説明

吸水性ポリウレタン発泡体とその製造方法

【課題】低い膨潤率で吸水性に優れ、洗車後の車体表面の水分除去道具、トイレクリーナー、水取りモップ、雑巾やガーゼ、脱脂綿の代替品等として好適な吸水性ポリウレタン発泡体の提供を目的とする。
【解決手段】イソシアネート基末端プレポリマーと水を含む原料から発泡させ、加熱により乾燥させた吸水性ポリウレタン発泡体において、前記原料にアクリル酸エステル共重合体、ポリエステル、ポリエチレンから選択された少なくとも一種類からなって軟化点20〜100℃の樹脂が水に分散した水エマルジョン樹脂を含み、前記吸水性ポリウレタン発泡体中の前記樹脂の量が15〜40重量%の構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性に優れる吸水性ポリウレタン発泡体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吸水性を有するポリウレタン発泡体は、水分を吸収し、その後発泡体内で水分を保持し、発泡体を絞っても外部へ流出する水分が少ない性質を有する。吸水性ポリウレタン発泡体の用途としては、洗車後の車体表面の水分除去道具、トイレクリーナー、水取りモップ、雑巾やガーゼ、脱脂綿の代替品等が挙げられる。
【0003】
また、吸水性ポリウレタン発泡体は、通常、水を含むと膨潤するため、引張強度等の機械強度が低下することで、使用時の作業性が悪く、また、廃棄する際には体積がかさばることからゴミの増量にもつながる。そのため、低い膨潤率で高い吸収性を有するポリウレタン発泡体が望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−265448号公報
【特許文献2】特開2001−151846号公報
【特許文献3】特開2005−187788号公報
【特許文献4】特開2002−20500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、低い膨潤率で吸水性に優れる吸水性ポリウレタン発泡体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、イソシアネート基末端プレポリマーと水を含む原料から発泡させ、加熱により乾燥させた吸水性ポリウレタン発泡体において、前記原料に軟化点20〜100℃の樹脂が水に分散した水エマルジョン樹脂を含むことを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1において、前記吸水性ポリウレタン発泡体中の前記樹脂の量が15〜40重量%であることを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1または2において、前記樹脂が熱可塑性樹脂であることを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明は、請求項3において、前記熱可塑性樹脂が、アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル、ポリエチレンから選択された少なくとも一種類からなることを特徴とする。
【0010】
請求項5の発明は、イソシアネート基末端プレポリマーと水を含む原料から発泡させ、加熱により乾燥させる吸水性ポリウレタン発泡体の製造方法において、前記原料に軟化点20〜100℃の樹脂が水に分散した水エマルジョン樹脂を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明における吸水性ポリウレタン発泡体及びその製造方法によれば、吸水性ポリウレタン発泡体内に分散した樹脂が、吸水性ポリウレタン発泡体の加熱乾燥時の熱で軟化することにより、ウレタン樹脂骨格に絡まった状態になったり、ウレタン樹脂骨格の表面に沿って変形したりしてウレタン樹脂骨格に強固に付着し、それによって吸水性ポリウレタン発泡体の骨格が樹脂で補強され、吸水時における吸水性ポリウレタン発泡体の膨潤が抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明における吸水性ポリウレタン発泡体は、イソシアネート基末端プレポリマーと水を含む原料から発泡させ、加熱により乾燥させた吸水性ポリウレタン発泡体において、前記原料に軟化点20〜100℃の樹脂が水に分散した水エマルジョン樹脂を含むことを特徴とする。
【0013】
前記吸水性ポリウレタン発泡体は、プレポリマー法で水発泡により発泡させたものからなる。プレポリマー法による水発泡は、ポリオールとポリイソシアネートを反応させてなるイソシアネート基末端のプレポリマーを水と混合して反応させ、発泡させる公知の方法である。
【0014】
イソシアネート基末端プレポリマーは、ポリイソシアネートとポリオール、場合によってはさらに架橋剤を公知のプレポリマー製造方法に従い反応させて得られるもの(重合体)である。
【0015】
前記イソシアネート基末端プレポリマーは、本発明では、イソシアネート基(NCO基)を5〜25wt%含有するものが好ましい。
【0016】
前記イソシアネート基末端プレポリマーの製造に用いられるポリイソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネートあるいは2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、更には、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の異性体、多核体が含まれるクルードMDI、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)、3.3’−ジメチルジフェニル4,4’−ジイソシアネート(TODI)、m−キシレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、或いはこれらのウレタン、カルボジイミド、イソシアヌレート、アロファネート、ビュレット各変成体のほか、2核体等が挙げられる。
【0017】
前記イソシアネート基末端プレポリマーの製造に用いられるポリオールとしては、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカプロラクトン系、ポリカーボネート系等の公知のものが使用可能である。また、約2〜8のヒドロシキル官能基と約200〜20000の重量平均分子量を有するものが使用可能である。好ましくは、2官能の開始剤にアルキレンオキサイド、中でもエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドの双方、或いは何れか一方を付加して得られる分子量800〜4000のポリオールである。
【0018】
さらに、ポリウレタン発泡体の強度特性を向上させるために、架橋剤として多官能で且つイソシアネート基と反応性を有するものを使用するのが好ましい。好ましい架橋剤としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリレン−2,4,6−トリアミン、エチレンジアミン、アミノエタノール、トリエチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ヒドラジントリエタノールアミン、ベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸、ニトリロトリ酢酸、クエン酸、4,4’−メチレンビス(o−クロロアニリン)等が挙げられる。これらの中でも、グリセリンやトリメチロールプロパンが広く使用されていることから好ましい。
【0019】
イソシアネート基末端のプレポリマーと反応させる水は、イソシアネート基末端プレポリマー100重量%(wt%)に対して50〜200重量%が好ましい。なお、イソシアネート基末端のプレポリマーと反応させる水には、後述の水エマルジョン樹脂に含まれる水も含まれる。
【0020】
前記水エマルジョン樹脂は、軟化点20〜100℃の樹脂を水に分散させたものである。水エマルジョン樹脂を用いることにより、樹脂を多量に原料に添加することが可能となると共に、反応系内に樹脂を均一に分散することが可能となる。その結果、吸水性ポリウレタン発泡体のウレタン樹脂骨格に均一に樹脂を分散・付着させて、吸水時の膨潤をより効果的に抑えることが可能になる。
【0021】
軟化点20〜100℃の樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の何れでも良く、特に熱可塑性樹脂は、軟化し液状に近い形態をなすことから、より樹脂骨格に取り込まれやすく好ましい。本発明における樹脂の軟化点は、熱可塑性樹脂の場合はガラス転移温度(Tg、JIS K7121準拠)をいい、熱硬化性樹脂の場合はビカット軟化点(ASTM D 1525準拠)をいう。樹脂の軟化点が20℃未満になると、吸水性ポリウレタン発泡体が、未吸水の常態でもべたつきやタック性を生じるようになり、好ましくない。好ましい樹脂の軟化点は、20〜100℃の範囲であり、より好ましい樹脂の軟化点は、吸水性ポリウレタン発泡体製造時の乾燥温度以下である。前記熱可塑性樹脂としては、アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル、ポリエチレンの群から選択された少なくとも一種類の樹脂が挙げられる。
【0022】
前記樹脂は、吸水性ポリウレタン発泡体中に15〜40重量%含まれるのが好ましい。15重量%未満の場合、吸水性ポリウレタン発泡体の膨潤防止効果が得難くなり、一方、40重量%を超える場合、水エマルジョン樹脂の粘度が高くなって発泡阻害を生じ易くなり、吸水性ポリウレタン発泡体を安定して得られなくなる。なお、吸水性ポリウレタン発泡体の重量は、吸水性ポリウレタン発泡体の製造に用いた原料から水分を除いた重量である。すなわち、吸水性ポリウレタン発泡体の重量は、イソシアネート基末端プレポリマーの使用量と水エマルジョン樹脂の使用量に含まれる樹脂の量との和となる。例えば、表2に示す実施例1におけるイソシアネート基末端プレポリマーの100重量部当たりの吸水性ポリウレタン発泡体の重量は、[水エマルジョン樹脂中の樹脂量40(重量部)+イソシアネート基末端プレポリマーの量100(重量部)=140(g)]であり、吸水性ポリウレタン発泡体中の樹脂量(wt%)は、[樹脂重量40(g)÷吸水性ポリウレタン発泡体の重量140(g)×100=29(wt%)]である。
【0023】
本発明の吸水性ポリウレタン発泡体の製造は、前記イソシアネート基末端プレポリマーと前記水エマルジョン樹脂と必要量の水を混合撹拌して反応させることにより、発泡体を形成し、得られた発泡体を加熱し乾燥させて水分を蒸発させることにより行われる。前記加熱・乾燥時の温度は、80〜100℃が好ましい。この加熱温度は、前記樹脂の軟化点以上の温度が好ましい。また、加熱時間は、適宜とされるが、例として0.5〜10時間程度を挙げる。なお、前記吸水性ポリウレタン発泡体の加熱・乾燥は、前記吸水性ポリウレタン発泡体を乾燥炉に収容して行うのが簡単である。また、乾燥時間を短縮させる工法として、電子線による加熱での対応も可能である。この場合においても、発泡体にかかる温度は80〜100℃で調整されることが好ましい。
【実施例】
【0024】
ポリエチレングリコール(官能基数:2、分子量:1000)1モル、グリセリン(架橋剤、官能基数3)1モル、TDI−80(トリレンジイソシアネート、2,4と2,6の比率が80:20)5モルから、イソシアネート基末端プレポリマーを製造した。得られたイソシアネート基末端プレポリマーは、イソシアネート基(NCO基)の含有量が11.2wt%である。また、表1に示す樹脂を水に分散させた水エマルジョン樹脂を水と共に表2に示す割合でイソシアネート基末端プレポリマーと混合・撹拌して反応させ、発泡体を形成した。その後、発泡体を乾燥炉に収容し、100℃で2時間加熱乾燥させて実施例の吸水性ポリウレタン発泡体を製造した。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
また、水エマルジョン樹脂を原料に添加せず、あるいは樹脂の軟化点が本発明の範囲より高い水エマルジョン樹脂を原料に添加して比較例の吸水性ポリウレタン発泡体を製造した。
【0028】
このようにして得られた実施例及び比較例の吸水性ポリウレタン発泡体について外観を観察すると共に、密度(kg/m、JIS K 7222:1999準拠)、体積膨潤率(%)、吸水率(%)を測定した。発泡体の外観は、割れやパンク等が無い場合を良好とし、それ以外を不良とした。体積膨張率の値は、水に実施例及び比較例の吸水性ポリウレタン発泡体(厚み10mm、100mm角)を漬け、10分後に水から吸水性ポリウレタン発泡体を取り出して吸水性ポリウレタン発泡体の体積を測定し、〔浸漬後の体積/浸漬前の体積×100〕の式で体積膨張率(%)を計算した。また、吸水率の測定は、実施例及び比較例の吸水性ポリウレタン発泡体(厚み10mm、100mm角)を、30℃、90RH%の雰囲気に24時間放置した後、吸水性ポリウレタン発泡体の重量を測定し、次に23℃、50RH%、の雰囲気中に24時間放置した後、吸水性ポリウレタン発泡体の重量を測定し、〔{(30℃、90RH%、24時間後の重量)−(23℃、50RH%、24時間後の重量)}/(30℃、90RH%、24時間後の重量)×100]の式で、吸水率(%)を計算した。
【0029】
測定結果は表2の下部に示す通りである。表2に示すように、実施例1〜実施例6は、樹脂を含まない比較例1、及び樹脂の軟化点が高い比較例2と比べ、吸水率を損なうことなく体積膨潤率が低くなっており、膨潤し難いものであることがわかる。このように、本発明の吸水性ポリウレタン発泡体は、膨潤率が低く、吸水性に優れるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート基末端プレポリマーと水を含む原料から発泡させ、加熱により乾燥させた吸水性ポリウレタン発泡体において、
前記原料に軟化点20〜100℃の樹脂が水に分散した水エマルジョン樹脂を含むことを特徴とする吸水性ポリウレタン発泡体。
【請求項2】
前記吸水性ポリウレタン発泡体中の前記樹脂の量が15〜40重量%であることを特徴とする請求項1に記載の吸水性ポリウレタン発泡体。
【請求項3】
前記樹脂が熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の吸水性ポリウレタン発泡体。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル、ポリエチレンから選択された少なくとも一種類からなることを特徴とする請求項3に記載の吸水性ポリウレタン発泡体。
【請求項5】
イソシアネート基末端プレポリマーと水を含む原料から発泡させ、加熱により乾燥させる吸水性ポリウレタン発泡体の製造方法において、
前記原料に軟化点20〜100℃の樹脂が水に分散した水エマルジョン樹脂を含むことを特徴とする吸水性ポリウレタン発泡体の製造方法。


【公開番号】特開2009−256496(P2009−256496A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−108566(P2008−108566)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】