説明

吸引キャップ装置

【課題】吸引中にキャップ部材が変形して液体吐出面から離れるのを防止する。
【解決手段】プリンタに設けられた吸引キャップ装置13は、インク吐出面38に対向する底壁69と、底壁69から側壁70を介して突出してインク吐出面38に密着可能なリップ76とからなるキャップ60と、キャップ60の内部空間を吸引する吸引ポンプ14と、底壁69を支持するキャップホルダ63と、を有している。リップ76がインク吐出面38に密着してキャッピングした際に、吸引ポンプ14は、キャップ60の内部空間を吸引するとともに、底壁69とキャップホルダ63との間の空間を吸引することで底壁69をキャップホルダ63に吸着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置に設けられた吸引キャップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、液体を吐出する液体吐出ヘッドを有する液体吐出装置には、液体吐出ヘッドに形成されたノズルの吐出不良を解消するために、液体吐出ヘッドのノズルが形成された液体吐出面を覆って、ノズルから液体を吸引する吸引キャップ装置が設けられている。例えば、特許文献1に記載のインクジェット記録装置における吸引キャップ装置は、液体吐出ヘッドの液体吐出面を覆うことが可能なキャップ部材と、キャップ部材に接続された吸引ポンプなどの吸引手段を有している。そして、吸引キャップ装置は、ノズルの吐出不良を解消するパージ処理時に、キャップ部材で液体吐出面を覆って、吸引ポンプの駆動によってノズル内から吸引された気泡や増粘した液体をキャップ部材に排出する。
【0003】
【特許文献1】特開2007−90807号公報(図14)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、キャップ部材で液体吐出面を覆って吸引ポンプによる吸引動作を行うと、キャップ部材の内部空間が減圧されて、キャップ部材の外側との気圧差でキャップ部材の最も表面積の大きな底壁が液体吐出面側に変形してしまう。すると、この底壁の変形に伴い、キャップ部材が液体吐出面から離れてしまい、キャップ部材と液体吐出面との間に隙間ができてしまい、キャップ部材からの液体漏れや密閉状態が解除されることによるパージ不十分のおそれがある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、吸引中にキャップ部材が変形して液体吐出面から離れるのを防止することができる吸引キャップ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の吸引キャップ装置は、液体吐出ヘッドの液体吐出面に対向する底壁部と、前記底壁部から前記液体吐出面側に突出して設けられ、前記液体吐出面に密着可能な環状のリップと、を有するキャップ部材と、前記キャップ部材の内部空間に連通し、前記内部空間を吸引する吸引手段と、前記キャップ部材の前記底壁部を支持する支持部材と、前記リップの先端が前記液体吐出面に密着したキャッピングの状態で前記吸引手段による吸引動作が行われるときに、前記底壁部を前記支持部材に吸着させる吸着手段と、を備えている。
【0007】
本発明の吸引キャップ装置によると、リップの先端を液体吐出面に密着させた状態で吸引手段による吸引動作を行ったときに、キャップ部材の内部空間が減圧され、この内部空間の気圧がキャップ部材の外側の気圧より低くなっても、底壁部は吸着手段により支持部材に吸着されているため、液体吐出面側に変形しにくい。したがって、キャップ部材が底壁部の変形に伴って、リップの先端が液体吐出面から離れるのを防止することができる。
【0008】
また、前記キャップ部材を構成する前記底壁部及び前記リップは、弾性部材で構成されるとともに一体成型されている。弾性部材は弾性率が低いため、底壁部がリップとともに弾性部材からなる場合には、底壁部が変形しやすく、本発明が有効となる。
【0009】
また、前記底壁部は、平板状に形成され、前記支持部材は、前記底壁部の前記液体吐出面に対向する面と反対側の接触面に接触する平面状の支持面を有し、前記吸着手段は、前記底壁部の前記接触面全域を前記支持部材の前記支持面に吸着させることが好ましい。これによると、底壁部の接着面と支持部材の支持面が互いに平面であるため、底壁部が支持部材に全面的に吸着されて、キャップ部材の保持効果が高くなる。
【0010】
さらに、前記支持部材には、前記底壁部に向けて開口する吸着孔が形成されており、前記吸着手段は、前記吸着孔の前記底壁部側の一端とは反対側の他端に接続されて、前記吸着孔を通じて前記底壁部と前記支持部材との間の空間を吸引することで、前記底壁部を前記支持部材に吸着させることが好ましい。これによると、簡単な構成で底壁部の面全体を均一な吸着力で支持部材に吸着させることができる。
【0011】
加えて、前記吸引手段は、前記支持部材の前記吸着孔を通じて、前記底壁部を前記支持部材に吸着させる前記吸着手段を兼ねていることが好ましい。これによると、1つの吸引手段で、キャップ部材の内部空間を吸引することができるとともに、底壁部と支持部材との間の空間を吸引することができる。
【0012】
また、前記吸引手段が、前記キャップ部材の前記内部空間とのみ連通するか、または、前記内部空間及び前記底壁部と前記支持部材との間の空間の両方と連通するかを切り換える切換手段と、前記リップの先端が前記液体吐出面に密着したキャッピングの状態となるキャッピング位置と、前記キャッピング位置から退避した退避位置とに亘って前記キャップ部材を移動させる移動機構と、をさらに備えており、前記切換手段は、前記移動機構により前記キャップ部材が前記退避位置に位置付けられたときに、前記吸引手段を前記内部空間とのみ連通させて、前記移動機構により前記キャップ部材が前記キャッピング位置に位置付けられたときに、前記吸引手段を前記内部空間及び前記底壁部と前記支持部材との間の空間の両方と連通させることが好ましい。これによると、キャップ部材で液体吐出面を覆わずに、キャップ部材の内部空間が開放していることで、キャップ部材に受容された液体を吸引手段により吸引して排出するときのような、底壁部が変形するおそれがない場合に、吸引手段を内部空間とのみ連通させることで、内部空間及び底壁部と支持部材との間の空間の両方と連通させるときに比べて、吸引手段による吸引力が全てキャップ部材に受容された液体の吸引に対して作用することとなり、液体に対する吸引力が増し、迅速にキャップ部材に受容された液体を吸引することができる。
【0013】
さらに、前記キャップ部材の前記内部空間には、キャップチップが収容されていることが好ましい。これによると、底壁部が液体吐出面側に変形することがないため、底壁部の変形に伴いキャップチップが液体吐出面に向かって押し上げられ、液体吐出面に接触するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
キャップ部材が底壁部の変形に伴って、リップの先端が液体吐出面から離れるのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施形態は、インクジェットヘッドから記録用紙に対してインクを吐出することにより、記録用紙に所望の文字や画像などを記録(印刷)するプリンタに設けられた吸引キャップ装置に、本発明を適用したものである。
【0016】
図1は、本実施形態に係るプリンタの概略構成を示す平面図である。図1に示すように、プリンタ1は、一方向に沿って往復移動可能に構成されたキャリッジ2と、このキャリッジ2に搭載されたインクジェットヘッド3(液体吐出ヘッド)、及び、サブタンク4a〜4dと、インクを貯留するインクカートリッジ6a〜6dと、インクジェットヘッド3のインク吐出面38(図2参照)を覆うことが可能な吸引キャップ装置13などを備えている。
【0017】
キャリッジ2は、走査方向(図1の左右方向)に平行に延びる2本のガイド軸17に沿って往復移動可能に構成されている。また、キャリッジ2には、無端ベルト18が連結されており、キャリッジ駆動モータ19によって無端ベルト18が走行駆動されたときに、キャリッジ2は、無端ベルト18の走行に伴って走査方向に移動するようになっている。
【0018】
このキャリッジ2には、インクジェットヘッド3と4つのサブタンク4a〜4dが搭載されている。インクジェットヘッド3は、キャリッジ2とともに走査方向に往復移動しつつ、インク吐出面38(図1の紙面向こう側の面)に形成されたノズル40(図2参照)から、図示しない用紙搬送機構により紙送り方向(図1の下方)に搬送される記録用紙Pに対してインクを吐出する。これにより、記録用紙Pに所望の文字や画像などが記録される。
【0019】
4つのサブタンク4a〜4dは走査方向に沿って並べて配置されている。これら4つのサブタンク4a〜4dにはチューブジョイント20が一体的に設けられている。そして、これらのチューブジョイント20に連結された可撓性のチューブ5a〜5dを介して、4つのサブタンク4a〜4dと4つのインクカートリッジ6a〜6dとがそれぞれ接続されている。4つのインクカートリッジ6a〜6dには、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタの4色のインクがそれぞれ貯留されており、これらのインクカートリッジ6a〜6dは、ホルダ7に着脱自在に装着されている。4つのインクカートリッジ6a〜6dに貯留された4色のインクは、チューブ5a〜5dを介してサブタンク4a〜4dに一時的に貯留された後、インクジェットヘッド3に供給される。
【0020】
次に、インクジェットヘッド3について説明する。図2は、インクジェットヘッドの一部分の鉛直断面図である。図2に示すように、インクジェットヘッド3は、ノズル40及び圧力室34を含む個別インク流路41が形成された流路ユニット22と、圧力室34内のインクに圧力を付与することにより、流路ユニット22のノズル40からインクを吐出させる圧電アクチュエータ23とを有している。
【0021】
流路ユニット22は、ステンレス鋼などの金属材料で形成された、キャビティプレート30、ベースプレート31、及び、マニホールドプレート32と、絶縁材料(例えば、ポリイミドなどの高分子合成樹脂材料)で形成されたノズルプレート33を備えており、これら4枚のプレート30〜33が積層状態で接合されている。
【0022】
キャビティプレート30には圧力室34が形成されている。なお、圧力室34は、図2の紙面垂直方向に複数並べて設けられている。ベースプレート31には、各圧力室34にそれぞれ連通する連通孔35,36が形成されている。また、マニホールドプレート32には、連通孔35を介して複数の圧力室34に連通するマニホールド37と、連通孔36に連なる連通孔39が形成されている。さらに、ノズルプレート33には複数のノズル40が形成され、これら複数のノズル40は、複数の圧力室34に対応して、図2の紙面垂直方向に配列されている。そして、流路ユニット22内には、マニホールド37から圧力室34を経てノズル40に至る個別インク流路41が複数形成されている。
【0023】
圧電アクチュエータ23は、複数の圧力室34を覆うように流路ユニット22の上面に接合された金属製の振動板50と、この振動板50の上面に配置された圧電層51と、圧電層51の上面に形成された複数の個別電極52とを備えている。
【0024】
金属製の振動板50は、ヘッドドライバ53によって常にグランド電位に保持されている。また、圧電層51は、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との固溶体であり強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とする圧電材料からなり、振動板50の上面において複数の圧力室34に跨るように配置されている。複数の個別電極52は、圧電層51の上面の、複数の圧力室34の中央部と対向する領域にそれぞれ配置されている。そして、これら複数の個別電極52は、ヘッドドライバ53によって、グランド電位と、このグランド電位とは異なる所定の駆動電位の何れか一方が付与されるようになっている。
【0025】
インク吐出時における圧電アクチュエータ23の作用について説明する。あるノズル40からインクを吐出させる場合には、このノズル40に連通する圧力室34に対応する個別電極52に、ヘッドドライバ53から駆動電位が付与される。すると、駆動電位が付与された個別電極52とグランド電位に保持されている振動板50との間に電位差が生じ、両者に挟まれた圧電層51に厚み方向に平行な電界が発生する。この電界の方向は、圧電層51の分極方向と一致するので、厚み方向に分極された圧電層51は、電界の方向と直交する面方向に収縮する(圧電横効果)。これによって、振動板50の圧力室34と対向する部分が圧力室34側に凸となるように変形する(ユニモルフ変形)。このとき、圧力室34の容積が減少することになり、その内部のインクの圧力が上昇し、圧力室34に連通するノズル40からインクが吐出される。
【0026】
次に、吸引キャップ装置13について説明する。図3は、吸引キャップ装置の平面図である。図4は、図3のA−A線断面図である。図5は、図3のB−B線断面図である。図6は、吸引キャップ装置が退避位置に位置するときの吸引キャップ装置近傍の縦断面図である。図7は、吸引キャップ装置がキャッピング位置に位置するときの吸引キャップ装置近傍の縦断面図である。
【0027】
図1に示すように、吸引キャップ装置13は、走査方向に関するキャリッジ2の移動範囲内のうち、記録用紙Pと対向する印刷領域よりも外側(図1における右側)の領域(以下、メンテナンス位置という)に配置されており、メンテナンス位置にキャリッジ2が移動してきたときにインクジェットヘッド3のインク吐出面38と対向する。
【0028】
図3〜図5に示すように、吸引キャップ装置13は、インク吐出面38を覆うことが可能なゴムなどの弾性部材からなるキャップ60と、キャップ60内に収容された2つのキャップチップ67,68と、キャップ60を保持するキャップホルダ63(支持部材)と、吸引ポンプ14(吸引手段)と、を有している。
【0029】
キャップ60は、一体成型された、平面視で矩形状の底壁69と、底壁69の縁に沿って立設した環状の側壁70と、側壁70の上端からさらに突出した環状のリップ76と、底壁69から立設した仕切り壁78と、仕切り壁78の上端からさらに突出したリップ79と、を有している。
【0030】
仕切り壁78は、走査方向に沿った側壁70の途中部同士を結ぶように紙送り方向に沿って延在している。そして、仕切り壁78は、底壁69及び環状の側壁70から構成され、上方に開口した矩形状の凹部を、ブラックインク用と3色のカラーインク(シアン、マゼンタ、イエロー)用の2つに分割している。
【0031】
2つに分割された凹部のうち、図3の左方に位置する平面視で矩形状の凹部61の底面は、インクジェットヘッド3がメンテナンス位置に移動してきたときに、平面視で、ブラックインクを吐出するノズル40と重なる領域と対向する。また、図3の右方に位置する平面視で矩形状の凹部62の底面は、インクジェットヘッド3がメンテナンス位置に移動してきたときに、平面視で、3色のカラーインクを吐出するノズル40と重なる領域と対向する。なお、凹部61を構成する底壁69の一部を底壁69aとし、凹部62を構成する底壁69の一部を底壁69bとする。また、リップ79は、走査方向に沿ったリップ76の途中部同士を結ぶように紙送り方向に沿って延在しており、リップ76で区画された領域を2つに分割している。
【0032】
このキャップ60を構成する底壁69、側壁70、仕切り壁78及びリップ76,79は弾性部材により一体的に形成されているため、インク吐出面38への密着性を高めるためにリップのみ弾性部材で形成され、リップを除く底壁や側壁が樹脂などからなる板部材で形成され、この樹脂などからなる側壁に弾性部材からなるリップを接着剤などで接合してキャップを構成する場合に比べて、接着工程が必要ない。また、キャップ60は射出成型などで容易に一体的に形成することができる。また、キャップ60は一体的に形成されて接合部がないため、リップ76,79がインク吐出面38に密着してキャッピングした際に、底壁69、側壁70、仕切り壁78、リップ76,79及びインク吐出面38で画定される空間の密閉状態を保持しやすい。
【0033】
底壁69aには、厚み方向に貫通する吸引孔71が形成されている。側壁70の先端部における紙送り方向に沿った内側部分、及び、仕切り壁78の先端部における両側部分には、走査方向と平行に突出して、凹部61,62内に配置されたキャップチップ67,68の上面における紙送り方向に沿った縁と接触する凸部72が形成されている。凸部72は、キャップチップ67,68の上面の縁と接触して、キャップチップ67,68の上方への移動を規制している。
【0034】
キャップホルダ63は、上方に開口した凹形状をしており、その凹部にキャップ60が嵌め込まれて保持されている。また、キャップホルダ63には、平面視で、底壁69aの吸引孔71と重なる位置に貫通孔63aが形成されており、且つ、底壁69bの吸引孔73と重なる位置に貫通孔63bが形成されている。さらに、キャップホルダ63には、平面視で、底壁69aの中央部と重なる位置に貫通孔63cが形成されており、且つ、底壁69bの中央部と重なる位置に貫通孔63dが形成されている。また、キャップホルダ63は、底面に接続されたバネ81を介して保持部材80に接続されている。キャップホルダ63の底面からは、L字形状のフック63cが保持部材80に向かって下方に延在している。
【0035】
保持部材80は、昇降機構65に接続されており、バネ81を介して接続されたキャップホルダ63及びキャップ60とともに上下方向に移動可能となっている。また、保持部材80は、キャップホルダ63の側方において上方に延在する側壁80aを有している。側壁80aには、キャップホルダ63を下方に押圧してバネ81をある程度縮めた状態においてフック63cを引っ掛ける開口80bが形成されている。
【0036】
キャップ60は、昇降機構65による保持部材80の昇降移動に伴って、リップ76,79の先端がインク吐出面38に密着してキャッピングすることで、インク吐出面38、リップ76,79、及び、キャップ60の凹部61,62により2つの密閉空間が画定されるキャッピング位置と、キャッピング位置から退避した退避位
置と、に亘って移動可能となっている。
【0037】
図6に示すように、キャップ60が退避位置に位置するときには、バネ81は上方に伸びようとしているが、キャップホルダ63のフック63cが保持部材80の開口80bの上面に接触することで、バネ81は伸びきるのを規制されている。
【0038】
また、図7に示すように、キャップ60が退避位置からキャッピング位置に移動したときには、リップ76,79の先端がインク吐出面38に密着し、キャップ60の上方への移動が停止された状態で、保持部材80だけがバネ81を縮めて上方に押し上がり、保持部材80に形成された開口80bが上方に移動するため、キャップホルダ63のフック63cは保持部材80の開口80bの上面に接触しなくなる。
【0039】
このように、キャップホルダ63のフック63cは、キャップ60がキャッピング位置と退避位置とに交互に移動するたびに、保持部材80の開口80bの上面への接触を繰り返すため、硬く、摩耗に強い材料で形成されている必要がある。また、このフック63cは、射出成型によりキャップホルダ63の凹形状の部分と容易に一体成型することができる。そこで、フック63cを含めたキャップホルダ63は、耐摩耗性に優れるポリアセタールにより形成されている。
【0040】
底壁69aに形成された吸引孔71、及び、底壁69bに形成された吸引孔73は、キャップホルダ63に形成された貫通孔63a,63bと連通しており、貫通孔63a,63bに接続されたチューブ11bを介して切り換えユニット15を経由して吸引ポンプ14と接続されている。また、キャップホルダ63に形成された貫通孔63c,63dは、チューブ11aを介して切り換えユニット15を経由して吸引ポンプ14と接続されている。切り換えユニット15は、吸引ポンプ14がチューブ11bとだけ連通するか、または、吸引ポンプ14が2つのチューブ11a,11bの両方と連通するかを切り換える。
【0041】
吸引ポンプ14とチューブ11bが連通した状態において、吸引ポンプ14を駆動させると、底壁69aに形成された吸引孔71,73、キャップホルダ63に形成された貫通孔63a,63b及びチューブ11bを介してキャップ60の凹部61,62内が吸引される。また、吸引ポンプ14とチューブ11aが連通した状態において、吸引ポンプ14を駆動させると、キャップホルダ63に形成された貫通孔63c,63d及びチューブ11aを介して底壁69とキャップホルダ63との間の空間が吸引されることで、底壁69の下面69c(接触面)全域がキャップホルダ63の上面63e(支持面)に吸着する。このとき、底壁69の下面69cとキャップホルダ63の上面63eが互いに平面であるため、底壁69がキャップホルダ63に全面的に吸着されて、キャップホルダ63によるキャップ60の保持効果が高くなる。また、簡単な構成で底壁69の下面69全体を均一な吸着力でキャップホルダ63の上面63eに吸着させることができる。
【0042】
キャップチップ67は、合成樹脂などからなり、矩形状をしており、キャップ60の凹部61に収容されている。キャップチップ67には、厚み方向に貫通した貫通孔67aが形成されている。また、インク吐出面38と対向するキャップチップ67の表面には、紙送り方向に沿って延在して、貫通孔67aと連通する溝67bが形成されている。キャップ60の底壁69aと対向するキャップチップ67の裏面には、溝67bを挟んで紙送り方向に沿って延在した2本の溝67cが形成されている。2本の溝67cは、走査方向に沿って延在した溝67dを介して連通している。溝67dは、貫通孔67aと連通している。
【0043】
凹部61の走査方向に沿った一辺の長さは、キャップチップ67の走査方向に沿った一辺の長さとほぼ同じである。凹部61の紙送り方向に沿った他辺の長さは、キャップチップ67の紙送り方向に沿った他辺の長さよりも長くなっている。つまり、凹部61に収容されたキャップチップ67の走査方向に沿った側面は、走査方向に沿った側壁70aと接触しておらず、キャップチップ67の紙送り方向に関する両側には、走査方向に沿って延在した隙間が形成されている。
【0044】
キャップチップ68は、キャップチップ67と同様に、合成樹脂などからなり、矩形状をしており、キャップ60の凹部62に収容されている。キャップチップ68には、走査方向に沿って厚み方向に貫通した3つの貫通孔68aが形成されている。また、インク吐出面38と対向するキャップチップ68の表面には、紙送り方向に沿って延在して、各貫通孔68aと連通する溝68bが走査方向に沿って3本形成されている。キャップ60の底壁69bと対向するキャップチップ68の裏面には、溝68bと交互に並んで紙送り方向に沿って延在した溝68cが走査方向に沿って4本形成されている。4本の溝68cは、走査方向に沿って延在した溝68dを介して連通している。溝68dは、3つの貫通孔68aと連通している。
【0045】
凹部62の走査方向に沿った一辺の長さは、キャップチップ68の走査方向に沿った一辺の長さとほぼ同じである。凹部62の紙送り方向に沿った他辺の長さは、キャップチップ68の紙送り方向に沿った他辺の長さよりも長くなっている。つまり、凹部62に収容されたキャップチップ68の走査方向に沿った側面は、走査方向に沿った側壁70bと接触しておらず、キャップチップ68の紙送り方向に関する両側には、走査方向に沿って延在した隙間が形成されている。
【0046】
図7に示すように、インクジェットヘッド3がメンテナンス位置に移動してきて、保持部材80が昇降機構65によって上方(図1の紙面手前側)に移動することで、キャップホルダ63及びキャップ60が上方に移動して、リップ76,79の先端がインク吐出面38に密着する。そして、インク吐出面38、リップ76,79、及び、キャップ60の凹部61,62により2つの密閉空間が画定される。
【0047】
このキャップ60に形成されたリップ76,79の先端がインク吐出面38に密着している状態で、吸引ポンプ14を駆動させることにより、キャップ60の密閉空間が減圧吸引されて、ノズル40からインクを吸引して排出するパージ処理を行う。これにより、乾燥によって粘度が高くなった(増粘した)ノズル40内のインクを排出したり、インクジェットヘッド3のインク流路内、あるいは、さらに上流のサブタンク4内に混入した気泡をインクとともにノズル40から排出したりして、インクジェットヘッド3のインク吐出性能を回復させることが可能となっている。
【0048】
そして、吸引ポンプ14の駆動を停止することで、ノズル40からのインクの吸引を停止して、凹部61,62内にインクが受容された状態で、キャップ60をインク吐出面38から離して、密閉空間を開放した状態で、パージ処理によってノズル40から吸引されてキャップ60の凹部61,62に受容されたインクを、再度吸引ポンプ14を駆動して吸引孔71,73から図示しない排出タンクに排出させる(いわゆる、空吸引動作)。
【0049】
このとき、キャップ60の凹部61,62内におけるキャップチップ67,68の表面に受容されたインクは、キャップチップ67,68の両側の隙間やキャップチップ67,68に形成された貫通孔67a,68aからキャップチップ67,68の裏面に流れる。なお、キャップチップ67,68の両側の隙間やキャップチップ67,68に形成された貫通孔67a,67b近傍に受容されていないインクは、溝67b,68bが形成されていることで、この溝67b,68bをつたって、キャップチップ67,68の両側の隙間や貫通孔67a,67bに向かって迅速に流れる。そして、キャップチップ67,68の裏面に流れたインクは、溝67c,68c及び溝67d,68dを介して吸引孔71,73に向かって迅速に流れる。
【0050】
このパージ処理における吸引ポンプ14による吸引動作で密閉空間が減圧されると、密閉空間の気圧はその外部の気圧よりも低くなる。すると、キャップ60は弾性部材により形成されていることで変形しやすく、このキャップ60の最も表面積の大きな底壁69が密閉空間に向かって変形してしまう。そして、この底壁69の変形にともなって、キャップ60全体が変形し、リップ76,79の先端がインク吐出面38から離れて、リップ76,79とインク吐出面38との間に隙間ができてしまい、ノズル40からインクを吸引できなくなってしまうおそれがある。
【0051】
また、底壁69が変形するだけで、リップ76,79の先端がインク吐出面38から離れないとしても、この底壁69のインク吐出面38に向かう変形に伴って、キャップチップ67,68がインク吐出面38に向かって押し上げられて、インク吐出面38に接触してしまい、ノズル40からのインクの排出を阻害してしまう。また、ノズルプレート33のインク吐出面38には、インクの付着を防止するフッ素系樹脂からなる撥インク膜が形成されており、ノズル40近傍の撥インク膜にキャップチップ67,68が接触して、撥インク膜を損傷したりノズル40自体が傷ついたりすることにより、ノズル40からの吐出方向がずれたり、吐出不良になったりしてしまう。
【0052】
そこで、本実施形態においては、パージ処理時において、切り換えユニット15により吸引ポンプ14の連通先を、2つのチューブ11a,11bの両方にする。このように、吸引ポンプ14が2つのチューブ11a,11bの両方と連通している状態で、パージ処理として吸引ポンプ14による吸引動作を行うと、キャップホルダ63に形成された貫通孔63c,63d及びチューブ11aを介して、底壁69とキャップホルダ63との間の空間が吸引される。すると、底壁69の下面69cがキャップホルダ63の上面63eに吸着されて、底壁69を含むキャップ60の姿勢がキャッピングを行う姿勢に保持される。
【0053】
そのため、キャップ60の密閉空間が減圧されて、密閉空間の気圧がその外部の気圧より低くなっても、底壁69が変形しにくく、キャップ60全体が変形することで、リップ76,79の先端がインク吐出面38から離れるのを防止することができる。また、底壁69がインク吐出面38側に変形することがないため、底壁69の変形に伴いキャップチップ67,68がインク吐出面38に向かって押し上げられ、インク吐出面38に接触するのを防止することができる。また、1つの吸引ポンプ14で、密閉空間の吸引とキャップホルダ63への底壁69の吸着の両方を行うことができる。
【0054】
また、空吸引時においては、キャップ60はインク吐出面38から離れているため、キャップ60の内部空間は密閉ではなく、底壁69がキャップ60の内部空間の減圧により変形することがないため、切り換えユニット15により吸引ポンプ14の連通先を、チューブ11bだけにする。つまり、底壁69とキャップホルダ63との間の空間の吸引はせずに、キャップ60の内部空間の吸引のみ行う。これにより、吸引ポンプ14による吸引力が全てキャップ60に受容されたインクの吸引に対して作用することとなり、インクに対する吸引力が増し、迅速にキャップ60に受容されたインクを吸引することができる。
【0055】
なお、製造段階で最初からキャップホルダ63の上面63eとキャップ60の底壁69の下面69cとを接着剤などで接着させて、パージ処理においてキャップ60の底壁69が密閉空間に向かって変形しないようにすることも考えられるが、これだと接着剤のコストや、キャップホルダ63とキャップ60を接着する工程が必要となってしまう。また、摩耗しにくいようにキャップホルダ63をポリアセタールで形成しているが、このポリアセタールは一般的に接着が困難な材料であり、キャップホルダ63とキャップ60を接着させることは困難である。さらに、キャップ60はゴムなどの弾性部材で形成されているため、経時劣化により硬くなると、キャッピング性能を維持できなくなってしまう。そこで、キャップ60の交換が必要となるが、キャップ60をキャップホルダ63に接着していると、この交換作業が煩雑となってしまうため、キャップホルダ63とキャップ60を接着させることは不適である。
【0056】
次に、上述した実施形態に種々の変形を加えた変更形態について説明する。但し、上述した実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0057】
本実施形態においては、切換手段である切り換えユニット15は、吸引ポンプ14が2つのチューブ11a,11bの両方と連通するか、または、チューブ11bとだけ連通するかを切り換えていたが、チューブ11aの途中にバルブが設けられて、チューブ11aはバルブの開閉状態で吸引ポンプ14と連通し、チューブ11bは常に吸引ポンプ14と連通してもよい。つまり、このバルブが切換手段となり、バルブの開閉によって吸引ポンプ14が2つのチューブ11a,11bの両方と連通するか、または、チューブ11bとだけ連通するかを切り換える。
【0058】
また、本実施形態においては、1つの吸引ポンプ14で、キャップ60の内部空間の吸引とキャップホルダ63への底壁69の吸着の両方を行っていたが、それぞれ別の吸引ポンプを設けてもよい。この場合、切り換えユニット15は設けなくてもよい。
【0059】
さらに、本実施形態においては、キャップ60の凹部61,62にキャップチップ67,68が配置されていたが、キャップチップ67,68は配置されなくてもよい。
【0060】
加えて、本実施形態においては、キャップ60は、底壁69から側壁70が立設して凹部を形成し、側壁70からリップ76が突出していたが、側壁70が立設しておらず、底壁から直接リップが突出することで、インクを受容する凹部を形成してもよい。
【0061】
また、本実施形態においては、キャップ60を保持するキャップホルダ63にバネ81を介して接続された保持部材80を昇降機構65に接続して、昇降機構65により保持部材80を昇降駆動することで、キャップ60を昇降移動させていたが、キャップホルダ63や保持部材80を設けなくてもよく、その場合、キャップ60を昇降機構65に直接接続して、昇降機構65によりキャップ60を直接昇降駆動させてもよい。
【0062】
さらに、キャップ60は、インク吐出面38と当接するリップ76についてはゴムなどの弾性部材により形成されていることが好ましいが、底壁69は弾性部材である必要は特になく樹脂板や金属板などであってもよい。
【0063】
また、本実施形態においては、キャップ60を凹形状のキャップホルダ63に嵌合して支持していたが、キャップ60を支持する支持部材は、単にキャップ60の下面69cと接触する板状部材であってもよいし、キャップ60の下面69cと接触する吸引ポンプ14に接続されたチューブなどの先端であってもよい。
【0064】
以上説明した実施形態は、本発明を、シリアル式のプリンタに設けられた吸引キャップ装置13に適用したものであるが、本発明の適用対象は、ライン式のプリンタに設けられた吸引キャップ装置であってもよい。また、本発明の適用対象は、インクジェット式のプリンタに限られず、様々な種類の液体をその用途に応じて対象に吐出する、種々の液体吐出装置に設けられた吸引キャップ装置に本発明を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施形態に係るプリンタの概略構成を示す平面図である。
【図2】インクジェットヘッドの一部分の鉛直断面図である。
【図3】吸引キャップ装置の平面図である。
【図4】図3のA−A線断面図である。
【図5】図3のB−B線断面図である。
【図6】吸引キャップ装置が退避位置に位置するときの吸引キャップ装置近傍の縦断面図である。
【図7】吸引キャップ装置がキャッピング位置に位置するときの吸引キャップ装置近傍の縦断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 プリンタ
3 インクジェットヘッド
13 吸引キャップ装置
14 吸引ポンプ
15 切り換えユニット
38 インク吐出面
40 ノズル
60 キャップ
69 底壁
70 側壁
76,79 リップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体吐出ヘッドの液体吐出面に対向する底壁部と、前記底壁部から前記液体吐出面側に突出して設けられ、前記液体吐出面に密着可能な環状のリップと、を有するキャップ部材と、
前記キャップ部材の内部空間に連通し、前記内部空間を吸引する吸引手段と、
前記キャップ部材の前記底壁部を支持する支持部材と、
前記リップの先端が前記液体吐出面に密着したキャッピングの状態で前記吸引手段による吸引動作が行われるときに、前記底壁部を前記支持部材に吸着させる吸着手段と、を備えていることを特徴とする吸引キャップ装置。
【請求項2】
前記キャップ部材を構成する前記底壁部及び前記リップは、弾性部材で構成されるとともに一体成型されていることを特徴とする請求項1に記載の吸引キャップ装置。
【請求項3】
前記底壁部は、平板状に形成され、
前記支持部材は、前記底壁部の前記液体吐出面に対向する面と反対側の接触面に接触する平面状の支持面を有し、
前記吸着手段は、前記底壁部の前記接触面全域を前記支持部材の前記支持面に吸着させることを特徴とする請求項1または2に記載の吸引キャップ装置。
【請求項4】
前記支持部材には、前記底壁部に向けて開口する吸着孔が形成されており、
前記吸着手段は、前記吸着孔の前記底壁部側の一端とは反対側の他端に接続されて、前記吸着孔を通じて前記底壁部と前記支持部材との間の空間を吸引することで、前記底壁部を前記支持部材に吸着させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸引キャップ装置。
【請求項5】
前記吸引手段は、前記支持部材の前記吸着孔を通じて、前記底壁部を前記支持部材に吸着させる前記吸着手段を兼ねていることを特徴とする請求項4に記載の吸引キャップ装置。
【請求項6】
前記吸引手段が、前記キャップ部材の前記内部空間とのみ連通するか、または、前記内部空間及び前記底壁部と前記支持部材との間の空間の両方と連通するかを切り換える切換手段と、
前記リップの先端が前記液体吐出面に密着したキャッピングの状態となるキャッピング位置と、前記キャッピング位置から退避した退避位置とに亘って前記キャップ部材を移動させる移動機構と、をさらに備えており、
前記切換手段は、
前記移動機構により前記キャップ部材が前記退避位置に位置付けられたときに、前記吸引手段を前記内部空間とのみ連通させて、
前記移動機構により前記キャップ部材が前記キャッピング位置に位置付けられたときに、前記吸引手段を前記内部空間及び前記底壁部と前記支持部材との間の空間の両方と連通させることを特徴とする請求項5に記載の吸引キャップ装置。
【請求項7】
前記キャップ部材の前記内部空間には、キャップチップが収容されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の吸引キャップ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−149369(P2010−149369A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329343(P2008−329343)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】