説明

吸音構造

【課題】吸音母材の嵩密度や厚さを増やさず、また、吸音母材に音波の入射に対して直列的に空気層を備えることなく、広い周波帯域の吸音特性を改善する吸音構造を提供する。
【解決手段】音波の入射に対向する、好ましくはポリエステル繊維系不織材である多孔質吸音母材に対し、その側面に該吸音母材に向けて開放された空気室を形成した吸音構造。1・多孔質吸音母材、3・空気室。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道、道路など土木分野、クーリングタワー、室外機など建築設備の分野、工場設備分野、産業機械分野、建設機械分野、建築音響分野など幅広い分野で用いられる吸音パネルや吸遮音パネルに利用可能な吸音構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、スペースの確保、経済性、施工性、軽量化、外観・デザイン性、環境保全、リサイクル性などの観点から吸音材や吸音構造の見直しが進んでおり、一方で、広い周波数帯域たとえば400〜4KHzの帯域で吸音性能にすぐれた薄型・軽量の吸音パネルや吸遮音パネルの要求が高まっている。
【0003】
従来より、吸音パネルや吸遮音パネルに用いられる多孔質性の吸音母材として、グラスウールが広く使用されていたが、とくに低音域での吸音性能を向上させて広帯域をカバーするには、吸音母材の厚さを厚くしたり、吸音母材の裏面に空気層を設けたりするのが通例であった(特許文献1)。このため、吸音パネルや吸遮音パネル自体が厚くなってしまい、このため、多様のニーズにそぐわないものになってきている。
【0004】
また、吸音母材となるグラスウールなどの飛散を防止するため、ガラスクロスやフイルムで包んだりするために、1KHz以上の高音域で吸音率が低下する傾向があり、さらにグラスウールは経年とともに、用いられたバインダーが劣化し、職場環境や周囲の環境に決して好ましいものとはいえない場合がある。
さらに、ウレタンフォームも良く使われる吸音母材であるが、製造上の特性として、吸音性能のバラツキが多く、長期耐久性の点では十分とはいえない。
【0005】
近年、ポリエステル繊維系不織材が吸音母材として広く用いられるようになってきた。すなわち、この例では、音波の入射エネルギーが密集したかかる吸音母材内に入り、その吸音母材の中を空気が出入りするときに粘性抵抗が生じること、繊維間のフリクションを生じること、あるいは繊維を振動させることなどにより、入射する音響エネルギーを熱エネルギーに変換することで吸音性能を発揮することとなる。この吸音性能は吸音母材の流れ抵抗と密接な関係にあり、流れ抵抗を調整することで吸音特性を制御することができる。そして、ポリエステル繊維系不織材に、さらに不織布をその表面に貼り付けて複合化することで、流れ抵抗を調整することができ、実用的な高吸音特性を得ることも可能である。
【0006】
しかしながら、中・低音域の吸音特性をさらに向上するためには、吸音母材を厚くする方法、嵩密度を増やす方法、吸音母材の背後に直列的に空気層を設ける方法などが考えられるが、スペースなどの面から実行できない場合も多い。このことは、前記したグラスウールの場合と同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−227333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
吸音母材の嵩密度や厚さを増やさず、また、吸音母材に音波の入射に対して直列的に空気層を備えることなく、広い周波帯域の吸音特性を改善する方法があれば大変有用であり、本発明はそれを可能にする吸音構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は、音波の入射に対向する、好ましくはポリエステル繊維系不織材である多孔質吸音母材に対し、その側面に該吸音母材に向けて開放された空気室を形成したことを特徴とする吸音構造にかかるものである。
【0010】
さらに特徴的には、吸音母材としてのポリエステル繊維系不織材の表面に、ポリエステル繊維系スパンボンド不織布を熱融着した吸音構造を提供するものである。
【0011】
なお、ポリエステル繊維系不織材の裏面に遮音材を設けることにより、遮音効果をももたらすことができることとなったものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、従来の吸音構造の持つ欠点、すなわち、低音域を含む広帯域で高い吸音性能を得ようとすると、吸音母材の厚さを厚くしたり、吸音母材の背面に空気層を形成するなど、吸音構造の厚さを厚くする必要があったが、かかる構造をとらずに課題を解決したものであって、広帯域(例えば、最も要求の多い400〜2KHz)で高い吸音性能を有する薄型で軽量な吸音構造、あるいは、それを組み込んだ吸音パネルあるいは吸遮音パネルを提供することができたものである。
【0013】
このように、本発明による吸音構造は、従来のものと比較して薄型化、軽量化が可能となったことにより、狭いスペースでも作業性よく適用できることとなったものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の吸音構造の基本構造を示す図である。
【図2】図2は、吸音母材1とチャンネル材2、空気室3の位置関係を示した図である。
【図3】図3は、本発明の実施例1の吸音構造を示す図である。
【図4】図4は、実施例1の吸音構造の残響室法吸音率を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例2の吸音構造の残響室法吸音率を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例3の吸音構造の残響室法吸音率を示すグラフである。
【図7】図7は、アダプタ10の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以上の通り、従来技術が持つ欠点を解消するために鋭意開発を進めた結果、多孔質の吸音母材の周囲に該吸音母材に向けて開放する空気室を形成することで、その厚さや嵩密度を変えることなく、広帯域で大幅に吸音性能を高める吸音構造を発明したものである。
【0016】
本発明は、上記したポリエステル繊維系不織材以外に、従来から使用されているグラスウール、軟質ウレタンフォーム、発泡金属系吸音母材、セラミック系吸音母材など多孔質吸音材がもちろん使用可能であり、かかる多孔質吸音母材の側面周囲に、この多孔質吸音母材に向けて開放されており、他の面は基本的には閉じている空気室を設けることが最大のポイントである。
【0017】
本発明で使用可能な多孔質吸音母材としては、上記したようにポリエステル系などの有機高分子系、グラスウールやロックウールなどの無機繊維系、金属繊維系などの多孔質材料系、ウレタンフォームなどの高分子発泡系、アルミなどの金属発泡系などが挙げられ、これに限定するものではない。
【0018】
コストやリサイクル性を考慮すると、吸音母材としてポリエステル繊維系不織材を用いるのが好ましく、さらに好適には、嵩密度20〜80kg/m,通気抵抗3×10〜7×10N・sec/m、好ましくは通気抵抗が4×10〜2×10N・sec/m、のポリエステル繊維系不織材がよく、実際の使用では、厚さが20〜50mm程度のものが用いられる。
【0019】
なお、かかる吸音母材に、例えばホットメルト材を介して一層又は複数層のポリエステル繊維不織布が熱溶着されることもさらに好ましい結果をもたらす。かかる不織布として、面重量が20〜80g/m、通気抵抗が5×10〜5×10N・sec/m程度のものが好ましい。
【0020】
吸音母材に対する空気室であるが、吸音母材の側方周囲に設けるものであり、音波の入射エネルギーが吸音母材の表面から侵入すると、側方に設けた空気室と連携して広い周波数帯域で熱エネルギーに効率よく変換され、吸音率が大幅に向上することとなる。
【0021】
しかるに、従前の空気室にあっては、音波の入射方向に対しこれに対向するように吸音母材に直列に配置されるのが良いとされてきたが、意外にも、吸音母材に対して必ずしも直列に配置しなくとも充分な吸音効果が得られるとの知見に基づいて本発明に至ったものである。
【0022】
したがって、音波の入射方向に対して空気室を吸音母材と並列に配置することができ、具体的には、吸音母材の側方周囲に空気室を設ければよく、これによって吸音構造の厚さをより薄くすることが可能となったものである。この空気室は吸音母材に対して開放はしているが、他面は基本的に閉鎖している構造とするもので、吸音母材の一部側面にのみ空気室を配置することも可能である。かかる空気室の容量は、大きくなるほど低周波数帯域から高周波数帯域の吸音性能を向上効果が大きくなり、例えば、吸音母材の厚さが20〜50mmの場合、空気室の断面は、吸音母材の厚さ×20〜50mm程度である。
【0023】
図1は、本発明の吸音構造の基本構造を示すものであり、1は四角形状の多孔質吸音母材、2はこの吸音母材1の四周に配置したチャンネル材(あるいはこれと相当の構造)であり、このチャンネル材2によって吸音母材1側が開放された空気室3が形成される。4は音波の入射面とは反対側に配置された閉鎖プレート(シート)であるが、これは所望の物体面にかかる吸音構造を装着した際の物体面であってもよい。
【0024】
なお、チャンネル材2は必ずしも吸音母材1の全側面に配置しなくともよく、吸音母材1の一部の側面にのみ配置され、その部位にのみ空気室3を形成したものであってもよい。図2は吸音母材1とチャンネル材2(即ち、空気室3)の位置関係の一例を示したものであるが、本発明はかかる例に限定されないことは勿論である。また、図示はしないが、空気室3をいくつかの独立した部屋に分けて配置することも可能である。
【実施例1】
【0025】
図3は本発明の実施例1の吸音構造を示す図であり、1は1000×2000×30(mm)の大きさのポリエステル繊維系不織材(P1)よりなる吸音母材である。そして、チャンネル材2によって吸音母材1の四周に断面が30×20(mm)の空気室3を形成した。なお、4は閉鎖プレートであり、音波の入射とは反対側を閉じた。
【0026】
図4は残響室法によって測定した吸音率を示すグラフである。図中、Aは上記の吸音構造(実施例1)におけるデータであり、aは空気室3のないポリエステル繊維系不織材(P1)を用いた吸音構造のデータである。この図4の結果より、吸音率はaからAに向上した。このことから、空気室のある実施例1方が300〜1600Hzの間で特に優れていることが分かる。
実施例2
【0027】
本実施例2は、吸音母材はポリエステル繊維系不織材(P2)であり吸音構造は図3と同様であり、図5はその吸音母材における残響室法吸音率を示すグラフである。図中、Bは本実施例2の吸音構造におけるデータであり、bは空気室のないポリエステル繊維系不織材(P2)を用いた吸音構造のデータである。この例からも、吸音率はbからB に向上し、空気室のある実施例2の方が優れていることが分かる。
実施例3
【0028】
本実施例3は、図3にあって、吸音母材はポリエステル繊維系不織材(P3)であって、周囲の空気室の断面を50×30(mm)としたものである。図6はその吸音母材における残響室法吸音率を示すグラフである。図中、Cは本実施例3の吸音構造におけるデータであり、cは空気室のなくポリエステル繊維系不織材(P3)の厚さが50mmの吸音構造のデータである。この例からも、吸音率はcからCに向上し、空気室のある実施例3方が優れていることが分かる。
【0029】
なお、本発明の吸音構造にあって、空気室の構成方法は任意であるが、好ましくはコ字状の断面を持つ枠体を形成しておき、これに吸音母材を組み込むか、断面コ字状のアダプタをもって吸音母材の周囲に嵌め込むかして空気室を形成するのがよい。
【0030】
図7はアダプタ10の例を示す斜視図であり、断面コ字状の金属又はプラスチック製のものである。この断面コ字状の内部にはストッパー11、12が備えられており、吸音母材1が額縁状をなして嵌め込まれると、ストッパー11、12にて固定され、吸音母材1の側面の周囲に空気室13が形成されることとなる。この空気室13は、吸音母材1側が開放され、他の3方は閉鎖されている。なお、図7にあっては、吸音母材1の1辺にのみアダプター10をセットした例であり、他の辺にもアダプター10が嵌め込まれ得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の吸音構造として、音波の入射方向に対し、例えばポリエステル繊維系不織材(吸音母材)と空気室とを並列に並べたことで、最も時代のニーズに適合した高性能で、薄く、かつ軽量の吸音構造が提供できたものである。従って、従来のグラスウールや軟質ウレタンフォーム単独品などに比べて、地球環境や人に優しく、リサイクル性に優れた吸音構造となったものでありその工業的価値は著しく高い。
【符号の説明】
【0032】
1・・多孔質吸音母材、
2・・チャンネル材、
3・・空気室、
4・・閉鎖プレート(シート)、
10・・アダプタ、
11、12・・ストッパー、
13・・空気室、
A、B、C・・実施例1、2、3における残響室法吸音率を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波の入射に対向する多孔質吸音母材に対し、その側面に該吸音母材に向けて開放された空気室を形成したことを特徴とする吸音構造。
【請求項2】
空気室は、吸音母材に向けて開放される以外の面が閉鎖されている請求項1記載の吸音構造。
【請求項3】
多孔質吸音母材が、ポリエステル繊維系不織材である請求項1記載の吸音構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−175202(P2011−175202A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40942(P2010−40942)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(595122187)ブリヂストンケービージー株式会社 (36)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】