説明

吸水性の薄膜及び該薄膜を含む表示装置用カバーガラス

【課題】吸水性の薄膜が自動車用窓ガラスや表示装置用カバーガラス上等に形成されたときに、当該薄膜が日中等に室外で長期間さらされる場合であっても、前記したような外観不良を発生させることが少ない吸水性の薄膜を得ることを課題とする。
【手段】透明基材上に形成される吸水性の薄膜であり、該薄膜の吸水率は20〜40質量%であって、平均分子量400〜2000のポリエチレングリコールより誘導されてなるウレタン樹脂とラジカル捕捉剤及び過酸化物分解剤からなる群から選ばれる少なくとも1種とを含むこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
大気中の水分を吸水し、防曇性などの機能を発揮することが可能な吸水性の薄膜及び該薄膜を含む表示装置用カバーガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスやプラスチック等の透明基材は、車両用や建築用窓ガラス、レンズ、ゴーグル、情報機器や通信機器の表示装置用カバーガラス等に使用されている。しかし、これらの透明基材を高湿の場所、又は温度差、湿度差の大きい境界で使用した場合、表面に曇りが発生する。表面に生じる曇りは、無数の微小な水滴が基材表面上に生じる結露現象によって生じる。特に車両用ガラスやゴーグル、表示装置用カバーガラス等といった透明基材を通して映る像が鮮明であることが求められる物品の場合、曇りの発生は大きな問題となる。
【0003】
この曇りを防止する方法として、基板上に防曇性の薄膜を形成した様々な防曇性物品が検討されている。そして、得られる薄膜の防曇性と耐磨耗性の両立のため、基板上に生じた微小な水滴を一様な水膜とする親水性の薄膜、もしくは水滴を薄膜中に取り込む吸水性の薄膜等による防曇性と、ウレタン樹脂の弾性による耐磨耗性を利用した防曇性物品が検討されている。
【0004】
こうした背景の下、本出願人はウレタン樹脂を用いて、特許文献1において親水性と吸水性を有する防曇性の薄膜、及び特許文献2において吸水機能のみで防曇性を維持する薄膜を提案している。前者は薄膜の吸水によってまず防曇性を発現せしめ、吸水飽和後に薄膜の親水性によって、水膜を形成することで防曇性を継続するよう設計されている。しかし、継続的な防曇性の発現を薄膜の親水性によって行う場合、長時間に及ぶ防曇性の発現時、水膜を通した映像がゆらいで見える等の不具合が生じ得る。これに対し、後者は水膜を形成することなく、薄膜の吸水性のみによって長時間の防曇性を維持するものである。さらに該薄膜は、吸水性によって防曇性を維持することから、本来ならば吸水飽和後に防曇性を失うが、強制的に薄膜から水を脱水させる機構を併用することで、再度防曇性を発現せしめ、より長期間に及ぶ薄膜の防曇性の維持を可能としたものである。
【特許文献1】特開2005−187276号公報
【特許文献2】特開2007−76999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ウレタン樹脂は、種々用途に使用されているものであり、ウレタン樹脂は、硬さ、安定性、付着性、耐熱性に優れた樹脂とされている。しかしながら、ウレタン樹脂による吸水性の薄膜を夏場晴天時の日中等に室外で長期間使用し続けると、膜表面に微小な粒状の凹凸が生じる、あるいは油状の液体が発生して膜表面がぎらつく等といった外観不良を生じることがあった。本発明は、吸水性の薄膜が自動車用窓ガラスや表示装置用カバーガラス上等に形成されたときに、当該薄膜が日中等に室外で長期間さらされる場合であっても、前記したような外観不良を発生させることが少ない吸水性の薄膜を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、課題を解決する手段を提供するために、ウレタン樹脂による吸水性の薄膜を高温環境で長期間使用したときに発生した外観不良の原因の探究を行った。その結果、ウレタン樹脂が「エチレンオキサイド」という構造単位を有するウレタン樹脂にのみ、この問題が発生したことから、当該樹脂固有の問題であることが見出された。それにより、上記の課題はエチレンオキサイドの炭素―炭素結合が切断され易いために生じるものであると推察された。ラジカル捕捉剤や過酸化物分解剤は、樹脂等の高分子素材の熱をきっかけとした酸化劣化及びそれに伴う分解に対して好適に作用するものであるが、当該物質を薄膜に添加することで、本発明の課題の解決に著しい効果が発揮されることが明らかとなった。
【0007】
本発明は、この新規な知見に基づいて吸水性の薄膜の設計を行うことで、外観不良を発生することが少ない吸水性の薄膜を得るに至った。
【0008】
すなわち本発明の吸水性の薄膜は、透明基材上に形成される吸水性の薄膜であって、該薄膜は吸水率が20〜40質量%であり、平均分子量400〜2000のポリエチレングリコールより誘導されてなるウレタン樹脂とラジカル捕捉剤及び過酸化物分解剤からなる群から選ばれる少なくとも1種とを含むことを特徴とするものである。
【0009】
本発明で使用されるポリエチレングリコールは、薄膜表面の水を結合水として吸水することで、薄膜の吸水性を示すものである。ポリエチレングリコールは優れた吸水機能を有するため、吸水性の薄膜として使用するのに好ましい。
【0010】
本発明において、前記ポリエチレングリコールの平均分子量は400未満の場合、水を吸水する能力が低く、2000を超える場合は、塗布剤の硬化不良や膜強度の低下等の不具合が生じやすくなる。薄膜の吸水性や膜強度等を考慮すると、平均分子量を400〜2000とすることが好ましい。尚、本発明での平均分子量は、数平均分子量のことである。
【0011】
又、前記ポリエチレングリコールと、複種のポリオキシアルキレン系ポリオールを併せて使用してもよい。その場合、薄膜の吸水性や膜強度等を考慮すると、併用する該ポリオールの平均分子量を400〜5000とすることが好ましい。
【0012】
本発明の吸水性の薄膜は、薄膜表面の水を結合水として吸水し薄膜内に取り込むものであるが、飽和状態になると吸水性を発現できなくなる。優れた吸水性を発現するためには、吸水が飽和するためにかかる時間が長い程良い。吸水が飽和するまでの時間は、薄膜の吸水率と相関があるものであるが、吸水率を上昇させると薄膜の強度、耐久性が低下する傾向がある。
【0013】
本発明では、薄膜の吸水率を20〜40質量%とすることにより、吸水が飽和するまでの時間の長期化と薄膜の耐久性との両立を図っている。20質量%未満では、吸水が飽和するまでの時間を長くするために膜厚を厚くする必要があり、均質な薄膜を得ることが難しくなる。他方、40質量%超では、薄膜のべたつき感が大きくなることや、薄膜の強度が低下する、耐水性の悪化等の問題が生じる。
【0014】
本発明の吸水性の薄膜は、ラジカル捕捉剤及び過酸化物分解剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を吸水性の薄膜に添加することで、熱による外観不良の発生を生じ難くするものである。
【0015】
また、当該物質はウレタン樹脂中に固定化するために、イソシアネート基と反応可能なヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基のうち最低1種類の官能基を含むこととする。
【0016】
さらに、当該物質を吸水性の薄膜に含ませると、耐熱性や耐候性の改善が見られる。特に0.1質量%以上では、耐熱性や耐候性が大幅に改善されるため好ましい。また、20質量%超では、薄膜表面のヘーズの上昇が生じやすくなる。
【0017】
本発明におけるウレタン樹脂は、架橋中に疎水性のポリオール誘導体を含むことが好ましい。該疎水性ポリオール誘導体は薄膜に主として耐磨耗性、耐水性、及び表面摩擦係数を下げる効果を発揮させるものである。さらに該疎水性ポリオール誘導体は、薄膜を形成するための塗布剤を基材に塗布した際の膜厚偏差を均一化するレベリング工程を短縮化させることに奏功する。
【0018】
該疎水性ポリオール誘導体は、平均分子量1000〜4000のアクリルポリオールであることが好ましい。1000未満の場合、薄膜の耐磨耗性が低下する傾向にあり、4000超では、薄膜形成時の塗布剤の塗布性が悪くなり、薄膜の形成が難しくなる傾向にある。又、得られる薄膜の緻密性、硬度を考慮すると、該ポリオールの水酸基数は3又は4とすることが好ましい。
【0019】
本発明の吸水性の薄膜を形成するための塗布剤において、ウレタン成分総量が3〜80質量%となるように調整されることが好ましい。3質量%未満の場合、吸水性の薄膜の膜厚が薄くなるため、十分な防曇性が得られない傾向にあり、80質量%超では、塗布剤の粘性が高くなるため、薄膜形成時の塗布剤の塗布性が悪くなり、薄膜の形成が難しくなる傾向にある。
【0020】
本発明における吸水性の薄膜は、膜厚が厚い程、水分をより多く吸収し、薄膜が吸水飽和状態に至るまでの時間を長くすることができるので、吸水性の観点からは薄膜の膜厚を厚くする方が有利である。しかしながら、厚い膜厚は、薄膜の製造に不利な条件をもたらす。25℃、60%RHの環境下において、成膜後の透明基材を12時間保持後、該基材の被膜面に息を吹きかけても曇らないこととして考慮すると、薄膜の膜厚を3〜100μmであるとするのが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の吸水性の薄膜は、例えば日中に室外で長期間さらされるような、熱エネルギーが過剰に加えられる環境に対する耐久力があるため、薄膜表面に外観不良を生じ難いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の吸水性の薄膜は、透明基材上に形成される吸水性の薄膜であって、該薄膜は吸水率が20〜40質量%であり、平均分子量400〜2000のポリエチレングリコールより誘導されてなるウレタン樹脂とラジカル捕捉剤及び過酸化物分解剤からなる群から選ばれる少なくとも1種とを含むことを特徴とするものである。
【0023】
そして、吸水性の薄膜は、透明基材に吸水性膜を形成するための塗布剤を塗布し硬化させることで得られる。そして該塗布剤は、イソシアネート基を有するイソシアネート成分を有する塗布剤A、ポリオール成分を有する塗布剤Bからなる2液硬化型の塗布剤であり、該塗布剤にさらにラジカル捕捉剤及び過酸化物分解剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する添加剤を含む塗布剤よりなるものとすることができる。
【0024】
イソシアネート成分には、有機ジイソシアネート等の有機ポリイソシアネートで、好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネートを出発原料としたビウレット及びイソシアヌレート構造を有する3官能のポリイソシアネートから選ばれる少なくとも1種類を使用できる。当該物質は、耐候性、耐薬品性、耐熱性があり、特に耐候性に対して有効である。又、当該物質以外にも、ジイソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ビス(メチルシクロヘキシル)ジイソシアネート及びトルエンジイソシアネート等も使用することができる。
【0025】
前記イソシアネート成分に存在するイソシアネート基の数を、塗布剤B中のポリオール成分に存在する水酸基の数に対して、1倍量〜2倍量、より好ましくは1.4倍量〜1.8倍量となるように調整することが好ましい。1倍量未満の場合は、塗布剤の硬化性が低下しやすく、一方で2倍量を超える場合は、過剰硬化により塗布剤の扱いが難しくなる。
【0026】
前記ポリエチレングリコール及び前記疎水性ポリオールとの比は、薄膜の吸水率が20〜40質量%となるように調整される。例えば、ポリエチレングリコールとアクリルポリオールの場合、重量比で「ポリエチレングリコール:アクリルポリオール=50:50〜70:30となる成分比とすることが好ましい。
【0027】
そして塗布剤A、塗布剤B、添加剤あるいは、塗布剤A、塗布剤B、添加剤の混合物には希釈溶媒を添加することができる。希釈溶媒としては、イソシアネート基に対して活性のない溶媒にする必要があり、これら塗布剤との相溶性から、酢酸エステル系溶媒、ケトン類を使用することが好ましい。
【0028】
又、塗布剤A、塗布剤B、添加剤あるいは、塗布剤A、塗布剤B、添加剤の混合物には、薄膜の硬化速度を速くするために、硬化触媒である有機錫化合物を添加してもよい。該化合物には、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、スタナスオクトエート、ジブチル錫ジオクトエート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫マーカブチド、ジブチル錫チオカルボキシレート、ジブチル錫ジマレエート、ジオクチル錫マーカブチド、ジオクチル錫チオカルボキシレート等を使用することができる。
【0029】
さらに、両側末端にイソシアネート基と反応可能な官能基を有する直鎖状ポリジメチルシロキサンを塗布剤B、又は塗布剤A、塗布剤B、添加剤の混合物に導入することで、薄膜中に好適に導入される直鎖状ポリジメチルシロキサンは、薄膜を形成する樹脂中の架橋単位として導入することができる。
【0030】
該イソシアネート基と反応可能な官能基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イミノ基、メルカプト基、スルフィノ基、スルホ基等の電気陰性度の大きな酸素、窒素、硫黄に結合した活性水素を含む官能基を使用することができる。この中で、取扱いの容易さ、塗布剤としたときのポットライフ、得られる薄膜の耐久性を考慮すると、イソシアネート基と反応可能な官能基としてはヒドロキシ基を使用することが好ましい。
【0031】
添加剤は、分子内にヒドロキシ基を有するヒンダードアミン系のラジカル捕捉剤を含むものが好ましい。当該物質は薄膜の耐熱性を向上させるのに特に優れたものであり、また、当該物質の分子内に有している官能基は、イソシアネート基と反応可能であれば、ヒドロキシ基に限定されるものではない。添加剤には、上記の他にヒンダードフェノール系、ラクトン系等のラジカル捕捉剤、又はリン系、イオウ系等の過酸化物分解剤を含んでいてもよく、さらに、前記物質を2種類以上含んでいてもよい。
【0032】
またさらには、薄膜の耐磨耗性、耐擦傷性を向上させるために薄膜には上記した吸水率の範囲内となるようにケイ素化合物を導入してもよい。そのために塗布剤、特に塗布剤Bには、平均粒径が5〜50nmのコロイダルシリカ、アルコキシ基を有するケイ素化合物等を導入してもよい。尚、ここでいう平均粒径は、JIS H 7803(2005年)に準拠した方法で得られたものである。
【0033】
上記のようにして得られた塗布剤A、塗布剤B、添加剤を混合することで目的とする塗布剤が得られる。該塗布剤の透明基材への塗布手段としてはスピンコート、ディップコート、フローコート、ロールコート、スプレーコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷等の公知手段を採用できる。塗布後、約20℃の室温で放置又は170℃までの熱処理で、基材に塗布された液を硬化させ、基材に吸水性の薄膜を形成する。この熱処理の温度が170℃を超えると、ウレタン樹脂の酸化が起こり、膜強度が低下する等の不具合が生じるため注意を要する。被膜の硬化促進を考慮すると、80℃〜170℃で熱処理を行うことが好ましい。
【0034】
吸水性の薄膜を形成するための透明基材としては、代表的なものとしてガラスが用いられる。そのガラスは自動車用、表示装置用カバーガラスならびに建築用、産業用ガラス等に通常用いられている板ガラスであり、フロート法、デュープレックス法、ロールアウト法等による板ガラスであって、製法は特に問わない。
【0035】
ガラス種としては、クリアをはじめグリーン、ブロンズ等の各種着色ガラスやUV、IRカットガラス、電磁遮蔽ガラス等の各種機能性ガラス、網入りガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス等防火ガラスに供し得るガラス、強化ガラスやそれに類するガラス、合わせガラスのほか複層ガラス等、さらには平板、曲げ板等各種ガラス製品を使用できる。
【0036】
板厚は特には、1.0mm以上10mm以下が好ましく、車両用としては1.0mm以上5.0mm以下が好ましい。基材への吸水性の薄膜の形成は、基材の片面だけとすることが好ましいが、用途によっては両面に行ってもよい。又、吸水性の薄膜の形成は基材面の全面でも一部分であってもよい。
【0037】
ガラス基材に塗布剤を塗布して薄膜を形成する場合、基材と薄膜との密着性を向上させるためにシランカップリング剤を有する液を前記塗布剤の塗布前に塗布しておくことが好ましい。適切なシランカップリング剤としてはアミノシラン、メルカプトシラン及びエポキシシランが挙げられる。好ましいのはγ−グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等である。
【0038】
透明基材は、上記ガラス以外に、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルム、ポリカーボネート等の樹脂等も使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の吸水性の薄膜は、曇り防止を目的とした防曇性の薄膜として好適に使用され、さらに、熱が加わる環境であっても長期に吸水性を保持できる特性を持つことから、屋外等の熱が加わりやすい環境でも好適に利用することが可能である。
【0040】
具体的には、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイパネル、EL(エレクトロンルミネセンス)やFED(フィールドエミッションディスプレイ)等の表示装置用のカバーガラス、建築用や自動車用等の窓ガラス、レンズ、ゴーグル等の用途に好適に利用される。
【0041】
本発明の吸水性薄膜とガラス基材とを含むカバーガラスと、表示装置とを含む物品を、携行型のタッチパネル素子、タブレット素子、表示素子等に用いた場合、湿度と温度が高い場所であっても表示装置の画像の視認性は良好に保持される。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0043】
本実施例および比較例で得られた吸水性の薄膜に関して、以下に示す方法により品質評価を行った。尚、当該薄膜は耐熱性、耐候性に関する評価を、防曇性を評価することで行っている。該薄膜が防曇作用を示すとき、該薄膜は薄膜中に水分を吸収する吸水機能により曇りを抑制しているため、防曇性の評価結果を、吸水性の評価結果に代用しても差し支えない。
【0044】
〔薄膜の吸水率〕:湿度50%、温度55℃の環境で成膜後の透明基材を12時間保持後、同湿度にて温度25℃の環境でさらに12時間保持した後、該基材の重量(a)を測定した。次に、該基材の被膜面に43℃飽和水蒸気を5分間接触させた後、すぐに膜表面の水膜を払拭し、該基材の重量(b)を測定した。求めた(a)、(b)の値を用いて、[b−a]/[a−(透明基材の重量)]×100(%)の計算式で得られた値を薄膜の吸水飽和時の吸水率とした。即ち、吸水率は吸水性の薄膜の重量に対する吸水可能な水分量を重量百分率で表したものである。尚、ここでの(a)値は、該薄膜が吸水していない状態を表し、(b)値は該薄膜の吸水が飽和した状態を表すものとする。
〔外観評価〕:薄膜形成直後の吸水性の薄膜の外観、透過性、クラックの有無を目視で評価し、問題のないものを合格(○)、問題のあったものを不合格(×)とした。
〔防曇性〕:25℃、60%RHの環境下で成膜後の透明基材を12時間保持後、該基材の被膜面に息を吹きかけて、息を吹きかけても曇らない場合を合格(○)、息を吹きかけると曇りが発生した場合を不合格(×)とした。
〔耐熱性〕:70℃の恒温槽にてサンプルを保持後、上記の外観評価と防曇性評価を行った。恒温槽に1000時間以上保持しても問題の見られなかったものを「優」、恒温槽内に保持した時間が1000時間未満で800時間を超えたものを、改善が見られたとして「良」、800時間以下で問題が見られたものを改善が見られなかったとして「不可」とした。また、恒温槽内に1000時間以上保持したとき、外観上に問題が見られても、薄膜表面を不織布で払拭するだけで外観不良がなくなり、防曇性評価に問題がなかったものを「可」とした。
〔耐候性〕:"「JIS B7753」サンシャインアーク灯式の耐光性試験機及び耐候性試験機"を使用して行った。試験条件は63℃、降雨なし、非膜面照射とした。200時間暴露後、上記の外観評価と防曇性評価を行い、問題のないものを合格(○)、問題のあったものを不合格(×)とした。
〔鉛筆硬度〕:"「JIS K5600」塗料一般試験方法"に準拠して行い、傷跡が生じなかった最も硬い鉛筆の硬度を鉛筆硬度とした。該鉛筆硬度は耐擦傷性の指標とすることができる。
【0045】
実施例1
(吸水性の薄膜を形成するための塗布剤の調製)
イソシアネート基を有するイソシアネートとして、ヘキサメチレンジイソシアネートのビューレット変性ポリイソシアネート(商品名「デスモジュールN3200」;住化バイエルウレタン社製)を塗布剤Aとした。
【0046】
平均分子量1500のポリエチレングリコール、及び平均分子量3000のアクリルポリオールを50質量%有する溶液(商品名「デスモフェンA450BA」;住化バイエルウレタン社製)を準備し、ポリエチレングリコールとアクリルポリオールの重量比が「ポリエチレングリコール:アクリルポリオール=60:40」となるように混合し、これを塗布剤Bとした。
【0047】
塗布剤Aのイソシアネート成分に存在するイソシアネート基の数を、塗布剤B中のポリオール成分に存在する水酸基の数に対して、1.8倍量となるように、100gの塗布剤Bに対し、14gの塗布剤Aを添加混合し、ウレタン成分総量が42.5質量%となるように塗布剤A及び塗布剤Bの混合物に希釈溶媒として2−ブタノンを添加混合した。さらに、ウレタン成分総重量に対し、8質量%となるように、添加剤として分子中にヒドロキシ基を有するヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤(商品名「チヌビン152」;チバ・ジャパン社製)を添加混合し、吸水性の薄膜を形成するための塗布剤を調製した。
【0048】
(吸水性の薄膜の作製)
γ−アミノプロピルトリエトキシシランを、90質量%のエタノールと10質量%のイソプロピルアルコールからなる変性アルコールで1質量%となるように溶液を調製した。次に該溶液を吸収したセルロース繊維からなるワイパー(商品名「ベンコット」;小津産業製)で、フロート法によって得られた100mm×100mm(5mm厚)のクリアガラス基材表面を払拭することで該溶液を塗布し、室温状態にて乾燥後、水道水を用いてワイパーで膜表面を水洗することで、透明基材を準備した。
【0049】
該透明基材に上記で得られた吸水性の薄膜を形成するための塗布剤をスピンコートにより塗布し、約100℃で約30分間熱処理することにより、膜厚50μmの吸水性の薄膜を得た。表1に示すように、得られた吸水性の薄膜は各種性能が優れていることが確認された。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例2
ポリエチレングリコールの平均分子量を600とした以外は、実施例1と同様の手順で吸水性の薄膜を得た。表1に示すように、得られた吸水性の薄膜は各種性能が優れていることが確認された。
【0052】
実施例3
該ラジカル捕捉剤の添加量をウレタン成分総重量に対し、0.5質量%とした以外は、実施例1と同様の手順で吸水性の薄膜を得た。表1に示すように、得られた吸水性の薄膜は各種性能が優れていることが確認された。
【0053】
実施例4
該ラジカル捕捉剤の添加量をウレタン成分総重量に対し、18質量%とした以外は、実施例1と同様の手順で吸水性の薄膜を得た。表1に示すように、得られた吸水性の薄膜は各種性能が優れていることが確認された。
【0054】
実施例5
該ラジカル捕捉剤の添加量をウレタン成分総重量に対し、0.01質量%とした以外は、実施例1と同様の手順で吸水性の薄膜を得た。表1に示すように、得られた吸水性の薄膜は、耐熱性に改善が見られた。
【0055】
実施例6
ウレタン成分総量が15質量%となるように塗布剤A及び塗布剤Bの混合物に希釈溶媒として2−ブタノンを添加混合した以外は、実施例1と同様の手順で吸水性の薄膜を得た。表1に示すように、得られた吸水性の薄膜は各種性能が優れていることが確認された。
【0056】
実施例7
ウレタン成分総量が50質量%となるように塗布剤A及び塗布剤Bの混合物に希釈溶媒として2−ブタノンを添加混合した以外は、実施例1と同様の手順で吸水性の薄膜を得た。表1に示すように、得られた吸水性の薄膜は各種性能が優れていることが確認された。
【0057】
実施例8
ラジカル捕捉剤として分子中にヒドロキシ基を有するヒンダードフェノール系ラジカル捕捉剤(商品名「イルガノックス245」;チバ・ジャパン社製)を使用し、該ラジカル捕捉剤の添加量をウレタン成分総重量に対し3質量%とした以外は、実施例1と同様の手順で吸水性の薄膜を得た。表1に示すように、得られた吸水性の薄膜は、耐熱性が改善されることが確認された。
【0058】
実施例9
ラジカル捕捉剤として分子中にヒドロキシ基を有するヒンダードフェノール系ラジカル捕捉剤(商品名「イルガノックス1135」;チバ・ジャパン社製)を使用し、該ラジカル捕捉剤の添加量をウレタン成分総重量に対し0.5質量%とした以外は、実施例1と同様の手順で吸水性の薄膜を得た。表1に示すように、得られた吸水性の薄膜は、耐熱性が改善されることが確認された。
【0059】
実施例10
過酸化物分解剤として分子中にメチル基を有するリン系加工熱安定剤(商品名「イルガフォス168」;チバ・ジャパン社製)を使用し、該過酸化物分解剤の添加量をウレタン成分総重量に対し0.5質量%とした以外は、実施例1と同様の手順で吸水性の薄膜を得た。表1に示すように、得られた吸水性の薄膜は、耐熱性が改善されることが確認された。
【0060】
実施例11
過酸化物分解剤として実施例10と同じリン系加工熱安定剤を使用した以外は、実施例1と同様の手順で吸水性の薄膜を得た。表1に示すように、得られた吸水性の薄膜は、外観は白濁したが耐熱性試験後における防曇性は保持されたため、優れた耐熱性を有することが確認された。外観の白濁は、薄膜中に固定化できなかった過酸化物分解剤であると考えられ、過酸化物分解剤を薄膜中に固定化し、かつ薄膜が優れた耐熱性を有するためには、イソシアネート基と反応可能な官能基を分子中に持つ必要があることが確認された。
【0061】
比較例1
ポリエチレングリコールの平均分子量を200とした以外は、実施例1と同様の手順で吸水性の薄膜を得た。表1に示すように、得られた吸水性の薄膜は防曇性を示さなかった。
【0062】
比較例2
ポリエチレングリコールの平均分子量を20000とした以外は、実施例1と同様の手順で吸水性の薄膜を得た。表1に示すように、得られた吸水性の薄膜の外観は白濁しており、鉛筆硬度もHBと低かった。しかし、耐熱性試験後も防曇性が保持されたことから、得られた薄膜は耐熱性に優れていることが示された。
【0063】
比較例3
ラジカル捕捉剤の添加量をウレタン成分総重量に対し、30質量%とした以外は、実施例1と同様の手順で吸水性の薄膜を得た。表1に示すように、得られた吸水性の薄膜は吸水率が低下し、外観評価、防曇性が不合格となった。実施例5及び比較例3により、最適な量のラジカル捕捉剤を添加することで、薄膜の諸性質を損なうことなく、耐熱性が著しく向上することが確認された。
【0064】
比較例4
塗布剤Bにて、ポリエチレングリコールを使用しないでアクリルポリオールのみを使用した以外は、実施例1と同様の手順で吸水性の薄膜を得た。表1に示すように、得られた吸水性の薄膜の吸水率は2質量%であり、防曇性を全く示さなかった。
【0065】
比較例5
ラジカル捕捉剤及び過酸化物分解剤を使用しなかった以外は、実施例1と同様の手順で吸水性の薄膜を得た。表1に示すように、得られた吸水性の薄膜は、耐熱性、耐候性ともに不合格であった。なお、ポリエチレングリコールを用いず、アクリルポリオールのみを使用し、比較例4と同様に薄膜を得たところ、得られた薄膜は耐熱性に優れていることが確認された。よって、本発明で課題としている熱エネルギーによる薄膜表面の外観不良の発生は、ポリエチレングリコール特有のものであることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材上に形成される吸水性の薄膜であって、該薄膜は吸水率が20〜40質量%であり、平均分子量400〜2000のポリエチレングリコールより誘導されてなるウレタン樹脂とラジカル捕捉剤及び過酸化物分解剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする吸水性の薄膜。
【請求項2】
ラジカル捕捉剤及び過酸化物分解剤からなる群から選ばれる少なくとも1種がイソシアネート基と反応可能なヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基のうち最低1種類の官能基を分子中に有することを特徴とする請求項1に記載の吸水性の薄膜。
【請求項3】
吸水性の薄膜に対して、ラジカル捕捉剤及び過酸化物分解剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を重量百分率で0.1〜20質量%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の吸水性の薄膜。
【請求項4】
前記ウレタン樹脂の架橋中に疎水性のポリオール誘導体を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の吸水性の薄膜。
【請求項5】
薄膜の膜厚が3〜100μmであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の吸水性の薄膜。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の吸水性の薄膜からなることを特徴とする防曇性薄膜。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の吸水性の薄膜とガラス基材を含むことを特徴とする表示装置用カバーガラス。

【公開番号】特開2010−120838(P2010−120838A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175723(P2009−175723)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】