説明

吸着剤を利用したオゾンの製造・貯蔵方法

【課題】生成したオゾンの分解率が小さく、オゾンを高い濃度で含有するオゾン含有ガスを効率良く製造する。
【解決手段】オゾン吸着剤床を収容した吸着塔にオゾン含有ガスを導入して吸着剤にオゾンを吸着させ、吸着が完了したらオゾン含有ガスの導入を停止し、吸着剤床の圧力を下げて吸着剤床からオゾンを脱着させて濃縮オゾンガスを回収する高濃度オゾンガスの製造・貯蔵方法であって、前記オゾン吸着剤として、(1)ペンタシル型ボロシリケート、(2)メソポーラス型シリコアルミノホスフェート(SAPO)、及び(3)部分的にSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライトの群から選ばれた少なくとも一種を用いる高濃度オゾンガスの製造・貯蔵方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い吸着圧と低い脱着圧とにおけるオゾン吸着剤のオゾン吸着量の差を利用するオゾン製造・貯蔵方法に関する。詳細には、本発明は、オゾン吸着能の高い特定の吸着剤を利用して圧力スイング吸着(PSA)に従ってオゾンを吸着及び脱着させることによってオゾンを製造・貯蔵する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オゾンは、非常に強い酸化力を持ち、漂白・脱臭・殺菌作用があり、例えば、脱臭においては活性炭の数百倍もの力を持っているとされ、これまで除去し難かった物質の除去も可能となることから、水・大気の浄化での応用が増大している。
オゾン含有ガスは、一般に、オゾン濃度が高くなる程オゾン酸化分解反応の速度が速くなるので、濃度が高いものが所望されることがある。例えばパルプの漂白等に用いられる場合には、10質量%を超える高いオゾン濃度のオゾン含有ガスが要求される。このように、オゾン含有ガスは、オゾン濃度が高いもの程、使用範囲が広がり、汎用性が高くなる。
【0003】
オゾン含有ガスは、一般的に低圧水銀ランプ、無声放電装置や水電解装置を用いて製造される。低圧水銀ランプは、装置が簡単であるが、0.5質量%程度の低い濃度のオゾン含有ガスしか得られず、発生量も1g/h程度と小さくかつオゾン単位当たりに要する消費電力が非常に大きく、工業的に使用するには実用的なものではない。水電解装置は、20質量%程度の高い濃度のオゾン含有ガスが得られるが、発生量は1kg/h程度と小さくかつオゾン単位当たりに要する消費電力も相当に大きく、大量のオゾンが要求される場合や経済性が要求される場合には使用するのに適していない。無声放電装置は、発生量が30kg/h程度と大量製造が可能であり、オゾン単位当たりに要する消費電力もこれらの中では一番少ないが、得られるオゾン含有ガスのオゾン濃度は3質量%程度と低いものである。これら従来技術において、オゾン発生装置として無声放電装置が最も好ましいものであるが、消費電力及びオゾン濃度の両面での改良が望まれていた。
【0004】
上述した無声放電装置の欠点を改良するオゾン発生装置として、オゾン発生装置に供給するオゾン発生用原料として酸素を使用し、同じ消費電力で空気を原料として使用する場合の2倍のオゾンを発生させて省電力化を図る酸素リサイクルオゾン発生装置が提案された(例えば特許文献1参照)。この装置では、酸素原料として液体酸素を用い、この液体酸素をオゾン発生装置に導入してオゾンを発生させ、そのオゾン含有ガスを熱交換器及び冷凍機で−60℃程度まで冷却してから、シリカゲルを充填したオゾン吸着塔に導入してオゾンを吸着させている。
【0005】
シリカゲルは、上記のようにオゾン吸着剤として知られているが、そのオゾン吸着量はそれほど大きくなく一定のガス処理量を確保するためには多量のシリカゲルを必要とし、吸着装置も大型にせざるを得なかった。
そこで、従来技術では上記装置において、酸素原料として液体酸素を用い、かつ、パージガスを予め乾燥してから吸着塔に導入することにより、液体酸素の低温を利用してオゾン吸着量を増大させようとした。
【0006】
しかし、シリカゲルへのオゾンの吸着量は温度が低い程大きいが、特殊な冷凍機を除いても−60℃よりも低い温度にすることは難しい。また、一般に処理ガス量を多くするためには多量の吸着剤を用いる必要があり、装置は大型化せざるを得ず、装置の製造コスト及びランニングコストが高くなる。特に、特許文献1に開示されるような装置では、装置の製造コスト及びランニングコストが極めて高くなるために、実用化に問題があった。
上述したシリカゲルを用いた酸素リサイクルオゾン発生装置の欠点を解決するために、水分の存在する系においてもオゾン吸着能が優れたSiO2/Al23モル比が20以上の特定の高シリカオゾン吸着剤を用い、この吸着剤をPSA装置に適用してオゾンを効率的に濃縮できる高濃度オゾン含有ガスの製造方法及びその装置が提案された(例えば特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開昭53−64690号公報
【特許文献2】特開平11−292514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2の発明では、SiO2/Al23比2以上の高シリカゼオライトを採用することにより、シリカゲルに比べて8倍以上のオゾン吸着量が確保できるようになったが、しかし吸着時のオゾン分解は完全に抑制されていない。この為依然として−30℃程度の低温が必要であり、低温サイクル採用によるオゾン濃縮操作の煩雑さは完全に解消されていない。このことはより高温でのオゾン濃縮、より高濃度のオゾン濃縮において困難さが顕著となる。
本発明の目的は、オゾン吸着剤として、従来技術より更にオゾン吸着能が優れた吸着剤を利用した、オゾンを高い濃度で含有する高濃度オゾンガスの製造方法を提供することである。
また、本発明の目的は、オゾン吸着剤として、オゾンの分解率が小さい吸着剤を利用した、オゾンを高い効率で生産する高濃度オゾンガスの製造方法も提供することである。
更に、本発明の目的は、オゾンを電気代の安い夜間に製造し、貯蔵する方法も提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上述した課題を解決すべく鋭意検討したところ、SiO2/Al23モル比が高い高シリカゼオライト吸着剤を使用するよりも(1)ペンタシル型ボロシリケート、(2)メソポーラス型シリコアルミノホスフェート(SAPO)、及び(3)部分的にSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライトの群から選ばれた少なくとも一種において、優れたオゾン吸着能が得られかつオゾンの分解率が小さくなることを見出した。そのため、このようなオゾン吸着剤をPSAにおいてオゾン吸着剤として使用することにより、オゾンを高い効率で生産することができることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして本発明によれば、以下の1〜8の発明が提供される。
1.オゾン吸着剤床を収容した吸着塔にオゾン含有ガスを導入して吸着剤にオゾンを吸着させ、吸着が完了したらオゾン含有ガスの導入を停止し、吸着剤床の圧力を下げて吸着剤床からオゾンを脱着させて濃縮オゾンガスを回収する高濃度オゾンガスの製造・貯蔵方法であって、前記オゾン吸着剤として、(1)ペンタシル型ボロシリケート、(2)メソポーラス型シリコアルミノホスフェート(SAPO)、及び(3)部分的にSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライトの群から選ばれた少なくとも一種を用いる高濃度オゾンガスの製造・貯蔵方法。
2.吸着剤床を収容した吸着塔が並列に2以上存在し、1つの吸着塔にオゾン含有ガスを導入して吸着剤にオゾンを吸着させる吸着工程に在る間に、吸着工程を完了した別の吸着塔の圧力を下げて吸着剤床からオゾンを脱着させて濃縮オゾンガスを回収する脱着工程を施し、次いでオゾン含有ガスの導入を、吸着工程を完了した吸着塔から、脱着工程を完了した吸着塔に切り換え、上記の工程を繰り返す、高濃度オゾンガスの製造・貯蔵方法であって、前記オゾン吸着剤として、(1)ペンタシル型ボロシリケート、(2)メソポーラス型シリコアルミノホスフェート(SAPO)、及び(3)部分的にSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライトの群から選ばれた少なくとも一種を用いる高濃度オゾンガスの製造・貯蔵方法。
3.前記ペンタシル型ボロシリケートが、水熱合成によって得られ、SiO2/B23モル比20〜3000を有するホウ素含有シリカライトである上記1又は2に記載の高濃度オゾンガスの製造・貯蔵方法。
4.前記ペンタシル型ボロシリケートが、含浸法によって得られ、SiO2/B23モル比50〜3000を有するホウ素含有シリカライトである上記1又は2に記載の高濃度オゾンガスの製造・貯蔵方法。
5.前記メソポーラス型シリコアルミノホスフェートが、SiO2/P25モル比20〜3000を有するメソポーラスシリコアルミノホスフェートである上記1又は2に記載の高濃度オゾンガスの製造・貯蔵方法。
6.前記部分的にSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライトが、水熱合成によって得られ、SiO2/P25モル比20〜3000を有する上記1又は2に記載の高濃度オゾンガスの製造・貯蔵方法。
7.前記部分的にSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライトが、含浸法によって得られ、SiO2/P25モル比は50〜3000を有する上記1又は2に記載の高濃度オゾンガスの製造・貯蔵方法。
8.オゾン含有ガスを、無声放電オゾン発生装置によって発生させる上記1〜7のいずれか一に記載の高濃度オゾンガスの製造・貯蔵方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のオゾン製造・貯蔵方法は、生成したオゾンの分解率が小さく、オゾンを高い濃度で含有するオゾン含有ガスを効率良く製造することができる。また、本発明は、オゾンを電気代の安い夜間に製造し、貯蔵しておき、必要な時に吸着剤床を減圧して吸着されたオゾンを脱着させて使用することができる。その結果、オゾンの安価な製造を可能にし、高濃度オゾン含有ガスの製造装置の小型化を可能にし、かつ、装置の製造コスト及びランニングコストの大幅な低減を可能にする。従って、本発明は、安価なオゾンを供給することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で使用する吸着剤は、オゾンを吸着し、かつ有害物質を吸着するものでなければならない。このような吸着剤として本発明は、(1)ペンタシル型ボロシリケート、(2)メソポーラス型シリコアルミノホスフェート(SAPO)、及び(3)部分的にSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライトの群から選ばれた少なくとも一種の吸着剤を採用する。
理論によって本発明を限定するものではないが、アルミノシリケートをオゾン吸着剤として使用する場合に、アルミノシリケートの固体表面の強いルイス酸点でオゾンが分解して原子状酸素を生成し、生成した原子状酸素は、高い反応性を持っていて、更にオゾンの分解を促進する。本発明のオゾン吸着剤は、従来オゾン吸着剤として使用されるアルミノシリケートと比べて、強いルイス酸点を固体表面に持たないため、オゾン分解が少なくかつオゾン吸着能が高いと考えられる。これは、吸着剤のアンモニアTPD(昇温脱離曲線:Temperature Programmed Desorption)試験において、強酸点に対応すると考えられるアンモニアβピーク(高温ピーク)がアルミノシリケートよりも強いピークを示すことを根拠としている。このような吸着剤はオゾン分解が少なくかつオゾン吸着能が高いためPSA方式で使用することにより、オゾン分解が少なく、オゾンを高い濃度で有するオゾン含有ガスを製造し得ることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
(1)ペンタシル型ボロシリケート
本発明において用いるオゾン吸着剤の内のペンタシル型ボロシリケートは、いわゆるメタロシリケートとして知られているものである。メタロシリケートは、ゼオライト中のアルミニウムの一部又は全部を特定の元素で置換された構造を有するものを意味し、非晶質を含んでいるものも使用可能である。アルミニウムと置換する元素としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属を除くほとんど全ての金属元素が使用可能であるが、本発明では、ホウ素を挙げることができる。置換する元素は、一種でも二種以上でもよい。
本発明のペンタシル型ボロシリケートのSiO2/B23比は、好ましくは20〜3000、更に好ましくは50〜1000である。20未満であると触媒活性点としてのオゾン分解を発現し、一方、3000を超えると従来の高シリカゼオライトに対する優位性はない。
【0013】
水熱合成法により得られるペンタシル型ボロシリケート(S−1);
ペンタシル型ボロシリケートは、通常行なわれるペンタシル型ゼオライトの製造方法と類似の水熱合成法で合成することができる。すなわち、シリカ、シリカゾル、ケイ酸ソーダ等のシリカ源、ホウ酸、アミン等の有機塩基その他のテンプレート、水、そして必要に応じて苛性ソーダ、苛性カリ等のアルカリ源を含む原料混合物を、水熱処理するとボロシリケートに含まれるホウ酸と等モルのプロトン(H+)又はプロトンと交換可能なカチオン(Na、K、Mg、Ca等)を含むペンタシル型ボロシリケートを得ることができる。この水熱処理の条件は、温度は約50℃から300℃位まで、反応時間は約1時間から数ヶ月が適用可能で、一般には高温条件程、短時間で水熱処理反応が進み、約80%の結晶化が完了する。従って、実用的には、温度は約100〜250℃、反応時間は数時間から1週間程度までが好ましい。
上記のようにして得られたペンタシル型ボロシリケートは、所望に応じて加熱して乾燥させた後に、必要であれば約400〜700℃で焼成する等して、金属塩を分解させて好ましい範囲内のSiO2/B23比を有するペンタシル型ボロシリケートを調製することができる。SiO2/B23比はシリカ源濃度に対するホウ酸濃度を変更することにより適宜変更できる。
水熱合成法で合成したペンタシル型ボロシリケートのX線回折ピークを図1に示す。図1よりMFI型結晶であることが確認できる。又、SiO2/B23比は、元素分析(湿式分析)により決定でき、図1に示される実施例吸着材料の場合は200である。又、ホウ素と等モルの水素も含まれた。
水熱合成法により得られるペンタシル型ボロシリケートの特徴は、ボロシリケートの優れた均一分散性であり、この方法によりSiO2/B23比が低いものの製造も安定して行なうことが出来る。
【0014】
含浸法により得られるペンタシル型ボロシリケート(S−2);
ペンタシル型ボロシリケートは、含浸法によって調製することもできる。すなわち、ホウ酸、ホウ酸中のホウ素と等モルのプロトン(H+)を含む硝酸、硫酸、塩酸等を水に溶解し、これにシリカライト(人工ゼオライト;100%シリカ)を加えて攪拌してスラリーを得、このスラリーをエバポレーター等を使用して水分を吸引除去して粉末を得る。この粉末を、所望に応じて加熱して乾燥させた後に、必要であれば約400〜700℃で、0.5〜3時間焼成する等して、ホウ素と等モルのプロトン(H+)を含むペンタシルボロシリケートを最終的に調製する。上記製造方法によっても好ましい範囲内のSiO2/B23比を有するペンタシル型ボロシリケートを得ることが出来る。
具体的には、SiO2/Al23比1000以上のペンタシル型ゼオライトにホウ酸を加えて、ろ過、乾燥した後400〜700℃程度の高温に保持すると、結晶表面のホウ酸が結晶内に固体−固体拡散してペンタシル型ボロシリケート構造が形成される。又、SiO2/Al23比が1000以下の原料を、硝酸溶液等に浸積して90℃で3時間程度保持しても、結晶中のアルミニウムが離脱してSiO2/Al23比1000以上のペンタシル型ゼオライトを得ることが出来るので、これを出発原料としてアルミノシリケート構造の立体障害を受けることなく調製することが出来る。
含浸法で合成したペンタシル型ボロシリケートのX線回折ピークを図2に示す。図2よりMFI型結晶であることが確認できる。図2に示される実施例吸着材料のSiO2/B23比は200である。又、ホウ素と等モルの水素も含まれた。含浸法でもSiO2/B23比はシリカ源濃度に対するホウ酸濃度を変更することにより適宜変更できる。
【0015】
(2)メソポーラス型シリコアルミノホスフェート(SAPO);
本発明のメソポーラス型シリコアルミノホスフェートのSiO2/P25モル比は好ましくは20〜3000、更に好ましくは20〜1000、特に好ましくは50〜300である。20未満であるとメソ孔内にアルミノフォスフェートが高濃度に存在して細孔容積が減少し、オゾン吸着量、吸着速度が減少してオゾン吸着反応が低下する。一方、3000を超えると従来の高シリカゼオライトに対する優位性はない。
【0016】
低温合成法により得られるシリコアルミノフォスフェート(S−3);
本発明のシリコアルミノホスフェートは、例えば下記の通りにして調製することができる。低pHでモノケイ酸とのミセル形成能に優れた3級アンモニウム塩であるアンモニウムブロミドのような溶媒を溶解した水に、リン酸及びテンプレート剤を加え、これを激しく撹拌しながら、水に溶解したケイ酸塩、例えばケイ酸ナトリウムを加え、さらに水に溶解したアルミニウム塩、例えば硫酸アルミニウムを少しずつ加えて懸濁液とし、この懸濁液を撹拌する。上記添加、溶解、攪拌作業は、通常室温で行われる。液中に生成した沈殿物をろ過して多孔体粉末を分離した後に、水で洗浄し、電気炉に入れて、加熱して表面水分を除去した後に、昇温して溶媒を熱分解除去してシリコアルミノホスフェートを得ることができる。得られるシリコアルミノホスフェートはメソポーラス材料であり、均一で規則的な配列のメソ孔(直径2〜50nm)を有する多孔質材料(多孔体)であり、構造的には「MCM−41」(2〜50nmの均一メソスコピックサイズの細孔を有するシリカ)と良く似た2次元柱状構造を有している。
本発明のメソポーラス型シリコアルミノホスフェートのメソ孔の直径は、好ましくは12〜100nmである。
【0017】
上記製造方法により好ましい範囲内のSiO2/P25比を有するシリコアルミノホスフェートを得ることが出来る。SiO2/P25比はシリカ源濃度に対するリン酸濃度、アルミニウム塩濃度を変更することにより適宜変更できるが、リン酸/アルミニウム塩モル比1であるとSiO2/P25比2を有するものが得られる。
上記低温合成法で合成したメソポーラス型シリコアルミノホスフェートのX線回折ピークを図3に示す。図3よりメソ多孔体の柱状構造とSAPO構造が確認できる。又、SiO2/P25比は、元素分析(湿式分析)により決定でき、図3に示される実施例吸着材料の場合は200である。
【0018】
(3)部分的にSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライト;
SAPO構造とは、アルミノリン酸ゼオライトの略称であり4価のSiの周りに3価のアルミニウムと5価のリンが酸素を介して結合した結晶構造である。
本発明において言う「部分的にSAPO構造を含有する」とは、SAPO構造が結晶の一部を構成するが、それ以外の部分はメソポーラスシリカ構造を有することを意味する。SiO2/P25モル比が20の場合、20個のシリコン原子中1個はSAPO構造を、19個のシリコン原子はSi−O−Siの構造を有する。又、SiO2/P25モル比が3000では、3000個のシリコン原子中1個はSAPO構造、2999個はSi−O−Si構造をとる。
本発明のSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライトの全体を平均したSiO2/P25モル比は好ましくは20〜3000、更に好ましくは50〜1000、特に好ましくは50〜300である。上記範囲内では低温におけるオゾン吸着能に優れかつオゾン分解率も小さい。20未満であると結晶化が困難であり、一方、1000を超えると従来の高シリカゼオライトに対する優位性はない。
【0019】
水熱合成法による部分的にSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライト(S−4);
本発明の部分的にSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライトは、下記の通りにして調製することができる。リン酸及びアルミニウムの硝酸塩、硫酸塩、塩化物等をテンプレート剤水溶液に溶解し、これをシリケート、例えばテトラエチルオルトシリケートに加え、加熱しながら攪拌し、シリケートを加水分解する。得られた粉末を、ろ過して加水分解を完全に完了させる。この粉末を水蒸気飽和させて、9〜15重量%の水分を含む乾燥ゲルを得た後に、これをねじ栓密封ボトルに詰めて、電気炉に入れて加熱して水熱合成する。合成終了後、密封ボトルから取り出した粉末を再度電気炉に入れ、昇温してテンプレートを除去し、部分的にSAPO構造を含有するペンタシル型ゼオライトを得ることができる。水熱合成法は、通常含浸法よりも高い収率と品質の結晶を得ることが出来る。ゼオライト中のSAPO構造の割合の調整はシリカ源濃度に対するリン酸濃度、アルミニウム塩濃度を変更することにより適宜変更できるが、リン酸/アルミニウム塩モル比1であるとSiO2/P25比2を有するものが得られる。
【0020】
上記で合成したSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライトのX線回折ピークを図4に示す。図4より、含まれるSAPO構造が0.2(volmol%)であるペンタシル型ゼオライト結晶であることが確認できる。又、SiO2/P25比は、元素分析(湿式分析)により決定でき、図4に示される実施例吸着材料の場合は200である。SiO2/P25比はシリカ源濃度に対するリン酸濃度、アルミニウム塩濃度を変更することにより適宜変更できるが、リン酸/アルミニウム塩モル比1であるとSiO2/P25比2を有するものが得られる。
【0021】
含浸法による部分的にSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライト(S−5);
本発明の部分的にSAPO構造を含有するペンタシル型ゼオライトは、また、上記水熱合成法に代えて、いわゆる含浸法によって調製することもできる。すなわち、リン酸及びアルミニウムの硝酸塩、硫酸塩、塩化物等を水に溶解し、これにシリカライトを加えて攪拌してスラリーを得る。このスラリーをエバポレーター等で水分を吸引除去して粉末を得る。この粉末を加熱して乾燥した後に、昇温して加熱してリン酸を脱水および硫酸塩を分解して、部分的にSAPO構造を含有するペンタシル型ゼオライトを得ることができる。ゼオライト中のSAPO構造の割合の調整はシリカ源濃度に対するリン酸濃度、アルミニウム塩濃度を変更することにより適宜変更できるが、リン酸/アルミニウム塩モル比1であるとSiO2/P25比2を有するものが得られる。
【0022】
上記製造方法により好ましい範囲内のSiO2/P25比を有するSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライトを得ることが出来る。含浸法においてはSiO2/P25比はシリカ源濃度に対するリン酸濃度、アルミニウム塩濃度を変更することにより適宜変更できるが、リン酸/アルミニウム塩モル比1であるとSiO2/P25比2を有するものが得られる。
具体的には、SiO2/Al23比1000以上のペンタシル型ゼオライトにリン酸、アルミニウム塩を加えて、ろ過、乾燥した後400〜700℃程度の高温に保持することで、結晶表面のリン、アルミニウムが結晶内に固体−固体拡散して部分的にSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライトを調製することが出来る。又、SiO2/Al23比が1000以下の原料を、硝酸溶液等に浸積して90℃で3時間程度保持しても、結晶中のアルミニウムが離脱してSiO2/Al23比1000以上の部分的にSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライトも得ることが出来るのでこれを出発原料としてアルミノシリケート構造の立体障害を受けることなく調製することが出来る。
【0023】
含浸法は水熱合成法に比べ調製は容易であるが、得られたゼオライト中のSAPO構造分布の均一性に欠けること、低SiO2/Al23比条件での調製における再現性が悪くなる等の問題がある。いずれの製造方法で調製したものも本発明のオゾン吸着反応に使用できる。
上記で合成したSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライトのX線回折ピークを図5に示す。図5より含まれるSAPO構造が0.2(mol%)であるペンタシル型ゼオライト結晶であることが確認できる。又、図5に示される実施例吸着材料のSiO2/P25比は200である。
上記例示された吸着剤は公知であるが、特定の組成分比を有するものが低温におけるオゾン吸着能に優れかつオゾン分解率が小さいことは、本発明等が初めて見出したものである。
【0024】
本発明でオゾン含有ガスを発生するオゾン発生器(オゾナイザー)としては、公知の無声放電方式、紫外線ランプ方式、水電解方式などいずれの方式のものでも適用できる。好ましくは、高圧仕様の無声放電装置を用い、オゾン濃縮用PSA装置の吸着工程から流出する高圧酸素濃縮ガスを、前記無声放電装置の原料側に戻して酸素原料として用いることにより、前記無声放電オゾン発生装置から流出するオゾン含有ガスを高圧で回収することができ、PSA装置への供給用のコンプレッサーの負担を軽減することができる。なお、前記無声放電オゾン発生装置に供給する酸素原料ガスとして例えば、酸素濃縮用のPSA装置等で製造した高圧酸素濃縮ガスを用いることは、装置全体の効率化及び高性能化に有効である。
【0025】
オゾン濃縮用PSA装置の脱着工程に移行した吸着塔からは、例えば減圧ポンプなどを用いて相対的に低い脱着圧力にしてオゾン濃縮ガスを回収するが、吸着工程から流出する高圧酸素濃縮ガスの一部を減圧弁を介して脱着工程の吸着層に導入してパージすることにより脱着を促進することも可能である。その際、必要に応じて減圧弁の下流側に熱交換器や加熱器を付設して前記酸素濃縮ガスをパージに適した温度まで加熱してもよい。
【0026】
吸着工程及び脱着工程の条件は、特に限定されない。吸着工程は、106〜507kPa(1.05〜5atm)の範囲の圧力及び温度−60℃〜25℃の範囲で実施するのが普通である。
また、脱着工程は、圧力4〜30kPa(0.04〜0.3atm)の範囲で実施し、温度は特に制限されず、吸着工程の温度に依存するのが普通である。回収したオゾン含有ガスの利用を考慮すると、脱着工程の温度は室温に近いのが好ましい。
【0027】
吸着工程の終了は、例えばオゾン含有ガスの流入口と反対の吸着塔出口のガスのオゾンの濃度を監視していて、オゾンのブレークスルーが見られ始めた時や切換時間、すなわちリサイクルタイムに達した時に吸着が完了したとして、吸着塔へのオゾン含有ガスの導入を停止することによって行うことができる。
脱着工程の終了は、例えば脱着圧の可能な最低圧力や切換時間、すなわちリサイクルタイムに達した時に脱着が完了したとして、吸着塔からのオゾン濃縮ガスの回収を停止することによって行うことができる。
【0028】
以下に、本発明を図によって説明する。
図6は、高濃度オゾン製造装置において、例えば無声放電オゾン発生装置1に2塔式のオゾン濃縮用PSA装置を組み合わせた高濃度オゾン製造装置の概念図である。吸着塔6及び7に前記のオゾン吸着剤の群から選択された一種以上のオゾン吸着剤を充填する。
図6では、切替弁10、13、17、21を開け、切替弁11、14、16、20を閉じることにより、吸着塔6を吸着工程に、吸着塔7を脱着工程に保持した状態を示しており、切替弁の開閉を逆にすることにより前記工程を吸着から脱着へ、脱着から吸着に切り替えることができる。オゾン発生装置1からのオゾン含有ガスは、導管8に設けたコンプレッサー9で吸着圧力まで加圧して吸着工程の吸着塔6に供給してオゾンをオゾン吸着剤に吸着させ、吸着塔6から流出する酸素濃縮ガスは導管12でオゾン発生装置入口に還流されて、原料酸素供給量を削減して、オゾン発生装置の消費電力を節減する。
【0029】
他方、オゾン回収系は脱着圧に保持されており、真空ポンプ24(図示せず)と結んだ導管15の切替弁17を開けることにより脱着工程の吸着塔7から減圧脱着によりオゾンを回収する。なお、吸着工程の吸着塔6から流出する酸素濃縮ガスの一部は、導管12から分岐されたパージガス供給用導管18に設けた減圧弁19で脱着圧まで減圧して、脱着工程の吸着塔7に供給して逆洗パージすることにより脱着を促進することも可能である。パージガスを多量に使用するとその分だけオゾン濃度が低下する。好ましいパージ率は1〜2の範囲、より好ましいパージ率は1.2〜1.5の範囲である。
なお、図6には、無声放電オゾン発生装置1の前段に酸素濃縮用のPSA装置23を付設するように記載した。この酸素濃縮用のPSA装置23は必須ではないが、装置全体の効率化及び高性能化を図る上で有効である。
【0030】
オゾン濃縮用PSA装置に関連して、吸着工程の吸着塔6から流出する高圧酸素濃縮ガスの一部は、必要に応じて導管12を介して無声放電オゾン発生装置1の酸素原料供給用導管に戻して酸素濃縮ガスの有効利用を図ることができる。さらに、高圧仕様の無声放電オゾン発生装置を用いると、PSA装置へのオゾン含有ガスの供給用のコンプレッサー9の負担を低減することができるので、装置全体の効率化及び高性能化を図る上で有効である。
本発明の吸着剤は、それぞれ使用目的に応じて単独又は混合物の形で、粒状、ペレット状、ラシヒリング状、ハニカム状など任意の形状に成形して使用できる。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
製造例1(水熱合成法ペンタシル型ボロシリケート(S−1))
ホウ酸5.93gを22.5質量%テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド水溶液440gに溶解し、これをテトラエチルオルトシリケート1.00kgに加え、70℃で約4時間攪拌し、テトラエチルオルトシリケートを加水分解した。得られた粉末を80℃の乾燥器に入れて約3時間保持し、加水分解を完全に終了させた。この粉末を室温で水蒸気飽和させて、9〜15質量%の水分を含む乾燥ゲルを得た後に、これをポリプロピレン又はテフロン(登録商標)製のねじ栓密封ボトルに詰めて、電気炉に入れ140℃で72時間保持して水熱合成した。
合成終了後、密封ボトルから取り出した粉末を再度電気炉に入れ、空気雰囲気中昇温速度100℃/時で昇温して500℃で20時間保持してテンプレートを除去し、ホウ素含有シリカライト(UOP社製ボロシリケート;SiO2/B23=200、BET比表面積528m2/g)約280gを調製した(収率80%)。
得られた結晶のX線回折ピークを図1に示す。図1よりMFI型結晶であることが確認できた。又、重量法(ニトロン−5%酢酸水溶液と48%フッ化水素酸との反応により生じた沈殿の重量から決定)により元素分析(湿式分析)して測定したSiO2/B23比は、100であった。BET法による比表面積は528m2/gであった。得られた吸着材料を実験室的に試作したシリカモノリス基材に嵩比重が0.4になるように担持して直径10cm、高さ10cmのモノリス形に成形した。下記吸着材料の成形法も同様である。
ホウ酸の質量と22.5質量%テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド水溶液の質量とを相対的に変更した他は、上記の合成法と同様にして、SiO2/B23モル比が20、50、200、1000又は3000であるボロシリケートを得た。
【0032】
製造例2(含浸法ペンタシル型ボロシリケート(S−2))
20.6gのホウ酸(H3BO3)を精製水1.3リットルに溶解し、これに1.0kgのシリカライトを加えて室温で2時間攪拌してスラリーを得た。このスラリーを60℃の水浴上、エバポレーターで水分を吸引除去して粉末を得た。この粉末を空気雰囲気中110℃で7時間乾燥した後、昇温速度100℃/時で昇温して270℃で3.5時間加熱してホウ酸を脱水させて、ホウ素含有シリカライト(SiO2/B23モル比=100、BET比表面積355m2/g)約1kgを調製した(収率100%)。得られた結晶のX線回折ピークを図2に示す。図2よりMFI型結晶であることが確認できた。
ホウ酸の質量とシリカライトの質量とを相対的に変更した他は、上記の製造法と同様にして、SiO2/B23モル比が20、50、200、1000、3000である結晶を得た。SiO2/B23モル比20を有するものは、ホウ素含浸による調製法では、合成できなかった。
【0033】
製造例3(低温合成法メソポーラス型シリコアルミノフォスフェート(S−3))
セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTMAB;C1635(CH33NBr)(FW364.45;東京化成社製)6.0kgを溶解した水32リットルに、85%リン酸(H3PO4)(FW98.00;関東化学社製(85重量%))6.05kgを滴下し、さらにテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAOH)水溶液((CH34N・OH、FW91.15、Ardrich社製(水中25重量%))30〜33リットルを加えてpH7.7に調整した。
これを激しく撹拌しながら、水15.4リットルに溶解したケイ酸ナトリウム(Na2O・2SiO2・2.52H2O)(FW227.56 キシダ化学社製)3.00kgを加え、さらに水31.6リットルに溶解した硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3・16〜18H2O)(FW648.41(17H2Oとして)半井化学薬品社製)17.06kgを少しずつ加え、この懸濁液を室温で3時間撹拌した。この懸濁液は、下記のゲル組成を有していた:SiO2;P25:Al23:CTMAB:H2O=0.8:0.8:0.8:0.5:190。
この沈殿生成物をろ過して多孔体粉末を分離した後、水で洗浄後、電気炉に入れて、まず110℃で約8時間保持して表面水分を除去した後、昇温速度100℃/時間で昇温して600℃で6時間保持してセチルトリメチルアンモニウムブロミドを熱分解除去してメソポーラスシリコアルミノホスフェートを約1kg調製した(収率90%)。
【0034】
以上の手順により調製した粉末状SiO2/Al23比は3〜6、SiO2/P25比は3〜6であり、日本ベル社製BET法表面積計測機により測定した比表面積は767〜1100m2/g、細孔直径は3.5nmであった。
得られた結晶のX線回折ピークを図3に示す。図3よりMFI型結晶であることが確認できた。
硫酸アルミニウムの質量とリン酸の質量とを相対的に変更した他は、上記の製造法と同様にして、SiO2/P25モル比が20、50、200、1000、3000である結晶を得た。
【0035】
製造例4(水熱合成法SAPO構造を有するペンタシル型ゼオライト(S−4))
85%リン酸(H3PO4)0.1kgおよび硫酸アルミニウム(Al2(SO43・17H2O)0.25kgを22.5質量%テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド水溶液440gに溶解し、これをテトラエチルオルトシリケート1.00kgに加え、70℃で約4時間攪拌し、テトラエチルオルトシリケートを加水分解した。得られた粉末を80℃の乾燥器に入れて約3時間保持し、加水分解を完全に終了させた。この粉末を室温で水蒸気飽和させて、9〜15質量%の水分を含む乾燥ゲルを得た後、これをポリプロピレンあるいはテフロン(登録商標)製のねじ栓密封ボトルに詰めて、電気炉に入れ140℃で72時間保持して水熱合成した。
合成終了後、密封ボトルから取り出した粉末を再度電気炉に入れ、空気雰囲気中昇温速度100℃/時間で昇温して500℃で20時間保持してテンプレートを除去し、部分的にSAPO構造を含有するシリカライト約280gを調製した。
得られたペンタシル型ゼオライト中のSAPO構造の割合は、0.5mol%であった。得られた結晶のX線回折ピークを図4に示す。図4よりペンタシル及びSAPO構造が結晶化されていることが確認できる。SiO2/P25比は、3〜6であった。BET法により測定した比表面積は650m2/gであった。
アルミニウム塩の質量とリン酸の質量とを相対的に変更した他は、上記の製造法と同様にして、SiO2/P25モル比が20、50、100、1000、3000である結晶を得た。
【0036】
製造例5(含浸法SAPO構造を有するペンタシル型ゼオライト(S−5))
85%リン酸(H3PO4)0.1kgおよび硫酸アルミニウム(Al2(SO43・17H2O)0.25kgを精製水1.3リットルに溶解し、これに1.0kgのシリカライトを加えて室温で2時間攪拌してスラリーを得た。このスラリーを60℃の水浴上、エバポレーターで水分を吸引除去して粉末を得た。この粉末を空気雰囲気中110℃で7時間乾燥した後、昇温速度100℃/時間で昇温して550℃で3.5時間加熱してリン酸を脱水および硫酸塩を分解して、部分的にSAPO構造を含有するシリカライト約1kgを調製した。
得られたペンタシル型ゼオライト中のSAPO構造の割合は、0.5mol%であった。得られた結晶のX線回折ピークを図5に示す。図5よりペンタシル及びSAPO構造が結晶化されていることが確認できた。SiO2/P25比は、200であった。BET法により測定した比表面積は650m2/gであった。
アルミニウム塩の質量とリン酸の質量とを相対的に変更した他は、上記の製造法と同様にして、SiO2/P25モル比が50、100、1000、3000である結晶を得た。SiO2/P25モル比20を有するものは、含浸による調製法によっては、合成できなかった。
【0037】
製造例6(比較用水熱合成シリカライト(R−1))
テトラエチルオルトシリケート3.75kgに22.5質量%テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド水溶液1.63kgを加え、70℃で約4時間攪拌し、テトラエチルオルトシリケートを加水分解した。得られた粉末を80℃の乾燥器に入れて約3時間保持し、加水分解を完全に終了させた。この粉末を室温で水蒸気飽和させて、9〜15質量%の水分を含む乾燥ゲルを得た後、これをポリプロピレンあるいはテフロン(登録商標)製のねじ栓密封ボトルに詰めて、電気炉に入れ140℃に72時間保持した。
水熱合成後、取り出した粉末を再度電気炉に入れ、空気雰囲気中昇温速度100℃/時で昇温して500℃に20時間保持してテンプレートを除去し、シリカライト約1kgを調製した。
X線回折パターンにより結晶形を確認した。BET法により測定した比表面積は543m2/gであった。
【0038】
実施例1;
図6の高濃度オゾンガス製造装置の吸着塔を用いて、オゾン吸着量とオゾン分解率とを計測して比較した。
使用した吸着剤は、(S−1−20、−50、−100、−200、−1000、−3000)水熱合成ペンタシル型ボロシリケート、(S−2−20、−50、−100、−200、−1000、−3000)含浸法ペンタシル型ボロシリケート、(S−3−20、−50、−100、−200、−1000、−3000)メソポーラス型シリコアルミノホスフェート、(S−4−20、−50、−100、−200、−1000、−3000)水熱合成部分SAPOペンタシル型ゼオライト、(S−5−50、−100、−200、−1000、−3000)含浸法部分SAPOペンタシル型ゼオライト、の5種類であり、比較用に従来最もオゾン吸着量が多く且つ分解が抑制されているシリカライト(R−1)を使用した。各吸着剤は、吸着塔にそれぞれ5kgづつ充填した。
【0039】
無声放電オゾン発生装置1では、オゾン5容積%を含有するオゾン含有ガスを発生させコンプレッサー9で1.1atmに加圧し、1m3N/hのガス流量で吸着塔に供給してオゾンを吸着させた。オゾン吸着剤として(1)水熱合成法ペンタシル型ボロシリケート(SiO2/B23比20〜3000)、(2)含浸法ペンタシル型ボロシリケート(SiO2/B23比20〜3000)、(3)低温合成法メソポーラス型シリコアルミノフォスフェート(SiO2/P25比50〜3000)、(4)水熱合成法SAPO構造を有するペンタシル型ゼオライト(SiO2/P25比50〜3000)、(5)含浸法SAPO構造を有するペンタシル型ゼオライト(SiO2/P25比50〜3000)を使用してオゾン濃縮試験を実施した。吸着工程に於いては吸着塔出口からオゾンの流過が開始された時点で、吸着が完了したとして吸着操作を終了した。他方、脱着工程の吸着塔は減圧ポンプで0.1atmに減圧し、パージは行わずにオゾンを脱着回収した。脱着時の吸着塔圧力が0.1atmになった時点で、脱着が完了したとして脱着操作を終了した。−60℃及び25℃の吸着温度で、それぞれオゾン吸着量とオゾン分解率とを計測した。脱着工程では吸着塔の温度を特別に制御しなかった。吸着工程と脱着工程の切替時間すなわちサイクルタイムは3分に設定した。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1の結果は下記の通りである。
(1)S−1水熱合成ボロシリケートのSiO2/B23比が20〜3000の範囲内では、200付近で最大のオゾン吸着量と最小のオゾン分解率を示す。従来のシリカライトR−1では室温(25℃)でのオゾン分解率が25%/hであったことを考えるとS−1−200のオゾン分解率1.5%は著しく小さい。また、S−1ボロシリケートは、従来のシリカライトR−1に比べて低温におけるオゾン吸着能も優れている。
(2)S−2含浸ボロシリケートのSiO2/B23比が50〜3000の範囲内では、200付近で最大のオゾン吸着量と最小のオゾン分解率を示す。S−2−200のオゾン分解率1.6%は著しく小さく、低温におけるオゾン吸着能も優れている。
(3)S−3メソポーラスシリコアルミノホスフェートのSiO2/P25比が20〜3000の範囲内では、200付近で最大のオゾン吸着量と最小のオゾン分解率を示す。S−3−200のオゾン分解率1.5%は著しく小さい。
(4)S−4水熱合成部分SAPOペンタシルのSiO2/P25比が20〜3000の範囲内では、200付近で最大のオゾン吸着量と最小のオゾン分解率を示す。S−4−200の室温でのオゾン分解率1.6%は著しく小さい。
(5)S−5含浸部分SAPOペンタシルのSiO2/P25比が50〜3000の範囲内では、200付近で最大のオゾン吸着量と最小のオゾン分解率を示す。S−5−200の室温でのオゾン分解率1.6%は著しく小さい。
【0042】
実施例2;
また、シリカライトR−1及びS−1−200、S−2−200、S−3−200、S−4−200、S−5−200について、吸着温度−30℃のオゾン吸着量とオゾン分解率とを計測し、表1の結果を併せて表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
表2から明らかな通りに、S−3−200メソポーラスシリコアルミノホスフェートはオゾン吸着量がR−1に比べて低かったが、S−3−200のオゾン分解率はR−1よりも非常に低かった。その他のペンタシル型ボロシリケート及び部分的にSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライトは、R−1に比べて、高いオゾン吸着量及び低いオゾン分解率を示した。
得られたオゾン濃縮ガスのオゾン濃度を測定し、無声放電オゾン発生装置1で生成したガスのオゾン濃度と比べてオゾン濃縮率を求め、吸着温度とオゾン濃縮率との関係を表3に示し、図7にプロットして示す。
【0045】
【表3】

【0046】
表3及び図7から明らかな通りに、S−1〜S−5は、吸着温度の変化に関係なく、ほぼ一定の高いオゾン濃縮率を示しかつシリカライトR−1に比べてオゾン濃縮率が高い。これに対し、シリカライトR−1は、吸着温度が高くなる程、オゾン濃縮率が低下する。これより、ペンタシル型ボロシリケート、メソポーラスシリコアルミノホスフェート及び部分的にSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライトは、吸着温度が高くなる程、シリカライトに比べたオゾン濃縮率の差が顕著になり、本発明の方法が、常温付近の温度で実施するのに有利であることが分かる。
【0047】
実施例3;
ペンタシル型ボロシリケート、メソポーラスシリコアルミノホスフェート、部分的にSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライト、シリカライトを用いて、サイクルタイムを0.5分から3分まで変えてオゾン含有ガスの処理量を調べた。実施例1と同じ装置を用い、吸着温度は−60℃及び25℃、吸着圧力は1.05atm、脱着圧力は0.05atmに変更した他は、実施例1と同様にして実施した。オゾン流過率は5%である。結果を表4に示し、図8及び図9にプロットして示す。
【0048】
【表4】

【0049】
図8及び表4から明らかな通りに、吸着温度−60℃におけるサイクルタイムと処理ガス量との関係では、メソポーラスシリコアルミノホスフェートの他の吸着剤は、シリカライトに比べて、処理量が多く、またサイクルタイムの短い方が処理量が多かった。図9は、吸着温度25℃におけるサイクルタイムと処理量との関係を示し、メソポーラスシリコアルミノホスフェートの他の吸着剤は、シリカライトに比べて、処理量が多く、またサイクルタイムの短い方が処理量が多かった。図8及び図9から明らかな通りに、吸着温度が低く、サイクルタイムが短い方が処理量が多く、比較的少量の吸着剤で所定の処理量を確保できるので、吸着塔を小型化することが容易であるが、大きな冷却エネルギーを必要とする。他方、吸着温度が室温に近くなる程、処理量は少なくなるが、冷却エネルギーを必要としないという利点がある。また、室温に近くなるとサイクルタイムの影響が小さくなる。
【0050】
実施例4;
S−1−200水熱合成ボロシリケート及びR−1シリカライトを用い、脱着圧力を0.05atmから0.3atmまで変化させてオゾン濃縮率を調べ、脱着圧力の依存性を調べた。本実施例でも、実施例1と同じ装置を用い、吸着温度は−60℃及び25℃であり、吸着圧力は1.05atmに設定した他は実施例1と同様にオゾンの濃縮実験を行った。結果を表5に示し、図10にプロットして示す。
【0051】
【表5】

【0052】
表5及び図10から明らかな通りに、吸着温度−60℃と25℃との両方において、ボロシリケートのオゾン濃縮率は、シリカライトに比べて、大きかった。ボロシリケートのオゾン濃縮率は、吸着温度−60℃と25℃とでほとんど差がないが、シリカライトのオゾン濃縮率は、吸着温度が高い程、小さい値を示した。また、脱着圧力が低くなるに従ってオゾン濃縮率に差が生じた。これより、本発明の方法において、ボロシリケートを吸着剤として使用する場合に、本発明の方法を室温のような高い温度で実施するのが特に有利になるのが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】水熱合成法で合成したペンタシル型ボロシリケートのX線回折ピークである。
【図2】含浸法で合成したペンタシル型ボロシリケートのX線回折ピークである。
【図3】低温合成法で合成したメソポーラス型シリコアルミノホスフェートのX線回折ピークである。
【図4】水熱合成法で合成した部分的にSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライトのX線回折ピークである。
【図5】含浸法で合成した部分的にSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライトのX線回折ピークである。
【図6】本発明の方法を実施する高濃度オゾン製造装置の一例を示す概略図であり、無声放電オゾン発生装置に2塔式のオゾン濃縮用PSA装置を組み合わせたものである。
【図7】本発明の各種吸着剤及び比較用吸着剤を使用した場合のオゾン濃縮率を比較したグラフである。
【図8】−60℃において、サイクルタイムを変化させたときのオゾン含有ガスの処理ガス量を示したグラフである。
【図9】25℃において、サイクルタイムを変化させたときのオゾン含有ガスの処理ガス量を示したグラフである。
【図10】本発明において使用する各種吸着剤及び参照シリカライトを図1の装置の吸着塔に充填し、脱着圧力を変化させたときのオゾン濃縮率を示したグラフである。
【符号の説明】
【0054】
1 無声放電オゾン発生装置
6、7 吸着塔
9 コンプレッサー
23 PSA酸素濃縮装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オゾン吸着剤床を収容した吸着塔にオゾン含有ガスを導入して吸着剤にオゾンを吸着させ、吸着が完了したらオゾン含有ガスの導入を停止し、吸着剤床の圧力を下げて吸着剤床からオゾンを脱着させて濃縮オゾンガスを回収する高濃度オゾンガスの製造・貯蔵方法であって、前記オゾン吸着剤として、(1)ペンタシル型ボロシリケート、(2)メソポーラス型シリコアルミノホスフェート(SAPO)、及び(3)部分的にSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライトの群から選ばれた少なくとも一種を用いる高濃度オゾンガスの製造・貯蔵方法。
【請求項2】
吸着剤床を収容した吸着塔が並列に2以上存在し、1つの吸着塔にオゾン含有ガスを導入して吸着剤にオゾンを吸着させる吸着工程に在る間に、吸着工程を完了した別の吸着塔の圧力を下げて吸着剤床からオゾンを脱着させて濃縮オゾンガスを回収する脱着工程を施し、次いでオゾン含有ガスの導入を、吸着工程を完了した吸着塔から、脱着工程を完了した吸着塔に切り換え、上記の工程を繰り返す、高濃度オゾンガスの製造・貯蔵方法であって、前記オゾン吸着剤として、(1)ペンタシル型ボロシリケート、(2)メソポーラス型シリコアルミノホスフェート(SAPO)、及び(3)部分的にSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライトの群から選ばれた少なくとも一種を用いる高濃度オゾンガスの製造・貯蔵方法。
【請求項3】
前記ペンタシル型ボロシリケートが、水熱合成によって得られ、SiO2/B23モル比20〜3000を有するホウ素含有シリカライトである請求項1又は2に記載の高濃度オゾンガスの製造・貯蔵方法。
【請求項4】
前記ペンタシル型ボロシリケートが、含浸法によって得られ、SiO2/B23モル比50〜3000を有するホウ素含有シリカライトである請求項1又は2に記載の高濃度オゾンガスの製造・貯蔵方法。
【請求項5】
前記メソポーラス型シリコアルミノホスフェートが、SiO2/P25モル比20〜3000を有する請求項1又は2に記載の高濃度オゾンガスの製造・貯蔵方法。
【請求項6】
前記部分的にSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライトが、水熱合成によって得られ、SiO2/P25モル比20〜3000を有する請求項1又は2に記載の高濃度オゾンガスの製造・貯蔵方法。
【請求項7】
前記部分的にSAPO構造を有するペンタシル型ゼオライトが、含浸法によって得られ、SiO2/P25モル比は50〜3000を有する請求項1又は2に記載の高濃度オゾンガスの製造・貯蔵方法。
【請求項8】
オゾン含有ガスを、無声放電オゾン発生装置によって発生させる請求項1〜7のいずれか1に記載の高濃度オゾンガスの製造・貯蔵方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−105606(P2007−105606A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298063(P2005−298063)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(000173647)財団法人産業創造研究所 (17)
【Fターム(参考)】