説明

吸着ロール

【課題】使用温度の変化が起こっても、それにより破壊や剥離、ウェブ品質の低下を起こさない吸着ロールを得る。従来の吸着ロールよりも製造費用が低く抑える。
【解決手段】円筒の吸着部材20を両端部サポート円盤6と内部サポート円盤4で支持し、前記円盤同士の間には板状スペーサー5を挟み一体化した。両端部サポート円盤6の一方は回転軸に接合し、もう片方は回転軸1と接合せずに、別途シールを行った。回転軸1と両端部サポート円盤6、内部サポート円盤4、板状スペーサー5の熱膨張係数が大きく異なっていても、温度変化に対して強度や面精度を確保し、良好なウェブを得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
有機物や金属からなる数μm〜1mm程度の連続した帯状の薄板(以下単に「ウェブ」と表す)を吸着、搬送するのに用いる円筒状である吸着ロールについての発明であり、特に高温(上限が50℃〜300℃程度)での使用に耐えうるものである。
【背景技術】
【0002】
ウェブを吸着して搬送するための吸着ロール(吸着ロール、サクションロールなどと呼称される。以下吸着ロールと記す)は、従来吸着用スルーホールを金属ロールの表面に多数設け、ロール内部とつながった外部気体制御装置との働きでウェブを吸着、搬送する「スルーホールタイプ」が主流であった。
【0003】
このスルーホールタイプには弱点があり、スルーホールの部分だけで吸着し、スルーホールにあたらない部分は吸着しないために、ウェブのスルーホールの輪郭周辺に傷が入ったり、ウェブにゆがみができたりすることがある。この問題は、スルーホールの数を多く、径を小さくすることで多少改善されるが、完全でなく、またその際のロールの価格は非常に高価なものとなる。また、ウェブを吸着していない部分があるために、その対応も必要となる。
【0004】
そのために、セラミックスやプラスチック、金属などからなる多孔質体をロールの表層に設け、筒内部より気体を減圧、加圧することにより、多孔体全面にてウェブを吸着することが提案されている。スルーホールタイプと比較して表面精度を高めることにより、前記問題のひとつであるウェブへのスルーホールの転写、傷やゆがみはある程度抑えることができる。
もうひとつの課題として、高温で使用する場合には吸着ロールを形成する部材ごとの熱膨張により、部材同士の剥離や破壊を起こさないことが求められている。

【特許文献1】特開2002−255423号公報
【特許文献2】特開2004−142936号公報
【特許文献3】特願2008−137804号公報
【0005】
引用文献1に記載の技術は、最表層に多孔性の通気孔(4)を設け、その内部により目が大きなスルーホール(11)を設けることにより均一な吸着を行なうことが書かれているが、その通気孔の大きさは20〜125メッシュのものが挙げられており、ウェブが薄く変形しやすい場合は、やはりこのメッシュ形状の転写が問題となる場合がある。また、熱については、その製造過程において熱膨張を利用してロール部材を一体化することについては述べられているが、使用の際の温度変化に関しては考慮されてなく、常温から温度が上がるような環境で使用するには適当かどうかの示唆はなく、温度を上げて焼きばめを行うことを考えれば、温度の変化により使用できないことが当然あると考えられる。
【0006】
引用文献2に記載の技術は、外周面が多孔質からなるサクションロールで、ウェブと接さない部分を遮蔽したものである。遮蔽することにより、ワークと接していない部分からのリークをなくし、吸着力を増すように設計されている。このサクションロールは吸引力については問題なく、円筒状多孔体20について材質は明記されていないが、表面に多孔質焼結プラスチックシートを貼ることが発明の一部として記載されている。前記プラスチックシートの詳細は不明だが、一定の面粗さや平面度を保つという意味では、十分とは言えない。また、使用中に温度が変わるような条件では、部材ごとの熱膨張が異なるために、部材間で破壊や剥離、変形がおき、常温と同様に使用することは困難である。
【0007】
引用文献3に記載の技術は、円筒状多孔体26の両端面側に外部との通気孔(開口部31)を有する側版40、41を備えており、円筒状多孔体26から支持体22を通り、開口部から外部に気体の出入りができるようなサクションロールの構造である。また、これに付随して円筒状多孔体26に付着した塵埃や薬剤も目詰まり防止のために外部へ放出する機構を備えている。この技術も、やはり使用中の温度変化に関する記載がなく、構造をみてもやはり考慮されていない。このサクションロールを、もし温度変化が大きな用途で使用すると、支持フレームとサクションロール本体、円筒状多孔体と側板や歯車状支持体などの間で熱膨張に起因する破壊や剥離、変形がおき、常温と同様に使用することは困難となる。

以上に示す従来の技術では、温度変化が起こる環境下での使用は、その温度が常温から離れるほどに使用が難しくなり、破壊、剥離、ウェブ品質の低下が起こる。温度が常温から離れる用途としては、ウェブに塗布した薬剤の乾燥、定着、固化、熱処理などが挙げられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の構造を有す吸着ロールは、従来の吸着ロールよりも製造費用が低く抑えられる。また、使用温度の変化が起こっても、それにより破壊や剥離、ウェブ品質の低下を起こさない吸着ロールを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項に記載の本発明は同一半径で中心部に回転軸が嵌入される穴を有する2枚の「両端部側サポート円板」(1)とこれらによって挟まれるように配置される前記円板と同様の半径と穴を有する、1枚以上の「内部サポート円板」(2)とが前記と同様の穴を有する一枚以上の「板状スペーサー」(3)を介して相互に隔てられた状態で並設され、前記「内部サポート円板」と「板状スペーサー」の中心穴に、回転軸(5)が嵌入された構造体の前記端部側、内部側サポート円板の外周を覆うように、円筒状吸着部材(4)が密着して設けられることを特徴とする吸着ロールである。
【0010】
なお以下に説明する、本発明の主要な部材である(1)〜(5)については、明細書中では、一部を除きそのまま(1)〜(5)と表現する。
この(1)〜(5)についてそれぞれの説明を加える。
【0011】
(1)両端部側サポート円板は内径が回転軸(5)に嵌入し、外径寸法が同じ2枚の円板である。このうちの1枚は回転軸と隙間無く強固に接合している。外径は(4)で述べる円筒状吸着部材の内径寸法より数〜数100μm小さく、例えば接着剤で双方を接合する場合の接着しろを設ける。
材質は、使用温度でのウェブへの悪影響がなければ多孔質体でもよいし、緻密体でもよい。ただし、端部の両端部側サポート円板を多孔質体で作製する際は、端面側をシールする必要がある。
【0012】
(2)内部サポート円板は、吸着ロールの長さに応じて、両端部以外に1つ以上設ける。これは、吸着ロールが長い場合は、円筒状吸着部材(4)の径方向の弾性変形量が大きくなるためであり、両端部の間に適当なサポート円板を設けることにより(4)の変形量を抑えることができる。理想的にはロールの長さが100〜300mm程度増すごとに、内部サポート円板を1つずつ増やすと吸着ロールの弾性変形は少なく抑えられ、ウェブの品質も維持できる。また、(4)を形成するのは複数の円筒でもよいために、その継ぎ目の部分に補強の意味で内部サポート円板を設置してもよい(図7の4)。また、図1の32に示すように、内部サポート円板で区切られた空間をつなげるように、隣接する板状スペーサーと接合していない部分に穴を設けることもできる。また、少なくとも外径寸法は(1)と同じにする。
【0013】
(3)板状スペーサーは前記複数の(1)および(2)に挟まれた前記(1)より外径の小さい板状スペーサーである。この部材の概念図を図3の5に示す。
(1)(2)どうしの隙間には、外部気体制御装置と連通するための隙間が必要となる。隙間を設けるために板状スペーサー5を図1に示すように(5)の周囲で円板(1)(2)どうしの間に挟んで構成する。板状スペーサー5は前記円板(1)(2)のような精密な寸法や形状は求められず、その両端面の平行度は(1)と同様に求められるが、その他の形状や内外径精度、形状や面粗さなどは求められず、作製は容易である。例えばひとつの製造方法として、ドーナッツ状のプレス金型でセラミックスグリーン体を得て、その後焼結を行なった後に両面研削盤にかけるだけでよい。非常に安価に製造できる。
円板(1)(2)と板状スペーサー5は、熱膨張係数が近い方が好ましく、同じ材質で製作するのがなおよい。異なる材質で製作する場合は、両者の熱膨張係数の差は1×10−6/K以下、できれば5×10−7/K以下がよい。
【0014】
前記両端部側サポート円板(1)、内部サポート円板(2)と板状スペーサーは接着、拡散接合、ボルト締めなどの手段にて一体化して支持部を形成することができる。この(1)(2)(3)を接合したものを便宜上「中間支持部」と表現する。
【0015】
また、この中間支持体(5)の接合方法について説明する。
接合は、中間支持部が「両端部側サポート円盤(1)の一方を(5)と強固に固定する」「固定の際にリークが起こらないようにする」以上2点を満たす必要がある。この一例を図4に示す。図4(A)は(5)に設けたツバ2の部分と(1)の端面6−1の一部を接着にて一体化する手段である(接着剤11)。図4(B)は(1)の内径面と(5)の円周部とを直接接着などにて一体化する方法である。図4(C)は、(5)に設けたツバ2と(1)とに穴加工を行ない、ネジ止めにて一体化した後にOリング12にてシールした例である。以上に一般的な例を示したが、前述の2点を満足していれば、接合方法は他の手段を用いてもよい。
以上に1端面での接合方法を説明したが、もう片側の端面側は同様とすることはできない。なぜならば、(5)と中間支持部の材質およびその熱膨張係数は異なることが前提であるために、吸着ロールの両端部を固定すると、熱膨張係数差により温度変化によって両者の剥離、破壊、変形などが起こることになる(仮に(5)と中間支持部の熱膨張係数が同じであれば、(1)の両端面を固定してよい)。これを防止するために、この端面側は(5)と中間支持部((1)(2)(3))が吸着ロールの長さ方向に拘束されない構造とする必要がある。
【0016】
(4)円筒状吸着部材(図6の20)は吸着ロールの周方向の表層部であり、内面が前記(1)及び(2)のサポート円板に接合され、外周面でウェブを吸着、保持するものであり、ロール内側からロール外周面に向かって導通する孔を有するロール周方向の表層部である。(1)および(2)との接合は(1)(2)の円板最外径の部分と接着などにて行なう。なお、ロール両端部にあたる部分の(1)の端部は必ず接着し、リークを防ぐ。吸着方法としては、ロール内部の減圧雰囲気による吸着を前提としている。チャックとして用いるのは多孔質体、少なくとも表面をメッシュ処理した材質、スルーホール形状などが使用できるが、最も適しているのはセラミックスの多孔質体である。
【0017】
前記セラミックスの多孔質体の材質としては、酸化アルミ、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、窒化珪素、炭化珪素、炭化チタン、炭化タングステンなどの比較的入手しやすく、製造技術が確立されている種類を主とするのがよい。また、吸着のできる構造をしていれば、例えば金属や超硬合金、高融点有機物などで構成してもよい。多孔質体の気孔率は10〜40%が適当であり、特によいのは20〜30%である。また、開気孔径は0.1〜20μmがよいが、特によいのは0.3〜1μmである。この範囲であれば、薄く平面度の高いウェブへの吸着力は確保される。
【0018】
また、(4)の材質は、使用雰囲気中で腐食などの心配のないものを選ぶことができる。例えば大気雰囲気中、100℃以上で用いる場合には、炭化物や窒化物セラミックスは表面酸化の危険性があるため、酸化物セラミックスやステンレス鋼などを用いることが適している。
【0019】
また、多孔質体を用いる場合の(4)の面粗さは、ウェブに転写することを考慮すると小さいほうがよく、面粗さを小さくするためには気孔径を小さくすればよい。吸着力が十分であれば、ウェブに表層部形状が転写されにくい0.3〜1μmの平均気孔径が望ましい。通常、多孔質体の表面全体に被吸着物がないと他の部分からのリークにより、吸着できないが、平均気孔径が前記範囲であれば、多孔質体の表面全体に被吸着物がなくても吸着が可能な「部分吸着」を行なうことができる。これは(4)の吸着を行なっていない表面部分での気体の通過量(リーク)が気体制御装置の能力よりもはるかに小さいためである。
また、(4)の製造についてであるが、(4)は円筒形状で長さが長く、厚さが薄いため、1つの部材で製作するのは困難であり、大型プレス機や焼結装置、加工装置が必要になり製造費用も大きくなる。また、製造時の歩留まりも低くなる要因が増える。そのために、図6に示すように(4)は複数の円筒を端面で接着などの方法により繋いだものを用いることもできる(図3の11は接着部)。
【0020】
(5)回転軸は、図2の1にその模式図を示すように、外部動力から吸着ロールを回転させる駆動力を吸着ロール全体に伝える役割を果たす。(5)には(1)との接合のためのツバの部分2や、(1)とのボルト締めする場合に用いる穴部3を有する場合もある。具体的にはモーターや原動機で駆動する動力で(5)を回転させる。回転の中心となるので、その長さが長くなるほどたわみなどの変形が少ない、工具鋼などのヤング率150GPa以上の材料を使用することが望ましい。さらにたわみを少なくしたい場合には、ヤング率が350GPa以上のセラミックス材料などが好ましい。また、回転によるブレを防ぐために、真円度は5μm以内が望ましい。また、外部気体制御装置で(4)の吸着を制御するための通気道を、例えば端部AからBへと内部に設けることも可能である。
【0021】
(1)のうち(5)と接合していないほうの端面側では両者間には可動な様に隙間が設けているが、そこからリークが起こることは防ぐべきである。対策としてこの端面側は一体化以外のリークしない構造とする必要がある。この一例を図5(D)〜(F)に示す。図5(D)は、両端部側サポート円板端部に金属や樹脂製の部材7を接着(11)し、その金属や樹脂製の部材7に(5)を取り巻くOリング12を設けることにより実現するものである。図5(E)は、(5)に設けられたツバ8と両端部側サポート円板6の間にOリング12を設けることにより実現するものである。(5)と中間支持部の熱膨張差による吸着ロール長さ方向のズレは、圧縮挿入されたOリング12で吸収する。図5(F)に示した方法は(1)に取り付けた凸部9(リング状)と両端部側サポート円板6の間に、伸縮可能なゴムのような弾性体14を、圧縮した状態で設けて密封する方法である。これも前記(E)と同様に熱膨張係数差による中間支持部と(5)のズレを、弾性体14が吸収する。以上に例記した方法を用いればリークは起こらないが、このほかの形態でもリークが起きずに中間支持体と(5)が相対的に移動可能であれば、どのような方法を用いてもよい。
また、ロールの径方向の長さは、一般にロールの長さに対して、さしたる距離でないために、熱膨張率も考慮する必要が少なく、本発明では特に注意していない。
【0022】
(1)、(2)と(3)は接着しているために、三者の熱膨張率の差は小さいほど好ましい。そのために最も適しているのは、両者を同じ材質で製造することである。例えば(1)〜(3)の円板および板状スペーサーに緻密質炭化珪素焼結体を用い、(4)に気孔率が20%の炭化珪素多孔質体を用いるような方法である。これが難しい場合は、熱膨張係数の差が小さい、例えば熱膨張係数の差が1×10−6(K−1)以内である二種の材質を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の吸着ロールは、従来のものと比較して性能は維持したまま製造費用が低く抑えられる。また、使用温度の変化が起こっても、それにより破壊や剥離、ウェブ品質の低下を起こさない吸着ロールを得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の吸着ロールは以下のようにして得ることができる。
【0025】
最初に使用環境に応じて円筒状吸着部材(4)に使用する材質を選定する。重要な要素となるのは吸着力や化学反応性、熱膨張係数、表面の粗さ、耐熱性などである。多孔質体を使用する場合には、吸着力の面から気孔率、平均気孔径などが加わる。これらの用途に応じて適当な材質を選定する。
【0026】
多孔質体以外では、スルーホールタイプの金属や、メッシュを表面に有する材料を(4)に使用できる。この際は、化学反応や入手の仕方などを考慮して、ステンレス製のものが使用しやすい。
【0027】
多孔質体を用いる場合の材質としてはセラミックスが最も適しており、酸化物系の酸化アルミ、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化マグネシウム、窒化物としては窒化珪素、窒化アルミ、サイアロン、窒化チタン、炭化物としては炭化珪素、炭化チタン、炭化タングステン、炭化クロムなどの材料入手が容易なものから選ぶことが好ましい。
【0028】
前記セラミックスは、セラミックス以外の材料と比較して、高い耐摩耗性や低い雰囲気やウェブとの反応性、高いヤング率などの特性が吸着ロールに適している。
【0029】
次に、中間支持部((1)(2)(3))の材質を選定する。中間支持部の選定基準は熱膨張係数が(4)と近いこと、および、強度とヤング率が十分に高いことである。熱膨張係数が円筒状吸着部材(4)と同じか近くないと、使用中に温度が上がった場合に中間支持部と(4)のロール長さ方向の寸法が離れ、両者が剥離、破壊しやすくなる。熱膨張係数の差は理想的には0であるが、1×10−6(K−1)以下であればまず問題ない。また、吸着ロールの大きさにもよるが、強度は3点曲げ強度で300MPa以上、ヤング率は200GPa以上がよい。これ以下であれば、(4)と接合後の仕上げ加工の工程や、実際に使用する際の応力により変形や破壊が起こる可能性がある。中間支持部の材質はセラミックスに限らず、鉄系金属や金属間の合金、超硬合金も対雰囲気性と耐熱性を有しており、熱膨張係数が(4)と合っていれば使用できる。
【0030】
(5)の回転軸は、ヤング率が200GPa以上、望ましくは350GPa以上の変形の少ない材質が好ましい。また、形状は基本が(1)(2)と嵌合する円柱形であるが、(1)の部材と機械的に接合、接着できる箇所を合わせて備えていてもよい。例えば(1)の端面サポート円板とボルト締めや接着できるような部材を溶接などで外周部に設けてもよいし、その部分だけ径の大きい構造とし、ボルト締めや溶接などで固定することもできる。形状は円柱状が基本であるが、図1、図2に示すように、外部の気体制御装置に連通する通気孔を円柱内に設けてロール内部と気体のやり取りをすることもできる。また、強度さえ確保できれば円柱状に限らず、円筒状の構造とすることもできる。
【0031】
中間支持部については、別々に作ったパーツを接着などで接合し、長さを所望の長さとする。両端部側サポート円板(1)および内部サポート円板(2)の外径と円筒状吸着部材(4)の内径は、あらかじめ接着しろを残した程度にあけておく。これに長さを決める端面の研削および内外形を決める円筒研削盤、内面研削盤での加工を行なう。(1)の内径側は(5)の外形と可動な程度に嵌合するようにする。
【0032】
ここで中間支持部と(5)を結合し、一体とする。この方法は前記図4に関する箇所に記載したいずれかの方法にて接合すればよい。ここでは、端面のリークが起こらない方法で行なう必要がある。また、外部の気体制御装置が(1)と連通する構造とする場合は、あらかじめ端面の両端部側サポート円板のいずれかにそのための穴をあけておくか、組み立て後に穴を開けることができる。次に、中間支持部のもう片方の端面を(5)に固定する。これも図5に例を示したように端面のリークが起こらなければ方法は問わない。
【0033】
組み立ての終わった(1)〜(5)を、円筒研削盤にて最終仕上げを行なう。(4)の外周を研削し、所望の寸法や面粗度に仕上げることにより本発明の吸着ロールを得ることができる。

以下実施例にて、本発明の一形態を説明する。
【実施例】
【0034】
(1)〜(5)の各部材の材質を以下のように選定した。

(1)端面側サポート円板
緻密質アルミナ(3点曲げ強度500MPa、ヤング率380GPa)
端面側サポート円板および内部サポート円板
(2)内部サポート円板
緻密質アルミナ(3点曲げ強度500MPa、ヤング率380GPa)
(3)板状スペーサー
緻密質アルミナ(3点曲げ強度500MPa、ヤング率380GPa)
(4)多孔質アルミナ(気孔率25%、平均気孔径1μm)
(5)回転軸 SUS430 ステンレス鋼

また、前記(5)の熱膨張係数は13×10−6(K−1)であり、(1)〜(4)の熱膨張係数は7×10−6(K−1)である。(5)を(1)〜(4)と異なる材質としたのは、低コストと製作の容易さ、溶接が可能なことからである。
【0035】
完成図として図8を主に用いて説明する。
【0036】
(5)には、(1)の図左方の両端部サポート円板6との接合のために使用する図2中のツバ3を溶接にて形成した。また、(5)の中心部には外部気体制御装置と連通した通気道A〜Bを有している。
【0037】
(1)および(2)は、3つの緻密質アルミナで円板4,6を作製し、板状スペーサー5も同様のアルミナ用いて6個作製した。板状スペーサー5の形状は両端部側サポート円板の約半分の外径寸法のリング状のものを用いた。板状スペーサーと円板は「(図左方の)両端部側サポート円板6― 板状スペーサー5(3ヶ)― 内部サポート円板4 ―板状スペーサー5(3ヶ)― 両端部サポート円板6」の順番で円板及び板状スペーサー同士の芯を合わせた上で積み重ね、隣接する円板または板状スペーサーと接着した。また、中央にあたる内部サポート円板4には、一部に表裏を貫通する穴32を板状スペーサー5と接着していない部分に設けた。
【0038】
(4)には外径と内径寸法が同じである2つの円筒を接着にて一体化し、端面および内径側を研削仕上げしたものを用いた。
【0039】
前記(1)〜(3)、(5)を、まず(1)〜(3)に(5)を挿入し、図4(A)のように(1)の両端部側サポート円板端面6−1と(5)のツバの部分を接着剤11にて一体化した。もう片方の両端部側サポート円板側には図5(F)のように、シリコンゴムリング14を両端部側サポート円板6と凸部9の間に圧縮して設け一体化し、密封した。次に、両端部側サポート円板2枚と吸着ロール中央に当たる内部サポート円板4の合計3つの外径面に接着剤を塗り、これに(4)の2つの円筒状吸着部材を接着一体化した。
【0040】
最後に一体となった吸着ロールを円筒研削盤にかけ、(4)を所望の外径寸法に仕上げた。仕上げは#200番の砥石で行い、仕上げ面の面粗さは算術平均粗さRaが0.8μm、最大高さRyが5.5μmであった。最後に円筒の吸着部材の端面に接着剤を塗布してシールした。
【0041】
得られた吸着ロールを図8の模式図に示すように、両端を図示しないベアリングにて支持台の上に固定して、動力によって回転可能とした。また、(5)に設けた通し穴にはシールテープを使った上でジョイントをつなぎ、外部の気体制御装置に連結した。
【0042】
このようにして完成した吸着ロールを、厚さ20μmのPTFEのウェブに塗布工具にて溶媒を加えたゾル状のカーボンを50μm程度塗布したものの搬送に用いた。なお、環境は大気雰囲気で、カーボンの乾燥および定着を短時間で行なうために、ウェブおよび吸着ロールは温度が150℃に保持された乾燥機中で使用する。
【0043】
乾燥機を稼動させる前に吸着ロールおよびその他の部品を設置し、吸着ロールには異常がないのを確認したあと、前記のように150℃まで温度を上げた。吸着ロールによる搬送で、ウェブであるPTFEのシートは塗布剤であるカーボンが乾燥途中の段階で吸着ロールにより搬送された。そのまま5時間稼動を行い、冷却後に吸着ロールおよびウェブのチェックを行なった。
【0044】
その結果、まず吸着ロールについては(4)の外径面を含むすべての箇所に剥離、破壊、傷などは見当たらなく、使用以前と全く変わらない状態であった。150℃までの昇温により(5)が(1)〜(4)と比較してより膨張していたはずだが、(5)とは両端部サポート円板の一部(ツバ部)のみ接合されているだけであり、長さ方向には互いに拘束しないために、剥離や割れなどの不具合は生じなかったものと思われる。ウェブと接触する(4)についても、ウェブや塗布剤の溶着や、磨耗や変色など一切生じていなかった。
【0045】
処理したウェブについては、PTFEのウェブおよびカーボン塗布部の面を調べたが、チャックによる吸着痕などは生じておらず、塗布剤の乾燥も均一に行なわれており、全く問題ない状態であった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の吸着ロールの代表的構造を示す図である
【図2】回転軸(5)の模式図(ツバあり)
【図3】(1)〜(3)からなる中間支持部の部品図
【図4】(5)と(1)を固定する側の両端部サポート円板との接合の模式図
【図5】(1)と(5)が相対的に可動する側の両端部サポート円板(1)の接合の模式図
【図6】(4)の模式図である
【図7】本発明の吸着ロールの別の代表的構造を示す図である
【図8】本発明の吸着ロールの別の代表的構造を示す図である
【符号の説明】
【0047】
1 回転軸
2 ツバ
3 ボルト用穴
4 内部サポート円板(両端以外)
5 板状スペーサー
6 両端部側サポート円板(両端部)
6−1 両端部側サポート円板の端面側
7 金属や樹脂製の部材
8 ツバ
9 凸部(リング状)
11 接着剤
12 Oリング
13 ボルト
14 弾性体
20 円筒状の吸着部材
30 外部制御装置との連結部
31 ロール内部の気体導通部
32 リングに設けた気体導通部
A、B 回転軸に設けた導通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一半径で中心部に回転軸が嵌入される穴を有する2枚の「両端部側サポート円板」(1)とこれらによって挟まれるように配置される前記円板と同様の半径と穴を有する、1枚以上の「内部サポート円板」(2)とが前記と同様の穴を有する一枚以上の「板状スペーサー」(3)を介して相互に隔てられた状態で並設され、前記「内部サポート円板」と「板状スペーサー」の中心穴に、回転軸(5)が嵌入された構造体の前記端部側、内部側サポート円板の外周を覆うように、円筒状吸着部材(4)が密着して設けられることを特徴とする吸着ロール。
【請求項2】
前記円筒状吸着部材(4)が連続した開気孔を有する気孔率が10〜40%のセラミックスの多孔質焼結体からなる、請求項1に記載の吸着ロール。
【請求項3】
前記セラミックスの多孔質焼結体が酸化アルミ、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、炭化チタン、炭化珪素、炭化タングステン、窒化珪素、窒化アルミ、窒化チタンの少なくとも1種を主成分とする請求項2に記載の吸着ロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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