カルボメトキシベンゼンスルホン酸カリウム−5−カルボン酸カリウム、3−カルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウム−5−カルボン酸ナトリウム、3−ヒドロキシエトキシカルボニルベンゼンスルホン酸ナトリウム−5−カルボン酸1/2マグネシウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム−3,5−ジカルボン酸マグネシウム1/2等をあげることができる。上記スルホン酸金属塩は1種のみを単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0016】
前記微細孔形成剤の添加量は、少ないと最終的に得られるポリエステル繊維の、汚れに対する遮蔽性や体液中に含まれる固形物や溶解物の吸着性が低下し、一方多いと紡糸時にトラブルが発生しやすくなるので、ポリエステルを構成する酸成分に対して0.5〜5モル%の範囲が好ましい。
【0017】
前記微細孔形成剤を含むポリエステルを用いて、常法により紡糸、延伸した後、次いで、必要に応じて後記のように所定の長さに裁断したり捲縮を付与した後、アルカリ化合物の水溶液の処理し、ポリエステルの少なくとも1部を除去することにより、前記のような、繊維表面に微細孔を有するポリエステル繊維が得られる。
【0018】
その際、前記微細孔形成剤を含むポリエステルのみでポリエステル繊維を形成することが最も好ましいが、前記微細孔形成剤を含むポリエステルを1成分とする、芯鞘型またはサイドバイサイド型複合繊維(コンジュゲート繊維)であってもよい。
【0019】
また、使用するアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等をあげることができる。なかでも水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが特に好ましい。かかるアルカリ化合物の水溶液の濃度は、アルカリ化合物の種類、処理条件等によって異なるが、通常、0.01〜40重量%の範囲が好ましく、特に0.1〜30重量%の範囲が好ましい。処理温度は常温〜100℃の範囲が好ましく、処理時間は1分〜4時間の範囲で通常行なわれる。このようにアルカリ化合物の水溶液で処理することによって、上記スルホン酸金属塩と共にポリエステルが選択的に溶出し、繊維表面のみならず繊維内面にまで外部に連通した多数の微細孔を形成せしめることができる。ポリエステル繊維のアルカリ減量率は、アルカリ減量処理前のポリエステル繊維重量対比10〜40重量%(より好ましくは15〜35重量%)であることが好ましい。アルカリ減量率が10重量%未満では、汚れに対する遮蔽性や体液中に含まれる固形物や溶解物の吸着性が低下するおそれがある。逆に、アルカリ減量率が40重量%よりも大きいと、アルカリ減量処理による繊維ダメージが大きく、不織布を製造する場合にカード通過性が悪化したり、スカムの発生、フィブリル化の要因となりおそれがある。
【0020】
かかるポリエステル繊維において、単繊維の断面形状は通常の丸、扁平、四つ山扁平などのくびれ付き扁平、三角や四角の多角形、丸中空や三角中空や四角中空等の中空などいずれでもよい。なかでも、単繊維の断面形状が中空であり、かつ前記微細孔が中空部まで連通していると、汚れに対する遮蔽性と、体液中に含まれる固形物や溶解物の吸着性がさらに向上し好ましい。
【0021】
前記のポリエステル繊維において、単糸繊度としては、0.0001〜10dtex(より好ましくは0.1〜10dtex、特に好ましくは1〜5dtex)であることが好ましい。該単糸繊度が0.0001dtexよりも小さいと、繊維表面に微細孔を形成することが困難になるおそれがある。逆に、該単糸繊度が10dtexよりも大きいと、汚れに対する遮蔽性と、体液中に含まれる固形物や溶解物の吸着性とが低下するだけでなく、吸収性物品の使用感も損なわれるおそれがある。
【0022】
前記ポリエステル繊維は、裁断されていない長繊維でもよいが、繊維長が3〜100mm(より好ましくは25〜75mm、特に好ましくは30〜70mm)に裁断された短繊維であると、汚れに対する遮蔽性と、体液中に含まれる固形物や溶解物の吸着性がさらに向上し好ましい。
【0023】
前記ポリエステル繊維が短繊維である場合、捲縮が付与されていると、吸収性物品用シート材の嵩性が向上することにより、汚れに対する遮蔽性と、体液中に含まれる固形物や溶解物の吸着性がさらに向上し好ましい。その際、捲縮数は3〜40個/2.54cm(好ましくは7〜15個/2.54cm)であることが好ましく、捲縮率としては20〜40%であることが好ましい。
【0024】
なお、捲縮付与方法としては、熱収縮率の異なるポリマーをサイドバイサイド型に張り合わせた複合繊維を用いてスパイラル状捲縮を付与、異方冷却によりスパイラル状捲縮を付与、通常の押し込みクリンパー方式による機械捲縮を付与など、種々の方法を用いればよいが、嵩高性、製造コスト等の面から機械捲縮を付与するのが最適である。
【0025】
本発明の吸収性物品用シート材において、シート材は前記ポリエステル繊維のみで構成されていてもよいが、シート材の嵩性を向上させることにより、汚れに対する遮蔽性と、体液中に含まれる固形物や溶解物の吸着性をさらに向上させる上で、前記ポリエステル繊維と、該ポリエステル繊維を構成するポリマーよりも40℃以上低い融点を有するポリマーが、熱融着成分としてその表面に配された熱接着性複合繊維とで構成されることが好ましい。
【0026】
かかる熱接着性繊維において、熱接着性成分として配されるポリマーとしては、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、非弾性ポリエステル系ポリマー及びその共重合物、ポリオレフィン系ポリマー及びその共重合物、ポリビニルアルコ−ル系ポリマー等を挙げることができる。
【0027】
ここで、ポリウレタン系エラストマーとしては、分子量が500〜6000程度の低融点ポリオール、例えばジヒドロキシポリエーテル、ジヒドロキシポリエステル、ジヒドロキシポリカーボネート、ジヒドロキシポリエステルアミド等と、分子量500以下の有機ジイソシアネート、例えばp,p’−ジフェニールメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート水素化ジフェニールメタンイソシアネート、キシリレンイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプロエート、ヘキサメチレンジイソシアネート等と、分子量500以下の鎖伸長剤、例えばグリコールアミノアルコールあるいはトリオールとの反応により得られるポリマーが好ましい。
【0028】
また、ポリエステル系エラストマーとしては熱可塑性ポリエステルをハードセグメントとし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールをソフトセグメントとして共重合してなるポリエーテルエステル共重合体、より具体的にはテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、コハク酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体などから選ばれたジカルボン酸の少なくとも1種と、1,4−ブタンジオール、エチレングリコールトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール等の脂肪族ジオールあるいは1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンメタノール等の脂環式ジオール、またはこれらのエステル形成性誘導体などから選ばれたジオール成分の少なくとも1種、および平均分子量が約400〜5000程度のポリエチレングリコール、ポリ(1,2−および1,3−ポリプロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランとの共重合体等のポリ(アルキレンオキサイド)クリコールのうち少なくとも1種から構成される三元共重合体を挙げることができる。
【0029】
また、共重合ポリエステル系ポリマーとしては、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸類および/またはヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂環式ジカルボン酸類と、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、パラキシレングリコールなどの脂肪族や脂環式ジオール類とを所定数含有し、所望に応じてパラヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類を添加した共重合エステル等を挙げることができ、例えばテレフタル酸とエチレングリコールとにおいてイソフタル酸および1,6−ヘキサンジオールを添加共重合させたポリエステル等が使用できる。
【0030】
また、ポリオレフィンポリマーとしては、例えば低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等を挙げることができる。
なお、上述のポリマー中には、各種安定剤、紫外線吸収剤、増粘分岐剤、艶消し剤、着色剤、その他各種の改良剤等も必要に応じて配合されていても良い。
【0031】
前記熱接着性繊維において、相手側成分に配されるポリマーとしては、前記熱接着性成分に配されたポリマーよりも融点が高く、かつ融点が200℃以上のポリマーであれば特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリ−1,4−ジメチルシクロヘキサンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリピバロラクトン、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸(PLA)、ステレオコンプレックスポリ乳酸(PLA)などのポリエステルが好ましい。
【0032】
また、前記熱接着性繊維において、熱接着性成分が、少なくとも1/2の表面積を占めるものが好ましい。重量割合は、熱接着性成分と相手側成分が、複合比率で30/70〜70/30の範囲にあるのが適当である。熱接着性繊維の形態としては、特に限定されないが、熱接着性成分と相手側成分とが、サイドバイサイド型または芯鞘型に配された複合繊維(コンジュゲート繊維)が好ましく、より好ましくは芯鞘型である。この芯鞘型の熱接着性繊維では、相手側成分が芯部となり、熱接着性成分が鞘部となるが、この芯部は同心円状、または偏心状にあってもよい。
【0033】
かかる熱接着性繊維において、単糸繊度および繊維長としては、前記ポリエステル繊維の場合と同様であることが好ましい。また、前記ポリエステル繊維の場合と同様の捲縮が付与されていることが好ましい。
なお、前記ポリエステル繊維または熱接着性繊維は、実質的には疎水性の繊維であるが、繊維の表面に、濡れ性、工程性を考慮して界面活性剤や油剤等が付与したものを用いることが好ましい。
【0034】
本発明の吸収性物品用シート材において、シート組織は特に限定されず、織物、編物、不織布(例えば、エアレイド不織布、湿式不織布、乾式不織布、スパンボンド不織布など)いずれでもよいが、嵩性を向上させることにより、汚れに対する遮蔽性と、体液中に含まれる固形物や溶解物の吸着性をさらに向上させる上で不織布が好ましい。なかでも、前記ポリエステル捲縮短繊維と前記熱接着性複合短繊維とを混綿させ、加熱処理することにより、該熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点および/または該熱接着性複合短繊維と該ポリエステル捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在してなる繊維構造体が特に好ましい。
【0035】
本発明の吸収性物品用シート材は例えば以下の製造方法により製造することができる。まず、前記微細孔形成剤を含むポリエステルを用いて、常法により紡糸、延伸した後、次いで、必要に応じて後記のように所定の長さに裁断したり捲縮を付与した後、前記のようなアルカリ化合物の水溶液の処理し、ポリエステルの少なくとも1部を除去することにより、前記のような、繊維表面に微細孔を有するポリエステル繊維を得る。
【0036】
次いで、該ポリエステル繊維を単独で用いるか、好ましくは該ポリエステル繊維と前記のような熱接着性繊維とを用いて、必要に応じてさらに他の繊維を用いて、通常の織機または編機により織編物を製編職してもよい。または、前記のようなポリエステル捲縮短繊維と熱接着性複合短繊維とを重量比率で(前者/後者)90/10〜10/90(好ましくは50/50〜10/90)となるように混綿したウエブを用意した後、加熱することにより、該熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点および/または該熱接着性複合短繊維と該ポリエステル捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在してなる繊維構造体(不織布)を得てもよい。
【0037】
その際、ウエブをそのまま加熱してもよいし、繊維構造体を構成する繊維を繊維の厚さ方向に配列させるため、特開2007−308831号公報の図2に示すような熱処理機(市販のものでは、Struto社製Struto設備など)を用いて、駆動ローラにより加熱ローラが低融点ポリマーの融点以上に設定された熱風サクション式熱処理機内に押し込むことでアコーデオン式に折りたたんだ後加熱してもよい。
【0038】
かくして得られた吸収性物品用シート材において、汚れに対する遮蔽性と、体液中に含まれる固形物や溶解物の吸着性をさらに向上させる上で、目付けとしては12〜70g/mの範囲内であり、厚さとしては1〜9mmの範囲内であり、密度としては0.005〜0.01g/cmの範囲内であることが好ましい。
なお、吸収性物品用シート材には、通常の染色加工、親水加工、撥水加工、防炎加工、難燃加工、マイナスイオン発生加工など公知の機能加工が付加されていてもさしつかえない。
【0039】
本発明の吸収性物品用シート材は、繊維表面に微細孔を有するポリエステル繊維が含まれるので、かかる微細孔の効果で光が乱反射することにより汚れに対して優れた遮蔽性を有する。また同時に、体液中に含まれる固形物や溶解物がかかる微細孔に性能よく吸着される。さらには、優れた使用感が損なわれることもない。
【0040】
次に、本発明の吸収性物品は前記のシート材を用いてなる吸収性物品である。該吸収性物品は、前記のシート材と、粒状または繊維状(例えば、帝人ファイバー(株)製ベルオアシス(登録商標))またはゲル状の吸水性高分子からなる吸収体とを含む。その際、前記のシート材は肌側および/または外気側表皮材として用いられることが好ましいが、中間層として吸収性物品に含まれていてもよい。なお、該吸収性物品には、他のシート材や付属品が含まれていてもよい。
【0041】
本発明の吸収性物品には前記のシート材が含まれるので、汚れに対して優れた遮蔽性を有する。また同時に、体液中に含まれる固形物や溶解物がかかる微細孔に性能よく吸着される。さらには、優れた使用感が損なわれることもない。
【0042】
本発明の吸収性物品は、紙おむつや生理用ナプキンなど、血液や尿などの体液を吸収するための吸収性物品として特に好適に用いられるが、例えば、湿度を吸収するための乾燥剤や吸湿材、さらには壁材など他の用途に用いてもよい。
【実施例】
【0043】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0044】
(1)アルカリ減量率
アルカリ減量処理前後に質量を測定し、各々A1、A2とした。そして、下記計算式によりアルカリ減量率を算出した。
アルカリ減量率(%)=(A1−A2)/A1×100
A1 :アルカリ減量処理前の質量
A2 :アルカリ減量処理後の質量
【0045】
(2)厚さ、目付、密度
JIS K6400により測定した。
【0046】
(3)隠蔽性
L値を、Machbeth Colour−Eye 3100(製)を用いて、光源D65、10度視野でL値を測定した。そして、下記計算式により隠蔽性を算出した。隠蔽性が3500以上であれば合格とする。
隠蔽性=(L1−LR)/密度[g/cm
L1 :赤色基準布(L値が34である。)を裏に重ねたときのシート材のL値
LR :赤色基準布のL値34
【0047】
(4)吸着性
まず、経血や尿の疑似液として、純水500Lに対し、塩化ナトリウム4.5gと市販のインク『スタンプインキ 2号赤』ライオン事務器(製)6mlとを添加した溶液を用意した。また、市販の大人用おむつ『リリーフ 尿とりパッド安心吸収』(花王(株)製、商品名)のトップシートを丁寧にはがし、縦150mm×横150mmにカットしたものを試験用吸収体とした。
次いで、体液中に含まれる固形物や溶解物の吸着性を評価するため、前記疑似液を用い、下記の試験を手順1〜4に従い実施した。
1.シート材の下に試験用吸収体を敷き、シート材の上に直径30mmの注入筒をセットした。
2.試験液10mlを注入筒から注入した。
3.シート材を乾燥した。
4.シート材表面および断面をXMAにより撮影し、繊維表面における溶解物の吸着状態を塩化物イオン(cl)の定性分析および面分析結果により判定した。そして、面分析の画像より、吸着が確認された(3級)、吸着が少し確認された(2級)、吸着がほとんど確認されなかった(1級)の3段階に評価した。
【0048】
(5)使用感
前記試験用吸収体にシート材を取り付け、着用テストを行い、使用感に優れる(3級)、普通(2級)、使用感に劣る(1級)の3段階に評価した。
【0049】
(6)融点
Du Pont社製 熱示差分析計990型を使用し、昇温20℃/分で測定し、融解ピークをもとめた。融解温度が明確に観測されない場合には、微量融点測定装置(柳本製作所製)を用い、ポリマーが軟化して流動を始めた温度(軟化点)を融点とした。なお、n数5でその平均値を求めた。
【0050】
(7)捲縮数、捲縮率
JIS L 1015に記載の方法により測定した。なお、n数5でその平均値を求めた。
【0051】
(8)微細孔の巾および長さ
繊維表面を電子顕微鏡で撮影し、n数10で微細孔の巾および長さを測定した。
【0052】
[製造例1]
テレフタル酸とイソフタル酸とを80/20(モル%)で混合した酸成分とブチレングリコールとを重合し、得られたポリブチレン系テレフタレート38重量%をさらにポリテトラメチレングリコール(分子量2000)62重量%と加熱反応させ、ブロック共重合ポリエーテルポリエステルエラストマー(熱可塑性エラストマー)を得た。この熱可塑性エラストマーの融点は155℃であった。この熱可塑性エラストマーを鞘(シース)に、ポリエチレンテレフタレート(融点256℃)を芯(コア)に、シース/コアの重量比で50/50なるように紡糸して偏心シース・コア型複合繊維を得た。得られた複合繊維を2.0倍に延伸したのち、80℃で乾燥し捲縮を発現させたのち、油剤を付与し、51mmに切断することにより、熱接着性短繊維を得た。該熱接着性短繊維において、単糸繊度は6.6dtex、捲縮数は13個/2.54cm、捲縮率は30%であった。
【0053】
[製造例2]
特公昭61−31231号公報の実施例1に従い、ポリエチレンテレフタレートの重合反応工程で、テレフタル酸ジメチルに対して1.3モル%の3−カルボメトキシベンゼンスルホン酸ナトリウム−5−カルボン酸ナトリウム(微細孔形成剤)を添加し、固有粘度0.60、軟化点258℃のポリエステル(チップ)を得た後、該ポリエステルを常法により紡糸、延伸した後、油剤を付与し、繊維長38mmに裁断し、さらに機械捲縮を付与することにより、単繊維の断面形状が三角中空のポリエステル捲縮短繊維を得た。
次いで、該ポリエステル捲縮短繊維を、アルカリ濃度1%のカセイソーダ水溶液で沸騰温度にて120分処理して減量率26%の、繊維表面に微細孔が形成されたポリエステル捲縮短繊維(ポリエステル繊維)を得た。該ポリエステル捲縮短繊維において、微細孔の巾は0.01〜2μmで分布しており、長さは0.3〜12μmで分布していた。また、微細孔が中空部まで連通していた。また、単糸繊度1.5dtex、繊維長38mm、捲縮数9個/2.54cm、捲縮率34%であった。
【0054】
[製造例3]
製造例2において、単繊維の断面形状を丸中実に変更し、かつ減量率を24%に変更すること以外は製造例2と同様にした。得られたポリエステル捲縮短繊維において、微細孔の巾は0.01〜2μmで分布しており、長さは0.3〜12mmで分布していた。また、単糸繊度1.5dtex、繊維長38mm、捲縮数9個/2.54cm、捲縮率34%であった。
【0055】
[実施例1]
製造例1で得られた熱接着性複合短繊維30重量%と、製造例2で得られたポリエステル捲縮短繊維70重量%とを用いて、カード機にて解繊してウエブとし、乾熱処理(160℃)して、目付13g/mの繊維構造体(不織布)を得た。
該繊維構造体において、熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点および熱接着性複合短繊維とポリエステル捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在していた。
該繊維構造体において、隠蔽性は4200と十分高く、隠蔽性に優れ、且つ体液中の固形物や溶解物の微細孔での吸着機能が確認された(3級)。また、試験用吸収体にシート材を取り付けて着用テストを行ったところ、使用感に優れるものであった(3級)。評価結果を表1に示す。
【0056】
[実施例2]
実施例1において、繊維構造体(不織布)の目付を51g/mに変更すること以外は実施例1と同様にした。
得られた繊維構造体において、隠蔽性は5800と十分高く、隠蔽性に優れ、且つ体液中の固形物や溶解物の微細孔での吸着機能が確認された(3級)。また、試験用吸収体にシート材を取り付けて着用テストを行ったところ、使用感に優れるものであった(3級)。評価結果を表1に示す。
【0057】
[実施例3]
製造例1で得られた熱接着性複合短繊維30重量%と、製造例3で得られたポリエステル捲縮短繊維70重量%とを用いて、カード機にて解繊してウエブとし、乾熱処理(160℃) して、目付31g/mの繊維構造体(不織布)を得た。
得られた繊維構造体において、隠蔽性は4500と十分高く、隠蔽性に優れ、且つ体液中の固形物や溶解物の微細孔での吸着機能が確認された(3級)。また、試験用吸収体にシート材を取り付けて着用テストを行ったところ、使用感に優れるものであった(3級)。評価結果を表1に示す。
【0058】
[実施例4]
製造例1で得られた熱接着性複合短繊維50重量%と、製造例3で得られたポリエステル捲縮短繊維50重量%とを用いて、カード機にて解繊してウエブとし、乾熱処理(160℃) して、目付29g/mの繊維構造体(不織布)を得た。
得られた繊維構造体において、隠蔽性は3900と十分高く、隠蔽性に優れ、且つ体液中の固形物や溶解物の微細孔での吸着機能が確認された(3級)。また、試験用吸収体にシート材を取り付けて着用テストを行ったところ、使用感に優れるものであった(3級)。評価結果を表1に示す。
【0059】
[比較例1]
芯にポリエチレンテレフタレート(融点255℃)、鞘にポリエチレン(融点130℃)を複合した帝人ファイバー(株)製熱接着性複合短繊維(単糸繊度1.7dtex、繊維長44mm)80重量%と、帝人ファイバー(株)製ポリトリメチレンテレフタレート短繊維(単糸繊1.1dtex、繊維長38mm)20重量%とを用いて、カード機にて解繊してウエブとし、乾熱処理(140℃)して、目付22g/mの繊維構造体(不織布)を得た。
該不織布において、隠蔽性は2300と低く(1級)、また繊維表面に微細孔を有する繊維が含まれない為、体液中の固形物や溶解物の微細孔での吸着機能は確認されなかった(1級)。評価結果を表1に示す。
【0060】
[比較例2]
芯にポリエチレンテレフタレート(融点255℃)、鞘にポリエチレン(融点130℃)を複合した帝人ファイバー(株)製熱接着性複合短繊維(単糸繊度1.7dtex、繊維長44mm)100重量%を用いて、カード機にて解繊してウエブとし、乾熱処理(140℃)して、目付25g/mの繊維構造体(不織布)を得た。
該不織布において、隠蔽性は2800と低く(1級)、また繊維表面に微細孔を有する繊維が含まれない為、体液中の固形物や溶解物の微細孔での吸着機能は確認されなかった(1級)。評価結果を表1に示す。
【0061】
[比較例3]
芯にポリプロピレン(融点160℃)、鞘にポリエチレン(融点136℃)を複合した江南高繊製熱接着性複合短繊維(単糸繊度2.2dtex、繊維長51mm)100重量%を用いて、カード機にて解繊してウエブとし、乾熱処理(140℃)して、目付22g/mの繊維構造体(不織布)を得た。
該不織布において、隠蔽性は1500と低く(1級)、また繊維表面に微細孔を有する繊維が含まれない為、体液中の固形物や溶解物の微細孔での吸着機能は確認されなかった(1級)。評価結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、吸収性物品の構成部材として用いられる吸収性物品用シート材であって、優れた使用感を損なうことなく、汚れに対して優れた遮蔽性を有し、かつ体液中に含まれる固形物や溶解物を性能よく吸着可能な吸収性物品用シート材、および該シート材を用いてなる吸収性物が得られ、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収性物品の構成部材として用いられる吸収性物品用シート材であって、繊維表面に微細孔を有するポリエステル繊維を含むことを特徴とする吸収性物品用シート材。
【請求項2】
前記微細孔において、かつ微細孔の巾が0.001μm以上である、請求項1に記載の吸収性物品用シート材。
【請求項3】
前記微細孔が、下記式で表わされる微細孔形成剤を含むポリエステルの少なくとも1部を除去することによって得られた微細孔である、請求項1または請求項2に記載の吸収性物品用シート材。
【化1】

(式中、MおよびM’は金属であり、アルカリ土類金属、マンガン、コバルト、亜鉛が好ましく、MおよびM’は同一でもあるいは異なっていてもよい。Rは水素原子またはエステル形成性官能基であり、nは1または2を示す。)
【請求項4】
前記ポリエステル繊維が中空繊維であり、かつ前記微細孔が中空部まで連通している、請求項1〜3のいずれかに記載の吸収性物品用シート材。
【請求項5】
さらに、前記ポリエステル繊維を構成するポリマーよりも40℃以上低い融点を有するポリマーが熱融着成分としてその表面に配された熱接着性複合繊維が含まれる、請求項1〜4のいずれかに記載の吸収性物品用シート材。
【請求項6】
前記ポリエステル繊維と熱接着性複合繊維との重量比率が(前者:後者)10:90〜50:50の範囲内である、請求項5に記載の吸収性物品用シート材。
【請求項7】
吸収性物品用シート材が不織布である、請求項1〜6のいずれかに記載の吸収性物品用シート材。
【請求項8】
目付けが12〜70g/mの範囲内である、請求項1〜7のいずれかに記載の吸収性物品用シート材。
【請求項9】
厚さが1〜9mmの範囲内である、請求項1〜8のいずれかに記載の吸収性物品用シート材。
【請求項10】
密度が0.005〜0.01g/cmの範囲内である、請求項1〜9のいずれかに記載の吸収性物品用シート材。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のシート材を含む吸収性物品。
【請求項12】
吸収性物品が体液を吸収するためのものである、請求項11に記載の吸収性物品。

【公開番号】特開2012−36528(P2012−36528A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177264(P2010−177264)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】