呼吸インピーダンスを推定するための方法及び装置
呼吸器系の音響インピーダンスは、被験者の気道に生成される振動から推定できる。インピーダンスは、結果として生じる流量の振動と圧力の振動との間の周波数依存的な関係を記述する。インピーダンスが吸気から呼気へ変化するとき、インピーダンスは高い時間解像度で推定されなければならない。生理的目的のために充分に短い時間間隔でインピーダンスを確実に推定する方法が提供される。不確定性原理の単純なバージョンが、離散的時間及び周波数に対して導出された。この原理に従って、最適時間―周波数解像度を与える離散的時間―周波数変換が開発された。変換は正規直交であり、離散的時間―周波数領域の分散の分析を可能にする。ノイズが流量及び圧力両方に存在するという仮定の下、インピーダンスは、時間―周波数領域の二変量の最小二乗分析に従う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強制的圧力振動から呼吸インピーダンスを推定するための方法と装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
人間の呼吸器系の呼吸又は音響インピーダンスは、気道、肺及び胸壁の抵抗、追従及び慣性に関する情報を得るために測定できる。この情報は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息及び気管支炎のような様々な呼吸器疾患の性質及び発病度を診断する際に有効である。
【0003】
ページ363-374のEuropean Respiratory Journal Vol.29 No.2のDellaca等による「Expiratory Flow Limitation Detected by Forced Oscillation and Negative Expiratory Pressure」(参考文献1)に説明されているような強制的振動技術(FOT)では、人が正常に呼吸している間、音響波が呼吸器系に導かれ、反応が呼吸インピーダンスを決定するために測定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
呼吸インピーダンスは、流量及び圧力に関して音響波から生じている振動における周波数依存的な関係を記述する。呼吸インピーダンスが(幾つかの疾患及び他の病状におけるような)吸気から呼気まで変化する所で、呼吸インピーダンスは、精細な時間解像度で推定されなければならない。しかしながら、従来技術では、生理的目的のために充分に短い(すなわち、吸入又は呼気の期間より短い)時間間隔の呼吸インピーダンスを推定するための技術の信頼性に対して、要件がほとんど与えられていなかった。
【0005】
従って、短い時間間隔の呼吸インピーダンスを確実に推定するための方法と装置とのためのニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によると、被験者の気道と連通する患者インターフェイス装置内に圧力波を生成するステップと、流量及び圧力を表わすそれぞれの時系列を作るため被験者の気道と患者インターフェイス装置とを含む空気制御システム内のガスの流量及び圧力を決定するステップと、それぞれの時系列を時間−周波数領域へ変換して変換された時系列を作るステップと、それぞれの変換された時系列から流量及び圧力のパワーを推定するステップと、変換された時系列に基づいて流量及び圧力のそれぞれのクロススペクトルを推定するステップと、推定されたパワー及びクロススペクトルから被験者の呼吸インピーダンスを推定するステップとを有する呼吸インピーダンスを推定する方法が提供される。
【0007】
本発明の第2の態様によると、患者インターフェイス装置と、被験者の気道のガスの圧力、流量又はボリュームの振動を生成するための励振源と、患者インターフェイス装置及び被験者の気道により規定される空気圧回路のガスの流量及び圧力を決定し、流量及び圧力を表しているそれぞれの時系列の値を出力するための手段と、プロセッサとを有し、前記プロセッサは、それぞれの時系列を時間―周波数領域へ変換し、それぞれ変換された時系列から、流量及び圧力のパワーを推定し、それぞれ変換された時系列に基づいて、流量及び圧力のそれぞれのクロススペクトルを推定し、推定されたパワー及びクロススペクトルから被験者の呼吸インピーダンスを推定する、呼吸インピーダンスを推定するための装置が提供される。
【0008】
本発明の第3の態様によると、適切なプロセッサ又はコンピュータによる実行の際、前記プロセッサ又はコンピュータが上述の方法を実施するコンピュータ可読媒体に組み込まれたコンピュータ可読のコードを具備する、コンピュータプログラムが提供される。
【0009】
呼吸インピーダンスの推定は、気道の妨害を評価するか、又は疾患の発病度を推定するために推定を使用する診断ツールによりなされる。従って、診断ツールは、また、呼吸インピーダンスに影響を及ぼすべき治療の(薬理学的又は他の)効果を評価するためにも用いられる。
【0010】
よって、第4の本発明の態様によると、上述されたような呼吸インピーダンスを測定するステップと、測定された呼吸インピーダンスを基礎として生理的状態を診断するステップとを有する生理的状態を診断する方法が提供される。
【0011】
呼吸インピーダンスの推定は、また、又は代わりに、病状の治療に使用される機械、例えば気道閉塞を打ち消すために用いられる非侵襲性のベンチレータの設定を適応させるため、又は、生理的状態に対する治療法(例えばどの特定の薬物又は装置を使用するか、薬物投与量等)を決定する際に用いられる。
【0012】
よって、本発明の第5の態様によると、上述されたように呼吸インピーダンスを測定するステップと、測定された呼吸インピーダンスに基づいて生理的状態の治療を決定し及び/又は処置するステップとを有する、生理的状態の治療方法が提供される。
【0013】
本発明の好ましい実施例が、以下の図面を参照して、単なる例示として、ここで詳細に説明されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明による強制的圧力振動から呼吸インピーダンスを推定するための装置のブロック図である。
【図2】図2は、本発明による呼吸インピーダンスを推定するために用いられる線形モデルの模式図である。
【図3】図3A及び図3Bは、それぞれ離散的時間領域の巡回性推定及び不確定度を例示する。
【図4】図4A及び図4Bは、Δt2+N2Δf2が最小である時系列を例示する。
【図5】図5は、時間―周波数領域の二変量の最小二乗法を例示する。
【図6】図6は、複素平面内の信頼領域を例示する。
【図7】図7は、5つの異なる周波数での強制的圧力振動に対する信頼限界を持つ時間及び周波数の関数として、健常な患者の呼吸インピーダンスを例示する。
【図8】図8は、5つの異なる周波数での強制的圧力振動に対する信頼限界を持つ時間及び周波数の関数として、COPDを持つ患者の呼吸インピーダンスを例示する。
【図9】図9は、本発明による呼吸インピーダンスを推定する方法のステップを図示する流れ図である。
【図10】図10は、本発明による装置により実施される処理ステップをより詳細に図示する流れ図である。
【図11】図11は、時系列のイベントの数Nの関数として、行列の最小及び最大の特異値を示す。
【図12】図12は、N=16に対するCHCの固有ベクトルの重心と時間Δtでの不確定度との間の関係を例示する。
【図13】図13は、N=16に対する周波数Δfでの不確定度と時間Δtでの不確定度との間の関係を例示する。
【図14】図14は、fnに対するνmin,nをプロットしているグラフである。
【図15】図15は、N=16に対するNΔf対Δtのプロットにおける不確定度を例示する。
【図16】図16は、複素平面において推定値Zt,mに対する100(1−α)%信頼限界の推定を例示する。
【図17】図17は、健常な被験者に対する時間及び周波数の関数として二乗コヒーレンスを例示する。
【図18】図18は、COPDを持つ被験者に対する時間及び周波数の関数として二乗コヒーレンスを例示する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上述のように、呼吸器系の音響インピーダンスは、マウスピース又はフェースマスクの強制的圧力振動(強制的振動技術、FOT)から推定されることができる。この「呼吸インピーダンス」は気道、肺及び胸壁の抵抗、追従及び慣性に依存するので、呼吸インピーダンスは、様々な呼吸器疾患の発病度及び性質に対する洞察を提供する。周波数依存的なインピーダンスは、しばしば時間的に変動する。慢性閉塞性肺疾患において、気道抵抗は、呼気の間に通常増大する。睡眠無呼吸又はいびきにおいて、抵抗は、吸気の間に増大する。これは、短い時間間隔(呼吸の期間より短い)におけるインピーダンスの信頼性が高い推定を要する。
【0016】
呼吸インピーダンスは、周波数fの関数として、流量qと圧力pとの間の線形関係を記述する複素数値の伝達関数として規定される。
p(f)=q(f)z(f)(1)
ここで、インピーダンスはz(f)により示される。この式は、z(f)が一定で、時間が無限である場合だけ成り立つ。システムが一時的に安定の場合、z(f)は短い時間間隔で依然推定される。しかしながら、これは、信号が時間及び周波数領域両方において鋭くは特定できないと言う不確定性原理により制限される。加えて、短い時間間隔の使用は、推定を偶然のイベントに益々依存させる。問題は、これが、呼吸サイクルの一部で安定なだけであるz(f)のような伝達関数の推定にどのくらい影響を及ぼすかである。
【0017】
以下では、一時的に安定なプロセスの伝達関数が、離散的時間―周波数領域の線形回帰により推定される。不確定性関係は、離散的時間及び周波数に対して導出され、最適時間―周波数解像度を得るために用いられる。使用されるインピーダンス推定器の統計特性の分析は、呼吸メカニクスの周波数依存的なパラメータを得て、その推定された値及び信頼限界両方が時間的にフォローできる。
【0018】
発明の詳細な説明の後に含まれるテーブル(表1)は、本発明の以下の説明で使用されるシンボル及び略語一覧を提供する。
【0019】
方法
発明の詳細な説明のこのセクションは、本発明による方法及び装置の数学的基礎を説明しておく。本発明のより数学的でない説明は、以下の「説明」セクションにおいて提供される。
【0020】
本発明による装置2の模式図が図1に示される。簡潔には、使用されるFOT装置2は、被験者の気道を含む空気制御システムを作るために被験者の気道に接続される患者インターフェイス装置4から成る。患者インターフェイス装置4は、マスク又はマウスピースのような被験者の気道との気送接続を供給するために適切な任意の装置である。患者インターフェイス装置4は、比較的低い周波数、例えば8Hzから24Hzまでの周波数を持つ圧力波、流量変化又はボリューム変化を生成する励振源6に動作的に結合される。本発明の例示的な実施例では、患者インターフェイス装置4は拡声器である。
【0021】
図示の実施例では、患者は、患者インターフェイス装置4と励振源6との間に位置されるニューモタコヘッド8に近いメッシュ有線の抵抗9を通じて空気を呼吸する。強制的波は、患者の気道及び肺において部分的に反射され、FOT装置2において測定されるエアフロー及び圧力の振動を導く。ニューモタコヘッド8を通るエアフローは、差圧トランスジューサ10を使用して測定され、圧力はマウスピース4の近くの第2の圧力トランスジューサ12を使用して測定される。ADコンバータ12は、流量及び圧力のそれぞれの時系列{qt}{pt}を作り、分析のためプロセッサ又はコンピュータ16に供給され、ここで、整数tは離散的時間指標である。コンピュータ又はプロセッサ16は、ADコンバータ14及びアンプ18を介して拡声器6により生成される音響波の周波数を制御するための信号も供給できる。装置2の特定の実施例の更なる詳細は、「測定装置」と名付けられた以下のセクションで提供される。
【0022】
本発明は、また、他のガス流送出装置が、励振源6に加えて被験者の気道に結合できることを考察する。例えば、圧力サポートシステム又はベンチレータは、例えば、励振源6が被験者の気道を振動させている間、ガスの流れを供給するために患者インターフェイス装置4に結合できる。また、圧力サポートシステム又はベンチレータ内で圧力及び流量を測定することを含む、流量及び圧力測定が、空気制御システムに沿って任意の位置でなされ得ることに留意されるべきである。その後、測定された圧力及び流量は、任意の従来の技術を用いて患者の気道のような空気制御システムのガスの流量及び圧力を決定するために使用できる。
【0023】
本発明は、また、励振源6が独立型装置よりもむしろ圧力サポートシステム又はベンチレータの部品であることも考察する。例えば、圧力サポートシステム又はベンチレータは、患者へ送られるガスの流量/圧力を制御するためのバルブを含む。本発明は、低周波圧力波、流量変化又はボリューム変化をもたらすために斯様なバルブを振動させることを考察する。もちろん、低周波圧力波、流量変化又はボリューム変化を生成できるピストンのような他の任意の装置又はシステムも、励振源6として使用できる。
【0024】
圧力及び/又は流量センサを使用して圧力及び/又は流量を測定するよりはむしろ、本発明は、また、流量又は圧力が、圧力サポートシステム又はベンチレータによって設定又は制御できることも考察する。この場合、設定された圧力又は設定された流量は、差圧トランスジューサ10又は第2の圧力トランスデューサ12の出力としてよりもむしろ現目的のための圧力又は流量として使用される。
【0025】
2つのサンプルの間の間隔(秒)は、サンプルレート(Hz)の逆数である。このセクションでは、時間依存及び周波数依存インピーダンスが、比較的単純な線形代数学を使用してこれらの時系列から導かれる。線形代数学をよく知らない読者は、主要な結果が言葉で要約されている以下の「説明」セクションを参照されたい。
【0026】
単純な線形モデル偶然のイベントを説明するために、二変量の時系列{qt、pt}が二変量の確率プロセス{Qt、Pt}の実現であると仮定する。決定論的な変数は小文字で書かれ、ランダム(確率)変数(RV)は大文字で書かれる。時間が無限に長い(t=...,−1,0,1...)と更に仮定する。ここで図2を参照すると、励振源入力xtは、インパルス反応シーケンス{hqx,l}及び{hpx、l}を持つ線形時間不変のフィルタ(2及び3)を通ってフィルタリングされる。これは、以下の線形モデルにより予測されるように、流量及び圧力を与える。
(2)
【0027】
これらの「真」の値がそれぞれの分散σQ2及びσP2を持つゼロ平均ホワイトノイズの2つの独立源により妨げられると仮定する。ノイズのこれらの源は、「エラー」項Qe,t及びPe,tを与えるために、線形時間不変のフィルタ(1及び4)も通過する。完全なモデルは、このとき、以下のように書かれる。
(3)
ここで、平均値μQ及びμPは定数である。結果として生じるQt及びPtが正常に分配されるので、仮定された二変量のプロセス{Qt、Pt}は、完全に変動しない(静止している)。
【0028】
循環性仮定
説明された静止プロセスが無限に長い一方、静止がN個のイベントの有限シーケンスに対してのみ仮定できている過渡現象を説明することが発明の目的である。これは、最後のイベントが最初のイベントに先行するという点で、時間が循環していると仮定することにより解決できる。結果として生じる時系列は、このとき、時計のような円に沿って定期的にNイベントを配置することにより表される。円から離れずに、同一方向で円を永久に追求できる。結果として生じる無限の時系列は、Nで周期的である。すなわち、任意の整数jに対して、以下の通りである。
xt=xt+jN (4)
【0029】
u=t−l+jNと置き換えると、式2の第1のコンボリューションは、以下のように書きかえられる。
【0030】
仮定された周期的キャラクタxt(式4)に対して、xu−jN=xuである。上記の式の無限和は、「長さNに周期化されたhqx,t−uとして、以下の式のように示されて規定できる。
(5)
結果として、
(6)
【0031】
hqx,t−uoもNにおいて周期的であるので、(インデックスはゼロからN−1の範囲に常にある(これは便利である)ように)t−uが負である場合、インデックスt−uはNの分増大できる。シーケンスが列ベクトルにより表されるとき、式6は以下のように書ける(N=4である場合)。
(7)
【0032】
この式のNxN行列は、巡回行列式(端で循環しながら、前の行が右にシフトするバージョンの行を持つ正方行列)である。第1の行がhqxHにより示されるとき、肩文字Hは、エルミート転置を表わし、巡回行列はcirc{hqxH}とも書かれる。
、
及び
とする。このとき、qp=Cqxxである。同様に、pP=Cpxxなので、式3は以下のようになる。
(8)
【0033】
離散的周波数領域
周波数依存的なインピーダンスを導くために、式8のモデルは、離散的周波数領域へ変換される必要がある。時間―周波数分析へのステップアップとして、これは、ここで短く要約される。所与の時間系列
から離散的周波数領域への変換は、時系列を離散的周波数
(n=0,...,N−1))を持つ一組の調和振動に区切る。斯様な振動は、以下のようなN―ベクトルにより記述される。
(9)
ここで、ω≡exp(2πint/N)及びi2=−1である。オイラーの定理により、
exp(2πint/N)=cos(2πnt/N)+isin(2πnt/N) (10)
よって、ベクトルfnは、実際に、周波数fnを持つ実軸及び虚軸に沿った複合振動を説明する。容易に以下の式が示される。
(11)
【0034】
結果として、二乗ノルム
はNに等しい一方、異なる調和周波数の2つの振動は直交する。
【0035】
xの離散的周波数領域への変換は、以下の式により規定される「正規直交離散的フーリエ変換」(ODFT)行列により実施される。ここで、nt=0,...,N−1である。
(12)
この変換は、N―ベクトルFxを作り、これらの成分は、内積
である。式11から、Fの行(及び列)が正規直交であるので、行列はユニタリであることがわかる。
FFH=FHF=I (13)
ここでIは、NxNの単位行列である。これは、N振動からxの合成を可能にする。
(14)
【0036】
従って、xは、周波数fnを持つNの調和振動の重み付けられた和として書かれる。
【0037】
ベクトルfnは巡回行列の固有ベクトルであるので、以下のように書くことができる。Cqxfn=fnHqx,n (15)
【0038】
複素数Hqx,nは、以下の式により規定されるように、周波数fnに対してxからqまでの伝達関数である。
(16)
【0039】
Hpx、nが同様に規定されるとき、周波数fnに対するインピーダンスは、以下の式である。
(17)
【0040】
固有値が対角行列
に入れられ、列として対応する固有ベクトルをNxN行列FHへ入れられるとき、式15は以下の式になる。
(18)
【0041】
巡回行列は、正規行列である(これらは、これらのエルミート転置行列と代えられる)。従って、式18は、NxN正規行列がN個の正規直交固有ベクトル(この場合、N個の正規直交列ベクトルfn)を持つというスペクトル定理と一致している。
【0042】
離散的時間及び周波数に対する不確定性原理
の成分は、時間領域において鋭く局所的であるが、周波数領域においては不確かである。これとは逆に、フーリエ変換Fxの成分は、周波数領域において鋭く局所的であるが、時間領域においては不確かである。両方の領域で小さな不確定度を持つ信号を得るために、不確定さの尺度が、規定されなければならない。
【0043】
時間が巡回性であると仮定すると、フォーブズ及びアロンゾのアプローチが、最も適当なようである(参照文献3を参照)。ここで図3Aを参照すると、時間領域で、二乗成分|xt|2は、各イベントの重みに対応する図3Aの各質点のサイズを持ち、原点で中央に置かれる、複素平面内の半径rtを持つ円上の規則的な間隔の質点として置かれる。時間は、2つのイベントの間の円弧長により表される。円の周囲は全体の期間N(この具体例ではN=12)であるので、半径は
に等しい。時刻tでの所与のイベントは、複素平面のポイントrtωtに位置される。フォーブズ及びアロンゾ(参照文献3)は、不確定度の幾つかの尺度を提案した。ここで、わずかに異なる尺度が使われ、これは、時間tでの各イベントと基準時間tRでのイベントとの間の二乗距離の加重平均として式19に規定される。
(19)
【0044】
不確定度のこの尺度は、二次形式の比率として容易に表されることができるという利点を持つ。一般性の損失なしに、tR=0(図3Aに示されるように)と仮定できる。このとき、二乗された不確定度Δt2は、以下の式である。
(20)
ここで、対角行列Ω≡diag{1,ω1,...,ωN−1}である。下記の式を規定することも可能である。
(21)
ここで、A≡Ω−Iである。物理的に、Δt2は、基準ポイントR(時間tRに対応する)を通る(円の平面と直角をなす)軸の周りの質点のセットの第2の慣性モーメントである。図3Bに図示されるように、この慣性モーメントは、重心に直接関係する。幾何学的に、Δtは、Rから、重心を通る垂直線が円と交差する2つのポイントのうちの一方のポイントまでの距離に等しい。それで、Δtは、重心からRまでの水平距離により、完全に決定される。重心がRと一致する場合、xの重さは時間tRに完全に集中し、Δtは、ゼロである。重心が円の反対のポイントにある場合、重さはそのポイントに完全に集中し、Δtは最大であり、2rtに等しい。よって、図3Bにおいて、重心Bを通る垂直線は、ポイントCで円と交差する。不確定度Δtは距離
と等しい。
【0045】
周波数領域において、Fxの成分は、周波数fn≡n/Nと関連している。同じ成分が周波数n/N+jに対して得られ、ここで、jは任意の整数である(式9、式10を参照)。従って、Fxの成分は、単位ユニット期間を持って、周波数領域において周期的である。このように、不確定度の匹敵する尺度は、基準周波数fRに関係して、周波数領域で規定できる。Fxの成分の二乗の大きさは、複素平面の円上の質点として、再び配置される。ここで、半径は、rf≡1/(2π)に等しいので、円周はユニティ、1に等しい。fR=0の場合、下記の式である。
(22)
【0046】
対角行列Ωは、「時間シフトオペレータ」T≡circ{0,...,0,1}に関係する(22)。Tによる左からのxの乗算は、巡回的にxの成分を一つ下方へシフトさせる。式18から容易にFT−1=ΩF(「シフト定理」)であることがわかるので、以下の式となる。
【0047】
Fがユニタリであるので、以下の式となる。
とすると、以下の式となる。
(23)
【0048】
ここで、以下の行列式を考える。
【0049】
時間及び周波数の全体の不確定度は、以下の比率の式により表わされる。
(24)
【0050】
この比率(レイリー比率)は、Cの最小二乗特異値から最大二乗特異値までの範囲の値をとることができる。これは、離散的時間及び周波数に対する対応する不確定性原理を、以下の式のように作る。
(25)
【0051】
従って、全体の不確定度Δt2+N2Δf2が少なくともσmin2に等しくなければならないので、Δt及びΔf両方が非常に小さいことは不可能である。全体の不確定度は、xがσmin2に対応するCHCの固有ベクトルである場合、最小である。CHCの固有ベクトルは、離散的マチュー関数として考えられる。CHCの興味深い特性は、Fと代われることであるので、CHCとFとは、同じ固有ベクトルを共有する。vminに対応するFの固有値はユニタリに等しいので、Fvmin=vminである。図4Aに示されるように、これは、xがvminと等しい場合、Δt=NΔfを意味する。図4は、合計Δt2+N2Δf2が最小である時系列を示す。図4Aでは、固有ベクトルは、基準時間tR=0及び基準周波数fR=0(上のグラフ)に対して導出される。これは、フーリエ行列(単位固有値を持つ)の固有ベクトルでもあるので、時系列は離散的周波数領域(下のグラフ)への変換後、不変のままである。これらのグラフにおいて、時間軸及び周波数軸の両方とも、視覚的理由のために巡回的にシフトされる。図4Bは、基準周波数fR=1/4である以外、図4Aに対応する。図4Bでは、黒丸が実数値を表し、白丸が虚数値を表し、十字が絶対値を示す。
【0052】
不確定性原理のより詳細な分析のため下記のセクション「不確定性原理の導出」を参照されたい。
【0053】
離散的時間―周波数領域
ODFTは、N個のイベントの時系列をN個の異なる周波数を持つ一組の振動へ区切られる。時間―周波数分析を実施する簡易なやり方は、短く続くシーケンスのM(M<N)個のイベントに対してODFTを繰り返し計算することである。従って、系列が周波数fm≡m/M(m=0,...,M−1)を持つM個の振動に区切られ、これは離散的「短時間フーリエ変換」になる。各短く続く振動がvminの成分で「窓」をつけられる(ウィンドウ化される)場合、時間及び周波数についての結果的な不確定度は最小である。
【0054】
M個のイベントのシーケンスに対して、斯様なウィンドウ化された振動は、以下の式のようにMベクトルにより記述される。
(26)
【0055】
例が、図4Bに示される。vmin(m)は、周波数領域において実際にvminの巡回的にシフトされたバージョンであることに留意されたい。図4に例示されて、下記のセクション「不確定性原理の導出」で証明されているように(式B19を参照)、これは、(fmが基準周波数として採用される場合)固有ベクトルと同じ時間及び周波数の不確定度を持つ。vmin(m)の成分をvmin,t(m)により示すとする。短く続く振動を記述するNベクトルは、このとき、vmin(m)の中間にゼロを挿入することにより得られる(よって、ベクトルの単一モードの構造が完全なままである)。これは、以下の式を与える。
(27)
ここで、KはM/2以下の最も小さな整数である。この振動は、時間t=0及び周波数fm=m/Mを中央に置く。一般に、以下の式
(28)
の振動は、時間t及び周波数fmを中央に置く。
【0056】
最小二乗法という意味では、xとhm,tとの間の最も適合する線形関係は、hm,tによりスパンされた(複素)一次元の部分空間上へのxの直交射影からわかる。hm,tが単位ベクトル(式27を参照)として規定されることを考慮すると、この射影は、以下の式となる。
(29)
【0057】
所与の周波数fmに対して、NxN行列Mmを以下の式のように規定する。
(30)
【0058】
これは、共振周波数fmを持つ帯域フィルタを行う巡回行列である。Mmによる左からのxの乗算は、波形符号又は「波符号」により示されるNベクトルを与える。
(31)
【0059】
の成分は、内積
である。
【0060】
十分な時間―周波数変換(TFT)は、m=0,...,M−1に対する全ての周波数fmを含む。MNxN行列のMを以下の式のように規定する。
(32)
【0061】
離散的時間―周波数領域(時間―周波数領域)への変換は、(所与のMに固有な)Mによる左からのxの乗算により実施される。これは、MN―ベクトル
を与える。バック変換は、再びMHによる乗算を意味し、
を与える。下記の「時間―周波数変換の導出」というセクションにおいて、Mの列は正規直交であることが示されるので、以下の式となる。
MHM=I(33)
【0062】
MHMx=Ix=xなので、よって、バック変換は元の時系列を回復する。これは、以下の式に従って、xの時間―周波数合成を可能にする。
(34)
【0063】
このように、時系列はMN個の短く続く振動の加重加算として書かれ、各々が時間t及び周波数fmに中心が置かれる(式14を参照)。所与のMに対して、これらの振動は、式25の不確定性原理に従って、最適時間―周波数解像度を与える。下記の「不確定性原理の導出」セクションに示されるように、振動は、M’=10・Δtゼロ以外の要素で丸められたガウス分布により近似できる。
【0064】
励振源への入力
励振源入力xとして、一組の調和振動を使用することが便利である。データを分析するために、このとき、これらの振動の周波数がTFT共振周波数fmと一致するように、TFTのスケールMが選択できる。最初に、周波数fn及び振幅amを持つ単一の正弦波入力を考える。オイラーの定理(式10)により、実数値の調和振動は、複素数値とその複素共役との和である。よって、励振源入力は、下記の式のように書ける。
(35)
ここで、星印は複素共役を示す。式9及び式10から、fn*=fN−nがわかる。NがMの整数倍である場合、周波数fn≡n/Mは、TFT共振周波数fm≡m/Mとマッチできる。その後、fn=fmであるように、mが選択される場合、以下の式となる。
(36)
【0065】
Mが十分に大きく、対応するΔfが、共振周波数fn=fmを持つTFTフィルタにより周波数fN−nで振動を抑制するのに十分小さい場合、後の近似値は有効である。「相補的周波数」fN−n(ここでは、fM−mに等しい)での成分も式36でMM−mをMmに加算することにより含まれる場合、時間―周波数領域の励振源入力の十分な表現が得られる。
【0066】
式8のモデルは、Mにより両方の式を左から乗算することにより、時間―周波数領域に変換される。対象の周波数(例えば、式35により記述された強制的振動の周波数)に注目すると、Mmにより式8の上の部分を乗算することは、以下の式となる。
(37)
mがゼロでない場合、MmμQがゼロであることが容易に示される。よって、
(38)
【0067】
巡回行列全てが代えられる
であることがわかる。fn=fmであるようにn及びmが選ばれる場合、このとき、式36及び式15を用いて、以下の式となる。
(39)
【0068】
fn=fmに対するHqx、nがbQ、mにより示される(対応するHpx、nがbP、mにより示される)とき、式8のモデルは、以下の式に低減される。
(40)
【0069】
fn=fmに対するインピーダンスは、以下の式となる。
zm≡bP、m/bQ、m (41)
【0070】
これらの振動が時間―周波数領域においてよく離隔されるほど、使用されるTFTのΔfが十分に小さいならば、他の振動のセットは、式35の励振源入力に加えられる。
【0071】
時間―周波数領域の分散分析
TFTは、時間―周波数領域の分散の分析を可能にする(「時間―周波数領域の分散分析」というこのセクションを参照)。例えば、流れのノイズの二乗ノルム(式8を参照)は以下の式に区切られる。
(42)
【0072】
のランダム変数は、ノイズQeの「TFTサンプルパワースペクトル」と呼ばれている。転送がノイズ1からQe,t(図2)までのフィルタ1の伝達関数が、fmについてのTFTフィルタの通過帯域で相対的に平坦であると仮定する。このとき、
は、あたかもゼロ平均及び分散σQ、m2Iを持つホワイトノイズから導出されるかのように、ほぼ分散される。結果として、
は、等価自由度ηを持つ近似のカイ二乗分布に従う。(相補的周波数fM−mの成分と同様に)循環仮定から独立している
のそれらの成分だけが含まれているηの導出のため、以下のセクション「時間―周波数領域の分散分析」を参照されたい。
【0073】
時間―周波数領域の二変量の最小二乗法
各時間tで、図2のモデルにより記述されている、しばらくの間変動しないプロセスが始まると、ここで仮定される。当該プロセスは、N個のイベントを含み、循環的である(すなわち、Nで周期的)とみなされる。時間―周波数領域では、モデルは(式40から)以下の式となる。
(43)
ここで、ベクトルは時間tで始まる「短く続く」N個のベクトルである。定数bQ、m及びbP、mは、これらがプロセスが始まる時間に特有であるとみなされるので、同様にインデックスtを得た。従って、モデルへの入力と同様に定数は、(2つのプロセスが時間的に重複する場合であっても)異なる時間tで異なる。
【0074】
bQ、t、m及びbP、t、mの最も適切な推定値は、エラーベクトルの二乗ノルムを最小化することにより、
及び
から導出できる。これは、最小二乗推定値
及び
を生じる。推定された関係は、以下の式である。
(44)
ここで、推定された「予測された」ベクトル
は、推定された「エラー」
に正規直交している(同様に、
は
と正規直交している)。図5では、ベクトルは矢印として示され、全ての変数は時間インデックスt及び周波数インデックスm(周波数fm=m/Mに対応する)を参照している。特に、図5では、励振源入力
は一定の変数である一方で、流量
及び圧力
はランダム変数である。ベクトル
及び
は、
によりスパンされた複素一次元の部分空間(ラインl)への
及び
の射影である。インピーダンス推定値は、
から分かる。エラーベクトル
及び
は
に垂直である。各ベクトルは、長さがノルムに等しい矢印により表される。ベクトル間の角度は、cos2φ及びcos2θが、
とそれぞれ
及び
との間の二乗コヒーレンスに等しいように描かれる。
【0075】
と
との間の線形関係の程度は、以下の式のような「TFTは二乗サンプルコヒーレンス」の表現になる。
(45)
【0076】
ランダム変数
は、xからQまでの「TFTサンプルクロススペクトル」と呼ばれている。幾何学的に、KQx,t,m2はcos2φと等しく、ここで、φは図5の
から
までの角度である。同様に、KPx,t,m2はcos2θと等しい。最小二乗推定値は、標準的やり方で導出される。これは、以下の式を与える。
(46)
【0077】
従って、
は、xからQまでのサンプルクロススペクトルとxのサンプルパワースペクトルとの比率である。
が同様のやり方で導出されるとき、インピーダンスは以下の式により推定される。
(47)
【0078】
「真の」インピーダンスzt、mは、実数部分rt、m(「抵抗」)及び虚数部分xt、m(「リアクタンス」)を持つ。対応する推定値は、以下の式、
の実数部分及び虚数部分である。
(48)
【0079】
図6Aに示されるように、bQ、t、mに対する100(1−α)%信頼領域は、
を中心にした複素平面の円により区切られている。信頼領域は、以下の式により与えられる。
(49)
ここで、
であり、FαはF分布の上の100(1−α)%である(以下のセクション「信頼限界の導出」を参照)。励振源入力xtは、無次元変数であり、
は(図5から
なので)流量のユニットを持つ。循環仮定に依存する値は、ここで放棄される(サンプルの有効数は、NS=N−M+1である)。原点が円内にある場合(このとき、
は100・α%信頼レベルでゼロと著しくは異ならない)、関係は拒絶される。よって、AQ、t、m<1の場合、有意性が得られることが、式49から分かる。
に対する信頼領域は比較可能な円により区切られ、
と
との間の関係は、AP、t、m<1の場合、重要であると考えられる。
【0080】
に対する信頼領域の控え目な推定値は、
及び
が非相関であるという仮定の下、以下の「信頼限界の導出」セクションで導出される。当該領域は、以下の式により記述される。
(50)
【0081】
図6Bを参照すると、限界円は推定値
の周りに同心円ではない。
の実数部分及び虚数部分が、
及び
により表わされる。垂直矢印は、実数部分に対する上位の信頼限界を示し、水平矢印は、インピーダンスの虚数部分に対する下位の信頼限界を示す。
の所与の実現のための「真の」zt,mの分布は、明らかに斜めに対称形である。図6Bでは、歪度は角度βにより決定される。歪度は、図5のβと角度φとの間の関係から明らかなように、完全に流量のノイズに起因する。
(51)
【0082】
流量のノイズがゼロである場合、このとき、φ=0、KQx、t、m2=1及びAQ、t、m2=0であるので、β=0であり、信頼領域が
について対称形である。
【0083】
下記の「信頼限界の導出」セクションは、流量のノイズ又は圧力のノイズがゼロであると仮定される場合に起こることの更なる分析を与える。それぞれの推定値は、このとき、以下の式に等しい。
(52)
【0084】
これは、時間―周波数領域における流量から圧力まで(又はその逆)の線形回帰となる。変数
及び
は、それぞれのサンプルパワー及びクロススペクトルである。式52の推定値と
との主要な違いは、推定されたインピーダンスの大きさにある。大きさは、以下の式を通じて関係付けられる。
(53)
【0085】
ノイズが流量及び圧力に存在する場合、インピーダンスの大きさは、
が
の代わりに使用される場合過小評価される(
が使用される場合過大評価される)。
【0086】
設定
装置2の使用中、流量及び圧力が、800Hzのサンプルレートで記録された。TFTは、Δt=50で実施された(これは、50/800=0.0625sに達する)。これは、M=4πΔt2=31,416のTFTフィルタの幅を必要とする。しかしながら、TFTフィルタの係数は、M’=10・Δt=500で丸められたガウス分布により近似された(以下の「不確定性原理の導出」セクションを参照されたい)。周波数の関連する不確定度は、Δf=1/(4πΔt)=0.0016である(又は、0.0016x800=1.27Hz)。TFTは、8、12、16、20、24Hzの課されたFOT周波数に対応して、fm=0.01、0.015、0.02、0.025、0.03に対して導出された。サンプルパワー及びクロススペクトルは、NS=500に対して(すなわち、500/800=0.625sの時間間隔にわたって)計算された。循環仮定から独立しているデータだけが使われた。これは、η=6.72を持つサンプルスペクトルの近似のカイ二乗分布を導く。インピーダンスに対する信頼限界は、90%の信頼レベル(Fα=4.05)に対して導出された。時間―周波数スペクトルは、最初の時系列と時間的に位置合わせされた。
【0087】
例
図7は、通常の被験者に対する時間及び周波数の関数として、推定されたインピーダンス
の実数部分及び虚数部分を示す。青いラインは実数部分
を表し、赤いラインは虚数部分
を表す。グレイのラインは、図6Bに図示されたように、信頼限界を表す。8Hzの周波数帯域の右側の軸は、インピーダンスの成分のスケールを示す。8Hzで、実数部分
は正であり、呼吸サイクルの間で変動する一方、虚数部分
はほぼゼロに等しく、比較的一定のままである。信頼限界は、時間の経過で、
及び
の変化の統計的有意性について直観的な印象を与える。より高い周波数で、
は、
が徐々により正になっていくと共に、減少する。被験者が要求により吸い込むとき、信号は激しく妨げられ、これは信頼領域の大きい増加が伴われた。関連するコヒーレントなスペクトルは、下記のセクション「信頼限界の導出」に示される。
【0088】
図8は、呼気の間、
の大きな負のスイングを持つCOPDを持つ患者に対するインピーダンスを示す(これは、明らかに、信頼限界からみて吸気値と著しく異なる)。斯様な負のスイングは、以前にCOPDにおいて記述されていて、呼気の間、気道の準最大の虚脱のため、流量制限に関係する。おそらく患者自身の呼吸の高周波成分のため、強制的振動を妨げるので、信頼領域は、吸気から呼気への転換点で最大であり、またこの逆も成立する。干渉性スペクトルのために下記のセクション「信頼限界の導出」を参照されたい。
【0089】
説明
図9は、本発明による方法のステップを要約するフローチャートである。この例示的実施例では、圧力波は、被験者の気道と連通する患者インターフェイス装置4としてマウスピースに接続された拡声器を使用して生成される(ステップ101)。マウスピース4を通るガスの流れ及び圧力の振動が、測定のそれぞれの時系列を与えるために測定される(ステップ103)。定常状態において、呼吸インピーダンスは、静かに呼吸している被験者のマウスピース4の強制的圧力振動から推定できる。呼吸器系の機械的特性が吸気から呼気にしばしば変化するので、当該方法は一時的な「安定性」の状況の下でインピーダンスを推定する。主要な課題は、インピーダンスが周波数依存的な量であるということであり、そして、高い時間的解像度が必然的に低い周波解像度に至るということであり、これによって、推定を歪める。データが離散的時系列(マウスピース4の流量及び圧力のシーケンシャル測定)から成るので、これは短い時系列の最適時間―周波数分析を求める。
【0090】
上記のセクション「方法」にて説明されたように、本発明は、時間が循環している(下記参照)とみなされる場合、短い時系列が変動しないという概念に基づく。説明されたように、時間及び周波数領域の全体の不確定度に下位限界を配置する、不確定性原理の新しいバージョンが、斯様な時系列に対して導出された。ステップ105では、この原理は、各時系列の相違を特定の時間及び周波数と関係している成分に区切るために用いられる(「離散的時間―周波数領域」又は「時間―周波数領域」への変換を通じて)。その後、時間―周波数領域の最小二乗法分析は、最適時間―周波数解像度を持つインピーダンスのバイアスされていない推定値を与える(ステップ107)。最後に、インピーダンスに対する信頼限界が、時間及び周波数の関数として作られる。主要なステップが、以下に要約され説明される。
【0091】
線形モデル
呼吸インピーダンスの推定値は、単純な線形モデルに基づく(式3、図2)。装置2のマウスピース4の振動は、拡声器6により誘発される。流量及び圧力の結果として生じる変化は、患者の呼吸器系(その系の音響効果)の機械的特性に依存する。モデルにおいて、これは、拡声器入力を修正する2つの線形時間不変のフィルタ(図2の2及び3)により表される。流量及び圧力の結果として生じる変動は、流れ及び圧力両方のノイズの2つの独立源により妨げられる。呼吸インピーダンスは、2つの線形フィルタ(2及び3)により決定される。
【0092】
ノイズの可能性がある源は、以下の通りである。1)強制的振動の周波数範囲内の患者の呼吸の成分。これは、おそらく最も重要な課題である(参考文献2を参照)。2)患者による吸い込み、咳嗽、又は他の動き。3)心臓性振動(特に気道抵抗が低いとき)。4)呼吸インピーダンス自体の時間依存性の変動。5)ランダムな測定エラー。
【0093】
呼吸器系の非線形インタラクションが無視できないという指標があったが、線形モデルは、以前、同様の実験(参考文献2を参照)の間、流量と圧力との間の周波数依存的な関係を説明するために用いられた。しかしながら、FOT装置2の流量と圧力との間の関係の線形記述は、圧力差が平均絶対圧と比較して小さいという事実によりサポートされる。当該関係を記述するためにインピーダンスを使用することは、これらの状況の下で期待できる定常波のインタラクションの簡略化である。しかしながら、主要な制限は、呼吸器系が安定と考えられる時間にある。
【0094】
循環仮定
偶然のイベントを説明するために、流量及び圧力が所与の確率分布を持つランダム変数(RV)であると仮定された。よって、流量及び圧力のN個の対の測定値の短いシーケンスは、有限二変量の確率過程(確率プロセス)からのサンプルとして考えられる(N個の経時的に並べられた対のRVのセット)。斯様なプロセスにおいて、流量と圧力との間の周波数依存的な関係は、二変量の確率プロセスが(2次のオーダーで)安定していると仮定される場合、安定なインピーダンスによってのみ記述できる。これは、同時に起こる値と連続した値との間の共分散だけでなく、流量及び圧力の期待値が一定であることを意味する。しかしながら、連続した値の間の共分散は、開始及び終了効果のため、(これらの共分散がゼロに等しくない限り)有限シーケンスに対して一定でありえない。
【0095】
しかしながら、この課題は、最後のイベントが最初のイベントに先行するという意味で、時間が循環すると仮定することにより解決される。このようにして、連続した値間の共分散は一定である一方、シーケンスは依然有限数のRVから成る。これは、シーケンスの離散的及び有限の性質の直接的な結果である。全体の時間(N=12個のイベントの経時的シーケンス)を見ることが唯一可能である時計を考える。あなたが1時(時刻t1)及び2時(時刻t2)を見る場合、t1からt2まで1時間が経過したこともあり得るし、13時間が経過した又は時刻t2でのイベントがt1の11時間前に起こったこともあり得る。他の知識なしで、ある時間と、ある時間に対して12の整数倍数をプラス又はマイナスした時間との間を識別することは可能ではない。この不確定性は、「エイリアシング」に直接関係する(これは、斯様な時系列から連続信号を再構成しようとする場合に起こる)。しかし、測定されたシーケンスの最後の部分の偶然の変化によって、最初の部分に続かない変数両方の変動が生じる。これによってインピーダンスの推定におけるバイアスが生じる。しかしながら、これは、適用された時間―周波数分析(下記を参照)において除外される。
【0096】
不確定性原理
「時間の不確定性(度)」は、一連の成分が時間的にどのくらい拡がるかを表す時系列の特性である。離散的、有限及び巡回の時系列に対して、これは、図3Aに示されるような図を与える。時系列の成分は、時間の円の周りに規則的に配置される質点により表される(各質点は、成分の二乗の絶対値に等しい)。不確定度Δtは、基準ポイント(ここでは、t=0のポイント、式19)に関して定められ、重心に密接に関係する(式B3)。時系列が一つだけゼロ以外の成分(時刻t=0で)を持つ場合、このとき、重心は、t=0に位置され、Δtはゼロである。全ての成分が等しい重さを持つ場合、このとき、重心は中心に位置され、Δtは高い(時間領域の最大の拡がりと関連している)。
【0097】
同様に、「周波数の不確定性(度)」Δfは、周波数領域での拡がりを表す(式22)。離散的フーリエ変換を通じて、N個の成分を持つ各時系列は、所与の振幅及び周波数(離散的周波数領域の表現)を持つN個の調和振動の和として書ける。離散的時系列に対して、これらの周波数も、循環的である。周波数領域の拡がりは、図3Aのものと比較できるような円の周りにN個の質点として二乗振幅を配置することにより視覚化できる(各質点は特定の周波数に対応する)。
【0098】
連続的な時間及び周波数に対して、以下の式の不確定性関係により表される時間及び周波数の不確定度のトレードオフがあることが示された。
(54)
【0099】
これは、(特定の条件の下)連続的で無限の時間に対して成り立つ。Δtが小さい場合、Δfは、積が少なくとも1/4πに等しくなければならないので大きくなければならず、またこの逆も成立する。この不等式は、粒子の位置及び運動量に対するハイゼンベルクの有名な不確定性原理に直接関係する。しかしながら、離散的時系列に対して、積ΔtΔfの下の限界は、ゼロである(下記の「不確定性原理の導出」を参照)。しかし、Δt及びΔfの連合値の制限がある。上記の「方法」セクション(式25)において、離散的で、有限及び循環の時系列に対して、以下の式が示される。
(55)
ここで、σminはNの関数である。よってΔt及びΔf両方が非常に小さくなることができない。和Δt2+N2Δf2は、離散的フーリエ変換が最初の時系列(図4A)に正確に等しい時系列に対して最小である。Nが大きくなるにつれて、時間及び周波数の最小の連合の不確定度を持つこの時系列は、時間のガウス関数に近づく。この時系列は、量子力学における2つの引きつけられている粒子の最小の不確定性状態(いわゆる「量子調和発振器」)に類似している。フォーブズ等(参照文献4を参照)は、斯様な発振器に対する波動式から、同様の時系列を導出した。しかしながら、今の場合、この最小の不確定性状態は、離散的及び有限時系列に対するΔt及びΔfの定義から簡単に導出される。下記の「不確定性原理の導出」において、式55の不確定性原理が大きなNに対するガボールの不確定性原理と、どのくらい関係するかが示される(図14を参照)。
【0100】
離散的時間―周波数領域
提示された時間―周波数変換(TFT)は、離散的及び有限時系列を、M<NであるM個の成分の短く続く振動のセットへ区切る(時間―周波数領域への変換)。各振動は、式55の原理に従う両方の領域の最小の不確定度を持って、特定の時間及び周波数の周りに集まる。TFTは、ウィンドウ化された「短期フーリエ変換」又は「実行しているフーリエ変換」となる。結果が第1の振動が始まる時間から独立しているように、短く続く振動は、時間的に互いに最大限重なり合う。時系列の始まりの前に始まり、時系列の終わりの後に終わる振動だけが、循環仮定に依存している(これらは、バイアスを回避するために、分析において除外される)。以下の「時間―周波数変換の導出」セクションにおいて、変換が「正規直交である」(式33)ことが示され、これは、離散的時間―周波数領域への変換後時系列の全ての情報が保存されることを意味する。何も得られていないし、何も失われていない。逆変換は、元の時系列を回復する。
【0101】
正確には、離散的時間―周波数領域と呼ぶことはできず、しかし、選ばれた値Mに対する時間―周波数領域だけについてである。この整数は各短期振動の継続時間を決定するが、これらの振動が集まる異なる周波数の数に等しい(TFT共振周波数)。以下の「不確定性原理の導出」で示されるように、式55の不確定性原理による最適のΔt及びΔfはMに依存する(式B8においてNをMにより置換する、図11も参照)。もっともなことだが、Mが大きいと、対応する最適なΔtが大きくなり、対応するΔfが小さくなる。現在の分析では、拡声器により誘発される異なる振動を識別可能であるのにΔfが十分小さいように、Mは選択される。
【0102】
拡声器への入力
例示的な実施例では、我々は拡声器6への入力として5つの調和振動のセットを使用した(それぞれ8、12、16、20及び24Hzの周波数)。分析のために、Mの値(実際の有効値、式B6参照)は、不確定度が時間ユニットでΔt=0.0625s及びΔf=1.27Hzで表されるように、選択された。TFT係数は、これら5つの周波数に対してのみ計算され、これは5つの共振周波数を持つ帯域通過フィルタリングになる。1つの従来技術のアプローチは、拡声器入力のために単一の周波数を使用する。これは、時間―周波数分析のより少ない要件をもたらす(これらは、矩形の窓を持つ帯域通過フィルタを使用し、本発明のものより所与のΔtに対してより大きいΔfを持つ)。単一の周波数に対して、周波数解像度は、患者の呼吸のより高い高調波を除去するために依然有効であるが、あまり重要でない。他方では、インピーダンスの周波数依存は、呼吸メカニクス上に付加的情報を供給できる。代わりに、広帯域のノイズが適用でき、これは、検討された周波数で比較的小さなパワーを持って、入力信号のパワーが全ての周波数上に徐々に分散されるという不利な点を持つ(拡声器の同じ全体出力で、より低いSN比)。更に他のアプローチでは、調和周波数での振動の間の相互作用を防止するために、換気された患者に非調和シヌソイドでできたベンチレータ波形が適用された。しかしながら、斯様なアプローチは、自由に呼吸する被験者に適用できない。調和周波数での呼吸器系の幾つかの干渉は、これは広帯域の刺激の後、系の周波数反応で観察されなかったが、実際に本発明で生じてもよい。
【0103】
時間―周波数領域の分散分析
TFTの正規直交特性は、確率過程の分散を時間―周波数依存の成分に区切ることを可能にし、これは時間―周波数パワースペクトルを与える(下記の「時間―周波数領域の分散の分析」を参照)。TFTサンプルパワーは、総サンプル分散に対して所与の時間及び周波数についての短く続く振動の寄与を表す。よって、TFTパワースペクトルの分析は、時間―周波数領域の分散の分析になる(式42)。モデル(式43)において、一緒に二変量の巡回静止確率過程を形成する、流量及び圧力のノイズの独立源があると仮定される。循環仮定に依存する値が放棄されるとき、時間―周波数領域の多くのNS=500の連続した値が、このプロセスからのサンプルとしてみなされる(800Hzのサンプルレートで0.625sのエピソード)。各時点(1秒につき800回)で、このタイプの新規な確率過程が以前の分散と必ずしも等しいわけではない分散で開始すると仮定された。よって、測定は500の値の最大に重なり合うエピソードに再分割され、それぞれは異なる静止確率過程からのサンプルとしてみなされた。ノイズの源は「白色(ホワイト)である」とみなされなかったが、パワーはTFTフィルタの各周波数バンドで一定であると仮定された。このとき、500の値の各エピソードの間の平均パワーは、等価の自由度が導出された近似のカイ二乗分布に従う。
【0104】
時間―周波数領域の二変量の最小二乗法
NS=500の連続した値の各エピソードに対して、拡声器入力と流量(bQ、t、m)との間の線形関係及び入力と圧力(bP、t、m)との間の関係の係数は、時間―周波数領域の単純な線形回帰により推定された(式44、図5)。これは、時刻t及び周波数fmに関連したバイアスがされていない推定値に結果としてなる(それぞれ、
及び
式46を参照)。各推定値は、時間―周波数領域のNS値上の時間平均化されたパワー及びクロススペクトルに基づく。その後、インピーダンスは、比率
により推定された。
【0105】
Nの選択は、系が静止しているとみなされる時間に依存する。インピーダンスが各吸気及び呼気の中でほぼ安定であると仮定すると、呼吸のために、〜0.5sのエピソードがもっともらしいようである。示された例において、これは、よく機能している(図7及び図8)。しかしながら、ほとんどの従来技術において、スペクトルは、より長いエピソード、通常10sより長いエピソードにわたって平均化されている。幾つかの平均化されたスペクトル値は、16sの全体のエピソードにわたって、〜0.65sの重なっていないセグメントから導出された。しかしながら、重なっていないセグメントの使用は、ここで使用される最大に重なり合うセグメント(すなわち、TFTで使用されるM値のセグメント)と比較して、同じ長さのエピソードに対して非常に少ない自由度を与える。大きな課題は、16sのエピソードの使用が、通常COPDのような疾患においてより発音される吸気と呼気との間のあり得る生理的違いを平均化するということである。その場合、16sにわたる流量と圧力との間の低い干渉性は、ノイズの反映だけでなく、(疾患の一部である)インピーダンスの呼吸内可変性の反映でもある。想定された静止の期間は、あまり短く選択されるべきではない。図8の例では、信頼区間は吸気からの呼気への転換点で比較的広く、逆も成り立つ。これは、患者の自身の呼吸の高周波成分に起因する。これらの変化は0.5sより明らかに短く、その結果、これらは推定のノイズとして現れる。従って、想定された静止の期間は、これらの変化をノイズとして「解釈する」のに十分長くなければならない。
【0106】
インピーダンス推定値
が2つの正常に分散されたRV(
及び
)の比率として導出されるので、これは、期待値を持たないコーシー分布に従う。それで、厳密に言うと、
は、期待値と本当の値との間の差という意味において、バイアスを持たない。まだ、
及び
がバイアスされていない正常に分散されたRVであるので、
は、近似により期待値zt、m=bP,t,m/bQ,t,mで通常分散される。Daroczy及びHantos(参照文献2)は、拡声器入力から流量及び圧力それぞれまでの回帰係数の比率としてインピーダンス推定値を導出する類似のアプローチに従っている。患者及び装置の機械的特性の単純なモデルに基づいて、彼らは、ノイズが流量又は圧力の何れかだけで生じると仮定される場合、系統的誤差が導入されると主張した。斯様なバイアスに対する実験証拠は見つかった。しかしながら、他者は、拡声器が圧力波及び主要なノイズを生成し、(圧力のノイズがゼロである一方)患者自身の呼吸の高周波成分が、純粋な流量源であると仮定した。TFTが用いられた場合、推定値は式52で
であるだろう。他方では、他の文献は、式52の
と類似した推定値を使用した。
及び
は、圧力又は流量のノイズがゼロであるという仮定の下、最小二乗推定値であるので、これは、現実と一致していない場合バイアスを導き、このことは、数人の著者によりすでに指摘されていた(参照文献2を参照)。流量と圧力との間の干渉性が高くて、さもなければ推定値を放棄するよう勧められる場合、このタイプのエラーは最小であると議論された。これは、干渉性が統一の傾向がある場合、
及び
両方が
(よって、本当のzt,m)に近づくことが分かる式53に従っている。式50及び51も、流量のノイズが、インピーダンスに対する信頼領域に影響を及ぼすことを示す(特に、歪度パラメータβ、図6Bを参照)。1つの以前の文献では、帯域通過フィルタリングされた圧力は、時間の関数(上記参照)として、インピーダンスを得るために、流れにより割られた。結果として生じるインピーダンスは、流量及び圧力のサンプル分散の等価な寄与を持つ「全体の最小二乗」推定値に、数値的に等しい。これらの値が、しばしば、(入力から流量までの干渉性が入力から圧力までの干渉性と等しい場合)二変量の最小二乗法で得られたものと同じ範囲にあることが期待できる。しかしながら、この「推定値」は、ランダム誤差に非常に影響されやすい平均値から導出されない。
【0107】
よってこれまで、推定されたインピーダンス上の信頼限界は、相対的に時間が長い間隔でのみ導出されてきた。本発明の実施例の時間―周波数に依存する信頼限界は、短く続くシーケンスが静止確率過程からのサンプルであるという仮説の有効性の継続的印象を提供する。これらは時間の経過でインピーダンスの変化の重要性を試験し、(図7の吸い込む間のような)信頼できない推定を自動的に拒絶するための根拠を提供することを可能にし、これはリアルタイムに監視する際の実際的な利点である。
【0108】
図10は、更に詳細に本発明による装置2(及び特にコンピュータ16により実施される処理ステップ)により実施される方法を例示するフローチャートである。図9のように、ステップ121で、圧力波は被験者により用いられているマウスピース4に接続される拡声器6を使用して生成され、マウスピース4を通る空気の流量及び圧力の振動が測定されて、測定のそれぞれの時系列を与えるためにデジタル化される(ステップ123)。このように、流量及び圧力は、離散的時間t、qt及びptの関数として与えられる。
【0109】
その後、ステップ125で、時系列は、離散的時間t及び異なる周波数fm=m/Mの関数として、流量
及び圧力
を与えるために離散的時間―周波数領域へ各々変換される。ここで、mは周波数指標であり、Mは時間―周波数フィルタの有効幅である。周波数は、課されたFOT周波数の周波数に合うように、選択される。
【0110】
ステップ125は、流量時系列qtに対する以下の式を評価するステップを有する。
(56)
ここで、i2=−1であり、加重因子wlは時間のガウス関数
により近似され、Δtは時間における選ばれた不確定度である。フィルタは、K1=5・Δtで丸められる。加重因子wlがガウス関数により近似されるとここで説明される一方、三角窓、区分的線形近似又は多項式関数のような他の窓又は加重因子が本発明により考察されることも理解されるべきである。
【0111】
時間及び周波数の関数として圧力
は、以下の式
(56a)
から同様に導出される。
【0112】
その後、ステップ127において、パワー及びクロススペクトルが時間及び周波数の関数として導出される。流量のパワーは、以下の式により与えられる。
(57)
ここで、NSは時間―周波数領域のサンプルの数であり、NSが奇数の場合K2=1/2(NS−1)であり、||は絶対値を表わす。
【0113】
PP,t,mにより表わされる圧力のパワーは、以下の式から同様に導出される。
(57a)
【0114】
時間―周波数領域の拡声器入力
から流量
までのクロススペクトルは、以下の式により与えられる。
(58)
ここで、*は複素共役を示す。
【0115】
拡声器入力から圧力CxP,t,mまでのクロススペクトルは、同様に
及び
から以下の式により導出される。
(58a)
【0116】
ステップ129では、パワー及びクロススペクトルは、拡声器入力から流量及び圧力それぞれへの伝達関数を決定するために用いられる。
【0117】
特に、拡声器入力から流量への伝達関数は、クロススペクトルとパワーとの比により以下の式により与えられる。
(59)
拡声器入力から圧力への伝達関数BxP,t,mは同様に以下の式により導出される。
(59a)
【0118】
よって、ステップ131で、呼吸器系のインピーダンスは、実数成分RrSt,m及び虚数成分XrSt,mを持つ伝達関数ブロックの比率から決定できる。
(60)
【0119】
更にまた、呼吸インピーダンス上の信頼限界は、以下の通りに導出できる(ステップ133)。
【0120】
パワー及びクロススペクトルの自由度ηの等価数は、以下の式により与えられる。
(61)
ここでPはNxN行列であり、Hはエルミート転置行列を表わし、tr{}は行列のトレースを表す。行列Pは、以下の式のように規定される。
P=S(Mm+MM−m)/NS (62)
ここで、Sは主対角線上にNS個の1(及び残りはゼロ)を持つ対角行列Sである。すなわち、
S=diag{0,...,0,1,...,1,0,...,0} (63)
【0121】
(シフトされる)時間―周波数変換行列Mmは巡回行列であり、第1の行のエントリは、l=−K3,...,K3及びK3=1/2(N−1)に対してwle2πiml/Mであり、ここで、Nは奇数である。Fαは、自由度2、η−2でのF分布の上位100(1−α)%ポイントとしてラベル付けられる。
【0122】
と
との間の二乗コヒーレンスは、以下の式により与えられる。
(64)
と
との間の二乗コヒーレンスKxP,t,m2は同様に以下の式から導出される。
(64a)
【0123】
流量に関係する変数Aq,t,m2は、以下の式として規定される。
(65)
Ap,t,m2で示される圧力に関係する類似の変数は、同様に以下の式で導出される。
(65a)
【0124】
従って、呼吸インピーダンスの実数部分及び虚数部分に対する100(1−α)%信頼は、それぞれ、Rrs・c1±c2及びXrs・c1±c2により与えられ、c1=1+Aq,t,m・c3、c2=|Zrst,m|・c3、及び
である。
【0125】
所与の時間及び周波数に対する呼吸インピーダンスの推定値は、Aq,t,m≧第1の閾値、又はAp,t,m≧第2の閾値の何れかである場合、重要でないとして拒絶される。ある具体例では、第1の閾値及び第2の閾値は1に設定されるので、所与の時間及び周波数に対する呼吸インピーダンスの推定値は、Aq,t,m≧1、又はAp,t,m≧1の何れかである場合、重要でないとして拒絶される。
【0126】
最初と最後の効果を取扱うために、アルゴリズムは、幾つかの巡回データバッファを含む。
【0127】
測定装置
測定エアフローは、ニューモタコヘッド8及び内蔵型圧力トランスジューサ10(例えばJaeger Masterscreen pneumotach type BF/IEC601-1, Hoechberg, Germany)で測定できる。マウスピース4での圧力は、差圧トランスジューサ12(例えばHans Rudolph Pneumotach amplifier 1 series 1110, Shawnee, KS)で周囲空気を基準にして測定できる。圧力振動は、アンプ18(例えばHarman Kardon HK970 amplifier, Washington DC)により増幅されるAD変換カード14(例えばNational Instruments PCI-6221, Dallas,TX)を通じたパーソナルコンピュータ16(例えばHewlett Packard Compac dc 7600, PaloAlto, CA)からのアナログ出力信号により制御される拡声器6(例えばJaeger Masterscreen IOS, Hoechberg, Germany)によりFOT装置2内で生成できる。被験者は、ニューモタコヘッド8に接続されたメッシュワイヤ抵抗9を通じて呼吸できる。アナログ入力信号は、800Hzのサンプルレートで同じAD変換カード14を通じてデジタルシーケンスに変換でき、パーソナルコンピュータ16に保存できる。出力信号の生成及びデータの分析は、適切なコンピュータソフトウェアを実行しているコンピュータ又はプロセッサ16により実施できる。
【0128】
測定は、多くの呼吸サイクル、例えば90秒の静かな呼吸をカバーする期間の間で、装置2を使用してなされる。
【0129】
不確定性原理の導出
時間及び周波数の不確定度(性)の幾何学的な解釈
式20の規定によると、不確定度Δtは、時系列x≡{xt}の「重心」に直接関する。時系列のイベントは、値|xt|2を持つ質点として表わされ、原点を中心に、複素平面内の半径rtを持つ円の周辺部に定間隔に配置される。各イベントは、複素平面内のポイントrtωtで起こり、ここで、
及び
である。加重平均値
は、以下の式のように規定できる。
(B1)
【0130】
重心は
に位置される。行列式では、以下の式となる。
(B2)
ここで、Ω≡diag{1,ω,...,ωNー1}である。Ωがユニタリ行列であるという事実を使用して、二乗不確定度Δt2は、このとき、以下のように低減できる。
(B3)
【0131】
これは、図12の基準点Rを通る軸(円の平面と直角をなす)についての第2の慣性モーメントに対する「平行軸定理」に従う。図12は、時間の不確定度ΔtとN=16に対するCHCの固有ベクトルの重心との間の関係を例示する。固有ベクトルは、原点を中心として、半径rtを持つ複素平面内の時間円に沿ってマップされる。各固有ベクトルの重心は、黒いドットにより表される。Cの対応する特異値は(基準点Rに近い)右側で重心に対して最小であり、図の左へ行くと徐々に増大する。各固有ベクトルに対する不確定度Δtは、Rから重心を通る垂直線と円との交差点の1つまでの傾斜距離である。
【0132】
図13の表現では、式11から
であることが分かり、ここで、
は図12のAからRまでの距離である。ピタゴラスの定理を使用して、
から、
であることが分かる。
【0133】
周波数領域において、不確定度Δfは同様のやり方で幾何学的に解釈できる。
【0134】
行列Cの特異値
式25の不確定性原理は、Cの二乗最小特異値及び二乗最大特異値であるσmin2及びσmax2により決定される。特異値σは、
det(CHC−σ2I)=0(B4)
から導出できる。ここで、det()は行列の決定要素を表わす。N=2に対して、σmin2=2(2−√2)/π2及びσmax2=2(2+√2)/π2であることが容易に分かる。より高いNに対して、Cの特異値(CHCの固有値)を導出するための様々な戦略が開発されてきた。図11は、Nの関数として、σmin及びσmaxを示す。より大きなN(例えば、N>15)に対して、σminは
に近づき、σmaxはN√2/πに近づくことが分かる。時間円の半径に関して、このことは、
及び
を意味する。
【0135】
vを特異値σに対応するCHCの単位固有ベクトルとする。正規方程式(CHC−σ2I)v=0は、以下のように書ける。
(B5)
【0136】
第1の項は、実軸に沿った基準点Rからのvの成分の出発に依存する(式B3を参照)。第2の項は、(離散的及び巡回の時間に対する)vの成分の2次の導関数とみることができる。式B5は、量子調和振動に対するシュレディンガー方程式に相当する。解は、離散的正規直交マシュー(Mathieu)関数と考えられる。σminに対応する固有ベクトルvminは、時間の単一モードの関数である(図4Aのような)。大きなNに対して、vminはベクトルv’minにより近似でき、その成分ν’min,tは以下の式のような時間のガウス関数である。
(B6)
ここで、Nは、t≧(1/2)Nの場合、tから減算されなければならない。t>5・Δtの場合、成分ν’min,tはゼロに近いので、ガウス関数は、最大値付近の10・Δt個の最も大きい値だけを使用して、残りをゼロに設定することにより丸められる。結果として近似された固有ベクトルv’及び差ベクトルd≡v−v’をコールして、ノルム
は、近似値に作られる誤差の尺度として採ることができる。適切な数学的ソフトウェアを使用して、N>75の場合、相対的な誤差
が0.005未満であることが分かる。
【0137】
CHCがFと代わるので、これらの行列は、同じ固有ベクトルを共有する。F4=Iであるので、Fの固有値は、1、−1、i及び−iである。結果として、各ユニット固有ベクトルvに対して、時間の不確定度は、周波数の不確定度に直接関係する。
(B7)
【0138】
これは、各固有ベクトルvに対して、全体の不確定度が時間及び周波数にわたって均一に分散されることを意味する。
(B8)
よって、各固有ベクトルvに対して、Δt=NΔf=σ/√2である。式B6によるvminのガウス近似は、以下のように書き直せる。
従って、全体の不確定度σmin2は、このガウス関数の分散に等しい。式B8は、また、N>15に対して、最小及び最大の不確定度に対応するΔtの値がそれぞれ、
及び
であることも意味する。後者は、2rtが時間円内の最大可能なΔtであるので、直観的に合理的である(図13を参照)。図13は、N=16に対する時間の不確定度Δtと周波数の不確定度Δfとの間の関係を例示する。全ての可能性があるN―ベクトルxに対するアクセス可能な領域は、半径σmin及びσmax(Cの最小及び最大特異値)を持つ2つの円により囲まれている。図13において、rtは時間円の半径であり、黒点はCHCの固有ベクトルに属し、vmin及びvmaxはσmin及びσmaxに対応する固有ベクトルであり、e0及びe8はt=0及びt=8に対応する正準ベクトルであり、f0及びf8は周波数fn=0及びfn=8/16=1/2を持つ調和振動である。
【0139】
上述されたように、図12は、N=16に対する時間円の全ての固有ベクトルvに対する重心を示す。CHCは正規行列であるので、スペクトル定理に従ってN個の直交固有ベクトルを持つ。式B3からわかるように、対応するΔtは、Rから複素平面の重心までの水平距離に依存する。Δtは、図12から、Rから重心を通る垂直線と円との交点までの弦の長さとして、読み取れる。Rに最も近い重心は、σminと一致する。更に離れたところにある重心は、σ(及び
)の増大する値に対応する。比較的大きなNに対して、vminの重心とRとの間の距離が式B3に従って1/4に近づき、そのΔt,minを見つけることは
に近づく。同じ固有値σ2=N2/π2を持つ2つの直交固有ベクトルがあるという意味で、CHCの多数の固有値がある。Nが4により割り切れる場合のみ、斯様な多数の固有値が発生するだろう。これら2つの直交固有ベクトルの重心は両方とも虚数軸上に位置する。これらは、同じΔtを持ち、
に等しい。対応するΔfは
に等しい。これらの2つの固有ベクトルは、時間及び周波数領域において最大限拡がった(重心が時間及び周波数円両方の中心に位置する場合、得られるだろう値と同一である)。σのより高い値に対応する固有ベクトルは、(Rに対する)より大きな「不確定度」と関係するが、時間的により小さな拡がりを持つ。最大の総不確定度σmaxが固有ベクトルvmaxに対して到達され、Δtが2rtにほぼ等しくなるまで、ベクトルの重みは時間及び周波数両方の円の反対側に実際にますます集中される。図12の明らかな対称性に留意されたい(重心は、虚数軸に反映される)。
【0140】
図13はΔtの関数としてNΔfを示す。式25の不確定性原理のため、アクセス可能な領域は、半径σmin及びσmaxで原点の周りに中心がある2つの円により境界づけられる。これは、これらの円の間の全ての値が可能であるというわけではないが、円の外側の全ての値が不可能であることを意味する。CHCの固有ベクトルに帰属する座標は、全て同一ライン上に位置する(式B7のため)。幾つかの極端な場合も示される。1つは、正規ベクトル
である。この「重み」
は、t=0に完全に集結されているので、Δtはゼロである。周波数領域への変換は
(B9)
を与える。ここで、fnは式9として規定され、符号「*」は複素共役を表わし、1は1だけを含むNベクトルである。よって、e0の重みは周波数領域の全ての周波数上に均一に分散され、
又は
である。他の極端な場合は、e8である。(正規ベクトルetを{0,...0,1,0,...,0}として規定し、ここで、1はゼロから始めてt番目の位置に表わされる。)e8の重みは、複素平面内のポイント(−rt,0)に完全に集中されているのでΔtは最大であり、2rtに等しい。周波数領域において、
(B10)
【0141】
列ベクトルf8*は周波数fn=8/16=1/2を持つ調和振動を記述する。その二乗成分も全ての周波数上に均一に分散されるので、
である。時間領域から始めると、他の極端な場合は、その重みが時間領域内に均等に分散され、fn=0で周波数領域において鋭く集中する(
及びΔf=0)振動f0と、その重みが時間領域内に均等に分散され、fn=1/2で周波数領域において鋭く集中する(
及びNΔf=2rt)f8とである。Δt及びNΔfに対する可能性がある値が範囲[0,2rt]に限定されるので、全ての可能性がある組合せ(Δt,NΔf)がvmin,e0,f8,vmax,e8及びf0に対する座標により囲まれる図13の領域に限定されることが期待できる。これらの極端なベクトルは、通常の規則の実例でもある:(Fによる前置乗算を通じて)時系列ベクトルxのフーリエ変換をすることは、図13のプロット線の(Δt,NΔf)座標を交換する。別の表現では:x及びFxに対する座標が同一のラインに反映される。これは、式21及び式23の規定を使用して、容易に検証される。
【0142】
ガボールの不確定性原理との比較
1946年のガボールにより説明された不確定性原理(下記の参照文献5を参照)は、連続時間及び周波数に対する積ΔtΔfに対する下位限界を決定する。
(B11)
【0143】
この不等式は、式25による離散的時間と周波数に対する不確定性原理にどのように関係するだろうか。式でB11では、時間が無限のライン(又は、無限の半径を持つ円)上にマップされているが、Δt2は、また、t=0であるポイントに対して垂直な軸の周りの第2の慣性モーメントと規定される。式B11の導出において、平均時間がゼロである(重心がt=0に位置される)と仮定される。同じことは、周波数領域の拡がりに対しても満たされる(周波数が離散的でも周期的でもなく、連続的で無限であるという事実に関係なく)。
【0144】
式B11と式25との不等式の間の主要な違いは、ガボールの不確定性原理によると、ΔtΔfの下位限界tがΔtの任意のゼロでない値を持つ(式B6と同じ形式の)tのガウス関数に対して達成される(参照文献5を参照)という事実にある。これは、一組の線形の独立(無限の)ベクトルである。しかしながら、式25による総不確定度Δt2+NΔf2の下位限界は、一つのΔtの値(
に等しい)に対応するCHCのたった一つの固有空間(vminにわたる一次元複素部分空間)に対して達成される。他方では、この固有空間のベクトルは、ガボールの不確定性原理の下位限界を達成する(N→∞の限界状況において)。CHCの各固有ベクトルに対して、式B8から以下の式が成り立つ。
(B12)
【0145】
vmin(又は対応する固有空間の他の任意のベクトル)に対して、σは、Nが大きくなるにつれて、
に近づく(図11)。このとき数の近似は、N→∞だと、以下の式を示す。
(B13)
【0146】
しかしながら、有限のNに対して、1/(4π)はΔtΔfに対する絶対の下位限界ではない。e0及びf0に対して積はゼロであり、小さな乱数の追加は、わずかに異なるベクトルに対してゼロに近いことを示す。
【0147】
(Mイベントからなる、1<M≦N)より短い時系列に対して得られたvminベクトルから導出されるN個のベクトルを考える場合、2つの不確定性原理の関係はより明らかになる。vminが8x8行列CHCから導出される図14の例を参照されたい。Fvminの成分は、周波数fn(黒いドット)の関数として示される。これらの周波数は、1/8の倍数である。(ベクトルの単一モードの構造が円形の時間ベース上に完全なままであるように)8ベクトルvminの2つの最も小さな成分間に8個のゼロのブロックを挿入し、これは結果的に16−ベクトルとなる。
(B14)
【0148】
これは、Δtの僅かな増大(0.7583から0.7900へ)とほとんど重要でないΔfの増大(0.0948から0.0949へ)を与える。図14の白丸は、8個のゼロのブロックが時間領域の固有ベクトルの2つの最も小さな値の間に挿入されるとき周波数領域の補間された値を表し、実線は、時間領域の加えられたゼロの数が無限に向かうにつれて補間された値を表す。結果として生じる16−ベクトルは、1/16の倍数である周波数(白丸)で、周波数領域の補間を導く。これは、(時間領域の「ゼロ詰め」を通じた)周波数領域の良く知られた補間の形式である。
【0149】
このやり方で、所与のNに対して、N−1の多くのベクトルは、MxM行列CHCから得られるより小さなM次元vminベクトルにゼロを加えることにより導出できる。自明の例は、M=1に対して「1―ベクトル」vmin=1にゼロを加えることにより導出されるe0である。図15は、N=16に対するNΔf対Δtのプロット線の対応する不確定度を示す。これらの値は、Δt=0、
及び
のラインにより区切られるゾーンIに現れる。M=1に対する値はe0と一致し、M=2に対する値は矢印により示され、より高いMに対する値は(N=16に対するvminに一致する)識別ラインに位置されるM=N=16に対する値に徐々に近づく。比較的大きなMに対して、Δt及びΔfがゼロの付加によりほとんど変化しないのに対し関連するσは
に近づくので、以下の式となる。
(B15)
【0150】
結果として、比較的大きなMに対する値は、図15の双曲線x・y=N/(4π)より僅かに下にプロットされる。時間が進みNが大きくなるにつれ、値のトレイルはこの双曲線に沿って成長し、新しい値が識別ラインに現れる。ΔfがΔtに対してプロットされる場合、関係のある双曲線はx・y=1/(4π)により与えられ、ガボールの不確定性原理の下位限界で異なるガウス分布に対応する全ての可能性がある値を含む。
【0151】
正式の数学的証明なしで、M<Nに対するvminから導出されるN−ベクトルは、図15の(Δt,NΔf)平面のアクセス可能な領域までの更なる限界を持つ。これらのベクトルがMがゼロでないイベントのシーケンスに対して最小の可能性がある総不確定度を持つので、図15の黒いドットによりマークされる領域の外側の値が発生しないと期待できる。これは、時間領域の重みの変更なしで、周波数領域のベクトルを巡回的にシフトさせる(周波数円の反対側の部分)、Ω8とゾーンIのベクトルを前置乗算することにより導出される、ゾーンIIの値に対しても成り立つ。よって、これらのベクトルのΔfは、Δtの変化なしで最大化される。これとは逆に、ゾーンVIのポイントは、時間領域のベクトルを巡回的にシフトさせる(これによりΔfの変化なしでΔtを最大化する)、T8と前置乗算された、ゾーンIのベクトルから得られる。ゾーンVのベクトルは、T8と前置乗算を通じてゾーンIIのベクトルから生じる。ゾーンVIIIのベクトルは、フーリエ変換をする(Fによる前置乗算は識別ラインの反映を意味する)ことにより、ゾーンIのベクトルから生じる。Ω8によるこれらのベクトルの前置乗算は、ゾーンIIIのベクトルを与え、T8による前置乗算は、ゾーンVIIのベクトルを与え、Ω8による後者のベクトルの前置乗算は、ゾーンIVのベクトルを与える。(一つの時間周波数ゾーンから他の時間周波数ゾーンへ行かせる多くのやり方があることは明らかであり、例えば、ゾーンVIのベクトルのフーリエ変換を採用することはそれらをゾーンIIIへ移動させる)。結論として、Δt、NΔfの可能性がある組合せが、図15の黒いドット(及び白丸)によりアウトラインが引かれたスペード状の領域に限定されることが期待できる。
【0152】
ゼロではない平均時間及び周波数に対する不確定性原理
式19の基準時間tRが、ゼロではないことが可能な場合、そのとき、以下の式が成り立つ。
(B16)
【0153】
同様に、ゼロではない基準周波数
に対して、以下の式が成り立つ。
(B17)
【0154】
及び
とする。
【0155】
CがtR=0及びfR=0に関して依然規定されるとき、CRHCR及びCHCは同様に以下の式になる。
(B18)
【0156】
これは、任意の整数k、nに対して有効であるTkΩn=ω−nkΩnTkという関係を使用して容易に示される。それで、(σ2,v)がCHCの固有値−固有ベクトル対である場合、このとき、以下の式が成り立つ。
(B19)
これは、
が固有値σ2を持つCRHCRの固有ベクトルであることを意味する。時間領域のtR及び周波数領域のfRに対する
の不確定度は、両方の領域のゼロに対するvの不確定度に等しいことが成り立つ。これは、思いがけないことではない。(
による)周波数領域の巡回シフト及び(
による)時間領域の巡回シフトの後でも、
の成分の二乗絶対値(「重み」)のvのものと同一である。
【0157】
時間―周波数変換の導出
時間―周波数変換行列Mの列は、正規直交である。
MHM=I(C1)
【0158】
これは、以下のように証明できる。積が巡回行列の和として以下のように書ける。
(C2)
【0159】
T−1によるhmHの後置乗算は、その成分が右へ巡回的にシフトされることを意味するので、巡回Mmは以下のように書ける。
(C3)
【0160】
巡回は正規行列なので、これらは、エルミート転置行列と置換される。
(C4)
ここで、
はhmの「複素自己相関」である。
【0161】
その成分は以下の通りである。
(C5)
【0162】
N―ベクトルhmの規定(式26及び式27)によるとこれはΩmN/Mh0としても書ける。TkΩn=ω−nkΩnTkを使用して、ゼロ以外の成分は、下記の式に等しいことが成り立つ。
(C6)
ここで、
である。これらの成分がmにわたって加算されるとき、下記の式となる。
(C7)
この式は、{e2πimu/M}がm=0,...,M−1に対して等比数列である事実から成り立つ。hmが単位ベクトルであるとみなされるので、
であることに留意されたい。結果として、式C2の和は、以下の式に書き直せる。
(C8)
これは、式C1の証明を完成する。
【0163】
正規直交性特性(式C1)は、h0が、不確定度Δt及びM’=10・Δtでゼロ以外の成分を持つ、丸められ正規化されたガウス分布により近似される場合(式B4を使用して)、h0の選択に依存しないので(
と仮定する)、依然成り立つ。
【0164】
時間―周波数合成
正規直交性特性の直接的な推論は、所与の時系列ベクトルxが短く後続する振動の加重和として書けるということである(式34)。式28の規定を使用して、以下の式が成り立つ。
(C9)
【0165】
時間―周波数領域の分散の分析
TFTの正規直交性特性の他の直接的な推論は、N―ベクトルxの「エネルギー」(二乗されたノルム)が変換後保存される。
(D1)
【0166】
これは、時間―周波数領域の「分散分析」(ANOVA)を可能にする。上記は、また、xのエネルギーがM周波数依存の成分に区切られることを意味する。
(D2)
【0167】
ランダムなN―ベクトルXが、期待値E{X}=0及び分散var{X}=σ2Iを持つ多変量の正規分布を持つと仮定する。このとき、二次形式
は、N自由度のカイ二乗分布に従う。式D2によると、
は、M周波数依存の成分
に区切られる。二次形式
は、周波数fmに対するXの「TFTサンプルパワースペクトル」と呼ばれる。ホワイトノイズに対して、このRVの期待値は、以下の通りである。
tr{・}は行列のトレースを表わす。式C4を使用すると、tr{MmHMm}=NhmHhm=Nが成り立つので、以下の式が成り立つ。
(D3)
【0168】
しかしながら、上記規定によるサンプルパワースペクトルは、循環仮定のためバイアスに影響される。
の成分は、M個のゼロ以外の要素を持つ線形時間不変のフィルタとの循環畳みこみによりXから導出される(式26−式31)。このフィルタの構成は、
の最初のM−K−1個及び最後のK個の成分が循環仮定に依存するようになされ(これらの整数はゼロより大きいとする)、ここで、KはM/2以下の最大の整数である。このように、循環仮定によるバイアスがないパワー推定値は、以下の式で規定される「選択行列」Sで得られる。
(D4)
【0169】
Sによる
の前置乗算は、循環仮定とは独立している
の成分を選択し、これは、バイアスされていない二次形式
を与える。相補的周波数fM−mも含まれるとき、「全」バイアスがないサンプルパワーは、以下の式で規定される。
(D5)
【0170】
t―f領域の「サンプル」の数は、NS=N−M+1である。
【0171】
サンプルパワー(σ2により割られた)は、等価の自由度(EDOF)を持つ近似のカイ二乗分布に従う。
(D6)
【0172】
及び
に対して、
とすると、ゼロ平均ホワイトノイズXに対して以下の式が成り立つ。
(D7)
これは以下の式を与える。
(D8)
【0173】
ここでは、ηは数学的コンピュータソフトウェアを使用して、式D8によって数値的に計算される。
【0174】
信頼限界の導出
及び
の平均及び分散
流量
のノイズがゼロ平均ホワイトノイズであるとみなされるので、式43を使用して、以下の式が成り立つ。
(E1)
【0175】
の分散はσQ,m2Iである。積
が決定論的であるので、以下の式が成り立つ。
(E2)
【0176】
の平均及び分散は、式46から以下の式が成り立つ。
(E3)
(E4)
【0177】
結果として、
は、bQ,t,mのバイアスされていない推定値である。
に対する平均及び分散は、類似の態様で、以下の式となる。
(E5)
【0178】
信頼限界
及び
の信頼限界は、最小二乗分析の標準的アプローチからわかる。式43及び式44の組み合わせは、以下の式を与える。
(E6)
【0179】
と
との間の直交性のため(図5を参照)、以下の式が成り立つ。
(E7)
【0180】
ランダム変数
は、
の形式を持ち、よって、(1つの自由度で)カイ二乗変数として(正確に)分散される。相補的周波数fM−m=1−m/Mでの
も推定に含まれるとき、結果として生じるカイ二乗変数は2つの自由度を持つ。ノイズが全体のバイアスされていないパワースペクトルにより推定されるとき(式D5)、式E7は、ノイズの全パワーをEDOFη=2+(η−2)を持つ直交成分に分解させる。その後、式E7の右辺の2つの直交成分の比率は、(2,ηー2)程度の自由度でF分布に従う。この分布の上位100(1−α)%のポイントをFαにより示す。このとき、
(E8)
【0181】
TFTサンプルコヒーレンス(式45)の規定を使用し、KQ,t,m2>0とすると、これは以下の式に書ける。
(E9)
【0182】
AQ,t,m2によりこの不等の右辺を書き直すと、
(E10)
【0183】
よって、
に対する100(1−α)%信頼領域は、中心
及び半径
を持つ複素平面内の円により記述される。
に対する信頼領域は、同様の態様で導出される。
(E11)
【0184】
に対する信頼領域に到達するために、
により式10の両辺を乗算し、
を置換すると、以下の式を与える。
(E12)
【0185】
複素変数の実数部分及び虚数部分を使用して、これは以下の式に再編成できる。
(E13)
【0186】
次に、
により式E11の両辺を割る。
により
を置換し(式47)、Uにより
を置換すると、
(E14)
【0187】
に対する信頼領域が、ここでツーステップアプローチで導出される。式E13によると、Uは、100(1−α)%の機会で、中心
及び半径
を持つ円内にある(図16A)。
及び
が相関しないと仮定する。このとき、所与のUの値に対して、zt,mは、100(1−α)%の機会で、中心U及び半径|U|AP,t,mを持つ第2の円内にある(式E14)。|U|に対する2つの極値、図16AのUmin、Umaxの大きさを考える。|zt,m|に対する対応する極値は、図16Bのzmin及びzmaxの大きさである。式E13及び式E14から、
(E15)
【0188】
に対する100(1−α)%信頼領域の控え目な限界が、ここでzmin及びzmaxを含む円により与えられ、その中心が
及び原点を通るライン上にある。結果として、対応する信頼領域は、以下の式により記述される。
(E16)
【0189】
この領域は、中心
及び半径
を持つ図16B及び図16Cの円により区切られる。この円は、
の周りに同心円ではない。所与の
のzt,mに対する可能な値の分布は、
に対して非対称である(図16D)。この非対称性は、図16Cのtanβにより表される。式E16から、以下の式が成り立つ。
(E17)
【0190】
特別なケース1:流れにノイズがない。流れ内のノイズがゼロである、
である場合、そのとき、
及び
である(式43及び式46)。zt,mの対応する推定値を
により示す。
と仮定すると
である。
【0191】
この場合、
なので、
(E18)
【0192】
これは、「通常の最小二乗推定値」である。このとき、KQx,t,m2=1及びAQ,t,m=0である。AQ,t,m=0であるが、信頼限界は、式E16により依然記述される。ここで、半径
を持つ信頼円は、
を中心に持つ。非対称パラメータtanβはゼロに等しい。
【0193】
特別なケース2:圧力のノイズがない。圧力のノイズがゼロである、
である場合、そのとき、
及び
である。zt,mの対応する推定値が
により示されるとき、
(E19)
【0194】
これは、「データ最小二乗法推定値」である。ここで、KPx,t,m2=1及びAP,t,m=0である。式E16から、信頼円は、中心
及び半径
を持つ。非対称パラメータtanβはAQ,t,mに等しい。2つの推定値
及び
は、流量と圧力との間の二乗コヒーレンスを通じて関係がある。
(E20)
【0195】
例:時間及び周波数の関数としての二乗コヒーレンス。図17は、図7と同じ記録のための二乗コヒーレンスを示す。この例では、拡声器入力と流れとの間のコヒーレンスは、入力と圧力との間のコヒーレンスより概して低かった。図から明らかなように、コヒーレンスは、時間及び周波数両方の関数として変化する。最も小さなコヒーレンスは、吸気から呼気への転換点及びその逆の転換点で、最も低い周波数で得られる。飲み込むことは、特に入力と流れとの間のコヒーレンスへの深い影響を持つ。図18は、COPDを持つ患者に対して図8に示される推定されたインピーダンスに対する時間及び周波数の関数としての二乗コヒーレンスを示す。呼吸フェーズ間の転換点のコヒーレンスの低下は、図17の通常の例より非常に多く発音される。図17及び図18両方において、太線は、異なる共振周波数(8〜24Hz)に対する時間の関数として、拡声器入力と流れとの間の二乗コヒーレンスKQx,t,m2を表し、細い線は、拡声器入力と圧力との間の二乗コヒーレンスKPx,t,m2を表す。「流量」は、エアフローの低周波成分を表し、「insp」は吸気を表し、「exp」は呼気を表す。
【0196】
結論として、最適時間―周波数解像度を持つ被験者の呼吸器系の伝達関数ブロックを推定するための方法が提示される。
【0197】
上述のように、呼吸インピーダンスの推定は、気道の妨害を評価するか、又は疾患の発病度を推定するための推定を使用する診断ツールによりなされる。従って、診断ツールは、呼吸インピーダンスに影響を及ぼすべき(薬理学的な又は他の)治療の効果を評価するためにも用いられる。
【0198】
例えば、呼吸インピーダンスの推定は、(i)慢性閉塞性肺疾患(COPD)の呼気の流量限界;(ii)発病度自体が時間の経過により吸入された気道拡張器の効果(例えば交感神経作用薬又は副交感神経作用薬)を評価するために用いられる(これは、調査設定に、更に、患者が標準強制的呼吸操作を実施できない臨床設定に適用できる)COPD又は喘息の気道閉塞の当該発病度;(iii)喘息の気道閉塞又は睡眠の間のCOPD;又は、(iv)睡眠無呼吸―呼吸低下症候群の疑いがある患者の睡眠中の上位の気道閉塞を検出するために使用できる。
【0199】
呼吸インピーダンスの推定は、また又は代わりに、内科的疾患の治療で使用される機械の設定を適応させるために用いられる。例えば、呼吸インピーダンスの推定が、COPDの非侵襲性ベンチレーションの設定の調整において用いられる。呼吸インピーダンスは、連続的に気道インピーダンスの重症度に関する情報を提供するためにベンチレータへの入力として用いられる(信頼値により示される信頼できない値は廃棄される)。この情報は、また、呼気の流量限界がちょうど克服される二相性陽気道圧のレベルを調整するためにも用いられる。他の例として、呼吸インピーダンスの推定は、援助として閉塞性睡眠時無呼吸症候群を持つ患者の持続気道陽圧のレベルをガイドするための補助として用いられる。
【0200】
本発明は、図面及び前述の説明で例示され詳述されてきたが、斯様な図例及び説明は、図示的及び例示的であって、限定的でないとみなされるべきであり、本発明は、開示された実施例に限定されない。
【0201】
開示された実施例のバリエーションは、図面、明細書及び添付の請求の範囲の検討から、請求された本発明を実施する当業者により理解され遂行できる。請求項において、用語「有する」は他の要素又はステップを除外しないし、不定冠詞「a」又は「an」は複数を除外しない。単一のプロセッサ又は他のユニットが、請求項に引用される幾つかの部材の機能を成し遂げてもよい。特定の手段が相互に異なる従属請求項において引用されているという単なる事実は、これらの手段の組合せが効果的に使用できないことを示さない。コンピュータプログラムは、他のハードウェアと共に又は一部として光記憶媒体又はソリッドステート媒体のような適切な媒体に格納/配布されてもよいが、インターネット、他の有線又は無線通信システムを介してのような他の形式で配信されてもよい。請求項内の参照符号は、範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0202】
参照文献
1 DellacらによるExpiratory flow limitation detected by forced oscillation and negative expiratory pressure, European Respiratory Journal Vol.29 No.2, pages363-3742
2 Daroczy B,Hantos Z.によるAn improved forced oscillation estimation of respiratory impedance. Int J Biomed Comput 13:221-235, 1982
3 ForbesGW,AlonsoMA.によるConsistent analogs of the Fourier uncertainty relation. Am J Physics 69:340-347, 2001
4 Forbes GW, Alonso MA, SiegmanAE.によるUncertainty relations and minimal uncertainty states for the discrete Fourier transform and the Fourier series. J Phys A: MathGen 36:7027-7047, 2003
5 GaborD.によるTheory of communications. J Inst Electr Eng93:429-457, 1946
【0203】
表1
シンボル及び省略形
時間及び周波数
fm、fn 離散的周波数m/M(又はn/N)
fR Δfに対する基準周波数
fn 周波数fnを持つ調和振動を記述するN―ベクトル
m TFTに対する周波数指標
M(M’) TFTフィルタの幅(又は切り詰めたガウス分布を使用した有効幅)
n ODFTに対する周波数指標
N 時系列数のイベントの数
NS 確率過程からのt―f領域のサンプルの数
rt、rf 時間円(又は周波数円)の半径
t 離散的時間指標
tR Δtに対する基準時間
A,B,C 時間及び周波数の不確定度に関係する行列
F ODFT行列
M(Mm) TFT行列(又は周波数fmに対する部分的なTFT行列)
T タイムシフトオペレータ;circ{0,...,0,1}
Δt、Δf 時間又は周波数の不確定度
ω 複素指数;exp(2πi/N)
σmin、σmax Cの最小及び最大の単一の値
Ω 主対角線上にωtを持つ対角行列;diag{ω0,...,ωN−1}
変数の名前
p 圧力
q 流量
x 拡声器入力(又は、未知の変数)
z 呼吸インピーダンス
変数のタイプ 例
離散的時間の関数としての決定論的な変数 qt
離散的時間の関数としてのランダム変数 Qt
決定論的なN―ベクトル(小文字) q
ランダムなN―ベクトル(大文字) Q
t―f領域のベクトル(周波数fmが中心)
t―f領域のベクトル(周波数fmが中心で時刻tから開始)
t―f領域の線形回帰により「予測される」決定論的なベクトル
t―f領域の線形回帰に対するランダムな「エラー」
t―f領域のエラーの推定値
リニアフィルタ
hqx xからqまでのフィルタの期分けされたインパルス応答を持つベクトル
Hqx,n 周波数fnに対するxからqまでの伝達関数
Cqx 拡声器入力と流量との間のフィルタを記述する巡回行列
Λxq 主対角線上にHqx,nを持つ対角行列
統計値
AQ,t,m
に対する信頼領域への流量のノイズの寄与を決定するt―f領域の変数
Fα (2、η−2)自由度でのF検定のための上位100(1−α)%の信頼限界
KQx,t,m2 t―f領域の流量と拡声器入力との間の二乗サンプルコヒーレンス
時間及び周波数の関数としてインピーダンスzt,mの二変量の最小推定値
流量のノイズがゼロであるという仮定の下のzt,mの推定値
α タイプIIエラー
β 信頼領域の中心から
の偏差を決定する角度
η 等価自由度
μQ 平均の流量
σQ2 流量のノイズの分散
通常の数学的シンボル
i 虚数(i2=−1)
I NxNの恒等行列
≡ 規定により等しいこと
|xt| 複素数値xtの大きさ
N―ベクトルxの2−ノルム
xH ベクトルxのエルミート転置
x* xの複素共役
{・} シーケンス(通常、列ベクトルとして表される)
diag{・} 主対角線上にシーケンスを持つ対角行列
circ{・} 第1の行にシーケンスを巡回行列
省略形
FOT 強制的振動技術
t―f領域 時間―周波数領域
TFT 時間―周波数変換
ODFT 正規直交離散フーリエ変換
RV ランダム変数
【技術分野】
【0001】
本発明は、強制的圧力振動から呼吸インピーダンスを推定するための方法と装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
人間の呼吸器系の呼吸又は音響インピーダンスは、気道、肺及び胸壁の抵抗、追従及び慣性に関する情報を得るために測定できる。この情報は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息及び気管支炎のような様々な呼吸器疾患の性質及び発病度を診断する際に有効である。
【0003】
ページ363-374のEuropean Respiratory Journal Vol.29 No.2のDellaca等による「Expiratory Flow Limitation Detected by Forced Oscillation and Negative Expiratory Pressure」(参考文献1)に説明されているような強制的振動技術(FOT)では、人が正常に呼吸している間、音響波が呼吸器系に導かれ、反応が呼吸インピーダンスを決定するために測定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
呼吸インピーダンスは、流量及び圧力に関して音響波から生じている振動における周波数依存的な関係を記述する。呼吸インピーダンスが(幾つかの疾患及び他の病状におけるような)吸気から呼気まで変化する所で、呼吸インピーダンスは、精細な時間解像度で推定されなければならない。しかしながら、従来技術では、生理的目的のために充分に短い(すなわち、吸入又は呼気の期間より短い)時間間隔の呼吸インピーダンスを推定するための技術の信頼性に対して、要件がほとんど与えられていなかった。
【0005】
従って、短い時間間隔の呼吸インピーダンスを確実に推定するための方法と装置とのためのニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によると、被験者の気道と連通する患者インターフェイス装置内に圧力波を生成するステップと、流量及び圧力を表わすそれぞれの時系列を作るため被験者の気道と患者インターフェイス装置とを含む空気制御システム内のガスの流量及び圧力を決定するステップと、それぞれの時系列を時間−周波数領域へ変換して変換された時系列を作るステップと、それぞれの変換された時系列から流量及び圧力のパワーを推定するステップと、変換された時系列に基づいて流量及び圧力のそれぞれのクロススペクトルを推定するステップと、推定されたパワー及びクロススペクトルから被験者の呼吸インピーダンスを推定するステップとを有する呼吸インピーダンスを推定する方法が提供される。
【0007】
本発明の第2の態様によると、患者インターフェイス装置と、被験者の気道のガスの圧力、流量又はボリュームの振動を生成するための励振源と、患者インターフェイス装置及び被験者の気道により規定される空気圧回路のガスの流量及び圧力を決定し、流量及び圧力を表しているそれぞれの時系列の値を出力するための手段と、プロセッサとを有し、前記プロセッサは、それぞれの時系列を時間―周波数領域へ変換し、それぞれ変換された時系列から、流量及び圧力のパワーを推定し、それぞれ変換された時系列に基づいて、流量及び圧力のそれぞれのクロススペクトルを推定し、推定されたパワー及びクロススペクトルから被験者の呼吸インピーダンスを推定する、呼吸インピーダンスを推定するための装置が提供される。
【0008】
本発明の第3の態様によると、適切なプロセッサ又はコンピュータによる実行の際、前記プロセッサ又はコンピュータが上述の方法を実施するコンピュータ可読媒体に組み込まれたコンピュータ可読のコードを具備する、コンピュータプログラムが提供される。
【0009】
呼吸インピーダンスの推定は、気道の妨害を評価するか、又は疾患の発病度を推定するために推定を使用する診断ツールによりなされる。従って、診断ツールは、また、呼吸インピーダンスに影響を及ぼすべき治療の(薬理学的又は他の)効果を評価するためにも用いられる。
【0010】
よって、第4の本発明の態様によると、上述されたような呼吸インピーダンスを測定するステップと、測定された呼吸インピーダンスを基礎として生理的状態を診断するステップとを有する生理的状態を診断する方法が提供される。
【0011】
呼吸インピーダンスの推定は、また、又は代わりに、病状の治療に使用される機械、例えば気道閉塞を打ち消すために用いられる非侵襲性のベンチレータの設定を適応させるため、又は、生理的状態に対する治療法(例えばどの特定の薬物又は装置を使用するか、薬物投与量等)を決定する際に用いられる。
【0012】
よって、本発明の第5の態様によると、上述されたように呼吸インピーダンスを測定するステップと、測定された呼吸インピーダンスに基づいて生理的状態の治療を決定し及び/又は処置するステップとを有する、生理的状態の治療方法が提供される。
【0013】
本発明の好ましい実施例が、以下の図面を参照して、単なる例示として、ここで詳細に説明されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明による強制的圧力振動から呼吸インピーダンスを推定するための装置のブロック図である。
【図2】図2は、本発明による呼吸インピーダンスを推定するために用いられる線形モデルの模式図である。
【図3】図3A及び図3Bは、それぞれ離散的時間領域の巡回性推定及び不確定度を例示する。
【図4】図4A及び図4Bは、Δt2+N2Δf2が最小である時系列を例示する。
【図5】図5は、時間―周波数領域の二変量の最小二乗法を例示する。
【図6】図6は、複素平面内の信頼領域を例示する。
【図7】図7は、5つの異なる周波数での強制的圧力振動に対する信頼限界を持つ時間及び周波数の関数として、健常な患者の呼吸インピーダンスを例示する。
【図8】図8は、5つの異なる周波数での強制的圧力振動に対する信頼限界を持つ時間及び周波数の関数として、COPDを持つ患者の呼吸インピーダンスを例示する。
【図9】図9は、本発明による呼吸インピーダンスを推定する方法のステップを図示する流れ図である。
【図10】図10は、本発明による装置により実施される処理ステップをより詳細に図示する流れ図である。
【図11】図11は、時系列のイベントの数Nの関数として、行列の最小及び最大の特異値を示す。
【図12】図12は、N=16に対するCHCの固有ベクトルの重心と時間Δtでの不確定度との間の関係を例示する。
【図13】図13は、N=16に対する周波数Δfでの不確定度と時間Δtでの不確定度との間の関係を例示する。
【図14】図14は、fnに対するνmin,nをプロットしているグラフである。
【図15】図15は、N=16に対するNΔf対Δtのプロットにおける不確定度を例示する。
【図16】図16は、複素平面において推定値Zt,mに対する100(1−α)%信頼限界の推定を例示する。
【図17】図17は、健常な被験者に対する時間及び周波数の関数として二乗コヒーレンスを例示する。
【図18】図18は、COPDを持つ被験者に対する時間及び周波数の関数として二乗コヒーレンスを例示する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上述のように、呼吸器系の音響インピーダンスは、マウスピース又はフェースマスクの強制的圧力振動(強制的振動技術、FOT)から推定されることができる。この「呼吸インピーダンス」は気道、肺及び胸壁の抵抗、追従及び慣性に依存するので、呼吸インピーダンスは、様々な呼吸器疾患の発病度及び性質に対する洞察を提供する。周波数依存的なインピーダンスは、しばしば時間的に変動する。慢性閉塞性肺疾患において、気道抵抗は、呼気の間に通常増大する。睡眠無呼吸又はいびきにおいて、抵抗は、吸気の間に増大する。これは、短い時間間隔(呼吸の期間より短い)におけるインピーダンスの信頼性が高い推定を要する。
【0016】
呼吸インピーダンスは、周波数fの関数として、流量qと圧力pとの間の線形関係を記述する複素数値の伝達関数として規定される。
p(f)=q(f)z(f)(1)
ここで、インピーダンスはz(f)により示される。この式は、z(f)が一定で、時間が無限である場合だけ成り立つ。システムが一時的に安定の場合、z(f)は短い時間間隔で依然推定される。しかしながら、これは、信号が時間及び周波数領域両方において鋭くは特定できないと言う不確定性原理により制限される。加えて、短い時間間隔の使用は、推定を偶然のイベントに益々依存させる。問題は、これが、呼吸サイクルの一部で安定なだけであるz(f)のような伝達関数の推定にどのくらい影響を及ぼすかである。
【0017】
以下では、一時的に安定なプロセスの伝達関数が、離散的時間―周波数領域の線形回帰により推定される。不確定性関係は、離散的時間及び周波数に対して導出され、最適時間―周波数解像度を得るために用いられる。使用されるインピーダンス推定器の統計特性の分析は、呼吸メカニクスの周波数依存的なパラメータを得て、その推定された値及び信頼限界両方が時間的にフォローできる。
【0018】
発明の詳細な説明の後に含まれるテーブル(表1)は、本発明の以下の説明で使用されるシンボル及び略語一覧を提供する。
【0019】
方法
発明の詳細な説明のこのセクションは、本発明による方法及び装置の数学的基礎を説明しておく。本発明のより数学的でない説明は、以下の「説明」セクションにおいて提供される。
【0020】
本発明による装置2の模式図が図1に示される。簡潔には、使用されるFOT装置2は、被験者の気道を含む空気制御システムを作るために被験者の気道に接続される患者インターフェイス装置4から成る。患者インターフェイス装置4は、マスク又はマウスピースのような被験者の気道との気送接続を供給するために適切な任意の装置である。患者インターフェイス装置4は、比較的低い周波数、例えば8Hzから24Hzまでの周波数を持つ圧力波、流量変化又はボリューム変化を生成する励振源6に動作的に結合される。本発明の例示的な実施例では、患者インターフェイス装置4は拡声器である。
【0021】
図示の実施例では、患者は、患者インターフェイス装置4と励振源6との間に位置されるニューモタコヘッド8に近いメッシュ有線の抵抗9を通じて空気を呼吸する。強制的波は、患者の気道及び肺において部分的に反射され、FOT装置2において測定されるエアフロー及び圧力の振動を導く。ニューモタコヘッド8を通るエアフローは、差圧トランスジューサ10を使用して測定され、圧力はマウスピース4の近くの第2の圧力トランスジューサ12を使用して測定される。ADコンバータ12は、流量及び圧力のそれぞれの時系列{qt}{pt}を作り、分析のためプロセッサ又はコンピュータ16に供給され、ここで、整数tは離散的時間指標である。コンピュータ又はプロセッサ16は、ADコンバータ14及びアンプ18を介して拡声器6により生成される音響波の周波数を制御するための信号も供給できる。装置2の特定の実施例の更なる詳細は、「測定装置」と名付けられた以下のセクションで提供される。
【0022】
本発明は、また、他のガス流送出装置が、励振源6に加えて被験者の気道に結合できることを考察する。例えば、圧力サポートシステム又はベンチレータは、例えば、励振源6が被験者の気道を振動させている間、ガスの流れを供給するために患者インターフェイス装置4に結合できる。また、圧力サポートシステム又はベンチレータ内で圧力及び流量を測定することを含む、流量及び圧力測定が、空気制御システムに沿って任意の位置でなされ得ることに留意されるべきである。その後、測定された圧力及び流量は、任意の従来の技術を用いて患者の気道のような空気制御システムのガスの流量及び圧力を決定するために使用できる。
【0023】
本発明は、また、励振源6が独立型装置よりもむしろ圧力サポートシステム又はベンチレータの部品であることも考察する。例えば、圧力サポートシステム又はベンチレータは、患者へ送られるガスの流量/圧力を制御するためのバルブを含む。本発明は、低周波圧力波、流量変化又はボリューム変化をもたらすために斯様なバルブを振動させることを考察する。もちろん、低周波圧力波、流量変化又はボリューム変化を生成できるピストンのような他の任意の装置又はシステムも、励振源6として使用できる。
【0024】
圧力及び/又は流量センサを使用して圧力及び/又は流量を測定するよりはむしろ、本発明は、また、流量又は圧力が、圧力サポートシステム又はベンチレータによって設定又は制御できることも考察する。この場合、設定された圧力又は設定された流量は、差圧トランスジューサ10又は第2の圧力トランスデューサ12の出力としてよりもむしろ現目的のための圧力又は流量として使用される。
【0025】
2つのサンプルの間の間隔(秒)は、サンプルレート(Hz)の逆数である。このセクションでは、時間依存及び周波数依存インピーダンスが、比較的単純な線形代数学を使用してこれらの時系列から導かれる。線形代数学をよく知らない読者は、主要な結果が言葉で要約されている以下の「説明」セクションを参照されたい。
【0026】
単純な線形モデル偶然のイベントを説明するために、二変量の時系列{qt、pt}が二変量の確率プロセス{Qt、Pt}の実現であると仮定する。決定論的な変数は小文字で書かれ、ランダム(確率)変数(RV)は大文字で書かれる。時間が無限に長い(t=...,−1,0,1...)と更に仮定する。ここで図2を参照すると、励振源入力xtは、インパルス反応シーケンス{hqx,l}及び{hpx、l}を持つ線形時間不変のフィルタ(2及び3)を通ってフィルタリングされる。これは、以下の線形モデルにより予測されるように、流量及び圧力を与える。
(2)
【0027】
これらの「真」の値がそれぞれの分散σQ2及びσP2を持つゼロ平均ホワイトノイズの2つの独立源により妨げられると仮定する。ノイズのこれらの源は、「エラー」項Qe,t及びPe,tを与えるために、線形時間不変のフィルタ(1及び4)も通過する。完全なモデルは、このとき、以下のように書かれる。
(3)
ここで、平均値μQ及びμPは定数である。結果として生じるQt及びPtが正常に分配されるので、仮定された二変量のプロセス{Qt、Pt}は、完全に変動しない(静止している)。
【0028】
循環性仮定
説明された静止プロセスが無限に長い一方、静止がN個のイベントの有限シーケンスに対してのみ仮定できている過渡現象を説明することが発明の目的である。これは、最後のイベントが最初のイベントに先行するという点で、時間が循環していると仮定することにより解決できる。結果として生じる時系列は、このとき、時計のような円に沿って定期的にNイベントを配置することにより表される。円から離れずに、同一方向で円を永久に追求できる。結果として生じる無限の時系列は、Nで周期的である。すなわち、任意の整数jに対して、以下の通りである。
xt=xt+jN (4)
【0029】
u=t−l+jNと置き換えると、式2の第1のコンボリューションは、以下のように書きかえられる。
【0030】
仮定された周期的キャラクタxt(式4)に対して、xu−jN=xuである。上記の式の無限和は、「長さNに周期化されたhqx,t−uとして、以下の式のように示されて規定できる。
(5)
結果として、
(6)
【0031】
hqx,t−uoもNにおいて周期的であるので、(インデックスはゼロからN−1の範囲に常にある(これは便利である)ように)t−uが負である場合、インデックスt−uはNの分増大できる。シーケンスが列ベクトルにより表されるとき、式6は以下のように書ける(N=4である場合)。
(7)
【0032】
この式のNxN行列は、巡回行列式(端で循環しながら、前の行が右にシフトするバージョンの行を持つ正方行列)である。第1の行がhqxHにより示されるとき、肩文字Hは、エルミート転置を表わし、巡回行列はcirc{hqxH}とも書かれる。
、
及び
とする。このとき、qp=Cqxxである。同様に、pP=Cpxxなので、式3は以下のようになる。
(8)
【0033】
離散的周波数領域
周波数依存的なインピーダンスを導くために、式8のモデルは、離散的周波数領域へ変換される必要がある。時間―周波数分析へのステップアップとして、これは、ここで短く要約される。所与の時間系列
から離散的周波数領域への変換は、時系列を離散的周波数
(n=0,...,N−1))を持つ一組の調和振動に区切る。斯様な振動は、以下のようなN―ベクトルにより記述される。
(9)
ここで、ω≡exp(2πint/N)及びi2=−1である。オイラーの定理により、
exp(2πint/N)=cos(2πnt/N)+isin(2πnt/N) (10)
よって、ベクトルfnは、実際に、周波数fnを持つ実軸及び虚軸に沿った複合振動を説明する。容易に以下の式が示される。
(11)
【0034】
結果として、二乗ノルム
はNに等しい一方、異なる調和周波数の2つの振動は直交する。
【0035】
xの離散的周波数領域への変換は、以下の式により規定される「正規直交離散的フーリエ変換」(ODFT)行列により実施される。ここで、nt=0,...,N−1である。
(12)
この変換は、N―ベクトルFxを作り、これらの成分は、内積
である。式11から、Fの行(及び列)が正規直交であるので、行列はユニタリであることがわかる。
FFH=FHF=I (13)
ここでIは、NxNの単位行列である。これは、N振動からxの合成を可能にする。
(14)
【0036】
従って、xは、周波数fnを持つNの調和振動の重み付けられた和として書かれる。
【0037】
ベクトルfnは巡回行列の固有ベクトルであるので、以下のように書くことができる。Cqxfn=fnHqx,n (15)
【0038】
複素数Hqx,nは、以下の式により規定されるように、周波数fnに対してxからqまでの伝達関数である。
(16)
【0039】
Hpx、nが同様に規定されるとき、周波数fnに対するインピーダンスは、以下の式である。
(17)
【0040】
固有値が対角行列
に入れられ、列として対応する固有ベクトルをNxN行列FHへ入れられるとき、式15は以下の式になる。
(18)
【0041】
巡回行列は、正規行列である(これらは、これらのエルミート転置行列と代えられる)。従って、式18は、NxN正規行列がN個の正規直交固有ベクトル(この場合、N個の正規直交列ベクトルfn)を持つというスペクトル定理と一致している。
【0042】
離散的時間及び周波数に対する不確定性原理
の成分は、時間領域において鋭く局所的であるが、周波数領域においては不確かである。これとは逆に、フーリエ変換Fxの成分は、周波数領域において鋭く局所的であるが、時間領域においては不確かである。両方の領域で小さな不確定度を持つ信号を得るために、不確定さの尺度が、規定されなければならない。
【0043】
時間が巡回性であると仮定すると、フォーブズ及びアロンゾのアプローチが、最も適当なようである(参照文献3を参照)。ここで図3Aを参照すると、時間領域で、二乗成分|xt|2は、各イベントの重みに対応する図3Aの各質点のサイズを持ち、原点で中央に置かれる、複素平面内の半径rtを持つ円上の規則的な間隔の質点として置かれる。時間は、2つのイベントの間の円弧長により表される。円の周囲は全体の期間N(この具体例ではN=12)であるので、半径は
に等しい。時刻tでの所与のイベントは、複素平面のポイントrtωtに位置される。フォーブズ及びアロンゾ(参照文献3)は、不確定度の幾つかの尺度を提案した。ここで、わずかに異なる尺度が使われ、これは、時間tでの各イベントと基準時間tRでのイベントとの間の二乗距離の加重平均として式19に規定される。
(19)
【0044】
不確定度のこの尺度は、二次形式の比率として容易に表されることができるという利点を持つ。一般性の損失なしに、tR=0(図3Aに示されるように)と仮定できる。このとき、二乗された不確定度Δt2は、以下の式である。
(20)
ここで、対角行列Ω≡diag{1,ω1,...,ωN−1}である。下記の式を規定することも可能である。
(21)
ここで、A≡Ω−Iである。物理的に、Δt2は、基準ポイントR(時間tRに対応する)を通る(円の平面と直角をなす)軸の周りの質点のセットの第2の慣性モーメントである。図3Bに図示されるように、この慣性モーメントは、重心に直接関係する。幾何学的に、Δtは、Rから、重心を通る垂直線が円と交差する2つのポイントのうちの一方のポイントまでの距離に等しい。それで、Δtは、重心からRまでの水平距離により、完全に決定される。重心がRと一致する場合、xの重さは時間tRに完全に集中し、Δtは、ゼロである。重心が円の反対のポイントにある場合、重さはそのポイントに完全に集中し、Δtは最大であり、2rtに等しい。よって、図3Bにおいて、重心Bを通る垂直線は、ポイントCで円と交差する。不確定度Δtは距離
と等しい。
【0045】
周波数領域において、Fxの成分は、周波数fn≡n/Nと関連している。同じ成分が周波数n/N+jに対して得られ、ここで、jは任意の整数である(式9、式10を参照)。従って、Fxの成分は、単位ユニット期間を持って、周波数領域において周期的である。このように、不確定度の匹敵する尺度は、基準周波数fRに関係して、周波数領域で規定できる。Fxの成分の二乗の大きさは、複素平面の円上の質点として、再び配置される。ここで、半径は、rf≡1/(2π)に等しいので、円周はユニティ、1に等しい。fR=0の場合、下記の式である。
(22)
【0046】
対角行列Ωは、「時間シフトオペレータ」T≡circ{0,...,0,1}に関係する(22)。Tによる左からのxの乗算は、巡回的にxの成分を一つ下方へシフトさせる。式18から容易にFT−1=ΩF(「シフト定理」)であることがわかるので、以下の式となる。
【0047】
Fがユニタリであるので、以下の式となる。
とすると、以下の式となる。
(23)
【0048】
ここで、以下の行列式を考える。
【0049】
時間及び周波数の全体の不確定度は、以下の比率の式により表わされる。
(24)
【0050】
この比率(レイリー比率)は、Cの最小二乗特異値から最大二乗特異値までの範囲の値をとることができる。これは、離散的時間及び周波数に対する対応する不確定性原理を、以下の式のように作る。
(25)
【0051】
従って、全体の不確定度Δt2+N2Δf2が少なくともσmin2に等しくなければならないので、Δt及びΔf両方が非常に小さいことは不可能である。全体の不確定度は、xがσmin2に対応するCHCの固有ベクトルである場合、最小である。CHCの固有ベクトルは、離散的マチュー関数として考えられる。CHCの興味深い特性は、Fと代われることであるので、CHCとFとは、同じ固有ベクトルを共有する。vminに対応するFの固有値はユニタリに等しいので、Fvmin=vminである。図4Aに示されるように、これは、xがvminと等しい場合、Δt=NΔfを意味する。図4は、合計Δt2+N2Δf2が最小である時系列を示す。図4Aでは、固有ベクトルは、基準時間tR=0及び基準周波数fR=0(上のグラフ)に対して導出される。これは、フーリエ行列(単位固有値を持つ)の固有ベクトルでもあるので、時系列は離散的周波数領域(下のグラフ)への変換後、不変のままである。これらのグラフにおいて、時間軸及び周波数軸の両方とも、視覚的理由のために巡回的にシフトされる。図4Bは、基準周波数fR=1/4である以外、図4Aに対応する。図4Bでは、黒丸が実数値を表し、白丸が虚数値を表し、十字が絶対値を示す。
【0052】
不確定性原理のより詳細な分析のため下記のセクション「不確定性原理の導出」を参照されたい。
【0053】
離散的時間―周波数領域
ODFTは、N個のイベントの時系列をN個の異なる周波数を持つ一組の振動へ区切られる。時間―周波数分析を実施する簡易なやり方は、短く続くシーケンスのM(M<N)個のイベントに対してODFTを繰り返し計算することである。従って、系列が周波数fm≡m/M(m=0,...,M−1)を持つM個の振動に区切られ、これは離散的「短時間フーリエ変換」になる。各短く続く振動がvminの成分で「窓」をつけられる(ウィンドウ化される)場合、時間及び周波数についての結果的な不確定度は最小である。
【0054】
M個のイベントのシーケンスに対して、斯様なウィンドウ化された振動は、以下の式のようにMベクトルにより記述される。
(26)
【0055】
例が、図4Bに示される。vmin(m)は、周波数領域において実際にvminの巡回的にシフトされたバージョンであることに留意されたい。図4に例示されて、下記のセクション「不確定性原理の導出」で証明されているように(式B19を参照)、これは、(fmが基準周波数として採用される場合)固有ベクトルと同じ時間及び周波数の不確定度を持つ。vmin(m)の成分をvmin,t(m)により示すとする。短く続く振動を記述するNベクトルは、このとき、vmin(m)の中間にゼロを挿入することにより得られる(よって、ベクトルの単一モードの構造が完全なままである)。これは、以下の式を与える。
(27)
ここで、KはM/2以下の最も小さな整数である。この振動は、時間t=0及び周波数fm=m/Mを中央に置く。一般に、以下の式
(28)
の振動は、時間t及び周波数fmを中央に置く。
【0056】
最小二乗法という意味では、xとhm,tとの間の最も適合する線形関係は、hm,tによりスパンされた(複素)一次元の部分空間上へのxの直交射影からわかる。hm,tが単位ベクトル(式27を参照)として規定されることを考慮すると、この射影は、以下の式となる。
(29)
【0057】
所与の周波数fmに対して、NxN行列Mmを以下の式のように規定する。
(30)
【0058】
これは、共振周波数fmを持つ帯域フィルタを行う巡回行列である。Mmによる左からのxの乗算は、波形符号又は「波符号」により示されるNベクトルを与える。
(31)
【0059】
の成分は、内積
である。
【0060】
十分な時間―周波数変換(TFT)は、m=0,...,M−1に対する全ての周波数fmを含む。MNxN行列のMを以下の式のように規定する。
(32)
【0061】
離散的時間―周波数領域(時間―周波数領域)への変換は、(所与のMに固有な)Mによる左からのxの乗算により実施される。これは、MN―ベクトル
を与える。バック変換は、再びMHによる乗算を意味し、
を与える。下記の「時間―周波数変換の導出」というセクションにおいて、Mの列は正規直交であることが示されるので、以下の式となる。
MHM=I(33)
【0062】
MHMx=Ix=xなので、よって、バック変換は元の時系列を回復する。これは、以下の式に従って、xの時間―周波数合成を可能にする。
(34)
【0063】
このように、時系列はMN個の短く続く振動の加重加算として書かれ、各々が時間t及び周波数fmに中心が置かれる(式14を参照)。所与のMに対して、これらの振動は、式25の不確定性原理に従って、最適時間―周波数解像度を与える。下記の「不確定性原理の導出」セクションに示されるように、振動は、M’=10・Δtゼロ以外の要素で丸められたガウス分布により近似できる。
【0064】
励振源への入力
励振源入力xとして、一組の調和振動を使用することが便利である。データを分析するために、このとき、これらの振動の周波数がTFT共振周波数fmと一致するように、TFTのスケールMが選択できる。最初に、周波数fn及び振幅amを持つ単一の正弦波入力を考える。オイラーの定理(式10)により、実数値の調和振動は、複素数値とその複素共役との和である。よって、励振源入力は、下記の式のように書ける。
(35)
ここで、星印は複素共役を示す。式9及び式10から、fn*=fN−nがわかる。NがMの整数倍である場合、周波数fn≡n/Mは、TFT共振周波数fm≡m/Mとマッチできる。その後、fn=fmであるように、mが選択される場合、以下の式となる。
(36)
【0065】
Mが十分に大きく、対応するΔfが、共振周波数fn=fmを持つTFTフィルタにより周波数fN−nで振動を抑制するのに十分小さい場合、後の近似値は有効である。「相補的周波数」fN−n(ここでは、fM−mに等しい)での成分も式36でMM−mをMmに加算することにより含まれる場合、時間―周波数領域の励振源入力の十分な表現が得られる。
【0066】
式8のモデルは、Mにより両方の式を左から乗算することにより、時間―周波数領域に変換される。対象の周波数(例えば、式35により記述された強制的振動の周波数)に注目すると、Mmにより式8の上の部分を乗算することは、以下の式となる。
(37)
mがゼロでない場合、MmμQがゼロであることが容易に示される。よって、
(38)
【0067】
巡回行列全てが代えられる
であることがわかる。fn=fmであるようにn及びmが選ばれる場合、このとき、式36及び式15を用いて、以下の式となる。
(39)
【0068】
fn=fmに対するHqx、nがbQ、mにより示される(対応するHpx、nがbP、mにより示される)とき、式8のモデルは、以下の式に低減される。
(40)
【0069】
fn=fmに対するインピーダンスは、以下の式となる。
zm≡bP、m/bQ、m (41)
【0070】
これらの振動が時間―周波数領域においてよく離隔されるほど、使用されるTFTのΔfが十分に小さいならば、他の振動のセットは、式35の励振源入力に加えられる。
【0071】
時間―周波数領域の分散分析
TFTは、時間―周波数領域の分散の分析を可能にする(「時間―周波数領域の分散分析」というこのセクションを参照)。例えば、流れのノイズの二乗ノルム(式8を参照)は以下の式に区切られる。
(42)
【0072】
のランダム変数は、ノイズQeの「TFTサンプルパワースペクトル」と呼ばれている。転送がノイズ1からQe,t(図2)までのフィルタ1の伝達関数が、fmについてのTFTフィルタの通過帯域で相対的に平坦であると仮定する。このとき、
は、あたかもゼロ平均及び分散σQ、m2Iを持つホワイトノイズから導出されるかのように、ほぼ分散される。結果として、
は、等価自由度ηを持つ近似のカイ二乗分布に従う。(相補的周波数fM−mの成分と同様に)循環仮定から独立している
のそれらの成分だけが含まれているηの導出のため、以下のセクション「時間―周波数領域の分散分析」を参照されたい。
【0073】
時間―周波数領域の二変量の最小二乗法
各時間tで、図2のモデルにより記述されている、しばらくの間変動しないプロセスが始まると、ここで仮定される。当該プロセスは、N個のイベントを含み、循環的である(すなわち、Nで周期的)とみなされる。時間―周波数領域では、モデルは(式40から)以下の式となる。
(43)
ここで、ベクトルは時間tで始まる「短く続く」N個のベクトルである。定数bQ、m及びbP、mは、これらがプロセスが始まる時間に特有であるとみなされるので、同様にインデックスtを得た。従って、モデルへの入力と同様に定数は、(2つのプロセスが時間的に重複する場合であっても)異なる時間tで異なる。
【0074】
bQ、t、m及びbP、t、mの最も適切な推定値は、エラーベクトルの二乗ノルムを最小化することにより、
及び
から導出できる。これは、最小二乗推定値
及び
を生じる。推定された関係は、以下の式である。
(44)
ここで、推定された「予測された」ベクトル
は、推定された「エラー」
に正規直交している(同様に、
は
と正規直交している)。図5では、ベクトルは矢印として示され、全ての変数は時間インデックスt及び周波数インデックスm(周波数fm=m/Mに対応する)を参照している。特に、図5では、励振源入力
は一定の変数である一方で、流量
及び圧力
はランダム変数である。ベクトル
及び
は、
によりスパンされた複素一次元の部分空間(ラインl)への
及び
の射影である。インピーダンス推定値は、
から分かる。エラーベクトル
及び
は
に垂直である。各ベクトルは、長さがノルムに等しい矢印により表される。ベクトル間の角度は、cos2φ及びcos2θが、
とそれぞれ
及び
との間の二乗コヒーレンスに等しいように描かれる。
【0075】
と
との間の線形関係の程度は、以下の式のような「TFTは二乗サンプルコヒーレンス」の表現になる。
(45)
【0076】
ランダム変数
は、xからQまでの「TFTサンプルクロススペクトル」と呼ばれている。幾何学的に、KQx,t,m2はcos2φと等しく、ここで、φは図5の
から
までの角度である。同様に、KPx,t,m2はcos2θと等しい。最小二乗推定値は、標準的やり方で導出される。これは、以下の式を与える。
(46)
【0077】
従って、
は、xからQまでのサンプルクロススペクトルとxのサンプルパワースペクトルとの比率である。
が同様のやり方で導出されるとき、インピーダンスは以下の式により推定される。
(47)
【0078】
「真の」インピーダンスzt、mは、実数部分rt、m(「抵抗」)及び虚数部分xt、m(「リアクタンス」)を持つ。対応する推定値は、以下の式、
の実数部分及び虚数部分である。
(48)
【0079】
図6Aに示されるように、bQ、t、mに対する100(1−α)%信頼領域は、
を中心にした複素平面の円により区切られている。信頼領域は、以下の式により与えられる。
(49)
ここで、
であり、FαはF分布の上の100(1−α)%である(以下のセクション「信頼限界の導出」を参照)。励振源入力xtは、無次元変数であり、
は(図5から
なので)流量のユニットを持つ。循環仮定に依存する値は、ここで放棄される(サンプルの有効数は、NS=N−M+1である)。原点が円内にある場合(このとき、
は100・α%信頼レベルでゼロと著しくは異ならない)、関係は拒絶される。よって、AQ、t、m<1の場合、有意性が得られることが、式49から分かる。
に対する信頼領域は比較可能な円により区切られ、
と
との間の関係は、AP、t、m<1の場合、重要であると考えられる。
【0080】
に対する信頼領域の控え目な推定値は、
及び
が非相関であるという仮定の下、以下の「信頼限界の導出」セクションで導出される。当該領域は、以下の式により記述される。
(50)
【0081】
図6Bを参照すると、限界円は推定値
の周りに同心円ではない。
の実数部分及び虚数部分が、
及び
により表わされる。垂直矢印は、実数部分に対する上位の信頼限界を示し、水平矢印は、インピーダンスの虚数部分に対する下位の信頼限界を示す。
の所与の実現のための「真の」zt,mの分布は、明らかに斜めに対称形である。図6Bでは、歪度は角度βにより決定される。歪度は、図5のβと角度φとの間の関係から明らかなように、完全に流量のノイズに起因する。
(51)
【0082】
流量のノイズがゼロである場合、このとき、φ=0、KQx、t、m2=1及びAQ、t、m2=0であるので、β=0であり、信頼領域が
について対称形である。
【0083】
下記の「信頼限界の導出」セクションは、流量のノイズ又は圧力のノイズがゼロであると仮定される場合に起こることの更なる分析を与える。それぞれの推定値は、このとき、以下の式に等しい。
(52)
【0084】
これは、時間―周波数領域における流量から圧力まで(又はその逆)の線形回帰となる。変数
及び
は、それぞれのサンプルパワー及びクロススペクトルである。式52の推定値と
との主要な違いは、推定されたインピーダンスの大きさにある。大きさは、以下の式を通じて関係付けられる。
(53)
【0085】
ノイズが流量及び圧力に存在する場合、インピーダンスの大きさは、
が
の代わりに使用される場合過小評価される(
が使用される場合過大評価される)。
【0086】
設定
装置2の使用中、流量及び圧力が、800Hzのサンプルレートで記録された。TFTは、Δt=50で実施された(これは、50/800=0.0625sに達する)。これは、M=4πΔt2=31,416のTFTフィルタの幅を必要とする。しかしながら、TFTフィルタの係数は、M’=10・Δt=500で丸められたガウス分布により近似された(以下の「不確定性原理の導出」セクションを参照されたい)。周波数の関連する不確定度は、Δf=1/(4πΔt)=0.0016である(又は、0.0016x800=1.27Hz)。TFTは、8、12、16、20、24Hzの課されたFOT周波数に対応して、fm=0.01、0.015、0.02、0.025、0.03に対して導出された。サンプルパワー及びクロススペクトルは、NS=500に対して(すなわち、500/800=0.625sの時間間隔にわたって)計算された。循環仮定から独立しているデータだけが使われた。これは、η=6.72を持つサンプルスペクトルの近似のカイ二乗分布を導く。インピーダンスに対する信頼限界は、90%の信頼レベル(Fα=4.05)に対して導出された。時間―周波数スペクトルは、最初の時系列と時間的に位置合わせされた。
【0087】
例
図7は、通常の被験者に対する時間及び周波数の関数として、推定されたインピーダンス
の実数部分及び虚数部分を示す。青いラインは実数部分
を表し、赤いラインは虚数部分
を表す。グレイのラインは、図6Bに図示されたように、信頼限界を表す。8Hzの周波数帯域の右側の軸は、インピーダンスの成分のスケールを示す。8Hzで、実数部分
は正であり、呼吸サイクルの間で変動する一方、虚数部分
はほぼゼロに等しく、比較的一定のままである。信頼限界は、時間の経過で、
及び
の変化の統計的有意性について直観的な印象を与える。より高い周波数で、
は、
が徐々により正になっていくと共に、減少する。被験者が要求により吸い込むとき、信号は激しく妨げられ、これは信頼領域の大きい増加が伴われた。関連するコヒーレントなスペクトルは、下記のセクション「信頼限界の導出」に示される。
【0088】
図8は、呼気の間、
の大きな負のスイングを持つCOPDを持つ患者に対するインピーダンスを示す(これは、明らかに、信頼限界からみて吸気値と著しく異なる)。斯様な負のスイングは、以前にCOPDにおいて記述されていて、呼気の間、気道の準最大の虚脱のため、流量制限に関係する。おそらく患者自身の呼吸の高周波成分のため、強制的振動を妨げるので、信頼領域は、吸気から呼気への転換点で最大であり、またこの逆も成立する。干渉性スペクトルのために下記のセクション「信頼限界の導出」を参照されたい。
【0089】
説明
図9は、本発明による方法のステップを要約するフローチャートである。この例示的実施例では、圧力波は、被験者の気道と連通する患者インターフェイス装置4としてマウスピースに接続された拡声器を使用して生成される(ステップ101)。マウスピース4を通るガスの流れ及び圧力の振動が、測定のそれぞれの時系列を与えるために測定される(ステップ103)。定常状態において、呼吸インピーダンスは、静かに呼吸している被験者のマウスピース4の強制的圧力振動から推定できる。呼吸器系の機械的特性が吸気から呼気にしばしば変化するので、当該方法は一時的な「安定性」の状況の下でインピーダンスを推定する。主要な課題は、インピーダンスが周波数依存的な量であるということであり、そして、高い時間的解像度が必然的に低い周波解像度に至るということであり、これによって、推定を歪める。データが離散的時系列(マウスピース4の流量及び圧力のシーケンシャル測定)から成るので、これは短い時系列の最適時間―周波数分析を求める。
【0090】
上記のセクション「方法」にて説明されたように、本発明は、時間が循環している(下記参照)とみなされる場合、短い時系列が変動しないという概念に基づく。説明されたように、時間及び周波数領域の全体の不確定度に下位限界を配置する、不確定性原理の新しいバージョンが、斯様な時系列に対して導出された。ステップ105では、この原理は、各時系列の相違を特定の時間及び周波数と関係している成分に区切るために用いられる(「離散的時間―周波数領域」又は「時間―周波数領域」への変換を通じて)。その後、時間―周波数領域の最小二乗法分析は、最適時間―周波数解像度を持つインピーダンスのバイアスされていない推定値を与える(ステップ107)。最後に、インピーダンスに対する信頼限界が、時間及び周波数の関数として作られる。主要なステップが、以下に要約され説明される。
【0091】
線形モデル
呼吸インピーダンスの推定値は、単純な線形モデルに基づく(式3、図2)。装置2のマウスピース4の振動は、拡声器6により誘発される。流量及び圧力の結果として生じる変化は、患者の呼吸器系(その系の音響効果)の機械的特性に依存する。モデルにおいて、これは、拡声器入力を修正する2つの線形時間不変のフィルタ(図2の2及び3)により表される。流量及び圧力の結果として生じる変動は、流れ及び圧力両方のノイズの2つの独立源により妨げられる。呼吸インピーダンスは、2つの線形フィルタ(2及び3)により決定される。
【0092】
ノイズの可能性がある源は、以下の通りである。1)強制的振動の周波数範囲内の患者の呼吸の成分。これは、おそらく最も重要な課題である(参考文献2を参照)。2)患者による吸い込み、咳嗽、又は他の動き。3)心臓性振動(特に気道抵抗が低いとき)。4)呼吸インピーダンス自体の時間依存性の変動。5)ランダムな測定エラー。
【0093】
呼吸器系の非線形インタラクションが無視できないという指標があったが、線形モデルは、以前、同様の実験(参考文献2を参照)の間、流量と圧力との間の周波数依存的な関係を説明するために用いられた。しかしながら、FOT装置2の流量と圧力との間の関係の線形記述は、圧力差が平均絶対圧と比較して小さいという事実によりサポートされる。当該関係を記述するためにインピーダンスを使用することは、これらの状況の下で期待できる定常波のインタラクションの簡略化である。しかしながら、主要な制限は、呼吸器系が安定と考えられる時間にある。
【0094】
循環仮定
偶然のイベントを説明するために、流量及び圧力が所与の確率分布を持つランダム変数(RV)であると仮定された。よって、流量及び圧力のN個の対の測定値の短いシーケンスは、有限二変量の確率過程(確率プロセス)からのサンプルとして考えられる(N個の経時的に並べられた対のRVのセット)。斯様なプロセスにおいて、流量と圧力との間の周波数依存的な関係は、二変量の確率プロセスが(2次のオーダーで)安定していると仮定される場合、安定なインピーダンスによってのみ記述できる。これは、同時に起こる値と連続した値との間の共分散だけでなく、流量及び圧力の期待値が一定であることを意味する。しかしながら、連続した値の間の共分散は、開始及び終了効果のため、(これらの共分散がゼロに等しくない限り)有限シーケンスに対して一定でありえない。
【0095】
しかしながら、この課題は、最後のイベントが最初のイベントに先行するという意味で、時間が循環すると仮定することにより解決される。このようにして、連続した値間の共分散は一定である一方、シーケンスは依然有限数のRVから成る。これは、シーケンスの離散的及び有限の性質の直接的な結果である。全体の時間(N=12個のイベントの経時的シーケンス)を見ることが唯一可能である時計を考える。あなたが1時(時刻t1)及び2時(時刻t2)を見る場合、t1からt2まで1時間が経過したこともあり得るし、13時間が経過した又は時刻t2でのイベントがt1の11時間前に起こったこともあり得る。他の知識なしで、ある時間と、ある時間に対して12の整数倍数をプラス又はマイナスした時間との間を識別することは可能ではない。この不確定性は、「エイリアシング」に直接関係する(これは、斯様な時系列から連続信号を再構成しようとする場合に起こる)。しかし、測定されたシーケンスの最後の部分の偶然の変化によって、最初の部分に続かない変数両方の変動が生じる。これによってインピーダンスの推定におけるバイアスが生じる。しかしながら、これは、適用された時間―周波数分析(下記を参照)において除外される。
【0096】
不確定性原理
「時間の不確定性(度)」は、一連の成分が時間的にどのくらい拡がるかを表す時系列の特性である。離散的、有限及び巡回の時系列に対して、これは、図3Aに示されるような図を与える。時系列の成分は、時間の円の周りに規則的に配置される質点により表される(各質点は、成分の二乗の絶対値に等しい)。不確定度Δtは、基準ポイント(ここでは、t=0のポイント、式19)に関して定められ、重心に密接に関係する(式B3)。時系列が一つだけゼロ以外の成分(時刻t=0で)を持つ場合、このとき、重心は、t=0に位置され、Δtはゼロである。全ての成分が等しい重さを持つ場合、このとき、重心は中心に位置され、Δtは高い(時間領域の最大の拡がりと関連している)。
【0097】
同様に、「周波数の不確定性(度)」Δfは、周波数領域での拡がりを表す(式22)。離散的フーリエ変換を通じて、N個の成分を持つ各時系列は、所与の振幅及び周波数(離散的周波数領域の表現)を持つN個の調和振動の和として書ける。離散的時系列に対して、これらの周波数も、循環的である。周波数領域の拡がりは、図3Aのものと比較できるような円の周りにN個の質点として二乗振幅を配置することにより視覚化できる(各質点は特定の周波数に対応する)。
【0098】
連続的な時間及び周波数に対して、以下の式の不確定性関係により表される時間及び周波数の不確定度のトレードオフがあることが示された。
(54)
【0099】
これは、(特定の条件の下)連続的で無限の時間に対して成り立つ。Δtが小さい場合、Δfは、積が少なくとも1/4πに等しくなければならないので大きくなければならず、またこの逆も成立する。この不等式は、粒子の位置及び運動量に対するハイゼンベルクの有名な不確定性原理に直接関係する。しかしながら、離散的時系列に対して、積ΔtΔfの下の限界は、ゼロである(下記の「不確定性原理の導出」を参照)。しかし、Δt及びΔfの連合値の制限がある。上記の「方法」セクション(式25)において、離散的で、有限及び循環の時系列に対して、以下の式が示される。
(55)
ここで、σminはNの関数である。よってΔt及びΔf両方が非常に小さくなることができない。和Δt2+N2Δf2は、離散的フーリエ変換が最初の時系列(図4A)に正確に等しい時系列に対して最小である。Nが大きくなるにつれて、時間及び周波数の最小の連合の不確定度を持つこの時系列は、時間のガウス関数に近づく。この時系列は、量子力学における2つの引きつけられている粒子の最小の不確定性状態(いわゆる「量子調和発振器」)に類似している。フォーブズ等(参照文献4を参照)は、斯様な発振器に対する波動式から、同様の時系列を導出した。しかしながら、今の場合、この最小の不確定性状態は、離散的及び有限時系列に対するΔt及びΔfの定義から簡単に導出される。下記の「不確定性原理の導出」において、式55の不確定性原理が大きなNに対するガボールの不確定性原理と、どのくらい関係するかが示される(図14を参照)。
【0100】
離散的時間―周波数領域
提示された時間―周波数変換(TFT)は、離散的及び有限時系列を、M<NであるM個の成分の短く続く振動のセットへ区切る(時間―周波数領域への変換)。各振動は、式55の原理に従う両方の領域の最小の不確定度を持って、特定の時間及び周波数の周りに集まる。TFTは、ウィンドウ化された「短期フーリエ変換」又は「実行しているフーリエ変換」となる。結果が第1の振動が始まる時間から独立しているように、短く続く振動は、時間的に互いに最大限重なり合う。時系列の始まりの前に始まり、時系列の終わりの後に終わる振動だけが、循環仮定に依存している(これらは、バイアスを回避するために、分析において除外される)。以下の「時間―周波数変換の導出」セクションにおいて、変換が「正規直交である」(式33)ことが示され、これは、離散的時間―周波数領域への変換後時系列の全ての情報が保存されることを意味する。何も得られていないし、何も失われていない。逆変換は、元の時系列を回復する。
【0101】
正確には、離散的時間―周波数領域と呼ぶことはできず、しかし、選ばれた値Mに対する時間―周波数領域だけについてである。この整数は各短期振動の継続時間を決定するが、これらの振動が集まる異なる周波数の数に等しい(TFT共振周波数)。以下の「不確定性原理の導出」で示されるように、式55の不確定性原理による最適のΔt及びΔfはMに依存する(式B8においてNをMにより置換する、図11も参照)。もっともなことだが、Mが大きいと、対応する最適なΔtが大きくなり、対応するΔfが小さくなる。現在の分析では、拡声器により誘発される異なる振動を識別可能であるのにΔfが十分小さいように、Mは選択される。
【0102】
拡声器への入力
例示的な実施例では、我々は拡声器6への入力として5つの調和振動のセットを使用した(それぞれ8、12、16、20及び24Hzの周波数)。分析のために、Mの値(実際の有効値、式B6参照)は、不確定度が時間ユニットでΔt=0.0625s及びΔf=1.27Hzで表されるように、選択された。TFT係数は、これら5つの周波数に対してのみ計算され、これは5つの共振周波数を持つ帯域通過フィルタリングになる。1つの従来技術のアプローチは、拡声器入力のために単一の周波数を使用する。これは、時間―周波数分析のより少ない要件をもたらす(これらは、矩形の窓を持つ帯域通過フィルタを使用し、本発明のものより所与のΔtに対してより大きいΔfを持つ)。単一の周波数に対して、周波数解像度は、患者の呼吸のより高い高調波を除去するために依然有効であるが、あまり重要でない。他方では、インピーダンスの周波数依存は、呼吸メカニクス上に付加的情報を供給できる。代わりに、広帯域のノイズが適用でき、これは、検討された周波数で比較的小さなパワーを持って、入力信号のパワーが全ての周波数上に徐々に分散されるという不利な点を持つ(拡声器の同じ全体出力で、より低いSN比)。更に他のアプローチでは、調和周波数での振動の間の相互作用を防止するために、換気された患者に非調和シヌソイドでできたベンチレータ波形が適用された。しかしながら、斯様なアプローチは、自由に呼吸する被験者に適用できない。調和周波数での呼吸器系の幾つかの干渉は、これは広帯域の刺激の後、系の周波数反応で観察されなかったが、実際に本発明で生じてもよい。
【0103】
時間―周波数領域の分散分析
TFTの正規直交特性は、確率過程の分散を時間―周波数依存の成分に区切ることを可能にし、これは時間―周波数パワースペクトルを与える(下記の「時間―周波数領域の分散の分析」を参照)。TFTサンプルパワーは、総サンプル分散に対して所与の時間及び周波数についての短く続く振動の寄与を表す。よって、TFTパワースペクトルの分析は、時間―周波数領域の分散の分析になる(式42)。モデル(式43)において、一緒に二変量の巡回静止確率過程を形成する、流量及び圧力のノイズの独立源があると仮定される。循環仮定に依存する値が放棄されるとき、時間―周波数領域の多くのNS=500の連続した値が、このプロセスからのサンプルとしてみなされる(800Hzのサンプルレートで0.625sのエピソード)。各時点(1秒につき800回)で、このタイプの新規な確率過程が以前の分散と必ずしも等しいわけではない分散で開始すると仮定された。よって、測定は500の値の最大に重なり合うエピソードに再分割され、それぞれは異なる静止確率過程からのサンプルとしてみなされた。ノイズの源は「白色(ホワイト)である」とみなされなかったが、パワーはTFTフィルタの各周波数バンドで一定であると仮定された。このとき、500の値の各エピソードの間の平均パワーは、等価の自由度が導出された近似のカイ二乗分布に従う。
【0104】
時間―周波数領域の二変量の最小二乗法
NS=500の連続した値の各エピソードに対して、拡声器入力と流量(bQ、t、m)との間の線形関係及び入力と圧力(bP、t、m)との間の関係の係数は、時間―周波数領域の単純な線形回帰により推定された(式44、図5)。これは、時刻t及び周波数fmに関連したバイアスがされていない推定値に結果としてなる(それぞれ、
及び
式46を参照)。各推定値は、時間―周波数領域のNS値上の時間平均化されたパワー及びクロススペクトルに基づく。その後、インピーダンスは、比率
により推定された。
【0105】
Nの選択は、系が静止しているとみなされる時間に依存する。インピーダンスが各吸気及び呼気の中でほぼ安定であると仮定すると、呼吸のために、〜0.5sのエピソードがもっともらしいようである。示された例において、これは、よく機能している(図7及び図8)。しかしながら、ほとんどの従来技術において、スペクトルは、より長いエピソード、通常10sより長いエピソードにわたって平均化されている。幾つかの平均化されたスペクトル値は、16sの全体のエピソードにわたって、〜0.65sの重なっていないセグメントから導出された。しかしながら、重なっていないセグメントの使用は、ここで使用される最大に重なり合うセグメント(すなわち、TFTで使用されるM値のセグメント)と比較して、同じ長さのエピソードに対して非常に少ない自由度を与える。大きな課題は、16sのエピソードの使用が、通常COPDのような疾患においてより発音される吸気と呼気との間のあり得る生理的違いを平均化するということである。その場合、16sにわたる流量と圧力との間の低い干渉性は、ノイズの反映だけでなく、(疾患の一部である)インピーダンスの呼吸内可変性の反映でもある。想定された静止の期間は、あまり短く選択されるべきではない。図8の例では、信頼区間は吸気からの呼気への転換点で比較的広く、逆も成り立つ。これは、患者の自身の呼吸の高周波成分に起因する。これらの変化は0.5sより明らかに短く、その結果、これらは推定のノイズとして現れる。従って、想定された静止の期間は、これらの変化をノイズとして「解釈する」のに十分長くなければならない。
【0106】
インピーダンス推定値
が2つの正常に分散されたRV(
及び
)の比率として導出されるので、これは、期待値を持たないコーシー分布に従う。それで、厳密に言うと、
は、期待値と本当の値との間の差という意味において、バイアスを持たない。まだ、
及び
がバイアスされていない正常に分散されたRVであるので、
は、近似により期待値zt、m=bP,t,m/bQ,t,mで通常分散される。Daroczy及びHantos(参照文献2)は、拡声器入力から流量及び圧力それぞれまでの回帰係数の比率としてインピーダンス推定値を導出する類似のアプローチに従っている。患者及び装置の機械的特性の単純なモデルに基づいて、彼らは、ノイズが流量又は圧力の何れかだけで生じると仮定される場合、系統的誤差が導入されると主張した。斯様なバイアスに対する実験証拠は見つかった。しかしながら、他者は、拡声器が圧力波及び主要なノイズを生成し、(圧力のノイズがゼロである一方)患者自身の呼吸の高周波成分が、純粋な流量源であると仮定した。TFTが用いられた場合、推定値は式52で
であるだろう。他方では、他の文献は、式52の
と類似した推定値を使用した。
及び
は、圧力又は流量のノイズがゼロであるという仮定の下、最小二乗推定値であるので、これは、現実と一致していない場合バイアスを導き、このことは、数人の著者によりすでに指摘されていた(参照文献2を参照)。流量と圧力との間の干渉性が高くて、さもなければ推定値を放棄するよう勧められる場合、このタイプのエラーは最小であると議論された。これは、干渉性が統一の傾向がある場合、
及び
両方が
(よって、本当のzt,m)に近づくことが分かる式53に従っている。式50及び51も、流量のノイズが、インピーダンスに対する信頼領域に影響を及ぼすことを示す(特に、歪度パラメータβ、図6Bを参照)。1つの以前の文献では、帯域通過フィルタリングされた圧力は、時間の関数(上記参照)として、インピーダンスを得るために、流れにより割られた。結果として生じるインピーダンスは、流量及び圧力のサンプル分散の等価な寄与を持つ「全体の最小二乗」推定値に、数値的に等しい。これらの値が、しばしば、(入力から流量までの干渉性が入力から圧力までの干渉性と等しい場合)二変量の最小二乗法で得られたものと同じ範囲にあることが期待できる。しかしながら、この「推定値」は、ランダム誤差に非常に影響されやすい平均値から導出されない。
【0107】
よってこれまで、推定されたインピーダンス上の信頼限界は、相対的に時間が長い間隔でのみ導出されてきた。本発明の実施例の時間―周波数に依存する信頼限界は、短く続くシーケンスが静止確率過程からのサンプルであるという仮説の有効性の継続的印象を提供する。これらは時間の経過でインピーダンスの変化の重要性を試験し、(図7の吸い込む間のような)信頼できない推定を自動的に拒絶するための根拠を提供することを可能にし、これはリアルタイムに監視する際の実際的な利点である。
【0108】
図10は、更に詳細に本発明による装置2(及び特にコンピュータ16により実施される処理ステップ)により実施される方法を例示するフローチャートである。図9のように、ステップ121で、圧力波は被験者により用いられているマウスピース4に接続される拡声器6を使用して生成され、マウスピース4を通る空気の流量及び圧力の振動が測定されて、測定のそれぞれの時系列を与えるためにデジタル化される(ステップ123)。このように、流量及び圧力は、離散的時間t、qt及びptの関数として与えられる。
【0109】
その後、ステップ125で、時系列は、離散的時間t及び異なる周波数fm=m/Mの関数として、流量
及び圧力
を与えるために離散的時間―周波数領域へ各々変換される。ここで、mは周波数指標であり、Mは時間―周波数フィルタの有効幅である。周波数は、課されたFOT周波数の周波数に合うように、選択される。
【0110】
ステップ125は、流量時系列qtに対する以下の式を評価するステップを有する。
(56)
ここで、i2=−1であり、加重因子wlは時間のガウス関数
により近似され、Δtは時間における選ばれた不確定度である。フィルタは、K1=5・Δtで丸められる。加重因子wlがガウス関数により近似されるとここで説明される一方、三角窓、区分的線形近似又は多項式関数のような他の窓又は加重因子が本発明により考察されることも理解されるべきである。
【0111】
時間及び周波数の関数として圧力
は、以下の式
(56a)
から同様に導出される。
【0112】
その後、ステップ127において、パワー及びクロススペクトルが時間及び周波数の関数として導出される。流量のパワーは、以下の式により与えられる。
(57)
ここで、NSは時間―周波数領域のサンプルの数であり、NSが奇数の場合K2=1/2(NS−1)であり、||は絶対値を表わす。
【0113】
PP,t,mにより表わされる圧力のパワーは、以下の式から同様に導出される。
(57a)
【0114】
時間―周波数領域の拡声器入力
から流量
までのクロススペクトルは、以下の式により与えられる。
(58)
ここで、*は複素共役を示す。
【0115】
拡声器入力から圧力CxP,t,mまでのクロススペクトルは、同様に
及び
から以下の式により導出される。
(58a)
【0116】
ステップ129では、パワー及びクロススペクトルは、拡声器入力から流量及び圧力それぞれへの伝達関数を決定するために用いられる。
【0117】
特に、拡声器入力から流量への伝達関数は、クロススペクトルとパワーとの比により以下の式により与えられる。
(59)
拡声器入力から圧力への伝達関数BxP,t,mは同様に以下の式により導出される。
(59a)
【0118】
よって、ステップ131で、呼吸器系のインピーダンスは、実数成分RrSt,m及び虚数成分XrSt,mを持つ伝達関数ブロックの比率から決定できる。
(60)
【0119】
更にまた、呼吸インピーダンス上の信頼限界は、以下の通りに導出できる(ステップ133)。
【0120】
パワー及びクロススペクトルの自由度ηの等価数は、以下の式により与えられる。
(61)
ここでPはNxN行列であり、Hはエルミート転置行列を表わし、tr{}は行列のトレースを表す。行列Pは、以下の式のように規定される。
P=S(Mm+MM−m)/NS (62)
ここで、Sは主対角線上にNS個の1(及び残りはゼロ)を持つ対角行列Sである。すなわち、
S=diag{0,...,0,1,...,1,0,...,0} (63)
【0121】
(シフトされる)時間―周波数変換行列Mmは巡回行列であり、第1の行のエントリは、l=−K3,...,K3及びK3=1/2(N−1)に対してwle2πiml/Mであり、ここで、Nは奇数である。Fαは、自由度2、η−2でのF分布の上位100(1−α)%ポイントとしてラベル付けられる。
【0122】
と
との間の二乗コヒーレンスは、以下の式により与えられる。
(64)
と
との間の二乗コヒーレンスKxP,t,m2は同様に以下の式から導出される。
(64a)
【0123】
流量に関係する変数Aq,t,m2は、以下の式として規定される。
(65)
Ap,t,m2で示される圧力に関係する類似の変数は、同様に以下の式で導出される。
(65a)
【0124】
従って、呼吸インピーダンスの実数部分及び虚数部分に対する100(1−α)%信頼は、それぞれ、Rrs・c1±c2及びXrs・c1±c2により与えられ、c1=1+Aq,t,m・c3、c2=|Zrst,m|・c3、及び
である。
【0125】
所与の時間及び周波数に対する呼吸インピーダンスの推定値は、Aq,t,m≧第1の閾値、又はAp,t,m≧第2の閾値の何れかである場合、重要でないとして拒絶される。ある具体例では、第1の閾値及び第2の閾値は1に設定されるので、所与の時間及び周波数に対する呼吸インピーダンスの推定値は、Aq,t,m≧1、又はAp,t,m≧1の何れかである場合、重要でないとして拒絶される。
【0126】
最初と最後の効果を取扱うために、アルゴリズムは、幾つかの巡回データバッファを含む。
【0127】
測定装置
測定エアフローは、ニューモタコヘッド8及び内蔵型圧力トランスジューサ10(例えばJaeger Masterscreen pneumotach type BF/IEC601-1, Hoechberg, Germany)で測定できる。マウスピース4での圧力は、差圧トランスジューサ12(例えばHans Rudolph Pneumotach amplifier 1 series 1110, Shawnee, KS)で周囲空気を基準にして測定できる。圧力振動は、アンプ18(例えばHarman Kardon HK970 amplifier, Washington DC)により増幅されるAD変換カード14(例えばNational Instruments PCI-6221, Dallas,TX)を通じたパーソナルコンピュータ16(例えばHewlett Packard Compac dc 7600, PaloAlto, CA)からのアナログ出力信号により制御される拡声器6(例えばJaeger Masterscreen IOS, Hoechberg, Germany)によりFOT装置2内で生成できる。被験者は、ニューモタコヘッド8に接続されたメッシュワイヤ抵抗9を通じて呼吸できる。アナログ入力信号は、800Hzのサンプルレートで同じAD変換カード14を通じてデジタルシーケンスに変換でき、パーソナルコンピュータ16に保存できる。出力信号の生成及びデータの分析は、適切なコンピュータソフトウェアを実行しているコンピュータ又はプロセッサ16により実施できる。
【0128】
測定は、多くの呼吸サイクル、例えば90秒の静かな呼吸をカバーする期間の間で、装置2を使用してなされる。
【0129】
不確定性原理の導出
時間及び周波数の不確定度(性)の幾何学的な解釈
式20の規定によると、不確定度Δtは、時系列x≡{xt}の「重心」に直接関する。時系列のイベントは、値|xt|2を持つ質点として表わされ、原点を中心に、複素平面内の半径rtを持つ円の周辺部に定間隔に配置される。各イベントは、複素平面内のポイントrtωtで起こり、ここで、
及び
である。加重平均値
は、以下の式のように規定できる。
(B1)
【0130】
重心は
に位置される。行列式では、以下の式となる。
(B2)
ここで、Ω≡diag{1,ω,...,ωNー1}である。Ωがユニタリ行列であるという事実を使用して、二乗不確定度Δt2は、このとき、以下のように低減できる。
(B3)
【0131】
これは、図12の基準点Rを通る軸(円の平面と直角をなす)についての第2の慣性モーメントに対する「平行軸定理」に従う。図12は、時間の不確定度ΔtとN=16に対するCHCの固有ベクトルの重心との間の関係を例示する。固有ベクトルは、原点を中心として、半径rtを持つ複素平面内の時間円に沿ってマップされる。各固有ベクトルの重心は、黒いドットにより表される。Cの対応する特異値は(基準点Rに近い)右側で重心に対して最小であり、図の左へ行くと徐々に増大する。各固有ベクトルに対する不確定度Δtは、Rから重心を通る垂直線と円との交差点の1つまでの傾斜距離である。
【0132】
図13の表現では、式11から
であることが分かり、ここで、
は図12のAからRまでの距離である。ピタゴラスの定理を使用して、
から、
であることが分かる。
【0133】
周波数領域において、不確定度Δfは同様のやり方で幾何学的に解釈できる。
【0134】
行列Cの特異値
式25の不確定性原理は、Cの二乗最小特異値及び二乗最大特異値であるσmin2及びσmax2により決定される。特異値σは、
det(CHC−σ2I)=0(B4)
から導出できる。ここで、det()は行列の決定要素を表わす。N=2に対して、σmin2=2(2−√2)/π2及びσmax2=2(2+√2)/π2であることが容易に分かる。より高いNに対して、Cの特異値(CHCの固有値)を導出するための様々な戦略が開発されてきた。図11は、Nの関数として、σmin及びσmaxを示す。より大きなN(例えば、N>15)に対して、σminは
に近づき、σmaxはN√2/πに近づくことが分かる。時間円の半径に関して、このことは、
及び
を意味する。
【0135】
vを特異値σに対応するCHCの単位固有ベクトルとする。正規方程式(CHC−σ2I)v=0は、以下のように書ける。
(B5)
【0136】
第1の項は、実軸に沿った基準点Rからのvの成分の出発に依存する(式B3を参照)。第2の項は、(離散的及び巡回の時間に対する)vの成分の2次の導関数とみることができる。式B5は、量子調和振動に対するシュレディンガー方程式に相当する。解は、離散的正規直交マシュー(Mathieu)関数と考えられる。σminに対応する固有ベクトルvminは、時間の単一モードの関数である(図4Aのような)。大きなNに対して、vminはベクトルv’minにより近似でき、その成分ν’min,tは以下の式のような時間のガウス関数である。
(B6)
ここで、Nは、t≧(1/2)Nの場合、tから減算されなければならない。t>5・Δtの場合、成分ν’min,tはゼロに近いので、ガウス関数は、最大値付近の10・Δt個の最も大きい値だけを使用して、残りをゼロに設定することにより丸められる。結果として近似された固有ベクトルv’及び差ベクトルd≡v−v’をコールして、ノルム
は、近似値に作られる誤差の尺度として採ることができる。適切な数学的ソフトウェアを使用して、N>75の場合、相対的な誤差
が0.005未満であることが分かる。
【0137】
CHCがFと代わるので、これらの行列は、同じ固有ベクトルを共有する。F4=Iであるので、Fの固有値は、1、−1、i及び−iである。結果として、各ユニット固有ベクトルvに対して、時間の不確定度は、周波数の不確定度に直接関係する。
(B7)
【0138】
これは、各固有ベクトルvに対して、全体の不確定度が時間及び周波数にわたって均一に分散されることを意味する。
(B8)
よって、各固有ベクトルvに対して、Δt=NΔf=σ/√2である。式B6によるvminのガウス近似は、以下のように書き直せる。
従って、全体の不確定度σmin2は、このガウス関数の分散に等しい。式B8は、また、N>15に対して、最小及び最大の不確定度に対応するΔtの値がそれぞれ、
及び
であることも意味する。後者は、2rtが時間円内の最大可能なΔtであるので、直観的に合理的である(図13を参照)。図13は、N=16に対する時間の不確定度Δtと周波数の不確定度Δfとの間の関係を例示する。全ての可能性があるN―ベクトルxに対するアクセス可能な領域は、半径σmin及びσmax(Cの最小及び最大特異値)を持つ2つの円により囲まれている。図13において、rtは時間円の半径であり、黒点はCHCの固有ベクトルに属し、vmin及びvmaxはσmin及びσmaxに対応する固有ベクトルであり、e0及びe8はt=0及びt=8に対応する正準ベクトルであり、f0及びf8は周波数fn=0及びfn=8/16=1/2を持つ調和振動である。
【0139】
上述されたように、図12は、N=16に対する時間円の全ての固有ベクトルvに対する重心を示す。CHCは正規行列であるので、スペクトル定理に従ってN個の直交固有ベクトルを持つ。式B3からわかるように、対応するΔtは、Rから複素平面の重心までの水平距離に依存する。Δtは、図12から、Rから重心を通る垂直線と円との交点までの弦の長さとして、読み取れる。Rに最も近い重心は、σminと一致する。更に離れたところにある重心は、σ(及び
)の増大する値に対応する。比較的大きなNに対して、vminの重心とRとの間の距離が式B3に従って1/4に近づき、そのΔt,minを見つけることは
に近づく。同じ固有値σ2=N2/π2を持つ2つの直交固有ベクトルがあるという意味で、CHCの多数の固有値がある。Nが4により割り切れる場合のみ、斯様な多数の固有値が発生するだろう。これら2つの直交固有ベクトルの重心は両方とも虚数軸上に位置する。これらは、同じΔtを持ち、
に等しい。対応するΔfは
に等しい。これらの2つの固有ベクトルは、時間及び周波数領域において最大限拡がった(重心が時間及び周波数円両方の中心に位置する場合、得られるだろう値と同一である)。σのより高い値に対応する固有ベクトルは、(Rに対する)より大きな「不確定度」と関係するが、時間的により小さな拡がりを持つ。最大の総不確定度σmaxが固有ベクトルvmaxに対して到達され、Δtが2rtにほぼ等しくなるまで、ベクトルの重みは時間及び周波数両方の円の反対側に実際にますます集中される。図12の明らかな対称性に留意されたい(重心は、虚数軸に反映される)。
【0140】
図13はΔtの関数としてNΔfを示す。式25の不確定性原理のため、アクセス可能な領域は、半径σmin及びσmaxで原点の周りに中心がある2つの円により境界づけられる。これは、これらの円の間の全ての値が可能であるというわけではないが、円の外側の全ての値が不可能であることを意味する。CHCの固有ベクトルに帰属する座標は、全て同一ライン上に位置する(式B7のため)。幾つかの極端な場合も示される。1つは、正規ベクトル
である。この「重み」
は、t=0に完全に集結されているので、Δtはゼロである。周波数領域への変換は
(B9)
を与える。ここで、fnは式9として規定され、符号「*」は複素共役を表わし、1は1だけを含むNベクトルである。よって、e0の重みは周波数領域の全ての周波数上に均一に分散され、
又は
である。他の極端な場合は、e8である。(正規ベクトルetを{0,...0,1,0,...,0}として規定し、ここで、1はゼロから始めてt番目の位置に表わされる。)e8の重みは、複素平面内のポイント(−rt,0)に完全に集中されているのでΔtは最大であり、2rtに等しい。周波数領域において、
(B10)
【0141】
列ベクトルf8*は周波数fn=8/16=1/2を持つ調和振動を記述する。その二乗成分も全ての周波数上に均一に分散されるので、
である。時間領域から始めると、他の極端な場合は、その重みが時間領域内に均等に分散され、fn=0で周波数領域において鋭く集中する(
及びΔf=0)振動f0と、その重みが時間領域内に均等に分散され、fn=1/2で周波数領域において鋭く集中する(
及びNΔf=2rt)f8とである。Δt及びNΔfに対する可能性がある値が範囲[0,2rt]に限定されるので、全ての可能性がある組合せ(Δt,NΔf)がvmin,e0,f8,vmax,e8及びf0に対する座標により囲まれる図13の領域に限定されることが期待できる。これらの極端なベクトルは、通常の規則の実例でもある:(Fによる前置乗算を通じて)時系列ベクトルxのフーリエ変換をすることは、図13のプロット線の(Δt,NΔf)座標を交換する。別の表現では:x及びFxに対する座標が同一のラインに反映される。これは、式21及び式23の規定を使用して、容易に検証される。
【0142】
ガボールの不確定性原理との比較
1946年のガボールにより説明された不確定性原理(下記の参照文献5を参照)は、連続時間及び周波数に対する積ΔtΔfに対する下位限界を決定する。
(B11)
【0143】
この不等式は、式25による離散的時間と周波数に対する不確定性原理にどのように関係するだろうか。式でB11では、時間が無限のライン(又は、無限の半径を持つ円)上にマップされているが、Δt2は、また、t=0であるポイントに対して垂直な軸の周りの第2の慣性モーメントと規定される。式B11の導出において、平均時間がゼロである(重心がt=0に位置される)と仮定される。同じことは、周波数領域の拡がりに対しても満たされる(周波数が離散的でも周期的でもなく、連続的で無限であるという事実に関係なく)。
【0144】
式B11と式25との不等式の間の主要な違いは、ガボールの不確定性原理によると、ΔtΔfの下位限界tがΔtの任意のゼロでない値を持つ(式B6と同じ形式の)tのガウス関数に対して達成される(参照文献5を参照)という事実にある。これは、一組の線形の独立(無限の)ベクトルである。しかしながら、式25による総不確定度Δt2+NΔf2の下位限界は、一つのΔtの値(
に等しい)に対応するCHCのたった一つの固有空間(vminにわたる一次元複素部分空間)に対して達成される。他方では、この固有空間のベクトルは、ガボールの不確定性原理の下位限界を達成する(N→∞の限界状況において)。CHCの各固有ベクトルに対して、式B8から以下の式が成り立つ。
(B12)
【0145】
vmin(又は対応する固有空間の他の任意のベクトル)に対して、σは、Nが大きくなるにつれて、
に近づく(図11)。このとき数の近似は、N→∞だと、以下の式を示す。
(B13)
【0146】
しかしながら、有限のNに対して、1/(4π)はΔtΔfに対する絶対の下位限界ではない。e0及びf0に対して積はゼロであり、小さな乱数の追加は、わずかに異なるベクトルに対してゼロに近いことを示す。
【0147】
(Mイベントからなる、1<M≦N)より短い時系列に対して得られたvminベクトルから導出されるN個のベクトルを考える場合、2つの不確定性原理の関係はより明らかになる。vminが8x8行列CHCから導出される図14の例を参照されたい。Fvminの成分は、周波数fn(黒いドット)の関数として示される。これらの周波数は、1/8の倍数である。(ベクトルの単一モードの構造が円形の時間ベース上に完全なままであるように)8ベクトルvminの2つの最も小さな成分間に8個のゼロのブロックを挿入し、これは結果的に16−ベクトルとなる。
(B14)
【0148】
これは、Δtの僅かな増大(0.7583から0.7900へ)とほとんど重要でないΔfの増大(0.0948から0.0949へ)を与える。図14の白丸は、8個のゼロのブロックが時間領域の固有ベクトルの2つの最も小さな値の間に挿入されるとき周波数領域の補間された値を表し、実線は、時間領域の加えられたゼロの数が無限に向かうにつれて補間された値を表す。結果として生じる16−ベクトルは、1/16の倍数である周波数(白丸)で、周波数領域の補間を導く。これは、(時間領域の「ゼロ詰め」を通じた)周波数領域の良く知られた補間の形式である。
【0149】
このやり方で、所与のNに対して、N−1の多くのベクトルは、MxM行列CHCから得られるより小さなM次元vminベクトルにゼロを加えることにより導出できる。自明の例は、M=1に対して「1―ベクトル」vmin=1にゼロを加えることにより導出されるe0である。図15は、N=16に対するNΔf対Δtのプロット線の対応する不確定度を示す。これらの値は、Δt=0、
及び
のラインにより区切られるゾーンIに現れる。M=1に対する値はe0と一致し、M=2に対する値は矢印により示され、より高いMに対する値は(N=16に対するvminに一致する)識別ラインに位置されるM=N=16に対する値に徐々に近づく。比較的大きなMに対して、Δt及びΔfがゼロの付加によりほとんど変化しないのに対し関連するσは
に近づくので、以下の式となる。
(B15)
【0150】
結果として、比較的大きなMに対する値は、図15の双曲線x・y=N/(4π)より僅かに下にプロットされる。時間が進みNが大きくなるにつれ、値のトレイルはこの双曲線に沿って成長し、新しい値が識別ラインに現れる。ΔfがΔtに対してプロットされる場合、関係のある双曲線はx・y=1/(4π)により与えられ、ガボールの不確定性原理の下位限界で異なるガウス分布に対応する全ての可能性がある値を含む。
【0151】
正式の数学的証明なしで、M<Nに対するvminから導出されるN−ベクトルは、図15の(Δt,NΔf)平面のアクセス可能な領域までの更なる限界を持つ。これらのベクトルがMがゼロでないイベントのシーケンスに対して最小の可能性がある総不確定度を持つので、図15の黒いドットによりマークされる領域の外側の値が発生しないと期待できる。これは、時間領域の重みの変更なしで、周波数領域のベクトルを巡回的にシフトさせる(周波数円の反対側の部分)、Ω8とゾーンIのベクトルを前置乗算することにより導出される、ゾーンIIの値に対しても成り立つ。よって、これらのベクトルのΔfは、Δtの変化なしで最大化される。これとは逆に、ゾーンVIのポイントは、時間領域のベクトルを巡回的にシフトさせる(これによりΔfの変化なしでΔtを最大化する)、T8と前置乗算された、ゾーンIのベクトルから得られる。ゾーンVのベクトルは、T8と前置乗算を通じてゾーンIIのベクトルから生じる。ゾーンVIIIのベクトルは、フーリエ変換をする(Fによる前置乗算は識別ラインの反映を意味する)ことにより、ゾーンIのベクトルから生じる。Ω8によるこれらのベクトルの前置乗算は、ゾーンIIIのベクトルを与え、T8による前置乗算は、ゾーンVIIのベクトルを与え、Ω8による後者のベクトルの前置乗算は、ゾーンIVのベクトルを与える。(一つの時間周波数ゾーンから他の時間周波数ゾーンへ行かせる多くのやり方があることは明らかであり、例えば、ゾーンVIのベクトルのフーリエ変換を採用することはそれらをゾーンIIIへ移動させる)。結論として、Δt、NΔfの可能性がある組合せが、図15の黒いドット(及び白丸)によりアウトラインが引かれたスペード状の領域に限定されることが期待できる。
【0152】
ゼロではない平均時間及び周波数に対する不確定性原理
式19の基準時間tRが、ゼロではないことが可能な場合、そのとき、以下の式が成り立つ。
(B16)
【0153】
同様に、ゼロではない基準周波数
に対して、以下の式が成り立つ。
(B17)
【0154】
及び
とする。
【0155】
CがtR=0及びfR=0に関して依然規定されるとき、CRHCR及びCHCは同様に以下の式になる。
(B18)
【0156】
これは、任意の整数k、nに対して有効であるTkΩn=ω−nkΩnTkという関係を使用して容易に示される。それで、(σ2,v)がCHCの固有値−固有ベクトル対である場合、このとき、以下の式が成り立つ。
(B19)
これは、
が固有値σ2を持つCRHCRの固有ベクトルであることを意味する。時間領域のtR及び周波数領域のfRに対する
の不確定度は、両方の領域のゼロに対するvの不確定度に等しいことが成り立つ。これは、思いがけないことではない。(
による)周波数領域の巡回シフト及び(
による)時間領域の巡回シフトの後でも、
の成分の二乗絶対値(「重み」)のvのものと同一である。
【0157】
時間―周波数変換の導出
時間―周波数変換行列Mの列は、正規直交である。
MHM=I(C1)
【0158】
これは、以下のように証明できる。積が巡回行列の和として以下のように書ける。
(C2)
【0159】
T−1によるhmHの後置乗算は、その成分が右へ巡回的にシフトされることを意味するので、巡回Mmは以下のように書ける。
(C3)
【0160】
巡回は正規行列なので、これらは、エルミート転置行列と置換される。
(C4)
ここで、
はhmの「複素自己相関」である。
【0161】
その成分は以下の通りである。
(C5)
【0162】
N―ベクトルhmの規定(式26及び式27)によるとこれはΩmN/Mh0としても書ける。TkΩn=ω−nkΩnTkを使用して、ゼロ以外の成分は、下記の式に等しいことが成り立つ。
(C6)
ここで、
である。これらの成分がmにわたって加算されるとき、下記の式となる。
(C7)
この式は、{e2πimu/M}がm=0,...,M−1に対して等比数列である事実から成り立つ。hmが単位ベクトルであるとみなされるので、
であることに留意されたい。結果として、式C2の和は、以下の式に書き直せる。
(C8)
これは、式C1の証明を完成する。
【0163】
正規直交性特性(式C1)は、h0が、不確定度Δt及びM’=10・Δtでゼロ以外の成分を持つ、丸められ正規化されたガウス分布により近似される場合(式B4を使用して)、h0の選択に依存しないので(
と仮定する)、依然成り立つ。
【0164】
時間―周波数合成
正規直交性特性の直接的な推論は、所与の時系列ベクトルxが短く後続する振動の加重和として書けるということである(式34)。式28の規定を使用して、以下の式が成り立つ。
(C9)
【0165】
時間―周波数領域の分散の分析
TFTの正規直交性特性の他の直接的な推論は、N―ベクトルxの「エネルギー」(二乗されたノルム)が変換後保存される。
(D1)
【0166】
これは、時間―周波数領域の「分散分析」(ANOVA)を可能にする。上記は、また、xのエネルギーがM周波数依存の成分に区切られることを意味する。
(D2)
【0167】
ランダムなN―ベクトルXが、期待値E{X}=0及び分散var{X}=σ2Iを持つ多変量の正規分布を持つと仮定する。このとき、二次形式
は、N自由度のカイ二乗分布に従う。式D2によると、
は、M周波数依存の成分
に区切られる。二次形式
は、周波数fmに対するXの「TFTサンプルパワースペクトル」と呼ばれる。ホワイトノイズに対して、このRVの期待値は、以下の通りである。
tr{・}は行列のトレースを表わす。式C4を使用すると、tr{MmHMm}=NhmHhm=Nが成り立つので、以下の式が成り立つ。
(D3)
【0168】
しかしながら、上記規定によるサンプルパワースペクトルは、循環仮定のためバイアスに影響される。
の成分は、M個のゼロ以外の要素を持つ線形時間不変のフィルタとの循環畳みこみによりXから導出される(式26−式31)。このフィルタの構成は、
の最初のM−K−1個及び最後のK個の成分が循環仮定に依存するようになされ(これらの整数はゼロより大きいとする)、ここで、KはM/2以下の最大の整数である。このように、循環仮定によるバイアスがないパワー推定値は、以下の式で規定される「選択行列」Sで得られる。
(D4)
【0169】
Sによる
の前置乗算は、循環仮定とは独立している
の成分を選択し、これは、バイアスされていない二次形式
を与える。相補的周波数fM−mも含まれるとき、「全」バイアスがないサンプルパワーは、以下の式で規定される。
(D5)
【0170】
t―f領域の「サンプル」の数は、NS=N−M+1である。
【0171】
サンプルパワー(σ2により割られた)は、等価の自由度(EDOF)を持つ近似のカイ二乗分布に従う。
(D6)
【0172】
及び
に対して、
とすると、ゼロ平均ホワイトノイズXに対して以下の式が成り立つ。
(D7)
これは以下の式を与える。
(D8)
【0173】
ここでは、ηは数学的コンピュータソフトウェアを使用して、式D8によって数値的に計算される。
【0174】
信頼限界の導出
及び
の平均及び分散
流量
のノイズがゼロ平均ホワイトノイズであるとみなされるので、式43を使用して、以下の式が成り立つ。
(E1)
【0175】
の分散はσQ,m2Iである。積
が決定論的であるので、以下の式が成り立つ。
(E2)
【0176】
の平均及び分散は、式46から以下の式が成り立つ。
(E3)
(E4)
【0177】
結果として、
は、bQ,t,mのバイアスされていない推定値である。
に対する平均及び分散は、類似の態様で、以下の式となる。
(E5)
【0178】
信頼限界
及び
の信頼限界は、最小二乗分析の標準的アプローチからわかる。式43及び式44の組み合わせは、以下の式を与える。
(E6)
【0179】
と
との間の直交性のため(図5を参照)、以下の式が成り立つ。
(E7)
【0180】
ランダム変数
は、
の形式を持ち、よって、(1つの自由度で)カイ二乗変数として(正確に)分散される。相補的周波数fM−m=1−m/Mでの
も推定に含まれるとき、結果として生じるカイ二乗変数は2つの自由度を持つ。ノイズが全体のバイアスされていないパワースペクトルにより推定されるとき(式D5)、式E7は、ノイズの全パワーをEDOFη=2+(η−2)を持つ直交成分に分解させる。その後、式E7の右辺の2つの直交成分の比率は、(2,ηー2)程度の自由度でF分布に従う。この分布の上位100(1−α)%のポイントをFαにより示す。このとき、
(E8)
【0181】
TFTサンプルコヒーレンス(式45)の規定を使用し、KQ,t,m2>0とすると、これは以下の式に書ける。
(E9)
【0182】
AQ,t,m2によりこの不等の右辺を書き直すと、
(E10)
【0183】
よって、
に対する100(1−α)%信頼領域は、中心
及び半径
を持つ複素平面内の円により記述される。
に対する信頼領域は、同様の態様で導出される。
(E11)
【0184】
に対する信頼領域に到達するために、
により式10の両辺を乗算し、
を置換すると、以下の式を与える。
(E12)
【0185】
複素変数の実数部分及び虚数部分を使用して、これは以下の式に再編成できる。
(E13)
【0186】
次に、
により式E11の両辺を割る。
により
を置換し(式47)、Uにより
を置換すると、
(E14)
【0187】
に対する信頼領域が、ここでツーステップアプローチで導出される。式E13によると、Uは、100(1−α)%の機会で、中心
及び半径
を持つ円内にある(図16A)。
及び
が相関しないと仮定する。このとき、所与のUの値に対して、zt,mは、100(1−α)%の機会で、中心U及び半径|U|AP,t,mを持つ第2の円内にある(式E14)。|U|に対する2つの極値、図16AのUmin、Umaxの大きさを考える。|zt,m|に対する対応する極値は、図16Bのzmin及びzmaxの大きさである。式E13及び式E14から、
(E15)
【0188】
に対する100(1−α)%信頼領域の控え目な限界が、ここでzmin及びzmaxを含む円により与えられ、その中心が
及び原点を通るライン上にある。結果として、対応する信頼領域は、以下の式により記述される。
(E16)
【0189】
この領域は、中心
及び半径
を持つ図16B及び図16Cの円により区切られる。この円は、
の周りに同心円ではない。所与の
のzt,mに対する可能な値の分布は、
に対して非対称である(図16D)。この非対称性は、図16Cのtanβにより表される。式E16から、以下の式が成り立つ。
(E17)
【0190】
特別なケース1:流れにノイズがない。流れ内のノイズがゼロである、
である場合、そのとき、
及び
である(式43及び式46)。zt,mの対応する推定値を
により示す。
と仮定すると
である。
【0191】
この場合、
なので、
(E18)
【0192】
これは、「通常の最小二乗推定値」である。このとき、KQx,t,m2=1及びAQ,t,m=0である。AQ,t,m=0であるが、信頼限界は、式E16により依然記述される。ここで、半径
を持つ信頼円は、
を中心に持つ。非対称パラメータtanβはゼロに等しい。
【0193】
特別なケース2:圧力のノイズがない。圧力のノイズがゼロである、
である場合、そのとき、
及び
である。zt,mの対応する推定値が
により示されるとき、
(E19)
【0194】
これは、「データ最小二乗法推定値」である。ここで、KPx,t,m2=1及びAP,t,m=0である。式E16から、信頼円は、中心
及び半径
を持つ。非対称パラメータtanβはAQ,t,mに等しい。2つの推定値
及び
は、流量と圧力との間の二乗コヒーレンスを通じて関係がある。
(E20)
【0195】
例:時間及び周波数の関数としての二乗コヒーレンス。図17は、図7と同じ記録のための二乗コヒーレンスを示す。この例では、拡声器入力と流れとの間のコヒーレンスは、入力と圧力との間のコヒーレンスより概して低かった。図から明らかなように、コヒーレンスは、時間及び周波数両方の関数として変化する。最も小さなコヒーレンスは、吸気から呼気への転換点及びその逆の転換点で、最も低い周波数で得られる。飲み込むことは、特に入力と流れとの間のコヒーレンスへの深い影響を持つ。図18は、COPDを持つ患者に対して図8に示される推定されたインピーダンスに対する時間及び周波数の関数としての二乗コヒーレンスを示す。呼吸フェーズ間の転換点のコヒーレンスの低下は、図17の通常の例より非常に多く発音される。図17及び図18両方において、太線は、異なる共振周波数(8〜24Hz)に対する時間の関数として、拡声器入力と流れとの間の二乗コヒーレンスKQx,t,m2を表し、細い線は、拡声器入力と圧力との間の二乗コヒーレンスKPx,t,m2を表す。「流量」は、エアフローの低周波成分を表し、「insp」は吸気を表し、「exp」は呼気を表す。
【0196】
結論として、最適時間―周波数解像度を持つ被験者の呼吸器系の伝達関数ブロックを推定するための方法が提示される。
【0197】
上述のように、呼吸インピーダンスの推定は、気道の妨害を評価するか、又は疾患の発病度を推定するための推定を使用する診断ツールによりなされる。従って、診断ツールは、呼吸インピーダンスに影響を及ぼすべき(薬理学的な又は他の)治療の効果を評価するためにも用いられる。
【0198】
例えば、呼吸インピーダンスの推定は、(i)慢性閉塞性肺疾患(COPD)の呼気の流量限界;(ii)発病度自体が時間の経過により吸入された気道拡張器の効果(例えば交感神経作用薬又は副交感神経作用薬)を評価するために用いられる(これは、調査設定に、更に、患者が標準強制的呼吸操作を実施できない臨床設定に適用できる)COPD又は喘息の気道閉塞の当該発病度;(iii)喘息の気道閉塞又は睡眠の間のCOPD;又は、(iv)睡眠無呼吸―呼吸低下症候群の疑いがある患者の睡眠中の上位の気道閉塞を検出するために使用できる。
【0199】
呼吸インピーダンスの推定は、また又は代わりに、内科的疾患の治療で使用される機械の設定を適応させるために用いられる。例えば、呼吸インピーダンスの推定が、COPDの非侵襲性ベンチレーションの設定の調整において用いられる。呼吸インピーダンスは、連続的に気道インピーダンスの重症度に関する情報を提供するためにベンチレータへの入力として用いられる(信頼値により示される信頼できない値は廃棄される)。この情報は、また、呼気の流量限界がちょうど克服される二相性陽気道圧のレベルを調整するためにも用いられる。他の例として、呼吸インピーダンスの推定は、援助として閉塞性睡眠時無呼吸症候群を持つ患者の持続気道陽圧のレベルをガイドするための補助として用いられる。
【0200】
本発明は、図面及び前述の説明で例示され詳述されてきたが、斯様な図例及び説明は、図示的及び例示的であって、限定的でないとみなされるべきであり、本発明は、開示された実施例に限定されない。
【0201】
開示された実施例のバリエーションは、図面、明細書及び添付の請求の範囲の検討から、請求された本発明を実施する当業者により理解され遂行できる。請求項において、用語「有する」は他の要素又はステップを除外しないし、不定冠詞「a」又は「an」は複数を除外しない。単一のプロセッサ又は他のユニットが、請求項に引用される幾つかの部材の機能を成し遂げてもよい。特定の手段が相互に異なる従属請求項において引用されているという単なる事実は、これらの手段の組合せが効果的に使用できないことを示さない。コンピュータプログラムは、他のハードウェアと共に又は一部として光記憶媒体又はソリッドステート媒体のような適切な媒体に格納/配布されてもよいが、インターネット、他の有線又は無線通信システムを介してのような他の形式で配信されてもよい。請求項内の参照符号は、範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0202】
参照文献
1 DellacらによるExpiratory flow limitation detected by forced oscillation and negative expiratory pressure, European Respiratory Journal Vol.29 No.2, pages363-3742
2 Daroczy B,Hantos Z.によるAn improved forced oscillation estimation of respiratory impedance. Int J Biomed Comput 13:221-235, 1982
3 ForbesGW,AlonsoMA.によるConsistent analogs of the Fourier uncertainty relation. Am J Physics 69:340-347, 2001
4 Forbes GW, Alonso MA, SiegmanAE.によるUncertainty relations and minimal uncertainty states for the discrete Fourier transform and the Fourier series. J Phys A: MathGen 36:7027-7047, 2003
5 GaborD.によるTheory of communications. J Inst Electr Eng93:429-457, 1946
【0203】
表1
シンボル及び省略形
時間及び周波数
fm、fn 離散的周波数m/M(又はn/N)
fR Δfに対する基準周波数
fn 周波数fnを持つ調和振動を記述するN―ベクトル
m TFTに対する周波数指標
M(M’) TFTフィルタの幅(又は切り詰めたガウス分布を使用した有効幅)
n ODFTに対する周波数指標
N 時系列数のイベントの数
NS 確率過程からのt―f領域のサンプルの数
rt、rf 時間円(又は周波数円)の半径
t 離散的時間指標
tR Δtに対する基準時間
A,B,C 時間及び周波数の不確定度に関係する行列
F ODFT行列
M(Mm) TFT行列(又は周波数fmに対する部分的なTFT行列)
T タイムシフトオペレータ;circ{0,...,0,1}
Δt、Δf 時間又は周波数の不確定度
ω 複素指数;exp(2πi/N)
σmin、σmax Cの最小及び最大の単一の値
Ω 主対角線上にωtを持つ対角行列;diag{ω0,...,ωN−1}
変数の名前
p 圧力
q 流量
x 拡声器入力(又は、未知の変数)
z 呼吸インピーダンス
変数のタイプ 例
離散的時間の関数としての決定論的な変数 qt
離散的時間の関数としてのランダム変数 Qt
決定論的なN―ベクトル(小文字) q
ランダムなN―ベクトル(大文字) Q
t―f領域のベクトル(周波数fmが中心)
t―f領域のベクトル(周波数fmが中心で時刻tから開始)
t―f領域の線形回帰により「予測される」決定論的なベクトル
t―f領域の線形回帰に対するランダムな「エラー」
t―f領域のエラーの推定値
リニアフィルタ
hqx xからqまでのフィルタの期分けされたインパルス応答を持つベクトル
Hqx,n 周波数fnに対するxからqまでの伝達関数
Cqx 拡声器入力と流量との間のフィルタを記述する巡回行列
Λxq 主対角線上にHqx,nを持つ対角行列
統計値
AQ,t,m
に対する信頼領域への流量のノイズの寄与を決定するt―f領域の変数
Fα (2、η−2)自由度でのF検定のための上位100(1−α)%の信頼限界
KQx,t,m2 t―f領域の流量と拡声器入力との間の二乗サンプルコヒーレンス
時間及び周波数の関数としてインピーダンスzt,mの二変量の最小推定値
流量のノイズがゼロであるという仮定の下のzt,mの推定値
α タイプIIエラー
β 信頼領域の中心から
の偏差を決定する角度
η 等価自由度
μQ 平均の流量
σQ2 流量のノイズの分散
通常の数学的シンボル
i 虚数(i2=−1)
I NxNの恒等行列
≡ 規定により等しいこと
|xt| 複素数値xtの大きさ
N―ベクトルxの2−ノルム
xH ベクトルxのエルミート転置
x* xの複素共役
{・} シーケンス(通常、列ベクトルとして表される)
diag{・} 主対角線上にシーケンスを持つ対角行列
circ{・} 第1の行にシーケンスを巡回行列
省略形
FOT 強制的振動技術
t―f領域 時間―周波数領域
TFT 時間―周波数変換
ODFT 正規直交離散フーリエ変換
RV ランダム変数
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者インターフェイス装置及び被験者の気道を含む空気制御システムを作るため前記患者インターフェイス装置を被験者の気道に結合させるステップと、前記患者インターフェイス装置に動作的に結合される励振源を介して被験者の気道のガスの圧力、流量又はボリュームを振動するステップと、前記空気制御システムのガスの流量及び圧力を決定し、流量及び圧力を表すそれぞれの時系列を作るステップと、それぞれの時系列を時間―周波数領域に変換して変換時系列を作るステップと、変換された時系列から圧力及び流量のパワーを推定するステップと、変換された時系列に基づいて流量及び圧力のそれぞれのクロススペクトルを推定するステップと、推定されたパワー及び推定されたクロススペクトルから被験者の呼吸インピーダンスを推定するステップとを有する、呼吸インピーダンスを推定する方法。
【請求項2】
推定されたパワー及びクロススペクトルから被験者の呼吸インピーダンスを推定するステップは、それぞれのパワー及びクロススペクトルから、圧力波から流量及び圧力へのそれぞれの伝達関数を決定するステップと、流量及び圧力伝達関数から呼吸インピーダンスを推定するステップとを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
推定されたインピーダンスの信頼限界を決定するステップを更に有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
流量及び圧力に対する測定の時系列は、qt及びptでそれぞれ示され、それぞれの時系列を時間―周波数領域に変換するステップは、離散的時間t及び異なる周波数fm=m/Mの関数として流量
及び圧力
を与えるために、流量の時系列に対して
と圧力の時系列に対して
とを評価するステップを有し、ここで、mは周波数指標であり、Mは時間―周波数フィルタの実効幅であり、i2=−1であり、加重ファクタwlは、時間の窓関数
により近似され、Δtは時間の不確定度である、請求項1、2又は3に記載の方法。
【請求項5】
窓関数がガウス関数、三角関数、区分的線形近似関数又は多項式関数である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
流量及び圧力のパワーを推定するステップは、流量に対する
及び圧力に対する
を評価するステップを有し、NSは時間―周波数領域のサンプルの数であり、K2=1/2(NS−1)であり、NSは奇数であり、|・|は絶対値を表わす、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
生成された圧力波を持つ流量及び圧力のクロススペクトルを推定するステップが、流量に対する
と、圧力に対する
とを評価するステップを有し、*は複素共役を示し、
は圧力波を表す、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
推定されたパワー及びクロススペクトルから被験者の呼吸インピーダンスを推定するステップは、
を評価することにより圧力波から流量への伝達関数と、
を評価することにより圧力波から圧力への伝達関数とを決定するステップを有し、ここで、呼吸インピーダンスは、実数成分RrSt,m及び虚数成分XrSt,mを持つ
を評価することにより推定される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
を使用して圧力波と流量との間の二乗コヒーレンスを決定するステップと、
を使用して圧力波と圧力との間の二乗コヒーレンスを決定するステップと、
パワー及びクロススペクトルの自由度ηの数を決定するステップと、
から流量に関係する変数Aq,t,m2を決定するステップと、
から圧力に関係する変数Ap,t,m2を決定するステップと、Rrs・c1±c2及びXrs・c1±c2それぞれから推定されたインピーダンスの実数部分及び虚数部分に対する100(1−α)%の信頼限界を決定するステップであって、ここでc1=1+Aq,t,m・c3、c2=|ZrSt,m|・c3、及び
であるステップとを含む、推定されたインピーダンス上の信頼限界を決定するステップを更に有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
Aq,t,m≧第1の閾値又はAp,t,m≧第2の閾値の何れかである場合、所与の時間及び周波数に対する呼吸インピーダンスの推定値を拒絶するステップを更に有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
第1の閾値が1であり、第2の閾値が1である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
変換された時系列に基づいて流量及び圧力のそれぞれのクロススペクトルを推定するステップが、入力としてガスの振動圧力、流量又はボリュームと出力として流量及び圧力とを持つモデルを使用して、最小二乗基準に基づいてなされる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記空気制御システムのガスの流量を決定するステップが、前記空気制御システムに動作的に結合された流量センサを使用して流量を測定することにより達成され、前記空気制御システムのガスの圧力を決定するステップが、前記空気制御システムに動作的に結合された圧力センサを使用して達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
患者インターフェイス装置と、被験者の気道のガスの圧力、流量又はボリュームの振動を生成するための励振源と、患者インターフェイス装置及び被験者の気道により規定される空気圧回路のガスの流量及び圧力を決定し、流量又は圧力を表しているそれぞれの時系列の値を出力するための手段と、プロセッサとを有し、前記プロセッサは、それぞれの時系列を時間―周波数領域へ変換し、それぞれ変換された時系列に基づいて、流量及び圧力のパワーを推定し、それぞれ変換された時系列に基づいて、流量及び圧力のそれぞれのクロススペクトルを推定し、推定されたパワー及びクロススペクトルから被験者の呼吸インピーダンスを推定する、呼吸インピーダンスを推定するための装置。
【請求項15】
前記空気圧回路のガスの流量及び圧力を決定するための手段が、前記空気制御システムに動作的に結合された流量センサと、前記空気制御システムに動作的に結合された圧力センサとを有する、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
変換された時系列に基づいて流量及び圧力のそれぞれのクロススペクトルを推定することが、入力としてガスの振動する圧力、流量又はボリュームと、出力として流量及び圧力とを持つモデルを使用して、最小二乗基準に基づいてなされる、請求項14に記載の装置。
【請求項17】
前記プロセッサが、流量及び圧力それぞれのパワー及びクロススペクトルから、圧力波から流量及び圧力へのそれぞれの伝達関数を決定し、流量及び圧力の伝達関数から呼吸インピーダンスを推定することにより、推定されたパワー及びクロススペクトルから被験者の呼吸インピーダンスを推定する、請求項14に記載の装置。
【請求項18】
前記プロセッサは、推定された呼吸インピーダンスに対する信頼限界を決定する、請求項14又は15に記載の装置。
【請求項19】
適切なプロセッサ又はコンピュータによる実行の際、前記プロセッサ又はコンピュータが請求項1乃至13の何れか一項に記載の方法を実施するコンピュータ可読媒体に組み込まれたコンピュータ可読のコードを具備する、コンピュータプログラム。
【請求項1】
患者インターフェイス装置及び被験者の気道を含む空気制御システムを作るため前記患者インターフェイス装置を被験者の気道に結合させるステップと、前記患者インターフェイス装置に動作的に結合される励振源を介して被験者の気道のガスの圧力、流量又はボリュームを振動するステップと、前記空気制御システムのガスの流量及び圧力を決定し、流量及び圧力を表すそれぞれの時系列を作るステップと、それぞれの時系列を時間―周波数領域に変換して変換時系列を作るステップと、変換された時系列から圧力及び流量のパワーを推定するステップと、変換された時系列に基づいて流量及び圧力のそれぞれのクロススペクトルを推定するステップと、推定されたパワー及び推定されたクロススペクトルから被験者の呼吸インピーダンスを推定するステップとを有する、呼吸インピーダンスを推定する方法。
【請求項2】
推定されたパワー及びクロススペクトルから被験者の呼吸インピーダンスを推定するステップは、それぞれのパワー及びクロススペクトルから、圧力波から流量及び圧力へのそれぞれの伝達関数を決定するステップと、流量及び圧力伝達関数から呼吸インピーダンスを推定するステップとを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
推定されたインピーダンスの信頼限界を決定するステップを更に有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
流量及び圧力に対する測定の時系列は、qt及びptでそれぞれ示され、それぞれの時系列を時間―周波数領域に変換するステップは、離散的時間t及び異なる周波数fm=m/Mの関数として流量
及び圧力
を与えるために、流量の時系列に対して
と圧力の時系列に対して
とを評価するステップを有し、ここで、mは周波数指標であり、Mは時間―周波数フィルタの実効幅であり、i2=−1であり、加重ファクタwlは、時間の窓関数
により近似され、Δtは時間の不確定度である、請求項1、2又は3に記載の方法。
【請求項5】
窓関数がガウス関数、三角関数、区分的線形近似関数又は多項式関数である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
流量及び圧力のパワーを推定するステップは、流量に対する
及び圧力に対する
を評価するステップを有し、NSは時間―周波数領域のサンプルの数であり、K2=1/2(NS−1)であり、NSは奇数であり、|・|は絶対値を表わす、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
生成された圧力波を持つ流量及び圧力のクロススペクトルを推定するステップが、流量に対する
と、圧力に対する
とを評価するステップを有し、*は複素共役を示し、
は圧力波を表す、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
推定されたパワー及びクロススペクトルから被験者の呼吸インピーダンスを推定するステップは、
を評価することにより圧力波から流量への伝達関数と、
を評価することにより圧力波から圧力への伝達関数とを決定するステップを有し、ここで、呼吸インピーダンスは、実数成分RrSt,m及び虚数成分XrSt,mを持つ
を評価することにより推定される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
を使用して圧力波と流量との間の二乗コヒーレンスを決定するステップと、
を使用して圧力波と圧力との間の二乗コヒーレンスを決定するステップと、
パワー及びクロススペクトルの自由度ηの数を決定するステップと、
から流量に関係する変数Aq,t,m2を決定するステップと、
から圧力に関係する変数Ap,t,m2を決定するステップと、Rrs・c1±c2及びXrs・c1±c2それぞれから推定されたインピーダンスの実数部分及び虚数部分に対する100(1−α)%の信頼限界を決定するステップであって、ここでc1=1+Aq,t,m・c3、c2=|ZrSt,m|・c3、及び
であるステップとを含む、推定されたインピーダンス上の信頼限界を決定するステップを更に有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
Aq,t,m≧第1の閾値又はAp,t,m≧第2の閾値の何れかである場合、所与の時間及び周波数に対する呼吸インピーダンスの推定値を拒絶するステップを更に有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
第1の閾値が1であり、第2の閾値が1である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
変換された時系列に基づいて流量及び圧力のそれぞれのクロススペクトルを推定するステップが、入力としてガスの振動圧力、流量又はボリュームと出力として流量及び圧力とを持つモデルを使用して、最小二乗基準に基づいてなされる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記空気制御システムのガスの流量を決定するステップが、前記空気制御システムに動作的に結合された流量センサを使用して流量を測定することにより達成され、前記空気制御システムのガスの圧力を決定するステップが、前記空気制御システムに動作的に結合された圧力センサを使用して達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
患者インターフェイス装置と、被験者の気道のガスの圧力、流量又はボリュームの振動を生成するための励振源と、患者インターフェイス装置及び被験者の気道により規定される空気圧回路のガスの流量及び圧力を決定し、流量又は圧力を表しているそれぞれの時系列の値を出力するための手段と、プロセッサとを有し、前記プロセッサは、それぞれの時系列を時間―周波数領域へ変換し、それぞれ変換された時系列に基づいて、流量及び圧力のパワーを推定し、それぞれ変換された時系列に基づいて、流量及び圧力のそれぞれのクロススペクトルを推定し、推定されたパワー及びクロススペクトルから被験者の呼吸インピーダンスを推定する、呼吸インピーダンスを推定するための装置。
【請求項15】
前記空気圧回路のガスの流量及び圧力を決定するための手段が、前記空気制御システムに動作的に結合された流量センサと、前記空気制御システムに動作的に結合された圧力センサとを有する、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
変換された時系列に基づいて流量及び圧力のそれぞれのクロススペクトルを推定することが、入力としてガスの振動する圧力、流量又はボリュームと、出力として流量及び圧力とを持つモデルを使用して、最小二乗基準に基づいてなされる、請求項14に記載の装置。
【請求項17】
前記プロセッサが、流量及び圧力それぞれのパワー及びクロススペクトルから、圧力波から流量及び圧力へのそれぞれの伝達関数を決定し、流量及び圧力の伝達関数から呼吸インピーダンスを推定することにより、推定されたパワー及びクロススペクトルから被験者の呼吸インピーダンスを推定する、請求項14に記載の装置。
【請求項18】
前記プロセッサは、推定された呼吸インピーダンスに対する信頼限界を決定する、請求項14又は15に記載の装置。
【請求項19】
適切なプロセッサ又はコンピュータによる実行の際、前記プロセッサ又はコンピュータが請求項1乃至13の何れか一項に記載の方法を実施するコンピュータ可読媒体に組み込まれたコンピュータ可読のコードを具備する、コンピュータプログラム。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A−4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A−16D】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A−4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A−16D】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2013−512718(P2013−512718A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541607(P2012−541607)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【国際出願番号】PCT/IB2010/055392
【国際公開番号】WO2011/067698
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【国際出願番号】PCT/IB2010/055392
【国際公開番号】WO2011/067698
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]