説明

吸音性採光断熱材

【課題】吸音性、採光性及び断熱性に優れており、さらに、曲面状の部分や、部屋の可動間仕切りなどの広範な分野に適用することができる吸音性採光断熱材を提供する。
【解決手段】可撓性及び透明性を有し、複数の貫通孔が形成されている複数枚の合成樹脂フィルム2〜5が間に空気層を隔てて積層されており、複数枚の合成樹脂フィルム2〜5が、例えば合成樹脂ロッド6からなる接合材を介して接合されている、吸音性採光断熱材1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の開口部や部屋の内部において用いられる吸音性採光断熱材に関し、より詳細には、複数枚の合成樹脂フィルムを間隔を隔てて積層してなる積層構造を有する吸音性採光断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅やビルなどの建築物の開口部、例えば窓においては、採光性に優れていることが求められる。また、開口部からの熱の放散を防止し、エネルギーを節約するためには、断熱性に優れていることが求められる。従って、採光性及び断熱性に優れた材料により、開口部を補強することができれば、大きな省エネルギー効果を期待することができる。
【0003】
上記採光断熱材としては、例えば下記の特許文献1には、複数の合成樹脂フィルムが空気層を挟んで積層されている採光断熱材が開示されている。特許文献1では、空気層の厚みは100μm〜3mmとされており、合成樹脂フィルムの可視光線透過率を20%以上とすることにより、良好な採光性及び断熱性の得られることが記載されている。
【0004】
他方、コンサートホール、音楽室またはオーディオルームなどでは、建物の内装材の反射により、良好な音響効果が得られないことがある。また、会議室や講義室では、内装材の反射により、人の話し声が聞き取り難いことがある。従って、吸音性を有する内装材がこれらの場所において広く用いられている。
【0005】
下記の特許文献2には、透光性を有する複数のパネルが空気層を隔てて平行に配置されている吸音材が開示されている。ここでは、音が発生する面側のパネルに複数の貫通孔が形成されている。複数のパネルが透光性を有するため、採光性が確保されており、また上記多数の貫通孔により吸音効果が得られるとされている。
【0006】
さらに、下記の特許文献3には、吸音用の微小穿孔が形成されているポリマーフィルムを備えた吸音材が開示されている。ここでは、上記ポリマーフィルムが、構造体表面との間に空隙を隔てて配置され、かつ該空隙の少なくとも一部に、熱可塑性繊維状吸音材料が配置されている。特許文献3では、上記ポリマーフィルムに形成される微小穿孔の断面形状を工夫することにより、高周波数の音の吸音性を高め得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−291608号公報
【特許文献2】特開平8−144390号公報
【特許文献3】特許第4108933号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の採光断熱材は、建物の開口部における採光性を損なうことなく、断熱性を高めることを可能とする。しかしながら、特許文献1に記載の採光断熱材は、優れた吸音作用を有するものではなく、室内の音や声が反射するという問題がある。
【0009】
他方、特許文献2に記載の透光性の吸音材では、採光性は十分であるが、厚みの大きな複数枚のパネルを間に空気層を介して積層した構造を有するため、可撓性を有していない。そのため、建物の内面が曲面である場合には、適用が困難であった。また、室内において、可動間仕切りとして、採光性及び吸音性を有するスクリーンとして用いることはできなかった。すなわち、使用範囲が著しく制限されるという問題があった。
【0010】
特許文献3に記載の吸音材は、構造体表面を利用するものであり、構造体表面に空隙を隔てて上記ポリマーフィルムが配置されている。ポリマーフィルムは、可撓性を有するため、曲面状の構造体表面にも適用することができる。しかしながら、ポリマーフィルム1枚の微小穿孔が対象であり採光性・断熱性は考慮されず吸音作用も十分でなかった。特に吸音性に関しては特許文献3では、繊維状吸音材料を空隙に充填する仕様も提案されている。この場合、構造が複雑であり、繊維状吸音材料を充填する作業を実施しなければ組み立てることができなかった。加えて、繊維状吸音材料を空隙に充填するため、良好な採光性を実現することはできない。
【0011】
本発明の目的は上述した従来技術の現状に鑑み、採光性、断熱性及び吸音性に優れており、しかも可撓性を有し、曲面状の壁面などの様々な形状の設置場所に容易に適用することができ、さらに室内の可動間仕切りやスクリーンなどにも用いることができる、吸音性採光断熱材を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、選択的に特定周波数範囲の音を十分に吸音したり、あるいは広い周波数範囲にわたり音を効果的に吸収し得る吸音性採光断熱材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る吸音性採光断熱材は、可撓性及び透明性を有し、間に空気層を隔てて積層されている複数枚の合成樹脂フィルムと、隣り合う合成樹脂フィルム間に前記空気層が形成されるようにして、隣り合う合成樹脂フィルムを接合している接合材とを備え、複数枚の前記合成樹脂フィルムの内、少なくとも1枚の合成樹脂フィルムに、複数の貫通孔が形成されている。
【0014】
本発明に係る吸音性採光断熱材のある特定の局面では、前記貫通孔が形成されている合成樹脂フィルムが複数枚備えられており、該貫通孔が形成されている複数枚の合成樹脂フィルムが、貫通孔の大きさ及び/またはピッチが異なる複数種の合成樹脂フィルムを有する。
【0015】
本発明に係る吸音性採光断熱材の他の特定の局面では、最外層に位置している一対の合成樹脂フィルムの一方もしくは両方において、前記貫通孔が形成されていない。
【0016】
本発明に係る吸音性採光断熱材のさらに他の特定の局面では、貫通孔の開口形状が円形であり、該円の直径が0.1〜1mmの範囲にあり、複数の貫通孔が1〜10mmピッチで配置されている。
【0017】
本発明に係る吸音性採光断熱材のさらに他の特定の局面では、前記貫通孔の開口率が、0.1〜4%の範囲にあり、該複数の貫通孔が、1〜10mmピッチで配置されている。
ここでの開口率とは、一定面積当たりの開口部分の面積の比率をいう。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る吸音性採光断熱材は、透明性及び可撓性を有する複数種の合成樹脂フィルムを間隔を隔てて積層した構造を有し、少なくとも1枚の第1の合成樹脂フィルムに複数の貫通孔が形成されているため、採光性と断熱性に優れているだけでなく、複数の貫通孔及び空気層の存在により、優れた吸音性を発現する。従って、採光性、断熱性及び吸音性を兼ね備えた材料を提供することができる。
【0019】
加えて、複数種の合成樹脂フィルムが可撓性を有するため、吸音性採光断熱材が全体として可撓性を有する。よって、曲面状の建物内壁のような平坦ではない部分にも、本発明の吸音性採光断熱材を容易に適用することができる。さらに、室内の採光性と吸音性とが要求される可動間仕切りやスクリーンとしても、本発明の吸音性採光断熱材を用いることができる。しかも、繊維状吸音材料などを必要としないため、高い採光性能を発現する。よって、従来の吸音性材料や吸音性断熱材に比べて、高範囲な用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態に係る吸音性採光断熱材の平面断面図であり、(b)は、該採光断熱材の正面図であり、(c)及び(d)は貫通孔の形状の変形例を示す正面図である。
【図2】(a)は、本発明の一実施形態の採光断熱材が建物の窓に取り付けられている状態を示す略図的斜視図であり、(b)は、(a)中のA−A線に沿う断面図である。
【図3】本発明の一実施形態の採光断熱材の要部を拡大して示す断面図である。
【図4】実施例1と実施例1の理論モデルの吸音特性を示し、予測計算手法の妥当性を示す図である。
【図5】実施例2〜4の吸音特性を示す図である。
【図6】実施例2、実施例5及び比較例1の吸音特性を示す図である。
【図7】実施例6〜8の採光断熱材及び採光断熱材を取り付けなかった場合(比較例2)の建物室内における残響時間の周波数特性を示す図である。
【図8】実施例9〜13及び比較例3の吸音性採光断熱材の吸音特性を示す図である。
【図9】第1の合成樹脂フィルムの枚数が異なる実施例14〜17の吸音特性を示す図である。
【図10】貫通孔の径が等しく、貫通孔間のピッチが異なる実施例18〜20の吸音特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0022】
図1(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る吸音性採光断熱材の平面断面図及び正面図である。
【0023】
吸音性採光断熱材1では、複数の合成樹脂フィルム2〜5が間に空気層Xを隔てて積層されている。
【0024】
合成樹脂フィルム2〜5の積層数は、2以上である限り任意である。本実施形態では、合成樹脂フィルム2〜5は、透明性及び可撓性を有する限り特に限定されない。このような合成樹脂フィルムの材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸セルロースなどを挙げることができる。中でも、自消性であり、建築材としての適合性に優れているので、ポリカーボネートやポリ塩化ビニルが好適である。
【0025】
さらに、最外側に位置する合成樹脂フィルム2〜5の外表面には、耐擦過性を高めるために、ハードコート層を形成してもよい。このようなハードコート層としては、合成樹脂フィルム2〜5本体を構成する樹脂よりも硬い適宜の合成樹脂を用いることができる。
【0026】
また、合成樹脂フィルム2〜5は、複数の合成樹脂を積層してなる積層フィルムにより形成されていてもよい。
【0027】
合成樹脂フィルム2〜5の厚みは、特に限定されないが、30〜300μmが好適に使用される。より好ましくは50〜250μm、さらに好ましくは100〜200μmである。50μm未満では、吸音性採光断熱材1の機械的強度が低くなりすぎることがあり、300μmを超えると、吸音性採光断熱材1全体の重量が必要以上に重くなり、運搬性、施工性が悪くなる。本実施形態では、複数の合成樹脂フィルム2〜5に、それぞれ、貫通孔2a〜5aが形成されている。貫通孔2a〜5aは、本実施形態では横断面が円形であり、すなわち開口形状が円形である。もっとも、図1(c)及び(d)に示すように、矩形または十字状などの他の開口形状を有するように貫通孔2a〜5aが形成されていてもよい。
【0028】
貫通孔2a〜5aは、吸音性を発現するために設けられている。従って、合成樹脂フィルム2〜5の全てに貫通孔2a〜5aが形成されている必要はないが、もっとも、吸音性を高める上では、多くの合成樹脂フィルムに貫通孔が形成されていることが望ましい。より好ましくは、全ての合成樹脂フィルム2〜5に貫通孔2a〜5aが形成されていることが望ましい。穿孔フィルムの使用枚数等によって、吸音可能な周波数範囲も変化するため、用途に応じた設計も可能である。
【0029】
また、上述のように、表面層の一方側、もしくは両側に穿孔を施さない状態のフィルムを使用すると、埃や虫等の異物混入を防ぐことができる。この場合、初めから穿孔を施していないフィルムも使用可能であるが、穿孔フィルムの表面に、スキン層となる表面層を空気層を介さずに、積層や溶融ラミネートを行っても構わない。この場合、このスキン層は薄くて柔軟な方が、吸音効果を阻害しない。
【0030】
上記貫通孔2a〜5aは、吸音作用を発現するものであるため、複数の貫通孔2a〜5aが、合成樹脂フィルム2〜5の面方向において多数分散配置されていることが望ましい。
【0031】
また、貫通孔2a〜5aの径は、人間が聞き取り得る周波数範囲の音を効果的に吸音するには、0.1〜1mmの範囲であることが望ましい。また、例えば図4(a)に示す矩形の貫通孔2bや(b)に示す十字状の貫通孔2cの場合には、径ではなく、貫通孔の面積が、0.007〜1mmの範囲であることが望ましい。それによって、人間が聞き取り得る周波数範囲の音を効果的に吸音することができる。好ましくは、径が0.3mm以上の円に準ずる形状であれば、穿孔加工の精度向上、生産性向上が可能となる。
【0032】
上記複数の貫通孔2a〜5aのピッチは、1〜10mmの範囲であることが望ましい。このようなピッチで、多数の貫通孔2a〜5aが配置されていることにより、吸音性をより一層高めることができる。ピッチが10mmを超えると、吸音作用が低くなりすぎるおそれがあり、1mm未満では、吸音性採光断熱材1の穿孔加工性が低くなるおそれがある。
【0033】
また、本実施形態では、貫通孔2a〜5aは、合成樹脂フィルム2〜5を穿孔することにより形成されている。従って、貫通孔2a〜5aは、合成樹脂フィルムをニードル式、もしくはパンチ式といった機械加工により、あるいはレーザー光の照射等により容易に形成することができる。厚いプラスチック板の場合は、打ち抜きに必要な力と材料の機械的強度の問題から、機械加工によって均一な形状の微細な孔を形成するのが困難である。また、厚いプラスチック板の場合は、レーザー光照射による穿孔方法でも、薄いフィルムよりも照射部分の熱が蓄積しやすく、加工後の溶融変形やひずみ等が生じるため、均一な形状の穿孔が困難である。上述の吸音に効果的な穿孔範囲の穿孔は、薄いフィルムにおいて好ましい。前述した特許文献3に記載の合成樹脂フィルムでは、貫通孔の径方向において、貫通孔の形状を変化させることにより、吸音作用の周波数範囲に選択性をもたせることができるとされている。しかしながら、このような貫通孔の延びる方向において形状が変化する貫通孔は容易に形成することは困難である。
【0034】
これに対して、本実施形態では、貫通孔2a〜5aは、孔横断面形状が合成樹脂フィルム2〜5の一方面から他方面に至るにつれて変化させなくとも、多層に積層することで高い吸音性能を発現させている。そのため、上記機械加工やレーザー光の照射等により容易に形成することができる。
【0035】
もっとも、本発明においては、貫通孔2a〜5aは、その横断面形状が、合成樹脂フィルムの一方面から他方面に至るにつれて、変化していてもよいし、ランダムに変化してもよい。また、上述の最適な穿孔径、ピッチ、開口率の範囲内であれば、1枚のフィルムに数種のパターンの穿孔が施されてもかまわない。
【0036】
上記空気層Xの厚みは、吸音性を高める上では、厚い方が好ましい。それによって、吸音に可能な有効範囲が拡大する。しかしながら、空気層Xの厚みが厚くなりすぎると、層間に対流が生じ、断熱性が低下したり、吸音性採光断熱材1の厚みが厚くなることで取り扱い性が低下するおそれがある。従って、好ましくは、空気層Xの厚みは、0.1〜3mmの範囲であることが望ましい。
【0037】
また、複数の合成樹脂フィルム2〜5は、接合材としての合成樹脂ロッド6を介して接合されている。合成樹脂ロッド6は、図1(a)において図面の紙面−紙背方向に延びている。すなわち、合成樹脂ロッド6は、隣り合う合成樹脂フィルム、例えば合成樹脂フィルム2と合成樹脂フィルム3の面方向と平行に延びている。合成樹脂ロッド6は、細長い円柱状の形状を有し、その径により、空気層Xの厚みが規定されている。
【0038】
もっとも、合成樹脂ロッド6の横断面は円形に限らず、横断面が矩形の合成樹脂ロッドや、他の横断面形状の合成樹脂ロッドを用いてもよい。
【0039】
合成樹脂ロッド6を用いた場合、合成樹脂フィルム2を押出成形し、貫通孔2aを形成した後、合成樹脂ロッド6を溶融押出しや塗工後の加熱または光照射による硬化工程等を経て合成樹脂フィルム2上に載置し、さらに次の貫通孔3aが形成された合成樹脂フィルム3を積層する。このような工程を繰り返しことにより、容易に吸音性採光断熱材1を製造することができる。
【0040】
なお、合成樹脂フィルムとして、すでに成形された既存のフィルムロールを使用して、
穿孔工程より加工を行うことも可能である。
【0041】
もっとも、合成樹脂ロッド6に代えて、透光性を有する他の材料、例えばガラスや透光性セラミックスなどにより接合材を形成してもよい。
【0042】
しかしながら、吸音性採光断熱材1全体の可撓性を高めるためには、柔軟性を有する合成樹脂により合成樹脂ロッド6を形成することが望ましい。
【0043】
上述したように、合成樹脂フィルム2〜5では、同じ大きさの貫通孔2a〜5aが形成されていたが、図3に示す変形例のように、例えば合成樹脂フィルム2に形成されている貫通孔2aと、他の合成樹脂フィルム3に形成されている貫通孔3aの形状の大きさを異ならせてもよい。それによって、様々な周波数範囲の音を効果的に吸音することができる。このように、本発明においては、複数の合成樹脂フィルムの内、少なくとも1層の合成樹脂フィルムに設けられている貫通孔の大きさ及び/またはピッチと、残りの合成樹脂フィルムに設けられている貫通孔の大きさ及び/またはピッチを異ならせてもよい。加えて、複数枚の合成樹脂フィルム2〜5に形成される貫通孔を全て異ならせもよい。それによって、より広い周波数範囲にわたり十分な吸音性を発現させることができる。
【0044】
さらに、1枚の合成樹脂フィルムにおいて、大きさや形状が異なる複数の貫通孔を形成してもよい。
【0045】
前述したように、吸音性採光断熱材1は、図2(a)に示すように、建物10の壁面10aの窓部11、すなわち開口部に好適に用いられる。窓部11の窓ガラスの壁、額縁、もしくはカーテンレールに、吸音性採光断熱材1を設置することにより、採光性を損なわずに、断熱効果及び吸音効果を得ることができる。図2(b)では、窓部11はガラスからなり、サッシ枠12に取り付けられている。サッシ枠12が壁面10aに固定された支持枠13に固定されている。なお、設置方法や形態は、特に図示のものに限定されず、パネル状のものを治具を使用してビス固定、もしくはカーテンレール等に簾状につり下げる、等既存の方法のいずれも用いることが可能である。軽量性があるため、取り外し式にすることも可能である。また、パネルを分割しておけば、不要な場合に折り曲げたりする収納も可能である。
【0046】
もっとも、吸音性採光断熱材1の用途は、窓部のような開口部に限定されるものでなはい。すなわち、採光と断熱と吸音とが要求される様々な用途に、吸音性採光断熱材1を用いることができる。
【0047】
ただし、吸音効果の観点からは、吸音性採光材の音が発生する側の反対側の面の背後には、空気層(背後空気層)が存在するように設置した方がよい。設置場所の剛直な面(ガラスや壁等)から10〜350mmの背後空気層が確保できることが望ましい。この背後空気層は大きいほど、吸音のピークは低い周波数側に移行する傾向があるが、この範囲であれば、人間が聞き取り得る周波数範囲の音を効果的に吸音することが可能となる。10mm以下であると、効果的な吸音効果を得られないことがあり、350mm以上となると、室内空間の有効利用を妨げることがある。
【0048】
また、吸音性採光断熱材1は可撓性を有する複数枚の合成樹脂フィルム2〜5を積層した構造を有するため、全体としても可撓性を有する。従って、曲面状の部分にも容易に適用することができる。さらに、複数枚の合成樹脂フィルムを空気層Xを介して積層した構造であるため、可撓性を有するだけでなく、軽量である。従って、例えば、室内に設置される可動スクリーンや可動間仕切りにも用いることができる。従って、厚くかつ重い従来の吸音性パネルに比べ、吸音性採光断熱材1は、広範な用途に好適に用いることができる。
【0049】
次に、具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明の効果を明らかにする。以下、吸音特性は実際の現場での使用を想定して、残響室法(JIS A1409)による吸音特性に相当する値を得ることができる理論解析による吸音特性計算値に基づいて検討する。理論解析はフィルムの剛性を考慮した板振動の方程式と空気の振動式(波動方程式)を境界条件で結び付けて解く方法を採用した。フィルムに孔が空いていることの影響はその境界条件に反映される。詳細は Takahashi らによる “Flexural vibration of perforated plates and porous elastic materials under acoustic loading, ” Journal of Acoustical Society of America. 112, 1456-1464 (2002) に示されている。
【0050】
(実施例1)
上記理論解析手法を今回のケースに適用した際の妥当性を示すために、残響室法による実測値との比較を行った。合成樹脂フィルムとして、厚み0.125mmのポリエチレンテレフタレートフィルムに、直径0.5mmの開口形状が円形の貫通孔を5mmピッチで形成した。この合成樹脂フィルム上に、直径0.65mmの合成樹脂ロッドを溶融押出しし、同様に貫通孔が形成された次の合成樹脂フィルムを合成樹脂ロッド上に積層し、接着固定させた。この工程を繰り返すことにより、空気層厚0.65mmとして6枚の上記合成樹脂フィルムを積層し、従って、空気層数が5層であり、かつ総厚みが4mmである実施例1の吸音性採光断熱材を得た。なお、上記合成樹脂フィルムにおける開口率は0.79%である。ここで、開口率とは、合成樹脂フィルムの単位面積当たりの開口部分の割合をいうものとする。
【0051】
この吸音性採光断熱材を窓ガラスに見立てた剛直面から背後空気層50mmの間隔をあけて設置した場合を想定し、残響室法による吸音率を JIS A1409 に従って測定した。また、これに対応する理論計算用のモデル1の吸音性採光断熱材を得た。
【0052】
結果を図4に示す。吸音特性のピーク近辺で実測値(実験)の方が若干高めの傾向にあるが、全体的には実施例1の理論モデルと実施例1の結果とは非常によく対応しており、理論の妥当性が示されたと考えられる。今後はこの理論を使用して各種の検討を行う。
【0053】
(実施例2〜4)
実施例2〜4では、実施例1と同一の合成樹脂フィルムを同一の径・ピッチで穿孔し、同一の空気層厚で積層した吸音性採光断熱材を用意した。ただし合成樹脂フィルム積層枚数は3枚とし、総厚みは1.7mmとした。実施例3では剛直面から背後空気層100mmの間隔をあけて設置した場合を想定した吸音特性を上記の理論に従って計算した。実施例3、4は実施例2と同一の吸音性採光断熱材であるが、その背後空気層厚は各々200mmと250mmである。残響室法吸音率に相当する吸音特性計算値を図5に示す。
【0054】
図5から明らかなように、剛直面となるガラス面からの距離、すなわち背後空気層の厚みが厚くなるにつれて、吸音率が最大となる周波数位置が500Hzから270Hz付近の低周波数側にシフトしていることがわかる。従って、剛直面となるガラス面からの設置距離を調整することによっても、吸音率の周波数特性を調整し得ることがわかる。
【0055】
(実施例2、実施例5及び比較例1)
実施例2と同様の吸音性採光断熱材と、以下の実施例5及び比較例1の吸音性採光断熱材とを用意した。
【0056】
実施例5:最外層の合成樹脂フィルムに貫通孔を形成しなかったことを除いては、実施例2と同様にして、吸音性採光断熱材を用意した。
【0057】
比較例1:全ての合成樹脂フィルムに貫通孔を形成しなかったことを除いては、実施例2と同様にして、吸音性採光断熱材を得た。
【0058】
上記実施例2と、実施例5及び比較例1の吸音性採光断熱材の吸音特性を図6に示す。
【0059】
図6から明らかなように、どのフィルムも貫通孔を有しない比較例1に比べて、実施例2及び実施例5によれば、高い吸音性能の得られることがわかる。特に、実施例5に比べ、実施例2では、最外層の合成樹脂フィルムにも貫通孔が形成されているため、500Hz付近で高い吸音効果の得られることがわかる。
【0060】
(実施例6〜8及び比較例2)
実施例2〜4と同一の吸音性採光断熱材として実施例6及び実施例8を用意した。また、実施例2の吸音性採光断熱材の音源側に位置する最外層の合成樹脂フィルム表面には穿孔を施していないフィルム(ポリエチレンテレフタレート50μm厚、東レ社製「ルミラーU34」)を貼付積層し、実施例5に相当する実施例7の吸音性採光断熱材を得た。
【0061】
実施例6,7,8の吸音性採光断熱材は450×450mmサイズに切断し、周囲にアルミ枠をはめこんでパネル加工を行った。さらに5枚のアルミ枠同士を吊り具でつないで、帯状スクリーンを形成した。このスクリーンを開口部を有する室容積約180mの建物室内空間のガラス面に対して、100mm〜250mmの距離を保持して、窓枠上部よりつり下げて、実施工時の吸音性能を確認した。
【0062】
室内のインパルス応答を測定し、インパルス2乗積分法により残響時間の周波数特性を測定するという方法で測定を行った。
【0063】
実施例6では、このパネルを50枚、パネル5枚が1組となる帯状スクリーンとして10組を設置した。水平方向は突き合わせ、突き合わせ部の隙間を埋めるようにガラス側表面からテープを貼付した。
【0064】
実施例7では、上述のように吸音採光断熱材の構成が、上述のように異なっており、パネルとしては110枚使用し、パネル5枚が1組となる帯状スクリーンとして22組設置した。その他に関しては、実施例6と同様の設置を行った。
【0065】
実施例8では、吸音採光断熱材の構成は実施例6と同様であるが、パネルとしては110枚使用し、パネル5枚が1組となる帯状スクリーンとして22組設置した。設置方法は実施例6と同様である。
【0066】
結果を図7に示す。また、図7においては、比較例2として上記吸音性採光断熱材を設置しない元の状態の残響時間の周波数特性を併せて示す。
【0067】
図7から明らかなように、比較例2に比べて、実施例6〜8のいずれにおいても、125〜4000Hzの広い周波数範囲にわたり、残響時間を短くし得ることがわかる。特に、吸音性採光断熱材から成るパネルを50枚から110枚に増加した実施例8では、実施例6に比べて、全周波数範囲にわたり、残響時間を短くすることができた。従って、積層数を高めることにより、吸音効果が高められていることがわかる。
【0068】
また、実施例8の吸音性採光断熱材の表面に表面処理を施して、音源側の穿孔フィルムの穿孔を閉塞した実施例7では、実施例8に比べて、高周波数領域では、若干、残響時間が長くなっているものの、低周波数領域では同等レベルの効果は確認できる。従って、内部への埃や虫等の異物混入をふせぐために、上記表面処理や、穿孔のないフィルムを使用した場合でも、一定の吸音効果を有することが確認できた。
【0069】
(実施例9〜13及び比較例3:合成樹脂フィルム積層数の影響)
実施例3と同様にして、但し、合成樹脂フィルム積層数を以下のようにして、実施例9〜13の各吸音性採光断熱材と、1枚の合成樹脂フィルムのみを用いた比較例3の吸音性採光断熱材を用意した。ガラス剛直面からの距離、背後空気層はいずれも100mmに設置した。
【0070】
実施例9:合成樹脂フィルムの枚数=2枚
実施例10:合成樹脂フィルムの枚数=3枚
実施例11:合成樹脂フィルムの枚数=4枚
実施例12:合成樹脂フィルムの枚数=5枚
実施例13:合成樹脂フィルムの枚数=6枚
比較例3 :合成樹脂フィルムの枚数=1枚
【0071】
上記実施例9〜13及び比較例3の吸音率周波数特性を図8に示す。
【0072】
図8から明らかなように、合成樹脂フィルムの枚数が増加するにつれて、吸音率が高くなり、かつ吸音率のピーク周波数位置が徐々に低周波数側にシフトしていることがわかる。また、比較例3の単層に比べ、実施例9〜13では高い吸音効果の得られることがわかる。このデータは、多層構造の吸音効果に対する優位性を示唆している。
【0073】
(実施例14〜17、貫通孔の径とピッチによる影響)
実施例3と同様にして、但し合成樹脂フィルムに形成される貫通孔径及びピッチを以下のように変化させ、実施例14〜17の吸音性採光断熱材を得た。なお、開口率は全て0.79%とし、貫通孔の径及びピッチを変化させた。ガラス剛直面からの距離、背後空気層はいずれも100mmに設置した。
【0074】
実施例14:貫通孔の径=0.1mm、ピッチ=1mm
実施例15:貫通孔の径=0.25mm、ピッチ=2.5mm
実施例16:貫通孔の径=0.5mm、ピッチ=5mm
実施例17:貫通孔の径=1mm、ピッチ=10mm
【0075】
実施例14〜17の吸音性採光断熱材の吸音率周波数特性を図9に示す。
【0076】
図9から明らかなように、実施例14〜17のいずれにおいても、400Hz付近〜500Hz付近において、良好な吸音性を発現している。もっとも、同一開口率であれば、貫通孔の径を小さくすることにより、吸音効果が高くなることがわかる。
【0077】
(実施例18〜20、貫通孔のピッチによる影響)
実施例2と同様にして、但し貫通孔の径は0.5mmとし、貫通孔のピッチを、以下のようにして、実施例18〜20の吸音性採光断熱材を得た。ガラス剛直面からの距離、背後空気層はいずれも100mmに設置した。
【0078】
実施例18:ピッチ=2.5mm
実施例19:ピッチ=5mm
実施例20:ピッチ=10mm
【0079】
なお、貫通孔の径は全て0.5mmとした。
【0080】
実施例18〜20の吸音性採光断熱材の吸音特性を図10に示す。穿孔のピッチを変化させることによっても吸音特性は変化し、特に目的とする周波数帯を有効に吸音しようとする場合にはピッチの変化により対応できる可能性もあることが分かる。
【0081】
以上の実施例1〜13,及び比較例1〜3で使用した吸音性採光断熱材と同じサンプルを使用して、採光性と断熱性の評価も実施した。
【0082】
採光性の評価:吸音性採光断熱材の可視光線透過率を分光光度計により測定した。結果を下記の表1に示す。
【0083】
断熱性の評価:JIS A 1420に準拠した簡易断熱箱を作製し、各吸音性採光断熱材単体の熱貫流率(W/mK)を求め、断熱性を評価した。結果を下記の表1に示す。
【0084】
また、3mm厚シングルガラスに対し、表1に記載の各々の空間層を設けて、吸音性採光断熱材サンプルを端部シールして設置した場合の熱貫流率(W/mK)も同様の手法で求めた。
【0085】
【表1】

【符号の説明】
【0086】
1…吸音性採光断熱材
2〜5…合成樹脂フィルム
2a〜5a…貫通孔
6…合成樹脂ロッド
10…建物
10a…壁面
11…窓部
12…サッシ枠
13…支持枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性及び透明性を有し、間に空気層を隔てて積層されている複数枚の合成樹脂フィルムと、
隣り合う合成樹脂フィルム間に前記空気層が形成されるようにして、隣り合う合成樹脂フィルムを接合している接合材とを備え、
複数枚の前記合成樹脂フィルムの内、少なくとも1枚の合成樹脂フィルムに、複数の貫通孔が形成されている、吸音性採光断熱材。
【請求項2】
前記貫通孔が形成されている合成樹脂フィルムが複数枚備えられており、該貫通孔が形成されている複数枚の合成樹脂フィルムが、貫通孔の大きさ及び/またはピッチが異なる複数種の合成樹脂フィルムを有する、請求項1に記載の吸音性採光断熱材。
【請求項3】
最外層に位置している一対の合成樹脂フィルムの一方もしくは両方において、前記貫通孔が形成されていない、請求項1または2に記載の吸音性採光断熱材。
【請求項4】
前記貫通孔の開口形状が円形であり、該円の直径が0.1〜1mmの範囲にあり、複数の貫通孔が1〜10mmピッチで配置されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸音性採光断熱材。
【請求項5】
前記貫通孔の開口率が、0.1〜4%の範囲にあり、該複数の貫通孔が、1〜10mmピッチで配置されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸音性採光断熱材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−62678(P2012−62678A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207025(P2010−207025)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(390033112)積水テクノ成型株式会社 (48)
【Fターム(参考)】