吸着水分測定方法
【課題】ガラス基板の表面に吸着した水分量を簡便に測定することができる吸着水分測定方法を提供すること。
【解決手段】ガラス基板の表面に吸着した水分量を測定するための方法であって、通過する赤外光の空気中行程長が略同一となる態様で、異なる枚数毎および/または異なる厚さ毎にガラス基板を設置して複数の検査用ケースを構成する設置工程と、検査用ケースのそれぞれについて異なる2つの湿度条件下での通過する赤外光の吸収を測定する測定工程と、検査用ケースから少なくとも2つ以上を選択し、選択したものについて測定工程を通じて測定されたそれぞれの湿度条件下での赤外光吸収の差を算出する第1算出工程と、第1算出工程で算出した赤外光吸収の差に基づき、異なる湿度条件下における赤外光吸収の差を算出する第2算出工程とを含むものである。
【解決手段】ガラス基板の表面に吸着した水分量を測定するための方法であって、通過する赤外光の空気中行程長が略同一となる態様で、異なる枚数毎および/または異なる厚さ毎にガラス基板を設置して複数の検査用ケースを構成する設置工程と、検査用ケースのそれぞれについて異なる2つの湿度条件下での通過する赤外光の吸収を測定する測定工程と、検査用ケースから少なくとも2つ以上を選択し、選択したものについて測定工程を通じて測定されたそれぞれの湿度条件下での赤外光吸収の差を算出する第1算出工程と、第1算出工程で算出した赤外光吸収の差に基づき、異なる湿度条件下における赤外光吸収の差を算出する第2算出工程とを含むものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着水分測定方法に関し、より詳細には、赤外光を透過してガラス基板の表面に付着した水分を測定する吸着水分測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、生産現場や商品保管庫等における空気中の化学物質がガラス基板の表面に吸着すると、かかる吸着物質が製造工程のプロセスに作用し、品質に悪影響を与える虞れがある。ところで、ガラス基板の表面における化学物質の吸着においては、ガラス基板の表面における水分吸着量が大きく影響することが知られている。つまり、ガラス基板の表面に水分が吸着することで、表面の物理的・化学的特性が変化し、これにより吸着する化学物質の種類や量が変化する。このようにガラス基板の表面に吸着する水分は、ガラス基板の表面に吸着する汚染物質(化学物質)の挙動に影響する重要なファクターである。
【0003】
一方、水分子は、赤外領域の特定波長(約1.2マイクロメートル、約1.45マイクロメートル、約1.94マイクロメートル)を吸収する性質を有していることが知られている。そこで、かかる性質を利用する赤外線水分計が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平6−288906号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上述したような赤外線水分計は、測定対象物のいわゆるパーセントオーダー(100分の1単位)の水分濃度を測定対象としており、ガラス基板に吸着した水分量の測定には感度が十分でなかった。またガラス基板の表面の吸着水分量を測定する場合、空気中の水分(水蒸気)も同時に測定してしまうために、ガラス基板の表面に吸着した水分と空気中の水分との切り分けができず、これによりガラス基板の表面に吸着した水分量を測定するには十分ではなかった。これにより、ガラス基板の表面に吸着する水分量を測定するための簡便な方法が求められている。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みて、ガラス基板の表面に吸着した水分量を簡便に測定することができる吸着水分測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る吸着水分測定方法は、ガラス基板の表面に吸着した水分量を測定するための方法であって、通過する赤外光の空気中行程長が略同一となる態様で、異なる枚数毎および/または異なる厚さ毎にガラス基板を設置して複数の検査用ケースを構成する設置工程と、前記設置工程で構成した検査用ケースのそれぞれについて異なる2つの湿度条件下での通過する赤外光の吸収を測定する測定工程と、前記設置工程で構成した検査用ケースから少なくとも2つ以上を選択し、選択した検査用ケースについて前記測定工程を通じて測定されたそれぞれの湿度条件下での赤外光吸収の差を算出する第1算出工程と、前記第1算出工程で算出した赤外光吸収の差に基づき、異なる湿度条件下における赤外光吸収の差を算出する第2算出工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2に係る吸着水分測定方法は、上述した請求項1において、前記測定工程における異なる2つの湿度条件下のうち一方は、十分に低い水分含有濃度を有する乾燥条件下にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の吸着水分測定方法によれば、設置工程において通過する赤外光の空気中行程長が略同一となる態様で、異なる枚数毎および/または異なる厚さ毎にガラス基板を設置して複数の検査用ケースを構成し、測定工程において設置工程で構成した検査用ケースのそれぞれについて異なる2つの湿度条件下での通過する赤外光の吸収を測定し、第1算出工程において設置工程で構成した検査用ケースから少なくとも2つ以上を選択し、選択した検査用ケースについて測定工程を通じて測定されたそれぞれの湿度条件下での赤外光吸収の差を算出し、第2算出工程において第1算出工程で算出した赤外光吸収の差に基づき、異なる湿度条件下における赤外光吸収の差を算出するので、赤外光吸収の差を数倍に増幅して検出することができ、これによりガラス基板の表面に吸着した水分量を良好な感度で、かつ空気中の水分の影響を除して測定することができる。従って、ガラス基板の表面に吸着した水分量を簡便に測定することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る吸着水分測定方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
<実施の形態1>
本発明の実施の形態1における吸着水分測定方法においては、反射光式赤外線水分計を用いた場合について説明する。ここで、反射光式赤外線水分計は、赤外光の発光部と受光部とが一体になったものと、それぞれが別になったものとがある。いずれの場合でも測定可能であるが、本実施の形態1では発光部と受光部とが一体になったものを例示して説明する。
【0012】
本実施の形態1における吸着水分測定方法は、設置工程と、測定工程と、第1算出工程と、第2算出工程とを含むものである。
【0013】
設置工程は、通過する赤外光の空気中行程長が略同一となる態様で、異なる枚数毎および/または異なる厚さ毎にガラス基板を設置して複数の検査用ケースを構成するものである。図1〜図4のそれぞれには、設置工程により構成される検査用ケースA〜Dを示している。
【0014】
図1の例では、反射光式赤外線水分計を構成する発光・受光部1から距離Laが空気層となるように厚みがLgのガラス基板10を1枚設置して検査用ケースAを構成してある。このガラス基板10の表面、すなわち発光・受光部1に対向する面には水分が吸着して厚みがLwの吸着水分層11が形成されるものとする。一方、ガラス基板10の裏面、すなわち発光・受光部1を設置した側とは反対側の面には、例えばアルミ蒸着等を施すことにより反射層12が形成してある。ここで、反射層12は、必ずしもガラス基板10の裏面に形成する必要はないが、ガラス基板10と反射層12との材質の違いによる水分吸着挙動の誤差を生じさせないためには反射層12をガラス基板10の裏面に直接形成することが望ましい。つまり、図1では、通過する赤外光の空気中行程長が2×Laとなる態様で、1枚のガラス基板10を設置して構成された検査用ケースAを示している。
【0015】
図2の例では、反射光式赤外線水分計を構成する発光・受光部1から距離L1が空気層となるように厚みがLgのガラス基板13を1枚設置するとともに、このガラス基板13から距離L2が空気層となるように厚みがLgのガラス基板14を1枚設置して検査用ケースBを構成してある。ガラス基板14の表面および裏面、並びにガラス基板14の表面には水分が吸着して厚みがLwの吸着水分層15,16,17が形成されるものとする。一方、ガラス基板14の裏面には、例えばアルミ蒸着等を施すことにより反射層18が形成してある。ここで、反射層18は、必ずしもガラス基板14の裏面に形成する必要はないが、ガラス基板14と反射層18との材質の違いによる水分吸着挙動の誤差を生じさせないためには反射層18をガラス基板14の裏面に直接形成することが望ましい。また、距離L1と距離L2とは、互いに加算すると距離Laになるような大きさである。つまり、図2では、通過する赤外光の空気中行程長が2×Laとなる態様で、2枚のガラス基板13,14を設置して構成された検査用ケースBを示している。
【0016】
図3の例では、反射光式赤外線水分計を構成する発光・受光部1から距離L3が空気層となるように厚みがLgのガラス基板19を1枚設置するとともに、このガラス基板19から距離L4が空気層となるように厚みがLgのガラス基板20を1枚設置し、更にこのガラス基板20から距離L5が空気層となるように厚みがLgのガラス基板21を1枚設置して検査用ケースCを構成してある。ガラス基板19,20の表面および裏面、並びにガラス基板21の表面には水分が吸着して厚みがLwの吸着水分層22,23,24,25,26が形成されるものとする。一方、ガラス基板21の裏面には、例えばアルミ蒸着等を施すことにより反射層27が形成してある。ここで、反射層27は、必ずしもガラス基板21の裏面に形成する必要はないが、ガラス基板21と反射層27との材質の違いによる水分吸着挙動の誤差を生じさせないためには反射層27をガラス基板21の裏面に直接形成することが望ましい。また、距離L3と距離L4と距離L5とは、加算すると距離Laになるような大きさである。つまり、図3では、通過する赤外光の空気中行程長が2×Laとなる態様で、3枚のガラス基板19,20,21を設置して構成された検査用ケースCを示している。
【0017】
図4の例では、反射光式赤外線水分計を構成する発光・受光部1から距離Laが空気層となるように厚みが3×Lgのガラス基板28を1枚設置して検査用ケースDを構成してある。このガラス基板28の表面、すなわち発光・受光部1に対向する面には水分が吸着して厚みがLwの吸着水分層29が形成されるものとする。一方、ガラス基板28の裏面、すなわち発光・受光部1を設置した側とは反対側の面には、例えばアルミ蒸着等を施すことにより反射層30が形成してある。ここで、反射層30は、必ずしもガラス基板28の裏面に形成する必要はないが、ガラス基板28と反射層30との材質の違いによる水分吸着挙動の誤差を生じさせないためには反射層30をガラス基板28の裏面に直接形成することが望ましい。つまり、図4では、通過する赤外光の空気中行程長が2×Laとなる態様で、厚みが図1〜図3に例示のものよりも大きい1枚のガラス基板28を設置して構成された検査用ケースDを示している。
【0018】
以上説明したような設置工程で構成した検査用ケースA〜Dに対して発光・受光部1から照射した赤外光は、反射層12,18,27,30で反射されて再び発光・受光部1に戻るまでに空気中の水分、ガラス表面に吸着した水分、ガラス基板28の内部により吸収・減衰されることになる。図1〜図4のそれぞれにおいて、発光・受光部1から照射され、反射層12,18,27,30で反射して再び発光・受光部1に戻るまでの間における空気中、ガラス基板10,13,14,19〜21,28の吸着水分層11,15〜17,22〜26,29、ガラス基板10,13,14,19〜21,28の内部のそれぞれの行程は図5に示す通りである。
【0019】
測定行程は、設置工程で構成した検査用ケースA〜Dのそれぞれについて異なる2つの湿度条件下での通過する赤外光の吸収を測定するものである。ここで、異なる2つの湿度条件として「湿度条件1」および「湿度条件2」とする。かかる湿度条件のうち一方は、十分に低い水分含有濃度を有する乾燥条件下であることが好ましい。
【0020】
湿度条件1での検査用ケースA〜Dの赤外光の吸収の測定結果は、図6のようになる。ここで、Aa1は湿度条件1における空気層の赤外光の吸収、Aw1は湿度条件1における吸着水分層の赤外光の吸収を示し、Agは湿度条件1におけるガラス基板10,13,14,19〜21,28の内部の赤外光の吸収を示している。尚、ガラス基板10,13,14,19〜21,28の内部の赤外光の吸収は湿度に依存しないため、Agとしている。
【0021】
湿度条件2での検査用ケースA〜Dの赤外光の吸収の測定結果は、図7のようになる。ここで、Aa2は湿度条件2における空気層の赤外光の吸収、Aw2は湿度条件2における吸着水分層の赤外光の吸収を示し、Agは湿度条件2におけるガラス基板10,13,14,19〜21,28の内部の赤外光の吸収を示している。尚、ガラス基板10,13,14,19〜21,28の内部の赤外光の吸収は湿度に依存しないため、Agとしている。
【0022】
第1測定工程は、設置工程で構成した検査用ケースA〜Dから少なくとも2つ以上を選択し、選択した検査用ケースA〜Dについて測定工程を通じて測定されたそれぞれの湿度条件下での赤外光吸収の差を算出するものである。本実施の形態1における第1測定工程では、検査用ケースAと検査用ケースBとを選択し、選択した検査用ケースA,Bについて測定工程を通じて測定された湿度条件1および湿度条件2での赤外光吸収の差を算出するものとする。湿度条件1および湿度条件2における検査用ケースAと検査用ケースBとの赤外光吸収の差はそれぞれ下記式(1)および(2)のようになる。
【0023】
式(1) 湿度条件1での差:(4×Aw1)+(2×Ag)
【0024】
式(2) 湿度条件2での差:(4×Aw2)+(2×Ag)
【0025】
第2算出工程は、第1算出工程で算出した赤外光吸収の差に基づき、異なる湿度条件下における赤外光吸収の差を算出するものである。すなわち、式(2)と式(1)との差を算出するものである。式(2)と式(1)との差は、下記式(3)のようになる。
【0026】
式(3) 式(2)−式(1):4×(Aw2−Aw1)
【0027】
上記式(3)により、湿度条件2と湿度条件1との異なる湿度条件における吸着水分層の赤外光吸収差(Aw2−Aw1)が4倍に増幅されて検出できることが理解される。
【0028】
以上説明したように、本発明の実施の形態1における吸着水分測定方法によれば、設置工程において通過する赤外光の空気中行程長が略同一となる態様で、異なる枚数毎および/または異なる厚さ毎にガラス基板10,13,14,19〜21,28を設置して複数の検査用ケースA〜Dを構成し、測定工程において設置工程で構成した検査用ケースA〜Dのそれぞれについて異なる2つの湿度条件下での通過する赤外光の吸収を測定し、第1算出工程において設置工程で構成した検査用ケースA〜Dから少なくとも2つ以上を選択し、選択した検査用ケースについて測定工程を通じて測定されたそれぞれの湿度条件下での赤外光吸収の差を算出し、第2算出工程において第1算出工程で算出した赤外光吸収の差に基づき、異なる湿度条件下における赤外光吸収の差を算出するので、赤外光吸収の差を数倍に増幅して検出することができ、これによりガラス基板10,13,14,19〜21,28の表面に吸着した水分量を良好な感度で、かつ空気中の水分の影響を除して測定することができる。従って、ガラス基板10,13,14,19〜21,28の表面に吸着した水分量を簡便に測定することができる。
【0029】
上記吸着水分測定方法において、測定工程における異なる2つの湿度条件下のうち一方は、十分に低い水分含有濃度を有する乾燥条件下にしたので、測定精度の向上を図ることができる。
【0030】
<実施の形態2>
本発明の実施の形態2における吸着水分測定方法においては、透過光式赤外線水分計を用いた場合について説明する。ここで、透過光式赤外線水分計は、赤外光の発光部と受光部とを対象物(ガラス基板)を介して反対側に設置したものである。
【0031】
本実施の形態2における吸着水分測定方法は、設置工程と、測定工程と、第1算出工程と、第2算出工程とを含むものである。
【0032】
設置工程は、通過する赤外光の空気中行程長が略同一となる態様で、異なる枚数毎および/または異なる厚さ毎にガラス基板を設置して複数の検査用ケースを構成するものである。図8〜図11のそれぞれには、設置工程により構成される検査用ケースE〜Hを示している。
【0033】
図8の例では、透過光式赤外線水分計を構成する発光部2および受光部3から距離L1および距離L2が空気層となるように厚みがLgのガラス基板40を1枚設置して検査用ケースEを構成してある。このガラス基板40の表面および裏面には水分が吸着して厚みがLwの吸着水分層41,42が形成されるものとする。また、距離L1と距離L2とは、互いに加算すると距離Laになるような大きさである。つまり、図8では、通過する赤外光の空気中行程長がLaとなる態様で、1枚のガラス基板40を設置して構成された検査用ケースEを示している。
【0034】
図9の例では、透過光式赤外線水分計を構成する発光部2から距離L3が空気層となるように厚みがLgのガラス基板43を1枚設置するとともに、このガラス基板43から距離L4が空気層で、しかも受光部3から距離L5が空気層となるように厚みがLgのガラス基板44を1枚設置して検査用ケースFを構成してある。ガラス基板43,44の表面および裏面には水分が吸着して厚みがLwの吸着水分層45〜48が形成されるものとする。また、距離L3と距離L4と距離L5は、互いに加算すると距離Laになるような大きさである。つまり、図9では、通過する赤外光の空気中行程長がLaとなる態様で、2枚のガラス基板43,44を設置して構成された検査用ケースFを示している。
【0035】
図10の例では、透過光式赤外線水分計を構成する発光部2から距離L6が空気層となるように厚みがLgのガラス基板49を1枚設置するとともに、このガラス基板49から距離L7が空気層となるように厚みがLgのガラス基板50を1枚設置し、更にこのガラス基板50から距離L8が空気層で、しかも受光部3から距離L9が空気層となるように厚みがLgのガラス基板51を1枚設置して検査用ケースGを構成してある。ガラス基板49〜51の表面および裏面には水分が吸着して厚みがLwの吸着水分層52〜57が形成されるものとする。また、距離L6、距離L7、距離L8および距離L9は、互いに加算すると距離Laになるような大きさである。つまり、図10では、通過する赤外光の空気中行程長がLaとなる態様で、3枚のガラス基板49〜51を設置して構成された検査用ケースGを示している。
【0036】
図11の例では、透過光式赤外線水分計を構成する発光部2および受光部3から距離L10および距離L11が空気層となるように厚みが3×Lgのガラス基板58を1枚設置して検査用ケースHを構成してある。このガラス基板58の表面および裏面には水分が吸着して厚みがLwの吸着水分層59,60が形成されるものとする。また、距離L10と距離L11とは、互いに加算すると距離Laになるような大きさである。つまり、図11では、通過する赤外光の空気中行程長がLaとなる態様で、厚みが図8〜図10に例示のものよりも大きい1枚のガラス基板58を設置して構成された検査用ケースHを示している。
【0037】
以上説明したような設置工程で構成した検査用ケースE〜Hに対して発光部2から照射した赤外光は対象物である空気層、吸着水分層41,42,45〜48,52〜57,59,60およびガラス基板40,43,44,49〜51,58を透過して受光部3に到達するまでに空気中の水分、ガラス表面に吸着した水分、ガラス基板40,43,44,49〜51,58の内部により吸収・減衰されることになる。図8〜図11のそれぞれにおいて、発光部2から照射され受光部3に到達するまでの間における空気中、ガラス基板40,43,44,49〜51,58の表面の吸着水分層41,42,45〜48,52〜57,59,60、ガラス基板40,43,44,49〜51,58の内部のそれぞれの行程は図12に示す通りである。
【0038】
測定行程は、設置工程で構成した検査用ケースE〜Hのそれぞれについて異なる2つの湿度条件下での通過する赤外光の吸収を測定するものである。ここで、異なる2つの湿度条件として「湿度条件1」および「湿度条件2」とする。かかる湿度条件のうち一方は、十分に低い水分含有濃度を有する乾燥条件下であることが好ましい。
【0039】
湿度条件1での検査用ケースE〜Hの赤外光の吸収の測定結果は、図13のようになる。ここで、Aa1は湿度条件1における空気層の赤外光の吸収、Aw1は湿度条件1における吸着水分層41,42,45〜48,52〜57,59,60の赤外光の吸収を示し、Agは湿度条件1におけるガラス基板40,43,44,49〜51,58の内部の赤外光の吸収を示している。尚、ガラス基板40,43,44,49〜51,58の内部の赤外光の吸収は湿度に依存しないため、Agとしている。
【0040】
湿度条件2での検査用ケースE〜Hの赤外光の吸収の測定結果は、図14のようになる。ここで、Aa2は湿度条件2における空気層の赤外光の吸収、Aw2は湿度条件2における吸着水分層41,42,45〜48,52〜57,59,60の赤外光の吸収を示し、Agは湿度条件2におけるガラス基板40,43,44,49〜51,58の内部の赤外光の吸収を示している。尚、ガラス基板40,43,44,49〜51,58の内部の赤外光の吸収は湿度に依存しないため、Agとしている。
【0041】
第1測定工程は、設置工程で構成した検査用ケースE〜Hから少なくとも2つ以上を選択し、選択した検査用ケースE〜Hについて測定工程を通じて測定されたそれぞれの湿度条件下での赤外光吸収の差を算出するものである。本実施の形態2における第1測定工程では、検査用ケースEと検査用ケースFとを選択し、選択した検査用ケースE,Fについて測定工程を通じて測定された湿度条件1および湿度条件2での赤外光吸収の差を算出するものとする。湿度条件1および湿度条件2における検査用ケースEと検査用ケースFとの赤外光吸収の差はそれぞれ下記式(4)および(5)のようになる。
【0042】
式(4) 湿度条件1での差:(2×Aw1)+Ag
【0043】
式(5) 湿度条件2での差:(2×Aw2)+Ag
【0044】
第2算出工程は、第1算出工程で算出した赤外光吸収の差に基づき、異なる湿度条件下における赤外光吸収の差を算出するものである。すなわち、式(5)と式(4)との差を算出するものである。式(5)と式(4)との差は、下記式(6)のようになる。
【0045】
式(6) 式(5)−式(4):2×(Aw2−Aw1)
【0046】
上記式(6)により、湿度条件2と湿度条件1との異なる湿度条件における吸着水分層41,42,45〜48,52〜57,59,60の赤外光吸収差(Aw2−Aw1)が2倍に増幅されて検出できることが理解される。
【0047】
以上説明したように、本発明の実施の形態2における吸着水分測定方法によれば、設置工程において通過する赤外光の空気中行程長が略同一となる態様で、異なる枚数毎および/または異なる厚さ毎にガラス基板40,43,44,49〜51,58を設置して複数の検査用ケースE〜Hを構成し、測定工程において設置工程で構成した検査用ケースE〜Hのそれぞれについて異なる2つの湿度条件下での通過する赤外光の吸収を測定し、第1算出工程において設置工程で構成した検査用ケースE〜Hから少なくとも2つ以上を選択し、選択した検査用ケースについて測定工程を通じて測定されたそれぞれの湿度条件下での赤外光吸収の差を算出し、第2算出工程において第1算出工程で算出した赤外光吸収の差に基づき、異なる湿度条件下における赤外光吸収の差を算出するので、赤外光吸収の差を数倍に増幅して検出することができ、これによりガラス基板40,43,44,49〜51,58の表面に吸着した水分量を良好な感度で、かつ空気中の水分の影響を除して測定することができる。従って、ガラス基板40,43,44,49〜51,58の表面に吸着した水分量を簡便に測定することができる。
【0048】
上記吸着水分測定方法において、測定工程における異なる2つの湿度条件下のうち一方は、十分に低い水分含有濃度を有する乾燥条件下にしたので、測定精度の向上を図ることができる。
【0049】
以上、本発明の好適な実施の形態1および実施の形態2について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。すなわち、反射光式赤外線水分計または透過光式赤外線水分計を用いる場合の説明に用いた図(図1〜図4、図8〜図11)では、ガラス基板は1〜3枚まで、厚さの大きいガラス基板は、3倍の厚さの場合について説明したが、本発明では、これら以上の枚数や厚さのガラス基板を用いても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上のように、本発明に係る吸着水分測定方法は、ガラス基板の表面に付着した水分を測定するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1における吸着水分測定方法の設置工程により構成される検査用ケースを示した説明図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1における吸着水分測定方法の設置工程により構成される検査用ケースを示した説明図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態1における吸着水分測定方法の設置工程により構成される検査用ケースを示した説明図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態1における吸着水分測定方法の設置工程により構成される検査用ケースを示した説明図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態1における反射光式赤外線水分計の赤外光の行程結果を示す図表である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態1における吸着水分測定方法の測定行程による湿度条件1での検査用ケースの赤外光の吸収の測定結果を示す図表である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態1における吸着水分測定方法の測定行程による湿度条件2での検査用ケースの赤外光の吸収の測定結果を示す図表である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態2における吸着水分測定方法の設置工程により構成される検査用ケースを示した説明図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態2における吸着水分測定方法の設置工程により構成される検査用ケースを示した説明図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態2における吸着水分測定方法の設置工程により構成される検査用ケースを示した説明図である。
【図11】図11は、本発明の実施の形態2における吸着水分測定方法の設置工程により構成される検査用ケースを示した説明図である。
【図12】図12は、本発明の実施の形態2における透過光式赤外線水分計の赤外光の行程結果を示す図表である。
【図13】図13は、本発明の実施の形態2における吸着水分測定方法の測定行程による湿度条件1での検査用ケースの赤外光の吸収の測定結果を示す図表である。
【図14】図14は、本発明の実施の形態2における吸着水分測定方法の測定行程による湿度条件2での検査用ケースの赤外光の吸収の測定結果を示す図表である。
【符号の説明】
【0052】
1 発光・受光部
2 発光部
3 受光部
10,13,14,19〜21,28,40,43,44,49〜51,58 ガラス基板
11,12,15〜17,22〜26,29,30,41,42,45〜48,52〜57,59,60 吸着水分層
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着水分測定方法に関し、より詳細には、赤外光を透過してガラス基板の表面に付着した水分を測定する吸着水分測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、生産現場や商品保管庫等における空気中の化学物質がガラス基板の表面に吸着すると、かかる吸着物質が製造工程のプロセスに作用し、品質に悪影響を与える虞れがある。ところで、ガラス基板の表面における化学物質の吸着においては、ガラス基板の表面における水分吸着量が大きく影響することが知られている。つまり、ガラス基板の表面に水分が吸着することで、表面の物理的・化学的特性が変化し、これにより吸着する化学物質の種類や量が変化する。このようにガラス基板の表面に吸着する水分は、ガラス基板の表面に吸着する汚染物質(化学物質)の挙動に影響する重要なファクターである。
【0003】
一方、水分子は、赤外領域の特定波長(約1.2マイクロメートル、約1.45マイクロメートル、約1.94マイクロメートル)を吸収する性質を有していることが知られている。そこで、かかる性質を利用する赤外線水分計が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平6−288906号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上述したような赤外線水分計は、測定対象物のいわゆるパーセントオーダー(100分の1単位)の水分濃度を測定対象としており、ガラス基板に吸着した水分量の測定には感度が十分でなかった。またガラス基板の表面の吸着水分量を測定する場合、空気中の水分(水蒸気)も同時に測定してしまうために、ガラス基板の表面に吸着した水分と空気中の水分との切り分けができず、これによりガラス基板の表面に吸着した水分量を測定するには十分ではなかった。これにより、ガラス基板の表面に吸着する水分量を測定するための簡便な方法が求められている。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みて、ガラス基板の表面に吸着した水分量を簡便に測定することができる吸着水分測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る吸着水分測定方法は、ガラス基板の表面に吸着した水分量を測定するための方法であって、通過する赤外光の空気中行程長が略同一となる態様で、異なる枚数毎および/または異なる厚さ毎にガラス基板を設置して複数の検査用ケースを構成する設置工程と、前記設置工程で構成した検査用ケースのそれぞれについて異なる2つの湿度条件下での通過する赤外光の吸収を測定する測定工程と、前記設置工程で構成した検査用ケースから少なくとも2つ以上を選択し、選択した検査用ケースについて前記測定工程を通じて測定されたそれぞれの湿度条件下での赤外光吸収の差を算出する第1算出工程と、前記第1算出工程で算出した赤外光吸収の差に基づき、異なる湿度条件下における赤外光吸収の差を算出する第2算出工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2に係る吸着水分測定方法は、上述した請求項1において、前記測定工程における異なる2つの湿度条件下のうち一方は、十分に低い水分含有濃度を有する乾燥条件下にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の吸着水分測定方法によれば、設置工程において通過する赤外光の空気中行程長が略同一となる態様で、異なる枚数毎および/または異なる厚さ毎にガラス基板を設置して複数の検査用ケースを構成し、測定工程において設置工程で構成した検査用ケースのそれぞれについて異なる2つの湿度条件下での通過する赤外光の吸収を測定し、第1算出工程において設置工程で構成した検査用ケースから少なくとも2つ以上を選択し、選択した検査用ケースについて測定工程を通じて測定されたそれぞれの湿度条件下での赤外光吸収の差を算出し、第2算出工程において第1算出工程で算出した赤外光吸収の差に基づき、異なる湿度条件下における赤外光吸収の差を算出するので、赤外光吸収の差を数倍に増幅して検出することができ、これによりガラス基板の表面に吸着した水分量を良好な感度で、かつ空気中の水分の影響を除して測定することができる。従って、ガラス基板の表面に吸着した水分量を簡便に測定することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る吸着水分測定方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
<実施の形態1>
本発明の実施の形態1における吸着水分測定方法においては、反射光式赤外線水分計を用いた場合について説明する。ここで、反射光式赤外線水分計は、赤外光の発光部と受光部とが一体になったものと、それぞれが別になったものとがある。いずれの場合でも測定可能であるが、本実施の形態1では発光部と受光部とが一体になったものを例示して説明する。
【0012】
本実施の形態1における吸着水分測定方法は、設置工程と、測定工程と、第1算出工程と、第2算出工程とを含むものである。
【0013】
設置工程は、通過する赤外光の空気中行程長が略同一となる態様で、異なる枚数毎および/または異なる厚さ毎にガラス基板を設置して複数の検査用ケースを構成するものである。図1〜図4のそれぞれには、設置工程により構成される検査用ケースA〜Dを示している。
【0014】
図1の例では、反射光式赤外線水分計を構成する発光・受光部1から距離Laが空気層となるように厚みがLgのガラス基板10を1枚設置して検査用ケースAを構成してある。このガラス基板10の表面、すなわち発光・受光部1に対向する面には水分が吸着して厚みがLwの吸着水分層11が形成されるものとする。一方、ガラス基板10の裏面、すなわち発光・受光部1を設置した側とは反対側の面には、例えばアルミ蒸着等を施すことにより反射層12が形成してある。ここで、反射層12は、必ずしもガラス基板10の裏面に形成する必要はないが、ガラス基板10と反射層12との材質の違いによる水分吸着挙動の誤差を生じさせないためには反射層12をガラス基板10の裏面に直接形成することが望ましい。つまり、図1では、通過する赤外光の空気中行程長が2×Laとなる態様で、1枚のガラス基板10を設置して構成された検査用ケースAを示している。
【0015】
図2の例では、反射光式赤外線水分計を構成する発光・受光部1から距離L1が空気層となるように厚みがLgのガラス基板13を1枚設置するとともに、このガラス基板13から距離L2が空気層となるように厚みがLgのガラス基板14を1枚設置して検査用ケースBを構成してある。ガラス基板14の表面および裏面、並びにガラス基板14の表面には水分が吸着して厚みがLwの吸着水分層15,16,17が形成されるものとする。一方、ガラス基板14の裏面には、例えばアルミ蒸着等を施すことにより反射層18が形成してある。ここで、反射層18は、必ずしもガラス基板14の裏面に形成する必要はないが、ガラス基板14と反射層18との材質の違いによる水分吸着挙動の誤差を生じさせないためには反射層18をガラス基板14の裏面に直接形成することが望ましい。また、距離L1と距離L2とは、互いに加算すると距離Laになるような大きさである。つまり、図2では、通過する赤外光の空気中行程長が2×Laとなる態様で、2枚のガラス基板13,14を設置して構成された検査用ケースBを示している。
【0016】
図3の例では、反射光式赤外線水分計を構成する発光・受光部1から距離L3が空気層となるように厚みがLgのガラス基板19を1枚設置するとともに、このガラス基板19から距離L4が空気層となるように厚みがLgのガラス基板20を1枚設置し、更にこのガラス基板20から距離L5が空気層となるように厚みがLgのガラス基板21を1枚設置して検査用ケースCを構成してある。ガラス基板19,20の表面および裏面、並びにガラス基板21の表面には水分が吸着して厚みがLwの吸着水分層22,23,24,25,26が形成されるものとする。一方、ガラス基板21の裏面には、例えばアルミ蒸着等を施すことにより反射層27が形成してある。ここで、反射層27は、必ずしもガラス基板21の裏面に形成する必要はないが、ガラス基板21と反射層27との材質の違いによる水分吸着挙動の誤差を生じさせないためには反射層27をガラス基板21の裏面に直接形成することが望ましい。また、距離L3と距離L4と距離L5とは、加算すると距離Laになるような大きさである。つまり、図3では、通過する赤外光の空気中行程長が2×Laとなる態様で、3枚のガラス基板19,20,21を設置して構成された検査用ケースCを示している。
【0017】
図4の例では、反射光式赤外線水分計を構成する発光・受光部1から距離Laが空気層となるように厚みが3×Lgのガラス基板28を1枚設置して検査用ケースDを構成してある。このガラス基板28の表面、すなわち発光・受光部1に対向する面には水分が吸着して厚みがLwの吸着水分層29が形成されるものとする。一方、ガラス基板28の裏面、すなわち発光・受光部1を設置した側とは反対側の面には、例えばアルミ蒸着等を施すことにより反射層30が形成してある。ここで、反射層30は、必ずしもガラス基板28の裏面に形成する必要はないが、ガラス基板28と反射層30との材質の違いによる水分吸着挙動の誤差を生じさせないためには反射層30をガラス基板28の裏面に直接形成することが望ましい。つまり、図4では、通過する赤外光の空気中行程長が2×Laとなる態様で、厚みが図1〜図3に例示のものよりも大きい1枚のガラス基板28を設置して構成された検査用ケースDを示している。
【0018】
以上説明したような設置工程で構成した検査用ケースA〜Dに対して発光・受光部1から照射した赤外光は、反射層12,18,27,30で反射されて再び発光・受光部1に戻るまでに空気中の水分、ガラス表面に吸着した水分、ガラス基板28の内部により吸収・減衰されることになる。図1〜図4のそれぞれにおいて、発光・受光部1から照射され、反射層12,18,27,30で反射して再び発光・受光部1に戻るまでの間における空気中、ガラス基板10,13,14,19〜21,28の吸着水分層11,15〜17,22〜26,29、ガラス基板10,13,14,19〜21,28の内部のそれぞれの行程は図5に示す通りである。
【0019】
測定行程は、設置工程で構成した検査用ケースA〜Dのそれぞれについて異なる2つの湿度条件下での通過する赤外光の吸収を測定するものである。ここで、異なる2つの湿度条件として「湿度条件1」および「湿度条件2」とする。かかる湿度条件のうち一方は、十分に低い水分含有濃度を有する乾燥条件下であることが好ましい。
【0020】
湿度条件1での検査用ケースA〜Dの赤外光の吸収の測定結果は、図6のようになる。ここで、Aa1は湿度条件1における空気層の赤外光の吸収、Aw1は湿度条件1における吸着水分層の赤外光の吸収を示し、Agは湿度条件1におけるガラス基板10,13,14,19〜21,28の内部の赤外光の吸収を示している。尚、ガラス基板10,13,14,19〜21,28の内部の赤外光の吸収は湿度に依存しないため、Agとしている。
【0021】
湿度条件2での検査用ケースA〜Dの赤外光の吸収の測定結果は、図7のようになる。ここで、Aa2は湿度条件2における空気層の赤外光の吸収、Aw2は湿度条件2における吸着水分層の赤外光の吸収を示し、Agは湿度条件2におけるガラス基板10,13,14,19〜21,28の内部の赤外光の吸収を示している。尚、ガラス基板10,13,14,19〜21,28の内部の赤外光の吸収は湿度に依存しないため、Agとしている。
【0022】
第1測定工程は、設置工程で構成した検査用ケースA〜Dから少なくとも2つ以上を選択し、選択した検査用ケースA〜Dについて測定工程を通じて測定されたそれぞれの湿度条件下での赤外光吸収の差を算出するものである。本実施の形態1における第1測定工程では、検査用ケースAと検査用ケースBとを選択し、選択した検査用ケースA,Bについて測定工程を通じて測定された湿度条件1および湿度条件2での赤外光吸収の差を算出するものとする。湿度条件1および湿度条件2における検査用ケースAと検査用ケースBとの赤外光吸収の差はそれぞれ下記式(1)および(2)のようになる。
【0023】
式(1) 湿度条件1での差:(4×Aw1)+(2×Ag)
【0024】
式(2) 湿度条件2での差:(4×Aw2)+(2×Ag)
【0025】
第2算出工程は、第1算出工程で算出した赤外光吸収の差に基づき、異なる湿度条件下における赤外光吸収の差を算出するものである。すなわち、式(2)と式(1)との差を算出するものである。式(2)と式(1)との差は、下記式(3)のようになる。
【0026】
式(3) 式(2)−式(1):4×(Aw2−Aw1)
【0027】
上記式(3)により、湿度条件2と湿度条件1との異なる湿度条件における吸着水分層の赤外光吸収差(Aw2−Aw1)が4倍に増幅されて検出できることが理解される。
【0028】
以上説明したように、本発明の実施の形態1における吸着水分測定方法によれば、設置工程において通過する赤外光の空気中行程長が略同一となる態様で、異なる枚数毎および/または異なる厚さ毎にガラス基板10,13,14,19〜21,28を設置して複数の検査用ケースA〜Dを構成し、測定工程において設置工程で構成した検査用ケースA〜Dのそれぞれについて異なる2つの湿度条件下での通過する赤外光の吸収を測定し、第1算出工程において設置工程で構成した検査用ケースA〜Dから少なくとも2つ以上を選択し、選択した検査用ケースについて測定工程を通じて測定されたそれぞれの湿度条件下での赤外光吸収の差を算出し、第2算出工程において第1算出工程で算出した赤外光吸収の差に基づき、異なる湿度条件下における赤外光吸収の差を算出するので、赤外光吸収の差を数倍に増幅して検出することができ、これによりガラス基板10,13,14,19〜21,28の表面に吸着した水分量を良好な感度で、かつ空気中の水分の影響を除して測定することができる。従って、ガラス基板10,13,14,19〜21,28の表面に吸着した水分量を簡便に測定することができる。
【0029】
上記吸着水分測定方法において、測定工程における異なる2つの湿度条件下のうち一方は、十分に低い水分含有濃度を有する乾燥条件下にしたので、測定精度の向上を図ることができる。
【0030】
<実施の形態2>
本発明の実施の形態2における吸着水分測定方法においては、透過光式赤外線水分計を用いた場合について説明する。ここで、透過光式赤外線水分計は、赤外光の発光部と受光部とを対象物(ガラス基板)を介して反対側に設置したものである。
【0031】
本実施の形態2における吸着水分測定方法は、設置工程と、測定工程と、第1算出工程と、第2算出工程とを含むものである。
【0032】
設置工程は、通過する赤外光の空気中行程長が略同一となる態様で、異なる枚数毎および/または異なる厚さ毎にガラス基板を設置して複数の検査用ケースを構成するものである。図8〜図11のそれぞれには、設置工程により構成される検査用ケースE〜Hを示している。
【0033】
図8の例では、透過光式赤外線水分計を構成する発光部2および受光部3から距離L1および距離L2が空気層となるように厚みがLgのガラス基板40を1枚設置して検査用ケースEを構成してある。このガラス基板40の表面および裏面には水分が吸着して厚みがLwの吸着水分層41,42が形成されるものとする。また、距離L1と距離L2とは、互いに加算すると距離Laになるような大きさである。つまり、図8では、通過する赤外光の空気中行程長がLaとなる態様で、1枚のガラス基板40を設置して構成された検査用ケースEを示している。
【0034】
図9の例では、透過光式赤外線水分計を構成する発光部2から距離L3が空気層となるように厚みがLgのガラス基板43を1枚設置するとともに、このガラス基板43から距離L4が空気層で、しかも受光部3から距離L5が空気層となるように厚みがLgのガラス基板44を1枚設置して検査用ケースFを構成してある。ガラス基板43,44の表面および裏面には水分が吸着して厚みがLwの吸着水分層45〜48が形成されるものとする。また、距離L3と距離L4と距離L5は、互いに加算すると距離Laになるような大きさである。つまり、図9では、通過する赤外光の空気中行程長がLaとなる態様で、2枚のガラス基板43,44を設置して構成された検査用ケースFを示している。
【0035】
図10の例では、透過光式赤外線水分計を構成する発光部2から距離L6が空気層となるように厚みがLgのガラス基板49を1枚設置するとともに、このガラス基板49から距離L7が空気層となるように厚みがLgのガラス基板50を1枚設置し、更にこのガラス基板50から距離L8が空気層で、しかも受光部3から距離L9が空気層となるように厚みがLgのガラス基板51を1枚設置して検査用ケースGを構成してある。ガラス基板49〜51の表面および裏面には水分が吸着して厚みがLwの吸着水分層52〜57が形成されるものとする。また、距離L6、距離L7、距離L8および距離L9は、互いに加算すると距離Laになるような大きさである。つまり、図10では、通過する赤外光の空気中行程長がLaとなる態様で、3枚のガラス基板49〜51を設置して構成された検査用ケースGを示している。
【0036】
図11の例では、透過光式赤外線水分計を構成する発光部2および受光部3から距離L10および距離L11が空気層となるように厚みが3×Lgのガラス基板58を1枚設置して検査用ケースHを構成してある。このガラス基板58の表面および裏面には水分が吸着して厚みがLwの吸着水分層59,60が形成されるものとする。また、距離L10と距離L11とは、互いに加算すると距離Laになるような大きさである。つまり、図11では、通過する赤外光の空気中行程長がLaとなる態様で、厚みが図8〜図10に例示のものよりも大きい1枚のガラス基板58を設置して構成された検査用ケースHを示している。
【0037】
以上説明したような設置工程で構成した検査用ケースE〜Hに対して発光部2から照射した赤外光は対象物である空気層、吸着水分層41,42,45〜48,52〜57,59,60およびガラス基板40,43,44,49〜51,58を透過して受光部3に到達するまでに空気中の水分、ガラス表面に吸着した水分、ガラス基板40,43,44,49〜51,58の内部により吸収・減衰されることになる。図8〜図11のそれぞれにおいて、発光部2から照射され受光部3に到達するまでの間における空気中、ガラス基板40,43,44,49〜51,58の表面の吸着水分層41,42,45〜48,52〜57,59,60、ガラス基板40,43,44,49〜51,58の内部のそれぞれの行程は図12に示す通りである。
【0038】
測定行程は、設置工程で構成した検査用ケースE〜Hのそれぞれについて異なる2つの湿度条件下での通過する赤外光の吸収を測定するものである。ここで、異なる2つの湿度条件として「湿度条件1」および「湿度条件2」とする。かかる湿度条件のうち一方は、十分に低い水分含有濃度を有する乾燥条件下であることが好ましい。
【0039】
湿度条件1での検査用ケースE〜Hの赤外光の吸収の測定結果は、図13のようになる。ここで、Aa1は湿度条件1における空気層の赤外光の吸収、Aw1は湿度条件1における吸着水分層41,42,45〜48,52〜57,59,60の赤外光の吸収を示し、Agは湿度条件1におけるガラス基板40,43,44,49〜51,58の内部の赤外光の吸収を示している。尚、ガラス基板40,43,44,49〜51,58の内部の赤外光の吸収は湿度に依存しないため、Agとしている。
【0040】
湿度条件2での検査用ケースE〜Hの赤外光の吸収の測定結果は、図14のようになる。ここで、Aa2は湿度条件2における空気層の赤外光の吸収、Aw2は湿度条件2における吸着水分層41,42,45〜48,52〜57,59,60の赤外光の吸収を示し、Agは湿度条件2におけるガラス基板40,43,44,49〜51,58の内部の赤外光の吸収を示している。尚、ガラス基板40,43,44,49〜51,58の内部の赤外光の吸収は湿度に依存しないため、Agとしている。
【0041】
第1測定工程は、設置工程で構成した検査用ケースE〜Hから少なくとも2つ以上を選択し、選択した検査用ケースE〜Hについて測定工程を通じて測定されたそれぞれの湿度条件下での赤外光吸収の差を算出するものである。本実施の形態2における第1測定工程では、検査用ケースEと検査用ケースFとを選択し、選択した検査用ケースE,Fについて測定工程を通じて測定された湿度条件1および湿度条件2での赤外光吸収の差を算出するものとする。湿度条件1および湿度条件2における検査用ケースEと検査用ケースFとの赤外光吸収の差はそれぞれ下記式(4)および(5)のようになる。
【0042】
式(4) 湿度条件1での差:(2×Aw1)+Ag
【0043】
式(5) 湿度条件2での差:(2×Aw2)+Ag
【0044】
第2算出工程は、第1算出工程で算出した赤外光吸収の差に基づき、異なる湿度条件下における赤外光吸収の差を算出するものである。すなわち、式(5)と式(4)との差を算出するものである。式(5)と式(4)との差は、下記式(6)のようになる。
【0045】
式(6) 式(5)−式(4):2×(Aw2−Aw1)
【0046】
上記式(6)により、湿度条件2と湿度条件1との異なる湿度条件における吸着水分層41,42,45〜48,52〜57,59,60の赤外光吸収差(Aw2−Aw1)が2倍に増幅されて検出できることが理解される。
【0047】
以上説明したように、本発明の実施の形態2における吸着水分測定方法によれば、設置工程において通過する赤外光の空気中行程長が略同一となる態様で、異なる枚数毎および/または異なる厚さ毎にガラス基板40,43,44,49〜51,58を設置して複数の検査用ケースE〜Hを構成し、測定工程において設置工程で構成した検査用ケースE〜Hのそれぞれについて異なる2つの湿度条件下での通過する赤外光の吸収を測定し、第1算出工程において設置工程で構成した検査用ケースE〜Hから少なくとも2つ以上を選択し、選択した検査用ケースについて測定工程を通じて測定されたそれぞれの湿度条件下での赤外光吸収の差を算出し、第2算出工程において第1算出工程で算出した赤外光吸収の差に基づき、異なる湿度条件下における赤外光吸収の差を算出するので、赤外光吸収の差を数倍に増幅して検出することができ、これによりガラス基板40,43,44,49〜51,58の表面に吸着した水分量を良好な感度で、かつ空気中の水分の影響を除して測定することができる。従って、ガラス基板40,43,44,49〜51,58の表面に吸着した水分量を簡便に測定することができる。
【0048】
上記吸着水分測定方法において、測定工程における異なる2つの湿度条件下のうち一方は、十分に低い水分含有濃度を有する乾燥条件下にしたので、測定精度の向上を図ることができる。
【0049】
以上、本発明の好適な実施の形態1および実施の形態2について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。すなわち、反射光式赤外線水分計または透過光式赤外線水分計を用いる場合の説明に用いた図(図1〜図4、図8〜図11)では、ガラス基板は1〜3枚まで、厚さの大きいガラス基板は、3倍の厚さの場合について説明したが、本発明では、これら以上の枚数や厚さのガラス基板を用いても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上のように、本発明に係る吸着水分測定方法は、ガラス基板の表面に付着した水分を測定するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1における吸着水分測定方法の設置工程により構成される検査用ケースを示した説明図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1における吸着水分測定方法の設置工程により構成される検査用ケースを示した説明図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態1における吸着水分測定方法の設置工程により構成される検査用ケースを示した説明図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態1における吸着水分測定方法の設置工程により構成される検査用ケースを示した説明図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態1における反射光式赤外線水分計の赤外光の行程結果を示す図表である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態1における吸着水分測定方法の測定行程による湿度条件1での検査用ケースの赤外光の吸収の測定結果を示す図表である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態1における吸着水分測定方法の測定行程による湿度条件2での検査用ケースの赤外光の吸収の測定結果を示す図表である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態2における吸着水分測定方法の設置工程により構成される検査用ケースを示した説明図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態2における吸着水分測定方法の設置工程により構成される検査用ケースを示した説明図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態2における吸着水分測定方法の設置工程により構成される検査用ケースを示した説明図である。
【図11】図11は、本発明の実施の形態2における吸着水分測定方法の設置工程により構成される検査用ケースを示した説明図である。
【図12】図12は、本発明の実施の形態2における透過光式赤外線水分計の赤外光の行程結果を示す図表である。
【図13】図13は、本発明の実施の形態2における吸着水分測定方法の測定行程による湿度条件1での検査用ケースの赤外光の吸収の測定結果を示す図表である。
【図14】図14は、本発明の実施の形態2における吸着水分測定方法の測定行程による湿度条件2での検査用ケースの赤外光の吸収の測定結果を示す図表である。
【符号の説明】
【0052】
1 発光・受光部
2 発光部
3 受光部
10,13,14,19〜21,28,40,43,44,49〜51,58 ガラス基板
11,12,15〜17,22〜26,29,30,41,42,45〜48,52〜57,59,60 吸着水分層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の表面に吸着した水分量を測定するための方法であって、
通過する赤外光の空気中行程長が略同一となる態様で、異なる枚数毎および/または異なる厚さ毎にガラス基板を設置して複数の検査用ケースを構成する設置工程と、
前記設置工程で構成した検査用ケースのそれぞれについて異なる2つの湿度条件下での通過する赤外光の吸収を測定する測定工程と、
前記設置工程で構成した検査用ケースから少なくとも2つ以上を選択し、選択した検査用ケースについて前記測定工程を通じて測定されたそれぞれの湿度条件下での赤外光吸収の差を算出する第1算出工程と、
前記第1算出工程で算出した赤外光吸収の差に基づき、異なる湿度条件下における赤外光吸収の差を算出する第2算出工程と
を含むことを特徴とする吸着水分測定方法。
【請求項2】
前記測定工程における異なる2つの湿度条件下のうち一方は、十分に低い水分含有濃度を有する乾燥条件下にしたことを特徴とする請求項1に記載の吸着水分測定方法。
【請求項1】
ガラス基板の表面に吸着した水分量を測定するための方法であって、
通過する赤外光の空気中行程長が略同一となる態様で、異なる枚数毎および/または異なる厚さ毎にガラス基板を設置して複数の検査用ケースを構成する設置工程と、
前記設置工程で構成した検査用ケースのそれぞれについて異なる2つの湿度条件下での通過する赤外光の吸収を測定する測定工程と、
前記設置工程で構成した検査用ケースから少なくとも2つ以上を選択し、選択した検査用ケースについて前記測定工程を通じて測定されたそれぞれの湿度条件下での赤外光吸収の差を算出する第1算出工程と、
前記第1算出工程で算出した赤外光吸収の差に基づき、異なる湿度条件下における赤外光吸収の差を算出する第2算出工程と
を含むことを特徴とする吸着水分測定方法。
【請求項2】
前記測定工程における異なる2つの湿度条件下のうち一方は、十分に低い水分含有濃度を有する乾燥条件下にしたことを特徴とする請求項1に記載の吸着水分測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−261659(P2008−261659A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102850(P2007−102850)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
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