説明

吸引用シートおよびそれを用いた装置

【課題】高精度が要求される易塑性変形物等の物品を吸引により固定して加工を施したり、あるいは搬送したりする時に用いられる吸引用シートおよびそれを用いた吸引装置の提供。
【解決手段】吸引によって物品を固定または搬送するために用いる吸引用シートであり、吸引用シートを構成する多孔質体がポリオレフィン樹脂粒子の焼結体であって、空孔内壁に2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと特定のエチレン性不飽和基含有モノマーとの共重合体が保持されたポリオレフィン焼結体であることを特徴とする吸引用シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸引用シートおよびそれを用いた装置に関する。さらに詳しくは、高精度が要求される易塑性変形物等の物品を吸引により固定して加工を施したり、あるいは搬送したりする時に用いられる吸引用シートおよびそれを用いた吸引装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガラス、紙、プラスチック等の板状物や、箱状物の搬送には吸引力を利用した手法が用いられている。最も古くから行われているのは、ゴム等の素材をカップ状に賦形し、その端面を対象物に密着させて、カップの内部を負圧にすることによって対象物を固定し、搬送する機構である。この方法は、比較的剛性があり、吸引による力で塑性変形を起こさない物については適用出来るものの、吸引による力で塑性変形を起こす物では吸引した時に対象物自体の変形が起こり、吸引できない、あるいは対象物の商品価値を落とす等の問題があって使用できなかった。
【0003】
それを解決するために、吸引部の対象物に当たる面に金属やプラスチック製の多孔性の物を設置し、該多孔質体を平面、あるいは曲面等の対象物に悪影響を及ぼさない形状にして、その面に対象物を密着させて吸引する方法も種々なされている。しかし、これらの方法では多孔質体の表面粗度が粗すぎるため、特に吸引の力で塑性変形を起こすような素材では、素材に多孔質体の表面の転写が生じることや、吸引による素材の変形が生ずることがあり、塑性変形し易い素材には使用することができなかった。
この点の解決策として、特許文献1〜4には多孔質体の表面粗度を改良する方法が開示されている。ところが近年、特に高精度が要求される物品を取り扱う分野においては、帯電抑制や付着物の低減等、新たな機能が求められており、これらの要求を満たすためにはさらなる改良が必要であった。
【0004】
一方、上記の要望に関連する生体関連材料の分野では、ホスホリルコリン基含有重合体を利用した技術が注目を集めている。ホスホリルコリン基含有重合体は、細胞膜に由来するリン脂質類似構造に起因して、血液適合性、補体系非活性特性、生体物質非吸着性等の特性を有することが近年の研究で明らかとなっており、こうした特性を利用した生体関連材料の開発が盛んに行われている。例えば、特許文献5には、ホスホリルコリン類似基含有重合体が付着したポリオレフィン繊維を主体とする生体親和性材料が、特許文献6には、生体に由来する細胞、蛋白質又は情報伝達物質等を選択的に分離し、さらにその成分を回収することが可能なホスホリルコリン類似基を有する分離材が、特許文献7には、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとメタクリル酸エステルの共重合体により被覆処理された生体親和性膜が、特許文献8には、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと他のビニル重合性単量体との共重合体により改質された中空糸膜が、それぞれ開示されている。これら従来の生体関連材料は、いずれも血球細胞や血漿蛋白質等が材料表面に吸着することを防止又は抑制するというホスホリルコリン基含有重合体の作用に基づくものであり、生体に由来する成分と材料表面との相互作用を極力抑える方向で研究が進められている。しかしながら、ホスホリルコリン基含有重合体の帯電抑制機能や防汚性能に着目して、吸引用シートを構成する多孔質体に応用する試みについてはこれまで報告されていない。
【0005】
【特許文献1】特開平9−174694号公報
【特許文献2】特開2001−353788号公報
【特許文献3】特開2001−354796号公報
【特許文献4】特開2001−354797号公報
【特許文献5】特開2005−6704号公報
【特許文献6】特開2002−98676号公報
【特許文献7】特許3207210号公報
【特許文献8】WO2002/009857
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであって、高精度が要求される易塑性変形物等の物品を吸引により固定して加工を施したり、あるいは搬送したりする時に用いられる吸引用シートおよびそれを用いた吸引装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、吸引用シートを構成する多孔質体として、特定のポリオレフィン焼結体を用いることによって、優れた性能を有する吸引用シートが容易に得られることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は下記の通りである。
(1)吸引によって物品を固定または搬送するために用いる吸引用シートであり、該吸引用シートを構成する多孔質体がポリオレフィン樹脂粒子の焼結体であって、空孔内壁に2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと下記一般式(1)
【0008】
【化1】

(上記一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素数2〜20の炭化水素基である。)
で示されるエチレン性不飽和基含有モノマーとの共重合体が保持されたポリオレフィン焼結体であることを特徴とする吸引用シート。
【0009】
(2)少なくとも吸引面の表面粗さが算術平均粗さ(Ra)で1μm以下、通気抵抗が300〜1500mmAq、かつ、曲げ弾性率が500〜7000kg/cmであることを特徴とする、上記(1)に記載の吸引用シート。
(3)吸引する物品の対象が易塑性変形物であることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の吸引用シート。
(4)ポリオレフィン焼結体の空孔内壁に保持される共重合体中の2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンモノマーユニット含有率が、3〜95モル%であることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の吸引用シート。
(5)ポリオレフィン焼結体の空孔内壁に保持される共重合体の保持率が、0.01〜50重量%であることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の吸引用シート。
【0010】
(6)ポリオレフィン焼結体を構成するポリオレフィン樹脂粒子が、エチレンの単独重合体又はエチレンと炭素数が3以上のオレフィンとの共重合体であることを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の吸引用シート。
(7)ポリオレフィン焼結体が、密度0.850〜0.970g/cm、粘度平均分子量5万〜700万、かつ、最大粒径が400μm以下のポリオレフィン樹脂粒子の焼結体
であることを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の吸引用シート。
(8)2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと下記一般式(1)
【0011】
【化2】

(上記一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素数2〜20の炭化水素基である。)
で示されるエチレン性不飽和基含有モノマーとの共重合体溶液にポリオレフィン樹脂粒子からなる焼結体を減圧下にて浸漬することを特徴とする、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の吸引用シートの製造方法。
(9)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の吸引用シートを使用することを特徴とする吸引装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、高精度が要求される易塑性変形物等の物品を吸引により固定して加工を施したり、あるいは搬送したりする時に用いられる吸引用シートおよびそれを用いた吸引装置が容易に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本願発明について具体的に説明する。なお、本発明において「重合」という語は単独重合のみならず共重合を包含した意味で用いる場合がある。
本発明において、物品の一つである易塑性変形物とは、吸引により固定または搬送する際、吸引力で表面あるいは全体が容易に塑性変形を起こしてしまうような物質のことであり、例えば焼く前のパンやクラッカー・パイなどの生地、豆腐類、軟質のプラスチック等のフィルム類、焼成前の粘土やセラミックなどが挙げられる。これらの物質は、薄葉状であっても良いし、立方体や直方体または無定型の物であっても良い。
本発明における多孔質体の素材としては、吸引物を傷つけない柔らかさと吸引による負圧に対抗できるだけの剛性とを兼ね備えていること等から、ポリオレフィンを用いる。
【0014】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂粒子としては、粒子状のポリオレフィンであれば特に限定されないが、焼結成形に好適な粒子が容易に得られる、焼結成形が容易であり賦形性に優れる、適度に柔らかく適度に剛性がある、耐薬品性に優れる、焼結体に成形した後も加工性に優れる、素材の吸湿性および吸水性が低いことにより吸水時の寸法安定性に優れる等の理由から、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等の単独重合体、エチレンやプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体、エチレンと酢酸ビニルの共重合体、エチレンとアクリル酸、メタクリル酸およびこれらのエステルとの共重合体であることが好ましく、エチレンの単独重合体あるいはエチレンと炭素数3以上のオレフィンとの共重合体であることが特に好ましい。
【0015】
エチレンと共重合する炭素数3以上のオレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、ビニルシクロヘキサン等が挙げられ、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンが特に好ましい。このうちのいくつかを組み合わせて、エチレンと共重合することもできる。また、ブタジエン、イソプレン等のジエンの共存下にオレフィンを重合する
ことも可能であり、さらにはジエンを重合することも可能である。
本発明に用いるポリオレフィン樹脂粒子は、重合によって得られた樹脂粒子をそのまま用いても良いし、分級して用いても良い。また、粒子以外の形状に賦形した物を機械粉砕、冷凍粉砕、化学粉砕等の公知の方法によって粉砕し、得られた樹脂粒子をそのまま用いても良いし、分級して用いても良い。
【0016】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂粒子の形状について、特に制限はない。真球状でも不定形でもよく、一次粒子からなるものでも、一次粒子が複数個凝集し一体化した二次粒子でも、二次粒子をさらに粉砕したものでも構わない。
本発明に用いるポリオレフィン樹脂粒子の製造方法について特に制限はなく、一般的に用いられている溶液法、高圧法、高圧バルク法、スラリー法、気相法のいずれの製造方法を用いても良いが、オレフィン重合触媒を用いた重合によって直接ポリオレフィン樹脂粒子が得られるスラリー法または気相法を用いることが好ましく、特にスラリー法を用いることが好ましい。製造時の重合圧力について特に制限はなく、通常はゲージ圧として0.1MPa〜300MPaであるが、スラリー法の場合には常圧〜10MPaが好ましい。重合温度について特に制限はなく、通常は25℃〜300℃であるが、スラリー法の場合には25℃〜120℃が好ましく、50℃〜100℃が特に好ましい。スラリー法の溶媒としては、通常使用される不活性炭化水素溶媒が用いられ、例えば、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、または、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素等が挙げられる。
【0017】
本発明におけるポリオレフィン樹脂粒子の平均粒径とは累積重量が50%となる粒子径、すなわちメディアン径であり、特に制限はないが、吸引用シートを構成する多孔質体として剛性を確保し、かつ、吸引力を十分に発揮するには、10〜350μmの範囲にあることが好ましく、30〜350μmの範囲にあることが特に好ましい。また、ポリオレフィン焼結体の表面粗さが抑えられるため、最大粒径が400μm以下であることが好ましく、300μm以下がより好ましく、200μm以下が特に好ましい。なお、最大粒径が400μm以下のポリオレフィンを得るためには、重合で直接得ても良いし、重合で得られた粉末を分級によって上記の範囲にしても良い。また、一度粉末以外の形状に賦形した物を常温または低温下で機械粉砕を施して、上記範囲の物を得ても良いし、機械粉砕した物を分級して得ても良い。さらには、溶媒で溶解した後、貧溶媒を加えて析出させ、粉末化した物でも良い。
【0018】
本発明におけるポリオレフィン樹脂粒子の嵩密度とは、該ポリオレフィン樹脂粒子に滑剤等の添加剤を添加することなくJIS K 6892に準じて測定した値であり、特に制限はないが、吸引用シートを構成する多孔質体として剛性を確保し、かつ、吸引力を十分に発揮するには、0.20〜0.55g/cmの範囲にあることが好ましく、0.22〜0.50g/cmの範囲にあることが特に好ましい。
本発明におけるポリオレフィン樹脂粒子の密度とは、ポリオレフィン樹脂粒子のプレスシートから切り出した切片を用い、JIS K 7112に準じて測定した値であり、特に制限はないが、吸引用シートを構成する多孔質体としての柔軟性を損なわずに剛性や耐薬品性を確保するには、0.850〜0.970g/cmの範囲にあることが好ましく、0.920〜0.960g/cmの範囲にあることが特に好ましい。
【0019】
本発明におけるポリオレフィン樹脂粒子の融点は、PERKIN ELMER社製示差走査熱量分析装置Pyris1を用いて測定した。サンプル8.4mgを50℃で1分保持した後、10℃/分の速度で200℃まで昇温し、その際に得られる融解曲線において最大ピークを示す温度を融点とした。
本発明におけるポリオレフィン樹脂粒子の粘度平均分子量とはポリマー溶液の比粘度から求めた極限粘度を粘度平均分子量に換算した値であり、特に制限はないが、焼結成形時
に空孔の形成を阻害する要因となる樹脂の流動が少なく、かつ、隣り合うポリオレフィン樹脂粒子の融着性に優れるため、5万〜700万の範囲にあることが好ましく、10万〜500万の範囲にあることがより好ましく、20万〜400万の範囲にあることが特に好ましい。
【0020】
本発明における焼結体は、ポリオレフィン樹脂粒子を所望の形状に堆積もしくは金型内に充填した後、粒子間に間隙を残しつつ無加圧または加圧の状態で融点以上に加熱することによって得られる。ポリオレフィン樹脂粒子の表層が加熱融着することによって、連続空孔を容易に形成することができる。焼結体の形状について、特に制限はないが、例えば板状、円筒状、円柱状、角柱状、球状、直方体、立方体、その他異形品等の形状にすることが可能である。金型内に充填する方法としては、例えばバイブレートリパッカー等の振動式の充填装置を用いることができる。振動充填させる際の振幅が粒子に与える影響は比較的少ないものの、長時間の振動負荷によって粒径の小さな粒子が下部に沈み込むという粒子の再分配を引き起こす可能性があることから、振動充填に要する時間は充填装置に合わせて必要最小限にすることが好ましい。金型の材質について特に制限はなく、例えば鉄、ステンレス、真鍮、アルミニウム等が用いられるが、耐久性があり、熱容量が小さく、軽量で取扱いが容易であることから、アルミニウムが好ましい。金型の形状は、2枚の平板を平行に配した板用の物、直径の異なる円筒状のものを二重に配した円筒用の物等、粒子の充填が可能であれば特に制限はない。
【0021】
本発明において焼結成形を行う際の加熱方法としては、温度制御が可能であれば特に制限はなく、例えば熱風乾燥機、電気誘電加熱、電気抵抗加熱等の方法を用いることができる。加熱温度は、ポリオレフィン樹脂粒子の融点付近で、粒子同士が十分に溶着する温度で、かつ、樹脂が流動し、粒子間隙を埋めることのない温度であれば特に制限はない。例えば、ポリエチレンの場合、110〜220℃の範囲にあることが好ましく、120〜180℃の範囲にあることが特に好ましい。
本発明における焼結体の表面あるいは内部に、布、織物、編み物、不織布、穴あきフィルム、微多孔膜、金網等、本発明の吸引機能を阻害しないものを複合化することも可能である。また、一部分に非透湿性あるいは非透水性のフィルム、膜等を設けて、水分の影響を周囲に及ぼさないようにすることも可能である。さらに、着色、印刷等により意匠性を持たせることも可能である。なお、必要に応じて、熱安定剤、耐候剤、界面活性剤、帯電防止剤、吸臭剤、脱臭剤、防かび剤、抗菌剤、香料、フィラー等を添加して焼結成形しても良い。これら添加剤を加える際には、流動パラフィン等の展着剤を用いることも可能である。
【0022】
本発明におけるポリオレフィン焼結体の連続空孔とは、焼結体のある面からその他の面へ連続している空孔である。この空孔は、直線的であっても曲線的であっても良い。また、全体が均一な寸法であっても良いし、例えば表層と内部、あるいは一方の表層と他方の表層とで空孔の寸法を変えたものであっても良い。
本発明におけるポリオレフィン焼結体の平均空孔率とは、以下の式に従って算出された値であり、特に制限はないが、吸引用シートを構成する多孔質体として剛性を確保し、かつ、吸引力を十分に発揮するには、20〜60容積%であることが好ましく、25〜55容積%であることが特に好ましい。
平均空孔率(容積%)=[(真の密度−見掛けの密度)/真の密度]×100
ここで、真の密度(g/cm)とはポリオレフィン樹脂粒子の密度であり、見かけの密度(g/cm)とは焼結体の重量を焼結体の外寸から算出した容積で割った値である。なお、焼結体の空孔は全体に均一であっても良いし、不均一であっても良い。
【0023】
本発明におけるポリオレフィン焼結体の平均空孔径とは、水銀圧入法により測定した値であり、特に制限はないが、吸引用シートを構成する多孔質体として剛性を確保し、かつ
、吸引力を十分に発揮するには、1〜150μmであることが好ましく、10〜100μmであることが特に好ましい。
本発明における2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとは、以下の化学式
【0024】
【化3】

で示される化合物であり、例えば、特開昭54−63025号公報、特開昭58−154591号公報、特開昭63−222183号公報等に示される公知の方法によって得ることができる。2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに含まれるホスホリルコリン基は、細胞膜を構成する脂質の極性基と同様の化学構造を有していることから、親水性に優れるとともに、良好な生体親和性を示す。
本発明における下記一般式(1)
【0025】
【化4】

(上記一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素数2〜20の炭化水素基である。)
で示されるエチレン性不飽和基含有モノマーは、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとの共重合体成分として用いられる。ここで、本発明におけるエチレン性不飽和基含有モノマーとは、エチレン性不飽和基、すなわち重合反応が生じるための重合性二重結合を有しているモノマーであり、それ自身が重合してマクロマーとなるものであっても良い。
【0026】
上記の式中Rは水素原子又はメチル基であり、上記一般式(1)で示されるエチレン性不飽和基含有モノマーが、メタクリル酸エステル誘導体またはアクリル酸エステル誘導体であることを示している。
上記の式中Rで表される炭素数2〜20の炭化水素基としては、例えば、エチル基、プロピル基、ブチル基、2−メチルプロピル基、ペンチル基、2−メチルブチル基、2−エチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、ヘキシル基、2−メチルペンチル基、2−エチルブチル基、ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、2−エチルペンチル基、オクチル基、2−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、2−メチルオクチル基、2−エチルヘプチル基、デシル基、2−メチルノニル基、2−エチルオクチル基、ラウリル基、ミスチル基、セチル基、ステアリル基等の脂肪族炭化水素基、シクロヘキシル基、tert−ブチルシクロヘキシル基等の脂環式炭化水素基、フェニル基、2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2−ナフチル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられ、脂肪族炭化水素基が好ましい。
なお、上記の式中Rで表される炭化水素基の炭素数が2〜20の範囲にあることによって、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとの共重合体の疎水性およびガラス転移温度の低下が抑制され、かつ、モノマー自体の取り扱い性に優れる等の利点がある。
【0027】
本発明における上記一般式(1)で示されるエチレン性不飽和基含有モノマーとしては、例えば、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−メチルプロピルメタクリレート、n−ペンチルメタクリレート、2−メチルブチルメタクリレート、2−エチルプロピルメタクリレート、2,2−ジメチルプロピルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−メチルペンチルメタクリレート、2−エチルブチルメタクリレート、n−ヘプチルメタクリレート、2−メチルヘキシルメタクリレート、2−エチルペンチルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−メチルヘプチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−ノニルメタクリレート、2−メチルオクチルメタクリレート、2−エチルヘプチルメタクリレート、n−デシルメタクリレート、2−メチルノニルメタクリレート、2−エチルオクチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ミスチルメタクリレート、セチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等の直鎖又は分岐アルキルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、tert−ブチルシクロヘキシルメタクリレート等の環状アルキルメタクリレート、フェニルメタクリレート、2−メチルフェニルメタクリレート、4−メチルフェニルメタクリレート、2,4−ジメチルフェニルメタクリレート、2−ナフチルメタクリレート等の芳香族メタクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−メチルプロピルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、2−メチルブチルアクリレート、2−エチルプロピルアクリレート、2,2−ジメチルプロピルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−メチルペンチルアクリレート、2−エチルブチルアクリレート、n−ヘプチルアクリレート、2−メチルヘキシルアクリレート、2−エチルペンチルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−メチルヘプチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ノニルアクリレート、2−メチルオクチルアクリレート、2−エチルヘプチルアクリレート、n−デシルアクリレート、2−メチルノニルアクリレート、2−エチルオクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ミスチルアクリレート、セチルアクリレート、ステアリルアクリレート等の直鎖又は分岐アルキルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、tert−ブチルシクロヘキシルアクリレート等の環状アルキルアクリレート、フェニルアクリレート、2−メチルフェニルアクリレート、4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジメチルフェニルアクリレート、2−ナフチルアクリレート等の芳香族アクリレート等が挙げられ、直鎖又は分岐アルキルメタクリレート、直鎖又は分岐アルキルアクリレートが好ましい。これらのエチレン性不飽和基含有モノマーは1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0028】
本発明においてポリオレフィン焼結体の空孔内壁に保持される共重合体中の2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンモノマーユニット含有率について特に制限はないが、生体親和性や親水性を発揮しながら水に対する溶解性や膨潤等による強度低下が抑えられるため、共重合体中の2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンモノマーユニット含有率が、3〜95モル%の範囲にあることが好ましく、5〜70モル%の範囲にあることがより好ましく、10〜50モル%の範囲にあることが特に好ましい。
なお、本発明においてポリオレフィン焼結体の空孔内壁に保持される共重合体中の2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンモノマーユニット含有率とは、以下の式に従って算出された値である。
含有率(モル%)=[A/(A+B)]×100
(上記の式中、Aは2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンのモル数、Bは上記一般式(1)で示されるエチレン性不飽和基含有モノマーのモル数である。)
【0029】
本発明においてポリオレフィン焼結体の空孔内壁に保持される共重合体は、通常のラジカル重合により製造することができる。製造方法について特に制限はなく、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと上記一般式(1)で示されるエチレン性
不飽和基含有モノマーとを溶媒中で開始剤の存在下で反応させて得られる。
本発明においてポリオレフィン焼結体の空孔内壁に保持される共重合体を重合する際の溶媒としては、モノマーが均一溶解するものであれば特に制限はなく、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブタノール、ベンゼン、トルエン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、クロロホルムおよびこれらの混合物等が挙げられる。
【0030】
本発明においてポリオレフィン焼結体の空孔内壁に保持される共重合体を重合する際の開始剤としては、通常のラジカル開始剤であれば特に制限はなく、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスマレノニトリル等の脂肪族アゾ化合物や、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過酸化物等が挙げられる。これらのラジカル開始剤は1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、開始剤の使用量について特に制限はないが、反応溶液中に0.001〜10重量%の割合となるよう添加することが好ましく、0.01〜5重量%の割合となるよう添加することがより好ましい。
【0031】
本発明においてポリオレフィン焼結体の空孔内壁に保持される共重合体を重合する際の重合温度について特に制限はなく、例えば、熱分解によりラジカルを発生させる場合は、5〜100℃の範囲にあることが好ましく、10〜90℃の範囲にあることがより好ましく、20〜80℃の範囲にあることが特に好ましい。また、重合時間について特に制限はないが、10分間〜24時間が好ましく、30分間〜12時間がより好ましい。
本発明におけるポリオレフィン焼結体は、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと上記一般式(1)で示されるエチレン性不飽和基含有モノマーとの共重合体がポリオレフィン樹脂粒子からなる焼結体の空孔内壁に保持されていることを特徴としている。ここで、ポリオレフィン樹脂粒子からなる焼結体の空孔内壁とは、焼結体の連続空孔を形成している樹脂表層であり、流体が焼結体の連続空孔を通過する際に接触する部位である。また、空孔内壁に保持されている状態とは、空孔内壁に上記共重合体の被覆層が形成されている状態である。ポリオレフィン樹脂粒子の多孔質焼結体は元々が疎水性であるため、空孔内壁に保持される共重合体の疎水性成分であるメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルのモノマーユニットが疎水/疎水相互作用で強く吸着しており、安定に保持される。さらに、細胞膜の主要構成成分であるリン脂質に類似した2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンモノマーユニットが表面に出るため、極めて生体親和性に優れたものになる。本発明においては、吸引用シートの帯電抑制や物品への付着物が低減される等の効果がある。
【0032】
本発明においてポリオレフィン焼結体の空孔内壁に保持される共重合体の保持率について特に制限はないが、ポリオレフィン焼結体の実用的な透過性能を維持しつつリン脂質類似構造に起因する機能を十分に発揮するには、0.01〜50重量%の範囲にあることが好ましく、0.05〜40重量%の範囲にあることがより好ましく、0.10〜30%の範囲にあることが特に好ましい。
なお、本発明における保持率とは、以下の式に従って算出された値である。
保持率(重量%)=[(保持後の重量−保持前の重量)/保持前の重量]×100
本発明においてポリオレフィン樹脂粒子からなる焼結体の空孔内壁に2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの共重合体を保持する方法としては、気相で行う方法であっても液相で行う方法であっても良く、特に制限はないが、より均一に保持することができる液相で行う方法が好ましい。
【0033】
また、均一性を高めるために、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの共重合体はあらかじめ溶媒中に溶解させてから用いることが好ましい。具体的には、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの共重合体を適切な溶媒に溶解させた共重合
体溶液を調製し、ポリオレフィン樹脂粒子からなる焼結体の空孔内壁にこの共重合体溶液を接触させ、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの共重合体を吸着させる。その後、過剰の共重合体溶液を除去し、必要に応じて乾燥を行うことにより、焼結体の空孔内壁に2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの共重合体が被覆層となって保持される。
【0034】
なお、上記の接触方法について特に制限はなく、例えば、共重合体溶液に焼結体を浸漬する、焼結体の連続空孔に共重合体溶液を通過させる、焼結体に共重合体溶液を封入する等の接触方法が挙げられるが、吸着処理溶液に焼結体を浸漬する方法が好ましい。
さらに、焼結体の空孔内部にまで均一に保持することができるため、共重合体溶液に焼結体を浸漬する際は、減圧下にて浸漬することが好ましい。減圧時の真空度は、焼結体の空孔内部から気泡が除去できれば特に制限はなく、減圧によって溶媒が蒸発しても良い。加えて、焼結体の空孔内壁に共重合体溶液を接触させる前には、脱気することが好ましい。脱気した反応容器に共重合体溶液を吸引導入することにより、焼結体の空孔内部にまで均一に保持することができる。脱気する際の反応容器内の真空度は0〜1340Paの範囲にあることが好ましく、0〜134Paの範囲にあることがより好ましく、0〜13.4Paの範囲にあることが特に好ましい。
【0035】
本発明において2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの共重合体を溶解させる溶媒としては、均一溶解できるものであれば良く、特に制限はないが、ポリオレフィン樹脂の膨潤度が小さいものを用いることが好ましい。中でも、膨潤度が10%以下の溶媒が好ましく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert−ブタノール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンや2−ブタノン等のケトン類、水、あるいはそれらの混合物等が挙げられる。なお、本発明における膨潤度とは、溶媒中に1時間浸漬したポリオレフィン樹脂粒子の平均粒径と、浸漬前のポリオレフィン樹脂粒子の平均粒径との差を、浸漬前のポリオレフィン樹脂粒子の平均粒径で割った値である。
【0036】
本発明において2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの共重合体を溶媒に溶解させる場合、共重合体溶液の濃度について特に制限はないが、ポリオレフィン焼結体の実用的な透過性能を維持しつつリン脂質類似構造に起因する機能を十分に発揮するには、0.001〜10重量%の範囲にあることが好ましく、0.01〜7重量%の範囲にあることがより好ましく、0.1〜5重量%の範囲にあることが特に好ましい。なお、共重合体溶液の量について特に制限はないが、工業生産の観点からポリオレフィン樹脂粒子またはその焼結体1gに対して2×10−6〜5×10−3の割合で用いることが好ましく、3×10−6〜2×10−3の割合で用いることが特に好ましい。
【0037】
本発明においてポリオレフィン樹脂粒子からなる焼結体の空孔内壁に2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの共重合体を保持する際の温度は、ポリオレフィン樹脂粒子の融点未満であれば特に制限はないが、0〜100℃の範囲にあることが好ましく、5〜90℃の範囲にあることがより好ましく、10〜80℃の範囲にあることが特に好ましい。 本発明における2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの共重合体の分子量について特に制限はないが、溶媒への溶解性に支障がなく、かつ、溶出や脱落を抑制できることから、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により標準ポリエチレングリコールを用いて換算した重量平均分子量(Mw)が5000〜100万の範囲にあることが好ましく、7000〜50万の範囲にあることがより好ましく、1万〜30万の範囲にあることが特に好ましい。
【0038】
本発明における吸引用シートは、少なくとも吸引面の表面粗さが算術平均粗さ(Ra)で1μm以下であることが好ましい。吸引用シートの算術平均粗さ(Ra)が1μmを超
えると、吸引する対象物に対して吸引用シート表面の転写が起こり、その結果吸引する対象物の表面が粗くなる恐れがある。なお、本発明における吸引用シートの算術平均粗さ(Ra)は、先端のRが0.5μmである接触子を用いて、測定長さを10mm、試料の送り速度を0.3mm/秒で測定した表面粗度から、JIS B 0601−1994に準じて求めた。1枚の試験片で3ヶ所測定し、その平均値を取った。
本発明における吸引用シートの通気抵抗とは、後述する方法に基づいて測定した圧力損失の値であり、特に制限はないが、吸引力を十分に発揮するには、300〜1500mmAqであることが好ましく、500〜1000mmAqであることが特に好ましい。通気抵抗が300mmAq未満では、物品を吸引した時に物品で覆われていない多孔質体の部分からの空気の通過量が多くなり、その結果として吸引力が低下する恐れがある。通気抵抗が1500mmAqを超えると、真空ポンプ等の吸引させる装置の負荷が大きくなるばかりでなく、物品の吸引力も低下する恐れがある。
【0039】
本発明における吸引用シートの曲げ弾性率とは、JIS K 7203に準じて測定した値であり、特に制限はないが、吸引用シートを構成する多孔質体として剛性を確保し、かつ、吸引力を十分に発揮するには、500〜7000kg/cmの範囲にあることが好ましく、800〜5000kg/cmの範囲にあることが特に好ましい。なお、本発明における曲げ弾性率は、支点間距離30mm、曲げ速度5mm/分で測定した。
次に、実施例および比較例によって本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
[焼結体の作成]
本発明の実施例および比較例における焼結体の作成は、以下の方法によって行った。まず、厚さ2mmのアルミニウム板を用いて、外寸が厚さ6mm、幅112mm、高さ108mm、内寸が厚さ2mm、幅100mm、高さ100mmの金型を作成した。金型の上蓋となるアルミニウム板を外し、30秒間バイブレーターで振動を与えながらポリオレフィン樹脂粒子を充填した。上蓋を元に戻した後、150℃のオーブンで25分間加熱して平板状の焼結体を得た。
【0041】
[平均空孔率の測定]
本発明の実施例および比較例における平均空孔率は、以下の式に従って算出した。
平均空孔率(容積%)=[(真の密度−見掛けの密度)/真の密度]×100
ここで、真の密度(g/cm)とはポリオレフィン樹脂粒子の密度であり、見かけの密度(g/cm)とは焼結体の重量を焼結体の外寸から算出した容積で割った値である。
[平均空孔径の測定]
本発明の実施例および比較例における平均空孔径は、株式会社島津製作所製自動ポロシメータオートポアIV9510を用いて求めた。測定条件は、低圧部測定範囲0.54〜40psia、低圧部測定点数46点、高圧部測定範囲50〜6000psia、高圧部測定点数43点とした。
【0042】
[平均粒径の測定]
本発明におけるポリオレフィン樹脂粒子の平均粒径とは累積重量が50%となる粒子径、すなわちメディアン径である。
本発明の実施例および比較例におけるポリオレフィン樹脂粒子の平均粒径は、株式会社島津製作所製SALD−2100を用い、メタノールを分散媒として測定することによって求めた。また、測定によって得られた粒度分布から最大粒径を算出した。
[嵩密度の測定]
本発明の実施例および比較例におけるポリオレフィン樹脂粒子の嵩密度は、該ポリオレ
フィン樹脂粒子に滑剤等の添加剤を添加することなく、JIS K 6892に準じて測定することによって求めた。
【0043】
[密度の測定]
本発明の実施例および比較例におけるポリオレフィン樹脂粒子の密度は、ポリオレフィン樹脂粒子のプレスシートから切り出した切片を120℃で1時間アニーリングし、その後25℃で1時間冷却したものを密度測定用サンプルとして用い、JIS K 7112に準じて測定することによって求めた。なお、ポリオレフィン樹脂粒子のプレスシートは、縦60mm、横60mm、厚み2mmの金型を用い、ASTM D 1928 Procedure Cに準じて作成した。
【0044】
[粘度平均分子量の測定]
本発明の実施例および比較例におけるポリオレフィン樹脂粒子の粘度平均分子量は、以下に示す方法によって求めた。まず、20cmのデカリン(デカヒドロナフタレン)にポリマー10mgをいれ、150℃で2時間攪拌してポリマーを溶解させた。その溶液を135℃の恒温槽で、ウベローデタイプの粘度計を用いて、標線間の落下時間(t)を測定した。同様に、ポリマー5mgの場合についても測定した。ブランクとしてポリマーを入れていない、デカリンのみの落下時間(t)を測定した。以下の式に従って求めたポリマーの比粘度(ηsp/C)をそれぞれプロットして濃度(C)とポリマーの比粘度(ηsp/C)の直線式を導き、濃度0に外挿した極限粘度(η)を求めた。
ηsp/C=(t/t−1)/0.1
この極限粘度(η)から以下の式に従い、粘度平均分子量(Mv)を求めた。
Mv=5.34×10η1.49
【0045】
[重量平均分子量の測定]
本発明の実施例および比較例における2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの共重合体の重量平均分子量は、以下に示す方法によって求めた。まず、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの共重合体を1mg/mlになるよう溶出溶媒を用いて希釈し、この溶液を孔径0.45μmのメンブランフィルタで濾過し、試験溶液とした。ポリエチレングリコールを標準サンプルとして以下に示す条件でGPC測定を行った。
カラム;Shodex OHpak SB−804HQ×1本
溶出溶媒;[LiBr]=10mmol/l、MeOH/HO=7/3溶液
標準物質;ポリエチレングリコール(東ソー株式会社製)
検出;視差屈折計
流速;0.5ml/分
試料溶液使用量;100μl
カラム温度;25℃
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量測定(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)の計算;日本分光ChromNAVを使用
【0046】
[算術平均粗さの測定]
本発明の実施例および比較例における吸引用シートの算術平均粗さ(Ra)は、先端のRが0.5μmである接触子を用いて、測定長さを10mm、試料の送り速度を0.3mm/秒で測定した表面粗度から、JIS B 0601−1994に準じて求めた。1枚の試験片で3ヶ所測定し、その平均値を取った。
【0047】
[通気抵抗の測定]
本発明の実施例および比較例における吸引用シートの通気抵抗は、以下に示す方法によって求めた。まず、内径6mmの塩ビホースを用い、流量計、圧力計、および内径20m
mのゴムカップを図1のように接続した。25℃にて1kg/cmの圧縮空気を50ノルマルリットル/分の流量で流し、ゴムカップの縁全面がふさがれるようにして焼結シートに密着させ、圧力計が示す値を測定した。1枚の焼結シートについて等間隔に計6点測定して平均値を算出し、通気抵抗とした。
[曲げ弾性率の測定]
本発明の実施例および比較例における吸引用シートの曲げ弾性率は、支点間距離30mm、曲げ速度5mm/分で、JIS K 7203に準じて測定することによって求めた。
【0048】
[実施例1]
目開き355μmの篩を通過させた、密度が0.940g/cm、粘度平均分子量が330万である超高分子量高密度ポリエチレンパウダー(旭化成ケミカルズ株式会社製サンファインTM UH901)を用いて平板状の焼結体を作成した。減圧下、25℃にて2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(日本油脂株式会社製)と2−エチルヘキシルメタクリレート(日本油脂株式会社製)の共重合体(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンモノマーユニット含有率=30モル%、Mw=3.3×10、Mw/Mn=1.45(GPC:標準ポリエチレングリコール換算))の0.3重量%エタノール溶液1000cmに上記の焼結体を気泡が生じなくなるまで20分間浸漬した後、取り出して乾燥させることによって、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン共重合体の保持率0.40%の吸引用シートを得た。得られた吸引用シートの表面粗さ、通気抵抗、および曲げ弾性率は、請求項に記載の範囲を満たしていた。
この吸引用シートを吸引搬送用吸引板として用いたところ、満足できる結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によって得られる吸引用シートは、高精度が要求される易塑性変形物等の物品を吸引により固定して加工を施したり、あるいは搬送したりする時に用いられ、例えば、吸引搬送用吸引板、固定装置の吸引板等の用途において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明において通気抵抗を測定する設備の構成を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸引によって物品を固定または搬送するために用いる吸引用シートであり、該吸引用シートを構成する多孔質体がポリオレフィン樹脂粒子の焼結体であって、空孔内壁に2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと下記一般式(1)
【化1】

(上記一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素数2〜20の炭化水素基である。)
で示されるエチレン性不飽和基含有モノマーとの共重合体が保持されたポリオレフィン焼結体であることを特徴とする吸引用シート。
【請求項2】
少なくとも吸引面の表面粗さが算術平均粗さ(Ra)で1μm以下、通気抵抗が300〜1500mmAq、かつ、曲げ弾性率が500〜7000kg/cmであることを特徴とする、請求項1に記載の吸引用シート。
【請求項3】
吸引する物品の対象が易塑性変形物であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の吸引用シート。
【請求項4】
ポリオレフィン焼結体の空孔内壁に保持される共重合体中の2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンモノマーユニット含有率が、3〜95モル%であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の吸引用シート。
【請求項5】
ポリオレフィン焼結体の空孔内壁に保持される共重合体の保持率が、0.01〜50重量%であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の吸引用シート。
【請求項6】
ポリオレフィン焼結体を構成するポリオレフィン樹脂粒子が、エチレンの単独重合体又はエチレンと炭素数が3以上のオレフィンとの共重合体であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の吸引用シート。
【請求項7】
ポリオレフィン焼結体が、密度0.850〜0.970g/cm、粘度平均分子量5万〜700万、かつ、最大粒径が400μm以下のポリオレフィン樹脂粒子の焼結体であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の吸引用シート。
【請求項8】
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと下記一般式(1)
【化2】

(上記一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素数2〜20の炭化水素基である。)
で示されるエチレン性不飽和基含有モノマーとの共重合体溶液にポリオレフィン樹脂粒子
からなる焼結体を減圧下にて浸漬することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の吸引用シートの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の吸引用シートを使用することを特徴とする吸引装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−114284(P2009−114284A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287290(P2007−287290)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】