説明

吸音構造体

【課題】人間の耳の感度が高い中周波数域〜高周波数域で吸音性能が優れた、薄型で軽量の吸音構造体を提供する。
【解決手段】複数の開口部を持つ板状体と板状体上に配置される薄膜とを有し、音源側に配置される複合膜吸音材と、複合膜吸音材に隣接配置される多孔質吸音材とを有する吸音構造体であって、その薄膜は、厚みが2〜50μmであり、弾性率が1×106〜5×109Paである、吸音構造体が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、吸音構造体に関し、より詳細には、シート状の複合膜吸音材と多孔質吸音材とを組み合わせた吸音構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
吸音構造体に使用される吸音材として、一般に、孔開き板などの板状吸音材、あるいはフォーム材又は繊維材を用いた多孔質吸音材が使用されている。孔開き板などの板状吸音材は、共鳴現象による吸音機構を利用するため、例えばその孔の大きさ、形状、壁からの距離(背後空気層)などを適宜設計することによって、目的とする用途に好適な共鳴周波数域を選択することが可能であるが、吸音可能な周波数域は狭い。一方、多孔質吸音材は、材料表面における空気の粘性抵抗を利用するものであって、一般に高周波数域での吸音性に優れる。
【0003】
一般に、人間の聴き取ることのできる音の周波数と音圧レベル(可聴範囲)は、それぞれ20Hz〜20kHz、約0dB〜120dBに及ぶが、人間にとって音の感覚的な大きさは周波数に依存する。国際規格ISO226:2003では、等感曲線(等ラウドネス曲線)が規格化されている。これによれば、人間の耳の感度は3000〜4000Hzでピークとなり、その前後2000〜6000Hzの範囲の音の感受性が他の周波数域の音よりも高い。このことは、人間の耳には、弱いエネルギー(音圧)であってもこの周波数域の音が聞こえることを意味する。従って、このような広い周波数域(2000〜6000Hz)の音を効果的に吸音できる材料の産業上の意義は大きい。
【0004】
これまでに、吸音構造体の吸収可能な周波数域を広げる試みがいくつか成されている。
【0005】
特許文献1には、「少なくとも一枚の多数の開口を有する板状体と少なくも一枚の薄膜とを積層してなる膜振動吸音材を音源側に配設、この膜振動吸音材の背後に軟質繊維系多孔質吸音材もしくは連続気泡型弾性フォーム吸音材を配設、さらに反音源側に遮音板を配設して構成され、振動する空気粒子による膜振動に基づく吸音作用と、振動する空気粒子が細孔内を通過する摩擦抵抗に基づく吸音作用、および、前記軟質繊維系多孔質吸音材もしくは連続気泡型弾性フォーム吸音材がバネとして作用することにより膜振動吸音材に及ぼす吸音作用の相乗効果により、周波数400Hz以上の中高周波数帯域のみならず、100Hzから300Hzの低周波数帯域の吸音を目的とすることを特徴とする、吸音構造体」が記載されている。
【0006】
特許文献2には、「音波を透過する網目構造体Aと網目構造体Bの間に、膜状或いは薄板状材料Cを挟み、これらを部分的に相互に固定Dして複層構造体を得、更に、当該複合構造体の網目構造体Bと多孔質吸音材Eとを密着複合化したことを特徴とする複合吸音構造体」が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2000−250561号公報
【特許文献2】特開2006−153926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したような広い周波数域にわたって高い吸音性能を達成することは非常に困難である。例えば、多孔質吸音材の吸音特性は高周波数域(約4000Hz以上)に適合しているため、中周波数域以下の吸音性能を上げるには、吸音材の厚みを増す必要がある。しかしながら、そのように厚みを増やすと吸音材の嵩が大きくなるかあるいは重量が増加して、そのような吸音材を使用する吸音構造体の設置に制約が生じる。また、多孔質吸音材に他の膜材料や吸音材を組み合わせる方法は、多孔質吸音材の吸音プロファイルを変更して中周波数域の吸音性能を向上させるのに効果的であるが、それに伴って本来優れていた高周波数域の吸音性能が低下するという問題を生じることが多い。
【0009】
以上のことから、本開示は、人間の耳の感度が高い中周波数域〜高周波数域で吸音性能が優れた、薄型で軽量の吸音構造体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示によれば、複数の開口部を持つ板状体と板状体上に配置される薄膜とを有し、音源側に配置される複合膜吸音材と、複合膜吸音材に隣接配置される多孔質吸音材とを有する吸音構造体であって、薄膜は、厚みが2〜50μmであり、弾性率が1×106〜5×109Paである、吸音構造体が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、2000〜6000Hzの中周波数域〜高周波数域で優れた吸音特性を発揮する、薄型で軽量の吸音構造体を得ることができる。
【0012】
なお、上述の記載は、本開示の全ての実施態様及び本開示に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本開示の代表的な実施態様を例示する目的でより詳細に説明するが、本開示はこれらの実施態様に限定されない。
【0014】
本開示の一実施態様の吸音構造体を、図1及び図2にそれぞれ横断面図及び上面図で示す。本開示の吸音構造体10は、複数の開口部23を持つ板状体21とその板状体21に配置される薄膜22とを有する複合膜吸音材20と、その複合膜吸音材20に隣接して配置された多孔質吸音材30とを有する。このように複合膜吸音材と多孔質吸音材を組み合わせることにより、本開示の吸音構造体は、薄型、軽量でありながら、中周波数域から高周波数域までの広い周波数域で優れた吸音性能を発揮する。
【0015】
本開示に使用される複合膜吸音材は、シート状又はフィルム状の吸音材であって、複数の開口部を持つ板状体と薄膜とを複合させた構造体である。板状体は、有効吸音領域について、少なくとも部分的に、好ましくは実質的に全体で、薄膜と接触している。板状体と薄膜を、例えば熱、接着剤などを利用して積層してもよく、それらの周縁部などを部分的にリベット、縫合などによって固定してもよい。代わりに、薄膜が比較的柔軟で、それ自体がある程度の粘着性を示す場合、板状体を薄膜に対して単に圧着するだけでもよい。また、薄膜と板状体が同じ材質の場合、例えばある厚みの樹脂フィルムをエンボス加工することによって、一体成形された複合膜吸音材を作製してもよい。
【0016】
また、複数の開口部を持つ2つの板状体で薄膜を挟持してもよく、1つの板状体の両面を2枚の薄膜で覆ってもよい。さらに、複数の板状体と複数の薄膜を交互に配置して重ねてもよい。さらに、複数枚の板状体を用いる場合には、開口部の大きさ(単位面積当たりの開口率)が同じものを用いてもよく、互いに異なるものを用いてもよい。目的とする吸音周波数域、組み合わせる多孔質吸音材の種類などによっては、単位面積当たりの開口率が異なる複数の板状体を用いると、より良好な吸音特性を得られる場合がある。
【0017】
このように、複数の開口部を持つ板状体と薄膜を組み合わせた複合膜吸音材の吸音特性は、薄膜単体の吸音特性と比べて広域化する。薄膜による吸音作用は、振動する空気粒子が膜を振動させて、音のエネルギーが膜振動に変換されることによる。従って、薄膜単体では、その寸法(面積及び厚み)、質量、材質などによって共鳴周波数すなわち吸音周波数が限定される。いかなる理論に拘束される訳ではないが、板状体自体の有する吸音作用、板状体と薄膜の接触部分における薄膜から板状体への振動の伝播などによって、本開示の複合膜吸音材は広域化した吸音特性を示すと考えられている。
【0018】
また、薄膜の張力を弱めて、すなわち薄膜を弛ませて、複数の開口部を持つ板状体に薄膜を取り付けてもよい。このことは、共鳴周波数の多様化による吸音特性の広域化、又は吸音特性の周波数シフトに有効な場合がある。
【0019】
本開示においては、複数の開口部を持つ板状体として、例えば樹脂製又は金属製の、メッシュ、ネット、孔開き板など、任意の材質、形状のものが使用可能である。例えば、複雑な形状面に設置する場合などの吸音構造体に柔軟性が要求される用途、あるいは軽量な吸音構造体が望まれる用途などでは、樹脂製のメッシュ又はネットを使用することが好ましい。
【0020】
板状体の開口部の開口率は、40%以上、又は60%以上であることが望ましく、一方で、90%以下、又は80%以下であることが望ましい。開口率は、有効吸音領域について、板状体の面積を、板状体に設けられた開口部の面積で割った百分率で表す。開口率を上述の範囲とすることにより、薄膜の本来有する吸音性能を損なわずに、吸音特性の広域化を効果的に実現できる。
【0021】
板状体の開口部の形状は、正方形、長方形、六角形、円形など、任意の形状であってよい。複数の開口部が格子状すなわちグリッド状に配置されてもよい。開口部が六角形の場合はいわゆるハニカム状に配置されてもよい。また、個々の開口部の大きさは同じでも互いに異なっていてもよく、例えば、有効吸音領域の中心付近を大きな格子にし、周縁部に向かって格子の大きさを小さくすることによって、共鳴周波数を多様化してもよい。グリッド状の開口部について、単位グリッドの一辺の長さは1mm以上、又は2mm以上であることが望ましく、一方で、5mm以下、又は4mm以下であることが望ましい。単位グリッドの一辺の長さを上述の範囲とすることにより、複合膜吸音材を多孔質吸音材と組み合わせて吸音構造体としたときに、目的とする吸音周波数域に吸音構造体の吸音特性を適合させることができる。グリッド状の開口部を有する好適な板状体の一例として、以下に限られないが、単位グリッドの一辺の長さが1mm〜2mmの直交格子を備えた樹脂製又は金属製のネット又はメッシュが挙げられる。
【0022】
複数の開口部を持つ板状体の厚みは、10μm以上、又は100μm以上であることが望ましく、一方で、1mm以下、又は0.75mm以下であることが望ましい。10μm以上であれば、実用上十分な強度と耐久性を確保できるとともに、吸音周波数の広域化を実現するのに十分であり、1mm以下であれば、吸音構造体に加わる厚みを最小限に留めることができる。
【0023】
本開示において使用可能な薄膜は、室温における弾性率が約1×106Pa以上、約5×109Pa以下、好ましくは約5×106Pa以上、約5×108Pa以下のシート又はフィルムである。上述の弾性率を有する薄膜として、高分子樹脂フィルムを使用することが望ましい。高分子樹脂フィルムの中でも、比較的柔軟な材料である、ウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、アクリル系エラストマー、アミド系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、及びシリコーン系エラストマーのフィルム、並びにこれらフィルムの積層体が好ましい。このような材料を薄膜として使用した複合膜吸音材を多孔質吸音材と組み合わせると、中周波数域(約1000Hz〜約4000Hz)の吸音特性が多孔質吸音材単体と比べて大幅に改善され、さらには、高周波数域(約4000Hz〜約6000Hz)においても吸音特性の低下を最小限に留めることができるか、あるいはそのような高周波数域の吸音特性を維持さらには改善できる。いかなる理論に拘束される訳ではないが、上述の材料を選択して薄膜として使用すると、単一の共振周波数だけではなく、より広い周波数域で材料の屈曲変形が生じるために、上述した膜振動に基づく吸音作用に関して吸音周波数が広域化すると考えられている。
【0024】
複合膜吸音材に使用される薄膜の厚みは、2μm以上、又は5μm以上であることが望ましく、一方で、50μm以下、又は25μm以下であることが望ましい。薄膜の厚みを2μm以上とすれば、実用上十分な強度と耐久性を確保でき、薄膜の厚みを50μm以下とすれば、薄膜による音波の反射を抑制して、吸音構造体全体で効果的な吸音を達成することができる。一般に、薄膜が厚くなって重量が増すと、膜の共鳴振動による吸音より音の反射の方が支配的になる。その場合、音波が吸音構造体に含まれる多孔質吸音材に到達する前に複合膜吸音材の表面で反射してしまうため、多孔質吸音材が吸音材として機能しなくなる。また、薄膜の厚みが薄いほど、薄膜の剛性が下がって、より広い周波数域で材料の屈曲変形が生じ易くなる。これらの観点から、強度が十分に確保できる限り、薄膜の厚みは薄い方が好ましい。
【0025】
本開示に使用される多孔質吸音材は、材料内部に連続した細孔又は空隙を有する材料である。多孔質吸音材の吸音作用は、音波すなわち振動する空気粒子が細孔又は空隙を通過する際に摩擦抵抗又は粘性抵抗を受けることによる。一般に、多孔質吸音材の吸音特性は高周波数域(約4000Hz以上)で優れている。
【0026】
本開示で使用可能な多孔質吸音材として、例えば、ガラスウール、ロックウール、ポリエステルなどの繊維から作られる織布、ニット布もしくは不織布、又は発泡ポリウレタンなどの連続気泡フォーム材が挙げられる。
【0027】
そのような多孔質吸音材の中でも、単位体積又は単位質量当たりの表面積が大きいために、同じ厚みの他の多孔質吸音材より軽量であってかつ優れた吸音性を示す、マイクロファイバーと短繊維とから構成される不織布が好ましい。このような不織布は、複合膜吸音材、特に柔軟な高分子樹脂フィルムを含む複合膜吸音材と組み合わせたときに、高周波数域(5000Hz〜6000Hz)の吸音特性を維持する、あるいはさらには改善するのに、特に効果的な場合がある。そのような不織布の密度は、5mg/cm3以上、又は10mg/cm3以上であることが望ましく、一方で、200mg/cm3以下、又は100mg/cm3以下であることが望ましい。密度が5mg/cm3未満であると、多孔質吸音材の性能を十分に引き出すことが難しく、また、密度が200mg/cm3を超えると、薄型で軽量の吸音構造体という本来の趣旨から外れてくる。また、使用する不織布の厚みは、約1mm以上、約20mm以下であることが望ましい。このような範囲とすることにより、吸音構造体の厚み又は嵩高さを非常に小さくしつつ、中周波数域〜高周波数域について十分な吸音性能を得ることができる。実際に吸音構造体に組み入れて使用するときの不織布の厚みは様々であってよい。一般に、多孔質吸音材の吸音特性はその厚みが減るほど低下する傾向があるが、必要とする吸音特性の水準、設置スペースの制約などを考慮した上で、必要に応じてさらに圧縮し薄くして使用してもよい。
【0028】
このようなマイクロファイバーと短繊維とから構成される不織布を構成する材料は、加工性、原材料の入手容易性、環境特性などの観点から、ポリオレフィン、アクリル系樹脂(例えばモダクリル)、ポリエステル及びそれらの混合物からなる群から選択されることが望ましい。軽量性と嵩高さを両立させるために、マイクロファイバーの繊維径は、約0.1μm以上、約10μm以下、また、短繊維の繊維径は、約10μm以上、約50μm以下であることが望ましい。上述したような、マイクロファイバーと短繊維とから構成される不織布の一例として、以下に限られないが、メルトブローン法によって作られる商品名Thinsulate(登録商標)不織布(スリーエム製)の品番 TAI−2047、TAI−1047などが挙げられ、これらの不織布に含まれるマイクロファイバーの繊維径は約1〜4μmであり、短繊維の繊維径は約20〜30μmである。
【0029】
上述した複合膜吸音材が音源側に配置されるように、複合膜吸音材を多孔質吸音材に隣接させて配置することによって、本開示の吸音構造体が形成される。薄膜の片面に板状体が付与された複合膜吸音材を用いる場合、多孔質吸音材は板状体の設けられた面と隣接してもよく、設けられていない面と隣接してもよい。また、2枚の複合膜吸音材を用いて多孔質吸音材を挟むことも可能である。複合膜吸音材及び多孔質吸音材は、固定手段を使用せずに単に接触しているだけでもよく、それらの周縁部などが部分的にリベット、縫合などによって固定されていてもよく、あるいは、他の部材、例えば枠やケースなどに、有効吸音領域を露出させた状態で、それら部材の中で互いに接触するように封入されてもよい。
【0030】
本開示の吸音構造体においては、複合膜吸音材の薄膜及び/又は板状体が、多孔質吸音材を構成する材料、例えば不織布の繊維と少なくとも部分的に物理的に接触するように、複合膜吸音材と多孔質吸音材とが互いに隣接して配置される。いかなる理論に拘束される訳ではないが、そのような吸音構造体においては、音波を吸収した複合膜吸音材の振動が接触部分を介して多孔質吸音材に伝播し、その結果、多孔質吸音材が変形して、吸収した音のエネルギーが散逸されることに起因する、複合膜吸音材単独あるいは多孔質吸音材単独で得られる吸音作用とは別の吸音作用が生じていると考えられている。
【0031】
このようにして得られる本開示の吸音構造体は、人間が敏感に知覚する約2000〜6000Hzといった広い周波数域で優れた吸音性能を発揮しつつ、複合膜吸音材及び多孔質吸音材を従来と比べて非常に薄型化できるため、吸音構造体の設置スペースが制約される用途、例えばラップトップコンピュータなどの電子機器や、音響機器、精密機械などの防音/吸音用途に特に有用である。
【実施例】
【0032】
以下、代表的な実施例を詳述するが、本願の特許請求の範囲の範囲内で、以下の実施態様の変形及び変更が可能であることは当業者にとって明らかである。
【0033】
複数の開口部を有する板状体として、以下の3種類を使用した。
グリッドA アクリル樹脂をUV硬化して作製した格子状ネット
グリッドB 市販のポリプロピレン樹脂製格子状ネット(ピッチ1.3mm×1.3mm、ネット線幅250μm、開口率65%、厚み400μm)
グリッドC 市販のステンレス製格子状金属メッシュ(ピッチ1.6mm×1.6mm、メッシュ線幅200μm、開口率77%、厚み400μm)
【0034】
グリッドAの作製
グリッドAは以下のように作製した。日本合成化学工業(株)製の紫光(登録商標)UV−1700B 10部、ヒドロキシエチルアクリレート 5部、チバ・ジャパンのDarocur1173 0.2部の混合液を調製した。この光硬化性樹脂の混合液を、シリコーン離型処理した2枚のPETフィルムの離型処理面の間に挟み、ナイフコーターで厚みを500μmにした。この上に、ピッチが1.7mm×1.7mmの格子状開口部から光が透過するマスクを被せた。格子状開口部の線幅は350μmであった。この状態で、Fusion System Corporation製の高圧水銀ランプ(H型バルブ、120W/cm)を用いて、速度30m/分のコンベアに載せて紫外線照射を行い、樹脂を硬化した。このときのEIT社製光量計UV POWER PUCK(登録商標)IIで測定したUVAの光量は、90mJ/cm2であった。次に、この硬化物をメチルエチルケトンで洗浄して、未硬化部分を除去した後、乾燥して、ピッチが1.7mm×1.7mm、線幅が350μm、開口率が63%、厚みが450μmのグリッドAを得た。
【0035】
本実施例の薄膜として、以下のポリウレタンフィルム、PETフィルム、SISフィルムを使用し、比較例の薄膜としてアルミニウムホイルを使用した。
ポリウレタンフィルム(厚み10μm、弾性率4.5×107Pa)
PETフィルム(厚み5、9、16μmの3種類、弾性率4.1×109Pa)
SISフィルム(厚み12μm、弾性率2.8×107Pa)
アルミニウムホイル(厚み12μm、弾性率6.8×1010Pa)
【0036】
上記のグリッドと薄膜を組み合わせて複合膜吸音材を作製した。薄膜がポリウレタンフィルム及びSISフィルムの場合は、そのまま薄膜にグリッドを圧着して貼り付けた。薄膜がPETフィルム及びAlホイルの場合は、グリッドに少量のスプレー式粘着剤を適用して薄膜に貼り付けた。
【0037】
多孔質吸音材は、以下の3種類を使用した。
Thinsulate(登録商標)(スリーエム製、品番 TAI−2047、厚みを10mmとして測定したときの密度は20mg/cm3
Thinsulate(登録商標)(スリーエム製、品番 TAI−1047、厚みを10mmとして測定したときの密度は10mg/cm3
ポリウレタンフォーム(ストライダー社製、品番 F−2(25mg/m3)、厚み10mm)
【0038】
吸音率の測定
吸音率は、垂直入射吸音率測定法(2マイクロホン法)(ASTM E 1050)に従って測定した。
【0039】
例1〜11
表1に示す複合膜吸音材及び多孔質吸音材を29mmφに打ち抜き、複合膜吸音材のグリッドが外側に向くように重ねて、吸音率測定用の吸音構造体の試料を形成した。複合膜吸音材が音源側に、多孔質吸音材が剛壁側になるように、インピーダンス管の内部に試料を配置した。測定時の厚みが表1に示す値となるように調整して、500〜6400Hzの周波数域で吸音率を測定した。
【0040】
比較例1〜4
複合膜吸音材を使用せずに多孔質吸音材のみを用いたことを除き、例1〜11と同様の方法で吸音率を測定した。
【0041】
比較例5
ポリウレタンフィルムのみをTAI−2047に重ねたことを除き、例1〜11と同様の方法で吸音率を測定した。
【0042】
比較例6
薄膜としてAlホイルを使用した複合膜吸音材をポリウレタンフォームと組み合わせたことを除き、例1〜11と同様の方法で吸音率を測定した。
【0043】
【表1】

【0044】
図3に、例1(グリッド+薄膜)、比較例1(複合膜吸音材なし)及び比較例5(薄膜のみ)の測定結果をグラフで示す。
【0045】
図4に、例2(多孔質吸音材の厚みを例1の半分(5mm)に圧縮)、比較例1(複合膜吸音材なし、多孔質吸音材の厚み10mm)及び比較例2(複合膜吸音材なし、多孔質吸音材の厚みを5mmに圧縮)の測定結果をグラフで示す。
【0046】
図5に、例3(多孔質吸音材の密度が例1の半分、厚み5mm)及び比較例3(例3と同じ多孔質吸音材を使用、複合膜吸音材なし)の測定結果をグラフで示す。
【0047】
図6に、例4〜6(グリッドA〜C)及び比較例1(複合膜吸音材なし)の測定結果をグラフで示す。
【0048】
図7に、多孔質吸音材としてTAI−2047を使用した、例7〜9(厚みの異なるPETを薄膜として使用)、例10(SISを薄膜として使用)に加えて、比較例1(複合膜吸音材なし)の測定結果をグラフで示す。
【0049】
図8に、多孔質吸音材としてウレタンフォームを使用した、例11(SISを薄膜として使用)及び比較例6(Alホイルを薄膜として使用)に加えて、比較例4(複合膜吸音材なし)の測定結果をグラフで示す。
【0050】
図9に、多孔質吸音材の種類によって吸音特性が異なることを示す目的で、例10、例11、比較例1及び比較例4のプロットを抜粋して示す。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本開示の一実施態様による吸音構造体の断面図である。
【図2】本開示の一実施態様による吸音構造体の上面図である。
【図3】例1、比較例1及び比較例5の測定結果を示すグラフである。
【図4】例2、比較例1及び比較例2の測定結果を示すグラフである。
【図5】例3及び比較例3の測定結果を示すグラフである。
【図6】例4〜6及び比較例1の測定結果を示すグラフである。
【図7】例7〜9、例10及び比較例1の測定結果を示すグラフである。
【図8】例11、比較例4及び比較例6の測定結果を示すグラフである。
【図9】多孔質吸音材の種類によって吸音特性が異なることを示すグラフである。
【符号の説明】
【0052】
10 吸音構造体
20 複合膜吸音材
21 板状体
22 薄膜
23 開口部
30 多孔質吸音材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の開口部を持つ板状体と前記板状体上に配置される薄膜とを有し、音源側に配置される複合膜吸音材と、
前記複合膜吸音材に隣接配置される多孔質吸音材と
を有する吸音構造体であって、
前記薄膜は、厚みが2〜50μmであり、弾性率が1×106〜5×109Paである、吸音構造体。
【請求項2】
前記複合膜吸音材の板状体の開口率が40%〜90%である、請求項1に記載の吸音構造体。
【請求項3】
前記複合膜吸音材の板状体がグリッド状の開口部を有し、前記板状体の厚みが10μm〜1mmであって、前記板状体の単位グリッドの一辺の長さが1mm〜5mmである、請求項1又は2のいずれかに記載の吸音構造体。
【請求項4】
前記薄膜が、高分子樹脂フィルムである、請求項1〜3のいずれか1つに記載の吸音構造体。
【請求項5】
前記高分子樹脂フィルムが、ウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、アクリル系エラストマー、アミド系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、及びシリコーン系エラストマーのフィルム、並びにこれらフィルムの積層体からなる群から選択される、請求項4に記載の吸音構造体。
【請求項6】
前記多孔質吸音材が、マイクロファイバーと短繊維とから構成される不織布であって、前記不織布の厚みが1〜20mm、密度が5mg/cm3〜200mg/cm3である、請求項1〜5のいずれか1つに記載の吸音構造体。
【請求項7】
前記不織布を構成する材料が、ポリオレフィン、アクリル系樹脂、ポリエステル及びそれらの混合物からなる群から選択され、マイクロファイバーの繊維径が0.1〜10μmであり、短繊維の繊維径が10〜50μmである、請求項6に記載の吸音構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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