説明

吸音パネル

【課題】高い吸音性と意匠性を兼ね備え、かつ軽量で施工しやすく人体にも優しい音場調整用吸音パネルを提供する。
【解決手段】軽量なポリエステル繊維系多孔質材料を吸音母材とし、その最表面を通気性のあるクロス生地で覆い、吸音母材とクロス生地の間には一枚又は複数枚の不織布表皮材を挟み込んだ構造を基本とする吸音パネルを実現する。中間層の不織布表皮材は、「母材厚みを上げることなく吸音性能を上昇させる、或いは室内の音場の音響特性を調整する」、「クロス生地が母材と直に接するときに生じるシワや凹凸を解消し、クロス生地に張りを持たせる。」という二つの重要な機能を担っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物内部の残響時間を調整する目的で壁や天井に取り付ける吸音パネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省資源・省エネルギーへの関心の高まりとともに、建造物の構造は従来に比べ格段に高い気密性を持つようになってきている。これにより外部騒音の遮音性も向上したが、その反面、今まで特に意識していなかった室内騒音が耳障りに感じるという予期せぬ結果を生むこととなった。
【0003】
最近では、楽器を趣味とする人々が自宅の一室を演奏用の防音室にするケースが増えているが、このようなケースでは、外部への音漏れを防ぐための遮音対策と並んで、室内の音響環境を調整するための吸音対策が重要となっている。
【0004】
このような建物内部の騒音低減又は音場調整の問題に対応するために、壁や天井に吸音材を取り付ける対策が行われている。これらの対策に用いられる吸音材は、施工を容易にするためにパネル化されていることが多い。
【0005】
このような目的で現在よく用いられる吸音パネルは、構造及び吸音メカニズムの観点から、穴あき板タイプと多孔質タイプの2種類に大別される。穴あき板タイプの吸音パネルは、合板や石膏ボード等の有孔ボードとその背後の空気層からなる構造を持ち、共鳴吸収によって吸音性能を発挿する。一方、多孔質タイプの吸音パネルは、グラスウール・ロックウール等の多孔質材料を板状に成形したボードを基本構成要素とし、多孔質材料内部の粘性抵抗により吸音性能を発揮する。
【0006】
しかしながら、これらの吸音パネルにも解決されねばならない点があり、穴あき板タイプの吸音パネルは、共鳴周波数付近の狭い周波数帯域でしか高い吸音効果を持たないため、対応できる周波数帯域が狭い。又、表面にクロス生地を貼りにくいため、優れた意匠性を持たせることが難しい。
【0007】
一方、多孔質タイプの吸音パネル(例えば、特許文献1)は、裸材の状態では中・高周波数帯域の比較的広い範囲で高い吸音性能を発揮する。しかし、表面にクロス等を貼付することで吸音性能が低下することがある。又、一枚のパネルの重量がかなりあるため施工が大変である。更に、多孔質タイプの吸音パネルの母材としてグラスウールやロックウールを用いる場合は、パネル製作時に材料繊維に触れた作業者がチクチクとした不快な刺激を感じることがある。そして、施工後でも、長年の間の風化により材料がボロボロになり、繊維が表面クロスを通り抜けて飛散する可能性が高く、室内環境を阻害し人体に悪影響を及ぼす恐れがあるといわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−169037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、高い吸音性と意匠性を兼ね備え、かつ軽量で施工しやすく人体にも優しい吸音パネルを提供することを本発明の課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は、繊維系多孔質材料を吸音母材とし、その最表面は通気性のあるクロス生地で覆われ、母材とクロス生地の間には一枚又は複数枚の不織布表皮材が挟み込まれたことを特徴とする吸音パネルであり、具体的には、繊維系多孔質材料が、ポリエステルにて代表される有機繊維材料で、不織布表皮材が、ポリエステル等を主成分とするスパンボンド不織布・スパンレース不織布・メルトプローン不織布等であり、クロス生地には、好ましくは、防カビ処理・防汚処理・防炎処理等をした材料である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上記したように、軽量なポリエステル繊維系多孔質材料を吸音母材とし、その最表面を通気性のあるクロス生地で覆い、母材とクロス生地の間には一枚又は複数枚の不織布表皮材を挟み込んだ構造を基本とする吸音パネルであって、母材表面に不織布表皮材を貼付することで吸音構造体全体の流れ抵抗が上がるため、吸音母材の厚みを増加することなく吸音性能を上昇させることができる。又、不織布目付・積層枚数・接着剤塗布量を適切に調整することで、望ましい吸音特性を得ることが可能となったものである。
【0012】
そして、不織布表皮材のもう一つの機能は、クロス生地が母材と直に接するときに生じるシワや凹凸を解消することである。これにより最表面のクロス生地に張りが出るため、美観に優れた仕上がりとなる。これらの不織布表皮材には、表面からの水分の浸入を防止するために、撥水処理を施すことができることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本発明による吸音パネルの第1実施例を示す図である。
【図2】図2は第1実施例の吸音性能を示すグラフである。
【図3】図3は本発明による吸音パネルの第2実施例を示す図である。
【図4】図4は第2実施例の吸音性能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明による吸音パネルの好ましい形態を説明すると、吸音母材の好ましい例は、ポリエステル繊維の多孔質材料である。流れ抵抗は、(0.3〜7)×10[N・sec/m]の範囲にあることが望ましい。
【0015】
不織布表皮材の例としては、ポリエステル等を主成分とするスパンボンド不織布・スパンレース不織布・メルトプローン不織布が挙げられる。面重量20〜200[g/m]、流れ抵抗(0.5〜5)×10[N・sec/m]の範囲にあるものが好適である。尚、実現したい吸音特性に応じて、同種又は異種の不織布表皮材を適宜組み合わせるという使い方も可能である。表面からの水分の浸入を防止したい場合には、不織布表皮材に撥水処理を施すことができる。
【0016】
クロス生地としては、ポリエステル・綿・アクリル等の繊維から構成された通気性のある素材を使用することができる。より厳しい環境条件下での使用を可能とするために、これらのクロス生地に防カビ処理・防汚処理・防炎処理を施してもよい。
【0017】
吸音母材・不織布表皮材・クロス生地は、ホットメルト材や接着剤で互いに接着してもよい。ホットメルト材としては、ポリアミド系・ポリエステル系・ポリウレタン系・EVA系・オレフィン系等の材質で、融点が70〜200℃の範囲にあるものを使うことが望ましい。接着剤としては、揮発性有機化合物(VOC)を含まない酢酸ビニル樹脂系・EVA樹脂系等の材料を使うことができる。
【0018】
接着面における流れ抵抗は、ホットメルト材や接着剤の使用量が多いほど大きくなる。従って、ホットメルト材や接着剤を、単に各構成部材をパネルとして一体化するという目的のためだけでなく、吸音構造体全体の流れ抵抗をコントロールするという目的にも用いることができる。特殊なケースとして、ホットメルト材や接着剤を不織布面に膜状に塗布して通気性をなくし、膜吸音構造体を形成することも可能である。
【実施例1】
【0019】
図1に、本発明による吸音パネルの第1実施例を示す。吸音パネル101は、以下の手順で作製されたものである。先ず、吸音母材1に不織布表皮材2をホットメルトで貼り合わせる。ここで、ホットメルト材は不織布表皮材2にパウダー状に塗布されており、不織布表皮材2の通気性を阻害しない。又、裏打ち補強材としてのベニア板4の周縁部には、角を出すために木枠5を取り付けておく。次に、ベニア板の木枠を取り付けた面側に接着剤を塗布し、不織布表皮材2を表側に向けた状態で吸音母材をはめ込む。最後に、クロス生地3を最表面に重ね、側面から裏側まで回してベニア板にタッカー留めする。この例では、クロス生地3と不織布表皮材2は未接着である。尚、場合によっては木枠5がなくても良い場合もある。
【0020】
かかる実施例1にあって、使用した各構成部材の詳細(部材:材質:仕様)は以下の通りである。
吸音部材1(ポリエステル:嵩密度30[kg/m]、厚み20[mm])
不織布表皮材2(ポリエステル:スパンボンド不織布、面重量90[g/m])
クロス生地3(ポリエステル:面重量100 [g/m])
ホットメルト(LDPE:融点110℃、塗布量30[g/m])
接着剤(酢酸ビニル系:塗布量30[g/m])
補強材4(合板:厚み5[mm])
木枠5(木材:20[mm]角)
【0021】
図2は、第1実施例の吸音パネル101の吸音性能を表すグラフである。比較例は、中間層のスパンボンド不織布2がない吸音パネル102である。このグラフを見ると分かるように、スパンボンド不織布2を挟むことで、吸音母材1の厚みを増すことなく、吸音性能を向上させることができることが分かる。
【0022】
尚、この中間層の不織布2のもう一つの機能は、最表面クロス生地3に張りを持たせ美観に優れた仕上がりとすることである。クロス生地3と吸音母材1の間に不織布2を挟まない場合、吸音母材1の表面の凸凹がクロス生地3にそのまま反映されてしまうため、最表面がフラットな仕上がりとはならない。
【0023】
(第2実施例)
図3に、本発明による吸音パネルの第3実施例を示す。図3の吸音パネル103は、吸音母材1、不織布表皮材2(裏面ホットメルト接着剤付)、クロス生地3(裏面接着剤付)を重ね合わせ、この3層構造体の周縁部をクロス生地3の面から熱プレス機により圧縮した例である。
【0024】
使用した各構成部材の詳細(部材:材質:仕様)は以下の通りである。
吸音部材1(ポリエステル:嵩密度46[kg/m]、厚み25[mm])
不織布表皮材2(ポリエステル:スパンボンド不織布、面重量100[g/m])
クロス生地3(ポリエステル:面重量100 [g/m])
ホットメルト(EVA系:塗布量30[g/m])
接着剤(EVA系:塗布量20〜80[g/m])
【0025】
図4は、第2実施例の吸音パネル103の吸音性能を表すグラフである。このグラフには、不織布表皮材2とクロス生地3の間の接着剤量が異なる3つの例が示されており、103a・103b・103cがそれぞれ接着剤量20・40・80[g/m]に対応する。接着剤量を増やすにつれ吸音率グラフのピークが低域側にシフトしているが、これは流れ抵抗が大きくなり表皮部分が膜振動するようになったためである。
【0026】
第1実施例同様、第2実施例においても不織布表皮材2は吸音パネルの美観を優れたものとすることに大きく寄与している。中間層の不織布2がない場合、吸音パネル周辺部の熱圧縮する際に吸音母材1が型崩れを起こすため、きれいな曲面が形成されない。又、クロス生地3に多量の接着剤を直接塗布するとクロス生地3の表面から接着剤がにじみ出てきてしまうため、前項で述べたような接着剤量による流れ抵抗コントロールを行う場合には中間層不織布2は必要不可欠である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の吸音パネルは、母材表面に不織布表皮材を貼付することで吸音構造体全体の流れ抵抗が上がるため、吸音母材の厚みを増加することなく吸音性能を上昇させることができ、不織布目付・積層枚数・接着剤塗布量を適切に調整することで、望ましい吸音特性を得ることが可能となった。このため、家庭用の室内吸音パネルとして用いられることは論、公共の施設における各種の組み立て用の吸音パネルとしても広く利用可能である。
【符号の説明】
【0028】
1・・吸音母材
2・・不織布表皮材
3・・クロス生地
4・・裏打ち補強材
5・・木枠
100、101、102、103・・吸音パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維系多孔質材料を吸音母材とし、その最表面は通気性のあるクロス生地で覆われ、母材とクロス生地の間には一枚又は複数枚の不織布表皮材が挟み込まれたことを特徴とする吸音パネル。
【請求項2】
前記繊維系多孔質材料が、有機繊維材料である請求項1記載の吸音パネル。
【請求項3】
前記有機繊維材料が、ポリエステル材料である請求項2記載の吸音パネル。
【請求項4】
前記吸音母材の流れ抵抗が(0.3〜7)×10[N・sec/m]である請求項1記載の吸音パネル。
【請求項5】
前記不織布表皮材が、ポリエステル等を主成分とするスパンボンド不織布・スパンレース不織布・メルトプローン不織布から選択されたものである請求項1記載の吸音パネル。
【請求項6】
前記不織布表皮材の流れ抵抗が(0.5〜5)×10[N・sec/m]である請求項5記載の吸音パネル。
【請求項7】
前記クロス生地が、防カビ処理・防汚処理・防炎処理等をした材料である請求項1記載の吸音パネル。
【請求項8】
前記吸音母材、不織布表皮材、クロス生地は、相互に接着された請求項1乃至7いずれか1記載の吸音パネル。
【請求項9】
吸音パネルの裏面に、補強材をあてがった請求項1乃至8いずれか1記載の吸音パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−281131(P2010−281131A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136107(P2009−136107)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(595122187)ブリヂストンケービージー株式会社 (36)
【Fターム(参考)】