説明

吸引システム

【課題】本発明は、介護者に多大な労力を強いることなく、かつ、患者の気管内の粘膜を傷つけることなく、痰を吸引することができ、そして、気管内に流入した唾液を回収して、肺炎等の合併症を引き起こす危険を低減できる吸引システムを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、吸引装置100に吸引されて、唾液と痰とを吸引する吸引システム1であって、気管内に留置される気管カニューレ50に接続して、気管内に発生する痰を持続的に吸引する第1持続吸引ライン20と、気管内に留置される気管カニューレ50に接続して、口腔内から気管内に流入した唾液を持続的に吸引する第2持続吸引ライン30と、口腔内の唾液、または、気管内に溜まった痰を随時吸引する随時吸引ライン10とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、痰と唾液を吸引する吸引システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人工呼吸の換気経路として、気管切開孔を経路としたものが挙げられるが、この気管切開孔を経路とした人工呼吸は、気管を切開して形成された孔を介して、人工呼吸装置に接続される気管カニューレを気管内に留置して、送気または排気を行うものである。
この気管切開孔を経路とした人工呼吸によれば、他の換気経路である気管挿入による人工呼吸やマスク型の人工呼吸に比べ、換気効率が高いというメリットがあるものの、気管内に留置された気管カニューレが気管内表面を刺激し、痰の分泌が増えるというデメリットがある。したがって、気管切開孔を経路とした人工呼吸を処置する場合には、気道を塞ぐおそれがある痰を処理する必要がある。
【0003】
この点、下記特許文献によれば、気管内に留置される気管カニューレの近傍における痰を随時吸引することができる吸引システムが開示されている。
【0004】
具体的に、特許文献1には、気管カニューレの外周側面に吸引細管を設けて、カフの上側に溜まった痰を吸引するとともに、気管カニューレに接続する主吸引ポンプに設けて、気管カニューレに詰まった痰を吸引するシステムが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、送気および排気用の呼吸路の他に、痰吸引用の吸引路が別途に形成された二重管構造の気管カニューレを用い、その痰吸引用の吸引路に吸引装置を接続して、溜まった痰を吸引するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−219175号公報(図1参照)
【特許文献2】特開2004−283329号公報(請求項6、図3参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献に開示されるシステムを用いて、気管内に溜まった痰を随時吸引することは、患者を介護する者(以下、「介護者」という)にとって、多大な労力を必要とする作業であった。
【0008】
一方で、前記した労力を軽減させるために、前記特許文献に開示される吸引システムで、気管内に発生する痰を持続的に吸引することも考えられるものの、前記特許文献に開示される吸引システムの吸引圧は、一般的に−18KPa程度と非常に高い吸引圧である。また、気管内の粘膜は非常に弱いものであり、前記高い吸引圧で痰を持続的に吸引すれば気管内の粘膜を傷つけるおそれがあった。
【0009】
また、人工呼吸においては、口腔内で発生する唾液が食道ではなく、誤って気管に流入するおそれがあり、その気管に流入した唾液が原因で肺炎等の合併症を引き起こす危険性がある。よって、気管内に流入した唾液を持続的に吸引する必要もある。
【0010】
そこで、本発明は、前記問題に鑑みて、介護者に多大な労力を強いることなく、かつ、患者の気管内の粘膜を傷つけることなく、痰を吸引することができ、そして、気管内に流入した唾液を吸引して、肺炎等の合併症を引き起こす危険性を低減できる吸引システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明に係る吸引システムは、吸引装置に吸引されて、唾液と痰とを吸引する吸引システムであって、気管内に留置される気管カニューレに接続して、気管内に発生する痰を持続的に吸引する第1持続吸引ラインと、前記気管内に留置される気管カニューレに接続して、口腔内から気管内に流入した唾液を持続的に吸引する第2持続吸引ラインと、口腔内の唾液、または、気管内に溜まった痰を随時吸引する随時吸引ラインと、を備えることを特徴とする。
【0012】
前記発明によれば、気管内に発生する痰を第1持続吸引ラインで持続的に吸引するため、気管内に痰が溜まることがなく、介護者は、痰が溜まる度に随時吸引を行うという労力が軽減される。また、第1持続吸引ラインで持続的に吸引する吸引圧は、随時吸引に比べ、低い吸引圧であるため、患者の気管内の粘膜を傷つけるおそれがない。
一方で、前記発明によれば、気管内に流入する唾液を第2持続吸引ラインで持続的に吸引するため、気管内に流入した唾液を持続的に吸引することができ、肺炎等の合併症を引き起こす危険を低減することができる。
【0013】
また、請求項2に係る構成は、前記気管カニューレは、先端側の外周面にカフを有し、前記第1持続吸引ラインは、前記カフの肺側の下部で痰を吸引し、前記第2持続吸引ラインは、前記カフの口腔側の上部で唾液を吸引することを特徴とする。
【0014】
前記構成によれば、気管カニューレがカフを有するため、気管内で留置することができるとともに、カフが唾液の気管内への進入を阻止することができる。
また、カフによって、気管内に進入することを阻止された唾液は、気管カニューレのカフの口腔側の上部に溜まることとなるが、第2持続吸引ラインにより、カフの口腔側の上部に溜まる唾液を持続して吸入することができる。
また、第2持続吸引ラインが気管カニューレの上部側に位置することにより、気管内が乾燥して粘膜を傷つけることを抑制することができる。
また、カフの肺側の下部において、第1持続吸引ラインにより、痰を持続的に吸引しているので、気管カニューレの呼吸路内に痰が詰まるおそれがない。
また、カフと気管の内壁との間に隙間ができて、気管内に唾液が流入した場合には、その唾液を吸引することが可能である。
【0015】
また、請求項3に係る構成は、前記吸引装置と、第1持続吸引ライン、第2持続吸引ラインおよび随時吸引ラインとの間に、吸引圧の変動に対応する変動対応型圧力レギュレータを備えることを特徴とする。
【0016】
前記構成によれば、前記吸引装置と、第1持続吸引ライン、第2持続吸引ラインおよび随時吸引ラインとの間に変動対応型圧力レギュレータが介在するため、吸引装置の吸引圧が変動しても、第1持続吸引ライン、第2持続吸引ラインおよび随時吸引ラインは一定の吸引圧で吸引されることとなる。
【0017】
また、請求項4に係る構成は、前記第1持続吸引ラインと前記第2持続吸引ラインとは、吸引する流量を制御する流量計と、吸引する流量が所定流量以内であるか否かを検知する安全機構とを備えることを特徴とする。
【0018】
前記構成によれば、第1持続吸引ラインと前記第2持続吸引ラインの流量を制御する流量計が故障した場合、安全機構が故障による流量の上昇を検知する。
よって、流量上昇に伴う第1持続吸引ラインと前記第2持続吸引ラインの吸引力に増加により、患者の気管内の粘膜を傷つけるおそれを未然になくすことができる。
【0019】
また、請求項5に係る構成は、前記第1持続吸引ラインと前記第2持続吸引ラインとは、吸引する流量を所定流量に制御する流量計を備えるとともに、前記流量計は、吸引圧の変動に対応する圧力変動対応型流量計であることを特徴とする。
【0020】
前記構成によれば、第1持続吸引ラインと第2持続吸引ラインは、圧力変動対応型流量計を備えているため、吸引圧が変動しても、第1持続吸引ラインと第2持続吸引ラインの流量は変化せず、患者の気管内の粘膜を傷つけるおそれをなくすことができる。
【発明の効果】
【0021】
以上、本発明によれば、介護者に多大な労力を強いることなく、かつ、患者の気管内の粘膜を傷つけることなく、痰を吸引することができ、そして、気管内に流入した唾液を吸引して、肺炎等の合併症を引き起こす危険を低減できる吸引システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態における吸引システムの構成を示す図である。
【図2】患者の気管内に留置された気管カニューレを側面から見た場合における断面を示す側面断面図である。
【図3】実施形態に用いられる安全機構を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
つぎに、本発明に係る吸引システムの実施形態について、図面を用いて説明する。
【0024】
(吸引システム1)
吸引システム1は、患者Sの体内に挿通させた吸引チューブ等を吸引装置によって陰圧にして、患者Sの体内から痰および唾液を吸引し除去するシステムである。
実施形態における吸引システム1は、図1に示すように、一端側が患者Sの口腔内または気管カニューレ50内に挿入可能な随時吸引ライン10と、一端側が患者Sの気管内に留置される気管カニューレ50に接続する第1持続吸引ライン20と、一端側が患者Sの気管内に留置される気管カニューレ50に接続する第2持続吸引ライン30と、随時吸引ライン10、第1持続吸引ライン20および第2持続吸引ライン30の他端側と接続する変動対応型圧力レギュレータ40と、変動対応型圧力レギュレータ40に接続する吸引装置100とを備えてなる。
【0025】
(随時吸引ライン10)
図1に示す随時吸引ライン10は、患者Sの口腔内の唾液、または、気管内に溜まった痰を、必要に応じて、随時吸引するためのラインであって、患者Sの口腔内または気管内と変動対応型圧力レギュレータ40とを連通させる随時吸引チューブ11と、吸引装置100に吸引される随時吸引チューブ11の吸引圧を制御する圧力レギュレータ12と患者Sの口腔内から吸引した唾液または気管内から吸引した痰を回収する流体回収容器17とからなっている。
【0026】
随時吸引チューブ11は、一端側が変動対応型圧力レギュレータ40に接続しており、この変動対応型圧力レギュレータ40を介して、吸引装置100に吸引されることにより、他端側から、口腔内の唾液または気管内に溜まった唾液を吸引することができる。
また、口腔内の唾液を吸引する場合に、随時吸引チューブ11の他端側は、図1に示すように患者Sの咽頭から随時吸引チューブ11の他端側を挿通させて、図2に示すように、口腔内に進入させる。一方で、気管内に溜まった痰を吸引する場合には、図2に示すように、気管カニューレ50に形成された呼吸路51内を介して、気管内に到達する程度に進入させる。
なお、気管カニューレ50は、図2に示すように、患者Sの気管内に留置させて、送気および排気を行うための呼吸路51が形成された側面視略J字形状に湾曲した管腔状部材である。そして、呼吸路51の一端側には、図1に示すように、人工呼吸装置に接続された人工呼吸チューブの他端側が着脱可能に接続されている。なお、気管カニューレ50は、先端側の外周面にカフ52を備えることが望ましい。カフ52は、気体を流入することによって膨張可能な部材であって、図示しないカフ用チューブで気体を流入して膨張させることにより、気管内に気管カニューレ50を固定させることが可能となる。
【0027】
圧力レギュレータ12は、吸引装置100に陰圧にされる随時吸引チューブ11の吸引圧を、所定の吸引圧に制御するための装置であり、これによって、必要に応じ、随時吸引チューブ11が口腔内の唾液または気管内に溜まった痰を、随時吸引することが可能となる。
また、ここでいう所定の吸引圧とは、随時吸引を行わない場合は、吸引圧ゼロであり、一方で、随時吸引を行う場合は、随時吸引チューブ11で口腔内の唾液または気管内に溜まった痰を吸引できる吸引圧であって、一般的には−18KPa程度である。なお、圧力レギュレータ12は、患者Sまたは患者Sの介護者が、随時吸引チューブ11の吸引圧を調整するための図示しない操作部を有するものとする。
【0028】
また、流体回収容器17は、随時吸引チューブ11に吸引された唾液または痰を回収するための容器である。なお、後記する第1持続吸引ライン20に設けられた流体回収容器27と、後記する第2持続吸引ライン30に設けられた流体回収容器37とは、この流体回収容器17と同等な構成であるため、以下において、説明を省略する。
【0029】
(第1持続吸引ライン20)
図1に示す第1持続吸引ライン20は、患者Sの気管内に発生した痰を持続的に吸引するためのラインであって、気管カニューレ50に設けられた痰吸入チューブ53と変動対応型圧力レギュレータ40とを連通させる第1持続吸引チューブ21と、第1持続吸引チューブ21が吸引する流量を調整する圧力変動対応型流量計22と、第1持続吸引チューブ21が吸引する流量が所定流量以下であるかの検知を行う安全機構23と、第1持続吸引チューブ21が吸引した痰を回収する流体回収容器27とからなっている。
【0030】
図1に示す第1持続吸引チューブ21は、一端側が変動対応型圧力レギュレータ40に接続している。また、第1持続吸引チューブ21は、この変動対応型圧力レギュレータ40を介して、吸引装置100に吸引されることにより、他端側に接続する痰吸入チューブ53を吸引することができる。
なお、第1持続吸引チューブ21の他端側と接続する痰吸入チューブ53とは、図2に示すように、細管状のチューブであり、一端側は接続部が設けられており、その接続部を介して、第1持続吸引ライン20の第1持続吸引チューブ21と接続している(図1参照)。また、痰吸入チューブ53の他端側は、気管カニューレ50のカフ52の肺側(下流側)であって、気管カニューレ50の下部側(食道側)の外周面に位置するように設けられている。これにより、第1持続吸引チューブ21が痰吸入チューブ53を吸引することによって、気管内に生じる痰を吸引することが可能となる。また、図2に示す痰吸入チューブ53は、気管カニューレ50の呼吸路を形成する管壁に埋設されている、すなわち、痰吸入用ルーメンを形成しているが、これに限るものではなく、痰吸入チューブ53を形成する細管状のチューブが気管カニューレ50の外周面、若しくは、気管カニューレ50の内周面側である呼吸路51内に設けられていてもよい。
また、第1持続吸引ライン20は、患者Sが体位を変えたり、大きく呼吸することによって、気管と気管カニューレ50との間に隙間が形成されて、口腔から気管内に唾液が流入した場合には、その唾液を吸引することが可能である。
【0031】
(圧力変動対応型流量計22)
図1に示す圧力変動対応型流量計22は、吸引装置100に吸引された第1持続吸引チューブ21の吸引する流量を制御する装置である。
なお、圧力変動対応型流量計22は、第1持続吸引チューブ21が吸引する流量を、気管内に溜まった痰を吸引できる程度の流量であって、また、痰を持続して吸引することから、口腔内の粘膜を傷つけない程度の流量であることが望ましく、一般に300ml/min程度に制御する。
また、圧力変動対応型流量計22は、第1持続吸引チューブ21を吸引する吸引圧が変化した場合に対応して、図示しない熱式流量センサと、熱式流量センサから出力された流量信号に基づいて、エピゾまたはソレイドアクチュエータで制御可能な流量制御バルブを備えている。よって、圧力変動対応型流量計22の下流側の吸引圧が変化しても、図示しない熱式流量センサからの流量信号に基づいて流量制御バルブの開度をコントロールできるため、上流側の吸引圧が変化するおそれがない。したがって、第1持続吸引チューブ21は吸引する流量は変化することなく、一定の流量を吸引することができる。
【0032】
(安全機構23)
図1に示す安全機構23は、第1持続吸引ライン20上に設けられて、第1持続吸引チューブ21が吸引する流量が所定流量以下であるか否かの検知を行う装置である。
具体的に、安全機構23としては、図3に示すように、下端(上流側)より上端(下流側)が拡がった円錐状のテーパー管24a内にフロート24bを設けて、通過する流体にフロート24bの上昇具合で、通過する流体の流量を計測するフロート式流量計24に、所定流量となる位置にLED25と受光センサ26とを設けたものがあげられる。
この安全機構23によれば、第1持続吸引チューブ21が吸引する流体の流量に伴ってフロート24bが上昇する。そして、所定流量以上となった場合、フロート24bが受光センサ26が受光するLEDの光を遮るため、受光センサ26が受光する光量をもって、第1持続吸引チューブ21が所定流量内であるか否かの検知を行っている。
なお、ここでいう所定流量とは、第1持続吸引チューブ21が吸引する流量が患者Sの気管内の粘膜を傷つけるおそれがある流量をいう。
【0033】
(第2持続吸引ライン30)
図1に示す第2持続吸引ライン30は、患者Sの気管内に流入した唾液を持続的に吸引するためのラインであって、気管カニューレ50に設けられた後記する唾液吸入チューブ54と変動対応型圧力レギュレータ40とを連通させる第2持続吸引チューブ31と、第2持続吸引チューブ31が吸引する流量を調整する圧力変動対応型流量計32と、第2持続吸引チューブ31が吸引する流量が所定流量以下であるかの検知を行う安全機構33と、患者Sの気管内から吸引した唾液を回収する流体回収容器37とからなっている。
【0034】
また、第2持続吸引チューブ31に吸引される唾液吸入チューブ54は、図2に示すように、細管状のチューブであって、一端側に設けられる接続部を介して、第1持続吸引チューブ21と接続可能である(図1参照)。また、唾液吸入チューブ54の他端側は、気管カニューレ50のカフ52の口腔側(上流側)であって、気管カニューレ50の上部側の外周面に位置するように配設されている。よって、第2持続吸引チューブ31が唾液吸入チューブ54を吸引すれば、気管内に流入して溜まった唾液を、気管内の粘膜を傷つけることなく吸引することが可能となる。
なお、図2に示す唾液吸入チューブ54は、気管カニューレ50の呼吸路を形成する管壁に埋設されている、すなわち、唾液吸入用ルーメンを形成しているが、これに限るものではなく、唾液吸入チューブ54を形成する細管状のチューブが気管カニューレ50の外周面、若しくは、気管カニューレ50の内周面側である呼吸路51内に設けられていてもよい。
【0035】
なお、第2持続吸引ライン30を構成する第2持続吸引チューブ31と圧力変動対応型流量計32と安全機構33は、前記説明した第1持続吸引ライン20を構成する第1持続吸引チューブ21と圧力変動対応型流量計22と安全機構23と同等な構成であるため、詳細な説明を省略する。
【0036】
(変動対応型圧力レギュレータ40)
図1に示す変動対応型圧力レギュレータ40は、後記する吸引装置100と、随時吸引ライン10、第1持続吸引ライン20および第2持続吸引ライン30とに接続しており、吸引装置100に吸引される随時吸引ライン10、第1持続吸引ライン20および第2持続吸引ライン30の吸引圧を一定にする装置である。
具体的に、変動対応型圧力レギュレータ40としては、ダイヤフラム型のレギュレータが挙げられる。これによれば、吸引装置100の吸引圧が急に変動したとしても、ダイヤフラムが拡大または縮小して、随時吸引ライン10、第1持続吸引ライン20および第2持続吸引ライン30の吸引圧を一定とすることが可能となる。
【0037】
(吸引装置100)
吸引装置100は、病院などの施設の壁内に配管が埋設されており、その配管から各部屋毎などに分管して、各部屋毎で吸引可能なように、その配管の末端である吸引口が設け、その吸引口に接続すると、接続された管を陰圧して吸引可能にする装置をいう。
実施形態における吸引装置100は、図1に示すように、変動対応型圧力レギュレータ40を介して、随時吸引チューブ11と第1持続吸引チューブ21と第2持続吸引チューブ31とが接続しており、その随時吸引チューブ11と第1持続吸引チューブ21と第2持続吸引チューブ31とを所定圧力で持続的に陰圧する。
なお、吸引装置の配管内の圧力は、−300〜−500mmHg、末端部の最大流量は、40NL/min(NL/minとは、1気圧で0度でのガスの量)以上と、日本工業規格(JIST7107)で規定されている。
【0038】
(使用方法)
つぎに、実施形態における吸引システム1の使用方法について図面を用いて説明する。
【0039】
(1)図1に示すように、吸引装置100は、変動対応型圧力レギュレータ40を介して、接続している随時吸引ライン10と第1持続吸引ライン20と第2持続吸引ライン30とを持続的に吸引する。
ここで、随時吸引ライン10は、圧力レギュレータ12により、随時吸引チューブ11の吸引圧が制御されている。よって、気管内に溜まった痰または口腔内の唾液を吸引する場合以外は、随時吸引チューブ11の吸引圧はゼロとなっている。
また、第1持続吸引ライン20は、圧力変動対応型流量計22が介在しているため、第1持続吸引チューブ21は一分間当たり300mlの流体を吸引する吸引圧となる。
同様に、第2持続吸引ライン30も、圧力変動対応型流量計32が介在しているため、第2持続吸引チューブ31も一分間当たり300mlの流体を吸引する吸引圧となっている。
【0040】
(2)そして、第1持続吸引チューブ21は、接続する痰吸入チューブ53を介して、口腔内に発生した痰を、一分間当たり300mlの流体を吸引する吸引圧で、持続的に吸引する。また、第2持続吸引チューブ31においても、接続する唾液吸入チューブ54を介して、気管内に流入した唾液を、一分間当たり300mlの流体を吸引する吸引圧で、持続的に吸引する。なお、随時吸引チューブ11の吸引圧はゼロとなっているため、何ら吸引されない。
【0041】
(3)一方で、口腔内に唾液が溜まった場合には、随時吸引ライン10に介在する圧力レギュレータ12の図示しない操作部を操作して、随時吸引チューブ11の吸引圧を−18KPa程度に調整する。よって、随時吸引チューブ11は、口腔内の唾液を吸引することが可能となる。
また、前記した持続吸引によって吸引できず、気管内に痰が溜まった場合には、気管カニューレ50に接続する人工呼吸チューブを外し、図2に示すように、開口された気管カニューレ50の呼吸路51内に、随時吸引チューブ11を挿通させる。これによれば、呼吸路51を介して、随時吸引チューブ11が気管内に到達でき、気管内に溜まった痰の吸引が可能となる。
なお、ここで、圧力レギュレータ12が随時吸引チューブ11の吸引圧を上昇させることにより、図1に示すように、第1持続吸引ライン20と第2持続吸引ライン30の吸引圧が変化するおそれがある。しかしながら、随時吸引ライン10と第1持続吸引ライン20の各ラインは、圧力変動対応型流量計22、32を有しているため、随時吸引ライン10と第1持続吸引ライン20における第1持続吸引チューブと第2持続吸引ラインにおける流量は変動することなく、一分間当たり300mlの流量を維持されている。
【0042】
以上、吸引システム1の使用方法について説明したが、本発明の吸引システム1によれば、患者Sの気管内に発生した痰を持続的に吸引するため、気管内に痰が溜まる回数が減る。よって、気管内に痰が溜まる度に随時吸引を行うという労力を軽減することができる。
本発明の吸引システム1によれば、患者Sの気管内に流入した唾液を持続的に吸引するため、患者が肺炎等の合併症を引き起こす危険を回避できる。
患者の気管内に発生した痰と気管内に流入した唾液を持続的に吸引するための吸引圧は、一分間当たり300mlの流体を吸引する程度と低いため、患者の粘膜を傷つけるおそれはない。
吸引システム1によれば、随時吸引ラインを有しているため、気管内に溜まった痰および口腔内の唾液を、必要に応じて随時吸引することも可能である。
【0043】
また、従来の吸引システムによれば、陰圧源である吸引装置の吸引圧が変動すれば、唾液または痰を吸引する随時吸引ラインと第1持続吸引ラインと第2持続吸引ラインの吸引圧が変動し、患者の気管内の粘膜を傷つけるおそれがあった。
しかしながら、本発明における吸引システム1によれば、変動対応型圧力レギュレータ40が介在するため、吸引装置100の吸引圧が変動しても、随時吸引ライン10と第1持続吸引ライン20と第2持続吸引ライン30は、一定の吸引圧で痰または唾液吸引することができ、吸引圧変動によって患者の気管内の粘膜を傷つけるおそれがない。
【0044】
また、従来技術によれば、随時吸引を行う場合に、随時吸引ラインに設けられた圧力レギュレータが、随時吸引チューブの吸引圧を変動させるが、この随時吸引チューブの吸引圧の変動によって、第1持続吸引ラインと第2持続吸引ラインの吸引圧も変動し、気管内の粘膜を傷つけるおそれがある。
しかしながら、本発明における吸引システム1によれば、圧力変動対応型流量計22、32を有するため、随時吸引チューブ11の吸引圧を変動したとしても、第1持続吸引チューブ21と第2持続吸引チューブ31における流量は変動することなく、一分間当たり300mlの流量を維持することができる。
よって、本発明によれば、随時吸引チューブ11の吸引圧変動に伴った、第1持続吸引チューブ21と第2持続吸引チューブ31における流量の変動の変動による、患者Sの粘膜の損傷のおそれはない。
【0045】
その他、従来技術によれば、圧力変動対応型流量計が故障した場合に、第1持続吸引ラインと第2持続吸引ラインにおける吸引する流量が制御されない。つまり、第1持続吸引チューブと第2持続吸引チューブとの吸引する流量の増加によって患者Sの粘膜を傷つけるおそれがある。
しかしながら、本発明における吸引システム1によれば、第1持続吸引ライン20と第2持続吸引ライン30は、安全機構23、33を備えているため、吸引する流量が増加すれば、図3に示すフロート24bが上昇して、受光センサ26の受光量が減少する。
つまり、受光センサ26の受光量が減少したか否かをもって、吸引する流量が所定流量以下であるか否かの検知することが可能となる。よって、当該受光センサ26により流量が所定流量以上と検知された場合、バルブを閉めることができ、患者Sの粘膜を傷つける事態を回避することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 吸引システム
10 随時吸引ライン
11 随時吸引チューブ
12 圧力レギュレータ
17、27、37 流体回収容器
20 第1持続吸引ライン
21 第1持続吸引チューブ
22、32 圧力変動対応型流量計
23、33 安全機構
30 第2持続吸引ライン
31 第2持続吸引チューブ
40 変動対応型圧力レギュレータ
50 気管カニューレ
53 痰吸入チューブ
54 唾液吸入チューブ
100 吸引装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸引装置に吸引されて、唾液と痰とを吸引する吸引システムであって、
気管内に留置される気管カニューレに接続して、気管内に発生する痰を持続的に吸引する第1持続吸引ラインと、
前記気管内に留置される気管カニューレに接続して、口腔内から気管内に流入した唾液を持続的に吸引する第2持続吸引ラインと、
口腔内の唾液、または、気管内に溜まった痰を随時吸引する随時吸引ラインと、
を備えることを特徴とする吸引システム。
【請求項2】
前記気管カニューレは、先端側の外周面にカフを有し、
前記第1持続吸引ラインは、前記カフの肺側の下部で痰を吸引し、
前記第2持続吸引ラインは、前記カフの口腔側の上部で唾液を吸引することを特徴とする請求項1に記載の吸引システム。
【請求項3】
前記吸引装置と、第1持続吸引ライン、第2持続吸引ラインおよび随時吸引ラインとの間に、吸引圧の変動に対応する変動対応型圧力レギュレータが備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の吸引システム。
【請求項4】
前記第1持続吸引ラインと前記第2持続吸引ラインとは、吸引する流量を制御する流量計と、
吸引する流量が所定流量以内であるか否かを検知する安全機構とを備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の吸引システム。
【請求項5】
前記第1持続吸引ラインと前記第2持続吸引ラインとは、吸引する流量を制御する流量計を備えるとともに、
前記流量計は、吸引圧の変動に対応する圧力変動対応型流量計であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の吸引システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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