説明

呼吸信号の解析装置

【課題】被験者の下側に加わる荷重変化の計測値から生成される波形の呼吸信号を解析し、呼吸状態の判定精度を向上させることができる呼吸信号の解析装置を提供する。
【解決手段】呼吸信号の解析装置は、被験者の身体の下側に配置され、被験者の生体活動に伴う荷重変化を計測する荷重計測手段と、計測した荷重の変化に基づいて波形の原呼吸信号(S)を生成する信号生成手段と、前記原呼吸信号(S)の振幅の移動平均(M)を順次計算してn回目の振幅(A)を振幅の移動平均(M)と予め設定された上限閾値(Kmax)との積と比較し、A<M×Kmaxのときにその振幅(A)をn回目の振幅(A)とし、A≧M×Kmaxのときにn回目の振幅(A)をM×Kmaxに置換してみなし呼吸信号(S’)を形成する信号処理手段と、前記みなし呼吸信号(S’)において、振幅の変動状態に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態を検知する検知手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の下側に加わる荷重変化を計測し、計測値に基づいて生成される呼吸信号を解析して呼吸状態を検知する呼吸信号の解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠時無呼吸症候群の判定方法としては、被験者に呼吸センサ(鼻や口における気流をモニタ)、胸腹部ベルトセンサ、脳波計、筋電計、パルスオキシメーター、心電計等の計測器を取り付けて終夜睡眠中の身体の状態を測定するPSG検査を実施し、それらの測定値を解析して判定するのが世界標準判定方法とされている。この方法は、呼吸による気流を直接測定し、合わせて血中の酸素濃度の変動等を測定するものであるから呼吸障害の程度を客観的に把握することができる。その反面、他種類のセンサを身体に直接取り付けるので被験者の身体的負担が大きく、また専門解析技師が終夜立ち会いかつ多数の検査機器を使用することで検査費用が高額になるという問題点がある。
【0003】
上記のPSG検査に対し、被験者の身体的負担を軽減し、簡易な計測装置による判定方法として、シート式荷重センサを用いて呼吸状態を判定する方法がある。この方法は、呼吸に伴う身体の動きに着目し、被験者の下に配置した荷重センサで身体の動きを荷重の変化として計測し、荷重変化に基づいて生成した波形の呼吸信号を解析して呼吸状態を判定するというものである。
【0004】
シート式荷重センサとしては特許文献1に記載されたものがあり、またシート式荷重センサによる呼吸監視装置および呼吸信号の解析方法としては特許文献2、3に記載された方法がある。
【0005】
特許文献2に記載された解析方法は、寝具に加わる荷重変化を呼吸信号として生成し、呼吸信号の振幅が低下し、その後、当該呼吸信号の振幅が増大し、かつ振幅が低下した時の前記呼吸信号の周波数に対して、振幅が増大したときの呼吸信号の周波数が高くなったとき、前記呼吸信号の振幅低下状態を無呼吸状態もしくは低呼吸状態と判定する、というものである。
【0006】
また、特許文献3は特許文献2の解析方法よりも判定精度を向上させたものであって、
第1工程として、ノイズとなる体動(四肢の動き)の影響を除去するために複数の振幅の平均値に基づいて呼吸障害の数をカウントし、カウントした呼吸障害数より重度であると判断した場合に、第2工程として単振幅データに基づいて呼吸障害数を再カウントする、というものである。この方法によれば、体動が多いとされる軽度の被験者に対しては体動に起因するノイズを除去でき、重度の被験者に対しては無呼吸または低呼吸後の努力呼吸が1または2振幅程度でしか含まれない呼吸障害パターンも検出可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−11340号公報
【特許文献2】特開2007−181613号公報
【特許文献3】特開2004−24684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
四肢の体動は呼吸による体動よりも大きく、呼吸信号では大きい振幅として現れる。しかし、四肢体動時には大きなあえぎ呼吸が含まれることがあるため、大きい振幅の全てを四肢体動によるノイズと見なして一律に除去すると、大きな呼吸による振動も除去されることになる。また、無呼吸状態または低呼吸状態の前後であえぎによる大きな呼吸をすることがあり、あえぎ呼吸に起因する大きい振幅を四肢体動によるノイズととらえると、呼吸障害の判定精度が低下するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した技術背景に鑑み、被験者の下側に加わる荷重変化の計測値から生成される波形の呼吸信号を解析し、呼吸状態の判定精度を向上させることができる呼吸信号の解析装置の提供を目的とする。
【0010】
即ち、本発明は下記[1]〜[8]に記載の構成を有する。
【0011】
[1]被験者の身体の下側に配置され、被験者の生体活動に伴う荷重変化を計測する荷重計測手段と、
計測した荷重の変化に基づいて波形の原呼吸信号(S)を生成する信号生成手段と、
前記原呼吸信号(S)の振幅の移動平均(M)を順次計算してn回目の振幅(A)を振幅の移動平均(M)と予め設定された上限閾値(Kmax)との積と比較し、A<M×Kmaxのときにその振幅(A)をn回目の振幅(A)とし、A≧M×Kmaxのときにn回目の振幅(A)をM×Kmaxに置換してみなし呼吸信号(S’)を形成する信号処理手段と、
前記みなし呼吸信号(S’)において、振幅の変動状態に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態を検知する検知手段と
を備えることを特徴とする呼吸信号の解析装置。
【0012】
[2]前記上限閾値(Kmax)は2〜20である前項1に記載の呼吸信号の解析装置。
【0013】
[3]前記検知手段において、無呼吸状態または低呼吸状態の有無を判断する振幅の低下閾値(Kdec)および低下継続時間(Tdec)を設定し、
前記みなし呼吸信号(S’)において、振幅の移動平均値(M’)×低下閾値(Kdec)よりも小さい振幅が前記低下継続時間(Tdec)以上継続した時に無呼吸状態または低呼吸状態であると判定する前項1または2に記載の呼吸信号の解析装置。
【0014】
[4]前記検知手段において、前記みなし呼吸信号(S’)が形成された時間とこの間に無呼吸状態または低呼吸状態であると判定された回数とから単位時間当たりの呼吸障害指数(RDI)を算出し、
算出した呼吸障害指数(RDI)と予め設定された2つの基準値(X)および(X)(ただし、X<X)とを比較し、RDI<Xのときは前記振幅の上限閾値(Kmax)を低い値に変更し、RDI≧Xのときは前記振幅の上限閾値(Kmax)を高い値に変更し、
変更後の上限閾値(Kmax)を前記信号処理手段に戻してみなし呼吸信号(S’)を再形成し、検知手段において再形成したみなし呼吸信号(S’)に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態を再検知させるフィードバック手段を備える前項1〜3のいずれかに記載の呼吸信号の解析装置。
【0015】
[5]前記フィードバック手段において、検知手段における振幅の上限閾値(Kmax)の変更、信号処理手段におけるみなし呼吸信号(S’)の再形成および検知手段における無呼吸状態または低呼吸状態の再検知を、就床から起床までの荷重変化の計測を終了した後に行わせる前項4に記載の呼吸信号の解析装置。
【0016】
[6]前記フィードバック手段において、検知手段における振幅の上限閾値(Kmax)の変更、信号処理手段におけるみなし呼吸信号(S’)の再形成および検知手段における無呼吸状態または低呼吸状態の再検知を、就床から起床までの荷重変化の計測の途中に行わせる前項4に記載の呼吸信号の解析装置。
【0017】
[7]前記荷重計測手段を、被験者の頭部、胸部、腹部のうちの少なくとも1箇所に配置する前項1〜6のいずれかに記載の呼吸信号の解析方法。
【0018】
[8]被験者の生体活動に伴い該被験者の下側に加わる荷重変化の計測値に基づいて生成された原呼吸信号(S)に対し、振幅の上限閾値(Kmax)を設定し、前記原呼吸信号(S)の振幅の移動平均(M)を順次計算してn回目の振幅(A)を振幅の移動平均(M)×上限閾値(Kmax)と比較し、A<M×Kmaxのときにその振幅(A)をn回目の振幅(A)とし、A≧M×Kmaxのときにn回目の振幅(A)をM×Kmaxに置換してみなし呼吸信号(S’)を形成し、
前記みなし呼吸信号(S’)における振幅の変動状態に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態を検知することを特徴とする呼吸信号の解析方法。
【発明の効果】
【0019】
上記[1]に記載の呼吸信号の解析装置によれば、荷重計測手段によって荷重変化が計測され、信号生成手段において前記荷重変化に基づいて波形の原呼吸信号(S)が生成される。
【0020】
原呼吸信号(S)からみなし呼吸信号(S’)を形成する信号処理手段においては、原呼吸信号(S)に対し、上限閾値(Kmax)によって四肢体動による振動成分が取り除かれ、かつ取り除く成分を決定する際には振幅の移動平均(M)を用いた処理が行われるので周期的な四肢体動に起因するノイズも取り除かれている。かかる処理により、みなし呼吸信号(S’)は呼吸による振動を原呼吸信号(S)よりも正確に表す信号に加工される。そして、検知手段においては、前記みなし呼吸信号(S’)に対し、振動の変動状態に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態の有無が検知されるので、呼吸状態の判定精度が向上する。
【0021】
上記[2]に記載の呼吸信号の解析装置によれば、信号処理手段における上限閾値(Kmax)を2〜20の範囲内で設定することにより、症状の程度にかかわらず呼吸状態の判定精度が向上する。
【0022】
上記[3]に記載の呼吸信号の解析装置によれば、検知手段において、みなし呼吸信号(S’)について振幅の移動平均(M’)×低下閾値(Kdec)よりも小さい振幅が低下継続時間(Tdec)秒以上継続した時に無呼吸状態または低呼吸状態であると判定される。この判定は四肢体動による振動成分が取り除かれたみなし呼吸信号(S’)を解析したものであり、かつ振幅の移動平均(M’)を用いてなされるので判定精度が高い。
【0023】
上記[4]に記載の呼吸信号の解析装置によれば、検知手段において無呼吸状態または低呼吸状態であると判定された回数から呼吸障害指数(RDI)が算出され、フィードバック手段において、軽症基準値(X)および重症基準値(X)と比較することにより症状の程度を判断し、症状の程度に応じて上限閾値(Kmax)を変更し、変更した上限閾値(Kmax)を信号処理手段に戻してみなし呼吸信号(S’)の再形成を行い、さらに検知手段において無呼吸状態または低呼吸状態の再検知を行う。このように、上限閾値(Kmax)を変更して複数回の解析を行うことにより、判定精度をより一層向上させることができる。
【0024】
上記[5]に記載の呼吸信号の解析装置によれば、就床から起床までの荷重変化の計測を終了した後に、フィードバック手段において、上限閾値(Kmax)の変更、みなし呼吸信号(S’)の再形成および無呼吸状態または低呼吸状態の再検知を行うことにより、上記[4]の効果を得ることができる。
【0025】
上記[6]に記載の呼吸信号の解析装置によれば、就床から起床までの荷重変化の計測中に、フィードバック手段において、上限閾値(Kmax)の変更、みなし呼吸信号(S’)の再形成および無呼吸状態または低呼吸状態の再検知を行うことにより、計測終了とほぼ同時に上記[4]の効果を得ることができる。
【0026】
上記[7]に記載の呼吸信号の解析装置によれば、頭部、胸部、腹部のいずれにおいても呼吸による体動を検知できるので、これらの位置で計測した荷重変化によって無呼吸状態または低呼吸状態の有無を検知することができる。
【0027】
上記[8]に記載の呼吸信号の解析方法は、上記の呼吸信号の解析装置における荷重変化の計測から呼吸状態の検知までの解析フローであり、このフローを実施することにより、被験者の呼吸状態の判定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明にかかる呼吸信号の解析装置の構成、および横たわった被験者の下側に荷重計測手段を配置した状態を示す断面図である。
【図2A】本発明の解析装置において、呼吸信号を解析するためのフローチャートであり、解析の第1段階の詳細手順および第2段階を示すフローチャートである。
【図2B】解析の第2段階の詳細手順を示すフローチャートである。
【図3A】被験者Aの原呼吸信号(S)と、この原呼吸信号(S)を上限閾値(Kmax)=5で処理してみなし呼吸信号を生成する方法を説明するグラフである。
【図3B】被験者Aの原呼吸信号(S)と、この原呼吸信号(S)を上限閾値(Kmax)=3で処理してみなし呼吸信号を生成する方法を説明するグラフである。
【図3C】被験者Aの原呼吸信号(S)と、この原呼吸信号(S)を上限閾値(Kmax)=8で処理してみなし呼吸信号を生成する方法を説明するグラフである。
【図4】図3Aにおける区間(a)の部分拡大図である。
【図5】図3Aにおける区間(b)の部分拡大図である。
【図6】図3Bにおける区間(a)の部分拡大図である。
【図7】図3Bにおける区間(b)の部分拡大図である。
【図8A】被験者Bの原呼吸信号(S)と、この原呼吸信号(S)を上限閾値(Kmax)=5で処理してみなし呼吸信号を生成する方法を説明するグラフである。
【図8B】被験者Bの原呼吸信号(S)と、この原呼吸信号(S)を上限閾値(Kmax)=3で処理してみなし呼吸信号を生成する方法を説明するグラフである。
【図8C】被験者Bの原呼吸信号(S)と、この原呼吸信号(S)を上限閾値(Kmax)=8で処理してみなし呼吸信号を生成する方法を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1において、本発明の一実施形態である呼吸信号の解析装置(1)は、荷重センサ(2)および制御部(3)により構成される荷重計測手段、信号生成手段(4)、信号処理手段(5)、検知手段(6)およびフィードバック手段(7)を備え、さらにモニタ、プリンタ等の出力機器(8)を備えている。
【0030】
前記呼吸信号の解析装置(1)は、図1に参照されるように、横たわった被験者の下側に加わる荷重は生体活動に伴って変化し、その生体活動には呼吸に伴う体動と寝返り等による四肢の体動とが複合していることに着目し、荷重変化の計測値に基づいて生成される波形の信号から呼吸に無関係の成分、あるいは呼吸に無関係である可能性の高い成分を取り除くことによって判定精度を向上させたものである。
【0031】
〔荷重変化の計測と原呼吸信号の生成〕
図1に示すように、ベッド(10)に横たわった被験者の下側にはマット(11)を介してパネル型荷重センサ(2)が配置され、ベッドサイドに配置された制御部(3)によって荷重信号の検出が行われる。前記荷重センサ(2)はマット(11)の幅方向のほぼ全体に亘る寸法に形成され、図示例の仰臥位の他、側臥位、腹臥位などに体位を変えても身体から外れることなく荷重を計測することができる。また、本図は胸部における荷重変化を計測するために胸部の下方に荷重センサ(2)を配置しているが、頭部または腹部における荷重変化を計測する場合は各対応位置に荷重センサを配置する。本発明において、荷重変化の計測位置は呼吸による体動を検知できる限り限定されない。好ましい計測位置として、頭部、胸部、腹部を推奨でき、これらのうちの少なくとも1箇所または複数箇所で計測を行う。
【0032】
前記荷重センサ(2)の構造や種類は限定されず、例えば被験者の生体活動に伴って発生する敷き板の歪みの変動を検出する歪みセンサによるものが用いられる。
【0033】
荷重センサ(2)および制御部(4)で計測された荷重信号は信号生成手段(5)に送られて波形の原呼吸信号(S)が生成される。原呼吸信号(S)は荷重の時間的変化を表すものであり、その振幅は体動の大きさに対応している。図3A〜8Cに示した原呼吸信号(S)はその一例である。これらの原呼吸信号(S)は荷重変化を振幅として表わしたものであるから、呼吸に伴う体動と四肢の体動とが複合したものである。
【0034】
〔解析方法〕
上述したように、原呼吸信号(S)は寝返り等の呼吸とは無関係の四肢の体動を含んでいる。本発明の呼吸信号の解析装置(1)では、解析の第1段階として、信号処理手段(5)において、原呼吸信号(S)における大きい振幅が四肢の体動による成分であると判断した場合に原呼吸信号(S)からその成分を取り除く処理を行ってみなし呼吸信号(S’)を形成し、解析の第2段階として、検知手段(6)において、みなし呼吸信号(S’)について振幅の変動状態に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態を検知する。要すればさらに、フィードバック手段(7)によって呼吸状態の再検知を行う。
【0035】
以下に、就床から起床までの間に継続して計測した荷重変化に基づいて生成された原呼吸信号(S)から呼吸状態を検知する方法について、図2Aおよび図2Bを参照しつつ詳述する。図2Aは2つの段階を含む解析方法の手順の一例を示すフローチャートであり、図2Bは解析の第2段階の詳細手順を示すフローチャートである。
【0036】
(解析の第1段階:図2A参照)
ステップS1:信号生成手段(4)において、原呼吸信号(S)を生成する。
【0037】
ステップS2:信号処理手段(6)において、n回目の振幅(nは任意の数)が、呼吸体動、四肢体動のどちらに起因するものであるかどうかを判断するための上限閾値(Kmax)を設定する。
【0038】
ステップS3:原呼吸信号(S)から周期的な四肢体動などのノイズ成分を減少させるために振幅の移動平均(M)を順次計算する。移動平均(M)の計算に用いる振幅数は適宜設定すれば良く、一定の振幅数または一定時間内の振幅数とする。例えば、10〜100回の振幅または1〜10分間の振幅数によって計算する。
【0039】
ステップS4:n回目の振幅の大きさ(A)を、移動平均(M)×上限閾値(Kmax)と比較する。前記移動平均(M)の計算に用いる振幅は、n回目の振幅を含む過去の振幅、またはn回目の振幅を含まない過去の振幅のどちらであっても良い。
【0040】
ステップS5:A<M×Kmaxのときは、その振幅が呼吸に起因するものであって、四肢体動に起因するものではないと判断して、原呼吸信号(S)における振幅(A)をみなし呼吸信号(S’)におけるn回目の振幅として取り込む。
【0041】
ステップS6:A≧M×Kmaxのときは、その振幅が四肢体動に起因するものであると判断して、みなし呼吸信号(S’)におけるn回目の振幅(A)をM×Kmaxに置き換えて、振幅成分うちのM×Kmaxを超える部分を除外する。振幅が突出して大きい場合でもその振幅成分の全てを除外しないのは、大きい振幅にはあえぎ呼吸による体動も含まれている可能性が高く、かつあえぎ呼吸は安静時の呼吸よりも振幅が大きいので、M×Kmax以下の部分を呼吸に起因する成分であると見なし、M×Kmaxを超える部分を四肢体動に起因する成分であるみなして処理する。換言すれば、大きい振幅の成分を呼吸に起因する成分と四肢体動に起因する成分とに振り分けている。呼吸に起因するとみなした成分はみなし呼吸信号(S’)に取り入れて呼吸状態の判定材料とする。
【0042】
ステップS7:最後の振幅まで移動平均(M)×上限閾値(Kmax)との比較を行う。
【0043】
ステップS8:就床から起床までのみなし呼吸信号(S’)が形成される。みなし呼吸信号(S’)は、原呼吸信号(S)に対し、上限閾値(Kmax)を用いることによって四肢体動による振動成分が取り除かれ、かつ取り除く成分を決定する際には振幅の移動平均(M)を用いた処理を行うことにより周期的な四肢体動に起因するノイズも取り除かれている。このため、みなし呼吸信号(S’)は呼吸による振動を原呼吸信号(S)よりも正確に表す信号に加工されている。
【0044】
ステップS9:解析の第2段階として、検知手段(6)において、みなし呼吸信号(S’)を解析して呼吸障害の有無を検知する。
【0045】
前記上限閾値(Kmax)は、設定値が過小であるとみなし呼吸信号(S’)からあえぎ呼吸に起因する成分が除外される可能性が高くなり、過大であると寝返り等の呼吸とは無関係の四肢体動に起因する成分がみなし呼吸信号(S’)に取り込まれる可能性が高くなる。これらはいずれも判定精度を低下させるものである。かかる観点より、前記上限閾値(Kmax)は2〜20の範囲内で設定することが好ましい。また、原呼吸信号(S)を保存しておけば上限閾値(Kmax)を変更してみなし呼吸信号(S’)を再形成することができるので、みなし呼吸信号(S’)を再形成によって判定精度のさらなる向上が可能である。上限閾値(Kmax)の設定変更については、後に詳述する。
【0046】
(解析の第2段階)
ステップS11:解析の第1段階で形成したみなし呼吸信号(S’)を解析対象とする。
【0047】
ステップS12:検知手段(6)において、呼吸障害の有無を判定するための、振幅の低下閾値(Kdec)および低下継続時間(Tdec)を設定する。また、症状の程度を判定するための軽症基準値(X)および重症基準値(X)を設定する。
【0048】
ステップS13:みなし呼吸信号(S’)から周期的な四肢体動などのノイズ成分を減少させるために振幅の移動平均(M’)を順次計算する。移動平均(M’)を計算するための振幅数は適宜設定すれば良く、原呼吸信号(S)の場合と同じく、一定の振幅数または一定時間内の振幅数とする。
【0049】
ステップS14:移動平均(M’)×低下閾値(Kdec)よりも小さい振幅が低下継続時間(Tdec)秒以上継続しているかどうかを調べ、無呼吸状態または低呼吸状態の有無を判定する。この判定は振幅の移動平均(M’)を用いてなされるので判定精度は高い。M’×Kdecよりも低い振幅がTdec秒以上継続している場合はステップ15へ進み、それ以外はステップ16に進む。
【0050】
ステップS15:無呼吸状態または低呼吸状態であると判定し、1回の呼吸障害として計上する。
【0051】
ステップS16:最後の振幅までM’×Kdecよりも低い振幅がTdec秒以上継続しているかどうかを調べる。
【0052】
ステップS17:就床から起床までに発生した呼吸障害(無呼吸または低呼吸)の検知を終え、就床から起床までの計測時間と計上した呼吸障害の数より単位時間あたりの呼吸障害数を計算し、これを呼吸障害指数(RDI)とする。
【0053】
ステップS18:フィードバック手段(7)においては、計算された呼吸障害指数(RDI)を軽症基準値(X)および重度基準値(X)と比較し、症状の程度を判定するとともに、みなし呼吸信号(S’)の形成に用いた上限閾値(Kmax)が症状の程度に適合していたかどうかを調べる。X≦RDI<Xのときは症状が中程度であり、前記上限閾値(Kmax)が適正であったと判断して解析を終了する。RDI<Xの場合はステップ19へ進み、RDI≧Xの場合はステップ20へ進む。
【0054】
ステップS19:RDI<Xのときは、症状が軽度であると判断する。また、前記上限閾値(Kmax)を低い値に変更し、第1段階のステップS3に戻って変更後の上限閾値(Kmax)に基づいてみなし呼吸信号(S’)を再形成する。再形成したみなし呼吸信号(S’)に対し、解析の第2段階のステップS11以降を実行して再度呼吸状態を検知する。上限閾値(Kmax)を下げることで、先に行った第1段階よりも四肢体動による成分として除外する範囲が拡大される。軽症の場合はあえぎ呼吸が小さくなる傾向があるので、この処理によって軽症の場合の判定精度が高まる。
【0055】
ステップS20:RDI≧Xのときは、症状が重度であると判断する。また、前記上限閾値(Kmax)を高い値に変更し、第1段階のステップS3に戻って変更後の上限閾値(Kmax)に基づいてみなし呼吸信号(S’)を再形成する。再形成したみなし呼吸信号(S’)に対し、解析の第2段階のステップS11以降を実行して再度呼吸障害を検知する。上限閾値(Kmax)を上げることで、先に行った第1段階よりも四肢体動による成分と見なして除外する範囲が縮小される。重症の場合はあえぎ呼吸も大きくなる傾向があるので、この処理によって重症の場合の判定精度が高まる。
【0056】
重症者は振幅の大きいあえぎ呼吸をすることが多いという現象に鑑みると、重症者の振幅の大きい部分に呼吸成分が含まれている可能性が高く、逆に軽症者の振幅の大きい部分に呼吸成分が含まれている可能性は低い。従って、原呼吸信号(S)から呼吸以外の成分を取り除き、かつ呼吸成分を取りこぼすことなくみなし呼吸信号(S’)に取り込むには、前記上限閾値(Kmax)を重症者では相対的に高い値に設定し、軽症者では相対的に低い値に設定すれば良い。みなし呼吸信号(S’)が呼吸による振幅を正確に表しているほど、呼吸状態をより正確に検知でき判定精度が高まる。しかしながら、検査前は症状の程度が不明であるから、1回目は中程度の上限閾値(Kmax)を設定して仮解析し、1回目の解析結果(RDI)に基づいて上限閾値(Kmax)を変更し、再形成したみなし呼吸信号(S’)で2回目の解析を行うことにより、1回目よりも正確な解析結果を得ることができる。
【0057】
本発明の解析装置(1)は、上限閾値(Kmax)を設けて原呼吸信号(S)から四肢体動による成分を取り除いたみなし呼吸信号(S’)を解析対象とすることにより判定精度を高め得るものであるが、このような複数回の解析を行うことによってさらに判定精度を高めることができる。
【0058】
前記上限閾値(Kmax)の設定例として、1回目の上限閾値(Kmax)を中程度の症状に適した4〜6とし、2回目の上限閾値(Kmax)を、軽症の場合は2〜5、重症の場合は6〜20を挙げることができる。前記設定例は一般成人に適した上限閾値(Kmax)であり、小児などの場合は別途適切な上限閾値(Kmax)を設定する。また、上限閾値(Kmax)の変更による解析回数は2回に限定されず、3回以上行う場合も本発明に含まれる。また、例示した1回目の上限閾値(Kmax)は被験者の症状を予測できない場合に適した推奨値であり、本発明における1回目の上限閾値(Kmax)を規定するものではない。過去の解析結果や他の診察結果等から症状の程度を予測できる場合は、1回目から軽症者または重症者に適した上限閾値(Kmax)に設定して解析を行った場合も本発明に含まれる。
【0059】
本発明の解析装置(1)は、信号処理手段(6)において上限閾値(Kmax)を設けて原呼吸信号(S)から四肢体動に起因する成分を取り除いたみなし呼吸信号(S’)を、検知手段(6)における解析対象とすることにより判定精度を高め得るものであるが、フィードバック手段(7)によって上限閾値(Kmax)を変更して複数回の解析を行うことによってさらに判定精度を高めることができる。
【0060】
前記解析の第2段階において、振幅の低下閾値(Kdec)および低下継続時間(Tdec)は標準判定基準に従って適宜設定する。例えば、国際的なガイドラインである米国睡眠学会(AASM)の臨床定義によると、過去の振幅に対して70%以下(30%以上減少)の振幅が10秒以上継続したときに無呼吸または低呼吸であると判定している。本発明にこの判定基準を当てはめると、前記低下閾値(Kdec)=0.7、低下継続時間(Tdec)=10秒である。
【0061】
また、症状の程度を判定する軽症基準値(X)および重症基準値(X)も標準判定基準に従う。米国睡眠学会(AASM)のガイドラインでは、PSG検査において、無呼吸低呼吸指数(Apnea Hypopnea Index、AHI)が15未満を軽症、15以上30未満を中等症、30以上を重症に区分しているので、本発明にこの判定基準を当てはめると、軽症基準値(X)=15、重症基準値(X)=30である。ただし、日本では軽症・中等症の境界をAHI=20とすることが多い。このため、本発明を日本で実施する場合は、軽症基準値(X)=20、重症基準値(X)=30と設定することが好ましい。
【0062】
上述した原呼吸信号(S)およびみなし呼吸信号(S’)、これらの信号の振幅の移動平均(M)(M’)、その他の解析に用いられるデータは、解析結果とともに出力機器(8)に出力される。
【0063】
〔その他の解析方法〕
図2Aおよび図2Bの解析フローでは、説明の便宜上、就床から起床までを予め設定した上限閾値(Kmax)でみなし呼吸信号(S’)を形成し、一晩分のみなし呼吸信号(S’)の解析を終えてから上限閾値(Kmax)の再設定の要否判断およびみなし呼吸信号(S’)の再形成を行った例を取り上げた。
【0064】
しかし、本発明は上記フローに限定するものではない。
【0065】
例えば、みなし呼吸信号(S’)の形成および呼吸状態の検知は、荷重変化の計測および原呼吸信号(S)の生成とごく僅かな時間差で実行可能であり、実質的に荷重変化の計測と並行して呼吸状態の検知を行うことができる。従って、荷重変化の計測しながら原呼吸信号(S)を生成し、順次みなし呼吸信号(S’)を形成するとともみなし呼吸信号(S’)を解析して呼吸状態を検知することができる。さらには、解析を行ったみなし呼吸信号の時間範囲とその時間内における呼吸障害の検知回数とから呼吸障害指数(RDI)を計算し、その結果に基づいて症状の程度を判断し、直ちに上限閾値(Kmax)を変更することもできる。換言すれば、荷重変化を計測しながら追いかけるようにみなし呼吸信号(S’)を形成して解析し、その結果を直ちにみなし呼吸信号(S’)の形成にフィードバックさせることもできる。上限閾値(Kmax)の見直し(同値の継続を含む)を行う時間間隔は適宜設定すれば良く、例えば20分〜1時間毎に見直しを行う。このようにすれば、荷重変化の計測終了とほぼ同時に精度の高い判定結果を得ることができる。
【0066】
さらに、本発明は、みなし呼吸信号(S’)において振幅の変動状態に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態を検知するための手法は、移動平均を用いた上記のフローに限定するものでもない。みなし呼吸信号(S’)は、原呼吸信号(S)から四肢体動による振動成分を取り除いて呼吸体動をより正確に表す信号に加工されているので、他の解析手法を適用した場合でも判定精度が高まる。
【0067】
他の解析手法として、無呼吸時に胸腔内が陰圧になるため、その影響で呼吸信号の振幅が大きくなることに着目した方法を例示できる。この解析手法では、胸部下また腹部下におけるみなし呼吸信号(S’)に対し、振幅の上昇閾値(Kinc)および上昇継続時間(Tinc)を設定し、振幅の移動平均値(M’)×上昇閾値(Kinc)よりも大きい振幅が上昇継続時間(Tinc)以上継続した時に無呼吸状態または低呼吸状態であると判定するものである。前記上昇閾値(Kinc)を1.3、上昇継続時間(Tinc)を10秒に設定した場合は、移動平均値(M’)の30%以上大きい振幅が10秒以上継続したときに、無呼吸状態または低呼吸状態であると判定される。
【0068】
また、1つのみなし呼吸信号(S’)に対して複数の解析手法を適用することも可能である。例えば、胸部下のみなし呼吸信号(S’)に対し、振幅の移動平均値(M’)×低下閾値(Kdec)よりも小さい振幅が低下継続時間(Tdec)以上継続した時、振幅の移動平均値(M’)×上昇閾値(Kinc)よりも大きい振幅が上昇継続時間(Tinc)以上継続した時の両方を無呼吸状態または低呼吸状態であると判定することもできる。複数の解析手法は順次実施することも並行して実施することもできる。さらに、荷重変化の計測位置によって異なる解析手法を適用することも可能である。
【実施例】
【0069】
[実施例1]
被験者Aについて、図1に示すように胸部の下側に荷重センサ(2)を配置して就床から起床までの荷重変化を計測し、周知の信号処理により計測値に基づいて波形の原呼吸信号(S)を生成させた。図3A〜3Cは、原呼吸信号(S)の一部を、時間を横軸に振幅の大きさを縦軸に表したものである。
【0070】
〔みなし呼吸信号の形成〕
原呼吸信号(S)を図2Aに示したフローに従って処理し、3種類の上限閾値(Kmax)を設定して3種類のみなし呼吸信号(S’)を形成した。
【0071】
みなし呼吸信号(S’)の形成に際しては、原呼吸信号(S)の振幅の大きさ(A)を振幅の極大値で表すものとし、振幅の移動平均(M)は時間を基準にした2分間の振幅で計算した。また、n回目の振幅の大きさ(A)と比較する移動平均(M)はn回目の振幅を含まない過去2分間の平均値とした。計算した移動平均(M)を図3A〜3Cの原呼吸信号(S)に重ねて示す。また、設定した3種類の上限閾値(Kmax)により移動平均(M)×上限閾値(Kmax)を計算した。図3Aに上限閾値(Kmax)=5で計算したM×Kmax、図3Bに上限閾値(Kmax)=3で計算したM×Kmax、図3Cに上限閾値(Kmax)=8で計算したM×Kmaxを原呼吸信号(S)に重ねて示す。
【0072】
原呼吸信号(S)において大きい振幅を有する5つの区間(a)〜(e)を取り上げて、みなし呼吸信号(S’)の形成について説明する。
【0073】
〔上限閾値(Kmax)=5でみなし呼吸信号を形成〕
(a):図3Aを拡大した図4において3個の極大値P、P、Pに着目する。図4に示すように、PおよびPとM×KmaxはP<M×Kmax、P<M×Kmaxの関係にあるので、PおよびPはみなし呼吸信号(S’)においても振幅の極大値となる。PはP≧M×Kmaxの関係にあるので、P’=M×Kmax=M×5がみなし呼吸信号(S’)における振幅の極大値となる。
【0074】
(b)図3Aを拡大した図5において6個の極大値P〜Pに着目する。図5に示すように、P〜PとM×Kmaxは、P<M×Kmax、P<M×Kmax、P<M×Kmax、P<M×Kmax、P<M×Kmax、P<M×Kmaxxの関係にあるので、P〜Pはみなし呼吸信号(S’)においてもそのまま振幅の極大値となる。
【0075】
(c)図3Aにおいて、極大値P10はP10<M×Kmaxxの関係にあるので、P10はみなし呼吸信号(S’)においてもそのまま振幅の極大値となる。
【0076】
(d)図3Aにおいて、極大値P11はP11<M×Kmaxxの関係にあるので、P11はみなし呼吸信号(S’)においてもそのまま振幅の極大値となる。
【0077】
(e)図3Aにおいて、2つの極大値P12、P13とM×Kmaxは、P12≧M×Kmax、P13≧M×Kmaxの関係にあるので、P12’=M×5、P13’=M×5、がみなし呼吸信号(S’)における振幅の極大値となる(P12’、P13’の図示はなし)。
【0078】
区間(a)〜(e)における他の極大値、(a)〜(e)以外の区間の極大値はいずれもM×Kmaxよりも小さいので、みなし呼吸信号(S’)においてそのまま振幅の極大値となる。
【0079】
〔上限閾値(Kmax)=3でみなし呼吸信号を形成〕
原呼吸信号(S)をKmax=3で処理すると、Kmax=5で処理した場合よりもM×Kmaxを超える振幅の数が多くなり、あるいはみなし呼吸信号(S’)として取り込まれる極大値が小さくなる。
【0080】
(a)図3Bを拡大した図6に示すように、PおよびPとM×KmaxはP<M×Kmax、P<M×Kmaxの関係にあるので、PおよびPはみなし呼吸信号(S’)においても振幅の極大値となる。PはP≧M×Kmaxの関係にあるので、P’’=M×Kmax=M×3がみなし呼吸信号(S’)における振幅の極大値となる。Kmax=5で処理したP’との関係はP’’<P’となる。
【0081】
(b)6個の極大値P〜Pは、図3Bを拡大した図7に示すように、P、P、Pの3つの極大値とM×KmaxはP<M×Kmax、P<M×Kmax、P<M×Kmaxの関係にあるので、P、P、Pはみなし呼吸信号(S’)においても振幅の極大値となる。一方、P、P、Pの3つの極大値はP≧M×Kmax、P≧M×Kmax、P≧M×Kmaxの関係にあるので、P’=M×Kmax=M×3、P’=M×3、P’=M×3がみなし呼吸信号(S’)における振幅の極大値となる。
【0082】
(c)図3Bにおいて、極大値P10はP10≧M×Kmaxの関係にあるので、P10’=M×3がみなし呼吸信号(S’)における振幅の極大値となる(P10’の図示なし)。
【0083】
(d)図3Bにおいて、極大値P11とM×Kmaxは、P11≧M×Kmaxの関係にあるので、P11’=M×3がみなし呼吸信号(S’)における振幅の極大値となる(P11’の図示なし)。
【0084】
(e)Kmax=5で処理した場合と同じく、2つの極大値P12、P13とM×Kmaxは、P12≧M×Kmax、P13≧M×Kmaxの関係にあるので、P12’’=M×3、P13’’=M×3、がみなし呼吸信号(S’)における振幅の極大値となる(P12’’、P13’’の図示はなし)。Kmax=5で処理したP12’、P13’と比較すると、P12’’<P12’、P13’’<P13’の関係になる。
【0085】
(a)〜(e)における他の極大値はいずれもM×Kmaxよりも小さいので、みなし呼吸信号(S’)においてそのまま振幅の極大値となる。また、(a)〜(e)以外の区間の極大値も同様に処理され、M×3よりも大きい場合はM×3がみなし呼吸信号(S’)における振幅の極大値となる。
【0086】
〔上限閾値(Kmax)=8でみなし呼吸信号を形成〕
原呼吸信号(S)をKmax=8で処理すると、Kmax=5で処理した場合よりもM×Kmaxを超える振幅の数が減少し、あるいはみなし呼吸信号(S’)として取り込まれる極大値が大きくなる。
【0087】
図3Cから明らかなように、全ての極大値がM×Kmaxよりも小さいので、全ての極大値がみなし信号(S’)における極大値となる。即ち、みなし信号(S’)は原呼吸信号(S)と同じである。
【0088】
〔無呼吸状態または低呼吸状態の検知〕
上述の手順で形成した3種のみなし呼吸信号(S’)を図2Bのフローチャートに従って解析し、無呼吸状態または低呼吸状態を解析した。
【0089】
解析に際し、米国睡眠学会(AASM)のガイドラインに準拠して、振幅の下限閾値(Kdec)を0.7、低下継続時間(Tdec)を10秒に設定し、振幅の移動平均(M’)の70%以下の振幅が10秒以上継続したときに、無呼吸状態または低呼吸状態であると判定した。
【0090】
図3A〜図3Cにおいて、無呼吸または低呼吸と判定した区間を太線で示す。
【0091】
図3Aに示したように、上限閾値(Kmax)=5でみなし呼吸信号(S’)を形成した場合は、上記の条件を満たす区間(b)の後の区間(g)、区間(c)の後の区間(h)、区間(e)の後の区間(i)を無呼吸状態または低呼吸状態であると判定した。一方、区間(a)の後の区間(f)は振幅が低下しているが、移動平均(M’)に対する低下の割合が小さいために無呼吸状態または低呼吸状態ではないと判定した。また、区間(a)内および区間(b)内における小さい振幅は低下継続時間(Tdec)が10秒未満であるから、無呼吸状態または低呼吸状態とは判定しない。また区間(d)と区間(e)の間の小さい振幅(記号なし)も低下継続時間(Tdec)が短いので無呼吸状態または低呼吸状態とは判定しない。
【0092】
図3Bに示したように、上限閾値(Kmax)=3でみなし呼吸信号(S’)を形成した場合は、Kmax=5よりも上限閾値(Kmax)によって除外される成分が増えるので振幅の移動平均(M’)が小さくなる。このため、移動平均(M’)に対する振幅の低下の割合も小さくなるので、無呼吸状態または低呼吸状態と判定される可能性が低くなる。具体的には、Kmax=5で無呼吸状態または低呼吸状態である判定された区間(g)および区間(h)は、Kmax=3では無呼吸状態または低呼吸状態ではないと判定された。その結果、区間(i)のみが無呼吸状態または低呼吸状態である判定された。
【0093】
図3Cに示したように、上限閾値(Kmax)=8でみなし呼吸信号(S’)を形成した場合は、Kmax=5よりも上限閾値(Kmax)によって除外される成分が減るので振幅の移動平均(M’)が大きくなる。このため、移動平均(M’)に対する振幅の低下の割合も大きくなるので、無呼吸状態または低呼吸状態と判定される可能性が高くなる。具体的には、Kmax=5で無呼吸状態または低呼吸状態ではないと判定された区間(f)は、Kmax=8では無呼吸状態または低呼吸状態であると判定された。その結果、区間(f)、区間(g)、区間(h)、区間(i)が無呼吸状態または低呼吸状態であると判定された。
【0094】
上記の解析において無呼吸状態または低呼吸状態であると判定された区間はそれぞれ1回の無呼吸または低呼吸と数え、単位時間あたりの呼吸障害指数(RDI)を計算する。
【0095】
本実施例においては上限閾値(Kmax)の大小に応じて呼吸障害の判定結果が異なることを示すために、3種類のみなし呼吸信号(S’)の形成および解析を並行して説明した。しかし、実際の検査場面では、まず中程度の上限閾値(Kmax)(本実施例ではKmax=5)で解析し、その解析によって得た呼吸障害指数(RDI)を軽症基準値(X)および重症基準値(X)と比較する。そしてその比較結果に応じて上限閾値(Kmax)の設定変更、みなし呼吸信号(S’)の再形成および再解析を行う。
【0096】
[実施例2]
被験者Bについて、実施例1と同じ方法で、胸部における荷重変化を計測して原呼吸信号(S)を生成し、さらに上限閾値(Kmax)=5、3、8で3種類のみなし呼吸信号(S’)を形成した。図8A〜図8Cは、原呼吸信号(S)、原呼吸信号(S)の振幅の極大値の移動平均(M)、移動平均振(M)×上限閾値(Kmax)を重ねたものである。図8Aは上限閾値(Kmax)=5、図8Bは上限閾値(Kmax)=3、図8Cは上限閾値(Kmax)=8である。
【0097】
形成した3種類のみなし呼吸信号(S’)を実施例1と同じ条件で解析したところ、上限閾値(Kmax)=5および上限閾値(Kmax)=3では区間(k)および区間(l)を無呼吸状態または低呼吸状態であると判定し、上限閾値(Kmax)=8では区間(j)(k)(l)(m)を無呼吸状態または低呼吸状態であると判定した。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の呼吸信号の解析装置は睡眠時の呼吸状態を検知できることから、睡眠時無呼吸症候群の検査に利用できる。
【符号の説明】
【0099】
1…呼吸信号の解析装置
2…荷重センサ(荷重計測手段)
3…制御部(荷重計測手段)
4…信号生成手段
5…信号処理手段
6…検知手段
7…フィードバック手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の身体の下側に配置され、被験者の生体活動に伴う荷重変化を計測する荷重計測手段と、
計測した荷重の変化に基づいて波形の原呼吸信号(S)を生成する信号生成手段と、
前記原呼吸信号(S)の振幅の移動平均(M)を順次計算してn回目の振幅(A)を振幅の移動平均(M)と予め設定された上限閾値(Kmax)との積と比較し、A<M×Kmaxのときにその振幅(A)をn回目の振幅(A)とし、A≧M×Kmaxのときにn回目の振幅(A)をM×Kmaxに置換してみなし呼吸信号(S’)を形成する信号処理手段と、
前記みなし呼吸信号(S’)において、振幅の変動状態に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態を検知する検知手段と
を備えることを特徴とする呼吸信号の解析装置。
【請求項2】
前記上限閾値(Kmax)は2〜20である請求項1に記載の呼吸信号の解析装置。
【請求項3】
前記検知手段において、無呼吸状態または低呼吸状態の有無を判断する振幅の低下閾値(Kdec)および低下継続時間(Tdec)を設定し、
前記みなし呼吸信号(S’)において、振幅の移動平均値(M’)×低下閾値(Kdec)よりも小さい振幅が前記低下継続時間(Tdec)以上継続した時に無呼吸状態または低呼吸状態であると判定する請求項1または2に記載の呼吸信号の解析装置。
【請求項4】
前記検知手段において、前記みなし呼吸信号(S’)が形成された時間とこの間に無呼吸状態または低呼吸状態であると判定された回数とから単位時間当たりの呼吸障害指数(RDI)を算出し、
算出した呼吸障害指数(RDI)と予め設定された2つの基準値(X)および(X)(ただし、X<X)とを比較し、RDI<Xのときは前記振幅の上限閾値(Kmax)を低い値に変更し、RDI≧Xのときは前記振幅の上限閾値(Kmax)を高い値に変更し、
変更後の上限閾値(Kmax)を前記信号処理手段に戻してみなし呼吸信号(S’)を再形成し、検知手段において再形成したみなし呼吸信号(S’)に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態を再検知させるフィードバック手段を備える請求項1〜3のいずれかに記載の呼吸信号の解析装置。
【請求項5】
前記フィードバック手段において、検知手段における振幅の上限閾値(Kmax)の変更、信号処理手段におけるみなし呼吸信号(S’)の再形成および検知手段における無呼吸状態または低呼吸状態の再検知を、就床から起床までの荷重変化の計測を終了した後に行わせる請求項4に記載の呼吸信号の解析装置。
【請求項6】
前記フィードバック手段において、検知手段における振幅の上限閾値(Kmax)の変更、信号処理手段におけるみなし呼吸信号(S’)の再形成および検知手段における無呼吸状態または低呼吸状態の再検知を、就床から起床までの荷重変化の計測の途中に行わせる請求項4に記載の呼吸信号の解析装置。
【請求項7】
前記荷重計測手段を、被験者の頭部、胸部、腹部のうちの少なくとも1箇所に配置する請求項1〜6のいずれかに記載の呼吸信号の解析方法。
【請求項8】
被験者の生体活動に伴い該被験者の下側に加わる荷重変化の計測値に基づいて生成された原呼吸信号(S)に対し、振幅の上限閾値(Kmax)を設定し、前記原呼吸信号(S)の振幅の移動平均(M)を順次計算してn回目の振幅(A)を振幅の移動平均(M)×上限閾値(Kmax)と比較し、A<M×Kmaxのときにその振幅(A)をn回目の振幅(A)とし、A≧M×Kmaxのときにn回目の振幅(A)をM×Kmaxに置換してみなし呼吸信号(S’)を形成し、
前記みなし呼吸信号(S’)における振幅の変動状態に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態を検知することを特徴とする呼吸信号の解析方法。


【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図8C】
image rotate