説明

吸音式クリーンルーム装置

【課題】システム天井にFFUを取り付けて成るクリーンルームの室内騒音を低下させるための簡便な機構を提供する。発塵性の無い吸音材を用いることでクリーンルーム装置の発塵問題を回避する。
【解決手段】クリーンルーム室の天井面に露出する水平部分の面積と形状が等しいファンフィルタユニットとブランクパネルと吸音材内蔵ボックスとを、相互に隣接しかつ気密に配置する。吸音材内蔵ボックスは概ね直方体の箱型形状とし、箱型部材の上面及び側面は完全に密閉され、箱型部材の内部に吸音材が充填され、箱型部材の下面は多孔式・金網式又は格子式に作られてクリーンルーム内部からの騒音が箱型部材の内部へと通過して吸収されるようになっている。吸音材は、金属繊維系吸音材あるいはセラミック系吸音材で発塵性の無い材料で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体や医薬品の製造ラインにおいて必須とされるクリーンルームの改良に関し、特に室内騒音を小さくする必要があるクリーンルームに対して好適に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
今日、微細加工技術を必要とされる半導体等の工業分野や、高品質を要求される医薬品等の分野において、空気中の塵埃濃度を極力低レベルにコントロールした空間が必要とされ、システム天井(建物の屋根または上階スラブからかなり下方に格子状の枠材を配置した天井)にファンフィルタユニット(FFU)を設置した多くの垂直層流式又は乱流式クリーンルームが提供されてきた。しかしながら、従来の垂直層流式及び乱流式クリーンルームでは、室内空間に向かってファンの騒音が伝播するという問題があり、館内放送や会話が聴き取りにくくなって非常時の避難などに支障をきたすおそれがある。
【0003】
【特許文献1】特開平10−26384「クリーンルーム装置」では、低騒音化及び省エネルギ化を図るために、騒音検出手段を設け、騒音と反対位相の信号を発生させ、騒音と干渉を生ずる音波を発生させて、騒音を低下させるように構成している。
【0004】
【特許文献2】特開平9−204189「クリーンルームにおける騒音低減方法」では、空気流路に音響センサとスピーカを設置して、検出した騒音の位相を180度変化させた音をスピーカから発して消音を図っている。
【0005】
【特許文献3】特開平7−91726「クリーンルーム用消音装置」では、空気循環用ダクトに消音ダクトを接続し、その内部にアルミニウム粒子を板状に焼結した多孔質板を取り付けて消音を図っている。
【0006】
【特許文献4】特開平6−159752「クリーンルーム用ファンフィルターユニット」では、送風チャンバー内に吸音材を貼着した遮蔽板を取り付けて、騒音の低下を図っている。
【0007】
【特許文献5】特開平6−347070「空調ユニット吊下式クリーンルーム」では、内部に消音器や吸音材を配置した消音ユニットを取り付けて騒音の低下を図っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来の騒音低下方法は、ダクト壁などに吸音材を貼るか、FFU自体の発生騒音を低くするか、循環ダクト系の途中に消音装置を設置するなどの方法に限られていた。そのため、
(1)構造体も含めた施工が必要であり、施工に手間がかかる
(2)壁の厚さが増すため有効床面積が減少する
(3)グラスウールやロックウールなどの吸音材は発塵性が高いので飛散対策が必要になる
(4)吸音式の新たな機械の開発が必要となる、例えば騒音を小さくするため大風量の送風機を低風量で使用すれば、過剰品質となりコストが上昇する
(5)循環ダクト系がない場合は、途中に消音装置を設置できない、などの問題点があった。
【0009】
本発明の主たる目的は、システム天井にFFUを取り付けて成るクリーンルームの室内騒音を低下させるための簡便な機構を提供することにある。
本発明の他の目的は、発塵性の無い吸音材を用いることでクリーンルーム装置の発塵問題を回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した課題を解決するため、本発明は、システム天井にFFUを取り付けて成るクリーンルーム装置において、クリーンルーム室の天井面に露出する水平部分の面積と形状が等しいファンフィルタユニットとブランクパネルと吸音材内蔵ボックスとが、相互に隣接しかつ気密に配置され、前記吸音材内蔵ボックスは概ね直方体の箱型形状に作られ、箱型部材の上面及び側面は完全に密閉され、箱型部材の内部に吸音材が充填され、箱型部材の下面は多孔式・金網式又は格子式に作られてクリーンルーム内部からの騒音が箱型部材の内部へと通過して吸収されるようになっており、前記吸音材は、金属繊維系吸音材あるいはセラミック系吸音材で発塵性の無い材料で構成されている吸音式クリーンルーム装置を提供する。
【0011】
この種のクリーンルーム装置において、天井面に露出する水平部分の面積と形状が等しいファンフィルタユニットとブランクパネルとが、相互に隣接しかつ気密に配置されているのは一般的なことであり、ブランクパネル(例えば鳥取電機製造株式会社の製品など)は、単なる隙間を埋めるためのカバー板(高剛性タイプ・スタンダードタイプ)だけでなく、照明灯を取り付けた照明パネルや、点検口を設けたアクセスパネルなどに広く利用されている。本発明はそのブランクパネルの一部を、形状と面積が等しい吸音材内蔵ボックスで代替させることにより、クリーンルームの室内側の騒音をこの吸音材内蔵ボックスで吸収させ、騒音を低下させようと意図するものである。この吸音材内蔵ボックスの内部に空気層を設けるとさらに吸音性が向上する。
【0012】
吸音材内蔵ボックスは概ね直方体の箱型形状(金属製又はプラスチック製)に作られ、箱型部材の上面及び側面は完全に密閉され、箱型部材の内部の投影面積のほぼ全体に吸音材が充填される。箱型部材の下面は、パンチングプレート・グレーチング・グリルなどによる多孔式・金網式又は格子式に作られてクリーンルーム内部からの騒音が箱型部材の内部へと通過して吸収されるようになっている。吸音材は、金属繊維系吸音材あるいはセラミック系吸音材で発塵性の無い材料、例えばアルミ不織布あるいはアルミ繊維焼結不織布から成る吸音材や、ステンレス不織布あるいはステンレス繊維焼結不織布から成る吸音材、あるいはセラミックの微粒子を焼結して板状にした吸音材などを用いる。一例として、株式会社サーマル製のアルミ繊維焼結吸音材「メタシリー」(商品名)を用いることができる。吸音材は箱型部材の内部から脱落しないような構造に作られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、
(1)施工に手間がかからず安価に施工できる
(2)有効床面積を減ずることがない
(3)金属繊維系あるいはセラミック系の吸音材を使用するので、発塵やガス発生の心配がなく、特別な飛散対策を必要としない
(4)吸音材内蔵ボックスの製作は簡単で、ブランクパネルと代替するだけであるから、施工の手間もかからず、その数を増減することも自在にできる
(5)従来のFFUをそのまま使用できる
(6)循環ダクトが無い現場でも施工できる、などの多くの利点が得られる。
以下、添付図面の実施例を参照しながら、本発明についてさらに詳述する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明によるクリーンルーム装置10を包含するクリーンルームシステム12の全体を表わしており、建物の内部は、屋根またはスラブ90の直下からシステム天井80までの上層空間と、クリーンルーム室14・RA(リターンエア)スペース16・ダーティゾーン18から成る中間空間と、床下の下層空間との3つの領域に仕切られている。
【0015】
従来のクリーンルームと同様に、クリンールーム外に設置された外気処理空調機2から取り入れられた新鮮な空気は、クリーンルーム室を通過してその床面の細孔から床下へと通過した循環空気と混合され、コイルユニット28を経た後、上層空間を通過してクリーンルーム室14内に送られる。コイルユニット28は下層空間内またはリターンエアスペース16内にあってもよい。一部の空気はダーティゾーン18から、装置排気として排気装置4から建物外へと排出される。
【0016】
システム天井80の格子状の枠材上には、各種の空調ユニット20,22,24,26,28,30,40が取り付けられている。図示の各種空調ユニットは、上層空間からクリーンルーム室内へと超高性能フイルタ21を介して清浄空気を供給するファンフイルタユニット20と、枝管付きのファンフイルタユニット22から空気の供給を受けてクリーンルーム室内へと空気を供給する吹き出しユニット24と、前記上層空間内で発生する騒音が周囲へと透過するのを防止する消音ユニット26と、冷却用のコイルユニット28と、ブランクパネル30と、吸音材内蔵ボックス40とを包含している。
【0017】
消音ユニット26は、内部に消音器や吸音材を配置したものである。消音ユニット26には必要に応じて盲板や吸い込みグリルを取り付けることができ、上層空間内を点検するための出入口としても作用する。冷却用のコイルユニット28は、その下面に冷却コイルとプレフイルタが連結されており、内部には消音器とコイルの圧損を補う程度の能力を持つ送風機を設置することもできる。
【0018】
本発明は、クリーンルーム室内の天井面の構造に特徴を有する。図2は、クリーンルームの室内側から天井面を見上げた状態を表しており、天井面に露出する水平部分の面積と形状が等しいファンフィルタユニット20とブランクパネル30と吸音材内蔵ボックス40とが、相互に隣接しかつ気密に配置されている。
【0019】
図3はファンフィルタユニット20の外観を表しており、その上面に設けられた円形の開口23から空気を吸い込んで、内蔵した超高性能(HEPA)フィルタを通過させた清浄空気をその下面からクリーンルーム室14の内部へと送り出すように配置される。
【0020】
図4は本発明が特徴とする吸音材内蔵ボックス40を一部破断して表しており、吸音材内蔵ボックス40は概ね直方体の略箱型形状(金属製又はプラスチック製)に作られ、箱型部材41の上面及び側面は完全に密閉され、箱型部材41の内部の投影面積のほぼ全体に吸音材42が充填されている。箱型部材41の下面44は、パンチングプレート・グレーチング・グリルなどによる多孔式・金網式又は格子式に作られて、クリーンルーム室14内部からの騒音が箱型部材41の内部へと通過して吸収されるようになっている。さらに、吸音材内蔵ボックス40の内部の上方部分に空気層43が設けられて、吸音性をさらに向上させるようになっている。
【0021】
吸音材42は、金属繊維系吸音材あるいはセラミック系吸音材で発塵性の無い材料、例えばアルミ不織布あるいはアルミ繊維焼結不織布から成る吸音材や、ステンレス不織布あるいはステンレス繊維焼結不織布から成る吸音材、あるいはセラミックの微粒子を焼結して板状にした吸音材などを用いる。一例として、株式会社サーマル製のアルミ繊維焼結吸音材「メタシリー」(商品名)を用いることができる。吸音材42は箱型部材41の内部から脱落しないような構造に作られる。
【0022】
本発明をクリーンルームに適用した際の騒音低減を試算してみる。
クリーンルーム:縦48m、横24m、高さ4.5m、体積5184m3
FFUのサイズ:縦1.2m、横0.6m
FFUの風量:0.45m/s、19.4cm3 /m、1166m3 /h
換気回数:40回/h
FFU設置個数:178台(ブランクパネル9枚に1枚のFFUを設置)
【数1】

【0023】
すなわち、音源のパワーを単純に合成すると80dB(A)となる。音圧レベル=パワーレベル+10log(4/吸音力)なので、室内音圧レベルを一般のクリーンルームで代表的な70dB(A)と仮定すると、各周波数で上式の第2項が10dB減衰する吸音力(自然な減音要素によるもの)があると考えられる。ただし、実際は各周波数毎に吸音力が異なるので単純には算定できない。
【数2】

【0024】
ここで、吸音力とは音が返ってこない(反射しない)能力を面積換算した値で、この値が大きいほど減音能力があることになる。今回の10dB減衰を吸音力に換算すると40m2 ということになる。
【0025】
本発明に基づき、金属繊維製吸音材(一例としてアルミニウム製)を収納したボックスをブランクパネルの代わりに178枚(FFUと同数)設置して室内の吸音を図る方法について、試算すると
【数3】

【0026】
上記の結果から、吸音対策を施す前に70dB(A)だった騒音が65dB(A)に低減することが試算される。吸音材内蔵ボックスの数をさらに増加させれば、さらなる騒音低減効果が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
以上詳細に説明した如く、本発明によれば、施工に手間がかからず安価に施工でき、有効床面積を減ずることがなく、金属繊維系あるいはセラミック系の吸音材を使用するので発塵やガス発生の心配がなく特別な飛散対策を必要とせず、吸音材内蔵ボックスの製作は簡単でブランクパネルと代替するだけであるから施工の手間もかからずその数を増減することも自在にでき、従来のFFUをそのまま使用でき、循環ダクトが無い現場でも施工できるなどの利点が得られる。
【0028】
さらに、システム天井でなく在来工法の天井で構成されたクリーンルームにおいても、本発明の吸音材内蔵ボックスを天井に直接設置することで減音効果を得ることができ、クリーンルームでない一般の居室にも本発明を適用することが可能であるなどの応用的な利点も得られ、その技術的効果には極めて顕著なものがある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明によるクリーンルームシステムの全体を表す縦断面図。
【図2】天井面をクリーンルーム室内から見た斜視図。
【図3】FFUの斜視図。
【図4】吸音材内蔵ボックスの斜視図。
【符号の説明】
【0030】
10 クリーンルーム装置
12 クリーンルームシステム
14 クリーンルーム室
20 FFU
30 ブランクパネル
40 吸音材内蔵ボックス
41 箱型部材
42 吸音材
43 空気層
44 下面
80 システム天井

【特許請求の範囲】
【請求項1】
システム天井にファンフィルタユニットを取り付けて成るクリーンルーム装置において、
クリーンルーム室の天井面に露出する水平部分の面積と形状が等しいファンフィルタユニットとブランクパネルと吸音材内蔵ボックスとが、相互に隣接しかつ気密に配置され、
前記吸音材内蔵ボックスは概ね直方体の箱型形状に作られ、箱型部材の上面及び側面は完全に密閉され、箱型部材の内部に吸音材が充填され、箱型部材の下面は多孔式・金網式又は格子式に作られてクリーンルーム内部からの騒音が箱型部材の内部へと通過して吸収されるようになっており、
前記吸音材は、金属繊維系吸音材あるいはセラミック系吸音材で発塵性の無い材料で構成されていることを特徴とする吸音式クリーンルーム装置。
【請求項2】
前記吸音材内蔵ボックスの内部に空気層が設けられている請求項1記載のクリーンルーム装置。
【請求項3】
前記吸音材はアルミ不織布,アルミ繊維焼結不織布,ステンレス不織布あるいはステンレス繊維焼結不織布から成る吸音材である請求項1又は2記載のクリーンルーム装置。
【請求項4】
前記吸音材はセラミックの微粒子を焼結して板状にした吸音材である請求項1又は2記載のクリーンルーム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−281299(P2008−281299A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127493(P2007−127493)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000191319)新菱冷熱工業株式会社 (78)
【Fターム(参考)】