説明

周期性欠陥の検出信号処理方法及びその装置

【課題】表面粗さの粗い被検査対象物において通常視認困難で、砥石がけ検査により検出しているような自動検出が困難な、凹凸が数μm程度の微小凹凸性疵を確実に検出できるようにした、周期性欠陥の検出信号処理方法及びその装置を提供する。
【解決手段】被検体に存在する周期性欠陥を検出するための信号処理方法であって、前記周期性欠陥を複数周期以上含んだ測定信号を、一定間隔で区切り、前記測定信号のデータ列方向に対して直交する方向に、前記区切った測定信号を並べて2次元データ列を作成し、その2次元データ列をパターン処理して欠陥を認識する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造ラインに設置されているロール等を発生原因とする周期性欠陥の検出信号処理方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば薄鋼板の製造プロセスにおいては、ロール疵などのロールに付着した異物、あるいはその異物がロールに噛み混んだことによってロール自体に生じた凹凸が鋼板に転写されて生じたロール性の凹凸性の疵が発生する場合がある。これらの疵の大きさは数mm〜数十mm程度であるが、凹凸は数μm程度と非常に小さいものである。この凹凸は鋼板の表面粗さと同じ程度であるため、そのままの状態で観察しても発見することができない。ところが、塗装され、表面粗さが塗料に埋められ表面が滑らかになると、明瞭に見えるようになり、外観上大きな問題となる。そのため、このような疵を出荷しないようにすることは、品質管理上重要な問題である。疵の形態としては、前述のロール疵のような点状の疵、線状マーク、絞りマークのように鋼板の長手方向に続く疵もある。
【0003】
これらの疵は、ロールに生じた凹凸が鋼板に転写されて生じるため、一旦発生すると、ロールを交換したりプロセスを改善したりするまで連続的に発生するため、早期に発見し対策を講じることは、歩留向上の点からも極めて重要である。このような疵を見つけるために、製鉄プロセスの各検査ラインにおいては、全てのコイルについて、操業中に鋼板の走行を一度停止し、検査員が砥石がけを行った後に目視検査をしている。砥石がけを行うと、凹部に比べて凸部がより砥石にあたり、反射率が高くなるので、凹凸部の差が明確になり、目視で確認可能となる。これを砥石がけ検査と呼称している。
【0004】
しかしながら、このような方法は、検査ラインを停止して行わなければならず、かつ、かなりの時間を要するので、作業能率を低下させるという問題があった。それに対する対策として、凹凸が数μm程度の微小凹凸性疵を自動検査する方法の開発が行われてきた。このような、自動表面検査装置の例としては、例えば次の特許文献1〜特許文献4に開示されているものがある。
【0005】
【特許文献1】特開昭58−86408号公報
【特許文献2】特開平5−256630号公報
【特許文献3】特開平6−58743号公報
【特許文献4】特開2000−314707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1(特開昭58−86408号公報)に開示されている技術は、鏡面を対象とした検査装置であり、表面粗さの大きい対象に適用しようとすると、疵の凹凸による収束光・発散光が、表面粗さによる拡散光に紛れてしまうため、疵を検出することができない、という問題点がある。
特許文献2(特開平5−256630号公報)に開示されている技術は、鋼板を対象にしたものであるが、やはりステンレス鋼板等のように鏡面性の高い対象でなければ有効でない。また、照明光と垂直の向きの凹凸欠陥に対しては有効であるが、平行の向きの凹凸欠陥は十分な検出能が得られないという問題点がある。
また、特許文献3(特開平6−58743号公報)に開示されている技術は、研磨する前の表面の粗いウエハを対象としているが、全体光量により疵の有無を判定しているため、疵による明確な信号は検出できず、検出精度が低いという問題点がある。
また、特許文献4(特開2000−314707号公報)に開示されている技術は、鋼板を対象としているが、光の入射角を90度近くに設定するか、光の波長を非常に長くする必要があり、前者の場合は、角度の設定が非常に困難である、後者の場合は、使用する光学系が赤外領域となるため、高価となるという問題点がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、表面粗さの粗い被検査対象物において通常視認困難で、砥石がけ検査により検出しているような自動検出が困難な、凹凸が数μm程度の微小凹凸性疵を確実に検出できるようにした、周期性欠陥の検出信号処理方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る周期性欠陥の検出信号処理方法は、被検体に存在する周期性欠陥を検出するための信号処理方法であって、前記周期性欠陥を複数周期以上含んだ測定信号を、一定間隔で区切り、前記測定信号のデータ列方向に対して直交する方向に、前記区切った測定信号を並べて2次元データ列を作成し、その2次元データ列をパターン処理して欠陥を認識する。
また、本発明に係る周期性欠陥の検出信号処理方法において、前記測定信号は、時系列データ、または、被検体位置に対応したデータ列である。
また、本発明に係る周期性欠陥の検出信号処理方法において、前記一定間隔は、周期性欠陥の略周期とする。
また、本発明に係る周期性欠陥の検出信号処理方法において、前記周期性欠陥は、製造ラインに設置されているロールに起因し、前記一定間隔は前記ロールの略周長とする。
また、本発明に係る周期性欠陥の検出信号処理方法において、前記パターン処理は、前記2次元データ列において、連続するパターンの連続方向が、前記区切った測定信号を並べた方向成分を含む場合に、周期性欠陥と判定する。なお、本発明において、区切った測定信号を並べた方向成分を含むとは、区切った測定信号を並べた方向、つまり測定信号のデータ列方向に対して直交する方向又は斜め方向となっている状態に含まれる成分を言うものとする。
また、本発明に係る周期性欠陥の検出信号処理装置は、被検体に存在する周期性欠陥を検出するための信号処理装置であって、前記周期性欠陥を複数周期以上含んだ測定信号を入力する入力手段と、前記入力した測定信号を、一定間隔で分割するデータ分割手段と、前記分割したデータを、そのデータ列に対して直交する方向に並べた2次元データ列を作成する2次元データ作成手段と、前記2次元データ列をパターン処理して欠陥を認識する認識手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、測定信号を周期で区切り、その区切られた測定信号を時間軸と直交する方向に並べて2次元データ列をつくり、その2次元データ列のパターンを利用して欠陥を認識するようにしたので、検査方法に関係なく、周期性のある例えば微小凹凸欠陥を精度よく検出できることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
従来、微小凹凸欠陥はその凹凸量が数μmと、鋼板表面の粗さと同レベルと小さいことから、磁気的な探傷手法では検知できないと考えられていた。しかし、本発明者らは、このようなロールによって生じる微小凹凸性欠陥(ロール性微小凹凸性欠陥)に対して複数枚X線測定を行い、その物理性状を解析した。その結果、これらのロール性微小凹凸性欠陥は、その発生過程において、ロールより疵が転写された際に生じたと考えられる内部歪みが存在することを確かめた。このことから、本発明者らは、この欠陥発生時に生じた内部歪みを磁気的に計測できると考え、実験により確かめることとした。そこで、まず簡易な漏洩磁束探傷装置を組み、ロール性微小凹凸性欠陥を複数枚探傷を行い信号が検出されることを確かめた。その後に、そのサンプルにアニールを施し、歪みを除去し再度測定を行った。その結果、アニール前に検出された信号が、アニール後には検出されないことを確かめた。このことから、漏洩磁束探傷では、単に粗さと同じオーダーの凹凸であるロール性微小凹凸性欠陥の形状に起因する信号を検出することは出来ないが、ロール性微小凹凸性欠陥が発生する際に生じる内部歪みを磁気を用いた検出手法(ここでいう磁気を用いた検出手法とは、例えば直流漏洩磁束探傷、交流漏洩磁束探傷、渦流探傷、残留磁束測定、磁紛探傷等である。)により検出することが可能であることを確かめた。その具体的な検出装置を実施形態1として以下に説明する。
【0011】
実施形態1.
図1は本発明の実施形態1に係る欠陥判定装置の構成を示すブロック図である。図1において、1は鋼板、2はロール性微小凹凸欠陥(単に欠陥ともいう)、3は交流電源、4は磁化器、5は磁気センサ、6は増幅器、7は同期検波器、8は信号変換処理装置、9は欠陥判定器である。なお、信号変換処理装置8及び欠陥判定器9において、本発明の同期性欠陥の検出信号処理方法が行われる。また、本発明の入力手段、データ分割手段及び2次元データ作成手段は信号変換処理装置8に対応し、認識手段は欠陥判定器9に対応している。
【0012】
本実施形態に係る欠陥判定装置は、対象とする欠陥がロールにより転写されて発生することを考えると、欠陥はロールの周長と概略同じ長さの周期を持つことがわかり、そして、欠陥の発生原因となるロールは既知であるため、この既知であるロールの周期性を利用することにより欠陥の検出精度をあげるようにしたものである。
【0013】
鋼板1には、厚さ方向に数μmの粗さと同レベルのロール性微小凹凸性欠陥が2が存在しているものとする。磁化器4と磁気センサ5が鋼板1の同じ側に配置されている。磁化器4には磁化電源3からの交流電流が供給されて磁化されている。磁化器4により両磁極間に発生された磁束は鋼板1を通る。欠陥2が鋼板1に存在すると、欠陥2が発生する際に生じた歪みが欠陥2の周囲にあり、それにより磁束が妨げられ、その変化が磁気センサ5により検出される。鋼板1は図1中の圧延方向に搬送されるので、磁気センサ5は鋼板1の圧延方向の位置に対応した時系列データを出力する。また、この信号は圧延方向には一定間隔又は一定距離間隔のデータ列となる。磁気センサ5の出力信号は増幅器6により信号増幅され、その後、同期検波器7で磁化電源3からの磁化器4を励磁する信号と同期した(位相は外れていてもかまわない)信号により検波すると、欠陥2が存在する場合に欠陥2の大きさに応じた信号が得られる。この信号は、信号変換処理装置8に送られ、欠陥発生原因となるロール(既知)のピッチを持つ周期性信号を強調するような信号変換処理をし、その信号は欠陥判定器9に送られて、その信号パターンに基づいて欠陥があるかどうかが判定される。周期性の利用方法としては、一定間隔、例えばロール周長で信号を並べかえて2次元データ列を生成し、その2次元データ列に周期性の信号があるかどうかに基づいて欠陥の有無を判定しており、本実施形態においては、信号変換処理装置8が以下に説明する信号変換処理を行う。なお、一定間隔は、ロール周長でなくても、ロール周長の整数倍やほぼロール周長の一定間隔であれば良く、厳密にロール周長と一致する必要はない。
【0014】
図2は同期検波器7の出力波形であり、ここでは一定間隔として、例えばロール周長に相当する周期はt1であるとする。図3及び図4は、その出力波形を周期t1で切り取って、区切られた検出信号のデータ列方向である時間軸と直交する方向に並べて2次元データ列を作った例を示す説明図である。
【0015】
図3の例では、同期検波器7の出力波形(データ)を想定される周期で2次元に並べて、それを2値化してラベリング処理をしている。その結果、時間軸に直交する方向に連続した周期信号(欠陥信号)が得られる。この例は一定間隔をロール周長としてその周期と同期のタイミングがずれていない場合の例である。欠陥判定器9は、そのラベリング処理されたパターンに基づいて周期信号を欠陥信号として判定する。
【0016】
図4はロールの摩耗等により同期のタイミングがずれた場合の例であり、図3の場合と同様に処理するが、2値化ラベリング処理をした結果、時間軸に直交はしないが、斜めに連続した周期信号(欠陥信号)が得られる。これらは、本発明の連続パターンの方向が時間軸の直交成分を含むことを意味している。ロールの摩耗等により同期のタイミングがずれるとしても、摩耗等は急激に起こるものではなく少しずつ起こるので、同期のタイミングも少しずつずれることになる。このため、磨耗(同期のタイミングのずれ)に従って同期のタイミングも斜めにずれていくことになる。欠陥判定器9は、周期信号は時間軸に直交はしないが、斜めに連続しているので、それをもって欠陥信号と判定する。このように、欠陥とノイズとをパターン形状の相違によって識別しているので、高精度に識別することができる。
【0017】
以上のように、本実施形態によれば凹凸量が数μmと鋼板表面の粗さと同レベルで視認困難で従来、砥石がけ検査により人手を用いて検出していたロール性欠陥に対して、ロールの周期を利用する検出方法を、磁束を用いた計測と組み合わせることにより、欠陥を精度よく検出できることが可能になっている。
【0018】
なお、本実施形態においては、交流の漏洩磁束探傷法に、周期性を利用する方法を示したが、それに限定するものではなく、直流の漏洩磁束探傷法、渦流探傷方法等の他の磁束を用いた検出方法に周期性を利用しても同様に欠陥を精度よく検出できる。例えば直流信号を用いた場合には、同期検波回路7は不要となる。また、磁化器4と磁気センサ5を鋼板1に対して同じ側に配置しているが、直流信号を用いる場合には、鋼板1を挟んで対向して配置してもかまわないし、交流信号を用いる場合でも、励磁周波数が板厚に対して十分小さい場合には、同様に鋼板1を挟んで対向して配置してもかまわない。また、光学系を用いて周期性欠陥を検出する方法においても本発明は同様に適用することができる。
【0019】
また、欠陥の発生原因として考えられるロールが複数ある場合には、複数のロールピッチに対してそれぞれ上記の周期性信号の強調処理を行うことになるが、この場合には、異なるロールピッチに対応してそれぞれ検出信号を複数に分けて並べて、それぞれの周期で2値化をしてラベリング処理をし、周期性信号の強調を行って欠陥の有無を判定する。或いは、一定間隔は一つとして連続性パターンの傾斜角度から周期を求めて該当ロールを判定してもよい。
また、欠陥判定器9は、欠陥の周期性を元に欠陥の判定を行っているが、交流信号の位相、信号強度がある値以上の点の長さ、幅、面積と組み合わせて判定してもかまわないし、それらの2つ以上のものと組み合わせて判定してもよい。
また、本実施形態においては、欠陥の発生原因がロールの場合の例について説明したが、本発明は、そのような例に限定されるものではなく、周期性のある疵であれば同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る欠陥判定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の同期検波器の出力波形を示したタイミングチャートである。
【図3】信号変換処理装置の処理を示す説明図(その1)である。
【図4】信号変換処理装置の処理を示す説明図(その2)である。
【図5】比較例の処理内容を示した説明図である。
【符号の説明】
【0021】
1 鋼板、2 欠陥、3 磁化電源、4 磁化器、5 磁気センサ、6 増幅器、7 同期検波器、8 信号変換処理装置、9 欠陥判定器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に存在する周期性欠陥を検出するための信号処理方法であって、
前記周期性欠陥を複数周期以上含んだ測定信号を、一定間隔で区切り、前記測定信号のデータ列方向に対して直交する方向に、前記区切った測定信号を並べて2次元データ列を作成し、その2次元データ列をパターン処理して欠陥を認識することを特徴とする周期性欠陥の検出信号処理方法。
【請求項2】
前記測定信号は、時系列データ、または、被検体位置に対応したデータ列であることを特徴とする請求項1記載の周期性欠陥の検出信号処理方法。
【請求項3】
前記一定間隔は、周期性欠陥の略周期とすることを特徴とする請求項1または2に記載の周期性欠陥の検出信号処理方法。
【請求項4】
前記周期性欠陥は、製造ラインに設置されているロールに起因し、前記一定間隔は前記ロールの略周長とすることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の周期性欠陥の検出信号処理方法。
【請求項5】
前記パターン処理は、前記2次元データ列において、連続するパターンの連続方向が、前記区切った測定信号を並べた方向成分を含む場合に、周期性欠陥と判定する請求項1乃至4の何れかに記載の周期性欠陥の検出信号処理方法。
【請求項6】
被検体に存在する周期性欠陥を検出するための信号処理装置であって、
前記周期性欠陥を複数周期以上含んだ測定信号を入力する入力手段と、
前記入力した測定信号を、一定間隔で分割するデータ分割手段と、
前記分割したデータを、そのデータ列に対して直交する方向に並べた2次元データ列を作成する2次元データ作成手段と、
前記2次元データ列をパターン処理して欠陥を認識する認識手段と
を備えたことを特徴とする周期性欠陥の検出信号処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−216103(P2008−216103A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−55308(P2007−55308)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】