説明

吸着材用アクリル系樹脂粒子、その製造方法、水処理用カラム、および水処理方法

【課題】
本発明が解決しようとする課題は、吸着量が多い吸着材用アクリル系樹脂粒子、その製造方法、水処理用カラム、および水処理方法を提供することにある。
【解決手段】
本発明の一態様は、平均径が100μm以上5000μm以下で細孔を有する樹脂粒子であり、樹脂粒子の表面から半径の30%以内にある部分における細孔分布のピークが1nm以上100nm以下にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、吸着材用アクリル系樹脂粒子、その製造方法、水処理用カラム、および水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業の発達や人口の増加により水資源の有効利用が求められている。そのためには、廃水の再利用が非常に重要である。これらを達成するためには水の浄化、すなわち水中から他の物質を分離することが必要である。液体からほかの物質を分離する方法としては各種の方法が知られており、たとえば膜分離、遠心分離、活性炭吸着、オゾン処理、凝集による浮遊物質の除去などが挙げられる。このような方法によって、水に含まれるリンや窒素などの環境に影響の大きい化学物質を除去したり、水中に分散した油類、クレイなどを除去したりすることができる。
【0003】
また水中に溶解しているイオンを除去する水処理の方法としては、膜による分離や、電気的分離、イオン交換、凝集沈殿などが知られている。この中でも特にランニングコストが少なく、汚泥が発生しにくい除去方法であるイオン交換が広く使用されている。例えば、ホウ酸イオンの除去において、イオン交換に用いる吸着材としては、グルカミン型の吸着材が知られている。
【0004】
従来、水処理用の吸着材を合成するときには、懸濁重合を行い、ビーズ状に形成したポリマーを用いていた。しかし、このようにして得られる担体は表面積が小さい。水処理で用いる吸着材は、水との接触効率を高くするため、表面積が高いものが望まれる。そこで、吸着材を多孔質にするために、懸濁重合時に多孔質化剤を加える方法が開示されている。しかし、この方法で得られる吸着担体は、強度が弱く、生成後に洗浄を行う際に圧壊してしまう虞があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−66153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、吸着量が多く強度が高い吸着材用アクリル系樹脂粒子、その製造方法、水処理用カラム、および水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の吸着材用アクリル系樹脂粒子は、平均径が100μm以上5000μm以下で細孔を有する樹脂粒子であり、樹脂粒子の表面から半径の30%以内にある部分における細孔分布のピークが1nm以上100nm以下にある。
【0008】
本発明の一態様の吸着材用アクリル系樹脂粒子の製造方法は、原料のアクリル系樹脂粒子を、アルコールを含む液体で洗浄する。
【0009】
本発明の一態様の水処理用カラムは、吸着材用アクリル系樹脂粒子が充填される。
【0010】
本発明の一態様の処理方法は、水処理用カラムに通水して水を浄化して行う。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態における樹脂粒子を示す模式図である。
【図2】実施形態における水処理に用いる装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。
【0014】
(第1の実施形態)
吸着材として用いる吸着材用樹脂粒子は、カラム(Column)に充填されて水処理に用いられる。カラムの入り口から吸着する目的のイオンを含んだ水を入れると、目的のイオンは吸着材に吸着され、目的のイオンが取り除かれた水がカラムの出口から出る。
【0015】
図1は、樹脂粒子の断面を示す模式図である。
【0016】
このような樹脂粒子1の平均径は100μm以上5000μm以下である。
【0017】
また、樹脂粒子には、多数の細孔2が形成されている。細孔は、樹脂粒子内部に独立に又は連続的に形成されている。それぞれの細孔は、樹脂粒子の表面と連続している凹状のものや、樹脂粒子の表面と連続していないものがある。
【0018】
樹脂粒子の表面から半径の30%以内にある部分について説明する。この部分は、すなわち、樹脂粒子の表面付近である。この部分の細孔分布は、1nm以上100nm以内にピークを有する。言い換えると、この部分にある細孔は、主に1nm以上100nm以内の径を有する。ここで、樹脂粒子の半径は、樹脂粒子の一断面における長径の2分の1とする。また、細孔の径は、一断面における長径とする。
【0019】
このような樹脂粒子は、細孔の内部に水を拡散させてイオンを吸着する。樹脂粒子は、細孔が形成されている分表面積が広いので、イオンを多量に吸着することができる。
【0020】
樹脂粒子の平均粒径を100μm以上5000μm以下とすると、カラムへの充填率の高さと通水のしやすさとを両立させることができる。平均粒子径が100μm以下であると、カラムに対する吸着材の充填率が高くなり通水がしにくくなる。平均粒径が5000μm以上であると、カラムの充填率が低くなり、通水はしやすくなるが、単位体積あたりの吸着材がイオンを吸着する量が少なくなる。平均粒径は、篩い分け法により測定することができる。具体的には、JISZ8901「試験用粉体及び試験用粒子」に従い、目開きが100μmから5000μmの間であるふるいを複数個用いて篩い分けることにより測定することができる。
【0021】
樹脂粒子の表面付近にある細孔の径は、1nm以上100nm以内であることが好ましい。孔径が1nm未満であると、水分子が細孔内に拡散する速度が遅くなり、イオンを吸着する効率が悪くなる。一方、細孔径が100nmより大きいと、樹脂粒子の体積あたりの吸着量が減少する虞がある。
【0022】
細孔径は、走査型電子顕微鏡で直接観察して測定することができる。具体的には、例えば、走査型電子顕微鏡で3万倍の倍率で樹脂粒子の断面を観察した画像から細孔径を測定する。細孔分布を測定する際には、例えば15万倍の倍率で測定し、1μm四方の範囲において細孔のサイズと数をカウントする方法がある。
【0023】
樹脂粒子の表面付近の細孔は、樹脂粒子の一部を溶解させることによって形成するが、樹脂粒子の内部もしくは全体に細孔を分布させるようにすると、樹脂粒子の表面付近の細孔が大きくなりすぎる場合がある。このような場合には、樹脂粒子の強度を低下させたり、吸着作用を示す官能基の導入率が低下させたりする虞がある。そのため、樹脂粒子表面から半径の30%以内にある表面付近に細孔が存在することが望ましい。
【0024】
樹脂粒子のかさ密度は0.2g/cm〜1g/cmの範囲であることが好ましい。かさ密度が0.2g/cmより小さいと、体積を占める細孔の割合が多すぎて、樹脂粒子の強度を維持することが困難になる場合がある。かさ密度が1g/cmより大きいと、体積を占める細孔の割合が少なすぎて樹脂粒子の表面積が少なくなり、吸着材としての性能が落ちる。かさ密度とは、一定容量の容器に、例えば10cmなど一定の高さから樹脂粒子を入れ、容器いっぱいに充填してその重さを測ることにより測定できる。例えば、かさ密度測定器(アズワン、KAM−01)などを用いて測ることができる。
【0025】
本実施形態における吸着材用アクリル系樹脂粒子は、アクリル酸エステルもしくはメタクリル酸エステル構造を有するポリマー粒子である。樹脂粒子としては、例えば(1)式で表される構造単位を有するアクリル系樹脂を用いることができる。
【化1】

【0026】
は、メチル基もしくは水素である。Rは、ヘテロ元素を含む炭素数1〜20のアルキル基または芳香族炭化水素基であり、さらにイオンを吸着するための官能基を有する。イオンを吸着するための官能基とは、具体的には、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、ニトロ基、シアノ基、カルボニル基、アリル基などである。nは構造単位の重合度を表す自然数である。
【0027】
(第2の実施形態)
以下に、吸着材用アクリル系樹脂粒子を製造する方法について説明する。
【0028】
すなわち、アクリル酸エステルモノマーを重合させてアクリル酸エステル樹脂を生成し、これを原料とする。アクリル酸エステル樹脂に官能基を付加する。その後、この官能基をエポキシ基と置換し、さらに吸着するイオンとの(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレー親和性が高い官能基をエポキシ基に導入することによって吸着材用アクリル系樹脂粒子を得る。
【0029】
まず、アクリル酸エステル樹脂を生成する方法について説明する。
【0030】
アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類;ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等の非架橋性(メタ)アクリル酸エステル単量体等が挙げられる。これらの中でも特に(メタ)アクリル酸エステル単量体が好適に用いられる。
【0031】
アクリル酸エステル樹脂は、このようなアクリル酸エステルモノマーを懸濁重合、乳化重合、塊重合、溶液重合、ソープフリー重合、沈殿重合等の汎用の合成法を用いて得ることができる。
【0032】
上述のようにして得たアクリル酸エステル樹脂は、その分子量を、例えば1万以上、特には20万以上に増大させるに際して、オレフィンを含む架橋剤を用いて架橋することができる。
【0033】
このようなオレフィンを含む架橋剤としては、目的とするポリマー粒子に応じて架橋しうるポリビニルモノマーが挙げられ、例えばジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、トリビニルベンゼン、1、3、5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−1、3、5−トリアジン等の芳香族ポリビニルモノマー、ジアクリル酸エチレングリコールエステル、ジメタクリル酸エチレングリコールエステル、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジアクリル酸ブチレングリコールエステル、ジメタアクリル酸ブチレングリコールエステル等の脂肪族ポリビニルモノマーなどが挙げられる。これらは2種以上混合して用いてもよい。これらの中でも、芳香族ポリビニルモノマー、特にジビニルベンゼンを用いるのが好ましい。
【0034】
オレフィンを含む架橋剤の使用量は、樹脂粒子の特性に応じて任意の添加量とすることができ、特に限定されるものではないが、通常、全モノマー重量に対し0.5〜90質量%とすることができる。
【0035】
また、上述したモノマーを重合させるに際しては適宜重合開始剤を用いることができる。このような重合開始剤としては、油溶性ラジカル発生剤が用いられ、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、第3級ブチルヒドロキシパーオキシドなどの過酸化物触媒や、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ触媒が挙げられる。重合開始剤の使用量は、通常、モノマー成分に対して、500〜30000ppm、好ましくは500〜10000ppmである。
【0036】
さらに、上述したモノマーに対して分散安定剤を用いてもよく、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ゼラチン、デンプンなどの水溶性高分子化合物が挙げられる。分散安定剤の使用量は、通常、モノマー層に対して0.001質量%〜1質量%であることが好ましく、さらには0.01質量%〜0.1質量%であることが好ましい。
【0037】
その他、多孔質化剤として、有機溶媒や無機塩を反応系内に加えてもよい。但し、有機溶媒や無機塩によって形成される孔は、孔径が大きくなりやすいので、樹脂粒子に多く形成しすぎると樹脂粒子の強度が弱くなる虞がある。従って、樹脂粒子の強度が弱くならない程度に多孔質化剤を加える。
【0038】
合成後、未反応のモノマーもしくはオリゴマーを除くため、生成物を水やアルコールなどで洗浄する。これら洗浄液に用いる溶媒は生成物を完全に溶解するものでなければ特に制限はないが、操作性の観点からアルコールで洗浄することが望ましい。アルコール中に他の溶媒を混合してもよく、例えば水と混合することにより、水溶性と脂溶性の化合物の両方を除くことができるようになる。洗浄温度は室温以上であることが望ましく、洗浄時間は1時間以上であることが望ましい。この温度・時間以下であると洗浄効果は現れにくい。この洗浄操作を行うことにより、樹脂表面に1nmから100nmの細孔が形成される。この細孔の大きさは、温度や溶媒の組成を変えることによって制御することができる。樹脂粒子表面から半径の30%以内に細孔を得るためには、温度は70℃以下であることが望ましく、溶媒はアルコールと水の混合溶媒であることが望ましい。例えば水とアルコールの比率は、10:90から90:10の範囲内が好ましく、さらに好ましくは50:50から90:10の範囲内である。
【0039】
なお、アクリル酸エステル樹脂の重合度は10以上1000000以下であり、好ましくは100以上であり、特に好ましくは10000以上である。重合度が10未満であると、分子量が小さすぎてアクリル酸エステル樹脂の軟化点が低くなり、室温において粒子状(固体)として存在できない。このような場合には、上述のような樹脂粒子の構造を維持できず、水との接触面積が小さくなる虞がある。一方、重合度が1000000を超えると、アクリル系エステル樹脂を構成するアクリル酸エステル樹脂の分子量が大きくなり過ぎて反応性が低下する虞がある。アクリル酸エステル樹脂は、他の化合物と反応して吸着材となる樹脂粒子を生成するので、アクリル酸エステル樹脂の反応性が低いと、吸着材となる樹脂粒子を生成しにくくなる。重合度が100以上であると、アクリル酸エステル樹脂が室温で固体として存在しやすくなり、重合度が10000以上であると、使用に耐えうる強度を持ちやすくなる。
【0040】
また、上記アクリル酸エステル樹脂の分子量は、ポリスチレン換算平均分子量で1万以上が好ましく、さらには20万以上であることが好ましい。1万より小さい分子量のアクリル酸エステル樹脂と化合物を反応させて、アクリル酸エステル樹脂に親水性の官能基を付加する場合、この生成物に水に浸漬すると軟化して使用が困難になる場合がある。分子量の上限は特にないが、好ましくは300万以下である。分子量が大きくなればなるほどアクリル酸エステル樹脂の反応性が低下するためである。
【0041】
ポリスチレン換算分子量の測定方法は以下の通りである。すなわち、上記アクリル酸エステル樹脂をテトラヒドロフランに溶解し、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)で保持時間を測定し、標準物質である分子量が制御されたポリスチレンと比較して、ポリスチレン換算分子量を算出する。
【0042】
次に、アクリル酸エステル樹脂に官能基を付加する方法について説明する。
【0043】
アクリル酸エステル樹脂を、例えばアミノ化合物でアミノリシスすることにより、アクリル酸エステル樹脂にアミノ基または水酸基を付加することができる。アミノ基や水酸基は、後の反応でエポキシ基に置換されやすい。また、エポキシ基を導入しなくても、アミノ基や水酸基がそのまま吸着基として作用させることができる。
【0044】
アミノリシスに使うアミノ化合物は、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、アミノエチル-ピペラジン、N、N−ジメチルエチレンジアミン、N−ジメチルプロピレン−1、3−ジアミン、トリス(2−アミノエチル)アミンなどの鎖状のアミノ化合物が挙げられる。また、メンセンジアミン、イソフォロンジアミン、ジアミノジンクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、キシレンジアミン、メタフェニレンジアミンの環状のアミノ化合物や、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、2−アミノ−2−( ヒドロキシメチル)−1、3−プロパンジオール、3−アミノ−1、2− プロパンジオール、2−アミノ−1、3− プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1、3− プロパンジオール、3−ジメチルアミノ−1、2− プロパンジオール、3−ジエチルアミノ−1、2− プロパンジオールなどのアミノポリオールも挙げられる。
【0045】
続いて、樹脂粒子のアミノ基や水酸基をエポキシ基で置換する方法について説明する。
【0046】
この段階における樹脂粒子は、(1)式においてRを、エポキシ基を有しかつヘテロ元素を含む炭素数1〜20のアルキル基または芳香族炭化水素基とした構造である。ここで、エポキシ基はRに1つ以上含まれていればよく、複数含まれていても構わない。エポキシ基は反応性に富み、エポキシ基が開環することによって種種の官能基と反応させることができる。 したがって、エポキシ基を有する樹脂粒子は吸着する目的のイオンに応じて様々な樹脂粒子を生成することができる。
【0047】
樹脂粒子と反応させるための、エポキシ基を有する化合物としては、エピクロロヒドリンやエピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、4-クロロ-1,2エポキシブタン、4-ブロモ-1,2エポキシブタンが挙げられる。
【0048】
続いて、樹脂粒子のエポキシ基をイオンと親和性の高い官能基で置換する方法について説明する。
【0049】
ここではエポキシ基を有する樹脂粒子と、エポキシ基と反応する第1の官能基及び吸着するイオンに対して吸着性(反応性)を有する第2の官能基の両方を有する化合物とを反応させる。前記化合物は、樹脂粒子のエポキシ基と第1の官能基とを反応させて樹脂粒子と結合する。この結果、所定の物質に対して吸着性を有する第2の官能基を含む樹脂粒子を得ることができる。換言すれば、エポキシ基を有する樹脂粒子に対して簡単な修飾を施すことで種々の吸着材を提供することができる。
【0050】
エポキシ基と反応する第1の官能基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基などが挙げられる。
【0051】
第2の官能基としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基,チオール基,ニトロ基,シアノ基,カルボニル基,アリル基などが挙げられる。
【0052】
なお、第2の官能基は上記化合物中に当初から含まれていなくてもよく、エポキシ基と第1の官能基との反応の結果生成するような官能基であってもよい。
【0053】
例えばホウ酸イオンを吸着する場合には、化合物として以下のようなものを挙げることができる。すなわち、分子中に少なくとも1個のアミノ基と2個以上の水酸基を有するアミノポリオール化合物であり、具体的には、1−デオキシ−1−( メチルアミノ)ソルビトール[通称N−メチルグルカミン]、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、2−アミノ−2−( ヒドロキシメチル)−1、3−プロパンジオール、3−アミノ−1、2− プロパンジオール、2−アミノ−1、3− プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1、3− プロパンジオール、3−ジメチルアミノ−1、2− プロパンジオール、3−ジエチルアミノ−1、2− プロパンジオール等である。
【0054】
例えば、N−メチルグルカミン中には二級アミノ基と水酸基とが存在する。この二級アミノ基と水酸基とはどちらもエポキシ基と反応するが、二級アミノ基の方が、反応が早いため、このアミノ基が第1の官能基としてエポキシ基と反応する。その結果、多価水酸基が第2の官能基となってホウ酸イオンを吸着する。
【0055】
また、上記化合物として一級アミノ基を二つ有するジアミン化合物を用いると、金属イオンを吸着する樹脂粒子を生成できる。この場合、樹脂粒子の構造単位の分子量を十分に大きくすると、例えば10万程度にすると、二つのアミノ基の内の一方が第1の官能基としてエポキシ基と反応し、他方のアミノ基が第2の反応基となる。このアミノ基に、例えば鉄、カルシウム、ナトリウムが吸着される。
【0056】
樹脂粒子は、第2の置換基による吸着作用が主となるが、樹脂粒子の表面積やかさ密度を調節することによって、樹脂粒子の細孔内における吸着作用も十分に向上させることができる。(1)式中のアミノ基も配位結合に基づく吸着作用を有し、第2の置換基による吸着作用を補助する。
【0057】
このようにして得られる吸着材は、多量のイオンを吸着することができる。また、大きな孔を多く形成しないので、強度が高い。さらに、カラムに充填したときの通水性が良い。
【0058】
(第3の実施形態)
吸着材を用いて目的のイオンを吸着し水を浄化する方法について以下に説明する。ここでは目的のイオンをホウ酸イオンとして説明する。まず、吸着する操作に使用する装置について説明する。
【0059】
図2は、本実施形態におけるホウ酸イオン吸着に使用する装置の概略構成を示す図である。図2に示すように、本装置においては、上述したホウ酸イオン吸着材が充填された吸着手段T1及びT2が並列に配置されるとともに、吸着手段T1及びT2の外方には接触効率促進手段X1及びX2が設けられている。接触効率促進手段X1及びX2は、機械攪拌装置又は非接触の磁気攪拌装置とすることができるが、必須の構成要素ではなく省略してもよい。
【0060】
また、吸着手段T1及びT2には、供給ラインL1、L2及びL4を介して、ホウ酸イオンを含む被処理媒体が貯留された被処理媒体貯留タンクW1が設けられており、排出ラインL3、L5及びL6を介して外部に接続されている。さらに、吸着手段T1及びT2には、供給ラインL11、L12及びL14を介して、脱離媒体が貯留された脱離媒体貯留タンクD1が接続されており、排出ラインL13、L15及びL16を介して、脱離媒体回収タンクR1が接続されている。
【0061】
なお、吸着手段T1及びT2は、それぞれ上述したようなホウ酸イオン吸着材、例えば(1)式で示される構造単位を有するホウ酸イオン吸着材が充填されてなるカラムを含んでいる。
【0062】
なお、供給ラインL1、L2、L4、L12及びL14には、それぞれバルブV1、V2、V4、V12及びV14が設けられており、排出ラインL3、L5、L13、L15及びL16には、それぞれバルブV3、V5、V13、V15及びV16が設けられている。また、供給ラインL1及びL11にはポンプP1及びP2が設けられている。さらに、被処理媒体貯留タンクW1、供給ラインL1及び排出ラインL6には、それぞれ濃度測定手段M1、M2及びM3が設けられ、脱離媒体貯留タンクD1、排出ラインL16及び脱離媒体回収タンクR1には、それぞれ濃度測定手段M11、M12及びM13が設けられている。
【0063】
また、上述したバルブ、ポンプの制御及び測定装置における測定値のモニタリングは、制御手段C1によって一括集中管理されている。
【0064】
次に、図1に示す装置を用いたホウ酸イオンの吸着操作について説明する。
【0065】
最初に、吸着手段T1及びT2に対して、被処理媒体をタンクW1からポンプP1により供給ラインL1、L2及びL4を通じて吸着手段T1及びT2に供給する。このとき、前記被処理媒体中のホウ酸イオンは吸着手段T1及びT2(のカラム中に充填されたホウ酸イオン吸着材)に吸着され、吸着後の前記被処理媒体は排出ラインL3、L5及びL6を通じて外部に排出される。
【0066】
この際、必要に応じて接触効率促進手段X1及びX2を駆動させ、吸着手段T1及びT2内に充填されたホウ酸イオン吸着材と前記被処理媒体との接触面積を増大させ、吸着手段T1及びT2によるホウ酸イオンの吸着効率を向上させることができる。
【0067】
ここで、吸着手段T1及びT2の、供給側に設けた濃度測定手段M2と排出側に設けた濃度測定手段M3により吸着手段T1及びT2の吸着状態を観測する。吸着が順調に行われている場合、濃度測定手段M3により測定されるホウ酸イオンの濃度は、濃度測定手段M2で測定されるホウ酸イオンの濃度よりも低い値を示す。しかしながら、吸着手段T1及びT2におけるホウ酸イオンの吸着が次第に進行するにつれ、供給側及び排出側に配置された濃度測定手段M2及びM3における前記ホウ酸イオンの濃度差が減少する。
【0068】
したがって、濃度測定手段M3が予め設定した所定の値に達し、吸着手段T1及びT2によるホウ酸イオンの吸着能が飽和に達したと判断した場合は、濃度測定手段M2、M3からの情報に基づき、制御手段C1がポンプP1を一旦停止し、バルブV2、V4を閉め、吸着手段T1及びT2への前記被処理媒体の供給を停止する。
【0069】
なお、図1には図示していないが、前記被処理媒体のpHが変動する場合、あるいはpHが強酸性あるいは強塩基性であって本実施形態に係る吸着材に適したpH領域を外れている場合には、濃度測定手段M1または/およびM2により前記被処理媒体のpHを測定し、制御手段C1を通じて前記被処理媒体のpHを調整してもよい。
【0070】
吸着手段T1及びT2が飽和に達した後は、脱離媒体貯留タンクD1からポンプP2により供給ラインL11、L12及びL14を通じて脱離媒体が吸着手段T1及びT2に供給される。吸着手段T2に吸着されているホウ酸イオンは、前記脱離媒体中に溶出(脱離)し、排出ラインL13、L15及びL16を通じて吸着手段T1及びT2の外部に排出され、回収タンクR1に回収される。なお、回収タンクR1に回収することなく、外部に排出するようにすることもできる。また、析出させてホウ酸イオンを濾別して回収してもよい。
【0071】
吸着手段T1及びT2から前記脱離媒体によるホウ酸イオンの脱離が順調に行われている場合、前記脱離媒体の、排出側に設けた濃度測定手段M12により測定されるホウ酸イオンの濃度は、供給側に設けた濃度測定手段M11よりも高い値を示す。しかしながら、吸着手段T1及びT2におけるホウ酸イオンの脱離が次第に進行するにつれ、供給側及び排出側に配置された濃度測定手段M11及びM12における前記ホウ酸イオンの濃度差が減少する。
【0072】
したがって、濃度測定手段M12が予め設定した所定の値に達し、前記脱離媒体による吸着手段T1及びT2によるホウ酸イオンの脱離能が飽和に達したと判断した場合は、濃度測定手段M11、M12からの情報に基づき、制御手段C1がポンプP2を一旦停止し、バルブV12、V14を閉め、吸着手段T1及びT2に対する前記被処理媒体の供給を停止する。
【0073】
以上のようにして、吸着手段T1及びT2からのホウ酸イオンの脱離が完了した後は、再び被処理媒体貯留タンクW1から前記被処理媒体を供給し、ホウ酸イオンを吸着して前記被処理媒体中のホウ酸イオンを低減させることができる。
【0074】
なお、濃度測定手段M13は、脱離媒体回収タンクR1中のホウ酸イオンの濃度を必要に応じて適宜測定するように構成されている。
【0075】
また、上記例では、吸着手段T1及びT2に対して同時にホウ酸イオンを吸着させるとともに、ホウ酸イオンを脱離させるようにしているが、吸着手段T1及びT2でこれらの操作を交互に行うこともできる。例えば、吸着手段T1で最初にホウ酸イオンの吸着を行い、吸着能が飽和に達した後、吸着手段T1に対して上述のようなホウ酸イオンの脱離を行うとともに、同時に吸着手段T2でホウ酸イオンの吸着を行うようにすることもできる。
【0076】
この場合、図1に示す装置においては、吸着手段T1又はT2のいずれかにおいて常にホウ酸イオンの吸着を行うことができるので、連続運転が可能となる。
【0077】
上記脱離媒体としては、pH1〜5程度の希塩酸水溶液または希硫酸水溶液等の酸性溶媒を用いることができる。また、前記脱離溶媒の量は、吸着手段T1及びT2の容積の2倍以上10倍以下であることが好ましい。2倍よりも小さいと、ホウ酸イオンの脱離を十分効率良く実施することができない場合があり、10倍よりも大きいと薬剤コストが高くなって、非効率的である。
【0078】
次に、実施例と比較例について具体的に説明する。
【0079】
(実施例1)
樹脂粒子の合成について説明する。
【0080】
アクリル酸メチル(モノマー)とジビニルベンゼン(架橋剤)とを、塩化ナトリウム及びポリビニルアルコール(分散剤)の存在下でアゾビスイソブチロニトリルを反応開始剤として水中で懸濁重合を行った。これにより、平均粒径300μmの球状粒子を得た。なお、懸濁重合は水中において、80℃で8時間実施した。反応終了後、エタノール:水=80:20の混合溶媒を用いて24時間室温で洗浄した。
【0081】
このアクリル系樹脂1gをエチレンジアミン50ml中で100℃に加熱した。ろ過、洗浄を行った後、得られた樹脂1gとエピクロロヒドリン10mlを30wt%NaOH水溶液5ml中に投入した。60℃で攪拌しながら、60mlのエピクロロヒドリンを添加し、7時間反応させた。反応後、ろ過し、十分水で洗浄させて平均粒子径335μmの樹脂粒子を得た。粒子の表面から粒子半径の30%以内にある細孔径の分布は、ピークが41nmであった。
【0082】
吸着材の合成について説明する。
【0083】
得られた反応物1gとN−メチルグルカミン2gとを、メタノール50ml中に投入し、60℃で6時間反応させた。反応後に、水とメタノールとで洗浄し、乾燥させて吸着材を得た。
【0084】
(実施例2)
実施例1においては、アクリル系樹脂の合成に用いるアミノ化合物をエチレンジアミンとしたが、代わりにトリス(2−アミノエチル)アミンを用い、溶媒をジメチルスルホキシドとしたこと以外は実施例1と同様に一連の合成を行った。
【0085】
得られた粒子の平均粒子径は314μmであった。粒子の表面から粒子半径の30%以内にある細孔径の分布は、ピークが22nmであった。
【0086】
(実施例3)
実施例1においては、アクリル系樹脂の合成に用いるアミノ化合物をエチレンジアミンとしたが、代わりにジエチレントリアミンを用い、溶媒をジメチルスルホキシドとしたこと以外は実施例1と同様に一連の合成を行った。
【0087】
得られた粒子の平均粒子径は351μmであった。粒子の表面から粒子半径の30%以内にある細孔径の分布は、ピークが78nmであった。
【0088】
(実施例4)
実施例1においては、吸着材の合成に用いるポリオールをN−メチルグルカミンとしたが、代わりにトリス(2−アミノエチル)アミンを用いたこと以外は実施例1と同様に一連の合成を行った。
【0089】
得られた粒子の平均粒子径は330μmであった。粒子の表面から粒子半径の30%以内にある細孔径の分布は、ピークが47nmであった。
【0090】
(比較例1)
懸濁重合時にセルロースをモノマーと一緒に加えること以外は実施例1と同様に一連の合成を行った。このホウ素吸着樹脂は表面から内部まで均一に20〜60μmの細孔が存在する樹脂である。
【0091】
(比較例2)
懸濁重合後の洗浄操作をエタノール・水の混合溶媒から水に変更したこと以外は実施例1と同様に一連の合成を行った。
【0092】
(比較例3)
懸濁重合の反応時間を3時間と変更したこと以外は実施例1と同様に一連の合成を行った。このホウ素吸着樹脂は平均粒子径が30μmの樹脂である.
(吸着試験)
上述のようにして得たホウ酸イオン吸着性樹脂を用いて、ホウ酸イオンの吸着性能の試験を行った。
【0093】
ホウ酸イオン吸着試験にあたっては、ホウ砂十水和物(Na・10HO)を純水に溶解し、500ppmBの濃度にして試験の溶液を調整した。この溶液50mlに樹脂粒子を1g加え、ミキサーで撹拌した。このようにして得た樹脂粒子をカラムに充填して、カラムに水を通した。カラムに水を通し始めてから2時間後に、カラムから出てくる被処理水中に含まれるホウ酸イオン濃度をICP発光分析装置で測定した。被処理水中に含まれる残留ホウ酸イオン濃度から、樹脂粒子の単位質量あたりのホウ酸イオン吸着量(単位:mg−B/g)を計算した。
【0094】
(圧縮試験)
上述のようにして得られた吸着材について、オートグラフで圧縮試験を行った。試験は島津社製のマイクロオートグラフMST−Iを用い、試験力0.03N、速度0.5mm/minで行った。
【0095】
(カラム通水試験)
合成した吸着材を100mlのポリプロピレン製カラムに充填した。20ppmのホウ素を含有する試験液を一時間当たり600ml通水した。カラム通水試験は、通水状態は通水が良好であれば○、不良であれば×でそれぞれ示した。
【0096】
実施例1、2及び比較例1、2で得た吸着材それぞれについて、吸着試験と圧縮試験,カラム通水試験の結果を表1に示す。
【表1】

【0097】
表1から明らかなように、実施例1、2の吸着材は、ホウ酸イオン吸着性に優れるとともに、高い圧縮強度を保持している。さらに、実施例1、2の吸着材はカラムに充填したときの通水性にも優れる。
【0098】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。本発明の実施形態は、これらの具体例に限定されるものではない。当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
【0099】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0100】
T1、T2・・・吸着手段 X1、X2・・・接触効率促進手段 L1、L2、L4・・・供給ライン W1・・・被処理媒体貯留タンク L3、L5、L6・・・排出ライン L11、L12、L14・・・供給ライン D1・・・脱離媒体貯留タンク L13、L15、L16・・・排出ライン R1・・・脱離媒体回収タンク V1、V2、V3、V4、V5、V12、V13、V14、V15、V16・・・バルブ P1、P2・・・ポンプ M1、M2、M3、M11、M12、M13・・・濃度測定手段 C1・・・制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均径が100μm以上5000μm以下で細孔を有する樹脂粒子であり、樹脂粒子の表面から半径の30%以内にある部分における細孔分布のピークが1nm以上100nm以下にある吸着材用アクリル系樹脂粒子。
【請求項2】
(1)式の構造単位を有する請求項1に記載の吸着材用アクリル系樹脂粒子。(Rはメチル基または水素、Rはヘテロ元素を含む炭素数1以上20以下のアルキル基または芳香族炭化水素基)
【化1】

【請求項3】
はエポキシ基を有する請求項2に記載の吸着材用アクリル系樹脂粒子。
【請求項4】
は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、ニトロ基、シアノ基,カルボニル基、アリル基を有する請求項2に記載の吸着材用アクリル系樹脂粒子。
【請求項5】
はポリオール基を有する請求項4に記載の吸着材用アクリル系樹脂粒子。
【請求項6】
原料のアクリル系樹脂粒子を、アルコールを含む液体で洗浄する請求項2に記載の吸着材用アクリル系樹脂粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項2に記載の吸着材用アクリル系樹脂粒子が充填された水処理用カラム。
【請求項8】
請求項5に記載の水処理用カラムに通水して水を浄化する水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−120983(P2012−120983A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274043(P2010−274043)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】