説明

呈味素材及びその製造方法

【課題】 加工食品または飲料に添加することにより、該加工食品等の風味のうち、「全体のまとまり」を向上させることができる呈味素材及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 トマト加工品を植物性乳酸菌で発酵させて得られるトマト加工品発酵物(A)と、カゼインを含有する乳性原料を乳酸菌発酵させて得られる発酵乳からカードを除去して得られる発酵乳乳清(B)と、の混合物を加熱処理して得られる、フルフラールとフルフリルアルコールを含有し、かつGC/MS法により前記呈味素材を分析したときのクロマトグラムのピーク面積において、フルフラールのピ−ク面積(Ap)とフルフリルアルコールのピーク面積(Bp)の面積比(Ap/Bp)が0.7〜5.0である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トマト加工品発酵物と発酵乳乳清を原材料として製造される呈味素材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レトルト食品や飲料などには、従来からコク味や旨味を付与するものとして食塩やグルタミン酸ナトリウム等の調味料が使用されている。
【0003】
しかしながら、昨今の食品の健康志向の高まりに対応して、上記レトルト食品等においても、食塩やグルタミン酸ナトリウム等の調味料を含む食品添加物を極力使用したくないという要望があった。しかし、上記レトルト食品等は消費者の嗜好性に合わせたり、風味を補うために食塩やグルタミン酸ナトリウム等の調味料を含む食品添加物を使用せざるを得ない状況にある。そこで、食塩やグルタミン酸ナトリウム等の調味料を含む食品添加物を配合した際の風味の一部を補い、コク味や旨味を補うことのできる食品素材の開発が望まれている。
【0004】
ところで、トマトを含む野菜発酵品は爽やかな酸味を有しているため、健康的であり、かつフレッシュ感や爽やかな風味を付与する素材として知られているが、比較的用途が少なく、またコク味や旨味を引き出す呈味素材としてはあまり知られていなかった(特許文献1〜6)。
【0005】
また、トマト加工品に特定の乳酸菌を接種し、発酵させて得られるトマト加工品発酵物がそれ自身風味に優れること、及びこれを食品または食品素材として適用できることが開示されている(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−102420号公報
【特許文献2】特開2006−061020号公報
【特許文献3】特開2008−011711号公報
【特許文献4】特開2009−189323号公報
【特許文献5】特開2009−189323号公報
【特許文献6】特開2010−051205号公報
【特許文献7】特開2007−289008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献7に記載されたトマト加工品発酵物は未発酵品と比べて風味が改善されることは記載されているが、該トマト加工品発酵物を例えばレトルト食品等の加工食品に配合した場合に、該加工食品の風味の向上に寄与する呈味素材となり得るかについては記載されていない。また、最近では、加工食品や飲料に呈味素材を配合する場合、数多くある風味の評価項目のうち、全体のまとまり(または、全体の調和感)を向上させることが要求される場合も多くなっているが、トマト加工品発酵物を原材料とする呈味素材としてこのような要求特性を満足するものは開示されていない。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、加工食品または飲料に添加することにより、該加工食品等の風味のうち、「全体のまとまり」を向上させることができる呈味素材及びその製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、後述するトマト加工品発酵物と発酵乳乳清との混合物を加熱処理して得られる呈味素材を加工食品等に添加することにより、該加工食品等の風味のうち、全体のまとまりが顕著に向上することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 トマト加工品を植物性乳酸菌で発酵させることにより得られるトマト加工品発酵物(A)と、カゼインを含有する乳性原料を乳酸菌発酵させて得られる発酵乳からカードを除去して得られる発酵乳乳清(B)と、の混合物を加熱処理して得られる、フルフラールとフルフリルアルコールを含有する呈味素材であって、
ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)により前記呈味素材を分析したときに得られるクロマトグラムのピーク面積において、フルフラールのピーク面積(Ap)とフルフリルアルコールのピーク面積(Bp)の面積比(Ap/Bp)が0.7〜5.0であることを特徴とする、呈味素材。
〔2〕 植物性乳酸菌がラクトバシラス・ブレビスである、前記〔1〕記載の呈味素材。
〔3〕 植物性乳酸菌がラクトバシラス・ブレビス TY−414(FERM P−16910)である、前記〔1〕記載の呈味素材。
〔4〕 ソース類用である、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の呈味素材。
〔5〕 前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の呈味素材を含有するソース類。
〔6〕 トマト加工品を植物性乳酸菌で発酵させることにより得られるトマト加工品発酵物(A)と、カゼインを含有する乳性原料を乳酸菌発酵させて得られる発酵乳からカードを除去して得られる発酵乳乳清(B)と、の混合物を加熱処理することを特徴とする、呈味素材の製造方法。
〔7〕 加熱処理の温度が85〜100℃である、前記〔6〕記載の呈味素材の製造方法。
〔8〕 植物性乳酸菌がラクトバシラス・ブレビスである、前記〔7〕記載の呈味素材の製造方法。
〔9〕 植物性乳酸菌がラクトバシラス・ブレビス TY−414(FERM P−16910)である、前記〔7〕記載の呈味素材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の呈味素材によれば、加工食品または飲食品に添加することにより、該加工食品等の風味を全般にわたって向上させることができる。本発明の呈味素材は、これら風味のうち、特に全体のまとまりを向上させることができる。このような呈味素材は、上述したトマト加工品発酵物(A)と発酵乳乳清(B)との混合物を加熱処理することにより製造される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】GC/MS法により得られた本発明品、比較品1、比較品2のクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の呈味素材はトマト加工品発酵物(A)と発酵乳乳清(B)との混合物を加熱処理して得られるものであり、フルフラールとフルフリルアルコールを含有し、該両成分の含有比が特定範囲にある点に特徴がある。
【0014】
本明細書において、トマト加工品発酵物(A)とは、トマト加工品を植物性乳酸菌で発酵させることにより得られるものをいう。
【0015】
トマト加工品とは、トマトを主原料とした食品ないし食品原料をいい、例えば、固形トマト、濃縮トマト、トマトジュース、トマトミックスジュース、トマトケチャップ、トマトソース、チリソース、トマト果汁飲料、トマトピューレ、トマトペースト等が挙げられる。上記例示されたトマト加工品は、市販品が容易に入手可能である。また、トマト加工品には、上記例示した食品等に加水して希釈液としたもの(以下、「加水希釈液」という)も含まれる。
【0016】
加水希釈液を除くトマト加工品の固形分や酸度は特に限定されないが、通常は可溶性固形分(Brix)30度以下、乳酸換算で酸度2.4%以下のものが用いられる。加水希釈液の可溶性固形分(Brix)は通常15度以下のものが用いられる。
【0017】
トマト加工品は発酵前に加熱殺菌することが望ましい。加熱殺菌は85〜140℃の範囲で任意に行われ、通常85〜95℃で行われる。
【0018】
植物性乳酸菌とは、味噌、醤油、漬物、キムチ、サワークラウト、ザーサイ、ワイン、糠、牧草、米、麦、麦芽など加工食品を含む植物由来のものから分離され、糖質などを利用して乳酸を産生する乳酸菌をいう。
【0019】
本発明で使用し得る植物性乳酸菌としては、各種の菌を用いることができる。例えば、ラクトバシラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバシラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバシラス・デルブリュッキー(Lactobacillus delbrueckii)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)、ストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)、ストレプトコッカス・フェシウム(Streptococcus faecium)、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)、ペディオコッカス・ハロフィルス(Pediococcus halophilus)、等を挙げることができるが、これらに限定する趣旨ではない。これらは単独で、若しくは2種以上を併せて用いることができる。
【0020】
これらの中でも、ラクトバシラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバシラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)が好ましく、ラクトバシラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)がさらに好ましい。
【0021】
トマト加工品に植物性乳酸菌を添加して該トマト加工品を発酵させるにあたり、植物性乳酸菌の添加量、培養温度、培養時間は適宜設定可能である。培養温度は通常25〜45℃、好ましくは25〜35℃である。培養時間は通常16〜64時間、好ましくは20〜48時間である。
【0022】
得られたトマト加工品発酵物(A)は、植物性乳酸菌が生育したままで、または80℃達温条件で加温する等公知の方法で殺菌して、本発明の呈味素材の原料に供される。
【0023】
本明細書において、発酵乳乳清(B)とは、カゼインを含有する乳性原料を乳酸菌発酵させて得られる発酵乳からカードを除去して得られるものをいう。
【0024】
カゼインを含有する乳性原料とは、乳を起源とする材料のうち、カゼインを含有するものをいい、例えば、牛乳、牛乳の脂肪を一部除去した低脂肪乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳、無脂肪乳等が挙げられる。これらは単独で、若しくは2種以上を併用することができる。上記例示された乳性原料は、市販品が容易に入手可能である。上記例示された乳性原料として粉末品を用いる場合は、水を添加して液状にしたものを用いる。また、上記例示された乳性原料として液状品を用いる場合は、さらに水を添加して濃度調整したものを用いることができる。本発明では、上記粉末品に水を添加して液状にしたもの、液状品に水を添加して濃度調整したものも乳性原料に含まれる。上記乳性原料の濃度は特に限定されないが、通常は無脂乳固形分10〜25%のものが用いられる。
【0025】
上記乳性原料は発酵前に加熱殺菌することが望ましい。加熱殺菌は通常75〜95℃、5〜30分間の条件で行われる。
【0026】
乳酸菌発酵に用いられる乳酸菌としては、乳性原料の発酵に適した各種の菌を用いることができる。例えば、ラクトバシラス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバシラス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバシラス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバシラス・ラクティス(Lactobacilluslactis)、ラクトバシラス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス・クレモリス(Streptococcus cremoris)、ロイコノストック・シトロボラム(Leuconostoc citrovorum)等の乳酸菌、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)等のビフィズス菌等を挙げることができるが、これらに限定する趣旨ではない。これらは単独で、若しくは2種以上を併せて用いることができる。
【0027】
これらの中でも、ラクトバシラス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)がさらに好ましい。
【0028】
カゼインを含有する乳性原料に上記乳酸菌を添加して、該乳性原料を乳酸菌発酵させるにあたり、上記乳酸菌の添加量、培養温度、培養時間は適宜設定可能である。培養温度は通常25〜50℃、好ましくは30〜45℃である。培養時間は通常6〜72時間、好ましくは24〜64時間である。上記の条件で上記乳性原料を発酵させると、pHが3.2〜5.0、酸度(乳酸換算%)が0.5〜4.5%の発酵乳が通常得られる。
【0029】
次いで、得られた発酵乳を、遠心分離、濾過等の方法でカードを除去することにより発酵乳乳清(B)が得られる。得られた発酵乳乳清(B)は、乳酸菌が生育したままで、または80℃達温条件で加温する等公知の方法で殺菌して、本発明の呈味素材の原料に供される。
【0030】
本発明の呈味素材は、上述したトマト加工品発酵物(A)と発酵乳乳清(B)との混合物を加熱処理して得られる。トマト加工品発酵物(A)と発酵乳乳清(B)との混合物とは、トマト加工品発酵物(A)と発酵乳乳清(B)のみを混合した混合物の他、トマト加工品発酵物(A)、発酵乳乳清(B)及び水を混合した加水混合物も含まれる。トマト加工品発酵物(A)と発酵乳乳清(B)との配合割合は、得られる呈味素材を加工食品または飲料に配合したときの風味向上の観点から、トマト加工品発酵物(A)/発酵乳乳清(B)(重量比)=1.0〜4.0が好ましく、2.0〜3.0がより好ましい。
【0031】
トマト加工品発酵物(A)と発酵乳乳清(B)(及び必要に応じて水)はミキサー等公知の方法により混合溶解され、得られた混合物は加熱処理される。加熱処理における加熱温度、加熱時間等は、得られる呈味素材を加工食品または飲料に配合したときの風味向上の観点から設定される。加熱温度は通常85〜100℃、好ましくは90〜95℃である。加熱時間は通常120〜240分、好ましくは120〜200分である。
【0032】
上記工程を経て得られた呈味素材は、加工食品または飲料の添加原料として使用することができる。本明細書において加工食品とは、短期間のうちに販売・消費される生鮮食品ではなく、冷凍,乾燥,塩漬け,加熱,調味,調理,成形などの加工手段によって加工された食品および食品原料をいう。
【0033】
加工食品の例としては、例えば、冷凍食品、粉末食品、シ−ト状食品、瓶詰食品、缶詰食品、レトルト食品、漬物類、燻製品、干物、佃煮、塩蔵品、畜肉製品、魚肉練り製品、乳製品、卵製品、惣菜、パン類、菓子類、麺類、調味料等が挙げられる。より具体的には、カレーソース、トマトソース、ミートソース、ドレッシング等のソース類、タレ、つゆ等の液体調味料、スープ、シチュー等の汁物等に好適である。これらのうちではソース類が好ましい。
【0034】
飲料としては、例えば、炭酸飲料、柑橘類(グレープフルーツ、オレンジ、レモン等)等の果汁飲料・果肉飲料・果粒入り果実飲料、トマト、ピーマン、セロリ、ウリ、ニンジン、ジャガイモ、アスパラガス等の野菜を含む野菜系飲料、豆乳・豆乳飲料、コーヒー飲料、緑茶飲料・烏龍茶飲料・紅茶飲料等の茶系飲料、スポーツ飲料、ドリンク剤等の栄養飲料、アルコール飲料等が挙げられる。
【0035】
呈味素材は、少量添加することにより加工食品または飲料(以下、「加工食品等」という場合がある)の熟成感やコク味付与に使用することができる。加工食品等中の呈味素材の含有量は、適用する加工食品等の種類に応じて適宜設定可能であり、通常0.1〜5重量%である。
【0036】
本発明の呈味素材は、加工食品等に配合したときに、該加工食品等の風味を全般にわたって向上させることができ、特に、全体のまとまり(または、全体の調和感)を向上させることができる。このような効果と関連する構成成分として、本発明の呈味素材はジメチルスルフィド、イソアミルアルコール、酢酸、グアヤコール、ベンジルアルコール、β−フェニルエチルアルコール、フルフラール、フルフリルアルコール等を含有する。かかる特徴成分のうち、本発明の呈味素材はフルフラールとフルフリルアルコールの含有比に特徴を有する。例えば、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)により本発明の呈味素材を分析したときに得られるクロマトグラムのピーク面積を指標にした場合、フルフラールのピーク面積(Ap)とフルフリルアルコールのピーク面積(Bp)の面積比(Ap/Bp)は、好ましくは0.7〜5.0、より好ましくは0.9〜4.0である。
【0037】
本発明の呈味素材を加工食品等へ適用する際には、上述したとおり、(A)成分と(B)成分との混合物を加熱処理した後の液状品を加工食品等に添加する形態の他、粉末加工品として適用することもできる。粉末加工品は、常法にしたがって製造され、例えば、上記工程で得られた液状の呈味素材にデキストリン等の公知の賦形剤を添加し、スプレードライヤーを用いて、110〜150℃で噴霧乾燥することにより得られる。得られた噴霧乾燥物は、例えば、デキストリン40〜70重量%に対し、呈味素材由来の固形分を30〜70重量%含有する粉末状の呈味素材となる。このようにして得られた粉末状呈味素材は、シーズニングパウダーや粉末スープ等に0.1〜3重量%程度含有させることができる。
【実施例】
【0038】
以下、試験例などにより本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【0039】
1.呈味素材の調製例
本発明の呈味素材(1種類)と比較用の呈味素材(2種類)を以下に記載した方法により調製した。
【0040】
1-1.本発明の呈味素材の調製例
(発酵トマトペーストの調製)
トマトペースト(商品名:トマトペーストCB、濃度600%、可溶性固形分29.7度、カゴメ株式会社製)500gと水480gを混合し、得られたトマトペースト希釈液を90℃で加熱殺菌し、その後30℃まで冷却した。次いで冷却後のトマトペースト希釈液にスターターとしてラクトバシラス・ブレビスTY−414(FERM P−16910)の培養液20gを接種し、30℃で48時間発酵させることにより、発酵トマトペーストを得た。
(発酵乳乳清の調製)
脱脂粉乳(商品名:森永脱脂粉乳、森永乳業株式会社製)210gと水770gを混合して発酵前試料を得た(無脂乳固形分20%)。次にこの発酵前試料を90℃で20分間殺菌を行い、37℃に冷却した後、乳酸菌スターターとしてラクトバシラス・ヘルベティカス(ATCC 15009)の培養液20g加えて、37℃で64時間発酵を行わせた。次いで得られた発酵乳を濾過してカードを除去することにより発酵乳乳清を得た。
(呈味素材の調製)
上記で得られた発酵トマトペースト700gと発酵乳乳清250gと水50gを混合し、92℃で3時間加熱処理を行うことにより本発明の呈味素材(以下、「本発明品」という)を得た。
【0041】
1-2.比較用呈味素材の調製例1
上記「1-1.本発明の呈味素材の調製例(呈味素材の調製)」において、発酵トマトペーストの代わりにトマトペースト希釈液を用いたこと、トマトペースト希釈液と発酵乳乳清と水を混合し、92℃で3時間加熱処理を行うことに代えて、該3成分を室温(25℃)で混合したことを除き、上記「1-1.本発明の呈味素材の調製例」と同様の方法により比較用呈味素材1(以下、「比較品1」という)を調製した。
【0042】
1-3.比較用呈味素材の調製例2
上記「1-1.本発明の呈味素材の調製例(呈味素材の調製)」において、呈味素材の調製の際に発酵トマトペーストと発酵乳乳清と水を混合し、92℃で3時間加熱処理を行うことに代えて、該3成分を室温(25℃)で混合したことを除き、上記「1-1.本発明の呈味素材の調製例」と同様の方法により比較用呈味素材2(以下、「比較品2」という)を調製した。
【0043】
2.呈味素材を配合したレトルトカレーの官能評価
2-1.評価用サンプルの調製
(本発明品含有品の調製)
ミキサーを用いて液状にした市販のレトルトカレー(商品名:大盛りカレー(中辛)、販売者:株式会社ローソン)100重量部に対して、上記「1-1.本発明の呈味素材の調製例」で得られた呈味素材(本発明品)0.5重量部を配合し、121℃で10分間レトルト殺菌を実施し、評価用サンプル(以下、「本発明品配合品」という)とした。
(比較品1含有品の調製)
ミキサーを用いて液状にした市販のレトルトカレー(商品名:大盛りカレー(中辛)、販売者:株式会社ローソン))100重量部に対して、上記「1-2.比較用呈味素材の調製例1」で得られた呈味素材(比較品1)0.5重量部を配合し、121℃で10分間レトルト殺菌を実施し、評価用サンプル(以下、「比較品1配合品」という)とした。
(比較品2含有品の調製)
ミキサーを用いて液状にした市販のレトルトカレー(商品名:大盛りカレー(中辛)、販売者:株式会社ローソン))100重量部に対して、上記「1-3.比較用呈味素材の調製例2」で得られた呈味素材(比較品2)0.5重量部を配合し、121℃で10分間レトルト殺菌を実施し、評価用サンプル(以下、「比較品2配合品」という)とした。
【0044】
2-2.官能評価方法
上記で得られた各評価用サンプルを8人のパネルに試食してもらい、風味に関する評価項目として、全体の風味の強さ、華やかさ、肉の旨味、全体のまとまり、熟成感・コク、おいしさ、の計6項目に分けて官能検査を実施した。評点は以下に記載のとおり5段階評価とし、各パネルの平均を求めた。具体的には、上記で得られた呈味素材を何ら配合しないレトルトカレー(以下、「ブランク」という)を喫食したときの評点を基準点(0点)とし、優れていれば+1、+2と評価し、劣っていれば−1、−2点と評価した。なお、上記評価項目のうち、「全体のまとまり」とは、全体の調和感を意味する。結果を表1に示す。
【0045】
〔全体の風味の強さ〕,〔華やかさ〕,〔肉の旨味〕,〔熟成感・コク〕についての評価基準
2:強い
1:やや強い
0:ブランクと同等
−1:やや弱い
−2:弱い
【0046】
〔全体のまとまり〕についての評価基準
2:まとまっている
1:ややまとまっている
0:ブランクと同等
−1:ややまとまりが悪い
−2:まとまりが悪い
【0047】
〔おいしさ〕についての評価基準
2:おいしい
1:ややおいしい
0:ブランクと同等
−1:ややおいしくない
−2:おいしくない
【0048】
各評価用サンプルについて、各評価項目の評定平均が+1以上の数値を示した場合、ブランクとの比較において、当該項目について顕著な風味の向上を示すものと判断する。各評価用サンプル間で、各評価項目の評定平均が0.5以上の差を示した場合、当該項目について顕著な風味の差を有するものと判断する。
【0049】
【表1】

【0050】
表1の結果から、本発明品、比較品1および比較品2のうち、いずれかの呈味素材を配合することにより、上記呈味素材を配合していないブランクと比べて、ほぼ全ての項目で評定平均が増加することが確認された。上記呈味素材を配合した評価用サンプルのうち、本発明品配合品は、比較品1配合品や比較品2配合品と比べて、6項目のうち5項目(全体の風味の強さ、肉の旨味、全体のまとまり、熟成感・コク、おいしさ)において優れていることが確認された。
また、比較品1配合品と比較品2配合品の結果を比べると、ほとんどの項目で比較品2配合品の方が優れていること、特に、「熟成感・コク」が顕著に優れることが確認された。これは、発酵乳乳清と併用する呈味素材として、発酵トマトペーストを用いたことによるものと考えられる。
さらに、本発明品配合品と比較品2配合品の結果を比べると、全ての項目で本発明品配合品の方が優れていること、特に、「全体のまとまり」が顕著に優れることが確認された。これは、発酵トマトペーストと発酵乳乳清とを混合した後で加熱処理を施したことによるものと考えられる。
【0051】
3.香気成分の分析
上記「1.呈味素材の調製例」で得られた本発明品、比較品1および比較品2について、ガスクロマトグラフ質量分析装置により香気成分を分析した。上記各サンプルの前処理には、固相マイクロ抽出法(SPME)を採用した。具体的には、2mL容のバイアル瓶に分析試料1.4gを入れ、40〜45℃に保温した状態でCarboxen/PDMSファイバー(スペルコ社)を上記分析試料に浸漬し、30分静置し香気成分の抽出を行った。次に上記ファイバーを蒸留水で洗浄し、GC/MS分析に供した。
【0052】
試料の分析条件を以下に示す。
GC−MS :Agilent6890N
カラム :DB−WAX(60m×0.25mm×0.25μm)
キャリアーガス:Helium 1ml/min (constant flow mode)
オーブン温度 :60℃ (3min)
→60−230℃(3℃/min)
→230℃(60 min)
インジェクター:Split 1:20, 250℃
MS検出器 :MSD (5975N), 250℃ transfer line
【0053】
本発明品、比較品1、比較品2について得られたクロマトグラムを図1に示す。
【0054】
比較品2では比較品1と比べ、主に1成分(ピーク1)の減少と5成分(ピーク2〜3および6〜8)の増加が確認された。
ここで、ジメチルスルフィド(ピーク1)は極めて拡散性が高く、トウモロコシ様の香りで、希釈すると野菜の香りとなる。イソアミルアルコール(ピーク2)は吟醸酒様の香り、酢酸(ピーク3)は刺激的な酢酸臭である。また、グアヤコール(ピーク6)は燻製様の強いフェノール臭をもち、ベンジルアルコール(ピーク7)、β−フェニルエチルアルコール(ピーク8)は穏やかなフローラル、ローズ様の香気成分である。
比較品2では比較品1と比べ、ジメチルスルフィド(ピーク1)の減少により、トップのグリーン感、野菜臭さが弱くなり、一方、イソアミルアルコール(ピーク2)、ベンジルアルコール(ピーク7)、β−フェニルエチルアルコール(ピーク8)の増加によりフルーティー感、フローラル感が増し、また、酢酸(ピーク3)、グアヤコール(ピーク6)の増加により酸っぱさ、芳ばしさが増すことで、加熱調理したような香りが付与されていると推測される。
【0055】
本発明品では比較品2と比べ、主に2成分(ピーク4,5)の増加が確認された。ここで、フルフラール(ピーク4,保持時間:23.22分)はアーモンド様の焙煎香、フルフリルアルコール(ピーク5,保持時間:31.08分)は甘いキャラメル様の香り成分である。
フルフラール(ピーク4)、フルフリルアルコール(ピーク5)と甘く芳ばしい香りが増加したことで、全体的な香りも強く感じられ、燻製品の様な甘く芳ばしい香りになっていると考えられ、これらが上述した官能評価結果と関連していると推測される。
フルフラール(ピーク4)とフルフリルアルコール(ピーク5)の含有比について、ピーク面積を基準にすると、フルフラールのピーク面積(Ap)とフルフリルアルコールのピーク面積(Bp)の面積比(Ap/Bp)は、本発明品が2.3で比較品2が0.4と算出された。このことから、本発明品は比較品2と比べて、Ap/Bpが顕著に増大し、このことが上述した官能評価結果と関連していると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の呈味素材によれば、加工食品または飲料の風味のうち、全体のまとまりを向上させることができる添加素材として広く適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トマト加工品を植物性乳酸菌で発酵させることにより得られるトマト加工品発酵物(A)と、カゼインを含有する乳性原料を乳酸菌発酵させて得られる発酵乳からカードを除去して得られる発酵乳乳清(B)と、の混合物を加熱処理して得られる、フルフラールとフルフリルアルコールを含有する呈味素材であって、
ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)により前記呈味素材を分析したときに得られるクロマトグラムのピーク面積において、フルフラールのピーク面積(Ap)とフルフリルアルコールのピーク面積(Bp)の面積比(Ap/Bp)が0.7〜5.0であることを特徴とする、呈味素材。
【請求項2】
植物性乳酸菌がラクトバシラス・ブレビスである、請求項1記載の呈味素材。
【請求項3】
植物性乳酸菌がラクトバシラス・ブレビス TY−414(FERM P−16910)である、請求項1記載の呈味素材。
【請求項4】
ソース類用である、請求項1〜3のいずれかに記載の呈味素材。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の呈味素材を含有するソース類。
【請求項6】
トマト加工品を植物性乳酸菌で発酵させることにより得られるトマト加工品発酵物(A)と、カゼインを含有する乳性原料を乳酸菌発酵させて得られる発酵乳からカードを除去して得られる発酵乳乳清(B)と、の混合物を加熱処理することを特徴とする、呈味素材の製造方法。
【請求項7】
加熱処理の温度が85〜100℃である、請求項6記載の呈味素材の製造方法。
【請求項8】
植物性乳酸菌がラクトバシラス・ブレビスである、請求項7記載の呈味素材の製造方法。

【請求項9】
植物性乳酸菌がラクトバシラス・ブレビス TY−414(FERM P−16910)である、請求項7記載の呈味素材の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−196191(P2012−196191A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64055(P2011−64055)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000208086)大洋香料株式会社 (34)
【Fターム(参考)】