説明

呼吸状態監視装置、呼吸センサ、及び呼吸状態監視システム

【課題】周囲の環境温度との温度差(温度差の変化)にかかわらず、精度良く呼吸フローを検出できる呼吸状態監視装置、呼吸センサ、及び呼吸状態監視システムを提供すること。
【解決手段】ステップ110では、呼吸センサ1からの呼吸信号(電圧信号)と温度センサ40からの温度信号を入力する。ステップ120では、温度信号を用いて呼吸信号を補正する。つまり、温度差に応じて呼吸信号の振幅を調節する。具体的には、基準温度より環境温度が高い場合には、温度差が大きいほど呼吸信号の振幅を大きくし、基準温度より環境温度が低い場合には、温度差が大きいほど呼吸信号の振幅を小さくする。ステップ130では、補正した呼吸信号をフラッシュメモリ55に記憶する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電フィルム等を用いて、例えば睡眠時などの呼吸の正常・異常やいびきなどの呼吸状態を調べることができる呼吸状態監視装置、呼吸センサ、及び呼吸状態監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、人の呼吸の状態を調べる技術として、口元にサーミスタを貼り付ける技術が知られている。また、体の動きを圧電素子で検出し、その検出結果から呼吸の状態を調べる技術も知られている。
【0003】
更に、近年では、呼吸センサとして、圧電素子(ピエゾ素子)であるPVDF(ポリフッ化ビニリデン)フィルムを、被験者(患者)の口に貼り付け、その検出信号から呼吸を検出する技術も開示されている(特許文献1、2参照)。
【0004】
この特許文献1、2の技術により、患者の睡眠中の呼吸データから、例えば睡眠無呼吸症候群を検出することが可能である。
【特許文献1】特開2000−312669号公報
【特許文献2】特開2005−137479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した引用文献1、2の技術では、ピエゾ素子を用いて呼吸フロー(呼気や吸気の状態)を測定しているため、その特性上の問題が生じることあった。
つまり、この種の呼吸センサでは、環境温度と呼吸温との温度差で呼吸状態を検出しているので、環境温度が体温に近づきその温度差が小さくなると、呼吸センサの出力信号の波形の振幅が小さくなり、逆に、環境温度が体温と大きく異なりその温度差が大きくなると、波形の振幅が大きくなる。そのため、温度の影響を大きく受けてしまい、正確に呼吸フローを測定できないことがあるという問題があった。
【0006】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、周囲の環境温度との温度差が変化するような場合でも、精度良く呼吸状態を検出できる呼吸状態監視装置、呼吸センサ、及び呼吸状態監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)請求項1の発明は、生体の呼吸状態(例えば呼吸の有無やいびき)に対応した信号を出力する呼吸センサが(例えば着脱可能に)装着されて、該呼吸センサからの信号に基づいて前記呼吸状態の測定が行われる呼吸状態監視装置に関するものである。
【0008】
本発明では、呼吸センサからの信号を温度センサからの信号に基づいて補正(温度補正)するので、精度良く呼吸フローを検出することができる。
つまり、呼吸状態は通常と同様な場合であっても、環境温度と呼吸温との温度差により、呼吸センサの出力信号(呼吸信号)が変動するので、本発明では、例えばこの温度差に応じて、(温度差の影響を低減するように)呼吸信号を補正することにより、環境温度が変化した場合でも、常に精度良く呼吸状態を検出することができる。
【0009】
尚、温度センサとしては、呼吸状態監視装置自身に設置したもの、又は装置外(例えば呼吸センサ)に設置したものを利用できる。また、温度センサとしては、例えばサーミスタ等各種のものを採用できる(以下同様)。
【0010】
(2)請求項2の発明では、前記補正を、前記呼吸状態監視装置に搭載した演算処理装置にて行う。
つまり、本発明では、装置に搭載したマイコン等の演算処理装置によって、呼吸センサから出力される呼吸状態を示す信号(呼吸信号)に対して温度補正を行う。
【0011】
(3)請求項3の発明は、生体の呼吸状態(例えば呼吸の有無やいびき)に対応した信号を出力する呼吸センサが(例えば着脱可能に)装着されて、該呼吸センサからの信号に基づいて前記呼吸状態の測定が行われる呼吸状態監視装置に関するものである。
【0012】
本発明では、呼吸センサからの信号と温度センサからの信号とを対応させて、メモリに記憶しているので、その記憶したデータを用いて、例えば測定後にそのデータを取り出して、外部装置にて呼吸信号の温度補正を行うことができる。
【0013】
尚、前記メモリとしては、バッテリが切れた場合でもデータを保持できる例えばフラッシュメモリ等の不揮発性メモリや、別途電池でバックアップされたSRAM等の揮発性メモリなどを使用できる。
【0014】
(4)請求項4の発明は、前記呼吸状態監視装置のメモリに記憶した前記呼吸センサからの信号と温度センサからの信号とを、外部に出力する機能を有する。
従って、例えば外部装置からの要求信号に応じて、上述したメモリに記憶した呼吸信号と温度信号とを外部に出力することができる。
【0015】
(5)請求項5の発明で、呼吸状態監視装置自体に前記温度センサを備えている。
本発明は、温度センサの取り付け位置を例示したものであり、これにより、温度センサからの配線を簡略することができる。
【0016】
(6)請求項6の発明は、前記請求項1〜4のいずれかに記載の呼吸状態監視装置に装着される呼吸センサであって、前記温度センサを備えたことを特徴とする。
本発明は、温度センサの取り付け位置を例示したものであり、これにより、実際の呼吸状態の測定位置における温度を精度良く検出できる。
【0017】
(7)請求項7の発明は、前記請求項1〜5のいずれかの呼吸状態監視装置に前記呼吸センサを装着したことを特徴とする呼吸状態監視システムである。
つまり、呼吸状態監視装置に呼吸センサを装着した呼吸状態監視システムを用いることにより、呼吸状態を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明を実施するための最良の形態の例(実施例)について説明する。
【実施例1】
【0019】
本実施例の呼吸状態監視システムは、多くの被験者に対して、その呼吸の異常を抽出(スクリーニング)するために用いられるものである。
a)まず、本実施例の呼吸状態監視システムを、図1〜図3を用いて説明する。
【0020】
図1及び図2に示す様に、本実施例の呼吸状態監視システム(睡眠時無呼吸スクリーナ)は、呼吸状態、詳しくは睡眠時の呼吸の有無を検出するためのシステムであり、被験者に取り付けられる呼吸センサ1と、呼吸センサ1が着脱可能に取り付けられて、呼吸センサ1からの信号を記録する呼吸状態監視装置3とから構成されている。
【0021】
前記呼吸センサ1は、略T字形状のセンサ本体5と、センサ本体5の左右の下端を連結する連結部7と、センサ本体5から伸びる一対のリード線9、11と、リード線9、11の先端に取り付けられたセンサ側コネクタ13(図2参照)とから構成されている。
【0022】
このうち、センサ本体5は、中央部にて(図1の手前方向に)山形に折り曲げられた薄肉のフィルム状の部材であり、口及び鼻からの息を検出するための呼吸検出部15と、呼吸検出部15の左右の両端から突出する一対の脚部17、19とから構成されている。
【0023】
前記センサ本体5は、略T字状の例えばポリエステルからなるフィルム状の基材21と、基材21の山形の斜面の内側に貼り付けられた長方形の圧電素子(例えばピエゾ素子)23とからなる。また、呼吸検出部15は、図1の手前の方向に凸の山形となるように折り曲げられ、口からの息が当たってその流れが遮られるように口からの息のかかる方向に対向するとともに、鼻からの息が流れる方向と並行となっている。
【0024】
一方、前記呼吸状態監視装置3は、腕等に装着可能なような軽量な装置であり、図3に示す様に、略直方体のプラスチック製の筐体25と、その内部に収容された電子制御装置27(図4参照)とを備えている。
【0025】
この呼吸状態監視装置3の上面には、センサ側コネクタ13が嵌め込まれる装置側上コネクタ(モジュラージャック)29が設けられ、後述する第1〜第4LED31〜37が半透明のカバー39に覆われて配置されている。
【0026】
また、呼吸状態監視装置3の左側面には、呼吸状態の測定(監視)の開始や終了のオン・オフを行う測定開始スイッチ41が配置されている。
更に、呼吸状態監視装置3の下面には、呼吸状態監視装置3をベース装置(図示せず)に接続するために、装置側下コネクタ(D−SUBコネクタ)45が配置されている。
【0027】
b)次に呼吸状態監視装置3の構造について、図4を用いて説明する。
図4に示す様に、呼吸状態監視装置3の電子制御装置27として、周知のA/D内蔵マイコン49、内蔵のバッテリ(充電池)69によりバックアップされたリアルタイムクロック51、EEPROM53、フラッシュメモリ55、シリアル通信回線57を備えるとともに、チャージアンプ(AMP)59、ゲイン1倍AMP61、ゲイン2倍AMP63を備えている。
【0028】
このうち、チャージAMP59は、通常、圧電素子23からの信号を増幅するために用いられるものであり、ゲイン1倍AMP61は、チャージAMP59からの出力のゲインを1倍にするためのものであり、ゲイン2倍AMP63は、チャージAMP59からの出力のゲインを2倍にするためのものである。
【0029】
従って、モジュラージャック29を介して接続された呼吸センサ1からの電圧を示す信号(呼吸信号)が、A/D内蔵マイコン49に入力される。
そして、前記A/D内蔵マイコン49は、バッテリ切れ表示器65の第1LED31、呼吸フロー表示器67の第2〜第4LED33〜37に接続されている。
【0030】
この第1LED31は、バッテリ69の電圧が低下すると点灯するランプである。また、第2〜第4LED33〜37は、呼吸状態に応じて点滅するランプであり、第3LED35は呼吸センサ1が呼吸状態監視装置3に接続されると点灯し、第2LED33は息が吸われと点灯し、第4LED37は息が吐かれると点灯する。
【0031】
また、本実施例では、呼吸状態監視装置3内に、サーミスタからなる補正用温度センサ40が配置されている。従って、この温度センサ40からは、周囲の温度(環境温度)に応じた信号(温度信号)がA/D内蔵マイコン49に入力される。
【0032】
c)次に、A/D内蔵マイコン49にて行われる処理(温度補正処理)について、図5を用いて説明する。
この温度補正処理は、呼吸状態(呼気及び吸気の呼吸フロー)の測定において、周囲の温度による影響を低減するために、呼吸信号を温度信号により補正するための処理である。
【0033】
具体的には、図5のフローチャートに示す様に、ステップ(S)100では、測定開始スイッチ41がオンされたか否かを判定する。ここで、肯定判断されると、ステップ110に進み、一方、否定判断されると待機する。
【0034】
ステップ110では、呼吸センサ1からの呼吸信号(電圧信号)と温度センサ40からの温度信号を入力する。
続くステップ120では、0.1秒ごとの呼吸信号と温度信号とを用い、温度信号によって呼吸信号の温度補正を行う。
【0035】
つまり、呼吸センサ1で用いる圧電素子23は、環境温度と呼吸温との温度差により呼吸信号の波形の振幅(電圧の振幅)が変化するので(図6参照)、ここでは、温度差に応じて呼吸信号の振幅を調節する。
【0036】
具体的には、通常の呼気の温度に近い基準温度と温度センサ40にて検出した周囲温度(環境温度)との温度差を算出し、その温度差が大きいほど呼吸信号の振幅が大きいので、その振幅を小さくするように補正する。逆に、温度差が小さいほど呼吸信号の振幅が小さいので、その振幅を大きくするように補正する。
【0037】
例えば図6に示すようなマップや演算式を用いて補正を行う。つまり、環境温度が基準温度(例えば平均的な気温の26℃)より高い例えば32℃の場合、環境温度と通常の呼気温度(体温よりやや低め)である34℃との温度差は2℃と小さいので、呼吸センサ1からの呼吸信号の振幅は、環境温度が基準温度の時に得られる基準となる呼吸信号の振幅より小さな振幅となる。よって、その場合は、大きな振幅となるように、呼吸信号に1より大きな所定倍の補正係数(例えば2.0)をかけて呼吸信号の振幅を調節する。逆に、環境温度が基準温度より低い例えば6℃の場合には、温度差が28℃と大きいので、呼吸センサ1からの呼吸信号の振幅は、基準となる呼吸信号の振幅よりやや大きな振幅となる。その場合は、小さな振幅となるように、呼吸信号に1より小さな所定倍の補正係数(例えば0.5)をかけて呼吸信号の振幅を調節する。これにより、呼吸信号の振幅が、温度による影響を受けにくいようにする。
【0038】
続くステップ130では、補正した0.1秒ごとの呼吸信号を、メモリ(例えばフラッシュメモリ55)に記憶し、一旦本処理を終了する。
尚、測定時間は最大10時間であり、10時間を経過すると自動的に測定を終了する。また、測定終了後、センサ側コネクタ13を呼吸状態監視装置3から外すと装置3の電源がオフとなる。
【0039】
この様に、本実施例では、環境温度と呼吸温との温度差を検出し、温度差に応じて呼吸信号の振幅を調節しているので、環境温度が変化した場合でも、その温度差の影響を低減して、常に精度良く呼吸状態を検出することができる。
【実施例2】
【0040】
次に実施例2について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は省略する。
本実施例は、前記実施例1とは、主として温度補正処理が異なるので、この温度補正処理について説明する。
【0041】
図7のフローチャートに示す様に、ステップ200では、測定開始スイッチ41がオンされたか否かを判定する。ここで、肯定判断されると、ステップ210に進み、一方、否定判断されると待機する。
【0042】
ステップ210では、呼吸センサ1からの呼吸信号(電圧信号)と温度センサ40からの温度信号を入力する。
続くステップ220では、0.1秒ごとの呼吸信号と温度信号とを対応付けて、メモリ(例えばフラッシュメモリ55)に記憶する。つまり、各呼吸信号がどの温度の場合の呼吸信号であるかが分かるようにして、セットで記憶し、一旦本処理を終了する。
【0043】
従って、本実施例では、呼吸状態の測定の終了後に、この呼吸状態監視装置3をベース装置に取り付けた際には、呼吸信号と温度信号とのセットの信号をベース装置側に取り出すことができる。
【0044】
よって、この取り出したデータを、例えばパソコン等によって処理することにより、前記実施例1のステップ120と同様な処理により、呼吸信号の温度補正を行うことができる。
【0045】
本実施例によっても、前記実施例1と同様な効果を奏するとともに、携帯される簡易な構成の呼吸状態監視装置3の処理の負荷を軽減できるという利点がある。
尚、本発明は前記実施例に何ら限定されることなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない限り、種々の態様で実施できることはいうまでもない。
【0046】
(1)例えば温度センサは、装置本体ではなく、呼吸センサなど他の箇所に取り付けられていてもよい。
(2)また、前記実施例1では、温度補正の処理をマイコン内のソフト処理によって行ったが、電子回路によるハード的な処理で行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1の呼吸状態監視システムを示す説明図である。
【図2】呼吸センサの呼吸状態監視装置への装着状態を示す説明図である。
【図3】呼吸状態監視装置を示し、(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は底面図、(d)は左側面図、(e)は背面図である。
【図4】呼吸状態監視装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図5】実施例1の呼吸状態監視装置の温度補正処理を示すフローチャートである。
【図6】温度差と補正係数などとの関係を示す説明図である。
【図7】実施例2の呼吸状態監視装置の温度補正処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0048】
1・・・呼吸センサ
3・・・呼吸状態監視装置
23・・・圧電素子
40・・・温度センサ
49・・・A/D内蔵マイコン
55・・・フラッシュメモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の呼吸状態に対応した信号を出力する呼吸センサが装着されて、該呼吸センサからの信号に基づいて前記呼吸状態の測定が行われる呼吸状態監視装置であって、
前記呼吸センサからの信号を温度センサからの信号に基づいて補正することを特徴とする呼吸状態監視装置。
【請求項2】
前記補正を、前記呼吸状態監視装置に搭載した演算処理装置にて行うことを特徴とする請求項1に記載の呼吸状態監視装置。
【請求項3】
生体の呼吸状態に対応した信号を出力する呼吸センサが装着されて、該呼吸センサからの信号に基づいて前記呼吸状態の測定が行われる呼吸状態監視装置であって、
前記呼吸センサからの信号と温度センサからの信号とを対応させてメモリに記憶することを特徴とする呼吸状態監視装置。
【請求項4】
前記呼吸状態監視装置のメモリに記憶した前記呼吸センサからの信号と温度センサからの信号とを、外部に出力する機能を有することを特徴とする請求項3に記載の呼吸状態監視装置。
【請求項5】
前記呼吸状態監視装置自体に前記温度センサを備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の呼吸状態監視装置。
【請求項6】
前記請求項1〜4のいずれかに記載の呼吸状態監視装置に装着される呼吸センサであって、
前記温度センサを備えたことを特徴とする呼吸センサ。
【請求項7】
前記請求項1〜5のいずれかの呼吸状態監視装置に前記呼吸センサを装着したことを特徴とする呼吸状態監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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